ヘテネトとケドが成年してしばらく経ったある日、ついにノル王が崩御した。王子たちをはじめ宮中の者はみな喪に伏し、城の中は静まりかえっていた。
長年そこで暮らしてきたケドにとっても初めての、城内のなんとなく重苦しい空気にどうにも寝つかれずにいると、遣いの下僕がやってきて、ヘテネトが無聊をもてあましているので来るように、と言伝をもたらした。
ケドが自室を抜け出て、石造りの回廊の月光がほの白く満たす中を行くと、あとひと角を曲がればヘテネトの臥所というところで、不意に横合いからぐいと腕を引かれ、そのまま脇の小部屋へ連れこまれた。
ケドが驚いて自分の腕を掴むものの顔を見ると、それは果たしてヘテネトであった。ケドはいったい何の悪戯か訊こうとしたが、ヘテネトの常ならぬ険しい表情に言葉を飲んだ。
ヘテネトは物音を立てぬよう言いつけて、そのままケドを連れてまた回廊へ出ると、曲がり角から窺うようにした。
ケドもまたそれに倣って見ると、ヘテネトの寝所の扉は開け放たれ、そこへ二、三の男らが慌しく出入りしている。
部屋から漏れる橙の明かりに逆照らされてその顔かたちは判ぜぬものの、物々しい様子で「いないか」「どうなっている」と、
ひそやかながらも焦り苛立ちをにじませた声で言い交わし、そのうちに回廊をこちらとは逆のほうへと去った。
もう声を上げてもよいというヘテネトに、ケドがこれは何事かと問うと、ヘテネトは「見たままだ」と肩をすくめ、「この身を狙われた」と答えた。
あまりの事態にケドが言葉を失っていると、ヘテネトは「なに、驚くことではない。お前は知らぬかもしれんが、我が王家はもとよりそういうものだ。
父王とて即位に際しては、兄弟を残らず排して御座に就いたという」
淡々と、「あれは兄の手の者だな」 そう言いながら、賊の去ったあとの自室へと歩きだした。

ネットうp用にいま書いているものの一部抜き出し
文体についてどんなもんかね