その目に見覚えがあった。
 ひざまずいて両手を後頭部に当てて僕を見上げている。血の気のない紫色の唇、痙攣する頬、
小刻みに震える顎。今にも失禁して倒れそうだった。
「お前、児島か」
 先週のことだ。僕ら風紀委員以外の生徒が所持を禁じられているはずの散弾銃を乱射して
二年三組の数学の授業を滅茶苦茶にしたのがこの児島だった。ドアを開ける前から漂う鉄の
臭いに似た血の臭いが漂う三組の廊下を思い出す。
 ドアを引くとサッシに溜まる固まりかけの血で動きにくかった。嗅ぎなれた死の臭いが
鼻腔を満たす。
 教卓に座り、銃口を咥える児島がいた。右足の指を引き金にかけ今にも自分の頭をふき
飛ばそうとしているのだけど、硬直したように動かない。おびえた目で入ってきた僕を見る。
リスのような黒い瞳。
「お前なあ、皆殺しは退学だよ。死欠明けても登校してくんなよ」
 さっさと死ねよ―― 僕は構えていたベレッタをおろして児島が自分で引き金を引くのを待つ。
児島は目を閉じ、歯を食いしばる。
「なあ、もう昼休みなんだ。さっさと死んでくれないか? もう購買のカレーパン、
売り切れちゃったよ」
 いくら待っても引き金を引かなのでしびれが切れる。僕は昼飯に購買の安く、
まずいカレーパンを食べないと落ち着かないのだ。
「ごめん、できない。死ねないよオレ」
 児島は情けない声を上げる。汗まみれの顔は血の気がない。股間に染みが広がる。
 失禁したな。