僕は明日で三十歳になる。それまでの間、七人の女性と付き合った。
告白されて、OKした数を入れるともう少し増えるが、そんなのは付き合った内に入らない。
かといって、その七人の中でも最後まで関係を持ったのは三人なので、正確にすると、三人の女性と付き合った、という事ことになるのかもしれない。
 しかし重要なポイントはそこではない。七人の女性と付き合って、その内六人に振られて終わった。結婚を前提とした付き合いもあった。
そういうことが繰り返されると、もう彼女なんて作ろうとも思わなくなる。上手くいって付き合ったとしても、どうせ振られる。それはもうわかりきっていることだ。
 色々あって、友人も激減した。記憶はないが、おそらく僕が悪いんだろう。連絡なんて全く取っていないし、取ろうとも思わない。

 今日、つまり木曜日、訪問看護の女性に起こされ、体温やら血圧を計り、少しだけ話をして、その足で大学病院の精神科へ行く。
十一時半に受付を済ませて、ごった返している精神科の椅子に座り、読書をする。今読んでいるのは、図書館で借りた、奥田亜希子の左目に映る星だ。
すばる文学賞を受賞した作品だ。僕も以前、すばる文学賞に出したが、結果は散々なものだった。
 スマート・フォンで時計を確認すると、もう十二時半になっていた。小腹が空いたが、ひたすら我慢。あまりお金は使えない。
相変わらず席はほとんど埋まっている。本を鞄にしまい、一度だけ背伸びをし、煙草を吸いに行くために立ち上がり、何となく右隣の席に目をやると、一人の女性とばっちり目があった。
顔は十分なまでに整っていて、化粧は濃くなく薄くなく、髪はショートカットの茶色で、肩以降がむき出しになった服と――僕はファッションに関しては無知だから、それが何なのかはわからない――、
生足をさらけ出したショート・パンツ――さすがにこれはわかる――で、胸はそれなりにあり、髪が壁に備え付けられた扇風機の風力でたまになびいて、耳たぶと軟骨に貫通したピアスが光っている。
 瞬間的にこの女性の全身をくまなくチェックし、導き出された答えはただ一つ。

「結構美人!」


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