少女は叫んだ。誰かの腕がくるくる回りながら落ちていく様を眺めている間に、周りに人が集まり、身体を乱暴に抱きしめられる感触があってから、それから少女は叫んだ。誰かが耳元で叫んでいるが、自分が叫ぶことの方が大切に思えたから、少女は叫んだ。
足元が揺れている。頭の上から、砂が落ちてくる。壁が崩れていく。崩れていく壁の向こうに、茜色の空があった。上から、下から、前から射し込んでくる澄んだ紅が、砂埃で淡く滲んでいく。陽炎の向こうにある黒いシミが、ビルかな、崩れていくのが見えた。
突然に視界が暗転し、それと同時に浮遊感を感じ、少女はそこでお母さんが辺りにいないことを思った。その後に感じたのは全身を貫く衝撃であった。少女はもう叫ばなかった。