欧州遠征総括

ベルギー戦は精力的なプレスで善戦した。「全員でハードワークすれば
こんな試合もできる。世界ランク5位とも全然戦える、と若手は感じて欲しい」と吉田。
同じ手応えをブラジル相手に決定機を作った時間帯にも感じている。と

相手との能力差を前提とするこのチームの現実路線が明確になった。
格下が格上を食うために自由を奪い、ボールを奪い、良さを消す。
引かず、かつ攻められないためにはプレッシングの徹底と洗練に行きつく。
ポット4の日本のW杯の相手はもれなく日本より格上だから、本番仕様の戦術である。

この方向性をプレーで示していたのが、無尽蔵に相手を追い回せる井手口であり、
走力で相手の背後を繰り返し襲える浅野だった。ボール扱いがうまいかどうかより、
まず走れるか、奪えるか。”優れた選手”の再定義、質的転換が迫られている。

しかし、これは何もハリルが奇人でも何でもない。今や欧州トップクラブでは技術に
あふれる選手が井手口、浅野と同じぐらい走って奪うタスクもこなす。ここ数年めっきり
アスリート化した現代サッカーの潮流に沿ったこのスタイルを「もともと就任当初から
監督はやりたかったはず」と吉田は話す。それがW杯出場の懸かった豪州戦、この世界トップ
の強豪との欧州2連戦で初めてくっきりと姿を現した。

世界トップに対しプレスを追求する過程で、ビッチ内のコミュニケーションやメンタルに物足りなさがある
ことも露わになった。状況に応じて声で味方を動かし、助けられたか。ブラジルに早々2点先行されても凹まず、
周りを鼓舞する選手は何人いたか。日本の生命線の組織力にも直結することだ。

「今後は奪ってからの攻撃を高めたい。」ハリルは7ヶ月後を見据える。「個人で違いを生み
出せる選手が足りないが」とぼやきながら。吉田も「奪った後、ゴールへ向かえる形を作れないと」。

サッカーの一番難しい部分、得点する方法論も確立しないと、
せっかく根付きつつある全員ハードワークが報われない。