【サクラ大戦】迫水&米田【哀愁】
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サクラシリーズ屈指の渋キャラである迫水&米田について語りましょう!! >>499
「この方は帝国陸軍三隅直之中佐殿だ!」
男達のひとりが自信に満ちた声で三隅中佐を紹介する。
当の本人は顔面蒼白だというのに。
『おう、こいつはご丁寧にどうも。』
米田が立ち上がり、三隅中佐の脇に並んだ。
そして、こう耳打ちした…
『…ここは騒ぎを大きくしたくねぇンでな、このまま連れて帰ってくれ。』
これを聞いた三隅中佐の肩がビクリと跳ね上がった。
そしてすぐさま敬礼した。
『ハッ!了解致しました!
全員帰還後、陸軍省へ出頭せよ!』
「は…?…しかし!」
『質問は無しだ!』男達は不服らしく、反論をしようとしていたが舌打ちしてのれんに手を掛けた。
『おおっと、ちょっと待て!』
渋々帰る男達と震えている三隅中佐を米田は呼び止めた。
『ハッ!何でしょうか!』
『蕎麦代貸してくれねぇか?占めて参圓五拾銭なんだがよ。』
『えっ…は、はい。』
三隅中佐が参圓五拾銭を米田に渡し、敬礼した。
『ついでに、…おめぇら。』
まだ不服そうな顔をしている男達の方を向いて米田が言った。
『軍人が偉いんじゃねぇ。
自分の大切なもののために、命を張って戦える覚悟…それのある奴が偉ぇんだ。
ま、死んじまったら元も子もねぇけどな…』 >>501
今まで不服そうだった男達の背に鋭いものが走った。
幾多の戦線を戦い抜いてきた米田一基の言葉が心に深く染み入ったらしい。
『もう良いぜ、ほらとっとと帰ってくれ。
そんな軍服ちらつかされたんじゃ落ち着いて蕎麦が食えねぇや』
ボーっとしていた男達は、米田の言葉にハッと我にかえり、素直にのれんをくぐり出た。
三隅中佐は最後に敬礼して出ていった。
その頃にはもう野次馬もいなくなり、店内は静かになっていた。
『お見事です、米田隊長』
『戦わずして勝利する…、か。
見事でした。』
あやめと山崎が米田に近づき、褒め称えるような言葉を贈った。
一馬もニッコリと笑っている。
『へへっ…バカヤロ、照れるじゃねぇか』
座敷に戻った米田達は、店主の好意でいくらか乾いてしまっていた蕎麦を作り直してもらい、それをしっかり腹におさめた。
そして、浅草の活動写真館へ向かったのだった。
次幕へ >>502
《幕前舞台》
後日、三隅中佐らは米田一基の下に出頭した。
蕎麦屋の飲んだくれが米田一基だったと知った若い男達は驚きどころではなく、絶望していた。
『ま、座れ。』
木造の椅子の冷たさは絶望感を更に奮い立たせる。
『先日の件だがよ…』
米田が重く口を開いた。
その言葉に、降格か除名かと若い男達は震える。
その時、三隅中佐が手を挙げた。
『米田中将閣下!全ては私に責があります、彼等のことはどうか…!』
三隅中佐が米田に申し出たのは部下達の免罪。
しかし、軍人勅諭では上官の言う事は絶対である。直訴すれば重い懲罰が与えられるのだ。
米田は伏せていた顔を上げた。
『瀧川小佐以下五名に対し、先日蕎麦屋夕蛍庵での素行についての懲罰を与える。
嶺諷會からの脱退及び蕎麦屋夕蛍庵への謝罪を命じる。』
三隅の部下達は胸を撫で下ろした。言わば無罪放免である。青い御守りはその場で外し、米田に敬礼した。
次に米田は三隅に対して…
『次に三隅直之中佐、貴殿へ先日の件の監督不行届及び今の直訴についての懲罰を与える。
…一週間俺の酒につき合う事。』
『は!了解致しま…え?』
三隅は米田の言葉を理解できず戸惑った。
酒につき合え、そんな懲罰が下ったということは聞いたことがない。 >>503
《幕前舞台》
すっとぼけた三隅中佐に、呆れたように米田が口を開いた。
『バカヤロウ、前みたいに呑もうじゃねぇかってことだ。
どうした、不服か?』
「いえ!了解致しました!」
『わかった、もう良いぜ。』
一度敬礼した後、一同は出ていった。
三隅は、その日から一週間米田の酒につき合わされ、いくらか酒に強くなったという。
幕前舞台 完 >>502
神崎財閥の保有する活動写真館であり、座席は八拾席ある。
席種指定のため、料金によって座席を選べるのだ。
米田達が座ったのは二等席で、中段より少し上の真ん中であった。
「フッ…この活動はいつ見ても惚れるわよ
斧彦、覚悟なさい…」
「琴様ったらぁ〜…あたしがそんな安っぽいオンナだと思ってらっしゃるの?」
米田の隣に、異様な客がいた。
いかつい体に野太い声の持ち主と、落ち着いた物腰の軍人が女言葉を使っていたのだから異様で有るという以外ない。
しかし、映画が始まってしまえばそんな疑問はどこへやら。
最後の死に別れる場面、米田にも熱い何かが走った。 >>505
《花と散るらむ 台本》
――――――――
S―156 劇場テラス
――――――――
ト 黒黒なる闇の内、蒸気灯の灯りが煌めく街並。
× × ×
ト 劇場テラスにて雅子を抱きて、暁に染まる街を眺むる一之助。
雅子:一之助さん…。
ト 雅子、一之助に抱えられ一之助の顔をじっと見つめ。
一之助:大丈夫かい?雅子さん
雅子:私…嬉しくて…
ト 雅子、咳き込み。一之助、雅子を下ろさんとす。
雅子:可いの…もう少しだけ…
一之助:なら…あと少しだけ。 >>506
――――――――
S-157 劇場テラス
――――――――
ト 朝焼けが上り、黒たる闇に光が差し。
街並を赤く染める。
× × ×
ト テラスの二人を朝焼けが照らす。輝く硝子。
雅子:ねぇ…一之助さん…
ト 雅子、一之助の頬に手を添わす。
雅子:あなたは…綺麗な目をしているのですね…。
一之助:あなたの目も…澄んでいて美しい。
雅子:そうかしら…?嬉しい
ト 雅子、頬を染め。暫し見つめあった後吐血す。一之助、雅子の血を拭い。
雅子:一之助さん、私…あなたにあえて好かった。
ト 雅子、涙す。一之助、震えながらにも強く抱きしめ。
一之助:雅子さん…女優は何があっても笑顔…だろう?
雅子:そう…笑顔ね
ト 雅子、涙ながらに笑む。微笑みの後、一之助の肩に手を回し、顔を寄せ。
雅子:ありがとう
ト 雅子、一之助の頬に接吻す。微笑んだまま意識を失い。
一之助:雅子さん?雅子さん!
ト 雅子の薄紅の頬には涙が伝い。雅子の亡骸は朝焼けに照らされ。
一之助、叫びの後涙流し雅子を強く強く抱きしめる。
一之助:…ありがとう、雅子さん。
ト 朝焼けの内に抱き合う二人。
―――
暗。
――― >>505
米田達は活動写真を見終わった後、興奮覚めやらぬうち、館内のカフェに居た。
先程の異様な客人達と共に。
『おめぇらが知らねぇのも無理はねぇ。こいつらは通称白百合隊と呼ばれている。』
「私、陸軍大尉の清流院琴音です。」
「私は陸軍軍曹、太田斧彦…ですわ」
一馬達の反応や如何に?
一馬は苦笑い、山崎は怪訝な表情、あやめに至っては絶句。
『まあ世界には色んな奴がいるってこった、ダァーッハッハッハ!』
そんななか、琴音が紅茶のカップを下ろし米田に問い掛けた。
「私達、この後雷門まで行くのですが…如何ですか?
今日は縁日か何かで屋台が出てるはずですから。」
『縁日か…そりゃ好都合だ、なぁ一馬?』
珈琲を頂いている米田は、満足そうに頷き一馬に目を向けた。
『ええ』
どうやら一馬も同意らしい。
多勢に無勢、山崎とあやめも同意した。
「では、浅草の屋台に向かって出発よ!」
斧彦がオペラ歌手ばりの美声(?)を張り上げた。 >>508
浅草雷門。
今夜は屋台が立ち並び、様々な人間が集っている。
そういえば、と米田は思い返した。
対降魔部隊と白百合隊の面々が思い思い行きたい場所に散開してからしばらく経つ。皆は何をしているのだろうか?
今まで立ち飲み屋台で呑んでいた米田は酒徳利を抱えて辺りを彷徨く事にした。
まず見つけたのが射的に興じる対降魔部隊の山崎とあやめであった。
『おう、あやめくん…っく』
『あら米田隊長、…また呑んでますね?』
『良いじゃねぇか、こういう席で呑む酒は縁起酒ってンだ。』
屋台の脇で雑談するあやめたちをよそに、山崎は銃を構え眼を閉じた。
次に眼を開いたとき、銃口は的を捉え、強いバネの音高らかに、的心を射抜いた。
「にいちゃんスゴい腕だな!
ほら、持ってきな!」
テキ屋のオヤジが渡して来た景品は和細工の髪留めだった。
『…あやめ。』
山崎があやめにそっと近づき、髪留めを髪に結い止める。
『俺には要らぬものだ。』
『えっ…その…ええ?』
あやめは照れているらしく、夕闇の内でもその頬が赤く見える。
そんな情景を目の当たりにした米田は、すっとその場を後にした。
>>510
人混みの内を歩いていると、妙に騒がしい一角があった。
どうやら斧彦が屋台の男と一騒動起こしているらしい。
『さぁ…熱〜いチュウをしましょっ!』
『うっ、うわぁ!誰か、誰か助けてくれぇ!』
太田斧彦は極度の接吻魔であり、好い男を見つけるとすぐに接吻しようとする癖がある。
体を見て分かるようにかなりの力もあるため、よりタチが悪いのは言うまでもない。
『ま、ほっといても害はねぇやな…』
ここで斧彦の世話をして、厄介事に巻き込まれたくはない。
屋台の男には申し訳ないが、と米田は心の中で合掌し、足を進めた。 >>512
仲見世を抜けて、少し開けた所に足を向けると、丁度紙芝居をやっていた。
一馬も水飴片手に見入っていたらしい。
「はい、今日はここまで…ありがとね。あ、また水あめ買ってちょうだいね。うん」
どうやら終わりらしく、紙芝居屋は不満の声を上げる子供たちを宥めていた。
『…おや、米田中将。中将も紙芝居に?』
一馬がこちらに気づいた。
『いやな、ちょいとウロついとっただけだ。
珍しいじゃねぇか?おめぇが紙芝居を見るたぁ…』
柔らかくなっている水飴を練りながら、一馬は赤く染まりつつある空を見上げた。
『さくらが見たら喜ぶだろうと…思いまして。』
さくら。
その名を聞いたのは、春の陽気が心地良い日だった。
真宮寺桂に挨拶するため仙台に赴いた米田に、一馬が紹介したのだった。
【これが私の大切なものだ】と…。
『…もう長く会っていません。』
一馬の呟きに、米田はふっと我に返った。
『…そうか、さくらは幾つになる?』
『もう四つでしょうか、…はい』
米田も赤に染まる空を見上げた。
『…なあ、一馬。』
時代を見つめ、戦場を見つめてきた双眼が一馬をとらえる。
『…死ぬんじゃねぇぞ、何があっても…。』
『…ハハッ…、わかりました。』
しばらく二人はそうしていた。
そして、米田は一馬と別れ足を進めた。 >>515
夕焼けが赤々と空を染め、仲見世の蒸気灯や屋台の提灯が灯る頃、小腹の空いた米田は屋台を巡っていた。
『焼き鳥ってのもなかなかうめぇもんだな、…お?』
目線の先には、建物の影から何かを見つめる琴音が居た。
情報将校である琴音の事、ただ事でない場合もある。
知らぬふりで近づき、声を掛けてみた。
『…どうした?』
米田に気づいた琴音は、影に身を隠してこっそりと指で指した。
この二人を端から見たら、ずいぶん怪しい存在だったに違いない。
『あの少年です、…さっきからアクセサリィの辺りをウロウロと…』
米田はずっこけそうになった。
しかし顔には出さなかった。
『…欲しいだけじゃねぇのか?』
米田もその少年に目を移すと、少女のように華奢な少年が小物屋を覗いては離れ、覗いては離れと繰り返していた。
こちらにはまだ気づいてないらしい。
『いえそれだけではないような…
……あの子、何かあるわ…』
『なにか、だぁ?』米田には検討もつかない、少年が好いた子への贈り物にでもするのか。
はたまた、妹や姉、母への誕生日の贈り物か…位しか思いつかなかったのだ。
『そうです、…何かを感じます。
…中将、あの子に接触してみますわ』
艶髪を靡かせ、颯爽と飛び出した琴音。【早まるんじゃねぇ!】と米田は言いかけたが時既に遅し。
仕方なく米田もついていくことにした。 >>516
『…坊や』
琴音が、少年の肩に手を置いた。
少年は反射的にかビクリと体を震わせ、とっさに逃げ出そうと身構える。
しかし、まるで磁石のように琴音の手は掴んだままだ。
そんな様子に異常を感じた、屋台のおっちゃんが声をかける。
「姉さん姉さん、この坊やに何か用でもあるのかね?」
この男、琴音を女性と勘違いしたらしい。琴音が幾ばくか頬を染めた。
『あら…いや、まあ、そうよ』
その時、後ろから人影が現れた。米田である。
「じいさん、この姉さんの知り合いかい?」
米田は、「姉さん」に一瞬眉が引きつったがなんとか取り繕うように話を続けた。
『ま、そんなところだ。
この坊ちゃんにちょいと用があってな、俺が頼んだンだ』
「ならいいんだけどね、ほら最近いろいろ危なっかしいからねえ」
『隣組の目ってのはそういう所で生きてくるンだ、これからもよろしく頼むよ』
「ああ!任せときな!…いかん、客だ!」
屋台にまっしぐらに戻って行くおっちゃんの背を眺める米田。
琴音はどうしていたかというと、米田の巧みな話術に圧倒されていた。
流石陸軍きっての知将、米田一基。話術もお手のものである。
『…さて、ボウズ…ちょいとこの姉さんが話があるそうでな。ついてきてもらえねぇか?』
少年は俯いたままだった。
その時、腹が鳴った。少年である。
『お?腹ぁ減ったか?
よし、このジジイが奢ってやろうじゃねぇか!』
『…?可い…ん…ですか?』
初めて少年から語られた言葉に、琴音と米田は顔を見合わせ…少年に微笑んだ。
かくして、彼らは小さな定食屋に入ったのだった。 >>522
『オヤジ、冷やで!…おめぇらはどうするんだ?』
定食屋に入った米田一行は、少し奥の席に腰を下ろした。
米田の前に少年が座り、少年の隣に琴音が座った。
米田は早速冷やを頼んだ。冷やというのは酒を冷やしたものである。
『私は水とお新香だけで結構です、君は?』
琴音は水とお新香だけにした、脂っこいものも時には良いのだが食べ過ぎは美容の大敵である。
そして少年はというと…
『えっ…その…え……天丼…を』
「あいよっ!うちで天丼を頼むたぁ坊ちゃん通だねぇ、旨ぇの作ってやっからほおっぺた落ちねえように押さえときねぇ!なんだったらじっちゃんとおっかさんにも押さえてもらいな!」
『あの…そ、の……は、は…い…』
江戸っ子オヤジの軽やかな弁に押され気味の少年であった。
それはさておき、少年を名を知らないことに気づいた米田は、聞いてみることにした。
『…おう、ボウズ…おめぇの名前聞いていいか?ボウズじゃあ他人行儀でいけねえや』
少年は少したじろいだが、何故か頬を染め言葉を詰まらせながら呟いた。
『…菊……です』
米田は耳を疑った、菊という女は良く聞くが男ではめったに聞かない。
『え?…ああ、菊か…好い名前じゃねえか』
『ええ、菊は華やかな花ですが…どこか儚げな花、です。
菊つくりは罪つくり…ともいうのよ、菊君。』
琴音が少年を見つめ、そう言った。 >>525
「あ…いえ……」
少年の頬に赤々と紅が差した。
『へいっ!お待ちっ!』
オヤジの威勢がいい声が飛んだ、そういえば先ほどから天麩羅の香ばしい薫りがしていた。つゆの香りもあってか食欲を掻き立てられる。
『おう菊、来たぜ…こいつぁうまそうじゃねぇか!…ヒック』
菊の前に運ばれた天丼をのぞき込みながら本日何本目かの酒を煽る米田。
酒の味も好く、可い具合に冷えているのもあってかするすると手が進んでいる。
『そういえば菊君、何故アクセサリィ屋の前に居たのかしら?』
ふと先程まで新香を摘んでいた琴音が口を出した。
『え!……その…』
菊が言葉を詰まらせた、琴音が耳を寄せて囁くように促すと…
『……が…その……で……え…』
どうやら、昔から女性に対する憧れがなんたらかんたら…だという。
それを聞いた琴音が、腕を組み力強く然し優雅に頷いた。
『菊君、今日は…私達とデートしましょう』 >>526
定食屋で腹ごなしをした米田一行は琴音の考えにより仲見世に繰り出すことになった。
その中で、米田の印象に残ったのは見たのは菊少年の満ち足りた笑顔だったという。
そうして短いようで長い時間が過ぎ、日も落ちた。
彼らが最後に向かったのは少年と出会ったアクセサリィ屋。
琴音の勧めであった。
『…何か欲しいものはあるかしら?』
琴音の問いかけたことばに、少年が肩をふるわせた。
「えっ…えと…母にこれを…」
恐る恐る指差したのが小さな髪留め、百合が鮮やかにあしらわれている。
『わかったわ、店主さん…これを』
琴音が代金を支払い、その品を受け取ると…
「あっ……」
『似合うわね』
琴音の手が菊の髪にその髪留めをつけたのだ。
『これはあなたが欲しかったんでしょう?
…わかるわ、嘘をついてもね』
琴音の不適な笑みに菊は口をパクパクとさせていた。
米田もどうやら気づいていたらしく後ろで笑っている。
真っ赤なりんごになった少年に、琴音がこう囁いた。
『…自分を偽ってはいけないわ。
好きなものは好き、そういえる大人になりなさい、菊乃丞君。』
>>532
女性への憧れ。
琴音達にもあるその感情を、この少年も持っていた。
琴音はそれを感じて声を掛けたのかもしれない。
『あなたもこの私と同じ、これからも仲良〜くしましょうね
あら…菊之丞、可愛いんだからこんな時に泣いちゃ駄目じゃない、女は涙をいざという時の武器にとっとくものよ』
今まで否定されてきたその感情を初めて認めてくれた人の手が、菊之丞少年の頬に伝う雫を拭う。
『…失敗や欠点…それをひっくるめて自分を認めてやれるようになりゃあ1人前だな。』
菊之丞の頭を撫で言葉を掛けた米田、その時の目はとても穏やかな…父親のような瞳だった。
『米田隊長〜!』
ふと背後から聞きなれた女性の声がした。
どうやらあやめらしい、一馬や山崎も共に行動していたらしい。
『おうおめえらか…どした?』
『いや、米田隊長がこの方の子供と一緒に居るのを見たっていう人がいまして』
対降魔迎撃部隊の面々は菊之丞の母親と出会い、子供を探していたというのだ。
背後から姿を表した女性は菊之丞に駆け寄り抱き締めた。
「菊之丞!」
「…お母さん」
暫し抱きあった後、母親が菊之丞の髪に留められた髪留めに気付いた。
途端、母親は声をあげる。静かな怒りを含んだ声だった。
「菊之丞…これは何かしら」
母親の声に戸惑いを見せた菊之丞はとっさに後ろへ退いた。
丁度琴音に寄りかかるような体制になったのだ。
「貴方ですか?これを菊之丞に与えたのは」
この母親はどうやら菊之丞の感情に気づいていたのだろう、しかし世間体を気にしてかそれを否定してきたらしい。
それを掘り返されたのだから母親にしてみればたまったものじゃない。
その怒りの矛先を向けられた琴音は菊之丞を両手で包みこみながら、凛として立っていた。 >>533
『アナタは恐いのねぇ、人と違うということが…』
口を開いたのは琴音だった。
母親の顔が一瞬、動揺に歪んだ。
『人なんざ何人居ると思ってんの、アナタ。
何人も同じ人間がいたら怖いわよ、ねーあやめちゃん』
『たしかに…清流院さんや太田さんが五人もいたら…』
『ちょっと琴様、あやめさんったら御挨拶ねぇ!』
『斧彦、アタシが五人居たら周りの方々の心を奪ってしまうでしょうけど、アナタが五人もいたらアタシだって近寄れないわよ』
『琴様ったらヒドい御言葉…!』
両手で顔を隠してシクシクと涙を流す斧彦を尻目に、琴音は言葉を続けた。
『人と違うことは悪いことじゃないわ、常識なんて所詮多数派の意見よ
…大切なのはそんなことじゃない、他人と違う自分を認められるか…よ』
『…みんな違ってみんな良い…か』
一馬が呟いた言葉にふと山崎が口を挟んだ。
『…真宮寺、それは金子みすゞか?』
『ああ、良い詩だろう?』
『…ああ』
『…ン゙ン』
話が脱線してきたと感じた米田が、咳払いして言葉を続けた
『…世間様の目を気にするのは仕方ねえことだが、自分を押し込めさせるのは良くねえ。
子供達を…かばい、守り、自由にさせるのが親のつとめじゃねえのか?』 >>541
「…っ………」
菊少年を挟んで責め立てられた母親はたじろいだ
彼女にはいくらか被害妄想地味た思考があるのか自分の考えを全て否定されているように感じたらしい。
その時である。
『は…母を苛めないで…ください…っ!』
菊少年が母親の前に立ち、必死に声を張り上げた。
人通りが少なかったのが幸いしてか野次馬もない、否…例え野次馬がいたとしても少年は母を庇っただろう。と米田は直感した、少年の瞳はまっすぐこちらを見つめ返していたからだ。
『ごめんなさいね、言い過ぎたわ…』
沈黙の後、琴音がひしと菊少年を抱きしめた。その瞳はほのかに潤んでいたという。
次に斧彦がその上から抱きついてワンワン泣き出した
『菊ちゃんっ…アナタは乙女の鑑よぉ!
ねっ琴様!』
『そうよ、ここまで清純で勇敢な心を持った少年を連れまわした挙げ句傷物にしたなんて!』
いくらか過剰な表現が出て、米田は少し眉をひそめる。
『…おいおい…
まあ、…おめぇさんがこの坊主に教えてきたことは間違いじゃなかった
…おめぇを庇って、俺達に歯を向けてきたんだぜ…』
米田の柔らかく穏やかな言葉に、母親も泣き崩れて百合組の輪の中に入っていった ID:xbAu+msb0
この上記のヤツにこんなことを言われたよ。
[同一IDのアニオタ登場W
アニオタって、一日5千円以上入れきれない、
チキン野郎だろ
こういう奴って、大抵、羽かサクラやってるが、
早くアニメの世界に帰れよW ]
>>548
しばらくして、泣き止んだ母親と菊少年は祭囃の中に消えていった。
『これで一件落着、だな』
米田は少し離れた林の中でやれやれ、といった感じで対降魔迎撃部隊と百合組の面々を見渡して呟いた。
『…ところで、今回の任務はどのような…?』
あやめが口を開いた。
今回は対降魔迎撃部隊に与えられた任務のために浅草界隈まで出てきたというのに、任務そのものの全容が知らされてはいなかった。
どうやらその事に百合組も興味があるらしく、押し合いへし合い寄ってきた。
『今回の任務…それは』
ずっと秘密にしてきた任務の内容、米田は重く口を開いた。
『たーんに俺が遊びまわりたかっただけだ!
ダァーッハッハッハッ!』
一転、不思議なまでな静寂が当たりに漂った。
任務と言われ気を引き締めていた糸を、切られたようなもの。
脱力感に包まれた状況を米田も感じ取ったのか、眉をひそめていた。 >>561
ふむスレ
DSって迫水でないのかな…… >>553
『‥今日の任務はこれで終いだ、とっとと帰れ。
琴音、斧彦を‥って大丈夫か。
‥山崎、あやめを送ってってやってくれ』
だらけた空気に耐えられなくなった米田が溜め息と共に目を伏せた。
そうして山崎とあやめ、白百合隊が闇に消え、米田と一馬のみが残った。
『‥中将、この任務の真意は‥』
一馬が遠方を見つめ、微笑みながら問い掛けた。
それに答えるかの如く、米田は同じように遠方を眺めていた。
『‥最近戦い詰めだったからな、俺らが護らなきゃならねぇもんを見つめ直すためよ‥』
『‥貴いものほど忘れてしまいがちですから』
一馬は一歩、先に歩み出た。
そして‥
『中将、私が‥‥‥』
強い風と共に、桜吹雪が駆け抜けた >>577
『支配人!支配人!ゲネプロ始まっちゃいますよ!起きてください!』
まどろみのなか、椿の声が聞こえた。
先程見た桜吹雪はない。
ここは支配人室、どうやら一晩眠りこけてしまったらしい。
『やっと起きた、ゲネプロ始まりますよ!』
『お、おぅ。‥わかったわかった。ちっと着替えてからいく、酒くせぇからよ』
『急いで下さいね!あと30分で始まっちゃいますから!』
椿は慌ただしく、支配人室から飛び出していった。
『‥やれやれ‥‥』
半ば自分に呆れるように呟き机の杯に目を向けた。
そのうちのひとつに、桜の花びらが浮いていた。
『‥どこからか入り込んだな』
机の背後にある窓を開く、柔らかな風にカァテンが揺らいだ。
『‥夢のつづき、か』
窓を閉め、着替えを持ち、扉を開く。
一瞬、一馬達が近くにいるような気配を感じ振り返り‥部屋を出た。
窓の外に、桜を纏った風が吹いた
終幕。
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