>>38続き)

当時の記憶はもうほとんど残っていないのですが、それでも残っている記憶があって、
それは『映画 えんとつ町のプペル』の舞台挨拶の時に話したんですけども、
近所の「ダイエー」というスーパーの駐車場に、都会からプロレスの巡業が来た日の記憶です。

駐車場の真ん中にリングが作られて、その周りにパイプ椅子が並べられて、
まもなく駐車場のフェンスにブルーシートが貼られて、中が見えなくなるんです。

お金を払わないと中に入れないから、子供の頃の僕は諦めて、すごすごと家に帰ったんですけど、
なんか、いてもたってもいられなくなって、陽が暮れたのに、また家を飛び出して、
「ダイエー」の駐車場に向かったんです。

お金を持っていないから、あいかわらず中には入れないんですけども、
ブルーシートが貼られたフェンスに耳をひっつけて、中の音を聞くんですね。
「バーン、バーン!」という技が決まった音の後に、歓声が上がって…
僕、この話をすると、いつも泣きそうになるんですけども、
それは僕が生まれて初めて聞いた「エンターテイメントの音」だったんです。

結局、プロレスは見れなかったんですけども、その夜は、興奮して全然寝れなくて、
「いつか、あのフェンスの中に行ってみたい」と本気で思いました。

僕のペルソナは、あの夜、エンタメに恋をした小学2年生の僕で、
世界のどこかにいる彼や彼と同じような子に、どうにかこうにかエンターテイメントを届けようと思って、
せっせとやっています。