【カクヨム】 親権剥奪 【全27話】 
(あきもと よしお著, エッセイ・ノンフィクション, 2016-07-12)
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880231588

 子どもの貧困が大きな社会問題としてクローズアップされるようになって久しい。
 とりわけ危惧されているのが、父親、あるいは母親の一方と子どもだけのいわゆる
一人親世帯となった子どもの貧困である。そして、その多くは両親の離婚によっても
たらされる。
 シングルマザーなる呼称がすっかり定着したように、ともすれば女性の新しいライ
フスタイルでもあるかのようにもてはやされることが多くなったとしても、子どもの
幸福という視点からすれば、やはり父親という重要な存在を欠いた母子家庭であるこ
とに変わりがあるはずもない。
 離婚に際してどちらか一方に親権者を決めなければならないこの国の制度化では、
子どもの争奪をめぐって夫婦間の熾烈な争いが演じられることが多い。
 一方の親による離婚前の子どもの連れ去りや、虚偽のドメスティック・バイオレンス
申し立てなど、子どもの福祉そっちのけの手段を選ばない行為が横行する中で夫婦間の
感情的対立がさらに高まり亀裂は深まる一方となる。
 この両親間の不毛な諍いの狭間で、なんら罪のない子どもが極度の精神的葛藤を強
いられる。更に子どもにとって深刻な事態は両親の離婚をきっかけとして片方の親と
の絆が途絶してしまい、事実上の生き別れとなってしまうケースである。このような
状況を放置したままにして果たしてこの国の子どもの人権は守られていると言えるの
だろうか。
 離婚先進国でもある欧米諸国に目を転じると、離婚した両親間の子どもの人権を守
るために何を優先すべきかについて1960年代から始まった長い議論の末、それら
の国では離婚後の共同親権制度が採用されている。
 単独親権制度から共同親権制度への移行によってこの国の子どもの貧困問題がすべ
て解決するわけではもちろんないが、少なくとも離婚した両親の間にも子どもの幸福
のためにお互いに何ができるかを話し合う機会が残されることだけは期待できるので
はないだろうか。
 この著が、そうした議論が高まることへの一助になってくれればと願う。

               2016年1月  あきもと よしお