(>>134のつづき)

例えば、男性だけが兵役に行くという法律を作ったのは男性たちでした。
なぜそうしたのでしょうか?
それは非常に長い間、女性には兵役を務める能力がないと男性たちが考えてきたからです。
つまり、先に存在していた女性差別のために、男性が逆差別と認識する現象が生じたのです。

ここで逆差別という言葉を「差別コスト」に変えると、状況がはるかに鮮明になります。
どういうことか。

差別のために女性たちがその能力を十分に生かせない社会は、それだけ厚生に資する力
が少なくなります。その問題を人類は男性たちが余計に働き、義務を負担するという形で
解決してきました。
これがすなわち男性たちが逆差別だと認識するものの実体、「差別コスト」です。

つまり、長い間女性に弱さを強要したために男性だけが軍隊に行ったり危険な労働を担当
するような慣習が生じたこと。あるいはまた、長い間女性に経済的不利益を強いたために
男性がデート費用を負担したり家族を養うような慣習が生じたこと。これらはみな差別に伴
って差別コストが発生している事例なのです。

この図は雇用労働省から発表された男女の所得差を視覚化したもので、5歳間隔で世代ごと
の収入を示しています。
男性が生涯で100の収入があるとすれば、女性の収入は63に過ぎません。
このような経済的非対称、差別が長い間続いたことが、男性の方が稼ぎが多いのだから当然
デート代も多く払う、結婚したら家族を養う、といった文化的非対称、慣習を生んだ原因です。

それならばなぜ若い男性たちは逆差別を主張するのでしょうか。
それは彼らには社会の女性差別的な構造が見えていないからです。
女性差別の威力は30歳以降から凄い勢いで加速していき、男女格差が広がっていきます。
でも、彼らはそれを経験していないために「収入は同じくらいなのにデート代を多く払わなけれ
ばいけなかったり、軍隊に行かなければならなかったり。男ばかりが負担を強いられている」
といったふうに考えるのです。