>>277
平井呈一訳の黒死荘に関しては、明治・大正の古典をある程度読んでいる人であれば
それなりに楽しめるだろうけど、戦後作家の小説しか読んでこなかった人には言い回し
や形容に古くささや違和感を覚える人もけっこういるだろうと思う

雪隠場、顔をベロンコ、お嫁にいった晩、赤本、などなど

以下、平井訳「黒死荘」のつづき (上が平井訳、☆が南條・高沢訳)

   趣味の第一は、赤本小説を読むこと。

 ☆ 趣味は三文小説を読むこと

   さて九月初めは連日風雨はげしく、若旦那チャールズさまは先にも申し上げ候とおり
   ご調子すぐれず、ご当家の侍医ハンス・スローン先生じきじきにご看病にあたられ申し候。
   おりしも九月三日の夜、家人ども口々に申すに、ご邸内に何者とも知れねど怪しき者の
   ありて、お廊下の暗がりにてすれちがいたれど、正体とんと分明(ぶんみょう)せず、
   あまつさえそのあたり何となく息のつまるほど苦しく気色悪しとて、みなみな訴えおり候いき。

 ☆ やがて九月の最初の週になりました。依然雨が多く、風の強い日が続いたのですが、
   いよいよ凶事が現れ始めたのです。チャールズ様はお加減が悪く、ベッドに臥したまま
   でしたので、ハンス・スローン医師がつきっきりで看病に当たられました。
   九月三日の夜には、屋敷内に何者かがいて廊下の暗がりで擦れ違ったと、使用人たちが
   口々に訴え、あまつさえ、息苦しく、気分が悪くなったと言い出す者まで出る始末でした。
   それでも、怪しいものを実際に見た者はおりませんでした。