3/5

「あのねえ」
神戸探偵は首を振った。「警察は現場に急行し、司法解剖を行い、死亡推定時刻を出しただろう。
その結果にも不審な点はなかった。だから僕に報告しなかった。違うかい」
「そうでした」
近江刑事は頭を掻いた。「じゃあ死亡推定時刻は正しい。日傘は使っていたはず。しかしそれは閉じていた」
「これらをすべて理論的に説明し得るのが、事件現場が違っているという仮説なのだよ」
神戸探偵は痺れをきらし、ようやく重い腰を上げて、説明を始めた。
「日傘を使わなかった理由、それは、その場所が日傘を必要としなかったからに他ならない。
おそらく被害者は、屋内で殺されたのだ。傘ではない、別の棒状の凶器でね。
被害者の移動は容易だっただろう。昼間の黒百合地区は閑散としているし、
被害者の死体は外傷ひとつなく、血も出ていない綺麗なものだ。
日傘を近くに置いたのは、事件をカモフラージュするためだろう。
犯人は被害者が傘を片手に出かけようとするのを見てこれを思いついたのだと思うが、
日傘と言うものを知らなかったのだろうね。晴れた日に傘が開いているなんて、考えつかなかったのだろう」
「それで犯人は少なくとも男、と言うわけですね」
近江刑事は感心した様子でしきりに頷いている。
「これでだいたい事件の全貌は見えてきただろう。
あとは、その日背礼武夫人がどこへ行く予定だったか、事件当日に背礼武夫人を見たものはいないか、
事件そのものではなく、その周辺に関する聞き込みをもう一度行ってみれば、誰が犯人かはっきりするだろう」