問題も無いようだし、一問。

先鋭的な画風から未来を生きる男と称される画家がいた。
高い名声を得、美しい妻も手に入れた。豪邸ではないが、小さな家も建てた。
だがある時を境に、これまでの抽象画(ピカソみたいの)から写実的(写真みてーな)
な絵を描くようになった。
彼のアトリエを訪ねた友人たちは「君は自分の絵を捨てるのか?」と尋ねた。
画家は「時間が無いんだよ。僕はあの絵を完成させないとならないんだ。この絵は準備だ」
絵筆を持った右手に力を込めてカンバスに緻密な絵を描いていく。
友人はカンバスを覗き込んでみたが、描かれていたのはあまりに平凡な花瓶の絵であった。
半年後、アトリエから全く出ずに絵を描き続ける男を心配した妻が友人に相談した。
友人がアトリエを訪ねたが、鍵がかけられ中に入る事はできなかった。
扉をノックして声をかけたが、唸り声のような返事が返ってくるばかり。
鍵穴から覗いてみると、痩せた背中とリズミカルに動く左手が見えた。
「もうやめろ!思いつめ過ぎだ!」と思わず叫んだ。しかし画家は反応すらしない。
ぶち破るぞと脅してみても、妻が声をかけても無駄だった。
さらに四か月が経ち、ついには妻も出て行った。
一人残る画家を心配する妻に「君は自分の事だけ心配しなさい」とだけ言うと、
歩くのも億劫そうにアトリエへと戻っていった。
妻が出て行って間もなく一枚の絵を完成させると画家は旅立った。

画家が描いた絵とはなんでしょか?