そのころ角川文庫で10人の推理作家に競作をさせるミステリーコンペという企画がありました。
書き下ろしの新作ミステリ10作から、読者投票で一番多い票を獲得したグランプリを決める
というものでした。角川でそういうコンペがあり、黒崎さんや服部さん、有栖川さんなどが参加して
行われたんですが、岩崎さんが一位になったんです。これは明らかに組織票といっていいものでした。
地方の人の一つの考え方というか、要するに地元の作家を応援しようというようなことだったんですね。
結果が発表になった後で、数人の作家が、角川歴彦さんにクレームを付けた。
(中略)
ちょうどその当時、ぼくは連作の企画を考えていて、まず笠井さんに話を持っていったんです。何人かで
リレーミステリをやりませんかと。
(中略)
いちばん最後が有栖川さんだったんですが、その途中で角川のコンペの事件があったので、有栖川さんは
岩崎さんと一緒は嫌だと言いだした。それぞれの登場人物を使うというルールを作ったので、それまでの
笠井さん、岩崎さん、北村さんのパートでは、自分のキャラクター以外に、ほかの作家のキャラクターも
使っているわけです。(中略)とにかく、それぞれのワトソン役を使って話を進めてきていましたから、当然、
有栖川有栖もすでに出てきていたんです。そういう内容で進んできたのに、そこで角川の事件があって、
有栖川さんが降りてしまった。
有栖川さんが抜けたあたりから進行も滞るようになってしまいました。この時点で急遽、巽昌章さんにトリの
代役をお願いしたのです。法月さんも、この途中での交代劇をなんとかうまく収めようと、努力をしてくれたんですね。
ぼくに二章分を書かせてください、といって彼が奮闘してくれた。