獅子舞の中

気がついたら真っ暗だった

僕は青年団に所属して伝統芸能を守る
というのは奇麗事だった
何もやる事がなかったのです
高校も無事卒業できたが親の農業を継ぐ気などさらさらなく
春になったらこんな田舎を出て東京に行こうと思っていた
東京に行けば何かあるのじゃないか?
というよりここから逃げたかった
ただ、それだけなんです
あてもなく、ここから逃げたかった
ただ、それだけなんです

獅子舞に参加したのは最後くらいはこの土地に協力したい
というより
このまま去るのは後ろめたい
という自分の保身の気持ちが強かった

獅子舞の中は視界が狭くなるが口の部分から光が入ってくる
暑苦しくはあるが不思議と光が心地よく思える

獅子舞の認識を馬鹿にしていたわけですが
被って闇雲に踊ればいいと思ってました
笛と太鼓の音によって12ほどの動きがあると知ったのは
青年団に入ってだいぶ後のことだったのです

3月21日が本番だったので2週間を切って
公民館で必死に練習をしている最中でした

気がついたら真っ暗だった

地震が起きたというのを理解するまでに
かなりの時間が掛かったと思う
正直、よく分からなかった
さっきまでは獅子舞の中にも光が入ってたのが
急に暗くなったのです

我に返り、獅子舞を脱いで
なぜか右手に抱え外に出たら
そこは僕が暮らしていた町とは全然違う姿をしてました


あれから数年経ちました

僕は今年もこの土地で
獅子舞の中から春の光を迎えます