平成最後の豊川稲荷初詣輸送、
東海道線のダイヤは乱れ、飯田線も乗客を満足に運べず惨敗だった。
駅構内に響く乗客のため息、どこからか聞こえる「やっぱり名鉄だな」の声。
無言で帰り始める職員達の中、JR東海初代社長の須田は独りホームのベンチで泣いていた。
国鉄で手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できる職員達・・・。
それを今のJR東海で得ることは殆ど不可能と言ってよかった。
「どうすりゃいいんだ・・・」須田は悔し涙を流し続けた。
どれくらい経ったろうか、須田ははっと目覚めた。
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいホームのベンチの感覚が現実に引き戻した。
「やれやれ、帰って資料の整理をしなくちゃな」須田は苦笑しながら呟いた。
立ち上がって伸びをした時、須田はふと気付いた

「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」
ベンチから飛び出した須田が目にしたのは、ホームを埋めつくさんばかりの乗客だった。
ホームには駅員の怒号が響き渡り、やって来る列車には無数のフラッシュが焚かれていた。
どういうことか分からずに呆然とする須田の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「須田、出発時刻だ、早く行くぞ」声の方に振り返った須田は目を疑った。
「ひ・・・113系?」、「なんだ須田、居眠りでもしてたのか?」
「キ・・・キハ58?確か美濃太田でカバーにくるまれているはずでは?」、「なんだ須田、かってにキハ58をを引退させやがって・・・」須田は半分パニックになりながら時刻表を見上げた。
ひだ、のりくら、南紀、かすが、しなの、ちくま、しらさぎ、富士、さくら、みずほ、はやぶさ、銀河、大垣夜行・・・。
暫時、唖然としていた須田だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった。
「勝てる・・・勝てるんだ!」。
杉浦国鉄総裁から時刻表を受け取り、右手を挙げて出発合図する須田、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・。

翌日、ホームのベンチで冷たくなっている須田が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った。