ガンダムSEED 逆襲のシン・アスカ EPISODE XLI
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ガンダムSEED DESTINYで主人公の座を追われたシン=アスカが
今度こそまっとうな主人公として返り咲く!
シン主役の種死アフターについて語り合い、SSを投稿し、職人をGJ!するスレです。
荒らし煽りは徹底スルー、職人さんへの敬意を忘れずに。
前スレ
ガンダムSEED 逆襲のシン・アスカ EPISODE XL
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/shar/1318787555/
まとめページ:
ガンダムクロスオーバーSS倉庫
ttp://arte.wikiwiki.jp/
避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10411/1230163812/
新規職人さんも随時大歓迎です。 気がついてみれば前スレが落ちていて、
またよく見れば既に487KBだったので立てさせてもらいました。
引き続きよろしくお願いします。
>>1
建て乙!
落ちてるのに気付いたは良いが、反射的にスレ建てて危うく乱立させる所だったぜ こんなところでなんだがシンを主人公にしたssをいつか書きたいと思ってる
でもアニメしかみてないし資料どこで入手すればいいんだろ >>7
目の前の箱か手元のもしもしで調べればおk……いや、半分は冗談抜きでマジで
伊達にガンダムの主人公だった訳じゃないからググったり、Wiki見れば大抵の事は乗ってるよ
アニメ以外のシンを見たいならゲーム屋行ってスパロボZかL、ガンダム無双かACE:R、本屋行ってボンボン版種死かジ・エッジかジ・エッジデザイア買えば良いんじゃないかな?
>>7
調べた上でわからなかったらここで聞くのもひとつの手だが、読む人に対してネタバレになる可能性があるのであまりおすすめはしない。
投下しておかしいトコあると何がしかツッコミが入るので覚悟しておいたほうが良い。
ツッコミを受けつつ勉強するという手もあるにはあるがw
自分もツッコんだので覚えているが、
・陣営ごとの戦闘態勢の呼称の違い(ザフト:コンディションレッド 連合:第1種戦闘配置(配備?)etc)
・自艦から見た目標の相対方位の呼び方(「インディゴアルファ」といった呼び方etc)
など、種シリーズ独特の設定がある。まあ、ココらへんはアニメ本編を見てればわかるか。
参考までに、自艦から見た目標の相対方位の呼び方については、
http://www.xg-seed.net/special/index.html
の第6回が詳しい。(考えた人が書いている)
楽しみにして待ってるよ。 >>1乙。そして、>>10も乙
前スレで新しい書き手の人も来たし、まったり待機かね
ある程度連載されている方たちも、チマチマ書いていてくれたら楽しみ ttp://www.gundam.info/content/814
世間一般?からのアスランの評価にワロタw 実際自爆しなかった種死アスランの存在価値はあったか?
>>14
…ダメな上司としての模範?てか、言葉足りないってレベルじゃなかったから、それ以前の問題かもしれんが HDの中漁ってたら三年前に描いて途中で止まってる支援絵が出てきた
そこそこ出来てたから今仕上げてるんだけど更新止まってる作品だし
こういうのって投下してもいいのかな?
2、3日中には完成できると思う >>17
応えてくれてありがとう
ただ謝らなければいけないことがあるんだ・・・
読み返してみたら文中で明確に「サーベル取っ払った」って書いてあったんだ
当時の俺何考えてたのか思いっきり描いちゃったんだ、あり得ないんだ・・・
それでも良ければどうぞ見てください
つttp://www.42ch.net/UploaderAnime/source/1344959548.jpg
グロックがCEにあるかどうかのツッコミはヤメテ!!
話の展開とかキャラとか好きでした >>18
乙なんだぜ! しかもバクゥ頭インパルスだ!
もう3年も前かすげー懐かしいなぁ >>18
おお、バクゥヘッドインパルスとは素晴らしい。そして、ナイスなお尻も素晴らしい パソコンが無駄に重くて止まりまくっているがなんとか投下してみる その船は、死に瀕していた。
「艦長、駄目です!敵の位置を捕捉できません!」
「ミサイル多数接近!更に後ろから熱源が複数!モビルスーツ…いえ、おそらくモビルアーマーです!」
「モビルスーツ部隊を発進させろ!索敵班ははやく敵影を捕捉するんだ!」
ブリッジに、オペレーターの悲鳴と艦長の叫びが響く。その船は死に瀕していた。見えざる敵によって。 その船、正確にはナスカ改級高速戦闘艦一番艦ホッブズは、ユニウス戦役後にロールアウトしたザフト改めプラント軍の新鋭艦で、デュランダル派と呼ばれる反ラクス政権の一派に強奪されて以降は、彼らの旗艦として使用されてきた。 ナスカ改級は従来のナスカ級と比べて、形状や全長に大きな差異はない。しかし、主砲や通信機器は大幅に改良されており、特にその索敵範囲と精度はその他の戦艦と一線を画すものだった。事実、先に敵艦を捕捉し砲火を浴びせることで、幾多の艦を宇宙の塵にしてきた。
ところがどうだ。今度の敵は、先に見つけるどころか、敵の攻撃が開始されても敵の位置を特定出来ずにいた。 「まだ、まだ、敵を捕捉出来ないのか!?」
「敵の砲火が来る方向が特定出来ません!レーダーにも反応が……っ!レーダーに反応あり!巨大熱源が三!熱紋照合、これは……ミネルバ、ミネルバ級です!ミネルバ級が三隻!」
「ミネルバ級!?馬鹿な、一番艦は沈んだし、二番艦はアーモリーにいるはずだぞ!?それが三隻だと!そもそもホッブズなら、先に捕捉できるはずだ!」 ミネルバ級。ユニウス戦役で一番艦が活躍した宇宙戦闘母艦で、その一番艦はメサイア攻防戦で撃沈。二番艦がユニウス戦役後にロールアウトしたが、三番艦以降の製造は未定となっている。必然的に現在あるミネルバ級は一隻となる。三隻も存在するわけがない。
しかしそれはミネルバ級の話である。 カーリー級(ミネルバ改級)は、特殊部隊サンドグラス隊のみに配備されている戦艦である。三隻がロールアウトされ、四番艦も極秘に製造されている。ホッブズを攻撃しているのは、カーリー級の三隻だった。
カーリー級一番艦カーリーのカタパルトデッキかは、一機のモビルスーツが発進しようとしていた。 「戦況は?」
<先行したマス・カオス部隊が交戦中、戦況はまずまずといったところです。しかしホッブズの射程は長いので、味方が艦砲射撃を受ける可能性があります>
「だったら、サンドグラス2からサンドグラス8までは艦隊の直掩にまわれ。サンドグラス9からサンドグラス11は俺と一緒に母艦を沈める。残りは味方の援護を」
<了解> 指示を出し終えた男ーーサンドグラス1は、オペレーターのサインを待つ。バイザーが下ろされているので表情はわからない。
<進路クリア。モビルスーツ部隊は順次発進してください>
「了解。サンドグラス1、出る!」
漆黒のグフが、暗い宇宙に躍り出た。 ホッブズのブリッジには、なおも悲鳴と怒号が響いていた。
「敵艦より増援、味方のモビルスーツ部隊が押されています!」
「熱源が四つ、本艦に直進してきます!直掩のモビルスーツが迎撃していますが、取り付かれるのは時間の問題です!」
「敵の砲撃によりメインスラスターに異常発生、逃げられません!」
「主砲沈黙!もう駄目だぁ!」 「……オープン回線で降伏すると伝えろ。モビルスーツも引かせろ」
「艦長、しかし」
「このままではすぐに沈んでしまう。捕まれば処刑されるかもしれんが、ここで死ぬのはいやだろう?」
「……了解、しました」
ホッブズのオペレーターは言われた通り、オープン回線で降伏する旨を流した。 しかしそれに答えたのは、受諾の通信ではなく、ビームの雨だった。
オペレーターが反応する間もなく、ブリッジに覆い被さる黒いグフは、ダーインスレイブレーザー耐艦刀を振り下ろした。
爆散するホッブズを見下ろしながら、サンドグラス1はメットに手をかける。残りのモビルスーツも残らず撃墜したようだ。メットを外す。 艶のある黒髪が靡く。薄暗いコックピットの中で、紅い瞳がモニターの光を反射してぎらついていた。
コズミック・イラ76年、シン・アスカはラクス・クライン直属特殊部隊サンドグラス隊の隊長であった。
機動戦士ガンダムSEEDDestinyC.E.76 終の剣と血と星と というわけで第一話終わりです。
お目汚し失礼しました。 >>22-36
突然新作がキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
多くは語らない。続きを楽しみにして待ってる。
贅沢言えばもう少し1レスの文章長めにしてレス数減らしてくれると読みやすいです ラクスの走狗になってるってのも最近多いな。
ここからどう変わっていくのか。 新人さん乙、敵の旗艦いきなり落とすとはさすがはシンだな
レス数の消費がマッハになるからなるべく繋げたほうがいいかもね
あと細かいけど戦艦の改修型は改○○級って呼ぶ
改ミネルバ級、改ナスカ級みたいな
索敵範囲が広がるなら通信機器じゃなくてレーダー機器 >>41
いちいち細かい所にいちゃもん付けんなよ…気分悪い奴だなぁ 微妙に間に合わなかったが、シン誕生日おめでとう。
あとGジェネにようやくミナ様が声あり参戦するね ミナ様といえば……倉庫を読み返しててカリダママンとの話の前フリで、
「シンの傍には同じように何かを失ったり奪われた女性が絵になる」とあったが
我等のみなたまの方はどうだったんだろう。
原作と同様のギナと死別しているのか、それともやはり小さい「ぎな」がいるのか…
ここらに触れたSSって今まであったかな。 >>44
普通にギナさんが生存してる説を押してみる アストレイキャラは大体はガイとロウくらいしか居なかったからなGジェネ
ジェネC.Eをシリーズに含めるなら別だが。 >>47
Mercenary Of Red外伝の『みなさんじゅうにさい』が2008年だから、もう4年前になるのか。月日が経つのは早いのう >>46
まて、X ASTRAYのプレアとカナードを忘れてないか?
一応GジェネWORLDに声付で参戦してるし。(声なしでならPortableで既に参戦してるが)
つか、選択運命の人とシン歩の人はどうされたんだろう・・・? >>49
仕事に忙殺されてるんじゃないかな?
まぁ、気長に待つかね 燃料が無いんだよなぁ、運命のリマスターも出ればいいんだが 種死は連合側にシロッコに近い敵キャラがいれば
面白かった作品になれたのに 理解不能な発狂をしたり、ラクスシンパになるシロッコ風キャラがみたいとな?
いや議長さえだまし最終的にディスティニープランを自分の物にしようとする様な >>52
種死はどの陣営も微妙な輩が多かったからな
議長もイマイチぱっとしなかったし、ムネオは使えないし、ジブはアズラエルのような魅力無かったし
クルーゼみたいに分かりやすいボスキャラが居なかったのがなぁ〜 最終的に「もうラクス(ヒロイン)がラスボスでいいよ」に落ち着くアニメって斬新だよな というかキラは誰とひっつけば幸せだったんだろ?
折り紙くれたようじょとかカガリ辺りが一番無難だったような気がしないでもないw >>57
カガリだと近親に・・・ぶっちゃけ、種終了後はラクスはプラントに戻って歌姫として国民の為に尽力、アスカガはオーブ復興。
で、キラは一人あの海辺に座っていて、その後ろに微笑んでいるフレイの霊でも居ればよかったような・・・ シンだとアフターでは大抵ルナかコニール、あとマニアックな所でロミナママン、
また種死改変もので生存ルートが叶えばほぼステラだが、
一番リア充の勝ち組で位人臣を極めたというとジオンの光芒、
一番意外な相手&その後の数奇すぎる運命というとライオン少女だろうか。
ミーア主役スレでのシホとの爛れた同棲エンドも捨て難いが。 >>58
フレイやらラクスと比べると、損得抜きでキラの事心配して尚且つ言いたい事言ってたの
カガリだけのように思えるんだ
だから姉弟設定を知ったときはがっかりきたよ orz キラなら、きれいになったフレイかなぁ。
やる夫スレの影響ではあるけど。
たしかにカガリは女の中じゃあ、一番馬鹿言い合える仲な感じはするわ。 ありのまま起った事を話すぜ。
俺はSODの続きを書く為に戦闘シーンの練習をしていたら何故か短編の続きを書いていた。
な… 何を言ってるのかわからねーとry
と言う訳ではい、前回の短編の続きになります。
種運命とはまったく関係ない作品のパロディが多数含まれますので、そう言うのが苦手な方はスルーして下さい。
中二病サイコー(^q^) 投下しようと思いましたが、5行しかないのに「本文が長すぎます」
とかわけのわからないことをいわれたので、避難所の方に投下しておきます(^q^)
5行でダメって何回にわけて投下しないといけないんだ(^q^) 『The Second-grade Syndrome2』
太平洋に浮かぶ小国、リモネ○ア共和国。
それより北へ約40km離れた山中にて、MSの一個小隊が展開していた。
しかしこの小隊、少々おかしな所があり、構成するMSが右からムラサメ・ザク・ゲイツ・ウィンダム・ダガーL等、
所属も年代もバラバラな計12機が統率らしい統率を全くとらず皆我先にとリモ○シアを目指している。
『はっ!今日こそ俺が一番強いって所見せてやるぜ!』
最も先行していたウィンダムを操縦する若い男が叫ぶ。
『MSも持ってないド田舎相手にしてどう見せる気だよ、野蛮なナチュラルさんよぉ』
するとウィンダムに追走するザクから茶化すような声が上がり、他の機体から失笑が漏れる。
『うるせぇよ宇宙の化け物が!』
『なんだぁやる気か?』
「止めろ」
ウィンダムとザクの間に邪悪な空気が流れかける。
それを制止したのは部隊の一番後方に居たムラサメのパイロットだった。
「盗賊に身を堕とした時点で、コーディネーターもナチュラルも無い筈だ。喧嘩なら仕事が終わってからにしろ」
『……ちっ、分かったよ』
『へいへい』
恐らくムラサメのパイロットが彼等の中で一番の年長者なのだろう。
渋々頷いたウィンダムとザクのパイロットに、ムラサメのパイロットは溜息を吐く。
「……こうも足並みが揃わんとはな」
彼等はここ最近リリモネ○ア周辺で活動する、前大戦終結後世界的に行われた大幅な軍縮により、行き場を無くした者達による混合盗賊団である。
その中で一番の年長者であったムラサメのパイロットが一応の隊長を勤めて居るのだが、主義や主張、
人種から嘗ての命令系統までてんでバラバラだった「はみ出し者」達をまとめるのは不可能に近く、度々今のようないざこざが発生していた。
MSを持たない、或いは素人のパイロットしかいない小国が相手なら純粋な力押しで何とかなる為問題は無い。
しかし、統率のとれた同規模のMS隊を相手にしたら10分と保たず全滅するだろう。
「情けない話だ」
生きる為仕方なくとはいえ、僅か数ヶ月前まで力の無い人々を守る為に軍人となった自分が、今では全く逆の立場に立つ事になるとは。
ムラサメのパイロットが自虐的な笑みを浮かべたその時、異変が起こった。
「センサーに反応?」
ムラサメのセンサーが、正体不明の機影を捉えたのだ。
『何だ!?敵か!?』
『この反応…戦闘機や輸送艦の類いじゃい、MSだ』 他のパイロット達も謎の機影に気付いたようで、皆足を止め各々声を上げ始める。
『同業者か?』
『いや、俺達とリモネシ○の丁度中間地点に陣取ってる』
『連合軍……はないな。識別番号が出てない』
『つまり○モネシアの護衛って訳?話が違わないかい、隊長殿』
「うむ…」
ザクのパイロットからの通信に隊長が頷く。
リモネシアは護衛用のMSを用意出来るほど余裕 のある国では無い筈だ。だから今回の標的に選んだのだ。
「数は?」
『今確認して……おいおい、たった2機だぜ?』
「2機だと?」
ウィンダムからの報告に、隊長は慌ててセンサーを確認する。
すると報告通り2つの光点が点滅しているだけで、それ以外の反応は見当たらなかった。
『どうやら、リモネシアが無理して中古MSでも購入してたようだな』
『何だよ、驚かせやがって』
敵がたった2機だけという事に安心した盗賊団は、再び進行を開始する。
「………」
ただ1人、隊長だけは浮かない顔でセンサーを凝視していた。
敵はたった2機。
国が購入した中古MSならばパイロットは素人同然。過去に同じ様な状況の時があったが、此方に被害は被らなかった。
今回もその時と同様。楽な仕事だ。
(本当にそうか?)
何故かは分からない。
しかし何か嫌な感覚を隊長は感じていた。
『どうしたんだい隊長殿?』
「……君、拠点に『アレ』を持って来る様連絡してくれないか?」
『アレって、虎の子の事かい?何でまた」
「念には念を、というやつだ」
本当は撤退を考えていた隊長だったが根拠の無い事で進行を中止するわけにもいかず、2〜3度首を振る事で雑念を振り払い、バーニアを噴かせる。
しかし彼の頭から嫌な感覚が消える事はなかった 【マスター、レーダーニハンノウガアリマス】
「おいでなすったようね」
狭く薄暗いMSのコックピットに、2人の女性の声が響いた。
片や無機質で機械的、片や陽気で躍動的な響きを持っているが、まるで同一人物の様によく似た声である。
無論、同一人物ではない……と言うか片方は「人」ですら無い。
「ナナちゃん、待機モードから戦闘モードに移行」
【リョウカイ、セントウモードニイコウシマス】
その言葉と共に、薄暗かったコックピットに光が灯り、周囲の景色が見渡せるようになる。
ムーンライトから「ナナちゃん」と呼ばれる女性の声の正体、それは擬似人格コンピューター『8(ハチ)』を基に開発された非量子型コンピューター『7(セブン)』であった。
「後、今日の私はシスター・ムーンライトだから、そこのとこよろしくね」
【リョウカイデス、マスター】
「もう、ノリ悪いわね〜」
わざわざウインクまでして名前を強調したにも関わらず無視された事に腹を立てたムーンライトは、口を尖らせながら眼前のコンソールをペシペシと叩く。
「もっと愛想良くならないとベル君に嫌われるわよ?」
そして意地の悪い笑みを浮かべながら先の言葉を呟いた。
【エッ……】
すると突然MSの動力が切れ、コックピットが暗闇に包まれた。
電源が切れる瞬間、『7』の悲しそうな声が響いたような気がしたのは幻聴だろうか?
「あっウソウソ!!冗談だってば!?」
突然の出来事に驚いたムーンライトは、慌てて言葉を並べる。
「ベル君、今のナナちゃんが一番好きだって言ってたもん!大丈夫だって!!」
【………ポッ】
ムーンライトの必死の説得(?)のおかげか、再び立ち上がり始めるOS達。
モニターに一瞬、頬を赤らめた少女の姿が写った気がしたのは目の錯覚だろうか?
「ふぅ〜危なかった」
相棒との他愛ない談笑の筈が、いきなり命の危機に立たされかけたムーンライトは大きく息を吐く。 『何遊んでるんだ?』
それと同じタイミングで通信が開き、モニターにミスター・トゥルーの姿が映し出された。
バイザーのせいで表情は伺えないが、声色は冷ややかである。
『もう直ぐ視認可能になる距離まで近付いてる。遊んでる場合じゃ無いぞ』
「分かってるわよ」
トゥルーの言葉に、ムーライトは手をヒラヒラさせながら応える。
「それより『あの』約束、覚えてるわよね?」
『……本気でやるのか?』
「モッチロン!勝負に勝ったら何でも言うこと聞いてくれるって言ったでしょ?」
『………』
「ベル君も例のモーションお願いね」
[任せろ]
言葉に詰まるトゥルーの変わりに、モニターにデカデカと表示される「(b^ー°)」の顔文字。少々うざい。
「OK、OK。じゃ宜しくね、トゥルー」
『………』
その表示に満足そうに頷いたムーライトの問いに応える事なく、トゥルーからの回線が切断される。
【テッキカクニン、キマス】
「おっ、グットタイミング」
次の瞬間『7』から発せられた報告に、ムーンライトは待ってましたとメインカメラを最大望遠に切り替える。すると『7』の報告通り、此方に接近するMS軍を確認できた。
「12機、ほとんどが旧式か」
これなら大丈夫そうね、と笑みを浮かべるムーンライト。
「それじゃ、行くわよナナちゃん」
【イエス、マスター】
「ミュージック・スタート!」 「……何だあれは?」
それが隊長の第一声だった。
彼は予想で、待っている2機のMSはガズウードかダガーL、良くてM1アストレイ辺りだと考えていた。
しかし眼前に立つMSは今まで見た事の無い形状だった。
片方はムラサメのV字アンテナを無くしたような頭部を持ち、全身黒一色。装甲があるのかと疑いたくなるほどシャープな身体部分に、不釣り合いに大きいバーニアが背負わされている。
もう一方のMSの頭部はウィンダムに近いバイザー型で、色は黒に近い紺色。
先のMS同様細身だが通常のMSより流線的なフォルムをしており、腰部からロングスカートの様に装備されている複数の装甲板の存在も相まって、まるで女性の様な印象を与えていた。
「……新型、なのか?」
予想もしていなかった謎のMSの登場に、思わず足を止める隊長。
それは他のパイロット達も同様で、結果的に盗賊団と2機のMSは一定の距離を保って対峙する形となった。妙な静寂が、一帯を包み込む。
『みんな〜おっはよ〜!!』
その静寂を破ったのは、年甲斐もいかない少女の様な声であった。
『今日も2人はふらこれ、は〜じま〜るよ〜!!』
「……はっ?」
オープン回線から聞こえてきた間の抜けた声に首を傾げる盗賊達を尻目に、今度は少女の声に続けて軽快な音楽が流れ始める。
それと同時に今まで微動だにしていなかった2機のMSに変化が訪れた。
なんと、その音楽に合わせて踊り始めたのだ。
『あ、あれはっ!』
「!?何か知っているのか、アオバ?」
先ほどから続く予想外……と言うか非常識な出来事に頭が痛くなってきた隊長だったが、軍属時代からの戦友であるもう一機のムラサメパイロットに尋ねる。
『知らないのですか隊長!?あれは知る人ぞ知る伝説のアニメ、『ふたりはふらこれ(flag Collecter)・ぶらっくはあと』のBGMではありませんか!!』
「……はっ?」
再び首を傾げる隊長を余所にアオバの力説は続く。 『前大戦終了直後、ジパングの有料国際映像チャンネルにて発信され、平均視聴率38.9%を記録した人気アニメですよ!!
しかもあの振付は、ふらこれのメインイベント、主人公のフレスタちゃんとシェステちゃんの変身シーンじゃありませんか!?
三次元では再現不可能と言われていたあの振付を、よもやMSで彼処まで再現するなんて……完成度タケーなおi』
「………」
たれ流されるファンシーなBGMと戦友だと思っていたアニオタ野郎の解説を回線ごとぶっちぎった隊長は、ズキズキと響くこめかみの辺りを抑えながら未だ踊り続ける2機のMSを見つめる。
冷静に考ると、MSを音楽に合わせて踊らせるというのは見た目に反しかなりの高技術を要求する行為である。
戦闘には関係ないと思われる動きはOSの補助を受けられない為、フルマニュアルで操縦する必要があるからだ(ライブ用ザクに使われていたような専用OSを使えば別だが)
「中身は……オートパイロットか?」
何故MSを踊らせる必要があるのか?
一番考えられるのは、2機のMSは自分達を足止めする為のデコイで、別の場所から迎撃の準備を行っている可能性である。
2機である必要があるのか疑問ではあるものの、それならあの見たことの無い外見も目を引く為の張りぼてという事で解決するが、
「……ん?」
その時、隊長はある違和感を覚える。
踊り続ける謎のMSの片割れ、女性的なフォルムを持つ機体の手が淡く光っていた。
正確には指先から赤く輝く4本の棒が伸ばされていたのだ。
(……サーベル?)
そう、まるで獣の爪のように鋭く突き出された「ソレ」の見た目は、間違い無く近接戦闘用の武器・ビームサーベルである。
では何故今「ソレ」を引き抜く必要がある?
疑問に思う隊長をよそに、謎のMSは盗賊団に背中を見せる。それまでの踊り振付の中にもあった華麗な一回転。
悪寒……!
「ッ!?全機散開!!」
叫ぶのと同時にムラサメを急上昇させた隊長は、何かがそのすぐ足下を高速で駆け抜けるのを感じる。
『ぐわっ!?』
それと同時に、部隊の一番先頭にいたウィンダムが爆散した。
『ウィンダムが墜ちた!!』
『な、何が起こった!?』
突然の出来事に盗賊達はパニックになりかける。
「全機戦闘準備!仕掛けてくるぞ!!」 [グゥレイト!]
「……流石だな」
先程から踊りを披露していたMSの片割れ、シャープな外見を要する機体のコックピットに収まっていたミスター・トゥルーは、爆散するウィンダムを確認し感心したように呟く。
『あ〜!!2機外した!?く〜や〜し〜い〜』
しかし通信機からはムーンライトのじたんだを踏む声が聞こえて来た。
(いや、十分だろう?)
戦果が気に食わないらしいムーンライトの様子に、トゥルーは溜め息を吐きながら、彼女の「得物」を眺める。
ムーンライトが搭乗するMS『プリースト』の指先……正確には指と指の間に挟むようにして展開されているビームサーベル。片手に4本、計8本展開されたソレは、本来のビームサーーベルとは些か異なった用途をする武器である。
その用途とは、
『それじゃあ、もういっかい……!』
気を取り直したのかムーンライトがそう呟くと、プリーストの上半身が捻り、まるで野球のピッチャーのような格好になる。
『せ〜のっ!』
そして豪快なオーバースローと共に、右手に展開されていた4本のビームサーベルが、盗賊達に向かって「射出」された。
放たれたビームの刃が先程墜ちたウィンダムのすぐ右隣に居たガナーザクへと迫るが、すんでのところで右に回避する。
『甘い!』
しかし回避される事を予測していたムーンライトはプリーストの左手を振り上げる事で残りのビームサーベルを射出しており、体制を崩していたガナーザクは回避する事が出来ず4本のビームサーベルが突き刺さり機能を停止した。
『よっし!』
「……なんで当たるんだ?」
ガッツポーズをとっているのが容易に想像できるムーンライトの声を聞き、トゥルーは肩をすくめながら尋ねる。
そう、プリーストに装備されているのは「投擲」する事を前提に開発された強化ビームサーベル『ビームバイヨネット』であった。
貫通能力に関しては従来のビームライフルを軽く凌駕し当たり所が良ければビームシールドですら破る事が可能だが、予備動作が大きすぎるのとロックオン機能がない事から完全な目測で放たなければならない為、常人には扱えない代物である。
トゥルーも幾度かシミュレーターで使った事があるのだが、ビームブーメラン搭載MSに搭乗経験のある彼ですら満足に扱う事はできなかった。 『有象無象の区別なく、私の銃剣は許しはしないは(キリッ』
「(何故その技術を普通の射撃では活かせられない?)……まぁ良い、来るぞ」
謎のポーズを決めながら答えにならない答えをするムーンライトに頭の中でツッコミを入れたトゥルーは、眼前で戦闘態勢に移行する盗賊団を眺め呟く。
混乱しているのか隊列すらまともにとれていない有象無象だが、圧倒的に不利な数の差に変わりはない。逆に言えば、連携が取れていたら勝率が更に下がっていたという事だが。
(それだけでも意味があったと言うべきか)
ムーンライトとの勝負に負け、訳のわからない踊りを披露してしまったが、敵を混乱させる事ができただけでも良しと思いたい。
「ベル、突っ込むぞ」
[まかせとけ]
モニターに映し出された相棒、『8』や『7』とは別のアプローチから開発された自立型AIのプロトタイプ『mindbell』の返事に軽く微笑み、トゥルーは操縦桿を握り直す。
「バビロン、出るぞ」
次の瞬間、名状しがたい爆音が辺りを包んだかと思うと、彼の搭乗するMS『バビロン』の姿が消えた。
「おっ、行ったわね。ナナちゃん、どっち?」
轟音と共にバビロンが姿を消すのを確認したムーンライトは『7』に訪ねる。
【ミギカラデス】
「りょーかい」
連携もなにもない盗賊団からの射撃を軽くいなしながら、ムーンライトは再びバイヨネットを放つ。
しかし幾ら異質な武器といえど2度も見れれば慣れたのか、盗賊団はそれを余裕を持って回避した、ハズだった。
次の瞬間、盗賊団の左、ムーンライトから見て最も右に居たダガーLの頭部が吹き飛ぶ。
「はっや」
思わず、といった感じで呟くムーンライトの視線の先は頭部を無くしたダガーLの背後。
そこにはまるで最初からそこに居たかのように静かに佇むバビロンの姿があった。 それは冗談のような光景であった。
突如MSの装甲越しにも聞こえて来るような轟音が辺りを包んだかと思えば突如敵MSの1機が姿を消し、気が付いたらソレが味方の背後をとって居たのだ。
『うわぁあ!?』
「馬鹿、止めろ!!」
瞬間移動でもしたかのように目の前に現れたバビロンに、周囲に居た仲間が叫び声を上げながら銃口を向けた事に気付いた隊長は慌てて静止する。しかしもう遅い。
放たれた複数の銃弾をバビロンは上昇することで回避、行き場を無くした弾は頭部を無くしたダガーLに叩き込まれた。
「だから止めろと…っ!」
無残に崩れ落ちるダガーLに舌打ちした隊長は、上空へと回避したバビロンに向かってビームライフルを放った。
しかし再び謎の爆音が周囲を包むとバビロンは姿を消し、放たれたビームは青空へと吸い込まれる。
『ぐわぁぁあ!!』
間髪入れずに訪れる悲鳴。
「なっ!?」
慌てて視線を移した隊長の目に映ったのは部隊の右端、先ほどのダガーLから一番距離が遠い位置に居たM1アストレイが、バビロンの右手に持たれたビームサーベルでスラスターを貫かれ大破する姿であった。
即座にビームライフルを構えたが、今度は引き金を引く暇も無くバビロンの姿が消える。
『また、消えた!?』
『一体何なんだよ、こいつら!?』
「ちぃ…!」
不味い。味方の存在を気にせず攻撃した時点で分かっていたが、皆完全に混乱してしまっている。
混乱するなと言う方が無理な話だ。
敵の動きは明らかに常軌を逸している。
「『アレ』の到着はまだか!?」
「後3分で到着すると!」
「3分だと!?」
アオバからの報告に隊長は歯軋りする。この状況では全滅してもおかしくない時間。しかもアレが到着したからと言って状況が覆ると決まっ訳ではない。
「皆聞いたな!?できるだけ距離を取り、3分間持ちこたえろ!!」
「ん?」
散発的にバイヨネットを放ちバビロンを援護して居たムーンライトはある変化に気付いた。
右往左往するだけだった盗賊達が、明らかに此方と距離を取り始めたのだ。
「撤退してくれるのかしら?」
『どうかな』
「わっ!?」
独り言のつもりで呟いた一言に返事が返ってきた事に驚きの声を上げるムーンライト。気が付くと、何時の間にかプリーストの隣にバビロンが佇んでいた。
「ビックリさせないでよ!消えてる間の貴方位置、ナナちゃんにしか分からないんだから」
『そう言われてもな』
頬を膨らませ抗議するムーンライトに対し、トゥルーは溜め息混じりに呟く。
トゥルーの搭乗する巨大バーニアを背負った機体『バビロン』
最大の特徴は先程から行っているまるで瞬間移動でもしているかのような移動方法にある。
と言ってもタネは至ってシンプル。行動を起こす際、ミラージュコロイドを展開しているだけだ。
勿論、唯ミラージュコロイドを展開しているだけではバビロンのような移動はできない。本来ミラージュコロイドを展開中にバーニアを吹かすと、せっかく展開したコロイドが拡散し姿が見えてしまうからだ。
先の大戦でデスティニーに搭載されたミラージュコロイドが隠密機能ではなく分身によるかく乱機能だったのはこの為だ。
ではバビロンはどうやって移動しているのか?
その答えはバビロンの細身には不釣り合いに背負わされている巨大バーニアにある。
行動を起こす直前、つまりミラージュコロイドを発生し始めるその一瞬のみ最大出力でバーニアを展開し、後は慣性のみで移動しているのだ。
バビロンが姿を消す直前に発生する爆発音の犯人がこれである。
勿論ちょっとでも左右に曲がろうとバーニアを吹かしただけでコロイドが剥がれるため単純な直線移動しか出来ないし、そもそもそんな一瞬で最大出力を発生させたらパイロットに掛かる負荷は尋常では無い。
しかもこのバビロン、考え得る最高速度を実現する為に装甲を限界まで取っ払っている為、ライフルどころか宇宙のそこら中に漂うデブリに接触しただけで大破する可能性を持つすてき仕様である。
「そもそも、素直に撤退させる気あるのか?」
『まさか』
そんな泥船、どころか魚雷にパイプ椅子でもくくりつけた様な機体を操るトゥルーからの問いに、ムーンライトは鼻で笑いながら否定する。
『逃げ出してくれるなら、拠点も一緒に叩けて楽だと思っただけよ』
「それには同感だな」
軽い口調だが、その言葉の端には中途半端に逃がすつもりは無いという意志がありありと見て取れた。
見敵必殺、それが彼等が己にかした唯一無二のルールである。
別に彼等は戦闘狂でも無ければ、殺人快楽者でも無い。
寧ろ出来るだけ誰も傷つけたく無いと考えている人間だ。
今ここで盗賊団を逃がせば、おそらく二度とリモネシ○には近付かなくなり、容易に契約は達成されるだろう。だがそれだけ。
盗賊達が新たな獲物を見つけ出し、再び罪のない人々が傷付く事になるだけだ。
彼等にはそれが耐えられない。盗賊達が二度と再起出来ない様全力で叩き潰す。それが彼等の行動理念だった(勿論生活が掛かっている為報酬はキッチリ頂くが)
[熱源接近]
「何?」 離れていく盗賊団に対し、追撃するかこっそり後を付けるか考えを巡らせていたトゥルーだったが、どうやらそれは早計だったようだ。
「増援?こんなに早く?」
モニターに表示された『ベル』からの報告に目を通し、トゥルーは眉をひそめる。
「しかもコイツ…聞いたな?」
『ナナちゃんが教えてくれたわ』
「よし。もうすぐに来る……見えた!」
鋭く叫んだトゥルーは、バビロンのカメラを最大望遠に切り替える。撤退し始めたと思われた盗賊達の更に後方から此方へと近付いてくる機影。
MSと比べると明らかに巨大なその姿に、トゥルーは見覚えがあった。
[照合完了、型式番号YMAF-X6BD:ザムザザーである可能性、99.2%]
「言われなくても分かってるよ」
ベルからの報告を待つまでもない。あの甲殻類のような外観。
陽電子砲すら弾き返す鉄壁のリフレクタービームシールド『シュナイドシュッツ』を持つ巨大MAだ。
「むしろ後の0.2%は何なんだよ」
[新種の生命体]
「…それは盲点だったわ」
というかその可能性が0.2%もあるほうが驚きだ。
「なんて言ってる場合じゃないか」
『ベル』と漫才のようなやりとりをしていたトゥルーだったが、気を取り直すように呟く。少々面倒な事になった。
ザムザザ-は射撃戦に関してはほぼ無敵に等しいが、接近戦にはめっぽう弱い。これは他のMAにも共通して言える事だが、懐に潜り込んでしまえば幾らでも対処出来る。
ではいったい何が面倒なのかと言うと。
『ふっ……ふふふふふ』
(ああ、やっぱり…)
通信機から聞こえてくるムーンライトの笑い声に、トゥルーはウンザリとした表情を浮かべる。
『ついに……ついに実戦でこの装備を試す機会がやってきたわね』
「いや、無理に使わなくても、俺が行ってバーニアでも破壊すればすぐに無力化…」
『イヤよ!私がこの瞬間をどれだけ待っていたと思ってるの!』
恐らく瞳をランランに輝かせているであろうムーンライトの言葉に、トゥルーは何を言っても無駄だと悟る。
「……分かった。俺が囮になるから、好きなタイミングで攻めてくれ」
そう言い残したトゥルーは、ムーンライトからの返事を待つ事無く再び姿を消す。
そして僅かなタイムラグの後、盗賊団の目の前に姿を現した。 「よーし、いよいよね」
餌になってくれているバビロンの姿を横目に確認し、ムーンライトはウキウキとコンソールを操作する。
「ナナちゃん、準備OK!?」
【イツデモイケマス】
そう『7』が返事をするのと同時に、モニターに表示される文字。
『SHOUT!NOW!』
その文字を確認したムーンライトはニンマリとした表情で叫んだ。
「モード反転、コード名『パージ』!!」
【コードニンシキカンリョウ、モードハンテンカイシ!】
次の瞬間、プリーストに変化が訪れる。
まず腰部からまるでロングスカートのように両足を覆っていた複数の装甲版が突如外れ、隠れていた脚部が露出された。
更に外れた装甲版が、まるで自らの意志でも有るかのように重なり合い、ある形を作り始める。
数泊後、身軽になったプリーストの右手にはひとつの武器が握られていた。
見た目は巨大なライフルかバズーカ。しかし本来銃口があるべき場所に穴は無く、変わりに鋭い銀色の杭が突き出していた。
【セツゾクカンリョウデス】
「……(にっこぉ)」
対艦・対MA特化型武装『ホーリーネイル(パイルバンカー)』を構えたムーンライトは邪悪な笑みを浮かべる。
そして次の瞬間、
「突貫しまーーす!!」
盗賊団のド真ん中、今まさにバビロンに向かってビーム砲を放とうとしていたザムザザー目掛けて突撃した。ちょこまかと逃げるバビロンに躍起になっていた盗賊団は完全に虚を突かれた形になる。
しかし標的となっているのは鉄壁の守りを持つザムザザー。
一直線に向かって来るバビロンをあざ笑うかのようにシールドを展開し、迎撃体制に入る。
「まだまだぁ!!」
そんな事はお構いなしとでも言うように、プリーストはさらに加速。
「どっせぇえぇえええいぃいいい!」
さながら一発の弾丸にでもなったかのごとく速度を付けたプリーストはその勢いを殺す事無く突貫。
シールドごとザムザザーの巨体を『貫いた』 「イタタタ……まいっちゃうわね、コレ」
「自業自得だろ」
顔をしかめながら肩や首を回すムーンライトに、トゥルーが半目になりながら湿布薬を投げてよこす。
場所はリモネシアで最も高価なホテルのスイートルーム。
盗賊団を撃退したお礼にとの自警団から好意に甘えた形だった。
「いくら博士の御墨付きだからって、本当に突貫する奴がいるか」
「だって〜、私ああいう大きな近接武器ってなかなか縁が無いんだもん。対艦刀とか」
「あんなの使うもんじゃ無い。すぐ折れるし、白刃どりされるし」
唇を尖らせるムーンライトに対し、まるで何かを諭すように語るトゥルー。
どうやら対艦刀に対して何か思う所があるようだ。
「それより早く湿布貼って下さる?手が届かないのよ」
「はいはい」
そんなトゥルーの様子などどこ吹く風、いつの間にか上半身裸でベッドにうつむせになったムーンライトの手招きに、トゥルーは溜め息を吐きつつも湿布薬を手にとった。
「できればそのままマッサージもしてくれれば嬉しいなって(チラッチラッ」
「……全力でしてやろうか?」
「やっぱ遠慮しときます」
ブルブルと首を振るムーンライト。
「冗談だよ」
そんなムーンライトの様子に、トゥルーは軽く笑いながらマッサージを開始した。
「あら珍しい」
「仕事明けぐらいはな」
本当にマッサージをしてくれるとは思ってなかったムーンライトは驚きの声を上げる。
しかしすぐに弛緩した声に変わった。
「あ〜気持ちいい〜……そういえば良かったの?」
「何が?」
「盗賊団」
「ああ」
ムーンライトの言葉にトゥルーは納得したように呟く。
今まで彼等は敵を殲滅する事を第一条件に仕事をして来たが、今日の戦闘で初めてそれが覆った。
ザムザザーを倒した時点で、盗賊団の隊長から降伏宣言の通信が入ったのだ。
トゥルーはそれを受諾。
今頃地球軍が引き渡した盗賊達からアジトの場所を聞き出し、部隊を派遣している事だろう。
「殺さずに済むならそれに越した事はないさ」
「今まで問答無用で殲滅してた癖に」
「人聞きが悪いな。今まで投降して来た奴らがいないだけさ」
彼等は基本的に2人だけで行動するため、多勢に無勢な状態になる事が多い。
そうすると、例えどれだけ力の差を見せ付けても、最後まで抵抗する敵ばかりになる。
今回のように盗賊が早い段階で武装解除し、投降したのは初めてだった。
「よく言うわ。投降勧告もしたこと無いの癖に」
「まぁな」
呆れた声を上げるムーンライトに苦笑いをするトゥルー。
確かに過去の戦闘では、逃げ出そうとする最後の1人まで容赦なく殲滅し、通信機に手をかける事すらしていない。
「辛いか?問答無用で敵を殺すのは」
「まっさか」
トゥルーからの問い掛けに、ムーンライトはカラカラと笑い返した。
「逃がした敵が他の誰かを殺すかも知れないって考える方がよっぽと辛いわよ」
それに、とムーンライトは身体を反転する。
丁度腰から肩にマッサージする場所を変えようしていたトゥルーと見つめ合う形になった。
「もう貴方を裏切りたく無いもの。嫌って言っても最期まで離してあげないんだから」
「……!」
そう言ってニッコリ微笑んだムーンライトは、何か言いかけたトゥルーの唇に自分の唇を重ね合わせた。
数日後、彼等が盗賊達に披露した「ふたりはふらこれ」の変身シーンの再現を、とあるジャーナリストが撮影しその映像が全世界にバラまかれる事件が発生。
さらにそれはとある理由から彼等の行方を探していた者達の知るところとなり、全世界を巻き込む怒涛の追いかけっこの発端になったりならなかったりするのだが、それはまた別の話である。
361 :XXX[スレ268:2012/09/29(土) 22:32:36 ID:dQRKViOc0
以上です。
本スレの仕様が変更したのか、自分の投下方法が悪いのか。
もし前者なら正直本スレへの投下が厳しくなりますね。 以上、何とかさるさんにも引っかからず代理投下完了です。
作者様GJでした!
SODの続きも楽しみにしております。 286氏も代理の方も乙なんだぜ!
ムーンライトの機体はリメイクで誰?とか言われたカレー好きな尻先輩じゃないか!
ルナ……ムーンライトさんはポン刀とナイフ持ってハーゲンダッツでも食ってれば良いと思うよ!
しかし、7とかベルとか別作品のヒロインの名前が元ネタかな?
投下の件は忍法帳のレベルが低いと長文や連投ができなくなるのでそれが原因かと思います。
今回みたいに代理かどこかに書き込んで地道にレベルを上げるくらいしか解決法が思いつきませんが。 OW…ジャンとソキウスと紅茶が使えたらパーフェクトだったのに…
まあオリジナルで代用出来るしミナ様、カナード、エド強いから良いけど
運命の仕様は絶対許早苗 OWのオリキャラでAI娘作れないからエミュ娘作れない…
まな板なお嬢様は大丈夫だけど OWの愚痴を言いたいお前らの気持ちはわからんでもないが、作品が投下されてるのにGJの一言も言わないんだな。 XXX[スレ268氏で「頑張れ」とか……他に新規の人が来てもほぼゴミになるぞ というかGJの一言あるじゃないか
3日後OWに流れたけど 設定とか荒いけどいわゆる趣味だからな
グダグダ言うのが野暮ってもんよ OWのオリキャラでエミュ娘作ろうとイメージしたらデスティニーUやエンプレスになるんだが
なぜかエミュ娘ができないッ! BGM【覚醒!シン・アスカ】は何度聞いても格好いいが、何でテンポがあんなラスボスチックなんだろ・・・ >>92
全然そう思わないがな、普通にカッコイイだろうが。 EXVSの新機体情報でアマツキターー!ミナ様を使えるとかwktk
ギナだったらf○ck・・・ http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10411/1230163812/l50 の >>326の続き 続くはどうかはワカンネ
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――C.E.80 4月14日 6:00。
ガルナハンの朝は早い。午前6時を回ったか回ってないかのうちに、強烈な日差しが照りつけ始める。
コニールもその強烈な日差しで目が覚める。アニエスは横のベッドで寝ていたが、その姿を見てコニールは一瞬息を飲んだ。
頭と足の向きは逆向きだし、布団は床にずり落ちそうになってるし、何よりもアニエスは一糸まとわぬ姿だったのだ。
「んー…」
アニエスがゆっくりと目を覚ます。布団を被って起き上がると、脇に置いていた自分の服に手を伸ばす。コニールにはまだ気づいてはいない。
手早く服を着終わり、部屋の出口の方に向き直ると、そこでようやくコニールに気付いた。
「あっ…おはようございます」
「寝る時はちゃんと服着ろ、服」
「へ…なんで分かったんですか?」
「見えちゃってたよ、さっき。ったく…」
「…裸で寝た方が身体にいいし…気持ちいいし、ずっとそうしてるんだけど」
「…好きにしろ。まだ寝ている奴がいたら起こして来い」
――後で部屋割りを考えなくちゃな。
コニールはアニエスのあまりの寝相の悪さに呆れていた。 「アルー、起きてる?おはよう」
アルも日差し、そしてアニエスの声で目が覚めた。
日差しが無かったとしてもアニエスの一言で起こされていた事は間違いないだろう。
アル達が所属している隊のスケジュールはあらかじめ決められている。無論、遅刻など厳禁だ。
「寝かせてよ。あと10分余裕があるし」
「そんなんだったら2時間先までワープしちゃうわよ!」
アニエスはアルの掛け布団をバッとめくり上げた。
「さ、寒いっ!」
砂漠の朝は寒い。冷え冷えとした空気がいきなり身体に当たったアルは、思わず声をあげてしまった。
「…ん?嬢ちゃん、新入りか?」
「あ、初めまして…ですか?私、アニエス・フランクルと言います」
アルの部屋を出た所で、アニエスはガルシアに出会った。眼鏡をかけた茶髪の白人だ。
「新兵にしちゃ随分とかわいいな。音楽隊か?」
「違います!一応ちゃんとしたパイロットです!」
「冗談だ、冗談!」
ガルシアの冷やかしに一瞬ムッとするアニエスだが、すぐに元の愛らしい表情に戻った。
アーレオ・ガルナハン隊は、アーレオの中でもモビルスーツを運用する数少ない部隊である。
ユベールの支援のもと、コニールは部隊長を務めていた。言ってみればユベールはオーナー、コニールは現場監督と言った所だろうか。
そんな隊に最新鋭とユベールが言い張る「ミストラルガンダム」が加わった。上層部からの期待も必然的に大きくなる。
コニールは幾度となく、ユベールにこんな事を言われている。
「輸送船とモビルスーツなら用意は出来る。だがパイロットは無理だ。シン・アスカを何としても探し出せ。奴でないと格好がつかん」
ザフトのトップエースとして最後まで勇敢に戦った彼の名を部隊の中で知らぬ者はいない。
しかし、当の本人は数年前にザフトを除隊されて以降、杳として行方が知れないという。――人間というものは思い出がある場所に行くという。オーブか、そうでなければガルナハンだと思うが…
コニールは朝食のナン、スモークチキンを食べながら考えるが、いつまで経っても結論は出ない。
部下に情報活動をさせているが、未だ手がかりらしい手がかりは掴めていない。
――小隊程度の戦力では何も出来ない…地球には王朝に不満を持つ者がたくさんいるはず…もう一つ、もう一つ何かきっかけが欲しい。 * * *
「えっと、ライフルとサーベルはちゃんとあるな。これにオプションとしてミサイルランチャーが付くのか」
ノーマルスーツに着替え、ミストラルに乗ったアルは、装備、整備状況を確認していた。
「へえ、あれが新型のミストラルか」
「新型にしては地味だな」
「MSは外見じゃない、性能だよ」
他の隊員達が興味深そうにミストラルを見つめていた。
「皆、揃ったか!これより軍事演習を行う!付いてこい」
ガルハナン市街の地下にあるMS整備基地にコニールの声が響き渡る。
「まだ少し酔うな」
ミストラルのコクピットの中にいるアルは、まだ全天周囲モニターの視点に慣れない様子だった。
先頭にコニールのウィンダム、すぐ後ろにアルのミストラル、その後ろにアニエスのウィンダム、他パイロットのダガーLなどがついていく。
基地から少し離れた所にガルナハン隊の軍事演習場はある。周辺を岩山に囲まれた盆地だ。
今日はいつものシミュレーター訓練ではなく、模擬戦である。
アーレオ自体は連合系の組織だが、モビルスーツは連合から横流しされたストライクダガー、ダガーL、ウィンダムばかりである。
数はコニールを除くと4機、パイロットには昔からのコニールのレジスタンス仲間も混じっていた。これよりコニールの熱のこもった指導が始まる。
彼女が乗り込むウィンダムはアーレオの手によって新規に設計、製造されたものである。「ウィンダムII」などと呼ぶ者もいる。
特に情報管制アビオニクスは第三世代のものが先行投入されている。
「先に言った通り、本日の模擬戦は2対2、ペイント弾を使って行う。アル、アニエスで組め。ガルシアはもう1組だ」
コニールからの指示が、アルとアニエスに飛ぶ。
「アル、ミストラルにはもう慣れた?」
「シミュレーターとは全然違うよ」
「ウィンダムに乗ってたんでしょ?構造が大体一緒だから簡単だと思うんだけどなぁ」
――じゃあなんで君が乗らないんだよ。
そんな事をアルは思ったが、上がこうと決めた事なのでとりあえずは自分が責任を持って乗るしか無かった。
「僕が前に出るよ、君は後ろから援護してくれ」
「じゃあそれでいいわ」
「じゃあ、って何だよ、しっかりしてくれ」
「では、始め!」
コニールが言い終わるか言い終わらないうちに、4機が動き出した。
ミストラルの右斜め後方にアニエスのウィンダムが少し距離を置いてついていく。
背部に装着されたジェットストライカーを吹かし、先に跳んだのはミストラルだった。それを見て、少し遅れてからダガーも飛ぶ。
「もらった!」
「はっ、速ええ!」
ミストラルの放ったペイント弾が下方にいるガルシアのダガーに当たり、オレンジ色の塗料が飛び散る。
アニエスのウィンダムが追い打ちをかけるように、ガルシア機に飛び蹴りを喰らわせ、土煙を上げて転倒させる。
着地の隙を狙って別のダガーLがアニエスを狙おうとするが、撃つ前にミストラルの弾が当たっていた。
「はい、一旦そこまで!」
コニールが戦闘を停止させる。 * * *
基地に帰ってからは、映像を見ながらの模擬戦の「反省会」である。
「やっぱり新型は強えなあ。全然ついていけない」
「俺ら、ウカウカしていられない所の話じゃないぞ、1度も勝てなかったんだからな」
「それにしても、アニエス、お前、あれで本当に初実戦なのか?信じられない」
ガルシア達はアニエスの巧さに舌を巻いていた。
「相方が複数に狙われていたら、すぐに駆け付けないとそこで勝負は決まってしまう。
逆に自分が複数に狙われていたら、無理せず相方の方に逃げること。これはちゃんと出来ていたな。
アル、なぜ敵よりも高く飛んで、上から攻撃した?」
「モビルスーツは自分の頭の上や真上を攻撃出来る武器がありません。それと、視線が上に向くと横方向が手薄になるからです」
「よろしい」
アルの受け答えにコニールはうんうんと頷く。
「アニエス、あの飛び蹴りにはどういう意味がある?」
「敵がこっちを見ていなくて、出しやすくて、転ばせたんだからいいと思うんですが」
「少しは整備班の身にもなれ。それと、近づくという事はそれだけ危険を伴うぞ」
「気をつけます」
「分かればよろしい。以後、気をつけろ。さて、ミストラルにもよく見ると、弾が当たりそうな場面があったが…」
アニエスにダメ出ししたコニールはさらに様々な視点から課題をあぶり出して行った。 * * *
「2機ともやられた?ウィンダムによく似たモビルスーツに?」
ザフトの大型戦艦・アルキオネのMS隊隊長、シホ・ハーネンフースは偵察の顛末を聞いて驚きとも呆れともつかない表情をした。
アルキオネはMSを10機搭載出来る大きさがある。そのうちの2機をあっさり失ったのだ。
「30秒も経たないうちに、か…ラクス様に報告せねばな。下がれ」
シホは20代の半ばを迎えたとは言え、髪型はそれほど変わっていない。元々キリっとし目もそのままだが、さらに女らしくなっていた。
彼女の任務は「中近東地域の反乱分子の鎮圧」となっているが、言い方を変えれば「ドサ回り」だった。
クライン王朝が成立してから、ナチュラルは完全に蚊帳の外に置かれ、極一握りのコーディネーターが勝利者となったのみであった。
それから6年後、中近東はほぼ無政府状態となっており、野盗化した旧ザフト&地球軍人等が跋扈し、治安状況は旧大戦前より悪化する有様だった。
現地民はクライン王朝とコーディネーターに対する怒りを露わにしており、連日暴動やデモが多発、これに対しクライン王朝は武力をもって鎮圧していった。
その鎮圧部隊の中でもシホの部隊はかなり大きな方である。
――この仕事を続けていると、「今日は何人殺した」「戦利品をたくさん得られた」、とか、そんな話ばかり耳にする。
シホは自室に戻ると、手配書を見つめた。シン・アスカの写真だった。変装したらこうなるであろう、と加工されている写真が付いている手配書もある。
半年程前から、「シン・アスカ様の名にかけて」起きる暴動・デモがより一層増えた。
反クライン王朝の悲劇の英雄である彼の名が一人歩きした結果がこれである。
――今はまだ大した事がないが、万が一シンが発見され、反乱軍の旗頭に使われる事があったら…もしや、あの緑色のMSのパイロットの正体は、シンではないか?
考えれば考えるほど、シホの心の中に不安が渦巻いていった。
同じ頃、戦艦内のモビルスーツのドックでは、一人の亜麻色の髪をした整備士がボヤいていた。
「いくら俺でも、行方不明になったモビルスーツまでは直せねぇな」
「デュプレ様、ザクとグフの整備が終りました」
「分かった。今ドックの方に行く」
整備士――ヴィーノ・デュプレ――かつて、ミネルバで整備士を務めた人物――は整備班の主任になっていた。 * * *
「ディーンおじちゃん、まだ直らないのー?」
「よし、これで多分大丈夫だ」
車体の下に潜り込んでいた、ディーンと呼ばれたヒゲ面の男が出てきた。
キーを入れるとエンジン音が勢いよく鳴った。
「はいよ、これで終わりだ」
「有難うございます」
「また何かあったら来いよ!」
「父ちゃん、ディーンおじちゃんって、どんな機械でも直しちゃうんだよ!」
ディーンは車の持ち主である父子から代金を受け取り、見送るとまた作業場に戻った。
――ぶっちゃけ、まだおじさんと呼ばれるような年じゃないんだけどな。
薄暗い作業場には何の機械やら、外から見ただけではさっぱり分からない部品がそこらじゅうに積まれていた。
――俺、パイロットやってなかったら多分こんな仕事やってただろうな。これはこれで楽しいしさ。 * * *
――C.E.80 4月19日 14:00。
「姉ちゃん、そこの土どけといてくれ」
「はいっ!」
プチ・モビルスーツに乗った若い女が、ヘルメットを被った現場監督の指示を受けている。
女は黒髪をポニーテールで後ろにまとめ、眼鏡をかけていた。
「新市街建設」のために、ガルナハン中心部は急ピッチで工事が進められていた。
何台ものプチ・モビルスーツが忙しく動き回っている。そのうちの一台は若い女性が動かしていた。
「あそこにいるマリーとかいう姉ちゃん、すげー要領がいいよな」
「もう15年もやっているベテランっていう感じだし」
「おいおい、あの年でそこまで長くはやってねぇだろうよ」
休憩している三人の作業員が煙草を吸いながら取りとめも無い話をしている。
――あの人が去ってからどれぐらい経っただろうか。私は身に覚えのない罪を着せられそうになった。
――知らない、っていくら言っても聞いてもらえないだろうから。
マリー・クロフォードは間一髪逃げ出して、それからどうやってここに流れ着いたかはもう覚えていない。
過去を塗りつぶすかのように、髪は黒色に変えた。
工事現場というものはとかく人が不足しがちである。ましてや、プチモビルスーツの免許持ちとあれば尚更である。作業員に応募したらその場で採用だと言われた。
「おい、そろそろ休憩しようぜ」
現場監督にそう言われて、はっと気が付くともう2時間ほど経っていた。身体を動かしていると本当に時間が経つのが早い。
額から一筋の汗が、彼女の土埃にまみれた顔を伝っていった。
――少なくとも、こういう仕事をやっていたら食いっぱぐれは無い。当分の間ここにいよう。
休憩して10分ほどしただろうか、別の所で重機が動く音が聞こえてきた。
「新市街の区画整備がそろそろ終わるみたいだな、こりゃまた仕事が出来そうだ」
「少し荒っぽいが、奴らはああでもしないと退かねぇからな」
「あの現場監督、メイリン様だかアスラン様に取り立てられて、凄い出世ぶりらしいぞ」
マリーは音の正体がどうしても気になった。建物を取り壊すような音と共に、怒号、悲鳴も聞こえてきたからだった。 「帰れー!」
「俺たちどうやって生きていけばいいんだ!」
彼らの住居であろう、バラック、プレハブ小屋は今まさに重機で押しつぶされ、瓦礫にされようとしていた。
十数人近くの警備員に囲まれた、現場監督と思われる若い金髪の男が住民たちを睨みつけている。
「君たちに警告する!これ以上の抵抗はやめたまえ!」
男の呼びかけにも関わらず、怒号は止まらない。
「生活の場を奪うな!」
「暴力は止めろ!」
「アイマン様、やはりここは強制的に…」
「平和都市建設のため、何度も自主的に退去するよう言ってきたんだが…口で言っても聞かないのであれば仕方が無いな。もういい、行くぞ!」
アイマン様、と呼ばれた金髪の男の指示で重機が、プチ・モビルスーツが動き出す。
「この家は渡さないぞ!」
「この世界の役人は頭がイカれてるんだ!」
「恥を知れ!」
住人の何人かが警備員と揉み合いになる。再びアイマンの指示が飛んだ。
「公務執行妨害罪だ!」
警備員ともみあっていた一人の男の側頭部に、別の警備員が放った銃弾が吸い込まれた。男の体は横に倒れ、頭から血が勢いよく流れだした。
「次はお前らだ!分かったら早くここから去れ!散れ!」
恐怖心と、アイマンの迫力に押され、押し寄せていた人波が少しづつ引き始めるかと思われたが、怒号の代わりに悲鳴が大きくなるだけで、一向にその数は減りそうも無かった。
「何するんですか!」
倒れた男を金髪の少年――アルが介抱しようとする。もはや手遅れだと分かっていても。
「おい、見せしめに何人か引っ張っていけ!」
手錠をかける音が何回かした。抗議者のうちの数人が捕まったようだ。
「ガキが、何やってんだ!」
男を助けようとしていると、アルは右脇腹に強い衝撃と鈍い痛みを感じた。
衝撃で一瞬、息が止まったような気がした。
アイマンか、警備員に蹴られたようだ。それでもアルは痛みをこらえて立ち上がる。 「逃げるわよ!」
もう一度食ってかかろう、と思っていたアルは、聞きなれない女の声と同時に、見知らぬ方向から腕を引っ張られた。
いきなりの事なので、身体が浮き上がり、すっとんでいったような感じだった。
アルは腕を取られたまま、右脇腹の痛みを忘れて、騒ぎが起きた場所から遠くにひた走った。
随分遠ざかった所で立ち止まり、初めて腕を引っ張った人間の正体を見る。
「ねぇ、君、危ない所だったわよ」
「あ、ありがとうございます、助かりました」
アルの眼の前にいるのはマリーだった。かなりの美人だな、とアルが思う間もなく、
「ここにアンタはいちゃダメ。じゃあ、気を付けて帰ってね」
マリーはどこかへと走り去って行った。
――やれやれ、どうやら助かったらしい。
アルが再び痛み始めた脇腹をさすりつつ、帰ろうとしていると、聞きなれた人の声がした。
「アル!こんな所で何をしている!」
「だって、あそこで撃たれた人がいたんですよ!」
私服で情報活動をしていたコニールに気づかれたのだ。 * * *
「お前は何を考えている!今度こういう事があったら独房入りの上、休暇は無しにするぞ!」
「咄嗟にああいう事をしてしまって…本当にごめんなさい」
ガルナハン基地の医務室内で、アルはコニールに叱られていた。
「お前はもうガンダムのパイロットなんだから、軽はずみな行動は厳に慎め!」
「はい…」
「正義感が強いのは結構だが、正義感だけでは何も出来んぞ!今後はこのような事が無いように!」
「はいっ」
小一時間ぐらいだろうか、コニールの説教はようやく終わろうとしている。
横で、アニエスがアルの腹に湿布とテーピングをしていた。
コニールは「モビルスーツから降ろす」などとは一言も言わなかった。自分が手塩にかけて育てたパイロットだからである。
「あー、やっぱり結構腫れてきてるね」
アニエスが見たアルの右脇腹は、内出血で赤黒く腫れていた。見るからに痛々しい。
「心配したのよ、もう」
「本当にごめんな…痛っ!」
「打撲だけど、痛みが消えるだけなら5日くらいかな。コーディならもっと短いかも知れない」
「5日…でも、それだけで良かった」
「それだけ話せたら大した事無いと思うよ?もうちょいしたらメシ持ってくるからね」
一言付け加えて、アニエスは医務室を出て行った。
――せっかくの休みの日に、僕は何をしているんだ。
軽率な行動の代償が打撲だけで済んだのはアルにとって不幸中の幸いだった。
ベッドの上で左向きに横になると、ちょうど備え付けのテレビが目に入った。
「連合中央ニュース」なるニュース番組が、今日の騒動の事をテレビニュースで報じていた。
「本日現地時間の午後二時頃、地球上・ガルナハン地区で旧市街のテントや小屋が、行政側によって強制撤去されました。
これに対し支援者を含め約300人が「帰れ」などと抗議し、一部は作業区域内にも入り込んだため、周囲は一時騒然とした空気になりました。
行政側は昨年10月以降、4回にわたり撤去を勧告し、今年3月には振興開発法に基づき撤去を命じていました…」
そこまで聞くとアルは再び仰向けになった。死者、逮捕者が出たという、一番大切な事に触れなかったからである。 「ごはん持ってきたよ」
医務室のドアが再び開くと、アニエスが夕食が盛りつけられた盆を運んできた。
ナン、肉入りピラフ、羊肉の煮込み、サラダが金属製のワンプレートに乗っている。
「普通食でいいと思って持ってきたんだけど、一緒に食べる?」
「いや、いいよ。一人で落ち着いて食べたいから」
「わたしが一緒だと落ち着いて食べられない?」
「別に嫌だなんて言ってないってば」
「あ、そう。食べ終わったらそのへんに置いといてね」
アルは夕食を食べながら適当にテレビのチャンネルを変えてはみたが、
画面に出てきたのは「ラクス・クライン閣下の曲をカバーする」若手女性歌手が出ている歌番組だった。不愉快なので反射的にスイッチを切った。
アルの母――タリア・グラディスはもうこの世の人ではない。
それに、アルは父の顔を知らない。幼い頃に分かれた、と母に聞かされたきりである。
タリアはザフトの最新鋭戦艦・ミネルバの名誉ある艦長だった。
任務は多忙を極め、そのためアルは小さい時から保育施設にいた。
無意識のうちに、ポケットに入れてあるレーザー通信式の携帯端末に手が伸びる。
「画像一覧」のフォルダには、母の写真が数点入っていた。
ソファーに一緒に座って写っている写真。誕生日祝いのケーキを前に一緒に写っている写真。
――戦争が終わったら母さんと二人で家でゆっくり出来る。大きくなったらあの艦に乗って母さんを助けるんだ。
だが、その夢はもはや叶う事は無い。
「アル、傷の具合はどうだ」
「ええ、何とか…」
アルを心配したガルシアが部屋に入ってくる。
「うっ!」
「おいおい、無理すんな」
アルは気丈に答えようとしたが、襲い掛かってくる鋭い痛みに顔をしかめてしまう。
「それにしても早いもんだな、お前さんがここに来てもう6年か」
「もうそんなに経つんですか」
「お前さんのコネと金があったら、一生遊んで暮らせるだろうに。オーブの偉いさんから養子になってくれ、っていう話まであったんだろ?」
「そんな奴の名前なんか知らないし、知りたくも無いですよ」
――なんで僕が、自分の母親の敵だった国の世話にならなくちゃいけないんだよ。
「邪魔したようだな。じゃ、怪我は早いとこ治せよ」
嫌な出来事を思い出してしまったアルが黙り込んでしまったのを見て、ガルシアは部屋を出て行った。
どれだけ自分に投資しても、母はどういう理由でラクス・クラインの軍によって命を奪われたのか、真実を教えてくれる人間は誰一人としていなかった。
――母さんが居なくなった理由は誰も教えてくれないから、自分で探すしかないのか。 以上です。 「ううむ、筆が進まぬ…」(「信長の野望 武将風雲録」風に) この師走に投下が来ている・・・だと?
>>114
乙。you、筆が進まぬとか言わずに頑張っちゃいなYO 唐突だが、叫ぶぞォォォォ!
巨乳ゥゥゥゥ!バンザァァァァイ!
まな板ピンクとか、お嬢様とか、ミハシラ産幼女とか、お呼びじゃないのさ!
さあ、皆で叫ぼう!
おっぱい!おっぱい!大きなおっぱい! >>119
EXVSでアマツ開放されたら血祭りやな・・・ このスレはもうダメで終わっている
ここは終わったコンテンツ そういえばこのスレのシンってフリーダムに乗ったことないよね
キラとシンのフリーダム対決ってちょっといいんじゃない? >>123
フリーダムって、シンにとってはまさに家族の敵の象徴だから、イマイチ乗せ難いイメージあるなぁ
量産型フリーダムは出て来たけど、それ奪って逆襲ってのは難しそうだな このスレはもうダメ
終わったコンテンツ
投稿しても反応がない
完全に終わったコンテンツ >>124
それに格闘戦のイメージが強い(射撃が苦手ってわけではない)シンには砲撃特化のフリーダムは、やはり合わないんじゃない? このスレじゃないけど、核動力外してバッテリー搭載のインフィニティジャスティスに乗ったシンなら知ってるな
その話だと凸が運命に乗ってたけどw シンはたしかに格闘戦のイメージが強いな
アビス落としたのも投げ槍だし、フリーダムもエクスカリバーでとどめだし、アロンダイトのバンクあるし >>127
ミーアスレの綺麗になったキラと共闘する奴かな?
凸の乗った運命との戦闘から、運命の欠陥ぷりに気付いたりしてたな、懐かしい >>123
「red eyes」で、光の翼と長距離砲とアロンダイトのパックを背負った
純白のデスティニーフリーダムというのはあったね。
もっとも操縦するのは本物じゃなくラクス謹製の忠実なクローンシンだが。 今気づいたんだがwikiの中の画像のいくつかが見えなくなってるだれか持ってる人いたらあげてくれー ttp://figsoku.blog39.fc2.com/blog-entry-3817.html
RGデスティニー出るらしいが、パーツ数凄そうだな・・・ EXVSのゴールドフレーム、パイロットはギナかよ・・・残念 UXやり始めたがシンがファフナー勢の兄貴分っていう良いポジにいて嬉しい
人がいくら花を吹きとばそうとも、せめて散っていった花達の美しさだけは胸に刻んでおきたい。とかこのスレを思い出したぜ
デスティニーも竜宮島でオーブが退去するのは仕方ないが、世話になった礼代わりにデスティニーだけはウチで修理させてくれとか言われて愛されてて嬉しい 早速マークインパルスやらマークデスティニーやら呼ばれてるなw
3DS持ってないのが悔やまれるわ… UX、参戦作品に食指が動かなくて敬遠してたが、それを聞いて買いたくなった。
ドラクエ7終わったら買うわ UXで採用されたBGM「Life Goes On」の歌詞に「本当の悲しみを知った瞳は愛に溢れて」というのがあって、ファフナー組が自分のように大切な人を失う悲しみを味わって欲しくなくて、奮起する姿はまさにそんな感じ。
ファフナー組もそんなシンを信頼しており、「アスカさん」と呼んでいたり、クロスオーバーが凄まじかった。
他にもあるが割合。 UXの運命乗り換えは乙姫の「運命はあなたの味方だよ」と共に無人の運命が来たり
合体攻撃がファフナーステージだったり
エンディングでも龍宮島に残留してるし
シンはファフナーのキャラとしか言えない なんか一作書いてみたくてシンを本格的にラスボスにおいた
最終戦の再構成からやってみてるが、
モビルスーツとか二の次で生身の戦闘にまで発展してしまうなあ >>156
本編アフターでシンが逆襲するってお題目さえ守ってればどんな内容でも問題ないぜ
過去作にはMSに乗れなくなったシンとかもいたし ガンガレとか言われたら、頑張るしかないじゃないか!
逆襲とか言ってもシャアと違ってシンは誰かを率いる柄じゃない(と考えてる)
からちと配置とか考えなきゃだけどさ いまさらかもしれないがred eyes読んだ
面白かった
ストーリーの組み上げかたも、キャラ描写も考えられてるなって思った
シンアスキラがそれぞれいろんな状況や人に影響されて成長するのが良かった
戦闘描写も工夫されてたし、心理描写も多すぎず少なすぎずですっきりしてたと思うし
文章も一文が少し長め、かつ簡潔で自分としてはちょうど良かった
要は全体的なバランスが自分の好みだったってことなんだけども
とにかく最後まで読んでて楽しかったわ
作者さんとこのスレにありがとうって言いたいです
保守がてら報告でした 感想乙
ここのSSって結構がっつりしたのが多いから、
盗まれる時間が半端なくて困る。
読み応えあるから好きなんだけどね。 明らかに中途で放棄された作品につきましては誰かに続きを書いて貰いたいモノです。
>>171
やはり"本職"側の人が書き込みしてたりするんだろうか…… だから中途で投げ出された話と端書きだけのについては他の誰かが続きを執筆、
もしくは正式な形での執筆をですね……なぜ誰も実行しない? >>126,128
>格闘
その辺りは結局のところ、製作者が登場人物それぞれに格闘射撃の両方で
不足なき見せ場を構築できないという致命的な欠陥のなせるわざなんだろうか……
格闘一つ射撃一つ機体の用法一つ取ってもですね、操縦者などの違いで
それこそいくらでも――だというのに。換装自由な装備なのに固定一本槍とか
赤服なのに射撃下手とか、そういう不具合は止して貰えなかったんですかね? 今までにも数々のSSを投下して下さった皆様の功績には実に感謝致しますが、
作品内に登場するオリジナルMSが既存宇宙世紀作品からの再利用だったりすると
(種版ザクグフドムも含んでの話)何故か今一つ残念複雑に感じてしまいますね……話それ自体については
文句無し、なのですが。その辺りも出来得る限りの新規オリジナル(少なくとも種以外の
既存ガンダム作品と被らない様な)で――と言うのは、やはり出過ぎた要望なんでしょうか? 書きたくても書けないって言うか、描写に自信がないのよな
ミリタリー系の知識もないときつそうだし…ぐぬぬ >>184
ミリタリーのミの痔もないような芸能界席巻SSとかあったんだし、そこはやり方次第じゃね? 「無駄に長々と待たされるほうの身にもなってみろ!! 待たされ過ぎれば人はどんどん離れてゆくぞ!!
勇気を出せっ!! >>184に足りないのは勇気だ!! 駄作を世に出す勇気!!
自分では駄作か!? と思っても、出してみたら意外にそうでない時もある!!
もちろん正真正銘の駄作な時もあるが――そこはカケだ!!
そうなったら、次は外さんようにとあがけ!! しかし次もダメかもしれん!! そうしたらまた、次だ!!
そうやって作り続けて発表し続けていかなければ、次につながっていかないだろう!!
今までの作品で言えば、皆が好きだと言ってくれたアレとかアレとかだって……
職人さんが駄作覚悟で世に出した、勇気の産物かもしれないじゃあないか!!」 まぁ、だからってあの福田夫妻とその仲間一同みたいに、駄作を世に出したことに馴れ切ってしまったら
御仕舞いなのかもしれないけど。そもそもヤツらは自分等の過去の作品内に色んな意味での至らなさがあったって認識すら皆無なんじゃ無いのか?
別に「Vは失敗作だから見ないでください」みたいにまでなれや、とは言わんが…… ファンの(良い意味での)お遊びと
プロの失敗では話が違うけど、188の言いたいことはわかる
書かない人間が言うのはあれだけど、誰だって最初から上手なわけじゃないし
そんなに構えず書いてみたらどうかな 私としましては、シンが誰か適当な種キャラクターと組んで貴重なモノ――例えば遺伝子操作で産まれた
良質なアワビなんかで如何でしょうか?――を密かに獲りに往くが、その先で思いも掛けない災難困難に見舞われてしまい……
といった話をどなたか文才話才ある方に描いて戴きたいのですが。 何か今一つ中途半端なままで途中放棄された作品は
誰か勝手に続き描いて戴いたらどうなんですかね? みなさん…… >>219
.......................................... クリスマスにはネタを投下したいところ
あと、書き始めてるやつでスポンサーをどこにするかで悩む
やっぱりロゴス系列がそれらしいかな >>227
地球側ともプラント側とも素知らぬ顔で商売してて、ロゴスとも関係なさそうなアクタイオン社は?
まぁ最新アストレイで明らかになった設定だと社員や関係者は奇人変人揃いだけど もしディスティニーを作り直すとしたら・・・・
キラとシンの徹底した >>228
そういう要素を何で肝心要のテレビアニメーション版にはぜんぜん出さなかったんだろうね、と今更だけど。つくづく種には…… ついでに皆様の執筆してる話でルナマリアが射撃下手なままだったり
オリジナル機体が既存ガンダム作品からの流用だったりすんのはチョット複雑な気持ちになっちゃうんだよな、と。
どうせならルナマリアにも射撃レベル向上させてあげたり既存作品と重複しない新型メカ出したりしたって
エエんやないかい(新規メカ考え出すのは難しいのは承知の上だけど、さ)。 C.E.82年12月25日、深夜。そろそろ日付も変わるようなころ。
暗闘の果て分割された中欧の一角、鬱蒼と茂る森の中。
地球連合発足以前から自然保護の名の下人間の立ち入りを禁じていた、少なくとも表向きはここ50年人間が立ち入っていない地域。
そんな都市部から遠く離れた森林地帯で、何やら妙な騒ぎが巻き起こっていた。
真っ黒い針葉樹林の一角に、赤い炎が立ち上る。
地球連合の管理が行き届いていた自体であれば、担当官が顔を青くして消化命令を下すような状況。
数十キロ離れた基地から出動するはずの消防飛行艇に類する翼の影も形も無く、ただいたずらに炎の舌が青黒い針葉樹を舐めていく。
飛行艇の飛行音の代わりに周囲に響き渡るのは、その火を起こした者たちの稼働する音と、何処か遠くから響き、徐々に遠ざかっていく車輛のエンジン音。
『いい加減に機体を捨てて降伏し、先ほどの子供を引き渡せ』
ザフト系列と思しき甲殻類じみた装甲を純白に染め、曲面を描く肩装甲をはじめとした各所に桃色の装飾を施した機影三つから響く駆動音と、外部スピーカーによる声。 『……』
それに対し“断る”と言わんばかりにジンの重突撃機銃を改装したものを構える、放出品か横流し品と思しき今や旧式となったザク、一機の駆動音。
チィ、と単眼を左右させて敵を見るザクの背後では、横っ腹にビームトマホークの刃をくいこませた純白の機体――目の前の三機と同じモビルスーツが擱座している。
『もう一度だけ警告する。ザクタイプのパイロット、機体を放棄して降伏しろ。その上で先ほど保護した子供を引き渡すように片割れに言え。我々に害意は無い』
『我々の現在の目的は、先ほど施設を脱走したターゲットの確保のみです。あなた方が“見なかった”ことにし、忘れていただけるのなら何も問題はありません』
『そっちで倒れている彼、A3は不運だった。我々は寛容だ。一度の過ちであれば何ら構わない。何なら、我々の基地でラクス様の歌を一緒に聞くことも問題ないと考える』
何処か機械じみた、何処までも穏やかな声の三重奏。各々の口調や声色の差異こそあるものの、雰囲気は全く同じ。
不気味と形容していい純白のそれらをモニター越しに赤い目で睨みつけながら、20代半ばと見える男は舌打ちした。
「隙が無いな……おいルナ、そっちは」 『さっきと同じよ。ぴったり100メートル後ろを、高度そのままで追って来てる。』
先日の依頼報酬だった新型の通信装置に声を掛ければ、すぐに若い女の声が返ってくる。
ザクのパイロットとほぼ同じくらいの年ごろの、若い女。
通信機の横に置かれたウィンドウにはこの辺りの俯瞰図と、遠ざかっていく光点が二つ。
一方の緑色は、いま返答を返してきた女の居場所。ザクが十数分前まで収まっていたトレーラー。
その僅か後方には、目の前の三機と同じ反応を示す赤い光点がもう一つ。
「ルナの運転でも振りきれないって、随分と腕が良いじゃないか。可変型の癖によくやる」
『本当ね。まあ雪道ってのもあるし、そもそもこの子が居なかったらもっと荒っぽく転がせるんだけど。あ、今は良く寝付いてる。よっぽど疲れてたのね』
「その状況でも寝られるって凄いな。図太いって言うか……っと、動くか」
新興宗教の信者じみた気配を纏う三機の警告音声をほぼ無視して相方との会話を繰り広げていたザクの肩を、白い機体が発した閃光が掠めて行った。
そのまま擱座したままの同胞の機体を掠めて、まだ燃えていなかった針葉樹に直撃。
ぱっと、暗い森に明るい色の炎が上がる。 「最後通告って所か。ったく、バッテリーも残り少ないっていうのに」
『モビルスーツ五機がかりでジープ一つ追っかけまわしてるのを見て突っ込ませたのはあなたでしょ。私は反対だったんだけどなー』
「ノリノリで突っ込んでジープからその子を引っ張り出したのはルナだろ。なら同罪だ……っ!」
一向に反応を寄越さないザクに業を煮やしたのか、ザクから見て右の機体がビームサーベルを抜く。
イオン化した空気が焼け焦げ、冬空に嫌な臭いを振りまきだした。
『残念だが、警告が受け入れられなかったものと判断する。我々は自己判断の下、あなたを排除する』
『ラクス様の祝福があなたとあなたの同僚の来世に在らんことを』
「排除できるもんならしてみろってか、そんな祝福いらないっての!ルナ、そっちも撃ってくるぞ!」
ザクのパイロットがそう叫ぶと同時に、先頭の白い機体のライフルが火を噴いた。
緑色の光条を脚部のスラスターを吹かせて回避すれば、そこにサーベルを構えていた機体が突っ込んでくる。
緑色の光を放つそれは、メサイア戦役の頃よりも更に数段出力が増強されたもの。 ザクのパイロットが舌打ちと共に姿勢を変えさせれば、経年劣化を始めた緑色のシールドが高出力の熱戦を束ねたものを受け止め、あっさりと溶断される。
それと引き替えに回避に成功したザクがいったん距離を取れば、今度はそこ目掛けてドラウプニル速射砲の系列と思しき光の雨が襲い掛かってくる。
「随分と……まぁっ!」
一瞬前までザクの上半身が存在していた空間を通り抜けていく光を横目に見ながら唸ったパイロットが、膝をついた姿勢のままザクを後退させる。
忘れずに放たれた牽制の銃弾は、ライフルを構えたままの先頭の機体が展開した光の盾に阻まれた。
「ビームシールドまで搭載してるって本当に量産機かよ!」
『それを言うならあのドムってのも量産機だし、オーブとザフトの技術の結晶って奴なんで、しょっ!』
ザクのパイロットが思わず口をついて出た台詞の応答を聞き流せば、次の瞬間には腕部のドラウプニルを展開していた左の機体が右と同様にサーベルを構え突進してくる。
機銃の弾丸をばらまいての迎撃は、白い装甲に銃痕を穿ったにとどまった。
シールドの残りが半ば熔けたまま付着して動かし辛くなっていた左肩から先が、実にあっさりと切り落とされる。 さるさん食らったか?
つか忍法帖ありだとやっぱり投下には不向きなのかね 363 名前:XLI278[sage] 投稿日:2013/12/26(木) 01:25:31 ID:crtIyZmc0
さるさんと規制くらったんで誰か代理投下お願いしたく…
とりあえず次から本スレの続き投下するよー
364 名前:XLI278[sage] 投稿日:2013/12/26(木) 01:26:07 ID:crtIyZmc0
だが、ザクはそれ以上下がらない。
「……この距離ならどうだよっ!」
サーベルを振り下ろしたまま隙を晒した白い機体目掛け、逆にスラスターを全開。
重量差もあって押すには至らないものの、無理やり姿勢を変えて右腕の先、保持されたままの機銃をコクピットハッチらしき隙間へと突き付けてトリガーを引く。
銃身の上部に配置された弾倉に収められた全弾をフルオートで叩きこめば、たちまちハッチ周辺の装甲が盛り上がり、歪にねじ曲がっていく。
『ぐ、お、A1,A4、私は駄目で――ッ!』
『見事だA2,後は任された』
『お前の犠牲は確かに見届けた。シーゲル閣下の御許で心安らかに』
濁った悲鳴にとってかわった末沈黙したA2に比較して、それを眺める残り二機の言葉は至極あっさりとしたもの。
狂信的な影をちらつかせる作り物じみた言葉に、ザクのパイロットは冷や汗を流す。
『これで二人、お前は同胞を葬ってしまった』
『二度目の過ちを確認した。これよりお前は我々の、ひいてはラクス様の、プラントの、世界の明確な敵』
『我々の死を以てしてでもその罪は償わせる』
高らかに祝詞を読み上げる様な口調で、残った二人の狂信者は唱和する。
「冗談じゃないな。本当に……!」
明確に殺意を露わにした純白のそれらに対する男は、赤い瞳の焦点をぶれさせながらそう呟いた。
既に、機体の限界は近い。 『冗談じゃないな、本当に……!』
「ちょっと、大丈夫なのっ!? 何なら今からでも戻って私が」
『来なくていい。良いからその子と一緒に逃げ切れるなら逃げ切ってくれ』
思わず飛び出た心配する声に対する返答。
その声に混じる相棒の気配が明確に変わったのを感じて、トレーラーを引きずり回す赤毛の女は一瞬目を見開いた。
あの、目の焦点が完全にずれた異様な状態。二桁に入って久しい付き合いでも、あまり慣れないような状態。
そうなった相棒は“ほぼ”無敵だ。それこそ、何十もの敵機を同時に相手取っても生き残れるくらいには。
問題は、その状態の彼に任務帰りでバッテリー残量も少ないザクが付いていけるか――。
「おっとぉっ!」
思わず喉から這い出た叫びと共にハンドルを切り、トレーラーを思い切り左折させる。
次の瞬間、そのまま進んでいればトレーラーがあったはずの雪面を、後方から放たれた銃弾が薙ぎ払っていた。
「危ない危ない……本当、あいつじゃないけど洒落なんないわねぇ…っ!」
着弾の余波でびりびりと震える防弾ガラスを横目に眺めて一息つけば、その視界にはもう一つ引っかかるものがある。
先ほどまで女の相棒が腰かけていたシートで丸くなる、まるで月光で染めたような髪を持った小さな子供。 年のころはせいぜいでもって10代前半ごろか。
思えば1時間ほど前、とある任務を終え、荷台に相棒のザクを乗せて移動中だったトレーラーのレーダーに妙な反応が引っ掛かったのが発端だった。
逃げ回る小粒な反応と、それをまるで狩りでもするように追う合計5つの反応。
本来の山越え移動ルートから逸れてそちらに向かえば、この子供の乗った小型車両と、それを追い立てるあの純白の機体が遠目に見えた。
見えた瞬間に荷台側の扉を開いて中に走り込み、女が声を掛ける前にハッチに飛び込んでいた男。
そしてその姿に呆れながらもトレーラーを速力全開で突っ込ませた自分の姿を思い出して、女は軽く笑った。
「無茶な奴だってのは昔から知ってたけど、まさか荷台に乗ったまんま撃って突っ込ませるなんて……ねぇっ!」
再び迫ってきた銃弾にトレーラーを回避運動させつつ、女は口角を釣り上げる。
今の砲撃は先ほどよりもさらに近かったようで、先ほどよりも激しく窓が揺れた。
移動中、何処かで適当にトレーラーを停めてささやかにクリスマスでも、と思っていたことは、既に忘れていた。
「とは言っても、ちょっと拙いかしらね……流石に振り切れないかぁ……!」
パウダースノーが降り積もった道なき道を突進し無理矢理に突破するトレーラーに対して、追跡する白い機体は空を飛んでいる。
最早ナビも役に立たない程無茶苦茶なルートを疾走している状況では、いつ行き止まりに突き当たってもおかしくない。そうなれば――
「最悪、私が――って!?」
搭載したモビルスーツの整備用にと用意されているパワードスーツと、それ用に調整されたスナイパーライフルのことを頭に浮かべた直後、取り付けられたレーダーが甲高い警告音を発した。
遥か上空から、何かが降ってくる。プラントとオーブの共同による防空網があるはずなのに、すべて通り抜けて、何かが。
それを理解すると同時に通信を入れようとした女の手が、止まる。
焦る男の声が聞こえてきていたはずの通信機からは、場違いな音楽が流れだしていた。
幼いころからあの戦役の終焉後、相棒と共にプラントから追い落とされる時まで馴染んだ明るい曲調。
「一体何なのよ……シンッ!上から何か来るわよ!」 「こなくそっ……!」
何度目かの光条を回避した男が、ハイライトが消えた瞳でモニターを睨みつけながら毒づいた。
既にザクの右手に握られた機銃の残弾は無く、コクピットにはバッテリー残量僅少と警告するアラームが鳴り響きっぱなしになっている。
度重なる無茶な回避運動とスラスターの酷使によって脚部周辺の表示は警告メッセージで埋め尽くされ、一部は腰部や周辺のアクチュエータにまで悪影響を及ぼし始めている。
対する敵機はそこそこの被弾と損傷があるものの、まだ余裕と言った風貌。
男のザクが満身創痍に近いのに対し、このまま戦闘を続行しても全く問題は無いように見える。
周囲の針葉樹はその悉くが燃え上がって、まるで地獄じみた様相を呈し始めている。
「地獄のメリークリスマス、か。洒落になってないな」
通信を聞いているはずの相棒の返答を期待しながら呟いて、男はザクを立ち直らせた。
よっぽど追いつめられた状況でもない限り、あの女は何かしらのリアクションを返しえ来るという確信からか。
数秒待ってザクをもう一度滑るように移動させながら、返答がないのを確認して男は小さくため息を吐いた。
『A1、敵は弱っているようだが、まだトドメは刺さないのか』
『A4、彼、または彼女はやりすぎた。我らが同胞二人を葬った罪は重い。その罪は苦しみ抜いた末の死でしか償えない』
『……了承した』
無様に転げまわる旧式機を眺めつつ、機械じみた動きで純白の機体を操る男は帰ってきた答えに溜息を吐く。
一様にラクス・クラインへの信仰心が強い第4、及び第5世代のザフト兵士の中でも、A1はそれが顕著だった。
ラクスへの信仰を失っているわけではないが、A4はそれほどまでには至れない。
若干の恐怖さえ覚えながらA4がバランスを崩したザクをロックしたところで、その聴覚に妙な刺激が走る。
ラクス以前、全世界に共通する文化だったとか言う歌の一節。それが一瞬、通信機に割り込んだ。
それを知覚してA1に通信しようとした瞬間、大音量のクリスマスソングがその聴覚を再び貫いていた。
更に、敵機を映していたはずのモニターが大きく歪み、真っ赤な装束を身に着けた白いひげの筋骨隆々とした巨漢が大音声で歌う姿に移り変わる。
確かに毎年この季節になればラクスがこういった感じの衣装で特別ライブを開いているが、それしか知らなかったA4にとっては、酷いカルチャーショックだった。
思わず、機体の動きを止めてしまう程には。そしてそれは、ラクスの狂信者であったA1も同様、もしくはそれ以上だった。 「Jingle……なんだ一体! ルナかっ!?」
敵機が一斉に動きを止めた直後、通信機から響きだした高い歌声に赤い瞳の男が悲鳴じみた声を上げる。
それに対する返答は無い。モニターこそ正常ではあるものの、それ以外の状況は他と同じ。
どうなってると思いながらも期待を動かそうとすれば、その音声に別の声が混じった。
『お気に召していただけましたか、傭兵さん』
真っ赤な研究服に身を包んだ研究者が、軽い口調と共にモニタ右下に浮かび上がる。
唖然とした男の反応を気にせず、そのまま台詞を続けていく。
『申し訳ない。通信機の反応からそちらの居場所は掴んでいたんです。しかし連中の防空網の穴を見つけるのに手間取りまして』
「な……あんた、この間の依頼者だよな。一体」
『我が社の会長からのクリスマスプレゼントですよ、シン・アスカ。あと30秒ほどお待ちいただけますか? その間に、機荘フを降りる準備b烽ィ願いしたいbナすが』
=uだから、何を=v
『見れbホわかりますとb焉Bあなたの才粕\はここで潰えb驍ノはあまりにb熕ノしい。あと=x
――あbフ機体のデビュ=[戦にはピッタャ鰍フシチュエーャVョンですから=B
女研究�ェにぃやぁ、bニ口の端を歪めbス直後、ザクの血v器類が反応を試ヲした
上給ゥら、大型の封ィ体が接近。 “それ”は、オーブ=プラントが張り巡らせた軌道上の警戒網を掻い潜って落とされた。
卵じみたシルエットを摩擦で赤熱化させつつも、監視者のレーダーに引っかからない事から誰にも警戒はされないまま、十分に減速しつつ目的の場所へと近づいていく。
途中で1つ、遅れて3つ。メイン以外の積み荷を切り離し、今や大きく炎が燃え盛る森林地帯の一角へと。
切り離された4つの積み荷はそれぞれ、姿勢制御の末本体よりも一足先に目的の場所へと着弾した。
1つは追い込まれかけたトレーラーの荷台の上。残る3つは片膝をついたザクの前。
未だに混乱する純白の機体と、降ってきたものに呆然とするザクを気にせず、黒い塊は変形を終えて降ってきた
折りたたまれた四肢が伸び、能面じみた頭部が持ち上がり、カマキリを黒く塗ってそのまま10メートル大に大きくしたようなそれらは、ザクを、トレーラーを守るように前に出る。
カマキリじみた無人機が陣形をとって十数秒が過ぎれば今度は更にもう一つ、本命の反応。
『ああ、そう。あなたの傍に降下した“マンティス”の戦闘能力は大したこと無い上、稼働時間も短めなので時間稼ぎにしかなりません』
焼け焦げて黒く染まった、カプセルのような何か。
モビルスーツが一機収まるのがやっとなサイズのそれは、大気圏を突破してきた割に静かに着陸した。
『なので、実際にはあなたの腕とその機体の性能次第、となります。ベース機はもう10年近く前の設計でしたけど、あなたならいけますよね、シン・アスカ』
そのハッチが、ザクのコクピットから這い出した男の前で軋みを上げながら開いた。
『操作方法は、10年前のあなたの機体と同じです――』 『無人機め、一体どこから』
『落ち着けA4、大した動きではない。冷静に処理した上であの落下物に対応を』
カプセル様の何かが降下してから、約1分。
OSごと再起動させることで何とか制御を取り戻した機体のモニターに映ったのは、熱を帯びて赤く輝く前肢を振り上げるカマキリじみた何かの姿。
シールドを展開して対応してからはさらに20秒。
同期の中でも優秀で、黒い森に建造された施設の護衛と監視を任せられた部隊の人員の前では、無人機も長くはもたない。
最初に鎌を振り上げていた機体は頭部を、その後左右から挟撃を行ってきた2機はそれぞれ腕部を一つずつ損傷し、動きも明らかに鈍くなっている。
トレーラーを追った機体からの通信こそ回復していないが、其方に降下したものも同様であるのならば問題なく処理されている。
すくなくとも、A1、A4はそう判断していた。
『さあ、これでお終ま――!』
ビームシールドで右腕を失った黒い矮躯を弾き飛ばし、降下物に叩きつけてサーベルを振り上げる。
それとタイミングを合わせたかのように、降下物の一部がはじけ飛んだ。
正確には、内部から伸びていく何かに押し出されたかのように熔け飛んだ。
『A4、下がれ。何か出てくるぞ』 『……光の……翼……!?』
“それ”は、外壁を突き破った勢いのまま、夜空目掛けて凄まじい勢いで噴き上がっていく。
炎と言うよりも血の色じみたそれは、資料映像の中で見た10年前の機体を想起させる。
『まさか、この中にあるのは』
『そんなはずはない。あの男は死んだ上、機体も完全に廃棄されたと資料には』
『だがA1、今実際に……っ!?』
今や天を焼くほどに伸びあがった真紅の光が、一瞬波打つ。
それによって生まれた力の波が、カプセルの外壁を呑み込み、熔解させていく。
熔け落ちた外壁の向こう、轟々と燃え盛る炎の内側で、炎よりも赤い光が二つ輝く。
“それ”は自身が発する熱で卵形のカプセルを溶かしつくし、周囲の土や崩れ落ちた“マンティス”、機能停止したザクさえも熔解させながら、ゆっくりと一歩を踏み出した。
180度近く展開した翼と道化のメイクじみた顔に10年前の悪夢の面影を残し、それでありながら機体のフレームは地球連合のそれに近い風貌。
その両手に武装は無く、代わりに指先は獣の爪牙のよう。
黒を基調に銀色のモールドが施された“それ”は、関節部と翼を紅蓮に輝かせながら、戦場に踏み出した。
『あは、あはははっ!メリー・クリスマス!あるいは、ハッピーバースディ!ふふ、ふふふ、おめでとう御座います。ご覧になられていますか会長。あなたの望んだその時です。これが、これこそが――』
斬り飛ばされて光を失った“マンティス”のカメラから送られてくる煉獄の悪魔じみたその姿に狂喜する女研究員が、喜びも露わにそう呟く。
「なんなの、あれ……シン……?」
降下してきた無人機が白い機体を叩き落とし、仕留めたことを確認した女――ルナマリアがトレーラーから後方を見上げ、噴き上がる禍々しい光につぶやいた。
「……俺、は……くっ! シン・アスカ、“シックザール”!行くぞ!」
炎を巻き上げる悪魔じみたそれの内側で、男――シンが、低くそう言った。
応えるように、生まれ出たばかりの悪魔――“シックザール”が、唸りを上げる。
冬空を焼き尽くすように伸びあがる炎は、そのまますべてを呑み込んで行った。 372 名前:XLI278[sage] 投稿日:2013/12/26(木) 01:31:57 ID:crtIyZmc0
とりあえずは以上。
規制くらって書き込めなくなったので、どなたか転載お願いします 相変わらずPC規制ワロエナイ…でも、新作来てる〜
マッタリじっくり頑張って下され プリズンブレイクからの逆襲か
面白そう…と思ったがその後の展開を何も思いつかなかった >>255
チェンジ真ゲの竜馬みたいに目がグルグルになってるシンが脳裏に… >>256-257
まぁそういうのじゃ無くて、収監先で看守や所長も参加する格闘(賭け試合とか)を繰り広げたり
収容されてる囚人達の派閥抗争やら某組織の秘密実験やらに巻き込まれたり、服役中に知り合った
イイ感じの囚人から頼まれたちょっとした言伝を出所後に実行する際にトンデモない事件に遭遇したり……とか、
そういう劇場未公開映画っぽい話の心算でしたんで。こちらも途中で送信してしまって誤解させたようなら申し訳ないです。 あとは出所後に何かヤバそうな人たちにスカウトされる話も追加で。 >>255
昔、シン刑務所送りネタはダイナミックな逆襲のシンでちょこっと書いた事あるけど、アレは読み切り漫画のノリで二話だけだったしなあ。
今からでも続き考えようかしら。 >>260
>刑務所送り
そこでは苦役を果たして貰える種を四つ集めると釈放されたりするんですか? >>261
いやキン肉マンじゃないんだから(笑)
保管庫にもあるけど、ルナに嵌められて暗殺未遂事件の濡れ衣を着せられたシンが刑務所にブチ込まれて、
その後、アメノミハシラの手引きで仮釈放されたシンが乗り手を試す謎の機動兵器に乗せられるところまで書いたのよ。 逆襲のシャアを見て思いついたネタ
シン 「キラさんの『…フレイ』って寝言を聞いた女は結構いるみたいですよ?」 女帝ラクス・クラインとオーブの専制によって屠られたシンとルナマリアが
とある科学者の手によって強靭な機械の躯を得て蘇生し、世界をゆがめる奴らに
孤独な戦いを挑む――「FULL METAL アスカ(または「FULL METAL ホーク」)」
製作会社:ゴールデン・ハーベスト
製作総指揮:クエンティン・タランティーノ
監督:三池崇史&井口昇
アクション&バイオレンス監修:マイケル・ベイ
企画協力:JJサニー千葉
補足として同じくメカ改造されたメイリンとの姉妹骨肉対決も忘れないで 「だからなぜこの俺がキラを裏切らなきゃならないんだ! 絶対に断る!」
「アスランさんあんた〜、いつからそんなに偉くなったの」
「俺は三隻同盟でお前はザ――」
(サッ)
「!」
『ミーア、あの時は話聴けなくてすまなかったな』
『ううん、何もなかったからいいの』
『すまんな……それじゃ、お詫びに今日は……』 『俺がミーアに温泉浣腸をしてあげよう』
『キャ〜〜〜〜〜!』
『いいじゃないか
いいじゃないか
いいじゃないか』
あっ あっ ああああ ガクガクブルブル
「アスランさ〜ん、あんた、なかなか変わった趣味をお持ちですな〜〜」
「ちっ、違うんだ! 話を聴いてくれシン!」
「あんたは温泉浣腸なんてプレイは出来るってのに、俺がキラ・ヤマトを撃つ手助けは出来ないってわけか……」
「だっ、だから! それとこれとは違う話で――」
「イイジャナイカ イイジャナイカ イイジャナイカ」
「OK! ここはやはりこの私奴の出番のようですな!」 まとめ・ウィキ管理人さんへ
2ch運営のクーデターで新管理人Jim氏になったらしいんで運用情報板覗いてみたら、
転載やまとめは公式wikiのみに嫌儲民に議論が誘導・弾圧されてました。
それ以外は全面転載禁止で、違反したら嫌儲民が荒らしに行くそうです。
バックアップ取っといた方がいいかと思います。 もう一年以上放置されてる作品は皆で勝手に続き書いてもイイんじゃあないのかね? >>275
だって描いて完結させて貰えないんだから仕様が無いだろうに…… |ω・`)チラッ
キョロ(・ω・ = ・ω・)キョロ
(´・ω・`)<ダレモイナイ……カキコムナライマノウチ…… ――MARCHOCIAS――
プロローグ
C.E.75
炎によって炭化した樹木が自身の重量に耐え切れず、火の粉を撒き散らせながら倒れた。
森も家も生き物さえも燃やし尽くす業火の中、黒髪の少年が蹲っていた。
その腕の中には、頭の天辺の一房だけ立った赤毛が特徴的な女性が抱きかかえられていた。
女性の体は大量の赤黒い血で汚れており、その炎に照らされら顔からは血の気がまったく無く、誰が見てもすでに事切れているのは確かだった。
「……また、奪うというのか……」
女性を抱きかかえたまま長い間うつむいていた少年は、低い声でそうつぶやき、顔を上げた。
そこに現れたのは辺りを焼き尽くす業火と同じ真紅の瞳。
その瞳が怒りを湛えながら上空を睨む。
「あんた達は!!」
上空を飛びまわるは八枚の青き羽を持った白きMS。
自分がどれだけ声を枯らそうとも、その機体に乗った者に声は届かないことを承知で少年は叫ぶ。
それでも少年は叫ばずにはいられなかった。
失った悲しみ故に。
相手への怒り故に。
己の無力さ故に。 少年はゆっくりと、抱いていた女性の亡骸を地面に横たえた。
そのまま立ち上がると、少年は今にも泣きだしそうな瞳で女性の亡骸を見た。
しかしそれは長い時間ではなかった。
少年は一度目を伏せ、再び上空へと視線を向ける。
その時にはすでに少年の瞳には悲しみの色は無かった。
代わりにあるのは、憎悪の強い光。
少年は女性の亡骸に背を向けて走り出す。
その身にかかる火の粉も熱風も少年の足を鈍らせる事は出来なかった。
やがてたどり着いたのは小山。
否、それはカモフラージュネットや落ち葉で偽装されたものだった。
少年は迷うことなくネットの裾を掴むと、その下に潜り込んだ。
すぐに見えたのは巨大な掌。
更に奥には青い装甲。
巨大な掌に飛び乗った少年は、装甲に付いたパネルを慣れた手付きで操作する。
すると青い装甲が開き、少年は迷う事なくその中に飛び込んだ。
そこは暗く狭いコックピット。
少年は中心のシートに座ると、目の前の赤い起動スイッチを押す。
その途端、暗かったコックピットに白い明かりが灯る。 だが次に聞こえてきたのは異常を告げる警告音。
それと同時に手元のモニターにエラーを知らせる警告が出てきた。
しかしそれも少年には予想していたことだった。
もう随分の間、この機体はまともに整備も動かす事もされず、雨風にさらされていたのだ。
異常がでていない方がおかしい。
少年は素早くキーを操作し、全てのエラーを無視するようOSに設定する。
全ての作業を終わらせると、少年は操縦桿を握り、ゆっくりと動かした。
その途端、周りから軋んだ音が鳴り響く。
それは長らくこの地に座り込んでいた巨人が、錆を振り払いながら立ち上がる音。
同時に周りを囲んでいた炎が生み出す熱風に、今まで巨人を隠していたネットが吹き飛ばされた。
ネットの下から現れたもの。
それは紅き翼とトルコカラーの装甲を持つMS。
その名は『デスティニー』―――『運命』の名を持つ巨人。
少年―――シンは、コックピットの中から上空を睨み付けた。
青い羽を持つ白いMS―――『ストライクフリーダム』はまだこちらに気が付いていないらしく、火の粉と黒煙の中に悠然と佇んでいた。 その姿はまるで古の時代に信じられていた、堕落した人間を業火で焼き尽くし、新たな時代を築いたとされる全知全能の『神』のようでもあった。
だがシンは『神』など信じてはいない。
堕落した人間に対する方法が『全て殺す』という短絡な行為の時点で、何が『全知全能』だというのか。
第一、今目の前にいるのはけして『神』などではない。
作り出したのも『人』ならば、操るのも『人』だ。
それ故にシンは恐れることも無ければ、引く気も無かった。
だが、同時に勝てる気も無かった。
相手の機体は完璧に整備されているものに対し、こちらの機体はエラー音が常に鳴り響き、CIWSは弾切れ、ライフルも無く、長距離ビーム砲はエネルギー不足で使用不可、アロンダイトはとうの昔に折れて紛失したままだ。
かろうじて使えるのはフラッシュエッジUくらい、しかしそれも長らく使っていなかったため、正常に動く保証は無い。
シンは一抹の不安を抱えながら、フラッシュエッジUを引く抜く。
不安をよそに、フラッシュエッジUは赤いサーベルを形成する。 その様子に安堵の吐息を吐き出すと、シンは上空のストライクフリーダムをロックオンする。
ロックオンされた事でこちらに気がついたのか、ストライクフリーダムが振り向いた。
その間にシンのデスティニーは大地を蹴り、紅い翼を広げる。
その途端、コックピットに鳴り響いたのは警告音。
どうやら翼への通電系に異常が出ており、出力が上がらないらしい。
それでもどうにか紅い光の翼が形成され、デスティニーの巨体を上空へと導く。
ストライクフリーダムはデスティニーの姿に驚いたのか、一瞬動きを止める。
しかし直ぐ我に返ると、ビームライフルをこちらに向かって構えた。
その途端、シンの中で何かが弾けた。 打ち出された弾をシンは必要最低限の動きでかわすと、そのまま一気にストライクフリーダムに迫り、フラッシュエッジUを振り上げる。
―――獲った!!
かわされた事に驚いたのか、動かないストライクフリーダムにシンは勝利を確信した。
しかし―――
「キラ!!」
「!?」
聞き覚えのあるその声に、シンは目を見開いた。
その目に映ったのは赤い戦闘機のような飛翔体。
こちらに向かって高速で飛んでくるそれに、シンは反射的に避けようとする。
しかし異常が多数出ているデスティニーは、飛翔体のスピードに対応する事が出来なかった。
直後、凄まじい衝撃がシンを襲う。
その衝撃に、シンの意識は一気に闇に引き込まれた。 以上です。
……この程度の文才しかありませんが、続き書いてもいいですか?
|ω・`) 勿論です
しかしつくづく凸(だと思うが)に足引っ張られるというか相性悪いなw おお、投下乙です。次回はあいつが出てくるのか・・・こちらの奴はどんな感じかな?
次回も待ってますわ〜 ――MARCHOCIAS――
第一話 未来の過去へ
痛い。
全身が燃えるように痛む。
そんな痛みの中で、シンは目覚めた。
一番最初に霞む瞳に映ったのは、小さな白い光。
シンは無意識にその光に向かって手を伸ばした。
しかしその手に掴めるものなど何も無く、ただ虚しく宙を掴んだだけだった。
意識がはっきりするにつれ、シンは光の正体がコックピットの非常灯であることに気がついた。
それと同時に息苦しさと眩暈が襲う。
シンは息苦しさの正体を探るため、自分の胸に触れた。
手に触れたのは、どろりとした液体の感触と硬質な物体の感触。
その感触に嫌な予感を感じながら、シンは自分の手に視線を向けた。
シンに目に映ったのは赤黒い血。
それも少し胸に触っただけにもかかわらず、掌全体にべったり付着するほど大量の血だ。
それを見た瞬間、シンは自分の体に何が起こったか大体理解した。
大方、コックピットの破片が自分の胸に突き刺さったのだろう。 自分の考えが当たっているかどうか確認するため、シンは視界を自分の体へと向けた。
そして軽く後悔した。
予想通り、自分の胸にはモニターの破片と思われる透明な破片が突き刺さっていた。
しかもその破片から下は、自らの血で赤黒く染め上げられている。
それを確認した瞬間、息苦しさが増したのは気のせいでは無いだろう。
(……あー、これはもう無理だな……)
死ぬかもしれない瀬戸際だというのに、シンはどこか他人事のようにそう思った。
ほかに思った事と言えば、”やっぱり死ぬって痛いんだな”程度のものだった。
――まあ、いいや。
不意にあがってきたのはそんな感情。
そんな自分にシン自身も正直戸惑った。
自分はこんなに淡白な人間だったろうか?
そう思うと何故だか笑みが浮かんできた。
その間にも息は苦しくなっていく。
次に感じたのは強い眠気だ。
シンはその眠気に逆らうことなく、静かに目を閉じた。
しかし直後に聞こえてきたコックピットが開かれる音に、シンは一度閉じて重くなった瞼を無理やり開いた。 「シン……!!」
霞む目に映ったのは、開かれたコックピットの入り口に立つ、藍色の髪とエメラルドグリーンの瞳を持ち、悲痛な表情をした青年の姿だった。
****
C.E.84
岩場を二機のMSが轟音を立てて疾走する。
「くそっ!何でこんな事に!!」
その内の一機の中で、男が愚痴を吐く。
男は少し前まで畑を耕して暮らしていた。
しかしその暮らしはとても楽とは言えず、いくら働いても"税金"と称して稼ぎをのほとんどを持ってかれる毎日であった。
そんなある日、仲間の一人がこんな事を言い出した。
"俺たち全員で金を出し合ってMSを買い、ほかの奴等から金品を奪い取ればばいいじゃないか"
もちろんその時はみんな冗談だと思い、相手にしなかった。
しかし"今時のご時勢、山賊なんていくらでも居る。むしろちまちま働いている俺達の方が馬鹿だ""今のまま役人達に稼ぎの全てを持ってかれていいのか?""大体、役人達が俺達の稼ぎを奪っていくのと、俺達が奪うのと何が違う?" そんな言葉に、いつの間にかにほかの仲間共々聞き入っている自分が居た。
自分の全財産を持って仲間達と集まったのは、それからしばらくたってからだった。
仲間全員の全財産を集めて購入できたのはMSは二機。
中古の『ザク』で、しかもかなりのオンボロ品だ。
こんなので大丈夫なのかはじめは不安だったが、そんな不安はすぐに消える事となった。
MS二機を操って町や集落を襲う。
少しライフルやビームトマホークを振るうだけで人々は逃げ惑い、こちらの要求する金品を素直に用意した。
その金を使って美味いものを食い、好きなだけ遊ぶ。
そんな生活に、罪悪感などすぐに消えた。
今日もMSに乗り、町を襲って金品を奪い取る、そんな単純で楽な「仕事」を行うはずだった。
いつもと違ったのは、町に向かう途中で一機のMSに会った事か。
いや、"会った"では無い。
"襲われた"のである。
MSに乗ってからというもの、まるで世界の覇者になったかのように誰にも逆らわれた事など無かった男は、それだけで動転した。 そもそも男はMSでの戦闘訓練など受けた事など無く、ただ仲間内の中では一番MSを"動かす"事がうまかっただけだ。
襲ってきた機体は見た目的には『ダガーL』と呼ばれるものだった。
しかし中身はかなりカスタマイズされているものだと思われた。
そもそも十年も前に生産されたダガーLを、何も手を入れずに使用するのは無理だろう。
そのダガーLは高速で近づくと、ビームサーベルでこちらの持っていたビームライフルを斬り飛ばした。
それはまさに一瞬の出来事。
目の前の出来事に呆然とした男の頭に、ある言葉が浮かんだ。
それは"傭兵"という言葉だった。
"山賊"である自分がもっとも気を付けなければならないもの、それがこの"傭兵"だった。
半ばパニック状態になった男は機体を反転させると、一目散に逃げ出した。
そのまま岩場に逃げ込むと、岩陰に身を隠しながら走り続けた。
傭兵はこの辺りの地理に詳しくなかったのか、しばらくするとその姿は見えなくなった。
「……なぁ、一度アジトに帰らないか?」 岩陰に隠れたまま、いつもの楽な「仕事」がうまくいかなかった事に愚痴ていた男は、仲間の言葉にわれに返った。
確かにいつまでもここに隠れている訳にはいかない。
しかし、ここを出て本当に安全なのかどうかも分からなのだ。
踏ん切りの付かない男を無視して、仲間は岩陰から出てってしまった。
それを見て、男も慌てて岩陰から抜け出す。
その途端、急に日光が遮られた気がした。
どうせ日が雲に隠れただけとだと思い、大して気にしなかった。
しかしそれは雲ではなかった。
轟音を響かせる鋼鉄の翼。
それがジェットストライカーを装備した"ウィンダム"である事に気が付いたときには、すでに逃げる暇など無かった。
ウィンダムは機体の飛行速度に落下速度を加えた高速で、仲間のザクのコックピットを蹴りつけた。
その衝撃はかなりのだったようで、ザクの巨体が吹き飛び、岩場に叩きつけられる。
男は慌てて仲間に通信を繋げようとしたが、気を失ったのかいくら通信機に呼びかけても答えは帰って来なかった。
その間にウィンダムがこちらを振り返る。
男が感じたのは死の恐怖。 その恐怖に駆り立てられ、男はビームトマホークを振り上げた。
目の前のウィンダムは、盾を装備してはいなかった。
"ビームトマホークを振り下ろせば倒せる"、そう男は思い、自分の考えを疑わなかった。
そして恐怖から開放されることにも。
しかしその刃はウィンダムに当たる前に止まる。
驚いた男の目に映ったのは、ビームトマホークを握ったザクの右腕に自機の左腕をぶつけて止めたウィンダムの姿だった。
そしてウィンダムはさりげない動作で右手に持ったビームライフルを男が乗ったザクのコックピットに向ける。
ウィンダムに乗る者の意図に気が付いたとき、男は口をこれ以上開かないというほど大きく開き、命乞いの言葉を吐こうとした。
しかしそれよりも早く光が炸裂する。
その瞬間、男の意識は消滅した。
後に残されたのは、コックピットが消し飛んだザクの姿だった。
その姿に、意識を取り戻した仲間は呆然とするしかなかった。
しかしウィンダムのメインカメラがこちらを睨んだのに気づき、慌てて倒れたままだったザクを起こそうとする。 だがそんな努力もむなしく、ウィンダムは起き上がりかけたザクを蹴り飛ばし、またしてもザクは地面に寝転ぶ事となった。
ウィンダムはそのままザクのコックピットにライフルを突きつける。
途端に湧き上がってきたのは"自分も殺されるのか"という恐怖だ。
コックピットの中は大して暑くも無いのに、大量の汗が額から流れ落ちていく。
「……三つ数える内に機体を捨てれば、命は助ける。一つ」
不意にウィンダムのパイロットと思われる声が通信機から聞こえてきた。
それは低く、だが幼さの残る声だった。
「ま、まってくれ!!」
しかしそんな事を気にしている余裕は無い。
とにかく生き残れるかもしれないという希望に、急いでザクのコックピットハッチを開けると半ば転げ落ちるように飛び降り、そのまま一目散に走り去る。
そんな姿を見送ったウィンダムのパイロットは自機のセンサーに視線を落とすと、そこに映っている印が味方のものだけである事を確認した。
そして一つ吐息を吐き出すと、かぶっていたヘルメットを外す。
現れたのはまだ十代半ばから後半といった所の少年の顔。 それを覆い隠すように長めに伸びた黒髪い前髪と、印象的な紅い瞳。
「シン」
少年――シンは、自らの名を呼ばれて通信機に視線を向ける。
それと同時にジェットストライカーを装備したダガーLがウィンダムの前に降り立った。
通信機に映っていたのはダガーLのパイロットである三十代ほどの髭面の男だ。
特別体格が良い訳ではない上に優男風の顔立ちだが、髭のおかげか貫禄がまったく無い、という訳でもない。
「お前一人に任せて悪かったな。どうもマップデータが狂っていたようだ」
「安物を買うからです」
シンは男に向かってぶっきらぼうに答えた。
実はこの男、シンの所属する傭兵団の隊長である。
そう考えるとかなり失礼な態度なのかもしれないが、小さな傭兵団なせいもあってか、隊長本人も含めて誰も気にしていない。 今回も少し肩をすくめて見せただけで、特に気にした様子は無い。
「しかし今回も素人だったみたいだな。最近ますます多くなってきたようだ」
「……」
隊長の言葉にシンは答えない。
ほとんど独り言のようなものと気が付いていたからだ。
「とにかく、今回の依頼は終了だ。MSを二機捕獲出来たとなると、しばらくは食い扶持には困らないだろう。とっとと戻って留守番している奴等に教えてやるぞ」
「了解」
シンが答えると同時に、ダガーLが飛び立った。
それを追ってシンのウィンダムも飛び立つ。
空を飛ぶウィンダムの中で、シンは青い空を睨み付けた。
――あんた達が望んだのはこんな世界なのか?キラ・ヤマト、アスラン・ザラ と、言うわけで、調子に乗って二話目です。
ちなみに、ちょっと出てるのはアスランです。
シンに対して、ここに書いてる以外にも何かいろいろ被害与えてます。
でも無意識なので、多分また何かやらかします。
十年後なのに出てくる機体がザクとかウィンダムだとか、シンが十代後半の見た目だとかについてはまた後ほど。 おお、続けての投下乙です。相変わらずの凸・・・・て、まだやらかすんですかーやだー!
面白そうな設定もありそうですし、ご自分のペースで頑張って下され〜 ――MARCHOCIAS――
第二話 嵐の前
「シン!まだ電源落としてあまり経ってないんですから、触らないでください!火傷します!」
「……火傷なんて、一時間あれば治る。」
自分の愛機である"ウィンダム"を整備しようと、装甲の一部を開いて手を突っ込んでいたシンは、整備士の声に眉を寄せた。
「そんな問題じゃないんです!怪我したら見ているこっちが痛いんですよ!」
「……分かったよ、今度から見えないようにやる」
「そう言う問題じゃありません!!」
整備士の言葉に、シンは思わずため息を付いた。
この整備士は、整備士としての腕は高いが小言が多い。
"無茶な戦い方するな"から始まり"怪我することするな"、"もっと自分を労われ"など、シンは一日一回は怒鳴られている。
"無茶な戦い方するな"は、まだ分かる。
それで壊したMSを修理する羽目になるのは彼らだ。
ただでさえ少ない資金と材料でMSを整備している彼らには、少し壊した位でも大きな負担だろう。
この間の戦闘でも、高速で相手MSに蹴りをいれた衝撃でフレームが少し歪んだ。
この位の歪みなら戦闘する分には支障は出ないと思うが、整備士である彼にとっては許される事ではないらしい。
歪みに気が付いた途端シンに食って掛かり、やっと開放されたと思って整備の手伝いを始めれば、今度はこれである。
どうやら自分は随分嫌われているらしい。
まあ、心当たりは大量にあるが。
整備士達の仕事を一番増やしているのは、確実に自分である。
だが、"怪我することするな"、"もっと自分を労われ"など言われてもどうしようも無いと思う。
仕事内容が仕事内容だから怪我も日常茶飯事のことだし、そもそもコーディネーターであるシンは、ナチュラルより確実に丈夫だ。
それに加え、今ではそのコーディネーターの回復力を遥かに超えてしまっている。
自分が望んだ事ではないにせよ。
「て、腕ーーー!腕、怪我してるじゃないですか!素手で手を突っ込むからですよ!!」
「あ?」
突然声を上げた整備士に驚いて変な声を出してしまったシンだが、少年の言葉に自分の手の甲から肘付近まで真っ直ぐに蚯蚓腫れができている事に気が付いた。
しかも少しではあるが、赤い血が滲んでいる。
どうやら装甲の中に手を突っ込んだ時、何処かに引っ掛けたらしい。
「とにかく、整備は僕等がしますから!消毒して休んでください!」
「別に消毒するほど大きな傷じゃないだろ。三分ぐらいで傷跡も残らないじゃないか?」
「だから!そう言う問題じゃないんです!いいからもう休んでください!そもそも出撃したパイロットは緊急事態が起こらない限り休む規則でしょう!!」
そう言いながら整備士はシンの背中を押す。
どうやらシンを格納庫――と言っても、ただの巨大なコンテナだが――から追い出すつもりらしい。
「それは普通の体のパイロットの話だろ?俺は別に平気だって」
「平気じゃないです!いいから休んでください!!」
そう言いながらシンの体を格納庫の中から押し出すと、整備士はドアを閉じてしまった。
閉じられた格納庫の扉を前にして、シンは思わずため息を付いた。
しかしいつまでもここに突っ立ていても仕方ない。
整備士が許可するまで格納庫に立ち入る事は出来ないという事は、今までの経験で証明済みだ。
仕方なくシンはその場を立ち去と、自室に戻る為コンテナとコンテナの間を進む。
今現在、シンの所属する傭兵団はこのコンテナを家代わりに使っている。 理由は簡単。
移動が楽だからだ。
傭兵はいつザフトに襲われてもおかしくない立場だ。
その危険性を少しでも減らす為、基本的に長く同じ所にとどまる事は無い。
その為、トラックにそのまま乗せて移動できるコンテナは何かと都合が良い。
もっとも夏暑くて冬寒いため、住み心地が良いとはとても言えないが。
「お、シン、もう機体調整終わったのか?」
「いや、格納庫を追い出された」
途中会った仲間の男に、シンはそう答えた。
誰に何故とは言わない。
整備士とシンの似たようなやり取りは、いつもの事だからだ。
今回もそれで大体伝わったのか、"あ〜"とか間の抜けた声を出して、男は一人納得したようだった。
「まあ、あいつもお前の事心配してるんだよ」
「そうか?俺のことなんて心配しても仕方ないと思うけど」
「まあ、確かにお前は他の誰よりも丈夫だけどさ」
そう言って男は困ったように笑った。
どうやら、どう説明したら良いのか考えているようだった。
「ん〜〜……、まあ今はいいや。とにかく、これから暇なんだろう?悪いけどこれ隊長に届けてくれないか?」
そう言って男が差し出したのは一枚のROMだった。
「隊長に?」
「そ。通信士から。なるべく急ぎだって。」
シンは少し考えてからそのROMを受け取った。
どうせこの後やる事も無く暇だ。
これくらいのお使い受けても良いだろう。
「助かった!じゃ、またな〜」
そう言って、男はさっさと何処かに行ってしまった。
まだ他に仕事があるのか、それとも仕事をシンに押し付けて何処かに遊びに行く打算なのか。
男の背にそんな事を思いながら見送ると、シンは隊長の部屋に向かう為に踵を返した。
****
『戦いを終わらせる為に戦う……。それもまた、悪しき選択なのかもしれません。』
モニターの中に映るピンクの髪を持った女性が、強い意思を込めながら言葉を紡ぐ。
それを冷ややかな視線で見てた隊長は、安酒を仰いで鼻を鳴らした。
――その悪しき選択をやめる気は無いのか?
そんな事を思いながらモニターを睨みつける。
C.E.73に始まった地球連合とプラントの戦争は、両者共々大きなダメージを受けて終戦を迎えた。
地球ではユニウスセブンの破片の落下による被害、及びそれによって変化した地形による気候の変動により、農作物に甚大なダメージを与えた。
さらにロゴス狩りの影響でロゴス系の工場が相次いで封鎖。経済の悪化を招いた。
その後、経済の悪化の影響などで政府関係者への不信は高まり、デモやテロが世界中で多発した。 一方でプラントの方は大量破壊兵器"レクイエム"により六機のコロニーが大破。
戦争最後のメサイア攻防戦では最高議長のギルバート・デュランダルが死亡した為、政治面でも大きな混乱を呼ぶ事となった。
そこに現れたのが今モニターの中に映っている女性、ラクス・クラインだ。
ラクス・クラインはそのカリスマにより、混乱し分裂をしていたプラント政治界を統一。
最高議長に就任した。
しかしその後、彼女は地球に対しとんでもない事を要求する。
それは"全ての兵器の廃棄"だった。
ラクス・クライン曰く、"兵器があるから戦争は起きる、ならば無ければ良い"という事らしい。
それに対し地球側は即座に拒否した。
当時の地球では戦後の混乱も相まって、テロや犯罪が多発していた。
もし今兵器を捨てたらそういった犯罪に対処できなくなる。
それを恐れた地球側はラクス・クラインの要求を飲む事はできなかったのだ。
これに対しラクス・クラインは、有ろう事か軍を使って地球の兵器生産工場を襲撃。
地球側はこれに講義したが、その後も軍を使っての襲撃は続いた。
ついに地球側も軍を動かす事態にまで発展したが、ザフトのストライクフリーダムによりその抵抗は無駄に終わった。
最終的に地球側は兵器の廃棄を承諾。
といっても、その兵器の大半はすでにザフトによって破壊された後だったが。
地球側が武器を捨てた事で"戦争"は完全に終わった。
しかし地球連合が恐れていた事態が多発する事となる。
ジャンク屋に流れた大量のMS等の兵器はテロ組織などの手に渡り、地球軍の無力化も手伝いテロや盗賊などの犯罪を多発させる事となった。
それを逆手にとって飯の種としているのが、自分達"傭兵"だ。
自分達もテロ集団達も新型兵器の開発が禁止されている今、十年前の兵器を車など他の機械に使われている部品や自作の部品で直しながら使っている。
いくらラクス・クラインと言えども、"MS修理に使われるから、車を作ってはいけない"とは言えまい。
だが地球上の全兵器撲滅はあきらめていないらしく、傭兵、テロ集団問わず、兵器を所持している者を無差別に襲撃している状況だ。
それは宇宙、地球圏問わずの行為だが地球連合はあきらめたらしく、もはや抗議一つしていないらしい。
今モニターから流れている放送も、その"全ての兵器撲滅への決意"を語るものだ。
と、不意に、コンテナをいくつかに仕切って作られた部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。 「開いてるぞ」
そう言うと、ドアが軋んだ音を立てて開かれ、ゆっくりとした足取りで入ってきたのはシンだ。
シンは特に何も言わずに自分の隣に立つと、じっとモニターを見つめた。
その様子をちらりと横目で伺ったが、無表情で何を考えているのかは分からなかった。
「……どう思う?」
何を考えているのか知りたくて、思わずモニターを指差しそう聞いた。
シンは一度隊長の方に視線を向けたが、直ぐにモニターに視線を戻した。
「……随分老けましたね。化粧も濃くなった」
演説に対する感想を聞いたつもりだったが、ラクス・クライン本人に対する感想――それもかなり強烈な一言に、隊長は思わず飲んでいた安酒を噴き出した。
しかもツボに入ってしまい、そのまま机に突っ伏して大声で笑い出す。
それを見ていたシンは、眉を寄せて不機嫌そうな顔をした。
どうやら本人は真面目に答えたつもりだったらしい。
そんなシンの様子に、隊長はますます笑いが止まらなくなってしまた。
やっと笑いが止まったときには、すでにラクス・クラインの演説は終了していた。
シンの方も機嫌が悪くなったらしく、仏頂面でそっぽを向いていた。
「いや、すまん。ところで何か用事があったんじゃないのか?」
とりあえず謝ったが、笑いをこらえながらだったせいか、シンの仏頂面は直らない。
そのままの顔で一枚のROMを差し出す。
「……これです。通信士から急ぎだそうです」
「通信士から?」
急ぎと聞いて嫌なものを感じ、隊長は気持ちを完全に切り替え、シンの差し出したROMを受け取った。
シンは隊長がROMを受け取ったのを確認すると、さっさと部屋を後にする。
そのさい、入って来た時よりも足音が大きかったのは気のせいではないだろう。
そんなシンの様子に隊長は「やれやれ」とでも言うように、軽く吐息を吐き出した。
しかし直ぐにPCの方を向くと、受け取ったROMを読み込む。
人伝に持って来たということは、今すぐ行動を起こさないといけないという程の事では無いだろうが、やはり気になった。
そして中に入っていた情報を見て、眉を寄せて厳しい表情を作る。
それは懇意にしていたジャンク屋がザフトの襲撃を受けたというものだった。
ジャンク屋の安否も気になったが、それよりも気になったのはジャンク屋に保管されていた自分達の情報がザフトにどこまで流れたか、という点だ。
ジャンク屋にこの拠点位置は教えていないので今日明日ザフトのMS隊が襲ってくる、という事は無いだろうが、やはり用心に越した事は無い。
(拠点を移動させて、しばらく様子を見るか……)
そう決めると隊長は皆にこの事を伝えるため、立ち上がった。 乙です
>随分老けましたね。化粧も濃くなった
>"十年前"の兵器を車など他の機械に使われている部品や自作の部品で直しながら使っている。
かなり苦労して皺も増えてるってことかね? 乙ですー。老けてケバくなっても頭の中はお花畑なままか・・・このラクスは鬱陶しそうだな〜 三十路(間近)のラクス…
よかったね垂れるほど乳がなくて(棒 ――MARCHOCIAS――
第三話 偽りの唄
漆黒を切り裂き閃光が走る。
それは自分に向けられた殺意。
自分はその閃光をかわしながら、自らの乗る機体を走らす。
それは青い八枚の翼を持った白いMS。
その姿は宇宙空間の漆黒の中、まるで新星の様に白く輝いていた。
自分はそのMSを操りながら、漆黒を切り裂くように飛来する閃光の元を探す。
やがて見つかった"それ"は円盤状の背負い物をした黒いMS。
その周りを八機の"ドラグーン"が飛び回る。
先ほどから飛来していた閃光はこのドラグーンから発せられたものだろう。
その姿を確認すると、自機に搭載されている"スーパードラグーン"を切り離し、黒いMSとドラグーン全機をロックオンする。
相手もこちらをロックオンするが、もはや遅い。
スーパードラグーンと高エネルギービームライフルから発せられた閃光が、黒いMSのメインカメラ、手足、そして周りを飛ぶ八機のドラグーン全てを破壊する。
その直後に鳴り響いた警報は、新たな敵機が近づいている事を知らせるものだった。
しかし自分は不思議なくらい落ち着いていた。
回避行動を取りながら相手位置をセンサーで確認する。
直後、一瞬前に自機がいた空間を巨大な対艦刀が切り裂いた。
宇宙の漆黒を切り裂いたその対艦刀を持つのは、悪魔を思い起こされる赤い隈取りと鳥に似た紅い翼を持つMS。
その姿に一瞬心に痛みを感じたが、すぐさま頭を切り替える。
だがその一瞬の間に相手はこちらとの距離を縮め、もう一度対艦刀を振り下ろしてきた。
その攻撃をかわすと、巨大な対艦刀を振り下ろした後の隙を突いて距離をとる。
そして先ほどと同じように、メインカメラと手足をロックオンして引き金を引いた。
直後に前面モニターに現れたのは、"ミッション終了"の大きな文字。
それを見た瞬間、緊張が解れて思わず大きく息を吐き出す。
『キラ』
息を吐き出して項垂れていた自分を呼ぶ声がして、キラは顔を上げた。
いつの間にかにモニターには漆黒の宇宙空間は消えており、代わりに広いMSの格納庫が広がっていた。
格納庫の中には白衣を着た研究者達があちこちで動き回っている。
その様子を写すモニターの中心に位置するタラップの上には、ピンク色の髪をした女性が立っていた。
「ラスク!」
その姿を見た瞬間、キラはうれしくなって急いでコックピットハッチを開いてMSから飛び降りた。
「すみません、キラ……。辛い事をさせて……」
ラスクに駆け寄った途端、辛そうにそういわれてキラは一瞬何の事か分からなかった。
「……もしかして、さっきの相手機体の事?」
そう言うと、ラスクは無言でうなずいた。
先ほど自分が戦った黒い機体の名は"レジェンド"――辛く、短命の運命を背負った少年が乗っていた機体。
もう一方の隈取りを持った機体の名は"デスティニー"――戦いの運命を背負い、結局自分達が助ける事が出来なかった少年が駆っていた機体。
「……"戦う"って言ったのは僕だよ。だから君が気にする事は何も無い。それに今あるデータの中で∞ジャスティスとストライクフリーダムを抜けば、あの二機が一番性能が高い」
今回のシュミレーションの目的は、"なるべく強い機体"と戦闘する"キラの乗ったMS"のデータ収集だ。
新型MSの製作が禁止されている今、使える機体データは過去に作られたものだけだ。
そこで今回使われたデータが先ほどの二機だった。
しかしこの二機はキラに辛い事を思い起こさせるものだと言う事を、ラスクは知っていた。 だからこそ、キラに対して謝っているのだ。
「そんな悲しそうな顔しないで。そんな顔していると、みんなも心配するよ。」
「キラ……」
キラはラスクを元気付けようと、なるべくやさしい声で語りかける。
キラの声を聞いて、ラスクは顔を上げて真っ直ぐにキラを見た。
昔はキラとラスク慎重差は十センチ程しかなかったが、今ではキラの背は随分伸びた。
一方ラスクの方は、昔なら化粧などほとんどしていなかったのに、今では厚めの化粧で彩られている。
しかしそれは仕方ないとキラは思う。
政治の世界は何かとストレスと過労が溜まるし、それを顔に出すわけにはいかないのだから。
「……ありがとうございます。キラも、もうお疲れでしょう?少しお休みになってください」
「うん、そうさせてもらうよ。ラスクは?」
「わたくしはもう少しここで作業を見させていただきますわ」
「……無理はしないでね」
「これくらい、大丈夫ですわ」
どこか心配そうにそう言ったキラに、ラスクは笑って答えた。
その様子に、キラは困ったように微笑んだ。
だがそれ以上は何も言わず、格納庫を後にする。
キラが出て行くと、格納庫にはラスクと研究者だけが残された。
「……キラの戦闘データはどれくらい取れましたか?」
それは先ほどキラと話していた時とは比べ物にならないほど低く、冷たい声だった。
その声に、近くにいた研究者がパネルを操作しながら答える。
「はい、量としては申し分ないです。ただ、このデータをそのまま使うと、コックピットを外す戦い方になるかと」
「そうですか……。では、データを変更して必要な時は敵コックピットを狙うように設定し直してください。準備出来しだい、テストとして出撃させます」
「わかりました。あと、新型機については……」
「それについては後で伺いますわ」
ラスクの指示に研究者は敬礼で了解の意思を示すと、作業に戻っていった。
一人残されたラスクは、先ほどまでキラの乗っていたMSに近づく。
そしてその装甲に両手で触れ、目を閉じて頬を寄せた。
「……これが完成すれば、戦いは終わる……。もうキラを辛い戦場に出す必要も無くなる……」
その声は広い格納庫の中、誰にも届く事は無かった。
ラスクが触れたMSの名は"ストライクフリーダム"。
そして、その機体とまったく同じ形の機体が全部で十機、格納庫の中に無言で佇んでいた。
****
鍋を叩く音が響いてきて、シンは座った状態のMSをコンテナ内に鎖で固定する作業を中断した。
「皆、昼ご飯ですよ〜」
開け放たれたコンテナのドアの前を、整備士が鍋を叩きながら通り過ぎる。
その声に作業していた傭兵団の仲間達が、作業を中断してコンテナ外へと出て行った。
(最終チェックは食べてからするか……)
固定作業は大体終わり、後は細かなチェックをするだけだが、出発予定は明朝だ。
別に急ぐ必要はあるまい。 シンはそう判断して、コンテナ内を後にする。
窓が無いため熱がこもってしまっているコンテナ内とは裏腹に、外は青空が広がり心地よい風が吹いていた。
そんな青空の下、整備士が鍋をかき回していた。
コンテナを改造して作った居住空間に台所などという上等なものは無いので、料理は外で行う。
ただ食べる所は特に指定は無く、自室に持っていって食べてもその場で立ち食いするのも自由だ。
「今日のメニューは?」
料理は基本当番制になっており、今日の当番は整備士の彼だったらしい。
その事に軽く安堵しながら、シンは彼に聞いた。
安堵した理由は、この傭兵団には料理音痴が居るからだ。
「スープと鹿肉の塩焼きです」
「鹿肉?」
「ええ、隊長が今朝獲ったやつです」
整備士の説明に、シンは思わず周囲を見回して隊長の姿を探した。
探していた姿は、意外とあっさり見つかった。
ちょうどこちらに来る所だった隊長はシンの視線に気が付いたらしく、軽く手を上げて合図した。
――どうも朝から姿が見えないなと思ったら、そんなことしていたのかこの人は。
シンはそう思ったが、口には出さない。
食料補給は確かに大事だ。
もっとも、何かあった時すぐ連絡が取れるところに居なくてどうするのか、とも思うが。
「いや、意外と大きな鹿が取れた。本当なら、肉は数日寝かしておいた方が熟成して美味くなるらしいがな」
「……昔、それで熟成し過ぎて、腹壊した奴が何人も出ましたね」
あれはシンがこの傭兵団に拾われた直後だったから、確か三年ほど前の話しだ。
なにやら妙な酸味がして、酸っぱい物が嫌いなシンはその肉を残した。
それが良かったのかそれとも頑丈すぎる体のせいか、皆が腹を壊した中でシンは平気だった。
その時初めて、シンは自分の酸っぱい物嫌いに感謝したものだ。
他にもこの隊長は鶏肉を生で出したり――牛が生で食べれるのだから平気だと思った、との事――その辺の雑草を大量に料理に混ぜたり――食費節約の為の水増しだったらしい――頼むからレシピ通りに作ってくれと頼み込みたくなる物を作る事がある。
もっとも本人に悪気は無く、いたって真面目だ。
だからこそ、たちが悪いとも言うが。
思わず今まで隊長が作ったよく分からない料理――中には料理とはとても認めたくない物もあったが――を思い出してしまい食欲を無くしたシンは、不意に後ろからの視線を感じて振り返った。
シンの視線の先、そこに座って居たのは、一頭の灰褐色の毛並みを持つ犬だった。
体は大きく耳は三角で真っ直ぐ立ち、首は長くて尻尾の先は丸くなっているその犬は、ただ真っ直ぐとシンの方を見ていた。
シンは少し考えた後、持っていた鹿肉をその犬の方に投げる。
塩が付いているが、この位なら大丈夫だろう。 犬はその鹿肉をうまくキャッチすると、そのまま咥えてどこかに立ち去ってしまった。
「シン、あの犬を餌付けするのやめてください。」
不機嫌を隠すことなくそう言ったのは整備士だ。
実はあの犬にシンが食べ物をやるのはこれが初めてではない。
気が付けば少し離れた所からじっとこちらを見つめている犬に、シンは自分の食事の一部を与えている。
もっとも、今日のようにおかず一品丸ごと与えることなど今までなかったが。
「あの犬、倉庫に巣作ってるみたいで、よく出入りしていて迷惑なんです」
「倉庫?どっちかって言ったらガラクタ置き場の間違い……、いや、なんでもない」
整備士が言った"倉庫"とは、MS整備に使う備品などを置いているコンテナの事だ。
しかしそれを知らない者が見れば、何に使うか分からない鉄板やらボロキレやら鉄の棒が散乱しているそのさまは、ガラクタ置き場にしか見えないだろう。
それを言おうとしたシンだったが、すごい形相でにらみ付けられ慌てて目線を逸らした。
どうやらまたしても地雷を踏んでしまったらしい事に気が付いたが、もはや後の祭りだ。
「だいたい、体力の必要なパイロットが食事抜いてどうするんですか!」
「……スープは飲んでるぞ」
「それで足りるわけ無いでしょ!」
整備士の怒りを和らげようと抵抗を試みたシンだったが、どうやら火に油を注いだだけだったようだ。
こうなったら周りの奴等も面白がって止めようとはしないので、黙って整備士の怒声を聞くしかない。
せめてなるべく早く終わる事を祈るとしよう。
ちょうどシンがそんな事を思ったタイミングだった。
「三時方向にMS反応!識別コードは……ザフトのものです!」
食事中もセンサーで辺りを警戒していた仲間の声に、シンは持っていたスープの入った器を近くに居た仲間に押し付けた。
なにやら大声を発している整備士を無視して全速力で走り、自分のMSが置かれているコンテナに駆け込む。
そしてMSを固定していた鎖を手早く外すとコックピットに飛び込み、起動ボタンを押す。
「いいか、出るのは相手がこちらに攻撃の意思を見せてからだ。たまたま他の目的地に行くため、ここを通りかかっただけである事を祈れ!」
「了解!」
緊張した隊長の声に、シンは自分のMS"ウィンダム"の設定を確認しながら答えた。
いつでも出られる準備が終わったところで、シンはコンテナの外に設置された監視カメラにアクセスする。
正面モニターが切り替わり、コンテナ内部から青い空に映像が変わる。
青い空の映像の中に白い点を見つけて、シンはその部分を拡大した。
そして驚愕に目を見開いた。
「何で……、何でこいつが!?」
モニターに映ったもの、それは八枚の青い翼を持つMS。
"ストライクフリーダム"。
それがシンの知る、そのMSの名だった。 おまけ(?)
――MARCHOCIAS――
最終話 偽りの最終話
キラ「皆間違ってるよ!ラスクは老けたんじゃない!ただ少し疲労が溜まって肌のつやが無くなり、皺が出来たりしてるから、厚めに化粧してるだけだ!」
シン「……はいはい、惚れた弱み乙」
キラ「……(#゚Д゚)」
アスラン「大体それを"老けた"って言うんじゃないか?キラ」
ラスク「……皆さん、少しそこでじっとしててください」←レクイエム発射ボタン押しながら
主要キャラが蒸発してしまったので、MARCHOCIASはこれにて終了です。
今まで読んでくださり、ありがとうございました。
……嘘です。まだ続きます。 >>316
ホントだーーー!! w(゚ロ゚;w(゚ロ゚)w;゚ロ゚)wどうしようこれーーー!
ラスクってお菓子じゃん
これでも何度も読み返したのに、なぜ気が付かなかったんだ、自分……
本当、どうしよう、これ……orz 落ち着け!落ち着いてミスったレスを修正して投下し直すんだ!
しかし、ラスクって基本平たく切ったパンだよな・・・なんだ、案外間違ってn(大破) ――MARCHOCIAS――
第三話 偽りの唄
漆黒を切り裂き閃光が走る。
それは自分に向けられた殺意。
自分はその閃光をかわしながら、自らの乗る機体を走らす。
それは青い八枚の翼を持った白いMS。
その姿は宇宙空間の漆黒の中、まるで新星の様に白く輝いていた。
自分はそのMSを操りながら、漆黒を切り裂くように飛来する閃光の元を探す。
やがて見つかった"それ"は円盤状の背負い物をした黒いMS。
その周りを八機の"ドラグーン"が飛び回る。
先ほどから飛来していた閃光はこのドラグーンから発せられたものだろう。
その姿を確認すると、自機に搭載されている"スーパードラグーン"を切り離し、黒いMSとドラグーン全機をロックオンする。
相手もこちらをロックオンするが、もはや遅い。
スーパードラグーンと高エネルギービームライフルから発せられた閃光が、黒いMSのメインカメラ、手足、そして周りを飛ぶ八機のドラグーン全てを破壊する。
その直後に鳴り響いた警報は、新たな敵機が近づいている事を知らせるものだった。
しかし自分は不思議なくらい落ち着いていた。
回避行動を取りながら相手位置をセンサーで確認する。
直後、一瞬前に自機がいた空間を巨大な対艦刀が切り裂いた。
宇宙の漆黒を切り裂いたその対艦刀を持つのは、悪魔を思い起こされる赤い隈取りと鳥に似た紅い翼を持つMS。
その姿に一瞬心に痛みを感じたが、すぐさま頭を切り替える。
だがその一瞬の間に相手はこちらとの距離を縮め、もう一度対艦刀を振り下ろしてきた。
その攻撃をかわすと、巨大な対艦刀を振り下ろした後の隙を突いて距離をとる。
そして先ほどと同じように、メインカメラと手足をロックオンして引き金を引いた。
直後に前面モニターに現れたのは、"ミッション終了"の大きな文字。
それを見た瞬間、緊張が解れて思わず大きく息を吐き出す。
『キラ』
息を吐き出して項垂れていた自分を呼ぶ声がして、キラは顔を上げた。
いつの間にかにモニターには漆黒の宇宙空間は消えており、代わりに広いMSの格納庫が広がっていた。
格納庫の中には白衣を着た研究者達があちこちで動き回っている。
その様子を写すモニターの中心に位置するタラップの上には、ピンク色の髪をした女性が立っていた。
「ラクス!」
その姿を見た瞬間、キラはうれしくなって急いでコックピットハッチを開いてMSから飛び降りた。
「すみません、キラ……。辛い事をさせて……」
ラクスに駆け寄った途端、辛そうにそういわれてキラは一瞬何の事か分からなかった。
「……もしかして、さっきの相手機体の事?」
そういうと、ラクスは無言でうなずいた。
先ほど自分が戦った黒い機体の名は"レジェンド"――辛く、短命の運命を背負った少年が乗っていた機体。
もう一方の隈取りを持った機体の名は"デスティニー"――戦いの運命を背負い、結局自分達が助ける事が出来なかった少年が駆っていた機体。
「……"戦う"って言ったのは僕だよ。だから君が気にする事は何も無い。それに今あるデータの中で∞ジャスティスとストライクフリーダムを抜けば、あの二機が一番性能が高い」
今回のシュミレーションの目的は、"なるべく強い機体"と戦闘する"キラの乗ったMS"のデータ収集だ。
新型MSの製作が禁止されている今、使える機体データは過去に作られたものだけだ。
そこで今回使われたデータが先ほどの二機だった。
しかしこの二機はキラに辛い事を思い起こさせるものだと言う事を、ラクスは知っていた。 だからこそ、キラに対して謝っているのだ。
「そんな悲しそうな顔しないで。そんな顔していると、みんなも心配するよ。」
「キラ……」
キラはラクスを元気付けようと、なるべくやさしい声で語りかける。
キラの声を聞いて、ラクスは顔を上げて真っ直ぐにキラを見た。
昔はキラとラクス慎重差は十センチ程しかなかったが、今ではキラの背は随分伸びた。
一方ラクスの方は、昔なら化粧などほとんどしていなかったのに、今では厚めの化粧で彩られている。
しかしそれは仕方ないとキラは思う。
政治の世界は何かとストレスと過労が溜まるし、それを顔に出すわけにはいかないのだから。
「……ありがとうございます。キラも、もうお疲れでしょう?少しお休みになってください」
「うん、そうさせてもらうよ。ラクスは?」
「わたくしはもう少しここで作業を見させていただきますわ」
「……無理はしないでね」
「これくらい、大丈夫ですわ」
どこか心配そうにそう言ったキラに、ラクスは笑って答えた。
その様子に、キラは困ったように微笑んだ。
だがそれ以上は何も言わず、格納庫を後にする。
キラが出て行くと、格納庫にはラクスと研究者だけが残された。
「……キラの戦闘データはどれくらい取れましたか?」
それは先ほどキラと話していた時とは比べ物にならないほど低く、冷たい声だった。
その声に、近くにいた研究者がパネルを操作しながら答える。
「はい、量としては申し分ないです。ただ、このデータをそのまま使うと、コックピットを外す戦い方になるかと」
「そうですか……。では、データを変更して必要な時は敵コックピットを狙うように設定し直してください。準備出来しだい、テストとして出撃させます」
「わかりました。あと、新型機については……」
「それについては後で伺いますわ」
ラクスの指示に研究者は敬礼で了解の意思を示すと、作業に戻っていった。
一人残されたラクスは、先ほどまでキラの乗っていたMSに近づく。
そしてその装甲に両手で触れ、目を閉じて頬を寄せた。
「……これが完成すれば、戦いは終わる……。もうキラを辛い戦場に出す必要も無くなる……」
その声は広い格納庫の中、誰にも届く事は無かった。
ラクスが触れたMSの名は"ストライクフリーダム"。
そして、その機体とまったく同じ形の機体が全部で十機、格納庫の中に無言で佇んでいた。
****
鍋を叩く音が響いてきて、シンは座った状態のMSをコンテナ内に鎖で固定する作業を中断した。
「皆、昼ご飯ですよ〜」
開け放たれたコンテナのドアの前を、整備士が鍋を叩きながら通り過ぎる。
その声に作業していた傭兵団の仲間達が、作業を中断してコンテナ外へと出て行った。
(最終チェックは食べてからするか……)
固定作業は大体終わり、後は細かなチェックをするだけだが、出発予定は明朝だ。
別に急ぐ必要はあるまい。 シンはそう判断して、コンテナ内を後にする。
窓が無いため熱がこもってしまっているコンテナ内とは裏腹に、外は青空が広がり心地よい風が吹いていた。
そんな青空の下、整備士が鍋をかき回していた。
コンテナを改造して作った居住空間に台所などという上等なものは無いので、料理は外で行う。
ただ食べる所は特に指定は無く、自室に持っていって食べてもその場で立ち食いするのも自由だ。
「今日のメニューは?」
料理は基本当番制になっており、今日の当番は整備士の彼だったらしい。
その事に軽く安堵しながら、シンは彼に聞いた。
安堵した理由は、この傭兵団には料理音痴が居るからだ。
「スープと鹿肉の塩焼きです」
「鹿肉?」
「ええ、隊長が今朝獲ったやつです」
整備士の説明に、シンは思わず周囲を見回して隊長の姿を探した。
探していた姿は、意外とあっさり見つかった。
ちょうどこちらに来る所だった隊長はシンの視線に気が付いたらしく、軽く手を上げて合図した。
――どうも朝から姿が見えないなと思ったら、そんなことしていたのかこの人は。
シンはそう思ったが、口には出さない。
食料補給は確かに大事だ。
もっとも、何かあった時すぐ連絡が取れるところに居なくてどうするのか、とも思うが。
「いや、意外と大きな鹿が取れた。本当なら、肉は数日寝かしておいた方が熟成して美味くなるらしいがな」
「……昔、それで熟成し過ぎて、腹壊した奴が何人も出ましたね」
あれはシンがこの傭兵団に拾われた直後だったから、確か三年ほど前の話しだ。
なにやら妙な酸味がして、酸っぱい物が嫌いなシンはその肉を残した。
それが良かったのかそれとも頑丈すぎる体のせいか、皆が腹を壊した中でシンは平気だった。
その時初めて、シンは自分の酸っぱい物嫌いに感謝したものだ。
他にもこの隊長は鶏肉を生で出したり――牛が生で食べれるのだから平気だと思った、との事――その辺の雑草を大量に料理に混ぜたり――食費節約の為の水増しだったらしい――頼むからレシピ通りに作ってくれと頼み込みたくなる物を作る事がある。
もっとも本人に悪気は無く、いたって真面目だ。
だからこそ、たちが悪いとも言うが。
思わず今まで隊長が作ったよく分からない料理――中には料理とはとても認めたくない物もあったが――を思い出してしまい食欲を無くしたシンは、不意に後ろからの視線を感じて振り返った。
シンの視線の先、そこに座って居たのは、一頭の灰褐色の毛並みを持つ犬だった。
体は大きく耳は三角で真っ直ぐ立ち、首は長くて尻尾の先は丸くなっているその犬は、ただ真っ直ぐとシンの方を見ていた。
シンは少し考えた後、持っていた鹿肉をその犬の方に投げる。
塩が付いているが、この位なら大丈夫だろう。 犬はその鹿肉をうまくキャッチすると、そのまま咥えてどこかに立ち去ってしまった。
「シン、あの犬を餌付けするのやめてください。」
不機嫌を隠すことなくそう言ったのは整備士だ。
実はあの犬にシンが食べ物をやるのはこれが初めてではない。
気が付けば少し離れた所からじっとこちらを見つめている犬に、シンは自分の食事の一部を与えている。
もっとも、今日のようにおかず一品丸ごと与えることなど今までなかったが。
「あの犬、倉庫に巣作ってるみたいで、よく出入りしていて迷惑なんです」
「倉庫?どっちかって言ったらガラクタ置き場の間違い……、いや、なんでもない」
整備士が言った"倉庫"とは、MS整備に使う備品などを置いているコンテナの事だ。
しかしそれを知らない者が見れば、何に使うか分からない鉄板やらボロキレやら鉄の棒が散乱しているそのさまは、ガラクタ置き場にしか見えないだろう。
それを言おうとしたシンだったが、すごい形相でにらみ付けられ慌てて目線を逸らした。
どうやらまたしても地雷を踏んでしまったらしい事に気が付いたが、もはや後の祭りだ。
「だいたい、体力の必要なパイロットが食事抜いてどうするんですか!」
「……スープは飲んでるぞ」
「それで足りるわけ無いでしょ!」
整備士の怒りを和らげようと抵抗を試みたシンだったが、どうやら火に油を注いだだけだったようだ。
こうなったら周りの奴等も面白がって止めようとはしないので、黙って整備士の怒声を聞くしかない。
せめてなるべく早く終わる事を祈るとしよう。
ちょうどシンがそんな事を思ったタイミングだった。
「三時方向にMS反応!識別コードは……ザフトのものです!」
食事中もセンサーで辺りを警戒していた仲間の声に、シンは持っていたスープの入った器を近くに居た仲間に押し付けた。
なにやら大声を発している整備士を無視して全速力で走り、自分のMSが置かれているコンテナに駆け込む。
そしてMSを固定していた鎖を手早く外すとコックピットに飛び込み、起動ボタンを押す。
「いいか、出るのは相手がこちらに攻撃の意思を見せてからだ。たまたま他の目的地に行くため、ここを通りかかっただけである事を祈れ!」
「了解!」
緊張した隊長の声に、シンは自分のMS"ウィンダム"の設定を確認しながら答えた。
いつでも出られる準備が終わったところで、シンはコンテナの外に設置された監視カメラにアクセスする。
正面モニターが切り替わり、コンテナ内部から青い空に映像が変わる。
青い空の映像の中に白い点を見つけて、シンはその部分を拡大した。
そして驚愕に目を見開いた。
「何で……、何でこいつが!?」
モニターに映ったもの、それは八枚の青い翼を持つMS。
"ストライクフリーダム"
それがシンの知る、そのMSの名だった。 修正版です。
名前以外直してないんで、前の読んだ方は読み直さなくて大丈夫ですよ(;´Д`A ```
今回はすみませんでした m(_ _)m >>324
乙です。
続き楽しみにして待ってます。 ――MARCHOCIAS――
第四話 強襲
白い機体が天空からこちらを見たことに気が付いた時、シンは思わず息を呑みこんだ。
嫌な汗が額を流れ落ちる。
それは過去の記憶に端を発する条件反射だ。
シンはそれを少しでも和らげる為に、コントロールスティックを強く握り締めた。
(なんでこいつがこんな所に居るんだ!?まさか、この間ラクス・クラインを"老けた"って言ったせいじゃないよな!?)
シンは思わずそう思ったが、直後にそんな会話が相手に知られている事などあり得ない事に気が付いた。
大体、まだ相手の標的が自分達であると決まった訳ではない。
世界的に経済が破綻した今では、難民が廃材を使って家を建て、そこで暮らしている事も珍しくない。
だからコンテナを集めて作ったこの拠点も、上空から見ただけではそこに暮らしているのが一般人なのか、取締り対象である兵器を所持した者なのかは、判断付かないはずだ。
それが故に、シンはストライクフリーダムがこのまま上空を通り過ぎる事を無意識に期待した。
だが、その期待はあっさりと裏切られた。
ストライクフリーダムがこちらに向かって高エネルギービームライフルを構えた時、シンの体は考えるよりも先に動いた。
シンの乗ったウィンダムがコンテナの天井を突き破って外に出る。
一瞬ストライクフリーダムの攻撃を盾で防ごうかと考え、その盾を随分昔に駄目にしたままであることに気が付いた。
仕方なく、シンはビームライフルを構える。
だが、間に合わない。
シンがトリガーを引く前に、ストライクフリーダムの高エネルギービームライフルが閃光を放つ。
その銃口が向いていたのは丁度拠点の中心、先ほどまで皆で食事をしてた所だ。
しかしその閃光は空中で巨大な影に遮られ、四散する。
巨大な影の正体、それは隊長の乗るダガーLだった。
その隙に、シンはビームライフルを連射してストライクフリーダムが次の攻撃に出ることを阻止した。
ライフルを連射しながらシンは、ストライクフリーダムの行動に疑問を感じていた。
自分の知るキラ・ヤマトは人を殺す事を嫌がり、コックピットを外す"殺さず"の戦いを好んだ。
だが今、目の前のストライクフリーダムは優著無く引き金を引いた。
そこに人が居ることは、センサーで生命反応を調べればすぐに分かるはずだ。
(キラ・ヤマトじゃない……?)
そんな考えがシンの頭の中をよぎったが、ストライクフリーダムはキラ・ヤマト専用機として作られたはずだ。
そう簡単に他の者が扱える機体ではない。
だが、もしキラ・ヤマトでは無いとしたら……、勝てる確率は少しは上がるかもしれない。
本当にかすかな希望だったが、それでもシンはそのかすかな希望に賭けることにした。
ウィンダムのビームライフルを避けて高度を取ったストライクフリーダムを追って、ウィンダムが大地を蹴る。
そしてストライクフリーダムの後を追って青い空へと舞い上がる。
ストライクフリーダムの後ろを取ると、コックピットに狙いを定めてトリガーを引く。
しかし狙い定めたはずの攻撃はストライクフリーダムをかする事さえ出来ず、シンは思わず舌打ちした。
(そういえば昔フリーダムと戦った時も大きな隙を作らせない限り、ライフルは当たらなかったな)
あの時はインパルスの分離、合体システムを使って隙を作ったが、ウィンダムではそれは不可能だ。
だが今すぐ出来る隙を造る作戦を考えてみたが、ぶっつけ本番でうまくいきそうな作戦は思いつかなかった。
その間に、目の前に居たストライクフリーダムが姿を消した。
一気に出力を上げて、高度を取ったのだ。
(!?後ろを取られる!)
ストライクフリーダムとウィンダムでは、その出力差はまさに月とすっぽんだ。 このままでは後ろを取られるのは時間の問題であり、一度後ろを取られたらもはや振りきる事は難しいだろう。
そして後ろを取られたら、ただでさえ機体性能差で不利な状況なのに、さらに不利になる要素が加わるという事になる。
シンは機体を反転させ、背泳ぎをするような形で飛行しながらビームライフルを撃った。
しかしストライクフリーダムは、まるでビームライフルの軌道が分かっているかのように全ての閃光を楽々と避けていく。
その姿は優雅と言えるだろうが、シンにとっては憎々しいばかりだ。
どうにかして振り払おうと試みるが、その努力は実りそうも無い。
(いっそ、後ろに付かせてオーバーランを狙うか……!?)
だがそれも何度も通用する手ではないので、チャンスは一回きり、しかもチャンスが来るのが早いか、それとも自分が落とされるのが早いかの賭けだ。
それも成功したとしても出力の違いからすぐに回り込まれてしまう可能性が高い、分の悪い賭けだ。
しかし他に手は無い。
そうシンが腹を決めた時――
『シン!三時の方向、距離1000にある大岩の所に来い!』
「隊長!?」
そういえば、隊長の事すっかり忘れてた。
確かに周りに居なかったな。
シンはそんな場違いな事を思ったが、その間にストライクフリーダムがウィンダムの後ろに回り込んでいた。
とにかく今は隊長を信じるしかあるまい。
シンはそう決め、ストライクフリーダムが放つ高エネルギービームライフルの光線をかわしながら指定のポイントに向かう。
『相手をなるべく低く誘導しろ!』
隊長の通信に、シンは思わず小さく舌打ちをした。
無茶な注文をする。
だが、やらねば落とされるだけだ。
そう覚悟を決めて、一気に降下する。
下方は広大な森。
シンは木に激突するすれすれの所で態勢を立て直した。
ストライクフリダームはこちらの動きに合わせて高度を落としたが、それでもまだウィンダムの上空だ。
シンは高い木を盾代わりにして機体を飛ばしながら、時々機体を反転させてビームライフルを放つ。
ビームライフルを避けるためか、木々を盾にするウィンダムの動きに焦れたのか、ストライクフリーダムの飛行高度は少しずつ下がってきていた。
だがそれは、ストライクフリーダムに完全に後ろを取られたような形だ。
一瞬でも気を抜けば、落とされるだろう。
ストライクフリーダムの高度が十分下がったと判断したシンは、速度を上げて指定ポイントへ急ぐ。
その間にも、ウィンダムの真横を高エネルギービームライフルの光線が掠めていく。
なんとかそれらをかわし、指定ポイントにある大岩の上空を通り過ぎる。
直後、大岩の影から飛び出したのは、大きな円筒型の砲を担いだダガーLだった。
ダガーLは高速で飛来したストライクフリーダムに向かって砲を放つ。
しかしそれはロケットの類ではなく、太いワイヤーで作られたMS捕獲用のネットだった。
自分達のような小規模の傭兵団の場合、報酬のいい大きな依頼など、まずこない。
そのため、少しでも報酬を増やすために敵MSをなるべく傷つけないように捕獲して売りさばくのが常である。
このMS捕獲用のネットもそのための道具だ。
ストライクフリーダムはその優れたスピードが故に、ネットを避けることが出来ずに自ら飛び込むような形になった。
ネットに絡みつかれ自由を奪われたストライクフリーダムは、そのまま失速して地面に激突する。
シンはその間にビームサーベルを引き抜き、ストラクフリーダム目掛けて飛んだ。
そして地面でネットを振り払おうともがくストライクフリーダムのコックピット目掛けてビームサーベルを突き刺した。
白い装甲が黒く焼け、ストライクフリーダムの胴体に大きな穴が開く。
それを確認したシンは、急いで機体を上昇させた。
『やったか!?』
「って、隊長!これ核動力機ですよ!?ぼさっとしてると爆発に巻き込まれます!」
『は?核って……核動力機は十年以上前に製造も所有も禁止されたはずだろ!?なんでこんな所に在るんだ!?』 「知りませんよ!そんな事、ここに持って来た奴に聞いてください!!」
シンと隊長が言い争っているうちに、ストライクフリーダムの機体から激しい火花が散り始めた。
それを見た隊長が、ダガーLを急発進させる。
その直後、辺りを焼き尽くす核の炎が広がる。
周りの木々がその炎に包まれ、瞬時で消滅した。
だが、それも一瞬の出来事だった。
どうにかギリギリで核の炎から逃げることが出来た二人は、ほぼ同時に安堵の吐息を吐きだした。
「……拠点の方は?」
『……移動準備はほとんど終わってたからな。もう移動開始して、被害は無いだろう』
「……そーですか」
疲れた。
いつもの十倍くらい疲れた。
そう思いながら、シンは大きなため息をついた。
しかし、やはりあのストライクフリーダムに乗っていたのはキラ・ヤマトではなかったのだろうか?
世界最強と言われるストライクフリーダムとキラ・ヤマトの組み合わせが"MS捕獲用ネットに捕まって落ちました"では、あまりに間抜けすぎてキラ・ヤマトに壊滅的被害を受けた地球軍がなんだか哀れに思える。
『とにかく、移動中の奴らと合流するぞ』
「……了解」
とにかく今は休みたい。
こんなに疲れたのもかなり久々だ。
シンは深く考えるのやめて、隊長のダガーLに続いて機体を反転させた。
しばらく飛ぶと、コンテナを積んだトラックが何台も列をなして走っているのが見えた。
その姿を見てホッとしたのと、コックピットの中をけたたましい警報が鳴り響いたのはほとんど同時だった。
『まだ他にもいたのか!?』
隊長の声とシンの舌打ちの音が重なる。
シンはセンサーで新たに現れた機体の数と距離を確認した。
数は三。
よく考えてみれば、ザフトに組するストライクフリーダムが一機だけで行動しているなんて考え辛い。
案の定、認識コードは三機ともザフトのものだった。
距離はまだ少しあるが、身を隠したり補給する暇は無さそうだ。
そうなると、バッテリーと推進剤の残量が苦しい。
最悪、ダガーL一機に任して補給しに戻らないといけないだろう。
だが相手が性能の低い機体だったら、二機でかかれば何とかなるかもしれない。
そう判断して、相手が視野に入るまで待機する。
しかし視野に入ったその機体は――
『ストライクフリーダム……。しかも、三機だと!?』
隊長の絶望に満ちた声が通信機越しに聞こえてくる。
その声をどこか遠くに聞きながら、シンは声も出す事さえ出来ず、ただその並んで飛ぶ三機の純白の機体を呆然と凝視した。
今すぐ逃げろと頭の中で誰かが大声で叫ぶが、指が動かない。
その間にも三機のストライクフリーダムが近づいて来る。
そして三機とも全く同じ動きで高エネルギービームライフルとクスィフィアス3レール砲を構えた時、シンは我に返った。
『全員逃げ……!』
隊長の言葉は光の洪水の中に消える。
シンは勘だけを頼りに機体を動かした。
三機のストライクフリーダムが放った閃光に包まれて、もはや下も上も分からない。
まずその閃光に焼かれて消えたのは右腕だった。
次は左足。
機体のパーツが次々消えていく。
その間、シンは時間がやたらとゆっくり進んでいるような気がした。 だがそれは一瞬の出来事だった。
時間が元のスピードを取り戻したとき、ウィンダムはまともにコントロールが効く状態ではなかった。
コックピットの中を警報が鳴り響き、高度計が示す数値がどんどん減っていく。
(落ちる……!!)
そう悟ったシンの目に、巨大なコンテナの姿が映った。
そのコンテナは黒く変色して煙を上げていたような気がしたが、そんな事を考えている余裕はシンにはなかった。
とにかく直撃を避けるため、コントロール・スティックを傾ける。
傷ついた機体は思うように動かなかったが、それでもコンテナへ直撃は回避出来た。
しかしその時には、機体を不時着させる事は不可能になっていた。
ウィンダムの機体は背中から地面に激しく叩き付けられ、そのまま木々をなぎ倒して止まる。
その衝撃は凄まじく、シンの意識は闇の中に消えていった。
****
一体どれくらいの時間が経ったのか、シンは遠くで発砲音と悲鳴を聞いたような気がして目を覚ました。
しかし頭がくらくらして思考がまとまらない。
頭痛もするし、めまいもする。
何とかそれらを収めようと、シンは強く目をつぶって頭を振った。
その耳に届いたのはコックピットハッチが開く音だった。
シンはめまいのする目でハッチの方に視線を向けた。
その目に映ったのは、数人の見慣れない人影だ。
そしてその人影がライフルを構えていることに気が付いたシンは、反射的に身を隠そうと動いた。
しかし、その体はベルトでしっかりとシートに固定されている。 直後、発砲音が立て続けに辺りに響いた。
初めに感じたのは胸を思い切り殴られたような強い衝撃。
続いて喉の奥から熱いものが逆流してきて、シンはその場に吐き出した。
それは赤黒い血。
直後に視界がブラックアウトする。
痛みを感じる暇もなく、シンの意識は途絶えた。
****
襲撃者達は今撃った黒髪の少年が動かなくなった事を確認してから、大破したウィンダムの上から降りた。
直後、破壊されたコンテナの中から灰褐色の獣が飛び出し、襲撃者の一人に跳びかかる。
襲撃者は情けない悲鳴を上げ、その場に尻餅をついた。
半ばパニックになった襲撃者の上に伸し掛かると、獣は首に噛み付こうと牙をむいた。
仲間の襲撃者は、急いで獣に銃を向けるとそのまま引き金を引く。
発砲音とほぼ同時に、獣の悲鳴が辺りに響いた。
撃たれた衝撃に、獣は襲撃者の上から吹き飛ばされ、地面の上をのた打ち回った。
しかしそれも長い時間ではなく、やがて血を吐き動かなくなる。
それを確認した襲撃者達は、顔を見合わせ一つだけ頷く。
そして何も言葉を交わさぬまま、駆け足でその場を立ち去った。
後には大量の血と、いくつもの屍が残った。 第四話です。
いつもコメ、本当にありがとうございます m(_ _)m ――MARCHOCIAS――
第五話 出会い
広い執務室の中にポツンと置かれた机の上で、ラクス・クラインは一本の通信を受けていた。
「つまりどういう事なのか、はっきり仰ってください。」
その声も表情も優しかったが、目は全く笑っていない。
ラクスの目の前にあるモニターに映る研究者は、そんなラクスの様子に狼狽え、目線をさまよわせている。
『えっと……つまり、"量産型ストライクフリーダム"の一機が落とされまして……』
「それはキラが敵わない相手だった、ということですの?」
ラクスの顔に笑顔が広がる。
だがやはり、目は笑っていない。
むしろその目は冷たくなるばかりだ。
『め、滅相もございません!キラ様に敵う者などこの世に居るはずがございません!ただ、相手がこちらの想定していない手を使いまして、それでAIの判断が一瞬遅れたせいで……』
研究者は何とかその場を取り繕うと、必死に言葉を紡ぐ。
だがその全てが、ラクスにとっては気を引くものではなかった。
「それで、相手の方はどうなりましたか?」
『え?あ、はい……。全員の"処分"は終了したとのことです』
「ではこの後、同じ過ちは犯さないよう、努力していただけますね?」
『は、はい!今回のデータからすでに改良が始まっています。また同じような事で落とされる事は絶対に在りません!』
「そうですか……」
ラクスはそう言うと、今度はちゃんとした笑顔を作った。
その笑顔に、研究者の顔が安堵の表情に変わる。
「それでは、引き続きお願いします」
『はっ!お任せください!』
研究者が敬礼をしながら力強く答える。
それを見た後、ラクスは通信機の電源を切った。
そして椅子に深く座りなおし、一つ吐息を吐きだした。
――全員の"処分"は終了したとのことです。
研究者の言葉、それは全員"殺した"という意味である事を、ラクスは知っていた。
そう、それでいい。
キラを害する可能性のあるものは、全てこの世から消え失せれはいい。
そもそも戦いを広げる者達だ。
心を痛む理由など、どこにある?
広い執務室にはラクス一人しかいなかった。 そのため、ラスクの顔に先ほどとは全く違う"邪悪"としか表現出来ない笑みが浮かんでいた事を、誰一人知る事はなかった。
****
鳥の声が聞こえる。
まだ朝飯だと呼ぶ声はしてこないから、そう早い時間ではないのかもしれない。
そんな事を思いながら起き上がろうとしたが、やたらと体が重く、目を開ける事さえ出来ない。
無理やりあけた目に映ったのは、見慣れたコンテナ内の自室ではなく、MSのコックピットの中だった。
シンは一瞬、なぜ自分がそこにいるのか分からなかった。
だが直ぐに気を失う直前の事を思い出し、反射的に自分の胸に視線を向ける。
視界の先に映ったのは黒く変色した血がべったりと付着し、弾丸による穴が開いる服だった。
しかしその穴から見える素肌に、傷跡はまったく無かった。
シンはうまく動かない体にムチ打って、何とかコックピットから這い出す。
だが足にうまく力が入らず、大破したウィンダムの上から滑り落ちた。
痛みに呻きながら、それでも装甲に寄りかかりながら立ち上がったシンは、辺り一面に血の匂いが充満していることに気が付いた。
そして顔を上げたシンの視界に映ったのは――
「……"また"……か……」
シンは力なくそうつぶやいた。
シンの目の前に広がっていたのは、野ざらしにされた何体もの屍だった。
しかもそれはどれも自分がよく知っていた者達、傭兵団のメンバーのものだった。
シンはその場に崩れるように座り込んだ。
涙は出なかった。
ただ、何も考えたくなかった。
考えれば自分以外に生存者がいる可能性が低いという事が分かってしまうし、家族の吹き飛ばされてバラバラになった死にざまを思い出してしまうからだ。
不意に、なにやら聞きなれない音が聞こえてきて、シンは顔を上げた。
それはか細く、高い獣の声。
シンはうまく力の入らない足で立ち上がると、その声に導かれるようにして歩き出した。
見知った顔の屍の横を通り過ぎ、やっとの思いでたどり着いたのは倉庫に使っていたコンテナの前だ。
誰かが開けたのか、それとも攻撃を受けた衝撃で開いてしまったのか、その扉は開け放たれたままだった。
そして獣の声は、開け放たれたままの扉の奥から聞こえてきた。
シンはコンテナの中に入ると、声の出所をさがす。
散らかったコンテナの中をしばらく探すと、その声は鉄クズが入った箱の裏から聞こえて来ることに気が付いた。
箱を乱暴にどかすと、そこにはボロキレが落ちていた。
そしてその上に黒い物体がうごめいていた。
シンは一瞬ネズミかと思ったが、どうやらそれはイヌ科の生き物の子供のようだった。
それが何かを探すようにボロキレの上を這いながら、か細く高い声で鳴いている。
シンは手を伸ばすと、その子犬を拾い上げた。
まだ目も開いておらず、その大きさはシンの片手に乗ってしまうほど小さい。
拾い上げられたその子犬は、驚いたのか一瞬動きを止めた。
しかし直ぐに動き出すと、シンの腕の中に潜り込もうとするかのように必死で手足を動かした。
――温かい。
肌に感じる生き物の体温に、シンはふとそう思った。
途端に涙が出てきて頬を濡らす。
涙は次から次へと溢れ出してきて、止める事が出来なかった。 シンはただ、子犬を抱えたまま泣いた。
泣いたのは、ずいぶん久しぶりだった。
****
乾いた大地の上を、数台のトラックが土埃を立てながら進む。
それを崖の上から見ていた人影は、通信機に向かって短い言葉をかけた。
ニュートロンジャマーの影響で長距離の無線通信は無理だが、近距離ならば問題はない。
その通信を受けたのは、十人を超える男達。
全員バイクにまたがり、布やヘルメットで顔を隠し、銃で武装していた。
そんな男達の中、一人だけ二十代中ほどの女性が混じっていた。
その女性は長めの茶色い髪を頭の高い位置で一つでまとめ、ゴーグルをかけて口元を布で覆い隠していた。
「コニール」
自らの名前を呼ばれ、茶髪の女性――コニールは声の方を振り返った。
「他の班も準備オーケーだそうだ。五カウント後に始めるぞ」
通信機を持った男の声にコニールは頷くだけで答え、バイクのハンドルを握った手に力を込めた。
そんな中、数を数える男の声がやたらと大きく響く。
五から始まったカウントが一となった瞬間、コニールは一気にバイクのアクセルを入れた。
それは周りの男たちも同じで、途端に何台ものバイクが岩場の影から飛び出す。
途端に砂埃が大量に舞い上がった。
砂埃を巻き上げながら、バイクの群れはトラックに向かって一直線に進む。
それを見たトラックの方も、危険を感じたのだろう。
一気に加速する。
しかし荷台に大量の荷物が積まれているためかさほどスピードは出ず、直ぐにバイクが追いついた。
トラックに追いつくと、その運転席に向かって銃を撃ち込んだ。
運転手はとっさに避けようとしたのかトラックは大きく横へ滑り、そのままスリップして横倒しになった。
その間にも、他のトラックに銃弾が撃ち込まれる。
あるものはタイヤに弾が当たりその場で停車し、あるものは運転席が血まみれになって停車した。
パンクしたトラックの運転者が、慌ててトラックから飛び降りる。
そのまま必死で走り出したが、その後を追う者はいない。
この辺りには民家はなく、ずっと乾いた大地が続いている。
そこを何の準備もなく渡る事は自殺行為に等しい。
それをわざわざ止めを刺すほど時間の余裕はないし、助けるほど親切でもない。
コニールは急いでバイクから降りると、トラックの荷台に飛び乗る。
そこに乗っていたのは大量の小麦袋だった。
近くにあった小麦袋を背負うと、コニールはバイクの荷台に小麦袋を乗せる。
それを数度繰り返しバイクの荷台に積めるだけ小麦袋を積むと、崩れないようにロープで縛りつけた。
「先に戻る!」
同じようにバイクの荷台に小麦袋を積んでいる男たちにそう声をかけ、コニールはバイクを発進させた。
地球圏の治安の悪化の要因の一つに、食料の不足がある。
ニュートロンジャマーによる電力不足、度重なる大きな戦争、ブレイクザ・ワールドによる農地の破壊および気候変動。
食料の不足を訴えて、人々がテロや暴動を起こすまでそう時間はかからなかった。
しかしザフトにより武装解除されていた地球軍にそれらを止める手立てはなく、仕方なくプラントに助けを求めた。 そして、そのテロや暴動を鎮圧する見返りとしてプラントが要求したのが食料だった。
もともとプラントでは食料自給が禁止されていたため、食料を地球側からの輸入に頼っていた。
近年では食料自給のコロニーがいくつか建設され、食料自給がはじまっているが、さすがに十年ほどで数千万人分の食料を自給する環境を宇宙に造るのは無理だった。
そのため、今でもプラントでは食料を地球側に依存している。
そしてそれは島国であるがために、食料自給率の低いオーブにも同じ事が言える。
オーブはプラントに技術提供や物資の輸出により、プラントから食料を得ている。
結果、食料に困らないのはプラントとオーブに住む人々、そしてそれを横流しする"お偉いさん"達だけだ。
そして今コニール達が住んでいる地域の人々も同じく、飢えと貧困に晒されている。
昔住んでいたガルナハン周辺は、ザフトに"武器を持つテロリスト達の巣窟"として焼き払われた。
"ギルバート・デュランダルは世界を牛耳ろうとした悪である"と言いながらピンク色の髪の歌姫が新議長に就任した時、自分は"本当にそうなのか"と疑ったものだが、いくらなんでもいきなり町を焼き払うとは思ってもいなかった。
それに対して怒りの声を上げたところで相手は宇宙の彼方。
その声は届くことはない。
今それよりも大事なことは"今日をどう生き抜くか"である。
町を焼き払われた事で、生きる糧はすべてなくなった。
少ない選択肢の中で自分たちが選んだ道は"奪われるならば奪い返す"という修羅の道だった。
いつ軍が自分たちを"テロリスト"と断定して襲ってくるかも分からない。
渓谷の影に隠れるように民家を作り、あちこちに避難用の隠し通路を張り巡らし、常にこちらに来る人や飛行機を警戒する。
そんな毎日が続いている。
コニールは自分たちが住む渓谷の集落に戻ると、奪ってきた小麦袋を隠し倉庫の中に入れた。
自分たちが戻って来た事に気が付いた集落の人々は、食料を持って来た自分達を褒め称えた。
そこにトラックの運転手など傷つけた相手に対する罪悪感はない。
だが、それも当たり前だ。
元々この小麦は彼らが日々の糧にするはずの物だったのだから。
それを難癖つけて奪っていく政府やプラント、そしてオーブは彼らにとって"悪"でしかない。
それは分かっていたが、コニールは運転席を染める赤い血を見てしまっていたがために、その称賛を素直に受け取る事が出来なかった。
どこかモヤモヤした気持ちのまま民家の二階にある自室に戻ったコニールは、布団が汚れるのも構わずベットに倒れこんだ。
自分が選んだ道に後悔はない。
それしか生きる術を見つける事が出来なかったのだから。
いくらそう自分に言い聞かせてもモヤモヤした気持ちは消えない。
そんな事を考えている内に、コニールはいつの間にか眠っていたらしい。
通信機がなる音で目が覚めると、窓の外は薄暗くなり始めていた。
「……はい」
声がどこかそっけなくなってしまったのは、寝起きのせいだ。
『コニールか!?今どこにいる!?』
だが、通信機の向こうの相手はそんな事気にしている余裕は無いようだった。
切羽詰まったその声に、コニールは思わず眉を寄せる。
「どこって……自室だけど?」
『今すぐ来い!集落に向かって近づいて来る奴がいる!!』
その言葉に、コニールはベットから飛び起きた。
「軍の奴らか!?数は!?場所は!?」
『今確認できるのは一人だけだが、他に仲間がいないとも限らない!東区B‐5地点だ!』
それを聞くとコニールは部屋を飛び出し、民家の前に置いておいたバイクにまたがると、急いでエンジンを掛けて走り出す。
目的地に着くと、バイクを乗り捨てて渓谷を削って作った階段を上る。
そこには渓谷の中をくり抜いて作った見張り場だった。
コニールが着いた時には、すでに数人の仲間が集まっていた。
仲間の一人が無言で双眼鏡をコニールに渡すと、ガラスのはまっていない、ただくり抜かれただけの窓の外を指差した。
コニールも無言でその双眼鏡を覗き込み、指差された方を見た。
少し探したその姿に、コニールは眉を寄せた。 動きやすい格好に丈夫そうな厚手のコートは、昼は温かくても夜は寒くなるこの地方にはおかしくはない。
しかしその背丈はどう見ても十代半ばか、高くても二十代直前ぐらいにしか見えない。
そんな年齢の少年――薄暗いために顔は判らなかったが、コートは男物のようだから多分"少年"だろう――が一人でこんな所をうろついているなんておかしい。
自分の知っているザフト兵は、これくらいの年で巨大なMSを操っていた。
もしかしたら、ザフトの一般人を装った偵察の可能性もある。
「とりあえず、威嚇射撃でもしてみるか?」
仲間の提案に、コニールは頷いた。
ただの一般人なら、威嚇射撃を受けた時点で驚いてさっさと逃げるだろう。
だが、もし"一般人"ではないとしたら――
仲間の一人がライフルを少年の足元に狙いをつけて撃つ。
その途端、少年が動いた。
素早く近くの岩陰に隠れると、腕だけを出す。
その腕に握られていたのは黒い小型の銃だ。
直後に窓の近くに銃弾が着弾した。
「チッ……、どうやら素人ではなさそうだ!」
少年はたった一度の攻撃で、こちらの大体の位置を察知した。
それはとても素人が出来る事ではない。
「コニール!ここから北東の避難通路出口に行け!そこに追い込む!何者かを調べなくちゃならないから、なるべく殺すなよ!!」
「了解!」
仲間の言葉にコニールは短くそう答えると、さっき上って来た階段を駆け下りる。
そして階段の脇にある岩と岩との間に体をねじ込んだ。
そこに在ったのは、人一人がやっと通れるほどの狭い通路。
集落周辺にはもしもの時に備え、こういった避難通路が無数に作られている。
コニールは指示のあった出口に向かうと、すぐそばで発砲音が聞こえた。
どうやらうまく、出口そばまで追い込む事が出来たらしい。
避難通路出口は段差があり、少し低い位置にある。
その上、岩で巧妙に隠されているせいか、少年がこちらに気が付いた様子はない。
少年の姿が岩の影から見えた時、コニールは岩の影から少年に跳び膝蹴りをくらわせてやろうと地面を蹴った。
それに気が付いた少年が、体ごとこちらに振り返る。
不幸はその時に起きた。
第一の不幸は二人の立ち位置、出口の段差のせいでコニールは少年より低い位置にいた事。
そして第二の不幸はコニールが跳び膝蹴りをくらわせてやろうと地面を蹴った時、砂に足を取られ、あまり高く飛べなかった事だ。 「……ん?」
コニールの跳び膝蹴りは、確かに相手にヒットした。
しかし予想していた感触とは違う感触に、コニールは思わず疑問の声を上げる。
その間に相手からの声はない。
と、言うより、声さえ出せなかった、と言った方が正しい。
コニールは、跳び膝蹴りを相手の腹に叩き込むつもりだった。
しかし二つの不幸により、予想よりも低い位置に跳び膝蹴りは当たった。
つまり男性の急所、股間である。
少年は後ろに倒れ、そのまま動かなくなる。
「……えっと……、大丈夫、か……?」
自分でやっておいて何だが、思わずコニールはそう声をかけた。
いくらなんでも、股間が男性の急所である事くらい知っている。
だが少年から反応はない。
どうやら気を失ったらしい。
コニールは心配になって、少年の顔を覗き込んだ。
「……あれ?こいつ、どっかで見たような……」
白い肌に所々寝癖が付いた黒い髪。
そして幼さが残る顔立ち。
その顔をコニールはどこかで見た覚えがあった。
しばらく考え込んでいたコニールの頭の中に、不意に過去の記憶が蘇った。
「そうだ……、こいつ、確かあの時のザフトの……」
ローエングリンゲートの陥落作戦の時、コニールはザフト所属の戦艦ミネルバに向かったが、その時居たザフトパイロットの一人に、今目の前に倒れている少年はそっくりだった。
しかしあれは十年も前の事だ。
どう見ても、目の前の少年と年齢が合わない。
考え込んでしまったコニールの目の前に、突然黒い塊が飛び出してきたのはその時だ。
驚いたコニールは、思わず数歩後ずさりする。
黒い塊はまるで少年を守るように、コニールと少年の間に立ちふさがる。
「……犬?」
その姿をよく見たコニールは、驚きを隠せないままそうつぶやく。
コニールと少年の間に立ちふさがったもの。
それは黒い毛並みを持った、イヌ科の獣だった。 第五話です。
シンがワンコを拾ってからコニールに会うまで少し時間が経ってます。
そのため、拾ったワンコが一気にでかくなってます。
小さいワンコをシンが育てるシーンは、『本編にあまり関連がない』との判断でカットさせてもらいました。
寝ようとしたシンをワンコが「遊んで」ってたたき起こし、怒ろうとしたらつぶらな瞳で見つめられて、結局遊んでしまうシンとか考えていたんですけどね……。 >>341
後ろから殴られて気絶、というパターンも考えましたが、軍歴のあるシンに対してあまりに間抜けすぎると思ったので、こうなりましたw
まあ、これはこれで間抜けなんですけどねww ――MARCHOCIAS――
第六話 流血の過去
「そいつ、ザフトの奴なんだろ?」
「本人だったらな。本人だったとしても十年も前の話だし、今もザフトに居るとは限らないじゃないか?」
コニールは昨夜から何度も仲間達に問われる似たり寄ったりの質問に、辟易しながら答えた。
「でもさ、そいつ見た事在る奴、皆"そいつだ"って答えたんだろ?えっと……なんて名前だったっけ?」
「シン・アスカ」
それが自分の覚えていた、あのザフトパイロットの名前だ。
しかし、十年前と全く同じ姿という疑問がある。
"シン・アスカ"の兄弟、あるいは親戚だと言う方が、まだ説得力があるだろう。
「大体、あいつはザフトって言っても、前の大戦の時デュランダル議長に付いたって聞いたぞ。今もザフトに居る確率の方が低いんじゃないか?」
「えー?だけどさ、ガルナハン救った奴の中にも途中で裏切って、ラクス・クラインに付いた奴がいただろ。なんて言ったっけ?アスラン……ズラ?だっけ?」
「……なんかちょっと違わないか?」
「まあ、そんな感じの名前だったろ。確か」
何か違う気がしたが、コニールはそれ以上は追及しなかった。
裏切り者の話など、そんなに真剣にしたいものでもない。
ガルナハンが焼かれたのも、今こうして飢えと貧困に喘いでいるもの、元を糺せばそいつ等の所為な訳だし。
「コニール、朝飯が出来てるから捕虜に持って行ってやれ」
コニールが名前を呼ばれた方を振り返ると、簡単な料理が乗ったトレーを持った仲間が立っていた。
今の所"シン・アスカ"と思わしき少年は"捕虜"という形になっている。
と言っても、まだ眠ったままで素性が分からないので、"取り敢えず"といった処置だが。
コニールはトレーを受け取ると、少年の眠っている二階に向かう。
「コニール!もしあいつが男として役に立たなくなったら、ちゃんと責任とってやれよー!」
「何の話だよ!!」
隅の机で食事をしていた男達の笑いを含んだ声に、コニールは思わず大声で返した。
コニールが少年をノックアウトした様子は狙撃していた仲間達にばっちりと目撃されていた。
そのため、夜が明ける頃には少年を捕獲した事と同時に、その事が集落中に知れ渡っていた。
むしろ日ごろから娯楽が少ないこの集落では、この笑い話――当人であるコニールと少年にとっては笑い話ではすまないが――の方が主だった話題となって広まってしまい、コニールの頭痛の種になりつつある。
コニールは軽くため息をつくと、少年の眠っている部屋の前に来た。
噂の事があり、顔を合わせる事に気が進まないが、仕方がない。
意を決してドアをノックする。
しかし返事はない。
それは予想していたので、少し間をおいてからドアのカギを開ける。
そして、警戒しながらゆっくりをドアを開けた。
もし起きていたら逃げ出そうと待ち構えている可能性を警戒しての行動だったが、無駄に終わった。
カーテンが引かれ、薄暗い部屋の中に一つだけあるベットの上で、少年は静かに眠っていた。
その両手は、一応警戒しといたほうが良いとの判断で、細いロープで一つに縛り上げられていた。
部屋の中に入るとそのベットの前、床の上で何かが動いた。
それは昨夜少年をかばうように立ちふさがった黒い毛並みを持った犬だ。
あの後この犬は、少年にコニール達を触れさせまいと大暴れをし、結局数人がかりで顎や足を縛り付けて捕獲された。
その後も少年から離そうとすると縛られたままにもかかわらず暴れたため、今は少年の眠っているこの部屋に一緒に入れられている。
今は足は縛っていないが、代わりに首に巻かれたロープの先は少年のベットに縛り付けられており、顎も縛り付けたままだ。 コニールが近づこうとすると、その犬は低く唸り声を上げた。
その様子にコニールは軽くため息をつくと、少し離れた位置にあった小さなテーブルに持っていたトレーを置き、日光を遮っていたカーテンを開けた。
直後に聞こえてきた小さなうめき声に、コニールは驚いてベットの方に視線を向けた。
ベットの上では少年が光を避けるように、腕で顔を覆おうとしていた。
だが、その動作で両手を縛られていることに気が付いたようで、その事に困惑しているようだった。
どうやらカーテンを開けたことで部屋の中が明るくなり、目が覚めたらしい。
「目が覚めたか?」
コニールはとりあえず、少年に声をかけてみる。
まだ寝起きで意識がはっきりしていないようだった少年は、その声でコニールの事に気が付いたらしい。
ベットに寝転がったまま、顔をこちらに向けて、少し眉を寄せた。
「……ここ、どこだよ」
少年がはじめて発した言葉は、素っ気ないものだった。
もっとも、見知らぬ部屋で目が覚めたら両手を縛られていた、なんて状況では仕方がないだろう。
「その問いに答える前に聞きたい。お前、名前は?」
コニールはの問いに少年は眉を寄せ、そっぽを向いた。
どうやら答える気はない、という意思表示らしい。
その態度に内心腹を立てながら、それでも冷静を装って声をかける。
「お前、"シン・アスカ"って名前なんじゃないか?」
「なっ……!?」
コニールの問いに、少年は驚いたように目を見開き、コニールの顔をまじまじと見た。
しかしすぐに我に返ると、小さく舌打ちしてもう一度そっぽを向いた。
その行動すべてが、コニールの問いを肯定している。
「やっぱりお前、シン・アスカだろ?」
「……だったら何だってんだよ?」
どうやら今度は開き直る事にしたらしい。
その行動パターンは単純で、まるで子供だ。
「私のこと覚えてないか?ガルナハンで一度会っただろ」
「ガルナハンで?」
シンはそう言うと、もう一度コニールの顔をまじまじと見つめた。
しばらく何かを考えていたようだったが、不意にその表情が驚愕に変わると、ベットから身を起こした。
「もしかして、坑道のデータを持って来た……、えー、と……、コニール……だったっけ?」
かなり自信無さげだが、シンの思い出した名前は間違っていなかった。
まあ、十年前に少し話した、程度の関係を思えば、名前を覚えていただけでも良しとするべきだろう。
「て、言うか、何でコニールがこんな所に居るんだ?ここはガルナハンから随分離れてるだろ?」
「それはこっちのセリフだ。お前こそまだザフトに居るのか?」
「ザフトなんてとっくの昔に辞め――」
シンはそこまで言うと不意に言葉を切り、縛られたままの両手をかざして見せた。
「もしかして、"これ"はザフト関係者って事でか?」
「まあ、そんなとこだな」
本当の所は、集落全体で犯罪行為を行っているせいなので、シンじゃなくてもこういう事になっていただろうが、コニールはそれは伏せておくことにした。
まだ、シンがここに来た理由を聞いてない。
理由によっては、両手を縛るどころでは無くなるかもしれないのだ。
「……ザフトは前回の戦争からしばらくたってから辞めた。二、三ヶ月前までは傭兵を"やってた"けどな。」
「"やってた"……?」
「……ああ、仲間が全員ザフトに殺された。だから廃業になった」
シンのどこか淡々とした言葉に、コニールは思わず目を見開いた。 「だから今はザフトとは何の繋がりもない。あるとすれば俺が向こうを憎んでる、って事ぐらいだ」
シンはそう言いながら鼻で笑った。
その言葉は投げやりで、それでいてどこか自嘲の響きがあった。
そんなシンの様子にコニールは思わず眉を寄せた。
コニールの中のシンのイメージは小生意気で、立場の上の相手に突っかかっていくようなようなわがままで、それでいてガルナハンが解放された時には自分の事のように喜んでくれた、そんなどこにでも居そうな少年だ。
そのイメージと、今目の前で自嘲の笑みを浮かべる少年の姿はいまいち一致しない。
しかしあれから十年もたっているのだ。
少しぐらい雰囲気が変わっていたとしてもおかしくは無い。
そう思ったコニールは、そこでずっと疑問に思っていた事を思い出した。
「そういえばお前、十年前から全然変わってないな。背丈もあまり変わってなさそうだし……」
コニールの何気ない問いに、シンは一瞬だけ視線をこちらに向け、直ぐに視線を外した。
その様子は何かを思案しているようで、コニールは思わず眉を寄せて難しい顔をした。
「……まあ、口で説明するより先に、実際に見た方が信じられるか」
「……?なんだよ?」
小声で発せられたシンの言葉を理解できず、コニールはますます眉を寄せた。
「ナイフ持ってないか?何ならハサミでもいい。とにかく、刃物の方が分かりやすい」
「小型ナイフなら持ってるけど……」
コニールはいつも持ち歩いている、小型の折り畳みナイフを取り出した。
しかしそれを素直に渡してもいいものか咄嗟に判断が付かず、コニールはシンの顔とナイフを交互に見詰めた。
一応今のシンの立場は"捕虜"だ。
ザフトは辞めたとの事だが、自分はそれを確認する術はない。
もし嘘だったら……、悪い事はいくらでも想像できた。
それにもし辞めたという事が本当でも、このナイフを渡した途端、逃走しないとも限らない。
コニールがナイフを持ったままそんな事を悩んでいると、それを察したのだろう。
シンが軽くため息を吐く。
「しょーがない。コニール、そのナイフで俺の腕斬れ」
「は?」
シンの何気ない口調で言われた言葉に、思わずコニールはその場に固まった。
「だから、その"ナイフで俺の腕斬れ"って言ったんだ」
「馬鹿か、お前ーーー!!?」
シンの言葉に、コニールは思わず大声で叫んだ。
真正面から上司に逆らうなど無茶苦茶をやる奴だとは思っていたが、まさか自分の腕を斬れ、なんて言い出すとは思いもしていなかった。
「……別に腕が駄目なら足でもいいけど」
「そういう問題じゃない!大体、それで何がわかるってんだよ!?」
「だから、斬ってみれば分かるって」
まるで何てこと無い事のように発せられる言葉に、コニールは思わずシンを睨み付けた。
そんなコニールに、シンも"何だよ"と言わんばかりの不機嫌そうな顔で睨み付けてくる。
しかし、いつまでも睨み合いを続ける訳にもいかない。
コニールは思わず大きなため息を吐いた。
「……分かったよ。ただし、自分でやれよ」
「……自分でやるには腕が縛られたままだと無理なんだけど」
自分でやるなら深く斬り過ぎる事は無いだろう。
コニールはそう判断してシンのいるベットにゆっくりと近づいた。
その動きを床で伏せている犬が、じっと見つめている。
どうにか犬を刺激しないようにベットに近づくと、シンの両腕を縛っていたロープを外し、その手にナイフを渡した。
するとシンはコニールによく見えるように、腕を水平に高く上げた。 そしてコニールの予想とは裏腹に、勢いよくナイフをその腕に突き立てた。
その途端、赤い血が毛布の上に散らばった。
血の匂いに反応して、今まで床に伏せていた犬が起き上がる。
「なっ……!?何やってるんだ、馬鹿!!」
コニールは思わず叫ぶと、急いで止血出来る物が何かないかを探す。
「慌てるなよ。よく見とけ」
シンの冷静な声に、コニールは思わずシンの腕の傷に視線を向ける。
そして驚愕に目を見開いた。
先ほどまで大量の血が流れ出ていたはずなのに、その血がすでに止まっていたのだ。
驚くコニールを尻目に、シンは腕に付いた血を反対の手で拭った。
その腕にはまるでずっと昔に付いた傷のように、薄く斬った跡が残っているだけだった。
コニールは思わずその腕を取ってまじまじと見つめた。
その間にも傷跡は完全になくなり、シンが自分の腕を傷つけた証は腕と毛布に付いた血の跡だけとなる。
「これ……、どういう事だよ……」
「ナノマシン」
呆然と呟いたコニールの言葉に、シンの言葉が続いた。
その聞きなれない単語に、コニールは思わず視線をシンの顔を向ける。
「なのましん?」
「聞いた事ないか?ナノレベルの超小型のロボットの事。それが俺の体内に在るらしくって、その影響で成長も老化もしないらしい」
コニールは、シンの説明に思わず眉を寄せる。
「俺の体内に在るナノマシンは、俺が傷つくと通常では有り得ないスピードでその傷を癒す。そのため、通常では死んでるはずの傷でも簡単には死ねない。弾丸数発程度なら死なないことは実証済みだ。ま、痛みはあるけど」
「一体……何で……?」
思わず声が震えるのを感じながらコニールは問いかけた。
こんな事、普通に言われれば信じないだろう。
しかし今見せた異常とも言える治癒スピードが、シンの話を真実だと証明していた。
「八年……いや、九年前かな?乗ってたMSを落とされた時負った傷が原因で、俺は脳死状態になったらしい。それを拾ったどっかの"善人"が、当時研究中だった医療用ナノマシンの"実験体"として使った、って事だそうだ」
やたらと"善人"という単語を嫌味っぽく言うシンに、コニールは思わず眉を寄せた。
それだけで、その"善人"と表した相手を嫌悪している事が分かったからだ。
「しかし研究者も脳死の治療が出来るとは思っていなかったようだ。一通りの医療用ナノマシンの実験が終わった研究者達は何をしたと思う?」
「なにをしたって……、なに?」
「ナノマシンを使った"生物兵器製造"の実験だ」
シンの言葉に、コニールは思わず息をのむ。
コニールは部屋の中の空気がやたらと重く感じ、これ以上何も聞かずに逃げ出したい衝動に駆られた。
しかしそんなコニールの思いを無視して、シンは話を続ける。
「やたらと頑丈で自分の意思のない人間なんて、兵器には最適だからな。現に昔は地球軍も人を生物兵器にする研究をしていたし。……だが、研究者達はある日ミスを犯した」
「ミス……?」
「そう、ナノマシンを使った"生物兵器"が暴走したんだ」
まるで他人の事のように淡々と話すシンに、コニールは無意識に遠ざかるように一歩後ろに下がっていた。
それに気が付いたのだろう。
シンは自嘲めいた、悲しげな笑みを浮かべる。
「……俺が意識を取り戻したのはその直後。気が付いたら血溜りの真ん中に一人で立っていた。体中返り血に、両手には血まみれの大型ナイフと銃。
それだけで自分が何やったのか大体分かったけど、近くに置いてあったパソコンで防犯カメラの映像にアクセスして見たら、自分が逃げ惑う奴らを追い詰めて一人ずつ殺していく様子がばっちり映ってた。あれはまさに"兵器"って感じだったな」
「シン……」
シンは世間話でもするかのように、どこか明るく話を続ける。
だからこそ、それが空元気である事をコニールは分かってしまった。
内容が内容なだけに、本人も空元気でも出さない限り、話す事が出来ないのだろう。
「他にもいろいろデータが残ってた。自分が心臓撃たれてのた打ち回ってる映像なんてのもあったし、他にも……」 「シン!!」
コニールは思わず大きな声を出して、シンの話を遮った。
シンはそんなコニールに一瞬眉を寄せ、そして何もない部屋の隅へと視線を向けた。
やがて発せられた言葉は、先ほどとは打って変わって痛みに耐えるように低く、そして暗い声だった。
「……そこは小さいコロニー全体が研究所になってた場所だったから、俺はそこに置いてあったMSで研究所全てを焼き払い、全てのデータを物理的に消去した。
そして、そのまま地球に降りてきた。降りてきた直後に俺を拾ったのが、傭兵団の奴らだった。俺が普通の体じゃない事を知っても、普通に接してくれるいい人たちだったよ」
そこまで話したシンの表情が不意に曇る。
それでコニールもその傭兵たちが、先ほどシンが話した"ザフトに殺された仲間"の事だと察しがついた。
何か声を掛けようと思い、それでもなんと声を掛ければいいのか分からないコニールをよそに、コニールとシンとの間に黒い影が割り込む。
それはベットのふちに前足を掛けた黒い犬だ。
シンは犬の姿に、微かな笑顔を作り、その頭をなでてやる。
「……この顎縛ってるの、外してやっていいか?俺がいれば噛み付かないから。……多分」
「え……?あ、ああ……」
シンが指差したのは、犬の顎を縛っていたひもだ。
コニールはシンの話のショックがまだ抜けておらず、間の抜けた声で答える事しかできなかった。
そのままぼんやりと、シンが犬の口紐を外すのを見つめる。
しかし犬を見ていたコニールは、ふと違和感を覚えて眉を寄せた。
そして黒い毛並みを持つ犬をまじまじと見つめる。
この犬の顔立ち。
そして体つき。
これは犬というより――
「……なあ、シン。こいつって、本当に犬か?」
「は?犬じゃなかったらなんだってんだ?まさか猫だとでも言う気かよ?」
「いや、もしかしたらこいつ……、狼じゃないか?」
「え?狼ぃ?」
コニールの言葉に、シンは思わず犬(?)をじっと見つめた。
犬(?)の方もじっとシンの方を見つめる。
ちなみに、コニールも犬の方をじっと見つめていたが、犬(?)の方は完全に無視である。
「……いや、犬だろ。どう見ても。変な事、言うなよな」
シンのその言い方に、コニールは思わずカチンときた。
つい、ムキになって言い返す。
「いーや、これは狼だね」
「だから、犬だって」
「狼」
「犬」
「……狼」
「……犬」
「……」
「……」
よくわからない沈黙が、部屋の中に満ちる。
だがそれも長い時間ではなかった。
「……だから、これは狼だって言ってるだろ!」
「犬って言ったら、犬なんだよ!大体、どこが狼だって言うんだ!?」
「顔つきとか体つきとか狼だろ!?」
「そんなの、狼に似た犬だってたくさんいるだろ!」
二人の大声が部屋の中に木霊する。
その声を聴いた集落の住人達が、何事かとドアを少しだけ開けて中を覗き込んでいたが、二人は全く気が付かなかった。
そんな二人の間で言い争いの原因である犬(?)は、小さく首をかしげていた。 ああ、だから胸撃たれた筈なのに死んでなかったのか
まるで"バオー"か異能生存体だな 第六話です。
ナノマシンとか、本編から離れすぎ設定に、怒られそうで少しビクビクしてたり|ω・`) >>351
シンと異能生存体の組み合わせを聞くと、第二次スパロボZを思い出します。
やたらと避けるんですよね、デスティニーw
もっとも、自分の書く小説内では被弾しまくり、気絶しまくりだったりしますが。 乙
さらにマイク2本を壊せれば不幸3乗ロボアニメ主人公が ――MARCHOCIAS――
第七話 衝撃
何か言いたげな視線をいくつも感じる。
その全てを、コニールは無視していた。
無視されている事に気が付きながらも、皆何も聞いてこないのは、コニールから出ている不機嫌なオーラの所為だろう。
そんな不機嫌オーラ全開で調理包丁を研いでいては、誰も好き好んで話しかけたりしない。
「よー、コニール。お前、あのよそ者と出来てるんだってー?」
一種異様な雰囲気が漂っていた部屋の中に、明るい声が響いた。
それは集落の中でもお調子者で通っている、コニールとは顔見知りの男の声だった。
直後、部屋の中に緊張が走る。
何かが空を切り裂く音がしたかと思うと、男の顔のそばを何かが通過し、そのまま壁に激突した。
男はその場に、固まったかのように立ち尽くす。
しばらくして男は、油をさしていない機械のようなぎこちない動きで、背後の壁を振り返った。
「悪い、手が滑った」
コニールの淡々とした声が、やたらと部屋の中に響く。
壁に突き刺さった物。
それはコニールが研いでいた包丁だった。
男はそれを確認すると、まるで酸欠の魚のように口をパクパクさせながらコニールの方を見た。
シンが目を覚ました直後。
コニールが皆の所に戻ってみると、何やら変な話で盛り上がっていた。
曰く、あのよそ者とコニールは"出来ている"のではないか、というものだった。
なぜそんな予想になったのか、コニールには理解が出来なかったが、"随分仲良く口喧嘩していたから"というのが皆の言い分だ。
あれのどこを見れば"仲良く"に見えるのかコニールはさっぱり分からないが、皆の中ではそういう事になってしまったらしく、いつの間にかにその噂は集落中に広まってしまった。
そのおかげでコニールは、女達からは事の真相をしつこいくらい聞かれ、男達からは冷やかしを受ける事となった。
そしてそれはシンも同じだ。
一時期"捕虜"扱いとなっていたシンだったが、コニールの"ザフトとは関係ない"といった判断により、取り敢えず監禁は解かれる事となった。
しかしそれで集落全員が納得したわけではないため、しばらくはこの集落にとどまってもらう事になった。
シンの方も別にどこかに行く目的があった訳では無いらしく――本人曰く、"ただ歩いていたらここに着いた"との事らしい――これを承諾した。
そしてシンは"働かざる者、食うべからず"のことわざに従って、畑仕事などの労働に駆り出されている。
ナチュラルばかりのこの集落で、コーディネーター、しかも元ザフトであるシンが上手くやっていけるかコニールは心配だったが、ラクス・クラインに最後まで抗った者達の一人、
しかもガルナハンを救った英雄というのがシンの対する集落の認識になったらしく、コニールの心配するような事は何も起こらなかった。
しかし、"だからこそ"と言うべきか、男達の冷やかしの対象はコニールだけではなく、シンにも及んでいる。
もっとも、さすがに女性達は見ず知らずの男性という事で、シンとは少し距離を置いているようだが。
その時、突然ドアが勢いよく開いた。 驚いてそちらに目を向けると、そこに立っていたのはシンだ。
その顔は不機嫌、というより怒りの形相に変わっている。
「おかえり。仕事は?」
「ただいま!今日の分はもう終わった!!」
その声は怒りで満ちていたが、しっかり帰ってきた挨拶をする辺り、変に律儀だと言うべきか。
どうやら今日も、他の奴らにからかわれたらしい。
そのシンの後ろを、黒い獣がくっ付いてきている。
からかわれる要因の一つであるこの獣だが、結局シンもコニールも犬か狼か、相手を納得させる事が出来なかった。
と、言うのも、どこがどういう風だったら犬なのか、はたまた狼なのか、二人ともはっきりとした答えを言う事が出来なかったからだ。
結局、そのことについては保留という事で一応の決着はついた。
もっとも、その事が原因でからかわれているのだから、シンもコニールも好き好んで話し合う気にはなれなくなったが。
それよりもコニールが驚いたのは、シンがこの獣に名前を付けていなかった事だ。
シン曰く、"来い"と言えば来るから名前を付ける必要性がなかった、との事だそうだ。
だが、それでは不便なので、コニールはこの獣に"アセナ"という名前を付けた。
しかしこのアセナ、シン以外の人には全く懐かない。
そのせいもあって、いつもシンの後ろをくっ付いて回っている。
今日も家の中に上がると、足音荒く自分に割り当てられた自室に向かうシンにくっ付いて、二階に上がっていってしまった。
もっとも、引きはがすと暴れる事は最初で分かっている事なので、無理に引きはがそうとする者はいない。
「……で、お前はいつまでそこで突っ立ってんだ?」
二階に上がるシンを見送ったコニールは、まだ呆然と立ち尽くしていた男に声をかけた。
その声で男は我に返ったらしい。
硬直していた体から力を抜く。
「あ、そうだ。実は、あのよそ者について話を聞きたくてさ」
「シンの?」
男の言葉にコニールは思わず目を細めた。
集落の皆にはシンについて、ナノマシンの事を省いて話している。
ナノマシンの事のついてはコニール自身も信じられない面があったし、どう話したらいいのか分からないというのもある。
しかし何より、シン自身があまり公にしたくない様子であったので、コニールは皆には話さない事にしたのだ。
「……で、シンについて何が聞きたいんだよ?」
「あいつさ、傭兵なんだろ?」
男の言葉に、コニールは内心ほっとする。
シンのナノマシンの事がばれたかと、一瞬焦ったからだ。
「いや、傭兵は辞めたって聞いたけど?」
「でもさ、MSには乗れるんだろ?」
「そりゃ、少なくとも十年前に乗ってるの見た事あるし」
そこまで聞いた男は、手でコニールに近くに来るよに合図した。
それを見たコニールは男の様子に疑問を抱きながら、近くによる。
男はコニールが近くに来ると、周りを見まわして近くに誰もいない事を確認した。
そして小声で誰にも聞かれないようにしゃべりだす。
「それじゃあさ"例の作戦"、あいつに手を貸してもらう、ってのはどうだ?」 「"例の作戦"に?」
男の提案に、コニールは少し考える。
「……確かにあいつは元プロの軍人だから、手を貸してもらえるなら戦力になるだろうが……。だけど、よそ者を作戦に居れるのは、さすがに皆嫌がるんじゃないか?」
「だから、中に入るのは俺達だけ。あいつにはおとりをやってもらおうと思って」
「……て、一人でおとりをさせるって訳か?却下。危険が大きすぎるだろ」
コニールはそう言うと、話はこれで終わりと言わんばかりに男に背を向けてその場を立ち去ろうとする。
そんなコニールを、男は慌てて腕をつかんで引き留めた。
「だ、か、ら!そのために、あいつがMSを操縦できるか聞いたんだろ!?MSに乗って注意を引いてもらうの!」
「そのMSがないじゃないか。どっちにしろ、無理」
「心配無用!ついこの間、例の機体が完成したんだ!」
「例の機体?」
胸を張った男を、コニールは驚いて思わず凝視してしまった。
しかし直ぐにその視線は疑いの視線に変わる。
「もしかして、その"機体"って……」
「そう!俺がこつこつ造ってきた、あの機体だ!」
「却下。あれがまともに動くとは思えない」
コニールはそう言うと男の手を振り払い、さっさと歩きだす。
しかし、またしても男はコニールを引き留めた。
「いや、ホント!大丈夫だって!だから一回でいいから、あのよそ者に話してみてくれよ!」
「そんなの、自分聞けばいいだろ!?」
「お前、あいつの恋び……じゃない、知り合いなんだろ?俺が話すより、お前から話してくれた方がよっぽど早いだろ!?」
「……おい、今、なに言いかけた?」
「え?あ、いや……。ま、まあ、ともかく!一度話をしてみてくれ。それじゃあ俺は、他に用事があるからな!」
「おい!こら!ちょっと待て!!」
コニールは男を引き留めようとしたが、男が逃げる方が早かった。
"よろしくなー"という声が遠ざかりながら聞こえてくる様に、コニールは思わずため息を吐いて肩を落とした。
****
コニールは取り敢えずシンの部屋の前に来ると、扉をノックする。
直ぐに聞こえてきたのは、不機嫌そうなシンの声だ。
コニールは軽くため息を吐いたが、直ぐに気を取り直して扉を開ける。
「シン、ちょっと話いいか?」
「何だよ」
予想した通りシンは、自身の不機嫌さを隠そうとしようもせずベットに寝っ転がったまま、ぶっきら棒に言い放った。
その事に軽く頭痛を覚えながら、コニールは部屋の中に入り、扉を閉める。
扉を閉めた音に反応して、ベットの直ぐそばで伏せていたアセナが顔を上げた。 「傭兵としてのお前に、依頼があるんだけど」
その言葉に、シンの表情が変わった。
シンはベットから起き上がると、ベットの縁に腰掛け、コニールに視線を向ける。
その表情は真剣そのもので、先ほどの不機嫌さは無い。
「……俺はもう、傭兵業は辞めたぞ」
「だけど、白兵戦とかは出来るだろう?」
コニールの言葉に、シンが目を細める。
シンのその様子にコニールは緊張しながらも、黙って次の言葉を待った。
「……依頼内容は?」
「……犯罪者収容所の襲撃。……正確に言えば、その手伝い」
その言葉に、シンの表情がさらに険しくなる。
「ここから少し離れた所に、この辺の人達が捕らわれている収容所がある。名目は"犯罪者収容所"だけど、そのほとんどが貧困が原因で税が払えなくなった、あるいは警官にいちゃもんつけられて連れてかれた人達だ。
そこに集められた人々は、毎日労働に駆り出されている。"犯罪者"収容所なんてのは名前ばかり。実際には"強制労働者"収容所だ」
そこまで聞いたシンの表情を見て、コニールは一瞬、恐怖に身を強張らせた。
シンの表情は怒りに満ちており、その目つきもまるで相手を射殺そうと言うかのように鋭い。
その怒りが向いているのが自分ではないという事は分かっていたが、それでもコニールはわずかに後ずさりする。
しかしシンがその表情をしていたのは本当に一瞬だけだった。
直ぐに何かを思案しているような表情に変わる。
「……依頼を受ける代わりに、条件がある」
「ん?条件?」
しばらく考え込んだ後に言われた言葉に、コニールは思わず聞き返した。
もちろんタダ働きさせようと思っていたわけではないが、こう改めて言われると身構えてしまう。
傭兵業の報酬がどの位なのは知らないが、あまり高額を要求されても困る。
「条件はこの集落に住む者全員が、この集落を捨てて出て行く事」
「……は?」
思いも寄らぬ条件に、コニールの脳は一瞬仕事を放棄した。
「一体なんだよ、その条件は!?」
思考回路が通常運転を開始した直後、コニールは思わず怒鳴ってシンに詰め寄った。
しかしシンは難しい顔をしたまま、コニールを睨み付けた。
「"犯罪者収容所"って名前が付いてるって事は、そこを管理しているのは政府だろ。そこを襲撃したとなれば、必ず政府は動く。そうなればこんな小さな集落、ひとたまりもないぞ!」
「だからって、ここに住んでいるのは他に行き場のない人達ばかりだ!お前はそんな人達に"出て行け"って言うつもりか!?」
「じゃあお前は、この集落の人達に"収容所に居る人達を助ける代わりに犠牲になってくれ"って言うつもりか!?」
シンのその声は、強い苛立ちと怒りがこもっていた。
それはあまりに強いものだったので、コニールは咄嗟に次の言葉を発する事が出来なかった。
部屋の中を沈黙が支配する。
それでも何か言い返そうとコニールが口を開いた瞬間、頭上で轟音が響いた。
驚いたコニールは、思わず上に視線を向ける。
しかし当然ながら上は天井で、何が起こっているのか全く分からなかった。
その間にシンはベットから立ち上がると、コニールの横を通り抜け、部屋の外へと飛び出していた。
シンの後をアセナが追いかける。 「シン!?」
慌てたコニールもその後を追う。
しかしシンは振り返りもせずに階段を駆け下りると、そのままドアを壊れるんじゃないかという勢いで開いて、家の外に飛び出した。
その後を追うコニールは、シンが外で空を見上げている所で、その横に追いついた。
シンの視線を追って、コニールも空を見上げる。
「!MS!?」
思わずコニールの喉から上ずった声が漏れる。
日が傾きだした空を飛んでいたのは、過去にザフトで開発された機体である、四機の"グフイグナイテッド"の姿だった。
「ザフトか!?」
「いや、渓谷の間を流れる風に吹かれて、機体をわずかに流されてた。機体はともかく乗り手の腕はへなちょこだ。いくら大気圏内での戦闘は不慣れな奴が多いとは言え、ザフトにこんなへなちょこが居るとは思いたくないぞ。大方、どこかの傭兵崩れの盗賊、ってとこだろ」
シンがそう言う間に、グフイグナイテッドの一機が集落に向けてビームライフルを放つ。放たれたビームライフルは渓谷に当たり、大きな岩が崩れ落ちて一軒の民家を直撃した。
それを見たシンは、舌打ちをして怒りに眉を寄せる。
「コニール!こっちにもMSか何か無いのか!?」
「え?MS?あ、……いや、まあ……、あると言えばあるけど……」
「ホントか!それ出せるか!?」
「えっと……、多分?」
コニールのはっきりとしない言い分に、シンは思わず不審の視線をコニールに向けた。
しかしコニールの方もあれを出していいものか、はっきり言って迷う。
見た目的には何も問題ないのだが……。
「そのMS、乗り手は?」
「いや、誰もいない」
「俺にそのMS貸してくれないか!?」
詰め寄るシンに、思わずコニールは視線をさ迷わせた。
その間にもグフイグナイテッドは、まるで人々が逃げ惑うのを楽しむかのように、ビームライフルを一発撃っては離脱する、を繰り返している。
それを見たコニールは、決意を固めた。
「……分かった。お前にMSを貸してやる。ただし、文句は私に言うなよ!造った奴に言え!」
そう怒鳴ったコニールに、シンは"訳が分からない"と言うかのように、眉をひそめた。
しかしコニールはそんなシンを無視して、逃げ惑う人々の中を駆けだす。
シンもそれ以上は何も言わず、黙って後に続く。
やがてたどり着いたのは、大きな納屋だ。
コニールは黙ったまま、扉を開いた。
初めにシンの視界に入ってきたのは、大きな物体を覆い隠したブルーシートだった。
コニールはそのブルーシートの端をつかむと、一気に引っ張る。
現れたのは、ひざまずいた格好の一機のMS。
トルコカラーの装甲に、一対のカメラアイと四本のアンテナ。
背には、六枚の羽が付いたバックパックを付けている。
その姿を見たシンは、驚愕に目を見開いた。
「……これ、もしかして"インパルス"……、"フォースインパルス"か!?」
シンの目の前に現れた機体。
それはかつてシンが駆った機体、"インパルス"によく似た機体だった。 第七話です。
アセナという名は、テュルク神話に出てくる青いたてがみをしたメスの狼の名前です。
コニールはちゃっかりと、ワンコに狼の名前をつけましたw >>362
コニール「いや、獲ってきてはいないんだけど……。うん……、まあ、期待はするなよ!絶対するなよ!」
シン「?何なんだよ、さっきから」 乙乙。やっぱりコニールのヒロイン力は流石やでぇ・・・ 乙でした!
もうコニールが逆シンスレのメインヒロインでいいんじゃないかな!? ――MARCHOCIAS――
第八話 複製
シンは、目の前にある"ファースインパルス"によく似た機体を凝視した。
しかし、直ぐにその機体に違和感を覚え、首をかしげる。
自分がよく見ていた"インパルス"と言えば、"コアスプレンダー""チェストフライヤー""レッグフライヤー"の三つに分割されている状態だ。
一機のMSに組み立てる時は、大体自分はコックピット内に居る。
コックピット内で自分の乗っているMSの姿を見る事なんて、ほとんど無い。
そのため、シンがインパルスのMS形態を見るのは乗った後の整備中など、限られた時だけだった。
そこまで考えたシンは、やっと違和感の正体に気が付いた。
「……ん?トリコカラー?」
目の前のインパルスの装甲は、青、赤、白の三色に色付いている。
しかしシンの記憶の中では、インパルスの装甲は灰褐色だ。
これは整備の時はMSの電源を切るため、VPS装甲が本来の状態である灰褐色に戻るためだ。
シンは一応、カメラアイに視線を向けた。
二つのカメラアイには光がともっておらず、電源が完全に切れている事を告げていた。
「……コニール、この機体は何なんだ?」
シンは訳が分からず、コニールに尋ねる。
だが、話を振られたコニールも、どこか困ったように頭をかいた。
「ん〜……、まあ、言うなれば、"インパルスレプリカ"って所かな?」
「レプリカ?」
「そ。……まあ、"パクリインパルス"でもいいけど」
「はぁ?」
コニールの言葉に、シンは思わず変な声を出して、その顔を凝視した。
「お前、ガルナハンを救ってくれた時、インパルスに乗ってただろ。それを見た奴が、いつかもう一度苦しめられる自分達を救ってほしいと、インパルスにそっくりの機体を造った、って訳」
「ん?それってもしかして、これ造ったの……」
「そ、MS技師でも整備士でもない奴。でもまあ一応、大型農業機の整備が出来る奴だし、もとを辿ればバラバラになったMSを組み立てなおしてカスタマイズしただけのようなものだし、多分大丈夫だとは思うけど……」
と、いうか、そう思いたい。
シンは、そんなコニールの心の声を聴いた気がした。
コニールは気まずげに、あちこちに視線をさ迷わせる。
そんなコニールを見るシンの目は、"本当に大丈夫なんだろうな"と言わんばかりの白々しいものになっていた。
「だ、だけど、この集落には他にMSは無いし、MSに対抗できる兵器もないし……」
言い訳じみたコニールの言葉は、爆発音にかき消された。
その音に、二人は我に返った。
シンは小さく舌打ちすると、覚悟を決めた。
「コニール、こいつ借りるぞ!」
「え?あ、うん!よろしく頼む!」
シンはコニールが答えるよりも早く"インパルスレプリカ"に駆け寄ると、コックピットを開いて中に飛び込んだ。 そして起動ボタンを押すと、薄暗いコックピットに光が灯る。
コントロールスティックを握りしめ、気を落ち着かせるために、一度目を閉じる。
その直後に、甲高い電子音がコックピット内に響き渡る。
シンは驚いて、モニターに視線を向けた。
そして呆然とする。
「な……、なんだこれーーー!!」
思わず狭いコックピットの中で叫ぶ。
モニターに映し出されていたもの。
それは文字の羅列。
曰く、
――ビームライフルのドライバが入っていないので使えません。
――ビームサーベルのドライバが入っていないので使えません。
――機体の左右の重さが違うため、大変危険です。バランス調整し直してください。
――推進剤残量が0です。
など、通常では考えられないエラーが並んでいた。
「おい、コニール!この機体、何なんだよ!?まともに動かせるのか、これ!?」
「あ、やっぱり無理?」
外部スピーカーをオンにして怒鳴ってみれば、コニールはこうなる事を予想していたのか、落ち着いた様子でそう答えた。
そもそもビームライフルやビームサーベルのドライバがないって何だ!?
そういうのはOS側でやってくれる事なんじゃないのか!?
て、言うか、このOSいつのだよ!?
かなり古い物なんじゃないのか!?
シンは心の中だけで、そう突っ込みを入れた。
あまりにも突っ込み所があり過ぎて、コニールを問いただす気にもなれない。
シンは、頭を抱えて変なうめき声をあげる。
さっきしたばかりの覚悟は、数分もたたないうちに消えそうだ。
「まあ、空中分解する、なんて事は無いと思うぞ。多分だけど。」
「空中分解しようにも、推進剤が0で飛べるか!そもそも乗ったばかりなのに、バッテリーの残量がすでにイエローゾーンなんだけど!?」
申し訳なさそうなコニールの言葉にシンはそう怒鳴りながらも、キーボードを叩いてどうにかビームライフルとビームサーベルだけでも使えるようにしようと試みる。
ザフトでは、OSを自分に合わせてカスタマイズする事が許可されている。
そのためプログラム知識は、一通りアカデミーで習う。
その時覚えた知識を記憶の奥底から引っ張り出しながら、シンは何とかプログラムを組んだ。
もっとも、これがちゃんと動くかどうかは、実際に動かさないと分からない。
さらに言えば、通常ならばちゃんと動くかどうかはシミュレーターを使って確かめられるので、実戦で確かめるなんて事はしない。
シンはプログラムをインストールするついでに、この機体のスペックを確認した。
それによると装甲は、電源が入っていない状態で色がついていた事で分かるように、VPS装甲ではないようだ。
それが今回はありがたい。
すでにバッテリー残量がイエローゾーンなのに、これでVPS装甲なんて使ったら、あっという間にバッテリー切れを起こしてしまう。
それにVPS装甲ではない分、機体の総重量が軽い。
これならば、俊敏な動きが出来るだろう。
ついでに、ただの飾りと化している背中のフォースシルエットも切り離せば、さらに重量が減らせるだろう。 シンはそう思い、キーボードを操作する。
「……ん?これは切り離せないのか?」
どうやら背中に付いているのはバックパックではなく、本体と一体化しているらしい。
ついでに言えば、コアスプレンダーなどに分解するシステムもないようだ。
どうやら本当に、"見た目だけが"インパルスらしい。
――これはもう、"インパルス"じゃないだろ……。
シンはそう思いながら、もう一度頭を抱えた。
しかしその間にも、時間は過ぎていく。
シンは大きく息を吐き出すと、先ほどとは違う意味で覚悟を決める。
「あーー、もう!やるしかないってんなら、やってやるさ!ちきしょう!!」
やけくそ気味にそう叫ぶと、シンはコントローラースティックを握り直す。
そしてふと気づく。
「コニール、これ、どうやって外に出るんだ?」
「え?」
シンの質問に、コニールが固まる。
納屋の天井は高く、MSを組み上げるのに使ったと思わしきクレーンの骨組みが組まれていた。
これを推進剤なしで破れるかのかどうかが分からない。
一方出入口の方は、大きめの出入り口になっているが、MSが立ったまま通るのには低すぎる。
「……四つん這い?」
ややあって出したコニールの答えに、シンは思わずその姿を想像する。
はっきり言って、かなり情けない姿だ。
「じゃなかったら、ほふく前進とか?」
「出来るか!!」
インパルスレプリカの胸辺りの装甲は、オリジナルのインパルスと同じく、少し出っ張っている。
そのため、ほふく前進は無理だ。
シンは泣きたい気分になってきたが、今はそれどころではないと言い聞かせ、機体を動かす。
どうせ誰も見ていない、見ている暇なんてないはずだ、と、自分に言い聞かせ、四つん這いで納屋の外にでる。
納屋の外に出てみるとビームライフルで撃たれたのか、それともコンロの火でも移ったのか、少し離れた位置にある家が紅の炎を噴出しているのが見えた。
シンがセンサーに視線を向けると、そこには四機のMSの反応があった。
センサー類にまで異常があったらどうしようと思っていたが、どうやら心配なさそうだ。
識別コードが出ない事を除けば。
これは向こうが識別コードを出していない可能性があるし、ここには味方のMSなんてないんだから問題は無い。
無いはずだ。
シンは自分にそう言い聞かせ、インパルスレプリカを四機のMSがいる方向に走らせる。
走り出した途端、機体が大きく右に傾いた。
そこでシンは機体のバランスが狂っているというエラーを思い出し、慌てて機体を立て直す。
一歩進むのにもかなり神経を使いながら、何とかグフイグナイテッドをビームライフルの射程圏内に入れる。
そしてビームライフルを一機のグフイグナイテッドに向けると同時に、そのグフイグナイテッドのモノアイがこちらを向いた。
しかしその時にはすでに遅い。
シンはビームライフルのトリガーを引く。
ビームライフルから発射された光線がグフイグナイテッドを貫き、火達磨と――化さなかった。 と、言うか、ビームライフルから閃光が発射されさえしなかった。
「……え?」
シンは思わず間の抜けた声を出す。
その視線が、モニターに映る文字を見る。
――ビームライフルのエネルギー残量が0です。
まだ一発も撃ってない!!
シンは心の中だけでそう怒鳴る。
だが、もはや大声で叫ぶ気力も無い。
その間にも、グフイグナイテッドの一機が、こちらに向かってビームライフルを向ける。
それに気が付いたシンが、横っ飛びでその場を離れた直後、ビームライフルの光線が地面を削った。
シンは舌打ちをして、空を飛ぶグフイグナイテッドを睨み付けた。
向こうは空を自由に飛べるのに対し、こちらはビームライフルさえ使えない。
何か手を考えないと――
シンがそう思った直後、インパルスレプリカの機体が、大きく傾いた。
驚いたシンが慌ててバランスを立て直そうとするが、元々バランスの悪い機体。
シンの努力は無駄に終わった。
インパルスレプリカは地響きを立てて、その場に尻餅をつく。
どうやら、ビームライフルの光線が地面に当たった時に飛び散った岩に、足を取られたらしい。
その様子に、四機のグフイグナイテッドのパイロットは、こちらを素人だと思ったらしい。
四機の内、三機は高みの見物を決め込む事にしたらしく、一機だけがインパルスレプリカに向かって、テンペストビームサーベルを握りしめて突進してきた。
それを見たシンは半ばやけくそで、近くに落ちていた岩をつかんで、こちらに向かってくるグフイグナイテッドに向かって投げつけた。
立ち上がるすきが出来ればラッキー程度で、当たるとは思っていなかった攻撃は、グフイグナイテッドに直撃した。
それに驚いたシンをよそに、バランスを失った青い機体が地面に激突する。
驚いて呆然としてしまったシンは、直ぐに我に返るとグフイグナイテッドが落ちた場所に向かって走る。
そしてビームサーベルを引き抜くと、その赤い刃がちゃんと形成されることを確認して、グフイグナイテッドに襲い掛かる。
それを見たグフイグナイテッドがビームライフルをこちらに向けるが、その引き金を引くより早く、ビームライフルを持った腕を切り飛ばした。
シンは、そのままグフイグナイテッドのコックピットに向かってビームサーベルを突き立てる。
直後、グフイグナイテッドの機体が爆発する。
爆発を後ろに跳ぶことでかわしたシンは、着地のさいに少しバランスを崩したものの、今度は倒れずに着地する事ができた。
その事に、内心ホッとする。
いや、そんな所でホッとするのもどうなのか、とは思うが。
シンは直ぐに思考を切り替えると、先ほど斬り飛ばしたグフイグナイテッドの腕に握られたままのビームライフルを奪い、上空のグフイグナイテッドに向けて引き金を引く。
立て続けに発射された光線は、三機の内二機を火達磨に変えた。
どうやら仲間の死に気を取られ、反応が遅れたらしい。
どこまで素人なんだ、こいつ等。
これじゃあ、その辺の野盗の方がよっほど腕が良いぞ。
シンは心の中だけでそう呟きながら、最後の一体の動きを目線で追う。
あまり下手に動くとバランスを崩すので、なるべくだったら動きたくない。
そんな願いをかなえてくれた訳ではないだろうが、最後のグフイグナイテッドはテンペストビームサーベルを引き抜き、そのままこちらに向かって突進してきた。
シンは手にしていたビームライフルを地面に投げ捨てると、ビームサーベルを握りしめる。
高速で近づいたグフイグナイテッドは、インパルスレプリカの胴体を薙ぐようにテンペストビームサーベルをふるった。 シンはその攻撃を、インパルスレプリカをかがませる事でかわす。
そしてグフイグナイテッドが横を通り過ぎる前に、ビームサーベルでその胴体を斬りつける。
グフイグナイテッドが赤く焼けた断面を見せながら、上半身と下半身の二つに分かれた。
その直後、不意にモニターが真っ暗になる。
「え?」
何が起こったか分からず、今日何度目か分からない間の抜けた声を出して、シンは固まった。
その直後、強い衝撃がインパルスレプリカを襲う。
どうやらグフイグナイテッドの爆発に巻き込まれたようだ。
外の様子は全く分からなかったものの、状態から察するに、そのまま吹っ飛ばされて背中から地面に叩き付けられたらしい。
その衝撃に呻きながら、シンは機体のバッテリーを示す計器に視線を向ける。
計器が示しているバッテリー残量は、いつの間にかに0になっていた。
ついでに言うと、予備バッテリーの残量も0だ。
これは起動させた時から0になっていたのだが。
(……警告音、鳴ってたっけ?)
通常、バッテリーが減ってくれば、それを知らせる警告音が鳴るはずである。
しかしいくら戦闘に集中していたとは言え、その警告音がしていた覚えはシンにはない。
OSの設定か、それともバグかなにかによって、バッテリーが減ったことに対する警告音が鳴らなかった可能性が高い。
だがもはや、この機体の事に対して叫んだり、怒鳴ったりする気力も体力も、シンには残されていなかった。
「……かっこ悪……」
今の自分の状態をそう評価して、シンはこの日一番の大きなため息を吐いた。
****
『ラクス様、例の件ですが……』
「ああ、地球圏からの、武力を伴った略奪行為に対抗するために援軍が欲しい、という要請の事ですか?」
ラクスはモニターに映った議員に向かって、にこやかな笑顔でそう答えた。
「その事に対しては、心配ありません。まだアカデミーを出たばかりのパイロットとは言え、グフイグナイテッドを四機派遣しておきました。
さらに新型装甲を取り付けた"ドムトルーパー"三機を、近くの政府施設に派遣しました。もしかしたら、すでに任務を終了させているかもしれませんね」
『おお、さすがラクス様。迅速な対応見事です』
議員の賛辞を、ラクスは笑顔で受け流した。
その後、二つ三つの問題をやり取りして、ラクスは通信を切った。
そしてため息を吐く。
――どこの誰かは知りませんが、なぜこの自由と平和に楯突こうというのでしょうか?
皆が等しく、この自由と平和を受け入れれば、戦いなど無くなる。
そうすれば――
そこまで考えたラクスは椅子から立ち上がり、執務室の壁一面に張られたガラスに近寄った。
そこからは明るい太陽の光が、さんさんと降り注いでいた。 第八話です。
"初対面印象最悪から仲良くなっていく"ってのは、主人公とヒロインの関係としては大道だと思ってますw
それプラス、シンとコニールの関係は"腐れ縁"ってイメージが強いです。
どんな関係になろうとも。 乙
…レプリカですらないやん、そうだな、インパルス"ガンガル"というのはどうかな!?w だったらシンも今更ながら身分を隠すために改めて”最強傭兵ドン”と僭称すべきかと 乙乙。おっかしいなぁ、アホの子の香りがするぞ?しかし、ハリボテメカは浪漫。どう魔改造されていくのやらww
そして、ラクスがボスキャラ()っぽい雰囲気かもし出してるが、相変わらずのメンヘラっぷり。このスレのラクスはほんに極端やで 乙
このハリボテインパルスでこれからどうやって戦っていこうというのか…
なんか次の相手はドムトルっぽいし補給できるかどうかもわからないのに >>372
乙です。久々の本格連載が嬉しくて久々にクロスオーバー倉庫に
一気に登録させていただきました。
次回以降も楽しみにしております。 >>378
おお、まとめ乙です。久しぶりに昔の読んでたら、続き読みたいの沢山あるなぁ〜。また書きたくなったら書いてもいいのよ?オナシャス ――MARCHOCIAS――
第九話 遭遇
夜の闇の中、先を行く男が手で合図をしたのを確認してから、シンはなるべく身を低くして男の傍に駆け寄った。
その先は崖になっており、はるか先にはコンクリートで作られた建物が立っているのが見えた。
近くには送電用の大きな鉄塔がいくつも立っており、そこから送られた電力を使ってか、明かりの点いている窓が数多くある。
建物の周りには柵が張り巡らされており、時折その近くに光る小さな明かりは、見回りの者が持つライトだろう。
「あれが、例の収容所か?」
シンの言葉に、横に並んだコニールがうなづく。
「ああ。だけど建物の周りには柵と見回りの奴等。見回りの奴らは非合法に銃器を持っているのも確認済み。そのため下手に近づけない、って訳」
コニールの言葉を聞きながら、シンは仲間が差し出した暗視スコープを覗き込む。
そのまま建物の周りを見渡すと、数人の人影の姿が確認できた。
数日前に起こった集落襲撃の後、シンは収容所襲撃作戦の手伝いを承諾した。
理由は集落が襲撃された事によって、住人が皆逃げてしまったからだ。
これはシンが出した条件である"集落に住む人達が、この集落を出て行く事"を満たした事になる。
こちらが出した条件を満たした以上、断る理由はシンに無い。
「……コニール、あの建物は?」
収容所の様子を見ていたシンは、一番広い面積を取ってあいる建物から少し離れた場所に、大きな倉庫のような建物が並んでいる事に気が付いた。
その倉庫は高さがあり、入口のシャッターも軽く二十メートルはありそうなほど大きい。
「ああ、あれは昔のMS用倉庫らしい。少なくても今は使って無いはずだ」
「ん?今は使ってないのか?」
「少なくても、三日前の偵察でも今日の朝の偵察でもMSの姿は確認できてない。もし使っているにしても、普通の倉庫として使ってるんじゃないか?」
コニールの言葉を聞きながら、シンは倉庫の周りを暗視スコープで見まわす。
その表情は眉間にしわが寄り、厳しいものだった。
「……行けそうか?シン」
そのシンの表情を見たコニールが、少し不安げに言葉をかける。
シンは暗視スコープを外して収容所を見つめる。
「まあ、相手にMSが本当に無いのなら何も問題は無いだろう。……こっちのMSがちゃんと動けば」
「あ〜……、あのMSがちゃんと動けばね……」
どこか遠くを見ながら答えたシンに、コニールはなんだか疲れたような口調で、そう答えた。
前回の戦闘後、シンはインパルスレプリカをもっとマシなMSにするべく、いろいろと手を加えた。
幸いと言うべきか、材料はグフイグナイテッドの残骸の中にいくつか利用出来そうなものがあった。
まず取り掛かったのは、機体バランスの悪さの改善だ。 この原因は右足と左足、右腕と左腕をそれぞれ違う機種の物を使用していたために、左右の重量が狂っていたためだった。
これをグフイグナイテッドの四肢に交換しようとしたのだが、その時思いがけない邪魔が入った。
それはインパルスレプリカを作った、あのお調子者の男だ。
男の言い分によれば、「グフイグナイテッドの手足なんて付けたら、ずんぐりむっくりしてしまって"インパルス"じゃなくなる!」との事だった。
それに対してシンは、「もうすでに、いろんな意味で"インパルス"じゃないだろーー!!」という叫びにも似た声を上げた。
結局、グフイグナイテッドの手足を改造して、インパルスの姿に似せる処置をする、という事で互いに手を打った。
そのため、腕に付いていたスレイヤーウイップ等を外す事となったが、それでもまだ少しインパルスに比べると手足が太い。
次にシンが取り掛かったのは、バッテリーの事だった。
バッテリーがイエローゾーンしか充電出来ていなかったのは、なにか異常が起きていたのではないか、とシンは思ったのだ。
しかしバッテリーに異常は見つからなかった。
どうも充電してからしばらくの間ほったらかしにしていたらしく、その間にバッテリーが自然に減ってしまっていたらしい。
つまり、ただの充電ミス。
ちなみに、ビームライフルの方も、ただ充電を忘れただけだったらしい。
ついでに言うと、予備バッテリーの方も同様だった。
更に言うと、バッテリーが減っていても警告音が鳴らなかったのは、男が"うるさいから"と言う理由で故意に切ってしまっていたかららしい。
それらを知った時、シンは製造および管理責任者であるこの男を、思いっきり殴り飛ばしたい誘惑に駆られたが、何とかそれは踏みとどまった。
どうせ殴り飛ばすなら、すべて終わってからのほうが良いだろう。
あと使えそうなものは、耐ビームシールドとその内側に収納されたテンペストだ。
もっとも、耐ビームシールドはともかく、テンペストの方はまたしてもドライバが入っていないとOSにエラーを出されたため、シンはテンペスト用のドライバを組まなくてはならなくなったが。
「あ、だけど、推進剤あったんだろ?」
コニールは何とか明るい方に話題を持っていこうと、無理やり明るい声でシンにそう問いかけた。
「ああ。少しだけだから、三秒ぐらいしか飛べないだろうけどなぁ」
シンはもはやどこを見ているのか分からない目をして、呟いた。
「……それ、"飛ぶ"と言うより"大きなジャンプ"だよな……」
対してコニールは、自分が悪いわけでもないのに、申し訳なさそうにそう答えた。
シンは大きくため息を吐くと、気を取り直して後ろを振り返る。
そこには真っ黒の獣が座って、こちらをじっと見つめていた。
「……お前はコニールと一緒に行け」
シンはそう言うと、アセナの頭を軽く撫でた。
アセナはシンの言葉に答えるように、一度だけ尻尾を振った。
それを見たシンは、立ち上がるとコニールの方に向き直り、手にしていた暗視スコープを差し出した。
「それじゃあ、行ってくる」
「ああ、頼む」
コニールはシンの差し出した暗視スコープを受け取ると、シンの顔を真っ直ぐ見た。
シンはそんなコニールに向かって一つ頷いてから、踵を返す。
来た道を引き返すと、やがて道路に出た。
そのには一台のトラックが止まっていた。
シンは迷わずそのトラックの運転席に乗り込むと、エンジンを掛けてトラックを発進させる。
この道の先に在るのは、先ほど見ていた収容所だけだ。 その所為か、対向車も前後を走る車も無かった。
やがて見えてきたのは、収容所を囲む柵とその一角に設けられた検問所だった。
正規の訪問者だったらここで止まる所だが、あいにくシンは正規の訪問者ではない。
アクセルを思いっきり踏み込む。
夜の為か、検問所の横に設けられた小さな事務所には明かりが灯っていたが、検問所の傍には誰もいなかった。
そのためシンの乗ったトラックがゲートを吹き飛ばし、少し走った所で派手な音を立てて止まっても、直ぐにトラックに近づいて来る者は居なかった。
警報がけたたましく鳴り響く中、シンは素早く運転席から飛び降りると荷台に乗ったコンテナを開く。
そこに乗っていたのはインパルスレプリカ。
シンは素早くインパルスレプリカに乗ると、起動させる。
整備をちゃんとやった為、前回のようなエラーが出ることなく、起動はスムーズに進んでいった。
その頃になると、警報を聞いた兵士と思わしき者達が少しずつ集まってきた。
しかし集まって来た時にはすでに、インパルスレプリカの起動は終わっている。
MSが立ち上がったのを見て、生身で立ち向かおうと思う者は、ほとんど居ないだろう。
それでもライフルをインパルスレプリカに向かって撃ってくる奴が数人居たが、シンは完全に無視して機体を走らせた。
走り出した瞬間、右足が左足に接触し、鈍い音がコックピット内にも聞こえた。
じつはインパルスレプリカは、グフイグナイテッドの足を使ったために足が太くなり、そのせいで普通に走ると左右の足が接触するようになってしまったのだ。
しかし、これはOS設定をいじくって、左右の足をなるべく接触させないように走れるように設定しておいた。
つまり、がに股だ。
かなり見てくれは悪いが、バランスが悪いよりも遥かにマシだろう。
乗ってる自分には走っている姿なんて見えないし。
だから気にしない。
気にならない。
シンは必死に自分にそう言い聞かせながら、インパルスレプリカを走らせる。
やがてインパルスレプリカがたどりついたのは、崖の上から見えた大きな倉庫だった。
シンはこの倉庫を崖の上から見た時、少々疑問を持った。
使っていない、あるいは一般の倉庫にしては、周りを見まわる者達がやけに念入りに警戒していたように思えたのだ。
そう思った瞬間、もしかしたらMS、あるいはMSに対抗できる兵器が置かれている可能性が、シンの思考の中に浮かんだ。
コニール達を信じていない訳ではないが、"もしも"という事もある。
最初に潰しておいて、損は無いだろう。
シンはそう思い、倉庫にビームライフルを向けてトリガーを引いた。
光線が倉庫のシャッターに当たって大きな穴を開けた。
その穴に向かって、次の光線が放たれる。
光線は穴に吸い込まれ、倉庫の中を吹き飛ばすはずだった。
しかし倉庫の中で突然掻き消える。
驚愕に目を見開くシンの視界の先、倉庫の中で赤い幕が発生する。
次の瞬間、シャッターの残骸が吹き飛び、何やら巨大な物がこちらに向かって突進してきた。
それは紫色装甲を持ったMS。
腰の部分はスカート状に膨らんでおり、手足はグフイグナイテッドよりも太いため、ずんぐりとした印象を見た者に与えた。
赤い膜は、そのMSの前方に発生していた。 シンは反射的にビームライフルをそのMSに向かって連射する。
しかしそれは赤い膜にかき消され、MSには届かない。
その直後、相手MSの背後から閃光が放たれた。
シンはそれを横っ飛びでかわす。
一瞬シンは、相手MSがビーム砲か何かを背負っているのかと思ったが、それは違った。
正面のMSと同じ外観のMSが二機、そのMSの背後にいたのだ。
シンがそれに気が付いた瞬間、背後の二機が左右に分かれる。
だが一番前に居たMSはそのまま突っ込んで来たため、シンは咄嗟に機体をひるがえしてかわした。
直後に周りを見渡したシンは、相手の狙いに気が付いて、思わず舌打ちをする。
先に分かれた二機はそれぞれ左右前方に、突っ込んで来た一機は背後におり、インパルスレプリカを完全に包囲していたのだ。
『危ないことしてくれるね。整備に手間取ってなかったら、機体ごとふっとばされていた所だよ』
不意に聞こえてきた女の声に、シンは驚いて通信機を見る。
しかし、通信機には砂嵐しか映っていない。
どうやら、こちらの映像回線が壊れているらしい。
今更過ぎて、全く驚く気にならないが。
分かった事は、自分が突撃したタイミングは、じつは最悪だった、って事だ。
もう少し早いか遅いタイミングだったら、今頃この目の前にあるMSは自分の放ったビームライフルで、何の苦労も無く葬られていただろう。
『自己紹介でもしとこうか?私はヒルダ。この機体の名は"ドムトルーパー"』
女がそういった後、変な沈黙が流れる。
どうやら音声回線が繋がっているのが女――ヒルダの乗っているドムトルーパー一機だけらしい。
シンは通信機をいじくるが、やはり何も聞こえてこない。
そのうち面倒臭くなって、"これから殺しあう相手と仲良くしゃべっても仕方ないしな"と、内心言い訳をしながら通信機のスイッチをOFFにした。
『それもそうだ』
何がだ。
聞こえてきた笑いを含んだヒルダの声に、シンは心の中だけで突っ込みを入れる。
声にしなかったのは、声にしたらおかしな事を言ってるのが自分の方になるという事が、分かっていたからだ。
そもそも、何で通信機をOFFにしたのにヒルダの声が入るのだろうか。
相変わらず、この機体の事は良く分からない。
『あんたはここで死ぬんだからね!』
その声と同時に、三体のドムトルーパーがギガランチャーを構える。
それに合わせて、シンは緊張を高めた。
三丁のがほぼ同時に火を噴く。
シンはそれをジャンプでかわすと、空中でビームライフルを構え、適当な一機に狙いを定めて撃つ。
発射された閃光は、ドムトルーパーに確かに当たった。
しかしその閃光はドムトルーパーの装甲に当たった瞬間、軌道を変えてあらぬ方向へと飛んでってしまった。
「……!"ヤタノカガミ"か!!」
シンは思わず、苦々しく舌打ちをした。
ヤタノカガミはオーブで開発された特殊鏡面加工された装甲で、ビームを弾く事が出来る。
しかし強度的にはあまり強くなく、PS装甲には遠く及ばない。 その上作り出すのに有り得ないほどの予算と手間がかかり、その有効性にも関わらずまったく普及しなかった。
シンも、このヤタノカカミを搭載したMSを見たのは一度だけだ。
しかもそのMSは悪趣味な金色の装甲をしていた。
まだ、腕のいいパイロットが乗っているなら"金色の機体かっこいいな"と思えたかもしれないが、実際に乗っていたのは素人同然の奴だった。
しかもあんな目立つ装甲では、直ぐにヤトノカガミ搭載機という事が敵に覚えられて、対策に実弾兵器を用意されるだけだ。
あのMSを作った奴はよほどのアホか、ふざけていたのだろうとシンは今でもそう思っている。
しかも、今目の前にいるヤタノカガミ装甲の色は紫。
……あの金色の意味は、いったいなんだったのだろう。
シンの思考が一瞬変な方向に向かった隙に、ドムトルーパーが着地したインパルスレプリカに狙いを定める。
シンはそれを察して、急いで機体を捻って飛来した閃光をかわした。
その隙に、他の一機がビームライフルでインパルスレプリカの胴体部分を薙ぎった。
シンは、舌打ちしながらその攻撃を屈んで避けると盾に収納されたテンペストを引き抜き、目の前に居たドムトルーパーに向かって突き出した。
しかしその攻撃は大きな音を立てながら弾かれる。
「!?なんで……!?」
シンは思わず驚愕に目を見開いた。
ヤタノカガミの強度を考えたら、今のテンペストでの一撃を弾ける程の強度は無いはずだ。
可能性があるとすればPS装甲、あるいはその改良装甲であるVPS装甲だが、PS装甲の特性上、ヤタノカガミと同時に使う事は不可能だ。
と、言うのも、PS装甲は電流を流す事で相転移を起こす特殊な金属で作られた装甲の事だが、相転移を起こした時、金属の装甲面では分子配列が変わる。
そのため、装甲面を特殊加工する事でビームをはじくヤタノカガミは、一緒には使えないはずだ。
しかしシンの頭は、ある可能性を導き出した。
「……もしかして、TP装甲か!?」
TP装甲はSP装甲の弱点を改良すべく開発された装甲だ。
莫大な消費電力のや、エレルギー切れが察知されるといったSP装甲の弱点を、通常装甲の下にSP装甲を取り付ける事で改善した装甲が、TP装甲だ。
しかし上になっているのは通常装甲なのだから、それをヤタノカガミに変更する事は、そう難しい話ではないだろう。
それによって、ヤタノカガミとPS装甲を同時に持つ、ビームにも実弾兵器にも強い装甲が出来上がったという訳だ。
もっとも、TP装甲が普及しなかった理由は、"製作費が高い"という理由らしいので、高いから普及しなかったTP装甲と高いから普及しなかったヤタノカガミを合わせたこの装甲の製作費がどれくらいかなんて、シンには想像できなかったが。
それよりは今考えねばならないのは、このチート装甲機をどうやって攻略するかだ。
考えられる手は、装甲と装甲の隙間、間接を狙う事だ。
シンは弾かれたテンペストを構え直し、今度はドムトルーパーの間接を狙って突き出そうとする。
しかしその直前、視界の隅に他の一機がこちらにギガランチャーを構えているのが映り、慌てて機体を後退させる。
閃光が一瞬前までインパルスレプリカがいた所を通り過ぎ、シンは冷や汗をかいた。
しかもそれで終わりではなく、もう一機がビームソードをインパルスレプリカに向かって振り下ろす。
シンはこれもギリギリでかわし、もう一度テンペストで間接部分を狙おうとする。
しかしそれも他の機体の妨害でままならない。
その上、周りを取り囲んだ三機は一定の間隔を常に保ったままなので、思うようにこちらから攻撃に移れない。
せめて、三機の包囲網を崩すことが出来れば――
シンはそう思ったが、相手もかなりの手練れだ。
そう簡単に崩せるとは思えなかった。
いらだつシンの視界の隅で、バッテリー残量を示すメーターが少しずつ、減っていった。 第九話です。
クロスオーバー倉庫登録、ありがとうございますm(_ _)m
ヘルベルトさんとマーズさんは犠牲になったのだ……。
インパルスレプリカのぶっ壊れ性能(文字通りの意味)のな……。 乙
…これを切り抜けたら、今度はドムのパーツで修繕かな?
どんどんゲテモノになっていくよ!やったね,シンちゃん!! スクラップから、あるいはそれ同然の機体をレストア魔改造して
ラクス政権謹製最高級あるいは新型自由正義系MSに逆襲するのは
種死アフターのシンの醍醐味だからね。
…だから…その代表格の一つであるジャンクデスティニーを駆っての
ロミナママン生存ルートの続きもどうかーーッ
クライマックスの一歩手前から何年も待っているのだアアアアアア 乙乙。魔改造は男の浪漫。どんどんゲテモノになっちゃえ〜(違) 乙乙。魔改造は男の浪漫。どんどんゲテモノになっちゃえ〜(違) 乙乙。魔改造は男の浪漫。どんどんゲテモノになっちゃえ〜(違) ――MARCHOCIAS――
第十話 悪魔
収容所内部、通路の曲がり角から突然現れた兵士の姿に、コニールは驚いて咄嗟に動くことが出来なかった。
代わりに兵士に跳びかかったのはアセナだ。
唸り声をあげながら跳びかかってきた大きな獣の姿に、兵士はそのまま後ろに倒れた。
そのまま伸し掛かったアセナを、兵士は自分の上から退かそうと必死に抵抗するが、アセナは牙をむき出して退こうとはしない。
その間に我に返ったコニールは、倒れた兵士の手からライフルをもぎ取り、その顔面を思いっきり踏みつけた。
踏みつけられた兵士は少しの間痙攣した後、その場に大の字になって動かなくなった。
どうやら気を失ったらしい。
「……ありがと」
兵士が動かなくなった事を確認したコニールは、礼の代わりにアセナの頭を軽く撫でようとする。
しかしアセナはコニールの手が触れる直前、その手から逃れるように走り出してしまう。
そして少し行った所で"早く来い"と言わんばかりに、こちらを振り返った。
その姿に、コニールはアセナの飼い主の姿を思い出してしまい、自然と笑みがこぼれた。
――素直じゃない所はそっくりだ。
そんな事を思った瞬間、轟音と共に地響きが聞こえてきた。
轟音の出所に心当たりがあったコニールは、思わず窓の外を覗き込んだ。
だが、窓の外に自分の探している姿は見当たらなかった。
どうやら、ここからは死角の場所に居るようだった。
「シン……」
コニールは不安げな声で小さくつぶやく。
その姿を探したい誘惑を振り切って、コニールはアセナの後を追って走り出した。
****
建物の壁に勢いよくぶつかった衝撃に、シンは歯を食いしばった。
直後にビームサーベルを振りかぶったドムトルーパーの姿が視界に映り、慌てて機体をひるがえす。
一瞬前までインパルスレプリカがいた空間を、ドムトルーパーのビームサーベルが切り裂いた。
インパルスレプリカがぶつかった所為で崩れかけていた壁が、ビームサーベルでさらに破壊されて辺りに飛び散る。
その隙にドムトルーパーの横に回り込んだインパルスレプリカは、持っていたビールライフルの照準を目の前のドムトルーパーに合わせた。
だが、引き金を引く直前もう一機のドムトルーパーが横からインパルスレプリカにギガランチャーを構えてることに気が付き、慌てて機体を後退させた。
しかし慌てて居たためか、インパルスレプリカの左右の足がぶつかり、バランスを崩してその場に尻餅をついてしまった。
――……なんか最近、転んでばかりだ。 シンはそんな事をうんざりしながら思ったが、愚痴を言っている暇は全くない。
急いで機体を立ち上がらせようとする。
しかしその間に三機目のドムトルーパーがこちらに向かってビームサーベルを振り上げる。
立ち上がっている暇がない事を悟ったシンは、無理やり機体をひねってビームサーベルを避けた。
ビームサーベルが装甲をかすり、黒く焦がす。
相手が次の攻撃に移るまでのわずかな隙に、シンは急いでインパルスレプリカを立たせると、大地を蹴って距離を取ろうとする。
大地を蹴った直後、、メインカメラの直ぐ前を相手のビームサーベルが通り過ぎて行き、シンは内心冷や汗をかいた。
距離を取って一息ついたかと思ったら、もうすでに最初に攻撃してきたドムトルーパーが後ろに回り込んでおり、シンは舌打ちしをした。
背後のドムトルーパーが構えたギガランチャーから発射された閃光を、何とか盾で防ぐ。
『思ったよりもやるじゃないか』
不意に聞こえてきた声に、シンは思わず眉を寄せた。
その声は素直な称賛の響きがあったが、素直に喜ぶ気にはなれない。
『あんただろ?ザフトのグフイグナイテッドを落としたのは』
――……は?ザフトのグフイグナイテッド?
ヒルダの声に、シンの脳が一瞬フリーズする。
そういえば最近、グフイグナイテッドを見たよな。
あのド素人が乗ってるとしか思えなかった機体。
もしかしてあれが"ザフトのグフイグナイテッド"って奴だったのか?
へー、あれがザフトの……。
ザフトの……。
……。
――一体どうした、ザフトーー!!
シンは心の中だけで絶叫する。
声に出なかった理由は、あまりの驚愕に開いた口が閉まらなくなったからだ。
いくらなんでも、あんな素人同然を戦場に出すなんて、ザフト上層部はいったい何を考えているのか。
もっとも、昔から少しおかしい所は確かにあったけど!
民間の警備会社だって禁止しているソロでの行動を組み込んだ作戦を、そのまま実行しちゃう軍隊だったけど!
実行したのは俺だけど!!
そんな事を思いながら、シンは頭を抱たい気分になった。
しかし今、コントロール・スティックから手を放したら確実に落とされる。
そう思いながらシンが機体を横っ飛びさせると、直前までインパルスレプリカがいた所が閃光に焼かれ、辺りに焼けた石が飛び散った。
シンが絶え間なく仕掛けられる攻撃を何とかかわしていると、突然警報がコックピット内に響き渡った。
驚いて計器に目をやると、いつの間にかにバッテリーの残量は、もうすぐレッドゾーンに入ろうとしていた。
このままだと攻撃が当たって四散するか、それともバッテリー切れで戦闘不能になるか、そのどちらかしか無い。
いくらナノマシンといえども、爆発四散したら蘇生は不可能だろう。
生き残れる可能性だけを考えたら、バッテリー切れの方が、まだ可能性がある。
しかしそれでは、今収容所に潜入している仲間達がどうなるかが分からない。
バッテリーがある内に捕まっている仲間達を全員逃がせればいいが、そうでなければ逃げ遅れる者が出るだろう。
じゃなくても自分がドムトルーパーに捕まっているせいで、兵士達は"MSはMSに任せたほうが良い"と判断し、予定よりもこちらに意識を集中してはいないだろう。
シンは舌打ちして、何とか突破口を探して辺りに視線を巡らせる。
それで気が付いたのは、いつの間にかに最初に戦闘していた地域から、随分流されていたという事だった。
最初に戦い始めたのはMS倉庫の傍だったが、いつの間にかにその姿は見えなくなっていた。 代わりに見えたのは、送電線が通った鉄塔だ。
今でも広い地域で電力不足が続いている状況で、政府関係施設につながる送電線の鉄塔は必要以上に大きい。
理由は、あまり小さいと電力泥棒が多発するからだ。
政府関連施設に続く電線は、一般家庭のものより優先的に電力を供給しているケースが多い。
その電力を狙って電柱によじ登り、勝手に電線をつないだり、バッテリーを充電したりする者が後を絶たないのだ。
だが大きな鉄塔ならよじ登れないので、電力泥棒の方があきらめる。
シンはその大きな鉄塔の足元で、何か手がないか、必死に考えた。
しかし、何の手も浮かばないまま、バッテリーだけが減っていく。
『なかなか粘るね。だけど、そろそろ終わらせてもらおうか!』
ヒルダの声に反応するかのように、ドムトルーパーが一機、こちらに向かってビームサーベルを振り上げた。
シンはそれを避けて後退しようとする。
だが、それをもう一機のドムトルーパーが放った閃光が阻んだ。
シンは後ろに下がる事が出来ず、仕方なくドムトルーパーのビームサーベルをテンペストで受け止める。
そこでシンは、残る一機が自分の右手からこちらをギガランチャーで狙っている事に気が付いた。
しかし目の前のドムトルーパーが邪魔で、回避行動をとる事が出来ない。
かといって、盾は左腕に持っているため、それでガードする事も出来ない。
シンは思わず舌打ちをする。
ここままだと確実に――死ぬ。
そう思った瞬間、気温が急激に下がるような感覚が、シンを襲った。
死ぬ?
死んだらすべての苦しみから逃れられるのか?
体内にナノマシンを持つシンには、"寿命"と言うものが無い。
死ぬには誰かに殺されるか、それか自分で自分の命を絶つ以外に"それ"を得る方法は無かった。
だからこそ、シンにとって"それ"はとてつもない甘美な誘惑に思えた。
――……別に、いいか。
シンは不意にそう思い、コントロール・スティックを固く握っていた手の力を抜いた。
しかしその直後、シンの視界の中にある光景が映った。
それは焼き払われた大地。
目の前にあるのは先ほどまでは人"だった"、血にまみれた三つの肉の塊。
視界が急に変わる。
次に映ったのは雪が降りしきる瓦礫の山。
自分の腕が抱くのは、血まみれで眠るように息絶えた金髪の少女。
――お前たちは……きろ。生きて……俺の明日を……。
不意に聞こえてきた少年の声に、シンは少女に向けていた視線を上げる。
いつの間にかに雪と瓦礫の山が消えており、代わりに炎を上げる家々が並んでいた。
――シン……。
自分の手元から聞こえてきた弱弱しい声に、シンは驚いて視界をそちらに移した。
いつの間にかに自分の手元から金髪の少女が消えており、代わりに赤毛の女性が血まみれで横たわっていた。
女性は血にまみれた手で、シンの頬をいとおしそうになでる。
――どうか……、あなたは……。
そこまで言うと、女性の手がシンの頬から離れ、地面に落ちた。
シンは空に向かって叫ぶ。 しかしそれは"今"ではない。
全て"過去"
ずっと前の"昨日"だ。
そして"今"は、あの空に向かって叫んだ日の"明日"だ。
そう思った瞬間、コントロール・スティックを握っていたシンの腕に力がこもった。
――……そうだ。
"今"は、彼女が、親友が、あの子が、妹が母が父が、どんなに望んでも得られなかった"明日"だ。
――それを俺が、ここで捨てる訳にはいかない!
「こんな……、こんな所で俺は……!!」
死ねない、死ぬわけにはいかない。
そう思った瞬間、シンの頭の中で何かが弾けた。
途端に、視界が一気に広がる。
バッテリーがレッドゾーンに入ったことを知らせるアラームがコックピット内に鳴り響いたが、シンはそれを無視した。
シンは、右にいるドムトルーパーがギガランチャーの引き金に力を込めるのを見たが、それも無視して力任せに一歩踏み込んだ。
相手は驚いたようだったが、インパルスレプリカに自機よりもずっと重量のあるドムトルーパーを押しのけるほどの馬力は無い。
しかしシンは構わず踏み込むと、左腕を伸ばす。
そしてドムトルーパーの首の装甲と装甲の隙間に手を掛け、そのまま力任せに引っ張った。
あまりに予想外のインパルスレプリカの行動に、相手パイロットは驚いて対応が遅れたのだろう。
そのままバランスを崩して、インパルスレプリカとこちらを狙っていたドムトルーパーの間に倒れこむ。
倒れた瞬間と、右手に居たドムトルーパーのギガランチャーが閃光を放ったのはほとんど同時だった。
閃光はドムトルーパーの装甲に当たり、跳ね返される。
跳ね返った閃光は撃ったドムトルーパーの足元に当たり、石つぶてが辺りに散った。
その間に、背後にいたドムトルーパーがビームサーベルを振りかぶってインパルスレプリカに襲ってきた。
シンはそのドムトルーパーに向かってビームライフルを撃ちながら、倒れているドムトルーパーを飛び越えて距離を取る。
インパルスレプリカが放った閃光はドムトルーパーの装甲に弾かれ、方向を変えて飛び去る。
その飛び去った先に在ったのは、送電用の鉄塔だった。
閃光は鉄塔の柱に当たり、高熱で溶かす。
直後に聞こえてきたのは、甲高い耳障りな音だった。
その音と同時に、鉄塔がゆっくりとこちらに向かって倒れだす。
それに気が付いた三機のドムトルーパーが、思わず鉄塔に視線を向けた。
インパルスレプリカが大地を蹴ったのは、その瞬間だった。
テンペストを手に跳びかかってきたインパルスレプリカに、鉄塔に気を逸らしていたドムトルーパーは反応が遅れた。
それでも直ぐに気が付き、手に持っていたギガランチャーを構えようとする。
しかし遅すぎた。
インパルスレプリカは、ドムトルーパーがギガランチャーを構えるよりも早く、ドムトルーパーの首と胴体をつなぐ装甲と装甲の隙間にテンペストを差し込み、そのまま突き刺した。
テンペストの切っ先は胴体の内部を進み、そのままコックピットを貫いた。
シンはすぐさまドムトルーパーからテンペストを引き抜くと、今し方貫いたドムトルーパーに背を向ける。
直後、ドムトルーパーが轟音を立てて爆発を起こす。
ドムトルーパーが爆発すると同時に、シンはブースターを全開にした。
本来インパルスレプリカに推進剤はごくわずかしか積まれていなかったが、ドムトルーパーの爆発した爆風に押され、推進剤の量以上の加速力を見せた。 さらに鉄塔が倒れてきたさいに生じた風圧が加わり、インパルスレプリカは一気にドムトルーパーに迫った。
予想外のインパルスレプリカの加速に、倒れてきた鉄塔を避けるため回避行動をとっていたドムトルーパーは、対応する事が出来なかった。
シンは先ほどと同じように、ドムトルーパーの首を狙ってテンペストを突き立てた。
そのさい、ヒルダの誰かを呼ぶ声が聞こえた気がするが、シンは構わなかった。
テンペストの切っ先は、中のパイロットごとコックピットをつぶす。
直後、残った最後のドムトルーパーがこちらに向かって突進してきた。
通信機からヒルダの声が聞こえてきたので、このドムトルーパーに乗っているのがヒルダらしい。
シンは突き刺していたテンペストを引き抜くと、そのまま蹴り飛ばし、ヒルダの乗るドムトルーパーに向き直ってビームライフルを構えた。
それを見たヒルダはそのままビームサーベルを振りかぶる。
――ドムトルーパーは"ヤタノカガミ"を使っているからビームライフルは効かない。
その思いが、ヒルダに大きな隙を作らせた。
ビームソードを振りかぶって正面ががら空きになったドムトルーパーに、シンはビームライフルを突きつける。
そこは胸部にあるミラージュコロイドを転用した粒子ビームを放出し、フィールド膜を発生させるするための穴だった。
当然、そこは装甲でふさがれてはいない。
シンはためらい無く引き金を引いた。
発射された閃光は穴から内部に入り、すべてを一瞬で焼き尽くした。
ドムトルーパーがバランスを崩して後ろに倒れこむ。
エネルギーが暴走したのか、それとも推進剤に着火したのか、ドムトルーパーの機体は倒れると同時に火に包まれた。
それとほとんど同時に、インパルスレプリカのコックピットが暗くなる。
シンが計器に目をやると、バッテリー残量は0になっていた。
どうやら予備バッテリーに切り替わったらしく、コックピット内は必要最低限の計器の光だけが灯っていた。
****
収容所の至る所で火の手が上がる。
そのほとんどは、激しいMS同士の戦いによるものだった。
警備兵達はすでに、この騒ぎを抑える事をあきらめたらしい。
あきらかに部外者の格好をしたコニールが収容所内部を走っているのに、誰も咎める者は居なかった。
もっとも、自分達もさっさと逃げ出さないと炎に飲み込まれかねない中、そこまで任務に忠実な者などいないだろう。
コニールは自分の求める姿を探して収容所内部を走り続ける。
やがて見つけたその巨大な姿に、コニールは思わず安堵の気持ちを覚えた。
コニールはその姿が立ち尽くしたまま止まっている事を確認すると、姿が良く見える距離まで近づいた。
しかし停止していたインパルスレプリカの姿を良く見た瞬間、コニールは思わずその場に立ちすくんだ。
インパルスレプリカは煌々と燃える瓦礫の前に立ち尽くして居た。
コニールから見ると丁度逆光になり、インパルスレプリカの姿は真っ黒に見えた。
そのアンテナはまるで角のようで、所々剥げ落ち、焼けて黒ずんだ装甲で身を包んだ姿は、まるで――
「……悪魔」
昔読んだ物語に出てくる悪魔の姿を思い出し、コニールは思わずそうつぶやいていた。 第十話です。
ゲテモノ魔改造……。
やりたい……、すごくやりたいけど……、
もうプロットは、ほぼ完成してるんですよね。
う〜…、でもやってみたいなぁ。 乙です。プロット完成してるのならそのまま行くのが吉かと。魔改造は次作でもw
そういや、デスティニーセカンドも色々魔改造だったな。まあ、究極はアダムスキー型と複座プロトジンの2強だろうがww 乙っすー
インパルスレプリカはどこまで戦えるんだろうか…? ――MARCHOCIAS――
第十一話 究極の正義
「ドムトルーパー部隊がやられただと!?それは本当か、キラ!?」
政務室に響いたのはアスランの怒声と、机を勢いよく叩く音だった。
そのアスランの姿を見ながら、キラは静かにうなずく。
「しばらく前から定期連絡が途絶えたから、近くに居たほかの部隊に調べてもらったんだ。その結果、例の収容所は何者かに襲撃されて崩壊していた、って報告がきた。ドムトルーパーと思わしきMSの残骸も、三機分確認されている」
「そんな……、いったい誰が……」
アスランは握った手に力を込めながら、呟いた。
ラスクがプラントの議長の座に付いてから十年、地球は武器を放棄し、平和への歩みを進めていた。
しかしそれをあざ笑うかのように、地球圏ではテロが多発していた。
地球圏では"戦争"は無くなったが、今なお"紛争"は続いている。
今回、ドムトルーパー部隊が派遣された地域も、そんな紛争が絶えない地域だと聞いていた。
だがまさか、歴戦の戦士たちであるドムトルーパー乗りの三人を倒すことが出来る者がいるとは、思ってもいなかった。
「その事についてなのですが……」
響いてきた澄んだ声に、アスランとキラはそろって声のした方を振り返った。
そこに居たのは桃色の髪を持った女性――ラクスの姿だった。
「収容所の監視カメラに、収容所を襲ったものの姿が映っていたとの報告がありました。ただ、建物が崩壊した時、データを管理していたPCが破損したため、画質がかなり悪いそうですが……」
「構わない、見せてくれ」
アスランはラクスに向かって力強くうなずいて見せた。
それを見たラクスは、机の上の端末を操作する。
やがて壁に掛けられた巨大なモニターに電源が入った。
初めにそのモニターに映ったのは、灰色の砂嵐だったがやがてそれが収まると、どこか野外の様子が映し出された。
頻繁に映像が乱れるため直ぐには分からなかったが、その映像にはどうやら四機のMSの姿が映り込んでいるようだった。
その内三機は、すぐにドムトルーパーである事が分かったが、残りの一機を見た瞬間、アスランは思わず息を飲んだ。
「この機体は……!」
思わずそうつぶやき、その機体を食い入るように見つめた。
その機体の姿は、良く見知った機体にそっくりだった。
自分の記憶とわずかに違うのは、手足が太いという事くらいだ。
「……この機体、もしかして"インパルス"か……!?」
アスランは愕然としながらつぶやいた。
しかし自分が知っているインパルスは、持ち主の女性が亡くなった時、もう二度と悲しみを生み出さないという誓いの元、破棄されたはずだ。
と、いう事は、今映っているこのインパルスによく似た機体は、誰かがインパルスに似せて作ったコピーの可能性が高い。
何故、そんな事を……。
そんな疑問を持ちながら映像を食い入るように見つめていたアスランは、不意に既視感を覚えた。
時々乱れるモニターの中で、インパルスに似た機体はドムトルーパーの攻撃を紙一重で避けている。
「……シン?」
既視感の正体に気が付き、アスランは思わずそうつぶやいた。
今、目の前のモニターに映ったインパルスの動きは、シンが乗っていた時とそっくりだった。
「うん……。僕もこのインパルスの動きは、あの子が乗っていた時と同じ動きをすると思った。……だけど、あの子はもう……」 アスランのつぶやきを聞いたキラが、アスランと同じ意見を口にする。
しかしその後に続いた言葉に、アスランの中に昔味わった喪失感が蘇る。
何かに付けて反発してきた、黒髪緋眼の少年。
彼はいつ目覚めるか、そもそも目覚めるのかどうかさえ分からない眠りに付いたまま、テロに巻き込まれて消えたと聞いている。
だからこそ、今目の前に映っている機体を操作しているのは彼であるはずがない。
それなのに、彼が操縦していた時とよく似た動きをするインパルスそっくりの機体の姿に、アスランは怒りを覚えた。
誰よりも平和を願っていた、あの少年を穢されたような気がしたのだ。
「……俺が出る」
「アスラン!?」
絞り出すように告げられた言葉に、キラが驚いたような声を上げた。
「この機体に乗っているのが何者かは分からないが、この動きはかなり実戦慣れしたコーディネーターだろう。半端な腕の者をやっても、犠牲者が増えるだけだ」
キラは一瞬迷ったように、ラクスに視線を向けた。
視線を向けられたラクスは、キラに一つ頷くと視線をアスランに向ける。
「アスラン……、あなたに渡したいものがあります。こちらへ」
「ラクス……?」
ラクスは優雅な足取りで歩き出すと、そのまま部屋のドアに向かう。
その後をピンク色のハロが続いた。
アスランは訳が分からず、思わずキラの顔を凝視した。
アスランの視線を受けたキラは、何か決意を秘めたような表情でアスランを促すように頷いた。
それを見たアスランはまるで何かに導かれるように、ラクスの後に続いた。
ラクスは部屋を出ると、エレベーターに向かった。
続いてアスランとキラがエレベータに乗り込むと、ラクスは自分の身分証明書を取り出し、それを行先を決めるボタンの近くに在ったカードリーダーに通した。
すると行先を決めるボタンを押していないのに、エレベーターが動き出した。
アスランが扉の上に付いているエレベーターが今いる階数を示すランプに目をやると、どうやらエレベーターは下へと向かっているようだった。
やがて階数を示すランプは一番小さい数を示し、そして消えた。
それから少したって、エレベーターは目的地に着いた事を告げる軽い音をたてて止まった。
「こちらです」
扉が音もなく開くと、ラクスはそう言って軽やかな足取りで歩き出す。
アスランとキラは無言でその後に続いた。
すれ違う者のいない廊下をしばらく歩くと、大きな鉄の扉にたどりついた。
ラクスは先ほどと同じように、扉の横に付いていたカードリーダーに自分の身分証明書を通した。
すると、鉄の扉がゆっくりと開く。
「……これは!?」
扉の先を見て、アスランは驚いた声を上げた。
扉の先は、とても広い空間だった。
天井までは二十メートルは軽くあるだろうと思われるその空間は、全ての壁が鉄板で覆われていた。
あちらこちらにコンピューターが置かれており、その間を数えきれないほどのケーブルがつないでいる。
そして、その空間の中心には、一機のMSが静かに佇んでいた。
赤い装甲に、背中には巨大なリフター。
それはアスランの良く知る機体、"インフィニットジャスティス"に酷似していた。
「アスラン……、あなたにこれを託します。どうかこの"力"をもって彼の地に赴き、愚かな戦いに終止符を打ってください」
「ラクス、この機体は……?」
戸惑うアスランをよそに、ラクスは機体の近くにいた白衣を着た男を呼び寄せる。
どうやらこの男が、この機体製作の責任者らしい。 「え〜……、この機体は、"インフィニットジャスティス"のデータをもとに作られた機体です。装甲は例の"ヤタノカガミ"と"PS装甲"を合わせたものになっています。
本体としては、インフィニットジャスティスは格闘機として完成された機体なので、あまり手を加えずに、武器の出力を上げて火力を上げる、程度の改良にに止めています。
ただ、背面に装備されたリフターの出力増加に伴い巨大化したため、その関係で細かい所に変更がありますが、それは操作などに大きな影響はないので説明は省略させていただきます」
そう言って、研究者はチェックボードを差し出した。
どうしても知りたければ自分で調べろ、という事らしい。
「背後のリフター"ファトゥム‐01"改め、"ファトゥム‐02"に付いているビーム砲は出力上昇に伴い、遠距離でも高出力で使用可能です」
研究者の言葉を聞きながら、アスランはチェックボードに視線を落とした。
そのチェックボードには、今、目の前にある機体の詳細なデータが映し出されていた。
「どうしますか?アスラン。決めるのはあなたです」
ラクスの声に、アスランは顔を上げる。
ラクスはただ、静かにアスランを見つめるだけだった。
そんなラクスの姿に、アスランは一度目を伏せて、覚悟を決めた。
「……ラクス、この機体を俺に使わせてくれ」
「どうぞ、あなたの力になるのでしたら」
アスランの言葉に、ラスクは優しげな笑顔を作った。
それを見計らったかのように、研究者が寄ってきてアスランに機体の調整作業に加わってほしいと言ってきた。
アスランはそれに軽くうなずくと、機体に向かって歩き出す。
キラは歩き出したアスランの横に並ぶと、周囲に聞こえないように小さな声でアスランに話しかけた。
「……いいの?」
「何がだ?」
「ん〜〜、例えば、カガリの事とか?」
キラの言葉に、アスランは思わず眉を寄せた。
ここしばらくの間、カガリとはまともに顔をあわしていない。
理由としてはカガリの体調が悪く、会いたいと言っても周りの者達に止められて会わせてもらえないのだ。
会わせてもらえても本当に短い時間で、まともに会話をする事さえ出来ない。
その時は自分から見るとカガリは元気そうに見えるのだが、周りに話ではアスランに会える事に喜んではしゃいでいるだけで、あまり良くないという話だった。
体調が良くないと言うのに無理して会いたいと言えるはずもなく、結果としてここ数か月、全く話をしていない。
今、アスランはオーブ軍に籍を置いている。
その関係で良く海外に赴く事も多いが、今回は短期間でオーブに帰り、カガリの体調が良ければ会って話をするつもりだった。
だが、それも叶わなくなりそうだ。
「……カガリには、後でメールを出すよ。調子が悪いんじゃ、早く帰っても会えないからな」
「……そっか。カガリ、早く良くなるといいね」
「ああ……」
キラのつらそうな言葉に、アスランもうなずく。
そう言っている間に、アスランは機体の傍に着いた。
そしてコックピットに乗ろうとして、アスランはある事に気が付いた。
「そういえば、まだこの機体の名前を聞いていないんだが」
アスランの言葉を聞いた責任者の研究者が慌ててアスランの傍に駆け寄った。
「ああ、どうもすみません。この機体の名ですが、まだ正式には決まっていないんです。ただ、我々は"インフィニットジャスティス"を超える機体という事で、"アルティメットジャスティス"と呼ばせてもらっています」
「アルティメットジャスティス……」
アスランは口の中だけで、その名前を呟いた。
「……いいんじゃないか?その名で」
「あ、はい!それじゃあ、この名前で登録させていただきますが、よろしいですね!?」
なぜかやたらと嬉しそうな研究者に、アスランは少し呆気にとられながらも頷いて、了解の意思を伝えた。 その様子を見た研究者は、そのままスキップでもし出すんじゃないか、というハイテンションで、そのままどこかに立ち去ってしまう。
「……あの人が考えた名前だったのかな?」
「……さあ?」
キラの疑問に、アスランは首をかしげながら答えた。
しかし直ぐに気を取り直すと、アルティメットジャスティスと言う名になった機体のコックピットに乗りこむ。
その姿を少し離れた位置から、ラクスが微笑みながら見つめていた。
****
勢いよく開かれたドアに、コニールは"またか"と心の中だけで呟いて、ため息を吐いた。
ドアを開けた人物が誰なのかは、確認しなくても分かる。
シンだ。
部屋に入ってきたシンは、コニールが部屋の中に居る事に気が付いているはずなのに、何も言わず足音荒く二階の自室に向かって階段を上って行ってしまった。
そして自室のドアが閉じる時に力一杯閉めて、大きな音を立てた。
あまりに力を入れ過ぎていたため、家がわずかに振動する。
それを聞いたコニールは、今度は先ほどよりも大きなため息を吐いた。
前回の収容所襲撃から数日。
コニール達は収容所から脱走してきた人々と共に、元の集落に戻ってきていた。
さらに前回の集落襲撃の時に、他へと避難していた者達も続々とこの集落に戻ってきていた。
しかし、それに対して声を上げたのはシンだ。
シンは政府にこの集落が目を付けられた可能性と危険性を説き、この集落を離れるように意見したが、それを受け入れる者は全くいなかった。
理由としては、他に行く所が無い者が多いという事もあったが、前回の襲撃から数日たち、"もう大丈夫なんじゃないか"という意見の者が多いと言うのも、その理由だった。
そのため、シンがいくらここが危険か説いても、聞き入れようとする者は居なかった。
シンはそれでも説得を続けようとしたが、最近では話さえまともに聞いてもらえず、邪険にされている様子だ。
昨夜はそれで、危うく取っ組み合いの乱闘にまでなりかけた。
取り敢えず、シンとはもう一度話してみるしかないだろう。
コニールはそう思い、座っていた椅子から立ち上がった。
じつは、住人達がここを離れようとしない理由はもう一つ在る。
それは、一人でこの集落を守り、そして収容所を潰したシンがこの集落に居る、という事だ。
シンがここに居れば、他の所よりここの方が安全なのではないか、と、ここを動きたがらない住人が結構いるのだ。
コニールはそれを知っていたから、シンに何とかこの集落を捨てるのではなく守ってくれるよう考えてくれないかと思っていた。
もっとも、考えているだけではシンに伝わる事は無いだろう。
コニールはシンと話をするため、階段を上ってシンの自室に向かった。
ただ問題は、機嫌の悪いシンが素直に人の話を聞くかどうかだ。
それを思うと頭が痛くなる。
コニールはシンの自室の前に来ると、大きく深呼吸をしてから覚悟を決めた。
何故だかこの扉を前にすると、やたらと緊張する事が多い気がする。
「……シン、少し話いいか?」 ノックをしてからそう声をかけたが、返事は無い。
寝るにしてもまだ時間帯が早いし、そもそも先ほど帰って来たばかりだ。
どんなに寝付きが良くっても、さすがにまだ寝付いてはいないだろう。
コニールは眉を寄せながらも先ほどよりも強めにノックをして、声も大きくする。
「シン?開けるぞ?」
そう声を掛けるがやはり答えは無い。
コニールは軽くため息を吐いて、ドアノブに手を掛けた。
どうやらカギはかかっていなかったらしく、ドアはあっさりと開いた。
「シン?」
声を掛けながら部屋に入ったコニールは、ベットの上で横になったまま、何かを考えるような難しい表情で天井を見つめていたシンを見つけた。
そのベットの足元には、相変わらずアセナが陣取っていた。
「シン、起きてるなら返事位しろよ」
コニールは咎めるようにそう言いながら、シンのいるベットに近づいた。
シンは近づくコニールに対して横目で視線を向けるが、すぐに天井に視線を戻してしまう。
「……何の用だよ」
シンの声は不機嫌そうだったが、先ほどまでの怒りは無いように思えた。
それに内心ほっとしながら、言いたい事をどう伝えるか、コニールは必死に考えた。
あまり下手なこと言って、また怒らせるような事態は避けたい。
「え〜と、……あのな、シン、もう一度仕事の依頼を受けてくれないか?」
「……仕事?」
シンは興味ない、と言わんばかりの不機嫌そうな表情で、コニールの方に顔を向けた。
それを見たコニールは"失敗したかな?"と思ったが、今更後には引けない。
「そ、そう!仕事仕事!内容は、"この集落を守る事"!……どうかな?」
コニールは後には引けないからこそ、わざと明るい声を出した。
しかしその声は、最後は不安が滲んだ小声になってしまった。
理由としては、コニールが話をしている間、シンの表情は"不機嫌"から"無表情"に変わっいってしまったからだ。
直後に部屋の中を満たした静寂に、冷たい汗がコニールの背中に流れた。
そんなコニールの様子を気にしていないかのように、シンは無表情のままで上半身を起こした。
「そうすれば、行き場のない人達もここに住み続けられるし、報酬は衣食住って事で……」
気まずさを和らげるためには、しゃべり続けるしかない。
そう思ってしゃべり続けるコニールの言葉を遮ったのは、くぐもった笑い声だ。
驚いたコニールは笑い声の主、シンの方に視線を向ける。
「シン……?」
シンはうつむいた状態で手で顔を隠し、肩を震わせながら笑っていた。
自分は何か変なことを言っただろうか?
コニールはそう思ったが、その笑い声はどこか狂気じみたような響きがあり、シンに問いただす事が出来なかった。
「……コニール、良い事を教えてやろうか?」
やがて笑い声を収めたシンは、低い声でそう言った。
そして顔を上げたシンの表情は笑顔だったが、その瞳はどこか虚ろだった。
「……俺が守ろうとした奴はな、皆俺の目の前で死ぬんだよ」
コニールはその言葉に思わず息を飲んで、驚愕に目を見開いた。
シンはそんなコニールを無視すると、もはや話は話は終わりだと言うように、こちらに背を向けてベットに横になった。
コニールはシンにかける言葉を見つけ出す事が出来ず、しばらくの間、その場に立ち尽くすしか無かった。 第十一話です。
自分が改良機を考える時は、
その機体の弱点を補う→新たな弱点を考える
または、その機体の長所を伸ばす→それにより加わる新たな弱点を考える、
といった流れになります。
しかしインフィニットジャスティスの場合、
弱点→遠距離が苦手→遠距離を強化→近距離寄り万能機のデスティニーと被る。
長所→近距離戦最強クラス→これを強化するなら……火力強化?
と、悩みに悩んだ結果、後者に。
そのため、かなり地味な改良になってしまいましたw
ちなみに、名前の方は、
"インフィニットジャスティス"って名前、なんか中二病っぽいよな〜→これの上を行く中二病名と言ったら……アルティメット?
って、流れで決まりました。
……うん、なんかいろいろ、ごめんなさいm(_ _)m 乙乙。ついに来るか凸・・・しかし、あるてぃめっと()とはぴったりなネーミングだなw
それにしても、ほんとシンって奪われ続ける人生だなほんと・・・ インフィニットジャスティスは略してインジャ(隠者)とか呼ばれるけど
アルティメットジャスティスならアルジャ……Rジャジャ? ――MARCHOCIAS――
第十二話 襲撃
まだ日が昇る前、空が微かに明るくなり始める時間帯。
シンは一人――正確にはアセナが付いて来ていたので一人と一匹――で家を出て、渓谷の間を歩いていた。
別に、何か用があったという訳では無い。
ただ夜明け前に目が覚めてしまい、そのまま眠れなくなってしまっただけだ。
昨夜、コニールと部屋で話した後、いつの間にかに寝入ってしまっていた。
その為、寝る時間がいつもより早くなり、早い時間帯に目が覚めてしまったのだ。
初めは二度寝でもしようかと目をつぶっていたが、それ以上寝付くことが出来なかった。
そうなると部屋の中でぼけっとしていても仕方がなく、朝の散歩に出かける事にしたのだ。
外に出ると、集落は朝の冷たい外気に包まれていた。
冷たい外気に触れて頭ははっきりしているのに、心がモヤモヤする。
その理由は分かっている。
寝る前にしたコニールとの会話のせいだ。
もしザフトが本気でここを襲ったら、自分に守り切れるとは思えない。
ザフトがこの間のグフイグナイテッドみたいな奴等ばかりなら、まだ何とかなるかもしれない。
しかし少なくても、ザフトにはキラ・ヤマトがいるのだ。
キラ・ヤマトとストライクフリーダムの組み合わせを、ポンコツ問題だらけ機であるインパルスレプリカでどうにかするなんて、逆立ちしても無理だろう。
もはや、この集落がザフトに襲われるのは時間の問題だ。
ザフトのグフイグナイテッドを落とし、収容所を襲ってドムトルーパーを倒したのだから、ザフトに目を付けられたのは間違いない。
それまでに何とか集落の人々だけでもよそに逃がしたいが、皆楽観的思考からここを動こうとしない。
今では声を掛けただけでも"またか。いい加減にしろ"と言わんばかりの顔をされる。
確かに住み慣れた場所を離れたくない気持ちも分からなくは無いし、自分はよそ者だ。
そんな自分の言葉をそうホイホイ聞き入れるはずも無いという事は、よく分かっている。
シンはそう思うと気が重くなり、大きなため息を吐いた。
と、不意に、手に生暖かいものが触れた。
何かと思ったら、アセナが自分の手を舐めたていた。
シンがアセナに目をやると、アセナは真っ直ぐ澄んだ瞳で、シンの顔を見つめ返した。
シンはその瞳に何故だか、心の中の靄が少し晴れたような気がした。
その場に膝をつくと、アセナの頭を優しくなでる。
アセナはそんなシンに対し、甘えるようにその体をこすりつけた。
アセナはしばらくシンに甘えていたが、不意にその体をシンから離し、遠くの空を見つめた。
そして牙をむき出し、低いうなり声を上げる。
その只ならぬ様子に、シンはアセナが見ている方向に視線を向ける。
渓谷の間から見える空は限られており、すべてを見渡す事は出来ない。
その限られた空の中に、何かが飛んでいるのがシンの目に映った。 初めは鳥かと思った。
しかし全く羽ばたかない鳥の姿に、シンは目を細めてその姿を凝視した。
鳥はこちらに向かって飛んでいるらしく、その姿は少しずつ大きくなっている。
やがてその正体に気が付いたとき、シンは慌てて踵を返すと、全力で集落に向かって走り出した。
その後をアセナが軽やかな走りで続く。
「ザフトが来たぞ!全員早く逃げろ!!」
集落に着いた途端、シンは大声で叫んだ。
飛んでいた鳥の正体。
それは巨大な戦艦だった。
しかもそれはシンの良く知る戦艦、ミネルバに良く似ていた。
違いと言えばそのカラーリングで、ミネルバは灰色と赤色だったが、今こちらに向かって飛んでいる戦艦は白と青色に塗られていた。
ミネルバは前回の戦争の最後に月で沈んだはずなので、あれはおそらく同型の別の戦艦だろう。
そしてミネルバはザフトの戦艦だった。
ならばあの戦艦も、ザフトのものだろう。
シンの声を聴いて集落の住人は、家の中から飛び出したり、窓を開けて外を確認する。
そして、空に浮かぶ戦艦を発見した人々が、大声で周りに逃げるように警告を発した。
その声が渓谷中に響く中、シンはインパルスレプリカがある納屋に急いだ。
もはや守り切れるかどうかなんて、考えている暇はない。
とにかくやるしかないのだ。
シンは納屋の前に来ると、後ろを振り返った。
そこにはアセナが立ったまま、シンの姿をじっと見つめていた。
「お前はコニールの所に行け」
シンはそう言うと、アセナの頭を撫でた。
アセナはシンの手が離れるのを待ってから、頭をシンの足にこすり付けた。
やがてアセナはシンの足から体を離すと、人々の声が響く集落の中に走って行った。
シンはそれを見送ると、納屋の中に入った。
そして、納屋の中で座り込んでいたインパルスレプリカのコックピットに飛び込む。
シートに座って起動スイッチを押すと、コックピットの中がわずかに明るくなる。
シンはモニターに映る文字をチェックして、コントロール・スティックを握りしめた。
装備は収容所を襲った時と同じだ。
違いは推進剤を前回で使い切ってしまったため、全く無いという事くらいだろう。
完全に機体が起動すると、シンは思いっきりインパルスレプリカを走り出させる。
インパルスレプリカは勢い良く入口にぶつかると、扉だけでなく壁さえも吹っ飛ばして外に出た。
納屋が壊れるとか、そんな事はこの非常時に言っている暇はない。
むしろ"前回の時もこうして出ればよかった"なんて考えがシンの頭を過ったが、今はそんな事を考えいる暇は無い。
シンが外に出ると、戦艦はかなり近い所まで近づいていた。
戦艦に付いたカタパルトが開き、一機のMSが発進する。
シンはインパルスレプリカのモニターを操作して、そのMSを拡大した。
そして驚愕に目を見開いた。
「そんな……、何で……」 モニターに映し出された機体、それはシンも見た事ある機体によく似ている機体だった。
装甲の色は赤。
背には巨大なリフター。
――インフィニットジャスティス。
シンの頭の中にその名前が響いた。
しかし、シンの知っているインフィニットジャスティスとは、少し外見が違う気がする。
おそらく、インフィニットジャスティスの改造、あるいは改良した新型機であろう。
シンは舌打ちしながら上空のインフィニットジャスティスにそっくりの機体――シンは知らぬ事だが、正式名称"アルティメットジャスティス"――を睨み付けた。
インフィニットジャスティスでさえ、このインパルスレプリカでは太刀打ち出来ないだろうと言うのに、その改良型である目の前の機体に、シンは勝てるとは到底思えなかった。
なので、シンはとにかく時間を稼ぐことに決めた。
時間を稼げれば、それだけ集落の人々が無事に逃げられる可能性が上がる。
逆に今自分が目の前の機体を落とすことが出来ても、集落の人々が犠牲になれば、それは負けも同然だ。
シンは無意識に、コントロール・スティックを強く握りしめた。
その間にもアルティメットジャスティスはこちらに近づいてきていた。
どうやらこちらに気が付いたらしい。
アルティメットジャスティスは猛スピードで飛びながら、高エネルギービームライフルをこちらに向かって立て続けに放った。
シンはその閃光を避けて、地面を蹴って後ろへと跳ぶ。
閃光は一瞬前までインパルスレプリカが居た所に当たり、地面をえぐった。
後退したインパルスレプリカが体勢を立て直しす前に、アルティメットジャスティスは背中のファトゥム‐02を切り離した。
ファトゥム‐02は翼前方部に沿ってビームブレイドを展開し、インパルスレプリカに向かって飛来する。
シンは舌打ちしながら、機体を捻ってファトゥム‐02を避けた。
しかしファトゥム‐02を避けるためにシンは、わずかな時間ながらアルティメットジャスティスから注意をそらしてしまった。
シンが気が付いた時には、アルティメットジャスティスはインパルスレプリカのすぐ目の前に居おり、思わず驚愕に目を見開く。
直後に盾を構えたのは、条件反射だ。
その盾に、アルティメットジャスティスが振り下ろしたビームサーベルが当たる。
途端にコックピット内に、甲高い警告音が鳴り響いた。
驚いたシンがモニターに目をやると、そこには今の一撃で盾の表面が焼けた事が記されていた。
シンはまたしても舌打ちをする。
今使っている盾は、もともとグフイグナイテッドに付いていた物だ。
そしてグフイグナイテッドは量産型機なので、製作費節減のため持っていた盾の質が少しくらい悪くても、おかしくは無いだろう。
それに今、目の前に居るのはインフィニットジャスティスの改良機だ。
インフィニットジャスティスよりも武器の出力が上がっているのは予想の範囲内だ。
しかしまさか、たった一撃でアンチビームコーティングされた盾を焼くほどだとは、思ってもみなかった。
シンは小さく悪態をつくと、盾の内側からテンペストを引き抜く。
そして、テンペストでアルティメットジャスティスの胴体を薙ぎ払おうとした。
しかしアルティメットジャスティスは、それを上空に飛び上がってかわす。
シンはこのまま追撃してくると予想していたが、アルティメットジャスティスはそのまま空高く舞い上がってしまった。
アルティメットジャスティスの予想外の動きに驚いて、シンは思わず注意を上空に向ける。
その途端、コックピット内に警報が鳴り響いた。 我に返ったシンは、すぐ後ろにファトゥム‐02が迫ってきている事に気が付いた。
どうやらアルティメットジャスティスに気を取られている間に、Uターンをして戻って来たらしい。
シンは慌てて機体を横に飛ばしてファトゥム‐02を避ける。
しかしファトゥム‐02は、インフィニットジャスティスのファトゥム‐01に比べて大きい。
ファトゥム‐02を避けきる事が出来ず、翼の先端がインパルスレプリカの肩にぶつかった。
ファトゥム‐02の翼の先端はビームブレイドが発生していないため、機体にほとんどダメージを受ける事は無かったが、ぶつかった衝撃にインパルスレプリカもファトゥム‐02もバランスを崩した。
バランスを崩したインパルスレプリカは、そのまま片膝を地面に付く。
一方のファトゥム‐02は、何とか空中でバランスを立て直し、急上昇する。
上昇した先に居たのはアルティメットジャスティス。
アルティメットジャスティスはファトゥム‐02が脇を通り過ぎる瞬間、底面に有るグリップをつかんだ。
そして振り回すようにして、ファトゥム‐02の軌道を強引に変えた。
しかも振りまわる事によって遠心力が加わり、急上昇によって失われたスピードを回復する。
高速で飛来したファトゥム‐02を避けるため、シンはインパルスレプリカを急いで立ち上がらせ、高くジャンプさせた。
それが失敗だった。
インパルスレプリカの機体の下を、ファトゥム‐02が通り過ぎる。
しかしジャンプした状態では、推進剤が無いインパルスレプリカは身動きが取れない。
だからこそ、次のアルティメットジャスティスの攻撃をかわす事が出来なかった。
シンは目の前に迫ったアルティメットジャスティスの姿を見て、自分の判断が間違っていた事に気が付いた。
それでも盾を構えて、何とかしようと試みる。
アルティメットジャスティスはビームサーベルを振り上げると、インパルスレプリカが構えていた盾を真っ二つにした。
そして、そのままインパルスレプリカの手足を切り落とす。
推進剤もない。
手足もない。
そんな状態では、空中でバランスをとる事は不可能だ。
インパルスレプリカの機体は、何もできないまま背中から激しく地面へと叩き付けられた。
その激しい衝撃に、シンの意識は一瞬消えかける。
しかし歯を食いしばりながら、何とか耐える。
「くっ……そぉ……」
頭を振りながら意識を正常に戻すと、シンは正面モニターに視線を向けた。
そこに映るのは赤いMS。
少しの間アルティメットジャスティスは上空からこちらを見下ろしていたが、やがて空へと飛び去った。
どうやら、上空を飛ぶファトゥム‐02を回収しに行ったらしい。
シンはその隙に、インパルスレプリカのコックピットハッチを開いた。
そしてインパルスレプリカから降りる。
インパルスレプリカは手足をもがれた所為か所々火花が散り、とてもこれ以上使える状態ではなかった。
これ以上ここに居ても仕方がない。
シンはそう判断して、この場を離れるために走り出す。
その途端、激しい胸の痛みと息苦しさを感じた。
あまりの息苦しさに、シンは思わず口に手を当てて咳き込んだ。
その途端、口の中に鉄の味を感じる。
驚いたシンが自分の口に当てた手のひらを見ると、そこには赤い血が付着していた。 どうやら折れた肋骨が、肺に突き刺さったらしい。
ナノマシンの事を思えばこの傷で死ぬとは思わないが、息苦しさと痛みで走る事さえままならない。
「シン!!」
突然の自分を呼ぶ声に、シンは声のした方に視線を向けた。
そちらから駆け寄って来たのは、アセナとコニールだった。
コニールはシンの顔を見ると、一瞬驚いたように目を見開いた。
どうやら口元に血が付いていたらしい。
いくらコニールがナノマシンの事を知っているとはいえ、口元に血が付着している奴を見たら普通に驚くだろう。
「大丈夫か!?シン!!」
コニールはシンに駆け寄ると、その体を支えた。
だが、シンにはコニールの問いよりも、気にかかる事があった。
「……他の皆は?」
シンの言葉に、コニールの表情が曇る。
「……地下通路が相手にばれた。多分、ほとんどの奴が捕まったと思う。だけど、ここを出るにはあの通路のどれかを使うしかない」
この集落は、渓谷と渓谷の間にある。
その為、この集落に出入りするルートは自然と少なくなる。
これは自分たちが、こちらに来る者が居ないか見張る分には楽だが、集落から逃げ出すとなると敵にルートを封鎖される可能性が高くなる。
そして相手は軍艦一隻持ってきているのだ。
逃げ道を塞いだうえで、隠し通路がないか調べられるくらいの人数は、連れて来ているだろう。
シンはコニールに肩を貸り、重い体を引きずりながら地下通路の入口を目指した。
そして、なんとか地下通路の入口にたどりつく。
「……この通路が、敵に見つかって居ないといいんだけど……」
コニールは明かりを取り出すと、通路の中を覗き込んだ。
通路の中は静か薄暗く、ザフトの兵士が居る様子は無い。
「どっちにしろ、ここに突っ立っていたら見つかるだけだ。……賭けるしかないだろう」
シンの言葉にコニールは一つ頷くと、意を決してシンを支えたまま通路の中に入り込んだ。
その後を、アセナが続く。
通路は二人並んで歩くには、少し狭かった。
シンは無言でコニールの肩から離れようとしたが、それをコニールは阻んだ。
そしてそのまま歩き出す。
シンはコニールに対して文句を言おうとしたが、止めた。
肩を貸してもらった方が楽なのは確かだし、コニールの性格からして怪我人をほっとけないのだろう。
今、自分が無理に"一人で歩く"と言ったところで、無駄に時間を消費するだけだ。
しばらくの間、二人は無言で歩いた。
地下通路内はとても静かで、二人の足音とシンの苦しげで荒い呼吸音、そしてアセナの爪が岩に当たる音しか聞こえなかった。
それが故に、他の音は良く響く。
複数の慌ただしい足音が背後から聞こえて来た時、シンは小さく舌打ちした。
慌ててコニールが持っていたライトの明かりを消す。
洞窟内の明かりは、所々に掘られた空気穴用の小さな穴から入る微かな光だけとなった。 「……コニール、何か武器あるか?」
「……銃が一丁だけ」
コニールは、腰から黒いハンドガンを取り出した。
「……俺が囮になる。お前はさっさと逃げろ」
「シン!?」
コニールが驚愕の声を上げた隙に、シンはその手からハンドガンをかすめ取った。
「ちょっ……、返せよ!」
「俺の方が丈夫だし、そう簡単には死なない。囮には俺の方が適任だろ」
「そういう問題じゃない!」
「いたぞーーー!!」
二人の声に、見知らぬ声がかぶさる。
驚いて声のした背後を振り返った途端、強烈な光が二人を襲う。
シンとコニールは反射的に手で顔を隠して、光から目をかばった。
その光が複数のライトである事にはすぐに気が付いたが、暗闇の中で急に強い光に照らされたため、目が眩んで直ぐには動く事が出来なかった。
不意に、シンは自分の横を何かが通り過ぎる気配を感じた。
「う……うわぁ!!」
それがアセナである事に気が付いたのは、獣の唸り声と情けない男の悲鳴が響いてからだ。
「よせ!戻ってこい!」
シンはアセナに向かって大声で怒鳴る。
だがその直後、通路の中に銃声が響いた。
そして、獣の悲痛な鳴き声も。
シンはそれで、何が起きたのか大体理解した。
同時に、その思考を否定しようとする。
「……!!」
だが、実際にその光景を見れば、否定のしようがない。
光に慣れてきた瞳を開いた先に在った光景は、銃を構えた男の姿と、その足元で座り込んで腕から血を流しているザフト兵の姿と、地面に倒れて痙攣している黒い獣の姿だった。
その直後に沸いた感情は、どす黒い怒りだった。
シンは怒りのまま、自分の持つ銃を、銃を構えたままの男の方に向けた。
しかし――
「……シン?」
自分の名を呟いた銃を構えた男が、見覚えのある姿である事にシンは気が付いた。
藍色の髪とエメラルドグリーンの瞳、そして年齢の割に額がやや広いその姿に、シンは一瞬怒りさえ忘れてその場に立ち尽くした。
男の方も驚愕に目を見開き、銃を構えたまま立ち尽くす。
だからこそ、その背後でこちらに向かって銃を構えているザフト兵の姿に気が付くのが遅れた。
通路内に、銃声が響く。
それとほぼ同時に、左胸に強い衝撃を感じた。
「シン!!」
自分の名を呼ぶ、悲鳴に近い声を聴いたのは理解できた。
しかしそれが誰の声だったか、それを考える暇さえなく、シンの意識は闇に落ちた。 第十二話です。
最近暑さの所為か、パソコンの調子が悪いです(パソコン置いてある部屋が、クーラー無い部屋なんで)
この間は書いてる途中でフリーズしてしまい、書いたものが全部消えてしました……。
仕方がないので、夕方の涼しい時間帯に作業しようと思うと雷来るし……。
なので、もし変更がいつもより遅れたら、パソコンの調子の悪さと雷の所為で作業が遅れたせいだと思ってくださいm(_ _)m 乙
まあ勝てんよなぁ…次の機体は上手くやってくれるでしょう 乙です。またシン殿が死んでおられる・・・という冗談はさておき、あるてぃめっと強すぎワロエナイw
投下はマイペースで頑張って下され〜 乙っす
さよならインパルスレプリカ
せめてインパルスに進化していれば… ――MARCHOCIAS――
第十三話 火種
キーボードを叩く、軽やかな音が室内に響く。
音の発信源は、モニターの前に座ったアスランだ。
アスランはしばらくキーボードを叩いていたが、やがてその手が止まる。
目の前のモニターに現れたのは、『98%以上一致』という文字だった。
アスランはその文字を読んで、小さくため息を吐いた。
その直後、部屋に来客を告げるブザーが部屋の中に響いた。
アスランがドアの方を見ると、カギをかけていなかった扉が軽い音を立てて開いた。
「アスラン、いい?」
「……キラ」
部屋に入ってきたのはザフトの白服をまとったキラだった。
キラは部屋の中に入ると、椅子に座ったままのアスランの横に並んだ。
そして、モニターに視線を向ける。
「……これ、彼のデータ?」
「ああ……。ザフトに残っていたデータと、今回捕獲した人物のデータを照合した。結果は98%以上の確率で、あいつは"シン・アスカ"である、という結論が出た」
前回のテロ組織への襲撃の際、アスランはシンにそっくりの少年を見つけた。
しかしその直後、少年は銃弾に倒れた。
撃たれた箇所は、心臓のある左胸。
位置的に、即死かと思われた。
現に、直後に脈を調べたが、脈をとる事は出来なかった。
しかしその姿があまりにもシンに似すぎていた為、少し調べたほうが良いとアスランは考え、遺体をミネルバ級強襲揚陸型MS運用母艦"ブリュンヒルデ"に運び込んだ。
軍医にデータを取るように頼んで、それから部屋で一人きりになっていろいろ考えていたら、突然医務室から連絡が入った。
何事かと思って通信に出てみたら、『"遺体"との話だったが、脈も呼吸もある』との話だった。
驚いて医務室に向かった所、確かにシンにそっくりの少年は自らの力で呼吸をし、繋がれた機械からは心臓が動いている事を知らせる電子音が一定のリズムを奏でていた。
自分は唖然としてその場に立ち尽くしてしまったが、直後にある事を思い出した。
――ナノマシン
それは丁度十年前、傷付き生死の間をさ迷っていたシンを救うために使った、超極小の医療用ロボットだ。
その力はシンの命を救った。
しかし、その性能は生命を維持するのが精一杯で、深く傷ついた脳細胞の再生は不可能との話だった。
それでもいつかは、と、願いをかけて、ナノマシンの研究をしていた施設にシンを預けた。
そのまま何年もたったある日、その施設がある小型コロニーが壊滅したとの知らせを受けた。
コロニーはMSに襲われたらしく、内部は完全に破壊され、ビームで念入りに焼かれていた。
その為、遺体の類はほとんど発見されなかった。
避難船の類もすべてコロニー内に残されており、その状況から"生存者は無し"と判断された。
だから、アスランはシンもそこで死亡したと思っていた。
だが、実際にシンの遺体が発見されたとか、死亡したという明確な証拠はなかった。
それならば、今目の前にいる少年がシン・アスカ本人である可能性は十分にある。 アスランはそう思い、シンと思わしき少年をプラントに連れて行く事を決めた。
しかし、そこで予想外の問題が出た。
少年と一緒にいた女性が、一緒に行くと言って聞かなかったのだ。
最初、捕獲された集落の者達は、集落のある国の施設に送られる予定だった。
しかしその女性にどこか見覚えのあったアスランは、その女性に話しかけた。
そして女性の正体が、昔ガルナハンで会ったコニールである事を知った時、アスランは驚いた。
もっとも、アスランは懐かしく思ったが、コニールの方は露骨に嫌そうな顔をした。
しかし、会ったのは一度だけとは言え見知った相手を邪険にする事も出来ず、アスランは結局コニールがブリュンヒルデに乗る事を許可した。
本音を言えば、少年の事を詳しく気でいたのだが、コニールは少年の事に対してはだんまりを決め込んだ。
また、コニールはブリュンヒルデに乗り込む際、アスランが撃った黒い獣を抱えて持ち込もうとして、兵士たちとひと悶着を起こした。
だが、いくらなんでも地球の動物、しかも死骸をプラントに持ち込むわけにはいかない。
何とかコニールを説得し、コニールは獣の死骸をその場に置き、船に乗り込んだ。
その後着いたプラントで、アスランは少年から取ったデータとザフトに残っていたデータを照合した。
そして出た答えが、今目の前のモニターに映る文字だ。
「98%以上……。クローン、と言う可能性は?」
「それは俺も考えた。しかしナノマシンを体内に持っている事等を考えると、シン本人である可能性が高い」
キラの言葉に、アスランはそう言いながら少年のデータを出した。
血液検査の結果、大量のナノマシンの存在が確認された。
そして、体内にナノマシンを作るための人工臓器も一緒に確認されている。
これは十年前シンに施されたナノマシン技術と一致する。
さらに言えば、このナノマシン技術は破壊された例のコロニーでしか研究されておらず、そのコロニーが破壊された事で、その技術は完全に失われている。
そして地球を含めたどの組織でも、ナノマシンを実際に作り出した、という報告や噂は聞いた事がない。
アスランはモニターを見つめたまま、深いため息を吐いた。
「……て、言うかさ、そんなに気になるなら、会いに行った方が早いんじゃない?」
キラの単純な提案に、アスランは一瞬固まった。
「簡単に言うな!あのシンだぞ?俺が聞いて素直に答えるものか!」
あ、本物のシンだと思っているんだ。
キラはそんな事を思ったが、もちろんアスランは気が付かない。
「どっちにしろ本物かどうかくらい、確かめる事はできるんじゃないの?」
キラのその言葉に、アスランは考えるように押し黙った。
そんなアスランの様子に、キラは思わずため息を吐く。
物事を考えすぎる事で、問題を先送りにしてしまうのは、アスランの悪い癖だ。
「ほら、とにかく会ってから考えよう?」
キラはそう言うと、無理やりアスランを立ち上がらせ、腕を取って歩き出す。
「ちょ……、待て!キラ!」
アスランはそんなキラに引きずられるようにして、部屋を後にした。
****
部屋の前にはライフルを持った兵士が二人、ドアの左右に立っていた。 素人目には分からないだろうが、その制服の下にも銃を携帯している事に、アスランは気が付いていた。
アスランはその兵士二人に軽く会釈して、部屋に入りたいことを伝えた。
アスランもキラも、ザフト内では顔が利く。
その所為かあっさりと入室が許可され、アスランとキラの二人は兵士の開けてくれたドアをくぐって部屋の中に入った。
部屋の中は、ベットと小さな引き出しがあるだけの殺風景な部屋だった。
そのベットの上に、黒髪の少年が眠っている。
少年は両手を手錠で繋がれていたが、それ以外に変わった所は無い。
普通ならば、少し前に心臓を銃で撃たれて倒れたと、信じる事は出来ないだろう。
アスランはゆっくりと少年が眠るベットの傍に近づいた。
そしてベットの直ぐ傍に立つと、その横にキラが立った。
その直後、突然視界が真っ白に変わった。
視界を真っ白に変えた物が少年にかぶさっていた薄い掛布団である事に気が付いたのと、横でキラが短い悲鳴を上げたのは、ほとんど同時だった。
驚いてキラの方を見ると、少年が掛布団をはじいて天井すれすれを跳躍している姿が見えた。
どうやら掛布団で気を逸らし、その瞬間を狙ってキラを踏み台にしてジャンプしたらしい。
軽い動作で着地した少年は、そのままアスランを無視して、扉向かって走る。
キラの声に異変を感じ取ったのか、開いたままの扉の外では兵士が部屋の中を覗き込んでいた。
そして少年がこちらに向かって走る姿に、急いでライフルを構えた。
しかし、少年が走り寄る方が早かった。
少年は手錠で繋がれたままの両手で、兵士の腹を力一杯殴る。
腹を殴られた兵士は、くぐもったうめき声を発して気を失ったようだった。
少年はその兵士を担ぐようにして、もう一人の兵士に突進する。
それは残った兵士から見ると、気を失った兵士を盾にするような形だった。
その為、残った兵士は構えたライフルを撃つ事が出来ず、そのまま体当たりをされて廊下に倒れ込んだ。
少年はその隙に兵士の懐に手を突っ込み、持っていた銃を奪い去る。
そして、その銃口をアスランに向けようとした。
しかしその時には、アスランが少年の目の前に迫っていた。
アスランは少年が銃口をこちらに向けるよりも早く、銃を蹴り飛ばした。
その勢いに銃が少年の手から離れ、空を飛ぶ。
少年は小さく舌打ちすると、そのまま後ろに跳んでアスランと距離を取ろうとした。
しかしアスランはそれを許さず、手を伸ばして少年の服の首元を掴むと、そのまま後ろに押し倒した。
背中を強打した所為か、少年は息を吐いて動きを止めた。
アスランはその隙に少年の手を取って、半ば引きずるようにして部屋の中に連れ込んだ。
そして乱暴にベットに少年を投げ出すと、ホルスターから銃を出して構えた。
「キラ!大丈夫か!?」
アスランは少年の方に顔を向けたまま、視線だけをキラに向けた。
「僕は大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから。だけど、そっちの二人はそうもいかないみたいだね」
キラはそういいながら、ドアの向こうで伸びている兵士を見た。
そして軽くため息を吐いて、通信機を取り出す。
どうやら、完全に伸びている兵士二人の手当てをするための応援を呼ぶ気らしい。
そのキラの様子から察するに、どうやら本当に踏まれただけで、どこも怪我はしていないらしい。
アスランはその事にホッとしながら、視線を少年に戻す。
少年は上半身を起こしたまま舌打ちすると、アスランと視線を合わせないようにそっぽを向いた。
その姿が、記憶の中のシンの姿と重なる。
「……シン」
アスランの呼びかけに、シンは一瞬だけアスランの方に視線を向けた。 しかし、直ぐに視線を他所に向けてしまう。
「シン……、やっぱりお前なのか?」
「……だったら、どうしたってんですか?」
アスランの問いかけに、シンはぶっきらぼうに答えた。
その声もまた、昔のままだ。
「本当に、お前なんだな?」
「ほんっと、しつこい奴ですね、あんた。そういう所は昔のまんまだ」
その言葉に、アスランは今目の前にいる人物が"シン・アスカ"である事を確信した。
静かにシンに向けていた銃を下す。
「シン……、生きていたのなら、なぜ連絡をくれなかった!?」
つい、咎めるような口調になってしまうのは、喜びと安心感からだ。
しかしシンはそれに気が付かなかったようで、アスランの言葉に冷たい目線を向けた。
「……"なぜ"、だって?そんなもん、あんたが知ってるでしょう?」
「なに?」
シンの言葉に、アスランは思わず眉を寄せる。
「勝手に人の事を"物"扱いしたり、自分勝手な都合で人を傷つける奴に、自分の存在を知らせるわけないでしょう」
「……どういう意味だ?」
思わずアスランの声が低くなる。
シンの言った言葉の意味が、アスランには分からなかった。
だからこそ、アスランはシンの次の言葉を待って、押し黙った。
そんなアスランの様子を見て、シンは深々とため息を吐く。
「……本当に分からないんですか?」
「ああ、全く身に覚えがない。」
シンはアスランの顔を見ながら、目を細めた。
その視線は、アスランの本心を探っているようだったので、アスランはあえて真っ直ぐに、緋色の瞳を見つめた。
「……つまり、助けた後の事は知った事では無い、って事か。アンタらしいって言えば、アンタらしいけど」
「何だと?」
シンは不意にアスランから視線を外すと、まるで独り言のように小声でそうつぶやいた。
その言葉に、アスランは思わずシンを睨み付ける。
しかしシンはそんなアスランを見て、今度は呆れたようにため息を吐いた。
その様子がアスランの神経を逆なでし、思わず握った両手に力が入る。
「……じゃあ、今の地球の状況は知ってますか?」
少し間を置いてから発せられたシンの言葉に、アスランは頭に上りかけていた血が下がるのを感じた。
しかしシンの真意が読めず、難しい顔をしながらうなずいた。
今、地球の情勢は、テロや内乱でひどい状況である事は、アスランも知っている。
いくらカガリやラクス達が武器を捨て、平和への道を示しているというのに、それを良しとしない者達が邪魔をして、結局争いの連鎖はいまだに続いている。
「……で、あんた等は、それに対していったいなにをやっているんですか?」
思考に没頭しそうになっていたアスランは、シンのそんな言葉に我に返った。
見ると、シンが睨み付けるような目で、こちらをじっと見つめていた。
「……戦いを止める為の戦いを、続けている。まだ実態はつかめていないが、武器を売りさばいて利益を儲けているロゴスのような者達の存在も確認されている。
今は、そんな奴らの調査をおこなっているところだ。武器が無くなれば、自然と戦いも終わるだろうからな」
アスランがそう言うと、シンは小馬鹿にしたように、鼻で笑った。
その態度に、再びアスランの頭に血が上る。
「……何がおかしい?」
「武器が無くなれば争いが終わるって、本気で思っている事に対してですよ。断言してもいいですよ。……武器が無くなっても、戦争は終わらない」 「どういう事だ」
「本気で分からないんですか?銃が無くなれば、銃がナイフに変わるだけ。ナイフが無くなれば、ナイフが包丁に変わるだけ。
包丁が無くなれば、包丁が石に変わるだけ。そういう事です。アンタ等は地球上からすべての石を、どうやって無くそうと言うんですか?」
「ロゴスのような奴らを、野放しにしろと言うのか!?」
「……俺が言いたいのは、"戦争を終わらせたいなら、やる事が違うんじゃないか"、って話です」
シンの言葉はどこか淡々としていて、それが余計にアスランの神経を逆なでした。
今にでも殴り飛ばしたい誘惑にかられながら、それでも何とか耐える。
「"やる事が違う"と言うならば、お前は俺達に何をやれって言うんだ?」
「本当の戦争の"火種"が何なのか、それにさっさと気が付く事じゃないですか?」
シンは小馬鹿にしたように、そう答えた。
アスランは今すぐにでも殴りたい衝動を、こぶしを握り締める事で必死に耐える。
「"火種"だと……?」
「そう"火種"です。……"テロ"や"内乱"なんて、民衆の中から火が燃え始めるものです。それをあおった者が居のは確かでしょうが、居ても居なくても、一度付いた火は放って置けば勝手に燃え広がる」
「それは、違う!あおぐ者達が居るから戦いなんて始まるんだ!カガリやラスク達ががんばって居るのに、それを邪魔する奴らが……」
「はっ!話になんないな!」
アスランの声を、シンは鼻で笑い飛ばした。
そしてベットに横になると、そのままアスランに背を向けた。
「……これ以上話しても、お互い無駄ですよ。もう寝るんで、とっとと出てってください」
思わずシンの名を呼んで詰め寄ろうとしたアスランの肩に、キラの手が触れる。
何かと思ってキラの方に目線をやると、キラが悲しそうな顔をして左右に首を振った。
それを見たアスランは、苦虫をかみつぶしたような顔をした。
そして踵を返すと、荒い足音をたてて部屋を後にする。
アスランの後を、キラは早足で追って、部屋を後にした。
後に残されたシンは、ちらりとその後ろ姿を見た後で、静かにまぶたを閉じた。
****
寝入っていたシンは、ドアが開く軽い音に目を覚ました。
またアスランが小言を言いに来たのか、それとも尋問室か処刑台に連れて行くための兵でも来たか。
そう思い、シンは体を起こしてドアの方を見た。
そして眉を寄せる。
部屋の中に入ってきたのは、二人のザフト制服を着た男だった。
それ自体は別に、何も問題は無い。
しかし、その制服の色が問題だった。
先に部屋の中に入ってきた銀髪おかっぱ頭の男は白色の制服を着こみ、後ろの浅黒い肌をした男は赤色の制服を着こんでいた。
どちらも、ザフト内ではエリートのみが着る事を許される色だ。
自分を尋問室か処刑台に連れていくための使い走りにしては、地位が高すぎだろ。
シンはそう思い、目を細めて二人を見つめた。
その視線に気が付いたのだろう。
浅黒い肌をした男が、こちらを見て楽しそうに笑った。
そして銀髪おかっぱ頭の男は、睨み付けるような鋭い瞳で、シンを見つめていた。 第十三話です。
すれ違ってるシンとアスランの会話です。
>>424
当たりです。
連続投票は五回まで、って言われましたorz
PCの調子悪いのと相まって、地味に痛い・・・。 乙
凸は相変わらず根本的な事間違えたまま行動して人の恨み買うなぁ 乙ですー。このアスランは珍しくシンの話を聞いてるな。まあ、聞いたからといってどうなるかはこれからだろうが・・・
そして、クルーゼ隊の漫才コンビ登場か。こいつらも、作品によって色々変わるから楽しみだ 乙です!!
いよいよキラ&アスランとシンがご対面ですね。
研究所送られた後のこと(暴走)や、ストフリ量産のことをシンはアスラン達に伝えないけど、
今後どうなるか気になります!! ――MARCHOCIAS――
第十四話 伸展
部屋に入ってきた男二人の姿に、シンは思わず首をひねった。
どこかで見た事があるような、無いような……。
いや、無いな。
シンは心の中だけで、そう結論付けた。
「貴様、シン・アスカだな?」
先に声を発したのは、銀髪おかっぱ頭の方だ。
その偉そうな態度と言い方に、シンは思わずムッとして眉を寄せた。
思わず、不機嫌そうな言い方で答える。
「自己紹介の手間が省けてよかったよ。……で、アンタ等誰だよ、偉そーに」
「そういや、自己紹介がまだだったな。俺はディアッカ・エルスマン。で、こっちのおかっぱ頭がイザーク・ジュールだ」
シンの態度におかっぱ頭の目が吊り上ったのを見て、まずいと思ったのか浅黒い肌の男がすかさず自己紹介する。
しかしイザークと呼ばれたおかっぱ頭は、ディアッカの紹介が気に入らなかったらしい。
大声で、ディアッカに向かって怒鳴る。
「誰がおかっぱ頭だーー!!」
ディアッカはイザークのこの態度に慣れているのか、耳を両手でふさいで肩をすくめて見せた。
シンは、その間"イザーク"と"ディアッカ"と言う名を記憶の中から引っ張り出す作業をしていた。
この二つの名前には聞き覚えが、……やっぱりないな。うん。
シンはそう結論付け、一人納得して頷いた。
その間にイザークの方は、一通りディアッカを怒鳴り終えたのか、シンの方に向き直ると両手を組んで背筋を伸ばした。
その態度はやはり偉そうだ。
「……シン・アスカ、いくつか聞きたい事がある。……貴様、ラクス・クラインをどう思う?」
「最近、老けた」
シンの即答に、ディアッカが思わず噴き出す。
イザークの方は、額の血管が少し浮き出たような気がした。
「……ならば、キラ・ヤマトはどうだ?」
「万年脳内花畑野郎」
「……アスラン・ザラは?」
「でこっぱち」
シンがそう答えた瞬間、それまで肩を震わせて耐えていたディアッカが、とうとう大声を上げて笑い出した。
一方イザークの方は、どうやら怒りの臨界点を超えたらしい。
「真面目に答えろ、貴様!!そして、ディアッカ!やかましいわ!!」
腹を抱えて笑い続けるディアッカに、イザークが怒鳴る。
はっきり言って、八つ当たりにしか見えない。
その様子に、シンは吐息を吐き出した。
「……結構、真面目に答えたつもりだったんだけど。ま、いいや。で、ラクス・クラインとキラ・ヤマトについてだっけ?」
シンの言葉に、ディアッカを怒鳴り散らしていたイザークが、真面目な顔でこちらに視線を向ける。 ディアッカは完全にツボに入ってしまったらしく、いまだに笑い続けている。
「あの二人は、悪い意味で善人だろ」
「悪い意味で善人、だと?」
「そ、とにかく善人だから"良い事"をする。……だけど、その"良い事"の基準がどこまでも"自分"なんだ。だから、自分が思う"良い事"が、相手にとっても"良い事"だと信じている。
それゆえ相手が迷惑がっていても、誰かが自分の気が付かない所で傷ついてもお構いなしだ。
……じゃなきゃ、身近な人間が泣いてるからって理由で突然戦場に乱入して他人を傷つけて、それで"自分の意思で撃ったんじゃありません"と言わんばかりの態度で被害者面なんて出来ないだろ」
ため息を吐きながらそう話すシンを、イザークはじっと見つめていた。
はっきり言って、その目線は観察されているような気分になって気に入らない。
その所為で、シンの口調は無意識にぶっきら棒なものになってしまっていた。
「アスランの方は相変わらず話にならない人だったな。問題点を指摘すれば、"それはあれが悪い""あいつが悪い""お前が悪い"。……子供か、ってんだ」
それだけ言うと、シンは聞かれた事はすべて話したと、イザークを睨み付けるように見つめた。
イザークも似たような目で、シンの事を見ていた。
しばらくの間、二人は何も言わずににらみ付け合う。
そう広くない部屋の中に、ディアッカの咳だけが響く。
どうやら、笑い過ぎてむせたらしい。
「……貴様は、今のプラントやザフトの様子は知ってるか?」
むせているディアッカを無視して、唐突にイザークはシンにそう問いかけた。
「いや。地球じゃプラントの詳しい様子なんて、ほとんど情報が来ないからな。精々、地球圏すべてが飢えてる今の状況で、オーブと並んで唯一食べ物に困らない"楽園"だ、って話を聞くくらいだ」
「"楽園"、か。……確かに、その表現は間違ってはいない」
イザークのどこか含みのある言い方に、シンは思わず眉を寄せた。
「自分達で苦労して作った訳でもないのに食べ物は有り余っている。それだけで、地球から見たら"楽園"に見えなくもないだろう。
だがしかし、そこの"楽園"に住んでいる者達はどうだ?親は子供達に、自分達コーディネイターはナチュラルよりずっと優れていると教え込む。そして子供達は、その言葉を良く考えもせずに信じ込む。
……結果、どうだ。今の若い奴らはナチュラルを見下し、飢えてし苦しむ者達をあざ笑うような奴等ばかりだ!そして自分達は優秀なのだと信じ込み、己を高めようとしない!
今、ザフトはそんな奴らばかりで、ただMSが動かせるってだけのひよっこばかりだ!俺達がザフトに入った頃はな……!!」
「イザーク、イザーク、問題がずれてきてるぜ」
だんだん熱くなってきたイザークを、やっと復活したディアッカがたしなめた。
その間に、シンは一人で納得していた。
あのど素人レベルのグフイグナイテッドはそういう事か。
確かに相手を見下し、自分が優秀だと思い込んでいる奴が、自らの腕を磨こうと努力するなんて思えない。
さらに言えば、そんな奴ほど相手が思いがけない反撃に出た時の反応が鈍いものだ。
結果、あのグフイグナイテッドのパイロットたちは、正規のザフト兵とは思えないほどのへっぽこになった、と言うわけか。
ディアッカにたしなめられ我に返ったイザークは、軽く咳をして己を落ち着かせると、何事も無かったかのように話の続きを始める。
「とにかくだ、今のプラントの様子はかりそめの平和で堕落しきっている、といった感じだ。……地球軍とて馬鹿ではない。
再びプラントと地球の戦争が起これば、過去に何度も失敗した武力行使のような直接的な攻撃よりも、食料を止めにかかるなどの間接的な攻撃をおこなってきても、おかしくはない。
そうなれば、飢える事に慣れていないプラントの民がどういった行動に出るか、……想像出来るだろう」
「まずは政府……つまり、ラクス・クラインに不満が行くだろうな。それで焦って、食料止めた国に対して『撃ちたくない、撃たせないで』とかほざきながらストライクフリーダムが突っ込むんじゃないか?
頭の中はどうだか知らないけど、実際にする行動は、"話し合いよりも、まずは武力で相手を叩きつぶすのが先"、って感じの人達だからな」
「……そこまで軽率ではない、と、思いたい所だがな」
小馬鹿にしたように話すシンに対して、イザークは疲れたようにそう答えた。
内心は否定したいが、否定する材料が足りない、と言った所なのだろう。 そんなイザークに対し、シンは続きをしゃべり続ける。
「地球軍としては、その売られた喧嘩に勝つ必要はない。
ただ、『国民が飢えてるからプラントに送る食料を止めて、国民に回そうとしたら、武力に訴えられた』って言えば、飢えている地球の人達の怒りはプラントに向く。
……"飢え"と"貧困"を苗床にして育った"火種"は、あっという間にプラントと地球を飲み込むだろうな」
「……そうなれば、今の堕落しきったザフトでは、対処しきれるかどうか分からん」
「そう言えば、前にストライクフリーダム数機に襲われた事があったんだが、あれは大量生産したのか?
あれが何十機もあれば、しばらくの間は粘れるんじゃないか?……もっとも、あれに乗れる奴がそれだけいればの話だけど」
シンがふと思い出した事を言うと、イザークが目を細めてシンを見つめた。
なぜイザークがそんな顔をするのか見当が付かず、シンは思わず目を見開いて首をひねった。
「……やはり、あれを落としたのはお前だったか……」
「は?」
「こちらの話だ。……『あれ』は電脳部分が特殊な構造で、一度に大量に作る事が出来ないと聞いている。まだテスト段階だしな。
それに、もしそれらの問題をクリアしても、"ストライクフリーダム"を造るには特殊な金属が必要だ。現在プラントにあるその金属の量を考えても、そんなに大量には作れないはずだ」
「そうなのか?」
シンの言葉に、イザークはうなずく。
シンも軽くうなずいて、イザークの言葉を理解した事を伝え、次の話に移った。
「後問題なのは、実際に戦争になった時の地球軍の戦力か。……まあ、MSは設計図があれば、作るのにそう時間はかからない。
地球連合が本気になれば、数か月でかなりの数をそろえられるだろう。ザフト兵士の質が悪い事を考えると、プラント側が不利だろうな」
そっけなく答えたシンに、イザークが目を吊り上げる。
「貴様!なんだ、その"どうでもいい"と言わんばかりの言い方は!?」
「……いや、"どうでもいい"とまでは言わないけど、どう考えても俺にはどうしようもない事だろ」
戦争をどう回避するかなんて、政治の問題だ。
そんな中で、一般人の自分が何か出来る事があるかと言えば、はっきり言って"何もない"、だろう。
もちろん平和に暮らしている者達や、弱い人達を傷つける行為は許せない。
昔はそういった人達全てを、自分の手で守りたいと思っていた。
いや、自分に力があれば、実際に全て守れると信じていた。
だが、実際に力を持ってみれば、自分には絶対に守れないと言う現実を突き付けられただけだ。
そんな自分に、こいつは何を期待していたのか。
シンはそう思ってため息を吐いた。
「アンタはいったい、俺に何をさせたいんだよ?」
うんざりしながらそう言うと、イザークは姿勢を正してシンをまっすぐに見つめた。
「……俺達に手を貸せ、シン・アスカ」
「……は?」
低い声で発せられた言葉に、シンは思わず間の抜けた声を出した。
だが直ぐに気を取り直すと、イザークを睨み付ける。
「……それはザフトに戻れ、って事か?」
「違う。……俺達はこれから、ザフトを抜ける。そしてラクス・クラインから政権を奪い返す」
「はぁ!?」
イザークの言葉に、シンは再び変な声を出してしまった。
しかしイザークは全く気にした様子はなく、そのままシンを睨み付けるように見つめる。
「これはまだ極秘の情報だが、地球の車や重機を作っているとされる多数の工場に、MSの材料と思わしき資材が大量に運び込まれているとの情報があった。
その量や時期を考えると、すでにかなりの量が出来上がっていると思われる」 「それ、ラクス・クラインには報告したのか?」
「もちろん報告済みだ。だが、返ってきた答えは"地球の人々を信じましょう"って言葉だけで、他には何もなしだ!」
「もし地球連合軍が襲って来ても、キラ・ヤマトが居れば何とかなると思っているんじゃないか?」
「確かに、奴の力は強大だ!しかしな、プラントは宇宙空間に広く分布しているんだぞ!それを一度に狙われたら、奴が十人いても足りんわ!!
そして地球連合すべての物資、人材をかき集めれば、それは決して不可能な事ではない!!」
しゃべっている内にヒートアップして声が大きくなるイザークに対し、シンは思わず耳をふさごうとした。
しかし、その腕は手錠でしっかりと繋がれている事を思い出し、眉を寄せながらもイザークに近い方の耳だけふさぐ。
「……で、ラクス・クラインから政権を奪い返したとして、アンタ等はどうしようって言うんだよ?」
シンの質問に、イザークの怒鳴り声がピタリと止む。
そして再び背筋を伸ばすと、真面目な顔になった。
正直、ずっとこのままの状態で話してほしいと思う。
……うるさいし。
「まずは地球圏の軍、警察等一部の組織に対する武器の所持を認める事となるだろう。それにより、自分の国は自分達の力で守ってもらう事になる。
そしてプラントは、他国を守れるほどの過度な軍事力を維持しなくても済むようになる。それにより軍事費の削減をし、その資金を食料生産プラント製作に回す。
将来的には食料輸出を目指すつもりだ。ニュートロンジャマーは半永久的に動くのだから、地球圏内での食料大量生産はしばらくは無理だろう。
食料や宇宙資源、そういった必要不可欠な物を地球圏の国に与える事でプラントの地位を上げ、地球軍がプラントに手を出せないようにするのが、最終的な目標だ」
「……なるほど、確かに"理想的"な目標だな」
今までと違い、"力"で相手を脅して得る平和ではないのだから。
しかし今とは違う意味で、その平和を得るのも維持するのも難しいだろう。
そんなシンの心の内を察したのか、イザークは眉を少し寄せた。
「……今のプラントの平和はキラ・ヤマト一人で持っていると言っていい。キラ・ヤマトが倒れれば、それだけでプラントは終わる。そんな危うい平和よりもマシだろう」
「だから、反旗を翻すと?」
「どちらにせよ今の政権が、俺達が反旗を翻した程度で倒れるならば、地球連合軍に勝てるとは思えんからな」
「俺達が戦っている間に、その地球連合軍が攻めて来たらどうするんだよ?」
「その心配はない。もうすでに主だった国と、裏で取引を終了させている。俺達が戦っている間に、奴等がこちらに銃口を向ける事はないはずだ。
……もっとも奴らにしてみれば、ただ同士討ちを狙っているだけかもしれないがな」
「……もしこちらが勝てたとしても、プラントの国民が付いて来るのか?」
「貴様、今のプラントの税がどのいくらか知っているか?軍事を維持し、増強させるには莫大な資金が居る。その為に、今現在プラントでは、他の国と比べてはるかに高い税を設けている。
しかもそれでも足りずに、近いうちに増税が決定している。今はまだ食料類にかかる税率が低い事と、ラクス・クラインのカリスマで何とかもっているが、その食料類にも増税される事が決まっている。
そのうえ、その上げ率が大きい。そうなれば、不満を持つ者がなからず出て来るだろう」
「ラクス・クラインのカリスマでまとまっている国で、そのラクス・クラインに不満を持つ者が出て来るわけか。
……最悪、プラントはラクス・クラインに付いて行くと言う者と、不満を持つ者の真っ二つに割れるかもな」
「しかも増税は軍事増強のためで、それは地球圏、つまりナチュラル達をテロ等の犯罪から守るため、と、宣伝している。
そのため"ナチュラルの事なんて、放って置けばいい"と、不満を持っている奴らはすでに数多く居るからな」
内も外も火種だらけか、今のプラントは。
ホント、あの人達は何がしたいのか。
シンはそう思うと気が重くなり、大きくため息を吐いた。
「話は大体わかった。……だけどな、ただの一般人相手に"手を貸せ"って言われても、正直迷惑なだけなんだけど」
「貴様、傭兵だそうだな」
「すでに調査済みか。ホント、説明が省けて楽だな」
「……しかも、普通に殺したくらいじゃ、死なないそうだな」
シンの嫌味を完全に無視して発せられた言葉に、シンは思わず目を細めてイザークを睨んだ。 ……しゃべったのは、アスランあたりだろうか。
有りうるな。
あの人、結構おしゃべりだし。
シンがそんな事を思っているのも完全に無視をし、イザークは鋭い目つきでシンを睨み付ける。
「分かるか?今ここで貴様を置いて行くと、こちらの障害になる可能性がある」
イザークはそう言うと、銃を取り出してシンの頭に銃口を向けた。
それだけで、シンはイザークの言わんとしている事が分かった。
つまり自分達の力にならないなら、ここで"処理"させてもらう、という事だろう。
「……随分、俺の事を評価してくれているらしいな」
「当たり前だ。一人で数十もの相手を圧倒する事が出来る腕を持つ者は、もはや兵器と変わりはない。そして主を持たず、銃口をどこに向けるか分からない兵器ほど、危険なものは無いからな」
しばらくの間、シンと銃口を突きつけたままのイザークが、お互いをにらみ付け合う。
そんな中、先に沈黙を破ったのは、シンの方だった。
嫌味も込めて、大きなため息を吐き出す。
「……アンタも、俺を"兵器"扱いするわけ?」
「それが真実か否かはともかく、お前の事を良く知らん奴らは、そうとしか思わんだろう。……力を持つ者なら、その力を正しく自覚するべきだろう」
そのセリフに、シンは思わず眉を寄せた。
だがイザークは、そんなシンの様子に構わず、話を続ける。
「もちろん、報酬は出す。お前と一緒に来た、あの女の安全も保障する」
「女?」
何の話か分からず、シンはさらに眉を寄せた。
そんなシンに答えたのはイザークではなく、今までどこか楽しげにシンとイザークの会話を聞いていたディアッカだ。
「確か……コニール、だったか?茶色い髪の……」
ディアッカが不意に言葉を切ったのは、自分の意志ではない。
シンがいきなりベットの上から立ち上がり、自分に向けられる銃口を無視してイザークに詰め寄ったからだ。
「コニールもここに連れてこられたのか!?」
「知るか!アスランの馬鹿が連れてきたという事と、貴様の知り合いという事しか聞いておらん!!」
思わず声を張り上げたシンに対し、イザークも声を張り上げた。
その答えを聞いたシンは、体中の力が抜ける感覚に大きなため息を吐きながら、ベットに座り込んだ。
コニールが付いていくと言って来たのか、それとも顔見知りが故に、アスランが邪険に出来ずにつれて来たのか。
……おそらく、両方だろう。
シンは何故だかそう思った。
それはただの予想だったが、なぜだか確信じみた思いだった。
「……報酬、ちゃんと払うんだろうな?」
「は?」
いきなり詰め寄って来たかと思ったら、今度は勝手に脱力している様子のシンに、イザークは一瞬呆気にとられてシンの言葉を聞きのがしたらしい。
間の抜けた顔で、思わず聞き直す。
「だから、コニールの安全を約束してくれるんだよな?」
「……ああ、それは約束しよう」
シンの言葉に、イザークは頷きながら答える。
それを確認するようにシンも一つ頷き、そして答える。
「……いいだろう。契約成立だ」 支援、ありがとうございますm(_ _)m
第十四話です。
シンとイザークの会話だけで終わってしまいました。
はっきり言ってグダグダで、特に見せ場は無いです。
しかしこの手の会話は、この先戦っていく理由にもつながるため、あんまり端折る事も出来ないんですよね……。
そして、また誤字orz
……これからは、書いた後に検索で間違ってないかチェックした方がいいかな……。 鬼作さんもといイザークさんはプラントの良心…つーか、痔とこいつくらいだな種の劇中で成長したの
他のメインキャラはだんだんアレになっちゃったしw 乙乙。これは面白そうなジュールターンが見られそうだ。さて、今度の乗機は何だろう?
そして、量産型ストフリとイザークの台詞から、まーたよからぬ事企んでそうなピンク達・・・ほんと、お花畑BBAだわ〜
てか、ここの作品でまともな3バカってほとんど居ないな。まあ、本編合わせて大概はラスボスだし >>442
イザークもテレビだけだと「あれ(ラクスのエターナル)はザフトの艦だー!」で
恩仇返しの完全台無しになりさがったけどね。
二次ではそのままラクス教徒のイヌで終わるケースもあれば
ジオンやレッドアイズやCROSS POINTのように遅まきながら自分で考えるようにもなってるが。 >>444
種の初期の頃が酷すぎたんで、成長した分まともに思えてしまうが
実はそれでやっと他の面々と同レベルなんだよな… ガンダムクロスオーバーに更新依頼出したのに、更新されねぇ・・・。 ――MARCHOCIAS――
第十五話 脱出
大きな窓から入る太陽の光が、部屋の中を明るく照らす。
一目で高級だと分かる家具に囲まれて、一組の男女が午後のお茶を楽しんでいた。
女の名はラクス・クライン。
男の名はキラ・ヤマト。
たわいもない事を話し、ゆっくりとお茶をすすりながら、用意された焼き菓子を口に運ぶ。
その焼き菓子を作るための小麦一袋の為に、地球では流血を伴った奪い合いが日夜繰り広げられていたが、そんな事は今の二人の思考の中には無い。
今、二人にとって重要なのは、こうして愛する者とのささやかなひと時なのだから。
そんな二人だけの幸せな時を破ったのは、ラクスの直ぐそばに置かれていた通信機から聞こえて来た、メール着信を告げるメロディだった。
ラクスは一瞬だけ不快そうに眉を寄せて、通信機に手を伸ばした。
そして着いたばかりのメールに目を通し、通信機の画面を睨むように目を細めた。
「……何かあったの?」
お茶に口を付けようとしていたキラは、ラクスの表情が変わるのを見て、そう聞いてきた。
その表情はラクス自身をいたわると同時に、今の楽しい時間がこれで終わりになるのではないか、という不安が見え隠れしていた。
それに喜びと愛おしさを感じながら、ラクスは柔らかく微笑む。
「大丈夫ですわ。少しトラブルがあったそうですが、この程度なら私が出なくても他の方が処理してくれますから」
ラクスがそう言うと、キラは目に見えてホッとした表情をした。
「そっか」
「ええ。ですが、返信をしなければなりませんから、少しお時間をください」
「うん」
キラはラクスの言葉に軽くうなずくと、自分のお茶に口を付ける。
ラクスはその間に通信機に目をやって、もう一度届いたメールを読み返した。
『イザーク・ジュールに不審な動きあり。いかがいたしましょう?』
その文章を読み返したラクスの瞳は、キラに向けていた時には考えられないくらい冷たいものだった。
ラクスはもう一度キラに目線をやり、キラがこちらを見ていないのを確認すると、一気に返信を打ち込んだ。
『平和を乱す者は何人たりとも許してはなりません。目標の生死、方法は問いませんが、民には知られぬように』
ラクスは自分の打った文章と送り先を確認すると、返信ボタンを押した。
そして、メールが相手に無事に届いた事を知らせるメッセージが画面に出た事を確認して、通信機をテーブルの隅に置く。
「キラ、お茶のお替りはいかがですか?」
そう言ってキラに向けたラクスの笑顔は、先ほどの冷たい瞳など微塵も感じさせないものだった。
その笑顔を見たキラが、優しく微笑みながら、自分のカップを差し出す。
ラクスはそのカップに、優雅な手つきでお茶を注いだ。
大きな窓の外では、小鳥たちが人工の空を飛んでいく。 暖かでゆっくりとした時間が、その場を満たしていた。
****
広い部屋の中、コニールは落ち着かない気持ちでソファーに座り込んでいた。
何でこんな事になったのか。
コニールは自問自答したが、答えはすぐに出た。
あのやたらデコの広い男の所為だ、と。
アスランはプラントに付いた途端、コニールをこの部屋に押し込んで、放置した。
部屋の中は一目で高級と分かる家具がいくつもおかれ、部屋の隅に置かれたベットはコニールが三人は楽に寝れるぐらい大きい。
あのまま地球に居れば、一生見る事さえ無いだろう高級家具に、最初は乗っかったりしてしゃいだりしていたが、それも時間が経てば飽きる。
そうなると、次に訪れたのは不安だ。
戦艦の窓のない部屋に入れられてここまで来て、降りた所も周りは鉄板に囲まれた窓の無い広い場所――多分、戦艦用のドックだろう――で、そのままこの窓の無い部屋まで連れてこられた。
その為、本当にここが宇宙であるのか正直自信は無いが、多分ここから直進して行けば、光も酸素も無い宇宙空間に出るのだろう。
いや、もしかしたらこの壁をぶち抜いたら、そこはもう宇宙空間である可能性もある。
それ以前に、この部屋には監視カメラが付いていて、自分が何か不審な動きをした瞬間、壁が開いて自分を宇宙空間に放り出す仕掛けでもあるかもしれない。
さすがにそんなものは無いとは思うが、コニールはつい、部屋に置かれた箪笥の上や植木に目線をやって、カメラのレンズが無いか確かめてしまった。
見える範囲にレンズは見えなかったが、なんだか動くのが怖くなり、コニールはソファーの上に置かれたクッションを抱えて大人しくしている事に決めた。
しかし、動いていないと逆に不安はさらに深くなっていく。
そう言えば、シンは無事なのだろうか?
そう簡単に死ねない体なのは知っているが、確か不死身と言うわけでは無いと言っていたような気がする。
もしかしたらその珍しさに、バラバラに解剖されていたりして!?
そして今頃ホルマリン漬けにされていたらどうしよう!?
そう思うとコニールは落ち着いていられず、切羽詰まった顔でソファーの周りをぐるぐると歩き回り始めた。
その姿はまるで、動物園の檻に入れられた獣のようだったが、切羽詰まったコニールは全く気が付かなかった。
大体、アスランは自分をいつまでこの部屋に放置しておく気だ?
さすがに女性をいつまでも一人で部屋の中に放置しておくなんて、失礼じゃないのか?
そう思うと少しずつ、コニールの気持ちは不安から怒りの方に傾いて行った。
確かに付いて行くと言ったのは自分だ。
だがせめて、一度ぐらい顔を見せに来るのが礼儀だろ。
あのハゲ、なに考えているんだ!?
先ほどまでのコニールの不安は、全て怒りに変わる。 そしてその怒りは、コニールの沸騰点を軽く超えていた。
「あーーーー、あのでこっぱち!!なんでもいいから、さっさと来い!!」
思わず部屋の外まで響いているだろうと思われる大声を上げる。
大声を上げる一瞬前、部屋のドアをノックする音が聞こえた気がしたが、気のせいだ。
そして、ドアの前で何か話している声が聞こえるような気がするが、良く聞き取れないから自分には無関係だろう。
うん、きっとそうに違いない。
しかし、それから少し経ってから響いてきたどこか遠慮するかのようなノック音は、確かに自分の部屋のドアからしてきたようだった。
もしかしたら、あのデコハゲ野郎か!?
コニールはそう思い、急いでドアに向かった。
ドアの前に着くと、コニールは来客者の姿を確認せずに、思いっきり扉を押し開けた。
直後に聞こえて来たのは、鈍い打撲音。
そして短い悲鳴と、ドアノブを握った手に掛かる重量。
それだけで、コニールは何が起こったかのか理解できた。
曰く、コニールがドアを勢いよく開いたせいで、来訪者が開いたドアにぶつかったのだ。
コニールが床に目をやると、扉の直撃を受けたと思わしき来訪者が、その場にうずくまって両手で顔を抑えていた。
その黒くてあちこち飛び跳ねた髪を見た瞬間、コニールはその人物が誰だ気が付いた。
「シ……、シン!?」
「おま……、結構バカ力……」
シンはそう言うと、顔から手を放してコニールを見上げた。
その緋色の瞳は、涙で滲んでいた。
どうやら、相当痛かったらしい。
「ご……、ごめん」
「まあ……、これくらい、すぐ直るから平気だけど」
そう言ってシンは立ち上がったが、その顔はぶつかった衝撃で赤くなっていた。
それに気が付いたコニールは、また申し訳ない気分になった。
「それよりコニール、……"あいつ"はどうした?」
やたらと低い声で問われた言葉に、コニールは一瞬肩を震わせ、目を見開いてシンを見た。
シンの言う"あいつ"が、アセナの事だと直ぐに気が付いたからだ。
コニールは何か言おうと口を開きかけたが、どう言っていいか分からず、結局何も言わずに口を閉じた。
代わりに瞳を伏せて、そのまま無言で首を振る。
「……そうか」
シンは、おそらくコニールの返答が分かっていたのだろう。
小声でそう言っただけで、特別驚いた様子は無かった。
ただ何かをあきらめたような、痛みをこらえたような小声で、一言つぶやいただけだった。
コニールはその呟きに、胸が締め付けられるような思で、シンが撃たれた後の事を話始める。
「……せめて、埋めてやりたかったんだけど、あの辺の土が固いからな。どこか埋められる所にまで連れて行ってくれ、って頼んでも、なんか良く分からない事言われて、結局そのままおいて来るしかなかった……」
コニールがそう言うと、シンは微かに頷いたようだった。
しかし何も言わず、ただ静かに目を閉じていた。
その様子に、コニールは他に何も言えなくなってしまい、自分も黙り込んでしまう。
「おーい、お二人さん。悪いけど、急いでくれないか?」
不意に聞き覚えのない声が聞こえてきて、コニールは慌てて声のした方向に視線を向けた。
そこには銀髪おかっぱの男と浅黒い肌の男が、こちらから距離を取るように壁際に立っていた。 声をかけたのは、どうやら浅黒い肌の男のようだった。
その声を聴いて、シンは表情を硬くした。
「……コニール、行くぞ」
「え?行くって、どこに?」
思わず聞き返したコニールの言葉に、シンが固まる。
そして一瞬何かを考えるような顔をしたと思ったら、銀髪おかっぱと浅黒男を振り返った。
「……そう言えば、これからどうするんだ?」
シンの言葉に、銀髪おかっぱは深々とため息を吐き、浅黒男は肩をすくめて見せた。
ムッとした表情をしたシンに対し、銀髪おかっぱ頭が真面目な表情をして口を開く。
「まずは戦艦"ブリュンヒルデ"を奪い、プラントを脱出する。その為の準備はすでに終わっている。……行先は、この場では言えんがな」
****
イザークを先頭にやってきたドックには、白と青色に塗装された戦艦が静かに鎮座していた。
シンは懐かしさからその姿を良く見たいと思ったが、見覚えのある造形に見覚えのない塗装を施されたその姿が、
懐かしさと同時に自分の知っている"ミネルバ"では無い事を突きつけているようで、あまり長い間直視することが出来なかった。
その間にも、イザークはさっさとブリュンヒルデのタラップに向かってしまったので、シンは慌ててその後を追った。
シン達がドックに向かう道すがら、何度かザフト兵とすれ違った。
しかし前を歩く白服のイザークと赤服のディアッカの姿に一度も呼び止められることなく、ここまでたどり着いた。
ここまでの道すがら、ドンパチでもして戦艦を奪う気なんじゃないだろうかと思っていたシンとしては、はっきり言って拍子抜けだ。
まあ、この人数のを考えたら、戦闘は無いに越したことはないのだが。
イザーク、シン、コニール、ディアッカの順で、四人はブリュンヒルデに乗り込む。
と、シンは入口を入ってすぐの所に、赤服を着た栗色の長い髪の女性が立っている事に気が付いた。
その女性はイザークが近づくと、背筋を伸ばしてザフト式の敬礼をした。
「……全ての準備は終了しています。すぐにでも、出航できます」
「分かった。すぐにでも出航するぞ!全成員に持ち場に着くように伝えろ!」
イザークがそう言うと、女性はそれに応た後、踵を返してどこかへ行ってしまう。
「……戦艦内の制圧は終わっているのか?」
女性が行ってしまうと、シンはイザークの横に並び、小声でそう問いかけた。
これだけ大型の戦艦だ。
乗組員の数は、どんなに少なくても百を軽く超えるだろう。
その乗組員全てを味方に付けるなんて事は、おそらく不可能だ。
そうなると、味方につけられなかった者達の排除が必要になる。
シンの言いたい事は、イザークも分かったのだろう。
横目でちらりとシンを見ると、イザークは忌々しげな声でシンの問いに答えた。
「……言ったはずだ。今のザフトは腑抜けばかりだとな。それはMS操作技術だけの話ではない。……生身での戦いでもそうだ」
そのイザークの言葉で、シンは大体の事を理解した。
つまり、すでに志を同じにしない者達は、武力によってこの艦から叩き出した、って事だろう。 「……だが、気を抜くな。今のこちらとザフトの兵士数は、あちらの方が遥かに多いのだからな。数で来られたら、ひよっこと言えども厄介だぞ!」
イザークの言葉に、シンは無言でうなずく。
戦闘においてほとんどの場合、重要なのは質よりも量だ。
いくら優秀な兵器を使っても、それを操作するのが生身の人間である限り、長時間連続での戦闘は不可能だ。
その為、少しくらい相手より質が悪くても、量が多ければ相手を長時間戦闘させ続ける事が出来、有利になる。
もっとも、これはキラ・ヤマトのようなずば抜けた質を誇る相手には、被害が多くなるだけの話だが。
無言でうなずくシンを見たイザークは、少し目を細めたが特に何も言わず、さっさと歩き出した。
シン達も黙ってその後に続いた。
その間に、シンは船内に視線を向けた。
ブリュンヒルデの内部は、シンの覚えているミネルバとほとんど同じようだった。
(それならば、イザークが向かっているのはブリッジだな)
シンは、前を歩くイザークの背を見ながらそう予想を付けた。
やがてイザークは、通路の突き当りに在った扉を無言で通った。
シンもその後ろを無言で続く。
そして、そこはシンの予想通り、ブリュンヒルデのブリッジだった。
ブリッジ内ではすでに数人のクルー達が、モニターを操作して発進準備を進めているようだった。
「ブリュンヒルデ、発進準備完了してます。いつでも発進出来ます!」
クルーの一人がイザークに向かって声を上げる。
その声にイザークは軽くうなずくと、艦長席に向かった。
――あ、そこに座るんだ。
その姿を見て、シンはそう思った。
なぜならシンは、無意識にイザークはMSに乗って戦うものだと思っていたからだ。
だが、艦長席に座るからには、MSに乗って戦う事は無いのだろう。
シンがそんな事を思っていると、ディアッカが艦長席の後ろにある席のすぐそばに立って、シンとコニールに手招きした。
どうやら"ここに座れ"という事らしい。
シンとコニールは、無言でその指示に従う。
「システムコントロール全要員に伝達。ブリュンヒルデ、発進シークエンス発動。ドックダメージコントロール全チーム、スタンバイ」
「発進ゲート内、減圧完了。……いつでも行けます!」
ブリッジ内に響くクルー達の報告に、イザークは軽くうなずく。
「機関始動!ブリュンヒルデ、発進する!」
イザークの声を受け、ブリュンヒルデはドックの中を静かに沈んでいく。
やがてブリュンヒルデの下方のゲートが開き、その巨体は漆黒の宇宙に放り出された。
「……周りの他の艦の様子はどうだ」
ブリュンヒルデがプラントに背を向けて航海し始めたのを確認して、イザークはクルーにそう声をかけた。
「周りにいる全ザフト戦艦、動きはありません。……こちらをマークしている様子もありません」
クルーの返答に、イザークは深々と艦長席の背もたれに寄りかかった。
「ひとまずは、第一関門はクリアと言った所か。……しかし!!」
突然あげたイザークの大声に、ブリッジにいた全クルーの視線がイザークに向いた。
シンも思わず表情が厳しくなる。
「事が起こるなら、おそらくプラントから離れてからだ。奴らも、プラントのすぐ近くで戦闘はしたくないだろうからな」
イザークの言葉に、コニールが不安げにシンの方を見た。
しかし、厳しい顔のまま正面の巨大スクリーンが映す漆黒の宇宙を睨んでいたシンは、その事に気が付く事は無かった。 第十五話です。
今回も、会話だけで終わってしまった……orz
次回はMS戦が入りそうですが、新機体はもうちょっと後になりそうです。 乙
キラとラクスは結局恵まれている環境が全てとしか認識してないんだな 乙乙。ピンクがドス黒い〜。あ、いつも通りか・・・
次回は脱出変だろうが、ひと悶着ありそうだな。てか、館長席に座るイザークに何かクルw ――MARCHOCIAS――
第十六話 心情
"ブリュンヒルデ"の展望デッキで、コニールは周りを飛び回る岩の隙間から、瞬く星を眺めていた。
いや、はたから見たら、その視線は"見ている"と言うより"睨んでいる"としか見えないほど鋭いものだった。
「……何で、宇宙空間睨んでんだよ」
呆れたような声に、コニールは声がした方に顔を向けた。
そこではシンが、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
「だって、このガラスの向こう側は、もう宇宙なんだろ!?空気も酸素も無いんだろ!?」
「……空気と酸素は、ほぼ同じだろ。そもそもこれはガラスじゃなくて巨大スクリーンだし、スクリーンの向こう側には装甲あるぞ」
「どっちにしろ、破られたらお終いなのはかわりないだろ!?」
「まあ……、そうなんだけど……」
何故かやたらとテンパっているコニールに、シンは気圧されたように言葉を濁した。
コニールとしては、自分が宇宙に来るなんて、今まで考えた事無かったのだ。
それが今、自分が宇宙にいると思うと、やたらとその危険性を考えてしまう。
「……一応言っとくけど、戦闘にでもならない限り、艦に穴が開くなんて事無いからな」
「分かってるよ!」
苛立ったコニールの声に、シンはため息を吐いた。
シンの立場から見れば、八つ当たりされたとしか思えない状況なのだから仕方がない。
仕方がないとは思うが、それでもコニールは腹が立った。
思わずシンの方から勢いよく、顔をそらす。
それを見て、シンはもう一度吐息を吐き出した。
「……それよりも、そろそろブリッジにもどるぞ」
「え!?」
シンのうんざりしたような声に、コニールは驚きの声を上げて、先ほど逸らしたばかりの視線を戻した。
「『え!?』って、どうせこの後しばらく、宇宙空間しか見える景色はないんだ。嫌でも飽きるまで見る事になるぞ」
「いや、そういう訳じゃなくてさ。……また、通路通るんだろ?」
コニールの言葉に、シンは一瞬驚いたように目を見開いた後、何やら納得した様な表情をした。
今居る展望デッキは人工重力があるが、通路にはその重力はない。
"少しくらいは、宇宙の環境に慣れておいてもらわないと困る"とのイザークの指示で、コニールはこの展望デッキまで、無重力の通路を歩かされたのだ。
無重力の通路は歩き辛く、少し強く床を蹴るとたちまち体が浮き上がってしまい、しかも一度浮き上がってしまうと何かに当たるまで方向を変える事さえ出来ない。
コニールが、お目付役であるシンと共にこの展望デッキに着いた頃には、はっきり言って"宇宙になんて来るんじゃなかった"と言う思いがコニールの頭の中を支配していた。
ここに来るまでの間に、コニールはその思いを散々怒鳴り散らしたため、シンもそれを分かっている。 だからこそ、眉を寄せて困ったような顔をしたのだろう。
「気持ちは分からなくもないけどさ、そろそろ一度ブリッジに戻って、状況を確かめておきたいんだ」
「それは分かるんだけどさ……」
コニールの声は、後半になるにつれて音量が小さくなる。
その様子にシンが、またしても吐息を吐き出す。
自分がわがままを言っている自覚のあるコニールは、思わずうつむいてシンと視線が合わないようにした。
「……ほら」
うつむいたコニールの視界に映ったのは、こちらに差し出されたシンの手だった。
シンの意図が分からず、コニールは思わず視界を上げ、首をかしげる。
「……手!」
「え……?あ、……はいっ!」
そんなコニールに焦れたのか、シンが苛立った声を上げる。
それに慌てて答えたコニールは、意味が分からないままその手を握った。
コニールの手を握ったシンは、そのままコニールを引きずるように歩き出し、展望デッキから無重力の廊下に出た。
そしてそのまま廊下を蹴って、無重力空間を飛ぶ。
コニールはそのシンに引っ張られるようにして、無重力空間を進んだ。
コニールとは違い、シンはバランスを崩す事無く無重力空間をコニールを引っ張って進む。
そんな状況の中、コニールは手持無沙汰になり、なんとなくシンの後ろ姿を見つめた。
身長的には16歳の時とあまり変わらないシンと、自分の間に大きな差はない。
だが、やはり男性だからか、少しシンの方が肩幅が広い気がする。
そう言えば、シンの見た目がこんなだから忘れていたが、シンの方が少し年上だったはずだ。
さらに良く考えれば、自分は今、異性と手をつないでいるのか?
いや、良く考えなくてもそうだろう。
そう思うと、コニールは顔に血が集まるのを感じた。
幸運なのは、シンは前を見ていてこちらに気が付いていない事だろう。
――ここで手を振り払うのも不自然だ。
だから、このまましばらく手を繋いでいた方がいいはずだ。
うん、いいはずなんだ。
なぜかコニールは、必死にそう自分に言い聞かせながら、そのままシンに引っ張られて廊下を進んだ。
だが、それも長い時間は続かなかった。
『コンディションレッド発令!パイロットは搭乗機にて待機せよ!』
突然艦内に響いた放送に、前を進んでいたシンが急に立ち止まり、コニールの方を振り返った。
「コニール、一人でブリッジまで戻れるか!?」 「え?あ……、う、うん!多分平気!」
コニールは、顔が赤い事を悟られたのではないかと言う不安から、少し上ずった声でそう答えた。
「ごめん!コニールはブリッジに戻っててくれ!」
そう言うと、シンはコニールが何か答えるよりも早く、繋いでいた手を放して廊下を蹴った。
そしてそのまま、角を曲がって姿を消す。
コニールはシンの姿が見えなくなっても顔の熱が消えず、しばらくその場に立ち尽くした。
****
シンはパイロット用の更衣室に飛び込むと、あらかじめ教えられていたロッカーを開いた。
ロッカー中には、紅いザフトのパイロットスーツとヘルメットが入れられていた。
シンはスーツを取り出すと、急いで袖を通す。
過去に何度も着た物だ。
体が覚えていたらしく、手間取る事無くすんなりと着こむことが出来た。
シンはヘルメットを掴むと、格納庫に続くエレベーターに乗り込む。
そして格納庫に着くと、他のパイロット達は大体出撃準備が終わった後だったらしい。
カタパルトに続く通路に、MSが運ばれていくのが見えた。
格納庫にいた整備士達には、すでに自分の事が知らされていたのだろう。
直ぐに一人の整備士が、自分に向かって手を振っているのが見えた。
その整備士は、近くに置いてあった水色のグフイグナイテッドを指差す。
どうやら、"これに乗れ"という事らしい。
シンは急いでタラップに上がると、そのグフイグナイテッドに乗り込んだ。
そしてハッチを閉じると、起動ボタンを押す。
『シン・アスカ!』
途端に聞こえて来た声に、シンはちらりと視線を通信機に向けた。
そこに映っていたのはイザークだ。
しかしシンはすぐにイザークから視線を外し、メインモニターに機体のマニュアルを呼び出す。
『敵はすでにMSを展開している。今現在確認されただけでも、数はこちらの倍だ』
「なんでそんなに接近されるまで、気が付かなかったんだよ!?」
『ニュートロンジャマーの影響で、センサーが捉えるまで時間がかかった!それに、貨物船に偽装していた!』
苛立ったイザークの声を聴きながら、シンはモニターに現れた文字を読む。
大量生産機だけあって、操作自体はさほど難しくは無さそうだ。
しかし遠距離攻撃が全くないのは、少しつらいかもしれない。
なにせ、エネルギービームライフルさえ無いのだ。 集落を襲ったグフイグナイテッドが持っていたことを考えると、使えない事も無いのだろうが、基本装備には無いものらしい。
『こちらのMS隊のほとんどが、実戦らしい実戦を経験するのは初めての奴等ばかりだ。向こうも似たようなものだろうが、数からしてこちらの不利だ。……貴様には、期待させてもらうぞ』
「りょーかい」
――"期待している"ではなく、"期待せざるを得ない"って状況だろ。
そう思い、シンが肩をすくめながら答えると、イザークは眉を潜めて舌打ちをした。
直後に、乱暴に通信が切れる。
その途端、機体がカタパルトに向かって動き出したようだった。
シンはその間にもOSのチェックをする。
設定が宇宙空間での戦闘に最適化されている事や、他にいくつかの項目を確かめ頃には、機体はカタパルトにセットされていた。
『グフイグナイテッド、シン・アスカ機、発進どうぞ!』
スピーカーからオペレーターの声が聞こえてくる。
シンはコントロール・スティックを握ると、正面モニターを睨む。
正面モニターには、カタパルトの先に広がる漆黒の宇宙が映し出されていた。
「……シン・アスカ、グフイグナイテッド、行きます!」
気合を入れた声を合図に、グフイグナイテッドの機体が宇宙空間に投げ出される。
(……宇宙戦の感覚、忘れてなければいいけど)
こればかりは、実際にやってみなければ分からない。
シンは腹をくくって、ペダルを踏み込み機体を加速させる。
宇宙空間を飛びながら、シンは敵機の姿をレーダーで探した。
探している姿は、意外とすぐに見つかった。
味方機を示すマーカーのすぐ近くに、その味方機を示すマーカーよりもはるかに多くの敵機を示すマーカーが付いている。
それを見た瞬間、シンは思わず舌打ちをする。
取り敢えず、シンは敵機が居る方向に向かって、グフイグナイテッドを飛ばした。
そして戦場を見た途端、シンは思わず眉を寄せた。
そこでは敵機と味方機が入り乱れ、混戦状態になっていたのだ。
しかも敵も味方も同じ型とカラーリングの機体ばかりで、目視で敵味方を判断する事が難しい。
これはどちらもザフトの機体であるため、仕方が無いと言えば仕方がない事ではあるのだが。
『貴様ら、固まり過ぎだ!もっと散れ!』
通信機からイザークの怒声が響く。
しかし味方機は敵の猛攻に気を取られてか、なかなか散る事が出来ない。
『こりゃ、思ってたよりも、やばいかもな』
内容に比べて軽い言い方の声が響くと同時に、横からビームが発射された。
そのビームは的確に、敵機を貫き火達磨に変える。
シンがビームの飛んできた方を見ると、高エネルギー長距離ビーム砲を持ったグフイグナイテッドがそこにはいた。
どうやら、グフイグナイテッドを長距離用にカスタマイズした機体のようだ。 乗っているのは、ディアッカだろう。
『シミュレーターではいい成績の奴等なんだけど、実力の均衡した相手と実際に戦うのは初めての奴等ばかりだからなぁ』
ディアッカがそういう間にも、一機一機に細かな指示を出すイザークの声が、通信機から聞こえてくる。
しかし、いくらいい指示を上が出したとしても、それを戦場にいる者がこなせなければ意味はない。
数に差がある事もあり、戦前にいるパイロット達はパニック寸前だ。
そんな奴等に指示を出しても、ろくに反応は出来ないだろう。
と、不意に、コックビット内に警告音が鳴り響いた。
驚いたシンが視線を周りに向けると、大きな岩がこちらに向かって飛んできていた。
宇宙空間では重力が無いため、一度スピードが付くと自然に減速したり、止まったりする事はない。
しかも大気が無い事と対比物が無い事で、目標との距離を目視で図る事は難しい。
遠いと思っていたものがすぐ近くにあったり、逆に近いと思っていたものが遠くにあるなんて事は珍しくない。
その為、地上で戦っている時よりもセンサーを意識しなければならないのだが、そのセンサーに先ほどまでこちらに向かってくる岩は記されていなかったはずだ。
シンが不審に思いながらもグフイグナイテッドを加速させると、岩はそのままシンのグフイグナイテッドの横を通り過ぎ、他の岩に衝突した。
衝突した岩はその衝撃で、今まで向かっていた方向とは別の方向に進路を変える。
それを繰り返して、気が付くとセンサーには、あちらこちらで岩が勢いよく飛び回っている事が映し出されていた。
何でこんな事になったのか、シンがそう思考を巡らした瞬間、少し離れたところを閃光が飛んで行った。
ディアッカの長距離ビーム砲のものではない。
ましてや、敵MSの撃ったものでもない。
シンが閃光の飛んできた方向に目をやると、そこには大型の宇宙船があった。
その外観は、まるで普通の貨物船のようだった。
しかしその外層がはがれた所から、高エネルギー収束火線砲等の火器と、別の装甲がのぞいている。
どうやら戦闘母艦に、貨物船に見えるように偽装された装甲を取り付けたもののようだ。
その戦闘母艦が、こちらに向かって砲を立て続けに撃ち込んできた。
戦闘母艦が放った攻撃が、周りに浮かぶ岩に当たる。
比較的小さい岩は、その攻撃でさらに細かく砕かれ、大きい岩はそのまま衝撃で動き出す。
どうやら突然岩が激しく動き出したのは、この戦闘母艦の攻撃が原因らしい。
その戦闘母艦は、高速でブリュンヒルデに向かっていた。
シンは戦闘母艦の行動に驚いて、その姿を唖然としながら見つめた。
通常、母艦を戦場真っ只中に突っ込ませるなんて事、行わない。
確かに大型の戦闘母艦なら、MSに比べて高い攻撃力を持つ兵器を搭載している事も多いが、それを差し引いてもデメリットの方が大きいからだ。
MSが損傷しても、母艦が無事ならばその母艦に帰還し、パイロットが生還できる可能性がある。
しかし母艦が落とされれば、いくらMSが無事でもパイロットの生存確率は一気に減る。
MSなんて放って置けば酸素もバッテリーも無くなり、ただの金と手間のかかった棺桶にしかならない。
宇宙空間であれば、なおさらだ。
だからこそ、絶対に母艦は落ちてはならないのだ。 そして、落ちてはいけないからこそ、戦場では被弾の少ない後方に位置していなくてはならない。
だが、今目の前にいる戦闘母艦は、そんな常識をまるで無視した行動を取っている。
激しく動き回る岩の中、敵戦闘母艦は真っ直ぐにブリュンヒルデに向かって進んでいる。
まだ、搭載しているMSが足りず、手数が足りないと言うなら分かるが、MSの数は向こうの方がずっと多い。
それなのに、戦艦対戦艦に臨もうとする理由が分からない。
もっともその敵MS達も、飛び回る岩を避けなければならなくなった為、先ほどよりも勢いがなくなっているようだったが。
まあ、相手にどんな意図があるにせよ、敵戦闘母艦をブリュンヒルデに近づけていい理由にはならない。
MSと戦艦なら、小回りが利く分MSの方が有利だろう。
「ディアッカ、フォロー頼む!」
シンはそう言うと、ディアッカが何か答える前に、ペダルを踏み込んでグフイグナイテッドを加速させた。
ここからの位置だと、最短距離は敵MSの群れを突っ切るような形になるが、シンは迷わずそのルートを選んだ。
グフイグナイテッドの盾からテンペストを引き抜くと、MSの群れに向かって機体を加速させる。
そしてレーダーを確認して、一番近くにいた敵のグフイグナイテッドに狙いをつけた。
そのグフイグナイテッドのパイロットは、飛んで来る岩に気を取られていたのだろう。
ほとんど反応出来ないまま、シンのテンペストによって上半身と下半身に分断された。
シンはそのままの勢いで、すぐ近くにいた敵MSに向かってドラウプニル4連装ビームガンを打ち込んだ。
しかしそのMSのパイロットは、前に集落を襲ったグフイグナイテッドのパイロットよりも、数段腕が良かったらしい。
盾を使って、こちらの攻撃を防ぐ。
それを見たシンは、直ぐさまテンペストをしまうとスレイヤーウイップに切り替え、敵MSに向かって振り下ろす。
スレイヤーウイップは敵MSの盾に当たり、その衝撃に相手はバランスを崩した。
その隙に、もう一度スレイヤーウイップを振り上げる。
スレイヤーウイップは敵MSの胴体に当たり、鞭から発生した高周波の所為か、その動きが一瞬止まった。
シンは確実に止めを刺すため、ペダルを踏み込むと同時に、もう一度テンペストを引き抜いた。
そして一気に近づくと、テンペストで敵MSを真っ二つにする。
しかしその間に、他の敵MSに接近を許してしまった。
背後を敵MSに取られた事を知らせるアラームに、シンは舌打ちをする。
敵グフイグナイテッドが、背後でテンペストを振り上げる。
と、次の瞬間、突然その敵グフイグナイテッドが閃光を受けて爆発四散した。
驚いたシンをよそに、他の敵MSも閃光に貫かれて爆発四散する。
その正確な射撃が、ディアッカの援護である事に、シンは直ぐに気が付いた。
どうやら、自分の頼みを律儀に聞き入れてくれたらしい。
礼を言おうと思ったが、飛び回る岩の所為か通信が安定してつながらないようなので、礼を言うのは帰ってからにすることにした。
そう決めると、シンは再びペダルを踏み込む。
『シン・アスカ!なるべく殺すな!奴等とて、プラントの民だ!!』
不意に聞こえて来たノイズ交じりのイザークの声に、シンは思わず眉を寄せた。 「そんな余裕は無い!」
シンはそう答えるながら、こちらに向かって飛んできた閃光をかわす。
通信機の向こうで、イザークが舌打ちをしたのが聞こえた。
プラントを救いたいイザークとしては、あまりザフトそのものが弱体化する事は好ましくないのだろう。
しかし"絶対に"と命令するには、向こうとこちらに戦力差があり過ぎる。
無理に殺さずを貫けば、無用な犠牲が出かねない。
そのジレンマが、先ほど舌打ちという形で出たのだろう。
それが分かっているからこそ、シンは特に気にする事無く戦闘に集中する。
ディアッカの援護を受けて、敵MSの群れを強引に突破すると、今度は敵戦闘母艦からの攻撃が激しくなる。
しかし、戦艦に固定された砲では、死角が大き過ぎる。
シンはその死角を突いて、一気に戦闘母艦に近づいた。
狙うはブリッジ。
そこならば動力部からも遠く、攻撃しても誘爆はしないだろう。
シンはそう思い、テンペストを振りかぶる。
センサーが後ろから敵MSが追ってきている事を知らせていたが、シンはそれを無視した。
そして、雄叫びと共にテンペストをブリッジがあると思わしき部分に振り下ろす。
テンペストが戦闘母艦の装甲を切り裂き、破片が宇宙空間に散る。
火器の制御もブリッジで行われていたのだろう。
シンがブリッジを破壊した途端、戦闘母艦から絶えず発射されていたビームとCIWSが止まった。
それを確認すると、シンは機体を動かして戦闘母艦から離れる。
破壊されたのはブリッジだけだ。
他の部分は生きているのだから、緊急処置をすればしばらくの間、中の生き残った人達も生きることが出来るだろう。
生命維持機関がどのくらい生きているかは分からないが、いつまでも帰還しなければ、その内ザフトから捜索隊が出るはずだ。
最悪、救命ポットもあるのだ。
ブリッジにいた者以外は、生き残る道がまだいくつも残されている。
動力部を破壊され、デブリと変わらぬ状態で宇宙をさ迷うより、いくらかはマシだろう。
もっとも、シンは彼らが絶対に助かる状態にしようと思ったわけではない。
これで助からなかったとしても責任は取れないし、取る気も無い。
そもそも少し違えば、自分が彼らに殺されていたかもしれないのだ。
そんな相手を心配するほど優しくも無ければ、馬鹿でも無い。
敵MS部隊は、指揮をしていた者が居なくなって、混乱したようだった。
ついさっきまでこちらに向かっていた敵MSも、呆然と宇宙空間に佇んでいる。
『この間に離脱する!全MSは、すぐさま帰還しろ!!』
イザークの声を聴き、シンはブリュンヒルデに向かって機体を飛ばした。
一度だけ振り返って見たが、どうやらそれ以上の追撃は無いようだった。 第十六話です。
今回、『こっちの方が読みやすいかな?』と思って、何も書かれていない行を多くしてみました。
……どうでしょうか? 乙です。改行あると、読みやすいので私はこれでおkです〜
新しいMSはグフか・・・そういや、グフも結構乗ってるなこのスレだと ザクとは違うんだよザクとは!!
乙です。改行多めだと読みやすいと思いますよ。 ___ _
ヽo,´-'─ 、 ♪
r, "~~~~"ヽ
i. ,'ノレノレ!レ〉 ☆ 日本のカクブソウは絶対に必須です ☆
__ '!从.゚ ヮ゚ノル 総務省の『憲法改正国民投票法』のURLです。
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~i_ンイノ これマジでやって欲しいわ。不死身の人造人間テロリスト、キラヤマトを原子レベルまで分解破壊してくれ は☆い、く☆そ☆小☆便をもらして完敗した♪♪ ごきぶり☆ギョウチュウ♪( * ^ _ ^* )
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ほぅら小汚いツラで白目をむいて涙を流して痙攣してしんでる☆ 絶対神処刑神大将様(*^_^*)♪>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>犬の糞=ゴキブ リ蟯虫白神wwwww 絶対神処刑神大将様(*^_^*)♪>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>犬の糞=ゴキブ リ蟯虫白神wwwww 絶対神梅ヶ枝餅様(*^_^*)♪>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>犬の糞=ゴキブ リ蟯虫白神wwwww 中川翔子様(*^_^*)♪>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>犬の糞=ゴキブ リ蟯虫ガンダムwwwww 中川翔子様(*^_^*)♪>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>犬の糞=ゴキブ リ蟯虫ガンダムwwwww 絶対神109様(*^_^*)♪>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>犬の糞=ゴキブ リ蟯虫白神wwwww 絶対神Akane様(*^_^*)♪>>>>>>>>>>>>>>>>>負け犬の下痢便=ゴキブ リ蟯虫白神wwwww シンとルナはキラたちと和解したかに見えたがそれは芝居だった・・・
シンは本心では全くと言って良いほどオーブやラクスたちを許してなどいなかった・・・
CE75年。平和が・・・明日が消える・・・突如プラントより親善訪問に来たラクスがいるオーブに地球連合軍とブルーコスモスが殴りこむ。また同時多発的にプラントでもラクス不在を狙ったかのようにデュランダル派残党が決起、瞬く間に占領した。
そしてオーブは裏を読まれまくられて地球軍とブルーコスモスの情け容赦ない虐殺で全滅寸前に追いやられてしまう。
全てはキラ達と和解したふりをしていただけのシンの陰謀だった。彼の残酷で卑劣を極めた復讐が始まる。
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キラに対して
「ラクス・クラインは俺の女房だった女性だ」と叫んでもらいたい
キラを演じる保志総一朗も思うところはあるだろう
その保志に御執心の石田彰も > 在日の親は、子供を朝鮮幼稚園・朝鮮学校に入れたいっていうのが多いのよ。
> 日本人からすると、なんでだろうって思うけど、日本人の学校では、民族の誇りを持った教育がしてもらえないんだそうだ。
> よく分からないけど、済州島の流刑者の白丁が大阪に密入国して住み着いたじゃ誇りが持てないけど、
> 日本人に強制連行された被害者なら誇りが持てる、とかそういう事かな??
>
> 市原市の能満は昔から市街化調整区域で、新規の建物は造れないことになっている。
> そのため土地が安く、日本の法律を無視した在日が、次々と移り住んできた。
> そこで問題になったのが、朝鮮学校だ。なかなか許可が下りず、一番近くても千葉市にしかない。
> そこで在日居住区の能満内にあった、能満幼稚園・市原小・市原中・緑高の保育士や教師を、朝鮮化する事を考えた。
> 今では在日幼稚園の保育士は全て朝鮮帰化人で、在日の父兄からの絶大な支持を受けている。
> 遠くからでも、わざわざ在日幼稚園に入園させたいという在日の親は、後を絶たない。
> この在日幼稚園卒園者はほぼ朝鮮系の帰化人と在日だ。 人類は我らの選ばれし優良者たるラクスクライン様に管理運営され始めて生き残ることができるのである 10年ぶりくらいにこのスレに書き込むよ。言いたいことは一つ
Gジェネの新作買おうぜ。そしてシンちゃんを色んな機体に乗せて楽しもう。ガラッゾとか
エピオンとかに乗せるよ。そして自由に編成できるならアズ子パパこと盟主王を戦艦にのせるんだ \
 ̄ヽ、 _ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
`'ー '´
○ と思うからかい上手であった
O
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j: : : : : : :‖ _,,,..,ヽ: : ::Y: : : .:| ..|
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1 : : : : :{| _,,,_. I マ:r~_ソ '}:. :.:| ..|
': : : : : :l| ./ f'j^心、 ` ̄.::.|:. : .:|. ...|
V: : : : :ト、'k V^f'リ |:. : ::|. ...|
V : : : :|:(ヘ .::..`¨゙ ' ,.、 j: : : :| ..|
‘: : : : :k:\j, _,.. '´ノ .j : : i.:|. ...|
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1 : :| / 、\:代:::: ::: ::Y''ヽ. '|::jノ _`ヽY HGに恋するふたりの神崎さやかはシン・アスカファンらしい ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています