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ガンダムSEED 逆襲のシン・アスカ EPISODE XLI
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0001通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2012/07/22(日) 01:44:32.07ID:???
ガンダムSEED DESTINYで主人公の座を追われたシン=アスカが
今度こそまっとうな主人公として返り咲く!

シン主役の種死アフターについて語り合い、SSを投稿し、職人をGJ!するスレです。

荒らし煽りは徹底スルー、職人さんへの敬意を忘れずに。

前スレ
ガンダムSEED 逆襲のシン・アスカ EPISODE XL
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/shar/1318787555/

まとめページ:
ガンダムクロスオーバーSS倉庫
ttp://arte.wikiwiki.jp/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/10411/1230163812/

新規職人さんも随時大歓迎です。
0383久遠281
垢版 |
2014/06/27(金) 20:28:04.73ID:???
シンは反射的にビームライフルをそのMSに向かって連射する。
しかしそれは赤い膜にかき消され、MSには届かない。
その直後、相手MSの背後から閃光が放たれた。
シンはそれを横っ飛びでかわす。
一瞬シンは、相手MSがビーム砲か何かを背負っているのかと思ったが、それは違った。
正面のMSと同じ外観のMSが二機、そのMSの背後にいたのだ。
シンがそれに気が付いた瞬間、背後の二機が左右に分かれる。
だが一番前に居たMSはそのまま突っ込んで来たため、シンは咄嗟に機体をひるがえしてかわした。
直後に周りを見渡したシンは、相手の狙いに気が付いて、思わず舌打ちをする。
先に分かれた二機はそれぞれ左右前方に、突っ込んで来た一機は背後におり、インパルスレプリカを完全に包囲していたのだ。
『危ないことしてくれるね。整備に手間取ってなかったら、機体ごとふっとばされていた所だよ』
不意に聞こえてきた女の声に、シンは驚いて通信機を見る。
しかし、通信機には砂嵐しか映っていない。
どうやら、こちらの映像回線が壊れているらしい。
今更過ぎて、全く驚く気にならないが。
分かった事は、自分が突撃したタイミングは、じつは最悪だった、って事だ。
もう少し早いか遅いタイミングだったら、今頃この目の前にあるMSは自分の放ったビームライフルで、何の苦労も無く葬られていただろう。
『自己紹介でもしとこうか?私はヒルダ。この機体の名は"ドムトルーパー"』
女がそういった後、変な沈黙が流れる。
どうやら音声回線が繋がっているのが女――ヒルダの乗っているドムトルーパー一機だけらしい。
シンは通信機をいじくるが、やはり何も聞こえてこない。
そのうち面倒臭くなって、"これから殺しあう相手と仲良くしゃべっても仕方ないしな"と、内心言い訳をしながら通信機のスイッチをOFFにした。
『それもそうだ』
何がだ。
聞こえてきた笑いを含んだヒルダの声に、シンは心の中だけで突っ込みを入れる。
声にしなかったのは、声にしたらおかしな事を言ってるのが自分の方になるという事が、分かっていたからだ。
そもそも、何で通信機をOFFにしたのにヒルダの声が入るのだろうか。
相変わらず、この機体の事は良く分からない。
『あんたはここで死ぬんだからね!』
その声と同時に、三体のドムトルーパーがギガランチャーを構える。
それに合わせて、シンは緊張を高めた。
三丁のがほぼ同時に火を噴く。
シンはそれをジャンプでかわすと、空中でビームライフルを構え、適当な一機に狙いを定めて撃つ。
発射された閃光は、ドムトルーパーに確かに当たった。
しかしその閃光はドムトルーパーの装甲に当たった瞬間、軌道を変えてあらぬ方向へと飛んでってしまった。
「……!"ヤタノカガミ"か!!」
シンは思わず、苦々しく舌打ちをした。
ヤタノカガミはオーブで開発された特殊鏡面加工された装甲で、ビームを弾く事が出来る。
しかし強度的にはあまり強くなく、PS装甲には遠く及ばない。
0384久遠281
垢版 |
2014/06/27(金) 20:32:30.45ID:???
その上作り出すのに有り得ないほどの予算と手間がかかり、その有効性にも関わらずまったく普及しなかった。
シンも、このヤタノカカミを搭載したMSを見たのは一度だけだ。
しかもそのMSは悪趣味な金色の装甲をしていた。
まだ、腕のいいパイロットが乗っているなら"金色の機体かっこいいな"と思えたかもしれないが、実際に乗っていたのは素人同然の奴だった。
しかもあんな目立つ装甲では、直ぐにヤトノカガミ搭載機という事が敵に覚えられて、対策に実弾兵器を用意されるだけだ。
あのMSを作った奴はよほどのアホか、ふざけていたのだろうとシンは今でもそう思っている。
しかも、今目の前にいるヤタノカガミ装甲の色は紫。
……あの金色の意味は、いったいなんだったのだろう。
シンの思考が一瞬変な方向に向かった隙に、ドムトルーパーが着地したインパルスレプリカに狙いを定める。
シンはそれを察して、急いで機体を捻って飛来した閃光をかわした。
その隙に、他の一機がビームライフルでインパルスレプリカの胴体部分を薙ぎった。
シンは、舌打ちしながらその攻撃を屈んで避けると盾に収納されたテンペストを引き抜き、目の前に居たドムトルーパーに向かって突き出した。
しかしその攻撃は大きな音を立てながら弾かれる。
「!?なんで……!?」
シンは思わず驚愕に目を見開いた。
ヤタノカガミの強度を考えたら、今のテンペストでの一撃を弾ける程の強度は無いはずだ。
可能性があるとすればPS装甲、あるいはその改良装甲であるVPS装甲だが、PS装甲の特性上、ヤタノカガミと同時に使う事は不可能だ。
と、言うのも、PS装甲は電流を流す事で相転移を起こす特殊な金属で作られた装甲の事だが、相転移を起こした時、金属の装甲面では分子配列が変わる。
そのため、装甲面を特殊加工する事でビームをはじくヤタノカガミは、一緒には使えないはずだ。
しかしシンの頭は、ある可能性を導き出した。
「……もしかして、TP装甲か!?」
TP装甲はSP装甲の弱点を改良すべく開発された装甲だ。
莫大な消費電力のや、エレルギー切れが察知されるといったSP装甲の弱点を、通常装甲の下にSP装甲を取り付ける事で改善した装甲が、TP装甲だ。
しかし上になっているのは通常装甲なのだから、それをヤタノカガミに変更する事は、そう難しい話ではないだろう。
それによって、ヤタノカガミとPS装甲を同時に持つ、ビームにも実弾兵器にも強い装甲が出来上がったという訳だ。
もっとも、TP装甲が普及しなかった理由は、"製作費が高い"という理由らしいので、高いから普及しなかったTP装甲と高いから普及しなかったヤタノカガミを合わせたこの装甲の製作費がどれくらいかなんて、シンには想像できなかったが。
それよりは今考えねばならないのは、このチート装甲機をどうやって攻略するかだ。
考えられる手は、装甲と装甲の隙間、間接を狙う事だ。
シンは弾かれたテンペストを構え直し、今度はドムトルーパーの間接を狙って突き出そうとする。
しかしその直前、視界の隅に他の一機がこちらにギガランチャーを構えているのが映り、慌てて機体を後退させる。
閃光が一瞬前までインパルスレプリカがいた所を通り過ぎ、シンは冷や汗をかいた。
しかもそれで終わりではなく、もう一機がビームソードをインパルスレプリカに向かって振り下ろす。
シンはこれもギリギリでかわし、もう一度テンペストで間接部分を狙おうとする。
しかしそれも他の機体の妨害でままならない。
その上、周りを取り囲んだ三機は一定の間隔を常に保ったままなので、思うようにこちらから攻撃に移れない。
せめて、三機の包囲網を崩すことが出来れば――
シンはそう思ったが、相手もかなりの手練れだ。
そう簡単に崩せるとは思えなかった。
いらだつシンの視界の隅で、バッテリー残量を示すメーターが少しずつ、減っていった。
0385久遠281
垢版 |
2014/06/27(金) 20:33:08.05ID:???
第九話です。

クロスオーバー倉庫登録、ありがとうございますm(_ _)m

ヘルベルトさんとマーズさんは犠牲になったのだ……。
インパルスレプリカのぶっ壊れ性能(文字通りの意味)のな……。
0386通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/06/27(金) 20:50:48.40ID:???


…これを切り抜けたら、今度はドムのパーツで修繕かな?

どんどんゲテモノになっていくよ!やったね,シンちゃん!!
0387通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/07/02(水) 02:41:57.54ID:???
スクラップから、あるいはそれ同然の機体をレストア魔改造して
ラクス政権謹製最高級あるいは新型自由正義系MSに逆襲するのは
種死アフターのシンの醍醐味だからね。

…だから…その代表格の一つであるジャンクデスティニーを駆っての
ロミナママン生存ルートの続きもどうかーーッ
クライマックスの一歩手前から何年も待っているのだアアアアアア
0391久遠281
垢版 |
2014/07/04(金) 17:53:35.70ID:???
――MARCHOCIAS――

 第十話 悪魔




収容所内部、通路の曲がり角から突然現れた兵士の姿に、コニールは驚いて咄嗟に動くことが出来なかった。
代わりに兵士に跳びかかったのはアセナだ。
唸り声をあげながら跳びかかってきた大きな獣の姿に、兵士はそのまま後ろに倒れた。
そのまま伸し掛かったアセナを、兵士は自分の上から退かそうと必死に抵抗するが、アセナは牙をむき出して退こうとはしない。
その間に我に返ったコニールは、倒れた兵士の手からライフルをもぎ取り、その顔面を思いっきり踏みつけた。
踏みつけられた兵士は少しの間痙攣した後、その場に大の字になって動かなくなった。
どうやら気を失ったらしい。
「……ありがと」
兵士が動かなくなった事を確認したコニールは、礼の代わりにアセナの頭を軽く撫でようとする。
しかしアセナはコニールの手が触れる直前、その手から逃れるように走り出してしまう。
そして少し行った所で"早く来い"と言わんばかりに、こちらを振り返った。
その姿に、コニールはアセナの飼い主の姿を思い出してしまい、自然と笑みがこぼれた。
――素直じゃない所はそっくりだ。
そんな事を思った瞬間、轟音と共に地響きが聞こえてきた。
轟音の出所に心当たりがあったコニールは、思わず窓の外を覗き込んだ。
だが、窓の外に自分の探している姿は見当たらなかった。
どうやら、ここからは死角の場所に居るようだった。
「シン……」
コニールは不安げな声で小さくつぶやく。
その姿を探したい誘惑を振り切って、コニールはアセナの後を追って走り出した。



****



建物の壁に勢いよくぶつかった衝撃に、シンは歯を食いしばった。
直後にビームサーベルを振りかぶったドムトルーパーの姿が視界に映り、慌てて機体をひるがえす。
一瞬前までインパルスレプリカがいた空間を、ドムトルーパーのビームサーベルが切り裂いた。
インパルスレプリカがぶつかった所為で崩れかけていた壁が、ビームサーベルでさらに破壊されて辺りに飛び散る。
その隙にドムトルーパーの横に回り込んだインパルスレプリカは、持っていたビールライフルの照準を目の前のドムトルーパーに合わせた。
だが、引き金を引く直前もう一機のドムトルーパーが横からインパルスレプリカにギガランチャーを構えてることに気が付き、慌てて機体を後退させた。
しかし慌てて居たためか、インパルスレプリカの左右の足がぶつかり、バランスを崩してその場に尻餅をついてしまった。
――……なんか最近、転んでばかりだ。
0392久遠281
垢版 |
2014/07/04(金) 18:06:36.71ID:???
シンはそんな事をうんざりしながら思ったが、愚痴を言っている暇は全くない。
急いで機体を立ち上がらせようとする。
しかしその間に三機目のドムトルーパーがこちらに向かってビームサーベルを振り上げる。
立ち上がっている暇がない事を悟ったシンは、無理やり機体をひねってビームサーベルを避けた。
ビームサーベルが装甲をかすり、黒く焦がす。
相手が次の攻撃に移るまでのわずかな隙に、シンは急いでインパルスレプリカを立たせると、大地を蹴って距離を取ろうとする。
大地を蹴った直後、、メインカメラの直ぐ前を相手のビームサーベルが通り過ぎて行き、シンは内心冷や汗をかいた。
距離を取って一息ついたかと思ったら、もうすでに最初に攻撃してきたドムトルーパーが後ろに回り込んでおり、シンは舌打ちしをした。
背後のドムトルーパーが構えたギガランチャーから発射された閃光を、何とか盾で防ぐ。
『思ったよりもやるじゃないか』
不意に聞こえてきた声に、シンは思わず眉を寄せた。
その声は素直な称賛の響きがあったが、素直に喜ぶ気にはなれない。
『あんただろ?ザフトのグフイグナイテッドを落としたのは』
――……は?ザフトのグフイグナイテッド?
ヒルダの声に、シンの脳が一瞬フリーズする。
そういえば最近、グフイグナイテッドを見たよな。
あのド素人が乗ってるとしか思えなかった機体。
もしかしてあれが"ザフトのグフイグナイテッド"って奴だったのか?
へー、あれがザフトの……。
ザフトの……。
……。
――一体どうした、ザフトーー!!
シンは心の中だけで絶叫する。
声に出なかった理由は、あまりの驚愕に開いた口が閉まらなくなったからだ。
いくらなんでも、あんな素人同然を戦場に出すなんて、ザフト上層部はいったい何を考えているのか。
もっとも、昔から少しおかしい所は確かにあったけど!
民間の警備会社だって禁止しているソロでの行動を組み込んだ作戦を、そのまま実行しちゃう軍隊だったけど!
実行したのは俺だけど!!
そんな事を思いながら、シンは頭を抱たい気分になった。
しかし今、コントロール・スティックから手を放したら確実に落とされる。
そう思いながらシンが機体を横っ飛びさせると、直前までインパルスレプリカがいた所が閃光に焼かれ、辺りに焼けた石が飛び散った。
シンが絶え間なく仕掛けられる攻撃を何とかかわしていると、突然警報がコックピット内に響き渡った。
驚いて計器に目をやると、いつの間にかにバッテリーの残量は、もうすぐレッドゾーンに入ろうとしていた。
このままだと攻撃が当たって四散するか、それともバッテリー切れで戦闘不能になるか、そのどちらかしか無い。
いくらナノマシンといえども、爆発四散したら蘇生は不可能だろう。
生き残れる可能性だけを考えたら、バッテリー切れの方が、まだ可能性がある。
しかしそれでは、今収容所に潜入している仲間達がどうなるかが分からない。
バッテリーがある内に捕まっている仲間達を全員逃がせればいいが、そうでなければ逃げ遅れる者が出るだろう。
じゃなくても自分がドムトルーパーに捕まっているせいで、兵士達は"MSはMSに任せたほうが良い"と判断し、予定よりもこちらに意識を集中してはいないだろう。
シンは舌打ちして、何とか突破口を探して辺りに視線を巡らせる。
それで気が付いたのは、いつの間にかに最初に戦闘していた地域から、随分流されていたという事だった。
最初に戦い始めたのはMS倉庫の傍だったが、いつの間にかにその姿は見えなくなっていた。
0393久遠281
垢版 |
2014/07/04(金) 18:11:26.72ID:???
代わりに見えたのは、送電線が通った鉄塔だ。
今でも広い地域で電力不足が続いている状況で、政府関係施設につながる送電線の鉄塔は必要以上に大きい。
理由は、あまり小さいと電力泥棒が多発するからだ。
政府関連施設に続く電線は、一般家庭のものより優先的に電力を供給しているケースが多い。
その電力を狙って電柱によじ登り、勝手に電線をつないだり、バッテリーを充電したりする者が後を絶たないのだ。
だが大きな鉄塔ならよじ登れないので、電力泥棒の方があきらめる。
シンはその大きな鉄塔の足元で、何か手がないか、必死に考えた。
しかし、何の手も浮かばないまま、バッテリーだけが減っていく。
『なかなか粘るね。だけど、そろそろ終わらせてもらおうか!』
ヒルダの声に反応するかのように、ドムトルーパーが一機、こちらに向かってビームサーベルを振り上げた。
シンはそれを避けて後退しようとする。
だが、それをもう一機のドムトルーパーが放った閃光が阻んだ。
シンは後ろに下がる事が出来ず、仕方なくドムトルーパーのビームサーベルをテンペストで受け止める。
そこでシンは、残る一機が自分の右手からこちらをギガランチャーで狙っている事に気が付いた。
しかし目の前のドムトルーパーが邪魔で、回避行動をとる事が出来ない。
かといって、盾は左腕に持っているため、それでガードする事も出来ない。
シンは思わず舌打ちをする。
ここままだと確実に――死ぬ。
そう思った瞬間、気温が急激に下がるような感覚が、シンを襲った。
死ぬ?
死んだらすべての苦しみから逃れられるのか?
体内にナノマシンを持つシンには、"寿命"と言うものが無い。
死ぬには誰かに殺されるか、それか自分で自分の命を絶つ以外に"それ"を得る方法は無かった。
だからこそ、シンにとって"それ"はとてつもない甘美な誘惑に思えた。
――……別に、いいか。
シンは不意にそう思い、コントロール・スティックを固く握っていた手の力を抜いた。
しかしその直後、シンの視界の中にある光景が映った。
それは焼き払われた大地。
目の前にあるのは先ほどまでは人"だった"、血にまみれた三つの肉の塊。
視界が急に変わる。
次に映ったのは雪が降りしきる瓦礫の山。
自分の腕が抱くのは、血まみれで眠るように息絶えた金髪の少女。
――お前たちは……きろ。生きて……俺の明日を……。
不意に聞こえてきた少年の声に、シンは少女に向けていた視線を上げる。
いつの間にかに雪と瓦礫の山が消えており、代わりに炎を上げる家々が並んでいた。
――シン……。
自分の手元から聞こえてきた弱弱しい声に、シンは驚いて視界をそちらに移した。
いつの間にかに自分の手元から金髪の少女が消えており、代わりに赤毛の女性が血まみれで横たわっていた。
女性は血にまみれた手で、シンの頬をいとおしそうになでる。
――どうか……、あなたは……。
そこまで言うと、女性の手がシンの頬から離れ、地面に落ちた。
シンは空に向かって叫ぶ。
0394久遠281
垢版 |
2014/07/04(金) 18:18:47.63ID:???
しかしそれは"今"ではない。
全て"過去"
ずっと前の"昨日"だ。
そして"今"は、あの空に向かって叫んだ日の"明日"だ。
そう思った瞬間、コントロール・スティックを握っていたシンの腕に力がこもった。
――……そうだ。
"今"は、彼女が、親友が、あの子が、妹が母が父が、どんなに望んでも得られなかった"明日"だ。

――それを俺が、ここで捨てる訳にはいかない!

「こんな……、こんな所で俺は……!!」
死ねない、死ぬわけにはいかない。
そう思った瞬間、シンの頭の中で何かが弾けた。
途端に、視界が一気に広がる。
バッテリーがレッドゾーンに入ったことを知らせるアラームがコックピット内に鳴り響いたが、シンはそれを無視した。
シンは、右にいるドムトルーパーがギガランチャーの引き金に力を込めるのを見たが、それも無視して力任せに一歩踏み込んだ。
相手は驚いたようだったが、インパルスレプリカに自機よりもずっと重量のあるドムトルーパーを押しのけるほどの馬力は無い。
しかしシンは構わず踏み込むと、左腕を伸ばす。
そしてドムトルーパーの首の装甲と装甲の隙間に手を掛け、そのまま力任せに引っ張った。
あまりに予想外のインパルスレプリカの行動に、相手パイロットは驚いて対応が遅れたのだろう。
そのままバランスを崩して、インパルスレプリカとこちらを狙っていたドムトルーパーの間に倒れこむ。
倒れた瞬間と、右手に居たドムトルーパーのギガランチャーが閃光を放ったのはほとんど同時だった。
閃光はドムトルーパーの装甲に当たり、跳ね返される。
跳ね返った閃光は撃ったドムトルーパーの足元に当たり、石つぶてが辺りに散った。
その間に、背後にいたドムトルーパーがビームサーベルを振りかぶってインパルスレプリカに襲ってきた。
シンはそのドムトルーパーに向かってビームライフルを撃ちながら、倒れているドムトルーパーを飛び越えて距離を取る。
インパルスレプリカが放った閃光はドムトルーパーの装甲に弾かれ、方向を変えて飛び去る。
その飛び去った先に在ったのは、送電用の鉄塔だった。
閃光は鉄塔の柱に当たり、高熱で溶かす。
直後に聞こえてきたのは、甲高い耳障りな音だった。
その音と同時に、鉄塔がゆっくりとこちらに向かって倒れだす。
それに気が付いた三機のドムトルーパーが、思わず鉄塔に視線を向けた。
インパルスレプリカが大地を蹴ったのは、その瞬間だった。
テンペストを手に跳びかかってきたインパルスレプリカに、鉄塔に気を逸らしていたドムトルーパーは反応が遅れた。
それでも直ぐに気が付き、手に持っていたギガランチャーを構えようとする。
しかし遅すぎた。
インパルスレプリカは、ドムトルーパーがギガランチャーを構えるよりも早く、ドムトルーパーの首と胴体をつなぐ装甲と装甲の隙間にテンペストを差し込み、そのまま突き刺した。
テンペストの切っ先は胴体の内部を進み、そのままコックピットを貫いた。
シンはすぐさまドムトルーパーからテンペストを引き抜くと、今し方貫いたドムトルーパーに背を向ける。
直後、ドムトルーパーが轟音を立てて爆発を起こす。
ドムトルーパーが爆発すると同時に、シンはブースターを全開にした。
本来インパルスレプリカに推進剤はごくわずかしか積まれていなかったが、ドムトルーパーの爆発した爆風に押され、推進剤の量以上の加速力を見せた。
0395久遠281
垢版 |
2014/07/04(金) 18:25:22.15ID:???
さらに鉄塔が倒れてきたさいに生じた風圧が加わり、インパルスレプリカは一気にドムトルーパーに迫った。
予想外のインパルスレプリカの加速に、倒れてきた鉄塔を避けるため回避行動をとっていたドムトルーパーは、対応する事が出来なかった。
シンは先ほどと同じように、ドムトルーパーの首を狙ってテンペストを突き立てた。
そのさい、ヒルダの誰かを呼ぶ声が聞こえた気がするが、シンは構わなかった。
テンペストの切っ先は、中のパイロットごとコックピットをつぶす。
直後、残った最後のドムトルーパーがこちらに向かって突進してきた。
通信機からヒルダの声が聞こえてきたので、このドムトルーパーに乗っているのがヒルダらしい。
シンは突き刺していたテンペストを引き抜くと、そのまま蹴り飛ばし、ヒルダの乗るドムトルーパーに向き直ってビームライフルを構えた。
それを見たヒルダはそのままビームサーベルを振りかぶる。
――ドムトルーパーは"ヤタノカガミ"を使っているからビームライフルは効かない。
その思いが、ヒルダに大きな隙を作らせた。
ビームソードを振りかぶって正面ががら空きになったドムトルーパーに、シンはビームライフルを突きつける。
そこは胸部にあるミラージュコロイドを転用した粒子ビームを放出し、フィールド膜を発生させるするための穴だった。
当然、そこは装甲でふさがれてはいない。
シンはためらい無く引き金を引いた。
発射された閃光は穴から内部に入り、すべてを一瞬で焼き尽くした。
ドムトルーパーがバランスを崩して後ろに倒れこむ。
エネルギーが暴走したのか、それとも推進剤に着火したのか、ドムトルーパーの機体は倒れると同時に火に包まれた。
それとほとんど同時に、インパルスレプリカのコックピットが暗くなる。
シンが計器に目をやると、バッテリー残量は0になっていた。
どうやら予備バッテリーに切り替わったらしく、コックピット内は必要最低限の計器の光だけが灯っていた。



****



収容所の至る所で火の手が上がる。
そのほとんどは、激しいMS同士の戦いによるものだった。
警備兵達はすでに、この騒ぎを抑える事をあきらめたらしい。
あきらかに部外者の格好をしたコニールが収容所内部を走っているのに、誰も咎める者は居なかった。
もっとも、自分達もさっさと逃げ出さないと炎に飲み込まれかねない中、そこまで任務に忠実な者などいないだろう。
コニールは自分の求める姿を探して収容所内部を走り続ける。
やがて見つけたその巨大な姿に、コニールは思わず安堵の気持ちを覚えた。
コニールはその姿が立ち尽くしたまま止まっている事を確認すると、姿が良く見える距離まで近づいた。
しかし停止していたインパルスレプリカの姿を良く見た瞬間、コニールは思わずその場に立ちすくんだ。
インパルスレプリカは煌々と燃える瓦礫の前に立ち尽くして居た。
コニールから見ると丁度逆光になり、インパルスレプリカの姿は真っ黒に見えた。
そのアンテナはまるで角のようで、所々剥げ落ち、焼けて黒ずんだ装甲で身を包んだ姿は、まるで――
「……悪魔」
昔読んだ物語に出てくる悪魔の姿を思い出し、コニールは思わずそうつぶやいていた。
0396久遠281
垢版 |
2014/07/04(金) 18:26:01.24ID:???
第十話です。

ゲテモノ魔改造……。
やりたい……、すごくやりたいけど……、
もうプロットは、ほぼ完成してるんですよね。
う〜…、でもやってみたいなぁ。
0397通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/07/04(金) 21:47:39.60ID:???
乙です。プロット完成してるのならそのまま行くのが吉かと。魔改造は次作でもw

そういや、デスティニーセカンドも色々魔改造だったな。まあ、究極はアダムスキー型と複座プロトジンの2強だろうがww
0399久遠281
垢版 |
2014/07/11(金) 20:22:25.40ID:???
――MARCHOCIAS――

 第十一話 究極の正義




「ドムトルーパー部隊がやられただと!?それは本当か、キラ!?」
政務室に響いたのはアスランの怒声と、机を勢いよく叩く音だった。
そのアスランの姿を見ながら、キラは静かにうなずく。
「しばらく前から定期連絡が途絶えたから、近くに居たほかの部隊に調べてもらったんだ。その結果、例の収容所は何者かに襲撃されて崩壊していた、って報告がきた。ドムトルーパーと思わしきMSの残骸も、三機分確認されている」
「そんな……、いったい誰が……」
アスランは握った手に力を込めながら、呟いた。
ラスクがプラントの議長の座に付いてから十年、地球は武器を放棄し、平和への歩みを進めていた。
しかしそれをあざ笑うかのように、地球圏ではテロが多発していた。
地球圏では"戦争"は無くなったが、今なお"紛争"は続いている。
今回、ドムトルーパー部隊が派遣された地域も、そんな紛争が絶えない地域だと聞いていた。
だがまさか、歴戦の戦士たちであるドムトルーパー乗りの三人を倒すことが出来る者がいるとは、思ってもいなかった。
「その事についてなのですが……」
響いてきた澄んだ声に、アスランとキラはそろって声のした方を振り返った。
そこに居たのは桃色の髪を持った女性――ラクスの姿だった。
「収容所の監視カメラに、収容所を襲ったものの姿が映っていたとの報告がありました。ただ、建物が崩壊した時、データを管理していたPCが破損したため、画質がかなり悪いそうですが……」
「構わない、見せてくれ」
アスランはラクスに向かって力強くうなずいて見せた。
それを見たラクスは、机の上の端末を操作する。
やがて壁に掛けられた巨大なモニターに電源が入った。
初めにそのモニターに映ったのは、灰色の砂嵐だったがやがてそれが収まると、どこか野外の様子が映し出された。
頻繁に映像が乱れるため直ぐには分からなかったが、その映像にはどうやら四機のMSの姿が映り込んでいるようだった。
その内三機は、すぐにドムトルーパーである事が分かったが、残りの一機を見た瞬間、アスランは思わず息を飲んだ。
「この機体は……!」
思わずそうつぶやき、その機体を食い入るように見つめた。
その機体の姿は、良く見知った機体にそっくりだった。
自分の記憶とわずかに違うのは、手足が太いという事くらいだ。
「……この機体、もしかして"インパルス"か……!?」
アスランは愕然としながらつぶやいた。
しかし自分が知っているインパルスは、持ち主の女性が亡くなった時、もう二度と悲しみを生み出さないという誓いの元、破棄されたはずだ。
と、いう事は、今映っているこのインパルスによく似た機体は、誰かがインパルスに似せて作ったコピーの可能性が高い。
何故、そんな事を……。
そんな疑問を持ちながら映像を食い入るように見つめていたアスランは、不意に既視感を覚えた。
時々乱れるモニターの中で、インパルスに似た機体はドムトルーパーの攻撃を紙一重で避けている。
「……シン?」
既視感の正体に気が付き、アスランは思わずそうつぶやいた。
今、目の前のモニターに映ったインパルスの動きは、シンが乗っていた時とそっくりだった。
「うん……。僕もこのインパルスの動きは、あの子が乗っていた時と同じ動きをすると思った。……だけど、あの子はもう……」
0400久遠281
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2014/07/11(金) 20:23:39.38ID:???
アスランのつぶやきを聞いたキラが、アスランと同じ意見を口にする。
しかしその後に続いた言葉に、アスランの中に昔味わった喪失感が蘇る。
何かに付けて反発してきた、黒髪緋眼の少年。
彼はいつ目覚めるか、そもそも目覚めるのかどうかさえ分からない眠りに付いたまま、テロに巻き込まれて消えたと聞いている。
だからこそ、今目の前に映っている機体を操作しているのは彼であるはずがない。
それなのに、彼が操縦していた時とよく似た動きをするインパルスそっくりの機体の姿に、アスランは怒りを覚えた。
誰よりも平和を願っていた、あの少年を穢されたような気がしたのだ。
「……俺が出る」
「アスラン!?」
絞り出すように告げられた言葉に、キラが驚いたような声を上げた。
「この機体に乗っているのが何者かは分からないが、この動きはかなり実戦慣れしたコーディネーターだろう。半端な腕の者をやっても、犠牲者が増えるだけだ」
キラは一瞬迷ったように、ラクスに視線を向けた。
視線を向けられたラクスは、キラに一つ頷くと視線をアスランに向ける。
「アスラン……、あなたに渡したいものがあります。こちらへ」
「ラクス……?」
ラクスは優雅な足取りで歩き出すと、そのまま部屋のドアに向かう。
その後をピンク色のハロが続いた。
アスランは訳が分からず、思わずキラの顔を凝視した。
アスランの視線を受けたキラは、何か決意を秘めたような表情でアスランを促すように頷いた。
それを見たアスランはまるで何かに導かれるように、ラクスの後に続いた。
ラクスは部屋を出ると、エレベーターに向かった。
続いてアスランとキラがエレベータに乗り込むと、ラクスは自分の身分証明書を取り出し、それを行先を決めるボタンの近くに在ったカードリーダーに通した。
すると行先を決めるボタンを押していないのに、エレベーターが動き出した。
アスランが扉の上に付いているエレベーターが今いる階数を示すランプに目をやると、どうやらエレベーターは下へと向かっているようだった。
やがて階数を示すランプは一番小さい数を示し、そして消えた。
それから少したって、エレベーターは目的地に着いた事を告げる軽い音をたてて止まった。
「こちらです」
扉が音もなく開くと、ラクスはそう言って軽やかな足取りで歩き出す。
アスランとキラは無言でその後に続いた。
すれ違う者のいない廊下をしばらく歩くと、大きな鉄の扉にたどりついた。
ラクスは先ほどと同じように、扉の横に付いていたカードリーダーに自分の身分証明書を通した。
すると、鉄の扉がゆっくりと開く。
「……これは!?」
扉の先を見て、アスランは驚いた声を上げた。
扉の先は、とても広い空間だった。
天井までは二十メートルは軽くあるだろうと思われるその空間は、全ての壁が鉄板で覆われていた。
あちらこちらにコンピューターが置かれており、その間を数えきれないほどのケーブルがつないでいる。
そして、その空間の中心には、一機のMSが静かに佇んでいた。
赤い装甲に、背中には巨大なリフター。
それはアスランの良く知る機体、"インフィニットジャスティス"に酷似していた。
「アスラン……、あなたにこれを託します。どうかこの"力"をもって彼の地に赴き、愚かな戦いに終止符を打ってください」
「ラクス、この機体は……?」
戸惑うアスランをよそに、ラクスは機体の近くにいた白衣を着た男を呼び寄せる。
どうやらこの男が、この機体製作の責任者らしい。
0401久遠281
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2014/07/11(金) 20:25:15.83ID:???
「え〜……、この機体は、"インフィニットジャスティス"のデータをもとに作られた機体です。装甲は例の"ヤタノカガミ"と"PS装甲"を合わせたものになっています。
本体としては、インフィニットジャスティスは格闘機として完成された機体なので、あまり手を加えずに、武器の出力を上げて火力を上げる、程度の改良にに止めています。
ただ、背面に装備されたリフターの出力増加に伴い巨大化したため、その関係で細かい所に変更がありますが、それは操作などに大きな影響はないので説明は省略させていただきます」
そう言って、研究者はチェックボードを差し出した。
どうしても知りたければ自分で調べろ、という事らしい。
「背後のリフター"ファトゥム‐01"改め、"ファトゥム‐02"に付いているビーム砲は出力上昇に伴い、遠距離でも高出力で使用可能です」
研究者の言葉を聞きながら、アスランはチェックボードに視線を落とした。
そのチェックボードには、今、目の前にある機体の詳細なデータが映し出されていた。
「どうしますか?アスラン。決めるのはあなたです」
ラクスの声に、アスランは顔を上げる。
ラクスはただ、静かにアスランを見つめるだけだった。
そんなラクスの姿に、アスランは一度目を伏せて、覚悟を決めた。
「……ラクス、この機体を俺に使わせてくれ」
「どうぞ、あなたの力になるのでしたら」
アスランの言葉に、ラスクは優しげな笑顔を作った。
それを見計らったかのように、研究者が寄ってきてアスランに機体の調整作業に加わってほしいと言ってきた。
アスランはそれに軽くうなずくと、機体に向かって歩き出す。
キラは歩き出したアスランの横に並ぶと、周囲に聞こえないように小さな声でアスランに話しかけた。
「……いいの?」
「何がだ?」
「ん〜〜、例えば、カガリの事とか?」
キラの言葉に、アスランは思わず眉を寄せた。
ここしばらくの間、カガリとはまともに顔をあわしていない。
理由としてはカガリの体調が悪く、会いたいと言っても周りの者達に止められて会わせてもらえないのだ。
会わせてもらえても本当に短い時間で、まともに会話をする事さえ出来ない。
その時は自分から見るとカガリは元気そうに見えるのだが、周りに話ではアスランに会える事に喜んではしゃいでいるだけで、あまり良くないという話だった。
体調が良くないと言うのに無理して会いたいと言えるはずもなく、結果としてここ数か月、全く話をしていない。
今、アスランはオーブ軍に籍を置いている。
その関係で良く海外に赴く事も多いが、今回は短期間でオーブに帰り、カガリの体調が良ければ会って話をするつもりだった。
だが、それも叶わなくなりそうだ。
「……カガリには、後でメールを出すよ。調子が悪いんじゃ、早く帰っても会えないからな」
「……そっか。カガリ、早く良くなるといいね」
「ああ……」
キラのつらそうな言葉に、アスランもうなずく。
そう言っている間に、アスランは機体の傍に着いた。
そしてコックピットに乗ろうとして、アスランはある事に気が付いた。
「そういえば、まだこの機体の名前を聞いていないんだが」
アスランの言葉を聞いた責任者の研究者が慌ててアスランの傍に駆け寄った。
「ああ、どうもすみません。この機体の名ですが、まだ正式には決まっていないんです。ただ、我々は"インフィニットジャスティス"を超える機体という事で、"アルティメットジャスティス"と呼ばせてもらっています」
「アルティメットジャスティス……」
アスランは口の中だけで、その名前を呟いた。
「……いいんじゃないか?その名で」
「あ、はい!それじゃあ、この名前で登録させていただきますが、よろしいですね!?」
なぜかやたらと嬉しそうな研究者に、アスランは少し呆気にとられながらも頷いて、了解の意思を伝えた。
0402久遠281
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2014/07/11(金) 20:26:38.51ID:???
その様子を見た研究者は、そのままスキップでもし出すんじゃないか、というハイテンションで、そのままどこかに立ち去ってしまう。
「……あの人が考えた名前だったのかな?」
「……さあ?」
キラの疑問に、アスランは首をかしげながら答えた。
しかし直ぐに気を取り直すと、アルティメットジャスティスと言う名になった機体のコックピットに乗りこむ。
その姿を少し離れた位置から、ラクスが微笑みながら見つめていた。



****



勢いよく開かれたドアに、コニールは"またか"と心の中だけで呟いて、ため息を吐いた。
ドアを開けた人物が誰なのかは、確認しなくても分かる。
シンだ。
部屋に入ってきたシンは、コニールが部屋の中に居る事に気が付いているはずなのに、何も言わず足音荒く二階の自室に向かって階段を上って行ってしまった。
そして自室のドアが閉じる時に力一杯閉めて、大きな音を立てた。
あまりに力を入れ過ぎていたため、家がわずかに振動する。
それを聞いたコニールは、今度は先ほどよりも大きなため息を吐いた。

前回の収容所襲撃から数日。
コニール達は収容所から脱走してきた人々と共に、元の集落に戻ってきていた。
さらに前回の集落襲撃の時に、他へと避難していた者達も続々とこの集落に戻ってきていた。
しかし、それに対して声を上げたのはシンだ。
シンは政府にこの集落が目を付けられた可能性と危険性を説き、この集落を離れるように意見したが、それを受け入れる者は全くいなかった。
理由としては、他に行く所が無い者が多いという事もあったが、前回の襲撃から数日たち、"もう大丈夫なんじゃないか"という意見の者が多いと言うのも、その理由だった。
そのため、シンがいくらここが危険か説いても、聞き入れようとする者は居なかった。
シンはそれでも説得を続けようとしたが、最近では話さえまともに聞いてもらえず、邪険にされている様子だ。
昨夜はそれで、危うく取っ組み合いの乱闘にまでなりかけた。

取り敢えず、シンとはもう一度話してみるしかないだろう。
コニールはそう思い、座っていた椅子から立ち上がった。
じつは、住人達がここを離れようとしない理由はもう一つ在る。
それは、一人でこの集落を守り、そして収容所を潰したシンがこの集落に居る、という事だ。
シンがここに居れば、他の所よりここの方が安全なのではないか、と、ここを動きたがらない住人が結構いるのだ。
コニールはそれを知っていたから、シンに何とかこの集落を捨てるのではなく守ってくれるよう考えてくれないかと思っていた。
もっとも、考えているだけではシンに伝わる事は無いだろう。
コニールはシンと話をするため、階段を上ってシンの自室に向かった。
ただ問題は、機嫌の悪いシンが素直に人の話を聞くかどうかだ。
それを思うと頭が痛くなる。
コニールはシンの自室の前に来ると、大きく深呼吸をしてから覚悟を決めた。
何故だかこの扉を前にすると、やたらと緊張する事が多い気がする。
「……シン、少し話いいか?」
0403久遠281
垢版 |
2014/07/11(金) 20:28:29.12ID:???
ノックをしてからそう声をかけたが、返事は無い。
寝るにしてもまだ時間帯が早いし、そもそも先ほど帰って来たばかりだ。
どんなに寝付きが良くっても、さすがにまだ寝付いてはいないだろう。
コニールは眉を寄せながらも先ほどよりも強めにノックをして、声も大きくする。
「シン?開けるぞ?」
そう声を掛けるがやはり答えは無い。
コニールは軽くため息を吐いて、ドアノブに手を掛けた。
どうやらカギはかかっていなかったらしく、ドアはあっさりと開いた。
「シン?」
声を掛けながら部屋に入ったコニールは、ベットの上で横になったまま、何かを考えるような難しい表情で天井を見つめていたシンを見つけた。
そのベットの足元には、相変わらずアセナが陣取っていた。
「シン、起きてるなら返事位しろよ」
コニールは咎めるようにそう言いながら、シンのいるベットに近づいた。
シンは近づくコニールに対して横目で視線を向けるが、すぐに天井に視線を戻してしまう。
「……何の用だよ」
シンの声は不機嫌そうだったが、先ほどまでの怒りは無いように思えた。
それに内心ほっとしながら、言いたい事をどう伝えるか、コニールは必死に考えた。
あまり下手なこと言って、また怒らせるような事態は避けたい。
「え〜と、……あのな、シン、もう一度仕事の依頼を受けてくれないか?」
「……仕事?」
シンは興味ない、と言わんばかりの不機嫌そうな表情で、コニールの方に顔を向けた。
それを見たコニールは"失敗したかな?"と思ったが、今更後には引けない。
「そ、そう!仕事仕事!内容は、"この集落を守る事"!……どうかな?」
コニールは後には引けないからこそ、わざと明るい声を出した。
しかしその声は、最後は不安が滲んだ小声になってしまった。
理由としては、コニールが話をしている間、シンの表情は"不機嫌"から"無表情"に変わっいってしまったからだ。
直後に部屋の中を満たした静寂に、冷たい汗がコニールの背中に流れた。
そんなコニールの様子を気にしていないかのように、シンは無表情のままで上半身を起こした。
「そうすれば、行き場のない人達もここに住み続けられるし、報酬は衣食住って事で……」
気まずさを和らげるためには、しゃべり続けるしかない。
そう思ってしゃべり続けるコニールの言葉を遮ったのは、くぐもった笑い声だ。
驚いたコニールは笑い声の主、シンの方に視線を向ける。
「シン……?」
シンはうつむいた状態で手で顔を隠し、肩を震わせながら笑っていた。
自分は何か変なことを言っただろうか?
コニールはそう思ったが、その笑い声はどこか狂気じみたような響きがあり、シンに問いただす事が出来なかった。
「……コニール、良い事を教えてやろうか?」
やがて笑い声を収めたシンは、低い声でそう言った。
そして顔を上げたシンの表情は笑顔だったが、その瞳はどこか虚ろだった。
「……俺が守ろうとした奴はな、皆俺の目の前で死ぬんだよ」
コニールはその言葉に思わず息を飲んで、驚愕に目を見開いた。
シンはそんなコニールを無視すると、もはや話は話は終わりだと言うように、こちらに背を向けてベットに横になった。
コニールはシンにかける言葉を見つけ出す事が出来ず、しばらくの間、その場に立ち尽くすしか無かった。
0404久遠281
垢版 |
2014/07/11(金) 20:30:37.11ID:???
第十一話です。

自分が改良機を考える時は、
その機体の弱点を補う→新たな弱点を考える
または、その機体の長所を伸ばす→それにより加わる新たな弱点を考える、
といった流れになります。
しかしインフィニットジャスティスの場合、
弱点→遠距離が苦手→遠距離を強化→近距離寄り万能機のデスティニーと被る。
長所→近距離戦最強クラス→これを強化するなら……火力強化?
と、悩みに悩んだ結果、後者に。
そのため、かなり地味な改良になってしまいましたw

ちなみに、名前の方は、
"インフィニットジャスティス"って名前、なんか中二病っぽいよな〜→これの上を行く中二病名と言ったら……アルティメット?
って、流れで決まりました。

……うん、なんかいろいろ、ごめんなさいm(_ _)m
0406通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/07/12(土) 00:32:25.43ID:???
乙乙。ついに来るか凸・・・しかし、あるてぃめっと()とはぴったりなネーミングだなw
それにしても、ほんとシンって奪われ続ける人生だなほんと・・・
0407通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/07/13(日) 15:25:41.89ID:???
インフィニットジャスティスは略してインジャ(隠者)とか呼ばれるけど
アルティメットジャスティスならアルジャ……Rジャジャ?
0408久遠281
垢版 |
2014/07/18(金) 21:08:30.08ID:???
――MARCHOCIAS――

 第十二話 襲撃




まだ日が昇る前、空が微かに明るくなり始める時間帯。
シンは一人――正確にはアセナが付いて来ていたので一人と一匹――で家を出て、渓谷の間を歩いていた。
別に、何か用があったという訳では無い。
ただ夜明け前に目が覚めてしまい、そのまま眠れなくなってしまっただけだ。
昨夜、コニールと部屋で話した後、いつの間にかに寝入ってしまっていた。
その為、寝る時間がいつもより早くなり、早い時間帯に目が覚めてしまったのだ。
初めは二度寝でもしようかと目をつぶっていたが、それ以上寝付くことが出来なかった。
そうなると部屋の中でぼけっとしていても仕方がなく、朝の散歩に出かける事にしたのだ。
外に出ると、集落は朝の冷たい外気に包まれていた。
冷たい外気に触れて頭ははっきりしているのに、心がモヤモヤする。
その理由は分かっている。
寝る前にしたコニールとの会話のせいだ。
もしザフトが本気でここを襲ったら、自分に守り切れるとは思えない。
ザフトがこの間のグフイグナイテッドみたいな奴等ばかりなら、まだ何とかなるかもしれない。
しかし少なくても、ザフトにはキラ・ヤマトがいるのだ。
キラ・ヤマトとストライクフリーダムの組み合わせを、ポンコツ問題だらけ機であるインパルスレプリカでどうにかするなんて、逆立ちしても無理だろう。
もはや、この集落がザフトに襲われるのは時間の問題だ。
ザフトのグフイグナイテッドを落とし、収容所を襲ってドムトルーパーを倒したのだから、ザフトに目を付けられたのは間違いない。
それまでに何とか集落の人々だけでもよそに逃がしたいが、皆楽観的思考からここを動こうとしない。
今では声を掛けただけでも"またか。いい加減にしろ"と言わんばかりの顔をされる。
確かに住み慣れた場所を離れたくない気持ちも分からなくは無いし、自分はよそ者だ。
そんな自分の言葉をそうホイホイ聞き入れるはずも無いという事は、よく分かっている。
シンはそう思うと気が重くなり、大きなため息を吐いた。
と、不意に、手に生暖かいものが触れた。
何かと思ったら、アセナが自分の手を舐めたていた。
シンがアセナに目をやると、アセナは真っ直ぐ澄んだ瞳で、シンの顔を見つめ返した。
シンはその瞳に何故だか、心の中の靄が少し晴れたような気がした。
その場に膝をつくと、アセナの頭を優しくなでる。
アセナはそんなシンに対し、甘えるようにその体をこすりつけた。
アセナはしばらくシンに甘えていたが、不意にその体をシンから離し、遠くの空を見つめた。
そして牙をむき出し、低いうなり声を上げる。
その只ならぬ様子に、シンはアセナが見ている方向に視線を向ける。
渓谷の間から見える空は限られており、すべてを見渡す事は出来ない。
その限られた空の中に、何かが飛んでいるのがシンの目に映った。
0409久遠281
垢版 |
2014/07/18(金) 21:09:48.92ID:???
初めは鳥かと思った。
しかし全く羽ばたかない鳥の姿に、シンは目を細めてその姿を凝視した。
鳥はこちらに向かって飛んでいるらしく、その姿は少しずつ大きくなっている。
やがてその正体に気が付いたとき、シンは慌てて踵を返すと、全力で集落に向かって走り出した。
その後をアセナが軽やかな走りで続く。
「ザフトが来たぞ!全員早く逃げろ!!」
集落に着いた途端、シンは大声で叫んだ。
飛んでいた鳥の正体。
それは巨大な戦艦だった。
しかもそれはシンの良く知る戦艦、ミネルバに良く似ていた。
違いと言えばそのカラーリングで、ミネルバは灰色と赤色だったが、今こちらに向かって飛んでいる戦艦は白と青色に塗られていた。
ミネルバは前回の戦争の最後に月で沈んだはずなので、あれはおそらく同型の別の戦艦だろう。
そしてミネルバはザフトの戦艦だった。
ならばあの戦艦も、ザフトのものだろう。
シンの声を聴いて集落の住人は、家の中から飛び出したり、窓を開けて外を確認する。
そして、空に浮かぶ戦艦を発見した人々が、大声で周りに逃げるように警告を発した。
その声が渓谷中に響く中、シンはインパルスレプリカがある納屋に急いだ。
もはや守り切れるかどうかなんて、考えている暇はない。
とにかくやるしかないのだ。
シンは納屋の前に来ると、後ろを振り返った。
そこにはアセナが立ったまま、シンの姿をじっと見つめていた。
「お前はコニールの所に行け」
シンはそう言うと、アセナの頭を撫でた。
アセナはシンの手が離れるのを待ってから、頭をシンの足にこすり付けた。
やがてアセナはシンの足から体を離すと、人々の声が響く集落の中に走って行った。
シンはそれを見送ると、納屋の中に入った。
そして、納屋の中で座り込んでいたインパルスレプリカのコックピットに飛び込む。
シートに座って起動スイッチを押すと、コックピットの中がわずかに明るくなる。
シンはモニターに映る文字をチェックして、コントロール・スティックを握りしめた。
装備は収容所を襲った時と同じだ。
違いは推進剤を前回で使い切ってしまったため、全く無いという事くらいだろう。
完全に機体が起動すると、シンは思いっきりインパルスレプリカを走り出させる。
インパルスレプリカは勢い良く入口にぶつかると、扉だけでなく壁さえも吹っ飛ばして外に出た。
納屋が壊れるとか、そんな事はこの非常時に言っている暇はない。
むしろ"前回の時もこうして出ればよかった"なんて考えがシンの頭を過ったが、今はそんな事を考えいる暇は無い。

シンが外に出ると、戦艦はかなり近い所まで近づいていた。
戦艦に付いたカタパルトが開き、一機のMSが発進する。
シンはインパルスレプリカのモニターを操作して、そのMSを拡大した。
そして驚愕に目を見開いた。
「そんな……、何で……」
0410久遠281
垢版 |
2014/07/18(金) 21:11:09.70ID:???
モニターに映し出された機体、それはシンも見た事ある機体によく似ている機体だった。
装甲の色は赤。
背には巨大なリフター。

――インフィニットジャスティス。

シンの頭の中にその名前が響いた。
しかし、シンの知っているインフィニットジャスティスとは、少し外見が違う気がする。
おそらく、インフィニットジャスティスの改造、あるいは改良した新型機であろう。
シンは舌打ちしながら上空のインフィニットジャスティスにそっくりの機体――シンは知らぬ事だが、正式名称"アルティメットジャスティス"――を睨み付けた。
インフィニットジャスティスでさえ、このインパルスレプリカでは太刀打ち出来ないだろうと言うのに、その改良型である目の前の機体に、シンは勝てるとは到底思えなかった。
なので、シンはとにかく時間を稼ぐことに決めた。
時間を稼げれば、それだけ集落の人々が無事に逃げられる可能性が上がる。
逆に今自分が目の前の機体を落とすことが出来ても、集落の人々が犠牲になれば、それは負けも同然だ。
シンは無意識に、コントロール・スティックを強く握りしめた。
その間にもアルティメットジャスティスはこちらに近づいてきていた。
どうやらこちらに気が付いたらしい。
アルティメットジャスティスは猛スピードで飛びながら、高エネルギービームライフルをこちらに向かって立て続けに放った。
シンはその閃光を避けて、地面を蹴って後ろへと跳ぶ。
閃光は一瞬前までインパルスレプリカが居た所に当たり、地面をえぐった。
後退したインパルスレプリカが体勢を立て直しす前に、アルティメットジャスティスは背中のファトゥム‐02を切り離した。
ファトゥム‐02は翼前方部に沿ってビームブレイドを展開し、インパルスレプリカに向かって飛来する。
シンは舌打ちしながら、機体を捻ってファトゥム‐02を避けた。
しかしファトゥム‐02を避けるためにシンは、わずかな時間ながらアルティメットジャスティスから注意をそらしてしまった。
シンが気が付いた時には、アルティメットジャスティスはインパルスレプリカのすぐ目の前に居おり、思わず驚愕に目を見開く。
直後に盾を構えたのは、条件反射だ。
その盾に、アルティメットジャスティスが振り下ろしたビームサーベルが当たる。
途端にコックピット内に、甲高い警告音が鳴り響いた。
驚いたシンがモニターに目をやると、そこには今の一撃で盾の表面が焼けた事が記されていた。
シンはまたしても舌打ちをする。
今使っている盾は、もともとグフイグナイテッドに付いていた物だ。
そしてグフイグナイテッドは量産型機なので、製作費節減のため持っていた盾の質が少しくらい悪くても、おかしくは無いだろう。
それに今、目の前に居るのはインフィニットジャスティスの改良機だ。
インフィニットジャスティスよりも武器の出力が上がっているのは予想の範囲内だ。
しかしまさか、たった一撃でアンチビームコーティングされた盾を焼くほどだとは、思ってもみなかった。
シンは小さく悪態をつくと、盾の内側からテンペストを引き抜く。
そして、テンペストでアルティメットジャスティスの胴体を薙ぎ払おうとした。
しかしアルティメットジャスティスは、それを上空に飛び上がってかわす。
シンはこのまま追撃してくると予想していたが、アルティメットジャスティスはそのまま空高く舞い上がってしまった。
アルティメットジャスティスの予想外の動きに驚いて、シンは思わず注意を上空に向ける。
その途端、コックピット内に警報が鳴り響いた。
0411久遠281
垢版 |
2014/07/18(金) 21:13:36.93ID:???
我に返ったシンは、すぐ後ろにファトゥム‐02が迫ってきている事に気が付いた。
どうやらアルティメットジャスティスに気を取られている間に、Uターンをして戻って来たらしい。
シンは慌てて機体を横に飛ばしてファトゥム‐02を避ける。
しかしファトゥム‐02は、インフィニットジャスティスのファトゥム‐01に比べて大きい。
ファトゥム‐02を避けきる事が出来ず、翼の先端がインパルスレプリカの肩にぶつかった。
ファトゥム‐02の翼の先端はビームブレイドが発生していないため、機体にほとんどダメージを受ける事は無かったが、ぶつかった衝撃にインパルスレプリカもファトゥム‐02もバランスを崩した。
バランスを崩したインパルスレプリカは、そのまま片膝を地面に付く。
一方のファトゥム‐02は、何とか空中でバランスを立て直し、急上昇する。
上昇した先に居たのはアルティメットジャスティス。
アルティメットジャスティスはファトゥム‐02が脇を通り過ぎる瞬間、底面に有るグリップをつかんだ。
そして振り回すようにして、ファトゥム‐02の軌道を強引に変えた。
しかも振りまわる事によって遠心力が加わり、急上昇によって失われたスピードを回復する。
高速で飛来したファトゥム‐02を避けるため、シンはインパルスレプリカを急いで立ち上がらせ、高くジャンプさせた。
それが失敗だった。
インパルスレプリカの機体の下を、ファトゥム‐02が通り過ぎる。
しかしジャンプした状態では、推進剤が無いインパルスレプリカは身動きが取れない。
だからこそ、次のアルティメットジャスティスの攻撃をかわす事が出来なかった。
シンは目の前に迫ったアルティメットジャスティスの姿を見て、自分の判断が間違っていた事に気が付いた。
それでも盾を構えて、何とかしようと試みる。
アルティメットジャスティスはビームサーベルを振り上げると、インパルスレプリカが構えていた盾を真っ二つにした。
そして、そのままインパルスレプリカの手足を切り落とす。
推進剤もない。
手足もない。
そんな状態では、空中でバランスをとる事は不可能だ。
インパルスレプリカの機体は、何もできないまま背中から激しく地面へと叩き付けられた。
その激しい衝撃に、シンの意識は一瞬消えかける。
しかし歯を食いしばりながら、何とか耐える。
「くっ……そぉ……」
頭を振りながら意識を正常に戻すと、シンは正面モニターに視線を向けた。
そこに映るのは赤いMS。
少しの間アルティメットジャスティスは上空からこちらを見下ろしていたが、やがて空へと飛び去った。
どうやら、上空を飛ぶファトゥム‐02を回収しに行ったらしい。
シンはその隙に、インパルスレプリカのコックピットハッチを開いた。
そしてインパルスレプリカから降りる。
インパルスレプリカは手足をもがれた所為か所々火花が散り、とてもこれ以上使える状態ではなかった。
これ以上ここに居ても仕方がない。
シンはそう判断して、この場を離れるために走り出す。
その途端、激しい胸の痛みと息苦しさを感じた。
あまりの息苦しさに、シンは思わず口に手を当てて咳き込んだ。
その途端、口の中に鉄の味を感じる。
驚いたシンが自分の口に当てた手のひらを見ると、そこには赤い血が付着していた。
0412久遠281
垢版 |
2014/07/18(金) 21:14:48.41ID:???
どうやら折れた肋骨が、肺に突き刺さったらしい。
ナノマシンの事を思えばこの傷で死ぬとは思わないが、息苦しさと痛みで走る事さえままならない。
「シン!!」
突然の自分を呼ぶ声に、シンは声のした方に視線を向けた。
そちらから駆け寄って来たのは、アセナとコニールだった。
コニールはシンの顔を見ると、一瞬驚いたように目を見開いた。
どうやら口元に血が付いていたらしい。
いくらコニールがナノマシンの事を知っているとはいえ、口元に血が付着している奴を見たら普通に驚くだろう。
「大丈夫か!?シン!!」
コニールはシンに駆け寄ると、その体を支えた。
だが、シンにはコニールの問いよりも、気にかかる事があった。
「……他の皆は?」
シンの言葉に、コニールの表情が曇る。
「……地下通路が相手にばれた。多分、ほとんどの奴が捕まったと思う。だけど、ここを出るにはあの通路のどれかを使うしかない」
この集落は、渓谷と渓谷の間にある。
その為、この集落に出入りするルートは自然と少なくなる。
これは自分たちが、こちらに来る者が居ないか見張る分には楽だが、集落から逃げ出すとなると敵にルートを封鎖される可能性が高くなる。
そして相手は軍艦一隻持ってきているのだ。
逃げ道を塞いだうえで、隠し通路がないか調べられるくらいの人数は、連れて来ているだろう。

シンはコニールに肩を貸り、重い体を引きずりながら地下通路の入口を目指した。
そして、なんとか地下通路の入口にたどりつく。
「……この通路が、敵に見つかって居ないといいんだけど……」
コニールは明かりを取り出すと、通路の中を覗き込んだ。
通路の中は静か薄暗く、ザフトの兵士が居る様子は無い。
「どっちにしろ、ここに突っ立っていたら見つかるだけだ。……賭けるしかないだろう」
シンの言葉にコニールは一つ頷くと、意を決してシンを支えたまま通路の中に入り込んだ。
その後を、アセナが続く。
通路は二人並んで歩くには、少し狭かった。
シンは無言でコニールの肩から離れようとしたが、それをコニールは阻んだ。
そしてそのまま歩き出す。
シンはコニールに対して文句を言おうとしたが、止めた。
肩を貸してもらった方が楽なのは確かだし、コニールの性格からして怪我人をほっとけないのだろう。
今、自分が無理に"一人で歩く"と言ったところで、無駄に時間を消費するだけだ。

しばらくの間、二人は無言で歩いた。
地下通路内はとても静かで、二人の足音とシンの苦しげで荒い呼吸音、そしてアセナの爪が岩に当たる音しか聞こえなかった。
それが故に、他の音は良く響く。
複数の慌ただしい足音が背後から聞こえて来た時、シンは小さく舌打ちした。
慌ててコニールが持っていたライトの明かりを消す。
洞窟内の明かりは、所々に掘られた空気穴用の小さな穴から入る微かな光だけとなった。
0413久遠281
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2014/07/18(金) 21:16:05.08ID:???
「……コニール、何か武器あるか?」
「……銃が一丁だけ」
コニールは、腰から黒いハンドガンを取り出した。
「……俺が囮になる。お前はさっさと逃げろ」
「シン!?」
コニールが驚愕の声を上げた隙に、シンはその手からハンドガンをかすめ取った。
「ちょっ……、返せよ!」
「俺の方が丈夫だし、そう簡単には死なない。囮には俺の方が適任だろ」
「そういう問題じゃない!」
「いたぞーーー!!」
二人の声に、見知らぬ声がかぶさる。
驚いて声のした背後を振り返った途端、強烈な光が二人を襲う。
シンとコニールは反射的に手で顔を隠して、光から目をかばった。
その光が複数のライトである事にはすぐに気が付いたが、暗闇の中で急に強い光に照らされたため、目が眩んで直ぐには動く事が出来なかった。
不意に、シンは自分の横を何かが通り過ぎる気配を感じた。
「う……うわぁ!!」
それがアセナである事に気が付いたのは、獣の唸り声と情けない男の悲鳴が響いてからだ。
「よせ!戻ってこい!」
シンはアセナに向かって大声で怒鳴る。
だがその直後、通路の中に銃声が響いた。
そして、獣の悲痛な鳴き声も。
シンはそれで、何が起きたのか大体理解した。
同時に、その思考を否定しようとする。
「……!!」
だが、実際にその光景を見れば、否定のしようがない。
光に慣れてきた瞳を開いた先に在った光景は、銃を構えた男の姿と、その足元で座り込んで腕から血を流しているザフト兵の姿と、地面に倒れて痙攣している黒い獣の姿だった。
その直後に沸いた感情は、どす黒い怒りだった。
シンは怒りのまま、自分の持つ銃を、銃を構えたままの男の方に向けた。
しかし――

「……シン?」

自分の名を呟いた銃を構えた男が、見覚えのある姿である事にシンは気が付いた。
藍色の髪とエメラルドグリーンの瞳、そして年齢の割に額がやや広いその姿に、シンは一瞬怒りさえ忘れてその場に立ち尽くした。
男の方も驚愕に目を見開き、銃を構えたまま立ち尽くす。
だからこそ、その背後でこちらに向かって銃を構えているザフト兵の姿に気が付くのが遅れた。
通路内に、銃声が響く。
それとほぼ同時に、左胸に強い衝撃を感じた。
「シン!!」
自分の名を呼ぶ、悲鳴に近い声を聴いたのは理解できた。
しかしそれが誰の声だったか、それを考える暇さえなく、シンの意識は闇に落ちた。
0414久遠281
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2014/07/18(金) 21:17:25.99ID:???
第十二話です。

最近暑さの所為か、パソコンの調子が悪いです(パソコン置いてある部屋が、クーラー無い部屋なんで)
この間は書いてる途中でフリーズしてしまい、書いたものが全部消えてしました……。
仕方がないので、夕方の涼しい時間帯に作業しようと思うと雷来るし……。

なので、もし変更がいつもより遅れたら、パソコンの調子の悪さと雷の所為で作業が遅れたせいだと思ってくださいm(_ _)m
0416通常の名無しさんの3倍
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2014/07/18(金) 23:11:35.39ID:???
乙です。またシン殿が死んでおられる・・・という冗談はさておき、あるてぃめっと強すぎワロエナイw
投下はマイペースで頑張って下され〜
0418久遠281
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2014/07/25(金) 19:58:19.92ID:???
――MARCHOCIAS――

 第十三話 火種




キーボードを叩く、軽やかな音が室内に響く。
音の発信源は、モニターの前に座ったアスランだ。
アスランはしばらくキーボードを叩いていたが、やがてその手が止まる。
目の前のモニターに現れたのは、『98%以上一致』という文字だった。
アスランはその文字を読んで、小さくため息を吐いた。
その直後、部屋に来客を告げるブザーが部屋の中に響いた。
アスランがドアの方を見ると、カギをかけていなかった扉が軽い音を立てて開いた。
「アスラン、いい?」
「……キラ」
部屋に入ってきたのはザフトの白服をまとったキラだった。
キラは部屋の中に入ると、椅子に座ったままのアスランの横に並んだ。
そして、モニターに視線を向ける。
「……これ、彼のデータ?」
「ああ……。ザフトに残っていたデータと、今回捕獲した人物のデータを照合した。結果は98%以上の確率で、あいつは"シン・アスカ"である、という結論が出た」

前回のテロ組織への襲撃の際、アスランはシンにそっくりの少年を見つけた。
しかしその直後、少年は銃弾に倒れた。
撃たれた箇所は、心臓のある左胸。
位置的に、即死かと思われた。
現に、直後に脈を調べたが、脈をとる事は出来なかった。
しかしその姿があまりにもシンに似すぎていた為、少し調べたほうが良いとアスランは考え、遺体をミネルバ級強襲揚陸型MS運用母艦"ブリュンヒルデ"に運び込んだ。
軍医にデータを取るように頼んで、それから部屋で一人きりになっていろいろ考えていたら、突然医務室から連絡が入った。
何事かと思って通信に出てみたら、『"遺体"との話だったが、脈も呼吸もある』との話だった。
驚いて医務室に向かった所、確かにシンにそっくりの少年は自らの力で呼吸をし、繋がれた機械からは心臓が動いている事を知らせる電子音が一定のリズムを奏でていた。
自分は唖然としてその場に立ち尽くしてしまったが、直後にある事を思い出した。

――ナノマシン

それは丁度十年前、傷付き生死の間をさ迷っていたシンを救うために使った、超極小の医療用ロボットだ。
その力はシンの命を救った。
しかし、その性能は生命を維持するのが精一杯で、深く傷ついた脳細胞の再生は不可能との話だった。
それでもいつかは、と、願いをかけて、ナノマシンの研究をしていた施設にシンを預けた。
そのまま何年もたったある日、その施設がある小型コロニーが壊滅したとの知らせを受けた。
コロニーはMSに襲われたらしく、内部は完全に破壊され、ビームで念入りに焼かれていた。
その為、遺体の類はほとんど発見されなかった。
避難船の類もすべてコロニー内に残されており、その状況から"生存者は無し"と判断された。
だから、アスランはシンもそこで死亡したと思っていた。
だが、実際にシンの遺体が発見されたとか、死亡したという明確な証拠はなかった。
それならば、今目の前にいる少年がシン・アスカ本人である可能性は十分にある。
0419久遠281
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2014/07/25(金) 19:59:35.42ID:???
アスランはそう思い、シンと思わしき少年をプラントに連れて行く事を決めた。
しかし、そこで予想外の問題が出た。
少年と一緒にいた女性が、一緒に行くと言って聞かなかったのだ。
最初、捕獲された集落の者達は、集落のある国の施設に送られる予定だった。
しかしその女性にどこか見覚えのあったアスランは、その女性に話しかけた。
そして女性の正体が、昔ガルナハンで会ったコニールである事を知った時、アスランは驚いた。
もっとも、アスランは懐かしく思ったが、コニールの方は露骨に嫌そうな顔をした。
しかし、会ったのは一度だけとは言え見知った相手を邪険にする事も出来ず、アスランは結局コニールがブリュンヒルデに乗る事を許可した。
本音を言えば、少年の事を詳しく気でいたのだが、コニールは少年の事に対してはだんまりを決め込んだ。
また、コニールはブリュンヒルデに乗り込む際、アスランが撃った黒い獣を抱えて持ち込もうとして、兵士たちとひと悶着を起こした。
だが、いくらなんでも地球の動物、しかも死骸をプラントに持ち込むわけにはいかない。
何とかコニールを説得し、コニールは獣の死骸をその場に置き、船に乗り込んだ。
その後着いたプラントで、アスランは少年から取ったデータとザフトに残っていたデータを照合した。
そして出た答えが、今目の前のモニターに映る文字だ。

「98%以上……。クローン、と言う可能性は?」
「それは俺も考えた。しかしナノマシンを体内に持っている事等を考えると、シン本人である可能性が高い」
キラの言葉に、アスランはそう言いながら少年のデータを出した。
血液検査の結果、大量のナノマシンの存在が確認された。
そして、体内にナノマシンを作るための人工臓器も一緒に確認されている。
これは十年前シンに施されたナノマシン技術と一致する。
さらに言えば、このナノマシン技術は破壊された例のコロニーでしか研究されておらず、そのコロニーが破壊された事で、その技術は完全に失われている。
そして地球を含めたどの組織でも、ナノマシンを実際に作り出した、という報告や噂は聞いた事がない。

アスランはモニターを見つめたまま、深いため息を吐いた。
「……て、言うかさ、そんなに気になるなら、会いに行った方が早いんじゃない?」
キラの単純な提案に、アスランは一瞬固まった。
「簡単に言うな!あのシンだぞ?俺が聞いて素直に答えるものか!」
あ、本物のシンだと思っているんだ。
キラはそんな事を思ったが、もちろんアスランは気が付かない。
「どっちにしろ本物かどうかくらい、確かめる事はできるんじゃないの?」
キラのその言葉に、アスランは考えるように押し黙った。
そんなアスランの様子に、キラは思わずため息を吐く。
物事を考えすぎる事で、問題を先送りにしてしまうのは、アスランの悪い癖だ。
「ほら、とにかく会ってから考えよう?」
キラはそう言うと、無理やりアスランを立ち上がらせ、腕を取って歩き出す。
「ちょ……、待て!キラ!」
アスランはそんなキラに引きずられるようにして、部屋を後にした。



****



部屋の前にはライフルを持った兵士が二人、ドアの左右に立っていた。
0420久遠281
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2014/07/25(金) 20:01:12.90ID:???
素人目には分からないだろうが、その制服の下にも銃を携帯している事に、アスランは気が付いていた。
アスランはその兵士二人に軽く会釈して、部屋に入りたいことを伝えた。
アスランもキラも、ザフト内では顔が利く。
その所為かあっさりと入室が許可され、アスランとキラの二人は兵士の開けてくれたドアをくぐって部屋の中に入った。
部屋の中は、ベットと小さな引き出しがあるだけの殺風景な部屋だった。
そのベットの上に、黒髪の少年が眠っている。
少年は両手を手錠で繋がれていたが、それ以外に変わった所は無い。
普通ならば、少し前に心臓を銃で撃たれて倒れたと、信じる事は出来ないだろう。

アスランはゆっくりと少年が眠るベットの傍に近づいた。
そしてベットの直ぐ傍に立つと、その横にキラが立った。
その直後、突然視界が真っ白に変わった。
視界を真っ白に変えた物が少年にかぶさっていた薄い掛布団である事に気が付いたのと、横でキラが短い悲鳴を上げたのは、ほとんど同時だった。
驚いてキラの方を見ると、少年が掛布団をはじいて天井すれすれを跳躍している姿が見えた。
どうやら掛布団で気を逸らし、その瞬間を狙ってキラを踏み台にしてジャンプしたらしい。
軽い動作で着地した少年は、そのままアスランを無視して、扉向かって走る。
キラの声に異変を感じ取ったのか、開いたままの扉の外では兵士が部屋の中を覗き込んでいた。
そして少年がこちらに向かって走る姿に、急いでライフルを構えた。
しかし、少年が走り寄る方が早かった。
少年は手錠で繋がれたままの両手で、兵士の腹を力一杯殴る。
腹を殴られた兵士は、くぐもったうめき声を発して気を失ったようだった。
少年はその兵士を担ぐようにして、もう一人の兵士に突進する。
それは残った兵士から見ると、気を失った兵士を盾にするような形だった。
その為、残った兵士は構えたライフルを撃つ事が出来ず、そのまま体当たりをされて廊下に倒れ込んだ。
少年はその隙に兵士の懐に手を突っ込み、持っていた銃を奪い去る。
そして、その銃口をアスランに向けようとした。
しかしその時には、アスランが少年の目の前に迫っていた。
アスランは少年が銃口をこちらに向けるよりも早く、銃を蹴り飛ばした。
その勢いに銃が少年の手から離れ、空を飛ぶ。
少年は小さく舌打ちすると、そのまま後ろに跳んでアスランと距離を取ろうとした。
しかしアスランはそれを許さず、手を伸ばして少年の服の首元を掴むと、そのまま後ろに押し倒した。
背中を強打した所為か、少年は息を吐いて動きを止めた。
アスランはその隙に少年の手を取って、半ば引きずるようにして部屋の中に連れ込んだ。
そして乱暴にベットに少年を投げ出すと、ホルスターから銃を出して構えた。
「キラ!大丈夫か!?」
アスランは少年の方に顔を向けたまま、視線だけをキラに向けた。
「僕は大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから。だけど、そっちの二人はそうもいかないみたいだね」
キラはそういいながら、ドアの向こうで伸びている兵士を見た。
そして軽くため息を吐いて、通信機を取り出す。
どうやら、完全に伸びている兵士二人の手当てをするための応援を呼ぶ気らしい。
そのキラの様子から察するに、どうやら本当に踏まれただけで、どこも怪我はしていないらしい。
アスランはその事にホッとしながら、視線を少年に戻す。
少年は上半身を起こしたまま舌打ちすると、アスランと視線を合わせないようにそっぽを向いた。
その姿が、記憶の中のシンの姿と重なる。
「……シン」
アスランの呼びかけに、シンは一瞬だけアスランの方に視線を向けた。
0421久遠281
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2014/07/25(金) 20:02:33.63ID:???
しかし、直ぐに視線を他所に向けてしまう。
「シン……、やっぱりお前なのか?」
「……だったら、どうしたってんですか?」
アスランの問いかけに、シンはぶっきらぼうに答えた。
その声もまた、昔のままだ。
「本当に、お前なんだな?」
「ほんっと、しつこい奴ですね、あんた。そういう所は昔のまんまだ」
その言葉に、アスランは今目の前にいる人物が"シン・アスカ"である事を確信した。
静かにシンに向けていた銃を下す。
「シン……、生きていたのなら、なぜ連絡をくれなかった!?」
つい、咎めるような口調になってしまうのは、喜びと安心感からだ。
しかしシンはそれに気が付かなかったようで、アスランの言葉に冷たい目線を向けた。
「……"なぜ"、だって?そんなもん、あんたが知ってるでしょう?」
「なに?」
シンの言葉に、アスランは思わず眉を寄せる。
「勝手に人の事を"物"扱いしたり、自分勝手な都合で人を傷つける奴に、自分の存在を知らせるわけないでしょう」
「……どういう意味だ?」
思わずアスランの声が低くなる。
シンの言った言葉の意味が、アスランには分からなかった。
だからこそ、アスランはシンの次の言葉を待って、押し黙った。
そんなアスランの様子を見て、シンは深々とため息を吐く。
「……本当に分からないんですか?」
「ああ、全く身に覚えがない。」
シンはアスランの顔を見ながら、目を細めた。
その視線は、アスランの本心を探っているようだったので、アスランはあえて真っ直ぐに、緋色の瞳を見つめた。
「……つまり、助けた後の事は知った事では無い、って事か。アンタらしいって言えば、アンタらしいけど」
「何だと?」
シンは不意にアスランから視線を外すと、まるで独り言のように小声でそうつぶやいた。
その言葉に、アスランは思わずシンを睨み付ける。
しかしシンはそんなアスランを見て、今度は呆れたようにため息を吐いた。
その様子がアスランの神経を逆なでし、思わず握った両手に力が入る。
「……じゃあ、今の地球の状況は知ってますか?」
少し間を置いてから発せられたシンの言葉に、アスランは頭に上りかけていた血が下がるのを感じた。
しかしシンの真意が読めず、難しい顔をしながらうなずいた。
今、地球の情勢は、テロや内乱でひどい状況である事は、アスランも知っている。
いくらカガリやラクス達が武器を捨て、平和への道を示しているというのに、それを良しとしない者達が邪魔をして、結局争いの連鎖はいまだに続いている。

「……で、あんた等は、それに対していったいなにをやっているんですか?」
思考に没頭しそうになっていたアスランは、シンのそんな言葉に我に返った。
見ると、シンが睨み付けるような目で、こちらをじっと見つめていた。
「……戦いを止める為の戦いを、続けている。まだ実態はつかめていないが、武器を売りさばいて利益を儲けているロゴスのような者達の存在も確認されている。
 今は、そんな奴らの調査をおこなっているところだ。武器が無くなれば、自然と戦いも終わるだろうからな」
アスランがそう言うと、シンは小馬鹿にしたように、鼻で笑った。
その態度に、再びアスランの頭に血が上る。
「……何がおかしい?」
「武器が無くなれば争いが終わるって、本気で思っている事に対してですよ。断言してもいいですよ。……武器が無くなっても、戦争は終わらない」
0422久遠281
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2014/07/25(金) 20:04:18.57ID:???
「どういう事だ」
「本気で分からないんですか?銃が無くなれば、銃がナイフに変わるだけ。ナイフが無くなれば、ナイフが包丁に変わるだけ。
 包丁が無くなれば、包丁が石に変わるだけ。そういう事です。アンタ等は地球上からすべての石を、どうやって無くそうと言うんですか?」
「ロゴスのような奴らを、野放しにしろと言うのか!?」
「……俺が言いたいのは、"戦争を終わらせたいなら、やる事が違うんじゃないか"、って話です」
シンの言葉はどこか淡々としていて、それが余計にアスランの神経を逆なでした。
今にでも殴り飛ばしたい誘惑にかられながら、それでも何とか耐える。
「"やる事が違う"と言うならば、お前は俺達に何をやれって言うんだ?」
「本当の戦争の"火種"が何なのか、それにさっさと気が付く事じゃないですか?」
シンは小馬鹿にしたように、そう答えた。
アスランは今すぐにでも殴りたい衝動を、こぶしを握り締める事で必死に耐える。
「"火種"だと……?」
「そう"火種"です。……"テロ"や"内乱"なんて、民衆の中から火が燃え始めるものです。それをあおった者が居のは確かでしょうが、居ても居なくても、一度付いた火は放って置けば勝手に燃え広がる」
「それは、違う!あおぐ者達が居るから戦いなんて始まるんだ!カガリやラスク達ががんばって居るのに、それを邪魔する奴らが……」
「はっ!話になんないな!」
アスランの声を、シンは鼻で笑い飛ばした。
そしてベットに横になると、そのままアスランに背を向けた。
「……これ以上話しても、お互い無駄ですよ。もう寝るんで、とっとと出てってください」
思わずシンの名を呼んで詰め寄ろうとしたアスランの肩に、キラの手が触れる。
何かと思ってキラの方に目線をやると、キラが悲しそうな顔をして左右に首を振った。
それを見たアスランは、苦虫をかみつぶしたような顔をした。
そして踵を返すと、荒い足音をたてて部屋を後にする。
アスランの後を、キラは早足で追って、部屋を後にした。
後に残されたシンは、ちらりとその後ろ姿を見た後で、静かにまぶたを閉じた。



****



寝入っていたシンは、ドアが開く軽い音に目を覚ました。
またアスランが小言を言いに来たのか、それとも尋問室か処刑台に連れて行くための兵でも来たか。
そう思い、シンは体を起こしてドアの方を見た。
そして眉を寄せる。
部屋の中に入ってきたのは、二人のザフト制服を着た男だった。
それ自体は別に、何も問題は無い。
しかし、その制服の色が問題だった。
先に部屋の中に入ってきた銀髪おかっぱ頭の男は白色の制服を着こみ、後ろの浅黒い肌をした男は赤色の制服を着こんでいた。
どちらも、ザフト内ではエリートのみが着る事を許される色だ。
自分を尋問室か処刑台に連れていくための使い走りにしては、地位が高すぎだろ。
シンはそう思い、目を細めて二人を見つめた。
その視線に気が付いたのだろう。
浅黒い肌をした男が、こちらを見て楽しそうに笑った。
そして銀髪おかっぱ頭の男は、睨み付けるような鋭い瞳で、シンを見つめていた。
0425久遠281
垢版 |
2014/07/25(金) 20:44:28.35ID:???
第十三話です。

すれ違ってるシンとアスランの会話です。

>>424
当たりです。
連続投票は五回まで、って言われましたorz
PCの調子悪いのと相まって、地味に痛い・・・。
0427通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/07/26(土) 00:08:34.92ID:???
乙ですー。このアスランは珍しくシンの話を聞いてるな。まあ、聞いたからといってどうなるかはこれからだろうが・・・
そして、クルーゼ隊の漫才コンビ登場か。こいつらも、作品によって色々変わるから楽しみだ
0428通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/07/26(土) 00:51:50.22ID:???
乙です!!
いよいよキラ&アスランとシンがご対面ですね。
研究所送られた後のこと(暴走)や、ストフリ量産のことをシンはアスラン達に伝えないけど、
今後どうなるか気になります!!
0430久遠281
垢版 |
2014/08/01(金) 19:55:18.54ID:???
――MARCHOCIAS――

 第十四話 伸展




部屋に入ってきた男二人の姿に、シンは思わず首をひねった。
どこかで見た事があるような、無いような……。
いや、無いな。
シンは心の中だけで、そう結論付けた。
「貴様、シン・アスカだな?」
先に声を発したのは、銀髪おかっぱ頭の方だ。
その偉そうな態度と言い方に、シンは思わずムッとして眉を寄せた。
思わず、不機嫌そうな言い方で答える。
「自己紹介の手間が省けてよかったよ。……で、アンタ等誰だよ、偉そーに」
「そういや、自己紹介がまだだったな。俺はディアッカ・エルスマン。で、こっちのおかっぱ頭がイザーク・ジュールだ」
シンの態度におかっぱ頭の目が吊り上ったのを見て、まずいと思ったのか浅黒い肌の男がすかさず自己紹介する。
しかしイザークと呼ばれたおかっぱ頭は、ディアッカの紹介が気に入らなかったらしい。
大声で、ディアッカに向かって怒鳴る。
「誰がおかっぱ頭だーー!!」
ディアッカはイザークのこの態度に慣れているのか、耳を両手でふさいで肩をすくめて見せた。
シンは、その間"イザーク"と"ディアッカ"と言う名を記憶の中から引っ張り出す作業をしていた。
この二つの名前には聞き覚えが、……やっぱりないな。うん。
シンはそう結論付け、一人納得して頷いた。
その間にイザークの方は、一通りディアッカを怒鳴り終えたのか、シンの方に向き直ると両手を組んで背筋を伸ばした。
その態度はやはり偉そうだ。
「……シン・アスカ、いくつか聞きたい事がある。……貴様、ラクス・クラインをどう思う?」
「最近、老けた」
シンの即答に、ディアッカが思わず噴き出す。
イザークの方は、額の血管が少し浮き出たような気がした。
「……ならば、キラ・ヤマトはどうだ?」
「万年脳内花畑野郎」
「……アスラン・ザラは?」
「でこっぱち」
シンがそう答えた瞬間、それまで肩を震わせて耐えていたディアッカが、とうとう大声を上げて笑い出した。
一方イザークの方は、どうやら怒りの臨界点を超えたらしい。
「真面目に答えろ、貴様!!そして、ディアッカ!やかましいわ!!」
腹を抱えて笑い続けるディアッカに、イザークが怒鳴る。
はっきり言って、八つ当たりにしか見えない。
その様子に、シンは吐息を吐き出した。
「……結構、真面目に答えたつもりだったんだけど。ま、いいや。で、ラクス・クラインとキラ・ヤマトについてだっけ?」
シンの言葉に、ディアッカを怒鳴り散らしていたイザークが、真面目な顔でこちらに視線を向ける。
0432久遠281
垢版 |
2014/08/01(金) 20:00:27.52ID:???
ディアッカは完全にツボに入ってしまったらしく、いまだに笑い続けている。
「あの二人は、悪い意味で善人だろ」
「悪い意味で善人、だと?」
「そ、とにかく善人だから"良い事"をする。……だけど、その"良い事"の基準がどこまでも"自分"なんだ。だから、自分が思う"良い事"が、相手にとっても"良い事"だと信じている。
 それゆえ相手が迷惑がっていても、誰かが自分の気が付かない所で傷ついてもお構いなしだ。
 ……じゃなきゃ、身近な人間が泣いてるからって理由で突然戦場に乱入して他人を傷つけて、それで"自分の意思で撃ったんじゃありません"と言わんばかりの態度で被害者面なんて出来ないだろ」
ため息を吐きながらそう話すシンを、イザークはじっと見つめていた。
はっきり言って、その目線は観察されているような気分になって気に入らない。
その所為で、シンの口調は無意識にぶっきら棒なものになってしまっていた。
「アスランの方は相変わらず話にならない人だったな。問題点を指摘すれば、"それはあれが悪い""あいつが悪い""お前が悪い"。……子供か、ってんだ」
それだけ言うと、シンは聞かれた事はすべて話したと、イザークを睨み付けるように見つめた。
イザークも似たような目で、シンの事を見ていた。
しばらくの間、二人は何も言わずににらみ付け合う。
そう広くない部屋の中に、ディアッカの咳だけが響く。
どうやら、笑い過ぎてむせたらしい。

「……貴様は、今のプラントやザフトの様子は知ってるか?」
むせているディアッカを無視して、唐突にイザークはシンにそう問いかけた。
「いや。地球じゃプラントの詳しい様子なんて、ほとんど情報が来ないからな。精々、地球圏すべてが飢えてる今の状況で、オーブと並んで唯一食べ物に困らない"楽園"だ、って話を聞くくらいだ」
「"楽園"、か。……確かに、その表現は間違ってはいない」
イザークのどこか含みのある言い方に、シンは思わず眉を寄せた。
「自分達で苦労して作った訳でもないのに食べ物は有り余っている。それだけで、地球から見たら"楽園"に見えなくもないだろう。
 だがしかし、そこの"楽園"に住んでいる者達はどうだ?親は子供達に、自分達コーディネイターはナチュラルよりずっと優れていると教え込む。そして子供達は、その言葉を良く考えもせずに信じ込む。
 ……結果、どうだ。今の若い奴らはナチュラルを見下し、飢えてし苦しむ者達をあざ笑うような奴等ばかりだ!そして自分達は優秀なのだと信じ込み、己を高めようとしない!
 今、ザフトはそんな奴らばかりで、ただMSが動かせるってだけのひよっこばかりだ!俺達がザフトに入った頃はな……!!」
「イザーク、イザーク、問題がずれてきてるぜ」
だんだん熱くなってきたイザークを、やっと復活したディアッカがたしなめた。
その間に、シンは一人で納得していた。
あのど素人レベルのグフイグナイテッドはそういう事か。
確かに相手を見下し、自分が優秀だと思い込んでいる奴が、自らの腕を磨こうと努力するなんて思えない。
さらに言えば、そんな奴ほど相手が思いがけない反撃に出た時の反応が鈍いものだ。
結果、あのグフイグナイテッドのパイロットたちは、正規のザフト兵とは思えないほどのへっぽこになった、と言うわけか。

ディアッカにたしなめられ我に返ったイザークは、軽く咳をして己を落ち着かせると、何事も無かったかのように話の続きを始める。
「とにかくだ、今のプラントの様子はかりそめの平和で堕落しきっている、といった感じだ。……地球軍とて馬鹿ではない。
 再びプラントと地球の戦争が起これば、過去に何度も失敗した武力行使のような直接的な攻撃よりも、食料を止めにかかるなどの間接的な攻撃をおこなってきても、おかしくはない。
 そうなれば、飢える事に慣れていないプラントの民がどういった行動に出るか、……想像出来るだろう」
「まずは政府……つまり、ラクス・クラインに不満が行くだろうな。それで焦って、食料止めた国に対して『撃ちたくない、撃たせないで』とかほざきながらストライクフリーダムが突っ込むんじゃないか?
 頭の中はどうだか知らないけど、実際にする行動は、"話し合いよりも、まずは武力で相手を叩きつぶすのが先"、って感じの人達だからな」
「……そこまで軽率ではない、と、思いたい所だがな」
小馬鹿にしたように話すシンに対して、イザークは疲れたようにそう答えた。
内心は否定したいが、否定する材料が足りない、と言った所なのだろう。
0434久遠281
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2014/08/01(金) 20:02:56.25ID:???
そんなイザークに対し、シンは続きをしゃべり続ける。
「地球軍としては、その売られた喧嘩に勝つ必要はない。
 ただ、『国民が飢えてるからプラントに送る食料を止めて、国民に回そうとしたら、武力に訴えられた』って言えば、飢えている地球の人達の怒りはプラントに向く。
 ……"飢え"と"貧困"を苗床にして育った"火種"は、あっという間にプラントと地球を飲み込むだろうな」
「……そうなれば、今の堕落しきったザフトでは、対処しきれるかどうか分からん」
「そう言えば、前にストライクフリーダム数機に襲われた事があったんだが、あれは大量生産したのか?
 あれが何十機もあれば、しばらくの間は粘れるんじゃないか?……もっとも、あれに乗れる奴がそれだけいればの話だけど」
シンがふと思い出した事を言うと、イザークが目を細めてシンを見つめた。
なぜイザークがそんな顔をするのか見当が付かず、シンは思わず目を見開いて首をひねった。
「……やはり、あれを落としたのはお前だったか……」
「は?」
「こちらの話だ。……『あれ』は電脳部分が特殊な構造で、一度に大量に作る事が出来ないと聞いている。まだテスト段階だしな。
 それに、もしそれらの問題をクリアしても、"ストライクフリーダム"を造るには特殊な金属が必要だ。現在プラントにあるその金属の量を考えても、そんなに大量には作れないはずだ」
「そうなのか?」
シンの言葉に、イザークはうなずく。
シンも軽くうなずいて、イザークの言葉を理解した事を伝え、次の話に移った。
「後問題なのは、実際に戦争になった時の地球軍の戦力か。……まあ、MSは設計図があれば、作るのにそう時間はかからない。
 地球連合が本気になれば、数か月でかなりの数をそろえられるだろう。ザフト兵士の質が悪い事を考えると、プラント側が不利だろうな」
そっけなく答えたシンに、イザークが目を吊り上げる。
「貴様!なんだ、その"どうでもいい"と言わんばかりの言い方は!?」
「……いや、"どうでもいい"とまでは言わないけど、どう考えても俺にはどうしようもない事だろ」
戦争をどう回避するかなんて、政治の問題だ。
そんな中で、一般人の自分が何か出来る事があるかと言えば、はっきり言って"何もない"、だろう。
もちろん平和に暮らしている者達や、弱い人達を傷つける行為は許せない。
昔はそういった人達全てを、自分の手で守りたいと思っていた。
いや、自分に力があれば、実際に全て守れると信じていた。
だが、実際に力を持ってみれば、自分には絶対に守れないと言う現実を突き付けられただけだ。
そんな自分に、こいつは何を期待していたのか。
シンはそう思ってため息を吐いた。
「アンタはいったい、俺に何をさせたいんだよ?」
うんざりしながらそう言うと、イザークは姿勢を正してシンをまっすぐに見つめた。
「……俺達に手を貸せ、シン・アスカ」
「……は?」
低い声で発せられた言葉に、シンは思わず間の抜けた声を出した。
だが直ぐに気を取り直すと、イザークを睨み付ける。
「……それはザフトに戻れ、って事か?」
「違う。……俺達はこれから、ザフトを抜ける。そしてラクス・クラインから政権を奪い返す」
「はぁ!?」
イザークの言葉に、シンは再び変な声を出してしまった。
しかしイザークは全く気にした様子はなく、そのままシンを睨み付けるように見つめる。
「これはまだ極秘の情報だが、地球の車や重機を作っているとされる多数の工場に、MSの材料と思わしき資材が大量に運び込まれているとの情報があった。
 その量や時期を考えると、すでにかなりの量が出来上がっていると思われる」
0436久遠281
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2014/08/01(金) 20:05:41.74ID:???
「それ、ラクス・クラインには報告したのか?」
「もちろん報告済みだ。だが、返ってきた答えは"地球の人々を信じましょう"って言葉だけで、他には何もなしだ!」
「もし地球連合軍が襲って来ても、キラ・ヤマトが居れば何とかなると思っているんじゃないか?」
「確かに、奴の力は強大だ!しかしな、プラントは宇宙空間に広く分布しているんだぞ!それを一度に狙われたら、奴が十人いても足りんわ!!
 そして地球連合すべての物資、人材をかき集めれば、それは決して不可能な事ではない!!」
しゃべっている内にヒートアップして声が大きくなるイザークに対し、シンは思わず耳をふさごうとした。
しかし、その腕は手錠でしっかりと繋がれている事を思い出し、眉を寄せながらもイザークに近い方の耳だけふさぐ。
「……で、ラクス・クラインから政権を奪い返したとして、アンタ等はどうしようって言うんだよ?」
シンの質問に、イザークの怒鳴り声がピタリと止む。
そして再び背筋を伸ばすと、真面目な顔になった。
正直、ずっとこのままの状態で話してほしいと思う。
……うるさいし。
「まずは地球圏の軍、警察等一部の組織に対する武器の所持を認める事となるだろう。それにより、自分の国は自分達の力で守ってもらう事になる。
 そしてプラントは、他国を守れるほどの過度な軍事力を維持しなくても済むようになる。それにより軍事費の削減をし、その資金を食料生産プラント製作に回す。
 将来的には食料輸出を目指すつもりだ。ニュートロンジャマーは半永久的に動くのだから、地球圏内での食料大量生産はしばらくは無理だろう。
 食料や宇宙資源、そういった必要不可欠な物を地球圏の国に与える事でプラントの地位を上げ、地球軍がプラントに手を出せないようにするのが、最終的な目標だ」
「……なるほど、確かに"理想的"な目標だな」
今までと違い、"力"で相手を脅して得る平和ではないのだから。
しかし今とは違う意味で、その平和を得るのも維持するのも難しいだろう。
そんなシンの心の内を察したのか、イザークは眉を少し寄せた。
「……今のプラントの平和はキラ・ヤマト一人で持っていると言っていい。キラ・ヤマトが倒れれば、それだけでプラントは終わる。そんな危うい平和よりもマシだろう」
「だから、反旗を翻すと?」
「どちらにせよ今の政権が、俺達が反旗を翻した程度で倒れるならば、地球連合軍に勝てるとは思えんからな」
「俺達が戦っている間に、その地球連合軍が攻めて来たらどうするんだよ?」
「その心配はない。もうすでに主だった国と、裏で取引を終了させている。俺達が戦っている間に、奴等がこちらに銃口を向ける事はないはずだ。
 ……もっとも奴らにしてみれば、ただ同士討ちを狙っているだけかもしれないがな」
「……もしこちらが勝てたとしても、プラントの国民が付いて来るのか?」
「貴様、今のプラントの税がどのいくらか知っているか?軍事を維持し、増強させるには莫大な資金が居る。その為に、今現在プラントでは、他の国と比べてはるかに高い税を設けている。
 しかもそれでも足りずに、近いうちに増税が決定している。今はまだ食料類にかかる税率が低い事と、ラクス・クラインのカリスマで何とかもっているが、その食料類にも増税される事が決まっている。
 そのうえ、その上げ率が大きい。そうなれば、不満を持つ者がなからず出て来るだろう」 
「ラクス・クラインのカリスマでまとまっている国で、そのラクス・クラインに不満を持つ者が出て来るわけか。
 ……最悪、プラントはラクス・クラインに付いて行くと言う者と、不満を持つ者の真っ二つに割れるかもな」
「しかも増税は軍事増強のためで、それは地球圏、つまりナチュラル達をテロ等の犯罪から守るため、と、宣伝している。
 そのため"ナチュラルの事なんて、放って置けばいい"と、不満を持っている奴らはすでに数多く居るからな」
内も外も火種だらけか、今のプラントは。
ホント、あの人達は何がしたいのか。
シンはそう思うと気が重くなり、大きくため息を吐いた。
「話は大体わかった。……だけどな、ただの一般人相手に"手を貸せ"って言われても、正直迷惑なだけなんだけど」
「貴様、傭兵だそうだな」
「すでに調査済みか。ホント、説明が省けて楽だな」
「……しかも、普通に殺したくらいじゃ、死なないそうだな」
シンの嫌味を完全に無視して発せられた言葉に、シンは思わず目を細めてイザークを睨んだ。
0438通常の名無しさんの3倍
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2014/08/01(金) 20:08:01.14ID:???
……しゃべったのは、アスランあたりだろうか。
有りうるな。
あの人、結構おしゃべりだし。
シンがそんな事を思っているのも完全に無視をし、イザークは鋭い目つきでシンを睨み付ける。
「分かるか?今ここで貴様を置いて行くと、こちらの障害になる可能性がある」
イザークはそう言うと、銃を取り出してシンの頭に銃口を向けた。
それだけで、シンはイザークの言わんとしている事が分かった。
つまり自分達の力にならないなら、ここで"処理"させてもらう、という事だろう。
「……随分、俺の事を評価してくれているらしいな」
「当たり前だ。一人で数十もの相手を圧倒する事が出来る腕を持つ者は、もはや兵器と変わりはない。そして主を持たず、銃口をどこに向けるか分からない兵器ほど、危険なものは無いからな」
しばらくの間、シンと銃口を突きつけたままのイザークが、お互いをにらみ付け合う。
そんな中、先に沈黙を破ったのは、シンの方だった。
嫌味も込めて、大きなため息を吐き出す。
「……アンタも、俺を"兵器"扱いするわけ?」
「それが真実か否かはともかく、お前の事を良く知らん奴らは、そうとしか思わんだろう。……力を持つ者なら、その力を正しく自覚するべきだろう」
そのセリフに、シンは思わず眉を寄せた。
だがイザークは、そんなシンの様子に構わず、話を続ける。
「もちろん、報酬は出す。お前と一緒に来た、あの女の安全も保障する」
「女?」
何の話か分からず、シンはさらに眉を寄せた。
そんなシンに答えたのはイザークではなく、今までどこか楽しげにシンとイザークの会話を聞いていたディアッカだ。
「確か……コニール、だったか?茶色い髪の……」
ディアッカが不意に言葉を切ったのは、自分の意志ではない。
シンがいきなりベットの上から立ち上がり、自分に向けられる銃口を無視してイザークに詰め寄ったからだ。
「コニールもここに連れてこられたのか!?」
「知るか!アスランの馬鹿が連れてきたという事と、貴様の知り合いという事しか聞いておらん!!」
思わず声を張り上げたシンに対し、イザークも声を張り上げた。
その答えを聞いたシンは、体中の力が抜ける感覚に大きなため息を吐きながら、ベットに座り込んだ。
コニールが付いていくと言って来たのか、それとも顔見知りが故に、アスランが邪険に出来ずにつれて来たのか。
……おそらく、両方だろう。
シンは何故だかそう思った。
それはただの予想だったが、なぜだか確信じみた思いだった。

「……報酬、ちゃんと払うんだろうな?」
「は?」
いきなり詰め寄って来たかと思ったら、今度は勝手に脱力している様子のシンに、イザークは一瞬呆気にとられてシンの言葉を聞きのがしたらしい。
間の抜けた顔で、思わず聞き直す。
「だから、コニールの安全を約束してくれるんだよな?」
「……ああ、それは約束しよう」
シンの言葉に、イザークは頷きながら答える。
それを確認するようにシンも一つ頷き、そして答える。
「……いいだろう。契約成立だ」
0440久遠281
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2014/08/01(金) 20:09:23.68ID:???
支援、ありがとうございますm(_ _)m
第十四話です。

シンとイザークの会話だけで終わってしまいました。
はっきり言ってグダグダで、特に見せ場は無いです。
しかしこの手の会話は、この先戦っていく理由にもつながるため、あんまり端折る事も出来ないんですよね……。

そして、また誤字orz
……これからは、書いた後に検索で間違ってないかチェックした方がいいかな……。
0442通常の名無しさんの3倍
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2014/08/01(金) 21:12:56.12ID:???
鬼作さんもといイザークさんはプラントの良心…つーか、痔とこいつくらいだな種の劇中で成長したの
他のメインキャラはだんだんアレになっちゃったしw
0443通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/08/02(土) 00:28:56.94ID:???
乙乙。これは面白そうなジュールターンが見られそうだ。さて、今度の乗機は何だろう?

そして、量産型ストフリとイザークの台詞から、まーたよからぬ事企んでそうなピンク達・・・ほんと、お花畑BBAだわ〜
てか、ここの作品でまともな3バカってほとんど居ないな。まあ、本編合わせて大概はラスボスだし
0444通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/08/02(土) 12:17:33.45ID:???
>>442
イザークもテレビだけだと「あれ(ラクスのエターナル)はザフトの艦だー!」で
恩仇返しの完全台無しになりさがったけどね。
二次ではそのままラクス教徒のイヌで終わるケースもあれば
ジオンやレッドアイズやCROSS POINTのように遅まきながら自分で考えるようにもなってるが。
0445通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/08/02(土) 13:46:58.25ID:???
>>444
種の初期の頃が酷すぎたんで、成長した分まともに思えてしまうが
実はそれでやっと他の面々と同レベルなんだよな…
0447久遠281
垢版 |
2014/08/08(金) 19:52:01.96ID:???
――MARCHOCIAS――

 第十五話 脱出




大きな窓から入る太陽の光が、部屋の中を明るく照らす。
一目で高級だと分かる家具に囲まれて、一組の男女が午後のお茶を楽しんでいた。
女の名はラクス・クライン。
男の名はキラ・ヤマト。
たわいもない事を話し、ゆっくりとお茶をすすりながら、用意された焼き菓子を口に運ぶ。
その焼き菓子を作るための小麦一袋の為に、地球では流血を伴った奪い合いが日夜繰り広げられていたが、そんな事は今の二人の思考の中には無い。
今、二人にとって重要なのは、こうして愛する者とのささやかなひと時なのだから。

そんな二人だけの幸せな時を破ったのは、ラクスの直ぐそばに置かれていた通信機から聞こえて来た、メール着信を告げるメロディだった。
ラクスは一瞬だけ不快そうに眉を寄せて、通信機に手を伸ばした。
そして着いたばかりのメールに目を通し、通信機の画面を睨むように目を細めた。
「……何かあったの?」
お茶に口を付けようとしていたキラは、ラクスの表情が変わるのを見て、そう聞いてきた。
その表情はラクス自身をいたわると同時に、今の楽しい時間がこれで終わりになるのではないか、という不安が見え隠れしていた。
それに喜びと愛おしさを感じながら、ラクスは柔らかく微笑む。
「大丈夫ですわ。少しトラブルがあったそうですが、この程度なら私が出なくても他の方が処理してくれますから」
ラクスがそう言うと、キラは目に見えてホッとした表情をした。
「そっか」
「ええ。ですが、返信をしなければなりませんから、少しお時間をください」
「うん」
キラはラクスの言葉に軽くうなずくと、自分のお茶に口を付ける。
ラクスはその間に通信機に目をやって、もう一度届いたメールを読み返した。

『イザーク・ジュールに不審な動きあり。いかがいたしましょう?』

その文章を読み返したラクスの瞳は、キラに向けていた時には考えられないくらい冷たいものだった。
ラクスはもう一度キラに目線をやり、キラがこちらを見ていないのを確認すると、一気に返信を打ち込んだ。

『平和を乱す者は何人たりとも許してはなりません。目標の生死、方法は問いませんが、民には知られぬように』

ラクスは自分の打った文章と送り先を確認すると、返信ボタンを押した。
そして、メールが相手に無事に届いた事を知らせるメッセージが画面に出た事を確認して、通信機をテーブルの隅に置く。

「キラ、お茶のお替りはいかがですか?」
そう言ってキラに向けたラクスの笑顔は、先ほどの冷たい瞳など微塵も感じさせないものだった。
その笑顔を見たキラが、優しく微笑みながら、自分のカップを差し出す。
ラクスはそのカップに、優雅な手つきでお茶を注いだ。

大きな窓の外では、小鳥たちが人工の空を飛んでいく。
0448久遠281
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2014/08/08(金) 19:54:24.75ID:???
暖かでゆっくりとした時間が、その場を満たしていた。



****



広い部屋の中、コニールは落ち着かない気持ちでソファーに座り込んでいた。
何でこんな事になったのか。
コニールは自問自答したが、答えはすぐに出た。
あのやたらデコの広い男の所為だ、と。

アスランはプラントに付いた途端、コニールをこの部屋に押し込んで、放置した。
部屋の中は一目で高級と分かる家具がいくつもおかれ、部屋の隅に置かれたベットはコニールが三人は楽に寝れるぐらい大きい。
あのまま地球に居れば、一生見る事さえ無いだろう高級家具に、最初は乗っかったりしてしゃいだりしていたが、それも時間が経てば飽きる。
そうなると、次に訪れたのは不安だ。
戦艦の窓のない部屋に入れられてここまで来て、降りた所も周りは鉄板に囲まれた窓の無い広い場所――多分、戦艦用のドックだろう――で、そのままこの窓の無い部屋まで連れてこられた。
その為、本当にここが宇宙であるのか正直自信は無いが、多分ここから直進して行けば、光も酸素も無い宇宙空間に出るのだろう。
いや、もしかしたらこの壁をぶち抜いたら、そこはもう宇宙空間である可能性もある。
それ以前に、この部屋には監視カメラが付いていて、自分が何か不審な動きをした瞬間、壁が開いて自分を宇宙空間に放り出す仕掛けでもあるかもしれない。
さすがにそんなものは無いとは思うが、コニールはつい、部屋に置かれた箪笥の上や植木に目線をやって、カメラのレンズが無いか確かめてしまった。
見える範囲にレンズは見えなかったが、なんだか動くのが怖くなり、コニールはソファーの上に置かれたクッションを抱えて大人しくしている事に決めた。
しかし、動いていないと逆に不安はさらに深くなっていく。

そう言えば、シンは無事なのだろうか?
そう簡単に死ねない体なのは知っているが、確か不死身と言うわけでは無いと言っていたような気がする。
もしかしたらその珍しさに、バラバラに解剖されていたりして!?
そして今頃ホルマリン漬けにされていたらどうしよう!?

そう思うとコニールは落ち着いていられず、切羽詰まった顔でソファーの周りをぐるぐると歩き回り始めた。
その姿はまるで、動物園の檻に入れられた獣のようだったが、切羽詰まったコニールは全く気が付かなかった。

大体、アスランは自分をいつまでこの部屋に放置しておく気だ?
さすがに女性をいつまでも一人で部屋の中に放置しておくなんて、失礼じゃないのか?

そう思うと少しずつ、コニールの気持ちは不安から怒りの方に傾いて行った。

確かに付いて行くと言ったのは自分だ。
だがせめて、一度ぐらい顔を見せに来るのが礼儀だろ。
あのハゲ、なに考えているんだ!?

先ほどまでのコニールの不安は、全て怒りに変わる。
0449久遠281
垢版 |
2014/08/08(金) 19:57:02.59ID:???
そしてその怒りは、コニールの沸騰点を軽く超えていた。

「あーーーー、あのでこっぱち!!なんでもいいから、さっさと来い!!」

思わず部屋の外まで響いているだろうと思われる大声を上げる。
大声を上げる一瞬前、部屋のドアをノックする音が聞こえた気がしたが、気のせいだ。
そして、ドアの前で何か話している声が聞こえるような気がするが、良く聞き取れないから自分には無関係だろう。
うん、きっとそうに違いない。

しかし、それから少し経ってから響いてきたどこか遠慮するかのようなノック音は、確かに自分の部屋のドアからしてきたようだった。
もしかしたら、あのデコハゲ野郎か!?
コニールはそう思い、急いでドアに向かった。
ドアの前に着くと、コニールは来客者の姿を確認せずに、思いっきり扉を押し開けた。
直後に聞こえて来たのは、鈍い打撲音。
そして短い悲鳴と、ドアノブを握った手に掛かる重量。
それだけで、コニールは何が起こったかのか理解できた。
曰く、コニールがドアを勢いよく開いたせいで、来訪者が開いたドアにぶつかったのだ。
コニールが床に目をやると、扉の直撃を受けたと思わしき来訪者が、その場にうずくまって両手で顔を抑えていた。
その黒くてあちこち飛び跳ねた髪を見た瞬間、コニールはその人物が誰だ気が付いた。
「シ……、シン!?」
「おま……、結構バカ力……」
シンはそう言うと、顔から手を放してコニールを見上げた。
その緋色の瞳は、涙で滲んでいた。
どうやら、相当痛かったらしい。
「ご……、ごめん」
「まあ……、これくらい、すぐ直るから平気だけど」
そう言ってシンは立ち上がったが、その顔はぶつかった衝撃で赤くなっていた。
それに気が付いたコニールは、また申し訳ない気分になった。
「それよりコニール、……"あいつ"はどうした?」
やたらと低い声で問われた言葉に、コニールは一瞬肩を震わせ、目を見開いてシンを見た。
シンの言う"あいつ"が、アセナの事だと直ぐに気が付いたからだ。
コニールは何か言おうと口を開きかけたが、どう言っていいか分からず、結局何も言わずに口を閉じた。
代わりに瞳を伏せて、そのまま無言で首を振る。
「……そうか」
シンは、おそらくコニールの返答が分かっていたのだろう。
小声でそう言っただけで、特別驚いた様子は無かった。
ただ何かをあきらめたような、痛みをこらえたような小声で、一言つぶやいただけだった。
コニールはその呟きに、胸が締め付けられるような思で、シンが撃たれた後の事を話始める。
「……せめて、埋めてやりたかったんだけど、あの辺の土が固いからな。どこか埋められる所にまで連れて行ってくれ、って頼んでも、なんか良く分からない事言われて、結局そのままおいて来るしかなかった……」
コニールがそう言うと、シンは微かに頷いたようだった。
しかし何も言わず、ただ静かに目を閉じていた。
その様子に、コニールは他に何も言えなくなってしまい、自分も黙り込んでしまう。

「おーい、お二人さん。悪いけど、急いでくれないか?」
不意に聞き覚えのない声が聞こえてきて、コニールは慌てて声のした方向に視線を向けた。
そこには銀髪おかっぱの男と浅黒い肌の男が、こちらから距離を取るように壁際に立っていた。
0450通常の名無しさんの3倍
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2014/08/08(金) 20:01:04.29ID:???
声をかけたのは、どうやら浅黒い肌の男のようだった。
その声を聴いて、シンは表情を硬くした。
「……コニール、行くぞ」
「え?行くって、どこに?」
思わず聞き返したコニールの言葉に、シンが固まる。
そして一瞬何かを考えるような顔をしたと思ったら、銀髪おかっぱと浅黒男を振り返った。
「……そう言えば、これからどうするんだ?」
シンの言葉に、銀髪おかっぱは深々とため息を吐き、浅黒男は肩をすくめて見せた。
ムッとした表情をしたシンに対し、銀髪おかっぱ頭が真面目な表情をして口を開く。
「まずは戦艦"ブリュンヒルデ"を奪い、プラントを脱出する。その為の準備はすでに終わっている。……行先は、この場では言えんがな」



****



イザークを先頭にやってきたドックには、白と青色に塗装された戦艦が静かに鎮座していた。
シンは懐かしさからその姿を良く見たいと思ったが、見覚えのある造形に見覚えのない塗装を施されたその姿が、
懐かしさと同時に自分の知っている"ミネルバ"では無い事を突きつけているようで、あまり長い間直視することが出来なかった。
その間にも、イザークはさっさとブリュンヒルデのタラップに向かってしまったので、シンは慌ててその後を追った。

シン達がドックに向かう道すがら、何度かザフト兵とすれ違った。
しかし前を歩く白服のイザークと赤服のディアッカの姿に一度も呼び止められることなく、ここまでたどり着いた。
ここまでの道すがら、ドンパチでもして戦艦を奪う気なんじゃないだろうかと思っていたシンとしては、はっきり言って拍子抜けだ。
まあ、この人数のを考えたら、戦闘は無いに越したことはないのだが。

イザーク、シン、コニール、ディアッカの順で、四人はブリュンヒルデに乗り込む。
と、シンは入口を入ってすぐの所に、赤服を着た栗色の長い髪の女性が立っている事に気が付いた。
その女性はイザークが近づくと、背筋を伸ばしてザフト式の敬礼をした。
「……全ての準備は終了しています。すぐにでも、出航できます」
「分かった。すぐにでも出航するぞ!全成員に持ち場に着くように伝えろ!」
イザークがそう言うと、女性はそれに応た後、踵を返してどこかへ行ってしまう。
「……戦艦内の制圧は終わっているのか?」
女性が行ってしまうと、シンはイザークの横に並び、小声でそう問いかけた。
これだけ大型の戦艦だ。
乗組員の数は、どんなに少なくても百を軽く超えるだろう。
その乗組員全てを味方に付けるなんて事は、おそらく不可能だ。
そうなると、味方につけられなかった者達の排除が必要になる。

シンの言いたい事は、イザークも分かったのだろう。
横目でちらりとシンを見ると、イザークは忌々しげな声でシンの問いに答えた。
「……言ったはずだ。今のザフトは腑抜けばかりだとな。それはMS操作技術だけの話ではない。……生身での戦いでもそうだ」
そのイザークの言葉で、シンは大体の事を理解した。
つまり、すでに志を同じにしない者達は、武力によってこの艦から叩き出した、って事だろう。
0451久遠281
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2014/08/08(金) 20:04:18.02ID:???
「……だが、気を抜くな。今のこちらとザフトの兵士数は、あちらの方が遥かに多いのだからな。数で来られたら、ひよっこと言えども厄介だぞ!」
イザークの言葉に、シンは無言でうなずく。
戦闘においてほとんどの場合、重要なのは質よりも量だ。
いくら優秀な兵器を使っても、それを操作するのが生身の人間である限り、長時間連続での戦闘は不可能だ。
その為、少しくらい相手より質が悪くても、量が多ければ相手を長時間戦闘させ続ける事が出来、有利になる。
もっとも、これはキラ・ヤマトのようなずば抜けた質を誇る相手には、被害が多くなるだけの話だが。

無言でうなずくシンを見たイザークは、少し目を細めたが特に何も言わず、さっさと歩き出した。
シン達も黙ってその後に続いた。
その間に、シンは船内に視線を向けた。
ブリュンヒルデの内部は、シンの覚えているミネルバとほとんど同じようだった。
(それならば、イザークが向かっているのはブリッジだな)
シンは、前を歩くイザークの背を見ながらそう予想を付けた。
やがてイザークは、通路の突き当りに在った扉を無言で通った。
シンもその後ろを無言で続く。
そして、そこはシンの予想通り、ブリュンヒルデのブリッジだった。
ブリッジ内ではすでに数人のクルー達が、モニターを操作して発進準備を進めているようだった。

「ブリュンヒルデ、発進準備完了してます。いつでも発進出来ます!」
クルーの一人がイザークに向かって声を上げる。
その声にイザークは軽くうなずくと、艦長席に向かった。
――あ、そこに座るんだ。
その姿を見て、シンはそう思った。
なぜならシンは、無意識にイザークはMSに乗って戦うものだと思っていたからだ。
だが、艦長席に座るからには、MSに乗って戦う事は無いのだろう。
シンがそんな事を思っていると、ディアッカが艦長席の後ろにある席のすぐそばに立って、シンとコニールに手招きした。
どうやら"ここに座れ"という事らしい。
シンとコニールは、無言でその指示に従う。

「システムコントロール全要員に伝達。ブリュンヒルデ、発進シークエンス発動。ドックダメージコントロール全チーム、スタンバイ」
「発進ゲート内、減圧完了。……いつでも行けます!」
ブリッジ内に響くクルー達の報告に、イザークは軽くうなずく。
「機関始動!ブリュンヒルデ、発進する!」
イザークの声を受け、ブリュンヒルデはドックの中を静かに沈んでいく。
やがてブリュンヒルデの下方のゲートが開き、その巨体は漆黒の宇宙に放り出された。
「……周りの他の艦の様子はどうだ」
ブリュンヒルデがプラントに背を向けて航海し始めたのを確認して、イザークはクルーにそう声をかけた。
「周りにいる全ザフト戦艦、動きはありません。……こちらをマークしている様子もありません」
クルーの返答に、イザークは深々と艦長席の背もたれに寄りかかった。
「ひとまずは、第一関門はクリアと言った所か。……しかし!!」
突然あげたイザークの大声に、ブリッジにいた全クルーの視線がイザークに向いた。
シンも思わず表情が厳しくなる。
「事が起こるなら、おそらくプラントから離れてからだ。奴らも、プラントのすぐ近くで戦闘はしたくないだろうからな」
イザークの言葉に、コニールが不安げにシンの方を見た。
しかし、厳しい顔のまま正面の巨大スクリーンが映す漆黒の宇宙を睨んでいたシンは、その事に気が付く事は無かった。
0452久遠281
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2014/08/08(金) 20:06:47.54ID:???
第十五話です。

今回も、会話だけで終わってしまった……orz
次回はMS戦が入りそうですが、新機体はもうちょっと後になりそうです。
0454通常の名無しさんの3倍
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2014/08/09(土) 22:26:23.49ID:???
乙乙。ピンクがドス黒い〜。あ、いつも通りか・・・
次回は脱出変だろうが、ひと悶着ありそうだな。てか、館長席に座るイザークに何かクルw
0457久遠281
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2014/08/22(金) 19:52:22.80ID:???
――MARCHOCIAS――

 第十六話 心情




"ブリュンヒルデ"の展望デッキで、コニールは周りを飛び回る岩の隙間から、瞬く星を眺めていた。
いや、はたから見たら、その視線は"見ている"と言うより"睨んでいる"としか見えないほど鋭いものだった。

「……何で、宇宙空間睨んでんだよ」
呆れたような声に、コニールは声がした方に顔を向けた。
そこではシンが、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

「だって、このガラスの向こう側は、もう宇宙なんだろ!?空気も酸素も無いんだろ!?」
「……空気と酸素は、ほぼ同じだろ。そもそもこれはガラスじゃなくて巨大スクリーンだし、スクリーンの向こう側には装甲あるぞ」
「どっちにしろ、破られたらお終いなのはかわりないだろ!?」
「まあ……、そうなんだけど……」
何故かやたらとテンパっているコニールに、シンは気圧されたように言葉を濁した。
コニールとしては、自分が宇宙に来るなんて、今まで考えた事無かったのだ。
それが今、自分が宇宙にいると思うと、やたらとその危険性を考えてしまう。

「……一応言っとくけど、戦闘にでもならない限り、艦に穴が開くなんて事無いからな」
「分かってるよ!」
苛立ったコニールの声に、シンはため息を吐いた。
シンの立場から見れば、八つ当たりされたとしか思えない状況なのだから仕方がない。
仕方がないとは思うが、それでもコニールは腹が立った。
思わずシンの方から勢いよく、顔をそらす。
それを見て、シンはもう一度吐息を吐き出した。

「……それよりも、そろそろブリッジにもどるぞ」
「え!?」
シンのうんざりしたような声に、コニールは驚きの声を上げて、先ほど逸らしたばかりの視線を戻した。
「『え!?』って、どうせこの後しばらく、宇宙空間しか見える景色はないんだ。嫌でも飽きるまで見る事になるぞ」
「いや、そういう訳じゃなくてさ。……また、通路通るんだろ?」
コニールの言葉に、シンは一瞬驚いたように目を見開いた後、何やら納得した様な表情をした。

今居る展望デッキは人工重力があるが、通路にはその重力はない。
"少しくらいは、宇宙の環境に慣れておいてもらわないと困る"とのイザークの指示で、コニールはこの展望デッキまで、無重力の通路を歩かされたのだ。
無重力の通路は歩き辛く、少し強く床を蹴るとたちまち体が浮き上がってしまい、しかも一度浮き上がってしまうと何かに当たるまで方向を変える事さえ出来ない。
コニールが、お目付役であるシンと共にこの展望デッキに着いた頃には、はっきり言って"宇宙になんて来るんじゃなかった"と言う思いがコニールの頭の中を支配していた。
ここに来るまでの間に、コニールはその思いを散々怒鳴り散らしたため、シンもそれを分かっている。
0458久遠281
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2014/08/22(金) 19:55:39.87ID:???
だからこそ、眉を寄せて困ったような顔をしたのだろう。

「気持ちは分からなくもないけどさ、そろそろ一度ブリッジに戻って、状況を確かめておきたいんだ」
「それは分かるんだけどさ……」
コニールの声は、後半になるにつれて音量が小さくなる。
その様子にシンが、またしても吐息を吐き出す。
自分がわがままを言っている自覚のあるコニールは、思わずうつむいてシンと視線が合わないようにした。

「……ほら」
うつむいたコニールの視界に映ったのは、こちらに差し出されたシンの手だった。
シンの意図が分からず、コニールは思わず視界を上げ、首をかしげる。

「……手!」
「え……?あ、……はいっ!」
そんなコニールに焦れたのか、シンが苛立った声を上げる。
それに慌てて答えたコニールは、意味が分からないままその手を握った。
コニールの手を握ったシンは、そのままコニールを引きずるように歩き出し、展望デッキから無重力の廊下に出た。
そしてそのまま廊下を蹴って、無重力空間を飛ぶ。
コニールはそのシンに引っ張られるようにして、無重力空間を進んだ。

コニールとは違い、シンはバランスを崩す事無く無重力空間をコニールを引っ張って進む。
そんな状況の中、コニールは手持無沙汰になり、なんとなくシンの後ろ姿を見つめた。
身長的には16歳の時とあまり変わらないシンと、自分の間に大きな差はない。
だが、やはり男性だからか、少しシンの方が肩幅が広い気がする。

そう言えば、シンの見た目がこんなだから忘れていたが、シンの方が少し年上だったはずだ。
さらに良く考えれば、自分は今、異性と手をつないでいるのか?
いや、良く考えなくてもそうだろう。

そう思うと、コニールは顔に血が集まるのを感じた。
幸運なのは、シンは前を見ていてこちらに気が付いていない事だろう。

――ここで手を振り払うのも不自然だ。
  だから、このまましばらく手を繋いでいた方がいいはずだ。
  うん、いいはずなんだ。

なぜかコニールは、必死にそう自分に言い聞かせながら、そのままシンに引っ張られて廊下を進んだ。
だが、それも長い時間は続かなかった。

『コンディションレッド発令!パイロットは搭乗機にて待機せよ!』

突然艦内に響いた放送に、前を進んでいたシンが急に立ち止まり、コニールの方を振り返った。
「コニール、一人でブリッジまで戻れるか!?」
0459久遠281
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2014/08/22(金) 19:58:31.93ID:???
「え?あ……、う、うん!多分平気!」
コニールは、顔が赤い事を悟られたのではないかと言う不安から、少し上ずった声でそう答えた。
「ごめん!コニールはブリッジに戻っててくれ!」
そう言うと、シンはコニールが何か答えるよりも早く、繋いでいた手を放して廊下を蹴った。
そしてそのまま、角を曲がって姿を消す。
コニールはシンの姿が見えなくなっても顔の熱が消えず、しばらくその場に立ち尽くした。



****



シンはパイロット用の更衣室に飛び込むと、あらかじめ教えられていたロッカーを開いた。
ロッカー中には、紅いザフトのパイロットスーツとヘルメットが入れられていた。
シンはスーツを取り出すと、急いで袖を通す。
過去に何度も着た物だ。
体が覚えていたらしく、手間取る事無くすんなりと着こむことが出来た。

シンはヘルメットを掴むと、格納庫に続くエレベーターに乗り込む。
そして格納庫に着くと、他のパイロット達は大体出撃準備が終わった後だったらしい。
カタパルトに続く通路に、MSが運ばれていくのが見えた。

格納庫にいた整備士達には、すでに自分の事が知らされていたのだろう。
直ぐに一人の整備士が、自分に向かって手を振っているのが見えた。
その整備士は、近くに置いてあった水色のグフイグナイテッドを指差す。
どうやら、"これに乗れ"という事らしい。

シンは急いでタラップに上がると、そのグフイグナイテッドに乗り込んだ。
そしてハッチを閉じると、起動ボタンを押す。

『シン・アスカ!』
途端に聞こえて来た声に、シンはちらりと視線を通信機に向けた。
そこに映っていたのはイザークだ。
しかしシンはすぐにイザークから視線を外し、メインモニターに機体のマニュアルを呼び出す。

『敵はすでにMSを展開している。今現在確認されただけでも、数はこちらの倍だ』
「なんでそんなに接近されるまで、気が付かなかったんだよ!?」
『ニュートロンジャマーの影響で、センサーが捉えるまで時間がかかった!それに、貨物船に偽装していた!』
苛立ったイザークの声を聴きながら、シンはモニターに現れた文字を読む。
大量生産機だけあって、操作自体はさほど難しくは無さそうだ。
しかし遠距離攻撃が全くないのは、少しつらいかもしれない。
なにせ、エネルギービームライフルさえ無いのだ。
0460久遠281
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2014/08/22(金) 20:00:59.52ID:???
集落を襲ったグフイグナイテッドが持っていたことを考えると、使えない事も無いのだろうが、基本装備には無いものらしい。

『こちらのMS隊のほとんどが、実戦らしい実戦を経験するのは初めての奴等ばかりだ。向こうも似たようなものだろうが、数からしてこちらの不利だ。……貴様には、期待させてもらうぞ』
「りょーかい」

――"期待している"ではなく、"期待せざるを得ない"って状況だろ。

そう思い、シンが肩をすくめながら答えると、イザークは眉を潜めて舌打ちをした。
直後に、乱暴に通信が切れる。
その途端、機体がカタパルトに向かって動き出したようだった。
シンはその間にもOSのチェックをする。
設定が宇宙空間での戦闘に最適化されている事や、他にいくつかの項目を確かめ頃には、機体はカタパルトにセットされていた。

『グフイグナイテッド、シン・アスカ機、発進どうぞ!』
スピーカーからオペレーターの声が聞こえてくる。
シンはコントロール・スティックを握ると、正面モニターを睨む。
正面モニターには、カタパルトの先に広がる漆黒の宇宙が映し出されていた。

「……シン・アスカ、グフイグナイテッド、行きます!」
気合を入れた声を合図に、グフイグナイテッドの機体が宇宙空間に投げ出される。
(……宇宙戦の感覚、忘れてなければいいけど)
こればかりは、実際にやってみなければ分からない。
シンは腹をくくって、ペダルを踏み込み機体を加速させる。

宇宙空間を飛びながら、シンは敵機の姿をレーダーで探した。
探している姿は、意外とすぐに見つかった。
味方機を示すマーカーのすぐ近くに、その味方機を示すマーカーよりもはるかに多くの敵機を示すマーカーが付いている。
それを見た瞬間、シンは思わず舌打ちをする。
取り敢えず、シンは敵機が居る方向に向かって、グフイグナイテッドを飛ばした。
そして戦場を見た途端、シンは思わず眉を寄せた。
そこでは敵機と味方機が入り乱れ、混戦状態になっていたのだ。
しかも敵も味方も同じ型とカラーリングの機体ばかりで、目視で敵味方を判断する事が難しい。
これはどちらもザフトの機体であるため、仕方が無いと言えば仕方がない事ではあるのだが。

『貴様ら、固まり過ぎだ!もっと散れ!』
通信機からイザークの怒声が響く。
しかし味方機は敵の猛攻に気を取られてか、なかなか散る事が出来ない。

『こりゃ、思ってたよりも、やばいかもな』
内容に比べて軽い言い方の声が響くと同時に、横からビームが発射された。
そのビームは的確に、敵機を貫き火達磨に変える。
シンがビームの飛んできた方を見ると、高エネルギー長距離ビーム砲を持ったグフイグナイテッドがそこにはいた。
どうやら、グフイグナイテッドを長距離用にカスタマイズした機体のようだ。
0461久遠281
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2014/08/22(金) 20:04:34.26ID:???
乗っているのは、ディアッカだろう。

『シミュレーターではいい成績の奴等なんだけど、実力の均衡した相手と実際に戦うのは初めての奴等ばかりだからなぁ』
ディアッカがそういう間にも、一機一機に細かな指示を出すイザークの声が、通信機から聞こえてくる。
しかし、いくらいい指示を上が出したとしても、それを戦場にいる者がこなせなければ意味はない。
数に差がある事もあり、戦前にいるパイロット達はパニック寸前だ。
そんな奴等に指示を出しても、ろくに反応は出来ないだろう。

と、不意に、コックビット内に警告音が鳴り響いた。
驚いたシンが視線を周りに向けると、大きな岩がこちらに向かって飛んできていた。

宇宙空間では重力が無いため、一度スピードが付くと自然に減速したり、止まったりする事はない。
しかも大気が無い事と対比物が無い事で、目標との距離を目視で図る事は難しい。
遠いと思っていたものがすぐ近くにあったり、逆に近いと思っていたものが遠くにあるなんて事は珍しくない。
その為、地上で戦っている時よりもセンサーを意識しなければならないのだが、そのセンサーに先ほどまでこちらに向かってくる岩は記されていなかったはずだ。
シンが不審に思いながらもグフイグナイテッドを加速させると、岩はそのままシンのグフイグナイテッドの横を通り過ぎ、他の岩に衝突した。
衝突した岩はその衝撃で、今まで向かっていた方向とは別の方向に進路を変える。
それを繰り返して、気が付くとセンサーには、あちらこちらで岩が勢いよく飛び回っている事が映し出されていた。

何でこんな事になったのか、シンがそう思考を巡らした瞬間、少し離れたところを閃光が飛んで行った。
ディアッカの長距離ビーム砲のものではない。
ましてや、敵MSの撃ったものでもない。
シンが閃光の飛んできた方向に目をやると、そこには大型の宇宙船があった。
その外観は、まるで普通の貨物船のようだった。
しかしその外層がはがれた所から、高エネルギー収束火線砲等の火器と、別の装甲がのぞいている。
どうやら戦闘母艦に、貨物船に見えるように偽装された装甲を取り付けたもののようだ。

その戦闘母艦が、こちらに向かって砲を立て続けに撃ち込んできた。 
戦闘母艦が放った攻撃が、周りに浮かぶ岩に当たる。
比較的小さい岩は、その攻撃でさらに細かく砕かれ、大きい岩はそのまま衝撃で動き出す。
どうやら突然岩が激しく動き出したのは、この戦闘母艦の攻撃が原因らしい。

その戦闘母艦は、高速でブリュンヒルデに向かっていた。
シンは戦闘母艦の行動に驚いて、その姿を唖然としながら見つめた。
通常、母艦を戦場真っ只中に突っ込ませるなんて事、行わない。
確かに大型の戦闘母艦なら、MSに比べて高い攻撃力を持つ兵器を搭載している事も多いが、それを差し引いてもデメリットの方が大きいからだ。

MSが損傷しても、母艦が無事ならばその母艦に帰還し、パイロットが生還できる可能性がある。
しかし母艦が落とされれば、いくらMSが無事でもパイロットの生存確率は一気に減る。
MSなんて放って置けば酸素もバッテリーも無くなり、ただの金と手間のかかった棺桶にしかならない。
宇宙空間であれば、なおさらだ。
だからこそ、絶対に母艦は落ちてはならないのだ。
0462久遠281
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2014/08/22(金) 20:07:02.33ID:???
そして、落ちてはいけないからこそ、戦場では被弾の少ない後方に位置していなくてはならない。

だが、今目の前にいる戦闘母艦は、そんな常識をまるで無視した行動を取っている。
激しく動き回る岩の中、敵戦闘母艦は真っ直ぐにブリュンヒルデに向かって進んでいる。
まだ、搭載しているMSが足りず、手数が足りないと言うなら分かるが、MSの数は向こうの方がずっと多い。
それなのに、戦艦対戦艦に臨もうとする理由が分からない。
もっともその敵MS達も、飛び回る岩を避けなければならなくなった為、先ほどよりも勢いがなくなっているようだったが。

まあ、相手にどんな意図があるにせよ、敵戦闘母艦をブリュンヒルデに近づけていい理由にはならない。
MSと戦艦なら、小回りが利く分MSの方が有利だろう。

「ディアッカ、フォロー頼む!」
シンはそう言うと、ディアッカが何か答える前に、ペダルを踏み込んでグフイグナイテッドを加速させた。
ここからの位置だと、最短距離は敵MSの群れを突っ切るような形になるが、シンは迷わずそのルートを選んだ。
グフイグナイテッドの盾からテンペストを引き抜くと、MSの群れに向かって機体を加速させる。
そしてレーダーを確認して、一番近くにいた敵のグフイグナイテッドに狙いをつけた。
そのグフイグナイテッドのパイロットは、飛んで来る岩に気を取られていたのだろう。
ほとんど反応出来ないまま、シンのテンペストによって上半身と下半身に分断された。

シンはそのままの勢いで、すぐ近くにいた敵MSに向かってドラウプニル4連装ビームガンを打ち込んだ。
しかしそのMSのパイロットは、前に集落を襲ったグフイグナイテッドのパイロットよりも、数段腕が良かったらしい。
盾を使って、こちらの攻撃を防ぐ。

それを見たシンは、直ぐさまテンペストをしまうとスレイヤーウイップに切り替え、敵MSに向かって振り下ろす。
スレイヤーウイップは敵MSの盾に当たり、その衝撃に相手はバランスを崩した。
その隙に、もう一度スレイヤーウイップを振り上げる。
スレイヤーウイップは敵MSの胴体に当たり、鞭から発生した高周波の所為か、その動きが一瞬止まった。
シンは確実に止めを刺すため、ペダルを踏み込むと同時に、もう一度テンペストを引き抜いた。
そして一気に近づくと、テンペストで敵MSを真っ二つにする。

しかしその間に、他の敵MSに接近を許してしまった。
背後を敵MSに取られた事を知らせるアラームに、シンは舌打ちをする。

敵グフイグナイテッドが、背後でテンペストを振り上げる。
と、次の瞬間、突然その敵グフイグナイテッドが閃光を受けて爆発四散した。
驚いたシンをよそに、他の敵MSも閃光に貫かれて爆発四散する。
その正確な射撃が、ディアッカの援護である事に、シンは直ぐに気が付いた。
どうやら、自分の頼みを律儀に聞き入れてくれたらしい。

礼を言おうと思ったが、飛び回る岩の所為か通信が安定してつながらないようなので、礼を言うのは帰ってからにすることにした。
そう決めると、シンは再びペダルを踏み込む。

『シン・アスカ!なるべく殺すな!奴等とて、プラントの民だ!!』
不意に聞こえて来たノイズ交じりのイザークの声に、シンは思わず眉を寄せた。
0463久遠281
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2014/08/22(金) 20:09:40.45ID:???
「そんな余裕は無い!」
シンはそう答えるながら、こちらに向かって飛んできた閃光をかわす。
通信機の向こうで、イザークが舌打ちをしたのが聞こえた。

プラントを救いたいイザークとしては、あまりザフトそのものが弱体化する事は好ましくないのだろう。
しかし"絶対に"と命令するには、向こうとこちらに戦力差があり過ぎる。
無理に殺さずを貫けば、無用な犠牲が出かねない。
そのジレンマが、先ほど舌打ちという形で出たのだろう。
それが分かっているからこそ、シンは特に気にする事無く戦闘に集中する。

ディアッカの援護を受けて、敵MSの群れを強引に突破すると、今度は敵戦闘母艦からの攻撃が激しくなる。
しかし、戦艦に固定された砲では、死角が大き過ぎる。
シンはその死角を突いて、一気に戦闘母艦に近づいた。
狙うはブリッジ。
そこならば動力部からも遠く、攻撃しても誘爆はしないだろう。

シンはそう思い、テンペストを振りかぶる。
センサーが後ろから敵MSが追ってきている事を知らせていたが、シンはそれを無視した。
そして、雄叫びと共にテンペストをブリッジがあると思わしき部分に振り下ろす。

テンペストが戦闘母艦の装甲を切り裂き、破片が宇宙空間に散る。
火器の制御もブリッジで行われていたのだろう。
シンがブリッジを破壊した途端、戦闘母艦から絶えず発射されていたビームとCIWSが止まった。
それを確認すると、シンは機体を動かして戦闘母艦から離れる。

破壊されたのはブリッジだけだ。
他の部分は生きているのだから、緊急処置をすればしばらくの間、中の生き残った人達も生きることが出来るだろう。
生命維持機関がどのくらい生きているかは分からないが、いつまでも帰還しなければ、その内ザフトから捜索隊が出るはずだ。
最悪、救命ポットもあるのだ。
ブリッジにいた者以外は、生き残る道がまだいくつも残されている。
動力部を破壊され、デブリと変わらぬ状態で宇宙をさ迷うより、いくらかはマシだろう。

もっとも、シンは彼らが絶対に助かる状態にしようと思ったわけではない。
これで助からなかったとしても責任は取れないし、取る気も無い。
そもそも少し違えば、自分が彼らに殺されていたかもしれないのだ。
そんな相手を心配するほど優しくも無ければ、馬鹿でも無い。

敵MS部隊は、指揮をしていた者が居なくなって、混乱したようだった。
ついさっきまでこちらに向かっていた敵MSも、呆然と宇宙空間に佇んでいる。
『この間に離脱する!全MSは、すぐさま帰還しろ!!』
イザークの声を聴き、シンはブリュンヒルデに向かって機体を飛ばした。
一度だけ振り返って見たが、どうやらそれ以上の追撃は無いようだった。
0464久遠281
垢版 |
2014/08/22(金) 20:12:14.05ID:???
第十六話です。

今回、『こっちの方が読みやすいかな?』と思って、何も書かれていない行を多くしてみました。
……どうでしょうか?
0466通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/08/22(金) 23:37:04.53ID:???
乙です。改行あると、読みやすいので私はこれでおkです〜

新しいMSはグフか・・・そういや、グフも結構乗ってるなこのスレだと
0467通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/08/22(金) 23:56:46.61ID:???
ザクとは違うんだよザクとは!!
乙です。改行多めだと読みやすいと思いますよ。
0473通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2014/09/21(日) 07:19:53.29ID:1EoDd3h1
 ___ _
  ヽo,´-'─ 、 ♪
   r, "~~~~"ヽ
   i. ,'ノレノレ!レ〉    ☆ 日本のカクブソウは絶対に必須です ☆
 __ '!从.゚ ヮ゚ノル   総務省の『憲法改正国民投票法』のURLです。
 ゝン〈(つY_i(つ http://www.soumu.go.jp/senkyo/kokumin_touhyou/index.html
  `,.く,§_,_,ゝ,
   ~i_ンイノ
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