X



新人職人がSSを書いてみる 34ページ目 [無断転載禁止]©2ch.net

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/07/11(火) 22:59:05.15ID:2NKWfveH0
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
テンプレ無視や偽スレ立て、自演による自賛行為、職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、
外部作のコピペ、無関係なレスなど、更なる迷惑行為が続いております。

よって職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 33ページ目
http://echo.2ch.net/test/read.cgi/shar/1459687172/

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/ 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:669e095291445c5e5f700f06dfd84fd2)
0135ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/10/07(土) 21:11:05.44ID:1DSJ8VNR0
戦艦:金剛(こんごう)・比叡(ひえい)・榛名(はるな)・霧島(きりしま)
   扶桑(ふそう)・山城(やましろ)

空母:翔鶴(しょうかく)・瑞鶴(ずいかく)
   祥鳳(しょうほう)・瑞鳳(ずいほう)
   龍驤(りゅうじょう)

重巡:摩耶(まや)・鳥海(ちょうかい)
   鈴谷(すずや)・熊野(くまの)

軽巡:球磨(くま)・多摩(たま)・木曾(きそ)
   阿賀野(あがの)・能代(のしろ)・矢矧(やはぎ)・酒匂(さかわ)

駆逐:暁(あかつき)・響(ひびき)・雷(いかづち)・電(いなづま)
   白露(しらつゆ)・時雨(しぐれ)・村雨(むらさめ)・夕立(ゆうだち)・春雨(はるさめ)・五月雨(さみだれ)・海風(うみかぜ)・山風(やまかぜ)・江風(かわかぜ)・涼風(すずかぜ)

潜水:伊13(ひとみ)・伊14(いよ)


「これって、名簿?」
「あれば便利かなって。手書きで悪いけど・・・・・・余計なお世話だったかな」

数分かけて出来上がったものは、この佐世保鎮守府に所属する艦娘の一覧表だ。出向してきてる明石や呉・鹿屋の者は除いているが、最低限これだけ覚えれば暫くは問題ないだろう。
これから寝食を、戦場を共にするのだ。ちょっとずつと思ったがやはり、名前だけは早く覚えてほしいという想いはあった。
名はその存在を示すもので、とても大切なものだから。互いに名を呼び合えるから、今ここに生きていることを実感できる。
だから彼にだってちゃんと名前を呼んでほしいと思うのも自然なことで。

「ううん、とても助かるよ。ありがとう」

その為ならこれぐらい安いものだし、喜んでくれるのなら自分も嬉しいと思った。

「なら良かった。・・・・・・私達の名前は大抵、川とか山とかが由来で、それを意識すれば覚えやすいと思う。食事会も多分同型艦で固まって座ると思うし、それと照らし合わせるといいよ」
「・・・・・・響達は一文字で分かりやすくていいね。潜水艦の娘もこれでヒトミとイヨって言ってたけど、格好共々すごい異彩を放ってるなぁ」
「そこはそういうもんだって割り切るしかない。潜水艦を集中運用してる鹿屋とか、凄いよ」
「凄いんだ・・・・・・」
0136ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/10/07(土) 21:13:06.80ID:1DSJ8VNR0
響は資料室の一角を指さして続ける。

「ここには私達が使ってた教科書とかもあるから・・・・・・気が向いたらここから持っていけばいいよ。基本的に閲覧と持ち出しは自由で、日本語学は瑞鳳が教え上手。教えてもらうといい」
「瑞鳳さんが? 迷惑にならないかな」
「榛名ほどじゃないけど世話好きだし平気だと思う」
「なにからなにまで、ホント、ありがとう」
「大したことじゃない。普通だよ。・・・・・・じゃあ、行こうか」

さぁ。
目的地はもう目と鼻の先で、今尚も改装工事まっただ中の医務室を通り過ぎたら食堂の正面扉が見えてくる。ちょっと寄り道したせいで、時間に余裕がなくなってきた。些か急がなければならないだろう。
紙切れ一枚の簡易的な名簿を渡して踵を返し、少し軽くなった足取りで資料室から出る。
その時だった。


「――あわわぁ!? 装備したまま来ちゃったっぽい〜!?」


廊下に出た二人の隣を、黒き疾風が駆け抜けた。
蛍光灯に照らされた金髪と、黒い制服を靡かせ疾る少女。その背には巨大な鋼鉄の兵装。
見間違いようがなく、その後ろ姿はうっかり者のものだった。

「わっ、夕立師匠!?」
「あー響久しぶりー! キラさんこんばんはー!! また後でっぽいー!!! あと師匠はや〜め〜て〜!!!!」

わたわたぱたぱたと可愛らしく、けどそれでも並みの人間よりも速く。
すれ違いざまの挨拶だけを残して、かつて見た勇猛なソレとは真逆な後ろ姿のまま、真っ白なマフラーを靡かせた夕立が曲がり角に消えた。
――と思ったら、ひょっこり角から顔だけを出して、

「ひーびーきー! 模擬戦、明後日やっていいってー! 準備お願いねー!!」
「わ、わかったー!!」

それだけ言って、今度こそ走り去る。まるで文字通り夕立のような勢いに、二人はポカンと見送ることしかできなかった。
しばらくして顔を見合わせてみれば、なんだかおかしくなって。あんなうっかりはなかなか見れるものじゃない。

「師匠・・・・・・艤装をつけたままここまで来ちゃったのかな」
「それはまた・・・・・・それにしても、師匠? 模擬戦って?」
0138ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/10/07(土) 21:14:49.03ID:1DSJ8VNR0
するとキラが興味深げな様子で訊いてきた。
まぁ、その質問は当然だよねと、響は帽子の鍔をつまんで頷く。隠すようなことじゃないし、黙っていてもいずれは分かることだ。

「そのままの意味で、彼女が私に戦い方を教えてくれたんだよ。半年に一回、師弟対決だって模擬戦するんだ。・・・・・・まだ勝てたことないけどね」
「それって・・・・・・凄く強いんだ。一回も?」
「そう、一回も。でも今度こそ勝つ」

独特の語尾が特徴的で、平時は結構なドジッ娘なのだが、あれで佐世保の駆逐艦では最強の使い手で、【ソロモンの悪夢】や【狂犬】といった二つ名を持つ白露型駆逐艦の四番艦。それが夕立という艦娘だ。
手にした魚雷を直接相手に叩き込む高速格闘戦を得意とし、舞鶴の川内と江風とで培った戦闘技術は、戦艦すらも容易く撃沈する程の破壊力を発揮する。勿論、接近できればという但し書きはつくが。
しかしそれを問題にしないセンスがあるからこそ最強なのである。持久力がないのが玉に瑕だが、響の遙か上をいく火力と機動力は佐世保第一艦隊の切り込み隊長としてその名を轟かしている。
いずれ、響が超えなくちゃいけない相手だ。

「超えるべき壁、か。なんかいいなぁ、そういうの」
「そうかな?」
「そうだよ」

降って湧いてきた師匠との模擬戦。
これは新しい艤装を試すにはうってつけかもしれない。ちょっと反則臭いが、それくらい許してくれるだろう。いろいろと新しく戦略を練る必要があるなと、少女は拳を固めた。
けどまぁ、今は。

「急ごう。このままじゃ本当に遅れるかもだ」
「置いてっていいのかな」
「自己責任だね」
「わぁ、厳しい」

夕立のことはひとまず置いといて、いざ食事会へ。
キラの手をとって、響は食堂へと走ることにした。
美味しいものと新たな道標が、そこで待っている。
0139ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/10/07(土) 21:17:35.01ID:1DSJ8VNR0
以上です。
暫く戦闘がない回が続いていきます。

>>115
自分も楽しみにしてます
0140通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/10/08(日) 22:47:58.37ID:WPot6gFx0
投下乙です。
申し訳ないがちと辛口評価を。




ちょっと文章量のわりに話が進んでなさすぎな気が・・・
メンテして模擬戦の約束して食堂行くのにここまで詰め込むと正直お腹が膨れます。
もっとも今回の話に重要なワードや伏線があるならその限りではないので
今後の展開に注目ですね。
0141ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/10/08(日) 23:20:44.03ID:4F6X68Gh0
>>140
いえ、辛口評価こそが一番ありがたいです。

確かにちょっと贅肉が多いかも? と思っていたところで・・・・・・言われてみると、世界観を拡げようとして重要でない情報をつらつらと語りすぎてしまっている状態ですねこれは。
ダイエットする気持ちを忘れてました。ありがとうございます。
0142ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:11:41.71ID:zDocJJyd0
贅肉はなるだけ刮ぎ落とした! つもり! の精神で投下します。
どうでもいいですが風邪引いてました。皆さんはお気をつけて
0143ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:13:01.80ID:zDocJJyd0
――艦これSEED 響応の星海――


以前は医務室と同様、木組みの壁に天井と古めかしく和風な造りだった食堂は、その面影を一片たりとも感じさせないほどまでにリニューアルされていた。
抑えめで温かみのある照明に照らされた、レンガ造りで広々ゆったりとした空間には重厚感のある木製のテーブルが並び、そこかしこに観葉植物までも飾ってある。まるでテレビで見るお洒落なカフェテリアのようで、
ずっと厨房に籠もっていた瑞鳳はしばし、時を忘れてその金糸雀色の瞳を輝かせた。
前までの町の食堂然とした雰囲気も好きだったけど、これも素敵だなぁと思う。料理作りが趣味で、たまに食堂のおばちゃん達のお手伝いもする少女は、急にオムレツを作りたい欲求に襲われた。
しかしまぁ、それはまたの機会に。今は我慢の時。
時計を見れば、食事会の開始まであと5分を切っていた。

「・・・・・・っと、あれ。響たちは?」

参加者の殆どは既に食堂に集い、自由気ままに動き回りながらそこら中で雑談に花を咲かせていた。
今回は珍しく立食のビュッフェ形式のようで、艦娘達は中央に並べられていく出来たてアツアツの料理に釘付けになっていながらも、あえて遠ざかって意識しないようにしている様が見て取れる。
その一部を作った自分が言うのもなんだが、まるでお預けくらった子犬のようで少し微笑ましい。
でも、ざっと見たところ明石と夕立、響とキラの姿がなかった。
元々少し遅れる予定の明石は兎も角、あの三人はどうしたんだろう。瑞鳳は少し、会場内を歩いて探してみることにした。この時間にいないとなると遅刻してしまわないか心配になる。
別に遅刻のペナルティーはないとはいえ、一度気になると頭から離れなくなるもので。

「ちーっす瑞鳳(づほ)。誰かお探し?」
「鈴谷。や、探してるってほどじゃないけど、響と夕立とキラさんいないのかなーって」
「それなら来る途中で見たよ」

そうしてキョロキョロしていたのが目に余ったのだろう、いつものブレザーを羽織った翡翠色の髪の少女、鈴谷がいつもの軽いノリで声を掛けてきた。

「そうなの?」
「んーとね、なんか響とキラってば揃って資料室に入ってった。んでもって夕立ったら可笑しくてさぁ、入口手前まで艤装つけたまんま来てて、教えてやったら慌てて格納庫まで一直線。
・・・・・・鈴谷も今来たとこだから、もーちょいしたらじゃん?」
「わぁ、流石のうっかりっぷり。そういうことなら心配いらないのね、ありがと」
「いーってお礼なんて。・・・・・・にしても、言ってて思ったんだけど、なぜに資料室?」
「さぁ? でもあそこ時計なかった筈よね。大丈夫かなぁ」

噂では共に第二艦隊に配属されるらしい、フットワークが軽くてコミュニケーション能力も抜群な最上型航空巡洋艦三番艦。偶然ではあったが彼女の活躍により、あっけなく瑞鳳の心配の種は解消された。
しかし、同時に生まれた新たな疑問に、二人は頭を傾げることとなったのだった。
0145ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:13:57.06ID:zDocJJyd0
なんで今になってそんなところに? うーん、様子見てこようかな? なにをしているのか知らないけど、響ってわりと時間忘れっぽいし、キラさんもけっこーなのんびり屋さんみたいな感じだし。

「相変わらずの心配性だねぇ。大丈夫じゃん? 片方は本日の主役なんだしさ」
「あ、それもそっか」

この食事会はキラの歓迎会も兼ねている。なら流石に本人が遅れることはないだろうというのが、彼女の主張だった。言われてみればそうだ。それに瑞鳳も同調して、今度こそ胸をなで下ろそうとした。
すると、そんな心配性な少女をからかうようにして、

「ッハ、いや、待てよ。こう考えてみるのはどーだろう」
「?」

鈴谷はおどけた様子でニヤリと笑いながら言った。

「うら若き男女が人目のない資料室に・・・・・・それってもしかすると、もしかしたらなんて可能性もなきにしもあらずじゃん? 聞くところによると何故だか仲がいいらしいあの二人、何も起きないはずがなく・・・・・・ってね」
「・・・・・・」

思わず溜息が出た。
まったく、この冗談好きの恋愛偏重主義者ときたら、言うに事欠いて。
分かってて言ってるんだろうけど、そんなことばっかり言ってるから熊野に怒られるんだよ? いつも熊野の愚痴に付き合わされる私の身にもなってほしいと、少女は切に思った。
そして同時に。
いつもなら普通に笑い飛ばせるような冗談に、自分でも驚くぐらいの強烈な非現実感も抱いた。スッと、心の何処かが醒めた。

(あるわけないのよ、そんなこと)

実際にナニをどうしたかという問題ではなく、あの響がそんな類いの行動をするというイメージ自体が湧かない。どころか、ありえないと強く否定する自分がいた。

「・・・・・・えーと、そんな難しい顔しないでって冗談だって。だからその、真面目に受けられると困るっつーか、ボケ殺しは勘弁してくださいマジで」
「ツッコミが欲しいなら話題には気をつかおう?」
「ごめんて。・・・・・・でもさぁ実際ありえるかもじゃん? つーかみんな気にしなさすぎだけど、いつの間にか溶け込んじゃってるけど、鎮守府に出入りする男なんて提督以外初なんだよ? 
面白いことが起こらないはずがないよ状況的にお約束的に」

ちなみに提督はというとあれでちゃんとお嫁さんがいるし、まず軍令部から「才能有り、問題無し」と判断されて――時々の査察もクリアして――いるからこそ提督として鎮守府を運営することが赦されている。
0146ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:15:03.87ID:zDocJJyd0
「それはそうかもだけどぉ。でも・・・・・・」

鈴谷の言いたいこともわかる。
そりゃ初めて会った時から、あの二人なんか妙に仲がいいなーと思ってはいた。いや、馬が合っていると言うべきか。第二艦隊として合流する前から既に顔合わせしてた為か、
戦闘中でも移動中でも二人一緒でいることが多く、時には初めてとは思えないコンビネーションを発揮したこともあった。
あの二人は何故だか仲がいい。
その片割れが詳細不明とはいえ、他の人間とは明確に異なる【自分達と一緒に戦う男性】なのだから、パートナー次第では彼女の冗談が現実になる可能性もなくはない。
客観的にみれば惚れた腫れたと茶化したくなる状況なのかもしれない。
だから、そんなわけだから。鈴谷は軽い気持ちで、いつもの趣味の宜しくない冗談を言ったのかもしれない。
でも。
響に限ってそんなことあるわけがないと、瑞鳳は強く思ってしまうのだ。仮に少しでもそういうことができる娘なら、どんなにいいだろうと。


だって、あの娘はそういった余裕なんか少しも持てなくて、未だ進めずにいるのだから。あのクールでシニカルなペルソナの下には、私達でも溶かせない氷塊を抱いているのだから。


そんな事情を知っている数少ない者の一人としては、その冗談はあまりにも趣味が悪すぎた。
てか、そもそも鈴谷はなんでもそういう方向に持っていきたがりすぎ。このスケベ艦娘め。

「ていうか本能に忠実な鈴谷じゃないんだから、みんな慎みってのを持ってるんだから。いきなりそんなの有り得ないってば」
「む、失敬な。なんだよー人をケダモノみたいに」
「えぇー? だってこの前も熊野の誕生日に――あ。響たち来た」
「・・・・・・え、ちょ、なんでソレ知ってんの!? しかも、もって言った!?」

たまにはお灸を据えるのもいいだろうと思って、とっておきの切り札を切ってみた。その直後。
慌てふためいているケダモノの背後、人だかりの向こうに特徴的なツンツン頭が見えた。「なんとか間に合ったね」「おや、今回は立食式だったか。これは読みが外れたな」「名簿あるし、なんとかなるよきっと」という
会話も聞こえてきて、無事に二人がやって来たことを知る。
よかった、これで安心できるというものだ。引き続き、バレてないと思っていたらしい元お隣さんに現実を教えてあげることにする。ところで宿舎が再建したら部屋割りはどうなるんだろう。

「ま、まさか・・・・・・全部筒抜け?」
「うん、わりと。壁薄いのにあんな大声なんだもん」
0147ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:17:22.93ID:zDocJJyd0
自室でナニをするのも勝手だけど、もうちょっと隣人を気にしてほしい。もっと言うと、いつも熊野の惚気に付き合わされる私の身にもなってほしい。

「ノーーーー!! やだ・・・・・・マジ恥ずかしいって・・・・・・! つーか熊野なに言ってくれちゃってんのー!?」

そこまで言うと、耳まで真っ赤になった鈴谷は勢いよくしゃがみこんでしまった。
あら意外と可愛い反応・・・・・・じゃなくて、ちょっとからかいすぎたかも。ただの八つ当たりでしかなかったけど、今日はここら辺で勘弁してあげよう。これで少しは懲りてくれればいいのだが。
そう思い、やれやれと肩を竦めた時だった。

「――え」

鈴谷の背後の、ごった返していた人だかりが少しだけ散っていて。


響がうっすら笑みを浮かべて、青年の手を引いている姿が見えて。
まだありえないと思っていた、まだ遠いと思っていた様が見えて。


少女の脳裏に、先の冗談が鮮明に蘇って。
ある一つの可能性を、試みを思いついた。
その為には。



《第9話:ある意味ここがスタートライン》
0148ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:19:03.77ID:zDocJJyd0
<マイク音量大丈夫? ・・・・・・よし。白露秘書殿、どうぞ>
<ありがとー霧島さん。・・・・・・コホン。えー、それでは全員揃ったみたいなので! 長ったらしい挨拶は全面カットで!! 佐世保鎮守府の一応の復活と、キラさんが正式にウチに配属されたことを祝して――かんぱーい!!!!>
「かんぱーい!!!!!!」

その後。
夕立がもの凄いスピードで駆け込んできたのを皮切りに、特設ステージで仁王立ちになった司会係の白露の元気な声が食堂内に響き渡って、ついに食事会がスタートした。
ここ数日の質素な缶詰生活が嘘のような豪華絢爛な料理はもの凄いスピードで消化されていき、それはアルコール類も同様で、大小様々な空ボトルがどんどん量産されていく様にはいっそ爽快感すら覚える。
この勢いは多分、会議開始まで衰えることはないだろう。
ちょっと明日のお腹まわりが心配だ。
いつもの着座のコース形式ならもうちょっと落ち着きがあるのだが、最近ずっと苦しかった反動もあってか、誰も彼もが浮かれていた。でも心機一転で再出発するにはこれぐらいが丁度良いのかもしれない。
ちなみに、今回立食のビュッフェ形式になったのは、呉と鹿屋から来てくれた出向防衛組との交流を深める狙いもあるからだそうな。特に、ここ数日大活躍らしい呉のイタリア重巡姉妹、その妹ところにはかなりの人が
集まって大賑わいになっていた。

「えっへへ〜、このチキンもおいひぃ〜。あー、ワイン赤と白、もう1本おねがぁ〜い」
「すっげーなオイ底なしかよ。よっしゃ、この摩耶様もつきあうぜ。おーい金剛ー、お前も来ーい!! 久しぶりにカーニバルだ!!」
「村雨の姉貴〜、ありやしたぜ! 提督秘蔵のヴィンテージ!!」
「ナイスよ江風。はいはーい、ポーラさんこれ一緒に飲みましょ!」
「Grazie、Grazieですね〜。さっそくいってみ〜ましょ〜。んぐ・・・・・・ぅあ〜。いいですね〜暑くなってきた〜、もー服がすごい邪魔ぁ!!」
「うわ、なにこの人だかり――ってポーラぁ!? うそ、ちょっとぉ! なーにやってんのー!?」
「ぅへあ!? ザラ姉様!?」

・・・・・・見なかったことにしよう。なにあの脂肪の塊。ぜんせんうらやましくなんてない。

「みんな、よく食べるね。いつもこんな?」
「違うわよぅ。今日が特別なの、いろいろと。これもあなたが協力してくれたからだけど・・・・・・そういえばちゃんとお礼言えてなかったよね。ありがとう、キラさん」
「お礼を言うのは僕のほうだよ」

そうして皆が久しぶりに明るく楽しく騒いでるなか、瑞鳳はキラと二人っきりになっていた。

「・・・・・・それで、なにかな? 僕に話って」
「うん、ちょっとね。あなたに訊いてみたいことと、お願いしたいことがあるのよ」

なっていたというよりかは、その状況を作ったというべきか。
0150ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:19:56.21ID:zDocJJyd0
青年に対する質問攻めタイムがようやく落ち着いた頃を見計らって、響にちょっと借りるねと断ってから共に食堂の端っこに移動した。単刀直入に、一対一で。話したいことがあったからこその行動だった。
遅まきながらロゼのスパークリングで満たされたグラスをチリンと鳴らし合って、二人は正対する。思えば男性と二人っきりになるのは提督以外じゃ初めてだ。ぜんぜんそのつもりはないけど。

(・・・・・・つもりはない、けど。なんでこんなどきどきするのよぅ)
「?」

昨夜に艤装を整備してもらった時と変わらず、穏やかに微笑む青年。
まだ殆どの人にとっては、まだそうたいして親しくない男性。未だ詳細不明の異世界人。いきなり女性だらけの鎮守府に所属することになって、でもいつもノンビリのほほんとしていて、
いままでトラブルを起こすこともなく至って普通の好青年で通している男。
・・・・・・ふむ、改めて見てみると顔立ちはなかなか。どこか中性的で正直男性としては好みのタイプじゃないけど、その若さにそぐわない静謐な雰囲気は人を安心させる力があるように感じて、これはこれで。
元の世界じゃ結構偉い立場だったと聞くし、強いし、間違いなく優良物件ではある。
――って、なんで私が品定めみたいなことしてるの。もう、調子狂うなぁ。鈴谷が変なこと言うから変に意識しちゃうじゃない。
じっとり汗ばんできた掌を、ひっそり袴で拭う。
これはそう、緊張しているだけだ。ただ単に、自分に男性の免疫がないからこその緊張だと、これからの質問が自分にとって大事なものになるという気負いもあるからだと、少女は頭を振った。

「暁〜、響〜、コレ食べて食べて! わたしと電で作ったの。ど〜お?」
「肉じゃが! 二人で作ったの? やるじゃない!」
「うん、いいな。美味しいよ二人とも。・・・・・・木曾と鈴谷もどう? きっと気に入る」
「! ――ほう、響のお墨付きか。なら頂こう・・・・・・、・・・・・・なんだこれは、こんなに美味くていいのか!? 美味すぎる!!」
「・・・・・・え、このオーバーリアクションの後に食べるのってめっちゃハードル高いんですケド」
「鈴谷さんファイト、なのです」

遠くの方で、暁型の四人と木曾、そして鈴谷が肉じゃが一つで楽しくはしゃいでる声が、やけにハッキリ聞こえてきた。
そしてそれを最後に、周囲から音が遠ざかった。まるで世界には自分達しかいないと錯覚するような、そんな静寂の世界を意識して形作る。これからの一語一句をけっして聞き漏らさないよう、少女は集中する。
そう。ここからはシリアスに。
シリアスが私を呼んでいる。
そんな少女の気合いに気付いたのか、青年も真面目な顔になった。今だ、訊くにはこのタイミングしかない。これにどう応えるかによって、少女のこれからの行動指針が決定される――これはそういう質問だ。
空回りしそうな舌を必死に制御して、まっさきに本題を。

「――ええっと、ね? ぶっちゃけさ、あなた自身は、響のことどう思ってるのかなって」
0151ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:22:06.66ID:zDocJJyd0
・・・・・・にしては質問内容が些か緊張感に欠けるというか、恋愛モノの三流TVドラマみたいに青臭くて、しかも漠然とし過ぎていると瑞鳳は言ってから気づいた。
気付いて、頭を抱えた。
キラも苦笑して、場に和やかな空気が流れる。しまった、ぜんぜんシリアスっぽくない。それどころかこんなんじゃ意図の半分も伝えられてないではないか。そりゃ究極的には「どう思ってるか」が核心ではあるけども。

「これはまた漠然とした・・・・・・」
「うぅ、ごめんなさい今のナシで」
「とりあえず、可愛くて良い子だと思ってるよ。でも瑞鳳さんは訊きたいのって、そうじゃないでしょ? ・・・・・・そうだね、でもなんとなくだけど何が訊きたいのか、わかるような気がする」
「え、ホントに?」

わかってくれたのだろうか。
キラはしばし考え込むように、言葉を探すように俯いた。
心当たりがある、というのだろう。そういえばこの人は元の世界じゃ結構偉い立場だったという。何か似たような問題を知っているのかもしれない。世界広しといえど、
人間が抱えるような問題なんてのは限定されていると言ったのは、どこの誰だったろうか。
少しだけ沈黙が続く。
ちびちびとグラスを傾けて、口を開きかけては閉じての繰り返し。その顔は先までと打って変わって、それこそ戦闘中でもあるかのように真剣で。でもどこか迷っているような素振りで。
その横顔を見て、瑞鳳はゴクリと喉を鳴らした。
そうして彼のグラスが空になった頃。
しばしの黙考を経てキラは「多分だけどね」と前置いて言った。哀しそうに瞳を伏せ、言った。
それは、先の問いの核心に触れるものだった。


「響が。彼女が僕と一緒にいてくれる理由は、罪悪感が一番大きいんだろうなって。僕はそう思ってる」


――ああ。この人はちゃんと、思っていたよりもずっと、あの娘のことをよく見てくれているようだ。
瑞鳳はその言葉だけで、この人は信じてもいいと確信した。

「だから僕は・・・・・・受け入れて――支えてあげたいとも思ってるよ。あの娘はね、恩人だから。それが報いになるかはわからないけど・・・・・・こんな答えでいいかな?」
「・・・・・・うん、充分。ありがとうキラさん。気付いてくれてたんだ」
「流石にそこまで鈍くできてはいないよ。・・・・・・でも、そっか。勘違いじゃなかったんだね・・・・・・」

百点満点とまではいかないけど、期待以上。
認識を共有できていること以上に嬉しいことはない。勇気出して訊いてみてよかった、これならきっと上手くやっていける。この人なら、あるいは。
自分と同じように彼女を支えてあげたいと思ってくれている青年は、肩を落として言葉を紡ぐ。勘違いであって欲しかった、己の感覚をなぞるようにゆっくりと。ため込んでいた想いを吐き出すように。
0152ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:24:03.49ID:zDocJJyd0
「すごく優しくて、律儀で、けど脆くて。なんでも自分のせいだって思ってるような――なんとなく、そういう印象を受けるんだ。
罪悪感とか罪滅ぼしとかがずっと向けられてて・・・・・・無意識なんだろうけど、今日だってそんな感じでさ。それに響には突撃癖があるって前に木曾さんから聞いて、僕も実際に見た。だから」
「見てられない?」
「そう、見ちゃいられない。みんなの怪我もストライクのことも、多分本人が思ってる以上に気にしてるのがわかっちゃって、見てて辛い。彼女の在り方は危うすぎる。
気付いちゃったらほっとけないよ、あんなんじゃいつか・・・・・・」
「あれでも、すごくマシになってきるんだけどね・・・・・・」

応じて瑞鳳も改めて、響がどういう性格であったかを思い起こす。
そうだ。
近年はなりを潜めているけれど、響はそういう女の子だった。
自分を必要以上に追い詰めるタイプ。自信が持てなくて、なんでもネガティブに捉えてしまうタイプ。あのクールでシニカルなペルソナの下にある氷塊の正体はソレだ。
殆どの者が知らない彼女の闇は、彼女自身が思っているよりもずっと深い。
その片鱗は時々、トラウマというカタチで現れる。
仲間が危険となれば暴走して接近戦に傾倒してしまうアレ。生きたいのか死にたいのかも判らない特攻癖。船の【響】の経歴から考えれば何故そうなったかは大体察することができるけど、
他人が思うよりずっと悪化して凝り固まってしまったが故の、悪癖。
殆どの者は彼女の闇に気付かない。元々そういうものだと思っているから。弱さを晒すことが嫌いな響がそうなるように努力しているから。知っているのは、最初期から彼女のことを知っている者か、ずっと一緒にいる者だけ。
そして気付いたとしても、最奥まで踏み込めなくて、気遣いながら時間の解決を待つだけで。そんな日々があった。

「・・・・・・昔はもっと酷かったの。表面上は今とそんな変わらないけど、ずっと何かに怯えてて、ずっと一人で、なにをするにしてもすぐ謝って主張しなくて・・・・・・想像できないでしょ? 
今は気持ちに制限をかけてるようなものよ」
「気持ちを、制限・・・・・・。今の彼女になったのは、やっぱり・・・・・・」
「夕立のおかげでもあるし、言い方は悪いけど、せいでもあるかな。でもちょっと自信がついてからだいぶまともになれたのは事実だから、やっぱりおかげ。相変わらず、姉妹以外にはそう関わろうとはしないけど」

自分達が、あの娘の姉妹でさえも溶かせなかった氷塊。夕立を師事することで少しだけ柔らかくなった少女。人付き合いに臆病でナイーブな、強さだけを求めて余裕が持てないあの娘。
響は、トラウマを克服する為には強くなることが必要だと思っている。なまじ成果があったから、思い込んでる。
しかし瑞鳳には、それは彼女が強さを追い求め続ける限りは克服できないものだと思えててならないのだ。
直感だけど、自分が正しいとは思わないけど、彼女も認識が間違っているとも思う。それじゃ正解にたどり着けない。たどり着けないから、彼女はまた自分を責める。
もどかしい。
かつての自分は力になれなかった。彼女の弱さを知っていながら、彼女の望むものを与えることができなかった。ただ折れないように、支えてあげるのが精一杯で。それはとてももどかしく、悔しいことで。
0154ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:26:45.66ID:zDocJJyd0
だから。
だから、誰か他の人が。彼女が気取らなくていい相手が気付いてくれているなら。
響が信頼しているこの青年が、そのままの彼女を受け入れてくれるというのなら。
あるいは、彼女の問題を解決できるキッカケになるのではと、瑞鳳は考えたのだ。
故に、「彼が響をどう思ってるか」が核心だった。
故に、少女のこれからの行動指針は決定された。


「そんな娘がね、あなたといるようになって、また前向きになれてるって思うの」


瑞鳳は、彼ら二人が食堂にやって来た時のことを、その時に受けた衝撃と直感を思い出しながら言った。

「あの娘、変わったわ。もちろん良い方向に・・・・・・そう、一皮剥けたみたいな。そのキッカケってやっぱりあなただと思うの。随分と懐かれてるみたいだしね」
「・・・・・・懐かれてる、のかな。そうだといいけど」
「なによぅ、あなたも自覚ないの? あの娘、私達と打ち解けるのにだってけっこーかかったのに。そのお相手が男ってのはまぁ、びっくりしちゃったけど」

ともすれば見逃してしまいそうな小さな変化だった。その雰囲気はほんの少しだけで、けど確実に以前のものとは違っていて。
まだありえないと思っていた、まだ遠いと思っていた様が、そこにあった。
自分なら断言できる。アレは本心からの笑みだった。

「それは・・・・・・」
「悔しいけど、あの娘のあんな顔、初めて見たんだもん」

資料室でなにをやっていたのかは響本人から直接訊いた。その時なにを想っていたのかも。
なんとも甲斐甲斐しいことだ。前はここまで積極的に他人の為に動くような娘じゃなく、裏のほうでコッソリ支える――戦闘の時とはまるで真逆なタイプだった。それが例え、名簿を書いてあげるなんてささやかなことでも。
そして、美味しいものを他の人に勧めるなんてことも、今までじゃ考えられなかった。
どんな時でも無感情でも無感動でもないけど無表情なあの娘は、その本心の表情を他人に晒すことなく。
五年前から、ずっと。
今になって、やっと。転機が訪れたのか、彼女は少し変わることができた。
経緯はどうあれ、他人と手を繋げるようになるぐらいには。美味しいものを他の人に勧められるぐらいには。

「そりゃね? ただあなたと手を繋いで、ちょっと笑ってただけって、たったそれだけよ。資料室でのことも些細な善意だってあなたは思ってるのかもしれない。
・・・・・・でもそれって、あの娘は姉妹達だけにしか見せなかったものだから」
「・・・・・・」
「それにキラさんの事ね、よくわかんないけど一緒といるとなんでか少し安心するって言ったの。いつもの無表情だったけど。それだけの変化が、今の響にはあったって思う。それで懐かれてないわけないじゃない」
0155ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:30:05.39ID:zDocJJyd0
昨夜、まだ響の艤装は旧型のままだと。過去に一度挑戦したものの断念して以来ずっと埃を被っている新型艤装は、まだ使う気がないらしいと明石から聞いた時には「まだ決心つかないのかな」と心配になったけど。
あの白銀色のロシア製の新型――ロールアウトから数年が経って、もう旧式になりつつあるけど――が、再び日の目を見る時も近いかもしれない。かつて自分だけに教えてくれた「記憶」と向き合う準備が、
できつつあると見える。
それは仲間として、榛名達や木曾達が佐世保に配属される前から共にいた同期として、なにより姉貴分として素直に喜ばしいことだった。

「そうか・・・・・・僕にお願いしたいことってのはつまり、そういうこと」
「これからもっともっと、変わってってほしいの。キラさんといれば、きっとあの娘だって・・・・・・」
「買い被りすぎだよ瑞鳳さん。誰かを救うなんて、僕には・・・・・・」

訊いてみたいことと、お願いしたいこと。この人にお願いしたいこと。
共に響の力になること。
なるだけ彼女の氷を溶かすこと。この難題に真っ正面から踏み込んで、挑戦すること。
それがきっと彼女にとってのスタートラインになるから。

「ね、お願い! こんなチャンスもうないと思うの。私も全力でサポートするから!」

話したいことは全部話した。
あとはお願いを聞いてくれるか否か。
瑞鳳はパン! っと両手を合わせて拝み倒すことにした。
こんなこと、よっぽどのお節介焼きじゃなければやりたがらない依頼だろう。現状維持ではなく、更に踏み込むことを要求しているのだ。下手を打てば、彼と響の関係が悪くなる可能性だってある。
一方的に身勝手に、覚悟を要求している自覚はある。
それも相手は彼女と仲がいいとはいえ異世界人。今後どういう扱いになるかも不明で、いつここからいなくなるのかもわからないイレギュラー。この申し出が彼の負担になることは火を見るよりも明らかだ。
でもどうしても、これは譲れない願いだった。彼はきっと引き受けてくれるだろうという打算があることは否定しないが、仮に彼が対価を要求するのであれば最大限応える覚悟も持ち合わせている。
それだけ瑞鳳は本気だった。

「――・・・・・・、・・・・・・わかった・・・・・・引き受けるよ。でも最初に言っとくけど、本当に自信ないよ僕は。昔からそういうの苦手なんだ」
「そうなの? ・・・・・・訊いていいかわかんないけど、もしかして手痛い経験があったり?」
「まぁ、そんなとこ。でも、支えたいって言ったのは自分だしね・・・・・・うん、やれるだけやってみるよ」
「やったぁ! よろしくお願いしますね、キラさん!」

何かを思い出していたのか、少し固く険しい顔をしていたキラだったがしかし、やるしかないなぁっといたニュアンスの溜息一つで了承してくれた。
多少の不安要素もあるが、それでも協力者を得られたのは大きい。瑞鳳は喜びのあまりにキラの手をとって、ブンブンと上下に振った。
0156ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:32:06.90ID:zDocJJyd0
『でもさぁ実際ありえるかもじゃん? つーかみんな気にしなさすぎだけど、いつの間にか溶け込んじゃってるけど、鎮守府に出入りする男なんて提督以外初なんだよ? 
面白いことが起こらないはずがないよ状況的にお約束的に』

ふいに鈴谷の冗談が脳裏を過ぎる。
面白いこと――かどうかは分からないけど、彼が現れて状況は動いた。いや、これだけじゃない。一つが動き出すと、連鎖するように、呼び合うように、響き合うように、あらゆるものは絡み合って動き出す。
ならば、できるだけ面白く明るい未来をつかみ取りたいと切に願う。
状況的にお約束的にそうなってくれるのなら、どんなことだってやってやろう。


かくしてここに、瑞鳳とキラの協力体制が築かれたのだった。


直後。

<えーそれでは、突然ですがここで! キラさんに着任の挨拶をしていただこーと思いますっ!! キラさーん、壇上へどーぞ!!」

再びスピーカーから白露の声が大きく響いた。
いきなりのことでビクッと飛び上がる二人。
シリアスモードが解除されて、俄然騒がしい食堂の空気が戻ってきた。意識して排除していた周囲の音が、あたかも洪水のようになだれ込んできて軽くクラクラしてしまう。
見れば、特設ステージの白露はくりくりとした大きな瞳で不器用なウインクをかましつつ、端っこにいるキラに向かって「はよ来い」とジェスチャーしていた。
そういえば、そんなイベントもあると前もって告げられていたと思い出す。なにせ彼が流れ着いてからこっち、ずっと忙しい日々を送っていた佐世保鎮守府。自己紹介は艤装総点検の際に個人的に済ませたものの、
キラはまだ正式には皆に挨拶をしていなかった。
共同生活に加わる新人にとって、皆の前での挨拶は避けては通れない通過儀礼、お約束のようなものだ。
それを今からやろうというのだろう。最近は新参者がいなかったから、こういうのは久しぶりだ。
いつの間にか握っていた手を慌てて離した瑞鳳は、この人は一体どんなことを言うのかなと、今どんな顔してるのかなと気になって、その顔を伺ってみることにした。
すると見えたのは、

「・・・・・・しまった。そういえば提督にちゃんと挨拶してくれって言われてたんだ。どうしよう、何も考えてない」

なんてことを宣いながら冷や汗を流す、期末試験を目前に控えていながらも知らず遊びほうけていた男の子のような表情で。
それがなんだかすごく可笑しくて、ついつい少女は吹き出してしまった。これがさっきまで真剣な顔をしていた男と同一人物だと思うと、余計に可笑しくなる。なんともギャップの激しい人だ。
0158ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:35:12.65ID:zDocJJyd0
「え、ちょっと、そんなとぼけた学生みたいな。偉い立場だったんでしょ? 聞いたわよ、新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊隊長って、自己紹介とか挨拶とか日常茶飯事みたいな肩書きじゃない」
「うわ、よく覚えてるねそれ・・・・・・。でもそういうのホント苦手で。内容とかいっつも他の人に任せてたんだよ」

とは言っても状況は待ってはくれず。
白露は腕をぐるぐる回し始めて、皆の視線は青年に集まって。内容を考える時間はなく、もう観念してさっさと壇上しか彼の選択肢はなかった。それでもキラは何か方法があるはずだと往生際悪く後ずさり、
小声で「どうしよう助けてシン!」と呟いていて。
もうこうなると本当、ただのそんじょそこらの普通の人間のようだ。
ここは早速、協力関係者となった瑞鳳の出番であろう。
幸先の良いスタートを切る為には、まず今を頑張らなければ。彼の助けにならなければ。そうでなければ協力者の名が泣くというものだ。
これが最初の一歩と、少女は動く。動揺するキラの背にスルリと回り込む。二人にとってのスタートラインを超えるべく。
そして、深呼吸して。

「どーん!」
「うわぁっ!?」

意外にも大きかったその背中を思いっきり突き飛ばしてやったのだった。特設ステージ方面に向かって、真っ直ぐに。



0159通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/11/11(土) 23:40:24.04ID:RJKBLHsH0
回避
0160ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:40:47.04ID:zDocJJyd0
その頃。
台湾近海にて。
嵐が去り、雲一つない満点の星空に覆われた、煌めく海にて。


そこには余りにも夥しい数の深海棲艦が、静かに蠢いていた。


百を超える駆逐級と軽巡級、それらを束ねる重巡級と戦艦級と空母級、そして十を超える巨人【Titan】。彼女らは、先の大規模戦闘の生き残りだ。
偶発的に壊滅的被害を被った敵の本拠地の一つ――佐世保鎮守府を潰す為に仕掛けた、損害を無視した強行一点突破作戦は失敗に終わり、どころか敵の増援によって一網打尽にされてしまった彼女らであったが、
その全てが駆逐されたわけではなく。残存戦力はこの海域にて、南洋諸島海域から集結した仲間をも取り込んで、静かに再起の時を待っていた。
敵は、人類側は強い。あの偶発的に手に入れた【力】の一端を行使しても、完全には攻めきれず、であれば半端な数と質で挑んでも返り討ちに遭うのみ。
本格的な戦闘行動を起こすにはもう暫くの時間が必要不可欠と、その一心で彼女らはただ待機しているのだ。
戦争で最も大事なものは準備であると、深海棲艦は理解していた。いつか人類を根絶やしにする為には、今は待つしかないと理解していた。

「・・・・・・」

その一端も一端。人類には十把一絡げに戦艦ル級と類別されているその個体は、群れから少し離れた場所で、とある作業を見守っていた。
準備。
そう、準備だ。
戦争で最も大事なものは準備。斥候からの報告によると、彼の地の防備は完全に復旧してしまったらしいのだから、今までと同じような準備では足りない。もっと力がいる。
もっともっと強い力が、なければならない。
その為の作業を、このル級は見守っていた。何を想うでもなく、淡々と。非武装状態で、潜水級と重巡級が頑張っている様を、怖気が走るほどに真っ黒な長髪を持つ女性型は、棒立ちで眺めていた。
ちなみに、見守ると言えば聞こえは良いが、実質的にはサボっているようなものだった。人類には知られていないことだが、深海棲艦にもうっすらとだが個体毎の性格がある。他の戦艦級や空母級は見回りに出たり、
力を蓄えたりとそれなりに役割を全うしているのだが、この個体はなにかにつけてボーッとするのが好きだった。
故に、こういう時の監督役を買って出るのがこのル級で、基本的に無感情で無感動で無表情で他人に興味を示さない深海棲艦の中でも、固有種でない癖に変わり者として認知されていたりする。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

そんな彼女の隣に音も無く、もう一体の深海棲艦が並んだ。
0161ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:44:12.82ID:zDocJJyd0
ソイツも人型だった。真っ白な肌に真っ黒な装束という上位種に共通する特徴を持っているがしかし、今まで確認されてきた深海棲艦とは明確に異なる特徴も持っている、いわばイレギュラーな存在だった。
未だ人類に姿を見せていないソイツには、まだ名はない。勿論、深海棲艦にとっては名など必要ないものだから、そんなことはどうでもいいのだが。
ル級はソイツを一瞥した後、電磁波を交わした意思疎通も何もなく、また作業を注視する作業(サボタージュ)に戻った。隣のソイツもまったく同じように、まったくの無言で作業を見る。
滅多に海上に姿を現さない引きこもりのコイツが何故隣に並んだのか、その疑問も意味も、興味はない。どうでもいい。
二人は隣に並んでいながら、その存在をいない者として扱って、ただ眺める。

「・・・・・・!」
「・・・・・・!」

その視線の先で、動きがあった。
どうやら「当たり」を引いたらしい。
密集していた重巡級達が俄に散り散りになり、それぞれが手にしているワイヤーを力一杯に牽引する。人類の艦艇を再利用して製造したそのワイヤーは、遙か海底へと潜っている潜水級と繋がっており、
その様は正しくサルベージそのものだ。
つまりは、潜水級達が海底で発見したモノを引き上げるということ。
ここ数週間ずっと繰り返してきた作業だ。一切の言葉も交わさず、皆が己の役割に没頭する。全ては、いつかの為にと。
そして約5分が経過した頃。


ソレは、ついに海上に姿を現した。
それも、同時に二つも。所謂「大当たり」というヤツだった。


ソレは、巨大な機械人形だ。
一つは全体的に直線で構成された、約18mの鋼鉄の巨人。スラッとしたホワイトの四肢に、複雑な面構成のブルーのボディ、アンテナとゴーグル付きの頭部と、
今まで発見されたものの中でも特に人間のシルエットに近いタイプ。このタイプはこれで五体目だが、通しで見てもこれほど状態が良いものは初めてだった。
もう一つは、全体的に曲線で構成された、約20mの鋼鉄の巨人。此方は初めてみるタイプだが、オフホワイトで彩られた非人型な流線型のフォルムは、まるでイカのような愛嬌がある。
これもまた状態が良く、すぐにでも戦力として使えるだろう。


釣果は上々。


あの日。
0162ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:47:13.51ID:zDocJJyd0
多数の深海棲艦を死に追いやった、あの大量の岩石と共にやって来た機械人形達。
その殆ど半壊状態であったが、それらと深海棲艦の死体を利用して製造した実験体【Titan】の性能は絶大だった。しかもパーツさえ揃えられれば、簡単に【姫】や【鬼】に匹敵する個体を量産できるのだから、
これは天からの恵みに他ならない。
この【力】があれば、人類などもう敵ではない・・・・・・その筈だった。しかし結果は自分達の惨敗だった。もう一度その性能を見直し、スタートラインを仕切り直す必要がある。
もっと効率良く、もっと強く、もっと多く。もっと、準備をしなければ。
もっと、この偶発的に手に入れた【力】を掻き集めて、研究しなければ。
だからこそのサルベージだった。海底に沈んだお宝を我が物にする為の。
いつか人類を根絶やしにする為に。

「・・・・・・」

重巡級達も潜水級達も良い働きをしてくれた。今日の作業は、これにて終了としても問題はないだろう。
そう判断したル級は、ふと隣にいた筈のイレギュラーがいつの間にかいなくなっていることに気付いた。
しかし気付いて、放置した。
アイツはそういうヤツだ。興味を持つ必要がない。どうでもいい。
さあ、明日もまた作業をしなければ。
その思考を最後に、ル級はねぐらを目指してゆらりと移送を開始した。作業していた他の深海棲艦達もそれに倣い、一人また一人と移動する。彼女達もまた休息が必要だった。

「・・・・・・、・・・・・・ギギッ」

状況は動いた。
いや、これだけじゃない。一つが動き出すと、連鎖するように、呼び合うように、響き合うように、あらゆるものは絡み合って動き出す。あらゆる事象は響応する。
深海棲艦達の戦準備は、着々と進んでいた。
0164ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/11(土) 23:54:33.94ID:zDocJJyd0
以上です。
ヒーロー1人につきヒロイン2人は自分の中では王道です。これでレギュラーメンバーは全員紹介できました。

一応ですが、以降は以下のメンバーをレギュラーとしてそれなりの描写をしていく予定です。
・響 ・瑞鳳 ・榛名 ・木曾 ・鈴谷 ・明石 ・天津風
中でも響、瑞鳳、天津風はキーマンとして主軸になっていきます。
0165通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/11/14(火) 09:00:45.31ID:G4WPIQPy0
乙でした。
美少女動物園内での会食とは羨ましいやつめw
キャラの立ち位置も固定されて、話のベクトルが決まりつつありますね。

個人的に期待したいのは深海棲艦側の描写ですね、古今東西戦争モノの良し悪しは
敵側の設定がやはり重要ですし。
絶対悪なのか、別の思想を持っているのか、キャラとしての魅力はどう出すのか
楽しみなところです、原作(艦これ)ではどうなんでしょう?
0166ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/14(火) 15:17:37.83ID:6w2pOGZF0
>>165
感想ありがとうございます。
原作ゲームにおける敵の目的についてですが、そもそも艦これってそういう設定らしい設定がまったく存在しないのです。
味方も敵も明確になってるのはキャラの名前と容姿と台詞とパラメータだけで、艦娘だって史実を下地にした申し訳程度の性格づけしかないガバガバっぷりです。ユーザー側に開示されてる設定がそれしかありません。(他のブラウザゲーも似たようなものですが)
「深海棲艦から海域を開放する」という大目標以外の、それぞれの目的も世界観も完全に不明というのがアンサーです。
逆にいうと、世界観を一から考える楽しさがあります。

自分のSS内ではこれからちょっとずつ敵側の描写もしていく予定です。ほんとうに時々になってしまいますが
0167ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/18(土) 18:06:04.49ID:mXkEJK9k0
すいません、勝手ながらちょっと聞きたいのですが、
ここの住民的には「本筋とは関係ないキャラの絡みだけの非シリアスな短編的なもの(大体5レス程度)」に需要はありますか?
(そもそも本編の需要がないというのは自分のガラスのハートが壊れるので勘弁を)

というのも、もう自分の中では最終回までのプロットはできていますが、時々脇道に逸れたお話を書きたくなる時があるのです。
今までは、そういうものは本編内に突っ込んでみたり、それとなく匂わせるだけの描写に留めたりして消化していました。

ただ短編を書こうとすると当然本編の進行は遅れますし、艦これを知らない人達の中でそれってどうなのって考えてしまいます。
でもせっかくのクロスオーバー作品ですから事件も心の問題も世界観説明も関係ない、ヤマなしオチなしイミなしの完全ほのぼのモードもいいなぁとも思っているのです。
つまり迷ってます。

厳しい意見でもリクエストでもなんでもいいので、出来ればどなたか教えてください。よろしくお願いしますm(_ _)m
0168通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/11/18(土) 23:19:36.12ID:vAGY4q+P0
この過疎スレで話を投下してくれるのに抵抗ある人なんかいるもんかい
どんどんやっとくれ。
0170通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/11/18(土) 23:59:10.15ID:vGhS5I0o0
ええんやない
リクエストありならシン視点とか見たい
0171通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/11/19(日) 03:00:25.89ID:jnC+6KRF0
てか新シャアのss系もすっかり人いなくなったな
そりゃここは新人スレだから慣れた人は別のとこに移っていくのかもしれんが、この板にはそれっぽい動きもないし
まぁ新シャア自体が過疎なんだけどな
仕方のないことだけど、なんとかならんもんかねっていう愚痴
0174通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/11/19(日) 16:43:06.19ID:5PFIrzNL0
【製品概要】
名称:マンゲマン
ジャンル:キミと君島と岩田が紡ぐ絆のアクションRPG
対象年齢:全年齢対象
価格:15,000円
発売日:2017年7月27日

 【物語】
「何だ、この不良品は!!」

 任地堂の元社長・岩田“マンゲマン”恥(ガンダ・マンゲマン・チー)は激怒した。
彼は去年、エイナスオナニー中にケツの中でデカビタCが炸裂して憤死していた。
今際の際にケツから流れ出た鮮血で、チーク材の机に君島(クントー)を後任とする旨を書き残し、絶命したのである。
しかし、そのクントーは社運をかけた新ハードをオナニーしながら開発し、
購入者たちの顔面に思いっきり濃い種をぶちまけたのである。

「俺がやるしかない。任地堂の未来は俺にかかっている!!」

 ガンダは決意した。
彼はチンポ急げとばかりに大天使・ゲイブリエルの元へ向かい、堕天を請願した。

「よいでしょう。そなたはマンゲマンとなり、今こそ悪徳家電屋ゾニーに無慈悲な鉄槌を下すのです!!」

 ガンダの身が輝きだした。
これならば、ゾニーを殺せる!!
マンゲマン、羽田に堕つ。
0175通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/11/19(日) 16:43:51.05ID:5PFIrzNL0
「ほう……、ここが悪しきゾニーに尾を振るソフトメーカー・ゼガか……」

 岩田マンゲマンは右腕を縦に大きく振り始めた。

「この新しいチカラ、試してくれよう!!カァ───ッ!!」

 山崎邦生(現・月亭方正)の様な甲高い咆哮と共に、マンゲマンの眼が見開かれた。
と、同時に。マンゲマンのケツ穴からウンコが吹き出し、マンゲマンの身体は驚くべき速度でゼガの本社に突進した!!

────……

「ムゥ!?」

 外回りをサボるため、ゼガ本社に立ち寄ろうとした水川は呆気にとられていた。
昨日まで立派に存在していた自身の古巣が、跡形もないのである。
……朦々と昇る土煙から、人影が浮かび上がってきた。

「貴様……、岩田!?確かに殺したはず……!」

 水川は産まれて初めて恐怖した、藤岡弘、いや、それ以上の何かに。

「水川、貴様は我が任地堂を愚弄してきたな?」

 額に汗しながらも、既に水川の心は落ち着いていた。

「スペック・スパイラルから逃げ、自社の殻に閉じこもったお前ら任地堂に食わせるソフトは無え!!食らえ岩田!!いや、マンゲマン!!」

 水川はスーツの胸ポケットから長方形の何かを取り出した。
グロカードだ。
0176通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/11/19(日) 16:44:24.30ID:5PFIrzNL0
「ソニック・グッロカードォ!!」

 水川の右手が振り上がった直後、カービィを足で踏み潰したかの様な炸裂音が二回続けて辺りに響いた。
その右手とカードが音速の壁を切り裂いたのである。

「ゲッ!キューブ!」

 突如、岩田マンゲマンの雄々しい肉体は宙を舞い、羽田空港第二滑走路まで吹き飛ばされた。

「ゲーム会社ってのは一人じゃ生きられねえ。あばよ、ゲームボウイ……」

 水川は三つに裂けた右腕をかばいつつ、ゼガ本社跡地に背を向けた。
岩田と同じく強烈な想い・絆を込めた水川のグロカードは、岩田マンゲマンの肉体にとってただただ有効であった。

「雨が降るか……、ゾニーに知らせねば……」
0178ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/19(日) 23:04:07.63ID:axt6ybWs0
意見ありがとうございます。ちょっと短編にも挑戦してみます

>>170
シン視点了解です
0179ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/26(日) 23:03:41.32ID:MZE1pmDj0
シン視点とはちょっと言いづらいですけど、シンSideの短編です。
宣言通り、ヤマなしオチなしイミなしの完全ほのぼのモードです。よければどうぞ
0180ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/26(日) 23:07:29.25ID:MZE1pmDj0
事実は小説よりも奇なりという、諺がある。
現実の世界で実際に起こる出来事は、空想によって書かれた小説よりもかえって不思議であるという意味だ。しかし、既に現実がファンタジーに侵食された昨今で、より鮮烈な奇があるとするならば。
それはきっと、人が創り出すものに他ならないと、そう思う。



0181ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/26(日) 23:09:20.18ID:MZE1pmDj0
「――ぅあ、しまった・・・・・・」

工廠にて、研究に没頭していた天津風は、霞む視界のなかで時計を見つけるなりそう唸った。
午前3時25分。深夜とも早朝ともつかない微妙な時間帯。直前の記憶が正しければ、約10時間ぶっ通しで作業していたことになる。急ぎでもなんでもないのに、まーたやってしまったと少女は小さく溜息をついた。
プリンツに夕食に誘われたものの、もうちょっとでキリが良いからと、そう思って結局夕食を食べ損ねてしまったとはなんたる不覚。愛用の眼鏡を外して眉間をマッサージしつつデスク脇を見れば、
そこには期待に違わず可愛らしいメモと一緒にラップされた軽食が置いてあった。
佐世保の瑞鳳にも劣らぬこの気配り、持つべきは世話好きで料理上手な友人だ。ありがとう我が友プリンツ・オイゲン、この埋め合わせは今度の休日に必ず。

「シーン! 今日はもう終いにしましょ! お風呂入らなきゃ!!」
「おう分かったー! って、こんな時間なのかよ。気付かなかったな・・・・・・」

バイエルン仕込みのボリューム満点レバーケーゼのサンドイッチが二人分。これはあとで食べさせてもらうとして、そろそろお風呂に入らねば。
デスティニーのエンジンを弄りながらうんうん唸っていたシンに声をかけつつ、天津風は私室から持ち込んだタンスから替えの服やら下着やらを引っ張り出す。
シンも作業を中断してタラップから飛び降り、隣の一回り小さいタンスを漁り始めた。
すっかり工廠が自分達の居場所になっていた。ここにシャワールームが増設されればなぁと思わずにはいられない。でもそうなると次はベッドを持ち込みたくなるだろうし、
すると自室が本当にただの物置になってしまいそうだから、思うだけに留めておく。だいたい、そうなると作業効率重視のシンも真似してここに住み込むようになるだろうから、嫌だ。分別はしっかりしたい。
着替えをバッチリ用意して工廠入口に集った二人は、互いの煤だらけの顔を見てげんなりしつつ、揃って大浴場へと足を向けた。

「・・・・・・いつもながら、お互い酷い有様ね」
「これでもうちょっと進展がありゃ気も楽なんだけどな・・・・・・。あー、機材も知識もなにもかも足りねーってのに毎日こう油塗れになるって、どうなんだ」
「油塗れになってるから、進展皆無なんてことにはなってないんじゃない」

汚れに汚れた作業着姿のまま研究に没頭して一夜を明かすのは初めてではないが、気分がいいものではない。だというのにその頻度が最近、加速的に増加しているのは乙女として如何なものだろう。
呉の支援部隊に所属する身として、明石の弟子2号として、機関や武装の試作検証に一日の殆どを費やす日々を送っている彼女。
それでも今まではちゃんと食事も睡眠も入浴もキッカリ時間通りにとっていたのだが、シンの愛機たるデスティニーの修理に取りかかってからというものの、生活リズムは乱れる一方だ。
別に不満はない。
修理の進展は殆どないけど面白いものを弄らせてもらってるし自覚はあるし、興味本位とはいえ手伝ってくれる仲間も多くいる。シンとああだこうだ言い合いながら作業するのも、まぁ、悪くない。
ちょっと忙しくなってちょっと出不精になってるだけで、リズムなんかは後々に調整していけばいいだけの話だ。
0182ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/26(日) 23:12:13.26ID:MZE1pmDj0
そう思えるだけの魅力があの機動兵器には詰まっている。たしか正式名称は【GRMF-EX13F ライオット・デスティニー】といったか、正直具体的な技術どころか概要すら理解不能の塊だが、だからこそ興味深いのだ。
超小型の核融合エンジンに特殊電磁場によって半結晶状の荷電粒子ビームを出力するエネルギー兵器、電圧によって硬度と色が変化するうえにナノサイズの空洞を有するが故に超軽量な特殊金属を用いた装甲、
形状記憶金属をふんだんに取り入れた関節駆動装置、更には光圧と斥力を複合させた大型推進装置にと、どれ一つとっても超未来的オーバーテクノロジー。
むしろ、これに夢中にならないなんて人類としてどうかしてるとさえ思う。
佐世保にいる明石も、ストライクとかいうデスティニーより数世代前の機体を四六時中弄くり回しているらしい。
そんなわけで、現状に不満はないのだ。好きでやらせてもらってるのだから、自分の身のことなど二の次で。
けど、それにしたって。
やっぱりお風呂は毎日入りたいものなのだ。乙女としては。

「ところで、アラームをセットしてたはずなんだけど。聞こえた?」
「全然」
「そうよね。聞こえててスルーしたなんて言ったらぶん殴ってやるつもりだったわ」
「お前な・・・・・・。俺だって好きでこんな時間までやってたわけじゃねーっての。単にセットし忘れただけだろ」

男湯も女湯も、毎朝の浴場清掃時間まであと少し。今を逃せば数時間も待ちぼうけになってしまう。
朝になってしまえば、デスティニー修理部隊のみんなが工廠にやってくる。つまり、みんなと会うということで、汗と油に塗れたままじゃいられない。それは実にいただけない。
シンも昔はシャワー派だったらしいが、ここに来てからはお風呂に入るのがお気に入りらしく、毎日欠かさず入浴するうえ長風呂になりがちだという。
正直意外だが、けど綺麗好きなのはいいことだと毎日隣にいる者として切実にそう思う。
天津風達は文句を言い合いながら、ただお風呂に入りたい一心のみで重く気怠い躰に逆らって、鎮守府に一つだけしかない大浴場へと早足で歩いた。

(そーいえば、この時間にお風呂入るの久しぶりね。あの時以来か・・・・・・)

午前3時である。
当然、よっぽどの例外がない限りは、天津風達が今夜最後の利用者ということになる。ということは広い浴槽をのびのび独り占めできるということで、ちょっぴり得した気分だ。
島風の頭を洗ってやる必要もないし、今回は誰かさんに乱入される心配もないし。

(いやいや思い出すな忘れるのよ私。あれはただの不幸な事故だったんだから)

余談だが、ここ呉鎮守府は廃棄された温泉施設を再利用・増築して建設されたという経緯がある。宿舎や入浴施設はその旧温泉施設のものをそのまま利用し、後付けで工廠やら司令部やらを隣に設営していったのだ。その為、
入浴設備はどの鎮守府よりも充実していて、密かに自慢の種にもなっている。
そう思いながら角を曲がること数回、大きな『ゆ』の字が書かれた二つの暖簾が見えてきた。向かって右手には艦娘御用達の女湯が、左手には提督とシンが使う男湯がある。
ちなみに、男湯は完全な男性専用というわけではなく、利用者の殆どが女性だったりする。そもそも男が極端に少ないのだから専用にする意味がないのだ。
0183ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/26(日) 23:15:01.88ID:MZE1pmDj0
男性が利用する際には、誰も入ってないことを確認した上で、立看板を設置するという決まりがある。
あんまり思い出したくない記憶だが、天津風とシンが最初に顔合わせしたのは、この男湯でのことだった。
あんなハプニングは二度と御免だ。

「・・・・・・ん? あいつら、何やってんだ?」

と、何か見つけたのか、突然シンが目を眇めて呟いた。
その視線の先を追った天津風も、それを見つけて思わず首を傾げた。

「・・・・・・なんでコソコソしてるのかしらね?」

風呂上がりだったのだろう、タオルを首にかけた北上と阿武隈が、まさしく抜き足差し足忍び足といった具合で浴場から離れていく姿があった。
あからさまに怪しい。
違和感。
なんだろう、なにか嫌な予感がすると、天津風は感じた。
けど、声をかける暇はなかった。北上と阿武隈はすぐさま角を曲がって、二人の視界から消えた。同時に予感も、スルリと両手からすり抜けていって。
なんだったのだろう?

「追うか?」
「明日訊けばいいでしょ。・・・・・・じゃ、また後で」
「おう」

まぁ、気にすることはないと思う。大方、ちょっとした事故やイタズラがあった程度のことだろう、あの二人なら。追求はせずに置いとくことにする。
さておき。
挙動不審な彼女らと入れ替わるように浴場に到着した二人は別れ、それぞれの暖簾をくぐった。
シンは左に。
天津風は右に。
くぐって、脱衣所へと進む。


後になって思う。あの時、北上と阿武隈を追っていればよかったと。
違和感とは、嫌な予感とは往々にして、その正体がわかった時には既に手遅れなのだから。


そんな少し先の未来など露とも知らない少女。
天津風は脱衣所につくや否や真っ先に、作業着のチャックを豪快に下げて、インナーともども纏めて脱ぎ捨てた。そんでもってノールックで乱雑に、作業着専用洗濯機へと放り込んでスイッチオン。
0185ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/26(日) 23:16:11.55ID:MZE1pmDj0
続けて最近新調した黒のブラとショーツを脱いで、こちらは共用洗濯機に入れて、天津風は生まれたままの――艦娘は服と艤装を身につけてこの世に生まれいずるのだから、
この表現は適切じゃないかもしれない――姿になった。
起伏に乏しい、流麗で白磁のような肢体――美女揃いの艦娘の中でも指折りな脚線美を惜しげもなく晒したその姿は、いっそ一つの芸術品のようにも思える。
そうして最後に、象牙色のツーサイドアップを解いて。
少女は振り返り、浴場に続く最後の扉を視界に収めて。

(・・・・・・そうね、今日は露天風呂でゆったりしましょうか)

幾つもある素敵なお風呂のなかでも、特にお気に入りの露天風呂に入ろうと決めて、意気揚々に扉を開けた。
時間があればもっと色々楽しめるのだが、生憎と清掃時間まであと少ししかない。一つに絞る必要があった。

「〜〜♪」

鼻歌を唄いながら、温かな湯気に支配された空間を突っ切って、まずかけ湯をする。温感が全身を行き渡り、消えて、頭から足の先までがブルリと震えた。
ああ、この瞬間は何度経験しても堪らない。けど、本番はこれからなのだ。お風呂は偉大なのだ。
手早く躰と髪を洗って、一日の汚れを排水溝に流す。しっかりバッチリ躰を磨くのはまた時間がある時に。

「・・・・・・よし」

さあ次は、いざ、いよいよ外へ。
アツアツのお湯という名の、人類の英知で満たされた杯へ、師走直前の冷え切った大気に満ちた世界へ今、大きな一歩を。
踏み出す。
外界へ繋がる扉を開ける。


そして。


「――・・・・・・は?」

天津風は、嫌な予感の正体を知った。



0186ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/26(日) 23:19:23.47ID:MZE1pmDj0
「――・・・・・・は?」

露天風呂に入ろうとして外にでたシンの瞳に映ったものは、見事に大破したヒノキの仕切り板だった。
さて、ここの露天風呂は一つの囲いに二つの浴槽があり、それを中央の仕切りで女湯と男湯に区分けしているレイアウトである。つまり俗物的に考えれば、覗こうと思えば覗ける構図なのだ。
もっとも、覗こうとした瞬間、次に見るものは死の淵のみだと提督は言った。経験者は語るというものかと呆れながら、ぼんやり聞いていたのを覚えている。
提督は言った。
なんでも仕切り板付近には幾重ものセンサーが張り巡らされており、絶対防衛ラインを超えようとした者には漏れなく十数機配備されたセントリーガンの掃射がプレゼントされるとか。
せめてもの情けか弾丸はゴム弾だったらしいが。そんでもって仕切りには超高張力合金が埋め込まれていて、更には付近一帯にはバネ仕掛けの地雷やらなんやらが設置されているとか。なんという周到っぷり。
それだけの防備が女湯を守護しているのだと、あの男は大真面目に語ったものだ。きっと覗きたい女湯があったのだろう、彼には。
あんなんが責任者で大丈夫か?
話を戻そう。
シンは、そんな防衛設備をまだその目で見たことはなかった。つまりは今まで覗きを敢行したことはなかった。決して枯れてるわけではないが、喧嘩別れしたっきりの彼女たるルナマリア・ホークに操を立てているのだ。
若干二名の文化遺産的巨乳を目に焼き付けている青年は、そんじょそこらの女に靡かない硬派だった。
そんな彼の前に、仕込まれた鉄板もろともに粉々なった仕切り板があるのだ。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

本当なら、あー話半分に聞いてたけど本当のことだったんだー、とか。一体誰がこんなことをー、とか。ていうかあの二人の仕業かこんちくしょー、とか。そんな感じの感想を抱くところだった。
しかし。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

しかして、現実は非情である。小説よりも奇である。
シンの視線の先には、もはやなんの役にも立たない仕切りの向こうには。

「・・・・・・きゃああああああああああああ!?」
「・・・・・・なぁ、これは俺が悪いのか・・・・・・?」

最近仲良くやれている少女、天津風の裸体だった。
凄まじい悲鳴が夜天に響き、露天風呂の水面がさざめく。
光が瞬き、重い金属音。腹を震わせる、エンジンの躍動。この音はよく知っているとも。艤装の駆動音だ。
シンはぼやく。
なんでこんなことに。どうしてこんなことに。
0187ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/26(日) 23:21:49.55ID:MZE1pmDj0
言っても思っても詮無きことだ。わかってる。けど、それでも。

「なんで俺、こんなとこにいるんだろう」

言わなきゃやってられないことって、あるだろ?
シンが最後に見たものは、此方に向かって12.7cm連装砲B型改二を構える全裸の天津風の姿だった。言い訳もなにも、する余裕がない。まったくない。もうこうなったら、運命にただ流されるだけだった。
願わくば、装填されたのがゴム弾でありますように。
その後の記憶はない。
彼の意識は、そこで途切れた。


それは、11月26日の深夜の出来事。全国的に「いい風呂の日」の、ちょっとした事件だった。



0188ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/26(日) 23:24:01.56ID:MZE1pmDj0
その後。
仕切り板破損事件は、北上と阿武隈がじゃれあった結果の不慮の事故だったことが発覚した。彼女らは自ら板の修繕を申し出て、それで手打ちとなった。
シンは無事、五体満足だった。流石は元祖ラッキースケベの名を冠する者といったところか、こういう修羅場には恐ろしく強かった。ただ、腹部に直撃した数十のゴム弾のせいで、
彼の立派に割れたシックスパックしばらく真っ赤であったとか。
そして、天津風はというと。

「・・・・・・次、やったら殺すから」

二度も裸を見られたショックにも負けず、今日も元気にデスティニーの整備に明け暮れていた。
もう二度と彼と一緒に浴場には行かないと、心に決めて。


しかし、彼女は知らない。


この世には二度あることは三度あるという諺があることを。
そしてそれは、案外近い未来にあるということを。
彼女は知らない。
まこと、人の世とは何が起こるか分からないものなのである。
0189ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2017/11/26(日) 23:27:34.33ID:MZE1pmDj0
以上です。
シンといえばラッキースケベという偏見があります。
たまにこんな頭ゆるい感じのを書こうかと思ってる次第であります。
0193彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/12/07(木) 21:46:12.19ID:idAKcaRr0
お久しぶりです。
もうすぐ書けると言ったのにまた忙しくなって時間が空いてしまいました。
本当にごめんなさい。

皇女の戦い 第7話

ロンドンでのガンダムファイトの大会...マリナが辛くも勝利を収めた第一戦。
彼女はホテル内に滞在しているアザディスタンの女性医療スタッフから軽めの健康診断を受けていた。
デスタンに殴られた腹部にはアザがあるものの、日頃の鍛錬のお陰で痕は薄い色に留まった。
念の為体内もCTRで診てもらったが問題はなかった。

「よし、これなら大丈夫でしょう。流石我が国の代表ですね。皇女様。」
「いえ、ありがとうございます。私も皆さんの期待に応えなければいけませんからここで負ける訳には。」

診察時専用の服から白いチュニックと青いロングスカートに着替えると、一礼して部屋を去るマリナ。
外にはシーリンがいつもと変わらぬ落ち着いた、それでいてどこか厳し気な表情で待っていた。

「どうやら何もなかったみたいね。」
「ええ、今負けたら申し訳が立たないもの。」
「今回は良かったけど、もしまた挑発するファイターが現れても耳を貸してはだめよ?」
「わかっているわ。少しの隙が命取りになるから...」
0194彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/12/07(木) 21:48:16.08ID:idAKcaRr0
ホテルで借りている個室で休むと気晴らしに出掛けるマリナ。
ロンドンの街は快晴で、人通りも多く活気に溢れている。
公園でゆっくりしたり、ブティックを軽く回ったりして余暇を過ごしていく。
時計が3時を回る頃に行き着いた石の橋。通路を兼ねたそこは補修を重ねており品のある灰色をしていて、同時に多くの人々が行き交った趣深さを感じさせてくれる。
下に流れる澄んだ河には何隻も船が渡り、この国が豊かであることの象徴のように思えてくる。
(私の国ももっと栄えればこんな風に...)
そんな思いを馳せながら青い空を見上げていると...


突然ボールが目の前に飛んでくるが、咄嗟に躱すマリナ。
サバイバルイレブンで培った敵のパンチや砲撃を回避する能力が自然に働いたのだろう。
ボールはそのまま道路を転がりそうになるが、すぐに拾うマリナ。
前方から、10歳程だろうか金髪の少年が慌てて走ってくる。

「いけね!姉ちゃん、大丈夫?ごめんね、驚いたでしょう?」

人懐っこそうな表情に焦りを浮かべて近づく。
彼にボールをそっと渡すとニッコリ笑みを見せるマリナ。

「大丈夫よ。気にすることないわ。でもここで遊ぶと危ないわよ?」
「ああ、気を付けるよ......あれ?お姉ちゃんどこかで見たような...
 マリナさんでしょ!アザディスタンの。さっきのファイト見たよ。凄かったね。」
「ええ、そうよ。凄くなんてないわ。」

口にされるとどこか恥ずかしいのかはにかんで首を横に振る。
0195彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/12/07(木) 21:50:36.07ID:idAKcaRr0
「でも、俺の兄ちゃんはもっとすごいぜ。実はファイターなんだ。イタリアのね。」
「あなたのお兄さんが?......っそうなの。それでどんな人?」
「サッカー選手だよ。レオナルド・バレージって言う。」
「そういえば、他の種目からファイターに転向した人も何人かいるわね。」
「そうそう。マジで凄いんだ。俺の兄ちゃん。元エースストライカーでさ、前いたチームの中でも人気高いんだぜ。」
「そんな凄い人がお兄さんなんて、嬉しいでしょ。」
「ああ、俺もいつか兄貴みたいな凄いサッカー選手になるんだ。
ああ、言い忘れたね。俺はダリオ。」

目を輝かせて喋る少年に何だかマリナも微笑ましくなっていく。

水面を見下ろしながら語り合う二人。
皇女でありながらたまにシーリンにサラッと注意されることも自然と話せてしまう。

「ええ、お姉ちゃん。そういう注意されることあるんだ?何か意外...」
「そうなのよ、まだ未熟だからね。」

苦笑いしながら話すマリナ。
楽しくて時間を忘れてしまう。

「でもさ、皇女様って言うからもうちょいとっつきにくい人かと思ったけど何かイメージと違う。」
「私、そんなに近づきづらかったかしら...」

外交中にできるだけ好印象を与える為、フランクな笑顔や話し方を心掛けてきたが今の会話で少し首を傾げる。
0196彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/12/07(木) 21:51:35.80ID:idAKcaRr0
「うん。もっと無口で堅い人だと思ったからさ。」
「あはは、ちょっとそれって。」
「でも一緒に喋ってて思ったより普通っていうか、近づきやすいっていうか。」
「良かった。それを聞いて安心......っていけない、もうこんな時間...」

気づけば辺りはすっかり夕闇色になっていた。
「ダリオ、私門限近いからもう帰らなきゃいけないけど、あなたは一人で大丈夫?
 泊ってる場所同じだけど送ろうか?」
「子ども扱いすんなって、大丈夫。心配いらないよ。
...それに他の国のファイターと一緒にいるともしかしたら兄ちゃん気まずくなるかもだし。」

それを聞いた瞬間皇女の口は自然とキュッと結ぶ形になり。

「...そうね。ダリオとお兄さんの気持ちも大事だし、今日はここで別れましょ。
 一緒に話せて楽しかったわ、ありがとう。ダリオ。」
「こっちこそ。これからの試合頑張ってね、皇女様。」
ボール片手に元気よく帰るダリオに手を振って見送るマリナ。
ファイトの疲れも完全に忘れて悠々と滞在先のホテルに帰っていく。
0197彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/12/07(木) 21:52:42.66ID:idAKcaRr0
翌日の朝、愛機・ユディータに乗り込むマリナ。
一糸纏わぬ姿で祈るように両手を握りしめ、片膝を着く。
スーツを纏い力一杯立ち上がる。
しなやかな胴体は爽やかな水色、肩と股は薄い水色、手足と臀部は純白というカラーリングだった。

機体は他国の者に比べやや小さく華奢だった。
白をメインとして、前腕と脛は落ち着いた紺色。
背中には鋭い矢を収めたケース。右手にはシャープなラインを描いた弓を携えている。


会場は昨日と変わらぬ熱狂ぶりを見せていた。司会者は声を上げる。
「みなさんお待ちかねー!今日も激しいファイトの行く末を見守ろうではありませんか!!」
「今日最初のカードは先日逆転勝ちしたアザディスタンの皇女、マリナ・イスマイール!
対するはイタリア代表、元サッカー界の英雄レオナルド・バレージ!
どのような戦いを見せてくれるのでしょうか!」

「絶対に負けられない......」

強い意志を見せるマリナの瞳は、森林のように鮮やかな緑色をした機体を見据えていた...
0198彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2017/12/07(木) 21:59:45.67ID:idAKcaRr0
今日は以上です。
さっき読み返したら、意図せずともおねショタもの?と思われるかもと少し考えてましたw
決しておねショタを嫌ってるわけではないのですが念のため。

まだ至らない部分がありますがよろしくお願いします。

あと、上手く言えないのですがビジュアル的?な部分でここをアレンジしてくれ、というご意見があったら教えてくださいね。
自分の力量でできる限り取り入れさせて頂きますので。
例えば、マリナの機体やファイティングスーツの色彩設定、マリナのスーツ装着シーンetc......

それでは今日はこれで。
みなさんお休みなさい。
0199通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/12/09(土) 21:56:23.03ID:d+SYvNE00
更新乙です。
参加選手の兄弟と対戦前に出会うのはGガンでもありましたねー。サイサイシー・・・
別に少年とマリナが出会っただけで即おねショタにはならんでしょー、気にしない。
まぁおねショタも大好b(ry

さてさて、サッカー選手、という前提が出てきましたね。
そうなるとサッカーをどうガンダムファイトに生かしてくるか、作者さんの腕の見せ所ですよ。
弓道や合気道との相性、絡み、スポーツ選手としてのメンタルや国を挙げてのイベントとしての共通点
そしてサッカー選手の乗るガンダムのビジュアルやスタイルをどうするか。

敷居を上げつつ楽しみにしてますよ(鬼
0200通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2017/12/11(月) 00:12:34.61ID:ZSIRpSZg0
乙です
そも本編からしてマリナはおねショタっぽい感じだったのだから、むしろマリナの本領なのでは?
本編といえばCBの連中は出てこないのかな?

しかし>>199さんや。敷居は上げちゃいかんて真面目に
0201ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/01/17(水) 20:55:25.76ID:9t1u7nN20
遅ればせながら明けましておめでとうございます。少しというか一ヶ月以上更新が空いてしまったので、とりあえず中間報告をばと。
年末に職場の転属がありまして、未だてんやわんやしてて執筆があまり進められておりません。なので、次回投下までまだまだ掛かってしまうと思います。
一月末には投下できるかもなので、待っててくれる人がいるならそれまでお待ちくださると幸いです。
今回は以上です。すいません
0202通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/01/18(木) 12:17:45.16ID:7rZ2fe/c0
>>201
あけましておめでとうございます

リアルの生活もいろいろあるでしょうから、支障のない範囲でぼちぼちやってください
続きお待ちしてます
0203通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/01/20(土) 10:11:28.54ID:xT/eWXPV0
シンはそういや金髪欲情症という病気にかかっているという話を聞いた気がする。
0204ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:09:59.60ID:LSOcb/FJ0
もう三月やんけ! だいぶ遅れてしまいました。投下します
0205ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:11:40.32ID:LSOcb/FJ0
――艦これSEED 響応の星海――


キラ・ヤマトがキラ・ヒビキとして若干どもりながら自己紹介したドンチャン騒ぎの食事会と、厳粛な雰囲気で進行した佐世保鎮守府全体会議という二つのイベントをこなして、数時間後。間もなく日が移る頃。

「――よし、これで。・・・・・・あぁ、おかえりキラ。こっちは終わったよ」
「うん、ただいま。って言っても、僕ももう部屋に戻るけどさ」

あくびをかみ殺しながら仮設宿舎一階の暁型四姉妹の部屋に戻ったキラは、すっかり寝入ってしまった姉妹達とお客さんを布団に寝かせつかせた響に、帰還の言葉を告げた。

「祥鳳はなんて?」
「妹がご迷惑かけますって。おぶって階段昇るのは危ないから・・・・・・それで瑞鳳さんの着替えと、色々持たせてくれたよ。これ、みんなで食べてって」
「Хорошо、伊良湖のカステラじゃないか。わかった、このカステラに誓って瑞鳳の身は私が護ろう」
「ちょっと大袈裟すぎない?」

素っ気ない顔でしれっと可笑しなことを言う寝間着姿の響。そんな少女に祥鳳からの手土産を渡しながら六畳間の部屋を見渡してみると、
そこには綺麗に敷かれた三重ねの布団に暁と雷、電と瑞鳳がくるまっているのが見えて、キラはなんだか懐かしいと思った。
雷雨が苦手な四人の為にと提案した瑞鳳と、協力者だからということでキラも参加させてもらった暁型四姉妹のトランプ遊び。かなり白熱したものの皆々順繰りに寝落ちし、残った二人で後始末をしたのがつい今し方のこと。
こんな夜が、ただただ懐かしくて。
そう、オーブの孤児院に身を寄せていた時期は、こんなことがしょっちゅうあったと思い出す。

「大袈裟なものか。これにはそれだけの価値があるよ」
「前に食べた、羊羹みたいな?」
「同ランクの逸品だね」

遠い昔のことのようだ。ヤキン・ドゥーエ戦役を終えて、ブレイク・ザ・ワールドで世界が灼かれるまでの、たったの二年間。
嵐の夜は決まって、子ども達は就寝時間ギリギリまでトランプやゲームで遊んで、そしてみんな一塊になって一つのベッドに潜り込むのだ。そんな子ども達を各々のベッドに運んでいくのはキラやバルトフェルドといった
大人組の役目で、その後は大人組も大人組でたいして美味しくもないコーヒーを飲みながら夜をまったり過ごすという日常が、あった。
あの頃が人生で一番、平和を実感して日々を生きていた時代だったと思う。尤も、生きていることに虚しさを感じて、感じる心を喪っていた時期でもあったから、一概に楽しかった時代とは言えないが。
この状況はあの頃の夜にそっくりだ。こんな夜をもう一度過ごせる日が来るとは、夢にも思わなかった青年であった。
0206ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:14:00.55ID:LSOcb/FJ0
(それにしても瑞鳳さん、誘った本人が真っ先に寝ちゃってどうするのさ・・・・・・まぁ、響も僕も楽しかったからいいけどさ)

懐かしい。
今や幸せそうな顔で夢の世界に旅立っている瑞鳳には、感謝せねばならないだろう。押し切られるようなカタチであったとは言え、彼女と協力することになったからこの気持ちを抱けたのだから。
純粋な少女達に囲まれ、久しく感じることのなかった「騒がしくとも楽しい一時」というものを過ごすことができたのだから。心なしか楽しげにも見える無表情な横顔に、つい嬉しくなる。
これからもこんな夜を迎えることができるのだろうか。
彼は蒼銀色の髪の少女と戯れながら、先の食事会にて急接近してきた亜麻色の髪の少女をチラリと一瞥した。
一瞥して、しばし青年は誘われるように、徒然と思考の海に溺れる。
これまでとこれからを、再確認する。

(協力関係、か。僕なんかにその資格は無いと思うけど・・・・・・でも)

この度、キラ・ヒビキは瑞鳳と共に、響の力になることになった。
それはいい。
ここで目覚めてからまだ十日しか経っていないというのに、更に言えば響と顔を合わせていた時間も、実はまだ一日にも満たない程だというのに、
それでも響について瑞鳳に語ったこと――響の危うさに気付いて、支えたいと思ったこと――に、告白した内容に嘘偽りはない。
包み隠さず言ってしまうと、キラにとって響という少女が、どうにも気になってしまう特別な存在であることは確かであったから。

(響、君は僕に出会って少し変わったって言われた。なら僕も、君に出会って少しは変われてるのかな。変われると、いいな・・・・・・)

経験も価値観も主義主張も何もかもが全然違うのに、どこか、君は僕に似ていると思えた。
キッカケはやはり、あの防衛戦における共闘。理なんか何一つない第六感的感覚で、彼女の本質に己の影を見た。彼はあの少女に、ある種の親近感、シンパシーを感じたのだ。
少女の助けになりたいと思うだけの理由。特別だと感じる理由。そもそも少女の危うさに気づけた理由の全てだ。
ならば、少女の助けになることに微塵の迷いも必要なく。とてもできるとは思えないが、もしできるのであれば、是非もないことだった。
何故なら。


この男もまた、己のことが嫌いで赦せない人間だから。


これまでの人生を振り返ってみて、自分を好きになれる要素は何一つもなく。
「自分は生まれてきてはいけなかったのだろうか」という想いはいつだって心の奥底にこびりついているくせに、他人からの弾劾には反論して、開き直り、済ました顔で意志を押し通して。
0207ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:15:41.95ID:LSOcb/FJ0
変わっていく明日を生きる覚悟を、変わらず示し続ける為という建前を掲げて、圧倒的な力を振るって、貪欲に『生』を渇望して。
だというのに結局、自分自身だけでは何も為せず何も創れなかった無力な己の醜悪さを、理解しているから。
苦々しく思う。己が人生経験豊富で、観察力があって、気配りのできる素晴らしい人間だから、ほんの少し行動を共にしただけの少女の危うさに気付いたのだ――なんて、そんな理由であればどんなに良いだろうと。
こんな人間に似ているなんて思われるなんて、彼女にとっては迷惑というか、侮辱でしかないだろうと。

(それでもあえて僕らが似ているところを挙げるなら、それはきっと自分自身に対する、絶望感。そして誰かに何かを赦してもらいたいと願う、罪悪感。瑞鳳に語ったことは半ば、僕自身のことでもあるんだ・・・・・・)

シン・アスカと似ているようでまた異なる、諦観の念。強迫観念じみた、強くあらればならないという行動原理。
だからこそキラは、受け入れて――支えたいと思った。
自分のことが嫌いで赦せないけど、ぜんぜんこれっぽっちも上手くできる自信なんてないけど、こんな自分でもと。否、彼女の考えがわかってしまうからこそ。様々な人に支えられて今まで生きてこれた自分だから、
そのように己も、ここにいられる間は少しでも彼女の支えになれればと。
どうかしてるとは自覚している。いい歳になってこんな、思春期じみた感傷に浸って。似たようなコンプレックスを持ってると思い込んで、心を揺さぶられて。
でもそれが今のキラの原動力の一つだった。C.E.の人間としての目標と義務とはまた別で、一人の人間としてやりたいこととなっていた。
根本の理由がどうであれ、響について瑞鳳に語ったことに、告白した内容に嘘偽りはないのは事実なのだから。

「・・・・・・? なに、キラ。私の顔になにかついてるかい?」
「――あ・・・・・・いや、なんでもない。・・・・・・とりあえず帰るよ」
「そうか・・・・・・今日は楽しかったよ。もしよかったら、いつか暁にリベンジの機会を与えてやってほしいな」
「了解。僕も電とはちゃんと決着つけたいから、またいつかね」

人知れず、決意は固まる。

「うん。Спокойной ночи、良い夢を」
「君もね。おやすみ、明日からよろしく」

響からお裾分けだと貰ったカステラを手に、少女に見送られるカタチで仮設宿舎の廊下へと出て。はじめて互いに「おやすみ」を言い合い、軽く手を振り合って。
キラは懐かしい夜を背に、まだ一度も使ったことのない自室へと歩を進めたのだった。
やるべきこととやりたいこと、約束したことは沢山ある。それを成す為に。
彼が思い描いた未来図は、かつてないほどの輝きを放っていた。
0208通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/03/06(火) 23:16:06.28ID:AkZpdmYq0
回避
0209ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:17:19.70ID:LSOcb/FJ0
《第10話:抜錨、響・特装試作型改式》


夜が明けて、11月11日の正午頃。
長崎県西方沖の五島列島周辺海域にて。

「翔鶴さ〜んっ! でっかいお魚いっぱい釣れたっぽい! 褒めて褒めて〜♪」
「あらあら、これは大漁ねぇ。カマスかしら? すごいわ夕立」
「む、勝ち誇るにはまだ早いデース。Time limitまであと10分! 旗艦の意地を賭けて、ここから追い上げてみせるワ!!」

今朝まで嵐だったとは思えないほど清々しく晴れ渡った蒼穹に、穏やかに凪いだ大海原と、何処を向いても青一色の世界を白波蹴立てて進む一隻の通常艦艇があった。
ステルス性を重視した全長30mの船体に、自衛用小口径速射砲を申し訳程度に装備した佐世保鎮守府所属の小型高速哨戒艦だ。深海棲艦の駆逐イ級相手でも簡単に振り切ることのできる速力と装甲を備える、最新型である。
艦娘と深海棲艦の戦いが激化しても尚、従来型の船が活躍する場は多い。流石に純然な戦力として運用されることは無くなったが、漁船や物資輸送船の護衛や、近海警備に敵陣偵察といった裏方の任務は、
替えの効く従来型の船で賄うというのが近年の主流となっていた。
中には、囮を兼ねた遮蔽物として運用される無人装甲船などといった艦娘のサポートに特化した変わり種も存在し、この小型高速哨戒艦も含め各鎮守府には多種多様の通常艦艇が配備・運用されている。

「お、燃えてるなー金剛。だがここで摩耶様の追撃、50cm超のサバが三匹だ! これで我らが翔鶴チームの勝ちは揺るがなくなってしまったなぁ!?」
「摩耶も夕立も絶好調なのねぇ。なんか、申し訳ない気分かも。私、一応チームリーダーなのにあまり役立ってなくて」
「そうかぁ? ・・・・・・んだよ、けっこう釣れてんじゃねーか」
「釣果ゼロな金剛さんとは比べものにならないっぽい」
「そう? 自信持っていいのかしら」

さて。
シンプルな灰色に塗装された哨戒艦【はやて丸】は現在、45ノットの快速で南西――五島列島で最も広い面積を有する、福江島方面に向けて航行している。
その甲板上に、六人の少女はいた。
先の全体会議にて編成された新生第一艦隊一番隊、通称【金剛組】である。
金剛、翔鶴、龍驤、摩耶、夕立、時雨と、機動力と対応力に優れた実力者で構成された戦闘部隊で、四つの主力艦隊の中でも最大の戦果を期待されている佐世保の大黒柱。
鎮守府復活に伴って早速任務を請け負った彼女達は、燃料の節約と集中力の温存と迅速な戦力移送を兼ねて【はやて丸】に乗り込んで、福江島最南端にある前線基地を目指している最中だった。
艦が船に乗るというのも妙な話ではあるが、深海棲艦が空挺降下をやってのけやがったことを思い出せばまだ常識的な話だ。寧ろ艦娘達がバラバラに航行するよりかは、
こうして通常艦艇に乗って一纏めに移動したほうが遙かに効率的かつ経済的であることは考えるまでもないだろう。
0210ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:19:00.35ID:LSOcb/FJ0
事態が落ち着くまで専守防衛に努めることと相成った佐世保は、艦娘による四つの主力艦隊と三つの支援艦隊、そして通常艦艇隊を三本の矢として連携させて近海の制海権を確保することに決定したのだから、
今後はこのように彼女達が船に乗り込むことも多くなっていく見込みだ。
ちなみに、再編された計七つの佐世保艦隊の内訳は、以下の通りになる。


――――――――――


第一艦隊(主力)        第二艦隊(主力)        第三艦隊(支援)
【金剛組】 【霧島組】     【榛名組】 【比叡組】     【球磨組】 【多摩組】 【阿賀野組】
・金剛   ・霧島       ・榛名   ・比叡       ・球磨   ・多摩   ・阿賀野
・翔鶴   ・瑞鶴       ・瑞鳳   ・祥鳳       ・能代   ・矢矧   ・酒匂
・龍驤   ・扶桑       ・鈴谷   ・熊野       ・海風   ・ 暁    ・春雨
・摩耶   ・鳥海       ・木曾   ・山城       ・山風   ・ 雷    ・伊13
・夕立   ・白露       ・ 響    ・五月雨      ・江風   ・ 電    ・伊14
・時雨   ・村雨       ・キラ   ・涼風


――――――――――


なるだけ戦力を均衡化して編成された主力艦隊は、これから復旧させる予定の前線基地を第二の拠点として活動することになる。
三日単位でのローテーションで鎮守府と基地とを往復し、哨戒活動をする支援艦隊と通常艦艇隊の要請に応じて防衛警戒エリアに現れた敵を迎撃するのだ。
故に、まずは第二の拠点たる前線基地を復旧させる必要がある。この基地は深海棲艦との戦争が始まった頃に建設されたものであり、敵の電波障害に対抗する為の物見櫓と艦娘用設備があるのだが、
現在は一連の騒動のせいで命綱たる有線通信が使えない状況に陥っているのである。
【金剛組】の任務とはつまり、基地復旧作業の護衛役だ。作業自体は相乗りしている工作隊と現地の業者が行うが、そこに深海棲艦の強襲がないとは限らないもので。明日になれば後続の【霧島組】と【阿賀野組】、
そして物資を満載した輸送船が多数現着し、先行した【金剛組】は佐世保に一時帰投することになっているが、それまでは海上で一日を過ごす予定だ。
明日に弟子との勝負を控えた夕立にとっては、少し酷な話かもしれないが。しかしそれを全く苦にせず明朗快活に活動できるのが、佐世保駆逐艦最強な夕立の夕立たる所以であったりもする。

「ぐぬぬ・・・・・・好き勝手言ってくれますネー。しかーし! 最後の最後までなにが起こるのかがわからないのがこの海釣り、気張りますヨ二人とも。勝利の栄光はワタシ達、金剛チームのものデース!!」
「せやせや、なんせウチらには幸運の女神、時雨がいるんや。きっと最後にドカンと一発かましてくれるでぇ」
「人任せにしないでくれるかな龍驤。ボクの力なんて些細なものだよ。みんなでコツコツとさ、頑張ろうよ」
「そー言うてもなー、こっちで順調なの時雨だけやん。ほら見てみ、ウチもちんまいのが数匹だけや。こりゃ奇跡でも起こらんとどーしょもない」
0211ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:20:59.17ID:LSOcb/FJ0
「二人には失望したよ。今回はボク達の負けだね」
「諦めたらそこでGame Overデース!?」

ところで、自力で航行する必要がなくなった艦娘は、暇になる。
そこで【はやて丸】の甲板上に陣取った【金剛組】は警戒を厳としながらも、とりあえず釣りで目的地までの空き時間を潰しつつも結成されたばかりの艦隊の親交を深めることにした。
彼女らはそれぞれが歴戦の猛者ではあるが、同じ六人のグループとして戦った経験は殆どないのだ。
それが何故かいつの間にか艦隊を二分にした対抗戦へと発展してしまっているのだが、まぁどんな界隈でも実力者とはえてして負けず嫌いなもので、どんなことでもバトルにしてしまうのは必然なのかもしれない。
いっそ戦うことで互いを良く知ることもできるというものだ。
そんな時だった。

「――・・・・・・? ・・・・・・っ、これは?」

夕立と摩耶を従えて釣り竿を握っていた翔鶴は唐突に、らしくもなく戸惑いの声をあげた。
先んじて目的地周辺に飛ばしていた偵察機のキャノピーを通じて飛び込んでくるもう一つの視界、その遙か遠方に、妙なものを発見したのだ。
竿に魚の反応があったものの気にせず、彼女は瞳を閉じて意識をいっそう集中させる。自力で航行してなくても、遊んでいても、海上である以上はいつだって厳戒態勢であり、
Nジャマーによりレーダーが封じられたこの海域では、艦載機による索敵は文字通り命綱。その一翼を担っていた装甲空母級艦娘は、これは一体なんだと眉を顰める。
見定められない。こんなものは見たこともない。しかし。コレに関係あるかもしれない人物には、心当たりがある。

「これって、もしかして・・・・・・」
「! 翔鶴、どうしまシタ?」

少女の異変にまっさきに気付いた金剛がサっと顔色を一変させ、小走りで翔鶴に近寄ってきた。一瞬にして張り合う釣り人から、旗艦とその補佐役に切り替わった二人の表情は当然、戦闘モードの険しいものに。
翔鶴は己が見たものを報告すべく、言葉を紡ぐ。

「金剛・・・・・・とりあえず敵ではないわ。方位2-5-7、距離40の海上に謎の巨大構造物を発見。キラさんの世界・・・・・・C.E.に縁のあるものかも」
「明石が夢中になってる、宇宙(ソラ)からのGiftですネ?」
「おそらくは。少なくとも全長250mはある、変な船よ」
「船?」
「たぶん、だけれど。本当、変なデザインというか、設計思想そのものが地球のものじゃないみたいな・・・・・・?」
「ふむ・・・・・・」

現在位置から彼女達の目的地、福江島の前線基地までは南西に約15km。そこから更に西へ25km程といったところに、その巨大構造物――翔鶴曰く、変な船とやらがあるらしい。
金剛は顎に手を当てて数秒、思考を巡らせる。思い出すは防衛戦の顛末と、昨夜の全体会議の内容だ。
0212ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:22:41.57ID:LSOcb/FJ0
九州近海の深海棲艦は駆逐できたものの、隕石が落ちた台湾近海には、巨人【Titan】を含め未だ多くの深海棲艦が蔓延っている。嵐の直前に強行偵察を決行したビスマルク隊によると、
彼の海には佐世保だけでは突破できない戦力がまだ残っているという。そしてキラ曰く【Titan】は、宇宙からの有難くない贈り物、C.E.の技術を取り込んで異形進化したものであると。
であれば。

「ワタシ達でどーこう出来そうデス?」
「難しいでしょうね。護るにしろ曳航するにしろ、調査するにしろ。援軍と専門家が必要になると思うわ」
「Photoは?」
「もう撮って、全速帰投中よ」
「Good Job。流石は翔鶴ですネ」

今のところ敵影はないものの、事態は急を要するかもしれない。
このまま哨戒船に乗って接近するのは危険と、一切の迷いもなく決断した金剛は、懐から紙とペンを取り出して何事かを素早く書き込む。それと同時に、翔鶴は備え付けの通信機で艦橋と連絡を取った。

<どうした翔鶴嬢ちゃん。敵か?>
「接敵する可能性、かなり高いです。【いぶき丸】は最寄りの港に入り、陸路にて基地の復旧をお願いします」
<別行動だな。わーった! 嬢ちゃん達も気ぃつけてな!>
「お心遣い、ありがとうございます」

【はやて丸】の艦長は、流石に軍用艦を任されているだけあって理解が早い。
短い通信を終えた翔鶴と、手紙をしたためた金剛は満足げに頷きあい、いつしか釣りを止めて集結していた龍驤、摩耶、夕立、時雨とも頷きあった。もう皆とっくに艤装を装着しており、各々に軽くストレッチすらしている。
和やかな雰囲気が嘘であったこのように、【金剛組】はものの数秒で戦闘態勢へ。
あとは、旗艦が号令をかけるだけだ。

「まったく、頼もしいばかりですネ」
「ですね」

これなら余程のことがなければ問題ない。
本来の任務を無事遂行する為にも、まずはこのアクシデントに対応しなければ。予定航路から外れ、件の構造物に接近する必要がある。
金剛は大きく息を吸い込んで、新生第一艦隊一番隊旗艦として初めての命令を下す。

「総員、コンディション・イエロー! 対空対潜警戒、厳に!!」
「了解!」

そして張り上げられた声に従って、少女達は皆一斉に【はやて丸】から飛び降りた。
その際。
投げ捨てられていた釣り竿にうっかり蹴躓いた夕立が、見事に腹から海にダイブしてしまったのは、愛嬌のようなものだった。
0213ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:24:55.13ID:LSOcb/FJ0




【金剛組】がC.E.の船らしきモノを発見してから、約20分後。
その報は、伝書鳩よろしく報告書と写真を括り付けて飛来してきた、手のひらサイズの飛行機――摩耶の艦載機こと「瑞雲」によって未だ松葉杖を手放せない二階堂大河提督の下へ、
そして丁度彼と話し合いをしていたキラの下へと届いた。
実にアナログな連絡手段ではあるが、だからこそ昨今の長距離無線通信が使えない環境下では、これ以上ない信頼性を誇る常套手段となる。金剛が状況を簡潔に記した報告書と、翔鶴の偵察機が撮影・現像した写真は、
二人の男の顔を一瞬にして驚愕色に染め上げた。

「これは・・・・・・ナスカ級!? こんなものまで・・・・・・!」
「船、なのか? 君達の?」

深い青色の外装と、漢字の「山」のようなシルエットを持つ船体。旧ザフトの主力として運用された、モビルスーツ搭載型高速駆逐艦・ナスカ級。
地球上で使うことを想定していない宇宙専用艦艇であり、新地球統合政府が発足してからも未だ現役で運用され続けている艦種である。駆逐級だけあって生産性と速力に優れ、
その上にそこらの戦闘艦にも引けを取らない火力をも有するナスカ級は、C.E.において八面六臂の活躍で歴史に名を残した画期的な艦艇だった。
そんなものが、若干ピントのぼけた写真に写っていた。かつて幾度となくキラ達の行く手を遮った因縁のある船の一つが、この海に在った。
翔鶴の見立てはズバリ的中していたのだ。

「ええ・・・・・・こちらの世界で言うなら、宇宙用の航空駆逐艦みたいなものかな」
「航空? では艦載機が――そうか! モビルスーツを!」
「六機まで搭載可能なんです。それにナスカ級自体にもビーム砲やレールガンが・・・・・・いや、それ以前に装甲やスラスターだって、この世界にとっては・・・・・・」
「大変なことになる。これ以上、深海棲艦側に未知の技術を渡すことはできない」

それはつまり、翔鶴と金剛の予測も的中するということでもある。
誰にとっても想定外だった新たな火種、誰にとっても喉から手が出るほどの宝の山。台湾近海に巣くう深海棲艦は必ずや、奪取すべく行動するだろう。否、もしかしたらもう侵攻を開始しているかもしれない。
彼女らの意図を汲み取った二人はこれを早急に解決すべき事案と判断した。

「護衛しつつ、こちらの港まで曳航しなければならんな・・・・・・白露、【榛名組】と【多摩組】に緊急招集を。それから哨戒艦【いぶき丸】の手配を頼む」
「了解!」
「キラ君。済まないが君には――」
「みんなに同行して、内部に侵入してみます。もしかしたら生存者がいるかもしれないし、自力航行できるかもしれない」
0215ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:26:45.94ID:LSOcb/FJ0
「――恩にきる」

そこからは怒濤の展開だった。二階堂提督と白露の指揮により、佐世保鎮守府は活動再開初日から早々に厳戒態勢を敷くことになった。
作戦目標はナスカ級の確保及び内部調査。もし曳航が不可能であればその場でできる限り解体・破壊し、パーツ全てを福江島の前線基地に収容する。
どんな些細な部品だろうと、海に放置してしまうと敵の潜水級が手に入れてしまう可能性が高い。よって適当に攻撃して沈没させる選択肢はない。
宇宙用だが奇跡的に海上に浮いている今を逃せば、もう佐世保側にできることは無くなる。猶予がわからない以上、時間との勝負になるのは必然だった。
【金剛組】の援軍として選定されたのは、本日を非番として鎮守府に待機していた第二艦隊一番隊【榛名組】と第三艦隊二番隊【多摩組】の二隊だ。可能であれば全戦力を挙げて臨みたいところだったが生憎、
他艦隊の任務を中断させて同一の海域に投入することは出来ない。佐世保はいつだって限界ギリギリなのだから。
束の間のオフを楽しんでいた【榛名組】と【多摩組】の面々は至急ブリーフィングルームに呼び出され、数分のミーティングを経てから慌ただしく戦闘準備を整えていく。
今朝からストライクの本格的な修理を開始して完全に非戦闘員となったキラとて例外ではなく、整備要員として明石と手分けして各々の艤装の最終チェックに奔走する。
燃料弾薬の補給、装備の更新、曳航に必要な機材の調達、この短時間でやるべきことは山ほどあった。
そこでふと、生粋のMSパイロットであった青年は「整備兵はいつもこんな気持ちだったのかな」となんとなく想像した。
想像して、きっと想像よりもずっと辛いんだろうなとも結論づける。
銃を取るばかりが戦いじゃない、力だけが自分の全てじゃないと信じていたいが、やはりもどかしいものだ。だが戦えない己に不安と疑問を抱く余地は、今はない。
ストライクで出れないキラの出番はこの時この瞬間が全てで、他にできることと言えば存在しやしない神様に祈るぐらいだ。


なんてことだろう。
前日まで描いていた未来図は全て、儚く砕け散ったのだ。


本当になんてタイミングだろうと思わずにはいられない。
元々こうなる可能性が高いことぐらいはわかっていた。寧ろ前提であった。一軍事基地が専守防衛に努めるということは、常々脅威と隣り合わせであるということ。本当の意味での安息日なんて無きに等しいのだと、
ここにいる全員が正しく認識している。
だが、だとしても。言っても詮方ないことだけれど。
せめてあと二、三日ぐらい平和であってくれてもよかったじゃないかと、誰もが思った。
特にキラにとっては。響と明日の師弟対決(対夕立戦)に備えた作戦会議を、瑞鳳と日本語学の勉強とこれからの活動方針について話し合う約束を結んでいた青年にとっては、
この出撃がなにか良くないことの前触れではないかと感じてならなかった。
0216ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:29:59.77ID:LSOcb/FJ0
「しっかし、非番ってのはこういうもんだと解っちゃいるが、いきなり緊急出撃とはな。我らが第二艦隊のリーダー殿の気苦労は絶えないな?」
「もう、からかわないでください木曾。榛名は大丈夫です! それに鈴谷が加わってくれたおかげで多少なりとも戦力バランスは改善したのですから、何があろうとも確実に対処してみせます!」
「おおぅ、なんか鈴谷ってば頼りにされちゃってる? こりゃー張り切らないとだねぇ」

でも、だからって。辛気臭くイヤイヤ出撃する者はいなかった。
木曾が不敵に笑い、榛名が奮起し、鈴谷がおどけた。先の防衛戦の暫定第二艦隊にムードメーカーの最上型航空巡洋艦三番艦の鈴谷を加えた、四つの主力艦隊の一角たる【榛名組】のメンバーは、
こんな状況下でも明るい雰囲気を保っていた。
キラが正式に所属することになった艦隊の構成員である彼女達は、武装を換装しながらいつもと変わりないテンションで会話を交わす。

「その通りだ鈴谷。比較的に近接機動戦に特化してるのがオレ達の特徴だからな、実際オールラウンダーのお前の働きはかなり重要になってくる。むしろ中核を担う存在と言ってもいいだろう」
「頼りにしてますよ、鈴谷」
「・・・・・・ヤバい、口調は穏やかなのにすっごいプレッシャーを感じる!? 助けて熊野!!」
「鈴谷」
「え、なにさ瑞鳳・・・・・・、・・・・・・なにその静かな笑顔めっちゃ怖いんですけどなになに言いたいことあるならハッキリ言って頂戴!?」
「勿論ストライクはまだ修理中だから、キラさんの分まで頑張って?」
「ノーーーーゥ!? やだ期待が重すぎる!! 助けてぇーー熊野ぉーー!!!!」

若干、新人いびりの様相を呈していたが。
隕石が落ちてくるまでは旧第一艦隊の一員として一線を張り、金剛を庇って呉送りとなったという歴戦の猛者の鈴谷だが、その持ち前の軽いノリも相俟って弄られ役になることが多いらしい。
迫真の絶叫でただならぬ仲であると噂の熊野に助けを求める姿はなるほど、弄りたく気持ちも分からなくはない。
しまいには【多摩組】まで巻き込んだ漫才まで始まって、ボケにツッコミに大立ち回りするブレザー少女のリアクション芸に思わず笑みをこぼしてしまう。
まったく、この少女達は本当に強い。淀んでいた心がスカッとするようだ。

「・・・・・・よし。鈴谷さん、こんなんでどうかな?」
「んー、良い感じじゃん! これでバリバリ働けちゃうねぇ」
「良かった。・・・・・・次は――」
「キラー! ちょっとこっち手伝って! 響でラストだから!」
「――わかりました!」

そうこうしている内に、瑞鳳に続いて鈴谷を整備し終えたキラは、最後の仕上げとして響の艤装の調整に取りかかる。
視界にふわりと蒼銀色が舞う。それだけで何故か、不思議と、心の何処かが落ち着く思いがした。

「艤装、ぶっつけ本番になっちゃったね。大丈夫?」
0218ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:37:36.13ID:LSOcb/FJ0
「Нет проблем。あなたと先生が組んでくれたんだ、やれるさ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど・・・・・・、・・・・・・いやわかった。僕も僕で頑張るからさ、新しい君の力、存分に見せて」
「ふっ、やっぱりあなたは私のやる気を引き出してくれるね」
「おうおう二人だけで盛り上がってんじゃないですよーこんちくしょうめ。ほら、装備更新するよ響」

響の艤装はストライクの複製パーツを取り込んだ試作型だ。
昨日の整備で実戦投入可能ではあったが、ぶっつけ本番となると話は別。整備士の二人は改めて、手分けして試作一号機の艤装を入念にチェックする。
本来であれば明日の師弟対決に向けて――こうなった以上、実現するかも怪しくなってしまったが――午後から試験運転をする予定だったが、それももはや叶わない。
また響本人も、ペイロードの拡張に伴って大胆に構成を変更された装備に慣れていく必要がある。防衛戦当時はあり合わせの旧式兵器で武装していたが、今回は明石謹製の試作装備で出撃することになっているのである。
よって作戦海域に着くまでに繰り返し諸々を微調整しなければならないだろう。故に、今回の出撃には明石先生も同行することになっていた。
当の明石は、徹夜明けなのかひどい顔をしていたが、なんだか元気そうに倉庫の奥から引っ張り出してきた武装を次々取り付けていく。

「お、それが噂の新装備か・・・・・・、・・・・・・なんかストライクに似てるな?」

興味を惹かれてやってきた木曾が、出し抜けにそう言った。
確かにと、キラも装いを新たにした少女の姿を見やった。

「・・・・・・そんなにジロジロ見ないでくれるかな。流石に恥ずかしいよ・・・・・・」

若干頬を赤らめる少女だが、気にせず二人は嘗め回すように全身に視線を注いだ。
0220ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:39:32.86ID:LSOcb/FJ0
というのも、今の響の格好はどこか戦闘モードのキラに似ているように見えるのだ。


まず右手。これが一番目立つのだが、いつもはフリーとなっているその小さな手のひらにはゴツい大型ライフルが握りこまれていた。意匠としてはスナイパーライフルに近いもので、艦娘の携帯武装としてはかなり異質だ。
次に左腕。これもまた目立つ。特三型駆逐艦に標準搭載されている防盾の代わりに、より大きなゴツいシールドを装着しており、戦艦の砲撃だって防ぎそうな威圧感を醸し出している。
極めつけには両肩に小口径二連装機銃を一基ずつ搭載していて、確かにその装備構成はストライクのものにそっくりだ。というか、ほぼそのままモデルにしたものと思われる。
ちなみに響のトレードマークたる大型錨は後腰に懸架されており、他にも61cm三連装酸素魚雷発射管を両腰に一基ずつ装備してる。逆に言うと、そこしか以前の面影は残っていなかった。

「キラ、お前の趣味か?」
「光源氏計画・・・・・・」
「自分色に染め上げようと!? やっぱりキラさん、あなたって・・・・・・!」
「いやいやいや。僕関与してないから。趣味違うから」

木曾がジト目で呟き、榛名がどん引きし、瑞鳳が目を輝かせた。
いつの間にか【榛名組】は全員集合していた。そんでもって揃いも揃って、この場でたった一人の男性に何か言いたげな視線を送っていた。原因はどう考えても、響の新装備だった。
明石謹製の試作装備である。なのに、これは一体どういうことだろう。キラは仲間から早速ロリコンのレッテルを貼られようとしていた。彼の好みはお姫様タイプだというのに、ひどい冤罪もあったものだ。
尤も、慌てる青年以外は「やっぱりか、やっぱりなぁ」という心持ちなので、今更どんなことを言っても流されてしまうのだが。こういう時の男の立場というものは頗る低い。

「キラっち」
「鈴谷さん・・・・・・その突き出された手はなんだろう?」
「なんかさ、おんなじ匂いがするって思ってたんだよね・・・・・・へへ」
「ねぇ僕もうこういう扱い決定なの?」

哀れ、思わぬカタチで彼女らのテンションに引っ張り込まれたキラだった。

「いやー、我ながら良い仕事したー。これぞストライクをヒントに徹夜で作り上げた自信作、どうどうカッコイイでしょ?」

そんな将来の弟子の苦境を知ってか知らずか、実に良い笑顔で額を拭った【先生】(マッドサイエンティスト)こと明石。これは確信犯なのだろうか。

「どうって・・・・・・そりゃカッコイイとは思いますけど」
「でしょー! 響のスペックにものを言わせた専用装備の数々! もう概要からしてカッコイイでしょ!?」
「明石さん、とりあえず移動中は寝てくださいね? 調整は僕一人でやりますから」
0221ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:41:29.17ID:LSOcb/FJ0
「まずはこれ、作っちゃいました試製ライフル型13.5cm単装砲! これは凄いよ〜? 駆逐艦娘用でありながら軽巡用中口径砲並の火力と射程を実現したのです! 仰角皆無な単装砲と侮るなかれ、
シンプルな構造故に取り回しに優れてて近接格闘戦でこそ真価を発揮する、まさしく今の響にピッタリな装備なのだ!!」

徹夜のハイテンションがなせる業か、明石はキラの苦言を華麗にスルーして突然、マシンガンの如く武装説明をおっぱじめる。
後に聞いたことだが、彼女にはこういう悪癖というか性癖があるらしい。さもありなん。己の得意分野となると饒舌になってテンションうなぎ登りになるのが技術者というものだ。
それだけ、明石にとって今の響は魅力的ということだろうか。キラも最初こそ呆気にとられたものの、今の明石の気持ちは痛いほどよく分かってしまった。自分もソフトウェア分野だったらああなるのだから。
そして響も割とノリノリで、しっかり合いの手を入れていき、次第に明石の独壇場は三人による新装備講義になっていった。

「ライフル型だから、狙いもつけやすいね」
「まぁぶっちゃけ状況によっちゃ、いや普通の艦娘にとっちゃ12.7cm連装砲C型改二とかD型のほうが便利で優秀なんだけどね。でも響? スナイパーライフルをショットガンのように、しかも片手で扱うってロマンじゃん?」
「Хорошо、実に革命的で野心的じゃないか。これで無敵だな」
「無敵! YES! その言葉を待っていた!!」

すっかり蚊帳の外になって「うん、三人が楽しそうならいいや」と思う他一同である。ただ実際のところ仲間のスペックというのはとても大事な要素なので、皆も真面目に聴くしかなかった。
そして数分後。

「みんな、船の準備ができたよ!! 乗って乗って!!」

工廠に現れた白露の一言で、場の空気はガラリと変わった。
皆の背筋が一様にしてシャンと伸びる。
0222ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:43:09.15ID:LSOcb/FJ0
いよいよ出撃である。


これから【榛名組】と【多摩組】の面々は、高速哨戒船【いぶき丸】に乗り込んで問題の海域へと向かう。そこで【金剛組】と合流し、ナスカ級に接触するのだ。きっとこれも、大変な任務になるだろう。
怖じ気づいてはいられない。これからの未来をつかみ取る為に、成すべきを成す。
戦えない青年は祈った。
願わくはこの新しい力が、響自身が納得するだけの、一区切りとなる力でありますように。
願わくは誰一人として傷つかず、みんな無事でこの温かいセカイに帰ってこれますように。
だからこそ自ら一歩踏み出して、助けになると決めた少女に手を差し出した。

「いこう、響」
「うん、やってやるさ」

あまりに短い会話を交わして、乗船する。
いざ、未来図から外れた道へ。
その想いが通じたのか、響は鼓舞するようにポツリと呟いた。それは鈴のような、透明感のある幼い声で。

「不死鳥の名は伊達じゃない。響・特装試作型改式、抜錨する」

新しい己を再定義するような、力強い宣言だった。
0223ミート ◆ylCNb/NVSE
垢版 |
2018/03/06(火) 23:47:06.51ID:LSOcb/FJ0
以上です。もうやだ会社やめゆぅ・・・・・・

次回からようやく戦闘パートに移ります。頑張りますいろいろと
0224通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/03/09(金) 23:43:23.11ID:sjxEYP7r0
投下乙です!
ストライク風艦娘とはこれいかに

年度末、どこも仕事忙しいですね。お体をお大事に・・・
0225通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/03/10(土) 12:32:49.54ID:XYwGy+9c0
ナスカ級の奪還攻防戦、いいシナリオですね、燃えます。
深海側の動きが気になるところ、ナスカ級の生存者も。作者さんの体調も。

お大事に。
0226通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/03/12(月) 17:43:14.88ID:9Wi7X1nD0
僕の知り合いの知り合いができた副業情報ドットコム
役に立つかもしれません
グーグル検索『金持ちになりたい 鎌野介メソッド』

8V17E
0227通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/03/12(月) 18:53:08.96ID:VyAqVC320
某動画サイトだと一時期ストライク響とかフリーダム響とかが流行ってたな
まさかそのうちフリーダム響に進化するのかな
0228通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/04/25(水) 02:52:39.06ID:mmArQEwD0
彰悟さんの皇女の戦い、拝読させていただきました。
機体やファイティングスーツの色設定、スーツ装着シーンまであることに驚かされました。
個人的には、装着に慣れていく過程とか、最初の時の装着シーンとか見てみたいですね。
話の構成、戦闘描写だけではなく、こういう所にも手を抜かない姿勢は素晴らしいと思います。
続きを期待しています。
0230彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2018/05/01(火) 21:11:57.62ID:FbFskWd90
どうも、お久しぶりです。
去年末からずっと書けなくて本当にごめんなさい。

>>228
励みになるお言葉ありがとうございます。
スーツ着るシーンはちょっと書くのハズかったんですが、そこまで言ってもらえて本当に光栄ですw


そういえば、自分の話はマリナがある程度ファイトに慣れた時点でのスタートだったので
最初にガンダムに乗ったり、ファイティングスーツ纏った時の描写はしなかったんですよねw

......そして今日はもう一つ、実は皆さんにリライトのご相談をしに来ました。
話が終わってないのにわがままなことを言ってごめんなさい。
ですが皆さんのご意見をお聞きして書き直すか、このまま続けるか決めたいと思ってました。

確かに俺が書くのは不定期だったりで色々モヤっとさせてしまうこともあったかと思います...
本当に申し訳ないです。

ですが、序盤でのエピソードがやや簡単で急ぎ足だったかなと思い始めたのと
GF大会前の修行シーンやサバイバルイレブンでの話を最初に描きたいと考えてました。

「続きから書いて」「最初から書いてもいいぜ」etc...、色んなご意見を聞きたいのでよろしくお願いします。
0231通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/05/02(水) 00:50:53.95ID:HqhFJ6tM0
>>230
>>228でコメントさせて頂いた者です。
丁寧に応えて下さり、コメントした此方側としても嬉しく思います。

皆さんにリライトのご相談をしに来ましたとあったので
内容を読ませていただいた上でのご意見ですが
私は、彰悟さんの書きたいように書いてみたら...と思います。
ただ、個人的の欲深き話ながら、どんな路線であっても
スーツ装着シーンの描写は続けて欲しいと思います。
あくまで一つのご意見として捉えていただけたら幸いです。
0232彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2018/05/02(水) 11:08:31.29ID:cwcfCF2A0
すいません、言葉足らずでした。
自分が書いた相談と言うのは、リライトしても良いですかという意味でしたが
、ストーリーやキャラに関するアイディアも募ってるのかな?と受け取られる書き方にもなってしまいますよね。
気を付けます。

>>231
励ましの言葉、本当にありがとうございます。
こちらこそこれはお約束かな?と思って書いたシーンを好きになって頂けてとても嬉しいです。
リライトかこのまま続行、いずれにしても貴方の期待に応えられるよう装着シーンも頑張っていきますので。
0233通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/05/02(水) 14:11:17.13ID:djQCpeLg0
続きをまず書いてくれても、書きなおしたい所を書きなおしてまとめに両方 or 納得のいく方を残してくれても
どちらでも読者としては面白い

元々の弱気に時々強さをのぞかせながら国の為に健気に戦ってる姫様が好きです
0234彰悟 ◆9uHsbl4eHU
垢版 |
2018/05/03(木) 19:59:38.27ID:IBaqnBNu0
>>233
寛大なお気持ちに感謝です。

俺も大人しかったり弱気なキャラが懸命に行動してるのが書きたかったので、そう言って頂いて光栄に思います。

そうですね...
自分としては今までのものは止めて、リライトしたものをそのまま続行したいと思ってましたがそれでも問題ないでしょうか?
0235通常の名無しさんの3倍
垢版 |
2018/05/03(木) 20:10:36.03ID:nP58+g1r0
>>234
楽しみにしています。
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ニューススポーツなんでも実況