新人職人がSSを書いてみる 34ページ目 [無断転載禁止]©2ch.net

1通常の名無しさんの3倍2017/07/11(火) 22:59:05.15ID:2NKWfveH0
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
テンプレ無視や偽スレ立て、自演による自賛行為、職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、
外部作のコピペ、無関係なレスなど、更なる迷惑行為が続いております。

よって職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 33ページ目
http://echo.2ch.net/test/read.cgi/shar/1459687172/

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/ 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:669e095291445c5e5f700f06dfd84fd2)

2巻頭特集【テンプレート】2017/07/11(火) 23:01:18.97ID:2NKWfveH0
■Q1 新人ですが本当に投下して大丈夫ですか?
■A1 ようこそ、お待ちしていました。全く問題ありません。
但しアドバイス、批評、感想のレスが付いた場合、最初は辛目の評価が多いです。

■Q2 △△と種、種死のクロスなんだけど投下してもいい?
■A2 ノンジャンルスレなので大丈夫です。
ただしクロス元を知らない読者が居る事も理解してください。

■Q3 00(ダブルオー)のSSなんだけど投下してもいい?
■A3 新シャアである限りガンダム関連であれば基本的には大丈夫なはずです。
取り扱い作品は旧シャアで取り扱われている過去作および過去作の関連作を除いた
SEED・SEED DESTINY・OO・劇OO・AGE・GB・GBF・GBFT・Gレコとなります。(H27.3現在)    

■捕捉
エログロ系、801系などについては節度を持った創作をお願いします。
どうしても18禁になる場合はそれ系の板へどうぞ。新シャアではそもそも板違いです。

■Q4 ××スレがあるんだけれど、此処に移転して投下してもいい?
■A4 基本的に職人さんの自由ですが、移転元のスレに筋を通す事をお勧めしておきます。
理由無き移籍は此処に限らず荒れる元です。

■Q5 △△スレが出来たんで、其処に移転して投下してもいい?
■A5 基本的に職人さんの自由ですが、此処と移転先のスレへの挨拶は忘れずに。

■Q6 ○○さんの作品をまとめて読みたい
■A6 まとめサイトへどうぞ。気に入った作品にはレビューを付けると喜ばれます

■Q7 ○○さんのSSは、××スレの範囲なんじゃない?△△氏はどう見ても新人じゃねぇじゃん。
■A7 事情があって新人スレに投下している場合もあります。

■Q8 ○○さんの作品が気に入らない。
■A8 スルー汁。

■Q9 読者(作者)と雑談したい。意見を聞きたい。
■A9 現在模索中です。大変お待たせしておりますがもうしばらくお待ちください。

3巻頭特集【テンプレート】2017/07/11(火) 23:03:28.25ID:2NKWfveH0
〜投稿の時に〜

■Q10 SS出来たんだけど、投下するのにどうしたら良い?
■A10 タイトルを書き、作者の名前と必要ならトリップ、長編であれば第何話であるのか、を書いた上で
投下してください。 分割して投稿する場合は名前欄か本文の最初に1/5、2/5、3/5……等と番号を振ると、
読者としては読みやすいです。

■補足 SS本文以外は必須ではありませんが、タイトル、作者名は位は入れた方が良いです。

■Q11 投稿制限を受けました(字数、改行)
■A11 新シャア板では四十八行、全角二千文字程度が限界です。
本文を圧縮、もしくは分割したうえで投稿して下さい。
またレスアンカー(>>1)個数にも制限がありますが、一般的には知らなくとも困らないでしょう。
さらに、一行目が空行で長いレスの場合、レスが消えてしまうことがあるので注意してください。

■Q12 投稿制限を受けました(連投)
■A12 新シャア板の場合連続投稿は十回が限度です。
時間の経過か誰かの支援(書き込み)を待ってください。

■Q13 投稿制限を受けました(時間)
■A13 今の新シャア板の場合、投稿の間隔は忍法帖のLVによって異なります。時間を空けて投稿してください。

■Q14
今回のSSにはこんな舞台設定(の予定)なので、先に設定資料を投下した方が良いよね?
今回のSSにはこんな人物が登場する(予定)なので、人物設定も投下した方が良いよね?
今回のSSはこんな作品とクロスしているのですが、知らない人多そうだし先に説明した方が良いよね?
■A14 設定資料、人物紹介、クロス元の作品紹介は出来うる限り作品中で描写した方が良いです。

■補足
話が長くなったので、登場人物を整理して紹介します。
あるいは此処の説明を入れると話のテンポが悪くなるのでしませんでしたが実は――。
という場合なら読者に受け入れられる場合もありますが、設定のみを強調するのは
読者から見ると好ましくない。 と言う事実は頭に入れておきましょう。
どうしてもという場合は、人物紹介や設定披露の短編を一つ書いてしまう手もあります。
"読み物"として面白ければ良い、と言う事ですね。

4巻頭特集【テンプレート】2017/07/11(火) 23:05:08.83ID:2NKWfveH0
■Q15 改行で注意されたんだけど、どういう事?
■A15 大体四十文字強から五十文字弱が改行の目安だと言われる事が多いです。
一般的にその程度の文字数で単語が切れない様に改行すると読みやすいです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
↑が全角四十文字、
↓が全角五十文字です。読者の閲覧環境にもよります。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あくまで読者が読みやすい環境の為、ではあるのですが
閲覧環境が様々ですので作者の意図しない改行などを防ぐ意味合いもあります。

また基本横書きである為、適宜空白行を入れた方が読みやすくて良いとも言われます。

以上はインターネットブラウザ等で閲覧する事を考慮した話です。
改行、空白行等は文章の根幹でもあります。自らの表現を追求する事も勿論"アリ"でしょうが
『読者』はインターネットブラウザ等で見ている事実はお忘れ無く。読者あっての作者、です。

■Q16 長い沈黙は「…………………」で表せるよな?
「―――――――――!!!」とかでスピード感を出したい。
空白行を十行位入れて、言葉に出来ない感情を表現したい。
■A16 三点リーダー『…』とダッシュ『―』は、基本的に偶数個ずつ使います。
『……』、『――』という感じです。 感嘆符「!」と疑問符「?」の後は一文字空白を入れます。
こんな! 感じぃ!? になります。
そして 記 号 や………………!! 



“空 白 行”というものはっ――――――――!!!


まあ、思う程には強調効果が無いので使い方には注意しましょう。


■Q19 感想、批評を書きたいんだけどオレが/私が書いても良いの?
■A19 むしろ積極的に思った事を1行でも、「GJ」、「投下乙」の一言でも書いて下さい。
長い必要も、専門的である必要もないんです。 専門的に書きたいならそれも勿論OKです。
作者の仕込んだネタに気付いたよ、というサインを送っても良いと思われます。

■Q20 上手い文章を書くコツは? 教えて! エロイ人!!
■A20 上手い人かエロイ人に聞いてください。

5巻頭特集【テンプレート】補則@2017/07/11(火) 23:07:27.13ID:2NKWfveH0
>>4
■Q18 第○話、ではなく凝った話数にしてみたい
A18 別に「PHASE-01」でも「第二地獄トロメア」でも「魔カルテ3」でも「同情できない四面楚歌」でも、
読者が分かれば問題ありません。でも逆に言うとどれだけ凝っても「第○話」としか認識されてません。
ただし長編では、読み手が混乱しない様に必要な情報でもあります。
サブタイトルも同様ですが作者によってはそれ自体が作品の一部でもあるでしょう。
いずれ表現は自由だと言うことではありま

6通常の名無しさんの3倍2017/07/11(火) 23:16:26.24ID:2NKWfveH0
テンプレ終了
>>4 の最後が切れちゃってますなすいません
次スレ建てる時は
「いずれ表現は自由だと言うことではあります。」
でお願いします

7通常の名無しさんの3倍2017/07/12(水) 09:32:46.05ID:qMPoUJr60
>>1

8通常の名無しさんの3倍2017/07/25(火) 22:02:07.41ID:5Kg7ldJr0
投下乙

9通常の名無しさんの3倍2017/07/27(木) 23:45:49.50ID:DoXpCytN0
>>1

10三流(ry2017/07/29(土) 21:58:34.60ID:zpY24ern0
すいません駄文に蛇足しますね・・・

MS IGLOO外伝
「顎(あぎと)朽ちるまで」

あとがき

最後まで読んでくれた方・・・なんているのかおいw
まぁ素人丸出し、誤字多発なSSなんてとっくに見限られてるとは思いますが
それでも気分だけはラノベ作家のつもりで、あとがきなど書いてみようかと思います。

まぁ見ての通り、私はIGLOOが好きです、ええもうガンダム作品の中ではぶっちぎりに、
アニメ全体から見ても私の心をこれほど揺さぶった作品はまぁ稀でしょう。
なんでここまで好きかというと、IGLOO内のプロホノウ艦長の一言に集約されます。

「脇役は毎度のことだ」

そう、脇役が好きなんですよ、モブややられ役や日陰者や背景キャラの物語が。
伝説の英雄やら薄幸のプリンセスやらニュータイプやら運命の人やら
そんな人には興味ありません、少なくとも自分が描く物語には。

だって自分がそうですから。

ええ、ただの凡人ですよ、普通のオッサンですよ、ヒガミ入ってますよ、悪いか?ええおい。
でもそんな人にも物語あるでしょう、長い人生の中、少しくらいは。輝く時間が。
だけどガンダムはじめ一般のアニメでそんな人が輝くのはたいてい爆死する瞬間くらいでしょう
スレンダーが、クラウンが、トクワンが、デミトリーが、ジャブローの名もなきジムのパイロットが。

でもMS IGLOOは違います。時代遅れの大砲屋や戦車兵の、蹴散らされるだけのモビルポッドの少年たちの、
欠陥品を懸命にゴーストファイターに仕立てようとする悲しいピエロの、そして閑職に配属された
603技術試験隊の人たちの懸命のドラマがそこにはありました。
こんなアニメがあるのか、いや、こんなアニメを作ってくれる人たちがいるのか・・・もう一目惚れですわこんなん。

11三流(ry2017/07/29(土) 21:59:50.30ID:zpY24ern0
前作の「GBFsideB」にも多数のIGLOO機体が登場しました、やっぱ好きな機体に活躍してほしいし
GBFという素材なら脇役メカが活躍してもなんらおかしくはない、という思いがありましたから。
ただ、GBFという作品が好きかというと、正直そうでもなかったんです。
だってそうでしょ、サザキ君「お前ごときに!」で一蹴されるわ、カトーさん次回予告で敗北決定だわ
警備員たちは子供一人にノされるわ、どんだけレイジとメイジン贔屓の物語なんだよ、と。
sideBにはそんな作品へのアンチテーゼの意味も強く込められていました、だから主人公はボールだったんです。

それから約二年、新人SSスレは物凄い勢いで過疎ってしまいました。
ユーラシア兵さんが頑張ってくれてはいましたが、ほかの方の投稿も全然なく、なんか私の作品が
スレを終わらせたみたいで気が引けていました。もうSSは書かないと思っていましたが・・・

しかし最近になってミート氏の艦これとのコラボ作品が掲載され、
これは便乗して盛り上げねば、と思って駄文垂れ流しを決意しました。

やはり書くならIGLOOと思いましたが、同作品を「嫌い」と一蹴する人も結構多いです。
その原因のひとつが「連邦軍がチンピラすぎる!」というもの。
それならばそのチンピラたちの物語を描いてみよう、という発想に行きつき、
以前から妄想していた二つのSSネタ「シドニーとアイランド・イフィッシュで遠距離恋愛するカップル」と
「もしも603にザクレロが配備されたら」を取り込んで作品の骨子が決まりました。

主人公のジャック君は正直「薄いキャラ」です。透明なと言い換えてもいいかもしれません。
彼には「悲劇」と「尊敬する人物」「戦争」「部下」によって成長という色がついていくのを表現したかったんです。
そのための一番の色、それがサメジマの兄貴でした。実は彼にはモデルとなるキャラがいます、
某相撲漫画の準ラスボスで、王者でありながら相撲を愛し、研鑽を愛し、工夫、研究を楽しみ、
仲間の個性を大切に思う、作品内でもアニキと呼ばれる、そんなカリスマ性を持ったたくましい背中の漢。

12三流(ry2017/07/29(土) 22:01:12.05ID:zpY24ern0
ジャックの悲劇に釣り合うだけのポジティブさと説得力を持った人物、彼がいなくてはこの作品は
成立しなかったでしょう、事実最初の案ではジャックはア・バオア・クーでノーサイドってか?のセリフを吐き
戦死する予定でした。兄貴の言葉を支えに成長してきたからこそ、作品として曲がりなりにも
完走できたんだと思っています。。
また、最初の連邦のチンピラであるオハイオ小隊の隊長に彼を充てることで、連邦=チンピラではない、という
作品の前提を立てたかったんです。

話が進むにつれて、ジャック君以上に成長したのはこのSSそのものでした。
サメジマの兄貴の言葉が、ジャック君の成長が、ファーストガンダムやIGLOOの流れに沿った
単なるドキュメントから、彼の成長物語に引き上げてくれた、と言っていいでしょう。

それでも彼は仮にアムロと戦ったら「そこ!」の一撃で爆死でしたし、シャアと戦えば「邪魔だ」で
四散していたでしょう、それでいいんです。彼はあくまで普通の人ですから。
逆に言えば普通の人はどんだけ頑張ってもアムロにはなれませんが、
ジャック君くらいのレベルにはなれるよきっと、というメッセージでもあります。

エピローグで最後に彼がツバサちゃんと会えたのは、作者からの彼へのご褒美です
普通の人でも少々のロマンスくらいあってもいいじゃないかぁー!という願望ともいいますがw

このSSで粗末に扱ったキャラはいないと思ってます、ソーラレイで焼かれた部下3名は例外ですが
オハイオ小隊、デミトリー、カスペン、オリバー・マイ、ワシヤ、オッゴの学徒兵たち、
ワッケイン、エディ、ビル、ツバサ、最終決戦の少年兵たち・・・
だって彼らはシャアでもアムロでもなく、私の愛する脇役ですから。

駄文に駄文を足したあとがきでスレ汚して失礼しました、
脇役に幸あれ。

13ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:14:11.96ID:nW3T+6Hv0
新スレ初の投稿をさせていただきます
血を流すより、汗を流す方法を学べ。汗を流しておけば血を流さずに済む エルヴィン・ロンメル

連合兵戦記 8章 雌伏の時

――――――――――C.E 70年 12月22日――――――――

大西洋連邦領  ロズウェル空軍基地 地下


西暦期……まだアメリカ合衆国という国家が超大国として世界に君臨していた頃、墜落した未知の宇宙文明による宇宙船と宇宙人が囚われているという都市伝説で有名だったこの基地では、
地球連合の反撃の糸口となる新兵器の開発、実戦投入に向けて、パイロットの訓練が日夜行われていた。

滑走路の地下に建設された人工の大地……かつて倉庫だったその場所は、改装され、そこに設置された市街地を模した施設群の中では、
地球連合とザフト………二大勢力の技術の粋を集めて作られた鉄巨人達が戦っていた。

1体は、全身がライトイエローに塗装され、翼を生やした単眼の魔神を思わせる形状で人型でありながら、所々が人間とかけ離れている形状をしている。
対するもう1体は、全身をグリーン系統の迷彩色で塗装され、兵器であることを教えている。

その形状は、敵機とは対照的に人に近い形状で、頭部には2本のアンテナが生え、バイザー型のセンサーからは青白い光が放たれていた。片方は、ザフトの開発した初の量産型MS ジン
そしてそれと交戦しているもう片方の機体…それこそ地球連合を形成する3大国の1つ 大西洋連邦の試作MS グラディウスである。

グラディウスは、ジンの重突撃機銃を左腕のシールドで受け止めつつ、廃墟の一つに隠れる。ジンの撃つペイント弾を受けとめ続けた強化特殊合金製のシールドは、
子供の落書きの後のキャンバスの様なでたらめな模様に染められている。

ジンも、同様に廃墟を即席の盾にする。グラディウスの胸部のコックピットで、橙色のヘルメット付パイロットスーツを着こんだ操縦者は、何度も荒い息を吐いていた。

彼………ハンス・ブラウンは、機甲歩兵指揮官から、この人造の巨人の操縦者となっていた。

「糞!当たれ!」

廃墟の合間を動く影を見たハンスは、トリガーを引いた。

グラディウスの両腕に抱えられた巨大な機関銃 52mmガンポッドの砲口にマズルフラッシュの輝きが生まれ、模擬戦闘用のペイント弾頭が発射される。

このガンポッドは、元々開戦前に研究されていた大型攻撃機の主力兵装になる筈だったものをモビルスーツ用に改造したものである。

大西洋連邦軍は、自軍のMSの主力兵器にはビームライフルを採用する予定だった。だが、
ビームライフル開発が失敗した場合のピンチヒッターとして52mmガンポッドを含め、数種類の実弾式のMS用火器を開発していたのであった。

その大半は、戦場で鹵獲したザフトのジンの装備火器のコピー品だったが、少数は独自開発したもので、52mmガンポッドはそれら少数派に該当した。

またビームライフルは実物こそ完成したものの練習機に装備する予定の訓練用模擬ビームライフルは開発リソースが他に取られたこともあり、未完成で、
このエリア51には、模擬ライフルは納入されていなかった。
その為、この52mmガンポッドを急遽、グラディウスの装備火器として採用しているのである。

14ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:20:32.50ID:nW3T+6Hv0
廃墟にペイント弾が着弾し、蛍光色の塗料が灰色のコンクリートに歪な模様を生み出す。直後、廃墟からザフト軍の主力MS ジンが飛び出す。
ハンスのグラディウスは、右腕のガンポッドを連射する。

「あたったか!ちっ」

ジンは、スラスターを巧みに使ってその攻撃を回避する。命中したのは数発だけで、ジンを撃破認定するには至らない。
一瞬有効打を与えたと思ったハンスは、敵に対したダメージを与えられていないことに落胆した。

「…!」

数ヵ月前までこの男は、ヨーロッパ戦線で指揮下の部隊と共にモビルスーツを擁するザフトを相手に善戦した機甲歩兵指揮官だった。
今彼は、地球連合軍の試作モビルスーツ グラディウスのパイロット訓練生の一人として部隊間模擬戦闘訓練に参加していた。

ハンスの所属する訓練部隊のグラディウス4機とアグレッサー役のジン4機の戦闘は、約30分続いており、現在、グラディウス部隊で生き残っているのは、
ハンスだけだった。対する模擬戦闘の相手は、まだ2機が残っている。
早く1機を撃破しなければ…焦るハンスの心を更に追い詰める音が彼の耳朶を打った。コックピットに敵機の接近警報が鳴り響いたのである。

「ちっ!もう合流してきたか。」

ハンスにとって最も恐れていた事態が起きた―――――先程、僚機のグラディウス2機を撃破したもう1機のジンが合流したのである。そのジンも無傷ではなく、
背部のスラスターを2基共損傷し、右腕もペイント弾塗れで使用不能に陥っていたが、
戦力としての意味は大きいと言えた。特に相手がグラディウス部隊の最後の生残機のパイロットであるハンス・ブラウン少佐の様な未熟な技量の持ち主の様な場合は。

更に言えば、先程まで3対2だった戦いは、1対2に逆転する。そうなれば、形勢は一気にハンスらの対戦相手であるアグレッサー部隊に傾くことになる。
2機のジンを相手にハンスは、戦うことになるのである。まだ完全に操れているとは言い難いモビルスーツで…。
こうなってしまえば勝ち目は殆どない。第2次世界大戦のエースパイロット エーリヒ・ハルトマンは、「僚機を失った者は戦術的に負けている」という名言を残している。
モビルスーツと戦闘機の違いはあれど、僚機の喪失は、致命的である。
1人だけで2人の敵を相手にするのがいかに危険かということは、訓練を受けた軍人だけでなく、初等教育も怪しいスラムで育ったギャングの少年少女でさえ常識である。

ハンスは、この厳しい状況に歯噛みしつつ、諦めることは無かった。実戦では、諦めは死への近道である。そして、その感情を彼は、極力抱かない様に務め、事実そう振る舞っていた。

「当たれ!」

ハンスのグラディウスは、手前のジンに向けてガンポッドを連射した。手前のジンは、その攻撃を回避すると、遮蔽物にしたビルに隠れながら銃撃を浴びせる。
それらの銃撃は、散発的で、敵を倒すというより、足止めする為のものであった。
事実、そのジンのパイロットの目的は、ハンスのグラディウスの足止めにあった。
僚機と合流すれば、自部隊の勝利は確定するのだから、無理に敵を撃破する必要はない…そう判断したのである。
だが、ハンスのグラディウスが、ジンのパイロットの予想に無い行動をとった。銃撃戦を行うだけだと思ったグラディウスが、シールドを前面に立てて突進してきたのである。

「自殺しに来たか?」

ジンに乗るアグレッサー役のパイロットは、毒づきつつ、集中射撃を継続しようとした。
だが、それはハンスが更に予想外の行動をとったことによって阻止されてしまった。
目の前の敵機は、左腕に装備したシールドを投げつけたのである。

ジンは、その予想外の行動に対処できず、シールドの直撃を受ける羽目になった。
少なく見積もっても1tは軽く上回る質量を有する金属の塊が加速を受けて激突したのである。
堪らずジンは、体勢を崩しその場に崩れ落ち、後方のビル…正確にはビルを模した張りぼてを粉砕した。

15通常の名無しさんの3倍2017/08/02(水) 00:23:22.82ID:XsuTNP1o0
支援

16ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:23:28.60ID:nW3T+6Hv0
そのチャンスをハンスは、見逃さなかった。ハンスのグラディウスが右手の52mmガンポッドを構える。

「止めだ」

ハンスはトリガーを引いた。だが、彼の期待に反し、ガンポッドから、ペイント弾は、1発も発射されなかった。
その代わりにガンポッドの弾薬が底をついたことを知らせる警報音が虚しく響いた。

「ちっ」

弾薬を使いすぎたか! 心中でハンスは毒付く。グラディウスの右腕のガンポッドから空になった弾倉が自動的に排出される。
その隙にジンは体勢を立て直そうとしていた。

弾倉を交換している暇はない。目の前のジンを撃破する為には、ビームサーベルを使用するしかない!

そう判断したハンスは、機体を操作する。背部に装備されたビームサーベルが抜かれ、
サーベル基部が握られたグラディウスの右腕を起点に鮮やかな光の刃が伸びた。ビームサーベルは、グラディウスの装備兵器では、最も高い威力を有した兵器である。

しかし、今は、模擬戦闘用に設定されている為、実際の破壊力は殆どない。それでも、模擬戦闘に参加している双方のパイロットのモニター上では、CG補正により、実戦と同様の輝きを見せていた。
模擬サーベルを右手に握ったハンスのグラディウスは、ジンにそれを振り下ろす。

ハンスは一瞬それで勝負が決まったと思った。だが、ジンのパイロットは、その動きに対応できていた。
間一髪ジンは、右手に重斬刀を保持して迎撃する。

3D処理された仮想空間の上で機械仕掛けの単眼の魔神が自身に振り下ろされる荷電粒子の刃を受け止める。

「くっ!これが…」

コーディネイターの力か・・・…。相手の反応速度の素早さに舌を巻きつつ、ハンスは、相手に止めを刺そうとする。
そのまま行けば、出力に勝り、体勢でも有利なハンスのグラディウスがジンをビームサーベルで撃破していただろう……だが、そこで時間切れとなった。

もう1機のジンが合流してきたのである。新手のジンが、左腕に握った重斬刀を振り上げてハンスのグラディウスに接近する。

「くぅ…このままでは」

ハンスは、このままでは不利だと判断し、追い詰めていたジンに頭部のイーゲルシュテルンを叩き込みつつ、後退した。もう1機のジンが重斬刀で切りかかってくる。
ジンの機体重量を上乗せしたその重い一撃をハンスは、何とかビームサーベルで受け止める。
ハンスのグラディウスは、後退を余儀なくされる。

その隙に先程追い詰めていた1機のジンは、彼に重突撃機銃を向けていた。ジンの右腕の重突撃機銃が火を噴く。

この距離では、回避は不可能、左腕にマウントされた防御用のシールドは間に合わない。スローモーションの様にハンスの認識の中で時間が流れた

その直後、ペイント弾が、グラディウスの胴体装甲に着弾し、蛍光緑色に染めた。撃破判定を受け、頭脳、神経に当るコンピュータを停止させた試作モビルスーツ グラディウスは、動きを止めた。

17通常の名無しさんの3倍2017/08/02(水) 00:24:36.78ID:XsuTNP1o0
しえん

18ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:32:40.11ID:nW3T+6Hv0
模擬戦闘であった為、両者は無傷であったが、実戦ならグラディウスは、胴体を蜂の巣にされて爆発していたことは確実だった。

「くそっ!!」

ハンスは沸き起こる怒りのままに拳を己の膝に叩き付けた。機体の正面モニターには、大きくYOU LOSEの文字が明るい赤色で表示されていた。
これは、グラディウスのOSを担当した技術者の遊び心であったが、パイロットの心情をこれ程苛立たせるものも無かった。
今回の模擬戦闘は、4機のグラディウスとアグレッサー部隊のジン4機による、市街地を再現したエリアでの模擬戦闘である。
ハンス達は、集中攻撃で1機のジンを撃墜し、もう1機を1機が、刺し違える形で撃破し、3対2に持ち込んだが、その後、
2機のグラディウスがジンに撃破され、残されたハンスも撃破されたことで逆転負けを喫した。
模擬戦闘でアグレッサー部隊に勝利した訓練生部隊はまだ10回程度しかない。…グラディウスとジンの性能差は、前者の方が若干上回っている…
それを考慮すると、問題は機体性能ではなくパイロットの方であった。
グラディウスの操縦訓練を受けるパイロット達は、決して無能というわけではない。
むしろ彼らは、様々な部署から選ばれた精鋭であり、それは、ナチュラルにとってモビルスーツの操縦がいかに困難かということを示していた。
偽りの戦いの勝者と敗者は、それぞれ帰るべき場所……格納庫に戻った。4機のグラディウスがハンガーにその機体を横たえ、
胸部のコックピットからパイロットが次々と外に出る。
30分近い模擬戦闘を経験した彼らは一様に疲労していた。
元機甲歩兵中隊指揮官 ハンス・ブラウン少佐も例外ではなかった。

「…はあっはっ」

機体をハンガーに格納させたハンスは、這い出る様にコックピットから出た。彼の身を包むパイロットスーツの内側は汗で濡れ、酷使された筋肉は発熱していた。
その呼吸は荒く、炎天下で何時間もランニングをした後の運動選手の様だった。

「少佐!冷やしておきましたよ!」

若い整備兵が、コックピットから出たばかりの彼にスポーツドリンクの入ったペットボトルを差し出した。

「ラーマン軍曹か…ありがとう。いつも助かる。」

ハンスはその整備兵に感謝の言葉をかけると、右手でそのプラスチックのボトルを受け取る。
モビルアーマーや戦闘機や機甲歩兵と同様にモビルスーツの操縦は体力を大きく消費する。その為水分補給は欠かせなかった。
ハンスは、貪るようにペットボトルに満たされたスポーツドリンクを飲み干した。
彼が、実機を使用した模擬戦闘を行うのは、これが10回目だったが、未だにMSを操縦することに慣れることは無かった。

ハンスら、グラディウスのパイロットは、試作モビルスーツ グラディウスの再転換訓練に従事していた。また彼らには、訓練だけでなく別の任務も与えられていた。
彼らに与えられた任務とは、実機を使った訓練を行うことによる地球連合軍のモビルスーツ部隊運用の研究―――――――
それには、モビルスーツの運用ノウハウと戦術を確立することも含まれる。
更に彼らは、実戦に出ることも前提に考えられていた。ハンスを含むグラディウスを与えられた訓練生は、その全員が、地球連合の反撃の切り札となるであろう人型機動兵器 
モビルスーツのパイロットになる可能性を秘めていると言えた。だからこそ、ハンスは、この機械仕掛けの巨人に乗り込むことを志願したのである。
現在の戦争における最強兵器の地位を確立したモビルスーツを操縦することが出来れば、
前線で1人でも多くの地球連合軍兵士の命を救い、ザフトに打撃を与えることが出来る。
そしていつかは、あのシグーのパイロットを………。
だが、今のハンスのモビルスーツパイロットとしての技量は、実戦に出るまでには至っていなかった。
ハンスらMSパイロット候補として選ばれた兵士達が操縦する試作MS グラディウスは、
遺伝子操作によって能力を強化されたコーディネイターによる操縦が前提となっているジンと異なり、
地球連合軍の大半を占めるナチュラルでも操縦できるようにOSの改良が重ねられていたものの、
その性能は未だに低く、グラディウスのパイロットに選ばれた訓練生達は、未だに実戦に耐えられる操縦技量を得ることは出来ていなかった。

19ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:35:41.55ID:nW3T+6Hv0
「申し訳ありません!小隊長、私のミスが無ければ!」

赤毛の女性士官 ニーナ・アントノフ少尉は、目の前の指揮官 ハンス・ブラウン少佐に頭を下げ、大声で謝罪した。
機甲歩兵上がりのハンスの堂々とした長身と比較すると彼女の体格は、小柄で頭一つ低かった。今回の模擬戦闘で、彼女は、グラディウス3番機に乗り込んでいた。

「私にも責任はあります!自分が無理に接近戦を挑まなければ…」

ニーナの右隣にいた漆黒の巨漢…ジョン・ハンフリーズ少尉がその厳つい顔を申し訳なさそうに歪めて謝罪する。
海兵隊の戦車兵上がりのこの男は、基地内では、隊員同士のレクリエーションで行われているバスケットボールのエースとして知られ、
その2メートル近い巨体に見合わぬ素早い身のこなしから、ステルス爆撃機の異名を持っていた。
生身では、素早い動きを見せる彼も、モビルスーツパイロットとしては、他の訓練生と同じく鈍重な動きしか出来なかった。
今回の模擬戦闘で、グラディウス2番機に搭乗していた彼は、アグレッサー役のジンと接近戦で、無理に突進して撃墜されていたのである。

「……」

グラディウス4番機に乗っていたフレドリック・バーンズ少尉も悔やむ様に顔を顰めていた。彼は、模擬戦闘の序盤にアグレッサーのジンと刺し違える形で1機を撃墜することに成功していた。

「2人とも、いい。今回は、指揮官である俺の判断だ。さっきの模擬戦闘の結果も俺の責任だ…それに俺も、褒められた操縦をしていたわけじゃない。」
「いいえ!ハンス隊長の判断は、的確でした」
「ガンポッドでは、威力が足りません。せめてビームライフルが配備されていたら…」

ハンフリーズは、ビームライフルが未だに配備されてこないことについて愚痴った。ビームライフルの火力があれば、
アグレッサー部隊との戦いを有利に進められるのではないかと考えていたのである。

「それを言うな。前線では、武器を選んでいられない。実戦で敵に今は、武器が揃っていないので次の戦いまで待ってくれ、という事は出来ないからな」

ハンスは、部下に諭すように言う。その発言は、彼の経験に基づくものであった。
彼が数ヵ月前までいたヨーロッパ戦線で準備不足、装備の不足は日常茶飯事だった。部下に損害が出る度にもう少し、準備が出来ていれば、装備が揃っていれば…と思うことも度々あった。
だが、それらの経験を経た結果、ハンスは、実戦において完璧な準備というものは、不可能に近いのだという事を十分に認識していた。
だからこそ、与えられた装備でも戦えるようにすることが大切だと考えていた。
「全員、次の模擬戦闘に備えて待機室で休憩しておけ」
「はい!」

3人のパイロット訓練生は、指揮官に敬礼すると去って行った。

「…(この機体を未だにまともに操縦できない俺が、偉そうに説教できる立場じゃないんだけどな)」

休憩室へと歩いていく部下達の背中に見つめ、ハンスは、心の中で自嘲した。

20ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:40:27.07ID:nW3T+6Hv0
格納庫には、彼らが模擬戦闘に使用した緑色のモビルスーツ…グラディウスが4機その巨体を誇示する様に佇んでいた。

試作モビルスーツ グラディウスは、12機の試作機が既に組み立てられ、地球連合軍…正確には、大西洋連邦の陸海空、そして宇宙の4軍から選び抜かれた兵士達が、将来の地球連合軍MS部隊の編制の基礎となるべく訓練を受けていた。
このエリア51での戦闘訓練とMS開発について全容を知っているのは、大西洋連邦の軍上層部のみである。
これは地球連合内での3国の主導権争いが関係している。

最初にモビルスーツを量産できた加盟国が地球連合内の主導権を得ることは確実で、大西洋連邦としては、それまでのライバル国であるユーラシア連邦、東アジア共和国よりも早くモビルスーツを開発したかった。
そのことは、プラント占領後の利権獲得等の戦後処理で優位に立つことに繋がるのである。これは、大西洋連邦以外の2か国も認識しており、
ユーラシア連邦や東アジア共和国等も独自のMS開発を進めている。そのことを大西洋連邦は、十分に情報を得ていないものの、
向こうも多大な費用と人的資源を注入しているのは、確実であると大西洋連邦上層部も考えていた。

その為に大西洋連邦は、エリア51の地下にこの巨大な訓練施設を建設することまでしていたのである。この広大な地下空間は、
元々、開発中の機体や予備の機体等を保管しておくための施設だった。

空軍基地の周囲の地上に模擬戦闘用の施設に転用可能な土地が余る程存在するにも関わらず、この様な地下施設が建設されたのは、ザフトに発覚するのを警戒してのことである。

ザフトは、北米大陸に拠点を有してはいないし、3大国が互いの領土を偵察するのに用いていた高高度偵察機の類は未だに保有していない。

21通常の名無しさんの3倍2017/08/02(水) 00:42:54.61ID:nW3T+6Hv0
大西洋連邦の軍首脳部が恐れたのは、遥か碧空の上、真空と暗黒が支配する宇宙空間……そこに展開する偵察衛星や宇宙艦隊の艦艇の観測装置による偵察行動である。

宇宙空間からの偵察は、西暦末期実用化された技術で、ザフトと地球連合の宇宙艦隊による地球周辺の制宙権争いが激化しているのもこれが理由である。
西暦のある時代には十分な国力と技術力のある国しか打ち上げられなかった人工衛星も、C.E 70年代では、一民間企業ですら運用可能な代物になっている。

更に軍用の偵察衛星も、小型化、高性能化が進み、専門の基地ではなく、前線の地上部隊ですら、ミサイル車両を転用した発射台や輸送機を利用して人工衛星を打ち上げる時代である。
人工衛星のカメラの解像度も、地上の装甲車両や艦艇から、砂糖に群がる虫やコンクリートの染みまで鮮明に映し出せるまでに性能は向上していた。

更に宇宙艦艇も宇宙の敵を捉える為のセンサーと同じ位、地上の敵を監視する為のセンサーを搭載している。今では、殆どが退役したが、
C.E 60年代には、専門の軌道偵察艦という艦種さえあった程である。

これは、初期の宇宙艦隊が、地上軍との連携を前提に編成されたという経緯と関係している。

初期のスペースシャトルや宇宙ステーションを武装化しただけの各国の宇宙軍は、地上の敵国の監視や大陸間弾道弾の迎撃、
敵の偵察衛星、シャトルの破壊等、地上軍の支援がその主な任務だったのである。

それらの天空からの目から自軍の切り札であり、ザフトに対する反撃の糸口となるモビルスーツ開発計画を隠す目的で、地下に建設されたのである。

この広大な地下空間だけでこのモビルスーツ開発計画に大西洋連邦がいかにこの計画に重要視しているかが窺えるというものである。

22ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:44:56.56ID:nW3T+6Hv0
また模擬戦闘の相手を務めるアグレッサー部隊のジンを操縦するのは、コーディネイター系軍人である。

彼らは、グラディウスのパイロットと同様に厳格な守秘義務を義務付けられているだけでなく、体内へのICチップの埋め込みの強制や思想チェック、
更には任務外のプライベートの時間でさえも常に監視が付けられていた。

ある意味で捕虜収容所の捕虜よりも厳重に管理される彼らの扱いは、地球連合が、ザフトと同じコーディネイターの兵員を完全に信用しきれずにいることの証左でもある。

25分後、訓練教官と上官への報告を終えた地下の訓練施設から出たハンスは、エレベーターで地上に向かった。

エレベーターのドアには、「エネルギー節約の為、階段を使おう」というスローガンが黄色いゴシック体で描かれている。

この基地以外の多くの政府関係施設でもよく見ることのできる政府のスローガンの一つである。だが、現在の訓練で疲弊したハンスは、
それを無視し、エレベーターに乗り込んだ。エレベーターには、ハンス以外に3人の整備兵が乗り込んでいた。

地上階に出たハンスを最初に出迎えたのは、地上を吹き荒れる砂混じりの熱い風だった。この風が顔に触れると同時に、彼は、自分が地上にいることを実感させられた。

ハンスは、隣接する食堂に向かった。彼が向かった食堂……正式名称は、第2中央食堂は、地上に存在しており、このエネルギー危機の中では、珍しく開戦前と同じバリエーション豊かな料理を食べることが出来た。
防弾ガラスで出来た自動ドアのセンサーがハンスの存在を感知し、ドアを開けた。

食堂のドアが開くと同時に食欲をそそる香りが彼の鼻腔を刺激する。訓練後の空腹に堪える匂いにハンスは、早く並ばなくてはいけないな…と思った。

5分後、彼は、料理が盛られた皿やボウルが乗ったトレーを手に持ち、座る為の席を捜していた。

昼食の内訳は、ガーリックチキンステーキとトマトとレタスのサラダ、大盛りにした白米、コーンスープというもので、
体力仕事である軍人の食事としては比較的あっさりとしたメニューであった。ハンスは、両手に料理を乗せたトレーを持って座席を捜す。

23通常の名無しさんの3倍2017/08/02(水) 00:45:23.28ID:XsuTNP1o0
しえ?

24ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:47:42.15ID:nW3T+6Hv0
「(またプロパガンダか…)」

食堂の中に響き渡る電子機器からの声にハンスは辟易した。食堂の柱のいくつかには、薄型テレビが填め込まれており、鮮明な映像を見せていた。

テレビに映されるのは、地球連合のプロパガンダ放送やそれに附随する番組ばかりである。現在テレビには、本日の放送内容が映し出されていた。
ちなみに今日の朝の番組内容は『ネイティブ・アメリカンから学ぶ保存食・非常食の知恵』『週間愛国ニュース』『ラスト・ガンファイターV』であった。

1つ目は、NJ後のエネルギー危機による食糧確保の問題とその保存手段を少しでも改善すべく、大西洋連邦政府が、限られた資源と手間でも可能な食料の保存法や非常食についての知識を
市民に周知させる目的で制作された番組である。

2つ目は、C.E 70年8月から配信が開始された番組で、その内容は、前線や後方での地球連合兵士や部隊の活躍を紹介したもので、戦時プロパガンダの性格が強い。
ハンスが数ヵ月前に率いていた第22機甲兵中隊も1度紹介されたことがある。

最後は、C.E 15年に第一作が制作された戦闘機パイロットを主役にした大西洋連邦の人気映画シリーズである。何故Vから放映されているのかという理由は、政治的理由である。

TとUには、当時大西洋連邦空軍のパイロットだった、ファースト・コーディネイター ジョージ・グレンがエキストラとして出演しているからである。
ハンスは、窓際のカウンター席が空いているのを見つけ、その席の一つに腰かけた。

「ハンス少佐、今日の模擬戦闘見ましたよ。流石です。」

席に腰かけたハンスの後ろから声をかけたその角刈り頭の男は、防塵ゴーグルを着用していた。

「それは嫌味か?」

ハンスは肩を竦め、防塵ゴーグルを掛けたその男…ハンスと同じグラディウスのテストパイロットであるグレン・ターナー中尉は、
ハンスの左隣の席に座った。彼の今日の昼食は、合成蛋白のビーフステーキと添え物のフライドポテト、Lサイズのチーズバーガー、魚介類とトマトのパスタ、チキンスープ、ストロベリー味のアイスクリームと言う高蛋白なメニューであった。

普通の人間が見たら良くその痩身を維持できているなと感心しているところだが、ハンスは繭一つ動かさない。

モビルスーツパイロットと言うものがイメージ以上に体力を必要とする職種であると認識しているからである。

「違いますよ。負けは、負けでも今回の貴方の部隊の敗北は、惜敗と言う奴ですよ。」

ターナーは、そう言うと、ナイフとフォークを手に取って合成蛋白のステーキを解体する作業を開始した。

皿の上で白い湯気を立てるその物体は、一見すると本物の牛肉を使ったものと見分けがつかない。
だが、その味は、本物に幾らか見劣りするものだった。合成蛋白の肉の味を前線で散々味わってきたハンスは、
一応≠ヘ、本物の鶏肉を使っているチキンステーキを選択することにしていた。

「ハンス少佐、隣よろしいですか」
「ああ」

ハンスの右隣の席に座ったすらっとした長身に短く切り揃えた金髪が特徴的な士官…ハイラム・エリクソン中尉は、ターナーと同じ部隊の所属である。
彼が手に持っているトレーには、大盛りのエビピラフ、マカロニ&チーズ、チキンブリトー、ハム&トマトサラダ、ダイエットコーラである。

25ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:50:02.03ID:nW3T+6Hv0
「ターナー、よくそんなハンバーガーが食えるな。犬が食べられるって評判だぞ」

ハイラムは、そんなターナーを皮肉った。

「ふっ、犬も食わないハンバーガーの方が可笑しいね」

ターナーは、合成肉のパティとチーズ、数種類の野菜とそれを挟んでいたパンを嚥下しつつ、言い返す。

「飯に文句を言うな。気持ちは分かるがな、食えない奴らも大勢いるんだ。」

ハンスは、ハイラムを窘める。

NJによって齎された通信障害とエネルギー危機によって大量消費社会だった地球随一の大国であった大西洋連邦の状況は一変した。

国外からの輸入はストップし、更に国内でも通信障害によって開戦前の大西洋連邦の流通のかなりの割合を支えた
無人トラックのコンボイを用いた無人流通網も壊滅を余儀なくされた。

これにより、厖大な人口を抱える大都市を中心に各都市では、食料品を初めとする生活必需品が不足し、遠隔地では、多数の凍死者、餓死者が発生した。
様々な食料品で溢れていたスーパーマーケットやコンビニは、瞬く間に空の棚で溢れかえり、次々と閉店に追い込まれた。

また辛うじて物資の供給の続いている店舗は、政府の食糧配給センターに改装されたり、略奪を警戒して州軍や警察による警備が行われた。
食糧の生産地でも、化成肥料や飼料を調達できず、作物や家畜を餓死させるしかない状況に追い込まれる地域が相次いだ。

大西洋連邦政府は、核戦争に備えて各都市に建設されていた地下シェルターに保管されていた保存食料の放出を行った。
5月7日には、一部地域では、州政府の判断により食糧が、配給制に移行。(ユーラシア連邦初めとする地球の大半の国家では、食料の完全配給制に移行している。
一部の国家では、地球連合か親ザフト国家の占領を受け入れることで状況の好転を図った。)
更に無人流通網の再建も図られ、従来の無人トラック数両と指揮車両を1単位として編成される輸送部隊が各都市への食糧輸送に従事した。

この緊急輸送部隊は、途中で生活の為に一部市民によって襲撃されることさえあった。(更に南の旧南アメリカ合衆国領の状況は、想像を絶するもので、
軍の遺棄兵器を手に入れた犯罪組織や少数民族ゲリラ、民兵等が、民間だけでなく、占領している地球連合の補給部隊や軍に補給任務を委託された企業を襲撃する事件が多発していた。)
今では、これらの対策の為にPMCや州警察が護衛に従事していた。

民間の企業や政府機関だけでは、手が足りない為、州軍のみならず、大西洋連邦正規軍の輸送部隊までが動員されていた。
更に鉄道では、それまで人間を各地に運んできた列車までもが、食糧や生活必需品の輸送に従事させられていた。
この様な情勢下で、これだけのメニューをこの砂漠に囲まれた大西洋連邦の辺境とも言えるロズウェル基地の食堂が維持できているのは、驚異的なことだと言える。

今や開戦前に10種類のハンバーガーを客に提供してきたハンバーガーチェーン店や数十の地域の民族料理がメニューに記載されていたレストランも、
ハンバーガーやサンドイッチしか注文できない惨状に追い込まれていた。

26ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:52:05.61ID:nW3T+6Hv0
「…すみません。」
「にしても…外の飛行機…いつまでここで腐らせておくつもりなんでしょうね。」

ハンバーガーを食べ終えたターナーが、右手で窓の向こうを指差す。ハンスらは、防弾処置の施された窓硝子を隔てた食堂の外を見た。

窓の外には、滑走路や管制塔、格納庫といった空軍基地として必要な施設が林立している。食堂と隣接する滑走路には、
大西洋連邦軍の戦略爆撃機 B-7とその無人型QB-7が駐機されていた。
更にその奥には本来であれば、すでに退役しているはずの再構築戦争期に開発されたB-6戦略爆撃機の列線があった。
そして、その更に向こうには、黄色に染まった不毛の砂礫がただ広がるばかりであった。

「…(地の果てか)」

ハンスは、初めてこの基地に来た時に同じ旅客機に乗っていた兵士が、言った言葉を思い出していた。

「そういやターナー、お前の部隊は、勝てたらしいな。」
「ラケル中尉がいたお蔭です。彼女がいなかったら、私の部隊は、3分と持ちこたえられませんでした。」

ラケル・ジェニングス中尉……格闘戦での成績は、訓練生の中でもトップクラスであり、
対戦相手のコーディネイター系軍人の操縦するジンを格闘戦で撃破出来た数少ない訓練生であった。

その高い実力と反比例するかのようにMS訓練部隊に所属する以前の経歴は謎だった。

彼女が何処の軍、部隊に所属していたのか一切不明で、本人も語ろうとはしなかった。その為、彼女の容姿と相まって多くの基地の人間が、
「元特殊部隊員」「ハーフコーディネイターなのでは?」「コーディネイター並みの身体能力を与えられた改造人間」等といった無責任な噂に花を咲かせていた。
ハンスは、そのどれもが余りにも荒唐無稽だと考えていた。

「彼女は、コーディネイター並みの強さだからな。」

荒唐無稽な噂を信じないハンスも、ラケルの実際の強さについては十分に認識している。
彼は一度、訓練生の部隊同士の模擬戦闘で戦ったことがあった。
その時は、あっという間に近接戦闘に持ち込まれ、真っ二つにされてしまった。

ヨーロッパ戦線で、彼が交戦したザフトのモビルスーツでもあれ程の反応速度を有した機体はそうはいなかった。流石にあのシグーには劣っていたが。

27通常の名無しさんの3倍2017/08/02(水) 00:52:46.93ID:XsuTNP1o0
支援

28ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:55:28.20ID:nW3T+6Hv0
「おっ、噂をすれば………」

チキンブリトーを片手に持ちながらハイラムは、食堂の一角に視線を落した。
彼の視線の先には、ラケル・ジェニングス中尉がテーブル席に座って、食事を取っていた。

彼女の今日の昼食は、タコスとスクランブルエッグ、トマトサラダ、オニオンスープ、リンゴジュースの様であった。

プラチナブロンドの髪を短く切り揃えた彼女は、小柄な体格と相まって大人の女性というよりも少女の様な印象を与えていた。

また周囲の兵士と比較するとその小柄な体格が更に強調されている様に感じられた。

「あれだけでよく持ちますよね……俺ならグラディウスの訓練中に気絶するかもしれません」

ハイラムがラケルの食事の量を見て言う。

「同感だ。」

3人は、会話を楽しみつつ、食事を継続した。
20分後、ハンスらは食堂を出た。
外の強烈な日光がハンスの鍛え上げられた肉体に降り注ぐ。

「全く、なんて暑さだ。」

外気の熱さにハンスは辟易しつつ、地下の訓練施設に向かう。次は、シュミレーターを用いた訓練である。
実機のグラディウスはまだ12機しかこの基地に存在していない。その上、模擬戦闘で損傷して使えなくなることも良くある。
この状況では、必然的にシュミレーターを用いた操縦訓練の量が増えることになる。

今日も敗北してしまった……ハンスは、先程の実機を用いたアグレッサーのジンとの部隊間模擬戦闘の事を心の中で回想していた。酷い戦いだった。
相手を追い詰めたにも関わらず、逆転敗北の醜態を曝した。興奮の余り、自分の兵装の残弾確認すら怠ってしまうとは……。いや、これはまだいい。

今回の訓練で、自分は部下の犠牲を前提に作戦を立てていた。部下の機体が相撃ちに持ち込んでくれると考えていた。
実戦ならば、部下は死んでいたにも関わらずである。

明らかにこれが模擬戦闘であることに甘えていた………ヨーロッパ戦線の時や機甲歩兵時代の訓練ではこの様には考えていなかったというのに。

元機甲歩兵の男の胸中に現在の自身への嫌悪と、自分の技量が一向に向上しない事への嫌悪が広がっていった。

「……いかんな、これでは」

ふとハンスは自己嫌悪に陥りつつあることに気付き、その考えを振り払う。
戦友たちの為にも、モビルスーツパイロットとして、速く実戦に参加したい……その為にも強くならなくては。
ハンスは、そう自分を奮い立たせた。
今、このエリア51で、試作MS グラディウスのパイロットとして、将来の地球連合軍のMS部隊の中核となるべく訓練を受けている者は、
皆同じ様に自分がモビルスーツを上手く扱えていない事や実践水準に達していない事、実戦に参加できない事等の悩みを抱えているのである。
ハンスは、歩みを続けた。

彼の思い等、一切酌むことなく、時は過ぎていく。

29ユーラシア兵 ◆fhWVlI7Zkg 2017/08/02(水) 00:56:29.46ID:nW3T+6Hv0
今日は此処までです。
食堂のシーンはNJの影響なども考えて書きました
感想、アドバイスお待ちしております。

30通常の名無しさんの3倍2017/08/02(水) 01:02:40.07ID:XsuTNP1o0
乙です

31彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/02(水) 13:16:44.24ID:jVyiWOyc0
スレ立て乙です。
間が空きましたが、マリナ・イスマイールがガンダムファイターだったらというSSの続きを投下します。

皇女の戦い 第四話

 それは全身がダークグレーの装甲に包まれたMSだった。
僚機同様にステルス機能を宿していたその正体は強靭としか言いようのない姿をしていた。
全身に緑色の小型・板状スラスターが埋め込まれているのも相俟ってどこか冷ややかな印象を与える。
肩と太腿には太めのマッシブな装甲、身の丈程もあるバスターを軽々と持つ腕と脛は程良い太さなのが体型的なアクセントになっている。
兜のような頭部は簡単に貫かせてはくれないような硬さを持っていた。
「流石ガンダムファイターの端くれだな。皇女が参戦するというからお飾りと思っていたら......国を背負って立つだけのことはあるか...」
どこか中性的な声はまるで獲物を狙うかのような響き......
MF内のマリナには音声通信だけで相手の姿こそ見えないが...
冷たく蒼いバイザー状の頭部メインカメラ、中東の太陽に照らされて艶を見せる装甲はパイロットの威圧感を伝えるには十分な外観だ。
「引いて下さい...あなた達との戦いは決して望むものではありません...
私が行くべき場所は知っているのでしょう?」
マリナが感情を訴えるように下げたままの両腕を広げれば、華奢な機体も同じ動作をする。しかし...

「ふふふ、そんな温いことを言っても無駄さ。......お前達、絶対に手出しはするんじゃないよ。」
釘を刺すような声に僚機二体はじっとして動く気配を見せない。
荒くれ者達を従わせる辺りかなりの手練れだと悟ったマリナは口をきっと結ぶ

32彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/02(水) 13:18:23.45ID:jVyiWOyc0
機体は猛スピードで接近、間一髪のところを避けたマリナのユディータ。
しかし、見た目から想像できない程の滑らかなモーションで方向を変えると構えた巨砲を打ち出していく。
「ぐっ!」意外な動きに戸惑ったか反応が遅れたマリナは胴体にその一撃を喰らってしまった。
態勢を崩し後方に押しやられそうになるのを何とか踏み留まるマリナ。
MFに守られていても、大きな熱が体を襲ったことには変わりない。
だがいくつものファイトを経験した彼女は耐えることに徐々に慣れていたためしっかり敵を見据えて集中力を即座に取り戻し、背中の弓に手をかける。
(こんなことに戸惑っていたらファイトには勝てない...)
爆発性の実弾によって機体の胸部と腹部から灰色の煙が立ち上っていく。
ビームではないとはいえ威力は侮れない。ガンダムの装甲が比較的頑強だったため少し焦げた跡がついたのみに留まる。
それを見るや敵の声は少し面白くなさそうに「見た目によらず結構な装甲だね。まあすぐに潰すさ!」
(今しかない!)
瞬時に次の射撃に入ると同時にマリナの矢が迎え撃つ。一気に三本程放つことで互いの武器は相殺され、煙が立ち上る。
ユディータはその直前敵の僚機の肩を蹴る。しかし......
「......っ!」自身の足に強い力を感じて唇を噛む。爆炎と煙の中から濃いグレーの腕がユディータの脚を掴んでいたのだ。

「逃がさないよ!アザディスタンの皇女様。」「あなたは何故こんな真似を...」「なぜって?勝つ為さ、それしかないだろう?」
「きゃ、きゃあああああ......!!」ユディータを逆さづりにすると強いパワーで脚を締めていく。
このままでは機体だけでなく、マリナの脚も折れてしまうだろう...
「いやぁぁぁ......」蹂躙する力に比例して段々か細くなっていく声...
意識は痛みと痛覚だけに支配されそうになる......
「もう無駄な足掻きをする必要はないよ!楽にしてやるよ、皇女様!」
暗灰色の敵は新たにバスターを向けて...

33彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/02(水) 13:19:04.70ID:jVyiWOyc0
「いっぱい探して集めてきたんだよ。」

...あどけない少女の声......赤や白、様々な色で繋がれた花飾り...
色濃くマリナの心に浮かぶ...
(だめ......あの子と...シーリンと、国のみんなに誓ったから......
こんなところで裏切ったらみんなに......恥ずかしい......)


力を振り絞り矢を強く握ると、逆さに見える敵機の不遜なメインカメラ目がけ三つの矢が連続で風を破るように躍りかかった......
「がはっ!」敵は火花を頭部から出しながらグラりとよろめきユディータを離した。
「おのれっ、」

何とか体勢を立て直したユディータ。
「はあ、はぁ......」まだ足に敵に圧迫されているような感覚が残るも長い脚をすっと開き、凛として新たな矢を構えるマリナ。
「絶対に......勝つ......」
皇女の碧い瞳は敵を射抜くように見据えていた。

34彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/02(水) 13:19:50.71ID:jVyiWOyc0
「こっちもまだ終わらないよ!」
モニターをやられてもまだ一定レベルの視界が確保できる程強固に作られているカメラ。
そして、かなり戦い慣れているのか咄嗟の事態にもすぐに元の調子を取り戻した敵のパイロット。
弾丸を打ち出すも、動きを見切り瞬時に避けながら矢を放ち接近するユディータ。
「ぐっ!」グリップを握っていた指を射られたショックでバスターを落としてしまう...
拳を突き出し先程攻撃した胸部を狙おうとする敵機。しかし...
すっと掴んだ敵の腕部を柔軟なモーションで捩じって落としていくユディータ。
落ちていく敵の機体...しかし何とか機体を上下回転させ元の態勢に戻ったその時、無数の矢が堅牢な胸部の装甲に舞い降りて鋭角な傷を与えていく。
相手が思わぬ猛攻にじっと動作を止めたのを見計らったマリナはそのまま飛んで行った......
「いいんですか?あいつを追わなくて?」僚機のパイロットの問いかけに対し
「いいさ。私は他のルートでいくよ。決戦の地にね。」
「パージ、忘れないで下さいよ。」「あ、わかってるさ。」
灰色の巨人の主はじっと華奢な機体を見つめていた。
「あれだけの力があるとはね......負けられないね。」

35彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/02(水) 13:20:33.55ID:jVyiWOyc0
皇女の戦い 第五話

「さあ、皆さん!ガンダムファイトの名誉ある英雄たちが次々と決戦の地に降り立ってきました!
我が国が誇る時計塔が刻一刻と戦いの始まりが近づくのを我々に教えてくれています!
試合開始まで後2時間!我々は雄々しき英雄たちが揃うのをこの目に焼き付けることができるのでしょうか?!それとも全員揃わぬまま闘いを開かざるを得ないのか!
我らの心に勇気を与え、感動に胸を奮わせてくれるファイターたちが集うことを信じようではありませんか!」
司会者の言葉に湧き上がる観客達。

ここは今回のガンダムファイトの開催地、イギリスはロンドン。午後の3時。
中東のように快晴ではないが曇りが殆どない空。
会場には各国の機体が続々集結していたが一向にマリナのユディータは現れなかった...
もっともマリナ自身が謎の機体に攻撃されたことは通信で明かしたことから、現地にいるアザディスタンのメンバーをもう一つの不安が襲うことになったが...


ここはアザディスタンのスタッフとシーリンが集まっている会場の控室。
「しかし困りましたね...あのようなことが起きたとは......」
「ステルス機能の盗用の可能性...」
「重装甲の機体、圧倒的火力...一体どこの国なのでしょうね...」
「参加国の差し金である可能性はほぼ明白ですが...」
アザディスタン代表の技術者達の何人かは眉間に皴を寄せていたが...
「どこの国であろうと問い詰められて口を割る国はおりませんし、今は彼女の到着だけを待ちましょう。
今我が国の軍が国内で調査をしておりますし、この国にも派遣を要請した所ですから...」
冷静に語るのはシーリン。とは言え代表かつ皇女が狙われたのだ。内心は動揺している。
彼女とは長い付き合いなのだから。

部屋を出ると壁に凭れ掛かり小奇麗な廊下の天井を見上げる。
(早く、無事に来て。マリナ...そうでなければ私達の願いは...)

36彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/02(水) 13:21:00.66ID:jVyiWOyc0
タイムリミットまで後90分。
橙色の空の下、会場には次々と新たな代表達がステージを彩り観客達を沸かせていた。
例え国同士がライバルであっても異国の思考と文化、技術の結晶であるMFを見るのは観客達の興奮を誘うには十分過ぎる程だ。
イタリアからはローマの剣闘士さながらのガンダム、ノルウェーからは僧侶のような荘厳さを持ったガンダム......多種多様な機体が人々の視線を集めていた。
到着したファイター達は祝福してくれる観衆に手を振ったり、機体の四肢を少し大仰に動かすようなサービスを見せてくれる者もいた。

その時、凄まじい轟音と共に強靭なシルエットの機体が現れた。
背中には移動用の五角形をした追加ブースター...
雲のような純白と赤みがかったオレンジに彩られた姿が一層存在感を引き立てている。
「おおっと、これは中東のダルト代表ガンダムアグニス!乗っているのはアイシェ・セレンギル!注目株の女性ファイターです!
格闘技に幼い頃より精通している選手だけにその佇まいも目を見張るものがあります!
燃え上がるような色をしたその機体、双方のポテンシャルから目が離せません!」
アグニスの内には機体同様燃えるようなオレンジ色のスーツに身を包んだ女性が堂々とした面持ちで会場を見つめていた。
年は二十台半ば、ダークブラウンの髪に細いながらも広い肩幅。褐色の肌。
余すところなく筋肉質なのがスーツの上からでも伝わってくる。

その場所から最も近い客席にはスーツを着た2人の男が不敵な笑みでアグニスを見ていた。
「無事着いたな。」「ああ、妨害には失敗したようだが彼女なら本番で敵とぶつかっても勝ってくれるだろう...」
「しかし当日にいきなり妨害と言うのもいきなりではないか?もう少し前にやっていれば......」
「ああ、彼女も国の首相も出たとこ勝負が好きでね。手段を選ばん割に...」
「お偉いさんにも困ったもんだな。」「仕方ないさ。」

「さて、あんたは着けるかな......甘ちゃんの皇女様?」
アイシェは薄い唇を挑戦的に歪めながら夕の空をエメラルドの瞳に映した。

37彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/02(水) 13:21:50.45ID:jVyiWOyc0
時は少し流れタイムリミットまで後一時間程。
早朝から飛行し続けいくつものヨーロッパの街を過ぎていったユディータ。
ここはオランダの上空。イギリスに最も近い国の一つ。あと少し...気は抜けず一気に目指す。
街の人々がマリナの機体を見上げる。手を振る人、敵国の一つという意識から無視する人様々だ。
国の都市のあらゆる場所には国旗が立てられ風にはためいているのが見える。
それらはマリナの国を含めどこの国でも同じだったが。
(必ず辿り着くから!待っていて、みんな、シーリン!)
水色と白に彩られたスーツは緊張や時間と戦い続ける故の汗で濡れている。
機体内部の足場にも滴り落ちていた。
もし遅れればアザディスタンは今の地位に甘んじるどころか他国に後れを取るだろう。
そしてマリナを信じてくれた人々が失望するのも避けられない......


後30分を切ったロンドン。
「全く!攻撃を仕掛けた奴らも奴らだが代表は何をやっている!この大事な日に......!」「皇女は皇女だな。やはりファイターになるべきではなかった......もっと戦いのプロに任せていれば...」
アザディスタンの二人の技術者達は会場の隅で不満を漏らしている。彼らとて国の未来を強く案じているのだ。この事態では自然な反応と言えるのだが...
「お気持ちはお察しします。ですが今は辛抱の時です。」「......」
いつもより厳かな足取りでやってきたシーリンに目を向ける彼ら。
「マリナは、いえ皇女は約束を必ず守る方です。」
切れ長の瞳は遠く、オレンジの空を見つめていた......

38通常の名無しさんの3倍2017/08/02(水) 13:25:02.01ID:HJUdORDq0
規制回避

39彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/02(水) 13:25:41.66ID:jVyiWOyc0
開始まで後10分...時は容赦なく刻まれ続け、空はより橙色を強めている。まるで先を急ぐ皇女を嘲笑うかのように激しく燃える色。
長い黒髪を徐々に汗に濡らしながらも空を行くマリナ。
名誉ある英国の大地に鬼気迫るファイターを乗せたユディータの影が映る。
約束の地はもうすぐだ...

「さあ、皆さん。今回の闘いまでいよいよ後一分となりました。
現在到着していない機体は後一機!果たして我々にその雄姿を見せてくれるのでしょうか!
しかし、我々は母なる国のためにこの戦いの幕を開けなければなりません!
最期のファイターを信じるとともにカウントダウンをご一緒に!」
「60、59、58...!」
老若男女、人種、あらゆる人々が熱狂ともいえる声を上げて秒読みが開始される!

「マリナ、あなたは絶対に...」静かに、重く呟くシーリンの指は汗を伝いながら翠色のスカートの裾を握っている。
「30、29、...」
殆どのアザディスタンメンバーの焦燥と諦観とは裏腹に観客の声はカウントダウンを順調に進めている。

40彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/02(水) 13:27:41.12ID:jVyiWOyc0
ユディータはコロシアムを下界に見下ろす。望んできたこの場所に...
「......ついに、来た...!」
熱烈な観客で埋め尽くされた会場にすることはただ一つ。
「みんな......」
背中の弓矢を細い手に携えて、ステージ上で誰も立っていないエリアに構える。
「10、9...!」
「私は、いる!!」
風を全て切り裂くような音と共に、一本の矢がそこに刺さった!
「おおっと、これは!?」
「8、7、6...」
司会者は驚き、観客の何割かの声が一瞬なくなるが、他の者達の秒読みは絶え間なく続く。
「まさか、来たのでしょうか?」
轟音を響かせユディータの白い鋼の身体がステージに降り立つ!
「3、2、1...0!!!」
「みなさん!遂に最後のファイターが到着しました!アザディスタン代表マリナ・イスマイール!そして、ガンダムユディータ!!」
会場はより強い歓声に包まれる。

タラップを伝ってステージに降り立つマリナ。清涼な色のスーツに守られた痩身は汗を流しながら、多少の揺らぎを見せながらもしっかりと歩いていく。
片手には少女からもらった花飾りが優しく、だがしっかりと...
集まった人々の声はあまりにも力強い...それは争いによる悲しい怒号とは違う、もっと陽性のものだった...
「これが世界......」
見渡す限りの人々の多さに驚きを感じながらも自国の仲間たちを探す。
「マリナ!」「シーリン!」代表の姿を認めて駆けていくシーリン達。
「ごめんなさい、本当に、心配をかけて......!」深々と頭を下げるマリナ。
シーリンの方は緊張が消えたのか少しい困った笑みを浮かべ「本当に、あなたって人は...
でも、ずっと信じてたわ。あなたのことだもの、必ず来るってね。」
「シーリン...ありがとう...」顔を上げたファイターは水色の瞳を潤ませながら旧友を見つめていたが...
「......っ、」態勢を少し崩す。シーリンがそれを支える。
切迫感でいっぱいだったのと、元々他の選手よりタフさで数段譲ってしまうのが表に出てきたのだろう...
「本当に、もっと鍛えた方が良かったかもね。」「...そうかも...でも、絶対に負けないわ。」
そっと花飾りを黒髪に被せて微笑んだ。

「みなさん、今年もやってきました!!四年に一度の大舞台...ガンダムファイトの開催です!!」
司会者の声と共に会場に今日一番の歓声が沸き起こった。


今日は以上です。
感想が欲しいと思ってたりしますw

それではまた。

41誤字大王(ry2017/08/03(木) 01:20:35.48ID:/f+1lg2h0
ユーラシア兵さん、彰悟さん、投稿乙でした〜待ってましたよ。

>ユーラシア兵さん
ミリタリーカラーの強いスタイルは健在ですな。
戦闘シーンにもうひと工夫あればなおいいかと思います。
ガンポッドを発射してからガンポッドの解説を入れるのはちょっと戦闘の緊張感や
スピーディさを欠くかと。
武器の破壊力や空気を切り裂くスピード、起こる爆風や舞う砂塵などをリアルタイムに
表現できれば解説に頼ることなく武器の強さを伝えられるのではないでしょうか。

>彰悟さん
セリフの入るところは独立改行を入れるといいと思います。
文章の中に「セリフ」を埋めてしまうと、その声を発しているキャラの絵まで
埋もれてしまう気がします。
SSがアニメになった時を妄想して、セリフを吐くときは独立行にすると、読み手に
絵が浮かぶ他、書き手もセリフを選ぶようになりますよ。

以上、誤字チェックもできん三流のタワゴトでした、失礼。

42ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:26:30.42ID:i6ZXHV0D0
お二方乙です。自分も投下します
――艦これSEED 響応の星海――


「じゃあ、やっぱり?」
<ああ、ニュートロンジャマ−だ。このノイズの感じは間違いない>

通信機から、苛だった様子の青年の声が聞こえた。
それは天津風の懸念を肯定する言葉。
今、九州地方全域に起こっているという異変、その謎を解き明かすものだった。

「・・・・・・そう。なら二階堂提督の報告書にあった【Titan】って新型も、アナタの世界由来のものかしら」
<それも間違いないだろうな。ソレに使われてるってパーツ、モビルスーツのと特徴が合致してるんだ。写真もないけど、こうなったらそれも確定だ>
「仮説は大当たりってことなのね」
<ああ・・・・・・くそ、ふざけんなよ。どうしてこんな>
「どうしようもなかったんでしょ? 悔やんだって仕方ないわ」
<それでも、これは『俺達の責任』なんだ。嫌なんだよもう。知らなかった、仕方なかったで終わるのは>

呉鎮守府所属の艦娘、陽炎型駆逐艦九番艦の天津風は、溜息混じりに返答した。
彼が黒髪を掻きむしりながら眉間に皺をよせてる様が、ありありと想像できた。そんな顔してるからみんな怖がるのよと呆れる。
現在は11月3日の15時丁度。福岡県北方沖の男島近海。
窮地に陥った佐世保鎮守府に急行する呉の救援部隊は、関門海峡を越えていよいよ問題の領域に突入しようとしていた。新たに発生した磁気異常帯、深海棲艦由来のものとも異なるそれに支配された海が、十数余の艦娘の眼前にあった。
ちなみに空路は勿論、陸路も使えなかった。各地の信号機が故障しており、また本州に避難しようとする人間達でごった返しているのだ。ならば遠回りでも海路を征くしかない。五年ぶりの磁気異常に見舞われた海に、少女達はゴクリと固唾を呑む。
呉と佐世保は近所なこともあって交流も盛んだが、こうなると通い慣れた海も不気味に感じてしまう。
通信機のノイズは緩やかに、しかしどんどん酷くなる。これ以上進めば、艦娘同士の通信ならともかく、人間用の通信回線は使えなくなるだろう。呉で待機している彼に簡単なデータを送ることだって出来なくなる。
通信相手である青年からデータ取りを頼まれた少女は、その彼が唱えた仮説を思い出した。

(時空の壁ってやつを超えてやって来たなんて。否定はもう出来ないけど、突拍子のない展開よね)

あの台湾に落ちたという隕石、その時空間転移と共にやって来て、高知県沖に流れ着いて呉に保護された彼。
あくまで予想でしかない、というかそれ以外に思いつけなかったという前提だが、確かに彼の仮説で今の九州に起こっている異常事態は説明できる。
要約すれば。
陸にまで発生した広域磁気異常はニュートロンジャマ−・・・・・・自由中性子の運動と電波の伝達を阻害するジャミング装置のせいで、【Titan】は深海棲艦がモビルスーツを取り込んで進化したものではないかと。

43ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:28:04.18ID:i6ZXHV0D0
台湾の隕石――いや、C.E. からワープしてきたアステロイドベルト出身の小惑星基地に、Nジャマ−とモビルスーツがあったからこその、この現状なのだ。


他の海域で似たような事例は報告されていないことから、やはり読みは当たっていたことになる。
あの隕石こそが全ての元凶、特異点だ。
不幸中の幸いであったのは、深海棲艦の出現によって国が原発全ての停止を決断していたことだろうか。敵の脅威を鑑みてのことだったが、仮にまだ原発を使っていたら今頃、電力事情でも頭を抱えていたかもしれない。
ともあれ。
その仮説はまったくもって大当たりだったわけだ。たった今、天津風の送ったデータがそれを裏付けた。
きっとなにもかもが真実を知る彼の言うとおりなのだろう。そしてまた、これは彼が責任を感じるべきものであることも。
詳細こそ黙して語らないものの、彼もまた被害者で、どうしようもない事情があったというわけだ。
しかし、それで直接被害を被った当事者としては、そう簡単に割り切れるものではないだろう。


ただでさえ厄介事ばかりのこの世界だというのに、巨大ロボットで宇宙戦争していた世界の問題まで持ち込まれたようなものじゃないかというのが、当時の率直な感想だった。
正直たまったものじゃない、そんなのは。


呉の人間でさえこう思うのだ。これが現在進行形で窮地に立たされている佐世保だったら、どうなるのだろう。
愚痴っていてもはじまらないが、まったくもってこの世というのは、いつだってままならない。

「とりあえず、それが原因だってんならやりようはある。そうでしょ?」
<そうだ。見つけさえすれば、あとは破壊するだけでいい>
「あのロボットで?」
<戦うさ。アイツさえ修理できれば、絶対に俺が破壊してやる。俺が終わらせるんだ>
「バカね」
<なッ! バカだと!?>

ただ、成すべき目標が提示されたことは素直に喜ぼう。
なんであれ状況を打開できるのなら、それに越したことはないのだ。
そして当面は一緒に戦うことになったこの男のことも、ひとまずは信じることにした。出会って以来衝突ばかりしてきたけど、彼は信頼に足る人物なんだから。

「バカよ。確かにアナタにも責任ってやつがあるのかもしれない、躍起になるのもわかるわ。でも、もうこれは私達の問題にもなってるのよ。・・・・・・一人で抱え込むことないじゃない」
<どういう風の吹き回しだよ?>
「それ私の口癖でしょ。なによ嫌がらせ?」
<お前あんなに俺に突っかかってきたじゃないか。そりゃ俺も他人のこと言えないけどさ、でもなんなんだよ>

44ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:30:29.91ID:i6ZXHV0D0
「風向きが変わったってこと。特になんだってことはない――協力してあげるってことなの。・・・・・・さ、そろそろ通信切るわよ」
<え、あ、ああ。・・・・・・まぁその、なんだ、気をつけろよ天津風。お前にはまだ――>
「はいはい任せなさい。私達の為にも、あのロボットの修理の為にも、任務遂行した上でデータをたっぷり取ってきてあげる。はい通信終わり!」

ノイズが本当に酷くなってきたこともあるが、一連の会話になんとも言えない恥ずかしさを感じた少女は、一方的に通信を切ってうんと背伸びした。ちょっと火照った頬に冬の潮風が心地良い。
自分で見て、自分で考え、自分にできることを模索する人は、天津風は好きだった。
「誰かの為に何かを遺す」ことを信条としている少女としては、彼の覚悟は好ましい。昔は猪突猛進な直情型で考えなしのガキだったと自嘲してたが、なかなかどうして、今の彼はちゃんと大人をやっていた。
そんなことを言ったら、あの万年しかめっ面の彼も少しは喜ぶだろうか。
勿論、教えてあげるわけないけど。
ちょっと見直しただなんて、口が裂けても言うもんですか。

「天津風おっそーい! 置いてくよー?」
「急がないとヤバいっぽい。パーティーに遅れちゃう」
「ああ待って待って。今行くから――って島風! 先行しすぎ!!」

さて。
天津風はぴたんと頬を叩いて気合いを入れて、気分を戦闘モードに切り替える。ここからは艦娘の独壇場だ。
大急ぎで準備してようやく整ったこの布陣、無駄にするわけにはいかない。自分達の行動に沢山の運命が左右されるのだ。鎮守府の陥落は絶対に阻止しなければならない。
時間は有限だ。
少し遅れ気味だった天津風が再度合流した呉・佐世保連合艦隊は、佐世保を目指してついに無線封鎖領域に進入したのだった。

45ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:32:06.93ID:i6ZXHV0D0
《第5話:フラッシュバック》



西に太陽輝く黄昏時。
雲一つない高い空を、一本の『矢』が過ぎる。
比喩でもなんでもなく何の変哲のない矢だ。シンプルな造りのものでこれといった特徴もありはしない、一般人がイメージする矢そのものといった感じだ。
そんな矢が、突如火焔に包まれると同時に、十数の小さな『飛行機』に分裂・変貌した。
正確には、一本の矢を媒介に、18機の飛行機が召喚されたのだ。まさに魔法。物理学もへったくれもあったものじゃないが、この世界では割とよく見られる光景だった。
奇跡も魔法も大盤振る舞いな昨今である。

矢に代わって空を征く、モスグリーンにペイントされたそれはあまりにレトロなレシプロ機。単発の可変式3枚プロペラを推進装置とした固定翼機であり、7.7mm機銃と20mm機銃で武装したその名を「零式艦上戦闘機」といった。
零戦とも呼ばれ、在りし日にはその圧倒的航続距離と旋回能力でもって旧大日本帝国海軍の主力艦載機として活躍した名機である。過去からやってきた幻影だ。
例によって縮小化しており、玩具めいた手のひらサイズはどこか愛嬌があった。
そんな70年以上も昔のロートルが今、十数機の編隊を維持したまま、21世紀の空を鋭く切り裂いた。その先には、黒々とした敵戦闘機の大群がある。
深海棲艦の航空母艦ヲ級から出撃した、真っ黒で流麗な三角形、どこか有機的でUFOみたいな機体。サイズは1m強で翼や推進装置といったものはなく、20mmチェーンガンと5inロケット弾で武装した、敵艦載機としてはオーソドックスな部類だ。


数はほぼ同数、速度も約250ノットと互角な航空部隊同士が、真っ正面からかち合った。


先頭の一機が、真正面の敵戦闘機の機銃をヒラリと躱して、翼端に雲を引きながら逆に翼内20mm機銃をお見舞いした。続けて垂直に急上昇、無理な機動で機体は失速するが、ここでラダーを打って旋回し、機首が振り子のように真下へと向き直る。
ハンマーヘッド、若しくはストールターンと呼称されるマニューバだ。
位置エネルギーを一気に運動エネルギーに変換し、直上から敵に狙いをつけて斉射。編隊を組んでいた僚機も下から突き上げるように射撃して、挟撃に持ち込まれた敵3機は瞬く間に粉々になる。
だがほぼ同時に、零戦側もまた敵機銃の直撃を受けて1機がバラバラになった。撃っては撃たれ、やられたらやりかえし戦闘機はどんどん墜落していく。
そのような光景が程度の差異こそあれ、この空域のいたる所で散見された。
互いが互いを喰いあう巴戦、持てる武装とスキルを総動員して運を味方につけて、目についたマヌケを片っ端から掃除する。己の役目を果たさんと、戦闘機達は忙しく宙を舞った。
戦況は若干、零戦側が優勢だ。

46通常の名無しさんの3倍2017/08/04(金) 10:35:45.99ID:Xf3LfEdu0
規制回避

47ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:35:49.71ID:i6ZXHV0D0
そんな乱戦模様の更に上空から、恐ろしいまでのスピードで急降下してきた12機のレシプロ機があった。
急降下爆撃機の「彗星」だ。
零戦の決死の猛攻でようやく確保した虚空めがけて、零戦と似たようなペイントを施された爆撃機はキャノピーを煌めかせ加速する。敵の対空砲火と戦闘機がカバーできない、それはぽっかりと空いた間隙だ。
唸りを上げてその一瞬を駆け抜けた彗星は、何者にも阻まれることなく深海棲艦の群れへと飛び込んだ。すかさず、腹に抱えた500kg級爆弾を切り離す。
零戦部隊の三割を削られながらも敢行された急降下爆撃。極低空から投下された十二発もの爆弾は、重力に従ってまっすぐ荒れた海面に突っ込んでいき、深海棲艦群のど真ん中で炸裂した。

「着弾確認――右翼重巡殲滅! よぉーし、このまま畳みかけます!!」
「瑞鳳は第二次攻撃隊発艦後、後退開始! 木曾、雷撃用意。穴を拡げますよ!」
「はい!」
「応! 出し惜しみはしない!!」

4マイル先の海に上がった爆炎、それを確認した瑞鳳は、周囲に水柱が並び立とうともまったく動じずにどっしりと弓矢を構えた。
外見上はなんてことのない和弓に矢を番え、キリリと弦を鳴らし。

「天山、発艦します!!!!」

天頂に向けて、射る。
勢いよく放たれた矢は一拍置いて、これまた火焔に包まれ6機の艦上攻撃機「天山」と成り、編隊を組んで「彗星」の爆撃に泡食った連中へと向かっていった。
これが航空母艦の力だ。
軽空母の瑞鳳や、装甲空母の翔鶴といった空母系の艦娘はこのように、かつての戦闘機を艦載機として自在に使役することができるのだ。
夜間や悪天候では出撃できないという弱点はあるのだが、一転してお天道様の下であれば数の暴力によって戦艦以上の射程と火力を発揮できる、強力な艦種だ。
制空権を確保した方が勝つというルールを、一方的に押しつけることができるからだ。
第二次世界大戦で猛威を振るって以後の軍艦の在り方を決定付けたその実力は健在である。

「響さん、キラさん、突入準備は大丈夫ですか?」
「問題ないよ」
「僕も大丈夫」
「けっこう。榛名の砲撃後、前進開始。お姉様達の離脱を援護してください」
「了解、黒島で会おう。・・・・・・暁をよろしく」
「ええ、必ず。――では・・・・・・行きます!!」

身体中を煤まみれにさせた榛名の35.6cm連装砲が火を噴き、吐き出された砲弾は山なりの軌道を描いて、黒煙に巻かれた深海棲艦群に降り注ぐ。遅れて「天山」も同座標に向けて攻撃を開始した。

48ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:37:04.68ID:i6ZXHV0D0
艦隊の華であり主役、戦艦・空母による圧倒的飽和攻撃だ。それができる環境であれば使わない手はない常套手段である。
制空権を奪われ蹂躙される一方の深海棲艦達はたまらず、砲弾の雨霰から逃れようと散開した。幾つかの攻撃は空しく海面のみを叩く。
だが、逃げた先が必ずしも安全とは限らないものだ。

「それで逃げたつもりなのか?」

ぼそりと、眼帯に覆われていない左目を眇めて、木曾が呟く。
直後、左右に散った深海棲艦が巨大な爆発によって吹き飛ばされた。重雷装巡洋艦としての究極的魚雷運用能力を備える木曾が、回避先を見越した上で射出していた魚雷だ。
20度刻みで扇状に投入された計40発もの酸素魚雷、その半数が敵を道連れに爆散した。多数の戦艦級や空母級が無様に沈んでいく。拍手喝采ものの大戦果である。
だがそんな景気の良い話も、この状況下では焼け石に水といった効果しかなかった。
第二艦隊による全力の連撃は、南西の水平線一杯に群がっていた敵影に小さな間隙を開けるのみに留まった。
とても小さな「穴」だ。
数えるのも馬鹿らしい数の深海棲艦によって形作られた黒く長大な壁、それの極一部にありったけの火力を集中させてようやく確保した、針の穴。
それこそが欲しかった。
その穴に命綱を通すこと。今の榛名達に出来る精一杯だ。

「どうか、無事で・・・・・・」
「やれるだけのことはしたさ。――行こう、オレ達も」
「そうね・・・・・・」

榛名は、急速に縮まっていくその「穴」目がけて疾走する響とキラの背中を眺め、祈らずにはいられなかった。
駆逐艦の少女と、駆逐艦と同レベルの速力・火力・射程を持ち、且つ飛行できて硬い遊撃戦力として評価された男。
命綱と呼ぶにはあまりにか細い糸だ。正直心許ない。不安だ。でも、後は二人を信じるしかない。
自分が行けたらどれだけいいだろう。それは慢心ではなく、送り出す者としての切実な願いだった。
だが、自分にあの針の穴は通れない。それ以前に、まだ空けるべき穴が残っている。彼女達と行動を共にするわけにはいかなかった。冷静に冷徹に、任務を遂行せねば。
覚悟を決めて、榛名は号令を出す。

「ッ、転進! 進路0-2-0! 第二艦隊はこれより、第三艦隊の援護に向かいます!」

南西に向かう響達とはまったく正反対の、北東へ。
南西から迫る敵群に背を向けて、力一杯の逃走を。
榛名達は先んじて北上していた瑞鳳の背中を追いかけ、これまた北に蔓延っていた敵に主砲の照準を合わせる。
前も後ろも、右も左も敵だらけ。これを倒さなければ、自分達に明日はない。そしてそれを成せる確率は、半日前に思い描いたものよりずっと下がっていた。

49ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:40:58.15ID:i6ZXHV0D0
覆せなければ佐世保は陥落する。愛する人たちが、故郷が、いなくなる。
そんなことは。

「そんな勝手は! 榛名が!! 許しません!!!!」

現時刻は17時、救援の到着まであと約3時間。
血のように赤い夕焼けが燃え上がり、世界が紅蓮に染まっていく。
太陽が最も輝く時間だ。世にも美しいその輝きは、まるで消える直前に一際明るくなる蝋燭のような、まるで自分達が奮戦空しく敗れるという未来を暗示しているような、不吉なものに見えた。
そんな妄想を振り払うべく、榛名は41cm連装砲をぶっ放した。

50ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:42:53.48ID:i6ZXHV0D0




「かたじけないネ、響。それにキラといいましたカ。助かったヨ」
「Нет проблем。お互い様だよ。礼も不要だ」
「――ふっ。・・・・・・実はとびっきりの茶葉を取り寄せてありマース。到着は明後日、腕によりを掛けて振る舞ってあげますネ」
「楽しみにしておこう」

金剛型戦艦一番艦の金剛。
榛名達四姉妹の長女であり、佐世保艦隊最高の練度を誇るエースがキメたウィンクは、傷だらけ煤だらけの姿であっても人を魅了する力を持っていた。こういう女性を傑女というんだろうなとキラは思う。
服装は榛名とお揃い、けどスカートの色が異なる、大胆なミニにカスタマイズした白黒の巫女服。所々穴が空いて血が滲んでおり、背の艤装も半ば崩壊してしまっている。いったいどれほどの激戦を潜り抜けたのだろうか。
いや、彼女だけじゃない。第一艦隊はみんなボロボロだ。しかしそんなことはおくびにも出さず、皆はあえて明るい調子で戦意を鼓舞し合っていた。ここに絶望に沈む者はいない。
金剛は残った砲を駆動させながら、特に明るく新参者に命令を下した。

「Chitchatはここまで。討ち漏らしの掃討、お願いするネ」
「7時方向から突撃してくるのがいるのです。重巡、軽巡、駆逐の混成部隊。数13、速度21!」
「早速出番ですネ! 響、キラ。その力、期待してるヨ。雷電ズは二人の支援!!」
「任された。行くよ、キラ、雷、電」
「うん。君とならやれるよ」
「合点! 行っきますよー!!」
「なのです!」

響とキラが全速力で「穴」に辿り着いたとき、そちらもまた全速力で駆けつけてきた金剛ら第一艦隊と合流することに成功した。
左右を敵に挟まれた状態でのランデブーである。
敵に包囲されていた第一艦隊の離脱を援護する為に、その指揮下に入った二人は早速、空母の翔鶴を中心とした輪形陣の一員となり敵を振り切るべく一目散にひた走ることになった。
目指すは北、佐世保湾から西に10kmの距離にある黒島だ。
当初想定していた最終防衛ラインギリギリに位置するその島は、分断され散り散りになった佐世保守備軍の集合場所として設定された。ここに集い最後まで抵抗することが、佐世保守備軍に残された唯一の道だ。
もう後がない。
総崩れとなった第三艦隊、それの救援に向かった第二艦隊、そして孤立した第一艦隊。この全てが合流して、戦線を縮小させなければならないところまで戦局は進んでいる。
つまるところ、劣勢なのだ。
三つの艦隊と沿岸の戦車隊の連携によって戦局を有利に運んでいたつい先程までとは、うってかわった大ピンチ。敵はそんな獲物を数で押しつぶそうと、四方八方から迫ってくる。

51ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:45:03.86ID:i6ZXHV0D0
まるで想定の埒外であった敵のある一手によって、瞬く間に防衛ラインを崩された。
綻びは空からやってきた。


まさか。
まさか深海棲艦が、航空輸送機を用いた空挺降下をしてくるとは思わなかった。


そう、裏をかかれたのだ。深海棲艦の行動様式は、艦艇のそれに準ずるという思い込みの。
船が空からやってくる、それも人類の飛行艇に乗ってなど、誰が考えられるだろうか。
隕石の落下以来、敵は途轍もない速度で進化していた。
だが実際、その可能性を憶測できるだけのヒントは既にあったのだ。少なくとも、【Titan】はモビルスーツのパーツを取り込んだものだと察知できたキラこそ、それを警戒しなければならなかった。
台湾に落ちた隕石――キラを巻き込んで転移してきた、C.E. の小惑星基地かもしれないソレが、モビルスーツとNジャマ−をも連れてきたのなら。それ以外のモノがあったってなんら不思議ではないだろう。
奇跡も魔法も大盤振る舞いな昨今なのだ。
使用されたのは旧ザフトの大気圏内用大型輸送機・ヴァルファウだった。
4枚の主翼と4つの大型ローターが特徴的で、標準的なモビルスーツなら4機まで搭載できる高いペイロードを有する。かつて【GAT-X102 デュエル】と【GAT-X103 バスター】がアフリカに派遣された際にも使われたモデルだ。
夜明け前に遭遇した【謎の戦闘機】と同じく真っ黒でどこか有機的になっていたが、その機能は健在だったのだろう。
繰り返しになるが、佐世保は西に機動性に優れた第一を、東に同じく高機動な第二を前衛として展開し、北に火力に優れた第三を後衛として鎮座させる鶴翼の陣で構えた。
それこそ個々の艦隊による戦闘だけでなく、夜が明けて各艦隊の連携が可能になってからは艦隊規模で挟撃したり、片方が囮になったりと連携して防衛ラインを確実なものにできていた。
敵の別働隊や陽動隊にも対処できたし、再びやってきた【Titan】だってキラが合流してからは「ちょっと苦戦する程度」で倒せるわで、向かうところ敵無しだったのである。


これに対し、深海棲艦をしこたま詰め込んだ2機の輸送機は、第一と第二を飛び越えて第三艦隊――山城、鳥海、暁、白露――を上空から直接強襲したのだ。奇襲に浮き足だった第三艦隊は、完全に総崩れとなる。


ここで真っ先に状況を打破せんと動いたのが第一艦隊だ。
火力は必要不可欠。まず彼女らは強引に第三艦隊の救援に向かい、そのポジションを請け負うカタチで後退させることに成功する。
即座に合流するという選択肢はなかった。第三艦隊の面々は手酷い損傷を負っていて、とても戦える状態ではなかった。後退し、応急処置を施さねばマズい者もいた。
金剛達は送り狼は一歩も通さんと、その場でラインを維持し、榛名ら第二艦隊から援軍が来るまで持ちこたえた。
あとは、その代償に敵に包囲されるカタチとなった第一艦隊が脱出すれば、道は拓ける。

52通常の名無しさんの3倍2017/08/04(金) 10:45:30.50ID:Xf3LfEdu0
規制回避

53ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:46:14.81ID:i6ZXHV0D0
黒島にはまだ一度も発砲していない大規模戦車隊が潜んでいる。もしもの為に温存していた切り札だ。そこに集った第二艦隊と第三艦隊との総火力をもって敵を釘付けにできれば、第一艦隊は離脱できるかもしれない。
まずは、そこまでたどり着けるかだ。

「左舷、タ級が・・・・・・きゃあ!?」
「損害報告!」
「――つぅ、翔鶴、中破! 飛行甲板は無事!! まだまだ戦えます!」
「にゃぁ。多摩も中破しちゃったにゃ・・・・・・」
「! 4時方向、敵艦載機接近! 数35!!」

黒島まであと9マイル。
第一艦隊は現在、左右と後方からの猛攻に晒されており、18ノットで蛇行していた。
黒島のみんなの射程圏内までは、早くてもあと20分強といったところか。前方の敵は榛名達が片付けてくれたので進路を塞がれる心配はないが、少しでも速度が鈍れば再び包囲される。
金剛達は敵が構成する巨大な円、その淵にいるのだ。
敵は馬鹿でも雑魚でもない。そうなれば5分も保たず壊滅させられる、絶体絶命の大ピンチだ。
だからこそ、榛名は響とキラを援軍として送ってくれたのだ。榛名達だってこの二人を重宝していただろうに。
ここで応えてこそ、姉というものだろう。

「翔鶴はタ級を黙らせて! 多摩は右舷艦載機を迎撃、ヲ級とル級はワタシが料理しマース!」
「流星、発艦始め!!」
「にゃー!!」

金剛が一番・二番砲塔から対空榴散弾を放ち、同時に三番・四番砲塔からの徹甲弾で確実に敵を屠っていく。
その傍らで翔鶴が矢継ぎ早に艦載機を放ち、多摩が対空砲で群がる艦載機を蹴散らした。これ以上はやらせないと気合いを入れ直した彼女達は、持てる火力全てで弾幕を張った。
目的は殲滅ではなく離脱だ。なるべく敵が近づけないよう砲撃を続ける必要がある。だが、いくら長距離砲で攻撃していたって、それを潜り抜けて近づいてくる奴はいる。
こういう時に頼りになる艦種が駆逐艦だった。
敵の注意もまた、此方の戦艦と空母に集中するからこそ、駆逐艦は随伴艦としての機能を求められる。

「ロ級、撃破したわ! 次行くわよ!」
「雷ちゃん! 後ろ!」
「ぐ、ぅッ!? この、よくもぉ!!」

響、雷、電の三人とキラは、縦横無尽に動き回って押し込まんとやってくる追撃部隊を迎撃していた。
駆逐艦は高速力・低火力・短射程が特徴の艦種だ。敵の死角をついて近接砲撃戦を仕掛けられる夜戦と異なり、視界が開けて艦載機と砲弾の飛び交う昼戦では直接の戦力にはならない。
夜の空母とは対称的に、昼の駆逐艦は非力だ。
だがそれは決して、無力であるということではなく、むしろその小回りの良さを活かした迎撃任務にこそ真価を発揮する。この状況下で駆逐艦が増強されたのは喜ばしいことだった。

54ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:48:06.07ID:i6ZXHV0D0
そしてお揃いの制服、お揃いの艤装が特徴の特三型駆逐艦――またの名を暁型四姉妹の三人は、まとめ役の長女たる暁が不在だとしてもきっちり護衛を全うできる練度の持ち主だった。
周囲に多数の水柱が並び立つなかでも果敢に前進する、栗色の髪と瓜二つの風貌をもつ三女と四女。あまりに似ているのでよく間違えられる雷と電は、片や豪快に、片や慎重に砲雷撃戦を続行する。

「雷!? ――くそっ、二人は下がって! キラ、私達でリ級を墜とす!!」
「ッ、わかった・・・・・・!」

だが、流石に分が悪い。
キラ達が加わって10分が過ぎた頃、電と雷が立て続けに被弾した。
二人の艤装の一部が砕け、戦力は大幅に低下する。


そして響が、普段の冷静な戦い方から一変して、弾けたように近接格闘戦に傾倒するようになった。


突撃癖どころではない。まるで特攻でもするかのように加速する少女は、誰が見ても明らかに暴走していた。
鬼気迫る、けどまるで地獄の淵を覗いたかのような恐怖に彩られた、青ざめた表情で次々と深海棲艦を薙ぎ倒していく。こんな表情に、キラは見覚えがあった。本当に心が氷になってしまったかのような、遠い記憶のそれ。
そうなっては誰も止められないことは、誰よりも知っていた。
できることは、彼女が自滅しないよう支えることのみ。

「あ、ちょっと!? もう、二人だけで突っ込むなんて・・・・・・! 電、合わせて!!」
「雷ちゃん大丈夫ですか!?」
「人のこと言えないでしょ! かすり傷よこんなの! とにかく、二人を援護するわ。魚雷用意!」
「――装填完了! 撃つのです!!」

キラが、せめてとばかりに前に出る。
今朝、あんた防御以外は駆逐級相当だよと告げられた時にはものすっごく微妙そうな顔をした青年は今、命の危機を肌で感じていた。
異世界のスーパーロボット引っさげてきた助っ人が駆逐艦レベルだったというのは、誰にとってもショックな話だったが、それを差し引いてもこの戦場はヤバい。
仮にフリーダムを使っても、無事に切り抜けられる自信はないと思わせる程、切羽詰まった戦況。
なればこそ自分が前に出ないでどうするのだと、キラはあえて水上をホバリングして響の前に踊り出る。

「響! 僕の後ろに!!」

シールドを構えた。
前方で幾つもの炎が迸る。
衝撃。
崩壊寸前のシールドがたわむ。だが構わず、キラは加速して弾幕の中を突き進む。その先には、重巡リ級1、軽巡ト級5、軽巡ホ級3、駆逐ロ級4がいた。正直、駆逐級のみで挑むには自殺行為な戦力差だ。

55通常の名無しさんの3倍2017/08/04(金) 10:50:34.47ID:Xf3LfEdu0
規制回避

56ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:51:15.32ID:i6ZXHV0D0
特にリ級はよりによって、赤々とした瘴気を纏った高ランクの個体たる【Elite】タイプ。生半可な攻撃じゃ墜とせないし、逆に相手は此方を墜とすには充分な火力を持っている。距離をとっては戦えない。
ならどうするか?
無理を承知で突っ込むしかない。あたかも夜戦のように、けれども砲弾飛び交う戦場を一直線に。
他の雑魚は無視して、二人は最優先目標の重巡リ級を目指す。アイツを放置させてはいけない。
しかし敵はリ級を守るように群がってくる。

「そこを、どけぇぇええええええ!」
「僕が先に仕掛ける! 連携で!!」

ビームライフルで牽制射撃をするキラの後ろについた響が、10cm連装高角砲を用いた狙撃を行う。
その砲弾はしつこく接近しようとしてくる駆逐級と軽巡級群を縫止めるように命中する。直後、先行する二人を追い越して疾る魚雷が、深海棲艦の鼻っ柱にぶち当たり派手に爆発した。雷と電が射出した61cm酸素魚雷だ。
計16発の魚雷と援護射撃、更に飛来した翔鶴の艦載機の助力もあって敵は次々と沈んでいく。
残るは軽巡ト級3とリ級1。たった4隻。
そんな深海棲艦達を目前に、少女の盾になるように先頭を征く青年は勇ましく叫びながらも、内心、いきなり膨らんでいく恐怖を押さえつけようと必死になった。
重巡リ級。
両腕に黒い盾みたいな金属パーツをつけている、真っ白い肌の女性型深海棲艦だ。キラが初めてこの世界に目覚めた夜に、自分を瀕死にしてくれたヤツである。その姿が徐々に近づくにつれ、嫌な汗が噴き出てきた。
キラが戦場に出てから、もう14時間が経っている。ストライクの出力不足を補う為に、もう数えるのも馬鹿らしいほど深海棲艦と格闘戦を演じてきたが、それでもリ級を目にすると死の恐怖が心臓を鷲掴みにしてくる。
装甲越しのモビルスーツ戦とは根本的に異なる、直接的な痛みと殺意の経験に、これ以上は進むなと身体が警鐘を鳴らす。

(でも、それでも)

異世界の戦いに介入した以上、ここで退くことはできない。彼女達を背にして退くことはできない。
なにより、経過や詳細は不明だが、この戦いにNジャマ−とモビルスーツが関与しているのなら。その転移に『巻き込まれた者』としては放ってはおけない。
意識を研ぎ澄ませ。集中しろ。
今の自分には力がある。

「ストライクでだって!!」

ようやく有効射程に入ったライフルを連射する。低出力短射程設定のその威力は貧弱で、駆逐艦の主力である12cm砲と同程度でありながら、射程はもっと悲惨だ。正直単純な砲撃戦じゃ役に立たない。
だからこれは布石。
エネルギー不足の荷電粒子ビームは、派手なくせしてリ級を貫けない。確実に有効打は与えている筈だが、ヤツは高をくくって被弾を気にせずまっすぐ直進してくる。それでいい。
キラは、おもむろにライフルを上へと放り投げてスロットル全開、エールストライカーの推力最大で一気に距離を詰めた。同時に響が横にステップして、全火力をリ級とト級にぶつける。

57ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:53:06.19ID:i6ZXHV0D0
虚を突かれたト級はまともに喰らって中破。リ級は慌てて両腕の盾を掲げてガードするが、直後その二つの盾の縁にそれぞれ、ガツリと金属製の刃が食い込む。
ストライクの予備兵装、超高硬度金属製の折り畳み式戦闘ナイフ・アーマーシュナイダーだ。力任せに振り抜かれた二振りのナイフによって強引にガードをこじ開けられた胴体に、間を置かず響の錨が直撃する。
たまらずよろけるリ級。
しかし敵もさる者、体勢を崩しながらも、右腕の砲塔をピタリとキラの顔面に合わせてきた。
砲口から光が溢れる。
そう知覚したキラは流石の反射神経を発揮して、無意識に、咄嗟に、シールドを掲げた。


硬質なナニかが、砕け折れる音が、響いた。


「・・・・・・ぁ――」


――おい、しっかりしろよ! おいッ!?
――ふざけんなよ! なんでこんな!!
――駄目だ、このままじゃ・・・・・・! 誰かいないのか!?
――くそぉッ!! おい諦めんな!? 俺がアンタを――


「――が、ァあああああああ!!!!????」

キラの左腕が、あらぬ方向に折れ曲がった。
遂にシールドが粉々になり、同時にストライクの左腕フレームが限界を迎えた。元々かなりの負荷が溜まっていたのだ。それがリ級の砲撃で一線を越えて、キラ自身の腕がひしゃげ折れるというカタチでフィードバックした。
全身を引き裂くような激痛が遅れてきた。己の意志とは関係なく、掠れた絶叫が喉から絞り出される。
けど、それでも青年の意識は、たった今過ぎった記憶とおぼしき「声」のみに向いていた。

(なん、だ、今の。誰の声? 僕に向けた? わからない・・・・・・何があった?)

よく知ってる筈の声だった。
けどそれが誰のものだったか、どんな状況下だったのかまったく解らなかった。
一瞬のことで、内容も不明瞭だ。声音も、こうなっては男か女かすらも判断がつかない。
そんな記憶が突然、脳裏で再生された。青年はただ戸惑うばかりだ。
わからない。
わからない。
どうしてこんなことになっているんだろう。
意識が痺れる。
そうだ。どうしようもない何かが、あった。その時、僕は。
もう少しで何かが思い出せそうだった。

58ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 10:55:08.63ID:i6ZXHV0D0
だが、そのまともな思考にすらなっていない徒然とした感慨は、少女が発した現実の声によって断ち切られた。

「キラッ!?」
「ぅ・・・・・・あ、あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

意識が覚醒する。
そうだ、呆けている場合じゃない、敵は目の前にいる!
キラは背中のスラスターを全力で噴かし、且つ神懸かったコントロールで、仰け反り海面に倒れ込もうとしていた身体を跳ね上げる。
間を置かず、抜き打ちのサーベル一閃。
荷電粒子の刃、その切っ先がリ級を真っ二つに灼き裂いた。
撃破。
けどまだ、終わりじゃない。
キラは落ちてきたライフルをキャッチして、すかさず此方に駆け寄ろうとしていた傷だらけの響の背後、まだ息があったト級にトドメを刺す。
それでやっと、終わり。
それは丁度、駆けつけてきた第二艦隊と第三艦隊の砲撃が、第一艦隊を取り囲んだ深海棲艦を一掃したのと同タイミングの出来事だった。


第一艦隊は危機を脱し、黒島に辿り着いた。響とキラの獅子奮迅の働きで、負傷者多数なものの死者は無し。
全員生きて再会することができた。
二人は命綱としての役割を全うした。

59ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/04(金) 11:00:33.70ID:i6ZXHV0D0
しかし、それ以上戦う力は残されていなかった。
戦闘継続が可能な者は、全艦隊合わせてもたったの6人。
その全員が多かれ少なかれ負傷している有様だ。ハッキリ言って、この戦力であと2時間も防衛するのは不可能だ。敵はどんどん南西からなだれ込んでくる。その中には【Titan】もいた。
二階堂提督は30隻の無人装甲船を出撃させたが、それもすぐに鉄屑になってしまうだろう。使われなくなった漁船等を流用して製造される、重巡クラスの防御力を備える艦娘支援用の自走式遮蔽物は、攻撃能力を持たない。
打つ手がない。
戦力が足りない。
八方ふさがりだ。


これまでか。


佐世保を諦める、そんな選択肢が頭を過ぎった時だった。


トリコロールに彩られた鋼鉄の巨人が一機、黒島から藍色の空へと飛翔した。
その名は【GAT-X105 ストライク】。
隻腕の機体が、単身、深海棲艦の群れへと飛び込んだ。



以上です。
ところで今更ですけど、読んでて分りにくい表現や意味不明の説明とかあったら是非とも教えてください
ちなみに戦術や戦略、兵器のスペック等は素人の付け焼き刃なのでそこはご容赦を・・・
贅沢ですけど、自分も他の方々同様に感想とかめちゃくちゃ欲しいです(自分が率先して書き込めと言われたらぐぅの音も出ませんが)
とりあえず自分は皆様のを楽しく読ませていただいてます。

60彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/06(日) 21:59:12.10ID:0Ouk0LiA0
>>41
貴重なアドバイスありがとうございます!
確かにそうですよね...印象の強さや読みやすさを考慮した書き方にしていこうと思います。
教えて頂いた通りに書いたら自分でも見やすくて目が疲れなかったですw
自分のイメージについても、もっとはっきりさせて表現していきたいです。



皇女の戦い 
第六話

「本当にここまで来てくださいました!」「信じてましたよ。流石皇女だ。」

数人の技術者達が口々にマリナを誉めそやす。
その内二人は皇女の到着前に焦りによって言葉を荒げていたが、それは彼らの立場からすれば自然なことと言えるのだが......
マリナも相手が半ば無理をして話しているのを察知してか控え目に微笑んで首を横に振る。
尤も頬は赤らめていたが...

「とにかく今日は休みなさい。明日の午後からだもの。響いたら事だわ。」
「そうね。明日からだから...」

肩に手を置くシーリンに頷き会釈をするとホテルの個室に向かうマリナ。
朝何者かに襲われたのでボディガード達が二人同行してくれた。

彼らにお礼を言って別れてから入った室内は自分の王宮とは違う、西洋風の部屋だった。
イギリスなのだから当然と言えば当然なのだが、中東の伝統的な宮に住むマリナにとっては新鮮だ。

(......あんなに多くの機体が......それに今朝襲ってきた機体......あんなことをする相手は...?)

すぐにベッドに入ると今日一日の自分を取り巻く光景が頭を駆け巡る。
―――最も心に引っかかるのはあの奇襲してきた三体、特に一番好戦的なダークグレーのMSに搭乗していたパイロット...
今までは例え苦戦しても純粋なファイトのみだったが、今回は不測の事態。
動揺しつつもシーリンの言葉が頭を過ぎり―――シーツを握り静かに目を閉じた。

(...だめ。こんなことに囚われていたら全てが水の泡になってしまう...
誰にも邪魔はさせないわ...!)

61通常の名無しさんの3倍2017/08/06(日) 22:02:22.85ID:i8Uooqh10
規制回避

62彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/06(日) 22:03:37.86ID:0Ouk0LiA0
翌日――
大会の為に暫定的に設けられた施設にマリナとシーリン、スタッフ達がいた。

「マリナ様、いつも通りに戦って下さいね。勝利するにはそれしかありませんから。」
「ええ、ありがとう...肩の力を抜いていくわ。」
「...それに、強張って負けることも許されないわ。マリナ。」

シーリンの真摯な表情に重く頷くマリナ。

「そうよね。私達の未来がかかっているもの。」

ユディータを見上げるとともにタラップで登っていく。
機体内部の彼女は白い正装の服、紺色のスカート、下着を丁寧かつ素早く脱ぐとそれらは一時的に粒子に変換され消えていく。
膝を着き両手を握りしめて切実に祈るマリナ。すぐに頭上から降りてくるスーツを身に纏い力強く立つ。
胴体は水色、肩と股は薄い水色、四肢と臀部は純白だった。


会場はやはり、張り裂けんばかりの歓声で色めき立っていた。

「みなさん、記念すべき今回のファイト最初の日です!この目に焼き付けようではありませんか!」

実況を兼ねている司会者の隣にはイギリス代表にして前回優勝者がいた。
ジャスパー・ディアス。筋骨隆々とした体躯に物静かな表情を浮かべた30代半ばの男だ。

「さて、栄えある最初のファイトは中東のアザディスタン代表・マリナ・イスマイール選手!
何と皇女でありつつファイトに躍り出た異端と言うべきファイターです!
その清楚な姿に秘められた力、しかと見せて頂きましょう!」

「対するはサモア代表!マロシ・デスタン選手!正統派のファイターとも言うべきパワータイプの巨漢!」

マリナと正反対の位置にはいかり肩の青い機体、ガンダムグラスプとそれを駆るデスタン。
彼はどこかゴツゴツとした輪郭に荒くれ者の眼が印象的な大男だった。
スーツの色は紺色。ややずんぐりとしているがファイターだけあって鍛えられている。
本来ならマリナよりもこのような人物が国の代表になるのが普通だが...

63彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/06(日) 22:14:48.63ID:0Ouk0LiA0
「あの姉ちゃんに似て細っこい機体だな......どこまで戦えんだか...
精々可愛がってやるぜ!」

自分の平手に拳をぶつけるデスタン。
彼は格闘家でありながら、暴力的な嗜好も持ち合わせている男。
会場の巨大モニターに映る線の細いマリナの写真は嗜虐心を煽るには十分だった。

「正にこの闘いの為に生まれてきたような男です!
その剛腕で相手をねじ伏せるのか!それともマリナ選手の勝利か!
それでは―――ガンダムファイトレディーゴー!」

ゴングと共に二体は近づいていく。
しかし、敢えてマリナは腰を少し低くしあまりスピードを出さないようにしていた。
相手の力を活かす戦法なので、行動を見て慎重にいこうとするが――

「姉ちゃん、勝たせてもらうぜ!」「!?」

得意げな声が聞こえたと同時に見た目からは想像できない程のスピードを突如見せるデスタンのMF。
彼を掴もうとしたのも束の間、逆に細い首を強靭な腕で締め付けられる。

「どうよ?こいつが本物のファイトってやつだ!!
今まで弱いのとしかやってねえんじゃねえのか!?」
「うっ...!」

振り解こうとするが力の差は明確で、苦しみと共に呼吸が弱くなっていく。
当然ながら相手の挑発を気にする余裕もない。
何よりも抵抗していた両手に力が入らなくなり、古武道を使うことも適わない。

(...どう、すれば...!先に弓を使った方が正解だったかしら......)

しかしいきなりマリナのユディータを勢いよく放してしまう。ふらつきながらも背中の弓矢に手をかけようとした矢先――

「なっ......うぐっ...!」

儚い声と共にマリナは膝を着いた。腹部にデスタンの拳が入ったのだ。
鋭い衝撃が入り込んでいくのがわかる。

(こんな......強いなんて...
ずっと戦ってきたのに......世界にはこんなファイターがいたというの...?)

64彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/06(日) 22:16:08.79ID:0Ouk0LiA0
「うっ、...かはっ...!」

敢無く苦しげな息を吐いてしまうマリナ。
気づけばグラスプは眼前で女鹿を狙う獅子のように見下ろしている。
背中の矢を複数収めたボックスを強引に外され、場外に落とされてしまう。
幸い機体本体の一部ではなく、マウントされたパーツだったのでGF自身のダメージは免れた。
しかし、武器を奪われたのは絶望的だ......
いつになく怒りの籠った視線を向けるマリナ。
これまで戦ったファイターの中には流石にこのような行動に出る者はいなかった。
どんなに手強く、態度に問題がある相手でも尊敬すべきところはあったが、デスタンは違った。
どんな手段を用いても勝つ......
決して武道に造詣の深くないマリナでも相手が道を外れたものであることがわかる...

「何てやり方...恥ずかしくないのですか!?」
「ケッ、弱者の負け惜しみだな。悔しかったら実力を見せてみな。」

「おおーっと、デスタン選手。少々ダーティーなやり方だー!
マリナ選手、大丈夫なのでしょうか!これはデスタン選手が有利か?」
「全く、相変わらず大人げない奴だ。」

隣にいるジャスパーは呆れて溜息を吐く。

「彼を知っているので?」
「ああ、見ての通り相手を挑発したり甚振るのがあいつの好む手段だ。
正直まともなファイトとは言えないな。
...とはいえ、こういう状況を乗り越えられるかがカギだな。」

再度ユディータの白い機体に鈍い轟音と共にパンチが叩き込まれ、マリナは体の内外が衝撃と圧迫に襲われる不快感に襲われる。

「どうだ、パンチの味は?
今まで城でぬくぬく生きてたお姫ちゃんには堪えるだろう。
あんたみたいな姉ちゃんは王宮でお茶を啜っている方がお似合いなんじゃねえのか?」
「――!!」

反射的に腹部を抑えた手に力が入る。
男の言葉は全くの出鱈目だが心に深く突き刺さる...
元より体力、腕力や相手を直接殴るセンスは他の選手に比べて乏しい...
――やはり心のどこかで自分にファイターの素質はない、闘いに相応しくない――
そんなコンプレックスを自覚させられるが、きつく唇を噛んで相手の侮蔑を振り払う。

(だめ、挑発に乗っちゃ...聞き流さなきゃ...)

65彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/06(日) 22:17:15.34ID:0Ouk0LiA0
そしてデスタンが繰り出すタックル。
文字通り目にも止まらぬ速さの攻撃を正面から喰らうマリナ。
すぐに二発目が向かってくる!
前面を向いたまま自ら後ろ側に跳ぼうとするマリナ。
基礎体力の高い敵には基本的に背中を見せても無駄だと判断しての回避だったが...

「うあ......」

身体を足場から離したその矢先、低い呻きを上げて仰向けに倒れてしまった...
気づけばステージのすぐ端。
もはや敗北は寸前...アザディスタンのメンバーは諦めとも切実さとも取れる顔で見守る。
しかしシーリンはそのどちらでもない表情で皇女を見つめていた。

(マリナ...あなたなら必ず...)

デスタンはやはりパワーとスピードを兼ね備える相手。マリナにとっては不利なファイターの一人だった。

(絶対、勝つ...!こんな人に負けられない!......イチかバチか)

痛みに耐えながらも腰を落とした姿勢で立つマリナ。
敵を見据えて敢えて微動だにしない。
集中力を意識的に高める。欲しいのは敵が見せる一瞬の隙......

(チャンスは一度だけ......!)

「観念したか!
潔さに免じてこれで楽にしてやるぜ!有難く喰らいな!」

既に勝ち誇った表情の巨漢は拳を突き出す。最後は得意のパンチでマリナに止めを刺そうとする。しかし...

「はっ!」

ギリギリのタイミングで相手の足首を蹴った直後、脚を横にスライディングさせ避けるマリナ。
元々体の軽い彼女はこのようなモーションを得意としていた。
サバイバルイレブンに於いても、回避や攻撃への繋ぎとして何度も窮地を脱してきた。
「?!」

突然のことに驚きながら倒れ掛かるデスタン。

66彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/08/06(日) 22:19:55.25ID:0Ouk0LiA0
半端に突き出され、今正に標的のいないステージに当たりそうになる彼の腕を掴み、柔らかい動きで捩じりながら外に投げ飛ばした!
相手の不安定な態勢を利用する......マリナの得意とする技の一つだ。
グラスプの巨体は一瞬轟音を上げて観客の鼓膜に鳴り響いた!

「そんな...俺が負けるだと...?」

ショックで唖然とするデスタン。
無理もない、今まで屈強のファイターに勝ってきた巨漢が華奢な女性に負けたのだ。
ただ青空と睨み合うしかなかった......
マリナは汗を流しながら未だ真剣な表情は崩れなかった。

「おおっと!これは予想だにしなかった展開です!相手の動きを利用するとは!
勝者、マリナ・イスマイール選手!」

「ほお、タイミングを計ったのか。中々繊細な動きをする選手だな...」

司会者の横でジャスパーも静かにだが感心を見せていた。

思わぬ結果に会場は一斉に沸き立つ。
想像のできない試合を求める彼らは驚きと興奮を隠せない。
タラップを伝って降りてくるマリナ。
まだ痛みが取れず腹部を抑えているが、水色の瞳にあるのは嬉し涙だ。

「シーリン、私...」
「おめでとう、マリナ。よく闘ったわね。
まだ始まったばかりだけど今日はゆっくりおやすみなさい...」

そういって旧友にかけられたタオルで髪を拭く表情は自信と幸せに溢れていた。


今日は以上です。
すいません、途中PCの不調で動作できなくなりましたが戻りました。
色々設定や台詞に力を入れるのが前よりも楽しくなってきました。

67誤字大王(ry2017/08/08(火) 21:38:12.49ID:6mU0DSBV0
>ミートさん
感想を書きたいのですが、艦これを全く知らない自分にはお手上げです・・・
そもそも「絵」が見えてこないし、このあたりは特定作品の2次創作の弊害ですねー
艦隊戦の流れなどはよく見えてくるので、艦これ知ってる人、感想あげて下さい。

>彰悟さん
デスタンさん・・・なんて真っ当なやられキャラっぷりだwww
ザコ役のテンプレすぎて登場時から退場の姿が浮かんで気の毒に思えてなりません。
個人的な感想ですが、なぜ彼が卑怯者扱い?
相手の武器を封じるのは戦術の基本だし、威圧して戦意をそぐのも立派な兵法ではないかと・・・
なんというか今回の話の流れ自体がデスタンさんを貶める流れになってるのは
脇役至上主義な自分の目が曇ってるんでしょうかw

68ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:20:08.23ID:5SR/j3F60
>>67
感想ありがとうございます。
そうですか。「絵」が見えてこないってのは致命的ですね・・・・・・
そりゃ興味が出て画像検索してくれるほどの面白い作品を書けりゃいいんでしょうけど、悔しいですけど自分の腕じゃ難しいですね・・・・・・
まぁ兎に角、キャラ描写をもっと頑張ります。

とりあえず投下します

69ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:22:03.51ID:5SR/j3F60
――艦これSEED 響応の星海――


「ごめん、つきあわせちゃって。でも・・・・・・」
「いいよ。私だって、このままじゃ終われない」

鋼鉄の巨人、ストライク。
そのコクピットでキラの膝の上に座った私は、いろとりどりに輝くディスプレイを眺めながら、唐突に「過去」を思い出していた。
それは1940年代、その前半。
人類にとっては70年以上も昔、多数の艦娘にとっては主観的に10年内の出来事として認識されているそれは丁度、太平洋戦争が始まり、そして日本が敗戦国として終わった時代だ。
当時、意志もなにもないモノ言わぬ兵器であった【大日本帝国海軍特型駆逐艦22番艦の響】は、何度大破しても沈まず、その度に復活しては戦場に出ることから「不死鳥」とも称されており、
不沈艦として終戦まで戦い抜いたとされる。
あの戦争を経て生き残った艦艇は少ない。
【響】は四姉妹の次女として建造され、後に【暁】、【響】、【雷】、【電】の四姉妹揃った第六駆逐隊の一角を担った。しかし、彼女らは【響】を残して皆沈んでしまった。立て続けに、一人は手の届く場所で、死んだ。
私は独りぼっちになった。
別に珍しいことではない。そんな経験は艦娘であれば、似たようなことは沢山あっただろう。自分が死ぬ瞬間を覚えている者もいる。凄惨そのものだったよ、あの戦争は人間にとっても兵器にとっても。
そのように「記憶」は告げている。

「いや、でもさ。囮になって時間を稼ぐんだ。それって集中砲火されるってことだよ。それでも?」
「上等さ。それに囮になるなら、ちゃんと動けなきゃダメじゃないか」
「それは・・・・・・そうだけど」
「それに、あなたは私を守ってくれるんだろう? 騎士様は?」
「へ?」

この人間の躰で生まれ変わって、そういえばあの時はと思い起こす、鮮明すぎる前世の記憶。
私という存在にとってのそれは、悪夢でしかなかった。
己に乗船していた者の姿形、その情念、その記憶すらも混じり合って構成された記憶は、痛い。艦娘となって姉妹と再会してからは、もっと痛くなった。誰かが傷つくと、死にそうな気分になる。
独りは怖い。
心が氷になりそう。
この先もずっと怯え続けるだろう。
この記憶は、きっと、乗り越えられない。
生き残れたことを僥倖と思うべきなのに、死に損なったと思う自分には。生き残った喜びよりも、後悔と無念が先に立った自分には。
戦後に解体処分されることなくロシアに賠償艦として引き渡され、死に場所すら奪われたまま30年の時を刻み、何も成せないまま生涯を終えた自分には、重すぎる。

70ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:24:48.90ID:5SR/j3F60
罪悪感。
私はきっと、赦されることはないだろう。
誰に?
わからない。
何を?
わからない。
何故?
それも、わからない。
己の過去が、己の想いが、私を幾重にも締め付ける。お前にその記憶から逃れる術はないのだと。お前は誰も救えぬまま、孤独のままなのだと、誰かが私に告げる。
そんな感傷に追い詰められた「過去」が、私にはあった。

「ふふ。氷のお姫様としては、頼れるナイトを所望するよ」
「――んな!? ちょ、それ、聞こえてたの!?」
「しっかりと。なかなか可愛らしいな? ――・・・・・・、・・・・・・とにかく、私はやるよ。最後まで抗ってみせる」
「あ・・・・・・、・・・・・・わかった。じゃあ、頼りさせてもらうよ。僕らでみんなを守るんだ」
「うん」

今も尚、その「過去」を克服することはできていない。
クールで飄々とした態度を気取っていても、心の底にこびりついた畏れは消えなかった。
言っておくが私は別に、自分が特別だなんて思っちゃいない。
この想いは、この恐怖は、みんなが持っているものだと思う。榛名も木曾も、瑞鳳も、私の姉妹達も。みんな、みんな。誰もが何かを失う恐怖と戦っている筈なんだ。みんな自分達の姉妹が心配なんだ。
この一連の戦いで、佐世保に38人いた艦娘も13人までに減った。今日の戦いでは更に7人が負傷した。こんなにも沢山の仲間が傷ついたのだ。みんなが皆、身を引き裂かれるような思いでいるのだ。
けれどみんなはぐっと堪えて、成すべきことを成すと、今度こそ大切なもの全てを守ってみせると、記憶を乗り越え戦っている。
私にはできない。
どんなに覚悟しても、昔から。「過去」が覚悟を土台から崩しにかかる。
つまり、きっと誰よりも弱いのだろう。
ちょっとしたことで自分を見失ってしまう私は、弱い。独りぼっちで生き残ってしまったこの身には、また誰かが傷ついてしまうこの現実は重すぎる。せっかく再会した姉妹達がいなくなると想像しただけで吐き気がする。
ちょっとデリケートすぎやしないか、私の精神。
そうだ。私はこの世に生まれ出でた五年前から、ちっとも前に進めていない。また、取り残されている。永久凍土のように変わらず、いつまでも弱いまま、記憶に怯えたまま。
でもこのままじゃいられない。「過去」は乗り越えなくちゃならない。
弱い自分だけど、守りたいものがあるから。
強く在らなくては守れないから。
まだこの手にチャンスがあるのなら、抗わなければならない。
脅迫的なニュアンスを含む、ひどく感傷的なその思考。
だから、後に師匠と呼ぶことになる艦娘に教えを請うた。苦笑いして「オススメはしないけど、仕方ないっぽい」と自分を鍛えてくれた彼女のおかげで、戦闘技術だけは一人前になることができた。

71ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:26:11.57ID:5SR/j3F60
「いこう・・・・・・ストライク、戦闘ステータスでシステム再起動。OSダウングレード、エマージェンシーモード。響、両手を操縦桿に」
「神経接続、リンクスタート・・・・・・? ・・・・・・あ、操縦補助システム、更新完了したみたい。これでやれるの?」
「君が新しい担い手として登録された。やれるよ、その心のままに」

いつしか悪癖として染みついていた自分の突撃戦法は、こうして生まれた。相変わらずの悪運の強さと己の適性を振りかざした、強引な戦い方。誰かを守るなら一番確実な手段だと。
無意識の内に、接近戦に拘ることで何かが赦されると思っていた。
もはや自分の事は勘定に入れていなかった。
けれど。
それでも、自分にできることは小さすぎるわかっていても、やはり守れないものは沢山あった。
いつだって大事なものは遠ざかる。遠くで、近くで、いくら自分を捨てて頑張ったって届かないものがある。手に入れた強さはまだまだ足りない。「過去」を振り解くには足りない。
暁が重傷を負った。
雷と電も、もう戦えない。
目の前で、キラの左腕が折られた。
私も無理が祟ったのか艤装がイカれてしまって、どうしようもない。
このままではまた、誰も救えないまま独りになってしまう。
それがとても恐ろしい。
まだ自分にはできることが、抗えることがある筈なのに。己の感傷に振り回されて、他のみんなに迷惑や心配をかけている自分なのに。このまま戦線離脱なんてしたら、本当にもうどうしていいのかわからなくなる。
だから。

「キラ・ヒビキと、響。ストライク、行きます!」
「う、わぁ!?」

私はこの人の左腕になることを決めた。
囮役を買って出たその意志に賛同して、心配してくれるみんなを、負傷しているにも関わらず単独で出撃しようとしていた彼を説得して、同乗して戦うことをなんとか納得させた。
まだ道はあるのだ。
使い物にならなくなった艤装を解除して、彼の膝の上を陣取る。
これは意地だ。
左腕が使えない彼に代わって握る操縦桿を、目一杯前に倒して。彼がペダルを力一杯踏み込んで。
ストライクと名付けられた隻腕の機械人形が、単身、深海棲艦の群れへと飛び込んだ。

72ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:28:18.97ID:5SR/j3F60
《第6話:不死鳥の炎》




「船を盾に回り込んで! スロットル下げ、操縦桿を右に!」
「こう!?」
「うまい! 四肢全部で慣性をコントロールするんだ!!」
「基本が同じなら・・・・・・! 頭部機銃を撃つ!」

深海棲艦の集中砲火、戦車隊の支援砲撃が乱れ飛ぶ戦場を、ストライクが不格好に揺れながら駆けた。
波を蹴立てて、スケートのような格好で水上をホバリングする。その背後からは黒島を目指していた敵群が一様に追いかけてきており、ストライクの排出する青白い炎も相まって、まるで誘蛾灯にでもなった気分だ。
なにせ18mの巨体であれば、狙いやすいことこの上ない。目論見通りに射撃の的になったキラ達は、今度は黒島から離れるように西へと進路をとる。できるだけ多くの敵を、できるだけ遠くへ。
囮としてこれ以上はないだろう。
白を基調に青と赤で彩られた機体は、敵の執拗な攻撃からぎこちなく逃げ惑い、30隻の無人装甲船の影を縫うように右へ左へとスラスターを噴かせてはフレームを軋ませた。
色鮮やかな装甲には傷一つないものの、被弾する度になにかのパーツがポロポロと海に落ちていく。ショックアブゾーバーも完全に壊れたらしい。
物理的な衝撃を無効化するフェイズシフト装甲が、遠慮容赦なくバッテリーからエネルギーを吸い上げていく。
ギチギチと、嫌な音がコクピットまでに届いている。
モビルスーツとしての寿命が、刻々と迫ってきている。
遮蔽物として使わせてもらっている装甲船が、次々と轟沈していく。全長200m、排水量12 ,000t級の重巡洋艦が紙のようだ。改めてその破壊力に戦慄する。
長くは保たない、キラはそう悟りながら四枚のペダルを連続的に蹴りこんで、全身のスラスターを制御する。響の操縦とリンクするように、機体に負荷をかけないようにと、いつもよりずっと繊細な操作が要求された。

「外れた!」
「照準は合ってる、そのタイミングでいい。3時方向に移動して」
「う、うん・・・・・・って、敵の本隊じゃないか!?」
「突っ込むんだ! スロットル最大!」

つい先程まで不思議な力でキラと一体化していたストライクだが、今は同化を解除して元の巨体を取り戻している。つまり、普通の18m級モビルスーツとしての運用を可能としていた。
基本的にモビルスーツの状態であろうとキラと同化していようと、その性能や能力に差はない。速度も火力も防御力も据え置きだ。
強いて言うなら、空気抵抗や投影面積を考えるなら、同化状態の方が機動力の面で圧倒的有利であろう。人間が、たかが時速1〜2kmぐらいしか出せない蚊を捉えるのに苦労するのと同じだ。
ただしリーチについてはお察しだが。
そう考えたキラは実際に、ストライクと一体化して戦闘に参加した。機体を操縦するような感覚で、己の躰を振り回してきたのだ。

73通常の名無しさんの3倍2017/08/15(火) 12:28:51.11ID:8n2KPSyy0
規制回避

74ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:30:03.39ID:5SR/j3F60
艦娘の艤装と同じく摩訶不思議な原理原則によるものだ。考えるだけ無駄なので、そういうものとして納得するしかない。
そのコクピットに収まった響とキラは、なんとか囮の役割を果たそうと二人して懸命に機体を操っていた。
パイロットの掌部末梢神経から傍受した電気信号を、姿勢制御のサポートに使用する「神経接続型操縦補助システム」を響が使っている以上、操縦桿を握るメインパイロットは彼女。
キラがそれ以外の担当で、ぶっつけ本番の二人三脚に挑む。
そんな彼女らの目前で慌ただしく情報を更新するモニターが、主観的に豆粒大になったル級とタ級、更にヲ級が同時攻撃してくる様を出力した。

「突っ込むって――わっ!?」
「舌噛まないでね、ジャンプするよ!」

殺到する火線にアラートがより一層喧しく喚き、泡を食った響のほっそりとしたお腹を、青年はなんの前触れもなく右腕でギュッと抱き込んだ。背面スラスター全てが駆動し、機体は一息にトップスピードへ。
急激な加速Gに息がつまる。
パッシブセンサーの出力も上げてデュアルアイを煌めかせたストライクはぐっと身を沈めて、勢いよく空高く舞い上がった。脚部スラスターによる跳躍、その高度は200mに達している。
文字通りスケールの異なる鋭い機動に、深海棲艦達はデカい的であった巨体を見失った。
敵の本隊と、ストライクを追いかけていた部隊が合流し――次の瞬間、沿岸の戦車隊が吐き出した榴散弾が、そいつらを纏めて薙ぎ払らった。
そこに、着水したばかりのストライクの頭部機銃――75mm対空自動バルカン砲塔システム・イーゲルシュテルンが追い打ちにかかる。
艦艇に使用される対空機銃よりも口径は小さいが、そこはC.E. 70製ガトリング機関砲、威力は折り紙付きだ。ビーム兵器は極力使用せず、連携で敵戦力の一角を削った。

「よしいける、これなら・・・・・・って、響? 大丈夫?」
「め、目が回る・・・・・・これはちょっと、思ってたよりキツいな」
「頑張って。あと少しだ」
「ッ、――やるさ。不死鳥の名は伊達じゃない。次はどうすればいい?」
「なら、今の要領でいこう。少しずつ戦力を削るんだ」

ぶんぶんと頭を振って気を取り直した少女。
目一杯伸ばした手で握った操縦桿を、青年の指示になんとかついて行こうと必死に操作する。
5分もする頃にはその様もだんだんと洗礼されてきて、ギクシャク動いていた機体もだいぶスムーズになっていた。ノイズばかりのレーダーを分析して、今や自分で次の行動に移ることができている。
いつもとはまったく勝手の違う戦闘に、よくもここまで順応できるものだ。
膝に座る少女が動かしやすいようにと随時機体パラメータを更新しながらも、キラは内心舌を巻く。
OSは初心者用の簡易設定とはいえ、予備知識無しの初めてで、しかも操作を分担するというイレギュラーであるのに、なんという飲み込みの早さだろう。
もうちょっと大きくなってペダルに足が届くようになって、更に鍛錬すればかなりの腕になるかもしれない。
結局、彼女が正しかった。

75ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:32:04.34ID:5SR/j3F60
彼女がサポートしてくれるという申し出には若干、いやかなり面食らったものだが。この分なら、左腕が使えない自分一人が戦うよりずっと役に立てる。
本当に、黒島に集った佐世保守備軍が体勢を立て直すまで、敵の注意を引きつけていられるかもしれない。
どのような事情や思惑があるにせよ、この娘には本当に世話になりっぱなしだ。
いつかちゃんとお礼をせねばなるまい。

救援がいつ来るのか、本当に来るのかが分らないこの状況で、まったくいつもの自分らしくない『自己犠牲』に付き合わせてしまっているのは、心苦しいが。

(あとはストライクさえ・・・・・・)

もうちょっと頑張ってくれよと、キラはそっとディスプレイを撫でた。
ストライクのエネルギー残量も少ない。動けて30分がいいとこだろうが、けれどこれでも当初の予定よりは多いほうだと腹をくくる。
黒島でちょっとだけ充電できたし、なにより午前中の戦いでは、助けてもらった借りを返すと木曾さん達が奮戦してくれたおかげでエネルギーの節約ができたのだ。それに報いる必要がある。
最後の最後まで、やってみせよう。
自分にとっても彼女らは命の恩人なのだから。
この佐世保に流れ着いて、四日間眠りっぱなしであった自分。彼女らが救助してくれなければ、戦い続けていなければ、自分はとっくに死んでいたのだ。そしてこの娘に出会わなければ、まだ迷っていたかもしれないのだ。
だから囮役を買って出た。
絶対、この仕事は失敗できない。

「・・・・・・ストライクもね、不死鳥って渾名を持ってるんだ」
「それって・・・・・・」
「僕の知っている限り、四回は大破してるんだよ。それでもパイロットは全員生還させて、また戦場に出て」

そうしてエネルギー残量が1割を切ったつい先程、ストライクの右腕までもが反応しなくなった。
肩のジョイントから火花が散り、指先一つ動きやしない。両腕が使えない。
同時にこちらに追いついてきた【Titan】のビームライフルで、エールストライカーの片翼と腰部装甲が吹き飛ばされた。頭部機銃で応戦するが、それもすぐに弾切れ。
ようやっと黒島から再出撃した艦娘からの援護は期待できない。彼女らも自分達のことで精一杯だし、なにより遠い。
万事休す。
一時的に操縦の主導権を返してもらったキラが、折れた左腕を使ってでも反撃せんと操縦桿を動かす。
敵の攻撃を、際どく後方宙返りで回避。180度逆さまになったタイミングでアーマーシュナイダーを一つ射出し、落下するそれを宙返りの勢いそのまま足の甲で掬い上げて、更に回し蹴り。
リフティングとボレーシュートの要領で放たれた巨大なナイフは寸分違わず【Titan】の喉元に突き刺さり、その無力化に成功した。
代償に青年は悶絶し、機体の右足から黒煙が上がる。
二人して汗だくになりながら、キラは根拠のないジンクスを口にする。

76ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:34:14.60ID:5SR/j3F60
「だから不死鳥?」
「そう。別の個体も合わせてだけどね。・・・・・・だから今度もきっと、大丈夫なんだ」
「хорошо。それはまた、あやかりたいね」

尚悪いことにフェイズシフトも落ちた。
装甲から色が抜け落ち、元々の暗い鉄灰色に戻っていく。防御力はそこらの通常装甲並のものとなり、どんどん傷だらけになる。咄嗟に身を捻ったから助かったものの、ル級の砲撃で左肩部装甲が脱落した。
不死鳥が二人なら、なんとかなると思わない? なんて嘯くキラは必死の形相でキーボードを叩き、なけなしのエネルギーを最後まで搾り取ろうと思考を加速させる。予備電源もフル活用して、逃げる算段を立てていく。
離脱を開始する。
これでもう、充分だ。
できること、やれることをした。
その巨体で戦場をかき回すだけかき回し、目立ちに目立った挙げ句【Titan】すら葬ったストライクは注目の的だ。その戦力の大半を、黒島から10マイルも西の海域まで誘導することができた。
これでたった6人だけの佐世保守備軍も戦いやすくなっただろう。囮の役割は果たせたわけだ。
あとはここからどう安全に離脱するか。
背後から迫る深海棲艦の大群。その砲撃に晒されたストライクは撃墜される寸前だった。兵器としてはもう完全に死んでいる。スラスターと制御系が生きていることが奇跡だった。それももう1分も保たないだろうが。
しかし。

「響。ちゃんと君は、僕が守る。絶対にやらせはしないよ」
「頼りにしてるよ、キラ」

「生きること」への強い渇望を持つ青年と、「過去」を乗り越えたい少女は、決して諦めない。
抗うことを止めない二人はこの絶望的な状況を退けるべく、最後の賭けに出る。

「砲撃、来た!」
「エールストライカー、パージ!!」

パッシブセンサー全開。
弱々しくもその瞳を輝かせた機体が、軽くジャンプする。
ついで機体背部から切り離された高機動戦闘用装備・エールストライカーが敵の攻撃を一身に受け、爆散した。
すっかり暗くなった空に一際明るい爆炎が輝き、それは鉄灰色の機体をも朱く照らし出しては飲み込み破壊する――はずだった。

「しっかり捕まっててよ!!??」
「ッ――!!!!」

再びストライクをその身に取り込み同化したキラが、響をお姫様だっこするように抱きしめながら、爆風に煽られてくるくる飛んでいった。
同化するといっても重量がそのまま加算されるわけではない。そこに現人類が思い描く質量保存の法則は通用しない。小さな二人は炎に飲み込まれるより前に、ふわりと熱風に乗ってその殺傷圏から離脱したのだ。

77通常の名無しさんの3倍2017/08/15(火) 12:36:28.73ID:8n2KPSyy0
規制回避

78ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:36:54.33ID:5SR/j3F60
同時に、ストライカーの爆発を目眩ましに深海棲艦の索敵から逃れることにも成功した。敵からは、鋼鉄の巨人がいきなり消えたか、撃墜できたように映っただろう。
何かが少しでもズレていたら成立しなかった絶妙なタイミング。
それを見事に掴んだ二人は炎に灼かれることなく、最後のエネルギーを振り絞ってなんとか緩やかに着水することに成功した。
着水し、その場で尻餅をつく。
しっかり抱いていたはずの少女も放り出され、二人ともびしょ濡れになる。運良く浅瀬で、溺れることはなかった。
そこは壊れてしまっている灯台が設置された小さな島、長崎県平戸市の尾上島の近く。
キラと響は、もうそこから動くことが出来なかった。体力と精神の限界だ。膝が笑って、息も上がって、身体に力が入らない。持てる総てを出し尽くした。
事実上の戦力外通告。スッカラカンになったストライク同様、これ以上なにもできそうにない。
すぐ近くには深海棲艦が徘徊しているが、それでもだ。
見つかれば今度こそ終わりだ。殺される。
だが。
幸いなことに、無防備な二人が敵に見つかることはなかった。
奴らは暗視能力を持ち合わせていない。この20時の暗闇に紛れた二人を再び捕捉するのは不可能なのだ。
そう、20時だ。
約束の時間である。


「より取り見取りっぽい?」


座り込んだ二人の隣を、黒き疾風が駆け抜けた。
月明かりに照らされた金髪と、黒い制服を靡かせ疾る少女。その背には巨大な鋼鉄の兵装。
見間違いようがなく、その後ろ姿は艦娘のものだった。
青年が初めて聞く声、初めて見る姿。
少女が久々に聞く声、久々に見る姿。
そしてそれは勿論、彼女一人だけではない。
つまり――

「よし、持ちこたえてたわね! 呉・佐世保連合艦隊!! 砲雷撃戦よーい!!!!」
「島風は夕立のフォロー! 由良と鬼怒はそこの二人を救助して!」
「りょうかい! 島風、突撃しま〜す!!」
「はい! そこの二人、大丈夫!?」


待ちに待った救援が、到着した。

79ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:38:04.16ID:5SR/j3F60
「比叡、私達で道を切り開くわ。金剛お姉様直伝のフルバースト、決めますよ!!」
「まっかせて霧島! この比叡、通常の3倍の気合! 入れて!! いきます!!!!」
「帰ってきたぜ佐世保! 行くぞぉ天津風、阿武隈!! この摩耶様に続けぇー!!」
「了解!」
「阿武隈、ご期待に応えます!」

ぞろぞろと。
十人十色。
千差万別な少女達が。
戦場に雪崩れ込んでいく。
目がくらむほどの閃光。
頭痛がするほどの轟音。
腹まで響くほどの衝撃。
文字通りに世界が一変した。
今までの大苦戦が嘘のように、北西からやってきた十数余の艦娘達による攻撃で、深海棲艦達はあっという間に蹴散らかされていった。ブルドーザーもかくやといった凄まじい快進撃。
誰も彼もがピカピカだ。初めて会った時からズタボロだった佐世保のみんなとは全く対称的な、どこまでも希望に満ちあふれた戦士の出で立ち。
元気いっぱいに景気よく砲弾をぶっ放す様はなるほど、戦場の女神という形容詞がピッタリだった。
本当に、来てくれた。
来てくれた!!

「ぃよぉし、腕が鳴るわね! ビスマルクの戦い、見せてあげるわ!!」
「フフッ、夜戦か。いいだろう・・・・・・このグラーフ・ツェッペリンがただの空母でない所を見せてやろう」
「お〜、いいですねぇ夜戦〜。やっ、せっ、ん〜! 行ってみ〜ましょ〜! やっ、せっ、ん! 呑まずにはいられない〜!!」
「敵艦発見、砲戦用意! ポーラ? お酒はぜーったいダメだからね?」
「アッはいザラ姉様。ポーラ、お酒はモチロン飲みません・・・・・・」
「あ、あの・・・・・・私の、ビスマルクの戦いを・・・・・・」

なんか漫才してる一団もいるが。

「さてさて熊野。アレをやっちゃうよー」
「ええ、よくってよ鈴谷」
「おぉうアレやるの二人とも? こりゃ負けてらんないね大井っち」
「あら北上さん、じゃあ私達も」

なんか合体必殺技を繰り出してる人もいるが。

「ソロモンの悪夢、見せてあげる。――あたしは帰ってきたぁッ!!」
「また世界を縮めちゃった・・・・・・! 私には誰も追いつけないよ!!」

80ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:40:27.75ID:5SR/j3F60
由良と鬼怒という少女達に背負われたキラと響は、思わず顔を見合わせて、力なく苦笑した。
なんとも賑やかなものだ。
何十回と渡った綱渡り、その対価としては妥当なところなのだろうが、この花火大会最前列みたいな姦しさはなんだ。感慨もなにもなく、まったく、ついこちらも釣られて笑いがこみ上げてくるじゃないか。
というか笑うしかない。乾いた笑い声が二人の口から漏れ出した。
その時、遠く南東の方面でもチカッと光が瞬いた。

「あれは・・・・・・?」
「きっと、鹿屋のものだろうね。よかった・・・・・・これでもう、本当に」

広島の呉鎮守府と、鹿児島の鹿屋基地。
佐世保のお隣さん的存在で、今回の騒動で修復施設を失った佐世保鎮守府に代わって、負傷した艦娘達の治療を引き受けてくれたのだという。
その流れで佐世保救援部隊を結成してくれて、元気になった佐世保所属の艦娘を伴って今ようやく到着してくれた。呉は北から、鹿屋は南から。
役者は揃った。反撃の始まりである。
今の二人に知る由もないが、呉からは22名、鹿屋からは27名と、49人もの艦娘がこの海域に集っていた。一大決戦級の大規模作戦だ。この規模の艦隊が動いた例はそう多くない。戦況は完全に形勢逆転した。
特に佐世保所属艦の働きは素晴らしく、不死鳥の如く蘇った彼女らの戦果はかつてないものになっていた。
その勢いは誰にも止められない。
この海域から深海棲艦が一掃されるのも時間の問題であろう。
また、黒島からは信号弾が上がった。
それは金剛が打ち上げたもの。救援の到着に気づいた佐世保のみんなが、自分達の状況を伝えるべく空高く放った光の玉だ。
込められた意味は二つ。
私達はここにいる。誰一人として欠けてはいないと。


間に合った。
佐世保は、救われたのだ。

81ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:42:08.19ID:5SR/j3F60




その後、一夜明けて11月4日の8時。
夜通しかけて、この海域全ての深海棲艦とその泊地を掃討した連合艦隊は、半壊した佐世保鎮守府に集っていた。佐世保所属は復帰した者を含め38人、呉と鹿屋からそれぞれ12人ずつ、総勢62人の大所帯だ。

「暁―!!」
「響! よかった、無事――わっぷ!?」
「暁・・・・・・本当によかった・・・・・・大破しちゃったって聞いたから・・・・・・」
「あぁもう泣かないの。レディーはそう簡単に泣いちゃいけないんだから。・・・・・・無事よ、ちゃんとね」
「うん・・・・・・」

鬼怒に背負われようやく戻ってきた響は、一目散に暁に抱きついた。
意外なことにあのクールな少女が大粒の涙を流して、思いっきり泣きじゃくっている。
そんな彼女をよしよしと慰めているのが、彼女ら四姉妹の長女である、暁だ。深い菖蒲色の髪と瞳は、全体的に青白い響とは対照的。でも髪質はお揃いなのか、黒と白の長髪が潮風に靡いてふわふわクルリと広がった。

「ちょっとちょっと、私達を忘れないでよね! 雷も電も、すっごく心配したんだから!! もう・・・・・・!」
「響ちゃん・・・・・・ホントによかったのです・・・・・・ぐすっ」

その隣に控えていた三女と四女も感極まったのか、その大きな栗色の瞳に涙を浮かべて二人に抱きついた。
そして四人はしばしギュッと抱き合い、お互いの熱を交換しあったのだった。
こんな小さな躰で、今まで本当にお疲れ様と、キラはそこから少し離れた場所で想う。
長いこと絶望的な戦いを続けてきたのだ、こうなるのは当たり前だろう。約一週間にも及ぶ孤独な防衛戦。その果てにみんな無事に再会できたのだから、泣かない方がおかしい。
佐世保の港は、大勢の少女達の泣声に満たされていた。

「失礼、少しいいかしら?」
「うん? 君は・・・・・・?」
「はじめまして。私は天津風。呉の艦娘よ」
「あぁ、うん。僕はキラ。はじめまして」

そんな光景をぼんやり眺めていたキラに、声を掛けた者がいた。
振り向けばそこには、象牙色のサラサラな長髪をツーサイドアップにした女の子。
どことなく高貴な猫を想起させる、吊り気味の瞳。黒い長袖のワンピースに、紅白の髪飾りとニーソックスが特徴的だ。身長は響より少し高い程度。可愛いか美しいかで言えば、美人の部類だろう。
くせ毛でふわふわな髪、温和な小型犬のようにも見える垂れ気味の瞳、美人というよりかは可愛いの部類に入る響達四姉妹とは正反対のタイプだと、キラは勝手にそう評する。
背中には魚雷発射管を背負っていて、連装砲といった火器はショルダーバッグのように右腰に下げたパーツに集約されているようだ。

82通常の名無しさんの3倍2017/08/15(火) 12:44:31.49ID:8n2KPSyy0
規制回避

83ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:45:07.00ID:5SR/j3F60
なんの用だろう、僕なんかに。

「・・・・・・キラ?」
「え? ・・・・・・えぇと、そうだよ?」
「その左腕・・・・・・」
「これ? ただ骨折しただけだよ。大丈夫、これぐらい」

何故か少女は驚いたように目を見張り、そしてマジマジとキラの顔と左腕を交互に凝視してきた。
なんだというんだ。
小さく「いや、そんなはず・・・・・・でも・・・・・・この制服は・・・・・・」などと、逡巡しているような呟きが聞こえる。呼びかけておいて少女は、たっぷり十秒近く俯いて思考に没頭してしまった。
取り残された青年としては根気よく待つしかない。まさか怪我の具合を訊きにきた訳でもあるまい。
更に待つこと数秒。
やっと何かの決心がついたのか、少女はこれまた小さく頷き、深呼吸して、緊張したような面持ちで訪ねてきた。

「あのっ、一つ質問、いいですか?」
「う、うん。どうぞ」

なんだろう。
こっちまで緊張してきた。
一体なにが彼女をこうさせるのか、まったく検討がつかなかった。だって、そういう場面じゃないだろう。
彼女にだってまだ任務があるんじゃないのか? こんな所で見ず知らずの自分に質問なんかして、油を売っている暇はないと思う。事情聴取にしたって、まずは他のみんなから聞き出した方が効率もいいだろうし。そもそも質問って何の為に。
本当に一体、なんなんだろう。
そんな風に疑問詞ばかり浮かべたキラは、天津風の言葉に耳を傾ける。
聞くだけ聞いてみよう。


「えーと、もしかしてシン・アスカって男の子のこと、知ってますか?」


・・・・・・え?

「アナタのと同じデザインで、紅い服を着た――」
「シン・・・・・・、シンを知ってるの!?」
「――やっぱり・・・・・・じゃあアナタが、キラ・ヤマトさんなんですね!?」
「・・・・・・!!」

なんで、その名が、その二つの名前が、ここで出てくるんだ?
いきなり頭をハンマーで殴られたが如き衝撃に、キラは呆然とする。
知っているなんてものじゃない。

84ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:47:12.04ID:5SR/j3F60
彼は自分――キラ・ヤマトが心を開いて接することができる、数少ない友人であり、かつては部下だった男だ。
黒髪と紅い瞳という妖しい風貌の、自分と何度も殺し合いをしたエースパイロット。最強の一角を担う【紅蓮の剣】。苦手なもの、好きなもの、その拘りだって熟知している。
その彼を何故君が?
彼がここに・・・・・・この世界にいるのか?
なんで?

「ぅ、あ?」

何故か急に、息苦しくなった。
左腕が、左眼が痛い。
ああ、でも、そんなことはどうでもいい。
この少女は、何を知っている?
どこまで知っている?
僕の知らないものを、彼は知っているのか?
空白の一週間。もしかしたら二週間。
僕が、彼が、あの隕石が、この世界に来た理由。それはなんだ? なにがあった?
少女の肩を掴み、問い質そうとした。
ぐにゃりと視界が歪んだ。

「あ!? ちょっと!?」
「・・・・・・っ!! ――ごめん、ちょっと目眩が・・・・・・」
「だ、大丈夫なの・・・・・・?」
「なんとか・・・・・・」

膝から崩れそうになったが、天津風に支えられて踏みとどまる。
そうでなければ今頃、地面に顔面強打していたかもしれない。

「そう、だよ。僕が、キラ・ヤマト・・・・・・。でも、なんで」
「シンが呉に運ばれてきて、キラって人のことを言ってて・・・・・・それでアナタの制服が同じデザインだったから、もしかして関係者かなって。・・・・・・まさか本人だったなんて」

少女に手伝われて、腰を下ろす。
嫌な汗が噴き出ていて、顔は真っ青になっていた。異常だ、これは。
一過性のものだったのか今はもう落ち着いたが、まさかシンの名を聞くだけでこうなるとは。奇妙な痛みに、混濁する思考と記憶。
こんなのが、今日だけで二回だ。
というか。
強い心理的ストレスに晒された人によく見られる症状ではないだろうか、これは。例えば、初めて砂漠にきた頃の自分みたいな。知らぬ間にトラウマかなにかが増えているらしく、結構久しぶりの発作だった。
え、なに? 僕シンにナニカされたの?

85ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:49:09.15ID:5SR/j3F60
「顔色がひどいわ。待ってて、今タオルと水を持ってくるから」

天津風がそう言い残し、いずこかへと走り去っていく。その途中に声をかけたのか、入れ替わりに響達がこっちに駆け寄ってくるのが見えた。
ああ。
それにしても。

(シンがこの世界にいる。今どうしてるんだろう。はやく、会いたいな・・・・・・)

まったく、いつも自分を驚かせてくれるところは、変わっていないようだった。
そこは少し安心した。
孤独だと思っていた自分には、仲間がいたのだ。

(やらなきゃいけないことが、できたな)

この戦いを通して、キラ・ヒビキはただの『巻き込まれた者』ではいられない理由ができた。
これからも艦娘達と一緒に戦うかは別問題として、自分が立ち向かわなければならないことが三つもある。


一つ目は、あの隕石にあるであろうNJの停止、若しくは破壊。
あれがある限り、この土地はずっと電波障害に苦しめられることになる。自分達こそが解決しなきゃならないことだ。


二つ目は、そもそも自分達がここに転移してきた謎の解明。
キラがストライクに乗っていた理由含めて、C.E. で何があったか知る必要がある。調べれば元の世界に帰る手掛かりになるかもしれない。自分だけなら兎も角、シンは帰らなきゃダメだ。


そして三つ目が、昨夜に遭遇したスカイグラスパーの正体を知ることだ。
ただの他人の空似だと思う。でも、どうしても気になる。
彼ともう一度会って、確かめたい。
君はトール・ケーニヒなのかと。
確かめて、それからどうするかは、どうしたいのかは分らないが、それはなによりも大切なことだと思った。


なにはともあれ、まずは呉にいるというシンに会おう。
きっと、色々なことが解るはずだ。
そう決心したキラはとりあえず、響達に元気だよと伝えようとして、力なく右手を挙げるのだった。
彼と艦娘達の、新しい戦いが始まろうとしていた。

86ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/08/15(火) 12:54:29.18ID:5SR/j3F60
以上です。二人乗りってロマンだと思います。
これで予定している全体の1/3まで書けました。第一章完です。
次回からはシンが物語りに絡んできて、日常描写が増えていきます。

それと縁があって、pixivのほうにも投稿することになりました。そちらの方はちょっと加筆修正したものになりますが、こちらと平行して進めたいと思います。

87通常の名無しさんの3倍2017/08/18(金) 12:53:37.94ID:tSosec1jO
更新乙であります。
援軍到着のくだりは「エリア88」のキムとセラの救出作戦を思い出しました。
あのシーン大好きなんですよ、なので艦これ知らない私でも
情景がありありと見えて良かったです。

二人乗り…今回は余裕なかったけど次回はぜひ
余裕の状態で当たってる当ててんのよの
ニヤニヤ展開を←下衆w

88通常の名無しさんの3倍2017/08/18(金) 20:19:05.63ID:+GduaNAt0
乙です
シンは何かしら訳知りな立ち位置なのな

>>87
相変わらず渋い趣味のお待ちで

89通常の名無しさんの3倍2017/08/24(木) 18:59:54.27ID:bSbeXJ050
保管庫に「顎朽ちるまで」と「皇女の戦い」4話まで掲載されてますよ
仮まとめ人さまお疲れ様。ミートさんは自力更新?
http://arte.wikiwiki.jp/

90ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:31:49.22ID:DDhAtvrz0
お二方感想ありがとうございます。
自分はエリア88は未視聴ですが、ピンチからの大逆転の描写はちゃんと伝えられたようでなによりです。
二人乗りはまたいつかやりたいです。
今回は訳知りなシンのお話です。

>>89
自分は自力更新です。でも、最初は誰かに掲載して頂いてました。
そういえばそのお礼をまだ言えてなかったので、今更ですが、どなたかわかりませんが掲載してくれてありがとうございました。

今回はかなりの難産でした。ようやく書けたので投下します。

91ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:33:10.22ID:DDhAtvrz0
――艦これSEED 響応の星海――


「失礼しました。――・・・・・・ふぅ」
「・・・・・・どうだった?」
「・・・・・・お前、今まで待ってたのかよ?」
「悪い? だって、気になるじゃない」

11月7日の11時。
あの佐世保防衛戦から三日後、その昼下がりのこと。
無秩序にボサボサツンツンした濡羽色の髪に、妖しい光を湛えた紅の瞳が特徴的な青年、シン・アスカは眉間に皺をよせたまま固まった。呉鎮守府の執務室から恭しく退出したら、そこで天津風とバッタリ出くわしたからだ。
お互いが大なり小なりのしかめっ面。そして互いが「ああ、いつもの顔だな」と認識するだけの、一秒間の沈黙。
別に嫌悪感とかがあるわけではないが、かといって和やかに挨拶するほどの間柄ではない微妙な距離感が、二人の間にあった。大抵、二人が会う時はこの沈黙がまず先頭に来る。
そして、先に行動するのは決まって天津風だ。
腕を組んで壁にもたれかかっていたツーサイドアップの少女はツカツカと歩み寄ってきて、かと思えば青年の袖をつまんでそのまま、いずこかへと歩き始める。なんだなんだとシンはされるがまま、その後をついて行く。
出会って以来、これが二人の関係だった。

「たかだか三十分ぐらいよ、問題ないわ。・・・・・・で、どうなのよ」
「・・・・・・とりあえず、動けるのは早くて二週間後ぐらいだと。しかも最低二人は護衛つけろって」
「あら、意外と早かったのね」
「そうか?」
「そうよ」

二人の出会いは、まぁ、そう褒められたものではなかった。
不幸な事故、不幸な行き違いがあった。口論に至るほどのものではないが、ちょっと気まずい、そういった出来事。それで二人揃って尖ってて素直になれない性格なこともあり、ほんの少しの確執が今でも残っている。
とりあえず、お互いにしばらく距離を取っておこうかなーと思うぐらいの出来事があったのだ。ある人物はそれを「ありゃあ典型的なラブコメの導入編だったね。いやぁ、見事にコッテコテな」と笑いながら評したが、
当人達は至って真面目であった。
だが神の悪戯か、悪魔の罠か。
周囲の者達からは「喧嘩するほど云々」と捉えられたのか、天津風がシンのお世話係兼監視役に任命されたのだった。そこでもまた一悶着あったのだが、それもまた別のお話。
兎も角、それから少女がぐいぐい引っ張り、青年が渋々ついて行くという図式ができあがったのだった。
しかし二人はまったくもって気づいてはいない。
その距離が以前より少し、近づいていることに。

「あっちもこっちも、まだゴタゴタしてるもの。それを二週間で、しかも少人数の護衛だけでなんとかしてくれるって、相当便宜を図ってくれてるじゃないの」
「俺一人で行けばいいじゃないか。アイツも俺に会いたがってるっていうし」

92ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:35:03.92ID:DDhAtvrz0
「必要なのよ。自覚ないんでしょうけど、アナタはVIPなんだから」
「VIPね」
「だから私はこうして戻ってきたんだし、ちょっとぐらいの不自由は我慢なさいな」
「やっぱりお前も付いてくるのか? 佐世保行き」

佐世保行き。
つまり、シンがキラに会いに行くにはどうすればいいのか、というのがこの話題の焦点だった。
事の発端は、昨日の夕方に呉に帰還した艦娘達からの報告。
異世界人であるシン・アスカの知り合いのキラ・ヤマトが佐世保にいたというビッグニュースを、当の天津風が持ち帰ってきたのだ。「聞いていた話とちょっと相貌が異なっていた」らしいが、とにかく五体満足で生存し、
どころか艦娘達と一緒になって戦っていたのだという。
俄には信じがたいことだったが、寧ろ自分の耳を疑ったが、これにはシンは素直に喜んだ。
自分のやったことは無駄じゃなかったと、密かに瞳を潤ませもした。
そこで、こりゃ早く会わねばとシンが呉の提督に直談判したのが、つい今さっきのことだったのだ。

「当然でしょ。なによ、文句あるの?」
「ないって。むしろ、こうなったらトコトン頼らせてもらう」
「ふ、ふん・・・・・・!」

件の防衛戦に参加した呉の艦娘は12人。その内の天津風含む5人は予定通りに昨日帰還して、残り7人は臨時防衛隊として佐世保鎮守府に長期滞在することになっている。
これは鹿屋も同様だ。流石にこのご時世に12人もの戦力を長期間他に回すほどの余裕はなく、けれど助けるだけ助けて後はほったらかしというのも有り得ないので、これが最大の譲歩案だった。
呉と鹿屋からの7人と、佐世保復帰組だけでも、体勢が整うまでの専守防衛なら事足りるであろうという計算だ。
その出向防衛組の滞在期間は二週間。
つまり、そいつらが帰って来るまでは、シンの佐世保行きはお預けということになる。
深海棲艦との戦争は若干人類側が優勢とはいえ、やはり戦力はカツカツなのだ。
異世界人とはいえシン一人の為に呉の戦力は減らせない。佐世保で一戦力となっているキラが動くなんてことも論外。それが佐世保と呉の提督が有線通信を用いて協議した末の、結論だった。
二週間。
短いようで長いなと、シンは溜息をつく。

「・・・・・・なぁ。そういえばさっきから、どこに向かってるんだ? 俺、メシ食いたいンだけど」

ところで、天津風はこれから何処かへ出かけるのか、白いロングワンピースに黒のカーディガンを羽織った私服姿だった。縁起の良い紅白カラーのマフラーを腕にひっかけて、どこかお嬢様然とした出で立ちだ。
こうなると本当にただの綺麗な女の子といったものだが、勿論彼女は立派な艦娘である。
艤装を解除して、艦娘としての超常的能力の大半を封印した非戦闘モードの彼女――因みに、艦娘としては艤装を装備している状態こそが自然体である――だが、それでも通常の人間とは比べものにならない身体能力を備え
ている。遺伝子調整を施して生まれたコーディネイターでありザフトのトップエリートだったシンだが、所詮は普通の人間、彼女に袖を掴まれては振り解くことは出来なかった。もとよりする気はないが。
しかしだからといって、このままでいいわけもなく。

93ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:37:05.77ID:DDhAtvrz0
代わりにシンは抗議の声を上げる。ついでに腹の虫も声を上げた。
そろそろ空腹も限界で、提督と話し終わったし食堂に行こうと思ったところで少女に捕まったのだ。いい加減解放して欲しい。食事は何よりの癒やしなのである。
それをなんの権利があって、この小娘は邪魔するのか。
方向からして食堂とは正反対の、エントランスのようだが。お出かけするなら勝手にどうぞ。

「それね、残念だけど今日は食堂やってないのよ」
「は?」
「ちょっとしたトラブルがあってね。復旧は明日の昼頃って」
「マジ? ・・・・・・え、マジで? 売店は・・・・・・てか、それでもなんかあるだろ? 賄いのとか」
「マジよ。酒保とかも今から行っても間に合わないわ。軽食争奪戦は私達の不戦敗ね」
「なんだよ、それ・・・・・・!?」

待ってほしい。
なんの冗談だ、それは。
シンの顔が絶望一色に染まる。
この呉にやって来てからというものの、食事は全てここの食堂でお世話になっていたのだ。今までずっと外出を許可されなかった――というか、実質軟禁状態のシンにとって、食堂のタダ飯は命綱である。
もはや世界の全てと言っても過言ではない。
それで、そもそも異世界人であるが故に無一文なので利用したことはないが、酒保もダメと。サンドイッチとかも全滅と。
え? 三食抜き? そりゃその気になれば耐えられるけどさ、飢えちゃうよ俺? 
となれば、それはつまり世界の終わりではなかろうか。
いやまてはやまるな。
冷静に考えればここは軍の施設、こういう事態を想定してカップメンや缶詰といった備蓄はあるだろうが、天津風曰くそういったものは出撃した艦娘に優先的に回されるらしい。
今日明日の食事は各個人でなんとかしないといけないと。
ならば、どうする? 繰り返すがシンは無一文だ。一応VIPらしいがその身分は一体如何程のものだろうと、彼は頭を捻る。上の連中はちゃんと考えてくれてるのだろうか? 正直、怪しいところだが・・・・・・上の連中、うえ、うえか・・・・・・
俄に腹の虫が、なんか食わせろと大合唱し始める。「飢え」という一文字で一杯になった頭は上手く回らなくなる。どうすればいいのか皆目見当もつかなくなった。
なんにせよ、今すぐ何かを腹に詰め込まなきゃどうにもならない。もう待ってなどいられなかった。
そんな哀れな男を助けるのは、やはりお世話係兼監視役の少女、天津風。

「だから外食するわよ。ついでに服も買わないとね。外出許可は取ってあげたから、折角だし街も案内したげる・・・・・・私の奢りよ、感謝なさい?」
「・・・・・・誠にアリガトーございます天津風サマ」
「よろしい♪」

こうしてシン・アスカは、初めて呉の街に繰り出すことになったのだった。

94通常の名無しさんの3倍2017/09/14(木) 04:38:55.04ID:F/9FvV3M0
連投回避

95ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:39:34.29ID:DDhAtvrz0
《第7話:紅き瞳を導きし、新たなる風》



どうやら保護者と一緒なら外出許可が下りるらしい。
エントランスで待ち合わせしていたらしいもう一人の少女と合流した天津風一行は、まず服屋に立ち寄った。
買い求めるはシンの私服である。
なにせ今の彼は、全身真っ赤なザフト赤服一着しか持っていないのだ。厳密に言えばパイロットスーツもあるのだが、アレは服としてはカウントしないだろう。
一応、提督から譲ってもらった部屋着と作業着もあることにはあるが、それも借り物なうえに外出には適さない。いい加減に自前の服を揃える必要があった。なにせ赤服は目立つ。この世界ではどう控えめに見ても、何かのコスプレのようだった。
鎮守府の門から出てきた青年は、当然とばかりに世間の皆様の視線を一身に集めることと相成った。
こう言ってはなんだが、艦娘の戦闘用ユニフォームもなかなか奇抜で特異で非現実的というかソレ着てて恥ずかしくないのと疑問に思うものばかりなのだが、ぶっちゃけそれと同レベルなのだ、赤服は。
当の艦娘達はもうそんな奇異の目には慣れたし気にしない――こればかりはどうしようもないらしい。
是も非もなく、生まれた時からその服とセットだったのだ――が、今や世間では「浮き世離れした格好=艦娘」という誤解極まる図式が成り立っている。
そんじょそこらのアニメ漫画より、艦娘のほうが影響力のある世の中である。人類の希望だからね、仕方ないね。普通に学生服や和服な娘も多いんですけどね。
まぁそんなわけで、今のシンは年甲斐なく艦娘っぽいコスプレしてる残念なイケメンとして見られているのだ!
せめて誰かにコートか何かを借りるべきだった。
C.E. ではトップエリートの証だった赤服がそのように見られるというまさかの屈辱にシンの頭は沸騰寸前になるが、そこは旧ザフトが誇るスーパーエース、なけなしの自制心でぐっと堪えた。
うん。これ、なんて羞恥プレイ?

「くそぅ・・・・・・いつか見返してやる」
「誰によ」
「さぁ?」

そんなわけで、シンは普通の服を手に入れた。
嗚呼、素晴らしきかな普通。普通であることの幸福感は、きっとかけがえのないものだろう。
黒のジャケットに臙脂のシャツ、これにジーンズとブーツとでカジュアルコーディネイトされたコーディネイターは、どこからどう見ても立派な一般人である。
その他にも赤系統の服を数着入手して、部屋着共々だいぶ選択肢が増えた。しかも結構格安で。なんでも艦娘なら割引されるらしい。というか、艦娘達の給料ってどうなってるんだろう。
なにはともあれ。
これで、第一目標は達成された。

「シンさーん。これなんかどうでしょう?」

96ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:41:04.34ID:DDhAtvrz0
「マフラーか。確かに・・・・・・サンキューなプリンツ」
「Gern geschehen! シンさんって何でも似合いますね。コーディネイトし甲斐がありますよー」

された、の、だが。
おさげにした黄金色の髪と、翡翠色の瞳を持つ少女、プリンツ・オイゲンが嬉々として次々と新しい服を持ってき始めた。フリルいっぱいのミニスカートをひらひらさせて、あれよこれよと店内を忙しく巡る。
なにやら乙女心に火がついたらしい。
彼女はドイツ生まれドイツ育ちのアドミラル・ヒッパー級三番艦重巡洋艦の艦娘。約三年前に日本国に出向してきて、天津風と同じ支援部隊に配属、その縁で彼女らはよく一緒にショッピングしたりするとか。
余談だが、呉鎮守府は彼女のような海外からの出向艦を多数受け入れており、多国籍艦隊を中心に運用している世界でも珍しい存在なんだとか。佐世保に臨時防衛隊として向かったドイツ出身のビスマルクや
グラーフ・ツェッペリン、イタリア出身のザラとポーラはその一角だ。他にもイギリスやアメリカから来ている者もいるという。
西太平洋戦線は世界中から重要視されており、呉はその前線基地として機能している為、海外からも精鋭が送り込まれてくるという理屈だ。
さて。
そんな精鋭の一人であるプリンツとシンは今回初めて会話することになったのだが、実は、彼女は彼のしかめっ面を恐れていた一人だったりする。
鬼の形相とまではいかないが、かつて「独りでにすっ飛ぶ抜き身のナイフ」とまで囁かれた青年の眼光は、多少丸くなったとはいえ少女達をビビらすには充分過ぎるものだった。
尤も、悩み多き青年が突如置かれた異世界の、軟禁同然の生活環境で「リラックスして肩の力を抜きなさい」というほうが無茶なので、ずっとしかめっ面であったのは仕方のないことなのだが。
つまるところ、この世界の人間からしたらシンは「異世界の軍人で、巨大なロボットに乗って人間同士の戦争を生業としてきた目つきの悪い青年」といった感じに映るわけで。
そりゃ誰だってビビる。たとえ大の大人であっても、歴戦の艦娘であっても。誰も彼もがシンを遠巻きに眺めるだけだった。
実際、さっきエントランスでよろしくと声を掛けられた彼女は、それはそれはわかりやすくビクゥッと身体を硬直させたものだ。内心ただならぬショックを受けたシンであったが、天津風が仲介することでなんとか
挨拶を済ませることができた。
そこまで来ればもう一息。彼は人付き合いが苦手なタイプではない。
初めての外出でリラックスできたことも大きいのだろう。移動しながら会話を重ねるにつれて「なんだ顔が怖いだけでなかなかフランクな人じゃないの」と誤解を解くことに成功し、
ついで「笑った顔は意外と可愛い」という心外な評価を得たシンは、なんとかプリンツの信頼を勝ち取るまでに至ったのだった。

「このしかめっ面さえなければねぇ」
「そうですよ。とても整った顔立ちしてるんですから、笑わなきゃ損ですって」
「そ、そうか・・・・・・?」
「あっ、天津風! これも良いかも! ・・・・・・ほぉ、ほぉほぉ、なるほどねぇー」
「プリンツ。これもイケると思わない? いい風きてるわ、この組み合わせは試す価値ありそうね」
「・・・・・・なぁ二人とも。いい加減・・・・・・」

97ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:43:51.74ID:DDhAtvrz0
天津風とプリンツ・オイゲン。
それなりにシンと仲良くなった二人の情熱は、よりヒートアップしていく。
女の子と一緒の買い物である。目的は済ませたからハイじゃあ次、とはいかないのだ。こういう時、男の立場は限りなく低い。
彼女らに「ちょっとだけ」と着せ替え人形にされるのは、もはや必然でさえあった。最初こそ悪い気はしなかったものの、流石に半時間もマネキン代わりにされると・・・・・・
とっかえひっかえ。シンはこれ以上ないぐらいに早着替えを要求された。
加速度的に、その両腕に紙袋がぶら下げられていく。男モノだけでこれだ、女モノのコーナーに行ったらどうなるんだろう。
シンは額に嫌な汗を流しつつ、同時にある懸念を抱いた。
さて、彼女達は覚えているだろうか、と。
この外出の主役はランチであるということを。
そろそろ、いやマジで、限界なんだけど。目が回り始めてきたんだけど。
まさかこのショッピングだけで、あと何十分も続くなんてことは・・・・・・
お二方、楽しむのも結構ですがね?

「・・・・・・あ」
「〜〜ッ!」
「そ、そろそろ行きましょうか?」
「そ、そうですね! お腹すきましたし!」

だが安心してほしい。
「それ」はなにも、シンだけの問題ではなかったようだ。
きゅるる〜、という可愛らしい音が、三人の腹から同時に発せられる。結構、店内に派手に響いた。主観的に。
それを合図に、三人はそそくさと服屋を後にしたのだった。

98通常の名無しさんの3倍2017/09/14(木) 04:46:26.79ID:F/9FvV3M0
連投回避

99ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:47:02.89ID:DDhAtvrz0




「お待たせ致しました。かずきカレーセットと、あきらカレーセット、みなしろシチューセットです。ごゆっくりどうぞ」
「おお、きたきた」

天津風が「かずきカレー」、プリンツが「あきらカレー」、そしてシンが「みなしろシチュー」だ。これに「かずきサラダ」と「みかどケーキ」が人数分。なかなかに素敵なランチが頂けそうだった。
喫茶・シャングリラ。
海辺に面したアットホームな雰囲気の店で、メニューには作った人の名前がつくというちょっと不思議なルールがある。
また、店内には何故か大きなカジキの置物があって、それらが普通の喫茶店とは一味違う独特な空気感を醸し出していた。なんでも、呉の艦娘達に人気な店なんだとか。
甘ったるい声のウェイトレスさんが下がると、三人は待ってましたと匙を握った。

「いただきます」

声を揃えて、大ぶりなスプーンで一口。

「! ・・・・・・これは、美味い」
「でしょでしょ! 今日のあきらカレーは辛口南国風みたいだけど、これもおいしー! Lecker!!」
「かずきカレーは――うん、シンプルにビーフカレーね。やっぱり流石、マスターは」
「え、なに。同じ名前で違うことあるのかよ?」
「それがお楽しみなのよ。前のかずきは甘口チキンカレー。それでいて全部美味しいんだから」

なんとまぁ、本当に独特な喫茶店のようだ。よっぽどの腕と自信が無ければこうはいかない。
シンが頼んだシチューもこれまた絶品で、苦手な貝柱とキノコが入っていたのだがペロリと平らげることができた。小娘達の手前、勇気を出して食べてみて良かったと心から思うシンであった。
こんなに美味いものを食べたのは久しぶりだ。
そうして、それぞれメインを堪能して、ケーキに舌鼓を打って。

「はいこれ、サービス。いつも来てくれるから・・・・・・好きだろ?」
「あ、マスター・・・・・・ありがとうございます。いただきます」
「メロン味! Danke、マスターさん♪」
「・・・・・・ども」

途中、マスターが飴玉をプレゼントしてくれたり、

「彼氏さん?」
「違います」

100ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:49:07.48ID:DDhAtvrz0
「即答かよ。いいけどさ」
「そうなの? おかしーなぁ」

ウェイトレスさんにからかわれたり、

「先輩大変です! 一航戦が・・・・・・一航戦が呉駅から接近中って!」
「なんだと!? バカな、早過ぎる!」
「ヴァッフェ・ラーデン(第一種警戒態勢)始動! 翔子、カレー増産急げ!!」
「わざわざ横須賀から・・・・・・!? こうしちゃいられないわ。プリンツ、シン、手伝うわよ!!」
「りょ、了解!」
「え、俺も!?」

なんか襲来してくるらしい計二名の団体様をもてなす為に、何故か厨房に立つことになったりもしたが・・・・・・意外と喫茶店で働くのもアリかもしれないとシンは密かに思う。うん、C.E. に帰れたら軍なんか辞めてやろう。
まぁ、なんか色々あった。

「ごちそうさまでしたー」
「あの二人は一体なんだったんだ・・・・・・」
「ただのフードファイターよ。気にしないで、私は気にしない。・・・・・・じゃあ、次にいくとしますか」

そんなこんなで満腹になって喫茶店を出た三人は、天津風が言っていた通りに呉の街を観光することになった。
二人の少女に引っ張られ、やれやれとついて行く青年の顔からは、いつの間にか皺は無くなっていた。
まだまだお昼時。すっきり晴れ渡った高い空の下、活気溢れる町並みをのんびりと征く。
ショッピングモールに突入して、女モノの服を物色して。
本屋に入って、世界情勢に関する雑誌や漫画本を買って。
ゲームセンターに行って、プリンツがジャンル問わず無双を誇って。
屋台で購入したクレープで、危うく間接キスしそうになって天津風が慌てて。
そこらの少年少女の青春模様と同じような休日を満喫する。
いつしか三人で、一緒になって笑い合って。
そうした行為のなにもかもが、シンにとっては初めての体験だった。

(ルナと一緒にこうして街を歩くことも、なかったっけな)


その体験は、否が応にも青年の過去を刺激する。


思えば。
シン・アスカという男は、いつも閉じた世界にいた。
あの運命の日、14歳の初夏。天涯孤独の身となったオーブ解放作戦まではずっと家族に、妹にべったりだった。
勿論クラスメイトと遊んだりはしたが、それも男友達とスポーツをするかゲームをするかといった感じで。あの時は家族の存在こそが世界の全てで、それ以外はいらないとさえ思っていた。

101ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:51:20.60ID:DDhAtvrz0
それから独りで宇宙に上がり、「己にもナニかを護れる力を」とザフトに入隊してからは自ら独りでいることが多く、もう戻らない、家族と過ごした幸せな日々に想いを馳せてばかりだった。
猪突猛進に、直情的に、考えなしのまま力を求めた。
それでも何人か友人はできたが、いつも腹の中に渦巻く怒りが、彼らと自分の間に明確な線を引いていた。彼らに遊びに誘われても、どこかが醒めていた。なんでお前らはそんな暢気なんだと。
チームメイトで相棒のレイ・ザ・バレルにも、後に恋人になったルナマリア・ホークにも。また戦争が始まるまでは本音をぶつけた合ったことさえもなかった。
彼は決して、人付き合いが苦手なタイプではない。けれど自身の悲惨な過去が、他人との接点を拒んでいた。他人を軽んじていた。今にしてみれば、なんて冷たいヤツだろう。
かつて「独りでにすっ飛ぶ抜き身のナイフ」とまで囁かれた狂犬は、誰にも心を赦していなかった。

(戦争になってからは、どんどん余裕もなくなって。なにも見えなくなって)

シンはいつも閉じていた。
アーモリー・ワンでの騒動を機に始まったユニウス戦役では少しは仲間達と打ち解け、正面から臆面無くモノを言い合える上司にも出会ったのだが、しかし自分の心が限界を迎えるほうが早かった。
状況はちっぽけな少年の許容値を軽々と超えた。
信じていたものに裏切られ。
護りたいものは守れず。
大切な人を殺して、あるいは殺しかけて。
何度も、何度も。
望む世界があった筈なのに、無自覚に周囲に流されてしまっていつの間にか望むモノをすり替えられて。
募るばかりの怒りと困惑に、ただただ支配された。なにも考えられず、示されるまま力を振るうしかなかった。
戦争だからと、平和の為だからと、お前らが悪いと、最後まで走り続けた。
己にもナニかを護れる力を。その想いばかりを暴走させて。
もう、どこまでも閉じるしかなかった。

(欲しかった世界、力。俺は結局、誰も見ていなかった癖に、見ようとしなかった癖に、何を為せると思ってたんだろう)

だから、与えられた力で己の心と過去を護ろうと、目と耳を塞いで戦った自分が。
最後に、開いた未来を求める彼らに敗北したのは、必然であったのかもしれない。
その後。戦争に負けて、唯一自分のそばに残ってくれたルナに支えられ救われたシンだったが、けれど新地球統合政府の為に戦う日々の中では、二人の時間というものもなかなか取ることが出来なかった。
だから、こんな風に誰かと街を歩くことなんてなかったのだ。
そんな過去が、青年の首筋をちくちくと刺激した。
そんな人間が、今この時、二人の少女と笑い合ってるなんて、どんな因果だろう。

「――ふぅー」
「お疲れ様。コーヒー、ブラックで良かったかしら」
「サンキュ。・・・・・・にしたって、買いすぎだろ」

102通常の名無しさんの3倍2017/09/14(木) 04:53:32.04ID:F/9FvV3M0
連投回避

103ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:53:59.92ID:DDhAtvrz0
「あら、女の子はこれぐらい普通よ」
「そうかよ」

太陽が西に傾きかけてきた頃。
一行は臨海公園で一休みすることにした。整備が行き届いたベンチに座り、三人揃って缶コーヒーを啜る。流石に歩きぱなっし喋りぱなっしで疲れたのか、暫し無言のまま蒼くさざめく海を眺める。
眺めてシンは、今度はこの二人と歩いたこれまでの道筋を思い返す。
たった四時間と少しだけだが、確かに沢山の出来事があった。どれもこれもが大切な思い出になると断言できるような、濃密な時間。
その尊さを知ってから初めて享受できた、普通の人間としての平和。
そう。


この街は、本当に平和そのものだった。


戦時下とはいえ、人類共通の敵を相手にしていることもあるのだろう。
幼き自分が力を得て、戦ってでも欲しかった優しくて暖かい世界が、ここにはあった。

「受け入れられてるんだな」
「そうね。ありがたいことにね」

おもむろにシンは紅の瞳を細めて、力なく呟いた。

「極端な人もたまにいるけど、私達はここで生きていくことができてるわ。普通の女の子としても」
「ここだけじゃないですよ。皆さん、どこに行ってもよくしてくれます」
「そうか・・・・・・」

それはただの感想、独り言のつもりだったが、それぞれ思うところがあったのだろう。天津風とプリンツはしみじみと頷いて応える。ミルクたっぷりのコーヒーを口に含み、その眼差しを遠く水平線へと向ける。
彼女達もまた、自分達という存在が「どういうモノ」かを十全に理解しているのだ。
青年が何故そんな感想に至ったのかをも察して、静かに次の言葉を待つ風情で

「――っ」

そうと感じ取れたから、だからこそ、シンは溢れ出てくる感情を押し込めることができなくなった。
言葉を聞いて貰いたくて、たまらなくなる。
ただの独り言のつもりが告白となって、勝手に青年の心情を少女達に伝達する。

「俺には、眩しすぎる」

104ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:56:05.49ID:DDhAtvrz0
歩いてみてわかった。
この街の人々は平和に感謝し、そして艦娘という存在を受け入れているということが。
共存。
共栄。
この二つの単語が根付いているということが。

「なんで――」
「?」
「――なんで、俺は。俺達は。こんな世界にいられなかったんだろう」
「・・・・・・」

シンの言葉に、二人は困ったように顔を見合わせた。
彼女達は艦娘。
人間と同じような姿形をしているが、根本的に異なる生命体だ。遺伝子改造の有無とか、そんな次元の話ではなく、存在の在り方そのものに絶対的な違いがある。
誰がどう唱えたところで艦娘と深海棲艦はヒトデナシの化物である。
人間は窺知しがたいモノを、己とは違うモノを、わからぬモノを拒み遠ざけようとする生き物だ。異質は不安を呼んで、やがて憎しみとなって対立することも沢山ある。
人は容易く敵になることを、容易く手のひらを返すことを、シンは戦争を終えてから知った。
人同士が殺し合う戦争がなくても、それが平和と、平穏とイコールになることはない。
争いは何処にだってあって、たとえ夫婦だろうが家族だろうが、わかりあえずに、けど無関心ではいられずに牙を剥くことは珍しくない。
同じ人間同士なのにあらゆる分野で状況で、故あれば争わずにいられない。容易くその手に銃をとる。
他者より強く、他者より先へ、他者より上へ。
部族間戦争、国家間戦争、種族間戦争、夫婦喧嘩、兄弟喧嘩、いじめ、利害、契約、命令、怒り、憎しみ。
ただの人間同士でこれだ。
だからC.E. では、コーディネイターとナチュラルが宇宙に上がってまで戦争をした。取り返しのつかない大き過ぎる人種間対立の果てに、総人口は最盛期の3割以下までに減った。
人類史上最大最悪の殺し合い。嫉妬と羨望、傲慢と優越感の極み。コーディネイターとナチュラルは、所詮遺伝子を弄ったか否かの違いしかないのに、互いが互いを窺知しがたいモノと、己とは違うモノと、
わからぬモノとして扱った。互いが欲しがった世界が、力が、良かれと思って起こした行動が、世界を容易く引き裂いた。
互いがちゃんと真っ正面から受け入れ合うようになったのは、二度の大戦を経て新地球統合政府が発足してからのことだった。ようやくの、余りにも遅い和解だった。

「あんなハズじゃなかった。あんな世界が欲しくって戦ったんじゃない。俺も、みんなも、大切な誰かと静かに暮らせる世界が欲しかっただけなのに、平和を願って争うんだ」

なのにここに争いはなく、両者は善き隣人として受け入れ合っている。
街を歩けば誰もが笑顔で迎えてくれた。
服屋で、喫茶店で、ショッピングモールで、本屋で、ゲームセンターで、屋台で。

105ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 04:58:04.07ID:DDhAtvrz0
少女達が艦娘だと気づけば、お疲れ様とか、いつもありがとうとか、頑張ってねとか。そういった暖かい言葉が当たり前のように降り注ぐ。
何故?
人間と艦娘は、コーディネイターとナチュラルの比ではないぐらいに違う存在なのに。
神格化されているわけではない。畏怖されているわけではない。迫害されているわけではない。
深海棲艦という強大な人類の敵がいるからといって、それは余りにも不思議だった。
これでは、まるで。


「まるで、人間の出来そのものが違うみたいじゃないか」


「それは・・・・・・」
「選んだ道を後悔してるわけじゃないけどな・・・・・・。けどやっぱり、こんな世界を見てるとそう思うよ、俺は」

それっきり、シンは瞳と口を固く閉ざして俯いた。
しばし波の音だけが空間を支配する。三人は黙りこくって、すっかり空になった缶を弄ぶ。シンはどうしてこんな泣き言めいたことを言ってしまったのかと後悔して缶をグシャリと握り潰し、天津風とプリンツはシンの言葉を反復するように淵をなぞった。
沈黙が重い。
想いが重い。

「・・・・・・」

天津風はその想いにどう応えるか、決めあぐねていた。
この青年が人間同士の戦争に参加していたのは、表面上のみだが知っていた。その言葉に込められていると感じた、計り知れないほどの悔恨の念と憧憬の念は間違いようもなく本物なのだろう。

(きっと自分の世界を、人間を、好きになれていないのね)

この世界と比較して、自分達にはできないと感じてしまったのか。
言いたいこと、言えることは沢山あるが、さてどう切り出したらいいものか。
柄にも無く迷う。
そうして意味もなく青年の横顔を見詰めていると。
一陣の風が三人の間を吹き抜けた。
キリリと身が引き締まる冷たい風。
それに後押しされるように、ええいままよと天津風は意を決して、思考を言葉に乗せた。

「――結局、そこにいるヒト同士の気持ち次第なんじゃないかしら」
「え?」
「受け入れること、受け入れられること。アナタの世界には、それが欠けてたって思うのね?」
「・・・・・・ああ」

106ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 05:00:11.67ID:DDhAtvrz0
「・・・・・・でもね。この世界も多分、アナタが思ってるような都合のいい、優しいだけの世界じゃないわ。みんなが私達を受け入れてくれたキッカケは、けして善意だけじゃない」
「・・・・・・どういうことだ?」
「政治的な思惑もあるってことですよ、シンさん」

今まで沈黙を保っていたプリンツが、天津風の言葉を引継ぐ。

「私達がちゃんと人類の意に沿うようにと。そういったオトナの事情があったのも確かなんです」
「なんだよ、それ。そんなの――!」
「私達が艦娘と呼ばれるようになった経緯はご存知ですか?」
「・・・・・・え、あ、ああ。知ってる。でもそれがどうしたんだよ」

その突然の質問に、シンは面食らった。本題とズレてないか? と訝るが、プリンツにまぁ聞いてと宥められる。
一体どういうつもりだ?
疑問に思うが、ひとまずシンは呉の提督が言っていたことを思い出す。
艦の娘と書いて「かんむす」。
彼女達を単なる兵器として扱いたくない派閥が提唱し、定着したその名称。

「最初にかんむすって聞いた時、どう思いました?」
「それは・・・・・・」
「正直に言っていいわ」
「・・・・・・、・・・・・・あー。ぶっちゃけ、なんだその巫山戯た名前って、思った。はぁ? 仮にも軍のモノの名前がそんなんでいいのかよって」
「あ、やっぱり? 実は私もそう思ったの」
「私もって・・・・・・なんなんだよ、そんな質問をいきなり」

にっこりと笑顔を浮かべるプリンツに続けて、天津風。

「その呼称と一緒にね、ある仮説が発表されたの。深海棲艦と艦娘を、人智を超えた存在を、まったくわからないなりに大衆に解りやすく定義付けた仮説が」
「それも提督から聞いた。防衛省のだろ?」
「そうよ」

命を産んだのが海であるのなら、心を産むのもまた海である。
人間の記憶や想いといった霊的エネルギーが海に集い、飽和し、カタチあるものとして顕現したのが彼女らである。
艦娘は人間の善意が、深海棲艦は人間の悪意が。それぞれ過去に沈んだ少女と艦、それに残留していた記憶と想いを媒介に誕生した新しい生命体なのだと。
そんな抽象的で勧善懲悪的で幻想的な仮説。
どうせわかりもしない真相などどうでもよい、わかりやすさと聞き心地の良さだけを追求した「人間の言葉」。
艦娘という固有名詞とソレは、瞬く間に世界中に広まった。

107ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 05:02:06.14ID:DDhAtvrz0
「仮説というよりはプロパガンダのほうが近いかも」

全ては艦娘を人類の味方につける為の「言葉」だった。
是非とも、艦娘には戦って欲しい。人間同士で、艦娘と人類とで疑心暗鬼になっている場合じゃない。
艦娘は人類の味方である崇高な存在であることを民衆に、人類は一枚岩であることを艦娘に、それぞれ示さなければならない。
人間に不審の目で見られ、脱走や反逆を考えられたら堪らない。人間は信用ならないと、敵になったら最悪だ。
艦娘の精神構造も人間のソレと大差はないらしい。人間とは全く違う、人の手に負えない存在を懐柔する為には、まず世論操作が必要だった。
人間社会では当たり前の計算と計画があった。

「でもその妙ちきりんな名前とふんわりした仮説がね、私達を助けてくれたのも事実なの。それまで、みんなピリピリしてたから。人間が相手でも、艦娘同士でも」
「みんな雰囲気が柔らかくなったよねぇ。利用されてるってのは変わらないけど、まぁ悪くないかなって」

その政治的な目論見は成功した。
海を化物に支配された現状で、みながみな緊張状態だったなか、民衆が艦娘を受け入れる下地ができた。「私達は貴女達を歓迎します。だからどうか戦ってください」と、更なる軍拡をスムーズに進行させる用意ができた。
艦娘側も、人類に認めて欲しかったから、あえてそれに乗った。
ただそれもキッカケに過ぎなくて。
そしてそこで、誰もが予想しえなかった方向に状況が動いた。

「そしたらね、私アイドルになる! って言い出す艦娘とかが出てきてね」
「・・・・・・は? なんだそれ」
「おかしいでしょ? けどそれで本当に、私達は世間に受け入れられるようになった。同時に、彼女達によって戦い以外の選択肢も提示されて」
「今やトップアイドルだもんね那珂ちゃん達。最初は勢いとやる気だけで凄く苦労したらしいけど・・・・・・私もファーストライブ観たみたかったなぁ」
「あら、じゃあDVD貸すわよ。・・・・・・それは今は置いといて」

偶然テレビで見たアイドルに憧れ、自身もそうでありたいと願った少女を筆頭に、人類の思惑を超えて自ら人間社会に干渉し始める者が出てきたのだ。
認められたくて、自由になりたくて。刺激を求めたくて、満たされたくて。表現したくて、繋がりたくて。思い思いに、普通の人間と同じように戦争以外の道を模索する。
芸術の道を志したり、レーサーをやってみたり、グルメの旅をしてみたり、料理をしてみたり。艦娘の機嫌を損ねることを恐れた軍令部はそれを止めず、渋々とある程度の自由を容認することしかできず。
そんな艦娘に感化されて、それまで軍施設に引きこもっていた少女達もおっかなびっくり街に出るようになって。
そして遂に艦娘達は民間人と交流するようになり、やがて、みんなから愛される存在になることができた。


自分を知り、他人を知り、繋がり方を自分で考え感じる。

108通常の名無しさんの3倍2017/09/14(木) 05:02:45.46ID:F/9FvV3M0
連投回避

109ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 05:03:12.30ID:DDhAtvrz0
己の記憶と信念に基づいて自ら戦うことを選び、けれど命じられるまま戦うしかなかった少女達が、一人の女の子として人類に受け入れられた瞬間だった。
人間社会と同じように、個人的な繋がりが大きな流れになった。

「結局何が言いたいっていうと、人間と精神構造が変わらない私達だから、社会的な隣人との付き合い方も同じなの」
「そういった一つ一つの思惑や思いが絡み合って、偶然、運良く善い方向に転がった結果が今。人は容易く敵にもなるけど、友達にもなれるのが人だから」

同じような展開があっても、何かが違えば実験動物扱いされてたか、三つ巴の戦いになっていたかもしれないと苦笑して締めくくった天津風。
その言葉に、シンは絶句する。
結局、そこにいるヒト同士の気持ち次第なのだと。隣人と敵になるか友達となるかは。
そんな当たり前のことを忘れていた。


C.E. でも、何かが違えばもっと早くから平和になってた――?


歴史にifはない。そんな仮定に意味はない。
けれど「そんな可能性もあったかもしれない」ということを考えられる思考回路そのものがすっかり抜け落ちていたことに、彼は今になって気づいた。
あの戦争はなるべくしたなった、必然のものだと思っていた。
個人の想いなど何にもならない、募った悪意と煽動者によって突き動かされたコーディネイターとナチュラルの敵対は、絶対に逃れられない運命だったのだと。
人間の在り方そのものが、それ以外の道を消していたのだと。
でも、違った? 結局のところ、状況を言い訳にして受け入れること、受け入れられることを自ら放棄していた?

「俺の世界の人間も、こうなれたかもしれない可能性があったのか?」
「都合のいい、優しいだけの世界なんてないもの。どこも政治的な思惑に満ちてて・・・・・・言葉で、状況で、人は簡単に大きな流れに飲み込まれて。
けど、受け入れること、受け入れられることはやっぱり当人同士の気持ちの持ちようでしかないのよ、きっと」
「だからそんな、自分の世界のことを悪く思わないであげてください。そんなの悲しすぎますよ」
「・・・・・・!!」

計算通りにいかない、儘ならない、何がどう転がるのかわからないのが世の中というものだから。
二つの世界といっても人間の精神構造はそう大差ないのだから。

「この世界も、アナタの世界も、ちょっとだけ何かが違っただけでしかないと思うの。だから・・・・・・そう、アナタの世界もそんな悲嘆することばかりじゃないって、人は過ちを繰り返すばかりじゃないって私は信じてるわ」
「いつかシンさんの世界も、この世界より平和になりますって。だって、シンさんが頑張ったから、地球もキラって人も助けられたんでしょう?」

110ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 05:05:19.44ID:DDhAtvrz0
「・・・・・・そうか、そうだな」

あの戦争は本当に、どうしようもなく避けられない、仕方のないものだったのかもしれないけど。
だけどもうちょっと、あの世界の可能性を信じてみても良いのかもしれない。
そう。あんな世界だけど、それでも護る為に再びその手に剣をとったのは自分自身じゃないか。
少し、ほんの少しだけ、自分自身が開けたような気がした。

「ありがとな、天津風、プリンツ」

また明日、という言葉が何処かから聞こえてきた気がした。
それは幻聴だと知っていたが、懐かしいその声に思わず肩が震えた。

「いらないわよ礼なんて。アナタがあんまり情けないコト言うから、思ったことを言っただけなんだから」
「シンさん、とても沈んだ顔してましたから。放っておけませんよ」
「わかってるさ。でも、楽になった」
「そう。ならよかったわ」

素直な感謝の言葉が自然と出てきたことに自分でも驚きつつ、でもそれは良いことだと受け止める。
まったく、他人から見ればなんとてこともない平凡な一日だったというのに、なんだか昨日までの自分とはまるで別人になれたような気分で。
久しぶりにとても良い気分だ。

「さっ、難しい話はこれまで。夕飯の材料を買いに行くわよ!」
「作るのか?」
「キッチンが使えないから、今夜は庭でバーベキューパーティーらしいわ。外出するならついでに食材買ってきてって言われてるのよ」
「Wunderbar! ドイツ出身艦娘の腕の見せ所です!」

ぽんっと掌を合わせた天津風が立ち上がりながら言い、プリンツが瞳を輝かせて勢いよく飛び上がる。
早くも夕飯に思いを馳せているのか、二人とも本当に良い笑顔だ。
そうしていると本当、ただの歳相応の子どものように見えた。さっきまで人間についての持論を語っていた人物と同じとは思えなくて、そのギャップに思わず笑みが零れる。
今までずっと燻っていた自分がバカみたいだ。

(もう、らしくもなく思い悩むのは止めだ)

ここに転移してきてからずっと考えていた。
C.E. はちゃんと破滅を免れたのか、とか。
この世界でどうやって生きていけばいいのか、とか。
そういうのは、この世界の人間を信頼して、自分にできることをやりきってからにしよう。
そして、これもこの街を歩いてみてわかったことだが、やっぱり自分は行動してなきゃ気が済まない性分なのだ。鎮守府で大人しく誰かが持ってくる結果を待つだけの生活など、性に合わないのだ。

111ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 05:07:08.75ID:DDhAtvrz0
だから行動しよう。
今の自分自身にできることをしよう。
自分一人でやるつもりでいたが、愛機のデスティニーを修理にみんなに協力してもらおう。そしてできるだけの準備をしてキラに会うのだ。
そうと決まれば、きっとやらなきゃならないことは沢山ある。

(二週間なんてあっという間だ)

長いようで短い二週間。
忙しくなるぞと、シンは気合いを新たに立ち上がる。

「バーベキューするなら、焼き芋も一緒にどうだ? たしか今が旬だろ?」
「ナイスアイディアね。いいじゃないの」
「レンタカー手配してきますね! 買いまくりますよー!」

そうして二人の少女と共に、青年は再び紅に染まりつつある呉の街を練り歩くことになったのだった。

112ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/09/14(木) 05:16:53.30ID:DDhAtvrz0
以上です。
ナイーブ回路全開のシンというものを上手く表現できてるといいんですが。

ところで、今回は自分のSSのイメージ画を描いてみました。
もし興味があったら見てみてください。こういうのOKですよね?
ttps://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=64763737

113通常の名無しさんの3倍2017/09/15(金) 00:43:17.50ID:zrkPeqNx0
更新乙です、てか絵うまっ!
何気ない服のシワとか「描いてる人」を彷彿とさせますねぇ。

本編ですがシンそこ代われ・・・もといこの板らしからぬ甘々な展開ですなw
人類と艦娘と繋ぐ糸は、やはり深海棲艦という共通の敵があるのが大きいかと。
昔、中国の梁山泊が政府に反骨していながらも、国のために外敵と戦った
エピソードを思わせますね。

>>90
エリ8のエピソードは漫画版のほうです。指令のサキが単独でキムとセラを救出に行こうとして
部下の傭兵たちが次々と「散歩なら付き合うぜ」と合流、はいいんですが
ハンガーで整備員たちがドヤ顔で「全機装弾完了、いつでも散歩に出られます」て言った時の
サキ指令の呆れ顔がすごく笑えました。

114通常の名無しさんの3倍2017/09/15(金) 18:05:43.82ID:O5nOgpy/0
乙です
絵の後ろにいる黒いのは新型フリーダム?
しかし何故2次創作のシンはいつもモテモテなのか

115彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/09/20(水) 14:37:23.27ID:ZVWxYBiY0
>>67
ご感想ありがとうございます。
最近てんてこまいで中々書けませんでしたが少し落ち着いてきました。

デスタンに関してはやり過ぎだったかも知れませんw
後で見返したら、闘いのモラル?のようなものに対して厳しく書きすぎちゃったw

もう少し今より緩くした方が戦法のバリエも広がりそうですし、射撃タイプによくありそうな敵の武器だけを狙い撃ちというのもできそうですし...
それくらいした方がマリナももっと強いイメージにできると思うので。

元々マリナみたいに大人しいけど健気な女性キャラが力一杯戦うのが好きでして
ファイトが似合わなそうな彼女が戦うギャップが好きだったりします。

合気道と弓術だけだと一見幅を広げられなさそうな気がしましたが(俺の力が足りないともw)
彼女にピッタリな競技とバトルスタイルだと信じてますw
ただ、これから武装の強化を予定していますので(他にもGガンで目を引くあの強化も...?)

個人的な語りになってしまいましたが、近い内に書けると思いますのでこれからの拝読をよろしくお願いします。
それでは。ノ

116通常の名無しさんの3倍2017/09/21(木) 07:18:49.55ID:YK4nehcNO
楽しみに待ってますよ〜

117通常の名無しさんの3倍2017/09/22(金) 11:29:45.71ID:LPYPlU8b0
こういう作者の語りってのもたまにはいいものだと思う

118ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 20:37:03.13ID:1DSJ8VNR0
5ちゃんになって初めての投稿です。仕様が変わってなければいいですが。
>>113
ありがとうございます。絵は最近になって描き始めたのですけど、文共々もっと上手くなりたいと思ってます

>>114
新型機です。その内登場させる予定ですが・・・・・・何ヶ月後になることやら

119ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 20:39:10.80ID:1DSJ8VNR0
――艦これSEED 響応の星海――


「んっ・・・・・・!」
「ほい【マッチング】クリアっと。どう響? 問題ない?」
「大丈夫、だね。むしろ前より調子が良いよ。Спасибо тебе всегда、明石先生」
「なんのなんの、お安いご用ってね。んじゃあ最終調整するから、もーちょいそのままでね」
「了解」

ザァ、ザァと、強い雨音に包まれた夕刻の佐世保鎮守府。
急ピッチで進められている鎮守府復興作業の中でも特に優先して人手が回され、その甲斐あってつい一昨日に再建できたばかりの工廠にて、二人の少女がおろしたてピカピカの艤装を整備していた。
これまたおろしたてピカピカのセーラー服を着込んだ響と、使い込まれたツナギをラフに着こなす紅梅色の髪の明石だ。互いに長い髪をポニーテールに結い上げて、組み上げたばかりの装備の隅々までを共に点検する。
共に、といっても二人してスパナやドライバーを手に精密機械と格闘するのではなく、作業するのは基本的に明石だけだ。響は背に装着した艤装に違和感などが無いか、口頭で教えるだけである。

「痒いところはございませんかー?」
「ふふ、まるで美容師さんみたいだね」
「似たようなもんでしょ。・・・・・・ん? ここちょっちキツいかな?」
「ちょっとだけ。でもこのぐらいなら自分で調整できるよ」

まぁ、言わなくても直ぐさま不具合を察知してくれるのが明石という少女なのだが。
彼女は工作艦という、艦船の補修・整備を行うための艦種に分類される艦娘で、【移動工廠】や【先生】といった二つ名で国中の艦娘達から慕われている存在だ。
横須賀軍令部に籍を置き、日本各地の軍施設を渡り歩いて艤装のメンテナンスやバージョンアップをしたり、直接戦場に赴いて艦娘達の応急修理をしたりすることが主な仕事で、
平時には軍専用通信販売サイトのオペレーターも兼任している。
加えて、艦娘・艤装の治療・修理を行う施設の建築と改善といった方面にも精通しており、つまり彼女は戦闘以外で日本国の戦線を支える裏方専門の職人艦娘なのである。
他にも明石のように軍令部に籍を置き、国中を飛び回る者は数名いるが、それは割愛させて頂く。
さて。
そんな、誰よりも艦娘に詳しいスペシャリストがこの佐世保鎮守府に滞在する期間は、10月中旬から12月いっぱいまでの約二ヶ月半を予定している。
丁度隕石が落下してきたタイミングであったことは佐世保にとってはまさに地獄に仏、僥倖だった。彼女がいたからこそ、半壊した鎮守府でも戦線を維持できたといっても何ら過言ではない。
ただし、文字通り休む暇もない一週間を戦い抜くことになった明石本人にとっては地獄以外の何物でもなかっただろうが。

「まぁまぁ。ようやっとのラストなんだからさ、折角だし最後まで任せなさいって。それにただでさえ君のはバカみたいにピーキーなんだから」
「バカみたいにとは失礼な・・・・・・否定はしないけど」

120ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 20:41:15.07ID:1DSJ8VNR0
「師匠譲りの突撃仕様だかんね。今回も夕立のメンテには苦労させられたもんよ」
「それは・・・・・・お疲れ様。・・・・・・でもこれで、やっと終わりだね」

運良く、或いは運悪く佐世保入りしていた明石は死ぬほど頑張った。
先日まで出張していたトラック泊地やリンガ泊地といった最前線よりずっと安全な場所で、しかも基本的に損耗率の低い佐世保なら楽ができると思っていたのに、まさか最終防衛ラインで爆撃に怯えながら働くことになるとは。
しかもまさか、鎮守府の生命線である工廠が壊れるとは。
それでも弱音一つ吐かず、最終的には自ら黒島まで出向いて頑張った。
そんなこんなで影ながら防衛戦を勝利に導いた彼女は、しかし流石に限界が来て11月4日に倒れた。緊張の糸が切れて爆睡した。それは前線で戦い続けた少女達も同様だったが。
しかし彼女の戦いはまだまだ終わらない。
壊れたら直すまでがセットである。
その後束の間の休息を経て復活した明石は、まず艤装のパーツや燃料弾薬といった資源を手配しつつ、工廠再建の指揮をとることになった。
続々と搬入される物資を分別し、響達を始めとする「戦闘不能艦娘」に的確な指示を与え、みんなして初めてであった建築作業をスムーズに進行させた。
こんなこともあろうかと簡単に組み立てられるモジュール構造を設計し、あらかじめ日本各地の内陸部に用意させていたのが役に立った。
スペシャリストの名は伊達ではないのだ。
そして一昨日工廠が一応完成し、そのまま明石による艤装総点検がスタート。丸々二日かけて行われたその作業は、特注パーツの到着が遅れた響を最後に、11月10日の今この時をもってようやく終わろうとしていた。

「やー、流石に疲れた! いい機会だから全員オーバーホールするようにって命令も来たもんでさー、人使いが荒いったら。わたしは一人しかいないんだから仕方ないって分かってるんだけどね」
「それって、呉と鹿屋に行った娘も含めて?」

艤装の修理はなにも明石の専売特許ではない。
というか、仮に専売特許だとしたら明石が百人いたって手が足りない。故に常在戦場の身である艦娘達は、常日頃から自分の装備は自分で整備している。
機材と触媒さえ揃っていればちょっとした不具合なら簡単に直せるし、艤装の半分が崩壊するほどの損傷を負っても、時間さえかければ殆ど元通りに復元できる。そういったメカニックな知識と技術は、
少女達にとっては必須のモノだった。
工廠さえあれば、艦娘は自己メンテできるというわけである。
また、簡単なメンテなら普通の人間でも可能なので、各鎮守府には専門の整備スタッフが常駐し、少女らに代わって修理を受け持つ体制が整えられている。
国家資格を持つ優秀な人材であり、且つ普通の人間の女性のみで構成されたその後方支援部隊は、常に東奔西走な明石に次ぐ実力を備えており、それぞれの戦場を支えている。


しかし、そんな彼女達でも対処仕切れない事もある。

121ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 20:43:05.30ID:1DSJ8VNR0
艤装はただの兵器・機械ではない。
艦艇の砲塔や艦首等を模したソレは、艦娘の躰と密接にリンクしている摩訶不思議な存在だ。
現人類が思い描く物理法則がまったく通用しない原理原則は、例えば、艦娘の意思一つで空間を超えて自動的に装着することや、砲弾が腹部や頭部に命中したとしてもダメージの殆どを艤装に引き受けさせることだって可能
にしてしまう。
つまり、ただ機械的な部分を弄るだけでは直せないファンタジックな機能が満載で、どころか漫然と修理を続けていくうちに艦娘の躰と艤装との間にズレが生じてしまうこともある、非常に厄介な代物なのである。
であれば、定期的に両者を馴染ませる必要があるわけで。
その作業を【マッチング】というが、これを得意とするのが明石というわけだ。ある意味、明石は国でたった一人の艦娘専用整体師ということになる。
艤装全体が壊れてしまったり、ガタが来てしまったり、新品に換装したりする時も同様で、これを怠ると最悪リンクしている艦娘の躰そのものに悪影響が出てしまうこともあり、彼女が国中を飛び回る最大の理由になっている。
これは余談だが、事情が少々異なるもののキラがここに来た際に動けなくなっていたのは、艤装となったストライクとの【マッチング】が上手くいってなかったからだ。
幸いあの時は簡単な処置をするだけで時間が解決してくれたが、大抵の場合は明石が付きっきりになって調整することとなる。

「そりゃもう丸々全員、48時間で38人分+α! これはボーナスがあって然るべきだよねぇ?」
「改めて、凄い人数だ・・・・・・。そんなのよくこなせたね」
「とりあえず間宮と伊良湖のスペシャルチケット一年分は当然として・・・・・・、・・・・・・ん? ああ、まぁ一人じゃ厳しかったろうけど、優秀な助っ人君がいたから」
「助っ人君?」
「そ。そろそろ戻ってくる頃合いだと思うけど・・・・・・っと、噂をすればなんとやら」

今回実施された佐世保の艤装総点検は、その【マッチング】を全員に施すことが主目的だったと言ってもいい。艦娘達が自力で修理、或いは新造した艤装を片っ端から整備して回ったのだ。
響の指摘した通り、一人でこなすのはどだい無理な作業量に思えたが、しかしどうやら手伝った人物がいるようだ。
もしかしてと、響はある一人の青年を思い浮かべた。
それと同時に、工廠奥の資材置き場の扉がスッと開いて。振り向くとそこにはやはり、少女が思った通りの人がいた。

「明石さん、三番と十番ありましたよ。それと家具の搬送はやっぱり明後日にずれ込むって連絡が」
「おー、ありがとキラ。丁度いいや、ちょっと手伝って」
「うん、わかった」

新品のツナギをキッチリ着込んだキラ・ヒビキ。
年季の入った工具箱を持ってやって来た彼は、この五日間殆ど顔を合わせることがなかった少女に気づくや否や、すっかり完治したらしき左手を挙げて微笑みかけてきて。

「やぁ、久しぶり。・・・・・・えぇと、プリヴィエート、響」

122通常の名無しさんの3倍2017/10/07(土) 20:45:55.87ID:Qc4ggDli0
連投回避

123ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 20:47:23.43ID:1DSJ8VNR0
「あ・・・・・・Привет、キラ」

その不慣れなロシア語の挨拶がなんだかおかしくて、響もつい微笑んで流暢なロシア語の挨拶を返したのだった。



《第8話:繋がる力、繋がっていく道》

124ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 20:50:08.72ID:1DSJ8VNR0
「ずっと先生の助手をやってたんだ?」
「うん。ちょっとスカウトされちゃって」

なんでも怪我が治ってからこっち、明石の指名でずっと補佐をしていたらしい。ボロボロのストライクの状態をチェックしようとしたところに通りがかった明石が見学したいと名乗り出てきて、その流れで行動を共にする
ようになったとのことだ。
なるほど姿を見なかったわけだと、宿舎の再建作業に従事していた少女は納得した。
大忙しな明石の助手をしてたとなれば、きっと工廠周辺に張り付いていたのだろう。仮設宿舎にも休憩所にもいなかったのはそういうことだったのだ。

「全然見かけなかったから、どうしたんだろうと思ってたよ」
「結構忙しかったから・・・・・・やってたことは雑用だけどね。業者さんと電話したり、部品を探したりとか。ここ二日は整備も手伝うようになったけど」
「先生曰く、優秀な助っ人君だって」
「買いかぶりだよ。ホント、大したことはしてないし」
「そう。・・・・・・ともあれ、大丈夫そうでなによりだ」

別に、自分から探した訳でも、会いたいと思ってた訳でもないが、なんとなく気にはなっていて。その元気そうな顔を見てどこかホッとした響だった。

「ほほーぅ?」
「・・・・・・なにさ?」
「いやぁなんでもないデスヨ」
「?」

なんか明石が意味深っぽくニマニマしているが・・・・・・なんだろう、ちょっと気味が悪い。
それに気づいていないのか、はたまた無視しているのか、いつもと変わらない穏やかな顔のままのキラを加えて調整作業は再開する。

「でもさーキラ、実際アンタなかなか見込みあるわ。ちゃんと修行すれば整備士としてやっていけるし、なんだったら弟子3号にしたいぐらい。――っと、四番と六番取って」
「どうぞ。明石さんそっちの十番を――どうも。・・・・・・そう言ってくれるのは嬉しいですけど、でも男ってのは問題じゃない? そりゃ僕としても整備士ってのは性に合うけどさ」
「女装すればいいじゃないの」
「そういう問題じゃ・・・・・・てか、嫌ですよそんなの」

二人は雑談しながらも流石の手際の良さでアレコレ弄り回していき、艤装の完成度をどんどん高めていく。
それは少女一人でやっていた時のものよりずっと上の次元で、自分の整備技術はまだまだ未熟であると痛感してはもっと励まねばなと内心決意を新たにする響だが、
同時に、たった数日しか艤装というものに触れていないのに明石に追随できているキラの腕にも舌を巻いた。
青いツナギの青年は手慣れた様子で工具を操っては、響のオーダーに順当に応えていく。本人は謙遜していたが、これなら本当に整備スタッフとしても生活できるかもしれない。

125ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 20:52:06.16ID:1DSJ8VNR0
訊けば、自分の機体は自分で整備しなければやっていけない環境で培われた技術のようで、専門はソフトウェア関係だけどハードにも多少の覚えがあるそうだ。
偉い立場になっても整備を手伝ったりして、勘は鈍らせないようにしていたらしい。艤装もモビルスーツも基本は同じということか。
おかげで、今こうして明石の助手をしているのだから、世の中何が役に立つか分からないものだ。

「こんなもんかな?」
「こんなもんでしょ。よし、終わり!」

そんなこんなで整備はあっという間に終了。いつでも全力全開で戦闘できる万全の状態になって、更に言えば佐世保鎮守府の戦力も完全復活したことになる。

「хорошо。軽くて、出力も上がって・・・・・・これは良いな。力を感じる」
「剛性に抗堪性、駆動速度もよ。最初に断った通りに、試作の新型パーツを使わせてもらったわけだけど――うん、良い感じに仕上がったようでなにより」
「私が試作一号機ということだったね。思いっきり暴れてテストすればいいのかな」
「つっても劇的に変わったわけじゃないし、あくまで試作品なんだから。あんまブン回すと壊れるかもだから、ほどほどにね?」

いや、むしろパワーアップしたとまで言っていい。ほんのちょっとだけだが。

「ストライクの部品が使えるなんて意外だったけど・・・・・・できるもんなんだね」

そう。
今回、修理するにあたって響の艤装には【GAT -X105ストライク】に使用されていた特殊合金や超伝導技術等を多数、試験的に組み込んでいる。
これはストライクを修理する為に採取・解析したパーツ群を複製していた時に、明石が遊び心でサンプルの一つを艤装のフォーマットに落とし込んでみたら偶然発見した――いわば副産物的な新技術なのだが、
ある意味それはストライクの修理以上にこの世界にとって重要なものだ。なにせ、宇宙で活動できる巨大人型有人機動兵器モビルスーツを構成するパーツとなれば、上手く流用・実用化できれば艦娘の性能が
ぐんと向上すること間違いなしなのだ。
今まで数度に渡り近代化改修を施してきたもののベースが第二次世界大戦期の艦艇である以上、大幅なパワーアップをすることができなかった艦娘だが、異世界のロボット技術がそのまま使えるとなれば話は別だ。
棚からボタ餅的な展開ではあるが、これを逃す手はない。
そこで明石とキラは、空いた時間を使って艤装用の部品に新規開発にも挑戦し、幾つかの使えそうな小物を揃えることに成功した。
だがその試作品が形になった頃には既に、ほぼ全員が自分の艤装を組み上げ終えていた。ただ一人、特注パーツ――近接戦闘用に剛性を強化した錨――の到着が遅れて修理が後回しになっていた響を除いては。
故に、更なる力を望んでいた本人の了解もあって、彼女の艤装への導入に踏み切ることになった。

「でもやっぱり、今でも信じられないよ。そんな都合良く技術を使い回せるなんて」

126ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 20:54:03.88ID:1DSJ8VNR0
「アレが純然な『普通の兵器』だったら流石のわたしもどうしようもないし、こうはならなかったけどねー。けど今はアイツもわたしら同様の不思議存在だから、なんかコンバートできちゃったのよ」
「僕共々、存在自体が変わっちゃってるからだね。艤装と同じように扱えるようになってなきゃ、修理だって絶対不可能だし」

この試みが上手くいってデータが蓄積すれば、あのストライクを媒介にすれば、いずれはフェイズシフト装甲やビームライフルといったものを艦娘全員に導入することだってできるかもしれない。
あの深海棲艦の【Titan】のように、ミサイルやスラスターを使うことだって。
深海棲艦にできて自分達にできないという道理はないのだ。
これからはC.E. の技術をいかに有効的に使うかが勝敗の鍵を握るだろうねぇと、明石は感慨深げに言った。

「なんか凄いことになっちゃってるんだね・・・・・・」

先の防衛戦で猛威を振るった【Titan】の力を、今度は自分達が使うかもしれないという近未来。
そんな予想図をどうにもイメージしきれない響は、ただ呆気にとられるしかなかった。ただ力が欲しくて安請け合いした依頼が、まさかそこまでの大事に繋がっていたなんてと思わず首を竦める。
あの巨人と戦って、キラと共闘して、ストライクに乗って、直接肌に感じた強大な力。その一端をもう己が身の内に取り込んでいることの重要性に、今になって圧倒された。
それって、とても大変なことだ。これまでの常識が全部ひっくり返る急展開で、この先どうなるんだろうという漠然とした不安感が胸中に渦巻く。予兆を感じてはいたものの、よもやこんなにも手の届く場所まで来ていたとは。

(あの力があれば、私は過去を乗り越えられる――? ・・・・・・いや、どうなんだろうな。そういう問題、なのかな。よくわからない・・・・・・)

例えば暁や雷、電が、高速で空を飛んだり鉄壁の防御力を得たりすることもありえるのだろうか。
例えば木曾や榛名が、荷電粒子砲や高誘導高速ミサイルを自在に操ることもありえるのだろうか。
そうなったら、自分達はどんな道を歩いていくことになるんだろう。自分は望んだ強さを手に入れられるのか。
わからない。
少なくとも、明石とキラが見ている未来は、自分にはまだ見えない。自分のことだけで精一杯だから、変わっていく明日がどのようなものか想像できない。
未だ弱い自分が世界を変え得るかもしれないことを、認めることができない。

(・・・・・・まぁそうなったらなったらで、その時に考えればいいさ)

だんだんと思考回路がネガティブになってきたなと自覚したところで、響はこれ以上考えることを止める。
正直、この話題にはついていけそうもなかった。
だから代わりに、いい機会だから、今まで気になっていたことを訊いてみることにする。

「――そういえばさ。ストライク、直せそうなのかい?」

127通常の名無しさんの3倍2017/10/07(土) 20:56:28.33ID:Qc4ggDli0
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128ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 20:57:09.26ID:1DSJ8VNR0
それは工廠の奥にひっそりと、けれど確かな存在感をもって鎮座している、左腕とバックパックを失って穴だらけなモビルスーツのこと。
工廠に来て最初に目にした、今や自分の艤装を構成するパーツのルーツにもなった異世界の力のこと。
主人の身体は治っても、あの機体はずっと変わらずにボロボロのままで。一度操縦した身としては、アレが今後どうなるかは知っておきたいところだった。
二人の口ぶりからすると、なんとかなりそうな感じのようだが。

「そうだね、ようやく修理の目処が立ったってところかな」

キラはモノ言わぬ鉄灰色の機械人形を見上げながら応える。
この戦友となった青年にとって唯一無二の力は現状、兵器としては完全に死んでいる。なまじ人型だからかその姿はとても痛ましくて、目にする度にもっと上手く出来たのではないかという感傷が溢れてくる。
少なくとも、自分が冷静に立ち回っていれば左腕を失うことはなかったと、少女にはそう思えてならない。
しかし彼はそんなことを微塵も考えてなさそうな様子で、微笑みながら言葉を紡ぐ。

「君が協力してくれたおかげで分かったことも色々あるし、みんながストライクや【Titan】のパーツを集めてくれたりもしたからね。艤装用のパーツも代用品として使えるかもだし・・・・・・スペック低下は否めないけど」
「私はなにもしてないよ」
「試作品を使ってくれるじゃない。それだけでも結構重要なデータになるんだ。戦うことが僕の目的じゃないけど、いつかまた一緒に戦うこともあるんじゃないかな、きっと」

そう言ってやにわに、いつかのように頭を撫でてきた。ストライクがここまで壊れたのは君のせいなんかじゃないと言うように、優しくゆっくりと。
まるで心の内を見透かされたようで、少し恥ずかしくて。帽子越しなのが、なんだかもどかしくて。

「・・・・・・うん。役立てるなら、いいかな。・・・・・・なにか力になれることがあったら、手伝うよ。艤装を整備してくれたお礼に」
「ありがとう。その時はよろしくね」
「Ладно」

まるっきり子ども扱いされているのに、嫌ではなく。どころかひしめいていた不安感がすっかり霧散していくように思えた。
これもまた、あの時と同じだ。不思議だ。彼といると少し安心する。

「ほっほーぅ?」
「・・・・・・だから、なにさ?」
「いやいやぁなんでもないデスヨ」
「??」

そんでもってまた明石がニマニマしているが・・・・・・本当に、なんなんだろうか。

「明石先生、さっきから本当にどうしたんだい? なにか良いことでもあったの?」

129ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 20:59:35.15ID:1DSJ8VNR0
「んー、そんなもんかな。・・・・・・それはそうと、そろそろ夕ご飯の時間でしょ。ちゃっちゃか後片づけしちゃおうか」
「もうそんな時間なのか」

心配になって訊いてみたものの、わざとらしく時計を指さす明石にうまいことはぐらかされた――ような気がする。
しかし彼女の指摘も尤もでつられて見てみれば、時計はキラの歓迎会を兼ねた食事会が始まる30分前を指しており、こんなところで油を売っている暇はないと思い知る。
明石のこと、ストライクのこと、気になることは尽きないが遅刻するわけにもいかない。移動に時間がかかるわけでもないが、最低5分前には集合していたほうがいいだろう。
というか、主役がこんな所でこんな時間まで何してるのさ。言われるまで忘れていた自分も大概だが。
片づけと聞いて離れてしまった彼の掌に若干の名残惜しさを感じて、そんな自分に少しの疑問を持ちながらも、響は忙しく動き始めた二人の背を追うように後片づけに参加することにした。

「工具は私がやるよ」
「あんがと。じゃあそこに纏めといてくれると助かるわー」

その後、響とキラが工廠を出るまで、何故だか明石はずっとニヤけっぱなしだった。
なんだろう、なにか悪いものでも食べたのかもしれない。後で薬でも持っていってあげよう。

130通常の名無しさんの3倍2017/10/07(土) 21:02:36.08ID:Qc4ggDli0
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131ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 21:03:07.38ID:1DSJ8VNR0




天気予報によると明日の朝方まで続くらしい嵐は更にその勢いを増し、大粒の雨を新品の窓ガラスに激しく打ちつけてはガタガタバタバタと騒音をまき散らす。
真っ黒な海は荒れ狂い、おまけに遠くのほうではピカリと閃光が瞬くのが見えた。あれは多分、あと数時間もしない内に恐ろしい轟音を伴ってやってくる。
そしたら今夜はトランプ大会かなと、響は雷雨にめっきり弱い姉妹達を思い浮かべながら歩を進めた。正直自分も得意ではない――というか苦手なので、そうしてくれると非常にありがたい。
気が紛れればなんでもいいが、今日は初心に帰って大富豪でもしようか。そろそろ電に借りを返す頃合いだろう。

「こんなに降ってたんだ。気付かなかったな」
「工廠に中にずっといたんじゃ仕方ないよ」

艤装を格納庫に収めてポニーに結っていた髪をストレートに戻した響と、ツナギからザフト白服に衣装チェンジしたキラ。
二人で工廠と鎮守府とを繋ぐ連絡通路を経て、つい先程リニューアルオープンできたという食堂を目指してのんびり歩いていると、隣を歩くキラが顎に指を当てて呟いた。

「嵐だから深海棲艦も艦娘も海には出れないってのも、なんか可笑しな話だね。すごい力を持ってるのに、変なところで現実的っていうか」

素朴な疑問だが、確かに言われてみるとちょっと面白い制限だなと改めて思う。
超常の存在たる自分達。でもその実態は人間が思ってるよりはずっと非万能的で人間的で、どうしたって大自然には勝てないちっぽけな存在だということはもう常識となっている。
戦うには燃料弾薬が必要不可欠なこと、艤装はメンテナンスしなければいけないこと、自分達にも人間の三大欲求があること等といった常識。その変なところで現実的な制限が常識として広く認知されるまでは、
いろいろと苦労したもので。
超常的なのか人間的なのか、どっちだよって話だ。彼が可笑しいと思うのも良くわかる。
そういえば昔、こんな日に出撃してエラい目にあった娘がいた。

「どうしたって船がベースだから、難破することもあるよ。・・・・・・そう、最初期の頃には台風の日に無理矢理出撃した艦娘達が行方不明になった――なんて事件もあったね。艦娘ならいけるだろうって・・・・・・実際ダメだったわけだけど、あれは大変だった」
「そんなことが。その娘達は見つかったの?」
「無事にね。その時私も捜索隊の一つに参加してて、けど見つけたのは流されて難破した深海棲艦の大群。流石にびっくりしたよ。で、以降嵐の日は出撃禁止というか、安息日になったというわけさ」

根性入れて頑張ればどんな天候であろうと戦うことはできるが、やはり非常にリスキーなことに変わりはない。
アメリカの調査団の報告によると、深海棲艦も嵐が近くなると占拠した島々に引きこもるようになったことが確認されている。

132通常の名無しさんの3倍2017/10/07(土) 21:05:54.14ID:Qc4ggDli0
回避

133ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 21:06:25.82ID:1DSJ8VNR0
敵も動けないのに自分達だけが難破する危険性を負っても、ただでさえカツカツな戦力が更に厳しくなるだけ。ならば休息に充てたほうがよっぽど有意義というもので、
大規模作戦等でない限り出撃は禁じられるようになった。
勿論出撃中に嵐に遭遇した際も同様で、そんな時はすぐさま最寄りの泊地に避難することが推奨されている。
要は事実上の停戦期間だ。もっとも互いに、勝機と見れば奇襲・強襲することもままあるし、長期的な戦略に組み込むこともあるが。

「へぇ、向こうも苦労してるんだ」
「おかげでこうして全員集まって食事会なんてこともできる。勿論警戒しながらだけど」

これから食堂で行われる食事会は――ついでに、その後に予定している全体会議も――つまり、こんな日でしか実施できない貴重な催しということだ。
ローテーションで常に誰かが海に出ているのが当たり前である鎮守府の日常では、こうして全員が集まること自体がとても珍しい。であればこの機会に会議や親睦会をするのは至極当然のことといえよう。
彼の歓迎会を兼ねた、佐世保鎮守府の復活を祝う食事会。これには人間の職員も出向防衛組も含め、今この鎮守府にいる全員が集まることになっている。ちなみに明石は少し遅れて参加するらしい。
食事会といえば、やはり厨房には瑞鳳もいるのだろうか。久々に姉妹揃って美味しいものが食べれるし、そう思うとだんだん楽しみになってきた。

「みんなで集まるのは4日以来だね。キラはもうみんなと顔は合わせたの?」

そこでふと、彼はどこまでここの人達と知り合ったのだろうと気になった。明石の助手をしていたとはいえ、もしかしたらこの集まりで初顔合わせになる人もいるのだろうか。
全体会議では佐世保鎮守府の今後の方針が決まるし、それに伴い艦隊が再編成されるかもという噂もある。なら皆と知り合っていればいるほど、その時間を有意義に過ごせるというもの。そこんところどうなんだろう。

「整備の時に一通り自己紹介はしたけど。でもまだちゃんとは覚えきれてないかな・・・・・・てか、似たような名前ばかりでさ」
「慣れないとそうなるね。・・・・・・多分、この後また改めて自己紹介することになるとは思うけど、それでなんとかなりそうかい?」

まいったと首筋に手をやっては、困ったように苦笑するキラ。その気持ちは分からんでもないと、響も着任当初を思い出しては同じように苦笑した。特に空母と駆逐艦は似たようなのが多い。
この鎮守府は38人だけしかいないが、共闘した人は兎も角、名前と顔を一致させて覚えきるには数日かかるだろう。
いや、場合によってはこれから全員一気に集合するのだから、無駄に混乱してしまうこともあるかもしれない。みんな個性的だからすぐ覚えられるとは思うが、万が一間違って覚えたらその後が大変だ。
例えば響の妹達、雷と電は間違えられる筆頭である。

「大丈夫だと思うけど、問題は漢字表記かな。会話だけなら兎も角、漢字の読み書きはちょっと・・・・・・整備してる時も苦労したよ。君の妹達とか」
「ああ、その問題があったか・・・・・・基本的に英語で生活してたって言ってたね、そういや」

134ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 21:09:12.07ID:1DSJ8VNR0
「オーブ公用語・・・・・・いや、日本語はオーブの人と話し言葉でしか使わなかったから」

それはまた、結構重大な案件だ。
というか、異世界人なのに今日まで会話に不自由しなかったというのが既に奇跡か。下手をすればまったく言葉が通じない可能性もあったということ。これは本当に、運が良かったという他ない。
しかし読み書きできないというのは、これからの生活にかなり影響しそうだ。この施設は漢字表記ばかりなのだから、難易度はあらかじめ勉強してから来日した海外艦と同等かそれ以上かもしれない。
興味本位で訊いてみたら、意外と深刻な問題が発覚してしまった。

「コツとかないかな?」
「こればっかりはどうしようも。聞いた話だとビスマルクさん達も最初はそんな感じだったって」
「そうなんだ。じゃあ君達も外国の言葉とかに苦労するのかな? ・・・・・・そういえば今更だけどさ、なんで君って時々ロシア語混じりなの?」
「私の前身、船の【響】はロシアにいた時間のほうが長いからね、染みついてしまったのさ。油断するとつい・・・・・・変かな?」
「そんなことはないよ。いいと思う」
「Спасибо。まぁ、それで時々苦労することはあるね。木曾は未だに理解を示してくれないし――っと、話が逸れた。・・・・・・私達も昔、言語に限らず数学とか歴史とか、出撃してない時は勉強したよ。懐かしいな」
「そういうことなら僕も勉強しないとかなぁ・・・・・・。この世界のことだってまだよく知らないや」

でも勉強って嫌いなんだよなぁとぼやくキラに、努力あるのみだねと相槌を打つ。
そう、自分達が得た常識も、経験という名の勉強によって知ったことだ。
ヒトデナシであるものの頭脳を持つ人である以上、やはり勉学が基本。自分達のこと、この世界のことも含め、ちょっとずつ知ってもらうしかないと思う。
昔使っていた教科書を貸してあげるのもいいかもしれないと考えたところで、響は丁度近くに資料室があることに気付き、あることを思いついた。

「だから地道に・・・・・・と言いたいところだけど、これも運かな。ちょっとこっち来て」
「響?」

ちょっと寄り道で進路変更、相方を手招きしてスルリと室内へと入る。幸い施錠はされていなかった。
そこには海図や教本、過去の報告書といったものが収められており、奥には目当ての文机と筆記用具一式がある。きょろきょろと子どもみたいに室内を観察してるキラはほっといて、さっさと済ませてしまおう。
市販品のボールペンを手にとって、サラサラとまっさらな白紙に人名を書き連ねていく。もうすっかり書き慣れたものだが、これもやはり昔は苦労していたと懐かしくなった。

135ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 21:11:05.44ID:1DSJ8VNR0
戦艦:金剛(こんごう)・比叡(ひえい)・榛名(はるな)・霧島(きりしま)
   扶桑(ふそう)・山城(やましろ)

空母:翔鶴(しょうかく)・瑞鶴(ずいかく)
   祥鳳(しょうほう)・瑞鳳(ずいほう)
   龍驤(りゅうじょう)

重巡:摩耶(まや)・鳥海(ちょうかい)
   鈴谷(すずや)・熊野(くまの)

軽巡:球磨(くま)・多摩(たま)・木曾(きそ)
   阿賀野(あがの)・能代(のしろ)・矢矧(やはぎ)・酒匂(さかわ)

駆逐:暁(あかつき)・響(ひびき)・雷(いかづち)・電(いなづま)
   白露(しらつゆ)・時雨(しぐれ)・村雨(むらさめ)・夕立(ゆうだち)・春雨(はるさめ)・五月雨(さみだれ)・海風(うみかぜ)・山風(やまかぜ)・江風(かわかぜ)・涼風(すずかぜ)

潜水:伊13(ひとみ)・伊14(いよ)


「これって、名簿?」
「あれば便利かなって。手書きで悪いけど・・・・・・余計なお世話だったかな」

数分かけて出来上がったものは、この佐世保鎮守府に所属する艦娘の一覧表だ。出向してきてる明石や呉・鹿屋の者は除いているが、最低限これだけ覚えれば暫くは問題ないだろう。
これから寝食を、戦場を共にするのだ。ちょっとずつと思ったがやはり、名前だけは早く覚えてほしいという想いはあった。
名はその存在を示すもので、とても大切なものだから。互いに名を呼び合えるから、今ここに生きていることを実感できる。
だから彼にだってちゃんと名前を呼んでほしいと思うのも自然なことで。

「ううん、とても助かるよ。ありがとう」

その為ならこれぐらい安いものだし、喜んでくれるのなら自分も嬉しいと思った。

「なら良かった。・・・・・・私達の名前は大抵、川とか山とかが由来で、それを意識すれば覚えやすいと思う。食事会も多分同型艦で固まって座ると思うし、それと照らし合わせるといいよ」
「・・・・・・響達は一文字で分かりやすくていいね。潜水艦の娘もこれでヒトミとイヨって言ってたけど、格好共々すごい異彩を放ってるなぁ」
「そこはそういうもんだって割り切るしかない。潜水艦を集中運用してる鹿屋とか、凄いよ」
「凄いんだ・・・・・・」

136ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 21:13:06.80ID:1DSJ8VNR0
響は資料室の一角を指さして続ける。

「ここには私達が使ってた教科書とかもあるから・・・・・・気が向いたらここから持っていけばいいよ。基本的に閲覧と持ち出しは自由で、日本語学は瑞鳳が教え上手。教えてもらうといい」
「瑞鳳さんが? 迷惑にならないかな」
「榛名ほどじゃないけど世話好きだし平気だと思う」
「なにからなにまで、ホント、ありがとう」
「大したことじゃない。普通だよ。・・・・・・じゃあ、行こうか」

さぁ。
目的地はもう目と鼻の先で、今尚も改装工事まっただ中の医務室を通り過ぎたら食堂の正面扉が見えてくる。ちょっと寄り道したせいで、時間に余裕がなくなってきた。些か急がなければならないだろう。
紙切れ一枚の簡易的な名簿を渡して踵を返し、少し軽くなった足取りで資料室から出る。
その時だった。


「――あわわぁ!? 装備したまま来ちゃったっぽい〜!?」


廊下に出た二人の隣を、黒き疾風が駆け抜けた。
蛍光灯に照らされた金髪と、黒い制服を靡かせ疾る少女。その背には巨大な鋼鉄の兵装。
見間違いようがなく、その後ろ姿はうっかり者のものだった。

「わっ、夕立師匠!?」
「あー響久しぶりー! キラさんこんばんはー!! また後でっぽいー!!! あと師匠はや〜め〜て〜!!!!」

わたわたぱたぱたと可愛らしく、けどそれでも並みの人間よりも速く。
すれ違いざまの挨拶だけを残して、かつて見た勇猛なソレとは真逆な後ろ姿のまま、真っ白なマフラーを靡かせた夕立が曲がり角に消えた。
――と思ったら、ひょっこり角から顔だけを出して、

「ひーびーきー! 模擬戦、明後日やっていいってー! 準備お願いねー!!」
「わ、わかったー!!」

それだけ言って、今度こそ走り去る。まるで文字通り夕立のような勢いに、二人はポカンと見送ることしかできなかった。
しばらくして顔を見合わせてみれば、なんだかおかしくなって。あんなうっかりはなかなか見れるものじゃない。

「師匠・・・・・・艤装をつけたままここまで来ちゃったのかな」
「それはまた・・・・・・それにしても、師匠? 模擬戦って?」

137通常の名無しさんの3倍2017/10/07(土) 21:13:35.79ID:Qc4ggDli0
回避

138ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 21:14:49.03ID:1DSJ8VNR0
するとキラが興味深げな様子で訊いてきた。
まぁ、その質問は当然だよねと、響は帽子の鍔をつまんで頷く。隠すようなことじゃないし、黙っていてもいずれは分かることだ。

「そのままの意味で、彼女が私に戦い方を教えてくれたんだよ。半年に一回、師弟対決だって模擬戦するんだ。・・・・・・まだ勝てたことないけどね」
「それって・・・・・・凄く強いんだ。一回も?」
「そう、一回も。でも今度こそ勝つ」

独特の語尾が特徴的で、平時は結構なドジッ娘なのだが、あれで佐世保の駆逐艦では最強の使い手で、【ソロモンの悪夢】や【狂犬】といった二つ名を持つ白露型駆逐艦の四番艦。それが夕立という艦娘だ。
手にした魚雷を直接相手に叩き込む高速格闘戦を得意とし、舞鶴の川内と江風とで培った戦闘技術は、戦艦すらも容易く撃沈する程の破壊力を発揮する。勿論、接近できればという但し書きはつくが。
しかしそれを問題にしないセンスがあるからこそ最強なのである。持久力がないのが玉に瑕だが、響の遙か上をいく火力と機動力は佐世保第一艦隊の切り込み隊長としてその名を轟かしている。
いずれ、響が超えなくちゃいけない相手だ。

「超えるべき壁、か。なんかいいなぁ、そういうの」
「そうかな?」
「そうだよ」

降って湧いてきた師匠との模擬戦。
これは新しい艤装を試すにはうってつけかもしれない。ちょっと反則臭いが、それくらい許してくれるだろう。いろいろと新しく戦略を練る必要があるなと、少女は拳を固めた。
けどまぁ、今は。

「急ごう。このままじゃ本当に遅れるかもだ」
「置いてっていいのかな」
「自己責任だね」
「わぁ、厳しい」

夕立のことはひとまず置いといて、いざ食事会へ。
キラの手をとって、響は食堂へと走ることにした。
美味しいものと新たな道標が、そこで待っている。

139ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/07(土) 21:17:35.01ID:1DSJ8VNR0
以上です。
暫く戦闘がない回が続いていきます。

>>115
自分も楽しみにしてます

140通常の名無しさんの3倍2017/10/08(日) 22:47:58.37ID:WPot6gFx0
投下乙です。
申し訳ないがちと辛口評価を。




ちょっと文章量のわりに話が進んでなさすぎな気が・・・
メンテして模擬戦の約束して食堂行くのにここまで詰め込むと正直お腹が膨れます。
もっとも今回の話に重要なワードや伏線があるならその限りではないので
今後の展開に注目ですね。

141ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/10/08(日) 23:20:44.03ID:4F6X68Gh0
>>140
いえ、辛口評価こそが一番ありがたいです。

確かにちょっと贅肉が多いかも? と思っていたところで・・・・・・言われてみると、世界観を拡げようとして重要でない情報をつらつらと語りすぎてしまっている状態ですねこれは。
ダイエットする気持ちを忘れてました。ありがとうございます。

142ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:11:41.71ID:zDocJJyd0
贅肉はなるだけ刮ぎ落とした! つもり! の精神で投下します。
どうでもいいですが風邪引いてました。皆さんはお気をつけて

143ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:13:01.80ID:zDocJJyd0
――艦これSEED 響応の星海――


以前は医務室と同様、木組みの壁に天井と古めかしく和風な造りだった食堂は、その面影を一片たりとも感じさせないほどまでにリニューアルされていた。
抑えめで温かみのある照明に照らされた、レンガ造りで広々ゆったりとした空間には重厚感のある木製のテーブルが並び、そこかしこに観葉植物までも飾ってある。まるでテレビで見るお洒落なカフェテリアのようで、
ずっと厨房に籠もっていた瑞鳳はしばし、時を忘れてその金糸雀色の瞳を輝かせた。
前までの町の食堂然とした雰囲気も好きだったけど、これも素敵だなぁと思う。料理作りが趣味で、たまに食堂のおばちゃん達のお手伝いもする少女は、急にオムレツを作りたい欲求に襲われた。
しかしまぁ、それはまたの機会に。今は我慢の時。
時計を見れば、食事会の開始まであと5分を切っていた。

「・・・・・・っと、あれ。響たちは?」

参加者の殆どは既に食堂に集い、自由気ままに動き回りながらそこら中で雑談に花を咲かせていた。
今回は珍しく立食のビュッフェ形式のようで、艦娘達は中央に並べられていく出来たてアツアツの料理に釘付けになっていながらも、あえて遠ざかって意識しないようにしている様が見て取れる。
その一部を作った自分が言うのもなんだが、まるでお預けくらった子犬のようで少し微笑ましい。
でも、ざっと見たところ明石と夕立、響とキラの姿がなかった。
元々少し遅れる予定の明石は兎も角、あの三人はどうしたんだろう。瑞鳳は少し、会場内を歩いて探してみることにした。この時間にいないとなると遅刻してしまわないか心配になる。
別に遅刻のペナルティーはないとはいえ、一度気になると頭から離れなくなるもので。

「ちーっす瑞鳳(づほ)。誰かお探し?」
「鈴谷。や、探してるってほどじゃないけど、響と夕立とキラさんいないのかなーって」
「それなら来る途中で見たよ」

そうしてキョロキョロしていたのが目に余ったのだろう、いつものブレザーを羽織った翡翠色の髪の少女、鈴谷がいつもの軽いノリで声を掛けてきた。

「そうなの?」
「んーとね、なんか響とキラってば揃って資料室に入ってった。んでもって夕立ったら可笑しくてさぁ、入口手前まで艤装つけたまんま来てて、教えてやったら慌てて格納庫まで一直線。
・・・・・・鈴谷も今来たとこだから、もーちょいしたらじゃん?」
「わぁ、流石のうっかりっぷり。そういうことなら心配いらないのね、ありがと」
「いーってお礼なんて。・・・・・・にしても、言ってて思ったんだけど、なぜに資料室?」
「さぁ? でもあそこ時計なかった筈よね。大丈夫かなぁ」

噂では共に第二艦隊に配属されるらしい、フットワークが軽くてコミュニケーション能力も抜群な最上型航空巡洋艦三番艦。偶然ではあったが彼女の活躍により、あっけなく瑞鳳の心配の種は解消された。
しかし、同時に生まれた新たな疑問に、二人は頭を傾げることとなったのだった。

144通常の名無しさんの3倍2017/11/11(土) 23:13:02.38ID:4BfLPXk20
おう、期待してるよ!

145ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:13:57.06ID:zDocJJyd0
なんで今になってそんなところに? うーん、様子見てこようかな? なにをしているのか知らないけど、響ってわりと時間忘れっぽいし、キラさんもけっこーなのんびり屋さんみたいな感じだし。

「相変わらずの心配性だねぇ。大丈夫じゃん? 片方は本日の主役なんだしさ」
「あ、それもそっか」

この食事会はキラの歓迎会も兼ねている。なら流石に本人が遅れることはないだろうというのが、彼女の主張だった。言われてみればそうだ。それに瑞鳳も同調して、今度こそ胸をなで下ろそうとした。
すると、そんな心配性な少女をからかうようにして、

「ッハ、いや、待てよ。こう考えてみるのはどーだろう」
「?」

鈴谷はおどけた様子でニヤリと笑いながら言った。

「うら若き男女が人目のない資料室に・・・・・・それってもしかすると、もしかしたらなんて可能性もなきにしもあらずじゃん? 聞くところによると何故だか仲がいいらしいあの二人、何も起きないはずがなく・・・・・・ってね」
「・・・・・・」

思わず溜息が出た。
まったく、この冗談好きの恋愛偏重主義者ときたら、言うに事欠いて。
分かってて言ってるんだろうけど、そんなことばっかり言ってるから熊野に怒られるんだよ? いつも熊野の愚痴に付き合わされる私の身にもなってほしいと、少女は切に思った。
そして同時に。
いつもなら普通に笑い飛ばせるような冗談に、自分でも驚くぐらいの強烈な非現実感も抱いた。スッと、心の何処かが醒めた。

(あるわけないのよ、そんなこと)

実際にナニをどうしたかという問題ではなく、あの響がそんな類いの行動をするというイメージ自体が湧かない。どころか、ありえないと強く否定する自分がいた。

「・・・・・・えーと、そんな難しい顔しないでって冗談だって。だからその、真面目に受けられると困るっつーか、ボケ殺しは勘弁してくださいマジで」
「ツッコミが欲しいなら話題には気をつかおう?」
「ごめんて。・・・・・・でもさぁ実際ありえるかもじゃん? つーかみんな気にしなさすぎだけど、いつの間にか溶け込んじゃってるけど、鎮守府に出入りする男なんて提督以外初なんだよ? 
面白いことが起こらないはずがないよ状況的にお約束的に」

ちなみに提督はというとあれでちゃんとお嫁さんがいるし、まず軍令部から「才能有り、問題無し」と判断されて――時々の査察もクリアして――いるからこそ提督として鎮守府を運営することが赦されている。

146ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:15:03.87ID:zDocJJyd0
「それはそうかもだけどぉ。でも・・・・・・」

鈴谷の言いたいこともわかる。
そりゃ初めて会った時から、あの二人なんか妙に仲がいいなーと思ってはいた。いや、馬が合っていると言うべきか。第二艦隊として合流する前から既に顔合わせしてた為か、
戦闘中でも移動中でも二人一緒でいることが多く、時には初めてとは思えないコンビネーションを発揮したこともあった。
あの二人は何故だか仲がいい。
その片割れが詳細不明とはいえ、他の人間とは明確に異なる【自分達と一緒に戦う男性】なのだから、パートナー次第では彼女の冗談が現実になる可能性もなくはない。
客観的にみれば惚れた腫れたと茶化したくなる状況なのかもしれない。
だから、そんなわけだから。鈴谷は軽い気持ちで、いつもの趣味の宜しくない冗談を言ったのかもしれない。
でも。
響に限ってそんなことあるわけがないと、瑞鳳は強く思ってしまうのだ。仮に少しでもそういうことができる娘なら、どんなにいいだろうと。


だって、あの娘はそういった余裕なんか少しも持てなくて、未だ進めずにいるのだから。あのクールでシニカルなペルソナの下には、私達でも溶かせない氷塊を抱いているのだから。


そんな事情を知っている数少ない者の一人としては、その冗談はあまりにも趣味が悪すぎた。
てか、そもそも鈴谷はなんでもそういう方向に持っていきたがりすぎ。このスケベ艦娘め。

「ていうか本能に忠実な鈴谷じゃないんだから、みんな慎みってのを持ってるんだから。いきなりそんなの有り得ないってば」
「む、失敬な。なんだよー人をケダモノみたいに」
「えぇー? だってこの前も熊野の誕生日に――あ。響たち来た」
「・・・・・・え、ちょ、なんでソレ知ってんの!? しかも、もって言った!?」

たまにはお灸を据えるのもいいだろうと思って、とっておきの切り札を切ってみた。その直後。
慌てふためいているケダモノの背後、人だかりの向こうに特徴的なツンツン頭が見えた。「なんとか間に合ったね」「おや、今回は立食式だったか。これは読みが外れたな」「名簿あるし、なんとかなるよきっと」という
会話も聞こえてきて、無事に二人がやって来たことを知る。
よかった、これで安心できるというものだ。引き続き、バレてないと思っていたらしい元お隣さんに現実を教えてあげることにする。ところで宿舎が再建したら部屋割りはどうなるんだろう。

「ま、まさか・・・・・・全部筒抜け?」
「うん、わりと。壁薄いのにあんな大声なんだもん」

147ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:17:22.93ID:zDocJJyd0
自室でナニをするのも勝手だけど、もうちょっと隣人を気にしてほしい。もっと言うと、いつも熊野の惚気に付き合わされる私の身にもなってほしい。

「ノーーーー!! やだ・・・・・・マジ恥ずかしいって・・・・・・! つーか熊野なに言ってくれちゃってんのー!?」

そこまで言うと、耳まで真っ赤になった鈴谷は勢いよくしゃがみこんでしまった。
あら意外と可愛い反応・・・・・・じゃなくて、ちょっとからかいすぎたかも。ただの八つ当たりでしかなかったけど、今日はここら辺で勘弁してあげよう。これで少しは懲りてくれればいいのだが。
そう思い、やれやれと肩を竦めた時だった。

「――え」

鈴谷の背後の、ごった返していた人だかりが少しだけ散っていて。


響がうっすら笑みを浮かべて、青年の手を引いている姿が見えて。
まだありえないと思っていた、まだ遠いと思っていた様が見えて。


少女の脳裏に、先の冗談が鮮明に蘇って。
ある一つの可能性を、試みを思いついた。
その為には。



《第9話:ある意味ここがスタートライン》

148ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:19:03.77ID:zDocJJyd0
<マイク音量大丈夫? ・・・・・・よし。白露秘書殿、どうぞ>
<ありがとー霧島さん。・・・・・・コホン。えー、それでは全員揃ったみたいなので! 長ったらしい挨拶は全面カットで!! 佐世保鎮守府の一応の復活と、キラさんが正式にウチに配属されたことを祝して――かんぱーい!!!!>
「かんぱーい!!!!!!」

その後。
夕立がもの凄いスピードで駆け込んできたのを皮切りに、特設ステージで仁王立ちになった司会係の白露の元気な声が食堂内に響き渡って、ついに食事会がスタートした。
ここ数日の質素な缶詰生活が嘘のような豪華絢爛な料理はもの凄いスピードで消化されていき、それはアルコール類も同様で、大小様々な空ボトルがどんどん量産されていく様にはいっそ爽快感すら覚える。
この勢いは多分、会議開始まで衰えることはないだろう。
ちょっと明日のお腹まわりが心配だ。
いつもの着座のコース形式ならもうちょっと落ち着きがあるのだが、最近ずっと苦しかった反動もあってか、誰も彼もが浮かれていた。でも心機一転で再出発するにはこれぐらいが丁度良いのかもしれない。
ちなみに、今回立食のビュッフェ形式になったのは、呉と鹿屋から来てくれた出向防衛組との交流を深める狙いもあるからだそうな。特に、ここ数日大活躍らしい呉のイタリア重巡姉妹、その妹ところにはかなりの人が
集まって大賑わいになっていた。

「えっへへ〜、このチキンもおいひぃ〜。あー、ワイン赤と白、もう1本おねがぁ〜い」
「すっげーなオイ底なしかよ。よっしゃ、この摩耶様もつきあうぜ。おーい金剛ー、お前も来ーい!! 久しぶりにカーニバルだ!!」
「村雨の姉貴〜、ありやしたぜ! 提督秘蔵のヴィンテージ!!」
「ナイスよ江風。はいはーい、ポーラさんこれ一緒に飲みましょ!」
「Grazie、Grazieですね〜。さっそくいってみ〜ましょ〜。んぐ・・・・・・ぅあ〜。いいですね〜暑くなってきた〜、もー服がすごい邪魔ぁ!!」
「うわ、なにこの人だかり――ってポーラぁ!? うそ、ちょっとぉ! なーにやってんのー!?」
「ぅへあ!? ザラ姉様!?」

・・・・・・見なかったことにしよう。なにあの脂肪の塊。ぜんせんうらやましくなんてない。

「みんな、よく食べるね。いつもこんな?」
「違うわよぅ。今日が特別なの、いろいろと。これもあなたが協力してくれたからだけど・・・・・・そういえばちゃんとお礼言えてなかったよね。ありがとう、キラさん」
「お礼を言うのは僕のほうだよ」

そうして皆が久しぶりに明るく楽しく騒いでるなか、瑞鳳はキラと二人っきりになっていた。

「・・・・・・それで、なにかな? 僕に話って」
「うん、ちょっとね。あなたに訊いてみたいことと、お願いしたいことがあるのよ」

なっていたというよりかは、その状況を作ったというべきか。

149通常の名無しさんの3倍2017/11/11(土) 23:19:29.66ID:RJKBLHsH0
回避

150ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:19:56.21ID:zDocJJyd0
青年に対する質問攻めタイムがようやく落ち着いた頃を見計らって、響にちょっと借りるねと断ってから共に食堂の端っこに移動した。単刀直入に、一対一で。話したいことがあったからこその行動だった。
遅まきながらロゼのスパークリングで満たされたグラスをチリンと鳴らし合って、二人は正対する。思えば男性と二人っきりになるのは提督以外じゃ初めてだ。ぜんぜんそのつもりはないけど。

(・・・・・・つもりはない、けど。なんでこんなどきどきするのよぅ)
「?」

昨夜に艤装を整備してもらった時と変わらず、穏やかに微笑む青年。
まだ殆どの人にとっては、まだそうたいして親しくない男性。未だ詳細不明の異世界人。いきなり女性だらけの鎮守府に所属することになって、でもいつもノンビリのほほんとしていて、
いままでトラブルを起こすこともなく至って普通の好青年で通している男。
・・・・・・ふむ、改めて見てみると顔立ちはなかなか。どこか中性的で正直男性としては好みのタイプじゃないけど、その若さにそぐわない静謐な雰囲気は人を安心させる力があるように感じて、これはこれで。
元の世界じゃ結構偉い立場だったと聞くし、強いし、間違いなく優良物件ではある。
――って、なんで私が品定めみたいなことしてるの。もう、調子狂うなぁ。鈴谷が変なこと言うから変に意識しちゃうじゃない。
じっとり汗ばんできた掌を、ひっそり袴で拭う。
これはそう、緊張しているだけだ。ただ単に、自分に男性の免疫がないからこその緊張だと、これからの質問が自分にとって大事なものになるという気負いもあるからだと、少女は頭を振った。

「暁〜、響〜、コレ食べて食べて! わたしと電で作ったの。ど〜お?」
「肉じゃが! 二人で作ったの? やるじゃない!」
「うん、いいな。美味しいよ二人とも。・・・・・・木曾と鈴谷もどう? きっと気に入る」
「! ――ほう、響のお墨付きか。なら頂こう・・・・・・、・・・・・・なんだこれは、こんなに美味くていいのか!? 美味すぎる!!」
「・・・・・・え、このオーバーリアクションの後に食べるのってめっちゃハードル高いんですケド」
「鈴谷さんファイト、なのです」

遠くの方で、暁型の四人と木曾、そして鈴谷が肉じゃが一つで楽しくはしゃいでる声が、やけにハッキリ聞こえてきた。
そしてそれを最後に、周囲から音が遠ざかった。まるで世界には自分達しかいないと錯覚するような、そんな静寂の世界を意識して形作る。これからの一語一句をけっして聞き漏らさないよう、少女は集中する。
そう。ここからはシリアスに。
シリアスが私を呼んでいる。
そんな少女の気合いに気付いたのか、青年も真面目な顔になった。今だ、訊くにはこのタイミングしかない。これにどう応えるかによって、少女のこれからの行動指針が決定される――これはそういう質問だ。
空回りしそうな舌を必死に制御して、まっさきに本題を。

「――ええっと、ね? ぶっちゃけさ、あなた自身は、響のことどう思ってるのかなって」

151ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:22:06.66ID:zDocJJyd0
・・・・・・にしては質問内容が些か緊張感に欠けるというか、恋愛モノの三流TVドラマみたいに青臭くて、しかも漠然とし過ぎていると瑞鳳は言ってから気づいた。
気付いて、頭を抱えた。
キラも苦笑して、場に和やかな空気が流れる。しまった、ぜんぜんシリアスっぽくない。それどころかこんなんじゃ意図の半分も伝えられてないではないか。そりゃ究極的には「どう思ってるか」が核心ではあるけども。

「これはまた漠然とした・・・・・・」
「うぅ、ごめんなさい今のナシで」
「とりあえず、可愛くて良い子だと思ってるよ。でも瑞鳳さんは訊きたいのって、そうじゃないでしょ? ・・・・・・そうだね、でもなんとなくだけど何が訊きたいのか、わかるような気がする」
「え、ホントに?」

わかってくれたのだろうか。
キラはしばし考え込むように、言葉を探すように俯いた。
心当たりがある、というのだろう。そういえばこの人は元の世界じゃ結構偉い立場だったという。何か似たような問題を知っているのかもしれない。世界広しといえど、
人間が抱えるような問題なんてのは限定されていると言ったのは、どこの誰だったろうか。
少しだけ沈黙が続く。
ちびちびとグラスを傾けて、口を開きかけては閉じての繰り返し。その顔は先までと打って変わって、それこそ戦闘中でもあるかのように真剣で。でもどこか迷っているような素振りで。
その横顔を見て、瑞鳳はゴクリと喉を鳴らした。
そうして彼のグラスが空になった頃。
しばしの黙考を経てキラは「多分だけどね」と前置いて言った。哀しそうに瞳を伏せ、言った。
それは、先の問いの核心に触れるものだった。


「響が。彼女が僕と一緒にいてくれる理由は、罪悪感が一番大きいんだろうなって。僕はそう思ってる」


――ああ。この人はちゃんと、思っていたよりもずっと、あの娘のことをよく見てくれているようだ。
瑞鳳はその言葉だけで、この人は信じてもいいと確信した。

「だから僕は・・・・・・受け入れて――支えてあげたいとも思ってるよ。あの娘はね、恩人だから。それが報いになるかはわからないけど・・・・・・こんな答えでいいかな?」
「・・・・・・うん、充分。ありがとうキラさん。気付いてくれてたんだ」
「流石にそこまで鈍くできてはいないよ。・・・・・・でも、そっか。勘違いじゃなかったんだね・・・・・・」

百点満点とまではいかないけど、期待以上。
認識を共有できていること以上に嬉しいことはない。勇気出して訊いてみてよかった、これならきっと上手くやっていける。この人なら、あるいは。
自分と同じように彼女を支えてあげたいと思ってくれている青年は、肩を落として言葉を紡ぐ。勘違いであって欲しかった、己の感覚をなぞるようにゆっくりと。ため込んでいた想いを吐き出すように。

152ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:24:03.49ID:zDocJJyd0
「すごく優しくて、律儀で、けど脆くて。なんでも自分のせいだって思ってるような――なんとなく、そういう印象を受けるんだ。
罪悪感とか罪滅ぼしとかがずっと向けられてて・・・・・・無意識なんだろうけど、今日だってそんな感じでさ。それに響には突撃癖があるって前に木曾さんから聞いて、僕も実際に見た。だから」
「見てられない?」
「そう、見ちゃいられない。みんなの怪我もストライクのことも、多分本人が思ってる以上に気にしてるのがわかっちゃって、見てて辛い。彼女の在り方は危うすぎる。
気付いちゃったらほっとけないよ、あんなんじゃいつか・・・・・・」
「あれでも、すごくマシになってきるんだけどね・・・・・・」

応じて瑞鳳も改めて、響がどういう性格であったかを思い起こす。
そうだ。
近年はなりを潜めているけれど、響はそういう女の子だった。
自分を必要以上に追い詰めるタイプ。自信が持てなくて、なんでもネガティブに捉えてしまうタイプ。あのクールでシニカルなペルソナの下にある氷塊の正体はソレだ。
殆どの者が知らない彼女の闇は、彼女自身が思っているよりもずっと深い。
その片鱗は時々、トラウマというカタチで現れる。
仲間が危険となれば暴走して接近戦に傾倒してしまうアレ。生きたいのか死にたいのかも判らない特攻癖。船の【響】の経歴から考えれば何故そうなったかは大体察することができるけど、
他人が思うよりずっと悪化して凝り固まってしまったが故の、悪癖。
殆どの者は彼女の闇に気付かない。元々そういうものだと思っているから。弱さを晒すことが嫌いな響がそうなるように努力しているから。知っているのは、最初期から彼女のことを知っている者か、ずっと一緒にいる者だけ。
そして気付いたとしても、最奥まで踏み込めなくて、気遣いながら時間の解決を待つだけで。そんな日々があった。

「・・・・・・昔はもっと酷かったの。表面上は今とそんな変わらないけど、ずっと何かに怯えてて、ずっと一人で、なにをするにしてもすぐ謝って主張しなくて・・・・・・想像できないでしょ? 
今は気持ちに制限をかけてるようなものよ」
「気持ちを、制限・・・・・・。今の彼女になったのは、やっぱり・・・・・・」
「夕立のおかげでもあるし、言い方は悪いけど、せいでもあるかな。でもちょっと自信がついてからだいぶまともになれたのは事実だから、やっぱりおかげ。相変わらず、姉妹以外にはそう関わろうとはしないけど」

自分達が、あの娘の姉妹でさえも溶かせなかった氷塊。夕立を師事することで少しだけ柔らかくなった少女。人付き合いに臆病でナイーブな、強さだけを求めて余裕が持てないあの娘。
響は、トラウマを克服する為には強くなることが必要だと思っている。なまじ成果があったから、思い込んでる。
しかし瑞鳳には、それは彼女が強さを追い求め続ける限りは克服できないものだと思えててならないのだ。
直感だけど、自分が正しいとは思わないけど、彼女も認識が間違っているとも思う。それじゃ正解にたどり着けない。たどり着けないから、彼女はまた自分を責める。
もどかしい。
かつての自分は力になれなかった。彼女の弱さを知っていながら、彼女の望むものを与えることができなかった。ただ折れないように、支えてあげるのが精一杯で。それはとてももどかしく、悔しいことで。

153通常の名無しさんの3倍2017/11/11(土) 23:26:20.02ID:RJKBLHsH0
回避

154ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:26:45.66ID:zDocJJyd0
だから。
だから、誰か他の人が。彼女が気取らなくていい相手が気付いてくれているなら。
響が信頼しているこの青年が、そのままの彼女を受け入れてくれるというのなら。
あるいは、彼女の問題を解決できるキッカケになるのではと、瑞鳳は考えたのだ。
故に、「彼が響をどう思ってるか」が核心だった。
故に、少女のこれからの行動指針は決定された。


「そんな娘がね、あなたといるようになって、また前向きになれてるって思うの」


瑞鳳は、彼ら二人が食堂にやって来た時のことを、その時に受けた衝撃と直感を思い出しながら言った。

「あの娘、変わったわ。もちろん良い方向に・・・・・・そう、一皮剥けたみたいな。そのキッカケってやっぱりあなただと思うの。随分と懐かれてるみたいだしね」
「・・・・・・懐かれてる、のかな。そうだといいけど」
「なによぅ、あなたも自覚ないの? あの娘、私達と打ち解けるのにだってけっこーかかったのに。そのお相手が男ってのはまぁ、びっくりしちゃったけど」

ともすれば見逃してしまいそうな小さな変化だった。その雰囲気はほんの少しだけで、けど確実に以前のものとは違っていて。
まだありえないと思っていた、まだ遠いと思っていた様が、そこにあった。
自分なら断言できる。アレは本心からの笑みだった。

「それは・・・・・・」
「悔しいけど、あの娘のあんな顔、初めて見たんだもん」

資料室でなにをやっていたのかは響本人から直接訊いた。その時なにを想っていたのかも。
なんとも甲斐甲斐しいことだ。前はここまで積極的に他人の為に動くような娘じゃなく、裏のほうでコッソリ支える――戦闘の時とはまるで真逆なタイプだった。それが例え、名簿を書いてあげるなんてささやかなことでも。
そして、美味しいものを他の人に勧めるなんてことも、今までじゃ考えられなかった。
どんな時でも無感情でも無感動でもないけど無表情なあの娘は、その本心の表情を他人に晒すことなく。
五年前から、ずっと。
今になって、やっと。転機が訪れたのか、彼女は少し変わることができた。
経緯はどうあれ、他人と手を繋げるようになるぐらいには。美味しいものを他の人に勧められるぐらいには。

「そりゃね? ただあなたと手を繋いで、ちょっと笑ってただけって、たったそれだけよ。資料室でのことも些細な善意だってあなたは思ってるのかもしれない。
・・・・・・でもそれって、あの娘は姉妹達だけにしか見せなかったものだから」
「・・・・・・」
「それにキラさんの事ね、よくわかんないけど一緒といるとなんでか少し安心するって言ったの。いつもの無表情だったけど。それだけの変化が、今の響にはあったって思う。それで懐かれてないわけないじゃない」

155ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:30:05.39ID:zDocJJyd0
昨夜、まだ響の艤装は旧型のままだと。過去に一度挑戦したものの断念して以来ずっと埃を被っている新型艤装は、まだ使う気がないらしいと明石から聞いた時には「まだ決心つかないのかな」と心配になったけど。
あの白銀色のロシア製の新型――ロールアウトから数年が経って、もう旧式になりつつあるけど――が、再び日の目を見る時も近いかもしれない。かつて自分だけに教えてくれた「記憶」と向き合う準備が、
できつつあると見える。
それは仲間として、榛名達や木曾達が佐世保に配属される前から共にいた同期として、なにより姉貴分として素直に喜ばしいことだった。

「そうか・・・・・・僕にお願いしたいことってのはつまり、そういうこと」
「これからもっともっと、変わってってほしいの。キラさんといれば、きっとあの娘だって・・・・・・」
「買い被りすぎだよ瑞鳳さん。誰かを救うなんて、僕には・・・・・・」

訊いてみたいことと、お願いしたいこと。この人にお願いしたいこと。
共に響の力になること。
なるだけ彼女の氷を溶かすこと。この難題に真っ正面から踏み込んで、挑戦すること。
それがきっと彼女にとってのスタートラインになるから。

「ね、お願い! こんなチャンスもうないと思うの。私も全力でサポートするから!」

話したいことは全部話した。
あとはお願いを聞いてくれるか否か。
瑞鳳はパン! っと両手を合わせて拝み倒すことにした。
こんなこと、よっぽどのお節介焼きじゃなければやりたがらない依頼だろう。現状維持ではなく、更に踏み込むことを要求しているのだ。下手を打てば、彼と響の関係が悪くなる可能性だってある。
一方的に身勝手に、覚悟を要求している自覚はある。
それも相手は彼女と仲がいいとはいえ異世界人。今後どういう扱いになるかも不明で、いつここからいなくなるのかもわからないイレギュラー。この申し出が彼の負担になることは火を見るよりも明らかだ。
でもどうしても、これは譲れない願いだった。彼はきっと引き受けてくれるだろうという打算があることは否定しないが、仮に彼が対価を要求するのであれば最大限応える覚悟も持ち合わせている。
それだけ瑞鳳は本気だった。

「――・・・・・・、・・・・・・わかった・・・・・・引き受けるよ。でも最初に言っとくけど、本当に自信ないよ僕は。昔からそういうの苦手なんだ」
「そうなの? ・・・・・・訊いていいかわかんないけど、もしかして手痛い経験があったり?」
「まぁ、そんなとこ。でも、支えたいって言ったのは自分だしね・・・・・・うん、やれるだけやってみるよ」
「やったぁ! よろしくお願いしますね、キラさん!」

何かを思い出していたのか、少し固く険しい顔をしていたキラだったがしかし、やるしかないなぁっといたニュアンスの溜息一つで了承してくれた。
多少の不安要素もあるが、それでも協力者を得られたのは大きい。瑞鳳は喜びのあまりにキラの手をとって、ブンブンと上下に振った。

156ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:32:06.90ID:zDocJJyd0
『でもさぁ実際ありえるかもじゃん? つーかみんな気にしなさすぎだけど、いつの間にか溶け込んじゃってるけど、鎮守府に出入りする男なんて提督以外初なんだよ? 
面白いことが起こらないはずがないよ状況的にお約束的に』

ふいに鈴谷の冗談が脳裏を過ぎる。
面白いこと――かどうかは分からないけど、彼が現れて状況は動いた。いや、これだけじゃない。一つが動き出すと、連鎖するように、呼び合うように、響き合うように、あらゆるものは絡み合って動き出す。
ならば、できるだけ面白く明るい未来をつかみ取りたいと切に願う。
状況的にお約束的にそうなってくれるのなら、どんなことだってやってやろう。


かくしてここに、瑞鳳とキラの協力体制が築かれたのだった。


直後。

<えーそれでは、突然ですがここで! キラさんに着任の挨拶をしていただこーと思いますっ!! キラさーん、壇上へどーぞ!!」

再びスピーカーから白露の声が大きく響いた。
いきなりのことでビクッと飛び上がる二人。
シリアスモードが解除されて、俄然騒がしい食堂の空気が戻ってきた。意識して排除していた周囲の音が、あたかも洪水のようになだれ込んできて軽くクラクラしてしまう。
見れば、特設ステージの白露はくりくりとした大きな瞳で不器用なウインクをかましつつ、端っこにいるキラに向かって「はよ来い」とジェスチャーしていた。
そういえば、そんなイベントもあると前もって告げられていたと思い出す。なにせ彼が流れ着いてからこっち、ずっと忙しい日々を送っていた佐世保鎮守府。自己紹介は艤装総点検の際に個人的に済ませたものの、
キラはまだ正式には皆に挨拶をしていなかった。
共同生活に加わる新人にとって、皆の前での挨拶は避けては通れない通過儀礼、お約束のようなものだ。
それを今からやろうというのだろう。最近は新参者がいなかったから、こういうのは久しぶりだ。
いつの間にか握っていた手を慌てて離した瑞鳳は、この人は一体どんなことを言うのかなと、今どんな顔してるのかなと気になって、その顔を伺ってみることにした。
すると見えたのは、

「・・・・・・しまった。そういえば提督にちゃんと挨拶してくれって言われてたんだ。どうしよう、何も考えてない」

なんてことを宣いながら冷や汗を流す、期末試験を目前に控えていながらも知らず遊びほうけていた男の子のような表情で。
それがなんだかすごく可笑しくて、ついつい少女は吹き出してしまった。これがさっきまで真剣な顔をしていた男と同一人物だと思うと、余計に可笑しくなる。なんともギャップの激しい人だ。

157通常の名無しさんの3倍2017/11/11(土) 23:34:46.09ID:RJKBLHsH0
回避

158ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:35:12.65ID:zDocJJyd0
「え、ちょっと、そんなとぼけた学生みたいな。偉い立場だったんでしょ? 聞いたわよ、新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊隊長って、自己紹介とか挨拶とか日常茶飯事みたいな肩書きじゃない」
「うわ、よく覚えてるねそれ・・・・・・。でもそういうのホント苦手で。内容とかいっつも他の人に任せてたんだよ」

とは言っても状況は待ってはくれず。
白露は腕をぐるぐる回し始めて、皆の視線は青年に集まって。内容を考える時間はなく、もう観念してさっさと壇上しか彼の選択肢はなかった。それでもキラは何か方法があるはずだと往生際悪く後ずさり、
小声で「どうしよう助けてシン!」と呟いていて。
もうこうなると本当、ただのそんじょそこらの普通の人間のようだ。
ここは早速、協力関係者となった瑞鳳の出番であろう。
幸先の良いスタートを切る為には、まず今を頑張らなければ。彼の助けにならなければ。そうでなければ協力者の名が泣くというものだ。
これが最初の一歩と、少女は動く。動揺するキラの背にスルリと回り込む。二人にとってのスタートラインを超えるべく。
そして、深呼吸して。

「どーん!」
「うわぁっ!?」

意外にも大きかったその背中を思いっきり突き飛ばしてやったのだった。特設ステージ方面に向かって、真っ直ぐに。




159通常の名無しさんの3倍2017/11/11(土) 23:40:24.04ID:RJKBLHsH0
回避

160ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:40:47.04ID:zDocJJyd0
その頃。
台湾近海にて。
嵐が去り、雲一つない満点の星空に覆われた、煌めく海にて。


そこには余りにも夥しい数の深海棲艦が、静かに蠢いていた。


百を超える駆逐級と軽巡級、それらを束ねる重巡級と戦艦級と空母級、そして十を超える巨人【Titan】。彼女らは、先の大規模戦闘の生き残りだ。
偶発的に壊滅的被害を被った敵の本拠地の一つ――佐世保鎮守府を潰す為に仕掛けた、損害を無視した強行一点突破作戦は失敗に終わり、どころか敵の増援によって一網打尽にされてしまった彼女らであったが、
その全てが駆逐されたわけではなく。残存戦力はこの海域にて、南洋諸島海域から集結した仲間をも取り込んで、静かに再起の時を待っていた。
敵は、人類側は強い。あの偶発的に手に入れた【力】の一端を行使しても、完全には攻めきれず、であれば半端な数と質で挑んでも返り討ちに遭うのみ。
本格的な戦闘行動を起こすにはもう暫くの時間が必要不可欠と、その一心で彼女らはただ待機しているのだ。
戦争で最も大事なものは準備であると、深海棲艦は理解していた。いつか人類を根絶やしにする為には、今は待つしかないと理解していた。

「・・・・・・」

その一端も一端。人類には十把一絡げに戦艦ル級と類別されているその個体は、群れから少し離れた場所で、とある作業を見守っていた。
準備。
そう、準備だ。
戦争で最も大事なものは準備。斥候からの報告によると、彼の地の防備は完全に復旧してしまったらしいのだから、今までと同じような準備では足りない。もっと力がいる。
もっともっと強い力が、なければならない。
その為の作業を、このル級は見守っていた。何を想うでもなく、淡々と。非武装状態で、潜水級と重巡級が頑張っている様を、怖気が走るほどに真っ黒な長髪を持つ女性型は、棒立ちで眺めていた。
ちなみに、見守ると言えば聞こえは良いが、実質的にはサボっているようなものだった。人類には知られていないことだが、深海棲艦にもうっすらとだが個体毎の性格がある。他の戦艦級や空母級は見回りに出たり、
力を蓄えたりとそれなりに役割を全うしているのだが、この個体はなにかにつけてボーッとするのが好きだった。
故に、こういう時の監督役を買って出るのがこのル級で、基本的に無感情で無感動で無表情で他人に興味を示さない深海棲艦の中でも、固有種でない癖に変わり者として認知されていたりする。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

そんな彼女の隣に音も無く、もう一体の深海棲艦が並んだ。

161ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:44:12.82ID:zDocJJyd0
ソイツも人型だった。真っ白な肌に真っ黒な装束という上位種に共通する特徴を持っているがしかし、今まで確認されてきた深海棲艦とは明確に異なる特徴も持っている、いわばイレギュラーな存在だった。
未だ人類に姿を見せていないソイツには、まだ名はない。勿論、深海棲艦にとっては名など必要ないものだから、そんなことはどうでもいいのだが。
ル級はソイツを一瞥した後、電磁波を交わした意思疎通も何もなく、また作業を注視する作業(サボタージュ)に戻った。隣のソイツもまったく同じように、まったくの無言で作業を見る。
滅多に海上に姿を現さない引きこもりのコイツが何故隣に並んだのか、その疑問も意味も、興味はない。どうでもいい。
二人は隣に並んでいながら、その存在をいない者として扱って、ただ眺める。

「・・・・・・!」
「・・・・・・!」

その視線の先で、動きがあった。
どうやら「当たり」を引いたらしい。
密集していた重巡級達が俄に散り散りになり、それぞれが手にしているワイヤーを力一杯に牽引する。人類の艦艇を再利用して製造したそのワイヤーは、遙か海底へと潜っている潜水級と繋がっており、
その様は正しくサルベージそのものだ。
つまりは、潜水級達が海底で発見したモノを引き上げるということ。
ここ数週間ずっと繰り返してきた作業だ。一切の言葉も交わさず、皆が己の役割に没頭する。全ては、いつかの為にと。
そして約5分が経過した頃。


ソレは、ついに海上に姿を現した。
それも、同時に二つも。所謂「大当たり」というヤツだった。


ソレは、巨大な機械人形だ。
一つは全体的に直線で構成された、約18mの鋼鉄の巨人。スラッとしたホワイトの四肢に、複雑な面構成のブルーのボディ、アンテナとゴーグル付きの頭部と、
今まで発見されたものの中でも特に人間のシルエットに近いタイプ。このタイプはこれで五体目だが、通しで見てもこれほど状態が良いものは初めてだった。
もう一つは、全体的に曲線で構成された、約20mの鋼鉄の巨人。此方は初めてみるタイプだが、オフホワイトで彩られた非人型な流線型のフォルムは、まるでイカのような愛嬌がある。
これもまた状態が良く、すぐにでも戦力として使えるだろう。


釣果は上々。


あの日。

162ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:47:13.51ID:zDocJJyd0
多数の深海棲艦を死に追いやった、あの大量の岩石と共にやって来た機械人形達。
その殆ど半壊状態であったが、それらと深海棲艦の死体を利用して製造した実験体【Titan】の性能は絶大だった。しかもパーツさえ揃えられれば、簡単に【姫】や【鬼】に匹敵する個体を量産できるのだから、
これは天からの恵みに他ならない。
この【力】があれば、人類などもう敵ではない・・・・・・その筈だった。しかし結果は自分達の惨敗だった。もう一度その性能を見直し、スタートラインを仕切り直す必要がある。
もっと効率良く、もっと強く、もっと多く。もっと、準備をしなければ。
もっと、この偶発的に手に入れた【力】を掻き集めて、研究しなければ。
だからこそのサルベージだった。海底に沈んだお宝を我が物にする為の。
いつか人類を根絶やしにする為に。

「・・・・・・」

重巡級達も潜水級達も良い働きをしてくれた。今日の作業は、これにて終了としても問題はないだろう。
そう判断したル級は、ふと隣にいた筈のイレギュラーがいつの間にかいなくなっていることに気付いた。
しかし気付いて、放置した。
アイツはそういうヤツだ。興味を持つ必要がない。どうでもいい。
さあ、明日もまた作業をしなければ。
その思考を最後に、ル級はねぐらを目指してゆらりと移送を開始した。作業していた他の深海棲艦達もそれに倣い、一人また一人と移動する。彼女達もまた休息が必要だった。

「・・・・・・、・・・・・・ギギッ」

状況は動いた。
いや、これだけじゃない。一つが動き出すと、連鎖するように、呼び合うように、響き合うように、あらゆるものは絡み合って動き出す。あらゆる事象は響応する。
深海棲艦達の戦準備は、着々と進んでいた。

163通常の名無しさんの3倍2017/11/11(土) 23:48:36.29ID:FGt2HrO90
C

164ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/11(土) 23:54:33.94ID:zDocJJyd0
以上です。
ヒーロー1人につきヒロイン2人は自分の中では王道です。これでレギュラーメンバーは全員紹介できました。

一応ですが、以降は以下のメンバーをレギュラーとしてそれなりの描写をしていく予定です。
・響 ・瑞鳳 ・榛名 ・木曾 ・鈴谷 ・明石 ・天津風
中でも響、瑞鳳、天津風はキーマンとして主軸になっていきます。

165通常の名無しさんの3倍2017/11/14(火) 09:00:45.31ID:G4WPIQPy0
乙でした。
美少女動物園内での会食とは羨ましいやつめw
キャラの立ち位置も固定されて、話のベクトルが決まりつつありますね。

個人的に期待したいのは深海棲艦側の描写ですね、古今東西戦争モノの良し悪しは
敵側の設定がやはり重要ですし。
絶対悪なのか、別の思想を持っているのか、キャラとしての魅力はどう出すのか
楽しみなところです、原作(艦これ)ではどうなんでしょう?

166ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/14(火) 15:17:37.83ID:6w2pOGZF0
>>165
感想ありがとうございます。
原作ゲームにおける敵の目的についてですが、そもそも艦これってそういう設定らしい設定がまったく存在しないのです。
味方も敵も明確になってるのはキャラの名前と容姿と台詞とパラメータだけで、艦娘だって史実を下地にした申し訳程度の性格づけしかないガバガバっぷりです。ユーザー側に開示されてる設定がそれしかありません。(他のブラウザゲーも似たようなものですが)
「深海棲艦から海域を開放する」という大目標以外の、それぞれの目的も世界観も完全に不明というのがアンサーです。
逆にいうと、世界観を一から考える楽しさがあります。

自分のSS内ではこれからちょっとずつ敵側の描写もしていく予定です。ほんとうに時々になってしまいますが

167ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/18(土) 18:06:04.49ID:mXkEJK9k0
すいません、勝手ながらちょっと聞きたいのですが、
ここの住民的には「本筋とは関係ないキャラの絡みだけの非シリアスな短編的なもの(大体5レス程度)」に需要はありますか?
(そもそも本編の需要がないというのは自分のガラスのハートが壊れるので勘弁を)

というのも、もう自分の中では最終回までのプロットはできていますが、時々脇道に逸れたお話を書きたくなる時があるのです。
今までは、そういうものは本編内に突っ込んでみたり、それとなく匂わせるだけの描写に留めたりして消化していました。

ただ短編を書こうとすると当然本編の進行は遅れますし、艦これを知らない人達の中でそれってどうなのって考えてしまいます。
でもせっかくのクロスオーバー作品ですから事件も心の問題も世界観説明も関係ない、ヤマなしオチなしイミなしの完全ほのぼのモードもいいなぁとも思っているのです。
つまり迷ってます。

厳しい意見でもリクエストでもなんでもいいので、出来ればどなたか教えてください。よろしくお願いしますm(_ _)m

168通常の名無しさんの3倍2017/11/18(土) 23:19:36.12ID:vAGY4q+P0
この過疎スレで話を投下してくれるのに抵抗ある人なんかいるもんかい
どんどんやっとくれ。

169通常の名無しさんの3倍2017/11/18(土) 23:31:41.77ID:jV5oNOjI0
待ってますよ

170通常の名無しさんの3倍2017/11/18(土) 23:59:10.15ID:vGhS5I0o0
ええんやない
リクエストありならシン視点とか見たい

171通常の名無しさんの3倍2017/11/19(日) 03:00:25.89ID:jnC+6KRF0
てか新シャアのss系もすっかり人いなくなったな
そりゃここは新人スレだから慣れた人は別のとこに移っていくのかもしれんが、この板にはそれっぽい動きもないし
まぁ新シャア自体が過疎なんだけどな
仕方のないことだけど、なんとかならんもんかねっていう愚痴

172通常の名無しさんの3倍2017/11/19(日) 03:19:29.63ID:vaWyFx+g0
ユーラシア氏更新待ってる

173通常の名無しさんの3倍2017/11/19(日) 16:42:30.16ID:5PFIrzNL0
よし、俺が投稿してやる

174通常の名無しさんの3倍2017/11/19(日) 16:43:06.19ID:5PFIrzNL0
【製品概要】
名称:マンゲマン
ジャンル:キミと君島と岩田が紡ぐ絆のアクションRPG
対象年齢:全年齢対象
価格:15,000円
発売日:2017年7月27日

 【物語】
「何だ、この不良品は!!」

 任地堂の元社長・岩田“マンゲマン”恥(ガンダ・マンゲマン・チー)は激怒した。
彼は去年、エイナスオナニー中にケツの中でデカビタCが炸裂して憤死していた。
今際の際にケツから流れ出た鮮血で、チーク材の机に君島(クントー)を後任とする旨を書き残し、絶命したのである。
しかし、そのクントーは社運をかけた新ハードをオナニーしながら開発し、
購入者たちの顔面に思いっきり濃い種をぶちまけたのである。

「俺がやるしかない。任地堂の未来は俺にかかっている!!」

 ガンダは決意した。
彼はチンポ急げとばかりに大天使・ゲイブリエルの元へ向かい、堕天を請願した。

「よいでしょう。そなたはマンゲマンとなり、今こそ悪徳家電屋ゾニーに無慈悲な鉄槌を下すのです!!」

 ガンダの身が輝きだした。
これならば、ゾニーを殺せる!!
マンゲマン、羽田に堕つ。

175通常の名無しさんの3倍2017/11/19(日) 16:43:51.05ID:5PFIrzNL0
「ほう……、ここが悪しきゾニーに尾を振るソフトメーカー・ゼガか……」

 岩田マンゲマンは右腕を縦に大きく振り始めた。

「この新しいチカラ、試してくれよう!!カァ───ッ!!」

 山崎邦生(現・月亭方正)の様な甲高い咆哮と共に、マンゲマンの眼が見開かれた。
と、同時に。マンゲマンのケツ穴からウンコが吹き出し、マンゲマンの身体は驚くべき速度でゼガの本社に突進した!!

────……

「ムゥ!?」

 外回りをサボるため、ゼガ本社に立ち寄ろうとした水川は呆気にとられていた。
昨日まで立派に存在していた自身の古巣が、跡形もないのである。
……朦々と昇る土煙から、人影が浮かび上がってきた。

「貴様……、岩田!?確かに殺したはず……!」

 水川は産まれて初めて恐怖した、藤岡弘、いや、それ以上の何かに。

「水川、貴様は我が任地堂を愚弄してきたな?」

 額に汗しながらも、既に水川の心は落ち着いていた。

「スペック・スパイラルから逃げ、自社の殻に閉じこもったお前ら任地堂に食わせるソフトは無え!!食らえ岩田!!いや、マンゲマン!!」

 水川はスーツの胸ポケットから長方形の何かを取り出した。
グロカードだ。

176通常の名無しさんの3倍2017/11/19(日) 16:44:24.30ID:5PFIrzNL0
「ソニック・グッロカードォ!!」

 水川の右手が振り上がった直後、カービィを足で踏み潰したかの様な炸裂音が二回続けて辺りに響いた。
その右手とカードが音速の壁を切り裂いたのである。

「ゲッ!キューブ!」

 突如、岩田マンゲマンの雄々しい肉体は宙を舞い、羽田空港第二滑走路まで吹き飛ばされた。

「ゲーム会社ってのは一人じゃ生きられねえ。あばよ、ゲームボウイ……」

 水川は三つに裂けた右腕をかばいつつ、ゼガ本社跡地に背を向けた。
岩田と同じく強烈な想い・絆を込めた水川のグロカードは、岩田マンゲマンの肉体にとってただただ有効であった。

「雨が降るか……、ゾニーに知らせねば……」

177通常の名無しさんの3倍2017/11/19(日) 16:44:42.91ID:5PFIrzNL0
以上だ

178ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/19(日) 23:04:07.63ID:axt6ybWs0
意見ありがとうございます。ちょっと短編にも挑戦してみます

>>170
シン視点了解です

179ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/26(日) 23:03:41.32ID:MZE1pmDj0
シン視点とはちょっと言いづらいですけど、シンSideの短編です。
宣言通り、ヤマなしオチなしイミなしの完全ほのぼのモードです。よければどうぞ

180ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/26(日) 23:07:29.25ID:MZE1pmDj0
事実は小説よりも奇なりという、諺がある。
現実の世界で実際に起こる出来事は、空想によって書かれた小説よりもかえって不思議であるという意味だ。しかし、既に現実がファンタジーに侵食された昨今で、より鮮烈な奇があるとするならば。
それはきっと、人が創り出すものに他ならないと、そう思う。




181ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/26(日) 23:09:20.18ID:MZE1pmDj0
「――ぅあ、しまった・・・・・・」

工廠にて、研究に没頭していた天津風は、霞む視界のなかで時計を見つけるなりそう唸った。
午前3時25分。深夜とも早朝ともつかない微妙な時間帯。直前の記憶が正しければ、約10時間ぶっ通しで作業していたことになる。急ぎでもなんでもないのに、まーたやってしまったと少女は小さく溜息をついた。
プリンツに夕食に誘われたものの、もうちょっとでキリが良いからと、そう思って結局夕食を食べ損ねてしまったとはなんたる不覚。愛用の眼鏡を外して眉間をマッサージしつつデスク脇を見れば、
そこには期待に違わず可愛らしいメモと一緒にラップされた軽食が置いてあった。
佐世保の瑞鳳にも劣らぬこの気配り、持つべきは世話好きで料理上手な友人だ。ありがとう我が友プリンツ・オイゲン、この埋め合わせは今度の休日に必ず。

「シーン! 今日はもう終いにしましょ! お風呂入らなきゃ!!」
「おう分かったー! って、こんな時間なのかよ。気付かなかったな・・・・・・」

バイエルン仕込みのボリューム満点レバーケーゼのサンドイッチが二人分。これはあとで食べさせてもらうとして、そろそろお風呂に入らねば。
デスティニーのエンジンを弄りながらうんうん唸っていたシンに声をかけつつ、天津風は私室から持ち込んだタンスから替えの服やら下着やらを引っ張り出す。
シンも作業を中断してタラップから飛び降り、隣の一回り小さいタンスを漁り始めた。
すっかり工廠が自分達の居場所になっていた。ここにシャワールームが増設されればなぁと思わずにはいられない。でもそうなると次はベッドを持ち込みたくなるだろうし、
すると自室が本当にただの物置になってしまいそうだから、思うだけに留めておく。だいたい、そうなると作業効率重視のシンも真似してここに住み込むようになるだろうから、嫌だ。分別はしっかりしたい。
着替えをバッチリ用意して工廠入口に集った二人は、互いの煤だらけの顔を見てげんなりしつつ、揃って大浴場へと足を向けた。

「・・・・・・いつもながら、お互い酷い有様ね」
「これでもうちょっと進展がありゃ気も楽なんだけどな・・・・・・。あー、機材も知識もなにもかも足りねーってのに毎日こう油塗れになるって、どうなんだ」
「油塗れになってるから、進展皆無なんてことにはなってないんじゃない」

汚れに汚れた作業着姿のまま研究に没頭して一夜を明かすのは初めてではないが、気分がいいものではない。だというのにその頻度が最近、加速的に増加しているのは乙女として如何なものだろう。
呉の支援部隊に所属する身として、明石の弟子2号として、機関や武装の試作検証に一日の殆どを費やす日々を送っている彼女。
それでも今まではちゃんと食事も睡眠も入浴もキッカリ時間通りにとっていたのだが、シンの愛機たるデスティニーの修理に取りかかってからというものの、生活リズムは乱れる一方だ。
別に不満はない。
修理の進展は殆どないけど面白いものを弄らせてもらってるし自覚はあるし、興味本位とはいえ手伝ってくれる仲間も多くいる。シンとああだこうだ言い合いながら作業するのも、まぁ、悪くない。
ちょっと忙しくなってちょっと出不精になってるだけで、リズムなんかは後々に調整していけばいいだけの話だ。

182ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/26(日) 23:12:13.26ID:MZE1pmDj0
そう思えるだけの魅力があの機動兵器には詰まっている。たしか正式名称は【GRMF-EX13F ライオット・デスティニー】といったか、正直具体的な技術どころか概要すら理解不能の塊だが、だからこそ興味深いのだ。
超小型の核融合エンジンに特殊電磁場によって半結晶状の荷電粒子ビームを出力するエネルギー兵器、電圧によって硬度と色が変化するうえにナノサイズの空洞を有するが故に超軽量な特殊金属を用いた装甲、
形状記憶金属をふんだんに取り入れた関節駆動装置、更には光圧と斥力を複合させた大型推進装置にと、どれ一つとっても超未来的オーバーテクノロジー。
むしろ、これに夢中にならないなんて人類としてどうかしてるとさえ思う。
佐世保にいる明石も、ストライクとかいうデスティニーより数世代前の機体を四六時中弄くり回しているらしい。
そんなわけで、現状に不満はないのだ。好きでやらせてもらってるのだから、自分の身のことなど二の次で。
けど、それにしたって。
やっぱりお風呂は毎日入りたいものなのだ。乙女としては。

「ところで、アラームをセットしてたはずなんだけど。聞こえた?」
「全然」
「そうよね。聞こえててスルーしたなんて言ったらぶん殴ってやるつもりだったわ」
「お前な・・・・・・。俺だって好きでこんな時間までやってたわけじゃねーっての。単にセットし忘れただけだろ」

男湯も女湯も、毎朝の浴場清掃時間まであと少し。今を逃せば数時間も待ちぼうけになってしまう。
朝になってしまえば、デスティニー修理部隊のみんなが工廠にやってくる。つまり、みんなと会うということで、汗と油に塗れたままじゃいられない。それは実にいただけない。
シンも昔はシャワー派だったらしいが、ここに来てからはお風呂に入るのがお気に入りらしく、毎日欠かさず入浴するうえ長風呂になりがちだという。
正直意外だが、けど綺麗好きなのはいいことだと毎日隣にいる者として切実にそう思う。
天津風達は文句を言い合いながら、ただお風呂に入りたい一心のみで重く気怠い躰に逆らって、鎮守府に一つだけしかない大浴場へと早足で歩いた。

(そーいえば、この時間にお風呂入るの久しぶりね。あの時以来か・・・・・・)

午前3時である。
当然、よっぽどの例外がない限りは、天津風達が今夜最後の利用者ということになる。ということは広い浴槽をのびのび独り占めできるということで、ちょっぴり得した気分だ。
島風の頭を洗ってやる必要もないし、今回は誰かさんに乱入される心配もないし。

(いやいや思い出すな忘れるのよ私。あれはただの不幸な事故だったんだから)

余談だが、ここ呉鎮守府は廃棄された温泉施設を再利用・増築して建設されたという経緯がある。宿舎や入浴施設はその旧温泉施設のものをそのまま利用し、後付けで工廠やら司令部やらを隣に設営していったのだ。その為、
入浴設備はどの鎮守府よりも充実していて、密かに自慢の種にもなっている。
そう思いながら角を曲がること数回、大きな『ゆ』の字が書かれた二つの暖簾が見えてきた。向かって右手には艦娘御用達の女湯が、左手には提督とシンが使う男湯がある。
ちなみに、男湯は完全な男性専用というわけではなく、利用者の殆どが女性だったりする。そもそも男が極端に少ないのだから専用にする意味がないのだ。

183ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/26(日) 23:15:01.88ID:MZE1pmDj0
男性が利用する際には、誰も入ってないことを確認した上で、立看板を設置するという決まりがある。
あんまり思い出したくない記憶だが、天津風とシンが最初に顔合わせしたのは、この男湯でのことだった。
あんなハプニングは二度と御免だ。

「・・・・・・ん? あいつら、何やってんだ?」

と、何か見つけたのか、突然シンが目を眇めて呟いた。
その視線の先を追った天津風も、それを見つけて思わず首を傾げた。

「・・・・・・なんでコソコソしてるのかしらね?」

風呂上がりだったのだろう、タオルを首にかけた北上と阿武隈が、まさしく抜き足差し足忍び足といった具合で浴場から離れていく姿があった。
あからさまに怪しい。
違和感。
なんだろう、なにか嫌な予感がすると、天津風は感じた。
けど、声をかける暇はなかった。北上と阿武隈はすぐさま角を曲がって、二人の視界から消えた。同時に予感も、スルリと両手からすり抜けていって。
なんだったのだろう?

「追うか?」
「明日訊けばいいでしょ。・・・・・・じゃ、また後で」
「おう」

まぁ、気にすることはないと思う。大方、ちょっとした事故やイタズラがあった程度のことだろう、あの二人なら。追求はせずに置いとくことにする。
さておき。
挙動不審な彼女らと入れ替わるように浴場に到着した二人は別れ、それぞれの暖簾をくぐった。
シンは左に。
天津風は右に。
くぐって、脱衣所へと進む。


後になって思う。あの時、北上と阿武隈を追っていればよかったと。
違和感とは、嫌な予感とは往々にして、その正体がわかった時には既に手遅れなのだから。


そんな少し先の未来など露とも知らない少女。
天津風は脱衣所につくや否や真っ先に、作業着のチャックを豪快に下げて、インナーともども纏めて脱ぎ捨てた。そんでもってノールックで乱雑に、作業着専用洗濯機へと放り込んでスイッチオン。

184通常の名無しさんの3倍2017/11/26(日) 23:15:30.79ID:6qGq8CZI0
回避

185ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/26(日) 23:16:11.55ID:MZE1pmDj0
続けて最近新調した黒のブラとショーツを脱いで、こちらは共用洗濯機に入れて、天津風は生まれたままの――艦娘は服と艤装を身につけてこの世に生まれいずるのだから、
この表現は適切じゃないかもしれない――姿になった。
起伏に乏しい、流麗で白磁のような肢体――美女揃いの艦娘の中でも指折りな脚線美を惜しげもなく晒したその姿は、いっそ一つの芸術品のようにも思える。
そうして最後に、象牙色のツーサイドアップを解いて。
少女は振り返り、浴場に続く最後の扉を視界に収めて。

(・・・・・・そうね、今日は露天風呂でゆったりしましょうか)

幾つもある素敵なお風呂のなかでも、特にお気に入りの露天風呂に入ろうと決めて、意気揚々に扉を開けた。
時間があればもっと色々楽しめるのだが、生憎と清掃時間まであと少ししかない。一つに絞る必要があった。

「〜〜♪」

鼻歌を唄いながら、温かな湯気に支配された空間を突っ切って、まずかけ湯をする。温感が全身を行き渡り、消えて、頭から足の先までがブルリと震えた。
ああ、この瞬間は何度経験しても堪らない。けど、本番はこれからなのだ。お風呂は偉大なのだ。
手早く躰と髪を洗って、一日の汚れを排水溝に流す。しっかりバッチリ躰を磨くのはまた時間がある時に。

「・・・・・・よし」

さあ次は、いざ、いよいよ外へ。
アツアツのお湯という名の、人類の英知で満たされた杯へ、師走直前の冷え切った大気に満ちた世界へ今、大きな一歩を。
踏み出す。
外界へ繋がる扉を開ける。


そして。


「――・・・・・・は?」

天津風は、嫌な予感の正体を知った。




186ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/26(日) 23:19:23.47ID:MZE1pmDj0
「――・・・・・・は?」

露天風呂に入ろうとして外にでたシンの瞳に映ったものは、見事に大破したヒノキの仕切り板だった。
さて、ここの露天風呂は一つの囲いに二つの浴槽があり、それを中央の仕切りで女湯と男湯に区分けしているレイアウトである。つまり俗物的に考えれば、覗こうと思えば覗ける構図なのだ。
もっとも、覗こうとした瞬間、次に見るものは死の淵のみだと提督は言った。経験者は語るというものかと呆れながら、ぼんやり聞いていたのを覚えている。
提督は言った。
なんでも仕切り板付近には幾重ものセンサーが張り巡らされており、絶対防衛ラインを超えようとした者には漏れなく十数機配備されたセントリーガンの掃射がプレゼントされるとか。
せめてもの情けか弾丸はゴム弾だったらしいが。そんでもって仕切りには超高張力合金が埋め込まれていて、更には付近一帯にはバネ仕掛けの地雷やらなんやらが設置されているとか。なんという周到っぷり。
それだけの防備が女湯を守護しているのだと、あの男は大真面目に語ったものだ。きっと覗きたい女湯があったのだろう、彼には。
あんなんが責任者で大丈夫か?
話を戻そう。
シンは、そんな防衛設備をまだその目で見たことはなかった。つまりは今まで覗きを敢行したことはなかった。決して枯れてるわけではないが、喧嘩別れしたっきりの彼女たるルナマリア・ホークに操を立てているのだ。
若干二名の文化遺産的巨乳を目に焼き付けている青年は、そんじょそこらの女に靡かない硬派だった。
そんな彼の前に、仕込まれた鉄板もろともに粉々なった仕切り板があるのだ。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

本当なら、あー話半分に聞いてたけど本当のことだったんだー、とか。一体誰がこんなことをー、とか。ていうかあの二人の仕業かこんちくしょー、とか。そんな感じの感想を抱くところだった。
しかし。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

しかして、現実は非情である。小説よりも奇である。
シンの視線の先には、もはやなんの役にも立たない仕切りの向こうには。

「・・・・・・きゃああああああああああああ!?」
「・・・・・・なぁ、これは俺が悪いのか・・・・・・?」

最近仲良くやれている少女、天津風の裸体だった。
凄まじい悲鳴が夜天に響き、露天風呂の水面がさざめく。
光が瞬き、重い金属音。腹を震わせる、エンジンの躍動。この音はよく知っているとも。艤装の駆動音だ。
シンはぼやく。
なんでこんなことに。どうしてこんなことに。

187ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/26(日) 23:21:49.55ID:MZE1pmDj0
言っても思っても詮無きことだ。わかってる。けど、それでも。

「なんで俺、こんなとこにいるんだろう」

言わなきゃやってられないことって、あるだろ?
シンが最後に見たものは、此方に向かって12.7cm連装砲B型改二を構える全裸の天津風の姿だった。言い訳もなにも、する余裕がない。まったくない。もうこうなったら、運命にただ流されるだけだった。
願わくば、装填されたのがゴム弾でありますように。
その後の記憶はない。
彼の意識は、そこで途切れた。


それは、11月26日の深夜の出来事。全国的に「いい風呂の日」の、ちょっとした事件だった。




188ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/26(日) 23:24:01.56ID:MZE1pmDj0
その後。
仕切り板破損事件は、北上と阿武隈がじゃれあった結果の不慮の事故だったことが発覚した。彼女らは自ら板の修繕を申し出て、それで手打ちとなった。
シンは無事、五体満足だった。流石は元祖ラッキースケベの名を冠する者といったところか、こういう修羅場には恐ろしく強かった。ただ、腹部に直撃した数十のゴム弾のせいで、
彼の立派に割れたシックスパックしばらく真っ赤であったとか。
そして、天津風はというと。

「・・・・・・次、やったら殺すから」

二度も裸を見られたショックにも負けず、今日も元気にデスティニーの整備に明け暮れていた。
もう二度と彼と一緒に浴場には行かないと、心に決めて。


しかし、彼女は知らない。


この世には二度あることは三度あるという諺があることを。
そしてそれは、案外近い未来にあるということを。
彼女は知らない。
まこと、人の世とは何が起こるか分からないものなのである。

189ミート ◆ylCNb/NVSE 2017/11/26(日) 23:27:34.33ID:MZE1pmDj0
以上です。
シンといえばラッキースケベという偏見があります。
たまにこんな頭ゆるい感じのを書こうかと思ってる次第であります。

190通常の名無しさんの3倍2017/11/27(月) 05:42:14.99ID:SPoE6iWO0


たまにゃこういうギャグ調の短編もええやね

191通常の名無しさんの3倍2017/11/27(月) 11:19:22.56ID:tjklJ2wG0
乙です
なんかさらりと新型デスティニーが紹介されてるのね

192通常の名無しさんの3倍2017/11/28(火) 23:20:23.51ID:UDSgodpR0
乙〜
全裸で失神したシンを運び介抱した人は誰なのやらw

193彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/12/07(木) 21:46:12.19ID:idAKcaRr0
お久しぶりです。
もうすぐ書けると言ったのにまた忙しくなって時間が空いてしまいました。
本当にごめんなさい。

皇女の戦い 第7話

ロンドンでのガンダムファイトの大会...マリナが辛くも勝利を収めた第一戦。
彼女はホテル内に滞在しているアザディスタンの女性医療スタッフから軽めの健康診断を受けていた。
デスタンに殴られた腹部にはアザがあるものの、日頃の鍛錬のお陰で痕は薄い色に留まった。
念の為体内もCTRで診てもらったが問題はなかった。

「よし、これなら大丈夫でしょう。流石我が国の代表ですね。皇女様。」
「いえ、ありがとうございます。私も皆さんの期待に応えなければいけませんからここで負ける訳には。」

診察時専用の服から白いチュニックと青いロングスカートに着替えると、一礼して部屋を去るマリナ。
外にはシーリンがいつもと変わらぬ落ち着いた、それでいてどこか厳し気な表情で待っていた。

「どうやら何もなかったみたいね。」
「ええ、今負けたら申し訳が立たないもの。」
「今回は良かったけど、もしまた挑発するファイターが現れても耳を貸してはだめよ?」
「わかっているわ。少しの隙が命取りになるから...」

194彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/12/07(木) 21:48:16.08ID:idAKcaRr0
ホテルで借りている個室で休むと気晴らしに出掛けるマリナ。
ロンドンの街は快晴で、人通りも多く活気に溢れている。
公園でゆっくりしたり、ブティックを軽く回ったりして余暇を過ごしていく。
時計が3時を回る頃に行き着いた石の橋。通路を兼ねたそこは補修を重ねており品のある灰色をしていて、同時に多くの人々が行き交った趣深さを感じさせてくれる。
下に流れる澄んだ河には何隻も船が渡り、この国が豊かであることの象徴のように思えてくる。
(私の国ももっと栄えればこんな風に...)
そんな思いを馳せながら青い空を見上げていると...


突然ボールが目の前に飛んでくるが、咄嗟に躱すマリナ。
サバイバルイレブンで培った敵のパンチや砲撃を回避する能力が自然に働いたのだろう。
ボールはそのまま道路を転がりそうになるが、すぐに拾うマリナ。
前方から、10歳程だろうか金髪の少年が慌てて走ってくる。

「いけね!姉ちゃん、大丈夫?ごめんね、驚いたでしょう?」

人懐っこそうな表情に焦りを浮かべて近づく。
彼にボールをそっと渡すとニッコリ笑みを見せるマリナ。

「大丈夫よ。気にすることないわ。でもここで遊ぶと危ないわよ?」
「ああ、気を付けるよ......あれ?お姉ちゃんどこかで見たような...
 マリナさんでしょ!アザディスタンの。さっきのファイト見たよ。凄かったね。」
「ええ、そうよ。凄くなんてないわ。」

口にされるとどこか恥ずかしいのかはにかんで首を横に振る。

195彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/12/07(木) 21:50:36.07ID:idAKcaRr0
「でも、俺の兄ちゃんはもっとすごいぜ。実はファイターなんだ。イタリアのね。」
「あなたのお兄さんが?......っそうなの。それでどんな人?」
「サッカー選手だよ。レオナルド・バレージって言う。」
「そういえば、他の種目からファイターに転向した人も何人かいるわね。」
「そうそう。マジで凄いんだ。俺の兄ちゃん。元エースストライカーでさ、前いたチームの中でも人気高いんだぜ。」
「そんな凄い人がお兄さんなんて、嬉しいでしょ。」
「ああ、俺もいつか兄貴みたいな凄いサッカー選手になるんだ。
ああ、言い忘れたね。俺はダリオ。」

目を輝かせて喋る少年に何だかマリナも微笑ましくなっていく。

水面を見下ろしながら語り合う二人。
皇女でありながらたまにシーリンにサラッと注意されることも自然と話せてしまう。

「ええ、お姉ちゃん。そういう注意されることあるんだ?何か意外...」
「そうなのよ、まだ未熟だからね。」

苦笑いしながら話すマリナ。
楽しくて時間を忘れてしまう。

「でもさ、皇女様って言うからもうちょいとっつきにくい人かと思ったけど何かイメージと違う。」
「私、そんなに近づきづらかったかしら...」

外交中にできるだけ好印象を与える為、フランクな笑顔や話し方を心掛けてきたが今の会話で少し首を傾げる。

196彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/12/07(木) 21:51:35.80ID:idAKcaRr0
「うん。もっと無口で堅い人だと思ったからさ。」
「あはは、ちょっとそれって。」
「でも一緒に喋ってて思ったより普通っていうか、近づきやすいっていうか。」
「良かった。それを聞いて安心......っていけない、もうこんな時間...」

気づけば辺りはすっかり夕闇色になっていた。
「ダリオ、私門限近いからもう帰らなきゃいけないけど、あなたは一人で大丈夫?
 泊ってる場所同じだけど送ろうか?」
「子ども扱いすんなって、大丈夫。心配いらないよ。
...それに他の国のファイターと一緒にいるともしかしたら兄ちゃん気まずくなるかもだし。」

それを聞いた瞬間皇女の口は自然とキュッと結ぶ形になり。

「...そうね。ダリオとお兄さんの気持ちも大事だし、今日はここで別れましょ。
 一緒に話せて楽しかったわ、ありがとう。ダリオ。」
「こっちこそ。これからの試合頑張ってね、皇女様。」
ボール片手に元気よく帰るダリオに手を振って見送るマリナ。
ファイトの疲れも完全に忘れて悠々と滞在先のホテルに帰っていく。

197彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/12/07(木) 21:52:42.66ID:idAKcaRr0
翌日の朝、愛機・ユディータに乗り込むマリナ。
一糸纏わぬ姿で祈るように両手を握りしめ、片膝を着く。
スーツを纏い力一杯立ち上がる。
しなやかな胴体は爽やかな水色、肩と股は薄い水色、手足と臀部は純白というカラーリングだった。

機体は他国の者に比べやや小さく華奢だった。
白をメインとして、前腕と脛は落ち着いた紺色。
背中には鋭い矢を収めたケース。右手にはシャープなラインを描いた弓を携えている。


会場は昨日と変わらぬ熱狂ぶりを見せていた。司会者は声を上げる。
「みなさんお待ちかねー!今日も激しいファイトの行く末を見守ろうではありませんか!!」
「今日最初のカードは先日逆転勝ちしたアザディスタンの皇女、マリナ・イスマイール!
対するはイタリア代表、元サッカー界の英雄レオナルド・バレージ!
どのような戦いを見せてくれるのでしょうか!」

「絶対に負けられない......」

強い意志を見せるマリナの瞳は、森林のように鮮やかな緑色をした機体を見据えていた...

198彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2017/12/07(木) 21:59:45.67ID:idAKcaRr0
今日は以上です。
さっき読み返したら、意図せずともおねショタもの?と思われるかもと少し考えてましたw
決しておねショタを嫌ってるわけではないのですが念のため。

まだ至らない部分がありますがよろしくお願いします。

あと、上手く言えないのですがビジュアル的?な部分でここをアレンジしてくれ、というご意見があったら教えてくださいね。
自分の力量でできる限り取り入れさせて頂きますので。
例えば、マリナの機体やファイティングスーツの色彩設定、マリナのスーツ装着シーンetc......

それでは今日はこれで。
みなさんお休みなさい。

199通常の名無しさんの3倍2017/12/09(土) 21:56:23.03ID:d+SYvNE00
更新乙です。
参加選手の兄弟と対戦前に出会うのはGガンでもありましたねー。サイサイシー・・・
別に少年とマリナが出会っただけで即おねショタにはならんでしょー、気にしない。
まぁおねショタも大好b(ry

さてさて、サッカー選手、という前提が出てきましたね。
そうなるとサッカーをどうガンダムファイトに生かしてくるか、作者さんの腕の見せ所ですよ。
弓道や合気道との相性、絡み、スポーツ選手としてのメンタルや国を挙げてのイベントとしての共通点
そしてサッカー選手の乗るガンダムのビジュアルやスタイルをどうするか。

敷居を上げつつ楽しみにしてますよ(鬼

200通常の名無しさんの3倍2017/12/11(月) 00:12:34.61ID:ZSIRpSZg0
乙です
そも本編からしてマリナはおねショタっぽい感じだったのだから、むしろマリナの本領なのでは?
本編といえばCBの連中は出てこないのかな?

しかし>>199さんや。敷居は上げちゃいかんて真面目に

201ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/01/17(水) 20:55:25.76ID:9t1u7nN20
遅ればせながら明けましておめでとうございます。少しというか一ヶ月以上更新が空いてしまったので、とりあえず中間報告をばと。
年末に職場の転属がありまして、未だてんやわんやしてて執筆があまり進められておりません。なので、次回投下までまだまだ掛かってしまうと思います。
一月末には投下できるかもなので、待っててくれる人がいるならそれまでお待ちくださると幸いです。
今回は以上です。すいません

202通常の名無しさんの3倍2018/01/18(木) 12:17:45.16ID:7rZ2fe/c0
>>201
あけましておめでとうございます

リアルの生活もいろいろあるでしょうから、支障のない範囲でぼちぼちやってください
続きお待ちしてます

203通常の名無しさんの3倍2018/01/20(土) 10:11:28.54ID:xT/eWXPV0
シンはそういや金髪欲情症という病気にかかっているという話を聞いた気がする。

204ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:09:59.60ID:LSOcb/FJ0
もう三月やんけ! だいぶ遅れてしまいました。投下します

205ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:11:40.32ID:LSOcb/FJ0
――艦これSEED 響応の星海――


キラ・ヤマトがキラ・ヒビキとして若干どもりながら自己紹介したドンチャン騒ぎの食事会と、厳粛な雰囲気で進行した佐世保鎮守府全体会議という二つのイベントをこなして、数時間後。間もなく日が移る頃。

「――よし、これで。・・・・・・あぁ、おかえりキラ。こっちは終わったよ」
「うん、ただいま。って言っても、僕ももう部屋に戻るけどさ」

あくびをかみ殺しながら仮設宿舎一階の暁型四姉妹の部屋に戻ったキラは、すっかり寝入ってしまった姉妹達とお客さんを布団に寝かせつかせた響に、帰還の言葉を告げた。

「祥鳳はなんて?」
「妹がご迷惑かけますって。おぶって階段昇るのは危ないから・・・・・・それで瑞鳳さんの着替えと、色々持たせてくれたよ。これ、みんなで食べてって」
「Хорошо、伊良湖のカステラじゃないか。わかった、このカステラに誓って瑞鳳の身は私が護ろう」
「ちょっと大袈裟すぎない?」

素っ気ない顔でしれっと可笑しなことを言う寝間着姿の響。そんな少女に祥鳳からの手土産を渡しながら六畳間の部屋を見渡してみると、
そこには綺麗に敷かれた三重ねの布団に暁と雷、電と瑞鳳がくるまっているのが見えて、キラはなんだか懐かしいと思った。
雷雨が苦手な四人の為にと提案した瑞鳳と、協力者だからということでキラも参加させてもらった暁型四姉妹のトランプ遊び。かなり白熱したものの皆々順繰りに寝落ちし、残った二人で後始末をしたのがつい今し方のこと。
こんな夜が、ただただ懐かしくて。
そう、オーブの孤児院に身を寄せていた時期は、こんなことがしょっちゅうあったと思い出す。

「大袈裟なものか。これにはそれだけの価値があるよ」
「前に食べた、羊羹みたいな?」
「同ランクの逸品だね」

遠い昔のことのようだ。ヤキン・ドゥーエ戦役を終えて、ブレイク・ザ・ワールドで世界が灼かれるまでの、たったの二年間。
嵐の夜は決まって、子ども達は就寝時間ギリギリまでトランプやゲームで遊んで、そしてみんな一塊になって一つのベッドに潜り込むのだ。そんな子ども達を各々のベッドに運んでいくのはキラやバルトフェルドといった
大人組の役目で、その後は大人組も大人組でたいして美味しくもないコーヒーを飲みながら夜をまったり過ごすという日常が、あった。
あの頃が人生で一番、平和を実感して日々を生きていた時代だったと思う。尤も、生きていることに虚しさを感じて、感じる心を喪っていた時期でもあったから、一概に楽しかった時代とは言えないが。
この状況はあの頃の夜にそっくりだ。こんな夜をもう一度過ごせる日が来るとは、夢にも思わなかった青年であった。

206ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:14:00.55ID:LSOcb/FJ0
(それにしても瑞鳳さん、誘った本人が真っ先に寝ちゃってどうするのさ・・・・・・まぁ、響も僕も楽しかったからいいけどさ)

懐かしい。
今や幸せそうな顔で夢の世界に旅立っている瑞鳳には、感謝せねばならないだろう。押し切られるようなカタチであったとは言え、彼女と協力することになったからこの気持ちを抱けたのだから。
純粋な少女達に囲まれ、久しく感じることのなかった「騒がしくとも楽しい一時」というものを過ごすことができたのだから。心なしか楽しげにも見える無表情な横顔に、つい嬉しくなる。
これからもこんな夜を迎えることができるのだろうか。
彼は蒼銀色の髪の少女と戯れながら、先の食事会にて急接近してきた亜麻色の髪の少女をチラリと一瞥した。
一瞥して、しばし青年は誘われるように、徒然と思考の海に溺れる。
これまでとこれからを、再確認する。

(協力関係、か。僕なんかにその資格は無いと思うけど・・・・・・でも)

この度、キラ・ヒビキは瑞鳳と共に、響の力になることになった。
それはいい。
ここで目覚めてからまだ十日しか経っていないというのに、更に言えば響と顔を合わせていた時間も、実はまだ一日にも満たない程だというのに、
それでも響について瑞鳳に語ったこと――響の危うさに気付いて、支えたいと思ったこと――に、告白した内容に嘘偽りはない。
包み隠さず言ってしまうと、キラにとって響という少女が、どうにも気になってしまう特別な存在であることは確かであったから。

(響、君は僕に出会って少し変わったって言われた。なら僕も、君に出会って少しは変われてるのかな。変われると、いいな・・・・・・)

経験も価値観も主義主張も何もかもが全然違うのに、どこか、君は僕に似ていると思えた。
キッカケはやはり、あの防衛戦における共闘。理なんか何一つない第六感的感覚で、彼女の本質に己の影を見た。彼はあの少女に、ある種の親近感、シンパシーを感じたのだ。
少女の助けになりたいと思うだけの理由。特別だと感じる理由。そもそも少女の危うさに気づけた理由の全てだ。
ならば、少女の助けになることに微塵の迷いも必要なく。とてもできるとは思えないが、もしできるのであれば、是非もないことだった。
何故なら。


この男もまた、己のことが嫌いで赦せない人間だから。


これまでの人生を振り返ってみて、自分を好きになれる要素は何一つもなく。
「自分は生まれてきてはいけなかったのだろうか」という想いはいつだって心の奥底にこびりついているくせに、他人からの弾劾には反論して、開き直り、済ました顔で意志を押し通して。

207ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:15:41.95ID:LSOcb/FJ0
変わっていく明日を生きる覚悟を、変わらず示し続ける為という建前を掲げて、圧倒的な力を振るって、貪欲に『生』を渇望して。
だというのに結局、自分自身だけでは何も為せず何も創れなかった無力な己の醜悪さを、理解しているから。
苦々しく思う。己が人生経験豊富で、観察力があって、気配りのできる素晴らしい人間だから、ほんの少し行動を共にしただけの少女の危うさに気付いたのだ――なんて、そんな理由であればどんなに良いだろうと。
こんな人間に似ているなんて思われるなんて、彼女にとっては迷惑というか、侮辱でしかないだろうと。

(それでもあえて僕らが似ているところを挙げるなら、それはきっと自分自身に対する、絶望感。そして誰かに何かを赦してもらいたいと願う、罪悪感。瑞鳳に語ったことは半ば、僕自身のことでもあるんだ・・・・・・)

シン・アスカと似ているようでまた異なる、諦観の念。強迫観念じみた、強くあらればならないという行動原理。
だからこそキラは、受け入れて――支えたいと思った。
自分のことが嫌いで赦せないけど、ぜんぜんこれっぽっちも上手くできる自信なんてないけど、こんな自分でもと。否、彼女の考えがわかってしまうからこそ。様々な人に支えられて今まで生きてこれた自分だから、
そのように己も、ここにいられる間は少しでも彼女の支えになれればと。
どうかしてるとは自覚している。いい歳になってこんな、思春期じみた感傷に浸って。似たようなコンプレックスを持ってると思い込んで、心を揺さぶられて。
でもそれが今のキラの原動力の一つだった。C.E.の人間としての目標と義務とはまた別で、一人の人間としてやりたいこととなっていた。
根本の理由がどうであれ、響について瑞鳳に語ったことに、告白した内容に嘘偽りはないのは事実なのだから。

「・・・・・・? なに、キラ。私の顔になにかついてるかい?」
「――あ・・・・・・いや、なんでもない。・・・・・・とりあえず帰るよ」
「そうか・・・・・・今日は楽しかったよ。もしよかったら、いつか暁にリベンジの機会を与えてやってほしいな」
「了解。僕も電とはちゃんと決着つけたいから、またいつかね」

人知れず、決意は固まる。

「うん。Спокойной ночи、良い夢を」
「君もね。おやすみ、明日からよろしく」

響からお裾分けだと貰ったカステラを手に、少女に見送られるカタチで仮設宿舎の廊下へと出て。はじめて互いに「おやすみ」を言い合い、軽く手を振り合って。
キラは懐かしい夜を背に、まだ一度も使ったことのない自室へと歩を進めたのだった。
やるべきこととやりたいこと、約束したことは沢山ある。それを成す為に。
彼が思い描いた未来図は、かつてないほどの輝きを放っていた。

208通常の名無しさんの3倍2018/03/06(火) 23:16:06.28ID:AkZpdmYq0
回避

209ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:17:19.70ID:LSOcb/FJ0
《第10話:抜錨、響・特装試作型改式》


夜が明けて、11月11日の正午頃。
長崎県西方沖の五島列島周辺海域にて。

「翔鶴さ〜んっ! でっかいお魚いっぱい釣れたっぽい! 褒めて褒めて〜♪」
「あらあら、これは大漁ねぇ。カマスかしら? すごいわ夕立」
「む、勝ち誇るにはまだ早いデース。Time limitまであと10分! 旗艦の意地を賭けて、ここから追い上げてみせるワ!!」

今朝まで嵐だったとは思えないほど清々しく晴れ渡った蒼穹に、穏やかに凪いだ大海原と、何処を向いても青一色の世界を白波蹴立てて進む一隻の通常艦艇があった。
ステルス性を重視した全長30mの船体に、自衛用小口径速射砲を申し訳程度に装備した佐世保鎮守府所属の小型高速哨戒艦だ。深海棲艦の駆逐イ級相手でも簡単に振り切ることのできる速力と装甲を備える、最新型である。
艦娘と深海棲艦の戦いが激化しても尚、従来型の船が活躍する場は多い。流石に純然な戦力として運用されることは無くなったが、漁船や物資輸送船の護衛や、近海警備に敵陣偵察といった裏方の任務は、
替えの効く従来型の船で賄うというのが近年の主流となっていた。
中には、囮を兼ねた遮蔽物として運用される無人装甲船などといった艦娘のサポートに特化した変わり種も存在し、この小型高速哨戒艦も含め各鎮守府には多種多様の通常艦艇が配備・運用されている。

「お、燃えてるなー金剛。だがここで摩耶様の追撃、50cm超のサバが三匹だ! これで我らが翔鶴チームの勝ちは揺るがなくなってしまったなぁ!?」
「摩耶も夕立も絶好調なのねぇ。なんか、申し訳ない気分かも。私、一応チームリーダーなのにあまり役立ってなくて」
「そうかぁ? ・・・・・・んだよ、けっこう釣れてんじゃねーか」
「釣果ゼロな金剛さんとは比べものにならないっぽい」
「そう? 自信持っていいのかしら」

さて。
シンプルな灰色に塗装された哨戒艦【はやて丸】は現在、45ノットの快速で南西――五島列島で最も広い面積を有する、福江島方面に向けて航行している。
その甲板上に、六人の少女はいた。
先の全体会議にて編成された新生第一艦隊一番隊、通称【金剛組】である。
金剛、翔鶴、龍驤、摩耶、夕立、時雨と、機動力と対応力に優れた実力者で構成された戦闘部隊で、四つの主力艦隊の中でも最大の戦果を期待されている佐世保の大黒柱。
鎮守府復活に伴って早速任務を請け負った彼女達は、燃料の節約と集中力の温存と迅速な戦力移送を兼ねて【はやて丸】に乗り込んで、福江島最南端にある前線基地を目指している最中だった。
艦が船に乗るというのも妙な話ではあるが、深海棲艦が空挺降下をやってのけやがったことを思い出せばまだ常識的な話だ。寧ろ艦娘達がバラバラに航行するよりかは、
こうして通常艦艇に乗って一纏めに移動したほうが遙かに効率的かつ経済的であることは考えるまでもないだろう。

210ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:19:00.35ID:LSOcb/FJ0
事態が落ち着くまで専守防衛に努めることと相成った佐世保は、艦娘による四つの主力艦隊と三つの支援艦隊、そして通常艦艇隊を三本の矢として連携させて近海の制海権を確保することに決定したのだから、
今後はこのように彼女達が船に乗り込むことも多くなっていく見込みだ。
ちなみに、再編された計七つの佐世保艦隊の内訳は、以下の通りになる。


――――――――――


第一艦隊(主力)        第二艦隊(主力)        第三艦隊(支援)
【金剛組】 【霧島組】     【榛名組】 【比叡組】     【球磨組】 【多摩組】 【阿賀野組】
・金剛   ・霧島       ・榛名   ・比叡       ・球磨   ・多摩   ・阿賀野
・翔鶴   ・瑞鶴       ・瑞鳳   ・祥鳳       ・能代   ・矢矧   ・酒匂
・龍驤   ・扶桑       ・鈴谷   ・熊野       ・海風   ・ 暁    ・春雨
・摩耶   ・鳥海       ・木曾   ・山城       ・山風   ・ 雷    ・伊13
・夕立   ・白露       ・ 響    ・五月雨      ・江風   ・ 電    ・伊14
・時雨   ・村雨       ・キラ   ・涼風


――――――――――


なるだけ戦力を均衡化して編成された主力艦隊は、これから復旧させる予定の前線基地を第二の拠点として活動することになる。
三日単位でのローテーションで鎮守府と基地とを往復し、哨戒活動をする支援艦隊と通常艦艇隊の要請に応じて防衛警戒エリアに現れた敵を迎撃するのだ。
故に、まずは第二の拠点たる前線基地を復旧させる必要がある。この基地は深海棲艦との戦争が始まった頃に建設されたものであり、敵の電波障害に対抗する為の物見櫓と艦娘用設備があるのだが、
現在は一連の騒動のせいで命綱たる有線通信が使えない状況に陥っているのである。
【金剛組】の任務とはつまり、基地復旧作業の護衛役だ。作業自体は相乗りしている工作隊と現地の業者が行うが、そこに深海棲艦の強襲がないとは限らないもので。明日になれば後続の【霧島組】と【阿賀野組】、
そして物資を満載した輸送船が多数現着し、先行した【金剛組】は佐世保に一時帰投することになっているが、それまでは海上で一日を過ごす予定だ。
明日に弟子との勝負を控えた夕立にとっては、少し酷な話かもしれないが。しかしそれを全く苦にせず明朗快活に活動できるのが、佐世保駆逐艦最強な夕立の夕立たる所以であったりもする。

「ぐぬぬ・・・・・・好き勝手言ってくれますネー。しかーし! 最後の最後までなにが起こるのかがわからないのがこの海釣り、気張りますヨ二人とも。勝利の栄光はワタシ達、金剛チームのものデース!!」
「せやせや、なんせウチらには幸運の女神、時雨がいるんや。きっと最後にドカンと一発かましてくれるでぇ」
「人任せにしないでくれるかな龍驤。ボクの力なんて些細なものだよ。みんなでコツコツとさ、頑張ろうよ」
「そー言うてもなー、こっちで順調なの時雨だけやん。ほら見てみ、ウチもちんまいのが数匹だけや。こりゃ奇跡でも起こらんとどーしょもない」

211ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:20:59.17ID:LSOcb/FJ0
「二人には失望したよ。今回はボク達の負けだね」
「諦めたらそこでGame Overデース!?」

ところで、自力で航行する必要がなくなった艦娘は、暇になる。
そこで【はやて丸】の甲板上に陣取った【金剛組】は警戒を厳としながらも、とりあえず釣りで目的地までの空き時間を潰しつつも結成されたばかりの艦隊の親交を深めることにした。
彼女らはそれぞれが歴戦の猛者ではあるが、同じ六人のグループとして戦った経験は殆どないのだ。
それが何故かいつの間にか艦隊を二分にした対抗戦へと発展してしまっているのだが、まぁどんな界隈でも実力者とはえてして負けず嫌いなもので、どんなことでもバトルにしてしまうのは必然なのかもしれない。
いっそ戦うことで互いを良く知ることもできるというものだ。
そんな時だった。

「――・・・・・・? ・・・・・・っ、これは?」

夕立と摩耶を従えて釣り竿を握っていた翔鶴は唐突に、らしくもなく戸惑いの声をあげた。
先んじて目的地周辺に飛ばしていた偵察機のキャノピーを通じて飛び込んでくるもう一つの視界、その遙か遠方に、妙なものを発見したのだ。
竿に魚の反応があったものの気にせず、彼女は瞳を閉じて意識をいっそう集中させる。自力で航行してなくても、遊んでいても、海上である以上はいつだって厳戒態勢であり、
Nジャマーによりレーダーが封じられたこの海域では、艦載機による索敵は文字通り命綱。その一翼を担っていた装甲空母級艦娘は、これは一体なんだと眉を顰める。
見定められない。こんなものは見たこともない。しかし。コレに関係あるかもしれない人物には、心当たりがある。

「これって、もしかして・・・・・・」
「! 翔鶴、どうしまシタ?」

少女の異変にまっさきに気付いた金剛がサっと顔色を一変させ、小走りで翔鶴に近寄ってきた。一瞬にして張り合う釣り人から、旗艦とその補佐役に切り替わった二人の表情は当然、戦闘モードの険しいものに。
翔鶴は己が見たものを報告すべく、言葉を紡ぐ。

「金剛・・・・・・とりあえず敵ではないわ。方位2-5-7、距離40の海上に謎の巨大構造物を発見。キラさんの世界・・・・・・C.E.に縁のあるものかも」
「明石が夢中になってる、宇宙(ソラ)からのGiftですネ?」
「おそらくは。少なくとも全長250mはある、変な船よ」
「船?」
「たぶん、だけれど。本当、変なデザインというか、設計思想そのものが地球のものじゃないみたいな・・・・・・?」
「ふむ・・・・・・」

現在位置から彼女達の目的地、福江島の前線基地までは南西に約15km。そこから更に西へ25km程といったところに、その巨大構造物――翔鶴曰く、変な船とやらがあるらしい。
金剛は顎に手を当てて数秒、思考を巡らせる。思い出すは防衛戦の顛末と、昨夜の全体会議の内容だ。

212ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:22:41.57ID:LSOcb/FJ0
九州近海の深海棲艦は駆逐できたものの、隕石が落ちた台湾近海には、巨人【Titan】を含め未だ多くの深海棲艦が蔓延っている。嵐の直前に強行偵察を決行したビスマルク隊によると、
彼の海には佐世保だけでは突破できない戦力がまだ残っているという。そしてキラ曰く【Titan】は、宇宙からの有難くない贈り物、C.E.の技術を取り込んで異形進化したものであると。
であれば。

「ワタシ達でどーこう出来そうデス?」
「難しいでしょうね。護るにしろ曳航するにしろ、調査するにしろ。援軍と専門家が必要になると思うわ」
「Photoは?」
「もう撮って、全速帰投中よ」
「Good Job。流石は翔鶴ですネ」

今のところ敵影はないものの、事態は急を要するかもしれない。
このまま哨戒船に乗って接近するのは危険と、一切の迷いもなく決断した金剛は、懐から紙とペンを取り出して何事かを素早く書き込む。それと同時に、翔鶴は備え付けの通信機で艦橋と連絡を取った。

<どうした翔鶴嬢ちゃん。敵か?>
「接敵する可能性、かなり高いです。【いぶき丸】は最寄りの港に入り、陸路にて基地の復旧をお願いします」
<別行動だな。わーった! 嬢ちゃん達も気ぃつけてな!>
「お心遣い、ありがとうございます」

【はやて丸】の艦長は、流石に軍用艦を任されているだけあって理解が早い。
短い通信を終えた翔鶴と、手紙をしたためた金剛は満足げに頷きあい、いつしか釣りを止めて集結していた龍驤、摩耶、夕立、時雨とも頷きあった。もう皆とっくに艤装を装着しており、各々に軽くストレッチすらしている。
和やかな雰囲気が嘘であったこのように、【金剛組】はものの数秒で戦闘態勢へ。
あとは、旗艦が号令をかけるだけだ。

「まったく、頼もしいばかりですネ」
「ですね」

これなら余程のことがなければ問題ない。
本来の任務を無事遂行する為にも、まずはこのアクシデントに対応しなければ。予定航路から外れ、件の構造物に接近する必要がある。
金剛は大きく息を吸い込んで、新生第一艦隊一番隊旗艦として初めての命令を下す。

「総員、コンディション・イエロー! 対空対潜警戒、厳に!!」
「了解!」

そして張り上げられた声に従って、少女達は皆一斉に【はやて丸】から飛び降りた。
その際。
投げ捨てられていた釣り竿にうっかり蹴躓いた夕立が、見事に腹から海にダイブしてしまったのは、愛嬌のようなものだった。

213ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:24:55.13ID:LSOcb/FJ0




【金剛組】がC.E.の船らしきモノを発見してから、約20分後。
その報は、伝書鳩よろしく報告書と写真を括り付けて飛来してきた、手のひらサイズの飛行機――摩耶の艦載機こと「瑞雲」によって未だ松葉杖を手放せない二階堂大河提督の下へ、
そして丁度彼と話し合いをしていたキラの下へと届いた。
実にアナログな連絡手段ではあるが、だからこそ昨今の長距離無線通信が使えない環境下では、これ以上ない信頼性を誇る常套手段となる。金剛が状況を簡潔に記した報告書と、翔鶴の偵察機が撮影・現像した写真は、
二人の男の顔を一瞬にして驚愕色に染め上げた。

「これは・・・・・・ナスカ級!? こんなものまで・・・・・・!」
「船、なのか? 君達の?」

深い青色の外装と、漢字の「山」のようなシルエットを持つ船体。旧ザフトの主力として運用された、モビルスーツ搭載型高速駆逐艦・ナスカ級。
地球上で使うことを想定していない宇宙専用艦艇であり、新地球統合政府が発足してからも未だ現役で運用され続けている艦種である。駆逐級だけあって生産性と速力に優れ、
その上にそこらの戦闘艦にも引けを取らない火力をも有するナスカ級は、C.E.において八面六臂の活躍で歴史に名を残した画期的な艦艇だった。
そんなものが、若干ピントのぼけた写真に写っていた。かつて幾度となくキラ達の行く手を遮った因縁のある船の一つが、この海に在った。
翔鶴の見立てはズバリ的中していたのだ。

「ええ・・・・・・こちらの世界で言うなら、宇宙用の航空駆逐艦みたいなものかな」
「航空? では艦載機が――そうか! モビルスーツを!」
「六機まで搭載可能なんです。それにナスカ級自体にもビーム砲やレールガンが・・・・・・いや、それ以前に装甲やスラスターだって、この世界にとっては・・・・・・」
「大変なことになる。これ以上、深海棲艦側に未知の技術を渡すことはできない」

それはつまり、翔鶴と金剛の予測も的中するということでもある。
誰にとっても想定外だった新たな火種、誰にとっても喉から手が出るほどの宝の山。台湾近海に巣くう深海棲艦は必ずや、奪取すべく行動するだろう。否、もしかしたらもう侵攻を開始しているかもしれない。
彼女らの意図を汲み取った二人はこれを早急に解決すべき事案と判断した。

「護衛しつつ、こちらの港まで曳航しなければならんな・・・・・・白露、【榛名組】と【多摩組】に緊急招集を。それから哨戒艦【いぶき丸】の手配を頼む」
「了解!」
「キラ君。済まないが君には――」
「みんなに同行して、内部に侵入してみます。もしかしたら生存者がいるかもしれないし、自力航行できるかもしれない」

214通常の名無しさんの3倍2018/03/06(火) 23:25:52.09ID:AkZpdmYq0
回避

215ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:26:45.94ID:LSOcb/FJ0
「――恩にきる」

そこからは怒濤の展開だった。二階堂提督と白露の指揮により、佐世保鎮守府は活動再開初日から早々に厳戒態勢を敷くことになった。
作戦目標はナスカ級の確保及び内部調査。もし曳航が不可能であればその場でできる限り解体・破壊し、パーツ全てを福江島の前線基地に収容する。
どんな些細な部品だろうと、海に放置してしまうと敵の潜水級が手に入れてしまう可能性が高い。よって適当に攻撃して沈没させる選択肢はない。
宇宙用だが奇跡的に海上に浮いている今を逃せば、もう佐世保側にできることは無くなる。猶予がわからない以上、時間との勝負になるのは必然だった。
【金剛組】の援軍として選定されたのは、本日を非番として鎮守府に待機していた第二艦隊一番隊【榛名組】と第三艦隊二番隊【多摩組】の二隊だ。可能であれば全戦力を挙げて臨みたいところだったが生憎、
他艦隊の任務を中断させて同一の海域に投入することは出来ない。佐世保はいつだって限界ギリギリなのだから。
束の間のオフを楽しんでいた【榛名組】と【多摩組】の面々は至急ブリーフィングルームに呼び出され、数分のミーティングを経てから慌ただしく戦闘準備を整えていく。
今朝からストライクの本格的な修理を開始して完全に非戦闘員となったキラとて例外ではなく、整備要員として明石と手分けして各々の艤装の最終チェックに奔走する。
燃料弾薬の補給、装備の更新、曳航に必要な機材の調達、この短時間でやるべきことは山ほどあった。
そこでふと、生粋のMSパイロットであった青年は「整備兵はいつもこんな気持ちだったのかな」となんとなく想像した。
想像して、きっと想像よりもずっと辛いんだろうなとも結論づける。
銃を取るばかりが戦いじゃない、力だけが自分の全てじゃないと信じていたいが、やはりもどかしいものだ。だが戦えない己に不安と疑問を抱く余地は、今はない。
ストライクで出れないキラの出番はこの時この瞬間が全てで、他にできることと言えば存在しやしない神様に祈るぐらいだ。


なんてことだろう。
前日まで描いていた未来図は全て、儚く砕け散ったのだ。


本当になんてタイミングだろうと思わずにはいられない。
元々こうなる可能性が高いことぐらいはわかっていた。寧ろ前提であった。一軍事基地が専守防衛に努めるということは、常々脅威と隣り合わせであるということ。本当の意味での安息日なんて無きに等しいのだと、
ここにいる全員が正しく認識している。
だが、だとしても。言っても詮方ないことだけれど。
せめてあと二、三日ぐらい平和であってくれてもよかったじゃないかと、誰もが思った。
特にキラにとっては。響と明日の師弟対決(対夕立戦)に備えた作戦会議を、瑞鳳と日本語学の勉強とこれからの活動方針について話し合う約束を結んでいた青年にとっては、
この出撃がなにか良くないことの前触れではないかと感じてならなかった。

216ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:29:59.77ID:LSOcb/FJ0
「しっかし、非番ってのはこういうもんだと解っちゃいるが、いきなり緊急出撃とはな。我らが第二艦隊のリーダー殿の気苦労は絶えないな?」
「もう、からかわないでください木曾。榛名は大丈夫です! それに鈴谷が加わってくれたおかげで多少なりとも戦力バランスは改善したのですから、何があろうとも確実に対処してみせます!」
「おおぅ、なんか鈴谷ってば頼りにされちゃってる? こりゃー張り切らないとだねぇ」

でも、だからって。辛気臭くイヤイヤ出撃する者はいなかった。
木曾が不敵に笑い、榛名が奮起し、鈴谷がおどけた。先の防衛戦の暫定第二艦隊にムードメーカーの最上型航空巡洋艦三番艦の鈴谷を加えた、四つの主力艦隊の一角たる【榛名組】のメンバーは、
こんな状況下でも明るい雰囲気を保っていた。
キラが正式に所属することになった艦隊の構成員である彼女達は、武装を換装しながらいつもと変わりないテンションで会話を交わす。

「その通りだ鈴谷。比較的に近接機動戦に特化してるのがオレ達の特徴だからな、実際オールラウンダーのお前の働きはかなり重要になってくる。むしろ中核を担う存在と言ってもいいだろう」
「頼りにしてますよ、鈴谷」
「・・・・・・ヤバい、口調は穏やかなのにすっごいプレッシャーを感じる!? 助けて熊野!!」
「鈴谷」
「え、なにさ瑞鳳・・・・・・、・・・・・・なにその静かな笑顔めっちゃ怖いんですけどなになに言いたいことあるならハッキリ言って頂戴!?」
「勿論ストライクはまだ修理中だから、キラさんの分まで頑張って?」
「ノーーーーゥ!? やだ期待が重すぎる!! 助けてぇーー熊野ぉーー!!!!」

若干、新人いびりの様相を呈していたが。
隕石が落ちてくるまでは旧第一艦隊の一員として一線を張り、金剛を庇って呉送りとなったという歴戦の猛者の鈴谷だが、その持ち前の軽いノリも相俟って弄られ役になることが多いらしい。
迫真の絶叫でただならぬ仲であると噂の熊野に助けを求める姿はなるほど、弄りたく気持ちも分からなくはない。
しまいには【多摩組】まで巻き込んだ漫才まで始まって、ボケにツッコミに大立ち回りするブレザー少女のリアクション芸に思わず笑みをこぼしてしまう。
まったく、この少女達は本当に強い。淀んでいた心がスカッとするようだ。

「・・・・・・よし。鈴谷さん、こんなんでどうかな?」
「んー、良い感じじゃん! これでバリバリ働けちゃうねぇ」
「良かった。・・・・・・次は――」
「キラー! ちょっとこっち手伝って! 響でラストだから!」
「――わかりました!」

そうこうしている内に、瑞鳳に続いて鈴谷を整備し終えたキラは、最後の仕上げとして響の艤装の調整に取りかかる。
視界にふわりと蒼銀色が舞う。それだけで何故か、不思議と、心の何処かが落ち着く思いがした。

「艤装、ぶっつけ本番になっちゃったね。大丈夫?」

217通常の名無しさんの3倍2018/03/06(火) 23:35:54.58ID:AkZpdmYq0
回避

218ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:37:36.13ID:LSOcb/FJ0
「Нет проблем。あなたと先生が組んでくれたんだ、やれるさ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど・・・・・・、・・・・・・いやわかった。僕も僕で頑張るからさ、新しい君の力、存分に見せて」
「ふっ、やっぱりあなたは私のやる気を引き出してくれるね」
「おうおう二人だけで盛り上がってんじゃないですよーこんちくしょうめ。ほら、装備更新するよ響」

響の艤装はストライクの複製パーツを取り込んだ試作型だ。
昨日の整備で実戦投入可能ではあったが、ぶっつけ本番となると話は別。整備士の二人は改めて、手分けして試作一号機の艤装を入念にチェックする。
本来であれば明日の師弟対決に向けて――こうなった以上、実現するかも怪しくなってしまったが――午後から試験運転をする予定だったが、それももはや叶わない。
また響本人も、ペイロードの拡張に伴って大胆に構成を変更された装備に慣れていく必要がある。防衛戦当時はあり合わせの旧式兵器で武装していたが、今回は明石謹製の試作装備で出撃することになっているのである。
よって作戦海域に着くまでに繰り返し諸々を微調整しなければならないだろう。故に、今回の出撃には明石先生も同行することになっていた。
当の明石は、徹夜明けなのかひどい顔をしていたが、なんだか元気そうに倉庫の奥から引っ張り出してきた武装を次々取り付けていく。

「お、それが噂の新装備か・・・・・・、・・・・・・なんかストライクに似てるな?」

興味を惹かれてやってきた木曾が、出し抜けにそう言った。
確かにと、キラも装いを新たにした少女の姿を見やった。

「・・・・・・そんなにジロジロ見ないでくれるかな。流石に恥ずかしいよ・・・・・・」

若干頬を赤らめる少女だが、気にせず二人は嘗め回すように全身に視線を注いだ。

219通常の名無しさんの3倍2018/03/06(火) 23:38:02.72ID:AXrBV/4H0
C

220ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:39:32.86ID:LSOcb/FJ0
というのも、今の響の格好はどこか戦闘モードのキラに似ているように見えるのだ。


まず右手。これが一番目立つのだが、いつもはフリーとなっているその小さな手のひらにはゴツい大型ライフルが握りこまれていた。意匠としてはスナイパーライフルに近いもので、艦娘の携帯武装としてはかなり異質だ。
次に左腕。これもまた目立つ。特三型駆逐艦に標準搭載されている防盾の代わりに、より大きなゴツいシールドを装着しており、戦艦の砲撃だって防ぎそうな威圧感を醸し出している。
極めつけには両肩に小口径二連装機銃を一基ずつ搭載していて、確かにその装備構成はストライクのものにそっくりだ。というか、ほぼそのままモデルにしたものと思われる。
ちなみに響のトレードマークたる大型錨は後腰に懸架されており、他にも61cm三連装酸素魚雷発射管を両腰に一基ずつ装備してる。逆に言うと、そこしか以前の面影は残っていなかった。

「キラ、お前の趣味か?」
「光源氏計画・・・・・・」
「自分色に染め上げようと!? やっぱりキラさん、あなたって・・・・・・!」
「いやいやいや。僕関与してないから。趣味違うから」

木曾がジト目で呟き、榛名がどん引きし、瑞鳳が目を輝かせた。
いつの間にか【榛名組】は全員集合していた。そんでもって揃いも揃って、この場でたった一人の男性に何か言いたげな視線を送っていた。原因はどう考えても、響の新装備だった。
明石謹製の試作装備である。なのに、これは一体どういうことだろう。キラは仲間から早速ロリコンのレッテルを貼られようとしていた。彼の好みはお姫様タイプだというのに、ひどい冤罪もあったものだ。
尤も、慌てる青年以外は「やっぱりか、やっぱりなぁ」という心持ちなので、今更どんなことを言っても流されてしまうのだが。こういう時の男の立場というものは頗る低い。

「キラっち」
「鈴谷さん・・・・・・その突き出された手はなんだろう?」
「なんかさ、おんなじ匂いがするって思ってたんだよね・・・・・・へへ」
「ねぇ僕もうこういう扱い決定なの?」

哀れ、思わぬカタチで彼女らのテンションに引っ張り込まれたキラだった。

「いやー、我ながら良い仕事したー。これぞストライクをヒントに徹夜で作り上げた自信作、どうどうカッコイイでしょ?」

そんな将来の弟子の苦境を知ってか知らずか、実に良い笑顔で額を拭った【先生】(マッドサイエンティスト)こと明石。これは確信犯なのだろうか。

「どうって・・・・・・そりゃカッコイイとは思いますけど」
「でしょー! 響のスペックにものを言わせた専用装備の数々! もう概要からしてカッコイイでしょ!?」
「明石さん、とりあえず移動中は寝てくださいね? 調整は僕一人でやりますから」

221ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:41:29.17ID:LSOcb/FJ0
「まずはこれ、作っちゃいました試製ライフル型13.5cm単装砲! これは凄いよ〜? 駆逐艦娘用でありながら軽巡用中口径砲並の火力と射程を実現したのです! 仰角皆無な単装砲と侮るなかれ、
シンプルな構造故に取り回しに優れてて近接格闘戦でこそ真価を発揮する、まさしく今の響にピッタリな装備なのだ!!」

徹夜のハイテンションがなせる業か、明石はキラの苦言を華麗にスルーして突然、マシンガンの如く武装説明をおっぱじめる。
後に聞いたことだが、彼女にはこういう悪癖というか性癖があるらしい。さもありなん。己の得意分野となると饒舌になってテンションうなぎ登りになるのが技術者というものだ。
それだけ、明石にとって今の響は魅力的ということだろうか。キラも最初こそ呆気にとられたものの、今の明石の気持ちは痛いほどよく分かってしまった。自分もソフトウェア分野だったらああなるのだから。
そして響も割とノリノリで、しっかり合いの手を入れていき、次第に明石の独壇場は三人による新装備講義になっていった。

「ライフル型だから、狙いもつけやすいね」
「まぁぶっちゃけ状況によっちゃ、いや普通の艦娘にとっちゃ12.7cm連装砲C型改二とかD型のほうが便利で優秀なんだけどね。でも響? スナイパーライフルをショットガンのように、しかも片手で扱うってロマンじゃん?」
「Хорошо、実に革命的で野心的じゃないか。これで無敵だな」
「無敵! YES! その言葉を待っていた!!」

すっかり蚊帳の外になって「うん、三人が楽しそうならいいや」と思う他一同である。ただ実際のところ仲間のスペックというのはとても大事な要素なので、皆も真面目に聴くしかなかった。
そして数分後。

「みんな、船の準備ができたよ!! 乗って乗って!!」

工廠に現れた白露の一言で、場の空気はガラリと変わった。
皆の背筋が一様にしてシャンと伸びる。

222ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:43:09.15ID:LSOcb/FJ0
いよいよ出撃である。


これから【榛名組】と【多摩組】の面々は、高速哨戒船【いぶき丸】に乗り込んで問題の海域へと向かう。そこで【金剛組】と合流し、ナスカ級に接触するのだ。きっとこれも、大変な任務になるだろう。
怖じ気づいてはいられない。これからの未来をつかみ取る為に、成すべきを成す。
戦えない青年は祈った。
願わくはこの新しい力が、響自身が納得するだけの、一区切りとなる力でありますように。
願わくは誰一人として傷つかず、みんな無事でこの温かいセカイに帰ってこれますように。
だからこそ自ら一歩踏み出して、助けになると決めた少女に手を差し出した。

「いこう、響」
「うん、やってやるさ」

あまりに短い会話を交わして、乗船する。
いざ、未来図から外れた道へ。
その想いが通じたのか、響は鼓舞するようにポツリと呟いた。それは鈴のような、透明感のある幼い声で。

「不死鳥の名は伊達じゃない。響・特装試作型改式、抜錨する」

新しい己を再定義するような、力強い宣言だった。

223ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/03/06(火) 23:47:06.51ID:LSOcb/FJ0
以上です。もうやだ会社やめゆぅ・・・・・・

次回からようやく戦闘パートに移ります。頑張りますいろいろと

224通常の名無しさんの3倍2018/03/09(金) 23:43:23.11ID:sjxEYP7r0
投下乙です!
ストライク風艦娘とはこれいかに

年度末、どこも仕事忙しいですね。お体をお大事に・・・

225通常の名無しさんの3倍2018/03/10(土) 12:32:49.54ID:XYwGy+9c0
ナスカ級の奪還攻防戦、いいシナリオですね、燃えます。
深海側の動きが気になるところ、ナスカ級の生存者も。作者さんの体調も。

お大事に。

226通常の名無しさんの3倍2018/03/12(月) 17:43:14.88ID:9Wi7X1nD0
僕の知り合いの知り合いができた副業情報ドットコム
役に立つかもしれません
グーグル検索『金持ちになりたい 鎌野介メソッド』

8V17E

227通常の名無しさんの3倍2018/03/12(月) 18:53:08.96ID:VyAqVC320
某動画サイトだと一時期ストライク響とかフリーダム響とかが流行ってたな
まさかそのうちフリーダム響に進化するのかな

228通常の名無しさんの3倍2018/04/25(水) 02:52:39.06ID:mmArQEwD0
彰悟さんの皇女の戦い、拝読させていただきました。
機体やファイティングスーツの色設定、スーツ装着シーンまであることに驚かされました。
個人的には、装着に慣れていく過程とか、最初の時の装着シーンとか見てみたいですね。
話の構成、戦闘描写だけではなく、こういう所にも手を抜かない姿勢は素晴らしいと思います。
続きを期待しています。

229通常の名無しさんの3倍2018/04/29(日) 07:35:14.15ID:1iRIvEL70
待ってますよー

230彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2018/05/01(火) 21:11:57.62ID:FbFskWd90
どうも、お久しぶりです。
去年末からずっと書けなくて本当にごめんなさい。

>>228
励みになるお言葉ありがとうございます。
スーツ着るシーンはちょっと書くのハズかったんですが、そこまで言ってもらえて本当に光栄ですw


そういえば、自分の話はマリナがある程度ファイトに慣れた時点でのスタートだったので
最初にガンダムに乗ったり、ファイティングスーツ纏った時の描写はしなかったんですよねw

......そして今日はもう一つ、実は皆さんにリライトのご相談をしに来ました。
話が終わってないのにわがままなことを言ってごめんなさい。
ですが皆さんのご意見をお聞きして書き直すか、このまま続けるか決めたいと思ってました。

確かに俺が書くのは不定期だったりで色々モヤっとさせてしまうこともあったかと思います...
本当に申し訳ないです。

ですが、序盤でのエピソードがやや簡単で急ぎ足だったかなと思い始めたのと
GF大会前の修行シーンやサバイバルイレブンでの話を最初に描きたいと考えてました。

「続きから書いて」「最初から書いてもいいぜ」etc...、色んなご意見を聞きたいのでよろしくお願いします。

231通常の名無しさんの3倍2018/05/02(水) 00:50:53.95ID:HqhFJ6tM0
>>230
>>228でコメントさせて頂いた者です。
丁寧に応えて下さり、コメントした此方側としても嬉しく思います。

皆さんにリライトのご相談をしに来ましたとあったので
内容を読ませていただいた上でのご意見ですが
私は、彰悟さんの書きたいように書いてみたら...と思います。
ただ、個人的の欲深き話ながら、どんな路線であっても
スーツ装着シーンの描写は続けて欲しいと思います。
あくまで一つのご意見として捉えていただけたら幸いです。

232彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2018/05/02(水) 11:08:31.29ID:cwcfCF2A0
すいません、言葉足らずでした。
自分が書いた相談と言うのは、リライトしても良いですかという意味でしたが
、ストーリーやキャラに関するアイディアも募ってるのかな?と受け取られる書き方にもなってしまいますよね。
気を付けます。

>>231
励ましの言葉、本当にありがとうございます。
こちらこそこれはお約束かな?と思って書いたシーンを好きになって頂けてとても嬉しいです。
リライトかこのまま続行、いずれにしても貴方の期待に応えられるよう装着シーンも頑張っていきますので。

233通常の名無しさんの3倍2018/05/02(水) 14:11:17.13ID:djQCpeLg0
続きをまず書いてくれても、書きなおしたい所を書きなおしてまとめに両方 or 納得のいく方を残してくれても
どちらでも読者としては面白い

元々の弱気に時々強さをのぞかせながら国の為に健気に戦ってる姫様が好きです

234彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2018/05/03(木) 19:59:38.27ID:IBaqnBNu0
>>233
寛大なお気持ちに感謝です。

俺も大人しかったり弱気なキャラが懸命に行動してるのが書きたかったので、そう言って頂いて光栄に思います。

そうですね...
自分としては今までのものは止めて、リライトしたものをそのまま続行したいと思ってましたがそれでも問題ないでしょうか?

235通常の名無しさんの3倍2018/05/03(木) 20:10:36.03ID:nP58+g1r0
>>234
楽しみにしています。

2362332018/05/03(木) 20:52:23.36ID:KXUf6u520
>>234
どんな形でも全然無問題

仕事やらなんやら色々あるだろうけど気長にまってるよ

237彰悟 ◆9uHsbl4eHU 2018/05/04(金) 12:36:57.72ID:hXEs/FGJ0
>>233>>235
自分のわがまま受け入れて頂いて本当にありがとうございます!

間隔ができそうですが楽しんで頂けるように頑張りますので。

それではまた。

238通常の名無しさんの3倍2018/05/06(日) 00:40:56.40ID:vvqWYSLu0
>>237
間隔ができてもお待ちしています。
頑張ってください。

239ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:06:23.30ID:1f5lNSAo0
お久しぶりです。
お待たせしました。彰悟氏の熱意に負けぬよう、自分も投下します

240ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:08:19.94ID:1f5lNSAo0
――艦これSEED 響応の星海――


夕立が疾る。
空母級の艦載機が唸りを上げ、戦艦級の主砲が火を噴き、軽巡級と駆逐級の魚雷が交錯し、硝煙と爆炎で焦げた大気を切り裂いた。金色の髪と真っ白なマフラーとが尾を引いて、一陣の風となる。

「――」

異様なほどの前傾姿勢で。時には手刀を海面に突き込んで、鋭角に複雑に機動する。
空恐ろしいほどの速さで。時には至近に迫る魚雷を射貫き、その爆圧すら利用して。
数多の深海棲艦による一斉射も、まるで弾丸自体が自発的に少女を避けていくかのよう。それが当然だとばかりに、白露型駆逐艦四番艦改二式の夕立はほんの掠り傷すら負わず、
二つ名の【狂犬】の如く敵陣ド真ん中へと切り込んだ。

「――・・・・・・さぁ」

切り込んで、更に深く。
踏み込んで、更に速く。
負の情念が凝り固まったかのような存在であるところの深海棲艦すら戦慄させ、畏怖させるほどの、ちっぽけな駆逐艦らしからぬ『威』を振りまいて疾る。
そして。
独特の語尾が特徴的で、平時は結構なドジッ娘な、まだまだあどけなさの残る少女は。
響の師匠でもある、佐世保第一艦隊一番隊の切り込み隊長たる【ソロモンの悪夢】は。
ゾッとするような妖艶で凄絶な笑みを『圧』として、ひどく平然に死を宣告した。

「最高に素敵なパーティー、しましょ?」

太陽が西に傾きつつある15時の福江島南方沖であった。
再びの大気圏内用大型輸送機・ヴァルファウによる空挺降下により、異界の宇宙船・ナスカ級周辺にまんまと展開されてしまった深海棲艦群の内、前衛として立ちふさがっていた
敵水上打撃部隊――戦艦タ級と空母ヲ級を中心に構成された計20隻の高火力艦隊――と、これを突破すべく攻撃を仕掛けた【金剛組】との戦闘が始まってから、既に約2時間が経過していた。
繰り出された敵航空戦力による爆撃と、水平線越しの長距離砲撃に足止めされつつも粘り強く、金剛の指揮によってジリジリと距離を詰めていった2時間の末、今この時になって漸く状況は近接機動戦へと推移したのだ。
そこは駆逐艦の距離。満を持して放つは一点突破の布石。

241ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:10:12.40ID:1f5lNSAo0
翔鶴と龍驤は、制空権の取り合いに全力を尽くしている。
時雨と摩耶は、護衛として艦隊の対空防御に徹している。


今こそ全力でやってこいと、金剛に送り出された夕立の独壇場と成るのは必然。
普段は護身にしか用いない、弟子にも最後の手段と教えていた戦技を解放する。


一息で、誰の予測も想像も超えて少女は、敵陣奥深くにて艦載機のコントロールに専念していた空母ヲ級の眼前に踊り出ては無造作に魚雷を投擲した。

「まず一隻」

続けてスライディング。燃えさかるヲ級の背後に回り込み、敵艦の集中砲火をやり過ごした夕立は直ぐさまトップスピードへ。着弾の衝撃で荒れ狂う海上をスラロームするようにいなして、否、
むしろ加速に掩体にとフル活用して、異様な前傾姿勢のまま戦艦タ級に急迫。
かと思えば、高波の傾斜を利用して勢いよく跳躍。
同時に真北から砲撃音。程なく、水平射撃された計8発の一式徹甲弾が多数の深海棲艦を捉え、その内1発は軽空母ヌ級を貫通して更に駆逐ハ級2隻を海の藻屑とした。
金剛の必殺フルバースト(一斉精密狙撃)が見事に炸裂した瞬間だ。
これには、辛くも徹甲弾を回避した流石のタ級も動揺する。動揺すれば隙が出る。隙を見逃す道理はない。

「二つ」

フルバーストを避けつつ空中での砲撃にて駆逐イ級後期型を仕留めた【狂犬】は、クルリと一回転してタ級の両肩へと『着地』する。

「三つ・・・・・・にはならないっぽい?」

可愛らしく小首を傾げながらも、とりあえず無防備な頭部めがけて主砲の50口径12.7cm連装砲D型改二を連射。
通常、駆逐級の主砲如きでは戦艦級の装甲は抜けない。でなければ、戦艦の存在意義がない。であるから、頓着する必要はない。再び轟いた砲撃音を合図に再度跳躍した夕立は、
金剛の狙撃をまともに喰らったタ級を無視して、弾丸のように次の獲物に飛び掛かった。
背後からの機銃掃射すらノールックで躱し、縦横無尽に戦場をかき回す駆逐艦娘に、深海棲艦はもはや標準を定めることすらままならない。オカルトじみた完全回避能力。
まるで、世界が夕立の為だけにあるかのような光景だった。
やりたい放題とは正にこのこと。
極めて自然に、敵が予測も想像もしなかった未来にスルリと入り込めてしまうのだから、先んじて敵のやりたい事の悉くを潰して潰して潰しまくれてしまうのだから、結果彼女だけが好き勝手振舞えるというのも、
極めて自然なことである。かの壮絶を極めた第三次ソロモン海戦の夜のように、彼女はつかみ所のない風となる。

242ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:12:42.34ID:1f5lNSAo0
カリカリにチューンしてあるとはいえ基本スペックだけを見れば特筆すべき点はない、駆逐艦娘としては実にオーソドックスな夕立が最強と謳われる所以だった。その『威』と『圧』は益々強くなる!

「これで、五つ!」

手刀を舵代わりに直角ターンしつつ、右大腿部に備えた61cm四連装酸素魚雷発射管から、安全装置を解除した一発の魚雷を射出。それを掴むが速いか、全速後退中のヲ級の土手っ腹に突き刺した。
爆発。これまでの砲撃戦も含めれば、これで敵艦隊の空母級の過半数を撃沈したことになる。
拮抗していた航空戦に、明確な変化が生じていた。

「ひとまず、お役目は果たせたっぽい?」

状況は遂に掃討戦へ。
制空権を確保した方が勝つ。直上の空から、たった二人で敵航空部隊を制しつつある翔鶴達の艦載機、その勇ましい唸りが聞こえてきた。
これに呼応して打ち合わせ通り、時雨と摩耶も攻勢に加わって【金剛組】は夕立に続いて突撃を敢行。総崩れとなった敵艦隊は、その半数以下の戦力で、しかも殆ど無傷で呆気なく殲滅された。
有象無象のイロハ級の艦隊では、一鎮守府の主力である彼女ら【金剛組】を止めることなどできやしないのだ。
しかし彼女らは勝利を喜ぶこともなくそのまま、全速力でナスカ級へと向かう。
今し方撃破したのは所詮、敵の前衛なのだ。本番はここからで、現在ナスカ級は敵の潜水艦・重巡混成部隊に曳航されている真っ最中なのである。これを阻止できなければ、一時の勝利などなんの意味も無い。
急ぐ必要があった。
敵の増援が接近しつつある。


南東からは、南洋諸島海域から馳せ参じた【軽巡棲姫】率いる高機動水雷戦隊が。
南西からは、超弩級重雷装航空巡洋戦艦レ級と多数の空母級を擁した大規模空母機動部隊が。
にわか仕込みの戦力ではない、殲滅を絶対とした増援が。当初の予測通りに、しかし想定以上の質と数で。


金剛達は知る由もない。
ナスカ級の存在が、深海棲艦達にとっても予期せぬものであったことを。その存在が、彼女達を恐慌させ、暫く戦準備に専念しようという方針をひっくり返してでも確保せんと突き動かす程の、衝撃であったことを。
故に動くは精鋭、狙うは短期決着。それを、この増援は如実に物語っていた。

「うへぇ〜、あんなに沢山・・・・・・流石にちょっと骨が折れるっぽい〜」

思わずぼやいてしまう。艦娘の戦場の常ではあるが、どんなに倒しても無限湧きする敵との数の差は覆しようがない。
その上【姫】とレ級まで出張ってきたとなると、正直これ以上の戦闘続行は危険だ。尤も、オーダーさえあれば気合いと根性を見せる気概はあるが。
すると、合流した白露型駆逐艦二番艦改二式の時雨が、げんなりしながら航行する夕立に言った。

243ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:15:05.94ID:1f5lNSAo0
「でもこっちの援軍も間に合ってくれたようだよ。やってやれないことはないさ」
「時雨おねーちゃん」
「お疲れ夕立、相変わらずの大暴れっぷりだったね。流石はボクらの妹、響のお師匠様だ」
「むぅ〜、だから師匠呼ばわりはやめてっていつも言ってるっぽい。・・・・・・、・・・・・・援軍って、もしかして?」
「ご明察。君のかわいいお弟子さんもいるよ・・・・・・ってごめんごめん、ちょっとからかい過ぎたね」

【いぶき丸】。佐世保からの援軍、十の艦娘に護衛され進撃する一隻の通常艦艇が北東より、この戦闘海域に突入してきたのだと。
まだ諦めるには早く、挑戦を続けるだけのカードはあるのだと。時雨は落ち着き払ったトーンで続ける。

「そうそう、金剛から伝言。夕立は響と一緒に、水雷戦隊を押さえてくれって。ボクらはまず曳航隊を引き剥がしにかかるから、また別行動。踏ん張りどころだよ」
「りょーかい。そーいうことなら、夕立ももっともっと頑張らなきゃ」

二人はコツンと拳を突き合わせて、別れた。時雨はナスカ級へ、夕立は南東の水雷戦隊に向かって、それぞれの成すべきを成す為に進む。
そしてほぼ同時に、戦闘態勢を整えた【榛名組】から一人、南東に向かって先行する影。見慣れぬ大型のライフルとシールドを引っさげて疾走する、特三型駆逐艦二番艦特装試作型改式の響。
図らずも張られようとしている師弟の共同戦線に、夕立は再び凄絶な笑みを浮かべた。
どんなに不利な戦局でも、二人なら覆せる。その確信の発露だった。

244通常の名無しさんの3倍2018/05/23(水) 22:15:28.52ID:AbQ+BG7S0
回避

245ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:16:36.92ID:1f5lNSAo0
《第11話:ナスカ級争奪戦》



「金剛からの発光信号を確認!」
「これは――ッ、・・・・・・旗艦榛名より全艦に通達! 瑞鳳と鈴谷は直ちに航空隊を発艦、【金剛組】に航空支援。 【多摩組】は進路そのまま、お姉様達と合流して曳航隊排除を最優先に。【いぶき丸】は北方に一時退避を!!」

木曾が叫ぶように報告し、榛名が矢継ぎ早に指示を出し、

「お任せにゃー。【多摩組】複縦陣、最大戦速、対艦対潜戦闘よーいにゃ」
「翔鶴さん達のサポートね。よぅし、烈風改、発艦します!」
「んじゃまぁ一丁、鈴谷のカッコイイとこ見せてやりますかねぇ! 強風改、いっけぇー!!」

多摩がマイペースに応じ、瑞鳳と鈴谷が艦載機を放ち、キラと明石を乗せたままの【いぶき丸】が北へと舵を切る。
疾風怒濤。
おっとり刀で駆けつけた面々は素早く状況を把握し、整然とした作戦行動を開始する。目標は渦中にある【金剛組】のフォローだ。
艦隊護衛を得意とする多摩達と別れ、榛名達はT字戦で敵水雷戦隊の頭を抑えるよう進路を南西へと向ける。

「榛名達は先に、南の水雷戦隊を潰します。単縦陣、取舵20、第五戦速! 木曾、方位2-2-5に三集四散々布帯で先制雷撃開始。・・・・・・響さん、先行を許可します。夕立さんと合流して【軽巡棲姫】の足止めを第一に」
「装填完了――仕掛けるぞ。おい響、わかってるな? 無理だけはするなよ」
「わかってる。私だっていつまでも独りよがりしてられないさ。相手が相手だし、程々にやってみるよ」
「響ー! 頑張ってねぇー!」
「うん。任せて瑞鳳」

そして響が、扇状に射出された12発の魚雷を追走するようにして、単身艦隊から飛び出した。
キラが微調整してくれた試作艤装の機嫌は良好。段階的に出力を引き上げながら、少女は敵艦隊がいるという水平線の先を睨み付ける。

(さて・・・・・・【姫】相手に駆逐級二隻で足止めなんて、本来分が悪いなんてもんじゃないけど・・・・・・Было бы неплохо。師匠との共闘ならできると思えるところが恐ろしいな)

金剛と榛名は絶対に、できないと思ったことはやらないしやらせないと、響は信頼している。つまりこの作戦を採ったということは、
自分達師弟の力量を彼女らも信頼してくれているということだが、流石にこれまでの戦闘とは毛色の異なる任務内容だ。身の引き締まる思いになる。
足の速い艦を先行させて敵を攪乱し、長距離攻撃で一気に殲滅する佐世保艦隊十八番の機動戦術。だが、それが最も有効な状況であるとも解っているが、今回ばかりはこれまでのような有象無象の雑兵相手とはわけが違う。
仮に。もし仮に、今までのように激情に駆られて暴走してしまえば。

246ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:18:19.33ID:1f5lNSAo0
《第11話:ナスカ級争奪戦》



「金剛からの発光信号を確認!」
「これは――ッ、・・・・・・旗艦榛名より全艦に通達! 瑞鳳と鈴谷は直ちに航空隊を発艦、【金剛組】に航空支援。 【多摩組】は進路そのまま、お姉様達と合流して曳航隊排除を最優先に。【いぶき丸】は北方に一時退避を!!」

木曾が叫ぶように報告し、榛名が矢継ぎ早に指示を出し、

「お任せにゃー。【多摩組】複縦陣、最大戦速、対艦対潜戦闘よーいにゃ」
「翔鶴さん達のサポートね。よぅし、烈風改、発艦します!」
「んじゃまぁ一丁、鈴谷のカッコイイとこ見せてやりますかねぇ! 強風改、いっけぇー!!」

多摩がマイペースに応じ、瑞鳳と鈴谷が艦載機を放ち、キラと明石を乗せたままの【いぶき丸】が北へと舵を切る。
疾風怒濤。
おっとり刀で駆けつけた面々は素早く状況を把握し、整然とした作戦行動を開始する。目標は渦中にある【金剛組】のフォローだ。
艦隊護衛を得意とする多摩達と別れ、榛名達はT字戦で敵水雷戦隊の頭を抑えるよう進路を南西へと向ける。

「榛名達は先に、南の水雷戦隊を潰します。単縦陣、取舵20、第五戦速! 木曾、方位2-2-5に三集四散々布帯で先制雷撃開始。・・・・・・響さん、先行を許可します。夕立さんと合流して【軽巡棲姫】の足止めを第一に」
「装填完了――仕掛けるぞ。おい響、わかってるな? 無理だけはするなよ」
「わかってる。私だっていつまでも独りよがりしてられないさ。相手が相手だし、程々にやってみるよ」
「響ー! 頑張ってねぇー!」
「うん。任せて瑞鳳」

そして響が、扇状に射出された12発の魚雷を追走するようにして、単身艦隊から飛び出した。
キラが微調整してくれた試作艤装の機嫌は良好。段階的に出力を引き上げながら、少女は敵艦隊がいるという水平線の先を睨み付ける。

(さて・・・・・・【姫】相手に駆逐級二隻で足止めなんて、本来分が悪いなんてもんじゃないけど・・・・・・Было бы неплохо。師匠との共闘ならできると思えるところが恐ろしいな)

金剛と榛名は絶対に、できないと思ったことはやらないしやらせないと、響は信頼している。つまりこの作戦を採ったということは、
自分達師弟の力量を彼女らも信頼してくれているということだが、流石にこれまでの戦闘とは毛色の異なる任務内容だ。身の引き締まる思いになる。
足の速い艦を先行させて敵を攪乱し、長距離攻撃で一気に殲滅する佐世保艦隊十八番の機動戦術。だが、それが最も有効な状況であるとも解っているが、今回ばかりはこれまでのような有象無象の雑兵相手とはわけが違う。
仮に。もし仮に、今までのように激情に駆られて暴走してしまえば。

247通常の名無しさんの3倍2018/05/23(水) 22:21:22.82ID:AbQ+BG7S0
回避

248ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:21:54.02ID:1f5lNSAo0
(そうなったら確実に死ぬな。でも、なんでだろうね。そうならないって確信があるんだ)

前に木曾に言われた言葉が、脳裏に蘇った。
今更になってその言葉の意味を理解できた気がする。なるほど、であればどこまでも冷静に冷徹に、ただ任務遂行だけを意識するだけでいいと吹っ切れた。
それに、でなければ全てが、文字通り全てが台無しになってしまうことも事実。些細なミスの一つが命取りになる世界に飛び込む以上、余分な感情は不要だ。
それだけの敵を、今から二人だけで相手取らなければならない。こんなところにまで出張してこなくてもいいのに。


コードネーム【軽巡棲姫】。


かつて幾度ともなく、軍令部の元に編成された連合艦隊に甚大な被害を与えてきた、あんまりにも安直でそのまんまなネーミングの軽巡級の【姫】。
ソロモン海に巣食う、舞鶴鎮守府所属の軽巡艦娘の神通に酷似した仮面の美女。
【姫】や【鬼】と称される深海棲艦は、世界中の海に無限湧きするイロハ級とは全く異なる特性を持つ。たった一言で簡潔に、俗的に例えるのなら、彼女らはワンオフのボスキャラだ。
まず単純に、純粋に強い。例えばいかにも駆逐然とした小さく素早い個体でも、ただの重巡級に匹敵する火力と装甲を有する程の規格外であり、そのスペックは当然艦種の格が上がる毎に強化されていく。
ビームやミサイルやスラスターといったC.E.の技術を駆使した【Titan】とはベクトルこそ異なるものの、その戦闘力と同等の地力を備えているのである。
その上知能も高い。人類の言語を解し、随伴艦に的確な指示を出し、洗練された戦術を披露してくるのだから厄介極まりなく、こと戦闘においては欠点がないように見える。
個体数が少なく、艦娘と同じく『一度沈んでしまえば復活することもない』点だけが救いか。
イロハ級相手に無双できる高練度の艦娘が束になって掛からなければならない、そういう存在だった。
中でも【軽巡棲姫】は水雷戦隊――軽巡級と駆逐級で構成された、一撃離脱の雷撃戦を主とする高機動部隊――の指揮に長けており、彼女の隊にまで出張られたらナスカ級どころの騒ぎではなく、
空母機動部隊と挟撃でもされたら大損害は必至。
絶対に、足止めしなければ。
敵の進路を塞ぎつつ、榛名と鈴谷の砲撃で撃破するか撤退させるしかない。もしも航空戦力に余裕があれば、瑞鳳か鈴谷に手伝ってもらって水平線越しの弾着観測射撃ができるのだが、
できないのだから充分に接近しなければならない。しかしそうなると【軽巡棲姫】に強襲される危険性が増し、おいそれと近づくことはできない。
故に、響と夕立で攪乱しなければ始まらない。この超高難度ミッションが必要とされる理由だった。

(! 敵艦隊動いたな。増速、推定40ノット、方位2-8-0から3-1-0へ転針・・・・・・逆に榛名達の頭を抑えるつもりか)

北西に旋回した敵艦隊からの魚雷射出も確認。これもまた、榛名達の進路を遮るよう時間差かつ扇状に展開され、此方の行動を大きく制限してきた。同時に、独走する響も砲撃されるようになり、戦況が大きく動き始める。

249ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:24:44.42ID:1f5lNSAo0
ここで木曾が動く。
重雷装巡洋艦としての40門もの魚雷発射管をフルオープン、並進射法の二段撃ちで水雷戦隊の進路上を面制圧する。同時に鈴谷が接近しつつある魚雷目がけて対地榴散弾を放ち爆破、必要最低限の航路を確保した。
まるで将棋だ。まだまだ互いの砲撃が有効でない距離で、艦隊運動と魚雷を駒として相手を牽制・誘導しつつ王手を狙い、盤面の先の先までを読みあう。この場合、響達は跳び駒という扱いになるか。
結果一時的に両艦隊は速度を落とし、水平線越しに併走しながら当たらない遠距離砲雷撃戦を演じることになり、膠着状態となった。

(両艦隊の最終的な目標はナスカ級。でも速力と位置からして、どうしたって先に到着するのは向こう。そこから乱戦になったらもう手の打ちようがなくなる。仕掛けるなら今しかない)

榛名達が作ってくれた接近のチャンス。ここから更に戦況が動く前に、行動しなければ。
繰り返しになるが、響達の役割は敵の足止めだ。注意を引きつけて釘付けにし、状況を有利に運ぶ為に艦隊から離れたのだ。ここでアクションを起こさず、いつ起こすのか。
丁度、ほぼ計算通りに、響は敵艦隊の南西に位置している。本隊と挟撃するにはもってこいの位置取り。しかしそれは同時に、単縦陣の敵艦隊の横っ面であることを――艦隊の全火力が集中する位置であることをも意味している。
通常、そんな所に正面から突っ込むバカはいない。

「バカは来るし、ここにいるからね。・・・・・・さて、やりますか」
「バカって、誰のことっぽい!?」
「そりゃ私達以外いないじゃないか。ねぇ師匠」

通常でも尋常でもない突撃バカ二人がここにいた。

「もしかしなくてもワザとでしょ!? 背中ムズムズするんだから師匠やめてってずっと――」
「それより見てよこれ。師匠が褒めてくれた防御力に更に磨きが掛かったよ。前衛は任せて」
「――・・・・・・うんわかってた。響そーいうトコ割と天然だよね。やっぱり夕立が妥協するしかないっぽい」

急旋回、機関出力最大。
特にドラマもなく合流した師弟は、飄々と言葉を交わしながら一目散に、最短距離で敵陣に迫る。
ここで少女らは、近づくにつれ漸く鮮明となった敵艦隊の陣容の把握に努めた。

「旗艦は勿論【軽巡棲姫】が1、雷巡チ級1、軽巡ツ級2、軽巡ト級2、駆逐ナ級6、駆逐ハ級8・・・・・・殆どが【Elite】タイプ以上。これは、なかなか」
「大人げない」
「ね」

二人はチラリと顔を見合わせては頷きあい、不敵な笑みを浮かべる。
戦艦や空母といった派手な艦種こそないが、堅実かつ強力な布陣。素早く、硬く、対空能力も雷撃能力も高いとくれば、持てる力全てを発揮するには申し分ない。
恐れず、前進あるのみ!

250ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:26:46.47ID:1f5lNSAo0
「よし、此方に食いついてくれた」
「いっそ夕立達だけで殲滅するぐらいの勢いで暴れるしかないっぽい! 響、ついてこれるかしら!?」
「Конечно! 素敵なパーティー、やってやろう」
「いい返事!!」

水雷戦隊の反応は劇的だった。
単独行動していたとはいえ、まさか駆逐艦娘がたったの二隻で突撃してくるとは思わなかったのだろう。動揺し、少しばかり動きを止めてしまったものの、悠長にもみえた榛名達との小競り合いをキッパリ切り上げた敵艦隊は、
とんでもないスピードで突っ込んでくる少女二人に全火力を集中させた。
そこに慢心や焦りはない。各個撃破のチャンスを逃す愚か者は、敵味方問わずこの戦場にいない。
速射、掃射、斉射。
牽制に誘導、そして本命の狙撃を絶妙に織り交ぜた砲撃の驟雨。これまでの散発的だった砲撃とはまったく比べものにならない、殺意の嵐。

「相変わらず、狙いがイヤらしいっぽい!!」
「私が防ぐよ。師匠は下がって!!」
「りょーかい!」

かつて連合艦隊の一員として【軽巡棲姫】と戦ったことのある夕立が吐き捨て、その当時は修理の為に留守番を余儀なくされた響が大型シールドを構えて前に出た。

(信じるよ、明石先生、キラ)

着弾。
海面が爆発的に巻き上げられ、辺り一面が白に染まる。駆逐艦の防盾如きでどうにかできる威力ではなく、普通なら木っ端微塵。むしろオーバキルに過ぎる攻撃だった。
しかし、ここで【軽巡棲姫】は彼女らが普通ではないことを理解していたので、すかさず追い打ちを指示した。特に以前、金髪黒衣の駆逐艦に散々手こずらされた経験がある彼女としては、
こんな砲撃一回で終わるとは到底思えなかったのだ。
念には念を。
採択するは、可燃性の煙幕を放出するグレネードと、広範囲高密度の魚雷群とのコンビネーション。防御も回避もしようがないこの連撃、最低でも長門型戦艦の重装甲でなければ耐えられまい。
これで終わりであれと、装填完了の合図を受けて【軽巡棲姫】は追撃開始命令を下した。
そして勿論、少女二人はその思惑を当然のように凌駕する。

「――Урааааа!!!!」

まったく無傷のシールドを掲げて白の世界から飛び出した響が、吼える。
乾坤一擲。
両腰の魚雷発射管を解放、狙いを前方一点のみに絞った61cm酸素魚雷を4発放ちながら、冷静沈着にひたすら直進。右腕を閃かせて構えた大型ライフルの銃口は、放物線を描くスモークグレネードを正確に捉えていた。
直後。

251通常の名無しさんの3倍2018/05/23(水) 22:29:18.61ID:AbQ+BG7S0
回避

252ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:30:33.96ID:1f5lNSAo0
少女と水雷戦隊との中間で盛大な爆発が起こり、辺り一面が黒に染まった。
たゆたう水飛沫と硝煙のコントラスト。【軽巡棲姫】は直ちに部隊を散開し、その領域から距離を取らせつつ包囲しようとする。
対する響は構わず、自ら切り開いた極細の航路と黒の世界を突っ切り、最も近くにいた雷巡チ級に狙いを定め肉薄する。
無論、深海棲艦達は迎撃すべしと整然とした弾幕を張るが、

「そんな攻撃で、フェイズシフトは! ――当たれ!」

甲斐無く、通電して純白に色づいたシールドに妨げられた。
ストライクの脱落した左肩部装甲の欠片を加工して拵えた、現状唯一無二の艦娘用フェイズシフト・マテリアル製防御兵装。裏面にマウントしたバッテリーパックが生きている限り、これを抜くことなど不可能。
シールド越しに襲いかかる衝撃は全身の関節でいなし、ライフルの第二射を放つ。
発砲。
命中。
撃破。
強烈な反動と砲撃音を伴って撃ち出された砲弾は、これまでは二〜三発打ち込まなければ有効打を与えられなかった、魚雷の扱いに一際長けたチ級のど真ん中を一撃で貫いた。やはり狙いやすいと、響は感じた。
試製ライフル型65口径13.5cm単装砲。
分類は長砲身平射砲、仰角及び俯角駆動機構なし、弾丸に強装徹甲弾を採用したこの新兵器は、近距離での水平射撃を前提にしている。距離を取って曲射で狙う通常艦砲とは全く異なる運用が求められるが、
シンプルに過ぎる機構故にその威力は巡洋艦用15cm砲の一門に相当するという。
重量もゴツい見た目の割に軽く、次弾装填速度も速い。その分長距離砲撃時の命中率や対空能力は犠牲になっているが、元より求められていない役割であるからして欠点にはなり得ないだろう。
明確な欠点があるとすれば、やはり響専用であることか。
駆逐艦用としては常識外の威力に比例して反動が大きく、また軽量であるとはいえ砲身がかなり長い為、生半可の艦娘では発砲どころか照準にも苦労するとのこと。艤装の汎用ターレットに搭載することもできず、
そもそも普通であれば駆逐艦の砲にここまでの過剰火力が求められていないので、他の駆逐艦娘にとっては文字通り無用の長物だ。
故に、超重量の大型錨を振り回してきた経験を持ち、かつ特別な改修を施された響でなければ扱いきれない実験装備であり、彼女に扱われてこそ真価を発揮する専用装備である。
そして響はそのスペックを最大限活かせる実力の持ち主であり、完全に合致した親和性はより強大なうねりを生み出し、今や彼女の戦闘能力は師たる夕立に比類するまでに迫っていた。

「いける、これなら!」


回避に専念するツ級の左肩部5inch連装両用莢砲一基を吹き飛ばし、更に左舷後方から雷撃を狙っていたナ級を撃ち抜く。しかし同時に、前後から二隻ずつ、押し潰すようにして砲撃しつつ突撃してくるハ級。
ここで響は軽快に疾走しつつライフルを後腰付近に持っていき、艤装に新設されたフレキシブルアームを作動させた。アームはライフルの銃床をがっちり掴んでマウントするとグルリと回転、

253ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:34:22.40ID:1f5lNSAo0
完全な手持ち用と思われたライフルを一瞬にして自律旋回式の右肩部固定砲台へと変貌させる。そのシルエットはストライクの兄弟機である【GAT-X102 デュエル・アサルトシュラウド装備型】によく似ていた。
これに併行して、フリーとなった右掌は後腰に懸架していた大型錨をしっかり掴んでおり、たったの一動作で響は近接格闘モードに。

「よく来たね。迎撃(かんげい)する」

右肩部13.5cm単装砲と抜き打ちの打突で前方ハ級二隻を蹴散らせば、前方宙返り、180度逆さまになったタイミングで両肩部25mm連装機銃と魚雷を斉射、後方ハ級一隻をも海の藻屑に。
一挙に三隻撃沈。残った一隻は着水後、振り向きざまの横凪一閃で片づける。
回避動作と一体化した、力強くも流麗な体捌き。凄まじい格闘センスと姿勢制御能力。強力な武装を扱うに相応しい戦技だった。


これには【姫】も認識を改めさせざるを得なかった。


なんなのだこれはと、素直に驚愕した。
初撃からまだ3分も経っていないというのに、既に損耗率が2割を超えた。完全に誤算、見誤っていた。元より独走していた時点から何かしでかすのではと警戒していたが、これ程とは。
【軽巡棲姫】は自らが先陣を切って押さえねばと決意する。あの金髪黒衣の駆逐艦に匹敵する敵なら、戦術を練り直し、態勢を整えなければ。
北からは敵の本隊――【榛名組】も迫っており、ここで時間を取られる訳にはいかないのだから。

「――?」

と、ここで彼女は強烈な違和感に襲われた。致命的な何かを見落としていると、本能が警鐘を鳴らす。
いない。
そういえば、いない。
銀髪の駆逐艦に気を取られていたが、あの金髪黒衣の駆逐艦はどこに消えた? まさか初撃で沈んだわけでもあるまい。あの厄介な盾に隠れるなりなんなりして、必ず生き延びている筈だと確信している。
索敵。
するよりも早く。

「――ッ!!!!????」

すぐ真後ろから底冷えするようなプレッシャー。
反射的に鋭くサイドステップすれば、頭部ぎりぎり横を投擲された魚雷がすっ飛んでいった。

「あれ、不意打ち失敗っぽい? まぁいっか。・・・・・・久しぶり、オルモック沖以来?」
「・・・・・・ヤハリ・・・・・・キタノネェ・・・・・・。ユウダチ、デシタカ」

254ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:37:28.62ID:1f5lNSAo0
振り向けばそこには、あまりにも気安く語りかけてくる、夕立の姿。
【軽巡棲姫】は普段使うことのない声帯を震わせ、身の毛もよだつおどろおどろしい呻き声で応える。
いつの間に、とか、どうやって、などと問う気はない。愚問だ。この大胆不敵な駆逐艦はこれぐらいの事ならサラリとやってのけるだろう。ただ己が認めた強敵の一人である夕立に、ある種の敬意を込めて人の言葉を発した。
夕立は、名前を覚えられているとは思ってなかったのだろう。一瞬きょとんとするがすぐ口角を吊り上げて言う。

「今日は川内さんと神通さんの代わりに、あたし達が相手になってあげる。物足りないかもだけど、この前の夜の続きをしましょ?」
「アノフタリ、ノ、カワリ? アナタタチガ・・・・・・? ・・・・・・ソウ。デモ、カンケイナイ。コレイジョウ・・・・・・アナタタチノスキニ・・・・・・・・・・・・サセルワケニハイカナイノヨォ・・・・・・!!」

堂々と宣戦布告。
言って、言われて、互いの得物を構える。それ以上はいらなかった。
先に動きを見せたのは【軽巡棲姫】――否、水雷戦隊。元より個人戦よりも集団戦を是とする彼女は、散開していた随伴艦達を集結させ、鶴翼陣を形成。南へ全速後退しつつ、夕立に火力を集中させた。
曰くイヤらしいという精密かつ濃密な狙いで、夕立を釘付けにする算段か。彼女は全力の引き撃ち――ことに制圧射撃に対しては、その圧倒的戦闘力を発揮することはできないのだ。
連動して【軽巡棲姫】も身を翻し、超加速で響に肉薄、距離を詰めると勢いそのまま回し蹴りを放つ。

「――ぐッ!? ・・・・・・狙いは私か!!」

艦艇としての重量差は如何ともしがたい。虚を突かれまともにシールドで受け止めてしまい、宙に弾き飛ばされた響が呻く。
【軽巡棲姫】はどうやら【榛名組】の本隊と距離を取りつつ、まずは硬いが比較的回避能力に劣る響を潰すことにしたらしい。どちらかを放置はできないので、賢明な判断だ。
しかしそう簡単に主導権を明け渡したりはしないと、空中で身を捻って追撃の6inch単装砲を回避しながら25mm連装機銃――対空用だが撃たないよりかは遙かにマシ――と右肩部13.5cm単装砲で応射、
再び突進してきた【姫】の速度をほんの僅かばかり鈍らせる。
着水。思いっきり首を振って跳び膝蹴りを躱し、反撃よりも離脱を優先する。目にも留まらぬスピードで左の魚雷を引き抜き、真後ろへと疾らせる。

「師匠!!」
「任せて!」

ついで錨を夕立に向かって投擲すれば、意を得た夕立は制圧射撃に晒されているにも関わらず、余裕綽々で錨をキャッチ。そのまま一本背負い投げの要領で、錨を全力で振り下ろす。
そして響もタイミングを見計らい、後方の魚雷を射貫けば。

「雑魚を片付けて!!」
「Всё ништяк!!」

空を飛んで水雷戦隊の後方に向かう駆逐艦の姿があった。

255通常の名無しさんの3倍2018/05/23(水) 22:40:26.63ID:AbQ+BG7S0
回避

256ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:41:40.61ID:1f5lNSAo0
「ヤラセ、ナイ・・・・・・!!!!」
「やらせないっぽい。アナタの相手は夕立よ!!」
「ユウダチィ! ソコ、ジャマナノヨォォォ!!」

入れ替わり、今度こそ真っ正面から激突する二人。
随伴艦達相手に無双する響をよそに、大海原を駆けずり回りながらの高機動格闘戦が始まった。


艦娘達にとって、経過は順当と言える。


二人の少女の働きにより、水雷戦隊の動きは大幅に鈍っていた。いや、むしろ想定以上の戦果さえたたき出してすらいる。駆逐艦師弟の相乗効果は【姫】と互角に渡り合える程のものであった。
これならば本当に足止めのみならず、夕立達だけで殲滅することもできるかもと思えるほどに。
【軽巡棲姫】は焦った。
これは良くない。
深海棲艦側からすれば、より絞るなら、台湾近海に巣食う深海棲艦群からすれば、これ以上の戦力消耗は長期的に見て良くない。戦力増強の為の強行軍だというのに、こうまでいいようにされては本末転倒。
しかし、だからといってあの異界の船が人類側に渡るのを黙って見ていられるわけもなく。
かくなるうえは。
西の空母機動部隊の戦況にもよるが、プランBの決行も視野に入れる頃合いだ。

「コノ・・・・・・イイカゲンニ!!」
「そっちが墜ちればいいの!!」

クロスカウンター気味に夕立の魚雷が直撃する。装甲を抜くまでには至らなかったが確かなダメージを与えられ、これが岐点となった。
ならば、ここで拘泥する必要はなく。


思慮深い【軽巡棲姫】はある一つの決断を下した。


榛名達が放った砲弾が着弾する、約1分前のことだった。



◇◇◇

257ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:44:30.18ID:1f5lNSAo0
「撤退する!?」
「あの【姫】が退いた・・・・・・・響達すごい、ホントにやり遂げちゃった!」
「うひょー! やるなぁ二人とも。こりゃ鈴谷達も負けてらんないねぇ!」

丁度主砲の第一射を放ったばかり榛名が目にしたものは、申し訳程度の残存戦力を率いて南へと撤退していく【軽巡棲姫】の姿だった。
予想外の顛末ではあるが、つまり金剛と榛名の作戦はカッチリ成功したということだ。これにてナスカ級周辺で大乱闘などという未来は回避され、佐世保艦隊は空母機動部隊との戦闘に専念できるようになった。
とんでもない快挙にワッと瑞鳳と鈴谷が抱き合って、すごいすごいとはしゃぐ。榛名もその輪に加わりたい衝動に襲われたが、しかしひっそり胸をなで下ろして安堵するだけに留めた。
やるべきことが山ほどあるのだから。

「信号弾! 深追いは危険だわ。木曾と響と夕立は一旦【いぶき丸】で補給を。榛名達は予定を繰り上げて【金剛組】に加勢します!」

まずは、ここで気合いを入れ直すべしとキッチリ指揮をとる。
瑞鳳と鈴谷はハッとなって慌てて離れると、艦載機のコントロールに集中する。勝ち筋は見えてきたが、まだまだ状況は予断を許さない。諸手を挙げて喜ぶには早過ぎるのだ。
いろとりどりの光が蒼穹に輝き、響と夕立、そして北方に退避していた【いぶき丸】に集結するよう合図を送った。高速哨戒船【いぶき丸】は単なる足ではなく、曳航に必要な機材や、
艦娘用の燃料弾薬などを満載してもらっている。これを活用しない手はないだろう。
次はいよいよレ級率いる空母機動部隊と戦闘で、現状【金剛組】は航空戦含めなんとか拮抗しているとのことだが、だからこそここで響達の補給を勿体ぶることはない。急がば回れだ。

「・・・・・・それにしても、鮮やかな引き際だったな」
「ええ。多分、いや確実にまた来るでしょうね」

ポツリと、信号弾を打ち上げた木曾が難しい顔で【軽巡棲姫】について感想を漏らした。
まったく同感だと榛名は頷く。今まで目にした【姫】のスペックからすれば、もっと戦闘は長引いていた筈なのだ。
手を抜いていたわけではないだろうが、明らかに消耗を嫌った撤退だった。それだけ響と夕立が手強かった証左でもあるが。
二人が素直に喜べない理由だった。
近いうちに再び相まみえると覚悟しなければならないだろう。その時もまた上手く事が運ぶとは限らないのだから、今のうちに対策を練っておかなければ。

「今回は凌げたが次はどう来るか・・・・・・なぁ榛名、次はオレも出してくれ。響とのコンビネーションならオレにもそれなりの自信がある」
「あら。嫉妬ですか?」
「そんなんじゃない、茶化すな」

258ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:47:07.09ID:1f5lNSAo0
「ふふ、御免なさい。・・・・・・わかりました。状況次第ですけど、確かにバリエーションは多いほど良いですね」
「そういうことだ。じゃあちょっと補給してくるぞ。すぐ追いつくからな」

いつも後手に回ってばかりだから、たまには此方が先手を取りたいものだと木曾は言い、踵を返した。
これもまた、まったく同感だ。
その頼もしい背中に、榛名は眩しいものを見るような顔になったが、そこで思い出したかのように彼女へのオーダーを付け加えた。

「あ、ちょっとまって。木曾は対空装備も増設してきてくださいね、使い捨てで良いので。当面の雷撃戦は【多摩組】に任せますから」
「応よ。いいねぇ、物資があるってのは。・・・・・・響と夕立はどうする? 少し休ませてやるか?」
「・・・・・・そう、ですね。そうしましょう。ささやか過ぎるけど、持ってきた食料も好きにしていいと伝えてくれるかしら」
「まぁそうなるな。・・・・・・オレもつまみ食いしちゃダメか?」
「榛名達にもお土産を持ってきてくれるなら許可しましょう」
「そうこなくっちゃな」

そうこうしていると、流石の快速で【いぶき丸】がやって来る。その甲板上で一人の男が双眼鏡を片手に、手を振っているのが良く見えた。
なんとなく榛名も手を小さく振り返してから、深呼吸。瞳を閉じて今後の方針をシミュレートする。

「・・・・・・よし、やってやりましょう。腕の見せ所ね」

ここから暫くは、榛名と瑞鳳と鈴谷だけの【榛名組】となる。他艦隊との連携がより一層重要になる。
いいだろう、ドンとこい。
響達師弟が無茶をしてくれたのだ。なら次は自分達が気張るところで、その頑張りに応える番だ。それにレ級との戦闘ならば、戦艦たる自分達が矢面に立たずしてなんとする。
金剛型高速戦艦の意地と連携を見せてやろう。
金剛と榛名のコンビもまた健在、無敵なのだと世界に知らしめてやろう。

「征きましょう瑞鳳、鈴谷。遠慮はいりません、派手にブチかましますよ!!」
「はい! 瑞鳳、準備万端です。いつでも!」
「うっしゃぁ! 燃えてきたー!!」

面を上げた榛名は、凜と声を張り上げて決意を表明する。
応じて今尚戦闘中の二人も鬨の声を上げ、高々に拳を天に突き上げた。
三人は停泊した【いぶき丸】に背を向け、全速力で次なる戦闘海域へと突き進んだ。

259ミート ◆ylCNb/NVSE 2018/05/23(水) 22:51:21.24ID:1f5lNSAo0
以上です。
「強い! 絶対に強い!」と感じてくれたなら幸いです。艦隊戦の描写を含め、わかりやすく伝わっていれば良いのですが。

260通常の名無しさんの3倍2018/05/25(金) 20:22:16.35ID:SlTtli2Y0
乙ですー。
姫というとどうしても彼岸島のアレを想像してしまうw
ようやく深海側にも立ったキャラが出てきて楽しくなってきました。
しかし艦これを知らないと戦闘が全く想像できないな・・・ゆるやかな艦の戦いと
少女たちの格闘スタイルの速度差のギャップに苦しむorz

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