新人職人がSSを書いてみる 34ページ目 [無断転載禁止]©2ch.net
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SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
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Rock54: Caution(BBR-MD5:669e095291445c5e5f700f06dfd84fd2) >>483
いやいやいや、私の前のSSの主人公名を覚えてる人なんていませんって、普通。
ホントによく読んで頂いていて感謝感激でございます。では7話です。
1年戦争外伝、−HAPPY WEDDING−
第7話 ささやかな戦いの裏で
携帯に表示された地図を頼りに、トオルはコロニーを走る。
とりあえずセリカ達には「友人から急な呼び出しを受けた」と言っておいた、嘘ではない、うん。
しかしなぜジャックが・・・手口からしてプロの仕業じゃあなさそうだが。
今時金目当てなら、もっと気の利いたペテンを使ってくるはずだ、直球であんな画像を
送りつけるところに幼稚な印象を受ける。
多分そこいらのチンピラの類だろう、アースノイドは金持ち、という誤解を持つスペースノイドは
多いと聞く。ジャックから巻きあげた挙句、一緒にいた俺もカモろうという腹だろう。
しかし、あんなニュースを見た後だけに、一抹の不安は拭い切れない。もし奴らが
セリカに近い人間を利用しているとしたら・・・悪い想像が広がる、それを振り切るように
指定された工場の倉庫に向かうトオル。
「あれか。」
目視できる距離まで近づいたところで足を止め、物陰に身を潜めて呼吸を整える。
真っ正直に行く必要はない、ぐるり周囲を回って様子をうかがう。
ドア前には見張りが一人、やはりというかプロではなさそうだ。それは立ち姿を見ればすぐに分かる、
体幹悪く、落ち着きなくぶらぶらしながら時折きょろきょろしたり、携帯をいじったりと
場慣れしていないこと甚だしい。
裏手に回り、見張りが前を見た瞬間を見計らって、気配と足音を消して歩いて近づく
10メートル、5メートル・・・うまい具合に見張りの背後まで気付かれずに近づけた。
携帯を取り出すと、わざとらしく大きな声で言う。
「ここが指定してきた倉庫か!」
「うえぇェわぁあぁっ!!」
突然背後に現れたトオルに仰天する見張り、しどろもどろに動転しながら、ようやくゲストが来たことに気付く。
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
そう言うとおもむろにドアを開け中に入ってドアを閉める、倉庫の中で声。
『お、おい来たぞ、もうそこまで来てる!』
『もっと早く報告しろよ!』
『ちょ、あんたはそっち、てか早く縛って・・・』
数人の人間がバタバタする露骨な気配を感じながらトオルは確信する、機関とやらは無関係だなこりゃ。
1分後、中の喧騒が収まったのを感じて、ドアノブに手をかけ、ドアを開ける。 「ジャック、無事か!?」
開けて叫ぶ、倉庫の奥に縛られ、さるぐつわをかけられた状態でイスに座らされているジャック。
その横のテーブルには、散らかした菓子の袋やジュースのボトルが散乱している。
さるぐつわの中で何か咀嚼して飲み込んだジャックのリアクションは見なかったことにしよう。
「トオル・ランドウだな。」
際の資材に腰かけていた男が立ち上がり、ジャックの前、トオルの正面に立つ。
周囲には黒服が十数人、よく見るとスカート、つまり女の姿もちらほら見える。
「そうだ、一体なんのマネだ!ジャックは返してもらうぞ。」
男を睨むトオル、黒服の中でもトオルより頭一つ大きい体格のいいその男は、
なるほど先ほどの見張りとは違い、荒事に慣れてはいるようだ。
「ああ、いいぜ。ただし、こちらの質問に答えたら、だがな。」
「質問、だと?」
今日コロニーに来たばかりのアースノイドになんの質問があるというのか、わざわざ友人を拉致ってまで。
「手前ぇ、あの人の、ナーレッドさんの一体何だ!」
語気を強めて吐き捨てる男、意外な質問に拍子抜けするトオル。
「えーと・・・」
なんだ、セリカの知り合いなのか。そういやこいつらの黒服はスーツというより
ハイスクールの制服っぽくも見える、確かに年の頃も同じ位だ。
さてどう答えたものか、向こうはフィアンセ指定のようだが、俺にとってはライバルであり、
初恋の君であり、プロポーズした相手で、えーっと・・・
「何だって聞いてるんだよ!とっとと答えねぇかっ!!」
怒鳴る男の態度でカチンと来る、返答は決まった。すーーーっ・・・
「幼馴染でライバルで初恋の相手で恋人でプロポーズしてフィアンセになった俺のライバルだっ!!!」
面倒臭いから全部言ってやった、ライバルを2回言ったのは多分そこが一番重要だからかもしれない。 「キャー、なんかドラマチック。」
「うわ、かっこいい〜」
「ヒューヒュー」
数人いる女子が女子高生そのままの反応をする、その前で男が愕然とした表情を見せる、
後ろの男たちも落胆の表情を隠そうとしない、肩を落とす者、特大のため息をつく者、わかりやすい。
「ざけやがって・・・二度とンな口きけねぇようにしてやるよ。」
「ダチを誘拐して人を呼び出して、すいぶん勝手な言い草だな。」
指関節を鳴らして威嚇する男に対し、トオルは足の指の付け根でドンドンと地面を踏む、
JUDOでよくやってた簡略型の足首のウォーミングアップだが、慣れた者がやると格闘技者独特の
威圧感を発することができる。
「ちょ、ちょっとスティーブ、本気でやる気?」
「そろそろシャレにならないんだけど・・・」
後ろの女子が、トオルの本気を感じ取って少々引き気味に言う。それで忘れていた質問を思い出す。
「というか、お前らは一体何者だよ。」
まぁ大体の見当はついている、多分セリカに片思いしてる輩か、あるいはフられた連中なんだろう。
「俺たちは・・・俺らはなぁ、セリカ・ナーレッドさんのファンクラブだああぁぁっ!!」
「西暦かっ!!!」
思いっきり突っ込む、古っ!宇宙世紀のこの現代で女の子のファンクラブとかどんだけ前時代的な考え方だ、
西暦の頃には歌手とかでそういった存在もいたらしいが、今時そんなことを真顔で言う輩がいるとは・・・
「うるせぇ!手前ェは知らないだろう、あの『窓際の妖精』がどんだけウチの学校で人気か!」
そうだそうだ、と後ろの連中がガヤを飛ばす。
「誰からも少し距離を置いて、おっとりおしとやかな表情で窓辺で佇むその姿は
全校男子の憧れなんだよっ!それを・・・それを・・・フィアンセだとぁっ!」
おっとり・・・おしとやか?あの押せ押せ娘が?
いや、そう言えば彼女は機関に目をつけられないように、目立たないように生きていくって言ってた、
それを実践した結果、やっぱり目立ちまくっていたらしい、天才にステルス能力は無いということか。
妙なところで不器用な奴だ。 「100回殴る!」
「せやあぁぁっ!」
喧嘩屋の怒声と格闘技者の気合を合図に戦いが始まる、両腕を振り回して殴りかかるスティーブだが
JUDOで組手争いを嫌という程してきたトオルにとってかわせない攻撃ではない、
間合いを離し、時には逆にくっついて拳を躱す。が、スティーブもそれに呼応し、
小さくファイティングポーズを取り、短く早いパンチとローキックの攻撃に切り替える。
こうなるとさすがに全てを躱すのは困難だ、トオルの顔面を、足の脛を、スティーブの攻撃が捕らえる。
組みつこうにも警戒され、小さなパンチで押し返されてままならない。
ここでトオルは奇襲に出る。両手を下ろし、いからせてた肩をストンと落とす。
重心を自然体に戻し、全身の力を抜く。そしてすっ、と相手に近づく。
いきなり闘争心を無くしたように見えたトオルに、スティーブも少し呆気に取られ、接近を許す。
相手の右手を掴んだトオルは、そのまま右腕を首に巻き付けるような一本背負いに持っていく、
瞬時、スティーブもそのアクションに気付く、持っていかれてなるものかと、重心を後ろに落とす。
しかし勝負はもうついていた、トオルはそのまま背負いに行かず、スティーブの右手をマフラーのように
首に巻き付けて1回転、右わきの懐に入り込むと、左手でスティーブの右足モモを抱える、
そのまま肩と足を極め、全身のバネでスティーブを持ち上げ、裏投げにもっていく。
ジュニアハイスクールから得意にしていた「巻き付け式1本背負い」、州大会ベスト4の原動力になった技、
初見で防げる技ではない。
スティーブの巨漢が弧を描き、背中から地面に叩きつけられ派手な音を立てる。
ズドォーン!
「いっぽーん!」
悶絶するスティーブ、勝負あった。
手加減する余裕はなかったが、まぁこの男なら万が一はあるまい、それほどの体幹の強さを感じていたから。
起き上がり、スティーブから気をそらさずに周囲を警戒する。取り巻きは皆凍り付いている。
そうだろうそうだろう、俺が勝つとは思っていなかっただろう、さぁ尊敬と恐れの視線を俺に・・・
あれ?どこ見てるんだお前ら。皆の視線を追った、その先には・・・ 「勝者、トオル・ランドウーっ!」
「おいっ!」
ドアの入り口に立って審判よろしくトオルのいる方向の右手を上げる渦中の人、セリカ・ナーレッド。
何故ここにいる、つけられたのか?そもそもここには絶対いちゃいけない存在なんだが、空気的に。
「あ、あはは、ナーレッドさん、いつからここに・・・?」
取り巻きの一人が狼狽えながら聞く。
「ん、トオルが来た直後から。」
つかつかと入ってきて、取り巻きの前まで歩いて問う。
「へー、みんな、私のファンクラブとか作ってたんだ。ふーん。」
全員を見まわすセリカ、どいつもこいつもバツの悪そうに視線を逸らす、
「よっ!男殺し。」
てかアーチェスさんまで来てるよ、ドアの入り口でニヤニヤしながらからかってくる。
「あたた・・・やってくれたなぁ、おい。」
スティーブが起き上がる、腕をゆっくり回しながら肩関節を鳴らし、トオルを睨む。
トオルも正眼に構え見返す、再び対峙する両者。
「ちっ・・・カッコ悪いったりゃありゃしねぇ、やめだ止め!」
スティーブのその一言で弛緩する場の空気。セリカは小走りでトオルに近づき、ぴょんと飛びついて抱き着く。
「カッコよかったよ、お疲れ様♪」
「ひっつくなって、この状況で!」
一呼吸おいて、どっと笑いが溢れる倉庫内。周囲から起こる笑いと冷やかしの渦。
どうやら最初、宇宙港でトオルに抱き着いたシーンを、セリカのクラスメイト(女子)が
目撃してたらしい。そのあまりに普段と違う彼女の態度に、仲間内の電子通信で拡散した結果
スティーブはじめファンクラブの面々にも知れ渡ってしまったようだ。
で、ジャックを巻き込んで誘拐ゴッコを企画して、その真相を確かめたかっただけらしい、
アイランド・イフィッシュにはヒマで下世話な奴しかおらんのか・・・
「それにしてもねぇ〜」
「あのセリカがこんなに大胆なんて、いつもの大人しさはどうしたのよ。」
「あはは、ちょっとワケありでね。」
クラスメイトの女子は知らない、セリカが特殊な能力を持ってることも、それを隠すために
感情を抑えて生活していたことも。
「ま、良かったじゃねえか、こっちでも公認カップルになれて。」
「やかましい!大体お前、最初っからグルだっただろ!」
餅菓子をかじりながら言うジャックにヘッドロックをかけるトオル。
やっぱりさっきまでここでみんなと和気藹々してたなコイツ・・・ 「で、お前らどこまで行ってんだ?」
スティーブの質問に全員の関心と注目が集まる!
「んーっとねぇ」
「現在絶賛交換日記中っ!」
これ以上さらし者になってたまるか、本日二度目の迂闊なセリブロックっ!
「ぷっ!」
「ぎゃはははははっ・・・」
「どんだけ奥手なのよこの人〜」
何故か大受けしてしまった。スティーブニヤつきながらが肩をバンバン叩いて言う。
「どっちが西暦だよおい、その年でなぁ。」
「な〜に、今夜あたり一線を越えるから大丈夫だよ。」
アーチェスさん、爆弾発言は止めてください頼むから。
「(ねぇねぇ、ホントはどうなの?)」
セリカに耳打ちするクラスの女子。
「そこ!聞き出そうとしない!!」
止めにかかるトオルを見てセリカは立ち上がり、指一本突き上げて宣言する。
「はーい、今夜一線を越えま〜す。」
「本人も爆弾発言するなっ!」
ちなみにトオルは分かっていない、開拓民でもあるスペースノイドにとって恋愛観は
アースノイドよりもかなり進んでいることに。地球に比べての娯楽の少なさ、
血縁と人口を増やすため生めや増やせの社会観、冗談レベルならその程度の発言は日常だ。
・・・もっとも、セリカが冗談で言ったのか、本気なのかは本人にしか分からないのだが。
その後も拡散された情報を聞きつけたクラスメイトが続々集まってくる、
二人を囲んでサカナにしての倉庫懇談会は、その日遅くまで続いた。
解散後、ファンクラブの一人の少年が、帰宅しすぐにパソコンをつける。
パスワードを入力し、文章を暗号化するソフトを立ち上げ、文章を入力する。
−セリカ・ナーレッド、本名ココロ・スンに関する報告書。
その能力は未だ未確認ながら、ニュータイプの特徴の一つともいえる社会性の無さ、
コミュニケーション能力の欠如は見られず、該当者としての可能性は薄いと思われる
発:アクト・イレイズ。着:フラナガン機関リビル・イレイズ− 7話でした。すでにガンダム関係なしの稚拙なラブコメになっとる・・・
クライマックスには何とかしたいものだw 乙でした
確かにこれはタイトル通りの『ささやかな戦い』だ
でも当事者達にとっては一生の思い出、それが青春の一時というものである(遠い目)
そして本名:ココロ・スン、だと…
この話、これからどう転がるんだ? >>493
青春・・・TV画面の向こうではよく見るんんですがねぇw
では8話です。
1年戦争外伝、−HAPPY WEDDING−
第8話 一瞬の思い、永遠の誓い
天頂に輝く夏の日差しに、ジングルベルが鳴り響く、南半球の12月。
ハイスクール2yearの終わり、トオルもすっかり慣れた夏のクリスマス・イブの日、
彼は両親と宇宙港にいた。
今日はトオルにとっても、彼女にとっても、お互いの家族にとっても特別な日だ。
やがてシャトルが到着したアナウンスが流れ、乗客が次々と降りてくる。
そんな人ごみの中でもひときわ目立つ金緑の髪の毛を揺らし、「愛しの君」が
家族と共にやってくる。
「おーいセリカ、こっちこっち。」
やや照れ臭そうに、あらかじめ打ち合わせていたセリフでナーレッド一家を呼ぶ。
「トオル、半年ぶりだね〜会いたかったっ!」
こちらもあらかじめ打ち合わせてたセリフのあと、筋書き通りトオルに抱き着く。
二人の後ろではお互いの両親が、ぎこちなく挨拶する。
そしてその様子を、幾人ものスタッフがカメラやマイクを構えながら撮影している、
さらに距離を置いて、大勢の野次馬が取り囲んでいる。
「はーいカット、OKです。じゃあ次いきますよー」
−シドニーとアイランド・イフィッシュで遠距離恋愛するカップル、半年ぶり再会−
そんなテロップがランドウ家のテロップに映り、数時間前の再会シーンが流れる。
「いやぁ、若いのに演技派だねぇ二人とも。」
トオルの父、カク・ランドウがTVに映った二人を見て感心する。
「まぁ、8割は本気でしたけど。」
セリカが笑顔で返す。お父様、と付け加えて。
「トオル君もなかなかのもんじゃないかい、演技とは思えないよ〜」
アーチェスさんは相変わらずのからかい口調で、トオルをヒジでうりうりとこじる。
「まぁ、初めてじゃないですしね、セリカと演技するのは。」
トオルは思い出す。セリカと会って間もないころの、赤ずきんの朗読を。 二人は結婚の約束をしていた。そして今日はそんな二人の両親の初顔合わせ、
その情報を聞きつけたトオルの悪友たちは、そのソースをTVに売りやがったのだ。
しかもサイド2のジャックを通じて、向こうの局にまで企画が通ってしまった。
普通ならそんな企画は通るはずもないが、今現在ではそれはTV局にとっておいしい題材だった。
宇宙世紀0078、12月。地球連邦とジオン公国の緊張はもはや限界に達しようとしている、
両国にもはや交渉の余地はなく、戦争も時間の問題と思われた。
地球連邦にとって、この戦争の図式がスペースノイドとアースノイドの戦争、と取られるのは
他のコロニーの手前避けたかった、あくまでジオンとの戦争であり、他のスペースノイドまで
敵に回すのは得策ではなかった、よって他のコロニーとの友好なイメージは大切だった。
連邦寄りのサイド2にとっても、連邦との蜜月を示すのは重要な要素だった。
そんなわけで連邦とサイド2のマスコミは、半ばプロバガンダに近い形で両者の友好性を
逐一アピールするようになっていた。
その一環として、トオルとセリカは恋人の祭典、クリスマスに放送するネタにされてしまったわけだ。
「そういやジャックももうすぐ帰ってくるって。」
「アイツもうしっかり客取ってるらしいな、大したもんだ。」
両親を交えての世間話に花が咲く。お互いの友人のこと、両親の生活や風習、さらには
お互いの子の昔話まで、話題は尽きない、この両家ならうまくいくことは間違いなさそうだ。
「それでそれで、明日はどこいくの?」
興味津々でセリカが聞いてくる。が、まだ明かすわけにはいかない。せっかくのサプライズなんだし
セリカの能力に悟られないよう、平静を装って質問をかわす。
「ま、それは明日のお楽しみってことで。」
今回のナーレッド家の地球来訪、その目的は両親との顔合わせともうひとつ、
1年後に控えた結婚の式場の下見だ。 ハイスクール卒業と同時に結婚する、それが二人で出した結論だった。
トオルの両親は、早すぎるのではと乗り気ではなかったが、トオルは熱心に説得した。
彼にとって伴侶はセリカ以外考えられなかったし、お互い遠距離恋愛する身の上ならば
できるだけ早く一緒に暮らしたいと思うのは自然な流れだった。
また、ここしばらく音沙汰ないとはいえ、例の機関のような組織がまたセリカに
近づかないとも限らない、トオルとしては目の届くところで守ってやりたかった。
加えるならば、ニュースが流すような世情の不安もある、吉事は早いほうがいい、というわけだ。
翌日、両家の車がシドニーを走る。西暦の頃から大都会だったこの街は現在、
自然と文明が共存する南半球の名物都市、モデルシティとなっている。
自然を多く残す広い公園、快適なインフラに娯楽施設、密集しすぎないビルや居住区、
そして交通の要所としてのシステムを兼ね備えている。
その街の一角に、ひときわ高いタワーがそびえている。昨年完成した超高層ビル
「クラウド・カッティング」と呼ばれる、高度2000メートル級のシンボルタワー。
文字通り雲をも切り裂くごとくそびえたつその姿は、新たなこの街の名所として期待されている。
「うっわー、おっきぃー!」
「ホントだよ、コロニーの直径くらいあるんじゃないかい?」
セリカとアーチェスは車から身を乗り出して大はしゃぎだ。しかしまさか二人とも、
目的地がその塔自体だとはつゆぞ思うまい、ひそかに顔を見合わせてにやつくランドウ一家。
平静を装い、さりげなく話を振るトオル。
「んじゃ、ちょっと寄ってみようか。」
入場手続きをしてパスをもらい、最上階直通のシースルーエレベーターに乗る。
6人を乗せた箱が音もなく加速して上昇。地面が、近隣のビルが、シドニーの街が、
またたくまにミニチュアになっていく。
外の景色に夢中の女性陣に対し、リャンさんだけはエレベーターの案内板にある
「最上階:クラウドパレス・チャペル」の文字に気付き、笑顔でトオルにアイコンタクトする。
ニュータイプなのかどうかは分からないけど、相変わらず勘のいいヒトだ。 「ランドウ様でございますね、承っております。ようこそ、クラウドパレス・チャペルへ。」
最上階の教会前、やや白髪の混じった神父が一家を祭壇に招く。さすがに女性陣も
挙式がココであることに気付いたようだ。
目を潤ませ、顔を赤らめて感動してるセリカ、こんな彼女の表情は見たことが無い。
結婚前にようやく会心の一撃を入れられたようだ。
教会は全面がステンドグラスで覆われ、その外の空と雲と太陽と、そして眼下にシドニーの街、
結婚式のロケーションとしてこれ以上の舞台はまずないだろう。
「夕焼け時の眺めは絶品ですよ、もちろん挙式もその時間にセッティングしております。」
神父の説明にセリカはキュンキュンしっ放しだ、予定を明日にしようとか言いだしかねないな。
「ね、ねぇトオル、もう今日ここで結婚式しちゃおうよ。」
予想の斜め上を行かれた、さすがセリカ。両家の両親と神父が思わず笑う。
が、その話をきっかけに、神父は二人にちょっとしたエピソードを話しはじめる。
「今の気持ちを大事になさい。お二人には過去も未来もある、しかし神様に誓うのは
今その時の気持ちなのですから。」
神父は話す。かつて何組もの挙式を導いてきた彼が、式の前にとあるカップルと話していた時の事、
新郎側の青年が、神父と新婦にとんでもないことを打ち明けたことを。
彼は式で「永遠に愛する事」を誓う自信がない、と告白する、今は確かに彼女を愛している、
しかし未来の自分が変わらず彼女を愛せるかは分からない、と。
青ざめる新婦を前にして、神父はにこやかに諭す。あなたのその誠実さ、嘘をつけない正直さがあれば
将来のあなたが今日の誓いを裏切るはずはないと。
今の一瞬を胸に刻むことがあなたの、そして将来の二人の未来を創る。今の一歩を示さずして
次の一歩は刻めない、だから誓いなさい、今の気持ちを。それが未来につながるのだから、と。
現在、その夫婦は3人の子供に恵まれ、幸せな生活を送っているそうだ、 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています