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新人職人がSSを書いてみる 35ページ目

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0001通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 1bd2-BQKd)
垢版 |
2018/06/19(火) 19:16:43.69ID:O8vHynnR0
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
テンプレ無視や偽スレ立て、自演による自賛行為、職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、
外部作のコピペ、無関係なレスなど、更なる迷惑行為が続いております。

よって職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 34ページ目
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/shar/1499781545/l50

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/ 👀
VIPQ2_EXTDAT: default:vvvvv:1000:512:----: EXT was configured 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:669e095291445c5e5f700f06dfd84fd2)
0314ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
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2019/03/31(日) 23:26:15.78ID:mgTOe+I+0
しかし。
しかしシンには一つだけ、他の誰にも明かしていない心当たりが、一つだけあった。愛機が復活する可能性は殆どゼロであるが、殆どということはつまり、そういうこと。
この時空間転移の原因がヴァルキュリア‐システムだとして、その発動時の状況が、位置関係が記憶している通りなら。

(この世界にヴァルファウとナスカ級が来てるってんなら、間違いなくアレも何処かにある筈なんだよな)

佐世保からの報告にあった大気圏内用大型輸送機・ヴァルファウはきっと、ナカジマ隊のもの。宇宙用モビルスーツ搭載型高速駆逐艦・ナスカ級はきっと、ラドル隊のもの。
そう仮定して、時空間転移に巻き込まれた範囲を試算すれば。
必ずアレも、この世界に来ているのだ。


【GRMF-EX10A エクセリオン・フリーダム】。


キラ・ヤマト本来の機体。デスティニーと同時期にロールアウトした、名実共にC.E.最強のモビルスーツ。
この世界の何処かに、確実に存在する。所在はわからない。
小惑星基地が台湾周辺に落着したのにキラが長崎県沖で、シンが高知県沖で発見されたように転移先の座標は割とバラバラなのだから、フリーダムがどこに落ちたかなんて見当もつかないし、
もしかしたら壊れているかもしれないし、深海棲艦に鹵獲されている可能性もある。
とても探し出せるものではないし、もし敵として現れたら人類絶滅一直線だ。そんなフリーダムを運良く手に入れられたらデスティニーは修理できるかもしれない。
口外すれば無駄に恐怖心を煽るだけの、その程度の心当たりがシンにはあった。

(考えたって意味ないな。とりあえずデスティニーは思い切って、バッテリー駆動仕様に改造してみるしかないか。これから送られてくるザクのバッテリーぐらいなら私用に使っても大丈夫だろ、たぶん)

上手く事が進めば、スペックダウンした愛機で小一時間程度の戦闘なら可能になる。まずはそれを目指してまた整備を頑張るかと青年が決心したところで、なんとなく北上の言ったニコイチという単語が気になった。


ニコイチ。複数の個体から一つの個体を構成すること。


さっきはすげなく無理といったが、ザクのバッテリーをデスティニーへ移植ぐらいはできる。完全修復が不可能なのに変わりないが、過酷な現場ならツギハギで兵器を応急処置することはザラ。というか戦場の常だ。
だというのに。

「北上。そういやちょっと疑問なんだけど」
「んー?」
0315ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
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2019/03/31(日) 23:29:48.21ID:mgTOe+I+0
シンは歴史に疎いし、更には第二次世界大戦以前の軍事なんぞまったくもってからっきしだが。
だが旧ザフトのアカデミーで、教官のコラム(趣味話)として、過去にイギリスの艦艇がニコイチで修復されたことがあると教わったことがあった。
イギリス海軍のトライバル級駆逐艦ズビアン。艦首を喪った九番艦ヌビアンと艦尾を喪った十二番艦ズールーを合体させて爆誕した世にも珍しいパーフェクトニコイチ艦艇だとか。また最近知ったことだが、
他にも艦艇時代の【天津風】も艦首を喪ったことがあって、一時期ツギハギの仮艦首で活動したのだという。【響】も大破の常連で、軽度のツギハギ修理なら艦艇でも珍しいことではなかったそうな。
だというのに、そういえば、艦娘がニコイチで、ツギハギで修理したという話はまったく聞いたことがなかった。
例えば目前でうだーっとだらけている北上は修理待ちで、現在修理中の大井は球磨型重雷装巡洋艦四番艦、つまり姉妹艦で艤装にも共通点が多い。
ミッドウェー包囲網が維持できてるとはいえこの切羽詰まった戦況、呉主力の二人を順番にノンビリ修理するより、ニコイチでどちらかを早急に戦線復帰させたほうが良さそうなものだが。

「艦娘の艤装ってニコイチとかしないのか?」
「無理」

今度はシンがすげなく即答される番だった。

「なんで。あんたと大井ならできそうじゃないか」
「その発言、大井っちが狂喜乱舞するから二度と言わないように。これ以上愛が重くなったら流石の北上さまも持て余しますよ」
「はぁ?」

珍しく真面目くさった貌をする北上だが、正直意味がわからないシンである。眉根を寄せる男に対して少女は「なにか勘違いしてるみたいだけど」と前置きをしてから、
出来の悪い教え子に言って聞かせるように姿勢を正して言う。
その内容は確かに、シンの常識から大きく外れたところにあった。

「私ら艦娘の本体は、艤装なわけですよ。元々艤装って単語は、容れ物たる船体に搭載される機関や武装一式のことを指すものだけど・・・・・・艦娘の場合は因果関係が逆でさ」
「?」
「艤装があって初めて、意志総体を宿す肉体が顕現するの。艤装こそが魂であり心臓。艤装ありきで、私らの船体、肉体が構成される関係なのですよ」

装着は自由だけど、艦娘としては装備している状態こそが自然体のソレ。
艦艇の砲塔や艦首等を模し、艦娘の躰と密接にリンクしている摩訶不思議な存在である艤装はただの兵器・機械ではなく、現人類が思い描く物理法則がまったく通用しない原理原則で動いている。
艦娘の意思一つで空間を超えて自動的に装着することや、砲弾が腹部や頭部に命中したとしてもダメージの殆どを艤装に引き受けさせることだって可能にする。
艦娘は多少の被弾じゃ怪我をしないし、仮に四肢を喪っても活動することができる。でも完全に破壊されてしまえば魂と躰のリンクが途切れて全身不随になってしまうし、最悪、肉体が消滅してしまう事例も確認されている。
0316ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
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2019/03/31(日) 23:33:05.10ID:mgTOe+I+0
艦娘はヒトデナシ。
沈んだ艦艇と搭乗員の記憶をベースに魂を構成し、肉体を構成し、生まれながらにして戦う力を備えた超常の少女達。厳密には物理的な肉体を持たない、生まれてから死ぬまでずっと同じ姿形を保ち続ける霊的存在。
この世に生まれた直後は、戦い方を記憶として知ってるから戦い、時間が経てばお腹が減ることを記憶として知っているから食事を摂り、睡眠の必要性を記憶として知っているから眠るという、
それこそ本当に人間とはいえない哲学的ゾンビそのままだった少女達。
艤装に大規模な改装を施せば、比例して容姿までもが変わってしまう少女達。
それもこれも、艦娘の躰が艤装から生まれ落ちた存在であることの証左だった。そんなものを、ボタン一つで誰でもコントロールできる普通の兵器と同じように扱うことはできない。

「魂をニコイチしたら、どうなると思う? というか、できると思う?」

魂の統合は、意志総体と肉体にどのような影響を与えるだろう。
容姿と人格が混ざり合うのか、二重人格のようになるのか、片方が吸収されて消えるのか、拒絶反応が起きて二人諸共崩壊してしまうのか、それともまったく新しい魂が生まれるのか。

「・・・・・・実験したこと、あるのか?」
「ないよ。でも想像つくでしょ、誰でも。・・・・・・そんなの私らにとっちゃ恐怖でしかないって」

艦娘をニコイチする実験が行われなかった理由は三つある。
一つは、艦娘に依存して艦娘に戦ってもらうことを第一としている軍令部は、当の艦娘が拒否することを強行できないこと。
二つは、ただでさえ少ない貴重な艦娘の頭数を減らしたくないという現実的な判断から。
三つは、そもそもニコイチしなければならないほど重症を負った艦娘が、二人以上同時に帰還してきた試しがないことだ。艦種問わず轟沈した艦娘のサルベージは、未だ成功例が無い。
結果として艦娘ニコイチ修理論は、実験することなく不可能として結論づけられた。

「・・・・・・軽はずみな質問だったな。悪かった」
「ま、私個人としちゃ学術的興味はあるんだけどね〜。たぶん明石も夕張も、たぶん天津風も」
「おい」

あっけらかんと北上は言う。

「私も一応、艦艇時代は工作艦やってた時期もあってさ。流石に明石大先生とその弟子達ほどの腕じゃないし、今じゃ天津風のほうが実力あるけどねー。
でも普通の艦娘よりかは詳しいつもりだし、ニコイチしたらどうなるかってのは知りたいところだねぇ」
「さっきと言ってること違うじゃないか!」
「勿論実験するつもりはないよ? でも結果は気になるじゃない」

怖いもの見たさというか、技術者の血というヤツだろうか。脱力してズルリと椅子から落ちかかったシンである。
お気楽マイペースな北上はそんなリアクションを無視して、実にイイ顔で言葉を紡いでいく。
0317ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-twBZ)
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2019/03/31(日) 23:36:28.36ID:mgTOe+I+0
「明石と天津風は、拒絶反応で崩壊説を推してたっけ。一方夕張は人格統合説で、私も二重人格説でイケなくはないんじゃない派」
「いや訊いてねぇよ。つーか明石と夕張って誰だよ」
「明石は艤装修理の第一人者でスペシャリスト。夕張はその弟子1号で2号が天津風ね。ちなみに最近3号候補が見つかったとか」
「どうでもいいっすー」
「拒絶反応もわかるけどね。でも艦娘同士の相性によっちゃ馴染んでくれると思うんだよねー、私は。例えばとんでもなく自己否定してる娘と、とんでもないお人好しの組み合わせだったらイケそうな気がしない?」

己の得意分野となると饒舌になってテンションうなぎ登りになるのが技術者というもので、
それをキラという男から苦い思い出で悟っている青年は「はやくザク届かないかなー。それか天津風かプリンツ来てくれないかなー」と聞き流す姿勢に移る。
少なくとも訊きたいことは聞けたのだ。これ以上実現しそうにない夢想に想いを馳せたところでどうなるというのか。とりあえず、さっさと冷め切ったうどんを平らげて食器を返そうと決める。
だが残念ながら、気に入られてしまったのか、その後5分近く北上の蘊蓄や妄言を聞き続けるハメになってしまった。
救いの手は、11月14日の、11時27分。
それは、その時になってようやく呉鎮守府全体に知れ渡った、キラ・ヒビキら四人のMIAと福江基地放棄の報だった。
0319通常の名無しさんの3倍 (アンパン Sda2-LjUm)
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2019/04/04(木) 09:46:22.51ID:aWdjh1m3d0404
深海棲艦にはニコイチネタがけっこうあるけどまさか?
0321ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:13:10.90ID:3fhSH5Hu0
――艦これSEED 響応の星海――


私は。
わたしは。
死にたくはないんだ。死は怖いんだ。でも、わたしなんか生まれてこなきゃよかったって、思うんだ。
だってそうだろう。
死ぬべきところで誰かに助けられ、その誰かが代わりに沈んで、その繰り返しで、結果残されたのが【不沈艦】などと持て囃されるわたし。【不死鳥】の二つ名を持ち、旧日本海軍に運用された艦として最後まで生きた、
かつての駆逐艦の響。
そんなわたしが、みんなの為にできたことはなんだ? 鋼鉄の艦艇であったわたしは確かに戦った。確かに何隻か敵を沈めて、生き抜いた。
戦わずして沈んだ艦も多くいることを考えれば、それは確かに誇りだ。けどそれが何になった?
戦って、何になった。
AL作戦の一環として参加したキスカ島攻略作戦でわたしは艦首を失い、暁に守ってもらいながらの帰投を余儀なくされた。
一時的に占領できたキスカ島とアッツ島は最終的に奪い返され、そもそもMI作戦の陽動だったのに、当のMI作戦は日本国の敗退で終わってしまった。
船体修理中に、暁と夕立がソロモン海戦に散った。
雷が対潜任務中に消息を絶ち、電がわたしと持ち場を交代した直後に、敵潜水艦にやられた。仇は討てなかった。
マリアナ沖海戦に補給部隊護衛として参加し、主力機動部隊が壊滅し、敗走して。
損傷した輸送船救助の任を受けたが、不意の魚雷でまた大破し、更に不運が重なって一旦修理に帰投したら救助予定だった船を沈められ。日本艦隊の総力を挙げたレイテ沖海戦敗退の報を、修理中に聞いた。
後に大和水上特攻と呼ばれる、艦隊最後の戦いであった坊ノ岬沖海戦に招集されたものの、移動中に触雷して脱落。その際に呉まで護衛してくれた朝霜が帰ってくることはなかった。
そして8月15日の早朝に、海軍最後の射撃をして、終戦。
以後、復員輸送艦として行動して、賠償艦としてロシアに渡って。結果わたしは生き残って、1970年代まで――誰よりも長く生きた。
否。なんてことのない所で損傷し、大事な作戦にばかり参加せず、無為に生き存えた。
さして大きな戦果を挙げたわけでもなく。
さして大きな役割を担ったわけでもなく。
雷や電みたく誰かを助けたわけでもなく。
最後まで生き残って結局、なにも成せず。
わたしが生き残って、なにが好転した? 乗組員達には申し訳ないが、死に損なっただけだ。
なにが不沈艦だ。
なにが不死鳥だ。
わたしは死神だ! 同じ過ちを繰り返して、親しい人ばかりを死に追いやる死神だ! ふざけるな、不死鳥なんて言葉で飾るな!!
そんなもの欲しくない。死は怖いけど、それ以上に、みんなと一緒にいたかった。独りでいることのほうがずっとずっと恐ろしい。いっそみんなと一緒に沈みたかった。戦って沈みたかった。それが成せぬのなら。
0322ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:15:40.07ID:3fhSH5Hu0
わたしなんか生まれてこなきゃよかったんだ!


でもわたしは生まれた。
大日本帝国海軍特型駆逐艦22番艦の【響】として、後に艦娘の暁型駆逐艦二番艦の響として、わたしが生まれた事実は覆らない。例に漏れずわたしの魂も生まれ変わった。
生まれ変わって、弱くなった。艦艇としての記憶に囚われ、戦場で脚が震えて動けなくなるぐらい、艦娘としてのわたしはいっそ笑えるぐらい弱かった。
だって死神だから。
わたしが動けば、また繰り返すかもしれない。誰かが巻き込まれて、自分の代わりに沈むかもしれない。みんなと一緒に戦えば、また自分だけが取り残されてしまうかもしれない。
守りたいものがあるのに、まだこの手にチャンスがあるのに、わたしこそが台無しにしてしまうかもしれない。そう考えたらもう戦えなかった。
こんな己が憎い。憎らしい。それでも浅ましく生を求めてしまう己が嫌い。大っ嫌い。


ごめんなさい。生き残ってしまって、生きていて、ごめんなさい。


それでも海に出なければならない。戦力に乏しい人類側なのだから、出撃を命じられたら従事するしかない。
弱いわたしは後方支援隊に組み込まれた。提督の采配には感謝している。一緒に戦いたいという潜在的な願いと、戦ってはならないという現実的な畏れを同時に叶えてくれて、それに、
人見知りなわたしの周囲を姉妹達と瑞鳳達で固めてくれたのだから。尤も、その気遣いに応えられたとは思えないけれど。
そんなわたしだったから、艦娘としての夕立に憧れたのは必然だったのかもしれない。
憧れた。
己と同じく駆逐艦の身でありながら、単騎でありながら敵艦隊と互角以上に渡り合う、自由奔放勝手気ままなその姿に憧れた。横須賀の夕立、金髪黒衣の【狂犬】。
その様は天啓に等しかった。あんな風に自由でいれば、しがらみを全て振りほどけるのではないか。みんなと同じ海で、みんなに頼らず敵を圧倒できれば、もう誰も巻き込まなくなるんじゃないか。
なにも為し得ないまま死に損なった者の責任として義務として、強くあれるのではないか。
そう願って、夕立を師匠と呼ぶことにした。
横須賀へ渡る際に、氷の仮面を被って、あえて自らを【不死鳥】と称することにした。
決め台詞のように「不死鳥は伊達じゃない」と唱えれば、自己嫌悪で心がすり減った。そう、心を殺すのだ。文字通り心を殺して、入れ替えるのだ。新天地で、最後まで戦い抜いた栄光の不沈艦・響を演じるために。
そうすると不思議と、呪いのような不死鳥も死神も出てこなくなった。何故かと考えて、心を殺したからだと結論付けた。
そして【私】は強くなった。あの時雨と雪風を、後続の高性能駆逐艦娘を差し置いて、最強と謳われる夕立に匹敵するぐらい強くなって、不沈艦の名に恥じない数々の戦果を挙げた。
嬉しかった。私が【私】であれば【わたし】が畏れた全てを超えられるのだ。
けど本質は変わらなかった。
0323ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:18:20.04ID:3fhSH5Hu0
クールで飄々とした態度を気取っていても、心の底にこびりついた畏れと怯えは消えず、いつまでも弱い【わたし】はちょっとしたパニックで顔を出して前後不覚になって、死神を呼び寄せてしまう。
だからか、自傷のような、浅はかな接近戦嗜好は私に一種の存在意義を与えてくれた。無意識の内に、接近戦に拘ることで何かが赦されると思っていた。誰かを守るなら一番確実な手段だからと、自分の事を勘定に入れず。


これでいい。私はこれでいい。


でも。
なんでだろう。
キラ・ヒビキという男に逢って、何故か、どこかの歯車がズレた。一緒といるとなんでか少し安心してしまうようになった。思えばあの時から【私】という仮面は砕けつつあったのかもしれない。
そしたらいつの間にかキラと、いつしか疎遠になっていた瑞鳳と行動を共にするようになっていた。
ナスカ争奪戦でなにかが芽生えようとしていると感じて、もっと前に進めると思って、瑞鳳ともちゃんと仲直りできて、もうこれからは絶対大丈夫だと根拠なく信じられた。
そして、それからの日々がとてもとても、酷く楽しかったから。
仮面が外れかかっていることに、気づけなかった。無自覚にわたしが表に出ていた。
不死鳥が、死神が来た。
瑞鳳が、夕立が、キラがいなくなった。
つまりそういうことだ。またわたしだけ一人で助かった。
本質は変わらない。
そうだ。
そうだったのだ。
何も変わっていない。全てが幻、勘違い、無駄だったのだ。前提からして間違っていたのだ。心がどうこうなんて、そう思い込みたかっただけなのだ。
響という存在そのものがこの世界の害悪だったのだ。いてはいけないものだったのだ。
そういう運命なら。みんなの事を真に想うなら、生まれてこなきゃよかったと思うなら。
消えるしかない。完全に消滅するしかない。今すぐに。死にたくないとかいう、甘ったれたわたしの意思なんてゴミ屑同然なのだから――


(――違う!!!!)


――・・・・・・?
・・・・・・、・・・・・・誰・・・・・・?

(そんなの絶対に間違ってるもん!! 響がそんなの、違うんだからぁ!!)

誰かの声。
内側から響く誰かの声が、懐かしくて涙が出そうになる声が、突然、わたしを否定してきた。
0324ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:20:10.83ID:3fhSH5Hu0
なんなんだ、一体? ・・・・・・否定してくれるのは嬉しいけど、嬉しいと思うわたし自身が世界の癌なんだ。放っておいてくれないか。

(嫌!!)

いやって・・・・・・
そりゃわたしだって嫌だよ。でも仕方ないじゃないか。死神はこの世界にいちゃいけないんだ。

(響が死神だなんて、誰が決めたの!?)

・・・・・・それは。

(あーもう、もしかしたらって思ってたら本当にこの子は・・・・・・、・・・・・・こうしてても埒があかないわね。変に頑固なのは知ってるから強行手段でいくわよ)

なにを、と思った時には、わたしの意識がふわりと浮かび上がるのを感じた。
本当に一体なんなんだ。ヒトがせっかく死ぬ為の準備をしていたのに、最後に覚悟を決めようとしていたのに、いきなり割り込んで台無しにして。なんなんだ、これ以上わたしに生きろと言うのか。
やめてくれ。もうたくさんなんだ。
ねぇそこの誰か、もしわたしのことを想うなら私の代わりに暁達に、祥鳳達にごめんと伝えてくれないか。それだけが心残りなんだ。そうしてくれれば満足だから。

(ううん、大丈夫よ響。貴女は大丈夫なの。・・・・・・だから瞳を開けて? 私達はそんな貴女が好きで、受け止めたいって思ってるんだから。たとえ死神だって、私達は貴女を、響を救う為にここにいるんだから)

――だから、生きて。
その言葉を最後に、誰かの声は聞こえなくなった。同時に、光がわたしを包んだ。
暖かい光。
あっけなく、わたしが頑張って固めようとしていた覚悟を粉砕した光。抵抗しようとしても、できない光。どこか懐かしい、躰をぎゅっと抱きしめてくれるような光。勝手だ、そんなの望んでないのに。
導かれるようにして、わたしは、二度と目覚めまいと思っていたセカイに目覚めた。
0326ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:21:30.76ID:3fhSH5Hu0
《第18話:シュレデンガーの翼たち》



「・・・・・・生き、てる・・・・・・」

まどろみから醒め、重く閉ざされていた瞳をこじ開けて、第一声。しわがれた声が、知らない空間に虚しく消えた。
視界が霞む。耳鳴りが酷い。身体が重くて熱っぽい。しかし残念ながら思考はクリアという、なんとも最低最悪のコンディション。
生きている証。
夢の中で己の絶対的な消滅を願って、お節介な誰かに邪魔されて、目覚めて。わたしは生きていると、響は絶望と共に認識した。

「なんで・・・・・・?」

戦士としての本能が、少女に状況の把握を迫る。なにがどうしてこうなったと、理路整然とした理屈を構築しなければならないと迫る。生きているから、生きろと言われたから、生きる為の努力をしなくてはならないと。
生きるということは死者の上に立っているということで、死者を想うのなら、よほどの覚悟が無い限りは生き続けなければならないのだ。その覚悟を壊されたわたしの運命は、まだ続いていく。
これもまた運命か。
仕方なく、響は今感じているモノの分析を始めた。
感覚。仰向けに寝ている。身体は満足に動かせず、首を動かそうとするだけで痛みが走る。
視覚。薄暗い部屋。見たことのない白い天井に、裸電球がぶら下がっている。なんとなくテレビで見た一般住宅のソレに似ている。
触覚。柔らかい布の感覚。よくわからないけど多分、布団の上。
聴覚。耳鳴り、心臓の音、呼吸の音。
味覚。鉄の味。
嗅覚。埃の匂い。
総合して、ここはどこかの民家なのではないかと推測する。
何故?
ウィンダムと戦って、瑞鳳がやられて、わけがわからなくなって海に飛び込んで、瑞鳳の後を追ったのまでは覚えている。
そうしなきゃならないという使命感と、これで自分も逝けるという仄暗い安堵感で、彼女の遺体を抱いた。わたしは死んじゃったはずだと内心首を捻る少女。
いくら不死鳥といっても、あそこから蘇るどころか陸で目覚めるなんて。それこそワープかなにかじゃなきゃ説明がつかない。艤装単体ならともかく、わたしにそんな機能はない。
それに。

(左腕が・・・・・・脚も。修理、されてるの?)
0327ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:23:20.20ID:3fhSH5Hu0
幻肢痛の類いでなければどうも、先の戦闘で欠損したはずの四肢がちゃんとあるように感じられる。艦娘といえど艤装を直さないと復活しないはずで、自然治癒はありえないのに。これもまた不可解だ。
今の己を取り巻く環境は謎でしかない。
ただ、それでも一つ明確に解ることがあった。結局また死に損なった。一人だけ生き残って、かつて鎮守府で目覚めたキラとまるで同じような恰好で、一人で目覚めたのだ。あの時の彼の気分がよくわかった。
こんなことなら、なんであの声はわたしの邪魔をしたのだと思う。こんな世界に生きていたって仕方がないのに、余計なことを。
そもそも、

「あの声、なんだったの・・・・・・」
(あ、起きた? おはよう響)
「・・・・・・、・・・・・・んん?」

幻聴。
鼓膜に何の刺激もないのに、何かが聞こえるように感じること。
おかしい、今確かになんか馴れ馴れしい感じでなんか聞こえた。具体的には、さっきの夢で聞こえたお節介さんの声が、己の内側から聞こえてきた。・・・・・・ここは地獄のような現実世界なのではないのか?
幻聴は疲れてる時に聞こえることもあるとかなんとか。
疲れてるのかな・・・・・・いや、うん、わたしは疲れている。あんな戦いで疲れないほど超人じゃない、身も心もへとへとだ。生き残ってしまったのなら仕方ない、よし寝よう。

(ちょ、ちょー!? 待って待って寝るの待って!? っていうかさっきまで悲壮感バリバリだったのに図太すぎない!!??)
「わたし、仲間を喪うの慣れてるもん・・・・・・、・・・・・・こういう切り替えの早さも不死鳥の秘訣。私には休息が必要だからдо свиданияだ幻聴さん」
(わー!? さっそく心を殺そうとしないの!! 目を開けてー!?)

なんて騒がしい幻聴だろう。さっきまで悲壮感バリバリだった? あの声と光で悲壮感をまるっと潰してくれた張本人がなにを言う。おかげで沈んでいた気持ちが何処かへ飛んでいってしまった。
だんだんムカっ腹が立ってきた響である。
そうだ。そもそもこの幻聴は一体なんなんだ。
遅まきに気付いたが、この、懐かしくて涙が出そうになる声で、わたしの大切な人の声で。趣味が悪い、吐き気がする。

「・・・・・・わかったよ。でも幻聴ならせめて、瑞鳳姉さんの声だけはやめてよ」
(だって私、瑞鳳だもん! 私は私の声しか出せないわよぅ!)
「・・・・・・は?」
0328ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
垢版 |
2019/04/22(月) 19:25:26.05ID:3fhSH5Hu0
こいつ、なんて言った?

(はいなんだコイツとか思わない! いい響、まずは何も考えないで右を見る! 首が痛くてもここが我慢のしどころファイトー!!)

あまりの衝撃発言に頭が真っ白になった少女はハイテンションな幻聴(?)に逆らえなくて、うっかり言われるまま顔を右に向けてしまう。首筋が痛んだが、気にならなかった。
そこには。


鼻先が触れる距離に、キラの穏やかな寝顔。


えっ・・・・・・と思考が硬直する、その直前。

(はい次、左!!)

新たな指示。
ギギギ、と出来の悪いブリキ人形のように180度反転。


吐息がかかる距離に、夕立のまぬけな寝顔。


いなくなったはずの、大切な人達が、響を両側から抱きしめて眠っている。
クラリと目眩がして、バキンという音がして、意識は一旦そこで途切れた。



0329ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:28:20.51ID:3fhSH5Hu0
「――ッハ!?」
「あ・・・・・・良かった、目が覚めたんだね。Доброе утро、響」
「起きたっぽい? ・・・・・・もう瑞鳳さん強引過ぎっ。すごくショックだろうからゆっくり説明しなきゃってキラさん言ったっぽい」
<うぅ、だってぇ。ああでもしなきゃまた響ネガティブになっちゃいそうだったし・・・・・・>

起きたら全てが夢でした、と言わんばかりの光景がそこにあった。
見慣れない民家の天井をバックに、心配そうに覗き込んでくるキラと夕立の姿。何処かからノイズ混じりのスピーカーで聞こえてくるような瑞鳳の声。少女がとうに諦めていたものが、
あまりに呆気なく軽々しく、そこにあった。
同時にその光景は、今までが夢でないことも物語っていたが。
夕立の上半身は包帯でグルグル巻き、右頬に大きな裂傷が痛々しく残っていて、あの【姫】との戦いが現実のものだったと主張している。
キラには外傷こそなさそうだが、紫晶色の瞳の下に色濃い隈があって、酷くやつれているように見えた。

「・・・・・・、・・・・・・っ」

でも間違いなく生きている。
海に消えたとばかり思っていた人達が、生きている。
理屈も理由もどうでもいい。嬉しくてじんわりと涙が溢れてきて、ぽろりと流れて、止めどなく枕を濡らして。やっと見えた二人の姿が滲んでしまって、哀しくなって、涙が止まらない。

「どう響。僕達のこと、見えてる? 覚えてる?」
「・・・・・・う、うん。見えてる、と思う・・・・・・、・・・・・・わたしっ・・・・・・みんな、死んじゃった、って・・・・・・」
「大丈夫だよ。君も、ちゃんと生きてるって。幽霊とかじゃないんだよ」
「天国に行くにはまだ早いっぽい。すぐ元気になってアイツにリベンジかましましょ」

見ていて安心感を覚える優しい微笑みと、戦友としての激励の言葉。弱々しく呟く響の右手をキラが、左手を夕立が握ってくれた。

<こーら急かさないの夕立。まずいろいろ教えてあげなきゃ>
「躊躇いなく患者を気絶させたヒトが言うこととは思えないっぽい」
<うぐぅ>
「まぁまぁ。実際のとこ響のバイタル落ち着いてるし、有効だったと思うよ僕は」

そして、スピーカーから聞こえてくるような声。間違いなく瑞鳳の声だ。彼女もここにいる。
・・・・・・いや、でも、さっきは幻聴のように、自身の内側から響いてこなかったか? 夢に介入してきたような気がするが?
どういうことだろう、彼女はどこにいるのだろうと響は視線を彷徨わせる。身体は依然として重くて熱くて痛くて、起き上がれそうになかった。
会いたい。
瑞鳳はどうして声しか聞かせてくれないのだろうと、悲しくなってまた涙がこみ上げてきた。
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2019/04/22(月) 19:30:32.91ID:3fhSH5Hu0
(ごめんね響。本当は私も抱きしめてあげたいのに・・・・・・ちゃんと全部、説明してあげるからね)
「・・・・・・瑞鳳、姉さん?」
<・・・・・・よし。じゃあキラさんお願いします>

内側から外側から、交互から響いてくる声に目を白黒させていよいよ混乱の極みに達する寸前に、少女の涙を拭う青年。

「キラ。瑞鳳姉さんは・・・・・・?」
「落ち着いて聞いて、大丈夫だから。・・・・・・えっとね、もう感づいてるかもだけど・・・・・・君の中にいるんだよ」
「?」
「響と瑞鳳。君達二人を助けるには、これしか・・・・・・艤装をニコイチしたんだ。二人で一つの命って感じで・・・・・・夕立ちゃん」
「実際に見てみるのが一番いいっぽい」

手鏡。
この民家にあったものだろうか、薄汚れひび割れたソレが突き出される。
憔悴しきった、見たことのない顔が鏡の中にいた。


髪型と顔つきは響のもの。けれども髪は亜麻色で、瞳は金糸雀色と、それは見慣れた瑞鳳のものだった。


二人を雑に足して割ったような塩梅の少女が、わたしを見つめていると響は思って、それが自分なのだと気付くまでに数秒の時間を要した。
――これがわたし?
キラは艤装をニコイチしたと言った。艦娘の魂であり心臓たる艤装を掛け合わせ、二人で一つの命にしたと。この容姿と瑞鳳の声こそが証明で、彼女は響の中にいるという。
艦娘ニコイチ修理論というものを聞いたことがある。戦争初期に論争があって結局実験することなく流れたと明石が言っていたが、まさかコレが、そうなのだろうか。
ともあれ今の響の中には、もう一つの魂が存在していることは確かのようで、すんなり納得できた。思いがけない同居人としばらく主観と肉体を共有していくことになる。なんだかこそばゆい心地だった。

(えと、突然だけど、ふつつか者ですがよろしくお願いします、響)
(ふつつか者なんて。こっちこそ狭い思いさせてごめんね)
(こう言っちゃアレだけど意外と快適なのよ? ・・・・・・、・・・・・・あー、それとね? 最初に一つ、謝らなきゃいけないことがあるんだけど・・・・・・)
(わたしの過去とか気持ちとかが筒抜けだってことなら、いいよ。むしろ知ってくれて嬉しいぐらい)
(そ、そう? ・・・・・・でも、そうね。さっきは夢に割り込んじゃったケド、なるべく干渉しないようにするね)
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2019/04/22(月) 19:31:51.55ID:3fhSH5Hu0
まるでテレパシーのような脳内会話も、ヒミツの内緒話のようで愉快だ。
するとキラが二階堂提督お古の携帯端末を、響の枕元に置きながら言う。

「君達を回収できた時にはもう融合しかかってて、そのまま応急処置で・・・・・・僕にはこうするのが限界だった。でもちゃんと修理すれば、明石さんなら分離できる、と思う。たぶん」
「ホント、こんなことになっちゃうなんて思わなかったっぽい。事実は小説・・・・・・なんだっけ?」
<事実は小説よりも奇なり、ね・・・・・・とにかく、私達はみんなで生き残れたのよ。改めてありがとうキラさんっ、私達を助けてくれて>

夕立がとぼけて、携帯端末から瑞鳳の声。なるほどと合点がいった。どうやら彼女の意志は、響にしか聞こえない内なる声と、外部出力用の携帯とで使い分けられるらしい。
スピーカーが若干音割れしているのはガラパゴスと揶揄されている旧式携帯端末のスペック不足が所以だろうか。
それにしても。これまでの話を総合すると、自分達を取り巻く状況は思っていた以上に少女の常識の遙か上をいくものであるようで。
どうしよう、と響は思った。


カタチはどうあれ皆で生き残ったという実感がだんだんと湧いてきて、どうすれば、この恩を返せるのだろうと思った。


不死鳥も死神もやってこなかった。一人で早合点して絶望してバカみたいだけど、それもこれもこの素晴らしい仲間達のおかげで、こんなに嬉しいことってない。
その上こんな自分なんかを肯定して、救ってくれようとしている人がいる。変な話だけれど、もう死んだっていいぐらい心が満たされる。勿体ないぐらいだ。

(あらら、すっかり泣きむし響に戻っちゃったわね)
(だって・・・・・・)
(うん、たくさん泣いて。私達はそんな貴女が好きで、受け止めたいって思ってるんだから、ね?)

もう絶対に手放したくない、喪いたくない。
その想いを世界に表明するかように、産声のように、響は声を上げて泣いた。



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2019/04/22(月) 19:35:06.51ID:3fhSH5Hu0
福江島南西部にあった、廃れに廃れた無人の町。都会を除き、世界中の海沿いの町がこのように荒れ果てているといい、元より田舎だったここら一帯も例外なくボロボロのゴーストタウンと化している。
その一角に佇む家屋に、キラは傷ついた響達を連れて逃げ込んだ。エネルギー枯渇寸前のデュエルでは基地に戻れず、
みんなで生き延びるにはこの高台の家――高波などの影響が少なく割と綺麗なまま残っていて、結構レアでラッキーっぽいと夕立が言った――に勝手に隠れるほか選択肢がなかった。
そしてあの戦いから、あの敗走から丸一日以上が経って、目覚めた響にここに至るまでの経緯を説明してから一時間が経った今、11月15日の14時03分。
改めて振り返ってみると本当によくここに辿り着けたものだと、踊る炎をぼうっと見つめながら思うキラである。

「・・・・・・」

かつてアラスカを目指して旅をしていた頃、オーブを発ってアスラン達と本気の殺し合いをした頃と似ているなと感じる。
全てが全て、予定調和のように良くない方向へ連鎖していくあの感じ。最善を尽くしても絶対に最善に届かない、あの嫌な感じ。破滅の予兆。
こうなることが運命に決められていた戦いだったというのは流石に過言だろうか。脳裏にある男の呪詛と、昨夜の夕立の言葉が蘇る。

『逃れられないもの、それが自分・・・・・・そして取り戻せないもの、それが過去だ!!』
『あたし達艦娘の過去というか、因子? 運命? そういうのって割と再現されちゃうのかもって提督さん言ってた。夕立はいつも意図的に顕わして戦ってるケド・・・・・・今回は四人分のそれが悪い方に絡まったっぽい?』

此度の敗走、敗北に繋がった因子。
かつて囮として散った瑞鳳と、混乱の中へ消えた夕立。悪運の末に生き残ってしまう響とキラ。それらの因子が運命という螺旋になって、この結果を呼び寄せたのかもしれない。
デュエルとグーン、夕立と【軽巡棲姫】の戦いは正に、連鎖して破滅していくシナリオの一部だったのかもしれない。
あの時。
一時は負けるかもしれないとすら思ったグーンからの攻撃を、咄嗟にOSを書き換え実現した、スラスターと人類の泳法を組み合わせたマニューバで掻い潜って九死に一生を得て。
それは夕立が【姫】相手に大博打を仕掛けたタイミングで、6本の魚雷の爆発は丁度海面近くまで浮上していたグーンの体勢をも崩したのだ。最初で最後のチャンスを見逃さなかったキラはすかさず懐に飛び込み、
レールガン・シヴァをコクピットに突きつけて接射、撃破に成功する。
しかし今度はグーンの爆発のせいで、王手をかけていた夕立の体勢が崩れて【姫】と相打ちになってしまった。
被弾して海中に引きずり込まれた夕立はそれでも【姫】を羽交い締めで道連れにしようとし、そこをキラが慌てて救出した。
そして間もなく瑞鳳がやられて、響が潜って。【姫】へのトドメを断念し、融合しながら沈みゆく二人を確保して、我武者羅に戦闘海域から離脱したのだ。
不幸中の幸いだったのは、三人の少女達の総質量がデュエルでも運べる程度のものであったことだ。質量制御でギリギリまで艦艇としての重量を抑え、かつ損傷していたからこそ、
辛くも奇跡的にこの廃墟まで逃げることができた。逃げて、一夜かけて響達の修理に没頭できた。
確かに言われてみれば運命という単語がピッタリ当て嵌まるような気がした。
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2019/04/22(月) 19:37:45.05ID:3fhSH5Hu0
ならば響と瑞鳳の今も、運命なのだろうか?


無我夢中でどうやったか覚えてないしもう一回やれと言われても無理としか返せないが、なんとか少女二人を無理矢理つなぎ止めた。
容姿はかなり混じってしまったものの、二人の意識総体が変質しなかったのは奇跡としか言い様がなく、明石に艤装修理の方法を教えてもらっていて、それを実践できるポテンシャルがあって本当によかったと心底思った。
なにせ自身の存在が変質していなければニコイチ修理なんて不可能だったし、よしんば形だけ修理できたとしても二人の意識は目覚めなかっただろうから。
果たしてこれは必死に掴み取ったものなのか、予定調和なのか。沈む運命に逆らい命を救ったのか、生き延びる運命のまま響の心を折らせてしまったのか、どちらなのだろう。
でも、どちらにせよ。
彼女達をこんな辛い目に遭わせてしまった現実だけがここにあるのに、現実逃避に他ならない己の思考にキラは自己嫌悪する。
どんな理由があったとしても、なにをどう言い訳しても、護れなかったのだ。

(誰かのせいにしたいってのか。本当、スペックだけは無駄にあるくせに人を護れない奴だな、僕は)

響の雰囲気というか性格に、変化が見られた。
瑞鳳曰くこれが元々の素だそうで、つまりは気持ちを制限していた仮面とやらが外れた状態なのだろう。それだけ心身共に受けたダメージが大きく、折れて、瓦解してしまったということだ。
瑞鳳を姉さんと呼んでいたのは昔の名残か、心の防衛反応か。
無防備に露出した彼女の有り様は、痛ましかった。いっそ泣いてる顔も綺麗だと見蕩れてしまうぐらい、悲惨そのものだった。
出逢った時から既に仮面をつけていて、それでも尚感じられた彼女の脆さと罪悪感が剥きだしになっている。瑞鳳が望んだ優しいカタチとはまったく逆の、酷く乱暴なカタチでだ。
なんでも自分のせいだって思ってるような彼女の心は、危ういを通り越し、今や自壊寸前の薄氷である。


それこそが、己が守りたいと、救いたいと、支えたいと思った少女の現実だ。


こんな酷い現実ってない。本来ならこんなことにならないようにするのが、自分の役目だったのに。
一言で言えば、最低の男なのだろう。グーンなんかに苦戦して護れず、未熟な腕で事後処理だけをして胸を撫下ろしているこの自分は。
己が想像するよりもずっと辛いだろうに、あえて明るく振舞ってくれている瑞鳳と夕立の強さに甘えている、この自分は。
つくづく痛感する。
フレイ・アルスターに正統に詰られた頃から全然変わっていないと。己という存在は誰かの心を救うのに向いていないと。こんな体たらくでよく人様を守るだの救うだの支えるだの言えたものだ。
何度同じような過ちを繰り返すつもりだ。
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2019/04/22(月) 19:40:26.51ID:3fhSH5Hu0
彼女を守ろうと思ったのは本心。救おうと思ったのは本心。支えようと思ったのも、紛れもなく本心。恩義として望みとしてそれを成そうと決めて、彼女達と共に在ることを決めた。その為の努力を惜しまなかった。
しかしこの世は結果こそが全て。
瑞鳳は助けてくれてありがとうと言ってくれた。でも自分には少女達に感謝される権利なんて一欠片もないのだ。
傷ついた少女達の支えになりたいと未だ薄っぺらい微笑みを貼りつけているだけの薄っぺらい男に、何も知らない彼女の感謝は重たすぎる。
不甲斐ない。
運命がどうこう因子がどうこうなんてのは所詮言葉遊びで、つまるところ、この現実にキラは打ちのめされていた。
打ちのめされ、理由をとってつけて廃墟の庭へと逃げて、ぼんやり焚火を眺めている自分の姿に、失望する。

(・・・・・・わかってるよそれぐらい・・・・・・今更自嘲したって自己満足にしかならないってのもわかってる。でも、それでも、まだ生きている僕はこれから何ができるのかを考えて、前へ進まなくちゃいけないんだ・・・・・・)

この持ち前の傲慢さだけが頼りだった。
良心の呵責を、理想論を、押し殺す。そんなものにいちいち囚われていたら生き残れないと、生きなくてはならないと問題を先送りにする。
兎にも角にも、ここからみんなと一緒に生還しなくては。
一刻も早く彼女達を治療して元に戻してあげたいし、なにより休息と安心を与えてあげたい。それを最低限として、もっと彼女達にしてあげたいことが沢山ある。
それに佐世保の仲間達にも心配をかけているはずなのだ。おそらく自分達四人はMIAと、死んだと見なされているだろうから、どうにか健在であることを伝えなければ。
あの気の良い仲間達は響達が死んでしまったと深く悲しんでいるに違いない。
基地に帰れれば、きっと大丈夫。
そういえばキラとしては他人に死んだと思われるのはこれで三度目、もしかしたら四度目になるが・・・・・・こんな変な経験ばかり豊富でなんになるのだろうと虚しくなった。
なんて徒然考えていると、いつの間にか雨音が随分と大きくなっていることに気付いた。轟々と降りしきる大粒の雫が、屋根代わりにしたデュエルのシールドを容赦なく打ち据えている。

「っと、ホントもう。なんでこんなタイミングで嵐かなぁ」

天を仰いで、泣きたいのはこっちだよと愚痴りたい。
追い打ちのように昨夜から降り出した雨は弱まることを知らず、これでもかとキラ達を孤立させる。身動きを封じて、しばらくここでの生活を強要してくる。
本当になんてタイミングの悪い。神様なんか信じていないけど、完全に見捨てられたかのよう。
つまり。


精神的にも肉体的にも物資的にも問題を抱えたままのサバイバルが、キラ達四人にして三人を待ち受けていた。
0336ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:43:13.67ID:3fhSH5Hu0
帰れない。
頼みの綱だったデュエルの稼働時間はあと5分ぐらいしか残されておらず、そしてその5分では基地に帰れない事実が、既に判明している。
昨日のうちに夕立が町名を調べてくれて、所持していた地図と照らし合わせた結果だ。ここから基地まではどうやっても届かないぐらいの距離があるので、デュエルはこの町に一時放置することにした。
しかし代用にできそうな車両等は見つからず、自力で基地へ帰ろうとすれば響と夕立を背負って歩くという非現実的な選択肢しかなく。嵐の最中にそれはあまりにもリスクが高く、下手すれば遭難してしまうかもしれない。
かといっておおっぴらに救難信号なんか出したら深海棲艦に見つかりそうで、嵐が去った直後に砲撃されかねない。
現実的に考えると基地に放置されているであろうストライク宛てにレーザー通信を送るしかなく、定期的に試みているとはいえ誰かに気付いてもらえるかは運だ。ついさっきもやってみたが応答はなかった。
お膳立てされたかのように、この廃墟に閉じこもるしか道がないのである。
幸い手元にデュエルに積んでいたサバイバルキットがあるので、約二日ぐらいなら食糧に困ることはないが、
逆に言えばたった二日分だけだ。いざとなったら周辺の廃墟に押入ってでも食物を探すつもりだが、言うまでも無く望み薄だろう。
問題と不安しかない。

「けど、だからって食べないわけには・・・・・・嵐がさっさといなくなるのを祈るしかない、のかな」

ここでピピピッというアラーム音。
視線を下げれば目前の小さな鍋から湯気がもうもう上がっていて、お粥なるレトルト食糧が食べ時であることを告げていた。もうそんな時間だったかとタイマーを止める。
人間は常にお腹が減るもので、どんな危機的状況であってもそれは変わらない。腹が減っては戦は出来ぬ。軍隊は胃袋で動く。世界は美味いご飯で廻っている。
個人も組織も状況も古今東西も問わず、気力体力共に充実してなければ良い仕事なぞ到底不可能。
とってつけた理由であったが、臨時主計課だけど動けなくなった響と瑞鳳に代わって唯一キラにしかできない、かつ絶対必要な役割を熟すべく煮えたぎったお湯からパウチを取り出す。

「ぅアッつ!? ・・・・・・そ、そうか。この時代のはまだ・・・・・・コストの問題なのかな」

C.E.のレトルトパウチは取っ手が断熱仕様だったのになんてどうでもいいことを愚痴りながら、おっかなびっくり中身をマグカップへ。
ついでビスケットタイプの固形食糧入りパック、ミネラルウォーター入りボトル三本と一緒にお盆に載せて、ちっとも美味しくなさそうな食事ができた。
はやくも瑞鳳達が作ってくれた美味しい食事が恋しくなったが、それらは破壊された艤装と共に海の藻屑である。
こんなんで気力体力が充実するわけないが、しかし、無いよりマシだ。14日の朝食以来の食べ物に、今更思い出したように腹の虫がぐぅと鳴いた。
そうだ。
ものは考えようで、展望はないけど、たった二日分で美味しくなさそうだけど食糧はある、命運が尽きたわけじゃない。自分達が置かれた状況は所詮一時的なもので、嵐さえ去ってしまえば、基地との連絡手段だってきっと色々見つかる。なんなら本当に歩いて帰ってもいい。
0337通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 12ad-PDN5)
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2019/04/22(月) 19:43:57.11ID:3fhSH5Hu0
回避
0338ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:44:41.84ID:3fhSH5Hu0
絶望には程遠い。それにシンもアスランもカガリも遭難経験があるんだからきっと大丈夫! と空元気で心の内にある濁りを隠すキラだった。
あの少女らが一緒にいるのに弱音なんてありえない、唯一怪我をしてない己が不安でいてどうする。
焚火を始末してから右手にお盆、左手にタオルを投入した鍋を掴み、響達のいる部屋へと戻ろうと立ち上がる。

(・・・・・・それに、希望的観測だってあるにはあるんだ。夕立ちゃんが言ったことを本気で考察するなら、この状況はまだ、どっちつかずなはずだから)

そうあって欲しい、そうだったら良いなと思えるだけの根拠ならあると、土足のまま廃墟に上がり込みながら考える。昨夜の夕立との会話は実に興味深かった。
何事も、ものは考えよう。サバイバルを強いられている今こそが、希望的観測の根拠になる。無理矢理にでも希望を見出すことが、可能なのだ。
話がまた随分と戻るが。
正直なところ自分でも意味不明と思ってしまう話だが。いっそ無意味な言葉遊びのようなものかもしれないが。

(我ながら突飛すぎる発想だけど・・・・・・もしも本当に運命ってやつがあるのなら、僕達の因子がこの状況を呼び寄せたのなら。
・・・・・・つまり新しい因子が、運命が生まれてるかもしれないこの状況なら、未来は誰にもわからないってこと、だよね)

その身の由来、過去、因子、運命といったものを再現してしまうかもしれない、艦娘の性質。
其の性質は、生還する為の希望へと転じることもあるのではないか。
無理矢理見出した希望は、瑞鳳の意志総体を取り込んだ響そのもの。
ニコイチ修理して、二人の魂を崩さぬよう、そういう存在としてこの世につなぎ止めた少女は。別の見方をすれば、窺知のものに当て嵌まらない新しい存在であると言える。
便宜上、航空駆逐艦・響鳳(きょうほう)とでも名付けようか。
瑞鳳を内に宿した響という一人の少女であり、響鳳という一人の少女であり。
シュレデンガーの猫のように、数多の可能性が同時に重なりあった非確定的量子存在。量子力学的に、そういう風に観測して確定させることが、できる。なにせそう仕上げたのはキラ本人だから。


例えば。響鳳という未知の因子が生まれたから、自分達が無事にこの廃墟に辿り着けたと考えることはできないだろうか?


海中で既に融合しかかっていた彼女(因子)だから、これからの運命(因果)すら超えて生還できると考えることは?
発想を180度逆転させた、結果ありきで身勝手で他人任せの馬鹿らしい、響達の心を一切合切無視する残酷な、しかしこの上なくバカらしいポジティブな仮定である。
そう、このクオリアを以て可能性を収束させれば、彼女こそがこの八方塞がりを打開する光になるかもしれないのなら、そんな突飛な仮定だって信じられる。
いっそ開き直って、傲慢の極地たる人間原理のように信じたいものを信じればいいのだ。
0339ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:47:13.51ID:3fhSH5Hu0
この以上なく不誠実なダブルスタンダード。でも他に展望がないのだから。

「・・・・・・なんてね。こんな妄想、僕のキャラじゃないでしょ」

肩を竦めて苦笑を一つ。
こういう気分の人が怪しい宗教とかにコロッと騙されちゃうのかもしれない。
いつだったか「未来を創るのは運命じゃない」と語った口で、ありもしない運命に綴って。とんでもない仮定をでっちあげてちょっとポジティブな可能性を幻視して。思ってたより参ってるんだなと自己分析。
一蹴。ちょっと小難しいコト考えて現実逃避したかっただけだ。
しかし益体ない妄想も気分転換にはなったようで、なんだかスッキリした気分なものだから反省会は終いにしようと踏ん切りがついた。
どん底まで落ちたのなら、あとはひたすら這い上がるのみ。どうしようのない日々ならせめて、いつか笑い話に変えられるように。
よし! と小さく呟いて気合い充填、改めて全力で少女達の助けになることを心に誓う。さっき確認した通り、自分達が置かれた状況は所詮一時的なものなのだから、なんとでもなれるのだ。
さしあたっては、まず響と夕立に食事を。瑞鳳には・・・・・・どうしよう? 自慢の爆笑ネタでも披露しようか。
キラはいつもの笑みを浮かべて、ようやっと少女らの待つ寝室へと戻る。

「お待たせ、とりあえずだけどご飯できたよ。食べれそう?」
<え、っあ!? キラさん今入っちゃダメぇ!?>
「へ?」

そうして出迎えてくれたものは、素っ頓狂な瑞鳳の悲鳴と、素っ裸な夕立の姿だった。
0340ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 12ad-ZG7F)
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2019/04/22(月) 19:52:21.78ID:3fhSH5Hu0
以上です。
キラ達を徹底的に隔離するまでこんなに掛かってしまったのはかなりの誤算でした。

>>319
そのまさかでした。いっそ深海堕ちさせようかとも悩みましたが、こんな感じになりました。
0341通常の名無しさんの3倍 (アウアウクー MM39-/PfY)
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2019/04/23(火) 03:50:01.67ID:v6YzFfcaM
てす
0343通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 12ad-PDN5)
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2019/04/24(水) 00:03:33.42ID:SdR8R+lh0
ガンダム界で死神といえばそのバーバリー中尉と08小隊サンダース軍曹とデュオがパッと出てきますね
他にも沢山いそうですけど、まぁ史実創作問わずしぶとく生き残る人が死神呼ばわりされるのはよくあることですね

そういえば史実に【幸運艦】【奇跡の駆逐艦】【超機敏艦】と呼ばれた陽炎型駆逐艦八番艦の雪風という、
主要の激戦のほとんどに参加して戦果を挙げつつも最後までほぼ無傷で生き残ったリアル異能生存体な艦がいるのですけど、この雪風すらも味方から疫病神呼ばわりされてたことも(成否は別として)ありました
0344ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:11:27.46ID:7hYZcA4L0
半年ぶりに。誰もいないのだとしても投下です


――艦これSEED 響応の星海――


『Bitte entschuldigen mich――っじゃなくて、ごめんくださいっ! マスターさんはいらっしゃいますか!?』
『あ、プリンツちゃんいらっしゃい・・・・・・、どうしたの? さっき出前に行っちゃったとこだけど』
『そんな・・・・・・、・・・・・・あのっ! その、突然ごめんなさい、実は私達マスターさんにお願いしたいことがあって・・・・・・すっごく身勝手なのはわかってます。今度お店の手伝いでもなんでもやりますっ。だから・・・・・・!』
『うん、わかった。とっても大変な、大事なこと、なんだね? 今呼んでみるからちょっと待っててね』
『・・・・・・Besten Dank』



0345ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:13:42.98ID:7hYZcA4L0
なんということでしょう。

「お待たせ、とりあえずだけどご飯できたよ。食べれそう?」
<え、っあ!? キラさん今入っちゃダメぇ!?>
「へ?」

いつもの笑みを浮かべて、ようやっと少女らの待つ寝室へと戻ったキラを出迎えてくれたものは、素っ頓狂な瑞鳳の悲鳴と、素っ裸な夕立だった。
薄暗い部屋の中、傷だらけだけれども尚美しい白い肢体、戸惑いに揺れる紅い瞳が浮かび上がっている。
夕立は全駆逐艦娘の中でも上位に食い込むほどの、スタイルの良い少女だ。推定14歳相当と熟成には程遠いものの、神懸かったバランスでスレンダーとグラマラスを両立しているような、
もう少し背が高ければモデルとして紙面を飾れそうな、つまるところ男受けの良さそうな躰の持ち主なのである。
そんな少女が、局部を一切隠すことなく無防備に、そこにいた。
元々包帯をぐるぐる巻いただけでほぼ裸みたいな恰好だった彼女だが、何故にこんな。
Why? 意味がわからないデース。

「・・・・・・え、ちょ、なん・・・・・・?」

間の抜けた声で大気を震わせ、ついで「ごめん」と言いかけ、しかして男の悲しい性か思わず剥きだしの大きな乳房に目を奪われて。右手にお盆、左手に鍋を持っている男はそこでフリーズ、それ以上のリアクションを起こせず。
彼だって歴とした、同性愛者でなければ童貞でもない20代前半の男なのだ。
不能となり性的欲求が失せて久しいものの元来女体への興味は人並ぐらいにある。またこの世界に来てからは努めて異性というものを意識しないよう、意識させないよう生きていた男が、
油断していたところに突如襲撃してきた艶姿を注目してしまうのも致し方ないことだと思いたい。思わせてほしい。自称非ロリコンだとしてもだ。
そんなキラと目と目がバッチリ合ってしまった夕立も、戦場での機敏俊敏な雄姿から程遠く、時が止まったかのようにピッタリ停止して。
そんな二人を呆然と交互に見やる響と、絶句する瑞鳳。
凍った空気。
あまりに古典的、いやもはや神話的ですらあるハプニングシチュエーション。アツアツなはずのレトルト食糧と鍋から冷気が立ちのぼっているような気さえして、青年はゴクリと喉を鳴らす。
感じたものはほんの少しの昂ぶりと、身を引き裂かんばかりの悪寒。
走馬燈のようにある事件が脳裏を過ぎる。
実は以前、福江基地で生活した頃、鈴谷がキラと衝突してちょっとオトナな下着を晒してしまった事案があったのだ。
あの時でさえ、天に誓ってキラは何も視ていなかったにも関わらず大きな騒動になりかけたというのに、今回は完全無欠な直視、満場一致でアウト以外の判定は有り得ない。
これは非常に、マズいのでは?
0346通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:16:05.14ID:7hYZcA4L0
新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊隊長、C.E.の英雄【蒼天の翼】キラ・ヒビキ、覗きの容疑で逮捕。


世が世ならそういった見出しのニュースが速報として、面白おかしくあるいは悪意をたっぷり上乗せして全人類に周知されることだろう。
不条理。
理不尽。
いつの世どの世においても、男が女の裸を見ることを起因とする騒動では、男の立場は著しく低くなるものだ。またそれがたとえ誤解、冤罪だとしても一度貼られた悪いイメージを払拭するには大変な苦労を要するもので。
ましてや相手が艦娘ともなれば。
艦娘達はその特殊な出自故に、羞恥心の程は人それぞれなれど、裸を見る見られることの意味をちゃんと教育されている。
そしてキラは異世界からの客人であり強力貴重な戦力であり、かつ艦娘達の信頼を勝ち取って素行にも問題がないと判断されたからこそ、提督同様の制限付きで共同生活を「許されている」立場なのだ。
即座に直接的な沙汰になることはないが、事と次第によっては居場所を失ってしまう可能性も充分ある。
四面楚歌。
裸の夕立とのエンゲージによって始まったこの状況、もしもけんもほろろで取り付く島なく問題視され悪い方向へ転がれば、最悪のエンディングを迎えることも覚悟せねばならなくなるだろう。
そんな危惧が一瞬で駆け巡り、あまりの急展開に頭がパニックになりそうだった。
おかしい、こういうラッキースケベ展開はシン・アスカの専売特許だったはずなのに――

(――・・・・・・、・・・・・・いや裸の子を前にして思い浮かべるのがシンとか嫌すぎるでしょ!?)

しかしどんな幸運か因果か、えらく風評被害な偏見のおかげですっごいテンション下がって若干の冷静さを取り戻せたキラである。
キラ・ヤマトの宿敵兼相棒なだけあって、アンタにラッキースケベなんかさせねーぜとばかりに脳裏に出没してきやがった。
まぁシンは夕立とそっくりな紅い瞳だしわりと子どもっぽいし、おまけに実は戦闘スタイルも結構似通っているものだから、咄嗟に連想するものとして妥当なのだが。
そう、シンの存在そのものが希望だ。現に彼はこれまで数多のラッキースケベに遭遇しながらも生き残っているし、聞けば天津風とのファーストコンタクトもお互い全裸だったらしいじゃないか。
あの男にできて自分にできないはずがない!
よし落ち着くんだ。考えろ、まずどうすればいい。
そうだ! 冷静に、理由を訊こう!


Q.夕立さん。見たところ裸のようなのですが、何故なのでせう。
A.ごはんの匂いがして立ち上がったらなんか解けちゃった。


時が動き出し、暴かれるは不幸な真相。
そっか。不慮の事故だネ、うん、不慮の事故。
0347通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:18:25.98ID:7hYZcA4L0
よくよく見てみれば足下に包帯が落ちている。結びが甘かったのか立ち上がった途端にとのことで、そのタイミングに帰ってきてしまったのだ。あぁ、これは全面的に僕に非があるね?

「ごめんね」

頭を下げて心から謝れば、耳まで真っ赤にして立ちすくんでいた夕立が小さくコクリと頷いて、なんとか事なきを得たと確信する。
よかった、これで解決ですね。
取り付く島はありそうで、これからの交渉次第で和解可能だと内心胸を撫下ろし――

<って、いやいやいや。キラさん!? なんでずっとガン見してるのよぉ!? そこしっかり目を逸らさなきゃダメなとこ!! 夕立もいい加減隠しなさいッ!?>

この瞬間、遂に、これまで沈黙を貫いていた瑞鳳が噴火した。古ぼけた折畳み式携帯端末が飛び跳ねんばかりの怒濤のツッコミ。
なんということでしょう。男キラ、まさかの裸をガン見しっぱなしである。
全然そんな気はなかった。っていうか無自覚だった。なるべく真摯的かつ紳士的たらんと心掛けたつもりが、目を逸らすことさえ忘れていたとか不覚・・・・・・ッ!! いやこれ弁明の余地ないわマジで。
あれ、これホントにヤバくない?
嗚呼。
遠い記憶、いつだったかマリュー・ラミアス艦長に銃殺刑を告げられたことがあったが、それと同じかそれ以上のプレッシャーを彼女からありありと感じられる。結果的に不問にしてくれたとはいえ、
あの時は本気で死を覚悟したものだ。

<ッ!! ・・・・・・キラさんの、すけべぇー!!!!>
「うぐ!!」

そして瑞鳳がいつもよりずっとずっと甲高い声で叫んだ、その正統な糾弾に人生初のジャパニーズ・ドゲザでもって誠心誠意お詫び申し上げるキラ。
敗走後のサバイバル中とはまったく思えない、実に平和的なやりとりだった。



《第19話:おはなしをするおはなし》



『へぇ・・・・・・北上、これが?』
『そうだよ〜夕張、シンの世界で使われてたってゆーモビルスーツと装備一式。霊子金属化したこの子達の研究と修理と複製が、天津風から託された私らの仕事だねぇ。これ、明石センセの報告書』
『キラ・ヒビキによる通常兵器からのコンバート、霊子金属化かぁ。私達が血眼になっても届かなかったモンがこうもポンっと実現されるなんてね。・・・・・・、・・・・・・ねぇ北上、一つ疑問なんだけど』
0348通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:21:34.63ID:7hYZcA4L0
『んー?』
『元はフツーの人間なんでしょ、キラって人? コンバートとか同化とか、ましてや戦闘とか、どうしてそんなことできるのかしら』
『ああ、それねー。みんなスルーしちゃってるけど、なんでだろね?』
『そういうものだからって思考停止してるからよ。元々わかりっこないものを考える必要ないから、当たり前なんだけどさ。それに佐世保には考えてる余裕なんて無いだろうし』
『だね。球磨ねぇ達もよく持ちこたえてくれるけど・・・・・・ま、あのキラって人が本当に謎だらけなのは間違いないね〜。一回挨拶したことあるけど、正直不気味だったし』
『ふぅん?』
『完全な異物の筈なのに、あまりに自然体で馴染み過ぎててさ、本当に異世界からやってきた普通の人間なのかと疑ったわけよ。それにこの世界で偽名使い続けてる意味もわかんないしさー』
『アンタにそこまで言わせるとなると相当ね』
『佐世保のキラ・ヒビキって、本当にC.E.のキラ・ヤマト本人なの? なんて、思わず問い質したくなるぐらいには変な人だったわー。・・・・・・それに』
『それに?』
『コンバートとか同化とかってさぁ、まるで――みたいだよねぇ?』







「・・・・・・なんか複雑な気持ちっていうか、割とショックっぽい・・・・・・」
<げ、元気出して夕立。そう、犬に噛まれたようなものだと思えば良いのよっ>
「瑞鳳姉さん、流石に失礼じゃ・・・・・・それによくよく考えればわたし達ってもう見られちゃってるんだよ、裸。治療したり包帯巻いたりしたのってキラなんだし・・・・・・」
<いやいやいや、そういう問題じゃないでしょ響? 現に夕立は裸見られて傷ついて――>
「すッッッッごい恥ずかしかったのに、キラさん割とノーリアクションってなんか悔しい!!」
<――え、そっちなの?>

濡れタオルで全身を拭い、しっかり包帯を巻き直して、毛布にくるまって。キラが用意したレトルト食糧をモリモリ食べながらの夕立の発言が、この廃墟にまた新たなるカオスを生みだそうとしていた。

「夕立、これでも躰にはケッコー自信あったの。白露型で一番ないすばでぃかもって由良が褒めてくれたし、密かな自慢だったっぽい。でも・・・・・・でも!
由良以外の誰にも見せる気なかったけどっ!! もっとこう、見たからには派手なリアクションとってくれないとって思うっぽいッ!!!!」
「えぇ・・・・・・」

フクザツな乙女心、というやつだろうか。
0350通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:24:24.76ID:7hYZcA4L0
なにやら由良なる人物とただならぬ、懇ろな関係を匂わせる訴えに、黙々と動けない響の口におかゆを運ぶだけの作業を続けていたキラはなんとも微妙な顔になった。これは、それこそどんな反応をすれば良いのだろう? 
どうリアクションしても地雷にしかならない気がする。
っていうか由良って誰だっけと内心首を傾げるキラ。ゆら、その名前は確かに聞き覚えがあるのだが、どうしても双子のきょうだいであるカガリ・ユラ・アスハを連想してしまう。
すると、

「座礁したわたし達を救助してくれた人だよ。防衛戦の最後で、ポニーテールの」
「あ、あぁ・・・・・・あの人。ありがとう響」

助け船は響より。察してくれたのかボソリと小さな声で教えてくれた少女にお礼を伝えると、そんなこともあったなぁと懐かしい気分になった。呉所属の軽巡艦娘だったか。
後に聞いた話だが、半年前までは佐世保の第一艦隊所属で、夕立ととても仲良しだったらしく何かと一緒に行動していたとか。・・・・・・いや、仲良しってレベルじゃないと思うよそれ絶対。
艦娘も恋をする。
話には聞いていた。唯一の対深海棲艦戦力であり国の所有物である彼女らも人間と同じように恋愛するし、軍令部による厳しい審査付きとはいえ交際の自由は保証されていて、
なんなら艦娘同士でカップルになることもそう珍しくないと。たとえば鈴谷は熊野とお付き合いをされているそうで、例の件で鈴谷が激怒したのはやはり熊野への愛が所以なのかもと榛名が言っていた。
だからこそなのだろう。

「師匠的にはガン見ってノーカウントなの?」
「驚いてフリーズしてただけだもん。真顔だったし。ぜったいに別のこと考えてて上の空だっただけだもん!!」
<あの状況でなんでそんな冷静に観察できてるのよぅ・・・・・・。てか派手なリアクションされたらされたでもっと恥ずかしくなったと思うわよ?>
「それはそれ、これはこれっぽい!」

恥ずかしさは別として、その由良に認められた躰をただの裸としてしか認識されなかったというのは、彼女的には我慢ならないことのようだった。羞恥と怒りに加え、己に魅力がないのかもという不安が綯い交ぜになった貌で夕立がプイとそっぽを向く。
藪から棒にまったく意外な一面に面食らうが、つまりこの普段ぽいぽい言ってる天真爛漫でうっかり屋な娘かと思えば、戦場では無敵と謳われ無類の格闘センスを発揮する夕立は、実は恋する乙女でもあったらしい。
本当に、どうリアクションしても地雷にしかならない気がする。が、ここでスルーすると更に厄介なことになる予感に襲われて、一応のフォローをいれるべくキラは覚悟を固めた。

「えっと、大丈夫(?)だよ夕立ちゃん。その・・・・・・すっごく魅力的だと思う。ホントにビックリするぐらい・・・・・・ってか本当にビックリしちゃったから僕は・・・・・・」
<・・・・・・>
「ほんと?」
「う、うん。本当に。誓って。きっとモデルとしても働けると思うよ、うん。いや由良さんって人は見る目あるなぁ」
0351通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:25:57.39ID:7hYZcA4L0
沈黙と目線が痛かったが思ったことを正直に、どもりながらも早口に告白。普段だったら絶対に口にしない歯の浮くような台詞っていうか恋人持ち相手には不適切すぎる口説き文句に顔から火が出る思いになったが、
背に腹は代えられない。
そもそも全面的に悪いのはキラなのだし。えぇいなんて罰ゲームだ。
だがその甲斐あってか、

「よかったぁ」

ふわりと花開くような笑顔を見せてくれたものだから、現金にも言って良かったなどと思ってしまうのであった。
ご立腹な少女の機嫌を良くできたから、予想していた地雷によるダメージが最小限だったから、ではなく。

「・・・・・・大好きなんだね、そのヒトのこと」
「うん。大好き」

紛うことなく、愛だったから。

<あーはいはい、ごちそうさま。ってか単純すぎない?>
「愛の為せる所業っぽい! んふふ、やっぱり夕立がナンバーワン!」
「白露が聞いたら悔しがるんじゃないかな、それって」

コロコロ表情を変える少女がなんだか本当に魅力的に思えてきて、それ以上に羨ましく思えてキラは参ったな頬を掻いた。
こんな風に無邪気で一途な気持ちを目の当たりにしたのは、生涯で初めてで。好きだ好かれた惚れた腫れたの恋バナは端から聞いていて気恥ずかしくすらあったけど、存外心地よいもので。

「・・・・・・いいな」
「? キラ?」

振り返ってみれば、キラという男は、先天的な遺伝子改造を施された人工子宮生まれの自分は、それでも他の誰とも変わらないただの人間だと信じている自分は、ついぞ誰かを本気で好きになったことがなかった。
確かに、かつて憧れを抱いたフレイと肉体を重ねたことはある。己の心を解してくれたカガリに親愛の情を感じたこともある。でもあれは愛でなく、己の弱さに起因する依存に他ならなかった。
彼女達には自分なりの愛情をもって接したのは確かだが、その彼女達を護る自分という構図によって己の精神を安定させていた側面も確かにあったのだから。
唯一自分と対等であるシンを除き、他の誰にもそれらと同等並の感情を持てたことすらなく・・・・・・、・・・・・・? なんだろう、何か大事なものを忘れている気がする。まったくこれだから記憶喪失は。
ともあれ。
己という人間はまともに人を愛したことがないばかりか、好きになったことがないのだ。ただの人間と自認しているというのに聞いて呆れる。
だから素直に愛を表現できる夕立がとても眩しかった。その点で言えば瑞鳳にも同種のものを感じていたが、こう改まって熱烈にストレートに伝わってくるとむしろ尊敬の念さえ沸いてきて。
0352通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:27:40.27ID:7hYZcA4L0
「どうしたの、キラ?」
「突然シリアスな顔して、どうかしたっぽい?」
「え、あ・・・・・・や、できれば聞かせてほしいなって思って。夕立達のこと」
<興味あるの? 意外・・・・・・>

だからか、ついついこんな提案をしてしまった。

「まぁね。夕立みたいに誰かに恋したことなんてなかったからさ、いいなって思って」

それは本音混じりだったが夕立へのフォローの、最後の一押しのつもりの希求だった。元々が彼女の裸を見てしまってから始まったこの状況で、これで全てを水に流してくれるだろうと期待しての言葉だった。
後悔した。

「キラさん、恋したことないっぽい!?」
<嘘!? だってすっごくモテそうなのに>
「姉さん、モテるのと好きになるのって違うんじゃ・・・・・・? ・・・・・・え、キラってモテそうなの?」
<そりゃそうでしょ。間違いなく優良物件だし、私だって・・・・・・げふんげふん! とにかく! キラさんみたいな人なら恋人の一人や二人いるほうが当たり前だと思うわよ>
「勿体ないっぽい! 好きな人がいるってとっても素敵なことで、すっごく力と元気が沸いてくるっぽい。それに命短し恋せよ乙女――命短しって由良も言ってたし!」
「強調する所そっちなんだ」
<あ。もしかして女の人の裸を見たのってさっきが初めてだったの? それであんなマジマジと・・・・・・>
「むむ、なら夕立のカラダは毒だったっぽい? えぇと、なんだっけ・・・・・・そう! そーいう人って、どーてーさんって言うんだっけ?」
「Что это?」
<それはちょっと意味が違うわよぅ夕立ってか誰から聞いたのそんなの。えっとね、ど、どーてーさんってのは・・・・・・えー、まぁうん。でもキラさんは、そう、なのかな・・・・・・?>
「ねぇ、どーてーさんってなに?」

迂闊だった。好きだ好かれた惚れた腫れたの恋バナは女性の栄養素である。
艦娘も例外でなく、しかも普段女の園である鎮守府で生活している彼女達には、劇物にも等しい話題だった。
なによりこれまで誰もが聞こうとして聞けなかったキラの「その手の話」が遂に解禁され、
それも漫然と「恋の経験があるだろう」と思っていたのになんと経験なしと発覚したのだから、普通に男女間の恋愛に理解がある瑞鳳と恋人持ちの夕立が爆発した。
それにね、今ってばめっちゃ暇だしね、時間だけならタップリあるのに他にやれることがないなら、そこに食いつくのも当たり前だよね。気持ちはわかる。
なお響は置いてきぼりの模様。
故に嵐のような、外の本物の嵐にも負けない唐突怒濤なマシンガンガールズトークで恋愛を勧められ、誤解され、童貞扱いされかけ、

「ちがっ・・・・・・! 童貞違うし!」
<ほう>
0353通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:29:34.44ID:7hYZcA4L0
「ぽい?」
「?」
「あ」

あろうことか、無意識にいらん意地を張った挙げ句の、自爆である。


地雷の炸裂であった。


空気が「マジ」なやつになった。
意図せず猛獣に餌を与えてしまったかのような気分。冗談やネタでは済まされないぐらいにリアルな男女間の営みを想像させる単語が現実感を伴って、一連の会話を生々しいものに変貌させた。
瑞鳳の声色が一段低くなり、夕立の瞳が興味本位に輝き、響は首を傾げ。3秒後に尋問される未来がありありと見える。
この自爆による開示は、キラ・ヒビキは人を好きになったことはないが女性との「経験」はあるという意味を示唆して。嗚呼、概ねその通りであるのが非常に痛い。
今この瞬間に、この事実よりも彼女らの興味を持たせるものは果たして存在するだろうか、いやない。
つい先程に瑞鳳から頂戴したスケベの烙印が更に重くなった気がする。

<その話>
「詳しくっぽい!!」

対極的な姿勢から同一の意図をもって発せられた要望に、無言で後じさるキラ。
ちゃんと詳しく説明するにはキラとフレイの関係はあまりにも複雑で不明瞭で淫靡で憎愛と打算と裏切りに満ちていて、そして当時の自分の弱さ浅はかさ全てを曝け出すことになってしまうから、
正直なところかなりの抵抗がある。アレをこの娘らに話すとか冗談じゃないよ?
しかしこれを退けることは到底できそうになかった。
なにせ時間だけはタップリあって、暇だから。全てを話すのと彼女達の興味が尽きるのと、どちらが先だろう?
長く苦しい戦いになりそうだった。







『うーん良い夜だねぇ。月明かりを覆い隠すブ厚い雲、漆黒の空。夜戦にも隠密にもピッタリな良い夜♪』
『ッ・・・・・・お前、いつから俺の背後に・・・・・・?』
『川内参上! お兄さんが今日のお客さん? どうする、さっそくイケないことしちゃう?』
『誤解を招くような言い方すんなよ! ・・・・・・はぁ、アンタが天津風が言ってたエキスパートってやつ?』
『如何にも。軽巡だけど大船に乗ったつもりでまっかせて! さっそく日帰りデートと洒落込もうよ!』
0354通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:31:14.99ID:7hYZcA4L0
『アンタ、軽いなぁ』
『こんぐらいのテンションのほうが都合良いんだってイロイロ。そんな眉間に皺寄せてばっかだとハゲるよ? ほぉらリラックスリラックス』
『・・・・・・まぁ、俺が思い詰めてても仕方ないか、確かにさ。人混みに紛れるならデート装ったほうがバレないのかもな』
『そーいうこと。・・・・・・で、あまつんは? お兄さんの保護者なんでしょ?』
『留守番。アイツがここにいなきゃ偽装工作の意味が無くなる』
『相変わらず健気で献身的だねぇあの娘は。んじゃ、そういうことなら時間ないし行こっか』
『ああ。よろしく頼む』
『頼まれたよ。さぁ、いざ佐世保! 夜の川内の本気見せてあげよーじゃん!』
『だから誤解されるような言い方すんなって!!』







フレイ・アルスターという少女を語ることは、生半可でなく。
これまで二階堂提督以外に自らの世界について語ってこなかったツケが遂に回ってきたわけだ。
二人の関係をさわりだけ簡単に説明してお茶を濁そうとしても結局、三人からの相次ぐ質問によってC.E.の成り立ちやナチュラルとコーディネーターの対立からキッチリ説明することになるとは
正直苦笑するしかなかった。それも根掘り葉掘り重箱の隅をつつくような質問ではなく、純粋な「どうして」という疑問の積み重ねによるものなのだから、あの世界がどれだけ歪んでいたのか改めてよく分かる。
そう、それだけ歪だったのだ。コーディネイターを忌むナチュラルの少女と、コーディネイターでありながらナチュラルの為にコーディネイターと戦う少年が、
鐚一文の愛もなく肉体を重ねるまでに至ってしまったあの状況は。ラブロマンスの欠片もなく唯々哀しいばかりだった、あの復讐物語は。
そんなわけでお堅く真面目に始まったキラの女性遍歴暴露大会だが、しかしそれは意外にも開始数分、フレイとの出逢いからコロニー・ヘリオポリス崩壊を経て
地球連合軍第八艦隊先遣隊が全滅――フレイの父が死んだ戦闘である――したところで中断されることになった。
突如、瑞鳳の携帯端末からピロリロリン♪ という軽快軽薄な電子音が鳴り響いたのだ。


それはデュエルがストライクからの通信を受け取った合図。
福江基地の誰かがキラ達の救助要請に気付いてくれた証明。


サバイバルとは名ばかりの短すぎる四人の共同生活が終わりを告げる音だった。
寝室の空気がまた一変し、キラはデュエルの元へと走る。
0356通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:32:11.51ID:7hYZcA4L0
「こちらデュエル、キラです! 明石さんですか!?」
<うわっ!? ホントに出た!!>
「明石さん! 良かった・・・・・・そっちはどうなってますか、大丈夫なんですか!?」
<こっちの台詞だから!! ちゃんと生きてる!? 響達は!?>

コクピットに乗り込み通信回線を開いて、しばし二人して噛み合わない問答をした末にようやくお互いの状況を把握すれば、二人とも絶句するしかなかった。
キラは、己が置かれた状況の全容を知って。
明石は、響と瑞鳳が融合した容態を知って。
二人して想定を遙かに超えた現実に、頭が追いつくまで少しの時間が必要だった。

<結論から言うと>
「はい」
<直接診てみないことには何も言えないわ、響と瑞鳳については>
「そう・・・・・・ですか・・・・・・」
<そりゃそうよ! ニコイチなんて有り得ないって思ってたのに、それを分離するとか考えたこともなかったですよ! 
それに二人を分離するにしても響鳳として修理するにしても基地の施設じゃ無理だろうし、勘だけど時間が経てば経つほど分離は難しくなるでしょうね。急がなきゃ>
「でも沖にはレ級が待ち構えてるんですよね? どうすれば・・・・・・」
<響達はともかく、夕立はどれぐらい動けそうです?>
「航行不能です。そこまでしか直せませんでした」
<ならそっちの四人は【いぶき丸】で輸送するしかなさそうね>

情報を交換した結果、問題が生じていることが発覚した。
前提として。
まず響と瑞鳳についてだがこれは明石が述べた通り、早急に彼女に診てもらって鎮守府工廠で処置しなければならないことがわかって、為すには当然すぐにでも響達を移送せねばならない。
キラが逃げ込んだ廃墟、福江島南西部にあった廃れに廃れた無人の町は現在、嵐に見舞われている。海路と空路を塞がれて車両等が発見できず、すぐに発つなら徒歩で陸路を行くしかない。
これを阻害する問題が山積みだったことが、発覚したのだ。
まず一つ。
この地区は既に土砂崩れ等の影響により道路が寸断され、陸の孤島になっていたということ。徒歩での脱出は不可能だ。おさらいだが、ここはNジャマー影響下である為に既存の通常航空機が使えず、海路しか選択肢がない。
次、二つ目。
この町の近海に、戦艦レ級率いる敵艦隊が陣取っている。福江基地守備隊の【阿賀野組】曰く、嵐の直前に偵察機が発見したとのことで、航路はまっすぐキラ達がいる町を目指していたと。
今なら解るが、間違いなく追撃戦力だろう。嵐が去って、夜が明ければすぐに攻撃してくる可能性が極めて高い。
三つ目。
福江基地の戦力は、阿賀野ら第三艦隊三番隊しかおらず、他はヴァルファウ追撃戦の為に出払っている。主力部隊の帰還がいつになるかは、まだ連絡がつかないらしい。
0357通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:33:57.42ID:7hYZcA4L0
道は一つしかなかった。

<嵐は夜中に通り過ぎる見込みなの。レ級に阿賀野達をぶつけて時間稼ぐから、その間に強行突破しかないでしょうね>
「そんな!?」

明日の夜明け前に、脱出戦を敢行するしか。
戦力は直接的な艦隊戦に向いてない【阿賀野組】のみ。言うまでもなく響と夕立は戦えず、キラの力であるデュエルもエネルギー切れで動けず、深海棲艦にとっては大きい的でしかない通常艦艇を用いての救助作戦。
勝てる見込みのない賭けだ。
いやそもそも救助が、強行突破が成功したとしてレ級艦隊はどうなる?
こう言っては失礼だが事実として、阿賀野達が敵を退けられるとはとても思えず、下手したらやられてしまう。そのまま福江基地や佐世保鎮守府だって襲われてしまえば元も子もないじゃないか。
無理だ、危険過ぎる。別の方法を探そうと提案しようとしたところで、

<キラ、ストライクの修理は8割までならいけるわ>
「えっ!?」

思いも寄らない明石の言葉に、キラは驚きとも歓喜ともつかない素っ頓狂な声をあげた。
ストライク。キラの本来の力。
8割までの修理ということは、最初の防衛戦参戦時よりかは幾らかマシな性能だ。それで敵を追い払うことができれば、できなくても囮として動けば、そうすれば全員の生存率はかなり上がる。
自分とストライクこそが作戦成功の鍵なのだと理解して、久方ぶりに全身が引き締まる思いになる。
しかし。

「いけるんですか?」
<ギリ。ちょっちこっちで面白いことがありましてね、おかげで修理を進められそうなの>
「? それってどういう・・・・・・?」
<細かいことは気にしない! とにかく動力回りとフレームはバッチシ仕上げてみせるから、輸送船に乗せて洋上待機させますよ。全員の命、預けます>
「・・・・・・! はい、今度こそ必ず!」

キラが最後に確認した限り、愛機の修理は6割までしか終わっていなかったはずで、キラが指揮しなければ彼女達は修理を進められないはずなのだが。いったいどんな魔法を使えば8割までも進められるのか。
その面白いこととやらこそ知りたいが、これ以上聞いてもはぐらかされるだけだろうし、なにより時間が勿体ない。ともあれ喜ばしいことに違いはないのだから言及は後回しでなんら問題ない。
方針が決まったのなら走るだけだ。そして今度こそ自分が皆を護るのだ。護って、無事に鎮守府まで帰るのだ。
自分達の救助にかなり危険な賭けにでてくれること、それだけ自分達に価値を感じてくれていることに感謝した。
ならば今の自分にできることはなんだろう?
そう考えてキラはふと、ある可能性を鑑みて明石と相談しながら組んだ計画を思い出して、もしかしたら必要になるかもと思った。幸い、起動実験こそしてないものの理論上は、完成している。
0358通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-MZfN)
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2019/10/30(水) 23:35:15.33ID:7hYZcA4L0
「そうだ、明石さん。もしもに備えて、L計画の実装も進めてください」
<もしもって・・・・・・>
「有り得るかもじゃないですか。だから、使える手は全部用意しとかないとです」
<・・・・・・そうね、確かに。了解。データは例のディスクに?>
「インストールさえしてくれれば。中身は完成してますし、切り替えはボタン一つでできるようになるはずなので」

その後も阿賀野を交えて作戦会議をして、秒単位のスケジュールを詰めていって。絶望的な状況からの脱出を少しでも確かなモノにする為に、やるべきことは全てやった。
あとは明石達を、彼女達が決行する作戦を信じて今は待つしかない。

<絶対助けるかんね。もうちょっとの辛抱よ>
「響と瑞鳳と夕立は僕が必ず連れて帰るから。明石さんも阿賀野さんも、気をつけて」

決行は約14時間後、11月16日の4時30分。
通信を切ったキラはそのまま、デュエルのコクピット内で機体の最終調整を行った。もう動けないと思っていたコイツにも最後の最後まで頑張って貰わなければ。
絶対に成功させる。その為ならなんでもやる。
それにしても、いきなりこんなに状況が変わるとは。明石が通信に気付いてくれたことも含めて、運が回ってきたのかもしれない。
廃墟で待たせている響達に知らせたら喜んでくれるだろうかと、気付かぬ内に笑みを浮かべていたキラだった。







「・・・・・・さて、言い切っちゃったですよ。8割までいけるって。今更だけど確証はあるんです?」
「俺達はアイツがやろうとしたプランをなぞるだけでいい。こんだけ機材とデータがあるんだ、やってやれないことはないだろ。あとは根性だな」
「簡単に言ってくれちゃってまぁ、なら指揮をよろしくお願いします。わたし達にはやっぱりまだモビルスーツは手に余る存在で、貴方達の知識が必要不可欠なの」
「わかってるよ。だから作業が止まってたんだろ? それと指揮するのはいいとして、今の俺は呉の喫茶・シャングリラのマスターで、それ以上でもそれ以下でもないってのを忘れんな」
「そのサングラスは変装の一環?」
「似合うだろ?」
「似合ってないです。ぶっちゃけ」
「・・・・・・川内あの野郎!」
0364通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイWW e289-1d3L)
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2019/12/14(土) 18:43:41.32ID:zZrGe5Z60
 .|        ::|                 プーン    人  。⊃
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 ||:| :| ::| ::::|::|:|| .!    手足     !       ノ #    メ   ヽ、
※ネトウヨ死ね
0367ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 62ad-zfCe)
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2020/04/12(日) 18:13:55.54ID:5Dl/6pTn0
――艦これSEED 響応の星海――


『無理だと思ったら躊躇いなく福江基地は放棄しろ』

予めそう木曾達に言われていた明石としては当初、まさしくそうするつもりだった。
なにせ超弩級重雷装航空巡洋戦艦レ級率いる精鋭水上打撃部隊が、五島列島福江島の南南西70kmに位置する島嶼群であるところの男女群島周辺に停泊しているのだから。
嵐の直前に観測できたその随伴は、空母ヲ級1、重巡ネ級1、軽巡ツ級2、駆逐ハ級2とかなり強力。
深海棲艦ですら強引に航行できない嵐が弱まり次第に連中は北上し、福江基地を攻撃してくるに違いなかった。
現状基地唯一の戦力であり、直接的な艦隊戦に向いてない【阿賀野組】ではあまりに荷が重すぎる敵が侵略してくるのならば、逃げる他ありえない。
正面から立ち向かっても蹂躙されるだけ、完全無欠にキャパオーバー。だから最初は、福江島から脱出するつもりだったのだ。
とはいえ無計画に、闇雲に逃げるわけにもいかず。
福江基地は佐世保鎮守府防衛の要衝。だがこれまでの戦闘で有線通信を失い、NJのせいで無線通信も、嵐のせいで伝書鳩代わりの艦載機も封じられている現状で、
誰も知らないうちに基地が消滅しましたなんてことになったら今度こそ佐世保はお終いだ。
防衛力のない鎮守府も、沖縄へヴァルファウ追撃に赴いた主力艦隊もやられてしまう。
そこで明石達は、こういった事態を想定してあえて【阿賀野組】を残した木曽達の言う通りに、佐世保艦隊では二人しかいない潜水艦娘の伊13(ヒトミ)を佐世保方面へ、伊14(イヨ)を沖縄方面へ先行させることにした。
嵐のせいで海面がどんなに荒れていようとも海中はいつも穏やかで、潜行時と浮上時にさえ注意すれば、潜水艦はこの環境下でも長距離航行ができる。
ヒトミとイヨが直接、二階堂提督と主力艦隊達にメッセージを伝えるのだ。
提督に危機が伝われば、もしもの為にと五島列島と九州本土の間にありったけ敷設した、対深海棲艦用の纏繞機雷や音響探査式自走機雷をアクティブにしてもらえる。
その上で明石達は嵐が弱まり次第に、燃料弾薬資材をしこたま積んだコンテナ船と共に沖縄方面へ脱出、きっと凱旋してくれる主力艦隊と合流する作戦だ。
さしものレ級艦隊といえども機雷原の突破には時間が掛かるはず。そこを全力で叩ければ、ギリギリ全てを守り切ることができる。
そう考えて、彼女達は作戦を実行に移した。
ヒトミとイヨを送り出し、脱出の準備を進めようとした。


その直後だった。
呉から川内と、喫茶シャングリラのマスターを名乗る黒髪紅目の男が基地へやって来たのは。
工廠奥で鎮座していたストライクに、キラからの救難信号が入っていることに気づけたのは。


呉の青年の助言もあって、脱出プランは一転、救出プランへと変わった。
レ級艦隊はキラ達を追跡してきたのかもしれない。明石達が脱出したら、キラ達は死んでしまう。敵の攻撃開始よりも前に速やかに、彼らこそを脱出させなければならなかった。
0368ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 62ad-zfCe)
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2020/04/12(日) 18:16:09.88ID:5Dl/6pTn0
彼ら四人が潜伏している町から福江基地へは直線距離で10km、阿賀野と酒匂と春雨なら15分程度でたどり着くことができる。単純に考えれば往復で約30分。
30分。
長すぎる。
これまでの戦争で蓄積してきた敵艦の推定スペックが正しければ、レ級の最大射程はおおよそ25マイル(約40km)、艦隊としての速力は最低30ノット(時速約55km)。
男女群島を発ってから砲撃開始までの猶予は約30分しかないのだ。救助してから敵攻撃圏外まで離脱することは、できない。
レ級艦隊との戦いは避けられない。
しかし当然、真っ正面から戦うことはできない。既にヒトミとイヨが離脱しているのだから、残った阿賀野と酒匂と春雨の三人だけでは最早、まともな戦闘に持ち込むことさえ不可能。
時間をかかればかかる程に撃沈される危険性は高まる。
勝算は一つ、キラのストライクが早期参戦して初めて、レ級撃退の可能性が1%以上になる。


となれば、勝利条件はいっそ単純明快。こうも絶望的状況で切り札が一つだけならば、考える手間も省けるというものだ。


【阿賀野組】の残存三人だけで、軽巡と駆逐が本領発揮できる夜間に奇襲奇策に徹して、レ級艦隊を足止めして。
その間に、人間達が操る小型高速哨戒艦【いぶき丸】が明石と共に町近くまで急行して。
また、救助される側であるキラはデュエルで響達を【いぶき丸】に移送した後、ついで哨戒艦に遅れて航行するコンテナ船に合流、積載されたストライクに搭乗して対レ級戦に参加する。
さらにコンテナ船が金剛達との合流を果たせれば、そこまでの全てが繋がれば、今にも千切れそうな縄をダッシュで渡りきれれば、なんとかなる。
これが明石と青年が考えた唯一無二。か細い道だった。不確定要素が現れた瞬間に完全破綻してしまう、最善という名の過酷だった。
これを実現する為に、大半が更地になった福江基地の全リソースを集中して、明石達はストライクの修理に奔走した。

「本当なら、俺がストライクで戦えればいいんだけどな」
「んー? 滞在延長する? いっそこのまま逃避行しちゃおうか?」
「バカ言え、せっかくの工作が無駄になる。昼までに呉に戻らなきゃ責任を問われるのは天津風なんだよ」

11月16日、4時34分。予測通りに嵐が弱まり、明石達が出航した救出作戦決行の刻。
そんな彼女達を見送って福江基地から去らねばならない黒髪の男――いや、もうボカす必要もないだろう、似合わないサングラスを胸ポケットに差したシン・アスカは悔しげな声を滲ませた。
そう、シン・アスカ。
本来ならば彼は、ここには居られない筈の、公式には「いない者」として扱われ行動範囲を著しく制限された人間である。
けれど現実に今、彼はここにいた。
0369ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 62ad-zfCe)
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2020/04/12(日) 18:19:02.20ID:5Dl/6pTn0
キラがMIAになったと聞いていてもたってもいられなかった。何か行動したかった。キラのことなんて嫌いだけど、大嫌いだけど、絶対に赦せないけど、こんなところで死んでいい奴じゃないから。

『俺が殺せなかった奴だぞ。アイツがこんなんで・・・・・・くたばるわけないだろ!』

それにまだ、キラにはシンと共にやらねばならない使命があるのだ。
勝手に記憶喪失なんかになった挙げ句、勝手にそれを投げ出すなんて、認めない。奴の死をこの目で直接確認しない限りは絶対に認めてやるもんかと叫んだ。
故の、軍令部に感づかれてはならない、ハイリスク・ノーリターン覚悟のお忍び日帰り強行軍。
かなりの無理を押して、ここにいる。
呉の提督を再度説得し、本物の喫茶シャングリラのマスターに影武者を頼みこんで、隠密のエキスパートと噂される川内を案内人として雇い、さながら忍者のように福江基地への潜入に成功して、ここにいる。
生死も定かでないのに感情任せに突っ走って、ここに来たところで何ができるかも考えずに突っ走って、ワガママを貫き通したおかげで、ここにいた。
結果シンは状況を打破する原動力となった。キラが生きていれば必ずストライク宛てにSOSを出すという読みが当たって、あの男の無事も確認できた。
ミッドウェー包囲網の時と同じように全てが好転し、絶望の運命を切り拓くことができたのである。
ただ、これでシンの言う通りに、彼がストライクでレ級艦隊と戦えたら一番安心確実なのだが・・・・・・残念ながらそこまで干渉することは不可能だった。彼は万能なデウス・エクス・マキナではないのだ。

「それに。だいたい川内、アンタだって舞鶴に戻んなきゃなんないだろ」
「ま、そうなんだけどさ。じゃー予定通り、あとは成功を祈るだけ祈って、お暇させていただきますかね私達は」
「・・・・・・アンタ、本当にノリ軽いよな。キラの奴と一緒にいる夕立っての、アンタの弟子なんだろ? 心配じゃないのかよ」
「ぜんぜん」
「はぁ?」

かくして状況は確定した。
あとは明石達とキラの頑張りと幸運が、未来を紡ぐのだ。
魔法の時間は終わり、シンがここで出来ることは無くなった。もう呉に帰らなければならない。
もどかしくないと言えば嘘になる。
あとほんの少しの猶予があれば、自分だって戦えるのに。
でも今すぐここを発たねば、天津風とプリンツと提督の偽装工作が無駄になってしまう。この世界で「これからも続いていく日々」の為に、それだけは避けなければ。
ここでシンが戦ってキラ達を無事救出できたとしても、願う未来には届かないのだ。
本来短気なシンにとって、この状況下でおとなしく帰るなんて行為はかなりのストレスだけれど。同じような立場にいるはずの川内が飄々としてるのも癇に障ったけれど。
だが。シンが願う未来と、キラが掴む未来が、希望ある未来として交わる為ならば。

「あの子らがこんなんでくたばるわけがない。そりゃイザとなりゃ全部ほっぽり出して仇討ってやるって思ってたケド、お兄さんのおかげでまだ生きてるってわかって、生きていく為の命綱も作れた。それだけでもう十分なのよ」
0370通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 62ad-zfCe)
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2020/04/12(日) 18:21:14.30ID:5Dl/6pTn0
「・・・・・・俺はそこまで割り切れない」
「割り切れないから、ここまで来ようと思ったんでしょ。なんでも割り切ればいいってもんじゃないって」
「そういうもんか?」
「そういうもん。さ、行くよ。帰るまでがデートって言うし、気を抜くにはまだ早いかんね」
「お前その設定いい加減やめねーか」

その来るかどうかも解らない、不確定な明日の為に、シンはあえて戦場を背に去る覚悟を固めた。
想い人の仇であるキラと、その周囲に在る人達を信じると決めた。
そうして愚痴と軽口を叩きあいながら、二人の姿は人知れず闇へ融けて。表舞台は「元々そこにいた者」達だけのものに戻って。
これが合図だったかのように。
福江島の海は、戦場となった。




《第20話:求める未来のために》




おさらいをしよう。
艦娘と深海棲艦との戦闘の基本は、有視界戦闘である。
航空機やレーダーを利用しないかぎり、その戦闘距離は約5km以内に収まってしまう。少女達の身長で見える水平線までの距離と直結しているのだ。
また共通して、夜目が利かない。普通の人間よりは幾分かマシだが、ヒトデナシだからといって暗視能力を持っているわけではなく、意外なことに闇夜の海では味方との衝突事故という危険性とも隣り合わせだ。
そういう制限が存在する。
だが現実に、艦娘達は水平線越しの砲撃戦をするし、闇夜でも一糸乱れぬ統制でもって艦隊戦を演じることができる。そうして五年も戦争をしてきている。
そう、航空機やレーダーだ。それらを利用すれば、制限を悠々と超えることができる。
逆に言えば、この広すぎる大海原で艦隊戦をするには高度な索敵能力が必要不可欠である。まず敵を捕捉できなければ話にならない。
戦闘能力とは高い索敵能力があって初めて発揮されるもので、彼我の索敵能力に大きな差があった場合、戦闘が一方的な展開になることはわざわざ想像するまでもないだろう。


その要であるところの航空機やレーダーすらも制限してしまうのが、この九州の夜の海だ。


まず単純に、夜間では航空機の運用が困難となる。特別な訓練を積んだ艦と機体でなければ、発着艦も偵察も満足にできない。
0372通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 62ad-zfCe)
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2020/04/12(日) 18:22:26.03ID:5Dl/6pTn0
これは夜目が利かない両者に共通する基本事項であり、夜間航空機運用能力を備えている者は一握りのエリートだった。
これに加えて、何度でも飽きるぐらい繰り返すが、ここはニュートロンジャマー影響下。従来のレーダーは全て封じられている。この場で使用できるものはNJ環境下前提で造られたMS用高出力短距離レーダーだけだ。
つまり一律に、艦娘も深海棲艦も無差別に、索敵能力の殆どを喪失してしまうのがこの九州の海なのである。
そうした状況下での艦隊戦とはいわば、目隠しをしたまま砂漠で一本の針を探すようなものだろう。


これから【阿賀野組】が挑む戦いとは本来、そういう戦いだ。


敵は強大な射程と索敵能力を備えたレ級艦隊。恐らく、随伴の空母ヲ級は夜間航空機運用能力を備えているだろう。
其奴らを相手に奇襲を仕掛けなければならない。
逆に【阿賀野組】は航空機を使用することができない。
いや、正確に言えば、阿賀野は夜間偵察機を操ることはできるのだが、しかし航空機はどうしたって音が出てしまう。飛行音のせいで己が「存在する」ことを敵に教えてしまうリスクがあった。
奇襲とは当然、敵に己の存在を知られてはならない。敵を先に捕捉して、その懐に飛び込んで先制攻撃しなければならない。そして足止めしなければならない。
一見して誰もが不可能と思うだろう。
阿賀野達がレ級艦隊を発見できるかも怪しいし、発見できる可能性があるとしたらレ級艦隊による砲撃音を聞いてようやく、町への先制攻撃を許してようやくといったところか。
むしろ先に阿賀野達が発見されてしまう可能性のほうが大きい。


だが、この状況でなら可能と判断した。可能だからこそ奇襲という手段を採る。


そのサポートをするのが、いや、その成否の鍵を握るのが、キラの最初の役割だった。
11月16日、4時53分。
嵐は去って波風落ち着けども、まだまだ明ける気配を見せない漆黒の空、漆黒の海をモニター越しに睨んでいたキラは静かにフットペダルを踏み込んだ。
エネルギー節約のためにレーダーは使わず、その時、デュエルの光学カメラに敵影はおろか接近を知らせる予兆すら映っていなかったのに、機体に跳躍を命じた。残り少ないエネルギーの大半を脚部スラスターに集中、
満身創痍のデュエルが空高く舞い上がる。
ほぼ勘、いや、100%勘による判断だ。根拠なんて何もない。二度目のチャンスはない大博打に出た。
ただの、C.E.のエースパイロットの勘だった。

「・・・・・・いた!」

高度150m。
目視できる水平線までの距離は約45km。
0373通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 62ad-zfCe)
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2020/04/12(日) 18:25:28.94ID:5Dl/6pTn0
アクティブセンサーの出力を上げてデュアルアイを煌めかせたデュエルが、漆黒の海を進む7つの熱源を捕捉する。倒すべき敵が、漆黒に融け込むように黒い敵が、豆粒よりも小さくモニターに表示される。
彼我の距離は約38km、今にも福江島を、キラ達が隠れていた町を砲撃しようとしているレ級艦隊である。
果たして、勘は見事的中していた。
このギリギリのタイミングを、左手に握ったレールガン・シヴァが届くギリギリの距離を、キラは勘だけで手中に収めた。
かつては宇宙空間を縦横無尽に飛び回る小型攻撃端末――ドラグーンの猛攻すら凌ぎつつも撃ち落としまくった彼だからこその直感といえよう。
その事実に安堵することなく全神経を集中させて、たった一瞬の滞空時間で照準を合わせ、躊躇いなくトリガーを引いた。

「間に合え!」

大事なのは誰よりも何よりも、デュエルからの先制攻撃である。
一度レ級達が攻撃を始まれば、奴らだって警戒を厳とする。その砲撃音で位置を割り出せたとしても、阿賀野達が奇襲できる隙はなくなる。そうなる前に敵を混乱させるのだ。
レールガンが紫電を迸らせて3発の弾丸を射出する。
ソレはただの弾丸ではない。
というか、通常弾頭は先の戦闘で使い切っていた。今レールガンに装填されているものは、射出したものは、攻撃力なんて微塵も持ち合わせていない。それでも、いや、だからこそソレは状況を打開する鍵となる。
もう遠い過去のようにも感じるが、そもそもキラ達がこのような危機に至った原因を思い出そう。たった2日前の早朝のことだった。
響と演習する為に、数々の試作兵装を実戦形式でテストする為にたった三人で海へ出てしまったことこそが、あの敗戦の原因だった。
つまりだ。
今、レールガン・シヴァには演習用の模擬弾と、試作の新型戦闘補助弾が装填されたままなのだ。まさかソレがこんな風に使われるだなんて、誰が想像しただろうか。

「後はお願い・・・・・・!」

【阿賀野組】の奇襲を成功に導くべく放たれた鍵、弾丸は三種類。
その名を演習用蛍光ペイント弾と閃光弾とジャミング弾といった。







「ッ!? 弾着確認! 敵艦隊を発見しました!!」
「ひゃぁ、すごい・・・・・・!! ほんとにあの距離で当てるなんて!!」
「よぉーし酒匂、春雨、全速前進ー!! 追加でじゃんじゃん撃ちまくるよぉ! 阿賀野に続いてぇ!!」
0374通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 62ad-zfCe)
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2020/04/12(日) 18:27:26.81ID:5Dl/6pTn0




神業としか言いようのないキラの長距離狙撃。
これによりレ級艦隊は一時行動不能に陥っただけでなく、漆黒色のマントを纏ってこっそり航行していた【阿賀野組】にその位置を晒した。
絶対的な強敵を相手取る際は、いかにして敵の行動を封じられるかが重要となる。
例えるならコンピュータゲームでいうところのデバフだ。敵の攻撃力や防御力や素早さなんかを低下させるアレだ。古今東西、敵の行動を制限することこそが戦闘の鉄則、理想である。
それを現実に可能としたのものこそ先ほどキラが撃った、そして現在進行形で少女達が撃ちまくっている戦闘補助弾頭であった。
他にも、対象を絡め取る粘着性ネットガンや拡散式焼夷弾まで用意している。相手が艦艇ではなく、人間と同等のサイズで、四肢を持つ人型だからこそ有効な装備の数々だ。
ぶっつけ本番の実戦投入だったが上手く機能してくれたようで、敵は五感の殆どを奪われた状態である。
通常弾頭と補助弾頭を織り交ぜた波状攻撃で、たった三人の【阿賀野組】はレ級艦隊を翻弄し、かつ削っていった。
最適射程まで近づけば魚雷を放ち、早速ヲ級とツ級を1隻ずつ大破させる。ついで、ワイヤーに触れた対象に絡みつく性質を有した纏繞機雷を複数連結したうえで設置し、敵艦隊の進路を狭めていく。
普通の艦隊相手ならこれだけで決着が付く。
だけどそれでも、一方的な展開にはならない。
ここまで徹底的に用意してもそもそもが3対7、光と炎と網に蝕まれようとも戦意の衰えない敵を完全に封じるまでには至らない。や
はりレ級旗艦の艦隊は、有象無象とは練度が違う。姫級旗艦艦隊に匹敵する奮闘が、阿賀野達の優位性を崩していく。
時が経つにつれ、目に見えて【阿賀野組】の命中率が、攻撃頻度が下がっていった。
だがこれも明石達にとっては最初からわかっていたこと。だからこそ足止め第一。尋常な砲撃戦になれば瞬殺されてしまうから、少女達は時間を稼ぐべく必死に戦う。
全ては、キラ・ヒビキがストライクに乗るまでの時間稼ぎなのだ。
では現在、当のキラがどうしているかといえば。

「くッ・・・・・・! エネルギーが足りない・・・・・・!?」
<と、届かないってことっ?>
「届かないと――どうなるっぽい!?」

アラート鳴り止まぬ喧しいばかりのコクピット内にて、顔を青くしていた。
その膝の上、抱きかかえられた瑞鳳色の響がビクリと震え、夕立が泡食って叫ぶ。
このままでは、ストライクに届かない。
このままでは、沈む。

「キラ・・・・・・!」
「!! くそ・・・・・・!」
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2020/04/12(日) 18:29:24.93ID:5Dl/6pTn0
レ級艦隊への先制攻撃を成した後、響と夕立を収容したデュエルで滑るように海上を爆走していた。哨戒艦【いぶき丸】に少女達を預けるためだ。しかし、その中途。
敵の砲撃がデュエルを襲った。駆逐ハ級が所々を蛍光ペイント弾で仄かに光らせながらも、弾幕を突破して【阿賀野組】をも置き去りにして単艦、デュエルへ向け一直線に突進しながら砲撃してきたのだ。
結果としてその砲撃そのものは、虚しく海に消えたけれども。機体には当たらなかったけれども。
当たらなかったけれど、確かにキラに回避行動を選択させた。スラスターを噴射して躱した。
更にハ級が砲撃。その弾道は、デュエルが回避すればその先にいる哨戒艦にも命中するコースであると直感、これをも狙った位置取りだったのかと驚愕しつつビームサーベルで砲弾を切り払い、
勢いそのままサーベルを投擲してハ級を撃破した。
だから予定よりも早く、エネルギーが尽きた。
此方に向かって航行している【いぶき丸】を見ることも叶わず、推力を失ってしまう。このままではコクピットに収まったキラ達は、デュエル諸共海底に沈む。
そんなことは。
けど、どうすれば――

「ハンモックを張るとか、なんとかなんないっぽい!?」
「帆船じゃないんだから・・・・・・、・・・・・・いや、そうか!」

――夕立の突飛な提案に、閃くものがあった。
彼女としてはかつての第三次ソロモン海戦の夜に、ハンモックを帆代わりにしてでも戦闘続行しようとした経験からの発言だったのだろう。諦めるな、なんでも使えと。確かにそうだ、デュエルの装備を思い出せ。
機能停止まで10秒もない。モタモタしてられない。
キラは素早く幾つかのスイッチとレバーを操作して、素早くシートベルトを取っ払いながら叫ぶ。

「三人とも飛ぶよ。しっかり捕まって!!」
「え、飛ぶって・・・・・・ひゃわ!?」
「ぽいぃ!?」
<キラさんそれってまさか――きゃあー!!??>

両脇に少女二人を抱えて、コクピットハッチを開放したかと思えばなんの躊躇いもなく闇夜に躍り出た。
高度約10m。直下は当然、海。
建物なら大凡3階から4階相当な高さからの跳躍。いくらキラが特別なコーディネイターとはいえ、少女二人分の質量を抱えたままでは自殺行為に等しい蛮行。
三人分の悲鳴と共に、キラは暗闇へと落ちていく。
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2020/04/12(日) 18:31:32.84ID:5Dl/6pTn0




墜ちる、溺れる! とすぐに到来するであろう衝撃を覚悟して、響は力一杯目を瞑って息を止めた。
直後。

「・・・・・・?」

たたん、と軽い着地の感覚。ついで再度の浮遊感、そして着地。
どれも覚悟していたものよりもずっと軽々しく、溺れそうな雰囲気もまるでなく。恐る恐るゆっくり目を開ければ自分たちが、自分たちを抱えているキラが暗闇の上に、海の上に立っていることを知った。
まるで艦娘のようだと思った。この世界でこのように在れる者は、艦娘と深海棲艦だけ。ヒトデナシとはいえいつのまに自分たちと同じ能力を得たのだろうと少女は首を捻るが、その疑問はすぐに解消された。

<び、びっくりしたぁ・・・・・・。もう、そうするならそうするって言ってよっ!!>
「危うくショックで死んじゃうところだったっぽい・・・・・・」
「ごめんね。でも急いでて」

海上に揺蕩う、デュエルのシールドの上だった。
砲弾やビームを防ぐ機動兵器用大型シールドは、その面積のおかげで浮力も充分。簡易的な浮島としたそれに、キラは機体のマニピュレーターを経由して飛び移ったのだ。
抱っこされたままの響と夕立から、瑞鳳の意思を表出する携帯端末から、大きなおおきな安堵の溜息が吐き出されては闇色の波に融けていく。ともあれ、なんとか当面の危機からは脱したようだ。
振り返れば、周囲にはもう何もない。
ハッチを閉じたデュエルだけが、海底へと沈んだ。
本当なら、あの機体は自分たちを【いぶき丸】に預けた後に、コンテナ船までキラを連れていくはずだったのに。仕方の無いことだけどこうなった以上、戦闘終了後に回収するしかないだろう。

(・・・・・・ありがとう。後でまた会おうね)

それまで敵潜水艦に発見されることのないよう祈り、また、これまで自分たちを守ってくれたキラの第二の愛機に敬意を込めて、響は心の中で敬礼した。
やはり身体は動かないから、せめてとばかりに瞠目する。
相手はモノ言わぬ鋼鉄の機械人形だけど、かつて自分たちもモノ言わぬ鋼鉄の艦艇だったからこそ、いつか心が通じると信じて。
しかし、ここからどうしたものか。
確かに自身の危機は脱したが、作戦は継続中だ。はやくキラがストライクに乗って対レ級戦に参加しなくてはならないのに、浮島と化したシールドでは身動きできない。
響には解決策なんてなにも思い浮かばなかった。

「・・・・・・今度こそハンモックの出番っぽい?」
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2020/04/12(日) 18:32:13.07ID:5Dl/6pTn0
「はは、あれば良かったんだけどね。・・・・・・懐中電灯ならあるから、なんとかしてみる。見つけてもらうしかない」
<発光信号? 明石さん哨戒艦でこっちに来てくれてるのよね。それなら・・・・・・って、あれって!?>

だからこれは、ただただ恵まれていたのだろう。キラが懐からマグライトを取り出す前に、それは来た。
勢いよく波を掻き分けながら此方に向かってくる影を、響は目にする。一瞬深海棲艦かと戦慄したが、なんてことはなく、それはただの小型ボートだった。
【いぶき丸】に積載されていた、明石の操る最新鋭軍用高速ボートである。

「キラ、響、瑞鳳、夕立!! よくぞご無事で・・・・・・!」
「明石さんっ!! すいません、デュエルが!!」
「わかってます! こうなったらコイツでコンテナ船まで行きます!! 急いでください、思ったより早く阿賀野達が押されはじめちゃって!!」

感動の再会とはいかなかった。
二日ぶりに見ることになった明石はすっかりやつれ果てていて、目の下には大きく色濃い隈を作っていた。髪もボサボサで、きっと肌もボロボロだろう。そうさせてしまうほど、自分たちは心配と苦労をかけてしまったのだ。
でも、それでも気力で魂を奮い立たせ、ギラギラ光る眼光で状況を覆すべく頑張っている。
どうしてここにと問えば【いぶき丸】甲板上からでもデュエルが攻撃されたのが見えたらしく、エネルギー枯渇を危惧した明石が単独で迎えに行かなければと判断したらしい。
「大当たりでしたね」と、明石は無理矢理ドヤ顔を見せてくれた。
また【いぶき丸】は戦域から離脱するよう要請したようだ。元々あの艦に寄る必要性があったのは、工作艦明石が一刻も早く響と瑞鳳と夕立を診るためであって、こうして合流したからには省けるプロセスなのだ。
今はともかくストライクを積載したコンテナ船への合流が急務。
そんな彼女の意を組んだキラは素早くボートに乗り込むと、明石に代わって操縦席へ。一目で操縦方法を把握すればアクセル全開、五人にして四人を乗せた小型艇は一気に最高速45ノットまで加速する。
すると後部座席へ来た明石は無言のまま、今にも泣き出しそうな貌で、瑞鳳色の響を抱きしめた。
頼もしいキラとはまた違う、暖かくて柔らかい抱擁。
もう大丈夫だよと、言われた気がした。

「明石、先生・・・・・・」

あの朝の出撃から今までのことが、改めて走馬灯のように脳裏に蘇る。
事ここに至ってようやく「帰れるかもしれない」という実感が追いついた響がまず感じたものは、思ったものは、恐怖と後悔と寂しさが綯い交ぜになったもので。それがたまらなく嫌で、一気に視界がぼやける。

「明石っ、せんせいぃ・・・・・・! わたし、わたしは・・・・・・!」

そこから先は言葉にできなかった。
この二日で色々なものが変わってしまった。【強い私】ではなく【弱いわたし】として初めて接する明石に、なんて言えばいいのか解らなかった。
0379通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 62ad-zfCe)
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2020/04/12(日) 18:34:50.94ID:5Dl/6pTn0
<ごめんなさい明石さん。心配しないでって私、言ったのに・・・・・・>
「響、瑞鳳・・・・・・よく頑張ったね。ちゃんと、絶対、直してあげるからね!」
「瑞鳳さんが謝ることなんて何もないっぽい。それだったら夕立だって・・・・・・、・・・・・・ねぇ先生、あたしは少しなら動けるから、響の修理お手伝いするっぽい!」
「ありがと夕立。それにしても響、話には聞いてたけど本当に貴女達・・・・・・てか二人とも裸みたいな格好じゃないの!? ああもう、とりあえずこれ羽織って!」

とはいえ、感傷に浸れる時間はつかの間。
二人して包帯をぐるぐる巻いただけでほぼ裸みたいな恰好であることに気づいた明石が素っ頓狂な叫びを上げると、慌てて取り出した毛布を強引に被せられた。
その途中に彼女が操縦席の方をキッと睨付けたのが、それに察知したのかキラもビクッと震えたのが妙に印象に残った。
いや、彼もちゃんと着られる服を探してはくれたんだよと擁護しようとしたが、明石は「カーテンかなにかで外套ぐらい作れたでしょうに」と聞く耳なしで。
まったくもって「それどころじゃない」間抜けな会話に、なんだかこそばゆい気持ちになった。

「・・・・・・コホン。えーっと、じゃあ響。さっそく診させてくれる? 転送できる?」
「うん大丈夫。ちょっと待ってて。・・・・・・瑞鳳姉さん?」
<せーのでやるよ響。タイミング合わせてぇ・・・・・・!>

目尻を拭ってもらいながら響は深呼吸を繰り返し、精神を整える。
コンテナ船までは、まだ少し時間が掛かる。その間にやるべきをやろうということだ。
明石がここまで来てくれたのは、手ひどく損傷した響達を修理する為。異邦人キラにより前代未聞のニコイチ修理された響鳳を分離できるか診断する為。工作艦明石が持参した工具類を傍目に、響は集中する。
今ここに、修理すべき二人の艤装はない。
デュエルに積めなかったから、あの隠れ住んでいた廃墟に置いていたのだ。
だから艦娘が生まれつき持っている超常能力、日常的に行使している不思議を顕現させる。

「来い!」
<来て!>

艤装転送。
艦娘の本体――魂であり心臓である艤装――を、意思総体を司る肉体のもとへ、どんなに離れていようとも意思一つで召喚する不思議。
いや本体たる艤装が、自由移動できる肉体を媒体に空間跳躍しているといったほうが正確か。
そういった仕組みで以て、青い光の粒子を伴って、ボート後部座席に歪な鉄塊が突如現れた。
響と瑞鳳の艤装を合体させた、響鳳としての艤装だ。
これに驚くことなく、明石は早速診断に取りかかる。そのサポートとして夕立は毛布で簡易テントを作り、光が外に漏れないようにしてから懐中電灯で明石の手元を照らす。
数分ほど、ボートの上でガチャガチャと作業音が響いた。
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2020/04/12(日) 18:37:16.33ID:5Dl/6pTn0
「どれどれぇ・・・・・・うは、なんつー無茶苦茶な・・・・・・、いやでも? んん? っあーなるほど。嘘でしょ、一見ぐっちゃぐちゃスパゲッティなのに見れば見るほど合理的って・・・・・・
でも不安定、ちょっとしたことで崩壊するかもじゃないこれってば。・・・・・・ひとまず響鳳として安定させなきゃ危険か」
「なんとかなるっぽい?」
「っぽい。ここをこうして・・・・・・よし、これなら鎮守府工廠でちゃんと分離可能! んで今は響鳳として身体を動かせるようにしてみたよ、動けないってのはマズイからね。どう響?」

工作艦として【先生】として面目躍如。あっという間かつ正確な処置だった。
バチンとスイッチが切り替わったかのように指先に、四肢に、身体に意思が漲る感覚。歪だった鉄塊もほんの少しだけ艦艇のようなシルエットになって、これまで不安定だった響鳳という存在が確定した瞬間だった。

「・・・・・・動く。動くよ! ありがとう先生」
「ん? スパシーバ(Спасибо)じゃなくて? まぁいいけど。んじゃ次は夕立ね」
「ぽい!!」
<良かったね響。もう少しの辛抱だよ>

そして。
機を同じくして。

「・・・・・・? あれって・・・・・・【いぶき丸】!? なんでこっちに!」

キラが驚愕の声を上げた。
見れば、南東へ向かい走るボートの9時方向、北の水平線に、本来キラ達が合流するはずだった――そして明石から離脱するよう言われていたはずの小型高速哨戒艦の影が見えた。
艦首を此方に向けて、みるみるうちに大きくなるシルエット。間違いなく全速力で戦闘海域に突入しようとしている。
何故?
答えは、響達が予想もしなかったところから飛来してきた。

「くぅ!?」

まるで此方を嘲笑うかのように、後方から、二発の砲弾。
戸惑う少女達に警告を放つ暇すらなく、キラはボートを急旋回させ危ういところで回避した。

「ッきゃあ!?」
<至近弾!?>
「この音、小口径砲っぽい! 5inch砲!!」

更に大きな水柱が連続で上がり、余波で船体がぐらぐらぐらりと傾ぐ。
やっと自由になった身体全身でとっさにボートの縁のしがみつき、耐える。もしも明石が覆い被さってくれていなかったら海へ放り出されていたかもしれないほどの酷い揺れだ。
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2020/04/12(日) 18:39:21.21ID:5Dl/6pTn0
それ以前に、もしもキラが操縦者じゃなかったら転覆、いや撃沈していたかもしれない。
最高速で蛇行するボードに容赦なく降り注ぐ艦砲。
とても片手間とは思えない砲撃精度に、全員が目を剥いた。

「敵の砲撃? まさかもう立て直されたんですか・・・・・・!? どんだけ無茶苦茶なんですか、レ級艦隊ってのは!」

まさか、もう【阿賀野組】は瓦解してしまったのか? 振り向けば南西へと走るボートの遙か後方で、縺れあうように戦っている影達から突出するものがあった。

「あの艦影・・・・・・ハ級!!」
<阿賀野達は!?>
「三人ともまだ健在っぽい!! やられてない! でもあれじゃ!!」

駆逐ハ級。
先ほどデュエルで撃沈した敵と同種の艦が、またしても【阿賀野組】を躱してボートを追ってきている。
後方の戦闘をよく見てみれば、敵艦隊の残存はレ級、ネ級、ツ級のみと3隻までに減っていたが、むしろその残存艦隊のほうが逆に、阿賀野達を足止めするような格好になっている。
此方にとっては対レ級だけでも命がけなのだから、その隙を突かれた。
敵は最優先目標を理解しているのだ。
状況は加速的に悪くなる。流れはレ級艦隊に傾いている。


それを妨害するように、此方に突入してくる【いぶき丸】の艦砲が火を噴いた。


自衛用にと申し訳程度に装備していた小口径速射砲と機銃での弾幕が、迫る駆逐ハ級を猛然と襲う。
【いぶき丸】には最初から見えていたのだろう、あのハ級が単身突撃してくる様を。
当たり前な話だが肉眼に限れば、通常艦艇のほうが艦娘よりも遠くを視ることができるのだ。だから非戦闘用にも関わらず、ボートを援護すべくやってきてくれたのだ。
しかし当たらない。回避される。
ハ級の大きさは大体ボートと同じ程度で、通常艦艇で狙うにはあまりに小さすぎる。ましてや夜間、ドリフトするように波を蹴立てる敵駆逐艦は易々と弾幕を躱して、哨戒艦へ反撃しながらボートを追跡してきた。
なんという執念か。
その様に響は怖気を覚え、また瑞鳳は違和感を覚えた。

<まさか・・・・・・敵はこっちが見えてるの?>
「っぽい。この精度、そうとしか思えない。じゃなきゃこんなのあり得ないもん」
「マズイですよ!? これじゃコンテナ船と合流できたとしても!」

夕立が同意し、明石が危惧し、キラが唇を噛む。
レ級艦隊は確かに精強で、そのうえ阿賀野達より数が多いが、それにしたって動きが良すぎる。
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2020/04/12(日) 18:42:36.02ID:5Dl/6pTn0
なにせ敵艦隊は何も見えない夜ではなく、まるで太陽の下でなにもかもを見通しているかのように、易々と此方の狙いの上を征くのだ。他の要因があるとしか思えない。
深海棲艦は夜目が利かないという基本事項がある。でも、もしそれを克服していたら? もしC.E.の技術を、例えばMS用センサーだとかを巨人【Titan】を通じて取り入れていたら? そう考えれば辻褄が合う。
先ほどキラが実演してみせたように、先制の長距離狙撃をしてみせたように、モビルスーツにとって夜の暗闇は「暗闇」ではないのだから。同じく閃光弾とジャミング弾の効果も半減してるだろう。
だから戦闘補助弾頭をもってしても、新型の機雷を仕掛けても敵艦隊の動きを封じきれなかったし、デュエルやボートがほぼ正確に攻撃されたのではないだろうか。
敵の増援として【Titan】やモビルスーツ、スカイグラスパーが来るかもしれないと覚悟していたが、まさか敵全体が強化されていようとは。
人類側はまだ響一人を中途半端に強化して、ささやかな特殊兵装を製造するだけでも手一杯だったというのに。
ならば台湾の深海棲艦は全て、特装試作型改式艤装と同等以上の性能を持っていると認識を改めなければならない。
人類側のC.E.技術担当の二人は悔しげに顔を顰める。
侮っていたつもりはないが、最大限警戒していたが、敵は予想以上に強く、賢い。

「チィ、どうする!?」

キラが迷うように吐き捨てる。
このまま【いぶき丸】に全てを任せて離脱するか、まずハ級を撃退すべく協力するかという逡巡が響にも伝わってきた。
佐世保側の誰かが一人でもやられてしまう前に、キラがストライクに乗らなければならない。それが今作戦の前提。だが、かといって。
ハ級と正面から戦えば【いぶき丸】は確実に沈む。
通常艦艇ならば乗組員がいる。面識こそないもののアレには人間達が乗っている。そして通常艦艇といえども、まだ認識されていないだけで、もしかしたら艦娘と同じように魂が宿ってるかもしれないのに。
見捨てることができない気持ちは痛いほど共有できた。
その時、艦首に直撃を受けた哨戒艦【いぶき丸】艦橋から光が瞬いた。
発光信号。
ススメ。ココハマカセロ。

「!! ・・・・・・ごめん!」

ハ級とボートの中間に、まるで壁になるように滑り込んだ哨戒艦に鼓舞されてボートは進む。前方には遂にコンテナ船の巨大なシルエットが見えていた。
あそこに辿り着けさえすれば。速く、早く。誰もが一心に願う。
はやる気持ちが伝わったかのように、ボートのエンジンが甲高く咆哮を響かせて。
45ノットは伊達じゃない。決死の激闘を背にたったの3分弱でコンテナ船への横付けに成功した。

「こうして見ると大きい!」
「キラ、あのクレーンへ!! あれで甲板上まで引揚げてもらう手筈です!」
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2020/04/12(日) 18:43:08.21ID:5Dl/6pTn0
ボートごと籠付きクレーンに突っ込んで、引っ張り上げてもらうこと十数秒。
久々に立ち上がることができた響は、その足で広々とした甲板を踏みしめた。普段は何十何百というコンテナを積んでいるというのに今はガランとしていて、中央に佇む大きな人型を強調しているように思えた。
ここまで来るまでに、一体どれだけのモノを費やしたのか。【阿賀野組】と【いぶき丸】のおかげで、みんなのおかげで、ようやくだ。
【GAT-X105 ストライク】。明石達が8割まで修理してくれたキラの愛機が、かつてデュエルと戦ったという機体が、ここにいる。
同じ場所まで、やっと来ることができた。

「行ってきます。明石さん、みんなを頼みます!!」
「頼まれましたよ! ご武運を!!」

まだ【阿賀野組】と【いぶき丸】は健在。まだ間に合う。彼が救える。
交わす言葉も少なく、キラ・ヒビキが走り出す。
残された少女達は皆、戦場へ戻る彼を見送った。


そうなる、はずだったのに。


「――・・・・・・え?」

何故?
何故だろう?
思わぬ光景に、想像していなかった展開に頭が真っ白になった響は、ただただ現実に問うばかりな無意味な疑問に、思考を占拠された。
わからない。どうして?
何故、彼はわたし達のところに戻ってきたのだろう?
何故、彼はわたし達を突き飛ばすのだろう?
何故そんな、さっきまでよりずっと怖い顔をして――


――そこで、響の意識は一旦途絶えた。


最後に彼女が視たものは、現実味のないスローモーションのなかで。
砲弾の直撃でめくり上がった甲板や様々な残骸の数々に、呆気なく呑込まれていくキラの姿だった。
0385ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 62ad-zfCe)
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2020/04/12(日) 18:45:27.39ID:5Dl/6pTn0
以上です。
ようやく書きたいシーンまでの繋ぐことができました。ライブ感()で書いてるものですから、どうにも矛盾のない状況の構築に手間取ってしまいました
0387ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 9fad-xa8R)
垢版 |
2020/04/15(水) 03:40:39.16ID:7jg8hWAi0
楽しみと言っていただき、ありがとうございます。
ですがすいません、今回投下した話の最後を、以下のものに差し替えさせてください・・・
うっかり修正前のものを投下してしまいました。

----

何故、彼はわたし達のところに戻ってきたのだろう?
何故、彼はわたし達を突き飛ばすのだろう?
何故そんな、さっきまでよりずっと怖い顔をして――


――そして、響はソレを視た。視てしまった。


現実味のないスローモーションのなかで。
砲弾の直撃でめくり上がった甲板や様々な残骸の数々に、呆気なく呑込まれていくキラの姿を。

----

今度こそ、以上です。
また次回の投下から、文章形式を変更します。
0389通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
垢版 |
2020/06/16(火) 14:09:55.74ID:zXqOza4K0
――艦これSEED 響応の星海――


 ついさっきの、一瞬の出来事だった。
 今や哨戒艦【いぶき丸】と相打ちになって沈んだ駆逐ハ級、その最後の砲撃がコンテナ船を射貫き、大量の破片を伴ってわたし達を襲った。
キラにしてみれば迫り来る鉄の雪崩から護るか、見捨ててストライクに乗るかの二者択一、二律背反の出来事だった。
 結果、彼はわたしと明石を突き飛ばして、夕立を抱きしめて、残骸に呆気なく呑込まれた。
 それを視てしまった。
 わたしはもう、何も考えることが出来なくなった。
だってどう見たって致命傷で、またわたしなんかを庇って。一体何度、同じ過ちを繰り返すのか?
 カチカチと口元から音がする。ドクンドクンと耳元から音がする。脚が生まれたての子鹿みたいに震え、股座が生暖かく濡れて気持ち悪い。
この世界に生まれ落ちてから何度も目にした光景が、先日にも目にした惨劇がフラッシュバックする。瑞鳳のおかげで辛うじて繋ぎ止めていた【わたし】の魂が壊れるには、充分過ぎる――
 頭が真っ白になった。
 なにも考えることが出来なくなった。
 けれど……いや、だからこそ、なのかもしれない。
 その声は、まるで世界を満たすようにして、わたしに刻まれた。
 

「響。君が、君達だけが、頼りだ。お願いだ……僕に出来ないことを、託させて」


 本当に言葉だったのかは、わからない。不思議な感覚だった。
 彼の言葉だったのか、声なき想いだったのか、もしかしたら幻聴や妄想の類いなのかもしれない。でも確かに声が聞こえたから、響いたから。
 真っ白になった【わたし】に、それだけが残った。自身の中で考えを纏める過程もなく、たった一つの道標が残った。
 現実を見据えるハリボテの勇気は、今この胸にある。
(――きっ――びき! ……響!! しっかりして!!)
「……大丈夫、だよ。大丈夫、わたしはもう止まらないから、瑞鳳姉さん」
(え……?)
 大きな深呼吸一つ、ゆっくり瞬き二つ。
 まるでテレパシーのように思考に響く瑞鳳の呼びかけに、自失から醒めたわたしは自分でも驚くぐらいの冷静さで応えた。
 次第に思考が定まり、焦点が定まり、視界がハッキリする。
 コンテナ船の甲板上だ。いつしか転がっていたわたしの視界に広がっている光景を、ハッキリ認識する。目の前には鉄屑の山があった。さっきまで自分たちがいた所に、コンテナ船の破片で築かれた山があった。
 これの下にキラがいる。
0390通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:12:03.91ID:zXqOza4K0
「ッ……ぅ、ぐぅ……!」
(響……!?)
 意味もなく叫びたくなる衝動を、胸元に巻かれている包帯をぎゅっと鷲掴んで堪えた。
 代わりに、軋んで痛む身体を、瑞鳳の声を支えにして立ち上がらせる。握りしめた拳からじわり溢れたものが包帯を紅色に染める。そして眼下にあるキラの姿を、改めて直視する。
 その姿はさっき見た時となんら変わっていない、地獄めいたものだ。
 倒れ伏した彼の下半身は完全に埋もれていて、露出している上半身の至る所に破片が突き刺さっている。脇腹から鉄管が飛び出している。死んでしまったかのように動かない彼が、そこにいる。
(酷い……こんな、はやく手当しなきゃ……!)
「……」
 けど。
 けれど。
 まったく別の視点で見れば。言ってしまえば。たったそれだけで、済んでいた。
 大丈夫、気絶しているだけだ。浅いけど呼吸もしている、死んではいない。キラは普通の人間じゃないんだから、わたし達と同類なのだから、これぐらいの傷じゃ死なない。
 そして彼の下敷きになっている夕立は気絶こそしているものの怪我はなさそうで、少し離れたところで倒れている明石も同様。わたし達も無傷……
 そうだ、彼は「今度こそ護りきれた」のだ。
 思い出す。
 昨夜、彼が語った昔話を思い出す。
『結局僕はさ、フレイを護れなかった。僕が傷つけて、彼女を孤独にした元凶のくせに……彼女を護らなきゃいけなかったのに、いっぱいいっぱい泣かせちゃったのに……
僕が全部悪いのに、殺してしまったようなものでさ。多分それが今の僕の……根っこになってるんだと思う』
 はじめて知った、彼の過去。
 戦いたくなんてないのに戦わなくちゃいけなくなって、沢山の罪を背負い、それでも戦うと決めた理由と想い。それでも護れなかった命の数々。それでも奪ってしまった命の数々。フレイ・アルスターという少女の存在。
 きっと彼がこの世界でも戦う道を選んだ、わたしを気にかけてくれるようになった、起源とでも言うべき半生、トラウマ。
『怖いんだ、誰かを護れないことが。怖くて恐くて仕方なくて、だからかな、戦う力が手放せなくなった。僕の戦う理由なんてそんなものだよ』
 そう締めくくった苦笑した彼の貌に、見覚えがあった。毎日鏡で見てきた顔だった。
 この男もまた、わたしと同じように、己のことが嫌いで赦せない人間だと確信した。
 経験も価値観も主義主張も何もかもが全然違うのに、どこか、君はわたしに似ていると思えた。


 だからわかる、共感できるんだ。彼の選択の全てを受け入れて、肯定できるんだ。


 彼に迷いなんか無かった。後先考えることなく身体が勝手に動いて、二者択一だとしても二律背反だとしても迷うことはなく咄嗟に……キラ自身が後で冷静に思い返すことがあったって、
絶対に同じ選択をするって言うんだろうなと想像できた。
わたしが死神だとか関係なく、彼は彼の為に選択したんだ。そこに後悔が介在する余地はない。
0391通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:14:21.19ID:zXqOza4K0
 ならば継がなければ嘘だ。託された意思を、力を、想いを、たった一つの道標へ乗せて征こう。
 ここからはわたし達の道だ。
「姉さん、キラの治療は先生に任せよう……、……わたし達には、やらなきゃいけないことがあるよね。手伝ってほしいんだ」
 目指す先はただ一つ、はじめの一歩を踏み出して。己の怯懦を、臆病を踏み潰すような一歩を、踏み出して。雲が晴れて暁色に照らされつつある甲板上をしかと進みながら、やるべきことを瑞鳳に語った。
(それは……、……だけど響、ねぇ響、本当に大丈夫なの……?)
「わたしはずっと護られてた。護ってくれてた。キラはわたし達を護って、託した。だったら今度はわたしの番なんだよ」
 そしてもう一つ、キラに護られて解ったことがあった。
 いや、ようやく気付けたというべきか。それはあまりにも身近過ぎて気付けなかったのか、それともただ単に呆れたくなるほど鈍感なだけだったのか、
それとも気付けたと思い込んでいるだけな恥ずかしい自意識過剰なのかは、わからないけど。
 ともあれ、わたしには一つの理解があった。
 つまりこの身は瑞鳳に愛され、夕立に育まれ、キラに護られたものなのだと。
 わたし自身にとって「生まれてこなければよかった。ここからいなくなりたい」という心境は変わっていないし、自分が赦せなくて大っ嫌いなままだけれど。
でも大切な人達に大切にされたこの身を、大っ嫌いの一言で片づけるのはあまりに悲しいことではないか、もう少し自分を好きになっても良いのではないかと、今になって初めて思えたのだ。
 だから、前へ進むと決めることができた。
 自分がこれからやろうとしていることに恐怖を感じているのは、紛れもない真実。【私】という仮面が砕けた今、わたしにとって戦うという行為は純粋に恐ろしいことだ。
 けれど、みんなを助けたいって気持ちのほうがどうしたって強いから。ここで戦えないほうが、ずっと辛いから。もう青臭いことを四の五の言っている段階じゃないんだ。
 わたしは【わたし】のまま戦う。その覚悟はある。死神め、来るなら来てみろ。
(……わかった、ならもう何も言わない。私達がやれることをやるしかないなら、全力でサポートするから)
「……ありがとう、ごめんね」
(謝らないで、こうなったら私も腹くくるわよっ)
 いつしか、わたしの隣には真っ赤に染まった瑞鳳の幻がいた。透明に澄んだ紅色、己の内側を巡る血のような姿。
でも悍ましさはなくて、己の内に彼女が在るという頼もしさを感じる姿だった。きっと身体を共有している彼女の「一緒に戦おう」という意思が、わたしに幻を見せてくれているのかもしれない。
 心配してくれる瑞鳳の労りが、意を汲んだうえでの気遣いが、涙が出るぐらい嬉しかった。彼女は本当にいつも優しくて、いくら感謝してもしたりない。
 絶対に生きて帰って、みんなに恩返ししよう。
 決意を新たにわたしは前を向く。そこには、目前には片膝ついて待機している鉄灰色の機械人形――ストライクの威容があった。
 さぁ、現実を見据えるハリボテの勇気で、精一杯の強がりで、キラが出来なくなったことをやろう。



《第21話:Follow me,Follow you》
0392通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:16:45.86ID:zXqOza4K0
 展開していた胸部中央装甲から垂れ下がった乗降用ケーブルを掴むと、響の小さな躰はあっという間に機体腹部のハッチまで導かれていった。目前にはキラが座るはずだった無人のコクピットがある。
 ここから西の海を見れば、すぐ近くに艦首からゆっくり沈んでいく【いぶき丸】の姿を確認できた。
 あの艦は、轡を並べて戦ったことは少ないけど確かに戦友と呼べる彼女は、奇跡と言っても過言ではない偉業を成してくれた。
相打ちになってしまったとはいえ、一対一で通常艦艇が、それも非戦闘用艦艇が深海棲艦を沈めるなんて人類史上初に違いない。
 艦の周囲には多数の救命ボートも確認できる。最新型だけあって少人数で操艦できる設計で、パッと見る限りクルーの殆どが退艦できているようだ。
とはいえ流石に死傷者0ではないだろう、二人で犠牲になった艦とクルーの冥福を祈る。
「はやく終わらせなきゃ、こんなことはもう」
(うん。私も同じ気持ち)
 ここからはわたし達の戦いだ――そう決意を新たにコクピットシートに身を預けた響はさっそく電源を入れて、朧気な記憶を頼りにボタンをたどたどしく押していく。
実は身長が足りるかと少し不安だったが、四肢はなんとかレバーやフットペダルに届いてくれた。瑞鳳と融合した副産物で少し身体が大きくなっているらしい。
 ストライクに乗るのは三度目になる。
 一度目は11月3日の防衛戦で、左腕を負傷したキラと共に機体を駆った。二度目は11月13日、瑞鳳と一緒に機体調整中のキラへお菓子を届けにいったら、
紆余曲折の末に三人ともストライクのコクピットに閉じ込められるというトラブルがあった。その前日12日に艦娘全員が操縦適性検査としてデュエルに乗ったことがあったから、
モビルスーツに乗るという意味ではこれで計五度目になるか。
「APU、CCU起動確認、ハッチ閉鎖……ええと、次は……」
(あっ響、それ違う。右隣の……そうそれ)
「ありがとう。こういうの得意なの?」
(まぁね、空母だからかも? 起動手順だけならちゃんと覚えてるから安心して。いい、私の言う通りに……)
 機体心臓部から発する駆動音が高まり、隣の瑞鳳の指示通りに機体制御システムを立ち上げるとメインディスプレイにシステム名が流れるように浮かび上がった。

 ――General
   Unilateral
   Neuro-Link
   Dispersive
   Autonomic
   Maneuver ――

「……ガン、ダム……?」
 五度目の搭乗になって、これまで気にも留めていなかった文字列の頭文字が縦読みできることに気付く。
意味はわからないし、だからなんだというわけでもないが、無意識に呟いた単語にはなんだか誂えたような厳つさがある。
 まったくもって場違いだけれど、現実逃避だけれど、ペットネームと合わさればストライク-ガンダムとなってちょっと格好いいかもと思った。
0394通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:17:51.80ID:zXqOza4K0
(? どうしたの?)
「あ、いや……なんでもないよ、準備急ごう。神経接続イニシャライズ、リンクスタート、操縦補助システム更新……」
 計器類に煌々とした光が灯り、モニターが夜明け近い空と海を映し出す。
 戦況はどうなっているのかと確認しようとすれば、搭乗者の視線を検知したのか頭部光学センサーが自動で【阿賀野組】をフォーカス、ズームアップ。
後退しつつもまだ粘ってくれている【阿賀野組】の奮戦を見て取れた。状況は3対3、数こそ互角だがいよいよ防戦一方になっていて、戦艦レ級と重巡ネ級と軽巡ツ級の飽和砲撃から危ういところで回避している有様だ。
いつ撃沈してもおかしくない。
 それでも彼女達はキラが、ストライクが来てくれること信じて立っている。
 一刻も早く戦闘に介入しなければ!
 逸る気持ちを抑え、響はキラに教えてもらったショートカットを実行して機体制御OSを初診者(ナチュラル)用のものへと切り替える。
これで一応、以前少しだけ試させてもらったことがあるキラ用OSのままよりかは多少マシに、自分でも走って銃を撃つことができるように、なるはず。
 戦場を甘く見ているわけでも、己の実力を過信しているわけでもなく、少女は知っていた。走れて銃を撃てさえすれば戦えるのだ、どんなに不格好でも、不慣れでも、不利でも。
モビルスーツは人類が開発した汎用兵器、ならば戦えない道理はない。
 とにかく必殺のビーム兵器さえ当てれば。それだけを一縷の望みに、最後のボタンを押した。
「主動力コンタクト、パワーフロー正常。全システム……オールグリーン!」
(ストライク、戦闘ステータスでシステム起動! フェイズシフト装甲展開!)


 果たして、遂にストライクが蘇る。


 鉄灰色の巨人の瞳に光が灯り、装甲全体が鮮やかなトリコロールに色づいた。
 ここで響は外部連絡用スピーカーを有効化し、マイクを通じて明石へ語りかけた。まだ鉄屑の山の近くで気絶している彼女を起こすために、滅多に出さない大声で。
「先生、明石先生! お願い、起きて……!」
<――ぅ? ……ぁ……あっ! 響!? なにがどうなって……てか何処!?>
 幸いにもすぐに目を覚ましてくれた明石はバネ仕掛けみたいに飛び起き、声の主を探して周囲を見渡した。
 そんな彼女にたたみ掛けるようにして言葉を重ねる。一語一句ハッキリと、重く強く、意思をぶつける。響が【わたし】としてここまで語意を強めたのは、かつて提督に横須賀に行きたいと我儘を言った時以来だった。
「明石先生。ストライクには、わたし達が乗る」
<……は?>
「キラが怪我したんだっ。瓦礫に埋もれて! 救出と治療を、早く!」
 聴覚センサーが律儀に拾った明石の呆けた声がコクピット内に反響するが、構わず言いたいことだけ言い放つと問答無用でスピーカーを切る。話し合って説得したり納得したりするだけの猶予はない。
 懸念事項は消えた。
(響、もう限界みたい!)
0395通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:20:18.06ID:zXqOza4K0
「わかってるっ……アクティブセンサー出力最大、全兵装セーフティ解除。長距離射撃で注意をひく! 姉さん、撃ったらすぐに距離を詰めるよ。姿勢制御マネージャの呼び出しを!」
(了解!)
 シート背後からせり出した精密照準用スコープを覗きこみ、機体は片膝立ちのまま右手のビームライフルを西へ向けさせた。とにかく存在感を示せればいい。
初撃命中なんてありえないし、万が一にも阿賀野達に当ててしまうわけにはいかない。照準を敵艦隊上空辺りに定め、一拍おいてコントロールスティックのトリガーを引き絞る。
 発砲。
 大雑把に放たれた荷電粒子の矢が大気を虚しく灼いた。両艦隊の動きが一瞬ピタリと止まったかと思えば、いち早く【阿賀野組】が全力逃走の姿勢をとる。
それでいい、阿賀野達に逃げろとデュアルアイを瞬かせた発光信号で伝えてもう一射、次は手前の海面へ。レ級達がこちらをターゲットした気配が伝わってきた。
 間に合ったか。
 あとは【阿賀野組】を安全圏まで逃がしつつ、敵を殲滅する。一度目にストライクに乗った時とは似たようでまったく逆の任務内容に心臓が早鐘を打つが、やると決めたからには。
 ――やってやる!!
 気合い新たにスティックを軽く捻り、スロットルレバーを最大まで押し上げて、ペダルを力強く踏み込む。


 片膝立ち姿勢からの跳躍を命じられたストライクが、響の入力通りに、響の意図したものから外れた角度と速度でコンテナ船甲板上から飛び出した。


「……え!?」
 操縦系が、少女らが想定していたものよりもずっと敏感だった。そのうえ速度が出ていない、遅い。マズイと悠長に考える間にも機体はどんどん傾いでいく。
高度40m、跳躍の頂点に達した時には既に、モニターは天地真逆な東の海を映していた。機体が縦半回転している。
(リカバリー! 体勢立て直して!)
「ぐッ!? こんな……これは!?」
 落下。
 このままでは頭から海に突っ込んでしまう。真っ逆さまな重力に混乱しながらも背部スラスターと膝部スラスターを噴かせて更に縦半回転、危ういところで海面に両足から着水させ――
 警告音。
 敵からの一斉砲撃にアラートが喧しく喚き、あっという間に響の判断力を奪っていった。
「!?」
(ダメ、響!!)
 反射的に踏み込まれたペダルにより、今度はほぼ垂直に打ち上がるストライク。
 やはり加速力は記憶にあったものより鈍っているが、それでもGに備えていなかった響の身体はあまりに乱暴な機動のショックに耐えられず、
無意識に四肢で踏ん張ろうとして――結果両手のスティックが滅茶苦茶に動かされ、その追加入力を機体は忠実に実行。呆気なく制御を失った機体が、空中で軸のズレた独楽のように回転した。
0396通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:22:23.59ID:zXqOza4K0
「わぁあぁああぁああああああ!?」
(きゃぁあああああああああぁ!?)
 以前の響ならしなかったような初歩的なミスに、コクピットはさながらシェイカーのような有様。とはいえノンキに絶叫していれば解決するものでもない。
幸いにも敵の砲弾は当たらなかったが、これではただの的どころかピエロだ。
 すっかり混乱しきってしまったパイロットをフォローすべく、コ・パイロット役になった瑞鳳が叫ぶ。流石にこれまで数多の艦載機を操っていただけあって、こういう時でも冷静だった。
(一旦力を抜いて!)
「……!」
(よぉし……! カウントスリーで背部メインスラスター全開! さん、にぃー、いち……今!!)
 そして響も響でこれまで重ねた経験そのものは紛れもなく本物であり、自身の躰をコントロールする達人であり、強引なブーストで制御を取り戻してからの順応と学習は早かった。
 ただしその代償にメインスラスターはオーバーヒート、冷却しきるまで使用不可能。再び警告音、脚部スラスターを噴かし着水したストライクめがけて砲弾が殺到する。
 被弾。身を捻らせて弾幕の殆どをやり過ごしたが、レ級の16inch砲弾が右肩に命中、右腕が付け根から千切れ飛んだ。
「しまった!?」
(嘘! フェイズシフト装甲なのに!?)
「他に武器は……!」
 一定のエネルギーを消費することにより物理的な衝撃を無効化するPS装甲だが、流石に戦艦の大口径砲相手ではフレームが保たなかった。
たった2発撃っただけのビームライフル諸共に虚空へと消えた右腕を尻目に、鎖骨が軋むようなGに耐えて海面との激突を避ける。
 最大の攻撃手段が潰えた。
 スロットルを絞ってホバー走行モードに切り替え、敵の追撃をぎこちなくとも必死に回避しながらコンソールを弄って使える武器を探す。ここで響は先ほどから抱いていた違和感の正体を知った。
「ッ!? そうか、エールストライカーパックが……!」
(本体内蔵スラスター出力も7割下回ってる! こんなんじゃ……!)
 失念していた。この機体はあくまで、明石曰く8割までしか修理されていないのだと。偶然見つけた本来のスペックと現在のスペックの比較数値に二人は息を呑む。
 ストライクの機動力の要、空戦を可能にさせるエールストライカーパックが装備されていなかった。
 間抜けもいいところだ、搭乗する前に気付いて然るべきだった。しかもスラスター出力も若干制限され、機動性はかつての防衛戦時よりも低下している。
速度が出なかったのもあっという間にオーバーヒートしたのもこの為だったのだ。
 不備は防御力も同様だった。生産が間に合わなかったのだろう、PS装甲は機体前面部にしか装着されておらず、後面部は艦娘用装甲材である汎用霊子金属で代用しているらしい。
本来なら無重力空間でしか精製できないというPSマテリアルをこの短期間で復元・複製できているだけでも驚嘆に値するが、なんにせよ心許ないことに変わりはない。
 代わりにフレームと動力系は万全に仕上げてあるようだが、こんな仕様で戦場を戦い抜くにはきっと未来予知能力が必要不可欠だろう。
「くぁ……!? クソ、これ以上好き勝手されてたまるか!」
0397通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:25:25.67ID:zXqOza4K0
 またも被弾、中口径砲が腹部に命中。いつしかレ級ら3隻は秩序だった絶え間ない速射で圧倒してきており、
ギクシャク不格好に走るしかないストライクでは回避が一層困難になってきて、立て続けの被弾でエネルギーを半分以下にまで減らされた。フレームの負荷も相当だ。
 反撃に、後腰部にマウントされていた76mmアサルトライフルを撃つ。しかし距離があるうえに、お互いが目まぐるしく動いている。
おまけに敵が小さすぎるものだからまともに照準を定められやしない――18mの巨人が人間大の的を狙うとはどういう意味かを、肌で理解した。これでは牽制にもなりやしない。
 でも泣き言は吐かない。走れて銃を撃てさえすれば戦える、どんなに怖くてもキラの代わりに戦うと決めたのは自分自身の意思だ。
 賭けに出るか。
 残る武装は三つ。基本装備の75mm対空自動バルカン砲塔システム・イーゲルシュテルンに、折り畳み式戦闘ナイフ・アーマーシュナイダー。そして、
「サーベルさえ当てられれば、あんなヤツら……!!」
 左側腰部には高エネルギービームサーベルがマウントされてある。以前ウィンダムに切り刻まれた光景と恐怖が蘇って吐き気がするが、コイツなら敵を倒せる。この剣一本だけが最後の希望だった。
 しかし。
 しかしどうやって間合いに入ればいい? こうも集中砲火に晒されて、キラならきっとストライクの運動性を活かして近接戦に持込めるのだろうが、響の操縦技量では到底不可能だと思えた。
 ――駆逐艦娘の響なら、簡単に懐に飛び込めるのに。今のわたしなんかにできるのか……?
 その逡巡を察知したのか瑞鳳が冷静になってと咎める。
(ダメだよ、一旦退こう! このままじゃやられるだけよ!)
「……ッ……確かにこのままじゃ、退かなきゃわたし達が死んじゃう、か」
(コンテナ船も阿賀野達も安全圏に離脱したよ。だから!)
 瑞鳳の言い分は正しい。ここで逃げ惑って拘泥していても状況は悪化する一方だ。
 丁度、真後ろには福江島海岸が、陸地が、つまり少しは身を隠せて落ち着けられる場所がある。そこへ一旦退いて体勢を整えるのがベストだろう。佐世保主力艦隊が帰還するまで時間稼ぎすることもできるかもしれない。
「けど、だめだ!!」
 それを解っていて、響は前進した。
(響!?)
「退かなきゃ死ぬけど、退けばもうここまで近づけなくなる。チャンスは今しかない。なら、掴むよ!」
 ストライクの機動性は、回避能力はもう敵に読まれているはずだ。敵はあのレ級なのだ。ここで退けば、二度と距離を詰めるどころか囮として回避に徹することもできなくなると、
これまでずっと近接格闘戦をしてきた経験と勘が叫んでいる。
 長引けば長引くだけ不利なのだ。
 既に彼我の距離は、ストライクのフルブーストで詰められるギリギリの間合い。勝機は初撃の一太刀のみ。ここで仕掛けるしかない。
 正念場だ。ならば今この場この瞬間で、不可能を可能にする!
「姉さん、メインスラスターの冷却は!」
(ッ……クールダウン完了! 確かに、ここでやんなきゃ意味ないわね!)
「いくよ!!」
 スロットル全開、推力最大。
0398通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:27:07.57ID:zXqOza4K0
 先程までよりかは熟れた操縦でほぼ一直線、アサルトライフルと頭部機銃をバラ捲いて強引な突撃を敢行。極限まで高まった集中力のせいか、遠くの敵艦隊が少し慌てたようにする様がいやに鮮明に見えた。
 とにかく致命的なレ級の攻撃だけはなんとしても避けなければならない。いや、ツ級とネ級の中口径砲でも当たれば機体は蹌踉ける、動きが鈍る、つまり一発たりとも被弾は許されない。
 回避しきる自信はない。そもそも此方は18mの巨人、近づけばそれだけ避けにくくなる。なら敵に攻撃させないようにするしかない。まったく当たる気配のない機銃では役に立たない。
 キラならこんな時どうする――閃くや否やアサルトライフルを放棄し、左側腰部装甲内に収納されたアーマーシュナイダーを手に取ると、神経接続型操縦補助システムが響の運動イメージをトレース、
感覚のままスティックを操れば機体がサイドスローの要領で投げつけた。当たらなくてもいい、MSにとっては小型のナイフでも人間大にとっては巨大な構造物、目眩ましになってくれれば。
 果たしてブーメランのように飛翔するナイフは、しかし敵艦隊にまでは届かずその手前で盛大な水飛沫を上げるだけだった。けれど数瞬だけ敵の動きが止まった。
 ――やれる。
 跳躍、高度100m、敵艦隊直上まで一息に舞い上がる。相手は此方を見失っている。左腰からサーベルを抜き放ち、急降下。直前で気付いたネ級の砲撃を紙一重で避けて敵に肉薄。
「ぅらぁあああああああ゙あ゙あ゙ッ!!」
 雄叫びを上げて縦一閃。荷電粒子の光刃がしなって加速し――
 ――戦艦レ級が、一歩、前に出た。
 何かがおかしいと、響は感じた。酷い違和感。徐々に停滞していく時間のなか、徐々に加速していく思考で、無意識に感じ取ったモノの正体を探る。なんだ、何かが、おかしい。
 相手はレ級、これまで何度か報告書で見たことのある量産型深海棲艦。龍の顎の如き凶悪な尻尾と、いっそ清々しいほど可愛らしい笑顔が特徴的な、黒いパーカーを羽織った少女のような姿をした悪魔。
そいつの出で立ちは報告書のものとまるっきり同じで……、……いや、これは……!?
 答えを知る直前になって違和感は途切れた。断絶していた時間と思考が合致し、等間隔を取り戻した世界は結果だけを提示する。


 振り下ろした必殺のビームサーベルが、レ級の掲げたシールドに止められた。


「――……なッ!?」
(アンチビーム、シールド!?)
 ヤツの左手に、見慣れぬ黒い大型楯。あんなもの他のレ級は装備していなかった。間違いなく対MSを意識した装備。否、既にストライクとデュエルに辛酸を嘗めさせられてきた敵なら装備していて当たり前の代物。
 この可能性に気付いてなきゃいけなかった……!
(避けて!!)
「くっそォ!!」
 レ級の尻尾の先端、誰が呼んだかドラゴントゥース(龍王の牙)の異名をとる砲架が蠢き、16inch三連装砲と12.5inch連装副砲二基が火を噴いた。
計7門の砲口、一斉射。これを咄嗟のバックステップで回避しきり、続けてのネ級とツ級の攻撃は逆に前進して躱す。
0400通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:28:24.09ID:zXqOza4K0
 前進して、今度は足下を刈り取るような格好でサーベルを振るうが、あえなくこれも受け止められる。MSの膂力をもってしてもアンチビームコーティングされたシールドはビクともせず、どころか弾き返されてしまった。
予想もしていなかった事態と反動にストライクの体勢を崩しそうになるがなんとか堪え、勘だけで全力の垂直上昇、追撃を躱して再び敵艦隊の直上へ。
 ここにきて響は、目の前が暗闇に覆われるような気分になった。
 まずい。打つ手がない。
 先の一太刀は、これ以上ない渾身の一撃だった。敵の不意を突けたからこその。けどもう手の内を全て晒してしまった、同じ手は通用しない。
またあの濃密な砲火を掻い潜り、レ級のシールドをも掻い潜って一撃を入れられる未来が、見えない。
 いや違う、そもそも防がれたのは、レ級が此方の行動を想定していたからだ。
 どうしよう、どうすればいい、失敗してしまった。瑞鳳でさえ貌を硬直させて戦慄くばかりで、どうするのが正解なのか解らなくなった。
「ぅ、ぁ」
 ハリボテの勇気が砕け、精一杯の強がりが砂塵と化す、その一歩手前まで戦意が萎縮する。
 その時。
 またも時間が止まるような感じがして。
 何故か。
『……ねぇ、響。ストライクもね、不死鳥って渾名を持ってるんだ』
 何故か、響は脈絡なくかつてキラが言ってたことを思い出していた。
 ああ、最早懐かしい。
 あの時もどうしようもない暗闇の中で溺れてるような感覚に襲われて、彼は【私】の決まり文句とストライクの経歴にかこつけて根拠のないジンクスを嘯き、精一杯強がったのだ。
 不死鳥だから、きっと大丈夫なのだと。
 不死鳥。
 あぁ知ってるかい、キラ。わたしは大っ嫌いなんだ、その渾名は。そんな、己の過去の象徴するものは。大っ嫌いなんだよ。
 ――でも。
 でも、だ。
 初めて、でもと思う。
 大っ嫌いだけど、でも不死鳥は、不死鳥とは不屈だ。何度やられても立ち上がる、勇気ではないかと、これもまた今になって初めて思えた。それがなんだと言われたら、なんだろうねと苦笑するしかないけれど。
 本当に、戦ってる最中になにを思い出しているんだろうなと、響は困ったように微笑んだ。
 モニターは敵が此方に照準を定める様を鮮明に映していて、とても笑っていられる場合じゃないのに。走馬灯か、あまりに困窮した状況に現実逃避したいだけなのかもしれない。
 そうぼんやり結論づけても、回想は、声は続く。
『響。ちゃんと君は、僕が守る。絶対にやらせはしないよ』
 それはあの日から一度も忘れたことのなかった、一度も耳から離れなかった、彼の誓いの言葉。
0401通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:30:43.59ID:zXqOza4K0
 それが鮮明に蘇った瞬間、今この瞬間。天からの贈り物であるかの如く。バチンとスイッチが切り替わったかのように指先に、四肢に、身体に意思と力が漲る感覚が、来た。


 少し前に感じたものと同種の、けれどもっと大きなもの。何ができるのか、何をすべきかという理解が稲妻のように煌めく。これは――
「…………!!!!」
(!! これって!)
 ――これは、力だ。
 何もかもがクリアに感じられるような万能感。響と瑞鳳は互いに見つめ合ってから頷くと、いきなり脳裏にインプットされた知識に従って、知らないはずの操作を素早く実行する。
 ハッチ解放。
 空中にいるストライクの腹部装甲が展開し、目の前にはモニター越しじゃない雄大な蒼穹、そして嗅ぎ慣れた潮風の息吹。響と瑞鳳が、いるべき世界。
 そこへ二人にして一人の少女は躊躇いなく、予定調和の如く飛び出した。
「やろう、姉さん。二人で」
(違うよ響。きっとみんな、なんだよ)
「そうだね。うん、きっとそうだ」
 艤装転送。


 艦娘が生まれつき持っている超常能力、日常的に行使している不思議を顕現。
 艦娘の魂であり心臓である艤装が、青い光の粒子を伴って背中に装着される。


 同じくして左手に顕れた和弓に『矢』を番え、キリリと弦を鳴らし。
 矢の先端に青い光が灯り、背後のストライクもまた青い光に包まれ。


 下方、海面に向けて、射る。
 勢いよく放たれた矢は一拍置いて火焔に包まれ、凝縮のちに膨張、レ級達をも巻き込んで世界が青に染まり――


「特装航空駆逐艦、響鳳――推参つかまつる……!!」
<私達とストライクの本気! 見せてあげるんだから!!>
 キラの操縦に勝るとも劣らない優美な飛行を披露する、人間大にまで小さくなった【GAT-X105 ストライク】を伴って。
 右手に大型斬機刀グランドスラム改を握った瑞鳳色の響、響鳳は、いざ新たなる力を以てしてレ級艦隊へ躍りかかった。
0402通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:33:08.35ID:zXqOza4K0




 L計画。
 LはLeave、立ち去ることを表わす。即ち、いつか何らかの事情でキラだけがいなくなった場合に備えて、残されたストライクやデュエルを艦娘達だけで運用するためのプランだ。
 戦闘の申し子と言える艦娘達だが、意外にもモビルスーツの操縦は不得手だった。元艦艇という出自があるからだろう、自身の手で巨大な人型が動くということが上手くイメージできないのか、
初心者(ナチュラル)用OSでも少女達にとっては難度が高いのだと11月12日の操縦適性検査でわかったのだ。例によって夕立と響は一応適応できたのだが、それでも他人よりはまだ良いというレベルだった。
 無論ちゃんと訓練すれば相応の戦力になれるだろうが、この状況下で訓練時間を確保できるか怪しいし、そもそも自力で戦える艦娘がパイロット役も担うのは現実的じゃない。
かといって【キラの艤装】として登録することで人間社会の厄介ごとを免れているストライクとデュエルに、普通の人間を乗らせるわけにもいかない。
 そして少女らが操縦法を習熟しないうちに、キラがいなくなってしまう可能性も0ではない。そうでなくてもキラは二機を同時に操ることはできないのだから、貴重な戦力を遊ばせないという意味でも対策が必要だ。
 そうした問題を解決し、艦隊が独力でモビルスーツの力を行使するための鍵がL計画なのである。それはキラと明石が徹夜で考え抜いたことで、起動実験こそしてないものの13日にはストライク用のものが完成していた。


 結論を言えば、これの実装によりストライクを航空母艦級艦娘の艦載機として使役することが可能となる。


 理論上では、他のレトロなレシプロ機と同じように矢や式神を媒介として、小型化した機体を召喚、艦娘の思考だけで遠隔操作することができる。
 問題は艦娘側のMS操縦技量だが、そもそも今まで艦載機として使役されてきたレシプロ機だって空母級艦娘が実際の操縦法をマスターしてるわけではないのに意のまま操っているのだから、
MSも例外ではないだろう。発艦さえすればすぐに熟練パイロット顔負けな機動ができるようになるはずだ。
 もちろん、これを実装するには艦娘側にも専用の大規模改装が必要になる。これまで通りに無数の艦載機を操れなくなる代わりに、たった一機のMSを操れるようになるための改装が。
故にこの力を誰に託すかは、今この時までキラも明石も決めあぐねていた。
 そう、今この時までは。
「……なんとか、間に合った……のかな?」
「ええ、きっと……いや絶対。間に合いましたよ、キラ!」
「そっか……なら、よかっ――」
 他に選択肢はなかったし、これこそがベストだった。だから無我夢中にやった。


 モビルスーツ搭載型特装空母への改装作業。コンテナ船甲板上に置き去りになっていた響鳳の艤装を、キラと明石はたった数分で特装航空駆逐艦として仕上げたのである。


 その艤装が転送される様を見届けると、なんとか鉄屑の山から脱したものの全身に刺さった破片や鉄管をそのままに作業を強行したキラは、プツンと糸が切れたようにして意識を手放した。
「キラ!?」
「明石先生、あったよ治療キット! 早く治してあげなきゃ!」
「夕立! ここで施術する、手伝って!」
「言われるまでもないっぽい……!」
 その時丁度コンテナ船内に治療器具を探しに行っていた夕立が戻ってきて、明石は休む間もなくキラを助けるべく緊急手術に取りかかった。
 彼自身が望んだこととはいえ、こんな心臓に悪いことはもう二度としたくないと素直に思う。二度と御免だ、目の前の重傷者の治療を後回しにした挙げ句、その重傷者と共同作業をするなんてことは。
そう、鉄屑の山から引っ張り出されてすぐ目を覚ましたキラは、自分なんかよりも響鳳の艤装を戦えるようにしてくれ、ストライクを使えるようにしなきゃ、と叫んだのだ。
 実際、話し合って説得したり納得したりするだけの猶予も、他の選択肢もなかった。二人がかりで作業しないと間に合わないと直感が告げていた。結果、明石はキラと艤装の修理に臨み、
同じく救出された夕立は激痛を堪えながらも船内へ走った。
 そうして今に至る。
 ここまでしたのだ、これで大団円にならなきゃ嘘というものだ。
「キラ、もう少しの辛抱ですからね! みんなで佐世保に帰りますよ!!」
「響も瑞鳳も頑張ってる! だからこんなとこで死んじゃったらダメっぽい、キラさん!!」
 戦いの音はまだ続いている。みんなの命運はまだ終わってない。
 明石と夕立は響達の勝利を信じて、キラの治療に没頭した。
0404通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:34:39.81ID:zXqOza4K0




<ネ級とツ級は私がやるから、響は!>
「任せて……! うぉおおおおお!!」
 みんなの願いを、その身に背負って。
 丁度1/10サイズ、1.8mにまで小型化したストライクから響く瑞鳳の声を、力として。
 響は大太刀を正眼に構えて、倒すべき敵へまっすぐ突進した。これを迎え撃つは左手にシールド、右手に無骨な大剣を握った戦艦レ級。凶悪な尻尾と相俟って並の艦娘ならすくみ上がりそうになる威容を前に、
しかし臆せず正面からぶつかっていく。
「はぁ!」
「!?」
 ――深海棲艦の付け焼き刃なんかに負けるものか!
 近接格闘戦はこれまで研鑽してきた響の領分だ。いかに超弩級重雷装航空巡洋戦艦(ワン・マン・フリート)と恐れられているレ級といえども剣術の腕そのものは驚異にならない。尻尾の砲架からの連射を、
戦艦の膂力で振り回される大剣を鋭い機動で躱し、小柄な躰を活かして懐に飛び込んでは渾身の一撃を振るう。
「……くっ、流石に硬い……!」
 グランドスラムの刃がレ級の腹を裂いた。しかし手応えのわりに損傷は浅く、一刀のもとに切り伏せることはできなかった。生半可な中口径砲よりも威力のある斬撃だが、さすがに大戦艦の装甲は伊達じゃない。
 ならば重ねるまで。回避行動と一体化した体裁きで袈裟斬り、横薙ぎ、回転斬りと着実にダメージを与えていけば、遂にレ級が砲架兼魚雷発射管のドラゴントゥース(龍王の牙)から魚雷をバラまきつつ後退した。
 雷撃、数10、二集五散々布帯。広範囲に射出された魚雷は壁となって迫ってくるが、これを響は大太刀の代わりに手にした弓矢で迎撃、
切り拓いた僅かな隙間を駆け抜けて、暴風のような砲撃さえ掻き分けてレ級へと急迫する。本来は艦載機召喚用の媒介としての矢である故に威力はないが、こういう使い方もあるのだ。
 経過だけを見てれば誰もが驚愕するだろう、響があのレ級を単独で圧倒していた。
 しかしそれでも与えられたダメージは致命傷に遠く、逆に響は何かを一発まともに喰らえばほぼ即死、緊張感に胃がひっくり返りそうだ。せめて魚雷があれば、と思ってしまうのは贅沢だろうか。
響鳳の武装は対ビーム戦を想定した大型斬機刀グランドスラム改と、瑞鳳のものである弓矢のみ、どうにも決定打に欠ける。
 やはり頼みの綱はビームサーベルだ。
 チラリと様子を見れば、瑞鳳が操るストライクが軽巡ツ級を一刀両断したところだった。あの恐るべき切れ味は健在、シールドを持っていない重巡ネ級もすぐに片付けられるだろう。
 ならば採るべき行動は。
「ストライクが――姉さんが来るまではわたしに付き合ってもらうよ、レ級!」
「……ナァメェルナヨォ……クチクカン、フゼイガァ!!!!」
 喋った!? と動揺する間もなくここでレ級はまたも驚くべき行動を採る。
0405通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:36:12.20ID:zXqOza4K0
 砲を連射してきたかと思えば、あの厄介なシールドを投げたのだ。今にもサーベルで灼き裂かれそうになっていたネ級に、投げ渡したのだ。
<え!?>
「まさか!? 姉さん、交代――ちィ!!」
「ヨソミィ、デキルトオモッテンノカァ!!??」
 迫る大剣、縦一閃。虚を突かれた響は辛うじてこれを大太刀で打ち払って距離をとろうとするが、執拗な連続剣に追われて鍔迫り合いを余儀なくされる。弾き飛ばされないよう圧力を逃がしつつ、
かつ敵を動かさないようにする高等技術で膠着状態を作らざるを得なかった。
 シールドを交代されたのなら此方もポジションを交代したかったのだが、させないつもりだ。生存時間が延びたネ級は受け取ったシールドを起点に、ストライクとレ級の間に割り込むように立ち回りはじめた。
 やはり敵は賢く強い。簡単にはいかない。
 しかし、だからといって時間をかけるわけにもいかない。響は空を仰ぎ見た。
 間もなく、太陽が昇る。
 レ級の武装は7門の砲と魚雷と大剣だけじゃない、正規空母と真っ正面からやりあえる艦載機も保有しているのだ。朝になって艦載機が使われれば勝ち目はない、ストライクとの合流を待てるほどの猶予はなかった。
 ここで勝負を決める!
「ツキアッテモラオーカァ? ナァ!?」
「……上等! 勝つのはわたし達だ!!」
 意趣返しのような台詞に強気で応えれば、ジャコン、と不吉な作動音が尻尾あたりから響いた。龍の顎だ。ほぼ密着した状態で敵の魚雷が射出されようとしている――そう判断するよりも先に身体が動き、
レ級の腹を蹴っては後方宙返り、空中で大太刀を上空へ放り投げては弓を引絞り、射る。
 放たれた矢は射出されたばかりの魚雷を貫き、凄まじい大爆発がレ級を吹き飛ばした。
「どうだ!?」
 あの至近距離での爆発だ、規模からして残りの魚雷も誘爆したのだろう。いくらなんでも耐えられる艦は存在しないと思える爆発に、思わず喝采と疑念をミックスさせた声を上げる。
 しかしそんな甘い希望に縋れるほど脳天気ではない。着水してすぐさま落下してきた大太刀をキャッチすれば、
爆炎を割って突撃してきたレ級をすれ違いざまに撫で斬り、千切れかけていた尻尾諸共にドラゴントゥース(龍王の牙)が海に没する。
 ――これで敵の武器は大剣だけ!
 その思い込みが、ほんの一欠片の油断が仇となった。
 レ級は見るからに満身創痍だったが、あと一撃でも与えれば沈みそうな佇まいだったが、いつの間にかその左手には連装砲が装備されていて――砲架に付いていたはずの12.5inch連装副砲から放たれた砲弾に、
回避し損なった響の両脚がねじ切られたのだ。
「が、ぁ!?」
 艦尾に被弾、両舷スクリュー喪失、大破相当、戦闘続行困難――通常艦艇で例えても惨たらしい被害に、両脚切断というあまりの衝撃と痛みに、響は受け身をとることもできずに海面に突っ伏した。
脳裏にあのウィンダムの姿が蘇って、背筋が震える。
 だが、それでも。
 それでも彼女は、即死じゃなかったから運が良かったと思うことにした。今回ばかりはもう止まることは許されない、同じ過ちはもう繰り返さない。
0406通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:38:05.53ID:zXqOza4K0
 まだ戦える、戦う。
 一撃だ。あと一撃与えれば、あの悪魔に勝てる。両脚がなければ手にしたグランドスラムを振るうことも、うまく投擲することもできないけど。
彼女の身一つではどうしたって一撃を入れることなんて不可能だけど。だけど、戦うのだ。
 震えるばかりの両腕に力を込めて上体を起こす。そうすれば視界の中央に、大剣を振り上げて走ってくるレ級の姿があった。
<響!!>
「ナ、ニッ……!?」
 やられる、なんて思うことはなかった。なにせ自分は瑞鳳と一緒なのだから。瑞鳳と共にいる己の勝利を確信しているから。
 ネ級を沈め、鉄灰色になったストライクが投擲したビームサーベルが光の円盤となって、レ級の右手首を切り飛ばした。銘も知らない大剣が宙へ舞った。
 あとはレ級にトドメを刺すのみ。
 勝敗は決した。終わってみれば呆気ない幕切れだったのかもしれない。
「――これで、終わりだね。……До свидания」
 静かに呟き、響は、左手の連装砲を構えようともせず呆然としたレ級を見つめて。 


 和弓にグランドスラムを番え、射った。


 そして、太陽が昇った。朝を迎えたこの海には、ただ穏やかな風だけが吹き渡っていた。
0407ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ ffad-+Do1)
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2020/06/16(火) 14:40:23.17ID:zXqOza4K0
以上です
この展開がやりたくて14話以降ずっとライブ感と後付け設定で書いてました。反省はしてます
これでナスカ級編は完となります
0408カイ ◆c12wmZgb8g (スプッッ Sd5a-aw7/)
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2020/06/20(土) 20:27:08.00ID:qPmFtBjZd
ミートさん乙です。
こんばんは。カイと言います。
pixivで書いてる者なのですが、そこにいる他の作者さんや、以前このスレでお見掛けした彰吾さんの影響でガンダム00のマリナがガンダムファイターになる小説をここでアップします。
彼らの影響で多少文章に似通った部分があるかもしれませんが。
0409カイ ◆c12wmZgb8g (スプッッ Sd5a-aw7/)
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2020/06/20(土) 20:29:07.47ID:qPmFtBjZd
『マリナ 闘いの始まり』

戦いを知らぬ皇女が闘士になる決意をしたあの日から……


アザディスタンのガンダムファイト推進委員会の前で、弓と槍の卓越した技術で同国の候補に勝ち、代表選手になったマリナ・イスマイール。
その日から槍と弓は勿論、ファイターとしての格闘や身体能力を高める訓練を続け、他国には負けるが格闘家として十分な基礎能力を身に付けていった。

そんなある日、彼女自身の訓練と同時進行で行われていたMF製造が遂に完成した。
その名はガンダムファーラ。
彼女に合わせ、弓と槍による遠距離・中距離に長けた機体だ。
それを操縦するためのファイティングスーツ装着訓練が始まった。これに成功しなければファイターとしての闘いは始まらない。

「それでは皆さん、今から始めます。」

開発陣やマリナの秘書など、大勢の関係者が見守る中マリナはワイヤーでファーラの中に入っていった。
今の彼女はシンプルな白い訓練用の制服姿。上は長袖、下はズボンというオーソドックスな出で立ちだ。

「これがMFの中……ここが私の戦場なのね……」

一人が入るには広く、大勢が入るには狭い、そんなコクピットで拳を握りしめるマリナ……

天井と床に設置されたリング。
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2020/06/20(土) 20:30:49.65ID:qPmFtBjZd
衣服を丁寧に脱ぎ、畳むとそれは収納ボックスに入れると、リングの中央に立ち祈るように手を握り目を閉じた。
全裸の彼女は生来の華奢で均整がとれた体型に加え、程よく引き締まっていた。
控えめな美乳はもう少し小さくなり、小振りな尻は上向きに、肉付きの薄い腹部は更に括れて縦に筋肉のラインが入っていた。

「モビルトレースシステム、起動。」

その声を認識したコンピューターによって、上のリングから清涼感ある彩りの布がマリナを包みながら降りてきた。
全身を圧迫する苦しみに捕らわれるマリナ。

「ぐっ、これは……」

柔らかい見た目に反して凄まじい力で拘束する布製スーツ。
胸も、胴も、尻も圧迫され身動きが容易に取れない。

「キ……、キツイ…………!!
でも、わ、私は、ファイターだから……!」

歯を食い縛りながら手足を力一杯動かせば布が伸びていく。しかし、中々千切れない。
ファイターならば誰もが通る道だが、非力な彼女にとっては尚更至難だった……

「……あれは……!」

その時、偶然目についたのは一本の鉄棒だった。
長さは彼女より頭一つ短い程。
どうやら作業員が最終点検で使ったものを置き忘れていたらしい。

「……あれを……!」

一旦屈んでそれを手にするマリナ。[newpage]
床に立てたロッドを軸にすがるような体勢で全身を少しずつ回していくマリナ。
幸い体が他のファイターより柔軟な彼女はそれを頼りに全身に布を巻き込んでいった。
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2020/06/20(土) 20:32:19.15ID:qPmFtBjZd
「い、いやぁぁぁ……!で、でも、ここを……乗りきれば……」

胸は尚も締め付けられ、小刻みにプルんと震える。
胴体にもグイグイと音を立てながら拘束する。

「ぐっ、このぉぉぉ……!は、早く、しないと……!!」

性器には恐ろしい程食い込み、痛みにも似た衝撃に腰が卑猥に震える。
アナルにはより深く侵入していく布。
女性特有の恥ずかしさを身に染ませて悲鳴のように声を上げる


「く、このぉぉぉ……!!」

これ以上ないくらいに布に包まれると、軸代わりに抱きついていたロッドから全身に力を込め、勢い良く離れた!!


「きゃああぁぁぁぁ…………!!」

ロッドはコクピットの隅に投げられ、布はブチブチと甚だしい音を響かせ破れていく。

「うぐっ……!」

自分もリング外に尻餅をついて、臀部を擦りながらリング内に戻るマリナ。

「…………これって……?」

全身の感覚がやけに軽やかだ。
身体にあの布が完全にフィットしている。
装着は成功
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2020/06/20(土) 20:33:47.57ID:qPmFtBjZd
自分の手を見つめるマリナの動きをガンダムファーラもトレースしている。
見守る関係者からも歓声が上がっている。

「わ、私、ついに……!」

嬉しさで顔を綻ばせるマリナ。

スーツは胴体は雪のような純白、腕と下半身は彼女の正装宛らの青紫。
そして、股部分には濃い紫のV字型切れ込みが堂々と入っている。細い下腹部とスラリとした脚の境界線が強調された形になっている。
しかも、尻の真上からアナルにかけても同色の切れ込みが入っているので上向きの小さなヒップも目立つ。
普段のマリナにとっては恥ずかしいがそれを感じる暇もないくらい喜びに溢れていた。


あれから2週間、生身での戦闘訓練とスーツ装着・MFに乗っての戦闘訓練を繰返した結果、装着時間短縮を果たしたマリナは遂にサバイバルイレブンに臨むことになった。
しかも、筋力アップしたことでロッドに頼らずとも装着できるようになっていた。

誰もいないアザディスタンの砂漠に立つ二人のファイター。
一人はマリナ。相手はギリシャ代表ディノス・サマラス。直々にファイトを申し込んできた男だ。
日に焼けた肌、ギザギザの黒みがかった紅い長髪を縛っている。
搭乗機はガンダムアレキサンダー。
古代の王のような豪奢な外観の機体だ。
金色の王冠に、彫刻のように筋肉を象った白銀のボディ。
深紅のマントは滑らかかつ強靭な盾代わりになる。
右手には大剣を構えている。

両者示し合わせたようにワイヤーでコクピットに入り込む。

「とても威勢の良い人だったけど負けられない……!」
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