X



新人職人がSSを書いてみる 35ページ目

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
0001通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 1bd2-BQKd)
垢版 |
2018/06/19(火) 19:16:43.69ID:O8vHynnR0
新人職人さん及び投下先に困っている職人さんがSS・ネタを投下するスレです。
好きな内容で、短編・長編問わず投下できます。

分割投下中の割込み、雑談は控えてください。
面白いものには素直にGJ! を。
投下作品には「つまらん」と言わず一行でも良いのでアドバイスや感想レスを付けて下さい。

現在当板の常駐荒らし「モリーゾ」の粘着被害に遭っております。
テンプレ無視や偽スレ立て、自演による自賛行為、職人さんのなりすまし、投下作を恣意的に改ざん、
外部作のコピペ、無関係なレスなど、更なる迷惑行為が続いております。

よって職人氏には荒らしのなりすまし回避のため、コテ及びトリップをつけることをお勧めします。
(成りすました場合 本物は コテ◆トリップ であるのが コテ◇トリップとなり一目瞭然です)

SS作者には敬意を忘れずに、煽り荒らしはスルー。
本編および外伝、SS作者の叩きは厳禁。
スレ違いの話はほどほどに。
容量が450KBを越えたのに気付いたら、告知の上スレ立てをお願いします。
本編と外伝、両方のファンが楽しめるより良い作品、スレ作りに取り組みましょう。

前スレ
新人職人がSSを書いてみる 34ページ目
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/shar/1499781545/l50

まとめサイト
ガンダムクロスオーバーSS倉庫 Wiki
http://arte.wikiwiki.jp/

新人スレアップローダー
http://ux.getuploader.com/shinjin/ 👀
VIPQ2_EXTDAT: default:vvvvv:1000:512:----: EXT was configured 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:669e095291445c5e5f700f06dfd84fd2)
0048三流(ry (ワッチョイ ef5f-Hd8x)
垢版 |
2018/08/19(日) 13:39:31.37ID:8b2G85Vc0
胃が痛い展開が続きます。では13話

1年戦争外伝、−HAPPY WEDDING−
第13話 トオルの四日間

「じゃあ、頼んだぞ、ジャック!」
「ああ、着いたら即連絡を入れる、任せとけ。」
1月5日早朝、シドニーの宇宙港でトオルは、サイド2にトンボ帰りするジャックを
見送りに来ていた。
あと数日は地球に滞在するハズだった友人は、世情の急変により急遽帰ることになった。

−ジオン公国、地球連邦に宣戦布告−

 二日前、ついに戦争が始まってしまった。ジオンは地球から最も遠いコロニーだ、
そこと地球連邦が戦争になるということは、その間の全てのコロニーは否応なしに
戦争に巻き込まれることになる。
ジャックは今の生活がサイド2にある、今後戦争がどう動くのかは分からないが、まずは
自分のいる場所に戻っておこうと言うことで、彼は帰宅を決意した。

 しかしトオルにとっては別の意味があった。宣戦が布告された1月3日から、セリカに、
いやサイド2自体と連絡が取れなくなってしまっていたのだ。
なんでも通信がミノフスキー粒子とかいう通信妨害に阻まれ、政府間ですら
連絡が取れなくなっているという。
ちょうどジャックがサイド2、アイランド・イフィッシュに帰るというなら渡りに船だと
セリカに伝言と、可能な限りの連絡方法を頼み込んだのだ。
通信妨害もそうずっと続くわけではない、やがては連絡がつくかもしれない、そんな楽観の裏に
何故サイド2だけが通信妨害を受けているのか、という悪い予感にも駆られる。
0049三流(ry (ワッチョイ ef5f-Hd8x)
垢版 |
2018/08/19(日) 13:39:56.69ID:8b2G85Vc0
 シャトルが飛び立つのを見送って、トオルは空港のカウンターに向かう。
実はトオルもすでにサイド2行きの予約申請をしている。しかし正月のこの時期、予約はほぼ満席で
キャンセル待ちの状況になっていた、その経過をカウンターの受付に問いただす。

「最短で5日後、1月10日の午後便になります、今の所。」
遅すぎる、連絡がつかなくなってもう2日、今すぐにでも飛んでいきたい心境なのに
あと5日も待てというのか。
「今すぐ確認してくれ!あれからキャンセルが出ている便がひとつぐらいあるだろう!」
 トオルが激しい剣幕で詰め寄る。戦争が始まったのだから、予定変更して
地球に留まる人もいるだろう、事務的な対応しかしない受付嬢に食ってかかる。
トオルの剣幕に気圧されたか、受付嬢は電話を取り、ひきつった笑いをトオルに返す。
「しょ、少々お待ちください。」
そう言って電話を取り、空港本部に連絡を取る。まったく、やれば出来ることはあるじゃないか・・・

電話を置いた受付嬢が、トオルに暗い顔を向ける。どうやら空きは無かったようだ、
まぁやるべきことはやってくれたのだから仕方ない、凄んだりして大人げなかったかな。
「お客様、申し訳ありません。サイド2への出航は、先ほどのシャトルを最後に
全便欠航が決まったそうです。」
「・・・え?」
意味が分からない。空きが無かったとかじゃなくて全便欠航?つまり他の人もみんな
サイド2に行けなくなった、ということか、何故?
不審に思うトオルに、受付嬢はこう告げる。

「サイド2は現在、ジオンの侵攻を受けている、との報が入りました。」
0050三流(ry (ワッチョイ ef5f-Hd8x)
垢版 |
2018/08/19(日) 13:40:37.50ID:8b2G85Vc0
 自宅に飛んで帰り、テレビ報道にかじりつく。あらゆる番組がジオンのサイド2侵攻を報じている。
時折表示される問い合わせ窓口の電話番号に片っ端から電話を掛けるが、そもそも繋がるのさえ稀で
つながった電話もセリカ・ナーレッドの、つまり個人の安否確認など不可能な状況だった。
 なんとか、何か方法はないのか、トオルに不安が広がる。
ジオンといえば例の組織、特殊能力研究開発機関とかいうのも所属してるだろう。もしセリカの
存在に気づいたら、今度こそ彼らに確保されてしまうかもしれない。
そうでなくとも戦争である。命の危険にさらされるのはもちろんのこと、セリカは年頃の女性だ、
軍に秩序が無ければ性的暴行を受ける危険もあるだろう。それから守ってやるべき恋人の自分が
彼女のもとに行く術がないことに憤り、また焦っていた。

 打つ手がないまま2日か過ぎる。両親も心配してトオルをなだめようとする。友人たちも
電話で、あるいは顔を出し、トオルを気遣ってくれる。きっと大丈夫だよ、と気休めを言って。
 しかし、地球のテレビが報道した画面が、そんな気休めを最悪の方向に吹き飛ばした。
一瞬受信したアイランド・イフィッシュのテレビ局の報道、ミノフスキー粒子の晴れ間を
かいくぐって捕らえた電波、それが映し出すテロップ。

−ジオン軍、サイド2を占拠。アイランド・イフィッシュに毒ガス兵器使用か−

「・・・なん、だって?」
毒ガス、密閉されたコロニー内で使うそれがどんな結果をもたらすか、それは火を見るより明らかだ。
毒ガスの規模は分からないが、その画面に映っているキャスターまでが地に倒れ伏している所を見ると
少なくとも局地的な使用ではあるまい、おそらくコロニー全土に・・・
0052三流(ry (ワッチョイ ef5f-Hd8x)
垢版 |
2018/08/19(日) 13:42:10.34ID:8b2G85Vc0
 いや、あいつは、セリカは天才だ、ニュータイプだって自分でも言っていた。
そんな危険が迫るのなら察知して手を打っていたハズだ。彼女の家族も、友人たちもきっと無事だ
そうだ、そうに違いない。だっはアイツは、いつもそうやって俺の裏をかいてきたじゃないか。
 そんな期待を肯定するように、ひとつの朗報が入った。ジャックの乗った宇宙船は
戦争に巻き込まれることなく、連邦軍基地ルナツーに避難しているとの情報。
そうだ、物事は悪いほうばかりには向かない。ジャックが助かったんならきっとセリカも・・・

 間が空くと、彼はセリカにもらった交換日記を開き、読んでいた。
柔らかな字と文章、その中にどこか彼女らしい達観した、あるいは冷めた感情が込められた日記。
能力を持つがゆえに少しだけ欠落した感覚、そんな文章の中にあって、トオルに対する恋心だけは
生き生きとした表現で書かれていた。それを読むたびトオルは確信し、決意する。
「待ってろよセリカ、必ず助ける。必ず会いに行く!」

 1月9日、報道管制を掻い潜ってその報道が成された時、地球全土が恐怖に包まれる。
−ジオン軍、コロニー地球落下作戦、通称「ブリティッシュ作戦」を強行−
半日後、さらに具体的な報道が伝えられる。ジオンの目標は南半球、南米ジャブローであること、
これを阻止すべく連邦軍はコロニーを攻撃、落下地点は南半球のいずれかである可能性が高いこと、
そして、この作戦に使われたコロニーは、サイド2、アイランド・イフィッシュであること−

 この瞬間から、シドニーは騒然となった。いや、おそらくオーストラリア全土が、南米が、
アフリカ大陸やニュージーランド、南半球の各諸島全てが、拳銃を突き付けられたような
緊張と恐怖に見舞われた。パニックを起こす者、国外脱出を図るもの、様々な混乱が
南半球を主として、地球全土に広がっていった。
 しかしそのパニックは1日で終わる。マスコミは報道しなかったが、そこまで近づくと
落ちてくるコロニーは一般人の望遠鏡でも捕らえられ、頭のいい人によって軌道は計算され
落下位置は特定される。必然、落下地点から離れた地のパニックは自然と収まる。

−落下予想地点、オーストラリア、シドニー周辺、落着予想時刻、AM12:00前後−
0053三流(ry (ワッチョイ ef5f-Hd8x)
垢版 |
2018/08/19(日) 13:46:16.04ID:8b2G85Vc0
 あと1時間に迫る死と絶望、その報道にシドニーの人々は嘆き、恐怖し、絶望する。
その街でたたひとり、トオルだけは別の思考があった。落ちてくるのがアイランド・イフィッシュとは、
セリカは無事に脱出できたのか?俺はもう駄目だが、彼女だけでも助かってほしい。
 外に出て、真昼の地平線やや上にある星を睨む。すでに肉眼でも星の大きさにくらいは見えるまでに
近づいてきている。頼む、セリカよ、そこに居るな!

 その瞬間だった。トオルの頭に音が響く、金属をこすり合わせたような強烈な音!
それと同時に、彼のよく知る女性の声が、トオルの脳に、はっきりと鳴り響く!


『トオルーーーっ!!逃げてーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!』


13話でした・・・ミートさーん、彰悟さーん、どこ行ったんですかー(泣
0055三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/23(木) 23:16:21.62ID:UjYQoBBW0
>>54
いつも感想ありがとうございます、本当に励みになりますわ。

1年戦争外伝、−HAPPY WEDDING−
第14話 最後のカーニバル

「セリカ!そこに居るのかっ!」
反射的に叫ぶトオル。確信があった、聞くまでもなく。
セリカはあそこにいる!あそこから彼女の意思が飛んできたのがはっきりと感じ取れた。
生き延びていた、アイツは。さすがだ。だがそこにいては助からない、何をやっている!
焦燥と怒りに似た感情がトオルを支配する。くぞっ!このままじゃアイツが・・・
「待ってろ、今行く!」
虚空に向けて、その先にある豆粒ほどのコロニーに向けてそう叫ぶ。

「・・・え?」
熱波の空気の中、セリカはその信じられない提案を聞く。愛しい人の、あまりにもな無茶振り。
その口調が、そのセリフが、トオルの表情をありありと頭に描かせる。
「もう・・・トオルったら、そんなこと出来るわけないじゃない。」
泣きながら笑う。絶望的な状況と、そのさ中に愛しい人とのコンタクトを取れた奇跡に。
「トオル、ありがとう・・・私・・・」

「やかましいっ!後だあとっ!」
頭に響くセリカの声を怒鳴って黙らせる。今聞きたいのはそんな悲しいセリフじゃない!
「考えろ!どうすればお前に会える、お前の所まで俺が行くか、お前がここに来るかするには
どうしたらいいっ!」
 この時のトオルの感情を一言で表すなら、まさに『血沸き肉躍る』状態であったろう。
苦境と絶望の中、セリカにコンタクトを取れただけで満足する性格ではなかった。
先日からの思い。交換日記に目を通し、そのたびに決意してきた強固な意志、助けに行く、会いに行く。
言葉以上にその『意思』が強烈に飛ぶ、はるか向こうのコロニーに向かって。
0056三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/23(木) 23:17:35.41ID:UjYQoBBW0
「トオル・・・」
その意思を叩きつけられ、セリカは思う。トオルだ、まぎれもなくトオルだ。
それでこそ私のトオルなんだ。
立ち上がり、微笑む。目を閉じ涙を切る。ひとすじの光が頬を流れる。
そして見据える、モニターの向こう、地平線に浮かぶオーストラリア大陸を、
その先の時間、シドニーに落着する瞬間のアイランド・イフィッシュの姿、位置、姿勢を。
そしてセリカは、ひとつの拙い可能性に行きつく。
「・・・クラウド・カッティングの最上階、あそこに来て!」
二人の約束の場所、永遠の愛を誓うはずだった教会、私の予知に間違いが無ければ
このコロニーは地上に激突する直前、あの超高層ビルを薙ぎ倒すはずだ。
そこにいれば最後に一目、トオルの姿を見ることができるかも・・・

「分かったっ!」
それだけ答えて家に走る。駐車場に止まっているスクーターに飛び乗ってエンジンをかける。
持っていた交換日記をカゴに放り込み、けたたましく走り出す。
道路に飛び出す瞬間、トオルの両親が家の際にいた。もう会えないかもしれない二人は、
何故かすべてを知っているかのように、行け!早く!!とポーズとエールを送る。
 運転しながらもセリカの意思は飛んでくる。若干のネガティブな彼女の思考をトオルは認めない。
「一目見るだけじゃダメだ!お前に会うんだよ、抱きしめてやるからその方法を考えろっ!
信じろ、お前は紛れもなく天才だっ!!!」
0057三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/23(木) 23:18:47.92ID:UjYQoBBW0
「・・・バカ。」
そう言って微笑むと、きびすを返して走り出す。そのわずかな可能性、制御室の外にある
モビルスーツに向かって。
父が、母が、友人たちが、大勢のアイランド・イフィッシュの霊魂がセリカを後押しする。
死後の世界にあって、誰かを応援できることに喜びと興奮を感じながら。
セリカが出ていったその時、地球を映していた制御室のモニターは、まるでその役目を終えたかのように
画像をブラックアウトさせる。
 旧ザクに乗り込む。ヒザの上に交換日記を乗せ、ハッチを閉め、動き出す。
モニターしていたコロニーの状況を見る。現在のコロニーの速度は・・・時速にしておよそ800km/h。
コロニーの体積と形状ゆえの空気抵抗の多さが、重力落下をしてもマッハを割り込ませている。
特にコロニー先端の、巨大なスリバチ状の部分が空気を多く受け止め、落下速度を殺しているようだ。
真下に落下するはずだったコロニーは、ここにきて横方向のベクトルを多く得、また地球の自転もあり
地平をすべるように移動している、むろん高度も落とし続けてはいるが。

 シドニーの街中を、トオルのスクーターは走る。一目散に。目標の塔に向かって。
ここからだと30分はかかるだろうか、まして今シドニーはパニック状態だ。どんな渋滞や事故が
行く手を阻むかわかったもんじゃない、それでもアクセルを千切れんばかりに回し、飛ばす。
が、その心配は無かった。理由は分からないがストリートは大勢の人がいたにもかかわらず、
トオルの走りを阻害する存在は無かった。
その代わり声がする。大声が、絶叫が。それはそうだろう、死を間近に控えた人間なら叫びたくも・・・
 そう思った瞬間、大型のトラックがトオルの横を追い抜き、強烈にブレーキをかけ横滑り、
トオルの進路を塞ぐ形で停車する。なんだコイツ!
「クッ・・・、どけぇっ!!」
0058三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/23(木) 23:19:35.46ID:UjYQoBBW0
 モビルスーツのセンサーを開放し、コロニー各所の状況を調べる。
毒ガスを撒くべく入力されていたこのアイランド・イフィッシュのデータが、皮肉にも今のセリカの
目と耳と知識になる。コロニー下部、つまり地球側は乱気流も激しく、まだ熱を持っている。
しかし上部、宇宙側は大気圏突入の熱の影響も、現在の空気の流れも比較的マシな状況だ。
こっちならこの巨人で外に出ることも可能かも、そう思ったセリカは迷わずザクを操作する。
もし、今のジオン軍がセリカのこの旧ザクの操縦っぷりを見たら、迷わずエース候補として
スカウトするだろう。
彼女は今、どんなエースパイロットでも成し得ない、困難な操縦を試みているのだ。

「兄ちゃん!こいつを使いな!!」
トラックのドライバーがそうがなり立てる。同時にトラックのサイドゲートが開き、
中にある機械をあらわにする。これは・・・大型のエアーバイク!
「ワッパってんだ、くそったれジオンのメーカーの乗り物らしいが、このさい使っちまえ!
空も飛べる優れモノだぜ!」
展示用の商品なのか、タグやらリボンやらで装飾されている。なにかの展示ショーで
使われる予定のものだったのだろう。しかし・・・
「あ、ありがとう!でも、なんで・・・?」
「彼女に会いに行くんだろ?応援してるぜっ!」
運転席から親指を立てて笑うドライバーのオッサン、なんでこの人が、と思った時
トオルは周囲の異常に気付く。
「おーい、モタモタすんな!」
「「がんばれーっ!」」
「会えなかったら承知しねぇぞーーーっ!!」
「彼女を待たすんじゃねぇ!急げっ!」
大人も子供も老人も男も女も皆、トオルに注目し、声を荒げて応援している。
まさか・・・彼らも、というかシドニーの市民みんなも、セリカの声が聞こえたのか!?
どんだけ凄いんだよお前の能力は!
0059三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/23(木) 23:20:49.72ID:UjYQoBBW0
 トオルには知る由もない。それがセリカ一人の能力ではなく、無数のアイランド・イフィッシュの
人々の霊魂の力、彼らが最後のお祭り騒ぎをより大勢で楽しもうと、シドニー市民を巻き込みに
かかっていたことを。
この素晴らしいカップルのハッピーエンドを、みんなで楽しもうと。

 トラックの荷台に駆け上がり、ワッパと呼ばれるエアーバイクのスタータースイッチを押す。
シュオオーーン!というエンジン音が鳴り響き、浮き上がるワッパと、それに乗るトオル。
いける!操縦は簡単だ、アクセルを捻り、皆の声援を受け、トラックの荷台から飛び出す。

 ザクがコロニー上部の外殻の裂け目から、そのモノアイを覗かせる。飛ばされないよう
しっかりとフレームに捕まり、ついにコロニーの外に立つザクとセリカ。
眼前には青い地球の水平線と、その先の懐かしい大地。

「セリカーっ!待ってろーーーっ!!」
「トオルーーーっ!ここよーーーーーっ!!」

 2千万人の死者の魂が少女を応援する、その倍に及ぶ、死を目前に控えた生者が少年を後押しする。
シドニーとアイランド・イフィッシュ、2つの街の最後のカーニバルが今、最高潮を迎えようとしていた−




14話でした、長くなったので2話に分けました。
しかしBFサイドBで主人公はボール、IGLOO顎ではボールからジム、そして今作はついにワッパですよ
ガンダム?そんな高嶺の花しりませんw
0061三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/27(月) 02:18:27.53ID:tFAJsRkG0
>>60さん
そんな感じです。アムロ・ララァ時空もそうですが、原作のそういう下敷きが
あったからこそのこのファンタジー展開なんです。
無かったら単なる厨二展開ですなwまぁ今でも厨臭いですが・・・
それでは、15話いきまーす。
0062三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/27(月) 02:19:15.31ID:tFAJsRkG0
1年戦争外伝、−HAPPY WEDDING−
第15話 トオル・ランドウとセリカ・ナーレッド

 エアーバイク、ワッパが飛ぶ。シドニーの街を眼下に見ながら。
高度30mまでは基本で飛行できるこの乗り物にとって、渋滞も信号も意味はない。
トオルは飛ばす、天高くそびえるそのタワーへと。最後にアイツに会うために。

 ワッパの操作自体は本当に簡単だった。運転に余裕ができるとトオルは
眼下の街に目をやる、大勢の人達が声援を投げてくれている。
もっとも全ての人が自分をほったらかしでトオルを応援してるわけではない、
最後の時を共に過ごしたい人と一緒でない人は、トオル同様、そこへ駆ける。
声援をくれるのは主に家族、友人、恋人とともにいられた人達。
覚悟と、人生の邂逅と、ジオンへの恨みと、そして今起きているドラマのような
若いカップルが起こす奇跡への期待を胸に。

 通常なら20分は要するだろうクラウド・カッティングへの到着、ワッパは
わずか7分でそれを完走してのけた。
それでも時間が惜しい、正面1階の大ホール入り口にワッパのまま突撃するトオル。
入り口付近にもトオルを指差し、応援してる人が・・・ってキム!チャン、ミア、何やってんの!
プライマリー時代からのクラスメイト達が、入り口の自動ドアを開きっぱなしにしてくれている。
「トオルー!ここだここだ、急げーっ!」
「そのままそのまま、バイクごと入れー!」
「突き当りにエレベーターが待ってるわよ!早く早く!」
0063三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/27(月) 02:19:49.48ID:tFAJsRkG0
 減速し、通過しながら親指を立て、礼を言う。ありがとう!
ホールの中にエアーバイクで乗り付け、進む。受付デスクの書類を舞い上げ、利用者案内の
看板を蹴散らしながら。それでも誰も彼を非難するものはいない。
そして正面にある大型エレベーター、ここも大口を開けてトオルを待っていた。
黒服を着た中年の従業員らしき男が、エレベーターのドアを体と足で抑えながらトオルに手招きする。
「さぁ、急ぎなさい!屋上まで直通にしておきましたから!」

 ワッパをエレベーターの中にまで進ませると、ドアが閉まりエレベーターが上昇を始める。
ここでトオルはワッパのハンドル中央にある液晶に向かって話しかける。
「おい!空を飛びたい、出来るか!?」
言葉によるAIに対する認証や命令は、西暦の時代から確立されている。
その機能がこの機械にも搭載されていれば・・・トオルは返事を待つ。
『・・・飛行高度は地上より30メートル、海抜で100メートルのリミッターがかかっております』
女性の声を借りたAIはそう答えた。
「そのリミッターを解除してくれ、今すぐに!」
『安全性の観点からお勧めできません、どうしてもと言うなら安全の保障は致しかねます』
「構わない、空を飛びたいんだ、どうしても!」
『もう一度確認します、安全の保障は致しかねます、それでも解除しますか?』
「ああ!」
沈黙するAI,数秒を経て、ピーッとアラーム音。
『高度リミッターを解除しました、くれぐれもお気をつけて』

 よし、これでコロニーまで飛んで行ける、単に塔の頂上まで行ってお前を一目見るだけじゃなく
お前のところまで行ってやれる、待ってろよ、セリカ!
だが、エレベーターが減速し、最上階に到着する直前、トオルは自分のミスに気付く。
「しまった!最上階の教会から外に出られるのか・・・?」
こんな超高層ビルの最上階で、外に出る出口などあるわけがない、仮にあったとしても
避難用の脱出シューターくらいだ。このワッパが抜ける隙間など期待できない。
0064三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/27(月) 02:20:22.25ID:tFAJsRkG0
 チーン、と音がしてエレベーターが停止する。開いたドアの先には、ここの教会の神父さんがいた。
何故か中央に飾ってあった大きな十字架をかつぎ上げて・・・
「え?」
違和感のある光景は、実はそれがアクションの始まりでしかなかった。神父は十字架を豪快に
壁代わりのステンドガラスに叩きつける。
ビキィッ!!強烈な音を立て、極彩色のステンドガラスに蜘蛛の巣のようなヒビが走る。
「ちょ、ちょっと!」
止める間もなく第二撃!高度2000mの強風に耐えるガラスは、この2発目によって粉砕された。
 呆気に取られるトオルに、神父は汗をかいた顔で柔らかく笑い、トオルにこう告げる。
「さぁ、穴は開きましたよ。お行きなさい、愛しい人のもとへ。」

 その大汗から察するに、今の2発だけではないだろう、トオルがここから外に出る方法を考え
自らの信仰とする十字架にその役を託したのだろう、トオルが到着するまで、何度も何度も。
「ありがとうございます!」
迷わず、深々と一礼する。そして前を見る、ぽっかり穴の開いた教会の外、晴天の青の中に佇む
落下中のアイランド・イフィッシュの姿。
「汝に神の御加護があらんことを。」
その声を背に受け、トオルは飛ぶ、ワッパと共に。

 外に出た瞬間、ワッパは強烈な上昇気流を受け、まるで木の葉のように舞い上げられる。
いわゆる『ビル風』、建物が風の通り道となり、作られた強烈な空気の流れに翻弄されるワッパ。
それでもトオルは必死にハンドルにしがみ付く。ワッパのAIはジャイロにより姿勢変化を感知し
前後のエア噴射口にあるスタビライザーサーボを作動させ、姿勢を安定させる。
一人と一台はあっという間にビルを離れ、舞い上がる。愛しい彼女の名前を持つ空間、天空(セリカ)に。
0066三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/27(月) 02:23:36.04ID:tFAJsRkG0
 トオルは前を見る。下半分が真っ赤に焼けたそのコロニーを。
セリカ、どこだ、どこにいる!俺はここだ、ここまで来たぞ、お前はどこらへんにいるんだ!
 そう念じてすぐ、コロニー上部で赤い光が点滅する。すでに死に体、鉄の塊でしかないコロニーに
光り輝く科学の点、人間の存在を証明する光が。
「セリカ!そこか、そこにいるのか?」


「トオル!ホントに来たーっ!ここよここーーーーっ!」
セリカは歓喜する、モビルスーツのモノアイをひたすら点滅させ、トオルに合図を送る。
まさか本当に空まで来るなんて、私とコンタクトを取ってから1時間もたってないのに
こんなとんでもないコトを実現させるなんて!嬉しい、その意思の、思いの強さが。
そしてそれを実現する愛しい人の強さが!!
 駄目、涙が止まらない。嬉しい、会いたい、抱きしめられたい、少しでもいい、
一緒の時間を過ごしたい、トオルと一緒に。

−そのために−

「トオル、私が見える?私が今乗ってる機械が・・・」
『ああ、見える。目じゃ遠すぎて見えないけど、頭の中に浮かんできてるよ。
確かモビルワーカーかモビルスーツとかいう機械だよな、どうしたんだ、それ?』
「借りたの、ちょっとおっちょこちょいな、優しいジオンの軍人さんから。
それより聞いて、このままじゃトオルには会えないわ、お互いの速度が違いすぎて。」
『どうすればいい?』
「とにかくこっちに全速で近づいて!で、私が合図したら反転してバック、全力で。」
『分かった!』

 トオルはアクセルを回す、すでにゴルフボールほどの大きさに見えるコロニーに向かって飛ぶ。
セリカの意図は明らかだ、相対速度を殺すためにワッパをコロニーと同じ方向に走らせ、
少しでも両者の交錯速度を落とし、相手と接触するつもりなんだろう。
落ちてくるコロニーの速度は分からないが、ワッパは最高速度でも200km/hしか出ない、
スピードメーター表示がそこまでしかないから。
多少速度差を殺したところでどうにかなるとも思えない。が、セリカは天才だ。
アイツがそれでいいと言うなら、俺はそれに従って、アイツが望む最高の結果を出すまでだ!
そう信じてさらに飛ぶ、コンマ1秒単位で目に映るコロニーが大きくなっていく。
絶望的な速度と質量、破壊力、それでもトオルに恐れはない。
0067三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/27(月) 02:24:40.33ID:tFAJsRkG0
 コロニーがバスケットボール大にまで見えるようになった時、トオルの乗るワッパが切り裂く
空気の圧が大きくなっていく。コロニーが押し出した空気が風となり、徐々にワッパの
スピードを殺していく。刻一刻と強くなるその抵抗に、トオルのプレッシャーが高まる。
セリカはコロニーの上部にいる。あそこに行くにはコロニーの上を通過しなければならない。
しかしあの大体積のコロニーが押し出した空気の流れに果たしてワッパが耐えられるか・・・?

『大丈夫、そのままそのまま。』
頭に響くセリカの声が、そんなトオルの不安を打ち消す。接近するコロニーがトオルの視界を
次第に埋め尽くしていく。全天がアイランド・イフィッシュに覆われんとした時、再び彼女の声。
『今よーっ!バックーっ!!』
ワッパをウイリーさせ、古来のバイクのタイヤ部分についているスラスターを全開にして急停止、
そこから水泳のターンのように反転して、シドニーの街に向き直る。
クラウド・カッティングの最上階目指して斜め下に走り出すワッパ、と同時にトオルは
アクセルとハンドルをロックさせ、曲乗りのように進行方向に背を向ける。
再び斜め上から落ちてくるコロニーを見据える、その上部にあるモノアイの点滅、あそこだ!
あそこにセリカがいる、もう少し!

 ワッパは木の葉のように舞い上げられる。コロニーが押し出す恐るべき空気の津波によって
蹴散らされ、それでもスタビライザーはワッパの姿勢を辛うじて保ち、そのドライバーは
後ろ手に掴んだハンドルと足で踏ん張り1点を見つめる。ワッパの足元をコロニーの先端が通過していく。 
 その瞬間だった。トオルが見据えていた光点、それがコロニー表面から飛び出す、
進行方向の逆側、つまり落下するコロニーの逆方向、空側に。

「行っけぇぇぇっ!」
セリカが叫ぶ。旧ザクの背中のバーニアを全力で噴出し、飛ぶ。コロニーから離陸し
トオルのバイクを見据えながら天空に舞い上がる。捕らえた!あの人の軌跡。
超高速で落下するコロニーとの相対速度を殺すため、トオルにはある程度まで接近して
バックしてもらった。あとは私、この巨人の速度がどこまで残った相対速度を消してくれるか、
セリカの意思はザクに伝わり、核融合炉のパワーを全開にして上空に舞い上がる。そして
両者のベクトルの行く先が空中のある1点で交差する。
0068三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/27(月) 02:25:32.75ID:tFAJsRkG0
 セリカには見えていた。数秒後にトオルの乗るバイクが私のもとに飛び込んでくる姿が!
ザクのハッチを開く、金緑色の髪が乱暴に乱れ揺れる。それでもハッチの縁に捕まり
その身を空に晒す。

 いた!見間違えるはずもない、あの金緑色の髪、あいつの目印。天に舞い上がる巨人の胸の部分、
そこにアイツがいる、セリカ・ナーレッド。俺の好きな人が。
トオルにも見えていた。数秒後に自分の胸に飛び込んでくるアイツの姿が。

セリカはザクのコックピットを蹴り、飛ぶ。天空に向かって。
トオルはワッパのシートを蹴り、向かう。セリカを目指して。

この時の両者の相対速度、−254km/h−

「トオルーーーーーーーーーーーっ!!」
空の妖精は両手を広げ、愛しい人の胸に飛び込んでいく。

「セリカーーーーーーーーーーーっ!!」
勇者は天に舞い上がり、叫ぶ。愛しい人を抱きしめる為に。

ふたすじの光の線が、空にラインを描く、一点の交差点を目指して。
その上には満天の蒼があり、その下には通過する人工物、アイランド・イフィッシュがあった。

そして、ふたつのラインは、空の一点で、ついに交わる。

抱きしめた、確かに抱き合った。ほんの一瞬の時間、高度2200mの空で。

 トオルは幸せだった。セリカの笑顔を最後に見ることができた。奇跡の邂逅をこの天才は
いともあっさりとやってのけたのだ、さすがだ、さすが俺の好きな人だ。
 セリカは幸せだった。トオルのぬくもりを感じながら、はち切れんばかりの感動を味わいながら。
この人を好きになってよかった、こんな無茶を、私のためにあっさりとやってのける人を。

例えコンマ数秒後にはお互い肉塊となって、砕け散る運命であっても−

数秒後にはコロニー落着の爆風にさらされ、肉片すら残らず蒸発する結果が確定していても−
0069三流(ry (ワッチョイ 9e5f-OxDE)
垢版 |
2018/08/27(月) 02:26:15.78ID:tFAJsRkG0
15話でした。よし!「モビルワーカー(オリジン)」という単語が出てきたな
これで新シャア板に投稿しても問題ないわけだ(今更www)
0070通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Sp3d-oD98)
垢版 |
2018/08/27(月) 23:14:12.50ID:JH3eL9I2p
名前の通り三流の駄文だな…いや文ともよべんか
0071通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW ea24-oD98)
垢版 |
2018/08/28(火) 07:48:20.66ID:0A0LZ08p0
>>70
漢字が読めない馬鹿よりは、マシだぜwww
0073通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 36f3-arNO)
垢版 |
2018/08/28(火) 22:00:17.83ID:d05WTf1L0
乙です
トオル君に友人達にビルの人々、教会の神父さん、皆揃いも揃って無茶するなあ
でもこの行動、やはり『イフィッシュ・ショック』(仮称)あってのことなんでしょう
ただ渦中のトオル君だけは別だと思うのだが、やはり彼もこの現象の影響から逃れられてないような感じが…


そしてやっと出会えた二人
この瞬間だけは、この上もなく幸せだった…そう、この瞬間だけは
0074通常の名無しさんの3倍 (ニククエW 1e8a-oD98)
垢版 |
2018/08/29(水) 17:09:11.61ID:UN1RWjx00NIKU
自演乙としか
0075ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:08:23.06ID:20S/q6/K0
三流氏さん乙です。
儚くも怒濤の展開、クるものがありますね。なんとか生き延びてもらいたいものですが・・・・・・

自分も投下します。
やはり自分は今の環境下だと投下頻度は2、3ヶ月に一回が限界のようです。
0076ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:09:35.92ID:20S/q6/K0
――艦これSEED 響応の星海――


時は少々遡る。
それは丁度【いぶき丸】による曳航準備が完了し、また呉ではシンがC.E.について語り始めた頃のことであった。

「これは・・・・・・なんで、こんな」

MS搭載型高速駆逐艦ナスカ級の中央部、MS格納庫にて。
歪みに歪んだ緊急脱出用ハッチをこじ開けて侵入したキラは、逆手に掲げたマグライトによって浮かび上がった光景に呆然と、失意を溢してしまっていた。
だってそこは、最大6機の18m級人型機動兵器を格納できる広々としたスペースは、死に満ちていたから。
悲惨だった。悲惨としか言い様がなかった。
多数の大破したモビルスーツの残骸が無秩序に転がっていて、その間隙に多数の整備員の骸も、転がっていて。何もかもが誰も彼もが酷く損壊していて、
格納庫全体に夥しい量の赤――大人一人分の血液量は約5ℓらしいが、これは一体何人分なのだろう――が塗りたくられている。
おそらくは時空間転移後に、高所から落下したからだと直感的に悟る。
船体は辛うじて無事だったようだが、内部への衝撃はどうしたって防ぎようがないもので、その上MSの残骸が気ままに暴れ回ったのならばこうもなろう。実に馬鹿げた光景だ。
ここにはもう誰もいないのだと、一目で判ってしまう。
そして無論、惨劇はここだけではない。
だってそうだろう。格納庫だけがこうなっているなんてことは、有り得ないのだから。ナスカ級は極々普通の通常艦艇で、艦娘やヴァルキュリア‐システムのように物理法則を書き換えるなんてことは出来ないのだから。
艦橋、居住区問わず、この艦に生存者はいないという現実を、否定できる要素がまるで無い。
艦全体に、生の気配が無い。

「・・・・・・ッ、・・・・・・誰か! 誰かいませんか!? ・・・・・・ねぇ!?」

それでも暗闇の中、思わずライトを振り回して叫んでいた。
そうした分だけ光と声は虚しく反響して消えるばかりで、暗闇に閉ざされた世界に死ばかりしかないことを余計に実感して、その中に一回か二回すれ違っただけの――けれど確実に見知った顔が埋もれていることを知って、
泣きたい気分になった。
ナンセンスだ。
こうなっている可能性を考えていなかったわけではない。あえて目を逸らしていたわけでもない。
むしろ、生存者がいないことの方が自然に思える状況下であると、元より彼は正しく認識していた。
それでも、一人だけでももしかしたらと、皆に同行することにしたのだ。【いぶき丸】甲板上で、ナスカ級が深海棲艦達に曳航されるがままで、近くで戦闘が始まっても何のリアクションがなかったと観測しても、
まだ希望はある筈だと侵入したのだ。結局のところ、その目で全てを観測しなければ可能性は収束せず、世界は確定しないから。
この状況下では詭弁もいいところだが、人類の揺らがないイデアには『諦めの悪さ』もあった。
0077ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:11:23.00ID:20S/q6/K0
根拠のない強がりとか、空元気とか、藁にも縋る想いとか、夢見がちで身勝手な思考停止とか、自己満足とか、そんなのかもしれないけれど。けれど誰よりも己だけでも、
今ここにいる者の責任として義務として一滴だけの奇跡を信じなくちゃいけないと彼は自覚していた。
そして今ここに至って、世界は確定した。他ならぬキラによって観測された世界は、奇跡など有りはしないのだと応えた。
想定していたことだけど、覚悟していたことだけど、やっぱり哀しくなった。なにも、こんなのってないじゃないか。

「――くそぉ!!」

近年の彼には珍しく、語気を荒げて悪態をついた。
それでも、進まなくてはならないのだ。感情は頑なに声高に、ちゃんと一人一人捜して確かめろと叫んでいるけれど、悲嘆に暮れるのも感傷に浸るのも後回しに。戦士として鍛えられた理性が、
ただただ止まるなと訴えかけてくる。スイッチを切り替えろと迫ってくる。
今ここにいる理由を思い出せ。今ここにいる者の責任として義務として成すべきことを探せ。
外では戦闘が続いている。この棺となった艦を巡る戦いが続いている。
戦う艦娘達は、キラ・ヒビキがなにかしらのアクションを起こすことを期待している。ギリギリで拮抗した戦線を刺激するだけのアクションを。ならば己にできることは、おのずと限られてくる。
小さく、ごめんねと呟いた。

(生存者は、いない。エンジンも十中八九死んでる。艦の再起動も無理だ。なら、僕にできることは?)

一瞬の瞑目の後に目元を拭って、キラは改めて格納庫内を見渡す。
ここには、多数の大破したモビルスーツの残骸が無秩序に転がっている。
彼はモビルスーツのパイロットだ。成すべきは、この艦の為に戦ってくれている少女達の為に。

(・・・・・・動かせる機体は、戦える機体はあるのか?)

旧地球連合のダガーに、旧ザフトのジンとザク、オーブ連合首長国のムラサメ、その他諸々。
パッと見た限り、そんな世界各国の旧型機ばかりが、とうに第一線から退いていた機体ばかりが破壊された状態で、ここに在った。
これは明らかにおかしいと、思考の片隅で思った。
C.E.78時点での世界情勢を考えれば考える程に奇妙な、時空間転移の原因がヴァルキュリア‐システムの暴走によるものではないかと推察するキラを否定するような、時代錯誤の不自然に過ぎるラインナップだ。
何故、このような機体ばかりがここに在る?
キラの知っているC.E.では、ZGMFシリーズやGATシリーズといった「前大戦の遺物」は、新地球統合政府が運用する機動兵器としては相応しくないとして運用を制限・管理されていた。
むしろ旧式機はテロ組織が略奪・運用する機体として世間に認知されており、そして統合政府直属軍は撃破した機体をわざわざナスカ級で回収したりすることはない。回収作業はそれを専任とする艦に任されている。
つまり、こんな大破した旧式機が、しかも所属の全くことなる機体が、今更ナスカ級に搭載される理由がもう存在していない筈なのだ。ここに斃れている整備員達が新地球統合政府の制服を着込んでいなければ、
まさかC.E.74のメサイア攻防戦前後の過去からやって来たのかと疑っていたかもしれない。
0078ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:14:16.72ID:20S/q6/K0
それに、どのような任務にせよナスカ級の艦載戦力はGRMFシリーズのものに統一されている筈なのに、しかしMS格納庫にはそれらしき痕跡が全く見当たらない。まったくもって彼の常識が通用しない状況だ。
キラ・ヒビキは新地球統合政府直属宇宙軍第一機動部隊の隊長で、副隊長のシン・アスカと共に『裏の仕事』含め軍の動向をほぼ正確に知り得る立場にいた存在だったというのに。
となると、この謎の旧式モビルスーツ群の出自は完全に「不明」だ。記憶喪失の男が解明すべき謎がまた増えた。

(でも、疑問も後回しにしないと・・・・・・時間が惜しい)

そもそも謎なんて、つい先日に提督経由で『今のアンタに手紙や電話で話すことはなにも無い』と伝言をくれたシンが10日後にやって来るのだから、その時に問い詰めればいいだけのことだ。
ともあれ、使えるものは使おうと決めたキラである。
片隅の疑問は一旦置いといて、まずは使えるものを探すことにした。
コクピットを打ち抜かれたダガーに、腰で両断されたジンと左半身を失ったザク、頭部とボディしか残っていないムラサメ、その他諸々。これらの残骸をマグライトの光源だけを頼りに潜り抜け、
通信中継用アンテナを設置しながら比較的損傷の小さいモビルスーツを求めて慎重に歩を進める。
そうして5分が経過した頃。
格納庫の最奥に横たわっていたソレと、すっかり血糊とオイルに塗れたキラは遂に巡り会った。

「・・・・・・ストライクときて、次はデュエルか。ホント、何があったっていうのさ」

ストライクの兄弟機である【GAT-X102 デュエル・アサルトシュラウド装備型】。
追加装甲が幾つか脱落した以外の損傷は見受けられない、確実に戦える機体。かつてイザーク・ジュールが駆った、不倶戴天の敵ともいえる機体。とっくの昔に連合に返還されて博物館行きになった、ワンオフの試作機。
運命のイタズラというヤツだろうか。神様はこの機体に乗れというのか。まったく笑えない冗談だ、これは。
だがしかし、乗らないという選択肢は有り得なかった。使えるものは使おうと決めた。
意を決して一歩、前へ。
再び、戦場への介入を。
0079ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:17:04.84ID:20S/q6/K0
《第13話:Aut viam inveniam aut faciam.》



キラがデュエルを発見した同タイミングにて。
その時、戦局が変わった。
夕立と響を除く全戦力が合流し、いよいよ榛名達が攻勢に転じつつあった戦局が変わった。

「・・・・・・ッ? ・・・・・・! ソナーに感なのです! ・・・・・・これは、音の壁?」
「バカ電、魚雷よ! 9時方向から魚雷接近!! 距離4、数は・・・・・・多すぎるわ、計測不能!!」

後になって判明したことだが、その時、ナスカ級は総計318発の魚雷に狙われていたという。偵察衛星が破壊される寸前まで撮影・録画していた映像を解析した、シンと天津風の証言だ。
全てが九三式魚雷三型――所謂、酸素魚雷と呼ばれるタイプだった。
酸素魚雷とは、深海棲艦や諸外国の艦娘の使う通常魚雷に比べて「高速で長射程で雷跡が目立ちにくく、単純な威力なら大口径砲以上」という特性を持つ、
第二次世界大戦期では日本国のみが唯一実用化していた大戦期最高スペックの魚雷だ。これまで響や夕立、木曾が盛大に使い潰してきたものに該当し、無誘導式ながら多数の艦を沈めてきたその高性能っぷりは本物である。
炸薬量 780 kg、最大速度48ノット(約90km/h)、その場合の最大航続距離は8マイル(約15km)。
そんなものが318発。
南方から取り囲むようにして、遠慮容赦なく不規則的に断続的に殺到してきた。

「こちら龍驤、視認したで。ナスカ級を中心に方位2-6-0から2-9-0にかけてびっしりギョーサンと・・・・・・ありゃ酸素魚雷やな。推定40ノット、着弾まで大凡5分!」
「金剛、レ級が前進開始したわ! 連携してると見て間違いないわね。押し込んでくるつもりよ!!」
「Shit! なるほど、そうきましたカ・・・・・・! 時雨と【多摩組】は魚雷の迎撃を!! 夕立と響も再出撃急いで!!」
「わかったにゃ! 矢矧、暁、雷、電、時雨。パワー全開にゃ!!」

【軽巡棲姫】の差し金だ。
これこそが向こう側のジョーカー。
ヤツは一度戦線を離脱した後に、仲間と合流して補給するや否やこれまで鹵獲・複製してきた酸素魚雷のほぼ全てを射出してきたのである。ナスカ級を轟沈させ、深海に墜とす為に。
そもそも、深海棲艦達がナスカ級を曳航していた理由は「サルベージするよりは楽だから」程度のものでしかなかったのだ。
目標が海上にあろうが海中にあろうが、海を統べる彼女達には「どれほど労力を削減できるか」程度の問題でしかなかった。
だから最初は素直に、潜水艦・重巡混成部隊で台湾近海まで曳航しようとした。しかし佐世保側に感づかれ妨害されてしまったのであれば、曳航に拘る必要がない。実施する意義がない。
ましてや、直接の戦闘力で押し負けているのならば。
0081ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:18:26.55ID:20S/q6/K0
そこで【軽巡棲姫】曰くプランB。肉を切らせて骨を断つ。


つまり、無傷に手に入れるに越したことはないが、敵が無傷で手に入れてしまうぐらいなら破壊してでも己の領域に引き入れてしまおうという魂胆だ。予定外の労力と時間をつぎ込んでしまうことになるが、
あとはゆっくり確実にコッソリと、バラバラになって沈んだナスカ級をサルベージしてやるだけでいい。
所詮人類には敵陣内で大型艦をサルベージできる程の余裕も技術もないのだと、深海棲艦は知っていたから。
また、艦娘達が沈んだ艦を死守せんとここに陣取るなら、それも結構とさえ見越していた。疲労し、補給線が伸びきったところで強襲を仕掛けてやれば簡単にけりがつく。その狙いも込めて、目前で破壊させてもらうと。
その為の318発の酸素魚雷。
戦局は一転して、絶体絶命。
此方の全戦力を投入しても、防衛しきれる見込みは限りなく薄いと言わざるを得ない。木曾は軽く舌打ちし、マシマシに搭載した機銃の弾倉を取り替えながら傍らの瑞鳳に尋ねた。

「ヤツめ、相変わらず味な真似を・・・・・・おい瑞鳳、ナスカ級の動きはどうなっている?」
「やっと動きはじめたばかりよぅ! それ以外はなにも! どうしよう、まだキラさんが中にいるのに・・・・・・、・・・・・・キラさん、聞こえますか!? 応答してください!!」
「落ち着け、この距離じゃ無線は無理だ。こういう時の為に明石に待機してもらってるんだろう」
「そ、そっか。でも急がなきゃ」

何をするにしても時間が足りない。
西の戦艦レ級率いる空母機動部隊との戦いは継続中である。だいぶ削ったとはいえまだ放置できる程ではなく、背を見せたら此方が喰われる。
かといって【多摩組】だけではどう頑張ってもナスカ級の巨体をカバーしきれず、1分だけ未来を先延ばしにできれば御の字だ。
彼の艦にも未だ動きはない。ワイヤーで牽引されているナスカ級は、腹が立つほどゆっくりゆっくり東に進みはじめたところだ。
また、こちらのジョーカーたるキラが侵入してから間もなく、やはり艦が再起動しそうな予兆はない。これでは魚雷の殺傷圏から逃れられない。
つまりどうあがいても、ナスカ級を無事に守りきることは不可能。
更に、瑞鳳の言う通りキラだってこのままでは諸共だ。相変わらず強力なジャミングに支配されているこの海上で、彼と確実に連絡をとれるのは【いぶき丸】甲板上の明石のみ。
既に発光信号で此方の状況は伝えているし、それこそ侵入してからまだ間もないのだから奥まで進んでいないと思うが、脱出が間に合うかは判らない。
やはり音に聞こえた奸計の使い手、とことん此方の嫌がることを最高のタイミングで仕掛けてくる――【軽巡棲姫】はどんな高性能の敵よりもタチが悪かった。敵ながら天晴れとさえ思ってしまう。

「明石に任せるしかないが・・・・・・だが、オレ達にはまだやれることはある。アイツの心配をしている暇はないぞ」
「え?」
「このまま敵の策をただ見過ごせるわけないだろう! 一杯喰わしてやる。榛名、金剛!!」
「! 木曾?」
0082ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:21:07.69ID:20S/q6/K0
願い虚しく、またしても後手に回ってしまったわけだが、しかし。
不測の事態は、ジョーカーは必ず来ると心構えをしていたのだから、艦隊の参謀役たる木曾は既に、敵がこうした暴挙に出ることも可能性の一つとして考えていた。
提督より与えられた作戦目標を遂行する為の、最善は潰えた。
だから、かねてより考えていた次善で応えるしかない。次は必ず完膚なきまで叩き潰してやるという想いを秘めて、木曾は今を切り抜ける為の策を簡潔に伝える。

「宇宙船の三枚おろしだ。ナスカ級両弦のスラスターブロックは切り離して、真ん中だけオレ達が頂くんだよ」
「・・・・・・! 榛名達もナスカ級に攻撃を加えるということですか?」
「ああ、艦砲なり爆撃なりで連結部に攻撃を集中させてな。これなら【いぶき丸】の推力でも迅速に引っ張れる筈だし、パージしたブロックは盾にもなって時間も稼げる」

着目したのは艦の独特な構造だ。
要は漢字の「山」のようなシルエットを「川」にして、一番重要な中央部をかっぱらおうというのだ。三枚おろしとは言い得て妙である。半ば意図的に艦のパーツを敵に渡してしまうことになるが、この際致し方あるまい。


骨を断たせて大事を護れ。骨は骨でも腕の一本、あばらの一本ぐらいくれてやる。


土壇場の損害制御で、最悪の事態を避けるのだ。
魚雷到達まであと4分。議論を重ねている時間はない。木曾の提案を聞いてしばし思案顔になった金剛と榛名は、お互いの顔を見合わせて頷くと背中合わせになり、それぞれの眼差しをそれぞれのターゲットに向けた。

「・・・・・・OK。それしか無いようですネ。一か八か、ぶっつけ本番のMission。分の悪い賭けはキライじゃないデース」
「ナスカ級への攻撃は榛名と瑞鳳、鈴谷が担当します。・・・・・・と言っても、攻撃はあくまでキラさんの安全を確保してからですけれど。金剛お姉様達は変わらず、敵艦隊への攻撃を」
「Hey摩耶、木曾。瑞鳳と鈴谷が抜けた分の、艦隊の防空は任せるネー」
「任せろ。5分ぐらい凌いでやるさ」
「対空番長と謳われたこの摩耶様と木曾の面目躍如ってところだなァ。木曾、遅れンなよ?」
「お前こそな。・・・・・・来たぞ、対空かかれ!!」

30秒にも満たない作戦会議。
それでも最適解に近い答えを導き出した二人の姉妹に、随伴の少女達が期待に応えんと艤装を構え直す。信号弾と探照灯をフル活用して、新たな方針を皆に共有させる。
【軽巡棲姫】の逆襲だろうと、好き勝手させてたまるものか。

「瑞鳳。負担は大きいですが、いけますね? 榛名と鈴谷の砲撃に合わせて爆撃を!」
「やってみせます! 彗星、発艦開始!!」
「彗星の護衛も鈴谷が引き受けるじゃん! 強風改の底力見せてやんよ!」
「ありがと、鈴谷!!」
0084ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:25:15.00ID:20S/q6/K0
瑞鳳が制空戦闘機「烈風改」をコントロールする傍ら、新たに艦上爆撃機「彗星二二型」を発艦させると丁度、
再出撃した響と夕立を加えた【多摩組】の魚雷迎撃戦が始まった。遙か南方で幾十の水柱が立て続けに咲いては消えていく。
また此方では俄に殺到してきた敵艦載機に対抗するべく、濃密な弾幕が天を覆い尽くした。吐き出された空薬莢の分だけ、粉々に引き裂かれた敵艦載機の破片が海に落ちていく。

「艦隊、輪形陣!! 護りますよ!!!!」

榛名達の、この日最後の攻防が幕を開けた。

(キラさん、どうか無事で・・・・・・!)

祈る。
この急場凌ぎのナスカ級解体作戦で一番のネックとなるのは、艦内部に侵入したキラの存在だ。
此方の攻撃が早すぎても駄目なのだ。間が悪ければ最悪、自分達の手で彼を殺してしまいかねない。まともに攻撃の衝撃をくらってしまえば、ストライクと同化していない彼の身体はきっと耐えられないだろう。
明石の合図があるまでは仕掛けられない。
此方の攻撃が遅すぎても駄目なのだ。連結部を切り離す前に迎撃網を抜けた魚雷が到達してしまうし、木曾達の弾幕も尽きてしまう。そうなれば全てが共倒れで、一人残らず深海棲艦に撃沈されてしまうだろう。
慎重に彼の安全を待っている余裕はない。
だから早く、早くと。
早く脱出してくれと。
皆一様にそう祈った。
ただし二人だけ、そうではない者がいたが。

(あなたは、これからの私達に必要なんだから!!)

輪形陣の中央、ありったけの艦載機を放った瑞鳳は祈る。
昨夜に奇妙な協力関係を持ちかけ、その後一緒にトランプ遊びをした青年の無事を想い、祈っていた。きっと響と同じように。
たかが数時間お話をしただけなのに、以前よりずっと彼を大事に思えてしまう。
別に好きとか恋とか、そういうのではない筈で、ただ情が移っただけのことだけど。けれど確実に、他の誰よりも、彼がいなくなってしまうかもしれない可能性に少女は恐怖を感じていた。
つまり、まっとうな人間同士の繋がりを感じていた。なんら特別なことではなく、ただ二人が誰よりもあの青年に近づいているからこその、当然の想い。
だから祈る。
どうか無事に、また会えますようにと。
いつだって祈りは届かない、こんな無情な世界だけど。
いつだって人間は、祈らずにはいられない存在だから。
0085ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:30:13.40ID:20S/q6/K0
「あと3分!!!!」
「アイツはまだか!? もう猶予はないぞ!!」

強い祈りは今を生きる糧となる。人類の諦めの悪さの源だった。きっと人間も艦娘も、深海棲艦も同じで。


故にこれは必然の結末。


複雑に絡み合った因果の顕れ。世界が応える。
その時、ナスカ級正面ハッチが内部からの攻撃によって吹き飛ばされた。

「なんだ!?」
「あれは、まさか――」

間を置かず、飛び出したるはストライクによく似た青と白の機械人形。しかして全身にゴテゴテ無骨な鎧を装着し、ストライクとは真逆の印象を与える重砲撃戦仕様のモビルスーツ。
ソイツは身を捻って海上に着水すると、おもむろにライフルを構えて例の魚雷群に向かい連射した。久々に目にする荷電粒子の迸りが、一寸違わず小さな魚雷を射貫いていく。
続けて右肩に接続されたキャノン砲と、左腕に担いだバズーカを発射。バチィィッ!! と稲妻を伴って撃ち出された弾丸が、ナスカ級右舷連結部に直撃した。
そして、スピーカーから響き渡る青年の声。

<遅くなってすいません! キラ・ヒビキ――デュエルで戦線に復帰します!!>
「キラさん! 良かった・・・・・・」
「デュエル、だと!?」
<明石さんから作戦は聞いてます。援護します!>

間違いない、キラだ。
ギリギリのタイミングで新たな力を引っさげて、またもや美味しいところで登場したのだ。瑞鳳が安堵にホッと一息つくと同時に、木曾が鋭く叫ぶ。

「ッ、榛名!!」
「ええ、条件は全てクリア! 攻撃開始!!」
「待ちかねたぁ!! 撃て撃て撃てぇ〜!!!!」

速攻。
「強風改」にエスコートされた「彗星」が急降下爆撃を敢行し、榛名と鈴谷の主砲が火を噴く。深い青色の外装が500kg級爆弾と35.6cm砲弾、20.3cm砲弾の雨霰に晒される。
あの艦の防御力は未知数で些かの不安もあったが、ちゃんと攻撃は効いているようだ。この分なら直ぐにでも目的は達成できるかもしれない。船体が悲鳴を上げ、バキン、バキキッ!!!! と裂け割れていく。
それはある意味、敵の魚雷も有効であることの証左であったが。
0086ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:34:24.94ID:20S/q6/K0
「っと、見とれてる場合じゃないわね! 第二次攻撃隊、発艦します!!」

「彗星」の帰還を待たず、己の制御能力の限界をおして新たな矢を番える瑞鳳。ここで無理せず何時すると言うのか。放たれた矢はダメ押しの艦上統合攻撃機「流星改」と成り、800kg級爆弾を抱えて一直線に大空を征く。
このペースなら充分に間に合う。
僅かに見え始めた希望に、艦隊は俄に活気づいた。



0087通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 5b8a-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:35:29.02ID:KE9xwwrA0
自演大好きなグローブじゃねえかよ
0088ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:38:08.71ID:20S/q6/K0
「良かった。あの人、ちゃんと間に合ってくれたっぽい」
「うん」
「・・・・・・響?」
「? なにさ師匠」
「んーん、なんでもない。やっぱ瑞鳳さんの言ってたことってホントだったんだぁって」
「?? ・・・・・・明石先生といい、なんなんだ・・・・・・」

一方その頃、響と夕立は壁のように迫ってくる魚雷を的確に迎撃していた。
撃てば当たるとは正にこのことで、放った弾丸や魚雷はほぼ確実に敵魚雷に命中する。あまりにも密集し過ぎているせいかたまに連鎖爆発も起こって、もはや攻撃に精度は殆ど必要無かった。
だからこそ、的確な迎撃が必要であるのだが。
壁のように、ということはつまり、艦娘達にとっても逃げ場がないことを意味する。
適当に撃っていては密集しつつもランダムに進行する魚雷に自身が当たりかねない。目立たない雷跡を冷静に観察して、安全地帯を確保しながら迎撃せねばならなかった。
そこで響が夕立の前に立ちふさがって前方の処理に集中し、夕立が左右と後方をカバーするという連携プレーを採用。最も密度が高いと観測された区域を引き受けて、最も多くの魚雷を葬っていた。
しかしそれでも、撃ち漏らしばかりだ。
【いぶき丸】にて連射性能の高い装備に換装したとしても、とても捌ききれるものではない。それは多摩と矢矧と時雨が担当する区域も、暁と雷と電が担当する区域も同じで、
総計318発の酸素魚雷は次々と艦娘の真横を通り過ぎて、彼女達の防衛対象に突っ込んでいく。
デュエルの放ったビームもミサイルも焼け石に水で、とんでもない数の暴力だ。
加えて、防衛対象の大きさも問題だ。
ナスカ級の全長は250mで、牽引する【いぶき丸】は30m。魚雷はせいぜいが少女の細腕ぐらいにしかないのに、的としては巨大もいいところである。
勿論全て、承知の上での作戦行動だ。ナスカ級が解体されるまで護りきれれば良い。ただ焦らず冷静に、撃ち落としていけば良い。
響は左腕にも増設した機銃を含めて、一心不乱に撃ちまくった。

(・・・・・・驚いたな。なんで私はこんなにも冷静になれているんだろう)

いや、一心不乱というには些か、彼女の心は上の空気味であったが。

(自分の身体を楯にしてでも食い止めなきゃって・・・・・・絶対そうなるって、思ってたのにさ)

魚雷が接近しているという報は、彼女にとって恐怖以外の何物でもなかった。
余分な感情は不要で、任務遂行だけを意識するだけでいいと吹っ切れていても、尚。なんなら、先の対【軽巡棲姫】戦で感じた命の危機よりもずっと恐ろしく、まるで心臓を大杭で貫かれたかような衝撃だった。
それだけではない。榛名達があのレ級を前にしてナスカ級をも相手取るなんて自殺行為も同然だ。仕方のない選択だったのかもしれないけど、
下手をすれば何もかもが喪われるギリギリの綱渡りだ。これもまた、ひどく恐ろしいことで。
どうしようもない理不尽への――喪失への恐怖は、仲間を信じるだけではとても抑えられない、いつもの悪癖が顔を出してしまってもおかしくない激情だった。
0089ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:43:51.16ID:20S/q6/K0
だから少女は予測した。
きっとこれから先、身のうちに渦巻く衝動を制御しようと精一杯になると。身体が勝手に動きそうになる度に、木曾の言葉を、夕立の存在を、ここで無理しても何にもならないという現実を思い出して、
心にブレーキを掛けなければと。
悪癖に振り回されるのは、もう懲りたのだ。これからはちゃんと制御しなくちゃいけないと、これまで以上に心を殺して凍らせて、強くあらねばと覚悟した。


「なにも為し得ないまま死に損なった者」の責任として義務として、護れねばと。


でも結果的にそうはならなかった。いっそ呆気ないぐらいに、どこまでも冷静でいられた。

(情けないけど、こんなの初めてだ。理由はなんだろう・・・・・・どこかに取っかかりが、ある筈なんだ)

少女は初めて、その意図とは異なる要因で、己の暴走を制御できていた。
恐怖は紛れもなく本物であったのに。心を殺すまでもなく、己が身に代えてでもと思うまでもなく、受け止められていた。
それがとても、響にとっては不思議だった。いつの間にか心の有り様が、少し変わっている。イヤな気分ではなかった。

「――響ッ! ボーッとしない!!」

突然の叱咤に、思考を中断させる。
気付けば一発の魚雷が目前にまで迫っており、響は慌てて両肩部25mm連装機銃で迎撃した。

「ッ!? ・・・・・・あ、Извините。ちょっと考え事、してた」
「もう。そろそろ免許皆伝してもいいかなって思ってたのに。これじゃあまだまだ卒業には遠いっぽい?」
「え、そうなの?」
「だって実際、戦闘技術で教えられるコトってもう殆どないっぽいし。でも仕方ないから、もうちょっとだけ師匠役を続けたげる」
「師匠・・・・・・」
「あ、でも師匠呼びはやめてね」
「それは、ちょっと自信ないかな・・・・・・」

これもまたいつの間にか、夕立に認められるぐらいにまで自分は強くなっていたらしい。それが明石とキラが用意してくれた試作艤装のおかげだとしても、響は思わず頬を紅くした。
なんだろう。自分で自分のことが解らないのはいつものことだが、それにしたって一気に色々変わりすぎではなかろうか。なんだか少し気恥ずかしい。
0090ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:47:09.46ID:20S/q6/K0
「あ、また」
「なにさ」
「最近、響ってば少し表情豊かになったっぽい」
「そうかな」
「うん。だってさっきも――」

夕立がちらりと後方のナスカ級を、いや、その前面に陣取ってライフルを連射する新しいモビルスーツを一瞥した。
釣られて見れば、既に幾つかの魚雷が右舷スラスターブロックに命中しており、船体は大きく右に傾いでいる。このままもう少ししたら、轟沈してしまうだろう。
するとここで、デュエルが後腰から新たな武器を取り出した。身の丈程もある金属製の大太刀、C.E.ではグランドスラムと称された対MS用の大型斬機刀だ。
それを正眼で構えるや否や、跳躍。散々撃ち貫かれてズタボロになっていた右舷連結部を、一刀のもとに両断する。ついで更に跳躍、同じく左舷連結部に斬りかかり、ついに中央部の摘出は成った。
そこまでを見届けると、夕立はどこか羨ましそうな声音で、

「――あの人の声が聞こえた時、ああやっぱりって顔で笑ってたもん」

ちょっと困ったような笑顔で、締めくくった。

(・・・・・・そうか)

未だ魚雷群に取り囲まれている状況だが、彼女の言葉に脈絡もなくストンと、何かが腑に落ちた。

(もしかして私は、もう――)

天啓。
この一連の戦闘を通して、これまでとは違う何かが芽生えようとしていることに、気付いた。
いつからだろう。
どうしようもない恐怖をも超越する、なにか。
それはまだ蕾にもなっていないけど、それがなんなのかもまだ全然わからないのだけど。
けれど、もしかしたら。

(――もう私はこれ以上、心を殺して戦う必要がないのかもしれない)

それは、おぼろげながらも確かな、福音であるのかもしれない。
自らの心が導いた結論は、理由が不明瞭であるのになんだかすんなりと納得できた。
少し嬉しいと素直に思えた。
魚雷の海を抜けたと同時、混迷の霧も抜け出せたような気がして。知らず知らずうちに宝物を手にしていたような気分で。少女は無性に、この想いを誰かに伝えたくなった。
0091通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:48:32.58ID:Qnzp/hGfp
あ、また」
「なにさ」
「最近、響ってば少し表情豊かになったっぽい」
「そうかな」
「うん。だってさっきも――」

夕立がちらりと後方のナスカ級を、いや、その前面に陣取ってライフルを連射する新しいモビルスーツを一瞥した。
釣られて見れば、既に幾つかの魚雷が右舷スラスターブロックに命中しており、船体は大きく右に傾いでいる。このままもう少ししたら、轟沈してしまうだろう。
するとここで、デュエルが後腰から新たな武器を取り出した。身の丈程もある金属製の大太刀、C.E.ではグランドスラムと称された対MS用の大型斬機刀だ。
それを正眼で構えるや否や、跳躍。散々撃ち貫かれてズタボロになっていた右舷連結部を、一刀のもとに両断する。ついで更に跳躍、同じく左舷連結部に斬りかかり、ついに中央部の摘出は成った。
そこまでを見届けると、夕立はどこか羨ましそうな声音で、
0092通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:49:17.08ID:Qnzp/hGfp
うおおおとお

あ、また」
「なにさ」
「最近、響ってば少し表情豊かになったっぽい」
「そうかな」
「うん。だってさっきも――」

夕立がちらりと後方のナスカ級を、いや、その前面に陣取ってライフルを連射する新しいモビルスーツを一瞥した。
釣られて見れば、既に幾つかの魚雷が右舷スラスターブロックに命中しており、船体は大きく右に傾いでいる。このままもう少ししたら、轟沈してしまうだろう。
するとここで、デュエルが後腰から新たな武器を取り出した。身の丈程もある金属製の大太刀、C.E.ではグランドスラムと称された対MS用の大型斬機刀だ。
それを正眼で構えるや否や、跳躍。散々撃ち貫かれてズタボロになっていた右舷連結部を、一刀のもとに両断する。ついで更に跳躍、同じく左舷連結部に斬りかかり、ついに中央部の摘出は成った。
そこまでを見届けると、夕立はどこか羨ましそうな声音で、
0093通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:50:05.40ID:Qnzp/hGfp
ぐへはへ

あ、また」
「なにさ」
「最近、響ってば少し表情豊かになったっぽい」
「そうかな」
「うん。だってさっきも――」

夕立がちらりと後方のナスカ級を、いや、その前面に陣取ってライフルを連射する新しいモビルスーツを一瞥した。
釣られて見れば、既に幾つかの魚雷が右舷スラスターブロックに命中しており、船体は大きく右に傾いでいる。このままもう少ししたら、轟沈してしまうだろう。
するとここで、デュエルが後腰から新たな武器を取り出した。身の丈程もある金属製の大太刀、C.E.ではグランドスラムと称された対MS用の大型斬機刀だ。
それを正眼で構えるや否や、跳躍。散々撃ち貫かれてズタボロになっていた右舷連結部を、一刀のもとに両断する。ついで更に跳躍、同じく左舷連結部に斬りかかり、ついに中央部の摘出は成った。
そこまでを見届けると、夕立はどこか羨ましそうな声音で、
0094ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:50:30.19ID:20S/q6/K0
「ともかく、これで戦闘はおしまいっぽい。みんなと合流しましょ!」
「Да。・・・・・・Спасибо、師匠」
「・・・・・・うぅ、すっごく背中ムズムズするぅ。やっぱり免許皆伝しようかしら・・・・・・」

私はもっと前に進めるのだ。
そんな確信を得る至った一つの海戦が、甘酸っぱい会話を最後に終わった。



0095通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:51:12.78ID:Qnzp/hGfp
から少女は予測した。
きっとこれから先、身のうちに渦巻く衝動を制御しようと精一杯になると。身体が勝手に動きそうになる度に、木曾の言葉を、夕立の存在を、ここで無理しても何にもならないという現実を思い出して、
心にブレーキを掛けなければと。
悪癖に振り回されるのは、もう懲りたのだ。これからはちゃんと制御しなくちゃいけないと、これまで以上に心を殺して凍らせて、強くあらねばと覚悟した。


「なにも為し得ないまま死に損なった者」の責任として義務として、護れねばと。


でも結果的にそうはならなかった。いっそ呆気ないぐらいに、どこまでも冷静でいられた。

(情けないけど、こんなの初めてだ。理由はなんだろう・・・・・・どこかに取っかかりが、ある筈なんだ)

少女は初めて、その意図とは異なる要因で、己の暴走を制御できていた。
恐怖は紛れもなく本物であったのに。心を殺すまでもなく、己が身に代えてでもと思うまでもなく、受け止められていた。
それがとても、響にとっては不思議だった。いつの間にか心の有り様が、少し変わっている。イヤな気分ではなかった。

「――響ッ! ボーッとしない!!」

突然の叱咤に、思考を中断させる。
気付けば一発の魚雷が目前にまで迫っており、響は慌てて両肩部25mm連装機銃で迎撃した。

「ッ!? ・・・・・・あ、Извините。ちょっと考え事、してた」
「もう。そろそろ免許皆伝してもいいかなって思ってたのに。これじゃあまだまだ卒業には遠いっぽい?」
「え、そうなの?」
「だって実際、戦闘技術で教えられるコトってもう殆どないっぽいし。でも仕方ないから、もうちょっとだけ師匠役を
0096通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:52:03.87ID:Qnzp/hGfp
うな
から少女は予測した。
きっとこれから先、身のうちに渦巻く衝動を制御しようと精一杯になると。身体が勝手に動きそうになる度に、木曾の言葉を、夕立の存在を、ここで無理しても何にもならないという現実を思い出して、
心にブレーキを掛けなければと。
悪癖に振り回されるのは、もう懲りたのだ。これからはちゃんと制御しなくちゃいけないと、これまで以上に心を殺して凍らせて、強くあらねばと覚悟した。


「なにも為し得ないまま死に損なった者」の責任として義務として、護れねばと。


でも結果的にそうはならなかった。いっそ呆気ないぐらいに、どこまでも冷静でいられた。

(情けないけど、こんなの初めてだ。理由はなんだろう・・・・・・どこかに取っかかりが、ある筈なんだ)

少女は初めて、その意図とは異なる要因で、己の暴走を制御できていた。
恐怖は紛れもなく本物であったのに。心を殺すまでもなく、己が身に代えてでもと思うまでもなく、受け止められていた。
それがとても、響にとっては不思議だった。いつの間にか心の有り様が、少し変わっている。イヤな気分ではなかった。

「――響ッ! ボーッとしない!!」

突然の叱咤に、思考を中断させる。
気付けば一発の魚雷が目前にまで迫っており、響は慌てて両肩部25mm連装機銃で迎撃した。

「ッ!? ・・・・・・あ、Извините。ちょっと考え事、してた」
「もう。そろそろ免許皆伝してもいいかなって思ってたのに。これじゃあまだまだ卒業には遠いっぽい?」
「え、そうなの?」
「だって実際、戦闘技術で教えられるコトってもう殆どないっぽいし。でも仕方ないから、もうちょっとだけ師匠役を
0097通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:52:28.87ID:Qnzp/hGfp
おのれ吉崎
から少女は予測した。
きっとこれから先、身のうちに渦巻く衝動を制御しようと精一杯になると。身体が勝手に動きそうになる度に、木曾の言葉を、夕立の存在を、ここで無理しても何にもならないという現実を思い出して、
心にブレーキを掛けなければと。
悪癖に振り回されるのは、もう懲りたのだ。これからはちゃんと制御しなくちゃいけないと、これまで以上に心を殺して凍らせて、強くあらねばと覚悟した。


「なにも為し得ないまま死に損なった者」の責任として義務として、護れねばと。


でも結果的にそうはならなかった。いっそ呆気ないぐらいに、どこまでも冷静でいられた。

(情けないけど、こんなの初めてだ。理由はなんだろう・・・・・・どこかに取っかかりが、ある筈なんだ)

少女は初めて、その意図とは異なる要因で、己の暴走を制御できていた。
恐怖は紛れもなく本物であったのに。心を殺すまでもなく、己が身に代えてでもと思うまでもなく、受け止められていた。
それがとても、響にとっては不思議だった。いつの間にか心の有り様が、少し変わっている。イヤな気分ではなかった。

「――響ッ! ボーッとしない!!」

突然の叱咤に、思考を中断させる。
気付けば一発の魚雷が目前にまで迫っており、響は慌てて両肩部25mm連装機銃で迎撃した。

「ッ!? ・・・・・・あ、Извините。ちょっと考え事、してた」
「もう。そろそろ免許皆伝してもいいかなって思ってたのに。これじゃあまだまだ卒業には遠いっぽい?」
「え、そうなの?」
「だって実際、戦闘技術で教えられるコトってもう殆どないっぽいし。でも仕方ないから、もうちょっとだけ師匠役を
0098ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:53:11.93ID:20S/q6/K0
その後の顛末は、以下のようになる。

「おうキラこの野郎、ヒヤヒヤさせやがって。だいぶ肝を冷やしたぞ」
<ごめん。ちょっと調整に手間取っちゃって・・・・・・>
「まぁまぁ木曾。結果オーライだったのだから良いじゃないですか。おかげで榛名達はこうして無事なわけですし」
「うむぅ・・・・・・」
「そっれにしても、これまたゴツい機体だねぇ。デュエルだっけ? 鈴谷、あのストライクってのより好みかも」

ナスカ級は木曾の目論見通りスラスターブロックを盾にした結果、辛うじて無事に中央部のみの曳航に成功した。
あのまま諦めていたら完全に任務失敗だったのだから、ひとまずの妥協点であった。争奪戦としては所謂「勝負に負けて試合に勝った」といったところか。
今後、バラバラになって沈んだ両弦スラスターブロック――呉にて天津風とシンが目撃したものの正体はこれだ――は、敵潜水級にコッソリとサルベージされてしまうだろうが、致し方のないことだ。
【軽巡棲姫】が見抜いていた通り、人類側には敵陣内で大型艦をサルベージできる程の余裕も技術もないのだ。
暫くは経過を見る必要があるだろう。

<とりあえず持てるだけ持っとこうって・・・・・・役立ったのなら良かった>
「ライフルに大剣にキャノンにミサイルポッドにバズーカ砲、そしてゴッテゴテな追加装甲! うぅ〜ん、ロマンだねぇ! ねぇねぇキラっち、あれってもしかしてレールガンだったりする!?」
<うん、まぁ・・・・・・>
「鈴谷も割と重武装フェチよねぇ。私としてはストライクのが好きかなぁ」
「Мне тоже。・・・・・・ところでキラ、そろそろ顔を見せてくれてもいいんじゃないか。直接話せないのはなんか、変な感じだよ」

戦艦レ級率いる空母機動部隊は撤退した。
中枢戦力に多大な損害を負った敵艦隊は、作戦の失敗を悟るや早々と南方へと引き上げた。当然金剛達は追撃しようとしたが、
再度出現した大型輸送機・ヴァルファウに乗り込まれては手も足も出なかった。あの輸送機の対策を本気で考える必要がある。
0099通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:53:53.98ID:Qnzp/hGfp
「ともかく、これで戦闘はおしまいっぽい。みんなと合流しましょ!」
「Да。・・・・・・Спасибо、師匠」
「・・・・・・うぅ、すっごく背中ムズムズするぅ。やっぱり免許皆伝しようかしら・・・・・・」

私はもっと前に進めるのだ。
そんな確信を得る至った一つの海戦が、甘酸っぱい会話を最後に終わった。

「――響ッ! ボーッとしない!!」

突然の叱咤に、思考を中断させる。
気付けば一発の魚雷が目前にまで迫っており、響は慌てて両肩部25mm連装機銃で迎撃した。

「ッ!? ・・・・・・あ、Извините。ちょっと考え事、してた」
「もう。そろそろ免許皆伝してもいいかなって思ってたのに。これじゃあまだまだ卒業には遠いっぽい?」
「え、そうなの?」
「だって実際、戦闘技術で教えられるコトってもう殆どないっぽいし。でも仕方ないから、もうちょっとだけ師匠役を
0100通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:55:01.42ID:Qnzp/hGfp
その後の顛末は、以下のようになる。

「おうキラこの野郎、ヒヤヒヤさせやがって。だいぶ肝を冷やしたぞ」
<ごめん。ちょっと調整に手間取っちゃって・・・・・・>
「まぁまぁ木曾。結果オーライだったのだから良いじゃないですか。おかげで榛名達はこうして無事なわけですし」
「うむぅ・・・・・・」
「そっれにしても、これまたゴツい機体だねぇ。デュエルだっけ? 鈴谷、あのストライクってのより好みかも」

ナスカ級は木曾の目論見通りスラスターブロックを盾にした結果、辛うじて無事に中央部のみの曳航に成功した。
あのまま諦めていたら完全に任務失敗だったのだから、ひとまずの妥協点であった。争奪戦としては所謂「勝負に負けて試合に勝った」といったところか。
今後、バラバラになって沈んだ両弦スラスターブロック――呉にて天津風とシンが目撃したものの正体はこれだ――は、敵潜水級にコッソリとサルベージされてしまうだろうが、致し方のないことだ。
【軽巡棲姫】が見抜いていた通り、人類側には敵陣内で大型艦をサルベージできる程の余裕も技術もないのだ。
暫くは経過を見る必要があるだろう。

<とりあえず持てるだけ持っとこうって・・・・・・役立ったのなら良かった>
「ライフルに大剣にキャノンにミサイルポッドにバズーカ砲、そしてゴッテゴテな追加装甲! うぅ〜ん、ロマンだねぇ! ねぇねぇキラっち、あれってもしかしてレールガンだったりする!?」
<うん、まぁ・・・・・・>
「鈴谷も割と重武装フェチよねぇ。私としてはストライクのが好きかなぁ」
「Мне тоже。・・・・・・ところでキラ、そろそろ顔を見せてくれてもいいんじゃないか。直接話せないのはなんか、変な感じだよ」

戦艦レ級率いる空母機動部隊は撤退した。
中枢戦力に多大な損害を負った敵艦隊は、作戦の失敗を悟るや早々と南方へと引き上げた。当然金剛達は追撃しようとしたが、
再度出現した大型輸送機・ヴァルファウに乗り込まれては手も足も出なかった。あの輸送機の対策を本気で考える必要がある。
0101通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:56:10.97ID:Qnzp/hGfp
から少女は予測した。
きっとこれから先、身のうちに渦巻く衝動を制御しようと精一杯になると。身体が勝手に動きそうになる度に、木曾の言葉を、夕立の存在を、ここで無理しても何にもならないという現実を思い出して、
心にブレーキを掛けなければと。
悪癖に振り回されるのは、もう懲りたのだ。これからはちゃんと制御しなくちゃいけないと、これまで以上に心を殺して凍らせて、強くあらねばと覚悟した。


「なにも為し得ないまま死に損なった者」の責任として義務として、護れねばと。


でも結果的にそうはならなかった。いっそ呆気ないぐらいに、どこまでも冷静でいられた。

(情けないけど、こんなの初めてだ。理由はなんだろう・・・・・・どこかに取っかかりが、ある筈なんだ)

少女は初めて、その意図とは異なる要因で、己の暴走を制御できていた。
恐怖は紛れもなく本物であったのに。心を殺すまでもなく、己が身に代えてでもと思うまでもなく、受け止められていた。
それがとても、響にとっては不思議だった。いつの間にか心の有り様が、少し変わっている。イヤな気分ではなかった。

「――響ッ! ボーッとしない!!」

突然の叱咤に、思考を中断させる。
気付けば一発の魚雷が目前にまで迫っており、響は慌てて両肩部25mm連装機銃で迎撃した。

「ッ!? ・・・・・・あ、Извините。ちょっと考え事、してた」
「もう。そろそろ免許皆伝してもいいかなって思ってたのに。これじゃあまだまだ卒業には遠いっぽい?」
「え、そうなの?」
「だって実際、戦闘技術で教えられるコトってもう殆どないっぽいし。でも仕方ないから、もうちょっとだけ師匠役を
0102ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:56:37.38ID:20S/q6/K0
また、【軽巡棲姫】は最後まで現れなかった。あの魚雷群が彼女の仕業だとすると、やはり深海棲艦は戦力の消耗を嫌っている線が強い。輸送機の対策も含め、此方が付け入る隙になりそうだと、艦娘達は話し合った。
ともあれ、全員無事に一つの試練を乗り越えることができた。大局的に見れば引き分けに近い結果だったが確かな収穫も幾つかあり、特にキラの戦線復帰は喜ばしいことだった。
入手できた多数のモビルスーツのパーツにより、明石の艤装強化計画も大きく前進することだろう。

<・・・・・・あー、それなんだけどね・・・・・・>
「?」

そして今現在。夜の帳が落ちつつある17時30分。
中破したナスカ級を曳航する【いぶき丸】の先導を任された【榛名組】は、ホバー移動で海上を征く【GAT-X102 デュエル・アサルトシュラウド装備型】を伴って、真っ直ぐに北へ航行していた。

<なんか一体化できないんだよね。コレ、普通のモビルスーツみたいだ>

目指すは【金剛組】当初の目的地であった、福江島最南端の前線基地。
彼女らは暫く、そこを拠点として活動することになりそうだった。
0103通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:58:08.81ID:Qnzp/hGfp
そしてジャンプ!トンネルに突入した旧ザクは、そのまま上昇を続け、上を目指す。
しかし徐々に重力によって勢いをそがれ、ついには徐行のレベルまで上昇スピードが落ちる。
と、その時、重力が反転、一転してザクは加速度的に上昇スピードを速める、
外側の重力圏を超えたんだ、これで後は楽に・・・
「あ、大変!」
重力が反転したということは、今までの上昇から落下に変わったということ。しかもザクは下に向いて
加速を続けている、このまま行けば地面に激突してこっぱみじんだ。
あわててザクを制御し、反転させてバーニアを噴射。スピードを殺して着地姿勢を取る、間に合うか・・・?
落下のスピードがザクの耐久性の範疇に収まったのと、ザクが地上に着地したのはほぼ同時だった。
ちなみにコロニーが回転していないせいで、こちら側は弱重力になっている、もし通常の重力なら
ザクの減速は間に合わず、セリカとともに木っ端みじんになっていただろう。

 エレベーターのドアをこじ開けて外に出る旧ザク。内側のターミナルを抜け、アイランド・イフィッシュの
街を闊歩する。それに寄り添うように無数の魂が集まってくる。聞こえるのはジオンの破壊兵器に対する
非難、憎悪、嘆きの声。
セリカの家の前まで歩き、ハッチを開け、丸1日ぶりにコックピットから降りるセリカ。
周囲の霊たちの、驚いた様子も意に介さず家に入り、歩みを進める。
居間に到着し、父と母の遺体の間に置かれた日記帳をそっと手に取り、抱きしめる。
「トオル、ごめん、私もうダメだよ。せめて、幸せになってね・・・」
セリカは泣いた。涙を流し、彼との思い出を邂逅する。
初対面、赤ずきんの朗読、二人三脚、空港でのばったり再会、そしてプロポーズ・・・
0104通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 21:58:54.99ID:Qnzp/hGfp
その後の顛末は、以下のようになる。

「おうキラこの野郎、ヒヤヒヤさせやがって。だいぶ肝を冷やしたぞ」
<ごめん。ちょっと調整に手間取っちゃって・・・・・・>
「まぁまぁ木曾。結果オーライだったのだから良いじゃないですか。おかげで榛名達はこうして無事なわけですし」
「うむぅ・・・・・・」
「そっれにしても、これまたゴツい機体だねぇ。デュエルだっけ? 鈴谷、あのストライクってのより好みかも」

ナスカ級は木曾の目論見通りスラスターブロックを盾にした結果、辛うじて無事に中央部のみの曳航に成功した。
あのまま諦めていたら完全に任務失敗だったのだから、ひとまずの妥協点であった。争奪戦としては所謂「勝負に負けて試合に勝った」といったところか。
今後、バラバラになって沈んだ両弦スラスターブロック――呉にて天津風とシンが目撃したものの正体はこれだ――は、敵潜水級にコッソリとサルベージされてしまうだろうが、致し方のないことだ。
【軽巡棲姫】が見抜いていた通り、人類側には敵陣内で大型艦をサルベージできる程の余裕も技術もないのだ。
暫くは経過を見る必要があるだろう。

<とりあえず持てるだけ持っとこうって・・・・・・役立ったのなら良かった>
「ライフルに大剣にキャノンにミサイルポッドにバズーカ砲、そしてゴッテゴテな追加装甲! うぅ〜ん、ロマンだねぇ! ねぇねぇキラっち、あれってもしかしてレールガンだったりする!?」
<うん、まぁ・・・・・・>
「鈴谷も割と重武装フェチよねぇ。私としてはストライクのが好きかなぁ」
「Мне тоже。・・・・・・ところでキラ、そろそろ顔を見せてくれてもいいんじゃないか。直接話せないのはなんか、変な感じだよ」

戦艦レ級率いる空母機動部隊は撤退した。
中枢戦力に多大な損害を負った敵艦隊は、作戦の失敗を悟るや早々と南方へと引き上げた。当然金剛達は追撃しようとしたが、
再度出現した大型輸送機・ヴァルファウに乗り込まれては手も足も出なかった。あの輸送機の対策を本気で考える必要がある。
0106通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/30(木) 22:09:30.56ID:Qnzp/hGfp
>>105
引退宣言とかお前勘違いしすぎだろ
0107三流(ry (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/08/30(木) 23:00:00.32ID:3iqYwAgX0
>>ミート ◆ylCNb/NVSEさん
おおおお久しぶりです待ってましたよ!
酷い荒れ方をしてるスレですが、NG設定など有効に使っていきましょう。
大量の酸素魚雷と聞いて「ジャンプだ、爆風でジャンプしてかわすんだナスカ!」
と思った私はか〇くちか〇じ作品も好きですw
0108ミート ◆ylCNb/NVSE (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/08/30(木) 23:46:17.50ID:20S/q6/K0
>>107
おぉう、待っていてくださったとは嬉しいです。お待たせしてすいませんでした。
冒頭に書いた通り時間があまりとれないものでして・・・・・・

趣味の違いと言いますか、氏の好きなものの殆どは自分にとって未視聴・知識無しなモノばかりなようでなんとも申し訳ないのですが、なんとか面白いものをお届けできているようなら幸いです。
0109三流(ry (ワッチョイW 5b8a-lgHW)
垢版 |
2018/08/31(金) 00:10:23.65ID:+4f1ZeNV0
>>108
荒らしてるのは種のアンチです
0110三流(ry (ワッチョイ 5b5f-JeRa) (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/31(金) 00:12:30.58ID:l9t4vg3Dp
>>108
荒らしてるのは種のアンチです
0111通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/31(金) 00:15:08.01ID:l9t4vg3Dp
>>105
インターバルではなく引退バルですよね
唐突な引退宣言、◯◯バルという変な語尾はやめた方がいいかと
0112三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/08/31(金) 01:56:01.58ID:yTzVWB5F0
>>109->>110は私じゃないですよー
やれやれ、ついにトリップ付けるハメになるか・・・
それでは16話です。

1年戦争外伝、−HAPPY WEDDING−
第16話 幸せなウエディング、永遠のエンディング

愛しい人のぬくもりを感じる、あの人に抱きしめられ、腕の中で−
大好きなアイツの呼吸が聞こえる、その胸の中で、心臓の鼓動も− 

「「・・・あれ?」」
 顔を上げ、お互いの顔を見合わせる。目の前にいる、会いたいと思ってやまなかった人。
確かにお互い抱きしめ合った、それはいい。けれど、なんで二人とも無事?

 接触の際の衝撃は、少なくとも交通事故の比ではないくらいの勢いがあったはずだ。
二人の体は少なくとも全身骨折、普通に肉体破裂していてもおかしくはない、
しかしトオルは、セリカは、ケガどころか痛みさえ感じはしない。
それともう一つ、音が消えている、強烈なコロニーの落下する音が。
それでいて数瞬立っても落下音も爆発の爆風も来ない。よかったけど、なんで?

 抱き合ったまま周囲を見渡す二人、シドニーの街並みも健在、そして眼下のコロニーは
何故かその動きを止め静止している、空中に、斜め落下の姿勢のままで。
コロニーから剥がれ落ちた破片も、乱気中が巻き上げたホコリも、みんな空中で止まっている
まるで時間が静止でもしたかのように・・・

 二人はそのまま、ゆっくりと落下していく、足下のコロニーに向かって。
「これって・・・夢?」
「さ、さぁ・・・」

 セリカは思う。これが夢なんだとしたら、いったいどこからが夢だったのだろう。
抱き合った瞬間?それともコロニーに毒ガスが撒かれた時からずっと夢?

 トオルは思う。これって、ひょっとしてセリカの仕業?だとしたら
もはやニュータイプとか超能力者どころか、ホントに神か魔物の域だなこりゃ。

 そして、二人は抱き合ってお互いの顔を見合わせたまま、ゆっくりと着地する。
斜めの地面、アイランド・イフィッシュの上に。
0113三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/08/31(金) 01:56:41.94ID:yTzVWB5F0
 その瞬間だった、強烈な地鳴りがシドニー全土に響き渡る。はっ!とする二人、
ついに来てしまったのか、ともう一度ぎゅっ!と抱き合う。
しかし来たのは爆風では無かった、歓声だ、歓喜の声だ。車のクラクションや爆竹、
クラッカー、拍手、そんな音が混然となり、2000m下のシドニーの街から響き上がってくる。
「イーーーヤッホゥーーーッ!!!」
「おっしゃあああああああっ!」
「やった、やった、やったーーーっ!」
「ブーラボーーーー!!」
「ナースキャッチィー!」
「イィエェアァァァァァッ!!」
「ピーピーピーピーーーーッ!」
 歓喜の声が、音が、遥か下の街から届けられる。
遠目にも分かる、シドニーの民衆が、街全体が、お祭り騒ぎになっていることが。
まるでフットボールの世界大会で優勝した瞬間のような、爆発的な歓喜の渦。

 次に足元に振動、そしてコロニーの裂け目から、非常用の出入り口から、
遠くの宇宙港ターミナルから、次々と人が溢れ出す、やはり歓喜の声を上げながら。
飛び跳ね、猛り、二人のもとへ駆けてくる大勢のアイランド・イフィッシュの人々、
あっというまに二人は大勢に取り囲まれ、手洗い祝福を受ける。
「やったじゃねぇか、このヤロウ!」
スティーブがトオルにヘッドロックをかける、他のセリカファンクラブの連中が
容赦なくトオルを小突き回す。その中に何故かセリカの母、アーチェスが混じっているのを見て
思わず吹き出すセリカ。その肩にそっと手を置く父、リャン。
「パパ・・・」
「よくやったな、お前は私の誇りの娘だ。」
涙が滲む。トオルに会えただけでも奇跡なのに、それをみんなに祝福される瞬間まであるなんて、
もうこれが夢でも何でもいい、この時間を経験できただけで十分だ。笑顔のままはらはらと涙する。
0114三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/08/31(金) 01:57:13.01ID:yTzVWB5F0
「おーい、、トオルーーーっ!」
「俺たちも混ぜろって!」
知った声を聴き、小突き回してた連中を振りほどいて斜め下、コロニーの下部を見る。
コロニーの先端のスリバチ状の部分が、ちょうどクラウド・カッティングの頂上、
神父が割った壁ガラス部に接触するかしないかの所で止まっている。そこからコロニーに乗り移り
駆けてくるキム、チャン、そしてミア、他ホテルの従業員たち。
「おーい、こっちもいるぜーっ!」
大声が横から聞こえる。そこには1台のワッパ、さっきトオルにワッパを貸してくれた
運送屋のオッチャンが乗っている。そのオッチャンの後ろに乗っているのは・・・
「父さん、母さん・・・」
父、カクと母、ユリコ。三人を乗せたワッパは人ごみをかき分け、トオルの横で着地する。
降りる両親に正対するトオル。笑顔の父とは対照的に、母はハンカチを目に当てて耐えている。
「やったわね、生意気にも立派になって、もう・・・」
それだけ言うと母は嗚咽を漏らす、そっと母の肩に手をやるトオル。

 その時、周囲にスピーカーのハウリング音がヒィーーーン、と響き渡る。
斜め下からだ。クラウド・カッティングの頂上から神父さんが顔を出している、
手にハンドスピーカーを持って。
彼はおだやかな顔で、そして賛美歌を歌うような大きな声でこう宣言する。

『これより、神に祝福されし二人、トオル・ランドウ!セリカ、ナーレッド!
両名の婚礼の儀を執り行います!』

「うおおおおおおおっ!!」
「神父さんかっけぇぇぇ!」
「やろうやろう!」
「ヒャッホーっ!」
一斉に起こるバカ騒ぎ、数秒遅れてまた地鳴り。神父の粋な提案は、眼下のシドニーにも
しっかり届いたようだ。
 狂喜乱舞、拍手喝采の中、トオルとセリカは向き合い、見つめ合う、二人の思いは一つ。

−この人を、好きになって、よかった−
0115三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/08/31(金) 01:57:39.04ID:yTzVWB5F0
 祝福の鐘の音が、群青の空に高らかに鳴り響く。幸せな結婚式が今、幕を開ける。

 トオルはクラウド・カッティングの窓際、神父が叩き割ったガラスの前に立つ。
身を包むタキシード、チャペルの入り口に展示してあった物を拝借しただけに、少々窮屈ではあるが。
窓から空を、コロニーを見上げて新婦を待つ。
 神父が聖書を広げ、神に報告する。今日、ふたつの魂が一つの結晶となる、その幸を報告する、
晴れやかな顔の神父が。
見守る大勢の人々、シドニーの都市に暮らしていた人々、アイランド・イフィッシュというコロニーで
暮らしていた人たち、アースノイドとスペースノイド、その隔たりはこの空間には無用だった。
塔のエレベーターは何往復もして、下の人々を可能な限りこの高度へと運んでいた。
教会の中にも、コロニーの上にも、大勢のシドニー市民とアイランド・イフィッシュ市民が
混然とごったがえしていた。

 その最中心から、ひとりの少女が歩いてくる。純白のドレスを身にまとった、金緑色の髪の少女、
その美しさに気圧されるかのように、人々は道を開ける。この美少女の前に立つ資格者はただ一人。
みんなそれを知っていたから。

 セリカはコロニーの先端付近に立つ、父リャンに手を預けて。傍らには大泣きしている母アーチェス。
やがて父は娘の手を引き、ゆっくりと先端まで歩いてくる。そして淵に立つと、さぁ、と
セリカを促す。セリカは父に向き直り、一言。
「今まで、ありがとう。パパ、ママ。」
ひとすじの涙をひらめかせ、セリカは前を向く。自分が行くべき場所、飛び込むべき人に。

 トオルはその時を待つ。優しさと愛しさと、そして悲しさをたたえた瞳で。
何よりも、今この瞬間に自分がここにいる、彼女がそこにいる幸せをかみしめて。
0116三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/08/31(金) 02:01:13.10ID:yTzVWB5F0
「トオルっ!」
ウエディングドレスをなびかせ、セリカは飛ぶ。コロニーの先端の淵と教会のガラス枠は
ほんの1メートル足らずで止まっている、セリカならドレス付きでも余裕で飛び越せる距離。
それを抱きとめるトオル。ドレスに顔を埋め、そのまま下ろす。
見つめ合い、神父に促されて一歩ずつ距離を取る両者。

「汝、トオル・ランドウ。この者を伴侶となし、今の一瞬の思いを永遠の事とすることを誓うか?」
神父の問いかけに、トオルは力強く答える。
「はい!」
「汝、セリカ・ナーレッド。かの者の伴侶として、共に一瞬の永遠を歩むことを誓うか?」
神父の言葉に柔らかく答えるセリカ。
「はい。」

「偉大なる神よ、両名が今の一瞬の幸福を、永遠の誓いとする時をご覧あれ。」
神父が二人に誓いの口づけを進める言葉を述べる。と、その時!

「・・・え?」
「あ・・・!」
 紙吹雪、二人の周囲にひらひらと舞う。一斉にざわつく周囲。誰だこんな肝心な時に・・・?
トオルが、セリカが同時に気付く。これは紙吹雪じゃない。そもそもそんな小さな大きさじゃない。
A5判サイズの紙切れが、二人の真上から雪のように舞い降りてくる。
そこに記されているのは、二人の思い、そして思い出。

「「交換日記!」」
そういえばワッパの荷物カゴに放り込んだままだった。
そういえばザクのコックピットでヒザに乗せてたっけ。

 しばし降りしきるそれに見入るトオル、そしてセリカ。
遠距離恋愛のハイスクール時代、そしてそれに綴られた思い出は、ジュニアハイスクール時代の告白
そしてプライマリー時代の勝負へと記憶を邂逅させる。
二人の時間が遡る。記憶と、そして肉体も。思い出を辿るたびに二人の見た目が見る見る
幼くなっていく。
 トオルが向き直り、セリカのブーケを広げる時には、すっかりプライマリー時代の少年少女に
なっている・・・ように見えた。
0117三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/08/31(金) 02:02:44.08ID:yTzVWB5F0
少年の頃に戻ったトオル、顔を赤らめ、凛々しさと優しさをたたえた黒い瞳で、少女を見つめる
神秘的な、金緑の髪と琥珀色の瞳を持つ、まるで森の妖精のような少女が、トオルにその身を委ねる

−そして二人は唇を重ねる、10歳の少年少女の姿のままで−

 誰もが笑顔だった。まるで神話の天使のような光景、ぶかぶかのタキシードを纏った凛々しい少年と
今にもずり落ちそうなウエディングドレスを纏った神秘的な少女のキス。
顔を綻ばせるなというのが無理な注文だ。

 やがて誰かの拍手が起こり、そして間を置かず大喝采に代わる。
二人が振り向いた時、すでに年齢相応の体格に戻っていた。それが幻覚なのか錯覚なのか怪奇現象なのか
問題にするものは誰もいなかった。

「二人の一瞬に永遠の幸あらんことを。」
祝福の鐘が高らかに鳴り響く。父も、母も、友人たちも、知り合いの人々も、名も知らぬ同郷の人も
皆、この幸せを心から祝福する。

 そんな中、ミアが花束を持って近づいてくる、セリカの前で止まり、言う。
「さ、幸せのおすそ分けタイムよ。」
言ってセリカにブーケを渡す。セリカが投げるこのブーケを受け取った女性には、次の幸せが約束される。
「あ、ちょっと待て!指輪の交換は?」
口をはさんだのはスティーブだ。そういやそれの用意がすっかり抜けていた。
う〜ん、と思案する一同。やがて、ぽんっ!と手を打ったチャンが、手ぬぐいをポケットから出し
二人のもとに駆け寄って足元にしゃがみ、手ぬぐいで二人の片足をくくりつける。
「こいつらにゃコレがお似合いだろ!」
二人三脚、二人の最後の勝負の種目であり、共に人生を歩む比喩に使われる言葉。
0118三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/08/31(金) 02:03:29.67ID:yTzVWB5F0
二人は顔を見合わせ、思わず苦笑いする。
「んじゃ、走ろっか。」
「ああ!」
周囲かがどよめく。走る?タキシードはまだしも、ドレスで?
「「よーい、どんっ!」」
合図とともに駆け出す二人。教会からコロニーに飛び移り、先端部分を駆け上がって大ジャンプ、
まるで重力が無いかのように何十メートルも飛び上がり、コロニー本体に着地する。
そのまま観客をモーゼのように分断して、飛ぶようにコロニーを駆け上がっていく、二人三脚で。

 その二人の動きが現実味のないことも、そして斜めに立つ円筒状のコロニーで道を開ける人々が、
誰一人バランスすら崩さないことも、誰もが知り、誰もが気にとめないでいた。
これが夢か現か、死後の世界か臨死の世界か、そんなことは今更どうでもいい。
そんなことより、さぁ、いよいよフィナーレだ!

 コロニーの最上部、分断されたコロニーの割れ目の角に立つ、黒い服と白いドレス。
セリカはトオルに向き直ると、満面の笑顔で両手を広げ、トオルに差し出す。
トオルは意図を察し、かがむと足元の手ぬぐいをほどき、そのままセリカをお姫様だっこして
立ち上がる。
 足元にはアイランド・イフィッシュ、眼下にはシドニー。二人が暮らし、愛した街が同時に映る。

「それーっ!」
ブーケを放り投げるセリカ。遥か天空に舞い上がったところで結びがほどけ、花束はばらばらに分かれ
その花びらが舞い散り、やがてそのひとつひとつが観客たちの少女の手のひらに飛んでくる。
ミアも、ユリも、エミーも、ショーンも皆、その花びらを受け取る。
コロニーの上で、シドニーの街並みで。幸せがこの空間全体に等しく広がっていく。
花びらと、今だ降り続ける交換日記の紙吹雪とともに。
 そんな中、一輪の蒼いバラの花だけが、散ることなく舞い上がっていく。高く、はるかくへ。

 −シドニーとアイランド・イフィッシュで遠距離恋愛するカップルは、こうして結ばれた−



宇宙世紀0079、1月10日PM12:03分。ひとつのコロニーと、ひとつの都市が消滅した。
そこに住む全ての住人と共に、数多くの悲劇の「合図」として。
0119三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/08/31(金) 02:07:51.00ID:yTzVWB5F0
16話でしたー、いよいよラスト2話です。
といっても次回が最終回でその次はエピローグなわけですがw


>>73
感想どもです。
神父さんの言った通り「この一瞬の幸せ」は「永遠の幸せ」へとなりました。

>>108
こちらこそです。
知っているからこそ楽しめるものもありますが、知らないからこそ楽しめるものもあります
少なくとも私は楽しんで読んでますよ。
0121通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/31(金) 08:56:32.56ID:/XtxB+GNp
>>111
お前がサッサと人生から引退しろよ
出来損ないのガイジが
0122通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/31(金) 09:00:39.84ID:/XtxB+GNp
>>110
人の名前語らなきゃ何も出来ない出来損ないのガイジがサッサと消えろ
0123通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/31(金) 09:28:20.32ID:scNmqgRXp
ここなら誰にも反論されずにいきれると思ったのにちきしょう
0124通常の名無しさんの3倍 (ササクッテロル Spf1-lgHW)
垢版 |
2018/08/31(金) 09:29:44.38ID:scNmqgRXp
自由が衝撃に落とされたのはマリューの策やろ
A A共々健在してる限り議長の追撃は終わらない
けどわざと撃墜されたふりすればやりすごせる
クマに対して行う死んだふりと同じ
0125通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 2324-lgHW)
垢版 |
2018/08/31(金) 15:47:27.97ID:qwuKIzv50
>>123
ガイジはキモい
0126通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ebf3-jOYE)
垢版 |
2018/08/31(金) 18:58:58.85ID:buzeWZzl0
三流(ry氏、ミート氏共に乙です
HAPPY WEDDING、二人の物語はついに『ハッピーエンド』となりましたか
でもその実態は1年戦争という一連の悲劇の中でも特筆すべき悲劇…
プロローグのシャリア・ブルはそれを薄々勘付いてたからあんな反応をしたんでしょうなあ

一方艦これ、酸素魚雷が318発とは旧ソ連軍のミサイル飽和攻撃を思わせる凄まじさ
結果は思い切った作戦とデュエルの登場で何とかなりましたが、スラスターブロックを放棄したことが後々響いてきそうな気が…
あと蛇足ながら内心で「クラインフィールド持ったあの子達がいればなあ」と思ってしまった(まさしく無い物ねだりだ)
0129三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/01(土) 23:53:36.55ID:ueLsrxEp0
>>126
ずっと感想を頂いてるだけあってさすがに鋭い、
今回はその人、プロローグ以来の登場です。
それでは、最終回。


1年戦争外伝、−HAPPY WEDDING−
最終話 幸せの資格

 −私、シャリア・ブルは、知っている。この光景−

 幸せな結婚式。黒髪の少年と金緑色の少女の約束の日。
そう、いつか見た光景。あれは確かもうずっと前、木星からの帰路の中、夢で見た光景。
だが、今回は夢ではない、私はなぜか見知らぬこの二人の結婚式の参列者として、末席にいた。
そして、いくつかの事が、夢とは違っていた。

神父や観客にも顔があること。
ここが緑の平原ではなく、何故か斜めに切り立った建造物の外壁であること。
そして、何よりの違い。あのとき感じたおぞましさや恐怖は全くないこと、
純粋に幸せな、見る者全てがほほえましくなる光景。
代わりに感じるのは虚無感、喪失感、そして焦燥。幸せな光景の中、自分ひとりが
取り残されているかのような、切なさ。

「ん?」
ふと横を見る。この場に相応しくない感情をそこから感じたから。
そこには一人の青年がいた、その人物を見て私は驚愕する。
ジオン軍将校の制服に、奇麗に整えられた薄紫色の髪型、そして本来のその甘いマスクを
涙でくしゃくしゃに歪めて−
 ジオンにあって、その人を知らぬものはいない。ザビ家末弟、ガルマ・ザビ!
自ら地球攻略の指揮に立ち、名誉の戦士を遂げた若き英雄。死後も国家の範たる存在として
多くの国民に悼まれてきた若者。
その彼が涙にくれ、自責と後悔の念に駆られ、自らを責める。

「・・・ごめんイセリナ、僕は、こんな当たり前の幸せさえ、君に与えることが・・・もう・・・」
そう言ってヒザを付き、地に手を付く、嗚咽を漏らして下を向く、まるで土下座のように。
 その瞬間、彼はまるでCGの処理のように体を薄め、やがて消えていく。これは一体?
0130三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/01(土) 23:54:40.44ID:ueLsrxEp0
   ――――――――――

 ガウのコックピットで、ガルマは自らの身を炎で焼き、破壊される部屋に体を潰されながら思う。
あれ?なんで自分は、こんなに悲しい思いをしているんだろうか。
長年の親友に騙され、敵である木馬の砲撃にさらされて、せめて一矢報いようと体当たりを仕掛け
それもかなわず散る寸前、僕が思ったのは、ザビ家の一員としての誇りを示すことだったはず。
ジオン公国に栄光あれ!と叫び、自らの矜持と誇りの中で死んで行けるハズだったのに、
今の自分は女々しく泣き崩れ、悲しみの中で最後を迎えようとしている、どうして・・・
 彼の脳裏に、彼の愛する女性が浮かんだのと、ガウが爆発に包まれるのはほぼ同時だった。

   ――――――――――

 別の方向、またシャリアは、その場にそぐわない表情をした、別のジオンの軍人を見つける。
背は低いが強靭そうな肉体と、それに相応の武骨な表情を、結婚式から体ごと背けて。
「ワシには・・・眩しすぎる、この光景は。」
直視できないと言った表情で下を向く。そこには百戦錬磨のゲリラ屋の力強さは無く、
ただ残された者への後悔の念が漂う。
「ハモン、お前も女だ。ならお前もこんな瞬間を迎えたかったんじゃなかったのか・・・
それをワシは、戦争屋だとか、ゲリラ屋だとかいう理由で付き合わせて、お前に甘えていた。」
歯ぎしりを見せ、何かに気付いたようにハッと目を見開いて、続ける。
「ハモンよ、お前はお前の幸せを見つけろ、ワシにこれ以上付き合うな!」
その願いが無駄であることは、誰よりも彼自身がよく知っていた。彼を愛した女を戦争という
薬味にどっぷり漬けてしまったのは、他ならぬ自分自身なのだから。
そして彼もまたフェードアウトする。

   ――――――――――

 胸元に抱えた爆弾の爆発の衝撃と熱を感じながら、ランバ・ラルは思う。
敵の少年兵達にではあるが、戦争の非情さ、掟を示せたことに自分の死にざまを感じていたハズだった。
 しかし今思うのは、常に自分の傍らにいた女性のこと、自分の世界に引っ張り込むだけで
彼女のために、など考えもせず、それでも自分を慕ってくれていた女性のこと。
何故だ、何故ここにきて彼女を思う、それでは納得して死ねないではないかー
 連邦軍モビルスーツ、ガンダムの腕の中、ひとりの戦争屋が自爆した瞬間の、
最後の感情がそれであった。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)
0131三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/01(土) 23:55:40.93ID:ueLsrxEp0
 またいた。涙にくれる人物。今度は新郎新婦とさほど年の変わらない少女、
ピンク色の連邦軍の制服を着た、頬にソバカスの目立つあどけない女の子。
「いいなぁ、私もこんな結婚式、してみたかったなぁ・・・ねぇ、カイ。」
涙をぬぐい、目前の結婚式から目を離さず、続ける。
「ジルやミリーもキチンと正装してさ、きっと可愛いだろうね、カイの友達にも祝福されてさ・・・」
自分と恋人の姿を新郎新婦に重ねる。それがもう叶わない願いだとしても、この瞬間だけでも。

   ――――――――――

 ミハル・ラトキエは落下しながらそんなことを考えていた。確定した死が迫るその時に
彼女が望む光景が何故か、ありありと浮かんできたから。
彼女がいまわの際に見た光景、それは幸せな一生に一度の晴れ舞台、自分には決して来ない時間ー
 あの二人みたいに、というミハルの願いはひとつだけ叶った。水面に激突する彼女は
空中で激突する新郎新婦と同じように、砕け散って物体となった。

   ――――――――――

「そうか、これは罰なのか、我らジオンに対する、彼らのささやかな復讐・・・」
シャリアは悟る。この舞台はブリティッシュ作戦と呼ばれたコロニー落下作戦の瞬間、
そしてこの場にいるのは皆、その犠牲者だと言うことを。
我らジオンの、それに加担するものの恋は決して実らない、という呪い。
彼らに満足する死を与えない、この幸せな光景を見せつけることで、殺された自分たちの矜持と
ジオンのやったことを死の間際に後悔させる、そんな呪詛を具現化した光景だということを。

 さらに周囲を見回す、知った顔、知らない顔が次々と現れ、涙を、苦痛を、後悔の表情を見せては消える。
ドズル・ザビ、シーマ・ガラハウ、バーナード・ワイズマン、エルヴィン・キャデラック、マ・クベ
やがてはデギンやギレン、キシリアといった国家のトップまで・・・
 死の直前に、自分以外の誰かの幸せな光景を見せられる、それはなんと苦痛なことだろう。
自分には来ない未来、届かない夢、取り返しのつかない罪、やり直せない時間、それを思い知らされるから。
 そうか、だからかつて夢で見たとき、あれほどのおぞましさを感じたのか、これが単なる幸せの光景ではなく
我らジオンへの復讐の一環だったから。
0132三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/01(土) 23:56:24.97ID:ueLsrxEp0
「シャリアさんも、そう思います?」
いつのまにか横に少女が浮かんでいた。浅黒い体に金緑色の瞳をたたえ、薄いベージュのワンピースを
ふわりとなびかせる。
知っている娘だ、同じキシリア閣下の部隊、フラナガン機関に現れた天才少女、ララァ・スン。
その圧倒的な才能は、彼をして間違いなく宇宙最高のニュータイプだと認めさせた。
 え!?その彼女がここにいる、ということは・・・

「久しぶりね、ココロ。」
ララァは優しい目で新婦を見つめ、そう語る。
「私も幸せだったわ。でもね、あなたには敵わないかな。私は愛する人と、心を通じ合わせた人がいた。
でもそれは別々の人、お互い敵として戦い、憎しみ合う人。でもあなたはそれが同じ一人の人なのね。」
目を閉じ、祈るような表情を見せ、嘆く。
「羨ましい。そして、ちょっと悔しい、かな。」
それでも笑い、彼女は虚空に浮かんでいく。その存在を希薄にさせ、やがて消える。

「そうか、彼女も死んだのか。」
シャリアは思う。これが戦争だ、いくら才能があっても、運命の歯車が向かなければそうなる。
この眼前の結婚式の出席者全てがそうであるように。
 なら私は?ああ、そうか。戦っていたんだ、ララァにも勝るとも劣らない、連邦軍モビルスーツの
若きパイロットと。
 天涯孤独でよかった、とシャリアは思う。もし思い残すような人物が自分に居たら、私も他の亡霊と同様
後悔のうちに死ぬことになっただろうから。
 私を倒した彼に、さらなるニュータイプの可能性を見たことで、未来に明るい材料を見いだせた。
願わくば、彼がこの結婚式に出席することがないよう祈りたい。彼の心が歪み、このような大量虐殺を
行うような人物にならないことを−
0133三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/01(土) 23:58:35.86ID:ueLsrxEp0
 ガンダムのビームライフルがブラウ・ブロの船体を貫く。炎に包まれるコックピットの中、
シャリア・ブルは恐怖でもなく、覚悟でもない、見知らぬ恋人同士の一時を目にしていた。
 夢から覚めた時、彼の目に映ったのは、モニターに映る女性の顔。同じ機体、ブラウ・ブロに搭乗している
フラナガン機関の研究員、エンジニアリングオフィサーのシムス・アル・バハロフ。
彼女の恐怖と悲しみに包まれた顔だった。
「いかん!脱出を・・・」
彼の最後の言葉はそこで途切れる。戦争、その最中では誰しも「納得できる死」など
迎えられるはずは無かった。ニュータイプでありながら、最後を予知も出来ずに
同乗者の女性を死なせてしまった。何と愚かなことだ。

 船体の爆発に包まれながらシャリアは思う。
−願わくば、再びあの結婚式に招待されるのは御免こうむりたいものだ−


 一年戦争、後の人類の歴史を丸ごと変えてしまった独立戦争。
その悲劇を人類は回避できなかった、どこで間違えなければよかったのか、
ジオンの独立を認めていればよかったのか?
ミノフスキー粒子やモビルスーツが無ければ?
それとも、この幸せな結婚式のような『本当の幸せ』を人類が身に染みて知っていれば・・・?

その答えを、生者の中に知るものは無かった。


最終話でした、わりと原作破壊してます。その批判は甘んじて受けます。
あとエピローグが残ってます。あとがきも書く予定w
0134通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ 23d2-J7KC)
垢版 |
2018/09/03(月) 21:39:42.21ID:huXD2y770
投下乙です。

因果応報というか、死の直前にして見せつけられるダレかの幸せというのは、確かにキッツイ呪いになりますね。
ですが同時に、死の直前に幸せのカタチを見れるというのは、ある意味一つの救いのようにも思えました。最後の最後に己と向き合えるのですから。
エピローグ楽しみにしてます。
0135三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/04(火) 02:35:20.40ID:6xgm6G/H0
>>134
いつも感想ありがとうございます。完全に見切り発車のこの物語が
なんとか完結できるのも見て下さった方々の感想のおかげです、いやマジで。


1年戦争外伝、−HAPPY WEDDING−
エピローグ 歩いていく、未来へ。

「お客さん、そろそろ上空ですぜ!」
後部座席に乗る一組の男女にそう怒鳴る、観光遊覧飛行機のパイロット。
彼は不機嫌だ、せっかくの飛行なのに乗客が二人だけなら不機嫌にもなる。
しかも希望観光コースはよりによってココとは・・・空港から距離もある割に飛ぶ価値も
ロクにない、辛気臭い場所。

 −あれから2年−

 一年前に終戦を迎えた戦争は、地球各地に未だ爪痕を残している。
懸命に復興を成そうとしている人にとって、この地はあまり訪れたくない場所なのかもしれない。
 オーストラリア、シドニー・シティ跡。
まるで戦争の開幕の花火のように、この地で悲劇は起こった。サイド2のコロニーを落下させるという
狂気の作戦により、実に1億人以上が命を落とし、ひとつの都市がそっくり消失した。
今、そこには巨大なクレーターがあり、中には海水が満たされてひとつの湖のような形を成している、
そのクレーターの大きさが、当時の爆発と悲劇のすさまじさを物語っていた。

「ああ、ありがとう。」
そう言って客の男が立ち上がる。そして隣に座る女性から、大き目の花束を受け取る。
「じゃあ言った通り、うしろのハッチを開けてくれ。」
「そりゃいいですけど、落っこちないでくださいよー!ちゃんと安全帯は付けてくださいねー!」
「分かった。」
そう言って花束を小脇に抱え、安全帯をベルトに付ける。反対側のフックを外に通じる手すりにかける。
と、座っていた女性も隣に並び、安全帯を付ける。意外そうな顔の男に、女性は笑顔を向ける。
0136三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/04(火) 02:36:53.98ID:6xgm6G/H0
「いいのか?面白いもんじゃないぞ、ツバサ。」
「うん、いいの。ちゃんと見たいから。だってジャックの故郷なんでしょ?」
「・・・そうか。」
その受け答えが終わると同時に、飛行機の後部がゆっくりと開いていく。この遊覧機はオープンデッキ仕様。
飛びながら機体の後部を開き、まるで船の舳先のように開放した部分に出られるようになっている。
もっとも事故の無いように、手すりに沿って、その手すりには安全帯を掛けるのが義務になってはいるが。

 ジャック・フィリップス。彼が故郷であるこの地と、居場所であるサイド2、アイランド・イフィッシュを
同時に失ってから、ずいぶん色々なことがあった。
軍に志願し、ジオンとの戦争の中、様々な人と出会い、葛藤し、戦い、そして別れていった。
一年戦争を駆け抜けたその先にあったのは、悲劇を思い出にできるだけの強さと、新たな人生の道筋。
そして、自分のそばにいてくれる愛おしい人、隣に寄り添う女性、ツバサ・ミナドリ。

 手すりを伝い、機の最後部に立つ。眼下には巨大なクレーター湖。かつての賑わいも、雲を切り裂く塔も
彼の記憶にしかない。そこに暮らした人たちも・・・
さすがにここに来ると涙腺も緩くなる。いくら目を拭っても、止まることなく涙が滲む。
そんなジャックを見て、ツバサはこう提案する。
「ね、ジャックがここにいたころのお話、聞きたいな。」
0137三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/04(火) 02:37:35.47ID:6xgm6G/H0
「え?あ、ああ。そうだな・・・」
 思い出を吐き出すのは、あるいはジャックにとってはより辛いことかもしれない。
しかし一人で抱え込むより、その痛みも、思い出も、少しでも共有できれば、ツバサのそんな配慮が
今のジャックにはよくわかっていた。
 ジャックは話す。ここで暮らした少年時代、悪友のキムやチャンの話、口うるさい委員長ミアの話、
サイド2にいたメカの師匠、気の合う悪童スティーブやその取り巻き、初恋の女学生の話、そして・・・

「なぁ、プライマ・・・小学校の頃から、今の俺たちよりアツアツなカップルがいた、って信じるか?」
「え?」
きょとんとして目を丸くする。小学生なんてそもそも恋の意味すら知らない年齢だ、そんな頃から
ラブラブなカップルなんてツバサには想像もつかなかった。
「最初に転校してきたのは男の方だったよ、トオルっつってな、お前と同じ日本人で、人を笑わすのが
上手いヤツだった。」
「日本人?へぇ。」
「で、半年後くらいに彼女、セリカが来たんだ。とにかく天才肌でな、負けず嫌いなトオルが
しょっちゅう勝負を挑んでは無残に負けてたよ。」
「ぷっ、何それ〜。」

 シドニーの風に揺られながら、二人の馴れ初めを話すジャック、時に笑い、時に羨ましそうに
顔を赤らめて相ずちを打つツバサ。
二人三脚、3年かけて出発しようとした時のばったり再会、海岸でのプロポーズはジャックが
盗撮、盗聴担当だったこと(笑)、初めて訪れたコロニーの雄大さと、そこでイチャイチャを
見せつけられ、彼女を作ると強く決意したこと。

 ふと、彼に言ったセリフを思い出して、目を細めてつぶやくジャック。
「・・・まったく、結婚式には呼んでくれよな、って言ったじゃねぇか。このままじゃ俺のほうが−」
そう言って、手に持っていた花束をそっ、と虚空に放つ。揺れながら落下していく花束を目で追う。
0138三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/04(火) 02:38:24.51ID:6xgm6G/H0
 −その時だった。眼下に景色が出現した−

 クレーター湖に覆われていた光景が、あの懐かしの大都市に。
その中心にそびえる天高い塔、クラウド、カッティングも健在だ。
そして、その頂上の先から、まるで出来の悪い巨大オブジェのように斜めに立つ建造物、
これは・・・自分が2年暮らしたコロニー、アイランド・イフィッシュ!
しかもその外壁に大勢の人がたむろしているのが見える、懐かしい人たち、懐かしい喧噪。
声が聞こえる、姿が見える。間違いない、キム、チャン、ミア、スティーブ、そして・・・

 その坂道を駆け上がっていく一組のカップル。タキシードに身を包んだ黒髪の少年と、
ウェディングドレスに金緑色の髪が映える少女、ジャックは知っている、その二人を。
シドニー・シティの上空で、アイランド・イフィッシュを、二人三脚で駆け上がっていくそのカップルを!

「ジャック!ひょっとして、あれが・・・?」
「ああ、ああ、ツバサにも見えるのか!あの二人だ、そうだ、あれがトオルとセリカだよ!」
二人の格好も、周囲の祝福も、それが結婚式以外の何物でもないことを物語っていた。
幸せと、祝福と、そして一瞬の輝きに満ちた晴れやかな光景。
「うわぁ・・・ホント仲よさそう。」
ツバサが言う、初見の人が見てもホントにこの二人には『お似合い』という単語しか出てこない。
凸と凹がぴったりハマるような、暖色と寒色が合わさって名画を構成するような、
アダムとイブの男の子と女の子バージョンのような、そんな二人が駆け上がる、終わりある坂道を。
0139三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/04(火) 02:39:06.18ID:6xgm6G/H0
 頂上に立つと、トオルがセリカをお姫様だっこする、そして、二人はジャックとツバサを見上げて
にっこりと微笑む。
「あ・・・」
声が出ない。トオルもセリカも明らかにこっちを見ている、こっちに気付いてる。何か、何か言わないと!
今の感情を言葉にできない。そんなジャックの心情を察するかのように、トオルはジャックにびっ!と敬礼。
その仕草でようやく肩の力が抜けるジャック、すーっ、と息を吸い込み、眼下のバカップルに向けて叫ぶ。
「おめでとおぉぉぉぉぉぉぉっ!永遠に爆発してろおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
そのセリフを聞いたツバサが笑いながらジャックの後頭部をひっぱたく。
「誰が上手いこと言えと!」
トオルとセリカも笑っている、聞こえたようだ、よかった。

「そーれっ!」
セリカが持っていたブーケを放り投げる。それはほどなくばらばらに分解し、無数の花びらとなって
シドニーとアイランド・イフィッシュを包む、今一瞬の幸せのカタチとなって。
そんな中ただ一輪、蒼いバラだけが花の形のまま、舞い上がっていく、天高く、まっすぐに。
そう、ジャックとツバサの立つ、飛行機のデッキに向かって。
 それは、ジャックの隣、ツバサの目の前を上に抜けると速度を失い、ゆっくりとツバサの前に落ちてくる。
ツバサは両手を出し、その花を受け取る。幸せのバトンとして。

 最後に、トオルとセリカの『にかっ』とした笑顔を見て、景色は消える。
後に残されたのは巨大なクレーター湖と、ツバサの手の中に残った一輪のバラ。
しばし見入っていた二人は自然に向き合う。バラを胸に当て、ツバサはこう言った。
0140三流FLASH職人 ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/04(火) 02:39:59.78ID:6xgm6G/H0
「ねぇ、蒼いバラの花言葉、知ってる?」
「え?いや・・・。」
「願いが叶う、神の祝福、そして・・・奇跡。」

 なんという言葉なのだろう、今自分が経験した現象を具現化したような言葉。
最後に彼らは僕らを結婚式に招待してくれたんだ、ありがとう。そして、おめでとう。
願わくば、彼らに永遠の幸せが訪れんことを。

 ふと我に返る。ツバサが蒼いバラを抱いたまま、目を潤ませてジャックをじっ、と見ている。
蒼いバラの花言葉・・・願いが叶う。ああ、なるほど。

 姿勢を正し、ツバサを正面に見据え、その言葉を伝える。ツバサが願う言葉を。
「俺と、結婚してくれないか、ツバサ。」

 シドニー上空。その天空(セリカ)は、あの日と同じ、透き通るような青だった。



 −おわり−
0142通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ebf3-jOYE)
垢版 |
2018/09/04(火) 19:19:16.52ID:k4ft0YE40
投下乙&祝完結です
締めは『顎朽ちるまで』のジャック君とツバサさんでしたか
そして一輪の『奇跡』と愛の告白…

ところで前話でシャリア・ブルは『結婚式』をコロニー落としの犠牲者達によるジオンへの復讐と捉えてますが
実は結婚式やってる皆はそんな意図皆無だったりするのではないでしょうか
何と言いますか、受け手次第でそう見えるだけで『当事者』はただただ二人を祝福してるだけのような気が…
(実際ジャック君はそういう復讐がどうこうといった受け取り方してませんし、どうなんでしょう?)
0143三流(ry ◆jS5Q4GtcLw (ワッチョイ 5b5f-JeRa)
垢版 |
2018/09/05(水) 01:00:34.93ID:ud0seuwr0
>>142
あの時の本人たち以外の大勢の心境に「ヤケクソ」という心理も確かにありました。
死と滅亡が間近に確定してるからこそ、そんな中でのささやかなカップルの邂逅を
お祭りとして楽しんだ、っていう状況もあります。当然その中にはジオンに対して
「お前らが犠牲にした俺達でも最後はこんな愉快なイベントがあったぞ!」
っていう矜持というか、自慢みたいな気持ちもあったでしょう。
まぁ言うなれば「ざまぁみろ!」とでも言いたかったんです、ガルマみたいなジオンの連中に。
0144通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 5b8a-lgHW)
垢版 |
2018/09/05(水) 13:29:51.39ID:DtVmLv060
オーキド「おお来たか」
この白毛の爺さんはマサラタウンのオーキド博士。有名な博士でポケモンの研究をしている。
ここマサラタウンでは定期的に旅に出たい少年が博士から初心者用ポケモンを一匹貰って旅に出るのが基本になっている。
キラ「おはようございますオーキド博士」
オーキド「やぁ待っておったよ。で、どれにするか決めたかな?」
キラ「はい、ゼニガメ、フシギダネ、ヒトカゲで悩みましたがゼニガメにしたいと思います」
オーキド「おおそうかではこいつを持って行け」
キラ「ありがとうございます。」
モンスターボールを手渡され、僕はボールをポケットにしまい研究所を後にする。
ここから僕の旅が始まるんだ。
そのままマサラタウン出口から一番道路へ出ようとしたところで呼び止められる。
「キラ…。」
キラ「ラクス…」
ガールフレンドのラクスクラインだ。隣の家に住むラクスだが、父が役員でお嬢様だ。
ごく普通の民家が立ち並ぶマサラタウンだが、彼女の家はまるでお城で、かなり浮いている。
ラクス「そんな弱そうなポケモンじゃ旅になりませんわお父様からポケモンをいただいてまいりました。」
キラ「これは…ミュウツーにカミツルギにゲンシグラードンにライコウ、ルギアにレックウザ?!しかも皆レベル100だこれは負けないありがとう。」
ラクス「いえいえキラのお役に立てて嬉しいですわチャンピオンになって戻って来てくださいね。」
そうして弱っちいゼニガメのモンスターボールをそのへんの草むらにポイ捨てし僕の旅は始まった。
0145通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 5b8a-lgHW)
垢版 |
2018/09/05(水) 13:44:18.52ID:DtVmLv060
一番道路 マサラタウンからトキワシティに通じる道路であり低レベルなポケモンしか出現せず初心者が基本を学ぶにはうってつけの場所だ。
おっ…!ネズミのポケモンコラッタが目の前に飛び出して来た。
コラッタはノーマルタイプで戦闘力自体はかなり低い。
キラ「いけ!カミツルギ!」
ウルトラビーストのカミツルギは鋼草タイプのポケモンだ。種族値180超えの高火力で、タイプ不利だろうが問答無用で切り捨ててしまうポケモン。
その反面打たれ弱いので先手必殺必中を心がけて戦わなければならない。
キラ「カミツルギ!リーフブレードだ」
強烈なリーフブレードの一撃が、コラッタの身体を真っ二つにする。
超オーバーキルだ
キラ「強い…!僕は誰にも負けない!」
「ひっ!」
その一部始終を目撃していたたんぱんこぞうがその場から逃げようとする。
キラ「フ…。」
ペロッと舌舐めずりをしてカミツルギに追撃の指示を出す僕。
カミツルギの折り紙のような容姿の軽く小さな身体が宙を舞いたんパンこぞうを追いかける
たんぱんこぞう「わあああああ!」
たんぱんこぞうは発狂してすぐにコラッタを出して応戦するがたんぱんこぞうが指示を出す間も無くリーフブレードに裂かれる。
キラ「歯ごたえがないなぁ…。ニビのジムリーダータケシなら多少は楽しませてくれるだろうか」
そんなことを呟きながらトキワシティとトキワの森を歩いて抜けた。
僕が歩んだ足跡の周りには、身体を引き裂かれた虫ポケモンの死体が無数に転がっていた。
0146通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイW 5b8a-lgHW)
垢版 |
2018/09/05(水) 14:13:00.20ID:DtVmLv060
タケシ「俺がニビのジムリーダータケシだ!」
キラ「キラです。マサラタウンから来ました。」
タケシ(ほう…トキワの森を超えて傷一つついてない初心者トレーナーはグリーン以来だな。天才というやつか…だがポケモンバトルの世界の厳しさを俺が叩き込んでやる)
タケシ「いけ!イシツブテ!」
キラ「いけ!ライコウ!」
タケシ「ば馬鹿な…ライコウだって?!初心者が扱えるポケモンじゃないぞそれは!」
キラ「ライコウ、でんこうせっかだ!」
ライコウの巨体がイシツブテを吹き飛ばし戦闘不能となる。
タケシ「岩タイプを相手に電気ポケモンで挑み、効果が薄いノーマルタイプの技を選択するなんてセオリーに反しているぞ!」
キラ「でもタケシさんのイシツブテはちゃんと仕留めてます。圧倒的な力さえあればタイプの不利有利なんて別に覚えなくても勝てるんですよ」
タケシ「ならば俺も本気できみを叩き潰すとしよう!こい、バンギラス。」
2Mの巨体、バンギラスが立ちはだかる。
タケシ「こいつは滅多に使うことがない。マサラタウンから出たばかりのひよっこにとっちゃ高すぎる壁になってしまうから封印していた。」
キラ「戻れライコウ…そして…」
急激に日差しが強くなり、辺りの温度が上がる。
まるで太陽の真下にいるかのような暑さ…。
ゲンシグラードン…!
次の刹那、ニビジムが辺りを巻き込み強烈な爆発が起こった。
タケシもバンギラスも完全にその場から消え去っている。
キラ「あっバッジ…。」
勝負に勝ったがその場にタケシがいないことでジムリーダーに勝利した証であるバッジをもらえないことに気がついた。
キラ「そもそもバッジなんて集めずこの圧倒的な力でポケモンリーグそのものを襲撃したらいいわけか」
こうして僕はルギアに乗りセキエイコウゲンへと向かった
0147大学生 (ワッチョイW 5b8a-lgHW)
垢版 |
2018/09/05(水) 14:17:14.61ID:DtVmLv060
コテハンも付けました新入りです。
大学生です。
俺の小説褒めまくってください
0148通常の名無しさんの3倍 (ワッチョイ ebf3-jOYE)
垢版 |
2018/09/05(水) 18:35:41.17ID:7JFBLBqd0
>>143
>「お前らが犠牲にした俺達でも最後はこんな愉快なイベントがあったぞ!」
>矜持というか、自慢みたいな気持ちもあったでしょう

説明、ありがとうございます
個人的には『復讐』という言葉にネガティブなものを強く感じてしまうので、結婚式という晴れやかなイベントと復讐という行為が
いまひとつ重ならなかったのですが、この表現で納得がいきました
いまわの際にかつて自分たちが殺めた相手にいきなり呼び出され、幸せな姿をこれ見よがしに見せ付けられる
確かにこれ、立派な復讐ですよねえ
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

ニューススポーツなんでも実況