科学を信奉するしかなく、見た物だけを信じるしかなく、死は無だと覚悟するしかない。
これが現代の先進国に生まれた罰であり、宿命であり、呪いなのだ。

若い頃あれほどまでに唾棄し、憎んでいた宗教に傾倒する人々が今では羨ましく感じる。
こんな苦しみに囚われるくらいなら未開の地の土人と揶揄されようとも、猿呼ばわりされ蔑まれようとも
神や生まれ変わりを信じたまま生きられる発展途上国や宗教国家に生まれたかった。

過去に生まれれば霊の存在が否定されずタナトフォビアになる事なく一生を過ごせただろう。
未来に生まれれば不老が叶ったり自我の消滅を回避する手段が見つかっているかもしれない。
今はそのどちらでもない。死に救いがない事が分かる程度の科学や医学技術はあるが
それを解決するほどの科学力も医学技術もない。最も絶望的な時代なのだ。