戦場に立ち込めた煙が、徐々に薄れていく。
銃声はしなくなり、敵の気配も消えていた。

『――敵勢力の生体反応が消失しました!全員、撤退したと思われます!』
通信機に、オペレーターさんの声が届く。
嬉しそうな声色から、今回の戦争は、こちら側の勝ちだと分かった。
『我々も撤収します!順番に転送しますから、皆さんはその場で待機していてくださいね』
「――了解でありんす。お疲れ様でありんした」
弾んだ声にそう応答して、構えていた武器を下ろす。
パラサイトガンの電源を落とすと、銃身から熱が引いていく。

「……あの人は、無事に戦えていたでありんしょうか」
ふいに、今は消えているはずの、ビットの先にあった景色を思い出す。
戦闘中、援護射撃のために寄生させたビットからは、あの人の背中が見えていた。
私の攻撃は、あの人の助けになっただろうか?
あの人は今、怪我なんてしていないだろうか?
だんだん心配になってきて、様子を見に行ってみようかと思い始める。

「――おっと、ここにいたか」
「! アーロン様……!」
そのとき、急に目の前の遮蔽物から人が飛び出してきた。
それは前線にいるはずの、アーロンさんだった。
「そっちは大丈夫だったか?」
「えぇ、問題ありんせん。アーロン様の方は?」
「ああ、無事だ。君の援護のおかげでな」
「えっ……?」
予想しなかった言葉に驚くと、アーロンさんは私を見下ろして、優しく微笑んだ。
「君が露払いをしてくれたから、前線のラインを有利に押し進めることが出来た。だから本部へ戻る前に、一言礼が言いたくてな」
「そんな、わっちの助けなんて……大したことじゃありんせんよ」
「謙遜することはない。実に的確な助力だった、感謝する」
「は……はい」