◆一行から五行くらいまでの小説スレ【6】◆
◆一行から五行くらいまでの小説スレ【6】◆
【弧高の鬼才】〜初代スレ主様からのお言葉〜
一行から五行くらいで、なんか書け
詩でもポエムでも、散文でも、日記でもなんでもいいぞ
勝手にやれ
・「一行から五行くらいまで」ということですが、長さに制限はありません。
・男の猥談、ヒソヒソ話などもアリ。
・初代のコテの「弧」はワザとですので。
・sage進行でお願いします。
※前スレ
【講評】一行から五行くらいまでの小説スレ【5】
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bun/1648354002/ 『友との会話』
「洗面所は洗面台のほうがいいんじゃないか?
洗面所っていう札を掲げてるトイレもたまにあるし、
まぎらわしいぜ」
友の書いた作品『葉桜の宵』を見ながら俺は
アドバイスした。
「それと、用を足し始めたの行と、顔を洗い始めた
の行は逆だ。「私」がえらい長小便になっちまってる」
俺の指摘に友はおずおずと口を開いた。 「君はたぶんそう言うと思ってた。でもね、
僕ね、そこら辺、わざと崩したんだ。「複層界性」、
それと「文章のゆらぎ」を表現したかったんだ」
ふむ。腕組みしながら俺はだんだん嬉しかった。
「文を追う読み手の眼を一瞬スライドさせたい。
僕はそんな欲求があるんだ」
ふーむ。やっぱこいつと組んで良かった。
でも敢えて俺は言う。
「それは読み手を限定する。
マニアックな書き手で終わりたいのか」
友は黙った。インディーズとメジャーの狭間で
自問を強いられるミュージシャンのような顔をしている。
俺は立ち上がり、窓を開けに行った。
友は黙って玄関に行き、少し開け、
シューズをまとめてドアに挟んだ。 風が気持ちいいなぁ。そろそろ素麺のCMが流れる頃だっけ。
TVはいつも先導ランナーだ。
生と先取りの魅力でTVとラジオに勝てる媒体は無い。
素麺かぁ。素麺素麺。素麺食いてぇ食いてぇなぁ。
「その答えは保留するよ」
俺の背中に友の返事がスッと当たって、
床に落ちた。それを俺はつまみ上げ、
窓に吹く風に乗せて外へ消した。
「それと、お酒と煙草、呑み過ぎないでね。
僕たちは2人で1人だよ」 フーッ、そう来るかちくしょう。長い夜になりそうだ。
ちくしょう。
大体こうやって欠落した部分を持った2人が、
なんとかふらつき寄りかかりながら
「人」という文字を辛うじてつくっているんだからなぁ。
「よし。今日は俺が夕食作るわ」俺は台所に向かった。
大サイズの鍋に乾麺を4個を放り込んで煮立たせていると、
友がスッと俺の手にカット野菜の袋を持たせた。
「栄養バランス考えてね」
友の、セルフ根性焼きの跡が複数遺る手首を見て思った。
俺は一生この手を守る。(了) 『ある進歩』
俺たちは業務スーパーで一週間分の食料をまとめ買い
して駐車場へ出た。
「あ、あれサピエンスじゃない?」
友が指差した先は向かいのローソンだ。
ローソンの前でフランクフルトを食べている女がいる。
「ほんとだ。サピエンスじゃねぇか。珍しいな」
「ちょっと僕、話してくるね」
俺は買い物袋を道路わきに置き、駆けていく友の背中を
見送った。 友が走ってこちらに帰ってきた。
「びっくりした。すごいニュースだよ」
「落ち着け。何があったのさ」
「デジタル原始人のサピエンスが、
令和人になってしまったよ」
「どういうことだ」
「「確認くん」というページを自力で見つけたらしいよ」
「えっマジかよ。
それじゃ機内モードのオンオフとの併せ技で」
「うん。5ch内でIDをコロコロ自在に変える事が出来る」
「おー、あいつ成長したな」
サピエンスはローソンの前でこちらに手を振っている。
ニコニコ笑っている。
俺たちも手を振り返した。 「じゃ、帰ろうぜ」俺は車のドアを開けた。
「ちょっと待って」
「どうした」
「納豆買い忘れたんだ。ちょっと待ってて」
「おまえさぁ、納豆が好きなの分かるけど、しばらく控えよう。
来週から営業のバイトに入るんだろ」
「そうか。了解。部屋にニオイも付くしね」
俺は友の横顔を見つめた。
人見知りのお前の変化が俺の中で一番の進歩だよ。(了) 『ある日記』
5月19日。
予定の18時に合わせてワクチン3回目に行ってきた。
自動的に左腕を取られポロシャツの短い袖をまくられた。
「左腕かよ」
俺は焦った。
何故なら左腕上腕部には
過去のセルフ根性焼きした跡が複数のこっていたからだ。
微妙な空気が場を包む。
チクッ。
一瞬で終わった。
会場の外を出た。
白い月が浮かんでいた。
おまえも仲間だな。月を見て思った。
そっと胸に手を当てた。
5chでレイプされたたましいがすやすや眠っていた。(了) 『五月の風』
勇気を出して保健室のドアをノックした。
あたしの話に耳を傾けてくれる先生だと思ったからだ。
先生はケタケタ笑って招き入れてくれた。
「内緒やでー」
にこにこしながら先生はジャスミン茶を淹れてくれた。
保健室の窓は全開になっている。
今日も梅雨入りを拒むような快晴だ。
さわやかな風があたしの前髪にやさしくかかる。
「最近、勉強に疲れてるんです」
あたしは話を切り出した。
「アハハーそうなん。「疲れるは憑かれるに通ずる」
いうからな。勉強オタクの霊が憑いとるかもしれへんなー。
んなわけあるかい(笑)。あんた毎日勉強しとん?」 「はい。でも気ばかり焦って、順位も伸び悩んでるんです」
「あほやなぁ。息抜きの時間つくらな。あんな、2組に
学年トップの坂巻くんおるやろ。あの子な、日曜日は
サンデーモーニングからアッコにおまかせまで、楽しんで
ずっと見てるんやて。あの子なりの息抜きの方法やと思う
わ。あんたもそうやって、ハレの時間を作ったほうが効率
的やで」
うーん。ハレとケ、か。あたしはうつむいた。
確かにそうだ。毎日休みなしで2時まで机に向かい、
「その時間まで机に向かっていたという事実」だけに甘え
てたな。
「あんた真面目すぎるわ。もっとアホにならんとあかんで」
ジャスミン茶をひと口飲んだ。
淹れる人のぬくもりを感じた。
ふと窓の外を見てギョッとした。 坂巻くんが頭を覗かせてこちらを見ている。「よいしょ」
坂巻くんは窓に手を掛け足腰に勢いをつけ、浮き上がった
上半身をその両手で支え、片足を窓枠に引っ掛け、スルリ
と保健室の中まで入ってきた。
「七倉」
坂巻くんがあたしの名を呼んだ。初めてのことだ。
私は目を丸くして坂巻君を見つめた。
下半身についた草を払いながら坂巻君は言った。
「俺もね、一年前、そこに座ってジャスミン茶を飲んだんだ」
先生はにこにこしてあたしたちを見ている。
坂巻君はいたずらっぽく笑って続けた。
「もう昼休み終わるよ。上まで一緒に行こう」
さわやかな風に、土と草の混じった匂いが保健室を包んでいる。
坂巻君の手があたしの手に触れた。(了) 職場の新人牧野が中学校時代の同級生鈴木さんに瓜二つだった。
あまりにそっくりだったものだからおれは中学校時代へとタイムリープしたり
中学時代の鈴木さんがタイムリープしてきた感覚に陥る事がしばしばあった。
ある日職場で牧野をつい「ねえ鈴木さん」と呼んでしまい牧野は次の日会社を辞めた。
給湯室で女子社員達がお喋りに興じていた。「鈴木さんもホレっぽいよね。牧野さん怖がってたね可哀想」 『井戸端にて』
ゴミを出しに行くと古谷さんが佇んでいた。
「これはこれは古谷さん。退院なされていたのですか」
私が声をかけると、古谷さんはにっこり笑って、
言葉の解体とは人間の脳のキャパシティを広げる
趣味作業であり、また人によっては脳のキャパシティを
超える、身にそぐわない作業でもあるよ、と言われた。
自分にとってそれは基本楽しく不思議な方向への努力
なんだが、とも付け加えられた。
「世界の成り立ちを知るための努力が愉しみを伴わない
ものであれば、あなたは手に持ったその双眼鏡をスッと
降ろすべきだ。方向違いの努力をしているということだよ」 ふむ。換言すれば、身にそぐわない解明作業ということか。
私は繰り返しつぶやいた。
一歩間違えれば解明は戒名に通づるよ。血迷わないで、ね。
下手すると精神をやられるよ。そう言って私の肩を叩き、
古谷さんはスッと遠くに目を向けられた。
私は私で天を仰いだ。今日も雨が降りそうで降らない天気だ。
湿気はあるが少し肌に風も感じられて涼しい。
今日も何とかもちそうだな。
清々しい曇り空というのもあるものだ。
「パパ」
車の傍で娘のユリが呼んでいる。
「ではこれにて」私は古谷さんに会釈をし、まるで
ランドセルが歩いているかのような娘のほうに足を向けた。
その私の背中に向かって古谷さんが笑顔で言葉をかけられた。
「抱擁ですぞ」
私は娘の目の前にかがみこみ、背中のランドセルを取り、
笑顔のやまないその小さな宝を思い切り抱きしめた。(了) 短時間創作でも場合によっては結構エネルギーを使うなあ…。
というのがここまでの感想です。
>>302
私はラノベの世界は全くと言っていいほど覗いてませんが、
タイムリープものって流行ってるんですか?
ちょっと調べたらタイムトラベルとはまた違うみたいですね。
私がタイム物で直近に読んだ作品がありますが、
確認したらそれでももう5年近く前です。 『真昼のゆりかご』
左手首を見た。あと5分。
わたしはそっとおなかに手をあてた。
チッ、チッ、チッ、チーン。
時が来た。
雄馬が動いた。
わたしはそれを横目で捉え、
企画書類を手早くさらい、席を立つ。
ここからはギャンブルだ。
先に出た雄馬と泰徳がエレベーターの前に立っている。
その傍にわたしがゆっくりと意識した足取りで並ぶ。
神様。わたしは祈る。 ピポーン。
奇跡。今日も背後に誰もいない。
あわただしく出ていく男たちの残り香を嗅ぎながら、
わたしたち三人はエレベーターに乗り込んだ。
だがまだ気を抜けない。飛び込み野郎、来るなよ。
わたしたち三人だけを乗せ、扉は閉まった。
その瞬間、雄馬はガクンと両膝立ちになり、
わたしの下腹部にほっぺたを押し当てた。
同時にわたしの腰を抱く雄馬の腕が震えている。
泰徳は黙ってわたしたちに背を向けている。
あと2秒。雄馬はスッと立ち上がった。
ピポーン。
仕事の空気がムワっと入ってきた。(了) 『道の選択』
来週の出張先の下見に行ってきた。
トリップボタンを押し忘れたので、
正確な距離は分からない。
時間は片道約3時間半だっただろうか。
助手席でナビをしてくれたその友達は頼もしかった。
色んな話をした。
友達の個性的なふるまいに改めて驚いた。
帰りに缶ビール三本をお礼に買って渡した。
外に動く事で、また人と話すことで学ぶことも多い。
その知識の吸収を助けてくれるのは
いつも外の「風」だ。
子供の頃から学生時代にかけて、
触れる機会の少なかった「風」。
「風」の肌触りが今の私の心を落ち着かせてくれる。 そしてその風に乗って、
19年前にいた職場の先輩の声が聴こえてきた。
「迷う事も楽しいで」
ナビの無かった時代だっただろうか。
担当する県の地図をハンドルの上でくるくる回しながら、
得意先の住所に鮮やかに到達する。
「この人、脳のつくりが違うわ」
生まれて初めて「他人」に出会った瞬間だったと思う。
いかに残された人生の中で「他人」に出会えるか。
この視点は大切にしたいと思った。
「自分」だけが周りにいるよりも。
「今日暑いな。エアコン入れてぇな」
私は横目で、大切な「他人」に感謝しながら、
窓を閉めた。(了) 5行とかでなくてもいいのか? リハビリでゴミ投下 ↓ 『彼とは連絡が取れなくなりまして』
深夜に錆の浮いた手すりを頼って階段を上った。鈍く軋む鉄板、いつか踏み抜いてしまいそうだ。
二階にある俺の部屋の前に到着。薄汚れたドア、ノブの鍵穴にキーを挿して回す。
どうしてこんなオンボロに住んでるんだ。どうして毎日働かなきゃいけないんだ。死にたい。
ドアを開けた。
部屋は黒かった。暗いのではない、光を吸って逃がさない真性の黒が部屋の中に詰め込まれている。
「なんだよ、これ」
黒は掃除機のように俺を吸い込み始める。倒れ込んだ俺は慌てて廊下の鉄柵を引っ掴んだ。
「おい、何だよなんなんだよ! 誰か、誰か来てくれ!」
俺は真横に、鉄柵にぶら下がっている。黒は崖の底、ブラックホール、落ちてはいけない何かだ。
べきっと柵が音を立てる。留め具やネジが黒のほうへ落ちていくのが見えた。
ばきっと音が鳴り、俺は鉄柵と一緒に黒へ吸い込まれる。
足先が黒に飲まれ、指の感覚が消える。膝が飲まれ、太ももが飲まれ、足が無くなった。
痛みはない。
「嫌だ! やめてくれ! 死にたくない!」
「ジにだィで――オモ、たダ――ロォ」
黒い何かの奥の方から、ぬめっとした声が。
腰が、胃が、心臓が、首が、鼻が、目が
ばたんとひとりでにアパートのドアが閉まった。
「申し訳ありませんが……そうですね、失礼します」
オフィスにて。
初老の男性が電話を置き、「最近の若い奴は」とつぶやき、かぶりを振った。 どうもなんか読ませる内容が無いよう ← カクヨムでPV0伝説達成記録保持者 \ /
\ /
\ /
\∧∧∧/
< 俺 >
< 予し >
< か >
───< 感い >───
< な >
< !!い >
/∨∨∨\
/ ∧_∧ \
/ ( ・ω・) \
/ _(_つ/ ̄ ̄ ̄/ \
\/___/ 静かなる
海を眺めて思ふこと
かつて昔を思い出しながら
そっと海に入ってく
水が冷たく気持ちいい このまま終わってしまいたい
ゴボゴボゴボゴボ ゴボゴボゴボゴボ
息が泡となりて消え 私も泡となりて消えていく
ゴボゴボゴボゴボ ゴボゴボゴボゴボ
はるか遠くに失った可愛い可愛い娘の姿
また会えるかな また会いたいな
そう思い私はそっと手を伸ばす
その瞬間に彼女はすぅっといなくなる
ああやはり 掴めないのね
ゴボゴボゴボゴボ ゴボゴボゴボゴボ
お星様への橋が見える
お星様へ登って きっとまた落ちてくるのね
流れ星になってきっとまた戻ってくるのね
来世でもどうかあの子といられますように
ぷかりと浮かぶ橋に手をかけそっと海から体を引き上げる
泡の私はお星様への橋を登っていった 『林業アルバイト夫婦』
ブナの涼やかな幹に慣れたころ、
ヒルの季節がやってきた。
休憩時間に互いに騒ぎながら、肌に付いた
ヤマビルを払い落とす山の先輩に驚きながら、
私と彼は昼休憩のために車に入った。
弁当を食べ終わってうたた寝をしていると、
私の脛が騒ぎ出した。裾をめくると
大きくふとったヒルが私の脛に吸い付いていた。
「ハッハッハッ。A型のおまえの血をおなか
いっぱい吸ってやったぜ」
上目遣いに私を挑発する黒ぬめりのヒルを見て
私はそいつを冷静に丁寧に剥ぎ取った。
草むらに放り投げたそいつに私は何の感銘も
抱かず、運転席に座る彼と車内で昼寝を再開した。 目を閉じながら思った。
人間の血を吸って元気もりもりのおまえも
いつか天寿を全うする日が来る。
いのちを落とす日など想像もしないまま、
草むらに泳いでいくおまえよ。
あの日までの私に似ている。
まさかあの子が事故死するとは思わなかったあの日。
でもあの子はその日まで、
精一杯命の花を咲かせたのだ。
通夜に来て下さった人の数だけ、あの子は
むせび泣く陽脚を浴びたのだ。
あの子はその光を浴び、
いつの日かこの世に再生する。 昼休憩終わりのアラームが鳴った。
「日菜子」
彼が伸びをしながら私を見た。
「名前、決めたぞ」
まったく。気の早い男。
私は私の平たいおなかをそっと撫でた。(了) 『コンクリート・ジャングル』(副題=あたしとアタシ)
「でもさ、ウチらの事知らない人もいるわけじゃん」
「だよね。知ってる人は圧力かけてくるけど、
ウチらの事知らない人にはまた歌いたいよね」
ツカツカ夜の繁華街を歩きながらあたしたちは喋る。
「大体さ、あのマネージャーが悪いんだよね」
「そー!生放送中に帰れって指示出しやがってさ」
「ね。結局、ウチらこの国のテレビ局からハブじゃん」
プリプリ怒りながらあたしたちは早足で繁華街を
切り裂く。
スイスイ人込みを縫いながら、
振り返る男たちの視線を感じながら。
ムシムシした夜だ。
この国は本当に湿っぽい。
帰国前の最後の一日ということで、あたしたちは
この国の最後の一日を楽しむことにしたのだ。 「おい!なにしてんだ!」うしろで声がした。
やれやれ。今回の戦犯のマネージャーのお出ましだ。
「俺たち戦友だろ!
だからこのアプリも共有してんじゃん!
今回の件は俺が悪かった!
頼むからやけくそにならずに、
ホテルでおとなしくしててくれよ!」
「フンだ。あんたの言うことは聞かねーよ」
「バーカ」
あたしたちはマネージャーに悪態をついた。
ホテルに連れ戻されたあと、マネはあたしたちに言った。
「よいか。俺もふくめ、われらはしんがりぞ。
この国の誹謗中傷を一身に受けつつ、防ぎつつ、
我が愛する祖国に舞い戻るのじゃ。」
「イエス、サー」
「ラジャー」
あたしたちは一致団結し、覚悟を決めた。 翌朝、空港は怒りに満ちたアンチでごった返していた。
「音楽番組の途中に退席するなんざ、いい度胸だな!」
「この国をなめんじゃねぇぞ!」
「二度とくるんじゃねぇぞ!」
「押すな押すな!みなさんおちついて!」
警備員さんも大忙しだ。
投げつけられた生卵を全身にあびながら、
アタシたちはしくしく泣きだした。 この国に来る前、ふたりきりで話し合ったことが
走馬灯のようによみがえってきたからだ。
「夢をあたえるために行くんだよね、ウチら」
「そ。夢と愛をあたえに行くのよ、ドキドキするね」
「ダンスもボイトレもがんばったよね」
「そ。恋愛もがまんして、がんばったよね」
「どんな国だろうね」
「美しい国、を標榜してるんだって」
「けがれなき国なんだろうね」
「ウチらのカラダと一緒だね(笑)」
「その国の男がウチらの初めての彼氏になったり
してね」
「やだばか(笑)」 ドロドロしたなまたまごをしたたらせながら
マネは前をみすえて怒号の中を歩き続ける。
歩きながらマネは言った。
「いつだって俺たちおとながきみたちをかなしませる」
マネの声はふるえていた。
「気にしないで」
「アタシたち、しんがりでしょ」
あたしたちはマネを気遣って言った。 その時、あたしたちを先導してくれている
空港のおねえさんが振り返って言った。
彼女も生卵まみれだ。
「ごめんなさいね、この国をきらいにならないで」
なみだごえだった。
あたしたちは何か言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
マネが声を絞り出した。
「嫌われるようなことをした俺の責任です」
空港の怒号はまだやまない。
「二度と来るな!腹切れやコラァ!」と、
この国のあらゆる欲を
すべて満たしつくしたような
ひとりのオトナの大声が鳴り響いた。
あたしたちはその男性をキッとにらみつけて言った。
「肌はけがれても、こころまではけがされない!」
「そうよ!もうすこしの辛抱だわ!」
あたしたちは再びキッと前をみすえて
愛する祖国を強く強く想った。(了) 『答辞』
ぼんやりある1つの思いにふけっている間に卒業式も半ばを過ぎた。
僕、この3年間で休日に友達と遊んだこと、
記憶の中では1回だけだったな。
しかもその1回はある仲良しグループに混じらせて
もらっただけで、ひどく居心地が悪かった事を憶えている。
「ターミネーター2」を観て、WOWOWの
「Beatles」の番組を見て、おばちゃんが出してくれた
お菓子を食べて帰った。帰り道の記憶など勿論ない。 小学生高学年ともなると、男女ともにある心理が
生まれてくる事に僕も気づいていた。
見た目によるスクールカーストの起こりである。
むかつく顔→いじめてもいい顔。
これが社会人ともなると自殺に追い込んでも良い顔。
と多分なる。
僕は思春期以降、
各年代でそのシステムのドラフトにかかり続けてきた。
大体1位とまではいかなくてもそのすぐ下ぐらいには
常に位置していたように思う。
無視か。まぁな。そう悟れるほどの頭では無かった。
無口なくせに友を乞う。
その空気がさらに苛められやすさのオーラを強化する。
世界一カッコの悪いクリフハンガーだった訳だ。
結局、僕の無努力な希望が叶う事は、
この3年間で一度もなかったのである。 「ん?」
気がつくと利輝亜ちゃんが悲鳴に近い嗚咽とともに
答辞を読んでいた。
嗚咽しながら答辞を読む利輝亜ちゃんに卒業式会場は、
静まり返っていた。
震える後ろ姿に、静まり返っていた。
僕の頭は高速で回転し始めた。
そうか。利輝亜ちゃんも今の僕と同じように、
この三年間を回想をしながら、答辞を読んでいたのだ。
僕がはじけていた小学低学年時代にはよく利輝亜ちゃんと
喋っていたが、この中学の3年間では疎遠になった。
クラスが3年間ちがったし、僕は僕で滑稽なクリフハンガーで
精一杯だったから…。
利輝亜ちゃんは利輝亜ちゃんの、
僕の想像もできない壮絶な3年間があったんだな。
体育館に響き渡る泣き声の混じったその答辞に、
会場にいる生徒、先生、父兄は圧倒されたまま、卒業式は終わった。 バス停に向かう帰り道、肩を並べて歩いていた武真くんに
僕はつぶやいた。
「利輝亜ちゃん、すごく泣いてたな」
武真くんは黙ってうなずいた。
武真くんは三年間で唯一、あの時遊びに誘ってくれた人だ。
「武真ー!こっち来いよー!」
背後でゲラゲラ笑うグループに武真くんは去っていった。
たしか修学旅行の班決めの日も、武真くんは風邪で休んでいた。
僕はため息をつき、肩に下げた鞄のベルトの根っこをふと見た。
修学旅行先の東京ドームで買ったキーホルダーだ。
カースト上位グループに溶け込んでいく、武真くんの鞄の一部が、
昼下がりの太陽に反射して、キラリと光った。(了) 『桜』
大通りの桜並木の大半は儚く散ってしまった。歩道橋の欄干にもたれかかって、どことなく寂しい街並みを眺めていると、背中に懐かしい感触を覚えた。
「りょうちゃん。」
彼女はしばらく僕を抱いていたけれども、やがてほうっと息をついて僕と同じように欄干にもたれかかった。
「気持ちは変わらないのね。」
僕は静かに頷いた。彼女は、そう、と言って、目を細めた。アスファルトの上に薄桃色の花びらが静かに舞い降りていく。頭上に広がる空の青さは永遠には続かない。僕だって知っている。人はいつか死ぬ。
「ずっとそばにいることはできなかったけれども、あなたのことを思わない日はなかったわ。母親として、りょうちゃんの門出を祝福するわ。」
彼女はそう告げると、僕の頬を優しく撫でた。その手は微かに震えていた。あの夜もそうだった。突然やってきた強盗が放った銃弾は彼女の胸を貫いた。母は震える手で僕を抱き締めながら死んでいった。そうして僕は一人ぼっちになった。
風が吹いて、木々が揺れた。欄干にのせた手の甲に、一片の花びらが触れた。僕は心を決めた。
「これでいつまでも一緒ね。」
騒然とした大通りを見下ろして、彼女は呟いた。アスファルトに叩きつけられた死体は微笑みを浮かべながら、瞼を閉じた。 >>332
ラストでアッと言わされました。
いい作品だと思いました。
久しぶりにここに来たけど、
前スレのような、皆がワイワイ言い合ってるような
スレに戻ってほしいなと
過疎化は僕のわがままのせいかと思ってます。
創芸板そのものの人が少なくなってますね。 年齢も素性も分からないここの人と、
言葉のみのコミュニケーションでスレを回せることが出来なかった‥
レスに対する自分の応対がまずかったと気づいて、途中から
作品を投下するのみで、
僕が黙り込んでしまったのが
過疎化した原因かなとも思ってます‥
ごめんなさいね。はぁぁ‥。 去り時のタイミングを間違えました。
今度こそ去ります。
ありがとうございました。