あの老人も生きている。
そして今、この長椅子に座っている私の母も。
「遅くなってごめん」
そう言いながら隣に座ると、母は途端に顔をほころばせ
「あ、ごめんね、呼びつけちゃったりして、ほら、さわってみて」
と私の左手をとり、せり出した自分の腹に当てた。
「できたって……ガン?」
ああ、そうであってくれ、いや、それも困るんだけど、いや、この浮かれ具合は、
ああ、どっちに転んでも困る案件じゃーーーん、と、なかば耳を塞ぎたい思いで、
腹の生温かさを味わうともなしに味わっていると、母が言った。