昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

国の勅令で設置された政略戦略の国防研究機関の総力戦研究所の出した結論は

「開戦後、緒戦の勝利は見込まれるが、その後の推移は長期戦必至であり、その負担に青国(日本)の国力は耐えられない。
戦争終末期にはソ連の参戦もあり、敗北は避けられない。ゆえに戦争は不可能」

この答申に対して当事の陸相である東条英機は

諸君の研究の労を多とするが、これはあくまでも机上の演習でありまして、実際の戦争といふものは、君達が考へているやうな物では無いのであります。
日露戦争で、わが大日本帝國は勝てるとは思はなかつた。然し勝つたのであります。
あの当事も列強による三國干渉で、やむにやまれず帝國は立ち上がつたのでありまして、勝てる戦争だからと思つてやつたのではなかつた。
戦といふものは、計画通りにいかない。意外裡な事が勝利に繋がつていく。
したがつて、諸君の考へている事は机上の空論とまでは言はないとしても、あくまでも、その意外裡の要素といふものをば、考慮したものではないのであります。
なほ、この机上演習の經緯を、諸君は軽はずみに口外してはならぬといふことであります。

と語った。