2038年、叡王戦。それをテレビで見つめる男がいた。
かつて2冠を取りトップ棋士の一角を担った永瀬拓矢さんだ。
「あの頃は若かったですね(笑)」若き日を回想する永瀬さんは、どこか寂しげだ。
「未だに当時の夢を見ることがあるんですよ。叡王戦で、僕が豊島相手に叡王を防衛するする夢を」
永瀬さんは叡王を失冠後、続いて王座も失冠。その後タイトルへ向けて挑戦を続けたが
結局復調することはなく、とつぜんの引退宣言をした。
今はラーメン屋を営む傍ら、地元の将棋教室を勤めている。将棋教室の看板の文字は藤井聡太八冠の手によるものだ。
「今日はどうされましたか?」。横浜駅東口から歩いて3分。
「ラーメンNAGASE」の看板をくぐって中に入ると元女流棋士の奥様の明るい声に迎えられた。
「去年の4月にオープンしました。看板の文字は藤井さんに書いて
いただいたものだし、開業に合わせてTwitterやテレビでも取り上げてもらった。
おかげで、県外から足を運んでくださるお客さんが多かったのはうれしかったですね」
永瀬さんは本当に嬉しそうに、僕たちに語ってくれた。
とはいえ、その分、プレッシャーも大きかったという。
かつてのライバルの佐々木勇気九段の竜王戦挑戦について尋ねると…
「知ってます?僕もタイトルホルダーだったんですよ?」と、おどけ
「僕も才能さえ有ればって…歯がゆいですけど」
「今はもう現役に未練はありません。今度はこの、ラーメンで日本一になれるよう、がんばるだけです!」
(写真)