戦後共産党の幹部であり、その文化部門の責任の地位にあった増山太助の『戦後期左翼人士群像』(柘植書房新社、2000年)によれば、太宰治は戦後すぐに共産党に(再)入党している様子である。

(中略)

 太宰が戦後に共産党に入党したという「事実」に即した文学研究や批評は、私見の及ぶ限り、いまだ存在しない。

 太宰は、戦前における共産主義からの転向のやましさを戦後に持ち越し、それが太宰の文学の特徴をなしているという、奥野健男の『太宰治論』以来の理解が、いまだ支配的である。

 おそらく、現代の文学研究者・批評家は増山太助の証言を知らないのであろう。

 そして、この共産党員=太宰という事実を踏まえれば、その文学に対するイメージも大きく変更を余儀なくされるに違いない。

スガ秀実『1968年』