>>15のつづき
鈴木「たしかに『バンドオブザナイト』の妄想部分にしたってそれは言えるかもしれない。ノイバウテンのよう
   にはじめからギターをチューニングしないというわけではないし、文章それ自体はグッドチューニングで
   とてもカッコいい、だから不思議にも全部映像にできちゃう。『ポケットが一杯だった頃』っていうエッ
   セイが最近出たけど、その中に『バンドオブザナイト』について語っている部分があって(言葉が持つ原
   初の力を蘇らせる等)、そこで彼はエドモンド・ジャベスについて触れているのね。彼はジャベスの言葉
   はまるでさらさらと砂が流れるようだと言っていたけれど、『バンドオブザナイト』の妄想の部分もそれ
   に近いって自分で言っている。でも多分でも多分これは彼の記憶違いでーーー彼がジャベスをとても好き
   だったことは本当なんだけどーーー、実際には僕が訳したソレルスの『女たち』のリズムが原型なんじゃ
   ないかと思うんだよ。あの饒舌さって『女たち』の妄想リズムに近いものがある。失語症から、何も無い
   砂漠から、言葉を紡ぎ出そうとするジャベスとは少し違う。彼は多分『女たち』をちゃんと読んでいない
   と思うけど、でもすごく頭のいい男だからパラパラっと数行読んだだけであのリズムを掴んだんだと思う。
   もともとそれはセリーヌのリズムだとも言えるけど。だから『バンドオブザナイト』を書く時にそれがほ
   ぼ無意識に出て来たという事はあった様な気がする。でも、たとえそれが無意識からもたらされたものに
   しろ、そうでないにしろ、普通は、妄想リズムが端正な文章にはならないよね。これは困った事なのか、
   いいことなのか、よくわからないな。」