BUNGAKU@モダン日本
「ニッポニアニッポン」と「ボヘミアン・ラプソディ」(その1)
2005/3/23(水)

「グランド・フィナーレ」で2004年度下半期の芥川賞を受賞した阿部和重ですが,
どうせなら「ニッポニアニッポン」(2001年8月・新潮社)で賞を与えるべきだったという声があります。

確かに,幼児ポルノの撮影を趣味とするロリコン男が登場し,
奈良の女児誘拐殺害事件を想起させる「グランド・フィナーレ」よりも,
三島由紀夫の「金閣寺」と大江健三郎の「セヴンティーン」という純文学同士を“交配”し,
新たな“不純文学”の誕生を期したという「ニッポニアニッポン」の方が私は好きです。
小説としてもすぐれていると思います。

それに,下世話な話ですが,インターネットからの引用を駆使した「ニッポニアニッポン」に
2001年というタイミングで芥川賞を与えることには,大きな意味があったのではないか,
などということも考えてしまいます。

警報で駆けつけた警備員をサバイバルナイフで刺し殺した春生は,
「ニッポニアニッポン問題の最終解決」としてトキを“解放”します。
逃亡をはかろうとしてレンタカーに乗り込んだとき,カーラジオから「聴いたことのない洋楽の曲」が流れてきます。

「これは現実の出来事なのだろうか/それともただの幻覚なのだろうか」という意味のフレーズで始まり,
「かあさん,たった今,人を殺してきたよ」という詩句を含む歌詞の内容は,
春生の内面の声を代弁しているかのようです。

春生がラジオで聴いたのは,アルバム「オペラ座の夜」(1975)に収められた名曲
“BOHEMIAN RHPSODY”(ボヘミアン・ラプソディ)でした。ちなみに,「ニッポニアニッポン」の装幀は,
「オペラ座の夜」のジャケットのパロディーです。

「ニッポニアニッポン」の最後の場面に,「ボヘミアン・ラプソディ」が使われていることは,
「安易なウケ狙い」ということで,かなり物議をかもしているようなのですが,
少なくとも私の読書体験をスリリングなものにしてくれたことだけは間違いありません。