「この若者の顔がわしの心にとって、なぜこれほど懐しいものになったかというわけ
を、いままで当人のアレクセイにさえ一度も言うたことがない。今はじめてこれを打
ち明けますじゃ。

>(我)先生はゾシマ長老の生まれ変わりなどではない。先生は先生。小説中の登場人物
たるゾシマはゾシマだ。
しかし、その精神の核心部分はひじょうに似ている。それは弟子をきづかい、その成長を
祈り、ときには厳しく指導する。それはなんのためだ?ほんとうの幸福をつかませるため
だと思う。仏にするためだと思う。

この少年の顔はわしにとって、まるで追憶と予言のように思われ
る。わしの生涯のあけぼのに、わしがまだ小さな子供のとき、ひとりの兄があったが、花
の盛りの十七やそこらの年に、わしの目の前で死んでしまいましたじゃ。

>(我)このゾシマと同じような体験をぼくは持たないが、しかしここに書いてあること
はストンとぼくの胸におちてきた。当時少年のぼくにさえ。

その後、自分の生涯を送って行くうちに、わしはだんだんこういうことを信じるように
なった、――この兄はわしの運命にとって、神の指標とも予定ともいうべき役割りを勤め
た、とな。