続き

男は不幸を嘆いた。はじめの一年はなりふり構わず声を張り上げていたが、年老いてしまうともう、ただいつまでもだらだらとぼやくだけだった。
子どもっぽくなった男は、門番をずっとつぶさに見てきたからか、なんとその毛皮の襟巻きにノミがいると気づいた。
そこで、男はそのノミに、助けてくれ、あの門番を説得してくれ、と頼み込んだ。
ついには視力も衰え、男は本当に暗いのか、ただ目の錯覚なのかが、わからなくなった。
とはいえ、暗闇の中、道理の門から消えずに差し込んでくる光が、男には今はっきりと見えた。
もう、男の命ももはやこれまでだった。
死を目前にして、男の頭の中で、今までの人生すべての時間が、ひとつの問いへと集束していった。
それは男がこれまで門番に一度も訊いたことのない問いだった。
男は門番に、手を振って知らせた。
身体がこわばって、もはや自力で起き上がることができなかった。
門番は男のためにしゃがみこんだ。
ふたりの大きな身長差が、今は男にとってずいぶん苦しいものとなっていたからだ。
「今さらいったい何を知りたいというのだ。」
門番が訊く。
「欲張りめ。」
「だが、万人が道理を求めようとするではないか。」
男は言った。
「どういうわけで、長年にわたって、わたし以外に誰も、入ってよいかと聞きに来ないままだったのだ?」
門番は気づいた。男はもう、今わのきわにいる。
かすかな聴覚でも聞こえるよう、門番は男に大声でどなった。
「ここでは、他の誰も、入ってよいなどとは言われん。なぜなら、この入り口はただお前のためだけに用意されたものだからだ。おれはもう行く、だからこれを閉めるぞ。」