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お題:『ナイアガラ』『ドラクエ』『図書室』『視点』『アチアチ』

【夏の夜】

 夏休みのさなか、とある地域の育成会が主催する二泊三日の林間学校には、小学生から高校生まで80人ほどが集まる。
 従姉妹同士であるナツキとユカリも、参加することを決めてから楽しみにしていた。
 二人だけの思い出を作ろうねとはどちらの言葉だろうか。

 ちょうど山間部にある林間学校施設だということもあって、一日目の夜に行われた肝試しは嫌が上にも盛り上がる。
 保護者たちは保護者たちで、子供たちを驚かせるために気合が入るものだ。
 ナツキとユカリの二人の父親も組となって驚かす係となっていた。
 二人はそろって女装し、子供が通るたびに魔神英●雄伝ワタルのアチアチアドベ●ンチャーをアカペラで大熱唱しながら踊り狂う!
 第三者の視点から見れば明らかに変質者だ。暗い山道で遭遇すれば誰だってびっくりするだろう。普通ならば事案モノである。
 本来は女性が歌うものを一オクターブ下へとずらしていることも相まって、お化けとは別の意味でとても怖い。
 彼らは互いの娘二人組がやって来たのがわかると、それまで以上に調子づいて声を張り上げる。
 そんな父親のあられもない姿にマジ泣きするのはユカリだ。父親たちは恐怖に泣き出したと思いこんでさらに増長する。
 ナツキは悲鳴を上げるどころか蔑んだ視線で父親二人を見て、お母さんに言っとくからと判決を下した。
 ユカリの父親の姉であるナツキの母親は、夫や弟に対して容赦がまったくない。
 肝を冷やすことになるのが驚かす側となったのは言うまでもないことだ。

 二日目の夜になると、広場の中央で仮装キャンプファイヤーが行われていた。
 衣装は有名な漫画やアニメ、ゲームのキャラクターなどで、育成会が用意していたものだ。
 全長7メートル、高さ2.5メートル程のナイアガラ花火が現れると、興奮した一部の中学生、高校生が滝の下を度胸だめしでくぐり抜ける。
 弾丸のごとく疾走する青いハリネズミの仮装をした男子高校生が、大人の静止を振り切ってくぐり抜けた時だった。
 よほど大きな火花が背中に入ったのか、アツイアツイと繰り返して悶える。
 結果小さな水ぶくれができて、彼らはまとめて叱られていた。まあ、聞くはずもなく逃げ出していたが。
 その時ナツキとユカリはドラク●エの賢者と勇者に扮し、暗く誰もいない二階の図書室へと潜り込んでいた。
 キャンプファイヤーやナイアガラ花火から離れたこの場所からだとよく見えた。
 後方から赤い配管工の仮装をした高校生によって投げられたネズミ花火が、青いハリネズミの背中へきれいに入り込んだからだ。
 男って馬鹿だよねと笑い合い、従姉妹二人は熱い夜を過ごしたのだった。

〈おしまい〉