安価・お題で短編小説を書こう!8
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安価お題で短編を書くスレです。
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■前スレ
安価・お題で短編小説を書こう!
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安価・お題で短編小説を書こう!2
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安価・お題で短編小説を書こう!3
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安価・お題で短編小説を書こう!4
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安価・お題で短編小説を書こう!5
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安価・お題で短編小説を書こう!6
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安価・お題で短編小説を書こう!7
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1572191206/ 【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】(2/3)
その人物は海面に浮かぶようにして立っていた。全身が光り輝いており、顔も服装も判然としない。ただその輪郭から女性であるように思われた。
「いいえー、私は○マ○エではないですー。私は泉の仙女ですー」
「そっ、そうなのですか。しかし、泉など見当たりませんが……」
「実はー、この海岸にはー、温泉が湧いているのですー」
「なるほど……かすんで見えた風景と、妙に温かい空気は、それが原因だったのですね」
ドン・タローテがそう言うと、仙女はうなずくような動きをしつつ、ある物を取り出した。
「そうなんですー。それでー、この釣りざおなんですけどー、これはあなたが落とした釣りざおですかー?」
「はっ、はい! それは私が落とした釣りざおです」
それは間違いなく、ドン・タローテがたった今なくした釣りざおだった。
「そうですかー」
「はい」
「それでー」
仙女は釣りざおを隠してしまった。ドン・タローテは困惑するも、次に彼女が取り出すものを見て、ひどく動揺することとなる。
「これなんですけどー」
「そっ、そいつは……!」
「この妖魔なんですけどー、これはあなたが落とした妖魔ですかー?」
「モリモリ」
「……い……いえ……」
「モリー!」
それはドン・タローテが以前討伐した妖魔だった。全身を覆う緑色の毛が、今は水を吸って垂れ下がっている。
「……いや、はい、確かに、そいつには見覚えがあります。かつてそいつと決闘をして、最後は川に突き落としたと記憶しておりますが……」
「そうですかー」
「まさか生きていたとは……」
仙女は醜悪な妖魔を海に沈めた。緑色がすっかり見えなくなると、次に彼女は、どこからか一冊の本を取り出した。
「それでー、これなんですけどー」
「はて……見覚えも心当たりもありませんが……」
「これはー、いにしえの魔法使い『ケン・ザブロー』によって著されたSAN値直葬の魔導書『ロゴスノミコン』――」
「あの仙女様! 魔法使いどもは私の天敵です。どうかその忌まわしい紙の束は、どうかお願いですから、千切ってちり紙にでもするか、とにかく私の前から消し去ってください」
「そうですかー」
仙女は本を仕舞った。
「それでー、これなんですけどー」
そうして次に彼女が取り出したのは、またもドン・タローテが見知ったものだった。
「はっ、ハチベー!」
「これはあなたの従者ですかー?」
「はい! いえ、確かに先日まで私の従者を務めておりましたが」
目にも鮮やかな赤、黒、白の装束に、小柄な彼女の絶対領域が映える。
「ハチベーよ、一体全体どうしたことだ。国に残してきたはずのお前が、どんな魔法を使ったら、こんな遠くの海岸に現れるのだ」
ドン・タローテの問い掛けに、ハチベーは次のように答えた。
「タローテ様、申し開きの仕様もございません。わたくし、タローテ様の退職き……いえその……大食漢! そう、大食漢のイマナンテの食費が気になってしまい、タローテ様の跡を追うこととしたのです」
ここまで聞いたドン・タローテは、ハチベーの説明に口を挟む。
「大丈夫だハチベー。イマナンテは年老いて、昔ほどは食べなくなった。お前も知っておろう」
「そっ、そうでございますね」
ハチベーは説明を続ける。
「それで出立いたしまして、道を歩いていたところ、川がございまして」
「うむ」
「橋のない川で、慎重に渡っていたのでございますが」
「うむ」
「うっかり足を滑らせてしまい、川を流され、気付いた時にはこちらの仙女様のお宅で……」
「そうか……」
ハチベーの話を最後まで聞くと、ドン・タローテは仙女に話し掛ける。
「仙女様! まずはハチベーをお助けくださり、ありがとうございました。その者は私の従者で間違いございません。他の何も要りませんから、どうかハチベーをお返しください」
「そうなんですかー。うーん、どうしましょう」
「あのタローテ様」 【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】(3/3)
ハチベーが、その小さな両手をドン・タローテに向けて差し出した。
「わたくし、手土産にハクア様と握手してまいりました」
「仙女様!! なんだったら私の優秀で勇敢なドラゴン、イマナンテを差し上げますから、どうかハチベーをお返しください!」
「イマナンテー!?」
「大食漢は間に合っておりますー」
「そうですか……」
ドン・タローテは落胆した。
「ですがー、あなたは正直者ですねー。そんなあなたに免じてー、釣りざお、妖魔、従者、すべてお返ししますー」
「ありがとうございます! ですが妖魔は要らないです!」
「モリー!!」
「それとー、この魔導書をー、特別価格でご提供しますー」
「いえ仙女様――」
「妖魔を取るかー、魔導書を取るかですー」
*
ドン・タローテは少なくない金額を支払って、妖魔を除くすべてを取り戻した。
「タローテ様、申し訳ございませんでした。わたくしのために貴重な退職金が目減りしてしまいました」
「言うな。竜騎士には従者が必要なのだ。イマナンテも機嫌を直してくれ」
「イマナンテー?」
「それにしても……」
ドン・タローテは、売り付けられた魔導書に視線を落とす。
「これはどうしたものやら」
「誰か必要とする者に売れば良いのではございませんか?」
「駄目だ、それは危険だ。しかし、折角買ったものでもある……」
ドン・タローテは好奇心にあらがえず、魔導書の表紙をめくってしまった。
「ううむ、これは……分からん……」
「タローテ様?」
「これは……コレハ……ワカラン……」
「タローテ様? タローテ様!?」
*
その後。
「これは英雄の物語……」
ドン・タローテは、魔導書のせいで正気を失ってしまった。
「竜騎士の物語でございますよー」
「イマナンテー」
しかし、それと引き換えに、類いまれなる詩作の才能を授かったのである。
吟遊詩人となった彼の作品は、後の世の研究者によってまとめられた。
それこそが、現代にまで伝わる『超能力竜騎士ドン・タローテム物語』なのである。 同じく遅刻すみません!
ナーロッパと騎士道物語の世界の、中間くらいのイメージで・・・ お題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』『円満破局』『釣り』締切
【参加作品一覧】
>>163【女騎士と謎の剣士】
>>169【私のニーソに憑依する悪魔】
>>175【宮廷闘争の間違った治め方】
>>180【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】 ☆お題→『マインドコントロール』『百人組み手』『媚薬』『理科室の実験』『レモン』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→5/17の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 ちょっと懐かしい気がするお題ですね
今週もお題スレをよろしくです・・・
そして次回の企画をどうするか・・・
ご意見ご要望はいつでもどうぞですー >>175
これは面白い!、と言うか個人的には好きな話!
『ファンタジー』世界の貴族、『絶対領域』ドレス、『釣り』合いで釣る、『円満破局』なのに『悪夢』が終わらない!
設定はテンプレを踏襲しつつ、見せ場もあるし、お題も完璧に消化してて、これはさすがです >>180
急転直下の引退劇からの転職物語w
あくまでもビジネスライクな元従者と主人公の一途な恋心(?)がw
>>193
感想有り難うございます
PCの前で、リアルに転げ回りながら書いた甲斐がありましたw
最も悩んだのは絶対領域ドレスですが、『天空の城をもらったので〜』のお姫様のドレスを見て、吹っ切れました >>194
感想ありがとうございますw
一体何の話だったのかw >>191
使用するお題→『マインドコントロール』『百人組手』『理科室の実験』『レモン』
【懲りない親友】(1/3)
スレ7 710【親友は大食い】を先に読んでおくことをオススメします
ランドセルを背負い、カナミが元気よく学校へと向かっている中、途中で親友のリナと会った。
「あっリーちゃん、おはよう!」
「おはようカナちゃん!」
リナは食べるのが大好きだ。以前、意地悪な小6女子の一人である赤沼ミチエの罠にハマり、
彼女が経営する焼肉店の超濃厚なサムギョプサルに夢中になって激太りしたことがあった。
カナミやクラスメート達の助けもあって何とか元の体型に戻り、それ以来食べる量を少しではあるが減らしているようだ。
ぽっちゃり体型ではあるが、前よりも少し痩せているように見えた。
「リーちゃん、少し痩せた?」
「そう見える?だったら嬉しいな。私ね、最近お母さんとお父さんと一緒によくセミナーに通っているの」
「セミナーって?」
「スタイリッシュな体型を目指すあなたへ!というものなの」
リナ曰く、華奢で美しい体型になりたい人がよく通うセミナーだという。彼女の両親も肥満体型でとにかく痩せようと頑張っているのだが、
基本出不精であまり動きたがらない性格のせいで、なかなかダイエットが上手くいかないのに悩んだ結果、そのセミナーに一緒に通い始めたのだ。
「講師の人がね、すっごくイケメンで優しくてホント素晴らしいことを言うの!それが最高でね!」
「う、うん(単にその講師がイケメンでそれ目当てに行ってるだけじゃ・・・)」
カナミは内心呆れつつも、リナの話に相槌を打つ。
「ジョギングとか腕立て伏せみたいな面倒な運動無しで、食生活を変えれば普通に痩せていくって本当に楽でいいわー」
「(い、いやそれなりの運動も必要でしょ。普通に考えてさ)」
学校に着き、1時間目の授業は早速体育だった。体操服に着替えて運動場に出るが、リナの姿が見当たらない。
「あれ、リーちゃんがいない・・・」
よく見てみると、彼女はブランコに座ってのんびりと寛いでいた。
「おい森野、体操服に着替えないで何をしているんだ。忘れたわけじゃないんだろう?」
「うん、別に忘れてはないけど、これから体育の授業はお休みさせていただきます」
「何を言っているんだ?」
「ダイエットに無駄な運動は禁物だってセミナーで言われたんです」
「バカなことを言うな!」
体育の先生に怒られても一切動じず、リナは体育の授業に出ようとしなかった。そんな傲慢な親友の姿に、カナミは呆れかえっていた。
放課後のこと、公園にトラックの焼き芋屋さんが止まっているのを見て、リナが嬉しそうに駆け寄る。
「おじさーん!焼き芋4個ちょうだい!」
「リ、リーちゃん、確か今まで2個までだったでしょ?」
「焼き芋はね、栄養満点だからいくら食べてもエネルギーになるから大丈夫!」
「・・・・・」 【懲りない親友】(2/3)
家に帰ると、ケンスケが楽しそうに格闘ゲームの百人組手に挑戦していた。
「あと3人倒せばクリアだ!」
「ねぇケンスケ!」
急に声をかけられてビックリした弟はうっかりミスをしてしまい、98人目の敵に倒されてしまいクリア失敗となってしまった。
「お姉ちゃん、急に話しかけないでよ。あと少しだったのにさあ」
「ご、ごめん。あのね、協力してほしいことがあるの」
ケンスケに説明すると長めの黒いコートを羽織り、父のサングラスと母の帽子を借りて身につける。
「また探偵ごっこだね!」
「うん。まぁ、ごっこと言うほどでもないんだけど」
その日の夕方6時、カナミとケンスケは9時までには帰ると両親に告げると家を出て、リナの家の近くまで向かう。
電柱の陰に隠れて20分ほど経った時、リナが両親と一緒に家から出て行くのを確認し、気付かれないように尾行する。
リナ達が着いたのは町の公民館だった。ここでセミナーが開かれるようで、他に10数人ほど集まっている。
しばらく待っていると講師であろう若い青年が現れ、セミナーが開始する。
「いいですか。健康でスタイリッシュな体型を目指すには、栄養バランスの整った食事と適度な運動が重要なのです」
窓から覗いて講師の説明を聞いてみると、リナから聞いているのと全く違っていた。適度な運動が大事であるときっちり主張している。
よく見てみると、リナの瞳はハートになっており講師の話をちっとも聞いていない様子だ。
「リーちゃん、全然聞いていない。こりゃ講師がイケメンってだけで通っているようなもんね」
「かなりの面食いなんだね」
講師がイケメンなのに夢中になって、彼が言う事全てを違う方向に理解してしまっているという、何ともおかしなマインドコントロールに陥ってしまったようだ。
「またとんでもないことになりそうな予感・・・」
カナミの悪い予感は的中した。それ以来、リナはとにかく食べる一方で、ろくに体育の授業に出たりせずに運動を怠るため、また激太りしてしまった。
「リーちゃん、また・・・」
「あれ、私また太っちゃったかな。テヘッ!でもバランスの良い食生活を心掛けているから大丈夫」
特に酷いのが給食の時間だった。カレーの残りを独り占めしたり、余ったデザートをジャンケンで決めたりせずに勝手に奪う始末だ。
「森野のやつ、また変なものにハマってしまったのか?」
「うん、あのね・・・」
カナミはハヤトにセミナーのことを全て説明する。ハヤトも思わず呆れて、開いた口が塞がらなくなりそうだった。
「正直もう見てられないわ」
「でも、まあこの際何とかして助けようぜ」 【懲りない親友】(3/3)
放課後、カナミとハヤトは先生の許可を得て、理科室を利用してある物を作ることにした。
自宅の花壇に咲いてあるチューリップと、近くの店で買ってきたレモンを用意する。
図書室で借りた図鑑を見ながら、早速実験を始める。
「チューリップのエキスとレモンの果汁を混ぜれば・・・!」
持っていたフラスコからボンッと音を立てて煙が出てくる。香水の完成だ。
「完成!この香水を使えばリーちゃんの食欲を極力抑えられるはず!」
「これで森野を止められるといいんだけどな」
翌日、チューリップのエキスとレモンの果汁が混ざってできた香水をリナに渡す。
「リーちゃん、お腹が空いた時はこの香水の匂いを嗅いで!」
「うっレモンの香りがする!私、レモンとか梅干しとか酸っぱいもの嫌いなの!」
「いいから使って!」
リナが酸っぱい食べ物が苦手なことはカナミは知っていた。その匂いを嗅ぐことで食欲を抑えられる、と判断したのだ。
リナは言われた通り、食事の時間になるとその香水を嗅ぐ。最初は何が何だかよく分からなかったが、その匂いのおかげで自然と彼女の食欲は抑えられていった。
そのおかげで少しずつではあるが、リナの体型は元に戻っていった。
「あれ、体が前より軽くなった気がする」
「リーちゃん、食べるのもいいけど運動もちゃんとやらなきゃね」
しかし、終わり良ければ全て良し、というわけではなかった。その後、リナはワガママな理由で体育の授業をサボってきたため、
体育の先生に思いきり怒られてしまい、罰として校庭100周を毎日やらされるはめになってしまった。
「ヒィ、ヒィ!もう勘弁してー!」
「うるさい!今まで体育をサボった分を取り戻すまで許さないぞ!」
「そ、そんなぁ!」
必死に校庭を走るリナを見て、カナミとハヤトは思わずアハハと笑うのだった。 >>196
懲りないあの子が帰ってきたー
『百人組み手』の途中、おかしな『マインドコントロール』講師悪くないw、『理科室の実験』で『レモン』の香水
今回は平和な話w、しっかりオチまで付いて、めでたしめでたしでしたw >>199
感想ありがとうございます!
はい、あの懲りない子がまたトラブルを起こしちゃいましたw
あの食欲ぶりじゃまた何かやらかしてしまいそうですね、しっかり見張っておかないと(笑)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! それにしても過疎ですね・・・スレ8になって悪化しておる
枠が埋まるか分かりませんが、次はリレー企画をやっておこうと思ってます・・・ >>191
お題:『マインドコントロール』『百人組み手』『媚薬』『理科室の実験』『レモン』
【乙女心と春の空】
ゴロゴロと雷が鳴り、一瞬の稲光がその部屋の惨状を映し出す。一人の少女がゼイゼイと息を荒げ、手に持ったスチール椅子をガタリと落とした。
疲労感に膝をつく。かつて彼女が部活で行った、百人組手を終わらせた時さえ、ここまで疲れ切ってはいなかっただろう。
やや虚ろな瞳で部屋の中で倒れている男女を見る。
(やってしまった)
少女は、そう思った。
******
鼻唄を歌いながら、白衣の少女が人参を刻みレモンを絞る。ジューサーに牛乳を入れてそれらを混ぜ合わせると、小鍋に入れて火にかけた。
傍から見ている限りは料理でもしている様に映るだろう。ここが、理科室で無ければだが。
「ちょと、ミーナ!! 解いて!! ほ〜ど〜い〜て〜!!」
「……」
「ちょと、高梨、アンタもなんとか言ってよ!!」
「桧山先輩、仲代先輩が本気なら抵抗しても無駄ですから」
理科室の端には一組の男女の生徒が縄で縛られていた。女生徒の名は桧山 詠美。女子空手部ではあるが、白衣の少女、仲代 美奈代の幼馴染と言う事で、ちょくちょく彼女の“実験”に巻き込まれている薄幸の美少女である。
「ふっふぅ〜。エイミー、大丈夫だよぉ〜、ちょぉっとした実験に付き合って貰うだけなんだからぁ〜」
「それが嫌だって言ってんのよ!! てか、高梨、何でお前は平然と縛られてんのよ!!」
「いや、下手に抵抗するより、大人しく従った方が色々と良い目も見られますんで」
美奈代の後輩で同じ科学部の高梨 陽太は、縛られたまま諦観の籠った目でそう言う。
「だよねぇ、高梨君は良い子良い子!」
そう言って美奈代が陽太の頭を抱きしめながら良い子良い子する。意外に豊満な胸に抱きしめられた陽太は、鼻を膨らませ、濁った瞳でニヤケていた。
「ダメだ、こいつ、洗脳されてやがる」
「ぶ〜、誰も高梨君にマインドコントロールなんてしてないよぉ?」
確かに彼女にそんな気は無い。だが陽太は、実際“堕ちて”いるのではあるが。そこが天然ぽよんぽよん系女子である美奈代の恐ろしい所だろう。
その事実に、詠美は頬を引き攣らせる。
「って、言うか、無理矢理アタシを連れて来て、何しようって言うのよ!!」
「ぶ〜、わたしは無理矢理になんて連れてきてないもん!」
「あ、ホルマリンを嗅がせて、椅子に縛り付けたのはオレです」
「ちょ、犯罪!! てか、じゃぁ、何でアンタも縛られてるの!?」
「趣味です」
(ダメだ、コイツ何とかしないと)……詠美はそう思った。
「ふっふぅ〜。今日は媚薬の実験をします」
「は?」
「!!」
ガタッ!
「は〜い、高梨君は落ち着いてねぇ」
「え? いや、ホントに?」
「本当にぃ〜」
「え? 何で?」
「ふっふぅ〜、昨日、クッ〇パッ〇で、『自宅で簡単、媚薬レシピ』(注、有りません)って言うレシピ紹介を見付けたからぁ〜、やってみたくなっちゃってぇ」 【乙女心と春の空】 (2/3)
隣で鼻息を荒くする陽太からガタガタと距離を取りながら、詠美が顔を顰める。
「い、いやよ、そんな物の実験なんて、むしろ、自分で試しなさいよ!」
「う〜ん、それでも良いんだけどぉ、外から観察できないとねぇ」
「!!」
ガタタッ!!
「は〜い、高梨君は落ち着いてねぇ」
そう言いながら美奈代は、3種類の試験管を持って来た。一つは先程彼女が作っていた媚薬である。
「男の子用と女の子用があってねぇ? 男の子用はぁ、蜂蜜とワインを混ぜたものだから、味も良いんだけどぉ、女の子用は、ちょっと味はあんまりなんでぇ、自主的に飲んでくれると嬉しいかなぁ」
「絶っ対っ嫌!!」
「……桧山先輩、所詮は科学的根拠の無い代物です。ここはさっさと飲んで済ませてしまいましょう」
「ぶ〜、βカロチンとビタミンcの同時摂取で、女性ホルモンの分泌を増加させるんだよぉ! 科学的根拠は有りますぅ〜!!」
「……科学的根拠の無い代物です! さっさと飲んでしまいましょう!!」
「後ろでミーナが何か言ってるけど?」
「……科学的根拠の無い代物ですから!!」
キリリとした表情で繰り返す陽太だったが、しかし、彼の下半身を見る限り説得力は無かった。
「ムチャクチャ期待してんじゃないのぉ!!」
「ふう、我儘ばかり言って、しょうがない人だ」
「当然の主張だと思うけどぉ!!」
「ふっふぅ〜、大丈夫だよぉエイミー。別に危険な事なんて無いんだしぃ」
「アタシの貞操の危機なんですけど!?」
詠美がそんな事を言っていると、いつの間にか縄を解いていた陽太が、試験管の中のドロリとした液体を飲み干し、フシューと息を吐く。
「みなぎるるるるるぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ビキビキと体中の筋肉が膨張し、パンプアップを完了した陽太が、もう一本の試験管を手に縛られたままの詠美にニジリ寄って来た。
「ちょ、ミーナ! あれ、本当に蜂蜜とワインなの? なんか変な物混ざってない!?」
「う〜ん、プラシーボ効果かなぁ?」
「ふうぅ……桧山先輩、だあぁい、じょおおぉぉぶですよおおおおぉぉぉぉ、科学的根拠なんてありませんからああああぁぁぁぁぁぁ。もしあったとしてもおぉぉ……天井の染みの数を数え終わる前にいいいぃぃぃ、終わりますからあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
目を血走らせ、襲い掛かって来る陽太。
「何も大丈夫じゃないぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「エイミー! ファイトぉ!!」
「だまれぇ!!!! アンタって娘はああぁぁ!!」
さすがの美奈も一歩後退り、しかし、スマホを録画モードで起動していた。
陽太は詠美に媚薬を飲ませようと手を伸ばす。詠美は咄嗟に…… 【乙女心と春の空】 (3/3)
「!!」
「うっわぁ……」
足を延ばすと、陽太のウイークポイントを捻りを加えて蹴り飛ばしていた。
股間を押さえ、崩れ落ちる陽太。
「……縄、解きなさい」
「あ、はいぃ」
大人しく詠美の縄を解く美奈。
「…………」
「あ、あのね? エイミー、わたしもこんな事に成るなんて……」
「……い」
「え?」
「アンタはもうちょっと後先考えなさいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「ご、ごめんんなさいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
容赦なく詠美が美奈にチョップをかます。さすがに悪いと思ったのか、涙目で謝る美奈を前に、多少なりともスッキリとした詠美がため息を吐いた。そんな時だった。
ゴクッゴクッゴクッ……
三本目の試験管の中身を飲み干した陽太が、制服の上からでも分かるほど発達させた胸筋をピクピクとさせながら立ち上がる。
「ちょ、ミーナ、あれも媚薬なの?」
「え? うん、クミン、シナモン、コリアンダーなんかを混ぜたぁ、本命中の本命だったんだけどぉ」
「ふうううううぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
「な、何か変なオーラ出してるんだけど?」
「そ、そうだねぇ〜……」
「ちょ、マズくない?」
「プラシーボ効果かなぁ……」
二人が一歩後退ったその瞬間、陽太の制服が爆ぜた。
「ふしゅう」と言う呼吸音と共に、虚空に七つの星の形を描き出す陽太。
上半身は世紀末救世主、イヤ、性紀末吸精主の様に漲り、下半身は羅王、イヤ、裸王の如く漲っていた。
「絶対!! 媚薬じゃないでしょ!? あれぇぇぇ!!!!」
「……エイミー、ファイトぉ!!」
「アンタって娘はあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」
襲い掛かる猛獣。詠美の決死の抵抗が、今始まったのだった!
******
放課後になったばかりの時は晴天だったハズの空は、いつの間にか掻き曇り、稲光りがその部屋の惨状を映し出した。
一人の少女がゼイゼイと息を荒げ、手に持ったスチール椅子をガタリと落とす。
疲労感に膝をつき、やや虚ろな瞳で部屋の中で倒れている男女を見る。
「ひゃ、百人組手でだってこんなに疲れなかったのに」
少女は、そう呟いた。
こうして、詠美の乙女の怒りが炸裂し、悪は滅んだ。
詠美は、やってしまったと思いながらも、その心は晴れやかだった。 >>205
すみません、誤爆しましたorz
>>196
思い込みの激しい娘さんですね
思い込んだら一直線と言うか、視野が狭いと言うか
周りの言葉もちゃんと聞かないといけませんよねw >>191
使用お題→『マインドコントロール』『百人組み手』
【機知に富んだ達人ドン・タローツ】(1/2)
遠く東洋の神秘薫る地に一人のカラトマスターがいた。
「ではー、次の相手でー、九十七人目ですー」
「残り三……ではないな、四人か……」
広いドージョーの中。観客や関係者がコートを取り囲んでいる。その中心で対戦相手を待つ、この男。
「だが……残り何人であっても……俺に取っては同じことである……」
今は百人組み手と呼ばれる荒行の最終盤である。ここまで九十六人と対戦した男は、とっても疲れて、立っているのもやっとの様子である。
「相手が誰であれ……俺は勝つ……。全員に勝利した暁には……『<マスター東洋>ドン・タローツ』改め『<マスター世界>ドン・タロート』を名乗ろうぞ……!」
*
「モリー! 次はこのモリ、『<ネオヘーケ総統>ドンキー・モリージ』が相手だモリ!」
全身毛むくじゃらの怪人が現れた。顔も体も緑色の、異様な姿である。
「ふっ、モリよ……お前はもう負けている……」
「モリモリ。疲労で頭がおかしくなってるモリ。その回らない頭で、モリの前にひれ伏すモリー」
酔拳もかくや、ふらふらのドン・タローツに対して、元気一杯の怪人だ。これだけを見れば、ドン・タローツに勝ち目などないように思える。
「皇帝はマインドコントロールでモリの言い成りだモリ。モリは『<六波羅大要塞>グリーンヒルコ』も復活させたモリ。これで世界はモリに服従するモリー。世界征服だモリー♪」
普通に聞けば意味の分からない妄想だが、見るからにおかしな風体の人物が自信満々に言い切ると、そこには言い知れぬ説得力があった。
「ふっ、世界征服だと……? ふふふふ……ふははっ……ふははははっ!」
「モリモリ。いよいよ本当に頭がおかしくなったモリ」
観客の中には、モリージ勝利の雰囲気が広がりつつあった。だが、ドン・タローツは動じない。
「モリよ……<マスター東洋>をなめるでない……。タローツ拳法最終奥義『俺の両手から放たれる幻想破壊拳』で、お前のドリームは粉みじんだ……」
「モッ、モリモリ」
「おごれるモリも久しからず……。見よ……大要塞は……緑のジャングルに沈んでいる…………」
「モリモリ……」
「…………爆発ッ!!」
「モリーッ!?」
*
モリージを撃破したドン・タローツ。次なる対戦相手は。
「『<前回世界大会チャンピオン>イマナント』選手ですー」
馬っぽい顔の男である。過去には無敵を誇った大物だが、最近は音沙汰がない。
「これが諸行無常か……イマナントよ……お前はもう負けている……」
「今なんと?」
イマナントの『絶対恐怖反射』。相手は精神崩壊する。
「あらー? イマナント選手、反則負け、一発退場ですー」
最近のルール変更で、イマナントの必殺技、絶対恐怖反射は禁止されてしまったのだ。
「恐ろしい相手であった……」 【機知に富んだ達人ドン・タローツ】(2/2)
「次は……そろそろ……あいつか……」
「九十九人目はー、『<赤い主人公>スーパーハチベヱ』選手ですー」
全身が赤っぽい女である。
「タローツ様、次はわたくしがお相手いたします!」
「うむ……だがハチベヱよ……お前はもう負けている……」
「何を言っているでござ……おおっと、危ないところでございました」
二人は同じドージョーで修行する者同士であり、互いの手の内を知り尽くしていた。
「タローツ様。わたくし、昔のままのわたくしではございません。ここ数日間の修行で超進化を遂げた、華麗なる頭突きの技、とくとご覧あれでございます!」
言うとハチベヱは、目にも留まらぬ速さでジャンプし始めた。
「ここここれれれれがががが! わわわわたたたたくくくくししししのののの」
「ハチベヱよ、何を言っているのか分か……おおっと、危ないところであった」
「これが流派野牛究極奥義『頭突きでコインがっぽがっぽ』でございます。相手は粉みじんです」
ハチベヱは、勝利を確信した表情で仁王立ちした。
「さすがだ……さすがハチベヱ……だが……」
ドン・タローツは、懐から何かを取り出した。
「この現金が目に入らぬか……」
「それは……その紙幣の束は……!」
ハチベヱは降参した。
*
長かった闘いは、とうとう最後の一人となった。
「それでは百人目ですー」
「ふっ。このドン・タローツ、誰であろうと負ける気が…………っ! まさか……」
全身白っぽい女が入場してきた。
「まさか……まさかあなたは……」
もはやドン・タローツには何も聞こえなかった。言葉もなく立ち尽くし、その女の他には何も見えなくなった。
「あなたは……」
女は、ドン・タローツの前まで歩いてくると、そこで立ち止まった。
「あなたは…………!」
ドン・タローツは握手してもらった。
「ハクアたん……!」
試合には負けた。 こんなのしか出てこないw
作者的には書きやすい登場人物たちです・・・ >>208
惚れた弱みと言う奴ですね
他には果たしてどんな相手が居たのか? 気になりますw お題→『マインドコントロール』『百人組み手』『媚薬』『理科室の実験』『レモン』締切
【参加作品一覧】
>>196【懲りない親友】
>>202【乙女心と春の空】
>>208【機知に富んだ達人ドン・タローツ】 では一応リレー企画ですが、お題は普通に5つです
お題安価>>214-218 ☆お題→『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』『転校生』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→5/24の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 【リレー企画の参加者を募集します】
・定員は3名で、早い者勝ちです
・今回お題から各自1つ以上選択します
・企画参加作品の締め切りは、企画の成否にかかわらず、2週間後とします
参加希望の方は、ポジション【1/2/3】のいずれかを明記の上、このレスに安価してください
・ポジションが取れ次第【1】の方は書き始めて頂いて結構です
・作品のタイトルは【1】の方が決めてください
・投稿の際【リレー企画:作品のタイトル(1)】のように、企画作品であることを明記してください
・【1】【2】の方は、次の方のために、自分の担当レスの提出予定日を宣言してください 今回のお題も、結構調子良く集まりましたね・・・ありがとうございます
作品も感想もありがとうございます
リレー企画もよろしくですー >>202
勢いと内容・・・w
『理科室の実験』で『レモン』を絞って作った『媚薬』、『マインドコントロール』された後輩、『百人組み手』よりも疲れた・・・
面白かったけどコメントしづらいw、一応、普通にお題を足し合わせれば出てくる話・・・のはず?w
>>211
感想ありがとうございます
きっと訳の分からないやつらですw >>222
感想、有り難うございます
最初に書いたのは、もっとノクターン寄りなお話でしたのでw >>206
感想ありがとうございます!
今回はまた傍若無人な小6女子の仕業か、と思いきや本人がただ暴走しただけでしたw
またトラブルを起こした時、ちゃんと止められるのか正直不安でございます(笑)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! >>219
使用するお題→『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』
【金物屋の美女】(1/3)
さすらいの女ガンマン・シンディは今日も愛馬のサンセットに跨り、広大な荒野の中を颯爽と駆け抜けていた。
途中、川辺を見つけ、そこで休憩することにする。土埃や泥で汚れたサンセットの体を綺麗に洗った後、シンディは草の上に寝そべる。
すると、ふとブーツの拍車を目にやる。その銀色の拍車は、旅に出始めてから長いこと使い込んでいたため所々錆や傷が目立ち、歪に変形していた。
「そろそろ新しいのに変えた方がいいわね。次の町に金物屋はあるかしら?」
とりあえず少し居眠りして体を休ませると、再びサンセットに跨って走り出す。
2時間ほど走っていると、ようやく町に辿り着いた。しかし、その町には人らしい人がおらず、ゴーストタウンと化しているようだ。
「なんか気味が悪いわね。本当に幽霊でも出そう」
しばらく探索していると、金物屋らしき店を見つける。
ラッキー!とシンディは思いつつも、一応扉をノックして確認する。しかし返事は来ない。
扉を開けて、こっそりと金物屋の中に入ってみると、たくさんの金具や器具がビッシリと揃えられていた。
「やけに品揃いの良い店ね」
新品の拍車は無いかと探していると、突然女の声が聞こえてきた。
「誰かいるのかしら?」
その声にビクッとしてシンディは一瞬立ち止まる。するとカウンターの奥から、一人の黒い長髪の美女が姿を現した。
「ゆ、幽霊!?」
「失礼ね、ちゃんと生きてるわよ」
「か、勝手に入って悪かったわ。ノックしても返事が無かったらつい・・・」
「別に気にしなくていいわ。私はこの金物屋の支配人をやってるエリィよ」
「私はシンディ、さすらいの旅を続けるガンマンよ。どうぞよろしく」
エリィと名乗るその女は、8年ほど前にこの町に来て金物屋の営業をスタートしたのだ。
その時は人が多くて賑やかだったのだが、次第に他の町との交流が少なくなると同時に去る者も多くなって廃れていった。
今、この町に住んでいるのは彼女だけなのだ。
「今、まともにあるのはこの店だけね。でも久々に客が来てくれて嬉しいわ、何か欲しい物があったらどれも安くするわ。大サービスよ」
「新しい拍車が欲しいの。長いこと酷使させちゃって、もうボロボロなの」
「それなら良いのがあるわ」
そう言ってエリィが持ってきてくれたのは、金色に美しく光る拍車だった。
「これは天然の黄金を加工して作られた、世界にたった一つしかない特別な純金製の拍車よ」
「こんなに美しい拍車、今までずっと見たことない・・・」
「非常に丈夫で、ちょっとやそっとでは絶対に折れたり傷ついたりしないわ」
「その拍車欲しい!いくらするの?」
「本当は3000ドルはするんだけど、1000ドルにまけるわ」
「よし買った!」 【金物屋の美女】(2/3)
シンディはその黄金の拍車を早速購入し、ブーツの踵に装着する。しっかりと丁寧に加工された純金製で軽く、足にあまり負担がかかることがなかった。
「これすっごくいい!ありがとうエリィ!」
エリィに感謝し、1000ドルを払って店から出たその時、雷がゴロゴロと鳴って雨がザーザーと降り出してきた。
「これじゃあ今夜は嵐ね。今日はここで泊まっていくといいわ」
シンディは今夜はこの金物屋で一夜を明かすことにした。エリィの作ってくれた美味しい料理を楽しんだ後、
今は使われなくなった寝室のベッドを使わせてくれることになり、そこで寝ることになった。
ベッドに寝転んだその時、床に一枚の紙が落ちているのに気付き、拾い上げて見てみると、それは手配書で、エメット・コッパーという名前の男の写真があった。
そのエメットという男はとても中性的な容姿をしており、女と見間違えるほど美しかった。
「なんかこの男、エリィと結構似てる。もしかして・・・」
翌朝、シンディは店を出る前に思いきってエリィに話しかけてみた。
「あ、あのエリィ、昨日の夜にこんな手配書を見つけたんだけど」
「そ、それは!!」
「何か心当たりはある?」
エリィは全てを話すことに決めた。
「その手配書にあるエメットって男は私のことなの。エリィというのは偽名なの」
エメットはまさにエリィ本人だった。
エメットはアメリカの遥か南部に位置する、ある国で家族と一緒に平和に暮らしていたのだが、
突如現れた数百人にも及ぶ無法者集団の手によって無残に国を滅ぼされてしまったのだ。
家族どころか住人は全員虐殺されてしまい、命からがら逃げたエメットが唯一の生き残りとなったのだ。
難民となったエメットは髪を伸ばし、女言葉を使ったりして女を装い、名前も変えて追っ手に狙われないように逃げてきたのだ。
そしてこの町に辿り着き、金物屋としてなるべく目立たないように生きてきた、というわけだった。
「・・・ということなんだ。お願いだからこれは誰にも言わないで!」
「心配しないでエリィ、いやエメット。絶対に誰にも言わない。そもそも、あなたは何も悪いことをしていないのよ」
突然、一人の大男が扉をバンッ!と乱暴に蹴り開けて中に押しかけてきた。
「おぅエメットじゃねえか!やっと見つけたぞ!」
「ち、違う!私はエメットじゃない!エリィよ!」
「うるせえ!バレバレなんだよ!」
男は乱暴にエメットの胸ぐらを掴んで持ち上げる。 【金物屋の美女】(3/3)
「ちょっと!彼に手を出さないで!」
「ん?てめえはシンディじゃねえか!よくも俺の仲間や傘下を潰してくれやがって!」
その男の名はジャーヴィス。かつて一大勢力を築いていた無法者集団の一角を担っていた「ロッテンクロウズ」のボスだったが
しかしシンディによって壊滅してしまい、今は賞金首として狙われる日々を送っているというわけだ。
「この際だからエメットも一緒にてめえも地獄に送ってやるぜ!」
ジャーヴィスはどこからともなく導火線に火のついたダイナマイトを取り出し、店の中に放り投げた。
ドカン!と凄まじい爆発音と共に、エメットの金物屋は跡形もなく吹き飛んでしまった。
「よくもこんなことを!」
怒り狂うシンディが銃を取り出した瞬間、ジャーヴィスはナイフを取り出してエメットの心臓を勢いよく刺した。
グハッ!とエメットは吐血し、そのまま倒れてしまった。
「今度はてめえの番だ!シンディ!」
シンディは突進してくるジャーヴィスに向かい発砲しようとしたが、弾切れを起こしており、撃つことができない。
「しまった!弾の補充をすっかり忘れてた!」
「銃のないガンマンなんて、ガンマンと呼んでもいいのか?フハハハハ!!」
すると昨日、エメットから買った黄金の拍車の存在に気付く。
「これがあった!」
「死ねえ!シンディ!」
シンディはジャンプしてジャーヴィスの攻撃を回避すると、そのまま踵落としするかのように彼の脳天に勢いよく拍車を当てる。
「ぐ、ぐわあ!!」
ジャーヴィスが頭から血を流して倒れた瞬間、持っていたナイフを奪って彼の首をグサッと突き刺す。
「エメットが味わった痛み、あんたも味わいなさい!このクズ!」
そのままジャーヴィスは大量出血して息絶えてしまった。彼が死んだことを確認すると、シンディは急いでエメットの方に駆け寄る。
「エメット、しっかりして!」
「シ、シンディ、そ、その拍車大事にしてね。あ、あなたを、す、救う強い味方となるわ・・・」
エメットはそのまま力尽きて死んでしまった。シンディは吹き飛んでしまった金物店の近くに、エメットの墓を立てた。
「エメット、あなたの分まで私は強く生きる。この拍車も大切にするわ」
シンディはそう強く誓うとサンセットに跨り、再び旅に出るのだった。 >>225
理不尽さを己が力で捻じ伏せるのが荒野の掟
強きを挫き、弱きを踏み付ける西部では、ただ儘に生きる事も難しいのですね >>225
相変わらず絶好調ですねぇ
『変形』した拍車、『金物屋』の美女、『難民』で『女言葉』
このシリーズらしい無常の世界、、って言うかほんと行く先々で潰した悪党と出会いますよねw >>228
>>229
感想ありがとうございます!
そうですね、悲しいですがこの弱肉強食といえる西部で力無き者は容赦なく潰される一方です
確かにシンディに壊滅されたにも関わらず運良く?生き残っているボスがやたらと多いですねw
今までのを改めて読み返してみると、あまりにも無法者が多すぎて「あ、こんな奴いたな」状態です(笑)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! 静か過ぎてつらいw
リレー企画も駄目っぽいしー
いつまで続く閑散期、、って感じですね>< 雑談は他のスレでも事足りるからなぁ…
じゃあいくつか質問
@ここは短編スレだけどみんなは普段長編書いてるの?
A普段書いてるのはどんな話?
B創作のインスピレーションは何処から得ている?
C思いついたアイデアをどういう手順で作品に反映している?
Dコロナ禍で創作活動にどんな影響があった?
自宅時間が増え筆が乗ったり、取り扱う題材に変化があったり、同人イベントが中止になったりと変化はあった? >>233
自分で答えるなら
@No 短編オンリー
A普段はシリアスな話を書いてる。ジャンルは難しいが現代劇とSFが多いかな?SFはハードなものじゃ無く星新一的な少し皮肉の効いたものを目指してる。
B現実のニュースや映画、ゲームなど映像媒体の影響が強い気がする。逆に小説や音楽などにはあまり触れない。書く題材にもよるが実体験もほぼない。
C日々の生活の中で突然、設定やシーンなど断片的なアイデアが沸いてくるのですぐにそれをメモ。ニュースや映画を見ていて面白いと思ったこともメモ。そうしているうちに自然と自分の中で断片的なアイデアが結びついてくるのでそこから話を膨らませている。
D自宅待機とは無縁の立場でむしろ以前より忙しくなってしまった。ここ3ヶ月ほどはろくに筆を取っていない。 >>233
自分ですと……
@長編も書いてます。と言うか、書き溜めてはいます
Aコメディー寄りのストーリー物を……基本的にはハイファンタジーです
Bおそらく、今まで読んだ小説やマンガなどから。ただし、自分は思考が突拍子も無いと言われますから、色々混ざっているのかと思います
Cお題を頭の中で転がしていると、それを使ったシーン等が浮かんでくるので、それに肉付けする感じで広げて行きます
D特に休みが増えたりした訳では無いので、あまり変化は有りません
こんな感じですね >>233
レイチェルシリーズの者です。私ですと…
@長編はかなり書いてますね
A基本的にドタバタ日常コメディ中心、時々シリアスなアクションといった感じです。
頑張るお姉さんとか姉弟ものを書くのがとにかく大好きです
Bやっぱり好きな映画やゲーム等からですね
C上手く言えないのですが、そのキャラの性格をなるべく崩壊させないように
思いついたネタを迷わずどんどん盛り込んでストーリーを展開させています。
D普段から特に休みが多いというわけではないのですが、面白いストーリーを思いついたら
とにかく空いた時間を利用してサクサクッと勢いが落ちてしまわないうちに書くのを心掛けています
簡単な説明でしたが以上の通りです >>233
雑談助かるー
@書いてない、、書けてないw
A書けてないw、自分で思ったのは、不条理やナンセンスが好きみたいです
Bお題や他作品、なろうテンプレ、ゲーム、アニメ・・・実体験は僅かに、映画や漫画はあまり
C大枠はパ、、パスティーシュが多いので・・・細部もBの組み合わせか、その派生が多いはず
Dあまり変化なしです >>191
前回お題作品です
使用お題→『媚薬』『理科室の実験』『レモン』
【愛にあふれた令嬢ハチベーヌ・ヤギュー】(1/2)
遠く学園ハーレムラブコメのナーロッパ世界に一人のヒロインがいた。
「これで……このレモンの香りで味をごまかすでございますよ……」
ここは学園の理科室。制服の上に白衣をまとった少女が、何やら怪しげな液体を調合する真っ最中である。
「……ふぅ。疲れたでございます。ですが休んではいられません」
彼女の他に人影はない。これは秘密の実験、内緒の薬である。
「これをタローテ様に飲ませて、そのご寵愛(ちょうあい)を独占するでございますよ……!」
*
ハチベーヌ・ヤギューは子爵令嬢である。彼女の家は子爵家の親戚で、彼女自身は庶民であった。
子爵家には跡継ぎがなかった。このままでは爵位も財産も取り上げられてしまう。それで養子を取ることとなった。そうして選ばれたのがハチベーヌである。
跡継ぎの地位に納まったハチベーヌは、色々あって、良家の子女が通う学園に潜り込んだ。そこで彼女は運命の出会いを果たす。その相手たる人物こそ、彼女の同級生、タローテ王子であった。
「ふっ、王位など下らん。俺は冒険者になるぞ! ハチベーヌ!!」
尊大な物言いをする男。浮世離れしている。頭がおかしい。それが周囲の彼に対する評価だった。
その評価自体は間違っていない。ハチベーヌ自身も、出会った当初は、身分が高いだけの不審者だと思っていた。
「ハチベーヌよ、今日は遺跡の探索だ! うおおおお! 冒険王に……いや、王ではない。冒険魔王……冒険勇者……神…………そう、冒険ゴッドに、俺はなる!!」
彼が何を言っているのか、ハチベーヌには分からなかった。だが、引っ張られて一緒に行動する内に、ハチベーヌの考えは変わっていった。
「ここが遺跡の最奥部だ……。ハチベーヌよ、頭上に気を付け(頭をぶつける音)いってーっ!」
この男は、将来本当に冒険ゴ……有名な冒険家になるのではないか。そして一杯お金を稼ぐのでは。もし違っても王子なので、生活に困ることはない。
中身が庶民のハチベーヌは、子爵家の財産のことなどすっかり忘れている。
「……恐ろしいわなであった…………っ! あれは……なんだ?」
ハチベーヌの将来が定まった。
*
王子の評判は相変わらずである。相変わらずであるはずなのだが、彼の周囲には、なぜだか女性が集まるようになった。
「今なんて?」
王子とハチベーヌが遺跡で発見したのは、古代文明のホムンクルスだった。
彼女、つまり女性型であるホムンクルスは、今やタローテ王子と同居している。こうなるとハチベーヌは気が気でない。
頭が少し縦長であるものの、人間では有り得ない美貌である。十人並みの容姿を自覚しているハチベーヌには到底太刀打ちできない相手だ。
「今なんて?」
少し耳が遠いようだが、そんなことは問題ではない。ハチベーヌに取っての脅威、第一号である。 【愛にあふれた令嬢ハチベーヌ・ヤギュー】(2/2)
「タローテ殿下、モリーと勝負するモリですわ!」
脅威、その第二号は、悪役顔の公爵令嬢である。
「今なんて?」
「あなたではありませんモリ! モリーは殿下とお話ししているモリですわ!」
学業において、王子もハチベーヌも平凡な成績であった。一方、全教科で常に学年トップという、奇特な人種も存在する。それがこの、語尾のなまった変な女である。
「モリーは、常に一番たれ、下々の鑑(かがみ)たれと、そう教えられて育ってきましたモリ……。そんなモリーが、殿下みたいな……失礼……失礼ですが殿下みたいな人間に負けるなど、あってはならないモリですわ!」
話を聞くに、どうも二人は幼なじみらしい。
自由過ぎる王子と、まったく自由のない公爵令嬢。
血筋を嫌う男と、逆にそれを誇る女。
凡人と秀才。
二人は水と油だった。そして最近まで、二人の関係は、王子が下で彼女が上だった。
「モリーよ、何度言えば分かるのだ。あれはまぐれだ。俺が適当に書いたのがたまたま正解で、お前は風邪を引いていたではないか」
たった一度、テストで負けた。それが彼女の自尊心を傷付けた。王子も彼女自身も、そう思っている。
「モリモリモリモリモリ! 言い訳無用モリですわ! 今だって女をはべらせて、モリーを馬鹿にしてるモリですわ!!」
この場で一番の長身はホムンクルスである。次が王子、その次が公爵令嬢、最後がハチベーヌだ。
多分。昔は彼女の方が見下ろしていた。それが逆転されつつある。
「モリーは……モリーは、殿下には負けないモリですわ!」
*
ホムンクルスも公爵令嬢も、恐ろしい相手なのは間違いない。だが、本当の脅威は他にあった。
「ああ……ハクアたん……」
王子の視線の先には、透明感のある美少女。
「ハクアたんとお話がしたい……俺だけのハクアたんになってもらいたい……」
学園一の美少女が、友人たち(全員それなりに美少女である)と談笑している。
「今なんて?」
「あんな素性の知れない女の何がいいのかモリですわ!」
外国の王族か、成り金の子弟か、それとも誰ぞの隠し子か。その身分は伏せられていた。
「あっ、ハクアたんと目が合った! 手を振ってくれた! ハクアたん……!」
ハチベーヌの不安は募るばかりである。
*
この三人の他にも、潜在的な脅威は存在している。例えば保健室の美人な先生。タローテ王子に対して妙に優しい。
「いつでも入信お待ちしておりますー」
優しい理由はよく分からないが……。ともかく、王子はモテモテであった。
*
そしてここは理科室。ハチベーヌ一人だけである。
「…………これで完成……媚薬(びやく)の完成でございますよ……!」
図書室の片隅に古びた本があった。それに載っていたレシピ通り……には、材料がなくて無理だったので、ハチベーヌなりにアレンジした。
「完成はしましたが、いきなりタローテ様に使って、何かあってはまずいでございます。どういたしましょうか……」
ハチベーヌは頭を悩ませるが、何一ついい考えが思い浮かばない。
やがてハチベーヌは、疲れていたのか、眠ってしまった。
学園の生徒たちの声が遠く響く。
「ハチベーヌ様……? あどけない寝顔モリですわ。……モリモリ? これはなんでしょうかモリ。少しくらい味見してもばれないモリですわよね?」
「…………うしし……タローテ様……はっ! モリー様!? 駄目です、それを飲んでは! ……モリー様? モリー様!?」 できれば今回お題でも書きたかったけど、さすがに無理でした・・・>< >>219
お題:『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』『転校生』
【第8王子の錬金術】(1/4)
「ノイン殿下につきましては、ご機嫌麗しく、御尊顔を拝謁する事、誠に光栄に存じます」
「堅苦しい挨拶は良いよ、こんな早朝からここに来たって事は、お願いした物が出来たって事?」
「はい」
僕の目の前に居る男は、慇懃な態度で首を垂れる。王宮内の僕の私室にまでは入れる相手なんて殆ど決まっているけど、彼はその内の1人。金物屋のベルサ・オールゴーユ。
金属関係なら何でも取り扱っている商人で、信用の置ける相手の1人だ。
今日、彼が僕の所に来たのは、前々から僕が頼んでいた“とある物”が完成したからだ。
チラリと視線を送り、彼の部下が“ソレ”を僕の目の前に持ってくる。
僕は思わずニヤリと笑みを浮かべ、それを手に取ると、早速試してみようとソレを前にかざす。
しかしそこに、鈴の音の様な凛とした声が割って入った。メイド長のエリィだ。
「……ご満悦の所申し訳ありません、ノイン殿下。そろそろ登校のお時間です」
「…………もう少しだけ、待てないかな?」
「ダメです」
「………………分かった」
僕は大きく溜息を吐くと、ベルサを下がらせ、待機していた侍女達に支度をさせる。これから早速“試してみよう”と思ったのだが、どうやら、学園からかえるまでお預けの様だ。
******
僕等の暮らしているアスタール王国は、自然に恵まれた小国の一つで、連なる山々から採れる鉱物資源や岩塩の輸出で成り立っている。
そんなお国柄のせいか、鍛冶に従事する者や、加工された商品を売る金物屋なんかの数も多い。
特に、鉱物資源として『魔鉱石』や『魔晶石』と言った魔法鉱物の産出も多い為、それらを使った商品の研究開発も盛んだ。
僕は、そんなアスタール王国の第8王子、ノイン=スフェルティア・フォン・アスタールとして生まれて来た。王族ではあれど王位争いからは程遠い。
そんな身分であり、例えコネを利用できたとしても、精々王宮騎士の部隊長か宮廷魔導士地位に捻じ込めるかと言った程度の、まぁ“利用価値”の薄い王子な訳だ。
とは言え、王子は王子。それなりの生活はさせて貰ってるし、王様……僕の父上にも、程々に目を掛けて貰ってる。
とは言え、王位継承権の低い僕は、兄さん達の様に家庭教師を付けて貰える訳でも無く、こうして普通に王立学園に通わせられ、まぁ、適当な上級貴族の所に婿入りできるだけのコネを作らされてる訳だ。
「はぁい! 静かにしなさい、ホームルームを開始するわよ!」
クラス担任のカーミュラ・ゼウン先生がパンパンと手を叩く。先生は男性では有るけど、貴族女子も所属する王立学園に赴任するにあたり、男性機能を失わされた人で、そのせいか中性的な美貌を備えている。
その為、クラス女子は元より、クラス男子にも人気のある先生なんだけど、これって、逆効果だったんじゃないかな? って時折思う。
「はい! 今日は転校生を紹介するわよ!」
カーミュラ先生がそう言うと、褐色の肌の、束ねた銀髪を揺らした少女が教室に入って来た。 【第8王子の錬金術】(2/4)
「エベルーツ王国、第3王女、シュリー・カウペック・マギラ・エベルーツです。短い間ですが、よろしくお願いします」
彼女の自己紹介に、教室内が騒めく。
当たり前だ。エベルーツ王国は、つい先日、ガルッツェ帝国に落とされたばかりの同盟国なのだから。
ガルッツェ帝国はこの辺り一帯で最も力の強い国で、その軍事力も頭一つ飛び抜けている。
アスタール王国とエベルーツ王国は同盟国とは言え、海を挟んでいる為、派兵こそ出来なかったけど、その分、食糧支援等はしていた。真逆であるアスタールから、国境際での軍事演習などで圧力をかけたりとかね。
だけど、そんな支援の甲斐もなく、開戦したガルッツェ帝国は圧倒的軍事力を見せつけ、エベルーツ王国を攻め、そして王都マギラは陥落したと聞いている。事実上の敗北だ。
ガルッツェ帝国は苛烈な軍事政策をしていて、敗戦国なんて言ったら、男は労働奴隷として最前線へ送られ、女子供も戦争奴隷として使い捨ての労働力とされる。
その為、今はエベルーツから、すごい勢いで難民が国外へ脱出している。
確か、家の国も貿易船を利用しての難民受け入れが始まっていると言っていたはずだ。
だけど、彼女はこの場で自分の事を『エベルーツ王国第3王女』だと宣言して見せた。
これは、まだ王家は存在していると、自分達はまだ負けた訳では無いと宣言しているに等しい。
周りが騒めくのも無理はない。
彼女は、これからも戦争を続けると言っている様な物なんだから。
「えっと、そのじゃぁ、ノイン殿下、このクラスでのカウベック様の面倒を見て差しあげて下さる?」
この時の僕の顔は形状し難い物になっていただろう。
確か、事前に話しを聞いていた限りでは、彼女は亡命者である事を受け入れており、待遇としては公爵家令嬢相当となっていたはずだからだ。
その為、彼女のエスコート役はミュンハウゼン公爵令嬢のリリエルが行う事に成っていたのだが……
リリエルも困惑した様子で僕の方をチラチラと見る。
しかし、彼女が王女であると宣言をしている限り、王族のエスコートになる為、王族か受け持たなければならない。
つまり、シュリーは、王族である僕がこのクラスに居る事を分かっていて、名乗ったと言う事だ。
おそらく、この国の王族と積極的に繋ぎを作る為に。そして、この国を戦火に巻き込む為に。
……全く、厄介な事をしてくれる。
******
「……何でついて来るのですか?」
「あら、貴方が私の世話役なんでしょう? なら、色々と案内して下さらない?」
放課後だと言うのに、僕はシュリー王女に付きまとわれていた。僕としては早くアレを試してみたいと言うのに。
彼女の考えは分かって居る。なるべくこの国の王族と懇ろな所を見せ、ガルッツェ帝国に攻め込む理由を作りたいんだろう。
だが、彼女のこれは、分の悪すぎる賭けだ。確かに戦争に於いて王族を根絶やしにする事は後々の禍根を打ち消す為に必要な事であり、シュリーがエベルーツ王族を名乗る限り、ガルッツェ帝国は我が国に彼女の引き渡しを要求して来るだろう。
確かに、この状況でシュリーを引き渡す事は、国家的に弱気な姿勢と取られかねない。つまりは実質的な属国宣言だ。
だが、あまりに彼女が強引に事を進め様とすれば、必ずこの国の貴族連中からの反発を生み、人身御供の様に引き渡されかねない。
実際、現状でもかなり不味い事をしている。
「……世話役と言っても、学園内の話です。第一、自分と貴女はそれ程親しくはないはずですが? カウベック嬢?」
「あら、私は貴方と仲良くしたいですわよ? ええ、とっても」
その物言いに僕は眉を顰めた。
「貴女は!!」
「何かしら?」 【第8王子の錬金術】(3/4)
そう言ったシュリーの瞳の奥に渦巻く、濁った昏い劫火を見た僕は、思わず息を呑んだ。
(ダメだ。この人は自分の復讐が成るのなら、ありとあらゆる物を犠牲にしても良いと思ってる)
そう、それこそ、他の国の国民の命でさえもだ。
「貴女は危険だ」
「そうかしら? 危険なのは、あの帝国の野心の方じゃなくて?」
それも確かだろう。おそらくガルッツェ帝国は侵略戦争を止める事は無く、そして今、最も次の候補として高いのは、我がアスタール王国だ。
だからと言って……
「世間知らずの王女様の破滅願望に付き合わされたくはないのですよ」
「誰だ!!」
僕の誰何に、黒ずくめの男が出てくる。
「第8王子につきましては、ご機嫌麗しく」
「……影か」
「御意」
アスタール王国諜報部隊。通称『影』。
アスタールにおける情報収集や操作、そして、後ろ暗い任務をこなす者達。
成程、シュリー王女の言動を危険と感じ、『修正』する為に来た……と言う所か。
「殿下、何も見なかった事にして、この後の事は我々にお任せを」
「う、うそ」
シュリーの顔が青ざめる。実質、この国からも見放されたのと同義な訳だから無理も無い。
「待ってくれ! 彼女はまだ心の整理がついていないだけだ!」
「だとしても、それが許される立場ではありません」
「分かって居る、だが、ここは僕に任せて貰えないか?」
復讐に逸る彼女の気持ちも分かる。理不尽に戦争を吹っ掛けられ、家族を失ったのだから。
それに、まだ彼女は14才の少女でしかない。第3王女だと言うなら、なおの事、政治に立ち入らせてはもらえなかった筈だ。
なら、彼女は何も知らぬまま、突然すべてを失ったに等しい。心の整理を付ける為の時間が足りなすぎるんだ。
「……立場が、許さないと言ったはずです」
「今朝の発現かい?」
影が首肯する。彼女にしてみれば決意表明だったのだろう。しかし、この国の反戦争派にとってはガルッツェ帝国に対する宣戦布告にも等しく聞こえたはずだ。危険視するのも分かる。
それでも、僕はシュリーには時間が必要なのだと思う。
「だとしても、だ、今は彼女を渡せない」
「……殿下を傷つけたくは無かったのですが……」
そう言うと、影の気配が分散する。いや、潜ませていた他の影が気配を隠すのを止めたのだろう。
この人数差と実力差なら、すぐに僕を組み伏せると踏んだんだ。
だから僕は、腰に佩いていたソレを目の前にかざす。
「何、を?」
「無駄な足搔きさ……『開け!』」
僕がかざした豪奢な造りの太刀が、展開し、変形する。ソレは僕の身を包み、蒼い鎧へと姿を変えた。 【第8王子の錬金術】(4/4)
「な!」
刹那の隙。僕は身に纏った魔導鎧の出力を最大にして、一人の影に体当たりをした。
続けざまにその隣にいた影に蹴りを入れようとするも、それはすぐに躱される。
「流石と言っておきましょうノイン殿下。やはり、爪を隠しておられたのですね」
「……良いから、掛かって来なよ」
「御意」
例え魔力によって身体能力を上げられる魔導鎧を着こんでいたとしても、基礎能力が違い過ぎた。
最初こそ攻撃を捌いていたけど、次第にそれもままならなくなってくる。
容赦ない攻撃を全身に叩き込まれ、遂に僕は膝をついた。
「天才……と言う言葉は殿下の為に有る様な物ですね」
僕を見下ろす影が、そんな賛辞を送って来る。彼の声に蔑みの色は無い、たぶん、本当にそう思っているんだろう。
「ふふ」
「殿下?」
「良いのかい? そんな余裕を見せてても」
「何ですと? ……!!」
どうやら、彼等にも周囲のざわめきが聞こえて来た様だ。ここは学園の人気の無い場所とは言え、決して人が通らない場所と言う訳じゃない。
時間さえ稼げれば、人通りはあると踏んだ、僕の予想通りだ。
「成程、やられましたな。ここは、殿下の心意気に免じ、見逃しましょう」
「うん、そうしてくれると助かる」
僕がそう言うと、影の1人が前に出る。
「……良いのですか?」
「良い、それとも殿下の面目を潰すつもりか?」
「……いえ」
シュリーをかばう様に前へ出た僕を見て、その影も大人しく引いてくれる様だ。
「ここは引きます、ですが……」
「分かってる」
僕がそう言うと、影達は引いてくれた。全く、高い貸だ。
魔導鎧の鎧化を解くと、変形し、元の太刀形態に戻る。
いくら、鎧を付けていたとしても、良い様に攻撃を受け過ぎた。僕は思わず膝をついてしまった。
「……あ、貴方、なぜ」
「巻き込んだ君が言うのかい? 少し冷静に成れたようだから言っておく、君がやろうとしたのは、これだ。理解してくれ」
「うっ」
「よく考えるんだ、本当に、胸を張れるやり方なのかどうかをさ」
「……」
シュリーが黙り込む。彼女だって、今のやり方が正しいなんて思っていなかったんだろう。だけど、それ以外のやり方を思い付かなかった。そう言う事だ。
「もし、君が納得が行く、胸を張れるやり方を思い付いたら、僕に言って欲しい」
「え?」
「それが、共感できる方法だったなら、僕も手を貸そう」
その答えを聞いて、シュリーは涙を流した。
先の事は分からない。だけど、この時、僕は長く続く戦いへの道へと一歩踏み出したんだと、確かに思った。 お題→『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』『転校生』締切
【参加作品一覧】
>>225【金物屋の美女】
>>241【第8王子の錬金術】 では通常お題5つですー
お題安価>>248-252 ☆お題→『誕生日』『たこ焼き』『ダブルミーニング』『女装』『過疎』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→5/31の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 お題の集まりが良過ぎる・・・!
なんでや・・・!
ともかく、引き続きお題スレをよろしくですー これ言ったら負けなんだけど、ほならねw
>>241
超大作が来てしまった・・・!
朝から『金物屋』、『女言葉』の先生、『転校生』の『難民』王女、『変形』するアレ
なるほどお題から生えてきた感、なんか書いちまった感がありますねw >>238
キャラクターの女体擬人化ですねw
主人公は主人公と言うだけでモテる理不尽が
>>256
感想有り難うございます
何とか3レスに納めたかったのですが……
これでも700字近く削ったのですが、これ以上は無理でした(色んな意味で) >>257
感想ありがとうございます
内実は数合わせですがw >>253
使用するお題→『誕生日』『たこ焼き』『過疎』
【懐かしのシチリアへ】(1/2)
※スレ6 943【とある教会での出来事】及びスレ7 284【夢は決してあなたを裏切らない】を先に読んでおくことをオススメします
「ハッピーバースデー!ライアン!」
「おめでとうライアンさん!」
「アハハ!ありがとうレイチェル、それにジュディ」
今日はライアンの誕生日だ。そんな彼のために、レイチェルとジュディは一緒に手作りのバースデーケーキを作ったのだ。
「ケーキすっごく美味しい!最高だよ!」
「私とジュディの愛が詰まってるから当然よ」
無我夢中にケーキを頬張るライアンを見て、レイチェルとジュディはニコニコ笑う。
「映画の撮影も順調でさ、一週間ほど休みをもらったんだ。久々にあそこにちょっと旅行しないかい?」
「あそこって?」
「シチリアだよ」
シチリア、その言葉にレイチェルとジュディは思わずハッとする。
シチリアで10年以上楽しいレストラン生活を送り、この生まれ故郷アメリカに帰ってから早くも4年が経過していた。
「シチリア・・・懐かしいわね。行こうライアン!」
「うんうん行く行く!!」
「OK!じゃあ明日、早速飛行機のチケットを予約しておくよ」
2日後、飛行機に乗って懐かしのイタリア・シチリアへと向かうライアンにレイチェル、そしてジュディ。
飛行機を降り、空港を出るとシチリアの懐かしくて美味しい空気を全身に感じる。
レンタカーを借りて、ある場所へと向かう。その場所とは・・・
「ここを覚えてるかい、レイチェル?」
「当たり前じゃない、ライアン。忘れるわけないでしょ」
そう、そこはかつて2人のレストラン兼マイホームが建てられていた場所だった。
廃業されてすぐに解体されたようで、今は跡形も無くなった状態であるが、レイチェルとライアンはしっかりと覚えている。
「ここで夢のレストラン生活が始まったんのよね」
「ああ。楽しいこともいっぱいあればトラブルや事件もいっぱいあったけど、どれも忘れられない大切な思い出だよ」
その後、ライアンが調べたところによると、このレストランが建てられた地域周辺は過疎化が著しかったようだ。
「そうだったんだ。確かに年が進むに連れて、お客さんが減っていくような感じはしていたのよね」
「でも、毎日のようにレストランを訪れる常連さんがいっぱいいて賑やかで楽しかったよ」
「そういえば、あのレストランはまだあるのかしら?」
「あのレストランって?」 【懐かしのシチリアへ】(2/2)
それは自分達のレストランがある場所から、数キロ離れた所に建てられた新しいレストランのことだった。
「気になるね、ちょっと見に行ってみようか」
興味津々で行ってみると、そのレストランはまだ健在だった。世界各国のあらゆる料理を多種多様に扱える、ということで話題を呼んだスゴいレストランだ。
「ランチがてらに何か食べていかないか?」
「それはいいわね」
レストランに入り、ウエイターから渡されたメニューを開いて見てみる。
「この日本のタコヤキ?ってのが美味しそうね。これにしない?」
日本のたこ焼きを早速注文する。数分後、たこ焼きが完成しテーブルに置かれる。
「アチチ!中にタコが入っててホクホクしてて美味しい!」
「日本の料理って初めて食べるけど結構イケるね!このソースが良い感じ!」
たこ焼きを存分に味わい、レストランを後にする。
「レイチェルさん、ライアンさん」
「ん?どうしたんだいジュディ」
「私、他に行きたい場所があるの」
ジュディが行きたいというある場所、レイチェルとライアンはすぐに理解した。そう、エターナル・サンライズという教会だ。
一度は廃墟と化していたのだが、レイチェルのおかげでまた立派な教会に復活したのだ。
かつて、その教会で神父を代々努めてきたサニースマイル一族の一人にして末裔であったジュディはそこが気になって仕方がなかった。
「よし早速行こう!」
車を走らせ、そのエターナル・サンライズへと向かう。見てみると建物自体はそのまま残っていたものの、今はすっかり幼稚園に変わっていた。
園児達がキャーキャーと楽しそうに遊び、走り回っている。もうすっかり教会ではなくなっているが、ジュディはとても嬉しそうだ。
「みんなすっごく楽しそうでよかったわ。教会じゃなくても、みんなの素敵な笑顔が溢れる場所なら、私は何でも構わない」
満面の笑みを浮かべるジュディを見て、レイチェルとライアンは安心すると同時にニッコリと微笑む。
その後はまだ行ったことのない場所を色々と観光して楽しむ。そしてアメリカに帰る中、飛行機の中で思い出を語り合う。
「シチリアって本当に素敵な場所よね。ここに住めて本当に幸せだったわ」
「僕もシチリアを選んで正解だったと今でもずっと思ってる」
「本当にありがとうライアン。また休みをもらったら旅行しようね」
「もちろんだよレイチェル」
そんな中、ジュディはレイチェルの膝の上に座り、気持ち良さそうに眠りについているのだった。 今気付いたのですがレイチェルシリーズを書き始めたのが去年2019年5月22日で、
既に1年が経過していて思わずビックリしちゃいましたw
楽しく長編を書き続けていると時間もあっという間に過ぎていくんだなと感じました >>259
レイチェルシリーズの誕生日だったとは・・・もう1年ってすごいなぁ・・・
ライアンの『誕生日』、『過疎』の地域、例のレストランで『たこ焼き』
安定感があるのと、お題と設定の一致がちょっと面白いw
それにしても・・・あの短編からここまで広がるとは・・・ >>259
思い出の土地巡りですね
アメリカからシチリア、そしてまたアメリカへ
ワールドワイドな活躍です >>262
>>263
感想ありがとうございます!
そうですね、あの何気なく思いついて書いた短編がここまで大きく展開されるとは私も想像がつかなかったです
これも全てレイチェルやライアン、みんなのおかげですね。改めて彼女達に感謝したいです
楽しんでいただけて本当に嬉しいです! それにしてもめっちゃ過疎ってるね
全スレは多少波があってもまだ勢い感じられたけど ねー
数え間違えてなければ、レギュラー3人と一休の人、合計4人しか書いてない
レイチェルとベテランと進行が頑張って書き続けるスレになっちゃってる しゃーない普段Romってるが今回は書くか
出来は保証しないけど 今のお題>>253か、最近ちょっとやってなかったけど挑戦してみる 2スレほど前から話題?になっているレイチェルシリーズが気になって
最初から一気に読んだけどキャラがどれもみんな濃くて楽しかった
ガンマンレイヤーの些細な日常からあそこまで展開が広がっていくものだから最後まで全然飽きなかった そういやkasasagi貼ってもいいんだよな
その場合字数制限って8000文字?
いやまぁ別にやる予定もないんだけどさ もちろん復帰も歓迎ー
>>272
6000〜8000字くらいが上限かなぁと
これは単に目安で、極端に長くなければ何文字でも可だと思います >>271
ありがとうございます、そう言われると照れちゃいます///
当初は特に続ける予定はなかったのですがレイチェルが勝手に動くものですから、いつの間にか長編になっていましたw
今は他にもスピンオフ的長編のシンディシリーズや、カナケン姉弟シリーズなども書いておりますのでこれらも是非! 『誕生日』
真っ暗な闇だけがそこにあって、けれどそれが終わりでないことは知っていた。
外の音が、遠く聞こえた。私は身じろぐ。壁は厚く柔らかい。
温もりは手放し難く、けれど永遠ではない。
そして、わたしの朝が訪れる。わたしの夜明けが。わたしの――。
わたしは。今、世界に在ろうとしている。
「オギャア! オギャア!」
「まぁ! 元気な赤ちゃんですね。お母さん、抱いてあげてください!」 ごめん修正、だいぶ久々なのでリハビリ……
>>273
お題:『誕生日』
【闇の終わりと、はじまり】
真っ暗な闇だけがそこにあって、けれどそれが終わりでないことは知っていた。
外の音が、遠く聞こえた。私は身じろぐ。壁は厚く柔らかい。
温もりは手放し難く、けれど永遠ではない。
そして、わたしの朝が訪れる。わたしの夜明けが。わたしの――。
わたしは。今、世界に在ろうとしている。
「オギャア! オギャア!」
「まぁ! 元気な赤ちゃんですね。お母さん、抱いてあげてください!」 >>273
使用お題→『誕生日』『たこ焼き』『ダブルミーニング』『女装』『過疎』
タイトル:【イセイの街】
https://kasasagi.hinaproject.com/access/top/ncode/n8530gg/
これでいいのかな?せっかくだからなろうからの参加を試してみた。
極端に長くなければという言葉に甘えてしまったがさすがに1万文字越えは長すぎたな。
この内容ならもう少し削れたはず。 >>277
異端の街に混じった者は、自らも異端となってしまう……いいね
古典を感じさせる >>275
全ての子供は祝福されて生まれてくるそうですから
お題にストレートなお話ですね
>>277
主人公の緊張感が伝わって来るお話でした
謎を含んだ終わり方も、奇妙な物語風で良いですね >>276
まずは肩慣らし、って感じですね
『誕生日』の話、これがはじまりなんや・・・
>>277
また読み応えのある・・・って言うかこちらもお久しぶりの作者様!
『過疎』地でもなく、主人公の『誕生日』、『たこ焼き』パーティー、『女装』して移動、『ダブルミーニング』の街・・・
なるほど作風は以前のと共通で、しかし題材が全然違いますがw
主人公の苦悶を追体験する、かなり本格的なSFでした・・・
あと余計なお世話ですが作者名がw、『なろう 作者名』で検索して、作者名リンクを有効にした方がいいと思います >>253
お題:『誕生日』『たこ焼き』『ダブルミーニング』『女装』『過疎』
【ディスタンス】(1/3)
白い息が筋を引き、北風が吹きすさぶ。
駅前のコンビニで買ったたこ焼きを頬張ると、木佐田 臣はその光景を何と無く眺めていた。
シャッター街と言うのも憚られる寂れた街並み。アーケードから見えるのは、店のシャッターどころか打ち付けられたベニヤ板や工事用のガードフェンス。
下手をすれば、三角錐の赤いコーンと呼ばれる物で、境界を示しているだけの場所さえある。
そこから覗く風景が更地ですらなく、朽ちた家の基礎だけと言うのが、この街がどれ程過疎化しているのかを表していた。
「昔はなぁ……」
学生時代の思い出を幻視し、思わずそんな呟きが漏れる。
都会の喧騒と他人との柵に疲れ、臣が田舎に帰って来たのはつい数ヶ月前の事だった。
落ち着いた環境で再起を図ろうと、故郷で就職先を探してはいるが、その結果は芳しくなく、結局今は、年老いた両親のスネをかじりながらの家事手伝いをやっている。
向こうに居る内に、手に職を付けておけばよかった。そんな事も思うのだが、如何せん、欲望と誘惑に溢れたあの街では、そんな事をしている時間など有りはしなかったのだ。もっとも、それは彼女の怠惰の所為でもあるのだが。
「だぁ〜れだ?」
「阿藤 岬」
不意に視界を遮られ、声を掛けられる。聞き覚えのあり過ぎる声色に眉根を寄せながら、臣は岬の名を告げた。
そもそも彼女をここに呼び出したのは彼なのだ。
「うん、あたり!」
視界が開かれ、振り向いた先に有ったのは肩口で切りそろえられた黒髪と、うっすらとされたナチュラルメイクの女性の顔。
臣は思わず「へ?」と言う間抜けな声を漏らした。しかし、その顔には確かに面影が残っていた。
「あ、えっと、岬の……妹さん?」
「ブー! あたりって言ったじゃん。本人だよ! 僕が岬本人!!」
耳障りの良いソプラノボイスは、確かに記憶に有る岬の物だ。しかし、30手前の男性だと考えれば違和感を抱く。
だが、外見と合わせれば何ら違和感はなく、むしろ普通に女性としか思えなかった。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています