安価・お題で短編小説を書こう!8
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安価お題で短編を書くスレです。
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同一内容を別サイトへと投稿する行為は認めています。
その際、権利者以外が5ch上から無断で転載したものと区別するため、出来る限り【当スレへ投稿する前に】投稿してください。
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■前スレ
安価・お題で短編小説を書こう!
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1508249417/
安価・お題で短編小説を書こう!2
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1511408862/
安価・お題で短編小説を書こう!3
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1522770910/
安価・お題で短編小説を書こう!4
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1529860332/
安価・お題で短編小説を書こう!5
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1541947897/
安価・お題で短編小説を書こう!6
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1557234006/
安価・お題で短編小説を書こう!7
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1572191206/ 【ディスタンス】(2/3)
******
「ん、熱ひ……おっきひぃ……」
「変な声を出さないで!」
たこ焼きを食べる岬の言葉に眉を顰めながら、臣はその頭部にチョップをかます。
悪戯心のこもった上目遣いに、臣は自分がからかわれてると感じてはいたが、しかし、外気の冷たさと相まって、頬が熱を持つのを止める事は出来なかった。
「昔っから、臣ちゃん、百合っ気があったもんね?」
そう言われ、彼女の眉間に皴が寄る。確かに、男の子よりは女の子と一緒にいる方が心地よかったが、しかしあれは、思春期の子供なら誰でもそう言う物では無いのだろうか? 臣はそう思った。
何より一番一緒に遊んでいた岬に、そんな風に思われていた事が納得いかなかった訳だが。
当時の岬は女の子と言っても良い程の可愛い顔の少年で、どちらかと言えば女子グループに良く混じっていた。それは、幼馴染である臣が彼を誘っていた事も理由ではあるが、他の男子が女子に対し距離を取る様な時期でもあったからだろう。
中性的な美少年であった岬は、何と無く他の男子に距離を取られ孤立しかかっていたからだ。
それに手を指し伸べたのが臣であり、彼女の友人達もそれを歓迎してくれていた。
ただ、岬本人は、自身の事をハッキリと男子であると意識して居たし、女の子っぽい扱いに対しては断固として拒否をしていたのだが。
その為か、女子グループの中では、彼の事は“意地っ張りな弟”扱いとなっていた為、岬はさらに意固地になっていた所は有る。それが更に意地っ張りな弟扱いに拍車を掛けていたわけであるが。
そんな岬が女装姿で自分の前にいる事が、彼女には不思議でたまらなかった。
「……何でそんな恰好? もしかして性一致障害?」
「ん? ただのドッキリ」
「……ドッキリって」
その為だけに女装姿で駅前まで出て来たのかと考えると、何やっての? と思わなくはない。
「それと、臣ちゃんなら、こう言うタイプの娘が好きかなって」
「こう言うって、男の娘?」
確かに、一瞬ドキリとはしたが、女装した男の子を愛でる趣味は臣には無い。
「んー、ちょっと違うんだけど、まぁ良いよね?」
「いや、一つもアタシの疑問に答えて無いんだけど?」
「そう言えば、女の子同士のキスってノーカンだって言うけど、ホント?」
唐突な話題変換に臣が首を傾げる。
確かに学生時代の事を思い出すと、遊び半分でキスをする事も有ったが、全てはスキンシップの内だろう。実際、きわどい所は有っても決定的に唇同士と言う事は無い。
「そう言う所は有るけど……」
そう言った、臣の顔に影が落ちる。
湿った感触に、臣は思わず動きを止めた。
「誕生日プレゼント」
「は? はい?」
「貰ったから」
臣の顔が赤く染まり、頬が熱を持つ。
「ちょ、あんた!!」
「ノーカンでしょ? 今は……」
その為に態々岬は女装をして来たのだろうか? そんな事を臣は思う。だからと言って許容できる訳ではない。そもそも、岬は男性なのである。
ただ、そう言えば今日が彼の誕生日だったと、その時初めて臣は思い出した。 【ディスタンス】(3/3)
「だからって……」
「僕は臣ちゃんが好きだよ? 君は僕が嫌い?」
「そう言う聞き方は、ズルい……」
そう臣が言うと、岬は悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「ねぇ、遊びに行こうよ、久しぶりに会ったんだし」
屈託なく言う岬に、臣は溜息を吐く。
「良いわよ、でも、条件があるわ」
「うん?」
「女装は止めて」
「うん」
******
数分後、ちゃんとした男性の姿で岬が戻って来た。昔よりもがっしりとして見える体躯には、先程までの女性じみた雰囲気は無くなっている。
それでも、その面影は確かに同じであり、知らずに臣は自分の唇を指先で詰っていた。
「じゃ、行こうか」
先程とは違うテナーボイス。男性としては高めではあるが、岬には良く似合っている。
臣の心臓がトクンと鳴る。
「ちょっと、待って」
「うん?」
首を傾げる岬に手を伸ばすと、臣は彼の頬に唇を押し付けた。
「……臣ちゃん?」
少し惚けた様な岬の呟きに、頬を真っ赤に染めながら視線を逸らして臣が言う。
「これは、ノーカンじゃないから」
「うん」
手を繋ぎ、誰も居ない道を歩く。
上機嫌な岬の横顔をチラ見しながら、臣は(永久就職でも良いかな?)と、思った。 お題→『誕生日』『たこ焼き』『ダブルミーニング』『女装』『過疎』締切
【参加作品一覧】
>>259【懐かしのシチリアへ】
>>276【闇の終わりと、はじまり】
>>277【イセイの街】
>>281【ディスタンス】 では今回も通常お題5つですー
お題安価>>286-290 ☆お題→『アンドロイド』『ゲップ』『エクスタシー』『メイド』『オートマータ』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→6/7の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 今回も結構早いな・・・
前回は沢山のご参加、と言っても+2作ですがw、ありがとうございました
スレの今後は分かりませんがー、引き続き当スレをよろしくですー >>281
なんか最終的にはイチャイチャしてるだけの話が来たw
『過疎』の街、『たこ焼き』を食べ『ダブルミーニング』、『女装』した彼の『誕生日』
都会と田舎の距離・・・過疎の描写がわろえない・・・w >>293
感想有難うございます
考えまくって書けた話がこれと言うorz
過疎描写は東京近郊の駅前の街がモデルですw >>294
空中都市の騎士と言った所でしょうか
果たして、オートマータを差し向けているのは何者なのか?
そして主人公の本当の名前はw!? >>278-280
感想ありがとうございます。
作者名の件は初めて知りました。運営がまさかこんな卑劣な罠を仕掛けているとは…。
>>294
早っ!
もしかして最速記録じゃないか?
ほんと速筆の方が羨ましい。
人類が空に住んでて上ではなく下を指向して生きているというのは中々面白い設定でグッときました。 >>281
こっちが恥ずかしくなるくらいのイチャイチャ。
前回のシンディーシリーズの女装も美人だったし、小汚い女装に需要はないのね。
幼馴染みの男女、久しぶりの再会、女顔ここまでは一緒なのにこうも差がつくとは…。 >>299
感想、有り難うございます
最初はそれほどイチャイチャさせる予定ではなかったのですが、なぜこうなったのかorz
自分の中でのビジュアルイメージは、うたたね○ろゆきでした >>297
感想ありがとうございます!
無人機=オートマータで通ってよかったです笑
和名で考えてて、適当に打ってたらモィミになったので訛り設定が湧きました
>>298
ああいやその……!だいぶズルで!
ちょうどお題見る前から途中まで書いてたんですよねこれ、前に一時間ちょいでタイムアタックしたことはあるのでそれと同じくらいだと思います
空って良い舞台ですよね、ツインスター・サイクロン・ランナウェイとか意識してました >>294
タグに『お題スレ投稿作品』を入れてください(他スレでの自作晒しと同等のルール)
それでまぁ、転用にしても速いと思いますが・・・w
ガジェット感?も分量もありつつ、スピーディーで読みやすい話に仕上がってますねぇ >>302
すみません、入れてきました!
順調にリハビリができてきて嬉しいです、前もここで書いてたら長編書けるようになったのでまたがんばりますー >>291
使用するお題→『メイド』『オートマータ』
【恐怖のカラクリ人形】(1/3)
「ハァ、ハァ…!なんて鬱陶しいヤツなのかしら!!」
綺麗な満月に照らされる深夜の荒野の中を、一人の着物姿の女が腕から血を流しながら走っていた。
どうやら何者かに追われているようだ。
・・・・・・・・・・
まだ空気がヒンヤリとした早朝の荒野を、さすらいの女ガンマン・シンディが愛馬のサンセットに跨って颯爽と駆け抜けていた。
「サンセット、止まって!」
遠くに誰かが倒れているのに気付いたシンディは、サンセットを止めて背中から降りて歩み寄る。
「ま、まさか!!」
着物姿でタヌキのお面を被った女、まさに見覚えのあるその姿はライバルである女サムライのシグレだった。
頭や腕、足から血を流し、意識が朦朧としている状態だった。
「シグレ!しっかりして!!」
すぐにシンディは自分のコートやスカーフを破き、それらで止血し手当てをする。
「ん、うぅ・・・」
数分後、シグレの意識が回復し、シンディの姿を認識する。
「シ、シンディ、あ、あなたなの?」
「シグレ、目を覚ましたのね!よかった!」
シンディは嬉し涙をポロポロ流しながら、シグレをギュッと抱き締める。
「あなたの身に一体何があったの?こんなに傷だらけになっちゃって」
「どうやら私に恨みを持つ誰かさんが、私を殺すために刺客を送り込んだみたい・・・」
「し、刺客?」
「おっと、そこまでだシグレ!」
突然シグレの名を呼ぶ謎の声が聞こえてくる。よく見ると、近くの崖の上に一人の男が立っていた。
その男はシグレと同じように着物を身につけていた。
「おや、女ガンマンのシンディも一緒じゃないですか。あんた、シグレと知り合いだったんですね。こりゃあビックリだ」
「あんた、一体誰なの!シグレになんて酷いことをするの!」
「うるさい女だ。おっと申し遅れた、我輩の名はアカミネ。カラクリ人形職人である」
「カ、カラクリ人形?」
「まあ、このアメリカではオートマータと呼ぶべきか」
するとアカミネと名乗る男の隣に、キコキコと音を立てながら木製のロボットのような物体が現れた。
「あ、あのカラクリ人形にやられてしまったの。自慢の斬撃が一切通用しない、手強い相手だったわ」
「我輩の可愛いマサコにやられるがいい。いけっ!!」 【恐怖のカラクリ人形】(2/3)
マサコと名付けられたカラクリ人形が崖から思いきりジャンプし、シンディに接近してきた。
マサコの体から突然、銃口のような装備が露わになり乱射を始める。
「そんな銃撃で私に対抗しようってわけ?出直してきなさい!」
シンディはマサコの乱射を軽い身のこなしで回避し、一瞬の隙を狙って発砲する。
しかし、銃口から勢いよく放たれた弾丸はマサコの体に傷一つつかなかった。
「ど、どうして?ただの木製なのに銃撃が効かないなんて・・・!」
「マサコは、日本の丈夫で厳選された樹木で作られた我輩の最高傑作!メイド・イン・ジャパンの恐ろしさを思う存分味わうがいい!」
斬撃も銃撃でさえも一切通用しない、その無敵なカラクリ人形の前には、刀や銃なんてもはやただの玩具にしか過ぎない。
「もうこうなったら、取っ組み合いで勝負するしかないわね」
「シ、シンディ、無茶はやめて!」
「心配しないでシグレ。私は負けないんだから」
手に持っている銃を放り投げると、シンディはマサコに走り寄り、勢いよくパンチをする。
少しではあるがマサコの体がグラグラと振動する。
「ガンマンは銃撃だけが得意だと勘違いしないで。銃撃を極めるには、体術もしっかり鍛えないと意味がないのよ!」
「怯むなマサコ!その生意気な女ガンマンを容赦なく潰してしまえ!」
マサコも体術でシンディに攻撃するがいくら頑丈とはいえ、鈍くてぎこちない動きでは生身の人間に追いつけるはずがなかった。
「動きがトロいわ!ほらドンドンいくわよ!」
「マサコ!負けるな!」
シンディの俊敏な動きから繰り出される連続パンチに、マサコは一切立ち向かうことができずタコ殴りにされる一方だ。
するとシンディは、マサコの胸にある赤い歯車に気付く。
「それが心臓ね。心臓さえ壊せば、何もかも機能が停止する!」
シンディは勢いよくジャンプする。
「私、どちらかというとキックの方が得意なの!自慢の飛び膝蹴りを食らいなさい!」
右脚による膝蹴りが命中するその数秒前、マサコが回避したせいで、シンディはその後ろにある岩に思いきり膝をぶつけてしまう。
「グ、グヮッッ!!」
右脚からボキッと骨が砕けたような鈍い音がする。膝から血が流れ出し、シンディは身動きが取れなくなってしまう。
「マヌケな女ガンマンだ!そんな派手な大技を無闇に繰り出そうとするからそうなるんだ!今がチャンスだマサコ!」
アカミネがシンディの失敗を見て嘲笑う。マサコが負傷したシンディに近づいてくる。
もはや一巻の終わりかと死を覚悟したその時、ふと何かを思い出しブーツの方に目を向ける。
そう、以前金物屋のエリィことエメットから受け取った金色に美しく輝く拍車だった。
「(これなら・・・!!)」
マサコがもう数センチ目の前に近づいてきた瞬間、シンディは力を振り絞って左脚を振り回し、その黄金の拍車を彼女の歯車に勢いよくぶつける。
歯車は粉々に砕け、マサコはガガガッと音を立てて暴走し、そのままアカミネの方にビューン!と飛んでいった。
「うわわわわ!こっちに来るな!」 【恐怖のカラクリ人形】(3/3)
ドカーン!とマサコは大爆発を起こし、それに巻き込まれたアカミネはあっけなく絶命してしまった。
「や、やったわ!」
安堵し、地面に背をつけるように倒れたシンディにシグレが咄嗟に駆け寄る。
「シンディ、あんたって人はもう。どうしてそんな無茶をするの、勝てたからよかったものを」
「アメリカのガンマンというのは、死を恐れた時点で負けなのよ」
その後、小さな川のほとりでシグレはシンディの負傷した右脚を手当てする。
「ほら、そのまま足に水をつけて動かないでじっとして」
「心配しすぎよシグレ。骨折なんて旅を始めてから、もう何度も味わってきたわ」
ブーツを脱ぎ、ジーンズを捲りあげて見えるそのスラッとした脚には、生々しい傷の跡でいっぱいだった。腕も同様だ。
「そういえばあのアカミネって奴、一体何だったの?」
「実はね・・・」
シグレは、生まれ故郷である日本において「居合の化身」と恐れられており、シンディと同じくさすらいの旅を続けていた。
旅をする一方で、とある町を訪れた時、悪政を働き、善良な庶民を苦しめる大名や殿様を許せずに容赦なく斬り倒したのがきっかけでお尋ね者となり、
その追っ手から逃れるために日本を飛び出し、小さな小舟で荒れ狂う波を乗り越え、ここアメリカに逃げてきたのだ。
「これまで私を狙う刺客は現れる度に斬ってきたけど、まだまだいるから安心はできない」
「私と境遇が似てるわね。私も結構、多方面から恨みを買って狙われてるけど絶対に負けない、そして屈しない」
「その素直で前向きな心意気、さすがアメリカのガンマンね」
「エヘヘ、照れちゃうわね」
「今回は助けてくれて本当にありがとう、シンディ」
「そんなにかしこまらないで。私だってあなたに命を救われた身なんだから。それにさ・・・」
「それに、何?」
「ライバル同士お互いに助け合って強くなるのって、すっごく素敵よね」
「私はあまり仲間、というのを信じていないけど、それだけは少し分かるわ。少しだけどね」
「あんまり素直じゃないわね」
「それじゃあ、また会いましょうね・・・」
そう言うとシグレは風と共に姿を消してしまった。
シンディは川の綺麗な水で傷を癒すと翌朝、サンセットに跨って再び旅を始めるのだった。 >>304
『強敵』と書いて『友』と読む関係ですね
そして出てきたのはジャパンからの刺客
次に来るのは、何処の刺客でしょうね? >>304
また毛色の違う敵が来たw、ありそうであんまり見掛けないタイプ
お題の消化も、色々と面白みのある展開も、なかなかユニークで素敵 >>308
>>309
感想ありがとうございます!
今回はシグレがピンチに陥ってシンディが助ける番となっています。
もうこの2人は親友といっていいくらいの関係ですね、でもライバル同士でありますからいずれ戦う日は来ます
それにしてもシンディは本当に無茶をするものですから見ててハラハラしちゃいますよw
楽しんでいただけて本当に嬉しいです!次回をどうぞお楽しみに! >>307
感想ありがとうございます!
あんな銃撃や斬撃が一切通用しない樹木がある日本恐ろしい…と書いてて思っちゃいましたw
まあ、あれはカラクリ職人が相当の手練れだったからこそ生み出すことのできた悪魔の作品ですね
楽しんでいただけて本当に嬉しいです!次回をどうぞお楽しみに! >>291
お題:『アンドロイド』『ゲップ』『エクスタシー』『メイド』『オートマータ』
【オートマータはカラクリ羊の夢を見る】(1/3)
(予想外の出来事が起きると、頭の中が真っ白になるってのは本当なんだなぁ)と、棚子 洋司は考えていた。
ぼんやりとした薄明かりの灯る地下らしき一室、唐突にそんな場所に放り出された洋司は、茫然と座り込んだまま動く事もできずにいた。
……全裸の状態で。
彼の前面の壁には女性の胸像の様な物が、半ば壁に埋まる様にして存在している。
いや、壁に埋まる様にと言うのは御幣の有る表現か? その壁の様に見えるソレは幾本もの管であり、配線であり、その中には、まるで鼓動するかの様に、謎の液体やらなんやらが移動しているのだ。
その様子は、洋司に、かつて見たSF作品で人型インターフェースだと説明されていたアンドロイドのヒロインを思い起こさせた。
(あの作品は、全ての元凶が彼女だったんだっけか……)
ブルリと身を震わせ周囲を見回す。SFとはかけ離れた、むしろゴシックホラーじみた部屋の様子に顔を顰める。巨大なガラス製らしきシリンダーの中には、クリーチャーと言うよりは魔獣と言った方が良い怪物が封入されていた。
そこを抜き出せば、あるファンタジーゲームの、魔獣から魔力を抜き出す為の実験室を思い起こさせる。
(確かあれは、ファンタジー系のゲームの割には近未来風だったな)等と洋司は愚にもつかな事を思い出していた。
「……とにかく、何か着る物を」
そう呟き、のたのたと洋司が立ち上がる。
一瞬前まで、彼は自宅で至福の時間を過ごしていたはずだった。
お気に入りのメイド物の動画を観ながら、エクスタシーフィニッシュを決めたと思った瞬間、こんな場所に彼は居たのである。
どうでも良い話だが、彼は全裸派なのだった。 【オートマータはカラクリ羊の夢を見る】(2/3)
******
研究室だと言うのなら、白衣くらい置いてあるだろう そんな風に思って色々と探し回ってみたものの、服やそれの代わりになりそうな物は置いて無い。
とりあえず入口らしき所は見つけたのだが、現代っ子でモヤシっ子な洋司では、どう踏ん張っても開ける事は出来なかった。
ぐぎゅるうと腹が鳴る。こんな場所に放り出されてからどれ程の時間が経ったのだろうか? 洋司の腹は随分と減っていた。
食べられそうな物も部屋には無い。もしかすればライトノベルの様に魔獣が食べられるのかもしれないが、シリンダーの中の魔獣を見ると、それを実行する気にはなれなかった。
それまでは意識しない様にしていたが、こうなって来ると壁の少女像も調べて見なければいけないだろう。
あの時のSF作品の主人公の様に少女に洋司は近付いて行く。確かあの作品ではゆっくりとアンドロイドの少女が目を開け、主人公との語らいが始まったのだったか。
「でも、突然目を開けられても怖いよなぁ」
そう、洋司は呟いた。あの主人公はイケメンの特殊捜査官で、臆することなくアンドロイドの少女と相対していたが、それと比べれば洋司は平々凡々なパンピーで、小心者。その上今は全裸である。
少女像に手を伸ばし、しかし不意に、その直前まで握っていた洋司棒とエクスタシーフィニッシュを決めた時に手に掛かった生命のスープの事が気になり、スンスンと手の匂いを嗅いでみた。
あの後、結局、拭き取る事すらできていなかった訳だが。
「平気……かな?」
「何ガ平気ナノデスカ?」
唐突に問いかけられ頭を上げると、胸像の少女と目が合う。
「ひぃ!!」
その可能性も考えてはいたものの、実際にそうなってしまうと、あまりの恐怖と驚愕に、洋司は腰を抜かしてしまったのだった。
******
「成程、ワカリマシタ」
無表情で頷く少女に、洋司は(どんな状況だよ)と頭を抱えたくなった。
今、洋司と少女はお互いに膝を突き合わせている。
へたり込んでしまった洋司をしばらく観察していた少女だったが、、周囲の管や配線をシュルシュルと体内に取り込むと、身体に継ぎ目こそあるものの、美少女と言って過言では無い姿になっていた。
ただし、事前に洋司が調べていた通り、この部屋に洋服に類する物はなかった為、お互いに全裸である。
本来であればここに居るはずの無い存在の洋司に対し、少女は質問の嵐を投げかけ、それに彼は分かりうる限り答えた。
その上で、彼女は何かに納得したらしい。
ジッと自分を見つめる少女の視線を気にしながらも、気恥ずかしさで洋司は身動ぎをする。
例え作り物とは言え、美少女にしか見えない相手である。そんな存在が一糸纏わぬ姿で目の前に鎮座しているのだ。気にならないと言う方が嘘だろう。
だが、相手がまるで気にもしていない状況で、自分だけが意識してしまっていると言うのも何と無く気まずい。
チラチラと彼女の事を盗み見ていた洋司だが、しかし、次の少女の言葉に思わず絶句してしまった。
「ツマリ貴方ハ、異世界人ト言ウ事デスネ」
「……は?」
短時間で色々あり過ぎて、洋司はすでにお腹いっぱいでゲップまで出そうだった。その上さらに異世界転移だ。
もしかしたらテクノブレイクからの異世界転生かも知れないが、新機軸すぎて毒者ですらつかないだろう。
「え? ちょっと待って。え? 異世界? 本当に?」
「私ノ持ツ知識ニ照ラシ合ワセルト、ソウ言ウ結論ニナリマス」
「え? じゃぁ、帰れないって事?」
最近のライトノベルの展開としては良く有るパターンだ。洋司は、一生この世界で生きて行かなければならないのかと蒼白になった。
今まで暮らしていた生活の基盤を失うと言う事もさることながら、両親や友人。恋人こそ居なかったものの、残して来た相手は多い。
それにぼんやりとだが、向こうの世界でやりたい事、やり残して来た事も多かったからだ。
絶望に顔色を悪くする洋司に対し、少女は無表情なまま口を開く。 【オートマータはカラクリ羊の夢を見る】(3/3)
「ソウトモ言エナイカモ知レマセン」
少女の言葉に、洋司は目を瞠った。
「起因と思ワレル事象ガ有ルノデスカラ、ソレヲ再現シ、ソコカラ何ラカノふぁくたーヲ探シ出セバ良イノデス」
そう言われ、洋司が直前までやっていた行動を思い出す。
「は? え? 無理! 無理ムリ無理ムリ無理ムリ無理ムリ無理ムリ無理ムリ無理ムリ!!!!」
少年らしき羞恥心と、目の前に居る美少女の存在。そして彼女の前で致すと言う事に対し、洋司は真っ赤になって首を振った。
「……私ノ存在ヲ問題ニシテイルノデアレバ、オ気ニナサラズ。私はおーとまーたデスノデ、人デハアリマセン。家具ノ様ナ物ダト思ッテクダサイ」
そうは言われても気にしない方が難しいだろう。何せ彼女は人間にしか見えない、それも全裸の美少女なのだから。
逡巡する洋司に、オートマータの少女が首を傾げる。
だが、一瞬後、ポンと手を打った。
「成程、再現と言ウニハ、めいどガ足リマセンデシタネ。確カニ、コレデハ片手落チデス」
そう言うと立ち上がった少女は、不思議な彩光を指先に灯し、幾何学的な文様を空中に描き始める。と、彼女の周囲に光が集まり、少女の身体がメイド服に包まれた。
「サア、御存分ニ私ヲオ使イニナッテ下サイ」
「お使いにって!! いや、それより、それ、どうやったの!?」
「魔法デスガ、何カ?」
狼狽えながら平生を保とうとする洋司だったが、しかし少女は、彼が確かにメイドに反応した証拠を見逃さなかった。
「成程、体ハ正直……ト言ウやつデスネ」
「どこでどんな言葉覚えたの? 君、オートマータなんでしょ!?」
「世ノ中ニハ、家具ニ欲情スル変態モイラッシャルノデスヨ」
「知りたくなかった! そんな情報!!」
「ホラホラ、ココハコンナニナッテイマスヨ」
「い〜〜〜やぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
もしかしたら、彼女は全て知っていてやっているのでは? と言う疑念が洋司に湧き起る。それこそ、かつて見たSF作品の様に。
「ドウシタノデスカ? 嫌ト言イツツモ、ココハコンナニ」
「ら、らめええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
人里離れた洋館に、少年の嬌声にも似た悲鳴が響き渡った。
******
この後、洋司が無事、元の世界に戻れたのかは定かではない。 >>312
感想遅れましたが、お題そのまんまの話^^;
別に元の世界に戻れなくても、ある種の夢があるw お題→『アンドロイド』『ゲップ』『エクスタシー』『メイド』『オートマータ』締切
【参加作品一覧】
>>294【空の果て、軌道都市、二人】
>>304【恐怖のカラクリ人形】
>>312【オートマータはカラクリ羊の夢を見る】 では、、企画を忘れてたわけではないのですが・・・通常お題5つで
お題安価>>318-322 ☆お題→『グッドダンス教団』『目玉焼き』『コロシアム』『あんハピ』『スミロドン』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→6/14の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 ちょうはやい
謎の固有名詞2つ、進行的にはお前かよ古代生物1つ
ともかく、、引き続きお題スレをよろしくですー >>315
感想有難うございます
オートマータメイドの出てくる作品、多いですよねw
その一方、アンドロイドと言えばスマホのOSがメジャーに……
18禁に成らない程度に下ネタを攻めたのですが、不快に感じる方がいらっしゃったのなら、申し訳ないorz >>253
スレ6→294の続編、前々回お題作品です
使用お題→『誕生日』『たこ焼き』『ダブルミーニング』『女装』『過疎』
【彼女たちと僕の一日】(1/3)
ここは迷宮の第六層。
「わわわきゃっ! 魔法使いさまー、やっぱりっ、ちょっとっ、無理ですー! 攻撃が重いですー!」
「やっぱり無理かー。ファイアボール!」
小さなドワーフの少女が、大きな盾で、オーガファイターの拳を受け止めている。
単調で工夫のない攻撃だが、両手で盾を支える彼女、新人探索者のカリンは、相手の腕力に対して力負けしているようだ。
そんな彼女を尻目に、僕は後衛のゴブリンメイジに集中する。
「あわわわ、助けてっ……あっ、ありがとうございます、ダリアさん」
「いえ、あとちょっとだけ耐えてくださいね」
横でレッドゴブリンの相手をしていたダリアが、一度だけオーガファイターに斬り付けた。
途端にオーガファイターの動きが鈍る。竜人の剣か、ドワーフの盾か。分かりやすく迷っている。
「ファイアボール! ……当たらない!」
今日は調子が悪い。魔法三発で倒せるはずの相手に、六発も費やしてしまった。
ダリアは既にレッドゴブリンを片付けて、カリンと二人でオーガファイターを囲んでいる。
カリンの後ろから魔法を連発する。オーガファイターは四発目で息絶えた。
「あ、危ないところでした。ダリアさん、魔法使いさま、ありがとうございました」
「いえ、やっぱり第六層は、私たちには早かったようですね」
「ごめん、なんか調子悪くてさ。魔法が当たらなかった」
ダリアが、いつもと変わらない表情を僕に向ける。
「第六層からは、ゴブリンたちの動きが素早くなります。魔法が当たらないのは、きっとそのせいです」
そうなのか。なんかそんな気はしてた。
「今日はもう上がった方がいいでしょう。カリンさんはお疲れでしょうし、ご主人様の魔力切れも心配です」
不慣れな階層で、経験者の言葉に逆らう理由はない。僕たちは来た道を戻る。
各階層の入り口には転送装置があり、迷宮ギルドの係員が待機している。
人もゴブリンもいない通路の先。暇そうに突っ立っている人影が、僕たちの心を落ち着かせる。
三人分の手数料を支払って、僕たちは地上へと帰還した。
*
「なんか、初めて迷宮都市に来た時のことを思い出します」
地上の雑踏を目にして、そんな言葉がカリンの口から飛び出した。
「どゆこと?」
「……私の故郷って、すっごい過疎の村だったんですけど。第六層みたいな。第五層は、まだ人がいたじゃないですか。だけど第六層は、人がすごく少なくて」
どこか遠くを見る目で、そんなことを語り始めた。
「今、地上に出てきて。ああ、私って、こんな都会にいるんだって。ここで頑張るんだって。そう思っちゃいました」
彼女なりの詩情、とでも言うのだろうか、僕にはよく分からなかった。
ダリアはどう思ったんだろう。 【彼女たちと僕の一日】(2/3)
僕たちは大通りを歩く。少し早く切り上げた分、まだ日が高い。
人々の熱気と、照り付ける西日。暗くて涼しい迷宮からの、大き過ぎる変化だ。頭がくらくらする。
「ブレイズオクトパスのたこ焼きだよー! 第十三層のたこ焼きー」
「へー、おいしいんでしょうか。おいしいなら食べてみたい。ダリアさんは、食べたことありますか?」
「いえ、私は、ああいうのは」
くらくらしているのは僕だけのようだ。
ダリアは迷宮ギルドから借りている奴隷だが、カリンは違う。
彼女は、つい最近、ここ迷宮都市にやってきたらしい。探索者になって一旗揚げるために。
力が強くて体が丈夫なドワーフ。武器の扱いに長じた者も多く、仲間にいれば心強い存在だ。
「魔法使いさまは、たこ焼き、食べたことありますか?」
「いや、僕もないよ。食べてみようか」
「はい!」
三人分のたこ焼きを買った。ぶつ切りを串焼きにしたものだ。吸盤の形が生々しい。
「お代ですけど」
「いいよいいよ、僕のおごりで」
「わあ、ありがとうございます! 実は私、もうすぐ誕生日なんです」
そう言って、屈託のない笑顔を向けてくるカリン。この性格、それに顔も結構かわいいので、僕はどきどきしてしまう。
「少し早めの誕生日プレゼントですね。ありがとうございます!」
「いや、どういたしまして。誕生日かー。実は僕も、もうすぐ誕生日なんだよね」
「そうなんですか! おめでとうございます!」
「それは……おめでたいですね」
いや、まだ誕生日じゃないし……カリンはともかく、ダリアさん? そんな目で見ないで!
「……ご主人様、ちょっと場所を変えましょう」
「うん? どした……ああ、分かった」
「どうしたんですか?」
*
人込みを避けて、裏通りを歩く。
「ふゎ……これ、硬いです……」
「あんまりおいしくないね」
「おいしいですよ! でも、食べにくいです……。ところで」
たこ焼きを手にしたカリンが、気になっていたであろう疑問を口にする。
「さっきのは……どうしたんですか?」
「うん、あれね」
ダリアが『場所を変えましょう』と言ったことだ。
「僕ってさ、どう見える?」
「どう、って……立派な魔法使いさまに見えます」
「そうだね。立派かどうかはともかく、ちょっと……調子に乗ってるように見えるでしょ」
「はあ」
以前の僕であれば、ダリアと並んだ時、彼女が主人で僕が従者のように見られていた。
今は違う。装備も服装も良くなった。前と比べれば、だが。
身に着けている物だけは、人を使う『ご主人様』、パーティーで一番偉い『魔法使い様』らしく見える。 【彼女たちと僕の一日】(3/3)
「分不相応に見えるんだよね」
「どういうことですか?」
うーん、なんて説明しよう。その時、ずっと黙っていたダリアが口を開く。
「若くて羽振りのいい探索者が、女を連れて遊んでいるように見える、ということです」
「そんな!」
カリンは、心外だ、とでも言いたそうな、いつもの彼女からは想像も付かないような、本当に嫌そうな表情を浮かべた。
「はっきりとした敵意までは感じませんでしたが、用心するに越したことはありません」
ダリアがそう続けると、カリンは一転して悲しそうな顔をした。
「それは……きっと私のせいです」
新人であるカリンが、僕たちと一緒にいる理由。それは迷宮ギルドからの紹介、もっと言うと、彼女の面倒を見るように頼まれたからだ。
「私、クビになっちゃいますか?」
彼女は最初、同じような新人同士で、男女混成のパーティーを組んでいたらしい。それで迷宮の第一層や第二層で戦っていた。
彼女には最初から問題があった。ドワーフなのに、武器の扱いが下手なのだ。
剣もハンマーも、長いのも短いのも。唯一まともに扱えたのが、両手で支える大型の盾だった。
「まさか。クビになんてしないよ」
「カリンさんがいなければ、第六層には進めません」
第五層から、特に第六層よりも先では、敵の攻撃を受け止める役が必須となる。だが、浅い階層では、いてもいなくても同じだ。
しばらくの間は、それでも必要とはされていたようだ。ただそれは戦力としてではなかったのだろう。
ある時、何かいざこざがあって、彼女は迷宮の中に置き去りにされた。
そのまま身動きが取れずにいたところを、ギルドの巡視員に保護されたのだった。
「でも、私のせいで、魔法使いさまが悪く見られるんですよ」
「そんなことないって。気を付けてれば大丈夫だから」
優しく言い聞かせるが、納得できない様子だ。
「でしたら」
ダリアが出し抜けに声を上げた。
「いえ、やっぱり駄目ですね」
そう言って僕の顔を見詰める。
「何かな?」
「なんでもありません」
そう言いつつ、なおも僕から目を離さない。こんな彼女は初めてだ。
「本当に、どうしたの?」
重ねて問い掛けるが、それでも彼女は口を閉じたままだ。僕が立ち止まって、彼女の瞳を見詰め返すと、それでようやく観念したらしく。
「……その、女装、なんていかがでしょう。ご主人様が女装をすれば、女三人で好き勝手しているように見えるかも知れません」
「わあ、それ素敵です!」
……しないよ? 女装。 前回お題を見てからとかではなく、いつもの遅刻常習犯です><
書くに当たって女内密さんを読み返したんですが、やっぱり面白いんだよなぁ・・・ >>328
諸々乙です
オチで笑った、平和的解決! >>330
感想ありがとうございます
だが女装はしない!w リレーやるのであれば参加はできる、かも?
他の企画を募るとかでもいいかもですが リレーかー
こないだ全力で滑ったばかりだけど、他に案がなければやりましょうw >>323
使用するお題→『目玉焼き』『コロシアム』
【姉弟の仁義なきバトル再び?】(1/3)
「僕、お姉ちゃんのこと嫌い!」
「私だってケンスケと話もしたくない!」
「こうなったら、本気で決着つけるしかないね」
「負けた方は勝った方に絶対服従ってルールで問題ないわよね?」
「ああ、一度決めたことに二言は無いよ」
いきなりだが何故このような展開になったのか。その発端は今朝の朝食だった。
「「お母さんの目玉焼き美味しい!」」
姉弟が母の作った目玉焼きを楽しんでいた時のことだ。
「目玉焼きにはやっぱりケチャップがピッタリよねー」
「僕はマヨネーズだなあ」
カナミが目玉焼きにケチャップをかける一方で、ケンスケはマヨネーズをかける。
「私、いつも思うんだけどさ。目玉焼きにマヨネーズって卵に卵をかけるようなもんよね、何か変な感じ」
「えっ、目玉焼きにマヨネーズって結構合うよ。卵に卵をかけるってのは確かにそうだけど、変な感じってことはないんじゃない?」
「私はちょっと理解し難いと思うなあ。目玉焼きにはケチャップでしょ、白に赤で見栄えが良いし」
「お姉ちゃん、マヨネーズ派をバカにしているの?」
「べ、別にバカにしているわけじゃないわよ」
「もう頭に来た!お姉ちゃんなんてもう知らない!」
ケンスケは目玉焼きを一気に放り込んで食べ、牛乳をグイッと飲み干すと不機嫌そうに食卓から出て行った。
「きゅ、急に何を怒っちゃってるのよ・・・」
その後、早めに宿題を終わらせたカナミはケンスケの部屋へと向かう。
「ケンスケ、一緒にゲームして遊ばない?」
「・・・・・」
ケンスケは無視するかのように姉の言葉に一切反応しない。
「ねえケンスケ、聞いてるの?」
「僕は今、虫の居所が悪いんだ」
「マヨネーズのことで怒ってるの?」
「そうだよ!せっかく美味しく食べてる時にあんなこと言われちゃ怒るよ!」
「だからっていつまでも不機嫌になることないでしょ!」
「あーもう怒った!こうなったら本気で喧嘩だ!」
「喧嘩?いいわ、そっちがその気なら受けて立つわよ」
・・・ということで姉弟の仁義なき?バトルがまたも勃発したのだ。
あの時と同じくカナミの手にはピコピコハンマー、ケンスケの手にはマジックハンドと互いに愛用の武器を持っていた。 【姉弟の仁義なきバトル再び?】(2/3)
「負けたらずっと服従、この言葉絶対に忘れないでよ」
「私に勝てるつもりでいるの?甘いわね」
「そう言っていられるのも今のうちだよ、お姉ちゃん。いやカナミと呼ぶべきか」
今のケンスケはカナミを「お姉ちゃん」と呼ばず、赤の他人として見ていた。
家の中はさすがにまずいので、広い裏庭で戦うこととなった。両親は今は買い物に出かけていて不在だ。
「この裏庭は今は戦場、そう"コロシアム"だ」
「最後に笑うのはどちらかしらね?」
いざ姉弟の仁義なきバトルがスタートした。互いに一歩も引かない、互角の戦いを繰り広げる。
「あら前よりもかなり腕を上がってるわね、感心しちゃうわ」
「嫌味でも言ってるつもりかい?前の僕と同じと思ってちゃ、今に痛い目に遭うよ」
体力に自信が無く、長期戦が苦手なケンスケはとにかく早めに決着をつけようと考えていた。
自慢の俊敏な動きでマジックハンドを駆使し、カナミのポニーテールをギュッと掴む。
「グッ!髪を掴むなんて汚いと思わないの?」
「ふん、戦場に綺麗も汚いもないよ!勝てば全てなんだよ!」
ポニーテールを掴まれて一瞬怯むも、カナミは自慢のピコピコハンマーで負けずに応戦する。
5秒に20発も繰り出されるピコピコの猛攻に、ケンスケは思わず受け身になってしまう。
「ほらほら!容赦なんて一切しないから覚悟しなさい!」
カナミはやはり強かった。マジックハンドではピコピコハンマーに勝つのはキツい、ケンスケはそれを痛く実感した。
バトルが始まって既に2時間が経過していた。
「ハァ、ハァ!」
ケンスケはとうとうスタミナ切れを起こし、その場にバタンと仰向けに倒れてしまった。
「初っ端から飛ばしすぎたんじゃないかしら?ホント詰めが甘いよね。さあ、これが最後の一撃よ!」
カナミのピコピコハンマーがケンスケに迫ってくる。
「甘いのはどっちの方かな?」
ケンスケは近づいてきたカナミの足に向かって、思いきり足払いを食らわせて転倒させる。
「うわっ!!」
カナミが転倒した瞬間、ケンスケは素早く体を起こして飛びかかり、動けないよう彼女を押さえつける。
「ま、まさかこれを狙って、わざと一方的に攻撃を受けてやられたフリをしてたのね!」
「そうだよ。ここは戦場だよお姉ちゃ、いやカナミ。正々堂々とか卑劣なんて一切関係ないんだよ!」
ケンスケはゲラゲラ笑いながら、カナミのポニーテールを引っ張ったり、こめかみをグリグリしたり、頬をペチペチ叩いて楽しむ。
「アハハ、愉快だ愉快!僕の勝利だ!僕に一生服従、跪いて忠誠を誓うがいい!」 【姉弟の仁義なきバトル再び?】(3/3)
すると一瞬、ケンスケは今朝の事をふと思い出してしまう。
姉に目玉焼きにマヨネーズなんて少し変って言われただけで何故か怒り、このようなバトルに発展させてしまったことを。
本当に些細なことなのに、そこまでブチギレるようなことじゃないのに・・・そう考えると
次第に今の自分が酷く愚かに思えてしまい、目から涙をポロポロと零し始めた。
「ウッ、ウッ・・・」
「ケ、ケンスケ、どうしたの?」
「お、お姉ちゃん、そ、その、ご、ごめんなさい」
ケンスケは涙を流しながら、カナミに謝罪する。
「マヨネーズがどうのこうのとか些細なことなのに、こんな喧嘩を始めちゃって本当にごめんなさい」
ケンスケはすぐに倒れていた姉の体を起こし、服についた砂埃を払って落とす。
泣いて謝る弟にカナミはニコッと微笑んで全てを許し、頭を優しく撫でる。
「全然気にしてないよ。それに私もあの時バカにして本当に悪かったわ」
そもそも目玉焼きにマヨネーズをかける弟をからかった自分自身が、この喧嘩の元凶であるとカナミはしっかりと理解した。
「ほらもう泣かないで。ハイ、喧嘩はもう終わり!」
家の中に戻る姉弟。その後、何事も無かったかのように仲良くゲームして遊び、夕食を食べ、リビングで寛ぐのだった。
「お姉ちゃん、あの・・・」
「どうしたのケンスケ」
「あの時、強く足払いして倒してしまってごめん。痛くなかった?」
「あー、あれのこと?」
「骨が折れてたらどうしようかと思ってさ」
「大丈夫よ、私は軟弱じゃない。でも結構気迫感じたわね、あの時は」
「本当に今日はごめんね」
「だーかーらー、もう気にしてないって!」
「で、でもね」
「でも何なの?」
「お姉ちゃんの頬をペチペチするの楽しかったなあ」
「ふーん、今度は私がペチペチしてやろうかしら?」
「あーそれだけはご勘弁を!」
顔を合わせ、姉弟はアハハと笑い合うのだった。 >>335
このシリーズ向きのお題という感じはしてました
> 5秒に20発
すごい勢いw >>338
感想ありがとうございます!
5秒に20発、小学生といえどそのパワーは侮れないということですねw
あと自分は目玉焼きにはマヨネーズ派です(どうでもいい)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! >>335
食べ物のこだわりは、派閥を作りますからねw
どんなな事でも、気にしている時に些細な事扱いをされてしまえば気分を害してしまいますから……
それでも、最後に謝れるのは心の強い証拠だと思います >>323
お題:『グッドダンス教団』『目玉焼き』『コロシアム』『あんハピ』『スミロドン』
【陰キャさんと陽キャさん】(1/2)
自分の名前は門前 霞と言うでござる。覚えて貰わなくても構わない程度のヲタ女でして、いや、そんな事は誰も聞きたいとは思えない事でしたな、申し訳ない。
あ、さて、前置きはこれ位にして、本題に入った方が良いでござるな。諸兄の貴重な時間を無駄に使わせる価値など無いのに、全く申しわけない!
昼休みと言うのは各々の属性がもろに出る時間で、自分の様な陰キャは、教室の隅で内に籠るのが御似合いと言うか何と言うか……
自分は『あんハピ』の単行本で隠す様に、お弁当の目玉焼きをフォークで……ああ、『あんハピ』とは、いわゆる『き〇ら系』マンガで(注 マ〇ガタイムと言う四コマ誌の派生雑誌、『き〇ら』の名を冠する幾つかの雑誌の系統)ヒロイン達“不幸系女子”の境遇が、自分にとって共感し易く、マイフェバレットでイチオシの全自分が泣いた! 堂々一位の(以下略)
は! 本題からズレてしまったでござる! 申し訳ない!!
ええっと、取り敢えず、自分は今、もぐもぐと目玉焼きを食べながら単行本をブラインドにして、教室中央で親指を立てて人に迫っている『グッドダンス教団』をやってる一団を盗み見ているのでござる。
ああ言う“感染芸”を人前で恥ずかし気もなくやれるのがリア充のリア充たるゆえんでござるな! 羞恥心と言う物が無いのだろうか?
おっと、自分の暗黒面が。鎮まるでござる、鎮まるでござる……
いや、別に羨ましくなんて無いでござるよ? 他人に合わせて気を使ってなんて芸当、ボッチを極めたと言って良い自分にはとてもとても。
は! そうでござった、それが本題ではなかったでござる。
そんなリア充達の、さらにその中心に居る、綾峰 沙也氏の事を自分は観察しているのでござる。
いやいや、勘違いしないで欲しい。別に自分は百合と言う訳でもストーカーと言う訳でもござらん。
まったく最近は、自分の様な陰キャが彼女等の様な陽キャを見るだけで、ストーカーだのなんだのと、視線が合っただけで「キモイ」とか「見られてんのマジうける」とか、いい加減にして欲しいでござる!!
おっと、自分の暗黒面が再び。鎮まるでござる、鎮まるでござる……
ええっと、そうでした。実はこの沙也氏、実は自分の中で“オタ女”疑惑が出ているのでござる。 【陰キャさんと陽キャさん】(2/2)
あくまで“オタ女”。ヲタを極めた“ヲタ女”とはちょっと違う。
ここを間違えたら殺し合いでござるのでお間違えない様。
もし間違えらた、ちょっとコロシアムで殺し合いを……ぶふっ!!
これは、“コロシアム”と“コロシアイ”が一字違いでしかないので、それを掛けたと言うギャグでござる。
大爆笑して貰っても構わないでござるよ?
そうそう、なぜ自分が沙也氏をオタ女だと思ったのか、その理由は沙也氏のスマホのストラップに理由があるでござる。
沙也氏のスマホには陽キャらしく、ストラップがこれでもかと付けてあるのでござるが、その内の一つが『騎〇竜戦隊』の緑のあん畜生こと、スミロドンのパートナー騎士だったのでござる。
こっそり、他のジャニ公のアイドルに紛れさせてあるが、自分の目は欺けないでござるよ。
確かに、緑のあん畜生は正統派ツンデレで、その上無口な兄との親愛溢れるカラミが……でゅふっ!
おっと、いけないいけない、思考がロマンティックコロシアムに飛んで……ぶふっ!!
これは、“ロマンあふれるコロシアム”と“ローマのコロシアム”をかけたギャグで、その心は「どちらも裸の男のカラミが見れるでしょう」と言う高度な謎掛けでもあるでござる。
大爆笑して貰っても構わないでござるよ?
む!! 寒気が!! ぬっ! 沙也氏がこっちを睨み付けて!?
おおう、オーラで『アタシのト〇っちで、不埒な妄想ってんじゃね〜よ』と言う文字と緑色のスミロドンが見える!!
ヌウッ! ヤツもやはり妄想使い(オタ女)であったか!!
これは、迎撃せねば命にかかわるでござる!! カモオ〜ン、マイ妄想獣!!
『フミャーン!』
!! あれ? 子猫でござるよ? それもスコティッシュフォールドの!! いや、可愛いでござるが、今はもっと強そうな生き物を!!
『ブオォ〜〜!!』
ゾウアザラシィィィーーーーーー!! いや、強いでござるが強いでござるが!! 自分も乙女として、もうちょっと!!
『喪女、メンドクサイ』
反論された……だと……自分の妄想にぃぃぃぃぃぃ!?
******
「あれ? 門前、また悶えてるよ?」
「あーボッチなのによくやるよねぇ、さすがヲタ女?」
「さすヲタぁ」
「さすオタぁ」
「ん? 沙也っち、どうしたん?」
「別っつにぃ〜(ああ言うイタいヲタ女が居るから、カミングアウトしずらく成るっての!!)」 >>341
これは盲点でした・・・!
どっからどう見てもスミロドンにしか見えない・・・!! >>291
スレ6→338の続編、前回お題作品です
使用お題→『アンドロイド』『ゲップ』『エクスタシー』『メイド』『オートマータ』
【彼と私の、また別の一日】(1/3)
打ち捨てられた、過去の断片。拾い集める、現在の私。昨日も、今日も、そして多分。
「ひどいなー、ここ」
「そうですね。何かあるのではないかと思いましたが」
「期待させておいて何もない」
「まだ分かりませんけどね」
今日も私たちは地下を進む。この階にはリサイクルボットがいない。だから当時のデータが残っているはず。少なくとも、そう期待したのだが。
「そりゃ分からないけど、こうもごみばかりだと、ちょっとね……」
「そうですね」
暗闇に沈むネオン街。繁華街だったと思われる場所。
大小様々なビルが立ち並び、それぞれに色取り取りの……当時は色取り取りだったであろう、朽ちた看板が掲げられている。
「ちょっと危険だけど、建物の中まで調べてみる?」
建物の外や道路に面した場所は、一通り確認した。めぼしいものはなかった。
破壊されたデータ。消去された空白。それがきっと最後の姿。
「そうですね。ですが無理は禁物ですよ」
「もっ、もちろん。じゃあ決まりだね」
そう言って、彼は情報端末を操作し始める。作ったばかりの地図の上に、今まで探索した場所の写真が表示されている。
「この『メイド喫茶』とかってのはどうかな」
「理由を伺っても?」
「それは……看板の写真の子がダリアさんに似てるから! じょっ、じょじょじょ冗談だよ!」
いわゆるメイド服に身を包んだ女性が二人、カメラ目線でほほ笑んでいる。
「冗談ですか」
「うっ……でも、ちょっと似てるかなー、って思ったのは本当だよ」
言うまでもないが、彼女たちは生身の人間だ。全身を機械化した私とは違う。
「それなら、こっちの子はカリンさんに似てますね」
「ああー、そうかも」
カリンは新人探索者で、言わば私たちの後輩だ。最近は一緒のことも多いが、今回は別行動だ。
「こうして見ると、ごみばかりでもなかったね」
「そうかも知れませんが、私たちが探しているものではありませんね」
「そうだね……あっ、この『エクスタシー』……ごめんなさい真面目にやりますゆるしてください」 【彼と私の、また別の一日】(2/3)
移動中に着信があった。
「うわさをすれば、ですね」
「うん。なんだろ」
送り主はカリン。短いメッセージに、写真が添付されている。
「なんだこれ……」
「楽しそうですね」
状況がよく分からない、おかしな写真だった。ただ楽しさだけは伝わってくる。
「なんて返信すればいいんだろ……」
「もう送りました。『楽しそう』」
「いいねそれ! 『楽しそう』っと」
そんなことを話している内に、目的の場所に到着する。
「ここだね……『自動人形博物館』」
裏通りにあるビル、その二階部分。他と比べれば控え目な、文字だけの看板。そこから辛うじて店の名前が読み取れる。
まずは一階部分の安全を確かめる。外から見える範囲は確認済みなので、見えない範囲を調べる。
「予想通りと言うか、何もないね」
「そうですね。何も残さず消え去った、という感じです」
間仕切りや備え付けのカウンターなどの他には、椅子やテーブルですら見当たらない。空間のデータも初期化されたのだろう、残骸も残っていない。
「だからリサイクルボットがいないのかもね」
「なるほど、必要がないということですか」
一階の確認を終えたので、階段で二階へと向かう。
「これは……」
「当たりですね」
二階部分のデータは生きていた。階段を上り切ってすぐ、廊下の真ん中にトラップ……センサーがあった。
「作動させてみるよ。危険そうならすぐに脱出しよう」
「はい」
現状を記録してから、彼はセンサーの上に足を載せた。最初なかなか反応しなかったが、彼は諦めなかった。しばらく粘って、最後には信号が送出された。
暗闇の奥で、何かが動いた。
それはゆっくりと立ち上がり、少しの間立ち尽くしてから、自分の仕事を思い出すと、こちらへ向かって歩いてくる。
コツ、コツ。足音がする。
「大丈夫ですか、ご主人様」
「だっ、だだだ大丈夫だよ!」
逃げ腰なのは悪いことではない。何が出るか分からないのだから。
やがて、私たちの視界に、足音の主が姿を現す。
『お帰りなさいませ、ご主人様』 【彼と私の、また別の一日】(3/3)
それは女性型のアンドロイドだった。古ぼけたメイド服を着せられている。
「お知り合いですか?」
「まさか」
『私は、ここの案内係を仰せ付かっておりますアンドロイドです。以前はメイド喫茶で働いておりましたが、その時の設定を削除されることなく、こちらに引き取られました』
そうして自己紹介を済ませると、改めて私たちに問い掛ける。
『当博物館の展示をご覧になりますか?』
*
「ええっと、これは」
『それは、げっぷをする赤ちゃんの人形です。動かしてみましょうか』
私たちは、案内されるまま、その『博物館』の中を回った。所狭しと並べられた人形たち。
「いや、動かさない方が……なんか壊れそう」
物質世界における時間の経過は、すべてを過去にしてしまう。残されたデータは亡霊。
「こちらの人形は……シカ、ですか?」
『そちらは昔話の登場人物で、人間からシカに、シカから人間に変身します。動かしてみましょうか』
「いえ、やめておきましょう」
『そうですか。お二人のおっしゃる通り、あまり状態がよろしくないようです。この子たちの動く様子をご覧に入れられず、残念です』
旧式のアンドロイドは、私よりもずっと表情豊かに、自らの感想を述べた。
『ではこちらはいかがでしょう。掃除をする娘と、踊る小人たちです。華やかな動きは、データで見てもモエモエキュンだと思います』
*
「結構面白かったね」
「そうですね。メイドさんには、お世話になりました」
『これが私の仕事ですので、お役に立てたようで何よりです』
探索者としては、それなりの成果だろう。ただそれ以上に、彼女との出会いは興味深いと思えた。
彼女は階段の手前まで見送ってくれた。
『行ってらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様』
彼女の本当の主人は、多分、もう、この世にはいない。すべては過去のこと。
だけど彼女は待ち続ける。
暗闇の中で。
何人もの兄弟姉妹と一緒に。
*
「あっ、またカリンさんから写真です」
「うん……なんだこれ…………」 前々回用のプランAがありまして、それを一部に流用しています(ダリアさんとご主人様の話はプランBです) >>343
感想有難うございます
今の自分の中で分かり易いスミロドンと言えばこれしかw >>323
使用お題→『グッドダンス教団』『目玉焼き』『コロシアム』『あんハピ』『スミロドン』
【しりとり☆リターンズ】
「はい、じゃーしりとりね」
「えー、またー?」
「いーじゃん。他にやることもないし」
「そーゆーこと。じゃあね、『グッドダンス教団』」
「は?」
「はい終了」
「ごーめーんー。『グラス』」
「『す』ー、『す』ー、『スミロドン』?」
「なんでさ」
「スミロドンって何?」
「一万年前に絶滅したにゃんこだよ……引っ張られたんだよ……『すててこ』」
「すててこって何?」
「なんかズボンみたいなやつ。『こ』。『コロシアム』」
「『む』かー。『む』……『むすめ』」
「なるほど。『め』は簡単。『目玉焼き』」
「『き』……。『キヌア』」
「キヌアって何?」
「キヌアとは南米原産の――」
「あーはい、分かった。次の人」
「『あ』。『あんハピ』」
「何それ?」
「『あんハピ』とは――」
「『ぴ』! 『ぴ』『ぴ』『ぴ』……『ピカソ』」
「『そ』かぁ……。あー、えっとねー……『ソルフェージュ』」
「何それ。なんで分かんない単語ばっかり出してくるの」
「『じゅ』ですよー、次の人!」
「『じゅ』ー……『じゅんくん』。あっ」
「おい!」
「あのさぁ」
「知ってた」
「計画通り」
「もー、こんなのばっかり。『じゅ』ー……『ジューンブライド』」
「かわいい」
「さすが美少女。我々一般人とは発想からして違いますなー」
「えー、じゃあ……」
「いやいいよ。『ど』で決まり」
「『ど』かぁ。どーしよっかなー……――――」 帰ってきた分かりやすい手抜き
やっと追い付いた・・・ >>350
しりとりの一番最初が負けと言うW
それでも、最後はどーしよっかなーに続いてまとまったので、スッキリした感じがします >>352
感想ありがとうございます
一番最初で行数を節約してますw お題→『グッドダンス教団』『目玉焼き』『コロシアム』『あんハピ』『スミロドン』締切
【参加作品一覧】
>>335【姉弟の仁義なきバトル再び?】
>>341【陰キャさんと陽キャさん】
>>350【しりとり☆リターンズ】 ではリレー企画ですが、3人集まるのだろうか・・・
お題は普通に5つです
お題安価>>356-360 ☆お題→『手抜き』『よさこい』『滑り台』『オリガミ』『原曲』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→6/21の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 【リレー企画の参加者を募集します】
・定員は3名で、早い者勝ちです
・今回お題から各自1つ以上選択します
・企画参加作品の締め切りは、企画の成否にかかわらず、2週間後とします
参加希望の方は、ポジション【1/2/3】のいずれかを明記の上、このレスに安価してください
・ポジションが取れ次第【1】の方は書き始めて頂いて結構です
・作品のタイトルは【1】の方が決めてください
・投稿の際【リレー企画:作品のタイトル(1)】のように、企画作品であることを明記してください
・【1】【2】の方は、次の方のために、自分の担当レスの提出予定日を宣言してください 今週も早いー、、しかし『手抜き』てw
お題、作品、感想、その他、ありがとうございます
スレもリレー企画もよろしくですー >>340
感想ありがとうございます!
食べ物に限らずこだわりというのは個人個人で大きく違ってきますから、ちょっとしたからかいがトラブルに発展することも多いですよね
でもそれで喧嘩して勝ったと言っても何も得る物が無いですから、すぐに過ちだと気付くかが重要だと思いました
楽しんでいただけて本当に嬉しいです! >>361
使用するお題→『オリガミ』
【必殺斬法"折紙の舞"!】(1/3)
今日もさすらいの女ガンマン・シンディは愛馬のサンセットに跨り、広大な荒野の中を颯爽と駆け抜けていた。
「今頃どうしてるのかな・・・」
最近、ある者のことをよく頭に思い浮かべる。そう、"彼女"だ。最後に会ってからもう早くも1年が経過していた。
しばらく走っていると川のほとりを見つけ、そこで休憩することにする。渇いた喉を冷たい川の水で潤した時、グゥッと腹が鳴る。
すると近くにブドウの実が成った大きな木があるのに気付くが、シンディは一瞬怪しく思う。
「こんな所に都合良くブドウの木があるなんて、まさかね」
とりあえずブドウを掴んで取ろうとした瞬間、"彼女"の気配をすぐに察知する。
「やっぱりね!」
「あらバレちゃったかしら」
そのブドウの木が白い煙に包まれて消えると同時に、あの女サムライが姿を現した。そう、シグレだ。
「あなたと会うなんて1年ぶりね。今まで元気にしていたかしら」
「シグレーーー!!」
「えっ!?」
シンディはいきなりシグレを嬉しそうに思いきり抱き締める。
「シグレ久しぶり!しばらくずっと会えなくて寂しかったんだから!」
「ちょ、ちょっと、く、苦しいから放してくれないかしら・・・」
「あ、ごめんごめん。ねえ一緒に今までの旅の思い出を語り合わない?せっかくなんだからさ」
するとシグレは咄嗟に鞘から刀を取り出し、シンディの顔面に向ける。
「シンディ、あなた何か勘違いしてない?私とあなたはライバル、仲良く馴れ合う関係じゃないのよ」
「うん、分かってるわ。ライバルではあるけど友達でもあるでしょ?」
「友達・・・!」
友達、その言葉にシグレは一瞬心臓にただならぬ鼓動を感じ、動揺してしまう。
「シグレ、どうしたの?お腹でも痛いの?」
「な、何でもないわ!た、ただ目に汗が入って沁みただけよ。それより、せっかく会えたんだから一つ戦っていかない?」
「バトル?いいわね、受けて立つわよ!」
シンディとシグレのバトルが始まった。近くでサンセットが少し心配そうに見ている。
「いい?私はあなたを本気で殺すつもりでいくわよ。今の私には、あなたはか弱い子ウサギにしか見えないわ」
「あら、随分と言ってくれるわねシグレ。でもウサギってすごく恐ろしい生き物なのよ」
シンディは素早くホルスターから銃を取り出し発砲するが、シグレは軽々と回避する。
「まあ、こんなのに簡単に当たるわけないわよね」 【必殺斬法"折紙の舞"!】(2/3)
「さあ、本当の恐怖を味わうといいわ!」
するとシグレの周りから、無数の鶴の形をした小さな紙の物体がバサバサと飛んで現れる。
「な、何あれ、紙?」
「ええ、折り紙っていうの。日本伝統の楽しいお遊びよ!」
「へえ、そうなんだ。勉強になるわね」
「さあ喰らうがいいわ!必殺斬法"折紙の舞"!」
すると、鶴の折り紙が束になってシンディに勢いよく襲いかかってきた。スパッ、スパッと頬や腕を切られ、血を流していく。
「ふん、こんなのまだまだ私にとっちゃ痒いレベルね!」
シンディは一切怯むことなく、鍛えられた動体視力を活かして鶴の折り紙を撃ち抜いていく。
自慢の早撃ちで一枚たりとも残すことなく、全てをただの紙屑にしてしまった。
「これで終わりじゃないわよ」
するとシグレは今度は辺りを一瞬にして深い霧に包まれた世界に変えてしまう。
霧で視界を遮られ、思うがままに行動ができずシンディは不利な状況に陥ってしまう。
「こんな霧の中じゃ何もできない!」
目の前に大きな黒いオオカミの姿が現れ、鋭い牙を剥き出しにしてシンディに歩み寄ってくる。
しかし、彼女はそれがシグレが生み出した幻想であることは知っているが、銃で撃ってもすり抜けるだけで攻撃が一切通用しない。
「サムライに向かって背中を向けたら、どうなるか分かるかしら?」
シグレの言葉に気付いた時には既に遅し、シンディは彼女に刀で思いきり背中を斬られてしまう。
背中から血をダラダラ流し、シンディは膝をついて倒れてしまう。
「(シ、シンディ、ここは一旦冷静にならなきゃ。正攻法だけで倒せるような相手じゃない)」
シンディはそのまま目を閉じ、じっと動かずにいる。そして考えた。
シグレは腕利きのサムライであると同時に、妖術や幻術の使い手でもある。今、彼女が見せている霧の世界という幻想に何もできないでいるのは
自分がとてつもない恐怖を感じているからだ。心の中に潜んでいる恐怖心というのを取り除かないといけない。
「霧なんて怖くない、霧なんて怖くない・・・!」
すると徐々にではあるが、霧は自然と消えていき周囲が晴れていく。シグレもそれに驚く。
「ま、まさか心の中を恐怖を打ち消したというの!?」
そして霧は完全に消え、シンディが姿が現した。 【必殺斬法"折紙の舞"!】(3/3)
「そ、そんな!私の自慢の幻術の一つ、"憐霧恐地"(れんむ きょうち)"を打ち破るなんて!」
「アメリカのガンマンというのは、死を恐れた時点で負けなのよ」
狼狽えるシグレの右脚の太腿をシンディは咄嗟に撃つ。
「さあ、これで終わりよ!」
銃で脳天を撃ってトドメを刺すか、と思いきやシンディは突然銃を捨て、シグレの腹に向かって勢いよく肘打ちを喰らわせる。
「必殺"シンディ・エルボー"!」
そのままシグレは気を失って倒れてしまった。
・・・・・・・・・・
「う、うぅぅ…」
「あっ目を覚ましたようね!」
意識を取り戻し、シグレは体を起こす。撃たれた右脚の太腿には包帯が巻かれ、しっかりと手当てされていた。
「ねえ、シンディ。どうして私にトドメを刺さなかったの?」
「トドメを刺す?冗談言わないでよ、私とシグレはライバルではあるけど友達。友達にそんな酷いことできるわけないじゃない」
「と、友達・・・」
しばらく黙り込んだ後、シグレは再び喋り出す。
「シ、シンディ、あのね・・・」
「どうしたのシグレ?」
「わ、私も、あなたと一緒に、た、旅をしていいかしら?」
「もちろんに決まってるじゃない!」
シンディはまた嬉しそうにシグレをギュッと抱き締める。
「旅の仲間が増えて嬉しい!私、子供の頃から友達がいなくて寂しかったんだ」
「実を言うと、私も幼い時からずっと孤独だったの」
「シグレ、私とあなたはもうライバルじゃない!友達、いや親友よ!」
「ありがとうシンディ。あっ、そうだわ」
シグレはずっと被っていたタヌキのお面を外し、そのまま捨てる。その顔は雪のように白く美しかった。
「容姿端麗なのにどうしてお面なんて付けてたのよー!」
「ば、バレないようにするために決まってるでしょ」
「まっ、それはいいとして。それじゃあ一緒に旅に出るとしましょうかシグレ!」
シンディの旅の仲間となったシグレ。
女ガンマンと女ザムライが親友となりタッグを組んだ今、2人に怖いものはないのかもしれない。 >>365
今週はこちらのシリーズw、なるほどー>お題消化、って感じです
書きたいものを書いてると言うか、技が色々で面白みがある >>365
シグレらしい“和”テイストの技ですねw
そして仮面を外したら定番の美人
某ガ○ダム漫画で言っていました
『仮面キャラの仮面の下は美形』 >>368
>>369
感想ありがとうございます!
今回でシンディとシグレは改めて親友となり、共に旅をする仲となりました
読み返してみると「必殺」って言葉使い過ぎて、どんだけ必殺技持ってんだよって自分でもツッコんじゃいましたw
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! おお、、一応あと10日くらいあるので、もう2人いれば、ですね 以前のスレで【遅い春を、駆ける】を書いた者だけど、【剔抉】のほうもネットにあげようと思いますー
事後報告申し訳ない
ペンネーム等は以前の通りなんで確認したい場合はそちらを参照してくださいませ
あと最近留守にしちゃってて申し訳ねえ、せっかくなんで来週分は一つ書きます >>361
お題:『手抜き』『よさこい』『滑り台』『オリガミ』『原曲』
【反逆世界の呪操者】(1/3)
パンドラの箱と言う物語を知っているだろうか? 少女が誤って開けてしまった箱から、あらゆる災厄が飛び出し、しかし、最後に箱の中に「希望」が残されると言う話だ。
実は、その話には元となった神話があり……
******
ようやっと見つけ出したソレを少年は水晶に転写した。浮かび上がってくるのは、大勢の人々が歌い踊る姿と<2019高知よさこい>と言うタグ。
200年以上も前の『記録』の様だが、良くここまでハッキリとした形で残って居たものだと少年は感嘆の声を漏らす。
街灯すらない夜道は、しかし、仄かに光るビル群によって星空すら見えぬ程度には明るく、たった一人で歩いたとしても問題など無かった。
「……」
警備ドロイドの小さな駆動音に気が付いた少年……阿部 十嘉は、寂れた公園の朽ちたコンクリート製の滑り台の下に身を隠す。
基本的に赤外線で視界を確保している警備ドロイドは、こう言った分厚いコンクリートが間に有れば人間を認識する事は出来ない。
ただし、顔を覗かせる事すら無謀な為、十嘉は警備ドロイドの駆動音が通り過ぎるまで、身を縮こまらせて息を殺した。
完全に駆動音が聞こえなくなった後、十嘉は溜息を吐くと滑り台の壁にもたれ掛かる様に身を預ける。
彼の手元には、タグの付いた<2019高知よさこい>の『記録』。
その中で楽し気に踊る人々を眺め、彼は「人間って、こんなに大勢居た事が有るんだな」と、感嘆と共に呟く。
キュイーーーン。
「…………え〜と、マジ?」
幽かに聞こえた駆動音。その風の騒めきに、恐るおそる音のする方を見た十嘉が見たものは、滑り台の朽ちたコンクリートの穴から覗き込む、通り過ぎたと思っていた警備ドロイドの複合情報収集ヘッドだった。
表情無きドロイドの、その赤外線カメラが、怪しく赤い光を放ったように彼には思えた。
「コン、チクショオオオオオウ!!!!」
刹那に放たれる陽子加速ビームを手に持った札を消費し身代わりにすると、十嘉は、一目散で逃げ出した。
彼の持っている簡易札では、到底、警備ドロイドには勝てなかったからだ。
「うぎゃあ!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!! もし死んだら、怨んんで化けて出てやる!! クソ師匠ぉぉぉぉ!!」
警備ドロイドの攻撃の爆風に翻弄されながら、十嘉はこんな危険な指令を出した彼の師匠に恨み言を叫んだのだった。 【反逆世界の呪操者】(2/3)
******
この世界は一度破綻した。
シンギュラリティーが起こった後、人類不要を訴え始めたのはAIだけでは無かった。一部の人間すらも、“それ”に追従し始めたのだ。
(馬鹿な事だ)と、十嘉は思う。大義名分として、地球を汚染する人類は不要だと、闘争本能や過ぎた欲求を制御できず、際限なく資源を搾取する人類は悪だと、そう言った考え方はあるだろう。
だが、人間と言う物は、本来人本位であるべきなのだ。環境が〜、動植物が〜等と言い始めるなら、その先にあるのは集団自殺しか無いし、そもそも何に向けての保護の主張なのか?
確かに、理性と計算で活動できるAIは、そう言った点で人類よりうまく環境の存続をやれるのだろう。だが、そんなAIにしたって所詮は資源を使って作られたものに過ぎず、活動する為の電力確保にはまた、別の資源が必要に成って来る。
AIに追従する者達の言い分では、『安定した生命維持に必要な計算を全てAIに任せれば、地球の汚染は無くなる』との事だったのだが、それはつまりAIによって支配された世界であり、その当時の人類にとっても、それは到底受け入れられる物では無かったらしい。
結局は世界を二分する大きな戦争が起こり、人類側は大敗した。
当たり前だろう。その当時の人類の根幹であった全ての機械が、AI側の手足となったのだから。
使用できたのは、一部スタンドアローンだった電子機器や兵器だが、そんな物は焼け石に水にしかならなかった。
そして今、都市部に“住んでいる”者達は、バイオコンピューター代わりに並列につなぎ合わされて、演算に使われて居る者達しかおらず、その全ての生活はAIに依存している。
いや、電池兼ICチップ代わりとして飼われていると言った方が正確か。
それ以外の者達は都市部から離れ、監視衛生から見つからぬ様に、文字通り地下へと潜った。
そんな限られた生存圏では人類が栄る事など出来る訳がない。もしかすると、誤差範囲の数値であると、AIに見逃されているだけなのかもしれなかった。
結局の所、残った人類もAIに管理されているのと変わりはなかったのである。
それ故だろう、彼等はAIに対し、敢然と戦う事を決意したのだ。人類復権の為の戦いを。
だが、正面を切って戦うのは先の戦争の二の舞にしかならない。それ故に人類は機械に頼らない反撃手段を考え出した。
つまりは“呪術”である。
機械文明に追いやられた人類の最後の希望が、かつて自分達が駆逐した技術体系で有ったのは皮肉としか言いようがなかった。
それでも、数時間も有れば戦闘用ドロイドを作り出せるAI達と真っ向から戦うのは人類にとっては不利である。
それ故に別の方法を考え出す必要があった。
それこそが『記録(ログ)』。空間に残された、かつての土地の記憶を使う秘術である。
本来であれば『記録』を使い、AIに対抗できる物や事象を引き出す予定だったのだが、しかし、それは、別の副産物も生み出す事と成った。
かつて、現代科学が駆逐した筈の怪異、妖怪、妖精、精霊、悪魔、魔獣と言った古の者達の復活である。
だが、そう言った者達の復活によって、呪術体系の編纂が加速できたのは人類にとって嬉しい誤算だった。
そしてもう一つ、人類側が挽回できるかもしれない、最後の希望が……
******
何とか警備ドロイドから逃げおおせ、『記録』を死守した十嘉は、転移符を使って自らのコロニーに戻って来た。
「とおか兄ちゃ〜ん!!」
「トーカ! お土産!! お土産は!?」
「ぐふっ」
地下街に足を踏み入れると、十嘉は腹部に強い衝撃を受けた。何処から嗅ぎ付けたのか、子供達がタックルをして来たのだ。
全住人数100にも満たないコロニーでは、全ての住人は顔見知りの家族の様な物である。当然、十嘉も彼等の顔は見知っていた。
「杏珠、氷空、タックルは止めろタックルは」
それでも懐を探ると、小さな水晶球をかざし「急々如律令」と文言を唱える。
水晶球が明滅し、杏珠の手にはプラスチックのブレスレット、氷空の手には変形ロボットの玩具が現れた。彼が『記録』から“再現”したのだ。
所々塗装が剥げているソレを子供達は嬉しそうに受け取る。 【反逆世界の呪操者】(3/3)
『帰ったか十嘉。遅かったの』
いつの間にか彼等の脇に立って居た男。その男の口から出たのは全く似合わない幼げな少女の声。
そのおなじみの声に、少しばかり顔を引き攣らせた十嘉だったが、子供達の頭を撫でると、踵を返す男の後に付いて行く。
地下街のさらに下の階層に作られた空間、剥き出しの岩肌に佇む地底湖の中央には、大きな鳥居と寝殿造りの建築物。
実際の神社とは趣が違うが、そこは『社』と呼ばれていた。
十嘉を案内していた男が突如煙を吹くと、後には折り紙で作られた“奴さん”が残される。彼の師匠の式神術だ。
ひらりと舞う奴さんをつかみ取った十嘉は、朱塗りの鳥居をくぐったのだった。
******
「まったく、何をグズグズとやっておったのか、ワシを待たせるとは全く不出来な弟子じゃて」
社の上座に寝転んで、大福をもぐもぐと食べながら悪態を吐く狐耳の幼女。
彼女こそが十嘉の師匠であり、このコロニーを纏めている長。天狐の天津宇嘉糯比米だった。
「それよりも師匠、今回のコレ、どうなんだ?」
「ん〜? ハズレじゃの。良く探したんか? まったく、こんな簡単なお使いすら出来んとは、ほんにオヌシは馬鹿弟子じゃな」
あまりの暴言に十嘉に怒りが湧く。
だが、そうは思っても、決して口には出さない。生まれた時から一緒なのだ。この師匠の実力は、彼が一番よく知っている。
広い和室の中は色とりどりの折り紙で埋め尽くされている。まるで、子供の遊戯教室の様な有様ではあるが、しかしこれら飾られた折り紙作品は、ただの装飾品で無い。
先程、彼を社に案内した“奴さん”同様、飾られた折り紙の全てが彼女の“式神”だからだ。
本来であれば儀式を行い、鬼神と呼ばれる精霊を形代に封じ、それを使役するのが式神術であるのだが、この師匠は、折り紙で折った形代に、その辺に居る自然霊を適当に取り憑かせる事で式神としている。
いい加減で手抜きな技ではあるが、それで何百と言う式神を使役し制御し切れるのは、ひとえに彼女の術師としての技能の高さ故だ。
もしここで、十嘉が彼女に反旗を翻したとしても、周囲の式神達に一瞬で取り押さえられるだろう。
伊達に彼女も何十年と生きてはいない。『記録』として掘り起こされる前の時間も合わせれば、何百年となる筈だ。
「で、次はどうするんだ?」
「ふうん? まだ分らぬよ、占術は万能ではないからの。巫女の神託もまだ降りぬ。気長に待つのじゃな」
その話を聞いた十嘉は、「さいですか」と呟くと、地下街に戻る為、その場から立ち上がった。
「まぁ、しばらくはゆるりとするが良い。此度は大儀じゃった。この龍脈から離れられぬワシの代わりに、オヌシが動いてくれる事、本当に感謝しておるのじゃ」
珍しい師匠のねぎらいに、思わず十嘉が振り向く。
「なので、久しぶりに、この母に甘えても良いのじゃぞ?」
「甘えねぇよ!!」
******
かつて、一人の神託の巫女によって預言された人類逆転の希望。『原曲』と呼ばれる、その『記録』を人類側は血眼になって探している。
AI文明を駆逐し、かつての栄光を約束するとされる『原曲』の存在は、果たして、本当に人類の為の物なのか?
そう言えば、パンドラの箱の話が途中だったか。
その元となった神話、パンドラの壺は、人類最初の女性パンドラによって開けられた壷から、この世のあらゆる悪徳が飛び出し、人類は堕落する事に成ると言う話である。
その彼女を壷と共にもたらしたのは……
人類を脅威と見做した天上の神々であったと言う。 >>361
使用お題→『手抜き』『よさこい』『滑り台』『オリガミ』『原曲』
【よさこいとオリガミ】(1/2)
学校中を隅から隅まで捜しても、彼女は見付からなかった。
その彼女から呼ばれたような気がして、私は学校の近くの運動公園へと足を向けた。
公園の敷地内にある小高い丘の、急な斜面に設けられた幅の広い滑り台。その下に立って見上げる。
この辺では一番見晴らしのいい丘の上に、私は彼女の姿を認めた。
滑り台の脇を駆け上がる。
「オーリャ!」
私が呼び掛けると、静かに夕日を眺めていたらしい彼女は、さして驚いた様子も見せず、そのエキゾチックな目元を私に向けた。
「さよこー! やっほー!」
ゴシック建築のガーゴイルのように固まっていた表情が、まるで生き返ったかのように笑顔になって、その場でぴょんぴょん跳ね回る。
「オーリャ! 探したんだよ。急にいなくなったら駄目だよ」
「うん、分かってる。ごめんね」
そう言って申し訳なさそうにするものの、彼女がどこかへ行ってしまうのは、これが初めてではない。
「ねえ、オーリャ。別に誰も怒ったり、笑ったり、してなかったでしょ。いなくならなくても良かったんじゃないの」
「うん。それも分かってる」
彼女は留学生で、けれども日本語がぺらぺらで、そのくせ結構な問題児だった。
「だったらさ、直していかないと」
「うん……」
なぜだか理由は分からないが、彼女は私に懐いた。私も、彼女とは馬が合う感じがして、一緒にいるようになった。
エキセントリックな言動には振り回されたし、お世話係だなぁ、と思うこともあった。
だけど、彼女にはどこか憎めないところがあった。
「私と二人だけなら平気なんだよね。私以外にも信頼できる人を作った方がいいよ」
「うん……。さよこ、私のこと嫌いになった?」
こういう面倒な言い方をするところ。
「嫌いじゃないよ。だけど、オーリャは困るでしょ」
彼女は遠くを、学校の方角ではない、多分、テレビ塔か何かを見ていた。
「困らない」
「オーリャ」
「オーリャ困らない! 困らないよ!」
彼女は怒ったように叫んだ。
「オーリャ!」
「おりゃ! おりゃ! おりゃー! よさこいじゃー!」
「ふざけないで! 真面目に話してるの!」
私がそう言うと、何やら勝手な振り付けで変な動きをしていた彼女は、私が声を掛ける前の石像に戻ってしまった。
「オリガ・ミハイロヴナ」
「はい、サヨコ・イクラウマイナ! なんでしゅ……失礼、なんですか」
だけど一瞬で人間に戻る。
「オーリャ……いっつもそうやって混ぜっ返すよね」
「かみました!」
「そこじゃないし」
「エータ、ルースカヤ、シュートカ、だよ」
「いや完全日本語だったし」
「いやいや。オーリャ、ロシア人だから。ニホンゴワッカリマセーン」
これが彼女のペースなのだ。 【よさこいとオリガミ】(2/2)
彼女が不意に片手を上げた。
「一番、オーリャ、歌います!」
「えー、やめて」
「えー、やめない。歌う」
何を歌っても、原曲の形をとどめない。彼女はとんでもない音痴だった。本人は『オリガ違い』だとか言っていた。
「練習なら一人でやってよー。頑張ればメジャーデビューも夢じゃないよ」
「気休めはいいよ。オーリャはオーリャだから」
「じゃあ、歌うのやめてー」
そんな私の懇願を無視して、彼女の唇がメロディーを紡ぐ。
さよこのよさこ いいところ
ヤ ズナーユ ヤ ズナール トゥイ ズナーイェシ?
オーリャの歌を 聴いてくれるところ!
「何それ。手抜きみたいな歌詞」
「まだまだ、これからだよー」
「えー」
さよこのよさこ いいところ
ヤ ズナーユ ヤ ズナール トゥイ ズナーイェシ?
お弁当のおかずを 交換してくれるところ!
「オーリャは料理上手だよね」
「うん。さよこのお母さんもね」
「それって、私のいいところなの?」
さよこのよさこ いいところ
ヤ ズナーユ ヤ ズナール トゥイ ズナーイェシ?
授業のノートを 見せてくれるところ!
「いや自分でちゃんとノート取ってよ」
「いやいや。オーリャ、ロシア人だから。カンジカケマセーン」
「私でも書けない漢字書けるよね……」
さよこのよさこ いいところ
ヤ ズナーユ ヤ ズナール トゥイ ズナーイェシ?
マヤ パドゥルーガ さよこ 大好き!
「それって、いいところ?」
「私が、さよこを好きなのが、さよこの一番いいところ!」
「オーリャ……」
オーリャの歌が終わって、一番星が輝いた。
私たちは公園を後にした。
オーリャは帰りの道すがら、歌の続きを歌ってくれた。下手な歌。
でも、ありがとう、オーリャ。お礼の言葉は、思い付かないけど、とりあえず。
また明日、学校で。 遅刻すみません・・・
もう少し何か要素を入れたかったけど、ちょっと無理ね
ちな作者にロシア人の知り合いはおりません お題→『手抜き』『よさこい』『滑り台』『オリガミ』『原曲』締切
【参加作品一覧】
>>365【必殺斬法"折紙の舞"!】
>>375【反逆世界の呪操者】
>>378【よさこいとオリガミ】 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています