安価・お題で短編小説を書こう!8
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安価お題で短編を書くスレです。
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■前スレ
安価・お題で短編小説を書こう!
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安価・お題で短編小説を書こう!2
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安価・お題で短編小説を書こう!3
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安価・お題で短編小説を書こう!4
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安価・お題で短編小説を書こう!5
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安価・お題で短編小説を書こう!6
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1557234006/
安価・お題で短編小説を書こう!7
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1572191206/ 「ダイジョーブッ!」ニ
「どうぞ」
声は震えていなかったはずだ。
道代はそう思いながら、玄関のドアを開いた。
「お時間を取らせて申し訳ありません。少しだけ、お時間を頂けますか?」
「ええ」
拒否感は顔に出ていなかっただろうか。
不安が次から次へとやってくる。
椅子を勧め、木場にコーヒーを渡す。
「ブラックですが」
「ありがとうございます。頂きます」
口をつけた木場は目を見開いた。
「……おいしいですね!」
これに関しては道代に悪気はなかった。
元から濃いブラックしか飲まないのだから。
「しかし、ご立派なお宅ですねぇ。そういえば旦那様は銀行員だったとか」
どきりとした。
「お話、初めていただけますか?」
話を断ち切った道代に木場はキョトンとしたがすぐ様柔和な表情に切り替わる。
若いのか、慣れているのか。
道代には見極めきれなかった。
「そうですね。では、始めましょうか」
木場は鞄から出した書類の束をテーブルに並べると手を組んだ。
「率直に申し上げますと」
木場は指を伸ばした。
細く、骨張っていた。
「今回の保険金に関しまして少しばかり疑問がございますのでそれについて確認させていただきたく本日はお伺いした次第なのです」
「事故のはずですが」
「その割にあなたは新生活を満喫してらっしゃるようですね」
道代は強くテーブルを叩いた。
「私を疑ってらっしゃるんですか!?」
「まさか。むしろ私はその事故の点を疑っているんですよ」
木場の丸い目が細まるのを見て、道代は血が引いていくのを感じた。 「ダイジョーブッ!」三
木場は頭を下げた。
「気を悪くされた点につきましては謝罪いたします」
しかし、すぐに顔を上げる。
「話を戻しましょう。これは旦那様が生前親しくされていたご友人から聞いたお話なんですが、旦那様は博物館、それも恐竜の展示がお好きだったようですね」
「何が関係あるんですか?」
事実だった。
道代は寿貴に付き合って博物館に何度も足を運んだものだった。
「あるんですねぇ、これが。このご友人が言うには博物館にご一緒した際、旦那様は自分はティラノサウルスのようだ、と言っていたと。聞き覚えはありますか?」
「……いいえ」
嘘ではない。道代は聞いたことがなかった。
「左様ですか。ちなみにですがティラノサウルスはこれまでのイメージと違って屍肉を貪るハイエナのような生態だと言われているようです」
「何を言っているんですか?」
道代の声は震えていた。
木場は構わず話を続ける。
「貴方にその言葉を言わなかったのはきっと、これまで培っていたご自分のイメージを崩したくなかったのかもしれませんね。なんせこのご友人、消費者金融の方なんです。ご主人は多額の借金を抱えていたようですね。プライベートで株(カブ)式の運用を失敗した結果で」
借金のことは道代も知っていた。そして、寿貴はプライドが高い人間だったから、木場の言うことも正しいだろう。
「さて、この事実をコネクト、つなげて行きますと私は一つの推察に行き着いたんですね。もしかしたら、と言う話なんですけどね」
道代はポケットの中にあるスマホを握りしめた。
「奥様あなた、遺書、またはその意を記したメッセージをご主人から受け取っていませんか?」 「ダイジョーブッ!」
誰もいない公園に木場はいた。
ベンチに腰掛け、カップ酒を開ける。
ベンチの空いているところに同じカップ酒を置いた。
「心配しすぎなんですよ、あなたは」
彼は言った。
そばには誰もいない。
「大体見せるわけないでしょ。自殺と事故じゃ話が変わってくるんですから」
置いたカップ酒の表面が揺れる。
「と言っても、あんだけ分かりやすい顔しときながら最後まで抵抗してきたのは正直驚きましたけどねぇ。心配するのもわからなくはない」
木場はカップ酒を煽る。
頭上に見えた満月を散りゆく桜がなぞる。
「もう逝きますか?」
木場の前で旋風が舞う。
桜の花弁を巻き込んだそれは一瞬、人形を模したように見えた。
「ダイジョーブッ! いらん心配せずにさっさと成仏してくださいな。あの人ならあんたがいなくとも生きていけますよ。それに保険金が出れば差し押さえられたお宅も帰ってくるでしょうしね」
吹く風が穏やかになった。
木場は微笑んだ。
「嫌な性分だわ。ホント」
満月の夜、深夜二時。
彼の耳は死者の言葉を運ぶ。
「あのおっさん……」
置いていたカップ酒に手を伸ばすと、それはすでに空だった。 >>32.49.50.51.52
安価忘れておりました。
申し訳ありません。
そして挑戦したはいいけどこのネタは無理がありました
orz >>32
お題:『恐竜』『コネクト』『満月』『カブ』『新生活』
【士官学校の問題生】(1/3)
朝日が窓から差し込み、微睡んでいた意識を覚醒へと誘う。
見慣れぬ天井を眺め、ここが実家ではない事を思い出した。
「あぁ、俺、士官学校に入ったんだっけ」
新生活も始まり、既に数日が過ぎたが、それでも未だに寮生活に慣れたとは言えない。
四人一組で生活するという事で、同年代の友人が増える事を期待していた俺だったが、それは叶わぬ夢と成っていた。
たった1つの事故によって、何故か今、上級士官候補生の寮に連れ込まれていたからだ。
「何をやっているの? 早く起きなさい!! それでも、栄え有るバーケスタ公爵家の従僕なの!!」
「ハイハイ、分かりましたよ!! リンゼお嬢様!!」
朝っぱらからかしましいのが、俺、トウヤ・イチジョウジが仕えているって事に成っているリンゼ・フォン・バーケスタお嬢様だ。
なぜ、“仕えている事に成っている”なんて言い回しをしたのかと言えば、それが全くの嘘だからだ。
******
深紅の髪を靡かせながら、気の強そうな美貌をさらに不機嫌さで染め上げたリンゼお嬢様は、俺の前をカツカツと歩いて行く。
俺は従僕らしく、彼女の鞄も持ち、アクビをしながら後に続いた。
「チッ」
「……公爵家令嬢として、そう言う舌打ちとかどうなんすかね?」
「わ、わたくしは、貴方の事なんて認めてないわ!! お父様が従僕としなさいと仰らなければ、とっとと無礼打ちにしているところよ!! あ、貴方が、ああんな……」
そう言いながら、耳まで真っ赤にするお嬢様。
あぁ、あの時の事を思い出したんだな。
そう、それは俺とお嬢様が始めて出会った時の事だ。
田舎から出てきたばかりの俺は、士官学校の入学式に向かう途中、ちょっとした事故に巻き込まれて、学校への到着が遅れていたんだ。
だから、ショートカットの意味も含めて、学校の周囲に広がる大森林を昼夜を問わず突っ切っていた。
「おっし、これで大分時間短縮できたかな?」
そうやって、もう少しで学校に着くと言う時だった。 【士官学校の問題生】(2/3)
「……魔竜の死骸か?」
俺の目の前に現れたのは5mを越す魔竜の死骸。魔竜は、リュウとは付くが、古代龍とは全く別の系譜で、大昔に居た恐竜の子孫らしい。
要は大型爬虫類だな。
その魔竜の所々焦げ痕の付いた死骸を目にし、なぜ、こんな所にと言う疑問を持つのは当たり前の話だろう。
その時だった。
チャポン。
水の跳ねる音。
俺は警戒を強めながら、水音のした方に歩みを進めた。
魔竜の仲間か、それとも、あの死骸を作り出した方か……
木々の間に出来た、小さな泉。真円の月光に映し出されたそれは……
炎の様な燃える赤髪が真っ白な肢体にまとわりつき、滑らかな曲線を描く身体の表面を弾かれたかの様に水滴が滑り落ちる。
満月の下に描かれたそれは、どんな絵画よりも完成された一枚絵の様に見えた。
だからこそだろう、その絵画に一点の染みを認め、思わず飛び込んでしまったのは。
「危ない!!」
「え? キャアァ!!」
彼女の背後に見えた、魔竜の濁った黄色い目。俺は、飛びかかって来る中型の魔竜と、その少女との間に割って入ると『ワード』を叫んだ。
「コネクト!!」
それは、異次元に干渉し、その次元から力を引き出す能力。そのほとんどは『アームズ』と呼ばれる武器の形で顕現する。
コネクトし、俺は、自分の武器である刀型アームズ「虎徹」を抜き放つ。
水面の満月が割れ、魔竜が両断される。
水月華斬。俺の奥義の1つ。
バシャリと水音が鳴り、魔竜は泉に沈んだ。
「ふう、危なかった」
「コネクト……」
「え?」
既に魔竜は倒したにも関わらず、攻撃態勢をとる少女に思わず俺が振り返ると、そこには全身をアームズで包んだ彼女の姿があった。
「ウソ、だろ?」
アームズの大きさは、そのままコネクト能力の大きさに比例する。
「わ、わた、わた、わたくしの肌をぉ!! 死になさい!! 死んで懺悔をなさい!! この、不埒者ぉ!!」
そう言えば、大型犬魔竜を倒したかもしれない相手を探していたんだったと思い出したのは、彼女のメガブラスターから逃げている最中だった。 【士官学校の問題生】(3/3)
******
“夫と成るもの以外に、肌を晒しては成らず”そんなしきたりが公爵家には有ったらしい。
彼女が激昂したのも、そんな理由があるからだろう。
さて、俺がこうして五体満足でいられるのには訳がある。
彼女は公爵家令嬢で、俺は庶民だ、この、高飛車お嬢様との結婚なんてゴメンだが、そもそも身分が違いすぎる。
だからと言って、公爵様も、俺を無礼打ちにする積もりはないらしい。
そもそも、あんな所で肌を晒していたお嬢様にも非は有るのだ。
そこで公爵様が提案したのが従僕と成る事だった。
詰まりは“下僕は人間の範疇じゃないから見られてもオッケー”って事らしい。
死ぬか、従僕に成るかの二択なら、従僕に成るしかない。
そんな理由で、俺は、リンゼお嬢様仕える羽目に成ったのだ。
******
「何か文句でも?」
「いいえ、何も〜」
そんな会話をしていると、不意にサイレンが鳴り始める。
『魔竜が確認されました。警護官、準警護官は、迎撃の準備をしてください』
士官学校と言えど、軍の下部組織に過ぎない。
その為、こうして魔竜が出た場合には、俺達学生も引っ張り出されるのだ。
もっとも、本来なら入学したばかりの俺は免除されるハズなんだけどね。
まぁ、俺、従僕だし、「お嬢様が戦っているのだからお前か戦わぬとは何事だ!!」って訳。
「行きますわよ!!」
「ハイハイ、了解です、お嬢様!!」
俺の士官学校生活、最初っから問題だらけだ。 >>32
使用お題→『恐竜』『コネクト』『満月』『カブ』『新生活』
【森の向こう側の私たち】(1/4)
森の奥には空き地があって、その周囲は柵で囲まれていた。柵の材料は人骨で、柱の上からどくろが見下ろしている。
空き地の中に目をやると、大きな足、恐竜のように大きな、ニワトリの足が見えた。その足の上に、三角屋根の小屋が建っている。
「すみませーん!」
大きな声で呼び掛けるが、反応はない。恐らく聞こえていないのだろう。
空き地を横切って、小屋に近付く。するとニワトリの足が動き出し、小屋はぐるぐると回転し、こちらに背を向けるようにして止まる。
「すみませーん! アカデミーの方から、来ましたー!!」
再び大声で叫ぶが、返事はない。さてこれはどうしたことだろう。
小屋の正面に回ろうと思い、私が移動を始めると、足が直ちに反応する。私が幾ら歩いても、見えるのは小屋の背中だけ。私が止まると、足も止まり。私が走ると、足も素早く動いた。
歩いて、走って、歩いて。歩き疲れて立ち止まり。そこでようやく、私は教えられた呪文を思い出した。
「小屋よ、小屋よ! 森には背をもって、私には表(おもて)をもって立て」
すると足が動きだし、そしてなんとも都合良く、小屋がこちらを向いて止まる。それで大人しく待っていると、正面の戸が左右に開かれて、そこから老婆が顔を出した。
「誰だい! さっきからうるさいやつだ! あたしになんの用だ!」
「こんにちは、おばあさん! 私、アカデミーの方から来ました!」
老婆が身を乗り出す。
「あー!? どこから来たってー?」
「アカデミーですー!」
「あー、あんたが、そうかー! とりあえず上がってきな! だけど、うそだったら容赦しないからねー!」
正面の戸から中に入る。ごちゃごちゃと物が置かれた室内。薄暗く狭苦しい空間で、老婆の目が光る。
「身分証を出しな」
私は荷物の中から言われた物を取り出す。
「はい……これです」
「ほーう、どうやら本当のようだね。訪問販売かと思ったが。最近多いんだよ、老人を食い物にしようってやからがね」
本当なのか冗談なのか分からないが、だけど、もし本当だとしたら。
「もちろん、そいつら全員、あれさ」
老婆の鼻が、広場の周囲を指し示す。不思議と恐怖は感じない。
「ともかく、怠けず、しっかり、働いておくれ。もしちょっとでも怠けようものなら――――」
こうして私の新生活が始まった。
*
私はケシの実をすり潰す。ごりごり、ごりごり。手作業でやるには面倒な作業だ。
ごりごり。
「――世界――――」
「おい」
ごりごり。
「――――走り出した――――」
「おい」
ごりごりごり。
「――――怖く――」
「おい!」
「はい! ……なんでしょう?」
私は、作業をしながら、ぼうっとしていたようだった。振り返れば老婆が立っている。
「鼻歌をやめな。許諾契約を結んでないんだから」
「えー、平気ですよー。こんなの引用にもなりませんって。お題なんですから、勘弁してくださいよー」
私がそう言うと、老婆は苦虫をかみつぶしたような顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
私は作業を続ける。
「それが終わったら、次は畑に行くぞ。カブの収穫だ」 【森の向こう側の私たち】(2/4)
「……けーき、けーき、まぁるい――」
「だから! やめろと言ってるだろ」
「まぁるいしんがたこ――」
「替え歌も駄目だ!」
私は徒歩で、老婆は臼に乗って、畑まで移動する途中だ。
「シンガータコ? 何にタコ?」
「なんの話だ。タコはお前だ!」
今のところ、老婆には、私を殺したり、追い出したりするような気配はない。
言われた仕事はこなせている。ここまで問題はないはずだ。
「大体、リフレ政策が駄目なんですよー。やる前から分かってたじゃないですか。緊急事態に打つ手なし!」
「知るか」
「そう言えば、こないだスカウトされたんですよねー。JKのコスプレで稼ぐやつです」
「なんだそりゃ。うちは副業禁止だ。ちょっと顔がいいからって、調子に乗るんじゃない!」
恐ろしげな顔の――実際に恐ろしいのだが――老婆に怒られてしまった。
仕方がない。テレビもネットもスマホもない。ソシャゲアニメなど見れるはずもない。
「短期取引で――」
「やめとけやめとけ。素人がアルゴリズムにかなうもんか」
*
畑に着いた。森を切り開いたのだろう、小さな畑には、大きなカブが植わっていた。
老婆は、カブをちょっと引っ張ってから、こちらを向いて言った。
「これを抜くのは、少しばかり骨が折れそうだ。あたしがカブを引っ張るから、あんたはあたしを引っ張るんだ」
私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、カブは抜けなかった。
「誰か! 誰かいるかい。手伝う者はいるかい!」
老婆が叫ぶと、しばらくして、誰かが森の中から顔を出した。それはおじいさんだった。
「お呼びですか、おばあさん」
「ああ呼んだよ、おじいさん」
「おばあさん、こちらの方はどなたですか?」
私がそう質問すると、その時初めて、おじいさんは私に気が付いたようだった。
「なんだ君は!?」
老人の頭の中で、何かが切り替わったのだろう。猫背気味だった背筋を真っすぐ伸ばし、仁王立ちした老人が、私に向かって一喝した。
「えっと、アカデミーの方から来ました」
「アカ……なんだって? よう聞こえん! もっと大きな声で話せ!」
なるほど、私の声が小さかったのかと思い、私は腹に力を込めて言い直す。
「アカデミーです!」
「あ!? なんだって?」
そんなに聞こえないものだろうか。私は、不審に思いながらも、声を張り上げた。
「ア、カ、デ、ミー、の、者、です!!」
「あー!? 何を言ってるのか、全然聞こえん!」
そんな馬鹿な。そりゃないだろう。その時、老婆が口を開く。
「アカデミーから派遣されてきたんだよ。あたしの手伝いをしてるんだ」
老婆がそう告げると、老人の様子が再び変化した。私に気が付く前のぼんやりとした表情に戻ると、優しげな口調でこう言った。
「そうか、アカデミーか。それは、ご苦労さん」 【森の向こう側の私たち】(3/4)
「それじゃ、あたしがカブを引っ張るから、あんたはあたしを、あんたはこの娘を、それぞれ引っ張るんだ」
老人が私を――――
「変なとこ触りました?」
「触ってないよ」
――――私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、カブは抜けなかった。
「誰か! 誰かいるかい。手伝う者はいるかい!」
そう老婆が叫んだ。
「それで、このおじいさんはどなたなんでしょう?」
誰かが出てくるまで、雑談をして待つことにしよう。私はそう考えた。
「当ててみな」
「……ドロッセルマイヤーさん?」
「違う」
「結核で亡くなられた方ですか?」
「違う」
「ヒント下さい、ヒント」
すると老人が口を挟んできた。
「どうも最近、故国では、私を街中に放ったらしいよ」
「……文豪か」
「そうです、私が肺炎で死んだおじさんです」
「お呼びですか、おばあさん」
その時、また誰かが森の中から顔を出した。それはワニだった。
「ああ呼んだよ。遅かったじゃないか」
「おばあさん、こちらの方はどなたですか?」
そのワニは、二足歩行で、手にはアコーディオンのような楽器を持っていた。
「ワニさ。見りゃ分かるだろ」
「本物ですか? 死んでるんですか?」
私が畳み掛けると、ワニが返事をした。
「本物かどうかは分かりませんが、私はまだ死んでいませんよ、多分」
「そのアコーディオンはなんですか?」
「……残念だけど、命日は、年に一度だけなんですよ」 【森の向こう側の私たち】(4/4)
「それじゃ、あたしがカブを引っ張るから、あんたはあたしを、あんたはこの娘を、ワニはこの老人を、それぞれ引っ張るんだ」
ワニが老人を、老人が私を――――
「変なとこ触ってませんよね?」
「もちろん、触ってないよ」
――――私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、カブは抜けなかった。
「誰か! 誰かいるかい。手伝う者はいるかい!」
老婆が叫ぶと、またしばらくして、誰かが森の中から顔を出した。それは娘と若者だった。
「ここは……どこだ。ヘーケの隠れ家か?」
「違うと思いますが……」
「あれっ、ハクアたん……ではないな。あれー?」
「何をごちゃごちゃと言ってるんだ。こっちへ来て手伝いな」
二人は少なからず混乱した様子だったが、老婆に言われるまま、ワニの後ろに付いた。
「それじゃ、あたしがカブを引っ張るから、あんたはあたしを、あんたはこの娘を、ワニはこの老人を、あんたはワニを、あんたはそっちの若いのを、それぞれ引っ張るんだ」
娘が若者を――――
「変な所を触らないでくれ」
「触ってないでございますよ」
――――若者がワニを、ワニが老人を、老人が私を、私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、カブは抜けなかった。
「誰か! 誰かいるかい。手伝う者はいるかい!」
老婆が叫ぶと、すぐに誰かが森の中から顔を出した。その人の頭には猫耳が生え、顔は仮面で隠れ、はんてんのような上着の袖に小麦色の肌が見えた。
「お呼びですかにゃー」
「ああ呼んだよ。早いね」
「おばあさん、こちらの方はどなたですか?」
私がそう質問すると、猫耳の人が答えてくれた。
「にゃーの名前はニャンダモですにゃー。本人ですにゃー。ちなみに、この仮面は、感染症対策とは全然関係ないですにゃー」
猫耳の人が、さっきの娘の後ろに付いた。
「それじゃ、あたしがカブを引っ張るから、あんたはあたしを、あんたはこの娘を、ワニはこの老人を、あんたはワニを、あんたはそっちの若いのを、猫はその娘を、それぞれ引っ張るんだ」
猫耳の人が娘を――――
「もし変な所を触ったら、たたっ切るでございますよ」
「分かりましたにゃー。触らないですにゃー」
――――娘が若者を、若者がワニを、ワニが老人を、老人が私を、私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、カブは抜けなかった。
「これじゃ切りがない。……我がしもべよ、親愛なる友よ、カブを抜くのを手伝っておくれ!」
すると足が三本と、老婆の小屋まで、その場に現れた。
小屋の足が足の一本を、その足が別の足を、別の足が残りの足を、残りの足が猫耳の人を、猫耳の人が娘を、娘が若者を、若者がワニを、ワニが老人を、老人が私を、私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、とうとうカブが抜けた。
抜けたカブは、勢い余って飛んでいき――――
「満月ですにゃー! ムーンライズですにゃー! ……新月ですにゃー!」
――――太陽に張り付いた。
昼と、太陽と、夜が、同時に訪れた。黒い太陽が頂く黄金の冠は、より一層激しく燃え上がった。
「脱獄の物語ですにゃー! ねこのゆめですにゃー!」
こうして大きなカブはすっかり焼き上がった。私たちは全員でカブを食べた。それでみんな丸々と太ってしまい、今でも森の中で、ごろごろと転がっている。 順番待ちがあったとは言え、また完全遅刻・・・
しかも意味不明過ぎる超長文
すみません
作中では伏せてますが、老婆はバーバ・ヤガーです お題→『恐竜』『コネクト』『満月』『カブ』『新生活』締切
【参加作品一覧】
>>42【シチリアでの新しいスタート】
>>49【ダイジョーブッ!】
>>54【士官学校の問題生】
>>58【森の向こう側の私たち】 えーと、では
予告通り、2つ固定+1つ選択の企画をやります
先に3つ、通常お題
先の3つとはなるべく関係『ない』ものを固定用に1つ
固定用の1つとなるべく関係『ある』ものをもう1つ、です
いつものお題安価>>65-67
固定用の1つ目>>68
固定用の2つ目>>69 ☆お題→『絹のドレス』『白いスーツ』+『刺繍』『厳選』『プリンセス』から1つ選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約2000字、60行が上限。
☆締め切り→4/19の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 今回は全選択できないルールです
『絹のドレス』『白いスーツ』は必ず使い、『刺繍』『厳選』『プリンセス』からは1つだけ
つまり3つ選択
企画の意図としてはアンチシナジーが欲しくて、説明にも書いたつもりだったんですが、伝わってねぇ
シナジーしかねぇ
逆に書きやすそうではあります
ともかく、お題、作品、感想、ありがとうございます
引き続きお題スレをよろしくですー >>49
男は心配し然れど女は逞しく生きるですね
読み終わって、往年の名作漫画『死○くん』を思い出しました
>>58
オールスターな『大きなかぶ』と言った所でしょうか?
スラブのトリックスターは邪悪と言われながらも、何だかんだで主人公を助けてくれる存在ですよねw >>49
これはー、お久しぶりですね(人違いだったらすみません!
奥様の『新生活』、『恐竜』の例え、『カブ』で失敗、事実を『コネクト』、『満月』と桜
やっぱりセンスある、やっぱり『コネクト』は難しかったw
無理があるって感じでもなく、読みやすく面白く仕上がってるのではないかと
>>54
なんやこの現地人主人公ラブコメw
士官学校での『新生活』、『恐竜』の子孫、『満月』の下の彼女、呪文『コネクト』、『カブ』どこwメ『ガブ』ラスター
なんか、、アンラッキースケベ、主人公悪くないのに問題だらけw
難しい『コネクト』も、『カブ』は分かんないですけどw、うまく処理した感じー
>>72
感想ありがとうございます
今回は大甘ですw >>70
使用するお題→『絹のドレス』『白いスーツ』『プリンセス』
【可愛いプリンセスは危険の香り?】(1/2)
今日もさすらいの女ガンマン・シンディは愛馬のサンセットに跨り、広大な荒野の中を颯爽と駆け抜けていた。
次の町へと向かう途中、微かにだが遠くに何かがあるのが見えてきた。
「サンセット、ちょっと止まって!」
シンディは走るサンセットを止まらせる。背中から降りて近づいてみると、白い絹のドレスを身につけた少女が倒れていた。
「こんな所でどうしたの?大丈夫なの?」
ちゃんと息をしている、生きているのは確かだ。体を少し揺すると、その少女は目を覚ました。
「お嬢ちゃん、こんな荒野のど真ん中で何やってるの?」
「私、パパとはぐれて迷子になっちゃったの。必死に探している途中で空腹になっちゃって意識を失ってたみたい…」
「迷子?それは大変ね、もしよかったらパパを探すの手伝ってあげるわよ?」
「ほ、本当!?それは嬉しいわ!」
シンディは携帯している食糧を少し少女に食べさせると、彼女をサンセットの背中に乗せて走り出す。
「自己紹介がまだだったわね。私はシンディ、それからこの子が愛馬のサンセットよ。一緒にさすらいの旅を続けているの」
「へえ、そうなんだあ。私はメアリー、ここから遠く離れた場所にお城があってね、そこに住んでいるプリンセスよ」
「プリンセス?綺麗な白いドレス着ているから貴族の出身かなとは思ったけど、まさかそうだったとはね…」
「うん、パパと楽しく散歩していたら砂嵐に巻き込まれて飛ばされちゃったの。ここ、砂漠が近くて砂嵐が発生しやすくて危険なんだ」
メアリーの言う通り、今走っている地域はサボテンでさえもほとんど生えておらず、荒野というよりは砂漠に近い場所だった。
「少しルートを変えた方がいいわね」
砂漠に入って砂嵐に巻き込まれては大変だ、と思いシンディは南東の方に向きを変えて走ることにした。
途中、休憩しながらも走り続けて4時間ほどが経過した。すると遠くに白い服を着た痩せた男の姿が見えてきた。
「シンディさん、ちょっと止まって!」
メアリーにそう言われて、シンディはサンセットを止める。メアリーは咄嗟に降りると、その男の方に向かって走り出す。
「パパなの?ねえ、パパなの!?」
「も、もしかしてメアリーなのか!?」
その白いスーツを着た、痩せて髭を生やしメガネをかけた男がどうやらパパのようだ。
無事に娘が見つかり、男は嬉しそうにギュッと抱き締める。
「会えて本当によかった!」
「あのシンディさんって人が迷子の私を見つけて助けてくれたんだ!」
「おお、ありがとうございます。私はメアリーの父のマークと申します。どうお礼をすれば良いのやら…」
「お礼なんて別にいらないわ(もしお金をくれるなら、ありがたく受け取るけど)」
その時だった。近くの岩陰から誰かが現れて銃を放ち、その銃弾がシンディの左脚に命中した。
「ウグッ!い、一体何なの!?」
「まんまと引っかかったな、マヌケな女ガンマンめ」
突然、マークが歯を剥き出しにして意地悪く笑い始める。メアリーもニヤリと不気味な笑みを浮かべている。 【可愛いプリンセスは危険の香り?】(2/2)
近くの岩陰に隠れてシンディに発砲したのは、かつて無法者集団のリーダーで腕利きの殺し屋と恐れられたゴールドタンクという男だった。
「ここでシンディを殺せる日が来るとはな!」
「あ、あんた達、私を罠に嵌めたということ?」
「ああ、その通りだ。全ては金のためだからな!」
マークとメアリーは没落貴族で住む場所を追いやられ、いつか必ず這い上がるため
ゴールドタンクと手を組んで、賞金首を片っ端から捕まえては懸賞金を荒稼ぎしていた。
「今、お前を捕まえれば大金を得ることができるのさ!」
「わ、私、賞金首じゃないんだから捕まえても賞金が出るわけないじゃない…!」
「それがさ違うんだよ、これを見な!」
マークが出したのはシンディの顔が描かれた手配書で、なんと100億ドルもの懸賞金がかけられていた。
「だ、誰よ、こんなデタラメな手配書を作ったのは!」
「まあ、それはお前を捕まえた後に教えてやる!やれゴールドタンク!」
ウッス!の返事と共にゴールドタンクは今度は右腕を撃つ。左脚と右腕を撃たれ、血をダラダラと流しながら、シンディは地面に膝をついて倒れてしまう。
メアリーはアハハと笑いながら、倒れたシンディのお腹を勢いよく蹴り上げる。
「グヘッ!!」
「情けない女ガンマンね!哀れすぎて笑っちゃうわ!」
「サ、サンセット、あなただけでもいいから、に、逃げて!」
「そうはさせるか!」
サンセットに向かってある物を放つ。麻酔銃だ。サンセットの意識は朦朧とし気絶、バタッと倒れてしまった。
「サンセット!」
「これでお前の愛馬もどうすることもできない!さあ、お前にもだ!」
シンディも同じく麻酔銃を撃たれ、そのまま気絶してしまう。
「よーし!これでシンディの捕縛は成功だ!」
「やったねパパ!これで私達はまた栄光を手に入れられるのね!」
「もちろんだメアリー!」
シンディをロープ、サンセットを鎖で全身を縛ると大きな荷馬車に乗せる。
彼女達は一体どこに連れて行かれるのだろうか、そして運命や如何に!! >>73
進行様、ご無沙汰しております
過去に十代目未だ休めず等を投稿した者です
そのように言っていただけるとありがたいです
確かにコネクトは難しかったですが、そこはこのスレの醍醐味と言いますか、楽しみがあるというものです
また一休の続編も投稿していきたいと思います >>74
絶体絶命の大ピンチですね
つまりはあの方の出番でしょうか?
>>73
感想有り難うございます
一時期、こんな感じのラノベが流行ってたよなぁと思いながら書いていましたw
かぶは、士官学校が軍の下部(かぶ)組織と言う事でw >>77
感想ありがとうございます!
シンディ、まさに絶体絶命!まさか破格の懸賞金がかけられていたとは…!
「あの方」は果たして出てくるのか?次回をどうぞお楽しみに!
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです! >>74
早速wと思ったら新しい挑戦が
『絹のドレス』の『プリンセス』、『白いスーツ』の男
一体誰が懸賞金を、本当に100億ドル払う気があるのかw
続きが気になります!
>>76
良かった人違いじゃなかったw、続編も待ってますー
>>77
そこか!! なんで見落としたんでしょう・・ >>79
感想ありがとうございます!
今回は一話で決着せず次回へと続くまさかの展開でした
幼い子供までもが金のために狂気に走るというまさに世紀末です。次回をどうぞお楽しみに!
今回も楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! >>70
使用するお題→『絹のドレス』『白いスーツ』『厳選』
【思い出は走馬灯のように駆け巡っていく】(1/2)
レイチェルはとてもワクワクしていた。今日は3ヶ月ぶりにライアンがハリウッドから帰ってくる日なのだ。
大好きなライアンに会えない日々が続き、寂しくて泣きそうになる時もあったが、
そんな時は夢のハリウッドで俳優として活躍する彼の姿を思い浮かべる。
そうすると寂しい気持ちは自然と収まっていき、ニッコリと笑顔になっていくのだ。
それに今はジュディも近くにいる。幽霊であるため姿は見えないものの、ライアンとレイチェルはそんな彼女の気配をしっかり感じ取ることができるし、声も聞こえられる。
「ねえレイチェルさん、今日は久々にライアンさんが帰ってくるんでしょ?嬉しい?」
「もちろん嬉しいに決まってるじゃない!ジュディ、大人をあまりからかっちゃダメよ」
「ごめんなさーい!」
ライアンは今夜の7時頃に帰宅する予定だ。それまでの間、レイチェルは寝室のクローゼットにある色々な衣類の整理をすることにした。
ほとんど着なくなったジャケットやコート等を、近くの小学校で行われるヤードセールに出すために箱に入れていく。
きっちりと整理していく中、レイチェルはたまたま純白の絹のドレス、そして白いスーツを
見つける。
「こ、これは…!」
「レイチェルさん、どうしたの?」
「懐かしいわ、このドレスにスーツ!ライアン、ずっと保管してくれていたのね」
そもドレスとスーツはシチリアへと旅立つ前の大切な結婚式のために、ライアンが厳選して用意してくれたものだ。
「レイチェル、そのドレスすっごく似合ってるよ!可愛い!」
「ライアンもその白いスーツとてもイカしてるわ、まるで王子様みたい!」
お互いに試着した時の会話を思い出す。それを思うと懐かしくて、気付かないうちに目からポロリと涙がこぼれてきた。
あの結婚式はとても盛大で最高のものとなった。
「う、うぅ。ライアン…!」
「ライアンさんとレイチェルさんの結婚式、私も見たかったなあ」
「確かちゃんと録画されたDVDがあるから、また後で見せてあげるわ」
「本当!?やったあ!!」
ジュディが出してくれたハンカチで涙を拭くと、レイチェルはまた荷物の整理を続ける。
するとまた懐かしい服が出てきた。
「あーっ!レイチェルさんがすごく愛用してた黒猫の衣装だー!」
「あ、愛用だなんて…!」
そう、シチリアでレストランを開いていた時に余興でよく身につけていた黒猫のコスチュームだ。
これもライアンが余興をもっと盛り上げるために、厳選して買ってきた物だ。
「ど、どう?ライアン…」
「す、すっごく似合ってるよレイチェル!その猫耳に尻尾可愛いよ!」
「そ、そう?ニャ、ニャーン!」
「レイチェル、最高だよ…!」
また試着した時の会話やその場面を思い出す。
あくまで余興オンリー、自分の本来の姿は女ガンマンだとレイチェルはずっとそう思っていた。
しかし、あるハロウィンの夜、攫われたライアンと奪われたガンマン衣装を取り戻すべく、黒猫の衣装に身を包んで、犯人である市長の女秘書と闘ったのだ。
それ以来、余興だけでなくハロウィンの季節になると着ることもあったが、いつの間にか全く着なくなり、クローゼットに放置したままだった。 【思い出は走馬灯のように駆け巡っていく】(2/2)
「すっかり忘れてたわ…。ライアン、これもちゃんと大事に保管してくれてたのね…」
「私、黒猫姿のレイチェルさん大好き!もしかしたらガンマンのよりも好きかも」
「こ、こらジュディ!あ、あんまりからかうと怒るわよ!」
「えへへ、ゴメンゴメン!でも黒猫姿のレイチェルさんもカッコいいのは本当だもん!」
「あ、ありがとう。そう言われると、何だか、て、照れちゃうわ…」
いつの間にかトマトのように顔が赤くなっているのが自分でもよく分かった。
余興の時以外着るのはあまり好きじゃなくて、身につける度に恥ずかしがっていた。
その時の自分を思い出すとますます顔が赤くなり、湯気が出てきそうな勢いだ。
するとレイチェルは今着ているガンマン衣装を脱ぐと、その黒猫の衣装に身を包んだ。
「ニャーン!私は黒猫のレイチェル、闇夜の戦士よ!」
「レイチェルさん、やっぱり似合ってるよ!」
「ジュディ、今回だけのスペシャルサービスよ!ライアンには秘密にしてね」
「もう見てるよ」
「「へっ!?」」
レイチェルとジュディが後ろを振り返ると、なんとまだお昼だというのにライアンが家に帰ってきていたのだ。
「えっ、確か7時ぐらいに帰ってくるはず…」
「予定より早く終わってさ、帰りの飛行機のチケットも早いのが取れたんだ。レイチェル、またその黒猫衣装を着るなんてビックリだよ」
「えっと、そ、その・・・・ニャ、ニャーン!!」
「アハハ、やっぱり可愛いね!ただいまレイチェル、それからジュディ!」
「おかえりライアン!」
「ライアンさん、すっごく寂しかったよ!」
「ジュディ、ライアンがいないから寂しくて泣いてたのよ」
「それはレイチェルさんでしょ?」
互いに体を強く抱き締めて笑い合う3人なのであった。
豪華なディナーを済ませた後、レイチェルとライアンは互いに結婚式の時に着たドレスとスーツを身につける。
その姿にジュディはパチパチと拍手しながら、嬉しそうにはしゃいでいる。
「2人ともすっごくお似合い!本当にラブラブカップルって感じ!」
「本当に最高の結婚式だったよね、ライアン」
「ああ。君に出会えて、そして人生のパートナーになれて本当に幸せで嬉しい」
「私も今、全く同じこと考えていたわ。ありがとうライアン!」
「アハハ、ありがとうレイチェル!」
そしてあの結婚式の時と同じように、互いにキスをするのだった。
それを見たジュディは太陽のように明るい笑顔で、そのままレイチェルとライアンに飛びついた。
「私もこの2人と同じ家族になれて本当に幸せ!ありがとうライアンさん、そしてレイチェルさん!」 >>81
品物を整理していると、それにまつわる思い出で、ついてが止まってしまう事、良く有りますよね
レイチェルさんは、特に楽しかった事も多いので、手を止める回数が多そうです >>81
本編の後日談で、衣類にまつわる思い出
ライアンが『厳選』した『絹のドレス』と『白いスーツ』・・・など
ガンマン衣装は普通に着てた、黒猫衣装も捨てるわけがなかったw
忙しくても they lived happily ever after なら、、、ですね >>83
>>84
感想ありがとうございます!
今回は懐かしの衣類を通して、これまでの楽しくて素敵な思い出を振り返るといったお話でした
黒猫のコスチュームも何だかんだでレイチェルにとっては、楽しい思い出がたくさん詰まった大切な衣装なんです
それから現在はアメリカに帰ってきた後の誕生日に、ライアンがプレゼントとして買ってくれた新しいガンマンの衣装を着ているという設定ですw
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです! >>86
はいw
最終回(スレ7>>284【夢は決してあなたを裏切らない】)の最初辺りを読めば分かるのですが、
10年以上も長いこと愛用してきたガンマン衣装はすっかりボロボロになっているんですよね
レイチェルにはいつまでもガンマンの姿でいてほしいという、ライアンの彼女への強い想いです
でもたまにでも良いから黒猫になってくれたらもっと嬉しい、というのが彼の本音でもありますw >>70
お題:『絹のドレス』『白いスーツ』+『厳選』
【週末の黄昏】
家に帰ると、即座にPCを立ち上げる。
起動している間に冷蔵庫から落花生を取り出し、バターと塩で軽く炒めた。
サイドボードからはウィスキーのシングルモルトを引っ張り足すと、PCのフォルダから『厳選』とタイトルされたソレを選択する。
グラスにウィスキーを注ぐ。
常温で良い。常温が良い。
ピートのフレーバーを嗅ぎながら、ソルトピーナッツを一摘まみ口に放り込む。
画面では白いスーツのロックスターが情感たっぷりに、名曲『絹のドレス』を歌い上げていた。
ストレートをノーチェイサーで飲み干す。
少しはかりの酒気の混じった息で、フラりと立ち上がると、本格的に腹を膨らまそうと、キッチンに立った。
パスタを茹でながら鼻唄を歌う。当然曲名は『絹のドレス』だ。
高潔な女と口ずさみながらホールトマトを潰し、使い古されたフライパンで混ぜながら炒める。
PCフォルダの『厳選』を選択し、白いスーツのロックスターを再生する。
「我が青春に」
そう言いながら、パスタを肴にウィスキーを呷った。 >>70
前スレ578の続編です
使用お題→『絹のドレス』『白いスーツ』+『刺繍』
【向こうで立ち話をされているのは聖女様と神官長様ですね】
「聖女様、神官長様、いかがされたのですか?」
深刻な表情のお二人は、一瞬、虚をつかれたお顔になって、けれども、すぐに笑顔を向けてくださいます。
「明日の朝ご飯のご相談ですか? そう言えば、騎士団の新人の方は、やっぱりすご……はっ!? もしや! 新人さんのせいで朝ご飯の予算が不足しているのでは!? 私の朝ご飯!」
お二人の笑顔に安心した私は、分かっています、悪い癖なのです、つい自制心を失って、まくし立ててしまうのです。
「いえ、そうではなく……」
こんな私に対してさえ穏やかに接してくださる、神官長様。白い祭服が貧相……失礼、とてもスマートに見える、しわしわでひょろひょろのおじいちゃんです。
「……いえ、そうですね、予算の問題ではありますが」
このおじいちゃん、神殿で一番偉いお方です。信仰に関して一番偉いのは聖女様ですが、お財布を握っているのは神官長様なのです。
そのお方が、にこやかな表情で、しかし冷静に、恐ろしいことをおっしゃいます。
「予算の問題なんですか! 私の朝ご飯……」
愕然(がくぜん)とする私ですが、そんな私を安心させるように、聖女様の口からお言葉が紡がれます。
「朝ご飯の予算は大丈夫ですよー。予算は予算でもー、結婚式の予算なのでー」
「けっ、結婚式ですか!」
どなたの結婚式なのでしょう。まさか聖女様と神官長様ではないと思いますが!
今日も聖女様はお美しい……ピッカピカです、人体発光現象です!
そんな聖女様と、失礼ですが今日ぽっくりでもおかしくない神官長様です。それはいくらなんでもないなー……ないといいなー……。
「王子様とー、貴族のご令嬢ですよー」
「……へっ? 何がですか?」
「結婚式ですよー」
「そうなのですか! 良かった……」
聖女様の未来は救われました。
「それが良くないのですー。今の王家にはお金がないらしくー、結婚式を神殿で執り行うこととー、その費用を神殿持ちとするよう言われているのですー」
全然救われていませんでした。ビンチだったのは聖女様ではなく神殿でした。つまり。
「今ご説明頂いた通りですね。この費用をどうやって工面するか、二人で頭を悩ませていたところです」
それはつまり、朝ご飯の予算が削られる可能性……。
「ああ、ひょっとして、何か良いお考えがおありなのでは。あなたと聖女様、いつもお二人で、楽しそうにお話しされていますよね」
私の朝ご飯が減らされる! そうなっては大変です。
「そうですね、いい考えがないかと聞かれたら、ありますとお答えする、私はそう心に決めております!」
だから私の朝ご飯を減らさないでください!
「ですので、そうですね……。結婚式に来られた方々から、なんらかの名目で、お金、ご祝儀を徴収するというのはいかがでしょう?」
「なるほど、それはいいかも知れませんね」
「ですが、ただお金を集めるだけでは、けちんぼな神殿、金欠神殿だと、皆様に思われてしまうでしょう」
事実ではありますが。金欠なのは否定できません。
「ごもっともです」
「そこで……何か……そう、何か記念になるような品物……記念品を渡すのです」
「素晴らしい。その記念品は、どんな物を渡したら良いでしょうか」
「それは……」
私は、聖女様のお顔を見て、神官長様のお顔も見て、それから、しばし黙考します。
聖女様、結婚式、ドレス……ではなく……聖女様、予算、手作り……。
「……聖女様。聖女様は確か、刺繍(ししゅう)がお得意でいらっしゃいますね」
実は、聖女様は、さる大貴族のご令嬢なのです。……まさか王子とやらの結婚相手は聖女様なのでは。気になりますが、考えないようにします。
「ええ、得意ですよー」
そして貴族のご令嬢であるからには、刺繍の一つや二つお手の物なのです。
「神殿の皆に、刺繍のやり方をお教えください。素敵な刺繍入りの記念品を作るのです。ハンカチなんていいかも知れません」
*
「なんで俺までこんなことを……」
「聖女の前でー、ぶらぶらしてるのが悪いんですよー」
「仲間外れにしたら悪いかなと! そう思いまして!」
後日、聖女様と私と騎士団長様で、試作品を作ることになりました。絹のドレスの花嫁と白いスーツの花婿をイメージした絵柄です。ところが。
王家の金欠が相手方に伝わってしまったようなのです。
結果、婚約はうやむや、結婚式は中止。私たちの手元には、試作品の素敵なハンカチだけが残されたのでした。 お題→『絹のドレス』『白いスーツ』+『刺繍』『厳選』『プリンセス』締切
【参加作品一覧】
>>74【可愛いプリンセスは危険の香り?】
>>81【思い出は走馬灯のように駆け巡っていく】
>>89【週末の黄昏】
>>90【向こうで立ち話をされているのは聖女様と神官長様ですね】 ではでは、今回は通常お題5つです
お題安価>>93-97 ☆お題→『ハンマー』『乙女ゲーム』『ポテトチップス』『邪神』『アマビエ』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→4/26の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 これはw
なかなかユニークな組み合わせでは
お題、作品、感想、ありがとうございます
まぁやっぱり過疎ですが、引き続きお題スレをよろしくー、皆様のご参加もー >>89
これはストレートw
『厳選』フォルダ、『白いスーツ』のあの人w、名曲『絹のドレス』
簡潔に、雰囲気が出てるお話でしたー >>90
相変わらずの直感行動ですね
それでも良い方向に行くのが凄い
そして巻き込まれるのがお約束の騎士団長
お疲れ様ですw >>100
感想有り難うございます
絹のドレスと言われたら、もうこれしかorz >>101
感想ありがとうございます!
勢いだけの主人公に、頼れる騎士団長ですw
・・・今見直したら誤字発見・・・誤字探しクイズを開催します>< >>98
使用するお題→『ハンマー』『ポテトチップス』『邪神』
【姉弟の仁義なきドタバタバトル】(1/3)
ある日のこと、カナミの背後にケンスケがニヤニヤしながら歩み寄ってくる。彼の手にはおもちゃのマジックハンドがあった。
姉は弟が背後にすぐ近くまで迫っているのに気付いていない。まさにその瞬間だった。
「それっ!」
ケンスケはマジックハンドでカナミのポニーテールを掴むと、少し強めにグイッと引っ張った。
「わ、ワワワワッ!!い、一体何なの!?」
「アハハ!」
「ケンスケ!また…!」
ケンスケは時々、マジックハンドを使って姉のポニーテールを掴んで引っ張ったりとイタズラをすることがあるのだ。
「それで髪を掴んで引っ張るのはやめてって、前に何回も言ったでしょ?」
「だ、だってお姉ちゃんのポニーテールって見てたら掴んで引っ張りたくなっちゃうんだ」
「どういう理由よ。まあ今度やったら許さないわよ、分かった?」
「う、うん…」
弟の返事を聞くと、カナミは自分の部屋に戻り、宿題を始める。
「ケンスケったら全くしょうがないんだから。あの頼りない返事からすると、またやるに違いないわね…」
宿題をしながらブツブツと呟いていると、突然いいことを思いついた。
「そうだ!確かあれがあったはず!」
クローゼットを開けて、ある箱を取り出す。その中には幼稚園の頃によく遊んでいたが、今はほとんど使わなくなったおもちゃや小道具が入っていた。
「あった!あった!」
カナミが手にしたのはピコピコハンマーだった。幼稚園の頃、夏祭りに行った時に輪投げの景品で貰った物だ。
「ウフフ、またケンスケが何かしたらこれで…」
ある土曜の午後、カナミはリビングのソファーに寝転んでスヤスヤと気持ち良さそうに昼寝をしていた。
そんな姉にケンスケがニヤニヤしながら音を立てずにゆっくりと近づいてくる。彼の手にはもちろんマジックハンドがあった。
「お姉ちゃんったら本当に無防備だね」
そう言ってマジックハンドで姉のポニーテールを掴もうとしたその時だった。
「引っかかったわね!」
「へっ!?」
カナミはいきなり目を覚ますや否や、背中に隠し持っていたピコピコハンマーでケンスケの頭をポコっと叩く。
突然のハプニングに弟は動揺し、一瞬怯んでしまった。
「ね、寝てたのは演技!?」
「そうよ、まんまと引っかかっちゃって笑えるわね。今度はこっちのターンよ!」
カナミはピコピコハンマーで逃げる弟の頭をポコポコ叩きながら追いかける。 【姉弟の仁義なきドタバタバトル】(2/3)
「わっやめて!やめてよー」
「アハハ、まだまだよ!」
カナミは逃げるケンスケを食卓の隅っこにまで追い詰めた。
「ケンスケ、もう逃げられないわよ。観念しなさい」
「お願いだから頭をポコポコ叩くのやめてよ」
「ううん、なんか楽しいからやめない」
「ぼ、僕の心の中に潜む小さな邪神が僕を唆したんだ。お姉ちゃんのポニーテールを引っ張れって。最初は必死にそんなことできないって拒否したんだけど、邪神が全然離れなくて…」
「要するに魔が差した、ってことでしょ?」
「うん、そういうこと。降参するからさ、もうバトルは終わりにしようよ」
するとケンスケは近くの棚に置いてあったポテトチップスの袋を手に取る。
「終戦したということで一緒にポテチでも食べよう、お姉ちゃん」
「それはいいわね」
袋を開けると、姉弟は仲良くポテチを食べ始める。
「ポテチはコンソメパンチが一番だよねー」
「うんうん、分かるわ」
袋の中のポテトチップスを全部食べ終えたその瞬間だった。
「ふー、美味しかったわね」
「スキあり!」
ケンスケは素早い動きで、マジックハンドでカナミの左足の方のハイソックスの爪先の部分をガシッと掴んだ。
「な、何!?」
「お姉ちゃんこそ、まんまと引っかかったね。僕が潔く降参したことにすっかり気が緩んじゃってさ」
マジックハンドで爪先を掴んだまま、弟は姉のハイソックスを勢いよくズルッと脱がした。
その拍子にカナミはドテッと尻餅をついて倒れてしまう。
「お姉ちゃんのハイソックス、ゲットだー!」
「まんまと私を騙すとは、良い度胸してるわね。こうなったら超本気モードでいくわよ!」
姉弟の凄まじいバトルがまた始まった。それはとても強烈なものだった。
「私を怒らせたことを後悔するがいいわ!」
「僕は怒ったお姉ちゃんにビビるほど弱くないよ!」
「生意気なこと言っていられるのも今のうちよ」
カナミのピコピコハンマーとケンスケのマジックハンドが互いにぶつかり合い、バチバチと火花が散っている。
弟がマジックハンドで、ピコピコハンマーを持つ姉の右手首をガシッと掴む。
しかし、姉は咄嗟に左手にハンマーを持ち替え、弟のお尻をポコっと叩く。
「ウ"ッ!!」
「腕はなかなかだけど詰めが甘い。あんたのことよケンスケ!」
「そ、そんなぁ!」 【姉弟の仁義なきドタバタバトル】(3/3)
ケンスケの手からマジックハンドが落ちる。これで決着か、と思いきやカナミは手からピコピコハンマーを放して床に置く。
「ケンスケ、ここまで来たら互いに武器を捨てて戦いましょ」
「望むところだよ、お姉ちゃん!」
お互いに武器を捨て、素手だけでのバトルとなった。
「行くよ、お姉ちゃん!」
「どこからでもかかってきなさい!」
その時、カナミが膝をついて倒れてしまう。彼女は思い出した。終戦の意としてポテチを食べた後、一瞬の隙を突かれて弟にハイソックスを脱がされたことを。
そう、ハイソックスを片方でも脱がされてしまうと、カナミはパワーダウンしてしまうという弱点があるのだ。
「す、すっかり忘れてたわ…」
「僕はお姉ちゃんの弱点をちゃーんと分かってたんだ」
ケンスケは姉に近づくと、コチョコチョとくすぐり攻撃を始めた。
「アハハ、くすぐったい!や、やめてワハハ!」
「ううん、楽しいからやめない!さっきポコポコ頭を叩かれた時のお返しだよー!」
しかし、さっきまで素早かったケンスケの動きが次第に鈍くなっていき、攻撃の手が弱まってきた。
そう、ケンスケは体力が少なくて実は長期戦が苦手という弱点があった。姉とのバトルは開始から既に4時間を超えており、スタミナ切れを起こしていた。
「ち、力がこれ以上出ない…」
「私はケンスケの弱点をちゃーんと分かってる」
「だ、だから、わざと長期戦に持ち込んだということだね」
「その通りよ!」
パワーダウンとスタミナ切れでは、まだ僅かにではあるがパワーダウンの方に分がある。
「ケンスケ、残念だけど私の勝ちね」
「そ、そんなぁ…!」
まさに決着の瞬間、と思ったその時だった。
「あんた達、いつまで激しくじゃれ合ってるのよ。猫じゃあるまいし…」
買い物と銀行に出かけていた母が、ちょうど家に帰ってきたところだった。
「「あ、お母さん!おかえりなさい!」」
「大雨で外で遊べないのは分かるけど、家の中で暴れるのはやめてちょうだい。分かった?」
「「ハ、ハイ!」」
母の介入?により、4時間にも渡った姉弟のバトルは互いに引き分けという形で幕を閉じた。
夕食を終えると、2人はリビングのソファーに座って今日のバトルを振り返った。
「お姉ちゃんのピコピコハンマーには、どう足掻いても勝てなかったな。強すぎるよ」
「ケンスケのマジックハンドも大したものだったわよ。でも油断しすぎなところと、詰めが甘いところは克服した方がいいわね」
「油断しすぎなのはお姉ちゃんも一緒じゃん」
顔を合わせてアハハと笑うと、互いに背中に隠し持っていたピコピコハンマーとマジックハンドを出す。
「次のバトルはいつにする、お姉ちゃん?」
「私はいつでもいいわよ」
「今度は負けないからね」 >>104
今回は平和な世界w
ピコピコ『ハンマー』、小さな『邪神』w、『ポテトチップス』で・・・
これは結構な力作だったw、形勢が二転三転して面白かったです >>107
感想ありがとうございます!
姉と弟の壮絶なバトル(というよりじゃれ合い?)でしたw
終戦としてポテトチップスを食べてからの再戦の流れが一番書いてて楽しかったです
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです! >>104
姉弟のじゃれあいですね
お互いの弱点を把握しつつの攻防
仲良くケンカをして欲しいものです >>109
感想ありがとうございます!
姉弟は仲良くケンカすることでお互いに絆を深めていってほしいなあ、とよく考えていますw
今回も楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! >>98
お題:『ハンマー』『乙女ゲーム』『ポテトチップス』『邪神』『アマビエ』
【楽しいお仕事】(1/2)
わたしの名前は天宮 洋子! どこにでも居る、ちょっとおっちょこちょいな女の子。
今日から新学期だっていうのに、わたしは寝坊して遅刻ギリギリに成っちゃった!
「あ〜ん、遅刻遅刻ぅ!!」
朝食のパンを咥えながら走るわたし! あの角を曲がれば学校だわ! よ〜しラストスパート!!
ドッシーン!!
「きゃあ!!」
「うわ!!」
尻もちをついたわたしの前には、カッコイイ男の子が。
「おい! 気を付けろよ!!」
カッチーン。
確かに急いでて確認しなかったわたしも悪いけど、そっちだって同じでしょ!!
確かにカッコイイけど、だからって、何を言ってもいいって事には成らないんだからね!
そう思っていると、ソイツが急に顔を赤らめて視線を逸らした。
え? 何?
わたしは今の自分の姿をよく見てみた。ぶつかった衝撃で尻もちをつき、その事でスカートがめくり……
******
「没」
「ええ! 何でですか栗山さん!!」
企画書を途中まで読んでた企画リーダーの栗山 環は、「なぜ」と食い下がるシナリオ担当の小山 修一に呆れた様な目を向けた。
「おい、シュウ、お前、この企画が何なのか分かってんのか?」
「え? はい、ブラウザ乙女ゲーム『らぶ☆レボリューション(仮)』ですよね?」
「分かってて、これか?」
「いや、でも、対象年齢の事を考えて、感情移入しやすい何処にでもいる女の子を主人公に……」
環が頭を押さえ、溜息を吐く。
「古い!! 古すぎるんだよお前の頭の中!! こんなもん、今時、乳児ですらソッポ向くわ!!」
「いや、乳児はそもそもブラウザゲーム何て……」
「そう言う、いらん所拾わなくていいんだよ!!」
スパーン! と、修一の書いた企画書を丸め、彼の頭を叩く。
「今の子はな、オンリーワンを求めてんだよ!! 『誰にもまねできない特別な自分』を求めてんだ!
お前は、そこが分かってない! いいか! 次、同じシナリオ書いたらシナリオライターから外すからな!!」
「いや、栗さん、さすがにまんま同じ事書く様な奴はいないんじゃ……」
「だから、そう言う、いらん所拾わなくていいんだよ!!」 【楽しいお仕事】(2/2)
******
「オンリーワンの主人公って、ったく、そんなもん簡単に思いつくなら、マンガの編集なんていらないってぇの」
修一はブツブツ言いながらもアイデアを探してネットを漁っていた。
「はやり、流行り、Hayari〜っと……へぇ、最近ってこんなの流行ってるんだな……え? マジ? これOKなの?」
「ふーん」と腕を組む修一。そのすぐ後に、何かを思い付いたらしくニンマリと笑みを浮かべると、猛然とキーボードを叩き始めたのだった。
******
わたしの名前は亜 麻美恵! どこにでも居る、ちょっとおっちょこちょいなアマビエ。
今日は浦和の方に預言を持って行かなくちゃいけないんだって言うのに、わたしは寝坊して遅刻ギリギリに成っちゃった!
「あ〜ん、遅刻遅刻ぅ!!」
朝食のポテトチップスを咥えながら走るわたし! あの角を曲がれば浦和だわ! よ〜しラストスパート!!
ドッシーン!!
「きゃあ!!」
「うわ!!」
尻もちをついたわたしの前には、カッコイイ邪神が。
「おい、大丈夫か?」
カッコイイ邪神は触手をウネウネさせながら、前足を伸ばして来る。
やだ、イケメン!
助け起こされたわたしがちょっとボーッとしていると、邪神の触腕がわたしの顔に……
ああ、ここでわたし、大人に成っちゃうのね。そう覚悟を決めたんだけど、その触腕はするりとわたしの髪に伸びる。
「こんな所にハンマーが付いてるよ?」
「え?」
きゃー恥ずかしい!! そう言えば昨日ベッドで日曜大工をしてたんだったわ!
顔を赤らめるわたしにカッコイイ邪神が……
******
「どうです? 流行りを取り入れながらもオンリーワンな展開!! これならイケるでしょう?」
「……か」
「はい? 何です?」
「あ・ほ・かあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
スッパアアアアァァァァァーーーーーーーン!!!!!! 今ってアマビエブームだったのね
Nhk見てて初めて知ったわ アマビエチャレンジってハッシュタグが有るくらいですからw お題→『ハンマー』『乙女ゲーム』『ポテトチップス』『邪神』『アマビエ』締切
【参加作品一覧】
>>104【姉弟の仁義なきドタバタバトル】
>>111【楽しいお仕事】 ではー、今回も通常お題5つです
お題安価>>118-122 ☆お題→『ピンクの悪魔』『恋愛頭脳戦』『最終兵器』『レモネード』『銀河最強』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→5/3の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】 すげー速度で集まった・・・絶対書きにくいお題w
てか今更だけど、出題だけじゃなくて作品を書いてくれてもいいのよ
誰が書いてもいいスレなので!
次回は企画を・・・ご意見ご要望も受け付けております
引き続きお題スレをよろしくー >>111
これはひどいww
『乙女ゲーム』の企画、主人公『アマビエ』、朝食の『ポテトチップス』、イケメン『邪神』、い・・『ハンマー』!
シュウくん、あなた憑かれ、、疲れてるのよ・・・とりあえず全消化の抱腹絶倒でした!w >>127
感想有り難うございます
奇をてらってりゃ良いと言うもんじゃないと言う見本ですねw >>123
使用するお題→『ピンクの悪魔』『レモネード』
【伯母の陰謀】(1/3)
※>>74【可愛いプリンセスは危険の香り?】の続きです
「…こ、ここは、一体どこなの…?」
麻酔銃を撃たれて気絶していたシンディが少しずつ意識を取り戻す。目を開けてみると、そこは薄暗く、周囲には何もない部屋の中だった。
全身を鎖でキツく縛られているため、身動きが取ることができない。
すると目の前の扉がギイッと音を立てて開き、火の灯ったランプを持ったピンクのドレス姿の老婆が入ってきた。
「どうやら目を覚ましたようね、シンディ」
「あ、あんたは一体誰なの?」
「私はフローラ。今は亡きあなたの母ジェーンの妹よ」
「マ、ママの妹?ということは私の伯母!?」
「そういうことね。まあ色々と話してあげるから聞きなさい」
そのフローラと名乗る老婆は、シンディの母親であるジェーンの妹だった。彼女は大富豪でお金こそ全てだという考えの持ち主で、何不自由ない生活を送っていた。
ジェーンがシンディを産んだと聞いた時、彼女からシンディを奪おうと企んでいた。しかし父親であるバイロンは、そんな強欲なフローラにシンディを渡そうとしなかった。
一旦は退くものの、シンディを諦めきれなかったフローラはバイロンが乗ったトラックを狙って、崖から大量の石を落としたのだ。
そう、あのバイロンが巻き込まれて死亡した落石事故は自然で起きたことではなく、全て彼女が装ったものだったのだ。
「あの憎きバイロンが死んで、あなたが私の物となると思いきや、あなたはいつの間にか姿を消していた。私は様々な手を使って消息を追った、そしてやっと見つけた」
「ま、まさか、あんたが大好きなパパを殺しただなんて!絶対に許さない!」
これ以上ない怒りに溢れるシンディだったが、体は鎖で縛られており身動き一つできない。
「無駄な抵抗はやめなさい、シンディ。この私が何と呼ばれているか分かる?そう、ピンクの悪魔よ!」
開いたままの扉から、あの没落貴族の親子であるマークとメアリーが入ってきた。2人は、フローラから懸賞金である100億ドルを貰って大喜びだった。
「これで私達はまた貴族の仲間入りね、パパ!」
「もちろんだメアリー!それじゃあな、哀れな女ガンマン!」
「あ、あいつら…!!」
「シンディ、あなたはもう私の娘となるの。お金は山のようにあるから好きなだけ贅沢できるのよ、幸せだと思わない?」
「お金があるから幸せ?バッカみたい!」
シンディは悪あがきするかのように、フローラの顔に向かってプッと唾を吐きかける。
「どうやら教育が必要なようね。とりあえずその汚い帽子とかコートを脱ぎなさい」
「ちょ、ちょっと帽子取らないでよ!」
「こんな薄汚れたカウボーイハット被っちゃって。後でゴミとして捨てておかないとね」
「や、やめて!」
突然、暗い密室の中であるにも関わらず風が吹いてくる。
「か、風!?一体どこから!?」
どこからともなく強く吹いてくる風にフローラは驚く。その風と共に、タヌキのお面を被った着物姿の女が姿を現した。
「あ、あなたは…!!」
「鎖で縛られちゃって…。無様な姿ね、まったく…」 【伯母の陰謀】(2/3)
「シ、シグレ!!」
そう、あの遥か遠くの日本という国から来た女のサムライ・シグレだ。
「情けない姿ね、シンディ。あなた、それでもアメリカのガンマンなのかしら?」
「シ、シグレ?サ、サムライ?」
「何、この禍々しい桃色の暑苦しいドレス姿の婆さんは?なんか見てて腹が立ってくるわね」
シグレは鞘から刀を取り出し、大きく振り被る。それで発生した深い霧がフローラを包み込む。
深い霧で視界が遮られ、フローラはどうすることもできない。すると真っ赤に光る瞳が見えてくる。
「必殺、霧狐斬(キッコザン)!!」
牙を剥き出しにした赤い瞳の白いキツネが、フローラの首にガブッと噛みついた。しかし、それはシグレが見せた幻想だ。
凶暴なキツネの幻想に動揺したフローラの背中をそのままスパアッと刀で斬りつけた。
「グ、グハッ!!」
吐血し、背中から血をダラダラと流しながらフローラは倒れ、そのまま息絶えてしまった。
シンディの体を縛っている鎖も切り裂き、彼女は自由になった。
「シグレ、あ、ありがとう!」
「か、勘違いしないでね。何も助けに来たわけじゃない。ライバルが苦しんでいるのを見てるのが嫌だっただけよ」
シンディは嬉しかったのか、シグレに思いきり抱きついてきた。
「や、やめてシンディ。とりあえずこんな暗い場所から早く出ましょ」
「そうね!」
シンディとシグレは走り出す。
「そういえばサンセットは!」
「あなたの馬なら既に解放してある」
階段を駆け上がっていき、大きなダンスホールに飛び出す。目の前にフローラの屈強な部下達が立ち塞がってくるが、
シンディとシグレの敵ではなく、スピーディーな銃撃と華麗な剣術で次々に無双していく。
「相手に一切隙を見せない銃さばき、さすがガンマンね」
「エヘッ!そうでしょ、これがアメリカってものよ!」
思う存分大暴れするガンマンとサムライのコンビに太刀打ちできるわけがなく、大きな屋敷はあっさりと崩壊してしまった。
フローラは崩れ落ちた屋敷のガレキの下敷きとなってしまった。すると、ヒヒーン!の元気な泣き声と共にサンセットが姿を現した。
「サンセット!」
サンセットに特に大きなケガはなく無事のようで、シンディはとても安心した。
「シンディ、まだやることがあるんじゃないの?」
「あっ、そうだった!乗ってシグレ!」
シンディとシグレを背中に乗せると、サンセットは勢いよく走り出した。
「あの没落貴族親子と殺し屋も許さないわ!」
一方、マークとメアリー、そして2人に雇われた殺し屋のゴールドタンクは、近くの農夫を殺して奪ったトラックに乗って逃げているところだった。 【伯母の陰謀】(3/3)
「100億ドルは俺達の物だー!ウヒョー金って本当にサイコー!!」
「本当にサイコーなのかしら?」
「ヘッ?」
すぐ近くまで追いかけてきたシンディの姿に彼らはビックリした。
「な、何でこんな所にいるんだ!?」
「あんた達も地獄に送ってやるから覚悟しなさい!」
シグレはサンセットの背中から勢いよくジャンプすると、トラックのタイヤを全て刀で切り裂く。
「ゴ、ゴールドタンク!こうなったらシンディとあの変な女を殺してしまえ!」
ゴールドタンクは銃を構えるが、シグレの電光石火による斬撃で銃はバラバラになり、使い物にならなくなってしまう。
動揺するゴールドタンクとマークの心臓を目がけてシンディは発砲する。それに続くかのように、シグレが2人の首元をズバッと斬りつけてトドメを刺した。
父と頼りにしていた殺し屋が一方的にやられてしまい、メアリーは狼狽える。急いで100億ドルの入ったトランクケースを持って逃げようとするが、目の前は断崖絶壁だった。
「その100億ドルと一緒に死にな!」
シンディは勢いよく彼女を蹴り飛ばし、崖から突き落とした。キャーッ!の悲鳴と共に、メアリーは100億ドルと共に真っ逆さまに数百メートル下に落ちていった。
「これで一件落着、といったところかしらシンディ?」
「そうね。これで死んだパパが帰ってくるわけじゃないけど、私はパパの分まで生きるって決めたんだから!」
その後、近くの街まで向かい、そこでレモネードを買う。もちろん自分とシグレの2人分だ。
姿を見られると怪しまれるに違いないため、シグレは馬小屋の裏に隠れていた。
「これがレモネードよ。どう、美味しいでしょ?」
「レモネード?初めて飲むけど、なかなかイケるわね」
レモネードを飲んで、激しい戦いで疲れた体を癒す。
「今日は本当にどうもありがとう、シグレ。あなたが来なきゃ、私は伯母の奴隷にされてたかもしれない」
「シンディ、あなたは私の大切なライバル。いずれ決闘する時が必ず来る。それまで誰にも負けないで」
レモネードをグイッと飲み干し、そう言い残すとシグレは風を起こしてそのまま姿を消してしまった。
「そういうシグレも誰にも負けないでよね!負けたらこの私が許さないんだから!」
その町の宿で一夜を明かすと、次の朝早くシンディはサンセットに跨り、再び広大な荒野に飛び出すのであった。 >>129
急転直下からの反撃ですね
やはり、ライバルとは、真の敵を前にした時には助け合わないといけません(個人的見解) >>129
来た来た待ってた、待望の続き
『ピンクの悪魔』の陰謀・・・『レモネード』を飲む
黒幕が謎でしたけど、すごい話になってしまった・・・
でもしっかり助けに来ましたねw >>132
>>133
感想ありがとうございます!
もしかするとシグレは本当はシンディをライバルというより、友達として見ているかもしれません
あ、最後辺りでシグレが普通にレモネードを飲んでいましたが、お面をつけていても飲食は可能ですw
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです! >>123
使用するお題→『恋愛頭脳戦』『最終兵器』『レモネード』
【私のせっかちは治らない、でもそれでいい】(1/3)
※スレ5>>880【せっかちなんて百害あって一利なし】の続編かつ完結編です
私の名は白石ホノカ、どこにでもいる普通の高校生。ある朝、私は寝坊して遅刻しかけていた。
昨夜きちんとセットしてあった目覚まし時計が、いつの間にか電池切れを起こしてアラームが鳴らなかったのだ。
「ウワーッ!遅刻だー!」
急いでパジャマから制服に着替え、1階の食卓に向かう。テーブルに置かれたトーストとホットミルクを一気に口に入れる。
「ホノカ、朝食はちゃんとゆっくり食べなさい」
「寝坊したのにゆっくり食べる暇なんてないわよ!お母さんってホントおっとりというか呑気なんだから!」
歯磨きも済ませてバッグを手に取ると、勢いよく外を飛び出して学校へと向かう。
「急がなきゃ!今日は中間テストの日だっていうのに!」
なんとか死に物狂いで走ったため、学校には何とか間に合った。「おはよう!」の挨拶と共に教室に入ったその時、クラスメート達が自分の方を見て笑い始めた。
「な、何?私の顔になんかついてる?」
「白石、足を見てみろよ」
「へっ?」
足下に目を向けてみると、なんとローファーではなく、お母さんのサンダルを履いてきているではないか。
そう、あまりに急いで家を出た為、ちゃんと確認していなかったのだ。ホノカは恥ずかしくなり、顔はトマトのように真っ赤になった。
クラスメートに笑われながら自分の席に着くと、近くにいた一人の男子がからかってきた。
「よう、白石!サンダルを履いて登校とはたまげたぜ」
「う、上田…!」
彼の名は上田ミノル。自分によくちょっかいを出したり、からかってくる変な奴だ。
「お前ってさ、本当にせっかちなところあるよな。人生、もう少しのんびりに行くべきだと俺は思うぜ」
「べ、別にせっかちというわけじゃないわよ!ただ、寝坊して必死だったから…」
「ふーん。まあ、でもお前って面白いよな!」
9時になってチャイムが鳴り、テストが始まった。テストをする中、ホノカはふとミノルのことが頭に浮かんできた。
「(あいつ、やたらと私にちょっかい出してきて…。私のことが好きなのかな・・・ってダメダメ!ホノカ、今はテストに集中しなきゃ!)」
3日間の中間テストが無事に終わり、昼過ぎの下校時間となった。校門を出たその時、ミノルが駆け寄ってきた。
「おーい白石!」
「な、何よ上田。私になんか用?」
「なんか用ってお前、教室出た時に財布落としてったぞ。ほら」
よく見るとバッグが開いているままだ。今日は試験が終わったということで早く家に帰って、
撮り溜めていたドラマを見るため急いで帰宅しようとして急いでいたのだ。その拍子に財布を落としたというわけだ。
「あ、ありがとう上田。そ、その、キツい態度取ってゴメン…」
「別に気にしてねえよ。でも、そのせっかち治した方がいいぜ。それじゃ、気をつけて帰れよ!」
家に帰る途中、ホノカの頭の中にはとにかくミノルのことでいっぱいだった。
「(上田が私のことを好きかもしれない。それに私も上田のことが好きなのかもしれない…)」 【私のせっかちは治らない、でもそれでいい】(2/3)
一方のミノルは家でベッドに寝転び、楽しそうに漫画を読んでいた。そんな中、ふとホノカのことを思い出す。
「(白石って本当に面白いというか可愛いよなぁ…。あのせっかちなところがやっぱりチャームポイントなんだろうなぁ)」
翌日、ホノカが学校に向かっていると途中、偶然にもミノルと出くわした。
「おっ白石!おはよう!あれ、今日はゆっくり歩いているんだな、いつも必死に走ってそうなイメージなのに。珍しいこともあるんだな、雪が降るかもな」
「あ、あんたは余計な一言が多いのよ上田!それ以上からかうとケツ蹴り飛ばすわよ!」
そして特に会話もせず、黙り込んだまま教室に入る。互いに顔を合わせなかったものの、2人とも顔が赤くなっていた。
「「ま、まさかこれが恋!?こうなったら徹底的に勝負するしか他にない!!」」
それ以降、ホノカとミノルの密かな恋のバトルが始まった。どちらが先に屈して(?)告白するかだ。
「おい白石、お前の靴下に糸屑いっぱいついてるぞ」
「あ、ありがとう」
まずはミノルの番のようだ。ミノルはホノカのハイソックスについた細かい糸屑を丁寧に取っていく。
次はホノカの番だった。休み時間、ミノルがジュースを飲んでいる時に後ろから話しかける。
いきなり話しかけられビックリしたミノルは思わずジュースを吹いてしまい、ブレザーがジュースで濡れてしまう。
「あっ大丈夫!?すぐに拭いてあげるから待って!」
急いで近くの水道でハンカチを濡らし、ジュースでビショビショになったミノルのブレザーを拭く。
「急に話しかけてきたからビックリさせちゃった?ごめんね!」
このような些細でしょうもない恋愛頭脳戦(というべきなのか)が、1週間も続いたある日のことだ。
「急がなきゃ!急がなきゃ!」
全ての授業が終わって下校時間となった。今日は予約していたDVDの発売日で、ホノカは行きつけの書店へとにかく急いで向かおうとしていた。
「早く急いで家に帰って見なくちゃ!」
とにかくせっかちで急いでいる時のホノカは周りが見えなくなることがよくある。必死に走る中、左足の方のローファーが脱げ落ちてしまうが彼女は気がつかない。
今度は居眠りしている野良犬の尻尾を気付かず踏んでしまう。眠りを邪魔されて怒った犬がホノカを追いかける。
ワンワン!とうるさく吠える声に気付き、後ろを振り返った時にはもう遅かった。
犬は彼女のスカートに勢いよく噛みつき、グイグイと乱暴に引っ張り始めた。
「ウ、ウワワッ!や、やめて!スカート引っ張らないで!あっち行って!」
しかし犬は怒り狂っており、頑なにスカートを放そうとしない。スカートがビリッと音を立てて破け始める。
「いい加減放してよー!」
涙目になるホノカ。その時、何かが犬の頭にゴン!と直撃し、犬はキャンキャンと鳴きながら逃げて去っていった。
怖くて目を瞑っていたホノカが目を開けると、足下には自分のローファーが落ちていた。
「お前のせっかち、もはや病気だな。笑えてくるレベルだぜ」
「う、上田!」
ようやく、ローファーがいつの間にか脱げ落ちていたことに気付く。ミノルが自分のローファーを野良犬に投げてぶつけて助けてくれたのだ。 【私のせっかちは治らない、でもそれでいい】(3/3)
「ほ、本当にありがとう上田。な、何というか、その、私って本当にせっかちでバカよね…」
「まあ、そのせっかちなところが可愛いんだけどな。でも、お前のローファー役に立ったぜ、まさに最終兵器だ。これしかお前を助ける手段無かったからな」
「さ、最終兵器って…。ね、ねえ今可愛いって言わなかった?」
「べ、別に。お前の空耳じゃねえのか?」
しかし、2人は互いに顔を合わせてアハハと笑い合う。ミノルはホノカを自分の家に連れて行き、
犬に引っ張られて破れてしまった彼女のスカートのプリーツを綺麗に縫って直してくれた。
「これでよしっと!」
「ありがとう!ってか上田、あんた裁縫得意なのね。すっごく意外!」
「小学生の時から母さんがよく教えてくれたんだ」
その後、ミノルはレモネードとチョコの詰め合わせを持ってきてくれた。
「レモネード美味しい!上田、本当に色々とどうもありがとう。もう感謝しきれなくらいだわ」
「そこまで感謝されるほどでもないさ。お前のことが放っておけなかっただけだ」
「カッコつけちゃって!上田って本当に面白いよね!」
「面白いのはお前の方だ、白石」
レモネードとチョコを楽しみながら、ミノルはふと口に出す。
「あのさ、俺、白石のこと、めっちゃ好きなんだ!なんというかスッゲー可愛い!せっかちなところもだけど、特に横顔が!」
「ウフッ!私も上田のこと大好き!ひょうきんなところがイイ!というか、横顔フェチだったのね」
「べ、別にフェチじゃねえよ!」
それ以降、ホノカとミノルは恋仲となった。高校卒業後、同じ大学に行き、そして遂に結婚した。
「それじゃあ行ってくるぜ、ホノカ!」
「行ってらっしゃい!あと、それから事故にはくれぐれも気をつけてね」
「お前もせっかちでトラブル起こすんじゃないぞ」
「失礼ね!それくらい分かってるわよ!」
仕事に向かうミノルを嬉しそうに手を振って見送るホノカなのであった。
THE END >>135
まさかの続編w
密かな『恋愛頭脳戦』、ローファー『最終兵器』、『レモネード』とチョコ
相変わらずのせっかちから、過程を経て、ハッピーエンド・・・
でもせっかちは治した方がいいと思うw >>135
中々フェチな頭脳戦ですねw
どうでも良い事ですが、"惚れた方の負け”みたいな風潮って、何なんでしょうね? >>138
>>139
感想ありがとうございます!
はい、まさかの続編ですw お気に入りの作品でしたので続きを書きたくなっちゃいました
そうですよね、恋愛は惚れた方も惚れられた方も最終的に結ばれて、幸せになればそれで十分ですよね
勝敗とかそんなの気にしてちゃ、恋愛というものは一切成り立たないと私は思います
こちらも楽しんでいただけてすっごく嬉しいです! ところで次回の企画ですが、ジャンル指定か、リレー企画か、どちらかと考えています
どうしよう うーん、それでは、他の意見がなければ、ジャンル指定にしましょう >>123
使用お題→『ピンクの悪魔』『恋愛頭脳戦』『最終兵器』『レモネード』『銀河最強』
【今回は痛い作文でお茶を濁します】(1/2)
筆者は居直った。必ず、かの難攻不落のお題を消化しなければならぬと決意した…………こんな駄文を投稿したのが、一年と少し前である。
長いことスレに居座って、好き放題書き散らしてきた。それなりの作品を、まずまずの頻度で……と言いたいところだが、筆者の実感としては、実力以上のものを、継続的に、という方が近い。
筆者は、同じネタを使い回さないようにしている。半分は読者のため、もう半分は自分のために、そうしている。
意図して繰り返す場合でも、例えばパロディなら一度きり、連作ならヘビロテに注意する。もちろん例外はあるし、それとは別に、同じ人間が書く話なので、似通ってしまうことはある。
要するに何が言いたいか。今回は例外の方に近い。今回はお題が難しいので、あからさまなやり口でもって、筆者の弱みを見せるいい機会だと思ったのである。
最初に、お題の話をする。
日曜深夜、筆者はお題を見て、よく分からないものはリサーチする。今回特に問題なのは『ピンクの悪魔』と『恋愛頭脳戦』である。
まず『ピンクの悪魔』でググる。実際にググれば分かるが、カー○○さんである。あとGG○である。なるほどね。
筆者は○○ビーさんで遊んだ記憶がない。筆者はゲーム機を持っておらず、筆者の竹馬の友も同様であった。
ならばGG○だが、筆者はS△○に関心がなく、つまりは、シリーズの作品を、どれも読んだことがないのである。そりゃねーだろ、という話だが、筆者の読書経験は割合貧弱な方で、こういう穴は結構多いのだ。
次に『恋愛頭脳戦』である。こちらはググるまでもないが、一応は調べてみる。とりあえずテンプレっぽいラブコメなのね、というのが筆者の理解である。
なぜこんな話をするか。
別に筆者の無知を自慢したいわけではない。そりゃ誰にだって知らないことはある。そうではなく、筆者の狙いは緊張の緩和である。
『同じネタを使い回さないように』書くことは、ともすると、読者を作品で殴り続けることにもなる。そこまで力のあるものを書いた覚えはないが、筆者は、読者が疲れてしまうことを恐れている。
筆者は、種明かしが必要だと、考えている。なんであれ、仕組みが分かれば、大したことがないと思えてくるものだ。
お題の話を続ける。
『最終兵器』は、ほぼ自明だろう。少し調べるだけだ。『レモネード』はシンディ専用。『銀河最強』は、またカ○○ーさんのようだが、筆者としては、オラわくわくする方だ。
オラわくわくしてきたぞ。
ここまで、お題を一つ一つ検討してきた。次に、この成果を実作に取り入れることを考える。
まずは、単純に足し合わせてみる。『ピンクの悪魔』は、主人公か敵対者のどちらかだろう。物語の内容は『恋愛頭脳戦』である。途中で『最終兵器』が登場する。『レモネード』は分からない。そして誰かが『銀河最強』だと判明する。
一見して問題なさそうだ。だが、筆者に言わせれば、これでは文字通り話にならない。前述の『成果』が、ちっとも反映されていないからだ。 【今回は痛い作文でお茶を濁します】(2/2)
ここで「構造」について話すことにする。これは、構造主義の『構造』ではなく、大江健三郎の著作『小説の方法』の用語である。
例えば「文学表現の言葉」には「構造」がある。『文学表現の言葉』とは、これも同書の用語だが、要するに、詩や小説に見られる印象的な表現のことだ。その目的は読者の注意を引くことにある。
それで肝心の『構造』だが、これは単に、少しふわっとした、広い意味の用語だと思っておけば良い。
この「構造」の中身は、小説家が勝手気ままに考えるものではない。これは現代文学の理論なので、前述の例だと、その言葉の同時代における意味や使われ方が中心となる。
小説に関するあらゆる概念に「構造」はある。
もちろん、お題にも「構造」がある。言葉としての意味、係る文脈、出題の意図は、お題の「構造」ということになる。
この「構造」を取り込んだ作品は、実利的な言い方をすると、含蓄のある、つまりは読んで面白いものとなる。
また、こうした「構造」のあれこれは、先述の通り、『小説家が勝手気ままに考えるものではない』ので、読者の理解を助け、作品を読みやすくする効果がある。あとネタを自力で考えずに済む、というのもある。
以上が、お題を検討し、その『成果』を用いる理由である。
手始めに、『恋愛頭脳戦』に戻って考えることにする。これが話の本筋となるからだ。
元ネタに倣えば、ラブコメを書くことになる。だが、ここで筆者のブライドが邪魔をする。元ネタと同じことをやっても意味がない。
ならばシリアスな恋愛ものはどうか。『ピンクの悪魔』に『最終兵器』なんて、いかにもな題材である。ただ前者の構造は使いにくいので、『ピンク』と『悪魔』に分けて考えることにする。
ヒロインは『ピンクの悪魔』、すなわちサキュバスである。彼女は元は人間だったが、なんらかの理由で『悪魔』に改造されてしまったのである。
ヒーローは、ヒロインがまだ人間だった頃の恋人である。二人は互いに未練がある。同時に、ヒロインは悪魔なので、同族のために働かなくてはならない。そして、実はヒーローは、悪魔をやっつける勇者様である。
つまり、ヒロインは、対勇者の『最終兵器』というわけだ。『恋愛頭脳戦』でノクタ池を回避しつつ、バッドエンドからは逃れられない、という趣向である。
正直なところ、ここまで書いて筆者は力尽きた。つーか話が重いな。筆者は、愛の戦士にはなれそうもない。その割に、あらすじから漂うラブコメ臭である。
男女逆ではどうだろうか。ヒロインは、聖女様か女エクソシストである。ヒーローは悪魔だ。
少し考えると、この設定は駄目っぽいことが分かる。
ヒーローがフツメンだとする。フツメンの悪魔など許されない。気持ちよく除霊して終わりである。
ヒーローがイケメンだとする。ノクタかムーンライトか、どちらか行きである。悠長に頭脳戦をしている場合ではない。それに、イケメンの悪魔なんて、想像するだに腹立たしいコンセプトである。まったくひどい。
目先を変えて、TSヒロインならどうだろうか。ヒーローは元親友である。
筆者は少し考える。駄目ではなさそうだ。ただしラブコメ一直線である。しかもTSだ。
『銀河最強』にかわいいヒロインと、『レモネード』を飲むデートである。オラわくわくしてきたぞ。
……率直に言って誰得である。
そう言えば、『恋愛頭脳戦』の元ネタには、ピンク頭のキャラもいるのだった。この路線なら……とも思うのだが……。
そんなこんなで時間切れである。あーあ。
おちもあとがきもなし。 >>123
お題:『ピンクの悪魔』『恋愛頭脳戦』『最終兵器』『レモネード』『銀河最強』
【ぐーたら女神にやらされる異世界生活】(1/3)
「あっの、ピンクの悪魔(女神)め!!」
坂口 醍醐の口から、思わずそんな愚痴が零れる。
周囲は見渡す限りの荒野であり、醍醐はそんな荒野を既に5時間近く彷徨っていたからだ。
醍醐にした所で、好きこのんでこんな所に来た訳では無い。彼は日本から、このレネスティ―の世界に転移させられたのだ。ピンク髪の女神を名乗る者によって。
******
「最近、地球ってさ、人口増え過ぎなのよね、他の世界との兼ね合いもあるしさ、バランス管理がピーキーに成っちゃって、面倒くさいのよ」
「は?」
醍醐の眼前にある、階段の数段上に設えてある板間の敷物の上に“それ”は寝転んで、ストローを咥えていた。
ピンク色の髪をした、目も覚める様な美人ではあるが、面倒臭そうな表情で透明なカップの飲み物を啜っている様子は、あたかも休日の姉を思わせる姿で、何とも残念この上ない。
「聞いてる? だからさ、ちょっと減らそうと思ってたのにさ、他の女神がうるさいのよ、あのブリッコ、ちょっと男神の受けが良いからって、チョーシに乗り過ぎ」
「いや、ちょっと待って、何の話? ってか君は誰?」
「は? 女神よ、女神。見て分かるでしょう? ひれ伏しなさい、頭が高いわよ」
不機嫌そうに身を起こした女神は、胡坐をかきながら、どこからともなく取り出したポテトチップスをバリバリと食べる。
一方の醍醐はと言えば、気が付くとこんな場所にいて、目の前にそんな女性が居たのだ。混乱するし、訳が分からない。
「そもそも、リソースだって有限なの、この間までは植物がバリバリ減ってたからバランスとれてたんだけどさ、エコとかって植林したり、動物の保護とかって言って管理し始めてるじゃない? 流石に他の世界分のリソースが足りなくなってきちゃった訳なのよ」
「いや、だから、何の話?」
「は? 魂よ、魂の数。頭の回転悪くない? さっきっからそう言ってるでしょ?」
「いや、そんな事、ひとっことも言って無いよ!?」
「は? アタシが言ってんだから、即座に理解しなさいよ! 鈍いわねぇ」
イライラした様子で女神が言う。醍醐は、どうにかこうにか女神の話をすべて聞き、それをまとめると、こう言いう事らしい。
彼女は複数の世界を管理する女神なのだが、最近の地球は、人口が増えるだけではなく、エコロジーやらなんやらで、動植物の数も増えているのだと言う。
それだけなら、むしろ良い事なんじゃと、醍醐は思うのだが、しかし、管理している側からすると都合が悪いらしい。
彼女の管理している全ての世界の合計の魂の量は決まっており、一つの世界だけで生物……動植物や精霊、妖精全てを含めて……が増え過ぎると、他の世界に割り当てるリソースが足りなくなるのである。
それでも最初は、精霊や妖精やらに割り振っていた魂を人間の方に使っていたので、何とかなっていたらしいのだが、今はそれでも足りなくなっていると言う。
ただ、それだけなら、世界の発展度を考えて、一時的に他の世界の生き物の総数を減らすだけでも良い、しかし、あまりにも減らしすぎると、次元の狭間から‟良くない物”が入り込んで来るのだとか。
俗にモンスターとか邪神だとか言われる物がそうらしい。 【ぐーたら女神にやらされる異世界生活】(2/3)
なので、大災害を起こして地球の人口を減らそうとしたら、他の世界を管理する女神に止められてしまったそうなのだ。
他の世界の湧き出るモンスターを減らさせつつ、リソースを増やす努力をしなさいと。
このピンクの女神(自称)は、最初リソースは一定量しかないと言っていたが、醍醐が根掘り葉掘り聞くと、実は増やせる物であると白状した。
生物に自らの魂を鍛えさせ、その量を増やさせる事で、分割に耐えうる量を確保できる様に成るからだ。
その為、他の世界の神達は、これはと言う人材を見つけては試練を課し、魂を鍛えさせるのである。
たが、このピンクの女神(悪魔)は面倒くさがってそれをサボっていたのだ。
それを聞いて、醍醐は他の世界の女神に感謝した。が、同時に思い至る事があった。
「え? つまりそれって……」
「邪神とか倒せば、魂の練磨になるでしょ? モンスターが湧き出してるとこ(世界)に送ったげるから、精々がんばって倒しなさいよ。アタシの為に」
「ちょ、ま!!」
「このアタシが見込んであげたんだから、結果残さなかったら、アンタ来世はミジンコね、これ、決定事項だから。あー、たった一人の人間(下等生物)の為に力を使ってあげる、アタシってマジ女神!!」
「いや、こら! 待てよ、おい!!」
「あ、そう言や、あのブリッコ女神、試練を課す時は神器か加護を与えなさいとか言ってたわね…… じゃ、これでいっか、はい」
そう言ってピンクの悪魔(女神)が放り投げて来たのは、さっき彼女が飲んでいた透明カップだった。
慌てて醍醐がそれを受け取ると、あっという間に視界がホワイトアウトする。
『じゃ、ヨロ〜』
こうして、醍醐は異世界に放り出されたのであった。
******
女神に投げ渡された、神器のカップから沸き出す飲み物で、渇きを癒す。いくらでも飲み物が湧き出すこのカップは、さすが神器と言う性能だった。
湧き出す飲み物は、おそらくあの時女神が飲んでいた物なのだろう。レモネードであり、悔しい事に、疲れを癒すには最適だった。
ただし、あくまで“飲み物”としては最適なだけで、それ以外には使い様が無いのだが。
ジリジリと肌を焼く太陽の光に、少しでも休息を取りたくはあるが、しかし、周囲に身を隠す様な場所は無い。
神器のレモネードのお陰で、疲労感は軽減されるが、しかし、足を動かし続けるしかないと言う現状に、精神的に疲弊していた。
「?」
その時、醍醐の耳に、風のうねりとは違う音が確かに聞こえる。
「人か? いや、人じゃなくても何か別の何かでも……」
代り映えしない現状に辟易していた為だろう。醍醐は警戒心も無く音のする方へと走り出し、足場が無くなった。
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少女の眼前に居る魔獣は、そのドロリとした闇色の複眼で獲物を見つめていた。
ハアハアと肩で息をし、体中に幾つもの傷。手に持ったナイフも既にひびが入っている。
しかし、その目には未だ力を宿し、この絶望的な状況の中でも希望を捨てていない事がうかがえた。 【ぐーたら女神にやらされる異世界生活】(3/3)
「……そろそろ、いい加減諦めなんし。往生際が悪すぎるでありんすよ?」
「うるさいにゃ! 僕の限界は、僕が決めるにゃ!! 僕は諦めないにゃ!! ぜったい、銀河最強になってやゃるにゃ!!」
「ふう、威勢の良い台詞も聞き飽きたでありんす、そろそろ、わっちの経験値になりなんし」
魔虫使いの女がその下僕に「やれ」と合図を送る。
横にいた魔虫が、その外骨格の前肢を振り上げた。 振り下ろされるそれを、少女が必死にガードする。だが、彼女に出来たのはそれだけだった。踏ん張りの効かない足では、その威力に勝てず容易く吹き飛ばされ、岩に激突する。
ろっ骨が折れたのか、激しい痛みで呼吸すらできない。
しかし、彼女は諦める事は出来なかった。
銀河最強になる。
その夢を諦められない……いや、それは少し誤謬があるか。正確には、銀河最強になる事で叶えたい夢があるからだ。
数年前、丁度モンスターと呼ばれる怪物が出始めた頃だろう。この世界に、一つの“神託”が下った。
『この銀河で最も強くなりなさい。そうすれば、あらゆる願いをかなえてあげるわ』
銀河……と言う言葉が何を指すのかわからない者も多かった。しかし、最強と言う言葉が何を指すのかは分かる。
あらゆる者達が、自身の望みを叶える為、最強を目指したのである。
(アタシは最強になるにゃ!! 最強になって、ご主人様の所へ!!)
彼女にはある記憶があった。この世界に生まれる前の、大切な……
気力はある。だが、悲しいかな体は付いて来ない。
ギリリと、奥歯を噛み締める。
「上手く受け止めた様でありんすが、どうやら、ここまでの様ですわねぇ……では、本当に、これでさよならでありんす」
思わず少女が目を瞑る。その直後、ドゴオオオオォォォォォォォン!!!!!! と言う地響きが轟いた。
恐る恐る彼女が目を見開くと、そこには潰れて緑の体液をまき散らした魔虫と、それを見て呆然とする魔虫使いの女。
そして、その魔虫の上でキョロキョロと周囲を見回す黒髪黒目の少年がいた。
「……ご、ご主人様にゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
体の痛みも忘れ、思わず飛びつく少女。しかし、その後少年の口から出た言葉に、思わず凍り付いた。
「は? 君誰?」
******
醍醐の眼前には白髪の美少女が頬を膨らませてながら歩いていた。少女の名はエミュウ・バステト。その整った容姿もさることながら、目を引くのは、頭部に生えた猫耳と腰から伸びるしなやかな尻尾。そして、金と銀のテヘロクロミアの瞳。
醍醐を「ご主人様」と言った事も謎だが、今、こうして膨れているのも謎だった。
恐らく、彼女の機嫌が悪いのは自分の事を覚えていない事であろう。しかし、醍醐にしてみれば、あのピンクの悪魔(女神)に、今日突然送り込まれた世界であり、当然、知り合いなど居るはずも無い。
だがエミュウの方は、自分の事を知って居る事は当然と言う様子だった。
(でも確かに、何か、既視感が……)
「あら、そんな小娘を熱心に見つめるなら、わっちを見ておくんなまし」
「ちょ、アドニアさん!!」
ふっと、醍醐の耳に息を吹きかけるのはプテューゲル・アドニア。魔虫使いの女。
醍醐が落ちて来た当初こそ、自らの最終兵器とも言うべき大型魔虫を潰された事に憤ってた彼女だが、エミュウの彼に対する態度を見た途端、こうして醍醐に絡む様に成って居た。
「わっちの大事な物を奪ったでありんすんから、そんな小娘を相手にしないで欲しいんでありんす」
「ちょ、言い方!! 確かにアドニアさんの魔虫を潰したのは悪かったですが!!」
「プテューゲル……と呼んでくれなんしぃ」
「フーーーーーーー!!!!」
銀線が走り、エミュウの右手が醍醐の頬を掠める。プテューゲルは、それを読んで居たかの様に後ろに身を翻えす。
醍醐を挟んで二人の攻防が始まる。
彼の旅は始まったばかりだった。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています