彼女は自分が結婚するまで、自分が恋をしているものと信じ切っていたが、
その恋から生じるはずの歓びが訪れてこないので、
自分が思い違いをしたのに違いない、と思った。
そしてエンマは、本のなかで読むとあんなにも美しく思われた至福とか情熱とか陶酔といった言葉が人生ではじつのところ何を意味しているのか、知ろうと努めた。
(フローベール『ボヴァリー夫人』芳川泰久訳 新潮文庫)