短編推理 あなたは解けるか？ Part9
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八月一日
城 玲音
麻賀谷 徹
須田 林檎
針村 譲治
小野横 太郎
綿貫警部補(以下 綿)・穂積巡査(以下 穂)
綿「これが事件当日の宿泊客のリスト？ずい分少ないねえ。」
穂「何でもこのコロナ禍で大量のキャンセルが出たようでして。」
綿「なるほど。じゃあ、まず被害者について聞かせてくれないか？」
穂「はい。被害者は小野横太郎さん。
被害者は◯◯湖畔の３階建てのホテルの３階の１番東側、３０１号室に泊まっていました。
死因は左胸を刃物で刺された事による失血死。凶器の包丁は左胸に刺さったままで、被害者の指紋のみが検出。死亡推定時刻は８月１日夜１１時から深夜１時頃で、遺体は窓際のソファーでまるで湖を眺めているかのように座ったまま絶命していました。ソファーのテーブルには飲みかけのビール缶が１本置かれていました。飲み口に被害者の唾液が付着し、被害者以外の指紋や薬物反応はありませんでした。」
綿「了解。次に他の宿泊客について教えてくれ。」
穂「はい。そのリストにある城、麻賀谷、須田、針村の４人は人気音楽バンド、ザ・カブトムシズのメンバーで、被害者は彼らのマネージャーです。
このホテルのすぐ近くにある所属会社のスタジオで新曲のレコーディングを済ませ、ホテルに宿泊して翌日帰京する予定だったそうです。彼らは中央ホールを挟んで西側の３０６に城、７に麻賀谷、８に須田、９に針村がそれぞれ宿泊していました。朝９時にチェックアウトするために、３階の中央ホールで集合するはずが、被害者だけが現れず、城が被害者の部屋のドアをノックしてもチャイムを鳴らしても、麻賀谷と星が携帯を鳴らしても応答が無かったので、針村が従業員を連れてきて、スペアのカードキーで中に入ると、窓際で被害者が…」
綿「なるほど、つまり４人全員が第一発見者というわけか。じゃあ次に、その４人が被害者の死亡推定時刻の間、それぞれどこで何をしていたかを教えてくれ。」
穂「それがですね、４人は夕食後に１階の大浴場で入浴した後、３０９号室に集まって夜１０時から深夜３時頃まで麻雀をしていたそうです。」 綿「ほう、４人で麻雀を。途中で抜けた人はいたかい？」
穂「自室の冷蔵庫の有料サービスの酒を抜きに針村以外はちょくちょく戻ったみたいですね。中でも飲んべえの麻賀谷は酒が足りなくなったから、わざわざ１階の酒の自販機まで買い足しに来てまたそうです。深夜２時頃に数本の缶ビールを両手に抱えてエレベーターに乗り込むのを従業員が目撃しています。」
綿「うーん、死亡推定時刻から外れてはいるが、ちょっと気になるね。」
穂「このホテルはフロントと各階の中央ホールに防犯カメラが設置されていて、ビールを抱えて自室がある西側の方へ歩いていく姿も確認済みです。このホテルは防犯上、フロアの移動手段は中央のエレベーターのみです。階段は外に非常階段がありますが、階段へ向かう扉を開けると同時にフロントの警報ブザーが鳴る仕組みになっています。３階の中央ホールに屋上への階段がありますが、そちらも入口扉を開けると同じ事が起こります。」
綿「なるほど。まさかとは思うが、宿泊客以外が入り込む可能性は？」
穂「それは無いでしょうね。フロントの防犯カメラを確認しましたが、宿泊客、従業員以外の出入りはありませんでした。さらに、被害者の部屋に行くためには必ず３階の中央ホールを通らないとならないので、カメラに映らずに通過するのは不可能です。」
綿「従業員でもか？」
穂「はい、外部の警備会社がリモートで監視しているので従業員でも操作は出来ません。」
綿「ほう、まさに密室だな。」
穂「念のために天井裏や床下、通気孔も調べたのですが、人が通過した形跡はありませんでした。」
綿「んっ、忘れてた。窓は、部屋の窓はどうだ？」
穂「それがですね、このホテルは全室窓が開かない仕様なんですよ。エアコンの省エネとか何とかで。代わりに空気清浄機が全室完備されてます。」
綿「完璧だな。これは…遺書は無いが自殺の線が濃厚かもしれんな。さすがに動機は…。」 穂「動機ですか？まあ動機かどうかは分かりませんが、実はカブトムシズって元々は小野横さんがリーダー兼ボーカルを担当していた５人組のロックバンドだったんですよ。ところがさっぱり売れず、体調不良で休養している間に、他の４人が勝手にダンスメインのエアバンドに路線変更して、それがハマって、メジャーデビューしてアイドル的人気者になっちゃったんですよ。小野横さんはマネージャー業をしながら再三、以前のようにちゃんと楽器を演奏して欲しいと説得を試みていたようですね。」
渡「なるほど。理想と現実の間でもがき苦しんでいたわけか。酒を飲んで１人きりで湖を眺めていたら、ふと死にたくなったのかもしれないな。」
穂「やっぱり自殺なんですかねえ？実は１つ気になる事があって…。」
渡「気になる事？」
穂「まあ、大した事じゃないんですけど、被害者の左胸に刺さってた包丁が、左利き用の包丁だったんですよ。」
渡「それは被害者が左利きだからじゃないのか？」
穂「ところが、被害者は右利きなんですよ。」
それを聞いてから１、２分の沈黙の後、綿貫は再び手に持っていた宿泊客リストを広げると、ある名前をリズミカルにトントントントン人差し指で叩き出した。
綿「自殺だと結論付ける前に、この人に確認したい事がある。」
さて問題です。「この人」とは誰でしょうか？ ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
