海洋放出「壊滅的影響」=押し切られた風評懸念―全漁連

全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長は16日、農林水産省内で野上浩太郎農水相と
会談し、東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出に改めて強い反対の姿勢を示した。岸氏は
「風評被害の発生は必至。漁業に壊滅的な影響を与える恐れがあり反対だ」と強調。しかし、
政府は月内にも海洋放出を決定する方針を固めており、漁業関係者の懸念は押し切られた格好だ。

野上農水相は「風評を懸念されるのは当然」と全漁連の立場に一定の理解を示した。その上で、
「復興に向けた漁業者の努力を妨げないことを最優先に、処理方法や風評被害対策を検討すべ
きだ」と述べ、全漁連の意向を関係省庁と共有する考えを伝えた。岸会長は15日に官房長官、
環境相、経済産業相を訪問。16日は復興相も訪れ、海洋放出への反対を繰り返し訴えていた。
背景にあるのは、いまだ払拭(ふっしょく)されていない風評が海洋放出により一段と強まる
ことへの強い危機感だ。

2011年の原発事故から9年たつが、福島県の漁業は本格的な操業再開に至っていない。
また、中国や韓国など一部の国・地域が日本産の農林水産物に対する輸入規制を今も継続している。
欧州連合(EU)やマカオなど、輸入規制を緩和する動きも出ているが、実際に海洋放出が
始まれば再び各国・地域で規制が強化されかねない。

30年に5兆円を目指す政府の農林水産物・食品の輸出目標の達成も危ぶまれることになる。
2020/10/17時事通信社