ワイが文章をちょっと詳しく評価する![79]
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点数の意味
10点〜39点 日本語に難がある!
40点〜59点 物語性のある読み物!
60点〜69点 書き慣れた頃に当たる壁!
70点〜79点 小説として読める!
80点〜89点 高い完成度を誇る!
90点〜99点 未知の領域!
満点は創作者が思い描く美しい夢!
評価依頼の文章はスレッドに直接、書き込んでもよい!
抜粋の文章は単体で意味のわかるものが望ましい!
長い文章の場合は読み易さの観点から三レスを上限とする!
それ以上の長文は別サイトのURLで受け付けている!
ここまでの最高得点は75点!(`・ω・´)
前スレ
ワイが文章をちょっと詳しく評価する[78]
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1504438389/ ああ、でも、「など」
だから、「戸惑うほどの淫靡なる快楽」
でも良いんですよね。
夫婦で監禁されてツインベッドに別々に縛り付けられて
絶食させられて薬を打たれて、
水を与えられながら強制スワ○ピング
で、麻薬なのか水の潤いなのか、陵辱の悲哀なのか、屈辱なのか
わからない物がいっしょくたに押し寄せてそけいぶや腰の
奥から昇ってきてそれは渇きになってコップに手が伸びる、
でも、戦慄きになるのかもしれません。
などの範囲は確かに難しいですね。 なるほど
「唇が戦慄く」にはそういった意図がありそうですね
ただ夫婦で監禁されるスチュエーションはまったく穏やかではないので、
今回のワイ杯で扱うとしたら、それこそ難しそうに見えます……工夫次第でいけるんでしょうかね笑 ワイさん、ワイ杯中に有難うございました!
さすがに、慶安事件の丸橋とお気づきいただき、嬉しいです。将来のネタに取っておきたいと思います。
本城惣右衛門と丸橋の関わり、意外に面白いかと。 今回のは「穏やか」からの「鷲掴み」で苦しんだ
「鷲掴み」なら水を荒々しくがぶ飲みする背景が欲しいのに「穏やか」が調和しなくなるという罠 >>102
敬虔なクリスチャン夫婦がトラウマのフラッシュバックならいけると思いますよ。
やばい人とトラぶって仮面の謎の男女に拉致監禁されて、暴行後に解放される。
クリスチャンの精神で彼を許したつもりで一年後。
夫婦でふらりとおとずれた飲食店でグラスを見ると、暴行時に使われたグラスと同じものに
水が注がれて出てきた。
夫婦揃ってフラッシュバック。何故あの時のグラスが?
この店がてがかりか? でも今更知ってどうする?
いや、違う。復讐だ。復讐すべきだ。これは神の御意志だ。
みたいな感じならいけると思いますが、俺の筆力では無理です。
2000字しばりがきついですね。 なんでもこのカフェには不思議なメニューがあるらしい。
名前は清算水。向き合った二人が同時に飲むことで、その関係がどんなものでも清算されるのだとか。それを友達の恭子から聞いたとき、あきれるほどつまらない名前だなと私は思っていた。
……それと一緒に近い将来、陸とそれを飲む日が来るんだろうかと、ぼんやり考えていたことも記憶に新しい。ウエイトレスさんの後ろ姿を見送りながら、私はそんなことを思い出していた。
陸はとてもいい人だった。
中学三年生の秋に口下手な陸から告白してくれて、それからずっと付き合っていて、高校も同じで、いつもすごく優しくしてもらったことをよく覚えている。
そんな彼が変わったのは、二年生の終わり頃からだった。
乱暴になったとかそんなわけじゃない。ただ私に関心がなくなったのだ。
話しかけても上の空なことが多くなった。メールをしなくなった。一緒に帰らなくなった。土日に遊ぶことがなくなった。
学業に集中したいのかなと、真面目に勉強の話を振ってみてもまるで意味なし。目も合わせてくれない。
一年経ってもそれは変わらず。私は悩んだ末にとうとう彼をここに誘ってしまった。
彼もお水の話は知っているらしい。
なのに一言も文句がない時点で、清算なんて必要ないのかもしれないけれど。
……もう私たちの関係は、終わっているのかもしれないけれど。
せめて、終わるなら明確な終わりが欲しかった。
「それじゃあ、飲みましょうか」
私はそう言ってはみたものの、実は困っていた。ここまでずっと笑顔で平静を装ってきたけれど、ここにきて手と口元の震えが止まらない。これは私が望んだことなのに、どうして震えているのだろうか。あるいは、陸が拒んでくれることを期待でもしていたのだろうか。
何を馬鹿な。私は一年かけて諦めた。今さらそんな期待なんて――
「奈々」
私の名前を呼ぶ声。私は顔を上げた。前にこんな優しい声で呼ばれたのはいつだっただろう。
「安心して。大丈夫だから、一緒に飲もう」
私と違って、とても落ち着いた顔。
なによ。
そんなに私と離れたいの。いいわ、いいわよ。おかげ様で、覚悟ができたもんね。
唇の震えも止まった。勢いに任せてコップの水を流し込むように飲んだ――
「――――ぁ」
なに、これ。
走馬灯のように、とでも言えばいいのだろうか。そんな経験したことがないからわからないけれど、見えてくる。
陸の考えていたこと。陸がやってきたこと。陸が私に向けてくれていた想い。
なによ……
私と釣り合うために、いい大学に入ろうと勉強してたって。
馬鹿じゃない。
私はそんなこと気にしないのに。
馬鹿じゃない。
私、そんなことも気付かずに、一人で落ち込んでいたなんて。
「これ、本当は一緒に飲んだ相手の本心が、少しの間だけ伝わるようになる水なんだって。別れる事が多いからこんな名前になったらしいけど」
陸は照れくさそうに笑って、それから申し訳なさそうに目を伏せた。どっちの表情も、いつも見ていた陸のものだった。
「僕は口下手だし、自信もないから」
「……うん」
「大学の合格が決まるまで、何も言うことができなくて」
「……うん」
「いざ合格がわかっても、今度はどうやって話を切り出したらいいかわからなくなって」
「……うん」
「だから恭子に頼んだんだ。奈々にこの店のことを教えてくれって。ここなら上手く気持ちを伝えられると思って」
「うん」
全部わかってる。全部、わかった。
「こんなやり方は本当に情けないんだけど」
「そんなことない」
私は顔を思いきり、何度も横に振った。
そこではじめて、涙が止まらないみっともない自分の姿に気付いたけど、陸が気にしていないことがわかったから、私も気にするのをやめた。
テーブルに置いていた私の手を、陸が握る。中学生のときに見た覚えのある、真剣な顔をしていた。
「もう二度とこんな真似はしない。奈々に、寂しい思いは二度とさせない」
「……うん」
私、本当に馬鹿だった。一人で悩んで、空回りして、
「だから、この先もずっと一緒にいてほしい」
陸はこんなにも、私のことを思ってくれていたのに。
水の効き目はいつの間にか終わっていた。だから、私も陸の手を強く握り返して、しっかりと目を見て答えた。すれ違いなんて、二度と起きませんようにと祈りながら。
「ありがとう。これからも、よろしくお願いします」
心が見えなくなっても、もう私が陸を想う気持ちは変わらない。それはきっと、陸も同じ。
壊れそうになっていた私たちの関係は、無事に清算されたのかななんて、私は思った。 >>106
うーむ残念 素直にその2000文字を読んでみたかった なんでもこのカフェには不思議なメニューがあるらしい。
名前は清算水。向き合った二人が同時に飲むことで、その関係がどんなものでも清算されるのだとか。それを友達の恭子から聞いたとき、あきれるほどつまらない名前だなと私は思っていた。
……それと一緒に近い将来、陸とそれを飲む日が来るんだろうかと、ぼんやり考えていたことも記憶に新しい。ウエイトレスさんの後ろ姿を見送りながら、私はそんなことを思い出していた。
陸はとてもいい人だった。
中学三年生の秋に口下手な陸から告白してくれて、それからずっと付き合っていて、高校も同じで、いつもすごく優しくしてもらったことをよく覚えている。
そんな彼が変わったのは、二年生の終わり頃からだった。
乱暴になったとかそんなわけじゃない。ただ私に関心がなくなったのだ。
話しかけても上の空なことが多くなった。メールをしなくなった。一緒に帰らなくなった。土日に遊ぶことがなくなった。
学業に集中したいのかなと、真面目に勉強の話を振ってみてもまるで意味なし。目も合わせてくれない。
一年経ってもそれは変わらず。私は悩んだ末にとうとう彼をここに誘ってしまった。
彼もお水の話は知っているらしい。
なのに一言も文句がない時点で、清算なんて必要ないのかもしれないけれど。
……もう私たちの関係は、終わっているのかもしれないけれど。
せめて、終わるなら明確な終わりが欲しかった。
「それじゃあ、飲みましょうか」
私はそう言ってはみたものの、実は困っていた。ここまでずっと笑顔で平静を装ってきたけれど、ここにきて手と口元の震えが止まらない。これは私が望んだことなのに、どうして震えているのだろうか。あるいは、陸が拒んでくれることを期待でもしていたのだろうか。
何を馬鹿な。私は一年かけて諦めた。今さらそんな期待なんて――
「奈々」
私の名前を呼ぶ声。私は顔を上げた。前にこんな優しい声で呼ばれたのはいつだっただろう。
「安心して。大丈夫だから、一緒に飲もう」
私と違って、とても落ち着いた顔。
なによ。
そんなに私と離れたいの。いいわ、いいわよ。おかげ様で、覚悟ができたもんね。
体の震えも止まった。勢いに任せてコップの水を流し込むように飲んだ――
「――――ぁ」
なに、これ。
走馬灯のように、とでも言えばいいのだろうか。そんな経験したことがないからわからないけれど、見えてくる。
陸の考えていたこと。陸がやってきたこと。陸が私に向けてくれていた想い。
なによ……
私と釣り合うために、いい大学に入ろうと勉強してたって。
馬鹿じゃない。
私はそんなこと気にしないのに。
馬鹿じゃない。
私、そんなことも気付かずに、一人で落ち込んでいたなんて。
「これ、本当は一緒に飲んだ相手の本心が、少しの間だけ伝わるようになる水なんだって。別れる事が多いからこんな名前になったらしいけど」
陸は照れくさそうに笑って、それから申し訳なさそうに目を伏せた。どっちの表情も、いつも見ていた陸のものだった。
「僕は口下手だし、自信もないから」
「……うん」
「大学の合格が決まるまで、何も言うことができなくて」
「……うん」
「いざ合格がわかっても、今度はどうやって話を切り出したらいいかわからなくなって」
「……うん」
「だから恭子に頼んだんだ。奈々にこの店のことを教えてくれって。ここなら上手く気持ちを伝えられると思って」
「うん」
全部わかってる。全部、わかった。
「こんなやり方は本当に情けないんだけど」
「そんなことない」
私は顔を思いきり、何度も横に振った。
そこではじめて、涙が止まらないみっともない自分の姿に気付いたけど、陸が気にしていないことがわかったから、私も気にするのをやめた。
テーブルに置いていた私の手を、陸が握る。中学生のときに見た覚えのある、真剣な顔をしていた。
「もう二度とこんな真似はしない。奈々に、寂しい思いは二度とさせない」
「……うん」
私、本当に馬鹿だった。一人で悩んで、空回りして、
「だから、この先もずっと一緒にいてほしい」
陸はこんなにも、私のことを思ってくれていたのに。
水の効き目はいつの間にか終わっていた。だから、私も陸の手を強く握り返して、しっかりと目を見て答えた。すれ違いなんて、二度と起きませんようにと祈りながら。
「ありがとう。これからも、よろしくお願いします」
心が見えなくなっても、もう私が陸を想う気持ちは変わらない。それはきっと、陸も同じ。
壊れそうになっていた私たちの関係は、無事に清算されたのかななんて、私は思った。 すみません
>>107は>>109に修正でお願いします >>108
じゃあ、土曜日あたりにでも書いてみますね。
今回は1作品だけ応募って事に決めてるんで、投稿しても
お師匠様にはスルーをお願いする予定です。
後、期待なさらず。俺の得意ジャンルはスタイリッシュなバイオレンスなのです。
エロではないのです。 第四十三回ワイスレ杯参加作品
>>69
>>73
>>76
>>85
>>109
只今、十七作品!(`・ω・´) ここでワイの独り言!
お題の拡大解釈は認めている!
お題を完全に無視すると参加作品として認められない!
お題を忠実に守ると加点が満点となる!
話の内容が凡庸であっても加点の力で上位に選ばれることがある!
ギリギリで参加を認められた作品にはほとんど加点がない!
ただし内容が良ければ上位に食い込むことがある!
どちらを選択するにしても作者の腕と発想が問われることに違いはない!(`・ω・´) さて、寝るか! つまり、お題に忠実で、非凡な作品を創れということですね。 それは、一見して品の良さそうな老夫婦だった。
カランカランというベルの音にウェイトレスが振り向いた時、男性は小振りのステッキを片手に、ドアを抑えて夫人が店に入るのを助けていた。
だが彼の方も一杯いっぱいらしく、足元がフラついておぼつかない様子だ。それを見たウェイトレスが、入り口の所へ駆け寄って行く。
「いらっしゃいませ。どうぞ、私が抑えていますからお入りください」
「ありがとう、お嬢さん」 老紳士は帽子を取ってウェイトレスに礼を言うと、ステッキを突きながら中に入ってきた。
二人は穏やかな表情で、空いている席に向かい合って腰を下ろす。ウェイトレスは、そのテーブルの上に水とおしぼりを置いた。
「ありがとう、さっきは済まなかったね」
「いいえ。ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」 ウェイトレスはそう言って、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、僕はアメリカンコーヒーを。おまえは?」
「私はお紅茶を頂くわ」
「かしこまりました。では少々お待ちを」
ウェイトレスは深々とお辞儀をすると、オーダーを伝えるためにカウンターへ戻った。
なんだか、お似合いの夫婦だな。ウェイトレスは伝票を置きながら、微笑ましい気持ちになった。
「感じのいいお店ね」
「ああ。それにしても、今日は疲れたね」
「いっぱい歩きましたものね」
老夫婦はそう言いながらコップに手を伸ばした。
だがその手付きはぎこちなく、一直線に口元に持っていくのは難しいようだった。二人とも何とかコップに口を付けようと頑張っているが、その唇はプルプルと慄いている。
ウェイトレスがその様子をハラハラしながら見守っていると、二人は意を決したように同時に両手でコップを鷲掴みし、中の水を一気に飲み干した。
「ふう」
だが、コップの水は半分以上毀れて、二人の服を濡らしていた。 ウェイトレスは慌てておしぼりを手に飛び出した。
「大丈夫ですか?」 彼女が老紳士の服を拭く。
「ああ、これは済まないね。本当に優しいお嬢さんだ」
「いいえ、これくらい何でもありませんよ」 ウェイトレスは続いて婦人の服におしぼりを当てながら、微笑んだ。
「ああ、あの子が生きていたらお嬢さんと同じくらいの歳だったなあ」
「えっ?」
突然の言葉に、ウェイトレスが戸惑う。
「あなた!」
婦人が顔色を変えた。
「そういえば、顔つきもあの子にそっくりだ」
「あなた、およしなさい」
だが老紳士は婦人の言葉に耳を貸さず、懐から一枚の写真を取り出した。
「ほら、ごらんなさい。これが元気だった頃のあの子だよ」
ウェイトレスは、夫人の顔を窺いながらおずおずとその写真を覗き、そしてそれを目にした瞬間に言葉を失った。
「え……」
老紳士が取り出したのは、犬の写真だったのだ。
「なーんちゃって」 老紳士が、表情も変えずにウェイトレスに言い放った。
なーんちゃって? その一言にウェイトレスは心底訳が分からなくなり、瞬間的に脳の活動を停止してしまった。
「あなたっ!」 婦人が声を荒げる。
「ごめんなさいお嬢さん、この人はいつもこうなの。相手も場所も弁えずに、こんな悪戯ばかりしているのよ」
「えっと……、はあ?」 まだ事態がよく呑み込めない。
「またそんなことをして。あなた、覚悟はよろしいのですね」
「え? ……いや、その」 婦人の怒りに満ちた言葉に、老紳士がバツ悪そうに頭を掻く。
「私、言いましたわよね。今度こんなことをしたら離婚しますって」
「えっっ!」
ウェイトレスが声を上げた。まさかそんな!
「おお、奥様。それはいくらなんでも」 オロオロと、声を震わせながらなんとか場を取り繕うとするウェイトレス。「すまなかった、このお嬢さんがあまりにも可愛らしかったのでつい。許してくれ」
老紳士も、テーブルに手を付いて頭を下げる。
「そう言ってまた何度でも同じことを繰り返すのでしょう。そのつまらないイタズラで、お嬢さんがどれほど心を痛めたかあなたには分からないのですか? もう我慢なりません、離婚です」
「そんな……」
ウェイトレスは狼狽え、婦人に涙声で訴えた。
「おお、奥様! お願いします、ご容赦下さい。どうか私に免じて!」
「お嬢さん」
婦人はウェイトレスの顔を真っ直ぐに見据え、静かな声で、だがはっきりと言い放った。
「なーんちゃって」 それは、一見して品の良さそうな老夫婦だった。
カランカランというベルの音にウェイトレスが振り向いた時、男性は小振りのステッキを片手に、ドアを抑えて夫人が店に入るのを助けていた。
だが彼の方も一杯いっぱいらしく、足元がフラついておぼつかない様子だ。それを見たウェイトレスが、入り口の所へ駆け寄って行く。
「いらっしゃいませ。どうぞ、私が抑えていますからお入りください」
「ありがとう、お嬢さん」 老紳士は帽子を取ってウェイトレスに礼を言うと、ステッキを突きながら中に入ってきた。
二人は穏やかな表情で、空いている席に向かい合って腰を下ろす。ウェイトレスは、そのテーブルの上に水とおしぼりを置いた。
「ありがとう、さっきは済まなかったね」
「いいえ。ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」 ウェイトレスはそう言って、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、僕はアメリカンコーヒーを。おまえは?」
「私はお紅茶を頂くわ」
「かしこまりました。では少々お待ちを」
ウェイトレスは深々とお辞儀をすると、オーダーを伝えるためにカウンターへ戻った。
なんだか、お似合いの夫婦だな。ウェイトレスは伝票を置きながら、微笑ましい気持ちになった。
「感じのいいお店ね」
「ああ。それにしても、今日は疲れたね」
「いっぱい歩きましたものね」
老夫婦はそう言いながらコップに手を伸ばした。
だがその手付きはぎこちなく、一直線に口元に持っていくのは難しいようだった。二人とも何とかコップに口を付けようと頑張っているが、その唇はプルプルと慄いている。
ウェイトレスがその様子をハラハラしながら見守っていると、二人は意を決したように同時に両手でコップを鷲掴みし、中の水を一気に飲み干した。
「ふう」
だが、コップの水は半分以上毀れて、二人の服を濡らしていた。 ウェイトレスは慌てておしぼりを手に飛び出した。
「大丈夫ですか?」 彼女が老紳士の服を拭く。
「ああ、これは済まないね。本当に優しいお嬢さんだ」
「いいえ、これくらい何でもありませんよ」 ウェイトレスは続いて婦人の服におしぼりを当てながら、微笑んだ。
「ああ、あの子が生きていたらお嬢さんと同じくらいの歳だったなあ」
「えっ?」
突然の言葉に、ウェイトレスが戸惑う。
「あなた!」
婦人が顔色を変えた。
「そういえば、顔つきもあの子にそっくりだ」
「あなた、およしなさい」
だが老紳士は婦人の言葉に耳を貸さず、懐から一枚の写真を取り出した。
「ほら、ごらんなさい。これが元気だった頃のあの子だよ」
ウェイトレスは、夫人の顔を窺いながらおずおずとその写真を覗き、そしてそれを目にした瞬間に言葉を失った。
「え……」
老紳士が取り出したのは、犬の写真だったのだ。
「なーんちゃって」 老紳士が、表情も変えずにウェイトレスに言い放った。
なーんちゃって? その一言にウェイトレスは心底訳が分からなくなり、瞬間的に脳の活動を停止してしまった。
「あなたっ!」 婦人が声を荒げる。
「ごめんなさいお嬢さん、この人はいつもこうなの。相手も場所も弁えずに、こんな悪戯ばかりしているのよ」
「えっと……、はあ?」 まだ事態がよく呑み込めない。
「またそんなことをして。あなた、覚悟はよろしいのですね」
「え? ……いや、その」 婦人の怒りに満ちた言葉に、老紳士がバツ悪そうに頭を掻く。
「私、言いましたわよね。今度こんなことをしたら離婚しますって」
「えっっ!」
ウェイトレスが声を上げた。まさかそんな!
「おお、奥様。それはいくらなんでも」 オロオロと、声を震わせながらなんとか場を取り繕うとするウェイトレス。
「すまなかった、このお嬢さんがあまりにも可愛らしかったのでつい。許してくれ」 老紳士も、テーブルに手を付いて頭を下げる。
「そう言ってまた何度でも同じことを繰り返すのでしょう。そのつまらないイタズラで、お嬢さんがどれほど心を痛めたかあなたには分からないのですか? もう我慢なりません、離婚です」
「そんな……」
ウェイトレスは狼狽え、婦人に涙声で訴えた。
「おお、奥様! お願いします、ご容赦下さい。どうか私に免じて!」
「お嬢さん」
婦人はウェイトレスの顔を真っ直ぐに見据え、静かな声で、だがはっきりと言い放った。
「なーんちゃって」 第四十三回ワイスレ杯参加作品
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只今、十八作品!(`・ω・´) >>111
楽しみです
せっかく投稿するのにワイさんの評価を貰わないのはもったいないと思いますが、
こだわりがあるんですね それは塩の嵐が酷い日だった。女は疲労の限界を迎え男は絶望していた時だった。谷間に佇むこの店を見つけた事は幸運以外のなにものでもなかった。GPS衛星の大半が宇宙のゴミとなり、測位精度はあてにならかったからだ。
玄関を開けると鳴り響いたカウベルの音に驚いて首をすくめた二人は、音の理由に気付いてすぐに警戒を解いた。キョロキョロとしながら、天井の高い木造の店内を見回すと、人はいないが店内は清潔に保たれ、人の気配が感じられた。二人は窓際の席に
向かい合って座り、ベルを叩いた。ヒュウヒュウと音をたてて窓を叩く風の音以外何も聞こえない静けさに少し不安の色が出た時だった。奥からコツコツと音がして出てきた長い黒髪のウェイトレスに二人は安堵した。顔を見合わせる二人の口元が自然と緩む。
席まで来たウェイトレスに何があるのか聞こうとした瞬間、不意に出された水の入ったコップに。一瞬絶句して唇を振るわせた二人だが、コップを掴むが早いか一気に飲み干した。喉が渇いていた。しかしその水について、女が質問しようとしたが
男が女の手を握って制した。「いらっしゃいませ、ご注文は」男は注文書きにチラリと目をやってからウェイトレスを見上げた。「オススメはナニデスカ」ウェイトレスは少し視線を斜め上にやると「カレーか、トンカツ定食ですね」
男はゴクリと唾を飲んで言った。「トンカツテイショクフタツ」「かしこまりました」そう言ってウェイトレスが去るのを見送ると、二人はガバっと手を固く握り合いながら顔を寄せた。「間違いない、ここはジパングだ」
「ええ、レストランに入ればとりあえず水が出る、伝説はは本当だったわ、私達ついにやったのね、これで銃の無い平穏な生活が手に入る!」「ああ、だがジパングのヤマト人は無類のエイリアン嫌いだ、異邦人だと知れればガイジンだと罵られて
追い出されるかもしれん、お前は喋るな」「わかったわ、もう少しの辛抱だもの、内地に紛れ込みさえすれば」二人が沸き立つ気持ちを抑えつつ、これからの事等をひそひそ話しをしているとウェイトレスが戻ってきた。
再び姿勢を正し、すまし顔で料理が置かれるのを目で追う。ウェイトレスが去り、二人は目の前にある未知の料理に目を見開き、かねてより練習を重ねていた箸を取った。
ジパングの料理を満喫した二人がコーヒーを飲みながらくつろいでいた。外の嵐も治まり、わずかに青空が覗く。数ヶ月ぶりのまどろみを感じて二人は眠気をもよおしていた。しかしそれはすぐに違和感に変わった。眠い目をこすろうとしても手が動かない。
口から垂れたよだれを拭く事もできない。その時ウェイトレスの声が聞こえた。「ごめんなさいね」男は目だけで見ると、その先でアサルトライフルを構えたウェイトレスがいる。「私はジパング海軍、雨宮二等海曹、お前達を防衛識別圏侵害……」
衝撃の展開にその先の話は二人にはよく聞こえなかったが、ドタドタと音がしてエプロン姿の雨宮の左右に兵士4人が展開した。女は思う。ああ、私達の旅はは失敗したのね……。ぼんやりと考えながら女は天井の梁が大きくて、湾曲していることに
感心していた。雨宮が語調を弱めて静かに言った。「こんな事したくない、でもわが国は数千年間平和だったのよ、それをあなたたち入り乱れるガイジンが奪った、挙句の果てに陸続きになった事で人は外を出歩くにも警戒が必要になった」
雨宮はアサルトライフルを隣の兵士に渡すと、力なく天井を見上げる男の懐に手を突っ込んで銃を抜いた。「ほらね、やっぱり持っていた」「ボクタチアナタにキガイクワエナイ」雨宮は鼻で笑った。「それを確かめる術は無いわ」男は言った
「コノタビニハヒツヨウダッタ」雨宮は銃を目の前で激しく振り声を濡らして叫ぶ。「しらねーよ! この国を殺意で汚すんじゃねぇ!」安全装置が落とされスライドを引く音が響く。再び風が強くなって窓を押している。女はひたすら梁を見つめていた。
ヤマト人の家の梁が歪んでいるなんて思っても見なかった。でも美しい。そう考えていた。男がままならない口調で訴える。「オンナノコダケタスケテ」「むしのいい事を言うんじゃない! やられる前にやれ、それはあんたらが持ち込んだ作法なんだよ!」
男は沈黙した。うつろな目の女と悲壮な目の雨宮が同時に大粒の涙を流した。その刹那、数発の乾いた銃声が響いた。血が飛び散りガラスが割れて一気に風と塩が吹き込んだ。雨宮の長い髪がなびく。しばしの静寂の後、また防衛識別圏に接近する者がいる
アラートが響く。女は目を動かして雨宮を見た。雨宮は静かに言った。「ここを片付けて女を奥に連れていけ」
雨宮と女がまた同時に涙をぽろりとこぼした。雨宮はスカートをたくしあげ、腿のナイフを抜いて、柱に3つ目のキズをつけた。 第四十三回ワイスレ杯参加作品
>>69
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>>121
只今、十九作品!(`・ω・´) 俺は今日のためにとっておきの一張羅を身に纏ってきた。最高に粋な白いスーツにド派手な赤いシャツ。ネクタイは締めない。第一、第二ボタンと大胆に開ける。中々様になっていると、自画自賛したくなる装いだ。
翻ってどうだ? 俺の横を歩く女は。今日という特別な日に常と変わらぬ服装をしている。お前は役人か何かかと問い質したくなるような、一部の隙もないお堅いスーツ姿だ。遊び心の欠片もない。この女の名をビアンカという。腐れ縁だ。もう見飽きた顔だ。
隣り合って歩く俺らは、傍目にはどのように映るのか? 凸凹カップル? いや流石にカップルには見えないか? どうだろう。まだ二十になる前に一度、何かの間違いで付き合ったことがあるから、もしかしたらカップルだと思う者もいるかもしれない。
俺たちは無言のまま、裏路地にひっそりと構えるカフェの前で足を止める。古めかしい玄関扉には既に閉店したことを表す看板が出ていたが、戸惑うことなく押し開ける。
カフェの中にいた男たちの視線が一斉に俺たちに注がれる。どう見ても堅気じゃねえ面をした奴ら。どいつもこいつも悲壮な顔をしてやがる。これから行われる儀式のせいだろう。
ふん。内心鼻を鳴らすと、俺は連中と違い穏やかな表情を浮かべて見せた。情けないとこは見せたくない。これが最後かもしれないなら尚のこと。ちらりとビアンカの顔を見る。流石だ。こちらも穏やかに微笑んでやがる。
俺とビアンカは向かい合って中央のテーブル席に腰掛ける。ほどなくウェイトレスが現れた。
「アドリアーノさん、ビアンカさん。何かお持ちする飲み物にご要望は? 出来る限りご要望に応えさせてもらいます」
その声音には悲壮さと、確かな敬意が込められていた。
「ご要望と言ってもなあ……。儀式の都合上、同じものを頼まなくちゃならんだろ。おい、ビアンカ、何か希望はあるか?」
「別に……。水でも何でもいいわ」
「だとよ。水で頼むわ」
「はい……」
ウェイトレスは一旦離れると、ほどなくして水の入ったコップを二つ運んできた。トン、トンと、二つを丸テーブルの中央に並べて置く。俺はそれを睨み付けた。……このどちらかに毒が入っているのか。
先日、俺たちの組織はとんでもない失態を演じてしまった。失態を演じるといえば、往々にして下っ端の人間がやらかすことが多かったが。今回は違った。今回は上の、そうトップの……。
だが、イタリア最後のドンと呼ばれるエンリコの名に泥を塗るわけにはいかない。エンリコに責任を求めるわけにはいかないのだ。ならば、誰かが代わりに責任を負わなくてはならない。
事が事だ。下っ端の一構成員が取れるような責任じゃねえ。ならば幹部だ。しかし、古参の大幹部というわけにもいかない。だから白羽の矢が立ったのは、最近幹部と呼ばれる立場になった俺とビアンカだった。
儀式のルールは簡単だ。二つの内どちらか片方が毒杯だ。同時に飲み下し、どちらかが生き残り、どちらかが死ぬ。それだけのこと。
「勿体付けても仕方ねえ。とっとと終わらせようぜ」
そう言って片方のコップを取ろうとした。その時であった。
「待って!」
鋭い制止の声。対面のビアンカだ。
「勝手に選ばないで頂戴。私にも選ぶ権利があるでしょう。私もそのコップを選びたかったの」
……ビアンカは女だてらにマフィアの幹部になった程だ。肝は据わっている。そこらの女みたいに未練がましいことを言ったりしない。そんな女がこんなことを言ってくるということは……。
「……いいぜ、譲ってやる」
俺はコップをビアンカに差し出した。……昔からビアンカは目端の利く女だった。恐らく、ウェイトレスの仕草か何か、俺の気付けなかった兆候を掴み、どちらが毒杯かを看破したのだ。
その成果を横取りする真似はいただけねえ。それにクレバーなビアンカが生き残った方が、度量以外に見るべきとこのない俺が生き残るより、よっぽど組織のためになるってもんだ。
俺たちは同時にコップを鷲掴む。これで死ぬ。そう思えば、流石に恐れから唇を震わしてしまった。情けねえ、だが唇だけだ。大目に見てくれ。ビアンカの顔を見る。奴も唇を震わしていた。はっ、俺の死に、そんな顔を見せてくれるのか。悪くねえ。
ビアンカと同時に一息にコップの中身を飲み干した。俺は背もたれに身を預け両目を閉じる。悪くない。悪くない人生だった。…………おかしい、いつまでも終わりがやってこない。
俺は両目を開ける。信じられない光景を俺の瞳は映した。ビアンカが、ビアンカが、テーブルに突っ伏している。ぴくりとも動かない。
「ビアンカ、何故……」
その女幹部の覚悟と献身に、カフェにいる男たちは皆静かに涙を流したのだった。 俺は今日のためにとっておきの一張羅を身に纏ってきた。最高に粋な白いスーツにド派手な赤いシャツ。ネクタイは締めない。第一、第二ボタンと大胆に開ける。中々様になっていると、自画自賛したくなる装いだ。
翻ってどうだ? 俺の横を歩く女は。今日という特別な日に常と変わらぬ服装をしている。お前は役人か何かかと問い質したくなるような、一部の隙もないお堅いスーツ姿だ。遊び心の欠片もない。この女の名をビアンカという。腐れ縁だ。もう見飽きた顔だ。
隣り合って歩く俺らは、傍目にはどのように映るのか? 凸凹カップル? いや流石にカップルには見えないか? どうだろう。まだ二十になる前に一度、何かの間違いで付き合ったことがあるから、もしかしたらカップルだと思う者もいるかもしれない。
俺たちは無言のまま、裏路地にひっそりと構えるカフェの前で足を止める。古めかしい玄関扉には既に閉店したことを表す看板が出ていたが、戸惑うことなく押し開ける。
カフェの中にいた男たちの視線が一斉に俺たちに注がれる。どう見ても堅気じゃねえ面をした奴ら。どいつもこいつも悲壮な顔をしてやがる。これから行われる儀式のせいだろう。
ふん。内心鼻を鳴らすと、俺は連中と違い穏やかな表情を浮かべて見せた。情けないとこは見せたくない。これが最後かもしれないなら尚のこと。ちらりとビアンカの顔を見る。流石だ。こちらも穏やかに微笑んでやがる。
俺とビアンカは向かい合って中央のテーブル席に腰掛ける。ほどなくウェイトレスが現れた。
「アドリアーノさん、ビアンカさん。何かお持ちする飲み物にご要望は? 出来る限りご要望に応えさせてもらいます」
その声音には悲壮さと、確かな敬意が込められていた。
「ご要望と言ってもなあ……。儀式の都合上、同じものを頼まなくちゃならんだろ。おい、ビアンカ、何か希望はあるか?」
「別に……。水でも何でもいいわ」
「だとよ。水で頼むわ」
「はい……」
ウェイトレスは一旦離れると、ほどなくして水の入ったコップを二つ運んできた。トン、トンと、二つを丸テーブルの中央に並べて置く。俺はそれを睨み付けた。……このどちらかに毒が入っているのか。
先日、俺たちの組織はとんでもない失態を演じてしまった。失態を演じるといえば、往々にして下っ端の人間がやらかすことが多かったが。今回は違った。今回は上の、そうトップの……。
だが、イタリア最後のドンと呼ばれるエンリコの名に泥を塗るわけにはいかない。エンリコに責任を求めるわけにはいかないのだ。ならば、誰かが代わりに責任を負わなくてはならない。
事が事だ。下っ端の一構成員が取れるような責任じゃねえ。ならば幹部だ。しかし、古参の大幹部というわけにもいかない。だから白羽の矢が立ったのは、最近幹部と呼ばれる立場になった俺とビアンカだった。
儀式のルールは簡単だ。二つの内どちらか片方が毒杯だ。同時に飲み下し、どちらかが生き残り、どちらかが死ぬ。それだけのこと。
「勿体付けても仕方ねえ。とっとと終わらせようぜ」
そう言って片方のコップを取ろうとした。その時であった。
「待って!」
鋭い制止の声。対面のビアンカだ。
「勝手に選ばないで頂戴。私にも選ぶ権利があるでしょう。私もそのコップを選びたかったの」
……ビアンカは女だてらにマフィアの幹部になった程だ。肝は据わっている。そこらの女みたいに未練がましいことを言ったりしない。そんな女がこんなことを言ってくるということは……。
「……いいぜ、譲ってやる」
俺はコップをビアンカに差し出した。……昔からビアンカは目端の利く女だった。恐らく、ウェイトレスの仕草か何か、俺の気付けなかった兆候を掴み、どちらが毒杯かを看破したのだ。
その成果を横取りする真似はいただけねえ。それにクレバーなビアンカが生き残った方が、度量以外に見るべきとこのない俺が生き残るより、よっぽど組織のためになるってもんだ。
俺たちは同時にコップを鷲掴む。これで死ぬ。そう思えば、流石に恐れから唇を震わしてしまった。情けねえ、だが唇だけだ。大目に見てくれ。ビアンカの顔を見る。奴も唇を震わしていた。はっ、俺の死に、そんな顔を見せてくれるのか。悪くねえ。
ビアンカと同時に一息にコップの中身を飲み干した。俺は背もたれに身を預け両目を閉じる。悪くない。悪くない人生だった。…………おかしい、いつまでも終わりがやってこない。
俺は両目を開ける。信じられない光景を俺の瞳は映した。ビアンカが、ビアンカが、テーブルに突っ伏している。ぴくりとも動かない。
「ビアンカ、何故……」
その女幹部の覚悟と献身に、カフェにいる男たちは皆静かに涙を流したのだった。 第四十三回ワイスレ杯を入れ忘れました。
貼り直した方でお願いします。 第四十三回ワイスレ杯参加作品
>>122
>>124
只今、二十作品!(`・ω・´) >>130
そんなことをしたら、このスレには僕と君とワイさんの三人しかいないことがわかってしまうじゃないか >数より質!
そうはいってもカズオ・イシグロだって『日の名残り』しか書いてなかったら
ノーベル賞は獲れなかっただろうしw つまりワイスレ杯に書き込んでるのは実質二人なわけか
君ら、ずいぶんと引出多いな カラン、と音がしてドアが開いた。一瞬光が斜めに店の床を分断した。外気が差し込む。夏特有の乾いた空気が流入し、店内の温度が上昇した。
男女が一組入ってきて、女性が所在なさげに暗闇の店内を見渡した。四隅には蝋燭。中央には粗末なテーブル。
僕と視線が視線が合う。
「いらっしゃいませ。シン・アル・フー様、リン・アル・フー様ご夫妻でいらっしゃいますね」
僕は小皿を胸元の前で持ちながら、足早に彼らの前に歩き、恭しく一礼をした。
小皿の上には蝋燭があり、その頂きで小さな橙が揺らめいている。
男性、シン・フーはこの蝋燭に興味を示している。僕を見ずに、蝋燭に注視している。
「蜜蝋ではないのですね」
「違いますね」
僕が、にっ、と笑って答えると、彼は黙った。
余程この蝋燭に興味があるらしい。または、興味を示したら向こうが勝手に説明をする、そんな待遇に慣れているから、訊くという行為に不慣れなのか、おそらくは後者だろう。
そして、僕はそういう人種ではない。
「こちらへ」と言って踵を返す。
シン・フーに媚びを売る必要は無いし、媚びに拘る人間は必要ない。
夫婦は僕に誘導されて、店の中央席に席に向き合う形で腰を下ろした。
2人とも穏やかな表情だ。僕の挑発にも乗ってこない。これは見込みがある。僕は自然とほぞを噛んだ。
奥に控えていたウエイトレスに合図をする。
彼女は緊張した足取りで、水の入ったコップを運んだ。僕はひやひやする。ここで転ばれたら大惨事だ。
直後にシン・フーと、リン・フー様の様子に微細な変化が表れる。コップに食い入るように目が釘付けだ。唇が戦慄く。
テーブル中央の蝋燭の灯りに照らされて、コップのガラス、ガラスに満ちる水、その表面付近には、粒の小さな氷が浮いている。僕は笑いをこらえるように、
「どうぞ。毒は入れておりません。お飲みください」と言う。
2人は決意したらしい。ほぼ同時にテーブルに置かれたコップを鷲掴みにして一気に飲み干した。
そして喉と胸元を抑える。それはそうだ。氷まで飲んでしまうなんて。僕は笑いをこらえるのに苦心する。
彼らは揃って僕を見上げた。呆然としている。人は信じられない現象に直面すると、こういう顔をするのだ。
この世界に転生した時の僕も、こういう顔をしていたな。シン・フーが口を開いた。
「信じられません。あなた達は、氷魔法を開発したのですか?」「いいえ」
僕はゆっくりと首を横に振る。彼は視線をコップに戻す。
「この器の加工技術も、常軌を逸している。金剛石よりも透明で、しかも軽く、固い」
「『ガラス』というのです。ちなみに夏に氷を作る技術は、気化冷却と言います。魔法ではありません。僕がいた世界の技術です」
シン・フーの瞼だ大きく見開かれ、瞳の存在が増した。
「やはり、貴方が『狂皇子カ・ラス』なのですね」
「はい。異世界から転生してきたと狂った事をのたまい過ぎて、選帝候補から外された、帝国第2皇子で現在はこのちっぽけな領地で腐っているカ・ラスです」
「自虐がお過ぎです。皇子。この技術を見れば、貴方の言葉が真実であることは瞭然です」僕は頷いた。
「はい。僕もそう思います。腐るにはこの世界は幼過ぎる。だから変えようと思うのです。僕には知識はあります。ただ資金がない。
だからとりあえずこの器を売りたいのですが、販路もありません。大陸中の王侯が飛びつくことは間違いないんですがね」
「……器で成した資金で、反乱を起こされるのですか?」
「改新です。少なくない血も流れるでしょうが、中々楽しい世の中にはなるでしょう」
「わたし達の安全は保障されますか?」コップに映る僕の虹彩に軽蔑が宿った。が、とりあえず、口の端を上げる。
「いいえ。ですが保障は出来ます。途方もない栄華、あるいは速やかな破滅。このどちらかが必ず貴方を訪れるでしょう」
シン・フーは首を横に振ろうとした。その腕を、リン・フーが掴んだ。必死に夫を見つめる。夫はため息をつき、僕を見上げた。
「良いでしょう。フー商会はカ・ラス皇子に協力いたします。ただし、この器の利益分配は5対5を希望したい」
「駄目です。僕が7で貴方が3」「無理です。リスクを取る意味が薄れます」「6対4。これを貴方が拒否したら、僕は貴方を滅ぼすでしょう」「……承服いたしました」
シン・フーが立ち上がり身を屈めたので、僕は口の端を上げた。よし、これでやっと戦争ができる。異世界生活第2章、楽しい戦争篇の始まりだ。
僕は口笛を吹きたくなったが、皇子の威厳に関わるので、我慢をした。 追記。
プラトンの「パルメニデス」を読み終わった。最初は読み終えたら部分的に書きかえようとしていたが、
読み終わったところ、とても部分的な修正では間に合わないので、追記の形をとることにした。
超スピードとか瞬間移動とかじゃない、もっと恐ろしいものの片燐を味わったぜ。
「美のイデア」とか「善のイデア」とか書いてあるのは「パルメニデス」であって、
「饗宴」や「国家」ではない。「洞窟の比喩」とかこれに書かれていることに比べればどうでもいい。
これはイデアを知るには必読である。カントも、田辺元も、ドゥルーズの「差異と反復」もこれを参考に書かれているのである。
これは、プラトンがパルメニデスの教えを暗記している人に伝え聞いたものを書き写したものである。
パルメニデスは天才だ。カントですら、パルメニデスの物まねにすぎない。
イデアという考えはパルメニデスによって考えだされたものだ。
西洋哲学はプラトンの注釈にすぎないのは本当だった。カントですら、プラトンへの注釈だった。
それは「パルメニデス」を読まなければわからないだろう。天才だ。これは天才の書だ。
何をいっているかというと、極めて難解だが、こんな感じである。
部分は全体ではありえず、全体は部分でありえない。多は一ではありえず、一は多ではありえない。
我々の現実は多様であり、つまり多である。
ということは、多である我々の現実は一ではありえず、この世界は一である。
よって、多である我々の現実はこの世界には存在しない。
ぜひ日本の出版界にはプラトンの「パルメニデス」を文庫で安価に手に入れられるようにしてほしい。 客が中々来ない喫茶店に勤める知人から、先週電話があった。戦闘で負傷したので代理で店番をして欲しいというのだ。
私はふざけるなと言いたかった。知人の組織は私を勧誘したがる。しかし私はフリーでいたいし、それが、亡き友への弔いであるのだ。
組織の絡めてかもと思い、電話を切りたかったが、ふと思う。彼女の店の珈琲は泥水と墨汁をミックスしたような味がするが、アップルパイは美味しい。
つまり、店番ついでにアップルパイの食べ放題、という条件なら、受けるのもやぶさかではない。
この事を伝えると快い了承を受けた。ちょっと上機嫌になった私は、思わず訊いてしまった。
「また面倒な客がくるから、とかじゃないの?」
そんなことあるわけないじゃない、という答えを期待していたのだが、微妙なトーンの声が帰ってきた。
「あ、うん。そうなんだけどね。うちの組織の占い師いるでしょ」
「ああ、マツコテラワロスみたいな顔したう人ね」
「ちょっと気になる事いうのね」「ふむ」
「聴きたい?」「一応」
「えっとね、今月人類が分岐点迎えるんだって。世田谷区で」「はあ」
「滅ぶか進化するかこのままか分からないけれど、とにかく歴史的な特異点的事象が世田谷区で発生するみたいなの」「へえ」
「店番お願いする喫茶店って、世田谷区じゃない? だから、もしかしたら、分岐、うちの喫茶店で起こるんじゃないかって怖いの」「ほお」
今一良く分からない説明だったが、人類史的な事象が起こるのは分かった。マツコテラワロスは、あんな名前でも中々的を得た占いをする。念の為、準備しておこう。
そんな訳で、私は店番に赴き、黒のワンピにフリルの付いた白エプロン、白フリルのエプロンドレスにカチューシャという、
メイド服に身を包みつつ、蛍石を磨いて作った小皿にのせたアップルパイを頬張りながら、ガラガラの喫茶店で番をしていると、カラン、と音がして扉が開いた。
小さなカップルが顔を覗かせた。年齢は10歳前後か。外国人。男の子はホイップクリームを角立てたような金のくせっ毛。
女の子は名作児童文学的な、赤毛のおさげ。顔は揃ってキュウピイに酷似している。
にこやかな微笑も、キュウピイにそっくりだ。
私は口角を上げ、「いらっしゃいませ」と言って、お2人を窓側の空いている席にご案内した。
どちらも穏やかな表情で、席に向き合う形で腰を下ろす。
彼らは小さなテーブル越しに見つめ合い、沈黙しているように見える。が、私には分かる。
子供たちは超音波で会話しているのだ。
なんせ私は耳がいいので、可聴域を超えた音声を拾う事ができる。
女の子は、『久しぶりだね』と微動だにせず言い、男の子は『500周期か。確かに久しぶりだが、速いね』とやはり彫刻然として答える。
わたしは彼らの宇宙言語に聞き耳を立てながら、水の入ったコップを運んだ。
直後に2人の様子に微細な変化が表れる。動かなかった唇が戦慄く。
ほぼ同時にテーブルに置かれたコップを鷲掴みにして一気に飲み干した。
男の子の方が、信じられない、という顔をする。
『これは、……凄いね。純度70%以上の水だ』
女の子はにっこりした。
『でしょう。宇宙には出てみるものよ。私たちケイ素生物にとってのスーパー快楽物質、水がこの惑星には溢れているの』
『救難信号を受信できて良かった。で、どうするんだい?
こんなに素晴らしい星だ。炭素生命体ばかりだし、70億もいるから、面倒だけど除去自体は単純作業だろう。何なら手伝うよ』『あ、嬉し……』
私はガスマスクをつけて、コンロにくべたフライパンに蛍石と硫酸を入れて、火をかけた。
フッ化水素の発生。ケイ素はフッ化水素で『溶ける』のだ。
2人の子供は同時に大きく口を開いた。超音波の絶叫。
コップ、窓、アップルパイを収めたケース、あらゆる物が粉々に砕け散る。
それはまだいい。防いだ。
2人が巨大ウニに化けた。つまり瞬時に黒く溶解し、栗のようになって、空間に無数の棘を発射したのだ。私はガスマスクの奥で雄たけびをあげた。
「るあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
コンマ一秒以下で5m伸びる棘よりも速く拳を振るう。
木人相手の修行を思い出した。防護レンズ前に伸びてくる無数の棘を、高速で叩き折りまくる。
1秒後巨大ウニは沈黙した。先月遭遇した宇宙人からケイ素生物が怪しい動きをしているの情報を仕入れておいて良かった。
店はめちゃくちゃになったが人類の危機はさった。ので、この物凄い店内と、ケイ素ウニの残骸、これを知人に見せても、怒られないだろう。……多分。 >>135
>>137
凡庸&低質であることを開き直ればいくつでも書けますが、
枯れ木だけで山を埋めても無意味な気がしますし、
何より今回は1作品だけエントリーって決めているので、参加作品ではありません。
お師匠さまはスルー願います。 おそらく、プラトンの「パルメニデス」が霊魂、天国、神の国の存在証明である。 ジャンルによるとしか……
基本的には三人称の方が書きやすい!なんて考えてる人が多いと思う
その三人称はなんちゃって三人称だと果たして気がついているかが疑問だが 俺は圧倒的に一人称が書きやすい
ただ、主人公の関知しない事象が起きている事を表現するのに少し工夫がいる ずっと一人称で書いてきたから、一人称の方が得意、簡単
というか、三人称が書けない 最近、一人称で書いているせいか、三人称が書きにくかったりする……。 最近、twitterでやり取りしている、歴史作家さんによれば、歴史を書くなら三人称が常道だと言ってた。 三人称は視点の設定が難しいので、書くときはいつも血反吐なのでできるだけ避けています。
が、1人語りが難しい状況(主人公が幼児、獣、昆虫、ロボット、女子高校生)で物語を
構築するのなら、三人称は便利だと思います。 幼児はともかく、女子高生は普通に書けない?
ギャルならともかく、聡明な女の子設定なら大人じみた思考してもおかしくない年齢だし 思春期の主人公は独自の世界観を持ってる設定がしやすいから
一人称の腕の見せ所 文語口調の女子高生1人語りならいけるけれど、
語彙の代わりにラインスタンプが言語中枢にインプットされて思考がバグっているような
女子高生の一人称は厳しいです。
あと、脳筋とか、キャラに合わせた認識にあわせて、情景描写をするのがとても難しいですね。
でもキャラクターとしては動かしやすいので一長一短です。 これがひとつなぎの大秘宝だ。
全員、覚醒して世界を覆いつくした能力者。
ワノ国で漫画を描いている尾田のカキカキの実。
→ただのチョイ役。
ラフテルにいるジョイボーイのトキトキの実。
→仲間になって世界政府と戦争。
天竜人の総大将ハムレット聖のイデイデの実。(イデア)
→触れればなんてことない。
マリ―ジョアにある天竜人の秘宝テキテキの実。(その星すべての悪意)
→次のルフィの覚醒で倒す。
覚醒して世界を覆いつくしたルフィのゴムゴムの実。(消しゴム)
→すべての存在を消したルフィが気絶して世界復活。
ずっと能力者を嫌っていた八百年前の男のウミウミの実。
→悪意がなくなったので戦う。
夢を見ていたロジャーのユメユメの実。
→夢落ちで終わり。
最終章で四皇より強いやつが七人でるからよ。 食事を終えた僕らは窓に広がる夜景を見ていた。評判通りの絶景にクリスマスの電飾も加わり
夜空の星々を町いっぱいに敷き詰めた様に輝いている。さながら夢の世界だ。
しかし僕の心中は穏やかでない。原因は右手に忍ばせた婚約指輪だ。僕は彼女にコレを渡すために綿密な計画を立てて
この日を迎えた。その甲斐あって紳士的に彼女をこのレストランにエスコートすることに成功し、めくるめく時間を堪能できた。
後は食後の水を飲んだ後で眼前の彼女に指輪を差し出し「結婚して下さい」と言うだけである。僕ははやる気持ちを抑えて
その時を待った。
ついにウエイトレスによりお水が運ばれた。僕はそれを鷲掴みにし緊張で震える唇にお構いなしに流し込んだ。
そして指輪を渡そうと手を動かした。
「えっ?」
しかし出鼻をくじかれた。なんと彼女も一気飲みをしていたのである。麗しの女性が高級レストランにて人目も憚る事なく
一気飲みという非現実的な光景に僕はあっけに取られて見入ってしまった。そんな僕の視線に気付いて
「ごめんなさい。慣れない場所だからかな、なんか緊張しちゃって」
と言って彼女は恥ずかしそうにした。
これまでの言動を見るにどうやら彼女もプロポーズを待っている節がある。緊張はその為でもあるに違いない。
ならば彼女の為にも頑張らねばと、僕は次なる突破口を探しだした。
「実を言うと僕もです。もう少し気楽な所が良かったかな」
「いいえ、料理も景色も最高です。でもどうして私をこのような場所へ誘ってくれたのですか?」
チャンスであった。ここで「それはコレを渡すためです」と言葉を繋いで指輪を見せれば
とてもスムーズにプロポーズ出来るでないか。彼女もそう考えてアシストをくれたに違いない。
今こそ勇気を出してプロポーズをし、輝かしい未来の一歩を踏み出すのだ。さあ、いざ!
と意気込んだものの、僕はプロポーズできなかった。万一断られた時の不安感に僕の勇気はあえなく負けた。
代わりに口をついて出たのは「一人で来る勇気が無かったから」という何気ない発言だった。しかしコレがまずかった。
「では誰でも良かったのですか?」
彼女の顔がにわかに曇った。これはいかんと僕は思い、何とか機嫌を戻そうとした。
「そんな事ありません。何分場所が場所ですから、あなたのようにきれいな女性でなくてはなりません」
「きれいな女性なら今も周りにいっぱいいるじゃないですか」
「しかしクリスマスの夜に私の為に予定を空けてくれる優しい人はあなた以外におりませんよ」
「どうしてそう言い切れるんです? まさか他の女性にも声をかけたのではないでしょうね?」
「そんなわけないですよ、私が誘ったのはあなただけです。だって他の女性ではこんなに楽しくお食事出来ませんから」
「他の女性と食事に行った事があるってことですか!?」
彼女がテーブルに手をつき声を荒げた。突然の剣幕に僕は口をつぐんだ。
何事かと周囲の視線が僕らに集まり彼女は「ごめんなさい」とつぶやき席に着いた。その後僕は何とか誤解を解く事が出来たが
既にプロポーズする雰囲気でなく指輪をズボンのポケットにしまい込んでレストランを後にした。
僕らは肩を並べて帰路についた。会話はほとんど続かない。電飾が涙のせいでいっそう輝いて見えていた。
あの時勇気を出せなかった事を思うと慚愧に堪えない。しかしいつまでも落ち込んではいられない。
指輪を渡すのはまた次の機会にするとして今日はせめて笑って送ろう。
僕はそう思ってポケットからハンカチを取り出し涙をぬぐおうとした。
カツンと何かが落ちる音がした。しまったと僕が思った時には遅かった、彼女がそれを拾い上げた。
「これは……」
最悪である。次の機会を待つまでもなく、指輪は彼女に渡ってしまった。
この時の僕の心境たるや筆舌に尽くし難い。しかしもうやぶれかぶれだと、僕は思ったのままの言葉を吐いた。
「もらっていただけますか?」
もちろん指輪の事である。彼女はポカンとしていた。きっと変なプロポーズだと思ったのだろう。僕も思った。
しかし今度は臆病風に負けぬよう気を強く持って彼女を見つめ、返事を待った。
「ふふふっ」
やおら彼女が笑い出した。そして「それは私のセリフですよ」と口にした。そうして僕は一世一代の大勝負にようやくケリをつけたのだった。
僕らは手をつないで歩きだした。街路は相も変わらず光り輝いている。
僕らの未来もこのようであればいいのだが時には再び衝突する事もあるだろう。
しかしそれでも末永く共に歩み続けることが出来たのならば、金婚式にはきっと本日のリベンジをしよう、僕はそう心に誓ったのであった。 第四十三回ワイスレ杯参加作品
>>122
>>124
>>151
只今、二十一作品!(`=ω=´) >>119
その日の朝、私と妻は久しぶりの遠出をした。出発の前に、無事を主に祈る。私たちは敬虔なる教徒だからだ。車両は南西の海沿いを走った。
正午を過ぎ、国道沿いに、喫茶店を発見。昼食のために入店した。
暗い。店員がこちらを向き、私たちは空いている席に案内された。向き合う形で腰を下ろす。
程なくして、ウェイトレスが、水の入ったコップを運んできた。
……何という事だ。これが神の御意思だというのか?
妻をそれとなく見る。コップを注視している。その表情は変化している。微細だが、決定的な変化だ。私の喉も痙攣のような動揺を見せる。
落ち着こうとすると、唇が自然に戦慄く。もう、耐えられない。私と妻は、ほぼ同時にテーブルに置かれたコップを鷲掴みにして、一気に飲み干した。
一年前の話だ。知人の女の子が自殺をした。原因と思われた男とトラブルになったからだろうか。
。私と妻は自宅を襲われ、拉致された。
気がつくと、私は天井の低い小屋にいた。全裸の状態で、ベッドに四肢を縛り付けられている。
「貴方……」かすれた声は妻の物だ。声の方を見ると、隣のベッドに妻も全裸で拘束されていた。私は恥じと怒りを妻を拘束した者に覚え、暴れ、叫んだ。
妻はそんな私を見て涙を流した。しかし空間は沈黙していた。窓は無い。スポットライトが天井から、無機質に私たちを照らしている。
暴れた後に叫んだ私が次に取った行動は、妻を励ますことだった。大丈夫だ。私がついている。必ず主が助けて下さる。
2間、私はこの言葉をひたすら繰り返した。この二日の間に、私は小便を2回、大便を1回ベッドに垂れ流した。妻は小便を三回である。
この後の臭気は惨憺たるものであり、私は涙と共に妻に謝り続けたが、やがて口数も少なくなった。飢餓である。口が渇き、胃が溶けるような空腹を覚える。
二日目の後半、私と妻は朦朧とした。私はひたすら妻の裸体と容貌を、愛でるように眺めていた。それは純化された愛情であった。
仮面の男女が大きな音をたてて入室してきた。女の方がわたしの腕の傍らにきて、浮き出た静脈を押さえて、薬剤を打った。
一瞬の痛みの後に、心臓がはねる。全能の神を、全てがたたえ歓喜している。私の陰茎は硬直。クリアな感覚と明晰なる真理。
女が私の上にコップを掲げた。奇妙な形の花柄の絵が底に刷り込まれたコップだ。私の口腔に水が落下する。潤う。舌が体が歓喜し血管に満ちた。
女が胸をはだけ、私の角膜の毛細血管は充血する。たわわに実った乳の先が上を向いているのが、その下の腰のくびれ、悪魔のように繁った陰の毛が、照明に煌いたからだ。
その腰は私をまたぎ、ゆっくりと沈む。
「やめ……ろ」「やめ……て」
妻の声と私のそれは同時だった。
妻の両膝の裏に、仮面の男が両腕を挟みこんでいる。彼女の踵は肩の上まで引き上げられ、上を向かされ大きく開かれた秘部に、男の先はゆっくりとめり込んでいく。
わたしは絶叫した。瞬間、腰の先が仮面の女の膣に含まれた。快楽。屈辱。悲哀。快楽の中で、私はずっと妻を見ていた。
彼女の瞼は固くつぶられ、口は大きく歪み、硬直したようにずれて噛み合わさって、まるで醜い笑いを堪えているようだった。
何故か私は彼女のその顔を、醜い笑いを、とても美しいと思った。妻の苦痛に、快楽に、垂れ流す涎に、歪んだ笑いに酔いしれつつ、仮面の女の中で果てた末に、失神した。
気が着くと、私と妻は、着衣の状態で、孤児院の前に打ち捨てられていた。これが一年前の話だ。
この後、妻は心を病んだ。私もである。仮面の男女の手がかりは、奇妙な形の花柄の絵が底に刷り込まれたコップだけだったが、
どのメーカーを調べても、そんなコップは販売していなかった。しかし一年という時間が過ぎ、ようやく妻も私も回復し、久しぶりの遠出の矢先、
ふらりと寄った喫茶店で、私たちは、このコップを再び目にした。
押し寄せる薬物の快楽、あの時の水の潤い、陵辱の悲哀、屈辱、妻の美に対する感動がいっしょくたに押し寄せて腰の奥から昇ってきて、
それは渾然一体となり、渇きに収束する。とっさに手がコップに伸びる。妻もだ。私たちは一気に飲み干した。
……水の潤いの中で気力が回復するが、現実感が薄れていく。何故コップが? この店手がかりなのかいや今さらそれを知ってどうするいやそれは違う復讐だ
復讐すべきだこれは神の御意志だこの女がウェイトレスが仮面の女なのだ私は復讐するがこれは許しだ主の慈悲だ私の復讐によって神はあなたを許されるのだ。
私はコップを掴み、こちらに背を向ける女のうなじに向って高く掲げた。 >>155
参加作品ではありません。
お師匠さまはスルー願います。
>>108
まあ、俺が今の実力でエロを書くんだったらこんな感じかなあ。
コップにフラッシュバックしてらりっちゃってる人って感じですね。
ルールに抵触しつつもエントリーを認めてくださったお師匠様の負担を増やしたくない&
設定に合わせて物語を作るのは嫌いじゃないというよりむしろ好きだし、前回のエッセイより
めっさやりやすいけど、才能的な壁で凡庸な作品しか作れないことは分かってるし、
それで加点頂いて万一入賞できても、多分がっかりすると思うのです。
入賞することがあったら、才能の壁を突破する、つまり凡庸じゃない作品書いて入賞したいのですよ。
てことで、ルールに触れる一作品でエントリー、今回も選外確定ですが、
皆様の作品を楽しんでいるので、俺的には満足なのです。 >>155
妻はいややめていや、と首を狂ったように振り続けている。
て文章入れ忘れました。快楽と自責と拒否とでも快楽と薬にらりる感じで首ふりです。
涎たらしちゃってます。らりってなければ、旦那さんから顔背けると思うんですけどね。 ひんやりとした風が、ときおり金木犀の花の香を運んでくる。
夕暮れ近い、ひっそりと客の途切れた喫茶店に、二人の年老いた男女が入ってきた。
少したどたどしい足取りながら、二人はまっすぐに壁際の席へと進み、座る。静かに向かい合っている。
「いらっしゃいませ」
ウェイトレスも兼ねた女店主の愛が、二人の前に水を置く。
コトリ。
何かに反応したのだろうか、男が一瞬ぴくっとすると、わずかに唇が戦慄いたようだった。何かがはじけたように目の前の水をつかむと、一気に飲み干す。
女のほうも、男の仕草につられたように、震える口と手でコップを押し抱き、飲み干す。
乱暴にコップをテーブルに置くと、叫んだのは男だった。
「お前はあやかしだろう?美代をどこにやった!?俺の女房に化けたつもりだろうが、あいつはお前のような能面のような婆ぁじゃねぇ!」
女のほうは「うるさいっ!黙れっ」と怒鳴ると、あとの言葉はブツブツと何を言っているのかわからない。少し前まで、虚ろに見えるほど静かだった目が、今は三角にいきり立っている。
男はつづける。
「美代は若い。髪は黒くてすべっこい。頬はバラ色だ。
いや、俺が好きなのはそんなとこじゃない。
俺がどんなに理不尽に怒鳴り散らしても、あいつは何も言わなかった。悲しそうな顔をしていたが、すぐにうまい茶を淹れてくれた。うまい飯を出してくれた。そんな奴なんだ。
俺はあいつの優しさにいつも甘えていた。あいつが好きだ……愛しているんだ!」
そう叫ぶと、手を剣のようにして空を切りだす。
「妖よ、退散せよ!仁、義、礼……」
「はい、どうぞ」
愛が、つと二杯のコーヒーを二人の前に静かに置いた。
コーヒーの香りが、二人の鼻腔をくすぐる。
その途端、男の吊り上がった目がふうっとゆるみ、それっきり押し黙ってしまった。女のほうも、元の静けさを取り戻し、視線が宙に浮く。
その時だった。カランコロンとドアの鈴を鳴らしながら、中年の女が駆け込んで来た。
「愛ちゃん、ごめん……!来てる?」
それは、近所の幼馴染みの恵子だった。
「大丈夫よ、ケイちゃん。心配しないで」
肩で息をする恵子を落ち着かせると、愛は今までの成り行きを話す。
「そう、そうだったの……。愛ちゃん、私にもコーヒーをもらえる?」
愛は頷くと、慈しむようにほほえんだ。
恵子が二人のほうに向かうと、どこか不安げだった年老いた男女の顔に、赤子のような満面の笑みが広がった。二人に寄り添うように座ると、恵子はかわるがわるその手を優しくさする。
恵子は思う。
二人とも、認知症を患ってしまうなんて、あまりにも悲しくて、あまりにもつらい……
けれど、けれどね、本当はね、子供のように素直なあなた達が、とても愛しいの。
不思議ね……昔よりも二人を近くに感じるのよ。
好きよ。心から好きよ。お父さん、お母さん……
愛の淹れる熱いコーヒーの香りが、澄んだ秋の空気にふんわりと漂っていた。 第四十三回ワイスレ杯参加作品
>>122
>>124
>>151
>>158
只今、二十二作品!(`・ω・´) >>156
参加しないならワイ杯終わってから投稿するんじゃダメなの?
ワイ杯中はみんな控えてるんだと思うけど。 >>155
拝読しました。お忙しいところ、ありがとうございます
お題に対する解釈を適用するとこうなるのか、と唸らせていただきました
主人公の教徒設定で精神力、狂気と背徳感を演出されていますね。個人的にはストーリー性をもう少し高めたものも見たかったですが、エロを描いたものとしてはこれでいいのかも。少々唐突に思える場面がありました。2000文字の制限は難しいですね
ワイ杯については、楽しむためのお祭りという面が強いんじゃないかと思っているので
そこまで深刻には考えらませんね……複数投稿が認められていますし……評価に苦しむのはワイさんですし…… >ワイが文章をちょっと詳しく評価する!
ワイさんの評価いらないって文章をここに投下する意味がわからないよ。 >>163
住民同士の交流があってもいいじゃない
ワイ杯はワイ杯。講評は講評。交流は交流
それぞれに楽しめばいいのよ なんのことはない、おかしいのは私ではなく彼らの方だ。例えば千里眼とでもいえばなかなかサマにもなろうが、地獄耳というとどうも滑稽な気がしないでも
ない。第一、今どき超能力者なんて流行らない。それでも私は百メートル先の複数のささやき声でも聞き分けられる。子供の頃はそれが原因でいじめられも
したものである。成人してのちは会う人会う人には固く秘密にしている。
私がアルバイトをしているのは個人経営の小さな洋食屋だ。瀟洒な外観と内装で気に入っているのだが、働き始めて三ヶ月未満にしてもう辞めてやろうかと
思っている。働いているのは私と、店長のユウキと、ここでは古株の通称「日雇い」。とても穏やかな優しい笑顔あふれる二人である。しかし、私の地獄耳は
空き時間の、または閉店後の二人のささやき声を決して聞き逃さない。「ヒデキはほんと使えねえな」「あれじゃ四十九歳で独身っつーのも納得っすよね」
「ああ、仕舞には奴さんイケメン気取りで、ツイッターでナンパまでしてるらしいぜ」「統合失調症の妄想もほどほどに願いたいね」など、普段は穏やかな二人
からは想像できない私へのひそひそ罵詈雑言のオンパレードである。これが人間の裏側であり本性なのであろうか、世の中には知らない方がいいこともある。
店長のユウキ、日雇い、そして何より私の地獄耳を呪う次第である。
その日、彼らはやって来た。二十代のカップルである。うららかな日曜の午後、普通なら何回目かのデートのランチとでも容易に想像され得たであろう。
しかし、彼らの身なりである。さながらルンペン、浮浪者、乞食の類である。頭髪は爆弾のように乱れ、顔は泥だらけ、服装は風雨のように切り刻まれ、これは
もしくは何かの事件にでも巻き込まれたのではないかと訝った。彼らは普通に着席した。
二人して勢いよく水を飲み干した「もう一杯お願いします」。私が席を離れた途端、二人は互いにまくし立てる。店内の客は彼らだけなのだが遠慮がちに
ひそひそささやく彼らを、しかし私の地獄耳は聞き逃さない。「お金を持ってないのにどうするの」「水だけくださいなんて言えないだろう」「そうね、空腹の
限界よね」「三日三晩歩き通しだったからな」「心中とはいえ人里離れ過ぎたわね」「バカ、こんなとこで心中なんて言うな」「誰も聞いてないわよ」「崖から
飛び降りて潮に流されてよく二人とも助かったよな」「生きろ、神様がそう仰ってるのよ」「警察に助けは求められない、家族に連絡がいってしまうからだ」
「双方の身内に反対された末での心中未遂でしたものね」「家族が駄目ならこれから俺ら二人でいったいどうすればいいんだ、このまま無銭飲食で捕まる
だけか」「ワイさんに助けを求めましょう」「ワイか!あいつなら俺らを助けてくれるかもしれない。もしかしたら適切に家族との仲介を買って出てもくれるやも
しれない。俺たちの最後の希望だな」「幸運にもワイさんは人里離れたこのあたりに住んでいるはずよ」「だとしたら喫緊の課題はただ一つ、ここでの食い逃げを
どうやり遂げるかだ。腹ペコでもう動けない、満腹にならなければワイのところまでたどり着けない」「私があなたたちの食い逃げをお助けしましょう」二杯目の
水を置いた私が横から助け舟を出す。
キッチンのユウキと日雇いは大わらわである。空腹のカップルの食欲はとどまるところを知らない。私は二人がしていないオーダーまで調子に乗って入れる、
ユウキと日雇いに手すきのいとまなどない。いったい何時間喰らい続けたのか、カップルはごちそうさまの合図をした。「実は私はこう見えて世紀の地獄耳
なのです。だからあなたたちの事情も、ここの店長の裏の顔もよく知っています。この店には秘密の地下通路というものがあります。案内しますから、どうぞ
そこから早くお逃げなさい」
十分後、「店長、大変です、食い逃げです!目を離した一瞬の隙にやられました!二人はバイクで国道を東京方面に逃走、今から急いで追いかければ
何とかまだ間に合います!」ユウキと日雇いは車でアクセル全開追いかけていった……。ただでアルバイトを辞めるつもりは毛頭なかった、二人の私への
誹謗中傷は裁判沙汰にしてやろうかというレベルであまりにも酷かったのだ。カップルはユウキと日雇いにも店内にて目撃されていたが、整髪し、顔を洗い、
服装を新調すれば無事に別人に生まれ変われるだろう。あとはワイさんという人が万事上手くやってくれるだろうから、信じて任せていればよろしい。 第四十三回ワイスレ杯参加作品
>>122
>>124
>>151
>>158
>>166
只今、二十三作品!(`・ω・´) 麗かなる秋の午後なり。我喫茶店でワイスレを閲覧す。テーブルには珈琲あり。 「今回は参加作品少なし。お題難し、さもありなん」
「参加せずにいくつも書いてる愚者あり。怒られておる。いと哀れなり」などと呟く代わりに、珈琲を啜るなり。
熱っ! 舌の上にて地球が爆発する勢いなり。早急に水を含む。……むう、我も何か書くべきか? いかんせんネタが無し。切なし。刹那、仲睦まじき男女連れ来臨す。
空席は我の隣ののみ。リア充爆ぜるべきとの咆哮、肉体が喉の奥より湧き上がり、天空を尽き抜け、宇宙に届かんばかりの勢いであるが、我耐える。
こが肉体、悟りには未だ遠し。修行が必要なり。 睦まじき男女我が隣に着席す。男女いと穏やかなり。我が視線スマホより上がり、耳はそれとなく
彼らの会話を拝聴す。「愛してる隆」「俺も愛してる、恵子」
2人手を取り合う様子。如何なる事情ありて、かのごとき痴態を晒したるか、我混乱す。ウェイトレス水を運び、男女の取り合う手の前に置く。
2人に微細なる変化あり。唇戦慄く。その動き富士樹海が蛭の如し。彼らは目と目で通じ合い、頷き合い、水の入りたる器を鷲づかみにし、一気に飲み干す。
すかさず彼ら立ち上がるなり。「全員動くんじゃねえ!」男が咆哮店内に木霊す。女、店員に駆け寄り、足を払い床に倒し腕を捻り上げる。その動き光速なり。
鮮やかなること幾千の映画に勝り、我見惚れると、襟首捉まれり。男が我を掴み、我を引き上げるなり。この肉体脆し。暴力反対。
「てめえさっきからちらちら見やがってよお! 俺ら知ってんのかあ? けーさつ呼ぼうってんだろうああ?」男が瞳爛爛なり。荒野が獅子の如し。
我両手を上げて、首を横に振るのみ。我が先に突きつけられし短剣の刃先、白く煌く。鎌倉が白波が脳裏に浮かぶなり。嗚呼、衆生に難あり。
この男、ウェイトレスを組みふし「金持ってきなああああ! こいつ刺すよ? ぶすりってやっちゃうよおおおお!?」叫ぶ女、赤子の時代は無垢なりき。
境遇、資質、宿業、美しく脆き世界、彼らを邪なる暴に変えたなり。千万やるかたなし。我が双眸より、涙落涙す。頬を伝いて、顎を落ち、空中にて金剛石に
変化し、この肉体が持ち主、寺の坊主のスマホをかすめるなり。「自らを苦しめるのはお止めなさい」我が口は開き、穏やかなる言葉いずる。
こが男女、肉体が敵なるリア充ではなし。修羅に囚われし哀れなる衆生なり。「ああ!?」男小さき咆哮をなし、肉体が頬を切ろうとす。
こが肉体、我が宿りても、嫉妬ある時は弱し。よってマーラー、常に肉体を誘惑するなり。しかれども、慈悲溢れたる時千万艱苦を超越す。
短剣が刃、この頬に当たりし時、白百合と化す。男剋目す。我が慈悲全てを超越す。男の手より白百合床にはらりと落ち、床は爛漫たる花咲き乱れ、
空間に七色の光が満ちるなり。天女たちが歌声響き渡り、男さらに驚愕す。我再び言う。
「ご自分を苦しめるのはお止めなさい。浄き貴方はもう、解き放たれて然るべきなのです」
我が声、男女のみならず、店内があらゆる老若男女の深奥に到達するなり。「さあ、共に唱えましょう、仏に念じるのです」
店内に在りし全員、念仏す。我、斉唱の中でいささか照れるなり。我、鎌倉が仏なり。坊主がスマホと肉体を借りて遊覧に出ているなり。
こが状況、些かなる怪奇なり。しこうして、こが状況を収めるべく、我満面の笑みで厠に向う。念仏の斉唱は続くなり。厠にて110番す。
男女悔悟したるが、罪は償ってこその罪なり。罪は償われてこそ、その因果、衆生を離れるなり。我遊覧継続を望むが、そろそろ時間なり。
警察は不穏なり。我速やかに会計し、店を出で、鎌倉行きのバス停に赴くなり。我ベンチに座り、靴を脱ぎて、蓮華がごとき胡坐をかく。これが一番落ち着くなり。
しこうして、未だバスが到着まで時間あり。我懐よりスマホを出し、5ちゃんねるがワイスレを閲覧す。参加者未だ前回より少なし。
……むう、我も何か書くべきか? しかしネタが無し。そこで、我閃くなり。先ほど悔悟したる男女、まさにワイなる主の設定。
何たる奇縁宿縁。これこそが、まさに仏の巡りあわせなり。我仏なるが、いと嬉しく思い、スマホに書き込みを始めるなり。バス到着まで時間あり。
陽、燦燦なり。我が休日、リア充とは縁遠きものなれども、いと充実せり。 >>168
書き込みを不快に思われた方がいらっしゃったので、お詫びの意味を込めて自己主張を翻し、
1作品追加でエントリーします。
詠みにくい作品でありますが、お師匠さまはきっと、仏が如き心でお目通しになり、阿修羅が如き
酷評を下さるのでしょう、と期待しております。 >>168
○天空を突き抜け
○この男及び、ウェイトレスを組みふし「金持ってきなああああ!
に修正願います。 来る、来るぞ、最後に全てをかっさらう嵐のような作品が! 麗かなる秋の午後なり。我喫茶店でワイスレを閲覧す。テーブルには珈琲あり。 「今回は参加作品少なし。お題難し、さもありなん」
「参加せずにいくつも書いてる愚者あり。怒られておる。いと哀れなり」などと呟く代わりに、珈琲を啜るなり。
熱っ! 舌の上にて地球が爆発する勢いなり。早急に水を含む。……むう、我も何か書くべきか? いかんせんネタが無し。切なし。刹那、仲睦まじき男女連れ来臨す。
空席は我の隣のみ。リア充爆ぜるべきとの咆哮、この肉体が喉の奥より湧き上がり、天空を突き抜け、宇宙に届かんばかりの勢いであるが、我耐える。
こが肉体、悟りには未だ遠し。修行が必要なり。 睦まじき男女我が隣に着席す。男女いと穏やかなり。我が視線スマホより上がり、耳はそれとなく
彼らの会話を拝聴す。「愛してる隆」「俺も愛してる、恵子」
2人手を取り合う様子。如何なる事情ありて、かのごとき痴態を晒したるか、我混乱す。ウェイトレス水を運び、男女の取り合う手の前に置く。
2人に微細なる変化あり。唇戦慄く。その動き富士樹海が蛭の如し。彼らは目と目で通じ合い、頷き合い、水の入りたる器を鷲づかみにし、一気に飲み干す。
すかさず彼ら立ち上がるなり。「全員動くんじゃねえ!」男が咆哮店内に木霊す。女、店員に駆け寄り、足を払い床に倒し腕を捻り上げる。その動き光速なり。
鮮やかなること幾千の映画に勝り、我見惚れると、襟首捉まれり。男が我を掴み、我を引き上げるなり。この肉体脆し。暴力反対。
「てめえさっきからちらちら見やがってよお! 俺ら知ってんのかあ? けーさつ呼ぼうってんだろうああ?」男が瞳爛爛なり。荒野が獅子の如し。
我両手を上げて、首を横に振るのみ。我が先に突きつけられし短剣の刃先、白く煌く。鎌倉が白波が脳裏に浮かぶなり。嗚呼、衆生に難あり。
この男及び、ウェイトレスを組みふし「金持ってきなああああ! こいつ刺すよ? ぶすりってやっちゃうよおおおお!?」と叫ぶ女、赤子の時代は無垢なりき。
境遇、資質、宿業、美しく脆き世界、彼らを邪なる暴に変えたなり。千万やるかたなし。我が双眸、落涙す。頬を伝いて、顎を落ち、空中にて金剛石に
変化し、この肉体が持ち主、寺の坊主のスマホをかすめるなり。「自らを苦しめるのはお止めなさい」我が口は開き、穏やかなる言葉いずる。
こが男女、この肉体が敵なるリア充ではなし。修羅に囚われし哀れなる衆生なり。「ああ!?」男小さき咆哮をなし、肉体が頬を切ろうとす。
この肉体、我が宿りても、嫉妬ある時は弱し。よってマーラー、常に肉体を誘惑するなり。しかれども、慈悲溢れたる時千万艱苦を超越す。
短剣が刃、この頬に当たりし時、白百合と化す。男剋目す。我が慈悲全てを超越す。男の手より白百合床にはらりと落ち、床は爛漫たる花咲き乱れ、
空間に七色の光が満ちるなり。天女たちが歌声響き渡り、男さらに驚愕す。我再び言う。
「ご自分を苦しめるのはお止めなさい。浄き貴方はもう、解き放たれて然るべきなのです」
我が声、男女のみならず、店内があらゆる老若男女の深奥に到達するなり。「さあ、共に唱えましょう、仏に念じるのです」
店内に在りし全員、念仏す。我、斉唱の中でいささか照れるなり。我、鎌倉が仏なり。坊主がスマホと肉体を借りて遊覧に出ているなり。
こが状況、些かなる怪奇なり。しこうして、こが状況を収めるべく、我満面の笑みで厠に向う。念仏の斉唱は続くなり。厠にて110番す。
男女悔悟したるが、罪は償ってこその罪なり。罪は償われてこそ、その因果、衆生を離れるなり。我遊覧継続を望むが、そろそろ時間なり。
警察は不穏なり。我速やかに会計し、店を出で、鎌倉行きのバス停に赴くなり。我ベンチに座り、靴を脱ぎて、蓮華がごとき胡坐をかく。これが一番落ち着くなり。
しこうして、未だバスが到着まで時間あり。我懐よりスマホを出し、5ちゃんねるがワイスレを閲覧す。参加者未だ前回より少なし。
……むう、我も何か書くべきか? しかしネタが無し。そこで、我閃くなり。先ほど悔悟したる男女、まさにワイなる主の設定。
何たる奇縁宿縁。これこそが、まさに仏の巡りあわせなり。我仏なるが、いと嬉しく思い、スマホに書き込みを始めるなり。バス到着まで時間あり。
陽、燦燦なり。我が休日、リア充とは縁遠きものなれども、いと充実せり。 >>173
すいません。こちらでお願いいたします。 第四十三回ワイスレ杯参加作品
>>122
>>124
>>151
>>158
>>166
>>173
只今、二十四作品!(`・ω・´) 理系おすすめ本。(ケンモメンおすすめ本がぜんぜん読まれないのでにわかながら選ぶ)
12歳の少年が書いた量子力学の教科書 近藤龍一
(量子力学はパラダイムシフトを目前にしている。古い量子力学を簡単に抑えたければどうぞ)
重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ J. A. Wheeler
(量子力学はパラダイムシフトを目前にしている。古い量子力学を本格的にやりたいならこれ。16800円)
東京工業大学数学入試問題50年ー昭和41年(1966)~平成27年(2015)聖文新社
(ぜんぶやると東大模試数学で60点とって偏差値80になる。平均点は20点。東ロボくんは80点)
東京大学数学入試問題50年―昭和31年(1956)~平成17年(2005) 聖文新社
(という問題集ももちろんあるのだが、難しすぎて全部はとてもできないだろう。興味ある人は挑戦をどうぞ。 )
力学 (増訂第3版) ランダウ=リフシッツ理論物理学教程 エリ・ランダウ
(最も難しく信頼の厚い物理学の教科書。あまりにも難しいので東大物理学科の学士卒でも全部は解けない) >>173
即興かな? それにしては面白いな
よし! 俺も今から何か書こう 俺も即興だが、悔しいが>>173の方が上だな。
優勝候補か。 12月初旬、庭に枯れ葉が舞う師走の宮崎家の少し早めの大掃除が始められていた。
「ほほぅ、懐かしいな」
押し入れの奥から古い映画のパンフレットが出てきて、この家の主人宮崎和也は思わず呟いた。
「あれから35年も経つのか……」
――――――
12月初旬、新宿歌舞伎町に似つかわしくないふたりの中学生が歩いている。
ひとりはサイズを間違ってるんじゃないかと思うくらいツンツルテンのコーデュロイのズボンにサファリジャケット姿、スポーツ刈りにニキビ面、35年前の和也である。
もうひとりは彼女の板井一美、白のカチューシャに白のワンピース、白いハイソックスに白い靴、それにねずみ色の学校指定の通学用コートを着ている。
今観たばかりの映画のパンフレットを小脇に抱えた和也が、意を決したように言った。
「何か飲んで行く?」半歩後ろを歩いてた一美は小さな声で「うん」と答えた。
キョロキョロと周りを見回し歩き、程なく和也は小さな喫茶店を見つけた。
カウベルの音がするドアを恐る恐る開ける、だが平気なフリをして入るふたり。店は奥行きがあり、マスターとウェイトレスにお客さんがチラホラと、クラッシクが流れる落ち着いた雰囲気の佇まいだ。
ふたりは店内ほぼ中央のテーブル席に座った。
程なくしてウエイトレスがメニューと水を持ってやって来た。ふたりは初の遠征デートと喫茶店初体験で緊張がピークに達していたため、水が置かれるや一気に飲み干した。
ウエイトレスは一旦戻り、ピッチャーを持って来、水を注ぎ「ご注文はお決まりでしょうか?」と機械的に聞いた。
和也はメニューを開いているが全く見ていない。その代わりホットドックプレスを読んで用意してきた台詞を言った。
「ボクは、コ、コーヒーをブラックで」
それを聞いてウエイトレスは無表情に「ブレンドでよろしいですか?」と聞き返した。
「はい、ブレンドをブラックで」
ウエイトレスの目が一美の方を向いた。
「私は……、紅茶にしようかな……」
「ダージリンでよろしいでしょうか?」
(ダージリン?)一美は意味を理解しなかったが「はい」と小さな声で答えた。
ウエイトレスが去ると、早速和也はさっき観た映画のパンフレットをテーブルに開いた。
「面白かったねE.T.、2時間も掛けて観に来てよかった」
「ええそうね」
「これすごかったね、宙を飛んで」
自転車が満月をバックに飛んでいるパンフレットの写真を指差し和也は言った。
「私、高い所苦手だから、ハラハラしたわ」
「オレあんな自転車の見たの初めてだよ、かっこよかったなー」
田舎のガタガタ道をドロップハンドルのスポーツ車で走っている和也にはBMXが新鮮に見えたらしい。
「ねえねえ、それよりあのE.T.って、研ナオコに似てなかった?」
「あはは、似てた似てた」
「でしょ? でしょ?」
ふたりが談笑している所に注文の品が届くと、ふたりはピタリと話を止めうつむいた。そしてウエイトレスが去ると、また話に花を咲かせた。
小一時間ほど経つ頃、隣のテーブルにサラリーマン風の男がドサッと座り、新聞を開きタバコを吸い始めた。煙が全部ふたりの方へ流れ来る。
「もうそろそろ出よっか?」
こういう時は男が払うとホットドックプレスに買いてあったと和也は伝票を掴みレジに向かった。
財布を開くと、パンフレットを買ったため帰りの電車賃を勘定に入れて、二人分には60円足りなかった。
すると後から一美が「私の分」と言って、カルトンにお金を入れた。
「あ、うん」と和也も自分の分を払い店を出た。
店を出るともう薄暗く、繁華街のネオンが点き始めていた。ふたりは駅の方に向かって歩き出した。
和也の左に一美とふたりは並んで歩いた。その左横を自転車がサッと通り過ぎ、先の角から出てきた男の人とぶつかりそうになり、言い合いが始まった。
和也はすっと一美の手を取り、引っ張って右に避け通り過ぎた。
この日ふたりは初めて手を繋いだ。
――――――
「あなた、サッサとしないと終わらないわよ!」
ホコリよけにパーカーのフードを被ってエアコンの掃除をしている和也の妻一美が、振り返って怒鳴っている。
和也は思わず口に出す「あっ、E.T.いた」 「うわー、懐かしい!」
私は室内を見回す。部屋の前には黒板が。後ろにはいかにも小学生が書いたような掲示物がボードにピン付けされている。
それらの間に、いくつかの島になった机が並ぶ。誰しも学生時代に座ったであろう、あの席。
ここは昔懐かしい学校給食が食べられる店として、巷で話題の店だ。それにしても、内装もここまで凝っているなんて、ね。
「これは思わず笑みが零れるわー、誘ってくれてありがとうね、海」
私は振り返ると、背後に立つ幼馴染の海に微笑みかける。
「面白そうだけど、一人で来るのは気が引けてね。だから、礼はいいよ」
海は肩を竦めながら穏やかな笑みを浮かべる。
「二人とも、もう給食の時間は始まっていますよ。早く、席についてね」
海と微笑み合っていると、第三者の声が挟まれる。こんな先生いたなあ、そう思わせるような女性が立っていた。
ここの店員さんかしら? どうも、メイドカフェみたいに、店員と客が先生と生徒の役割を演じるコンセプトであるようだ。
「はーい、すみませーん」
少し気恥ずかしい思いで返しながら、空いている席に着く。海は私と向かい合う対面の席に腰掛けた。
「わくわくするね」「そうだね」
そんな他愛無い会話をしながら給食が出てくるのを待つ。
「待たせたな、二人とも」
少しぶっきらぼうな口調で店員さんが給食を運んでくる。先程とは別の女店員だ。上下ジャージで、首からはホイッスルをかけている。
ああ、体育教師なのね。しかし、本来の給食は先生が運んできたりはしないような。そんな突っ込みも、運ばれてきた給食を見るまでであった。
――皆大好き揚げパン! お椀の中にはカレーシチュー! 平たい皿の上には、竜田揚げに温野菜が添えられている。
そして勿論あれ! 毎日欠かさず出てきた牛乳瓶! 懐かしー!
「いいね! テンションマックスだわー!」
「本当に懐かしいな。ねえ、覚えてる? よく、そらとは牛乳の一気飲み勝負をしたのを。負けた方が、何でも一つ言うことを聞くっていう罰ゲーム有りで」
「ああ! やった! やった!」
「もう一度やらない? 牛乳の一気飲み勝負」
そう言って、海は不敵な笑みを浮かべる。
「ほほう! よろしい。チャンピオンは常に挑戦を受け付けるものよ」
互いに頷き合う。ここに牛乳の一気飲み勝負が行われることが決まった。……余興だからといって、手を抜けるものではない。幼馴染という気兼ねなさから、結構えげつない罰ゲームを互いに課したりするから。
ふう、と一つ息を吐く。緊張感から唇が微かに戦慄く。ちらりと、海の表情を盗み見る。あちらも同様だ。女顔負けの端正な顔が真剣味を帯びる。まるで斬り合い直前のよう。
「それじゃあ、レディ……ゴー!」
がっと牛乳瓶を鷲掴む。ビニールを剥がし、その下のメンコのようなフタをバコンと一発で開ける。ふっ、腕は鈍ってないわね。海も難なくフタを開けてみせる。
ほぼ同時に、牛乳瓶に口を付ける。虚空を睨み付けると、一気に牛乳瓶を傾ける。見る見る内に、牛乳瓶の中身が減っていった。
牛乳を飲みながらも、視界の片隅で海の牛乳瓶を見やる。……勝てる! 私の方がはや……い!?
「ブバーッ! ……ゲフッ! ゴホッ!」
海の奴! 白いひげを生やしながら変顔しやがった!!
私が咽ている間に、海は悠々と残りの牛乳を飲み干していく。全てを飲み干すと、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「僕の勝ちだね」
「ッ! この卑怯者!」
「卑怯? 一気飲み中に相手を笑わせるのは常套手段だろう? ……それに、絶対に負けられないわけがあったからね」
「うん? 何の話?」
「……覚えているかな? 小学校の時、そらが僕に告白してくれたことがあったろう?」
「は、はあ?」
えっ? 何、何? 突然何の話?
「あの時分はさ、他の男友達にからかわれるのが気恥ずかしくて、それでロクに返事もせずに有耶無耶にして……。それをずっと後悔していたんだ。だから……」
だから、だから何なのー!? 何で、そんな真剣な顔をしてるのよー!?
「一気飲みに勝ったよ。だから言うことを聞いて? 僕と付き合って欲しい。駄目、かな?」
「だ、ダメじゃないわ! 負けたものね! し、仕方ないから付き合って上げる! えへへへへ……」
恥ずかさの余り、変な笑い声が出る。
それにしても……。牛乳を吐き出した後に告白されるなんて。ムードも何もないよ。
「こら! 何をやってる、お前たち!」
そう言って、店員さんが雑巾を持ってくる。牛乳臭くなること請け合いの、あの懐かしい雑巾だ。
「「あははははっ!」」
私たちはそれを見て盛大に笑った。本当にムードも何もないなあ。 コトンと乾いた音を立てて水の入ったコップが二つテーブルに置かれると、それまで穏やかに微笑んでいた女の唇が、不吉なものを目にしたかのように小さく戦慄いた。
女はコップからひき剥がすように目を逸らし、壁に貼られたメニューに顔を向けた。
本当に全部できるのか疑わしいほど大量の短冊が貼られているが、文字は油が浸みてかすみ、ラーメン、チャーハン、ギョーザといった定番メニューは、開店当時から書き換えられていないようで、ほとんど判別不能だった。
「いつものテーブルね」と戦慄きを隠すように、女は精一杯の笑みを浮かべる。
向かい合った男はコップに目を注いだまま、同じ時間を過ごした二人だけが持つ親密な懐かしさを込めて「そう、この席が僕たちの指定席だった」と嬉しそうに応えた。
入り口の擦り切れた暖簾が風で揺れるたびに、遅い西日が店の中まで差し込んでくる。
しかし、眩しいだけで、そこに夏の勢いはもう感じられない。
褪せたテーブルクロスを覆うビニールカバーが伸びて波打ち、西日を照り返して男の顔に白い影を映した。
この男は変わっていない、と女はまるでテーブルクロスのような男のスーツを見て思う。
次第に蘇ってくる記憶に、女は居心地の悪さを覚え、息苦しくなる。
少し姿勢を楽にしようと、椅子のパイプを掴んでずらそうとするが、床が油でべとついて動かない。
近くには、清潔でマシな店がいくらでもあった。
しかし男と食事に行く時はいつもこの店だった。金がないわけではない。それどころか男の実家はかなりの資産家である。
「メシなんてどこで食っても一緒だよ」というのが男の言い分だった。
バランスの悪い男。女はいつもそう感じていた。大学のサークルで知り合い、付き合うようになった。
男の実家が資産家だとわかったのは、女が別れを言い出した後だった。
そして今、会社勤めに疲れ、人生に行き詰まった女は、復縁の手がかりを求めて男とこうして再会している。
「ねえ、久しぶりにアレをやろうよ」
水に手をつけずにいた男が、もう待てないとでも言いたげに期待を込めて女を見つめた。
また女の唇が戦慄いた。やはりやることになるのか。
アレというのは、コップの水を早く飲み干した方が勝ちという他愛ないゲームだ。
女の返事を待たずに、男がコップを掴みやすいように構える。
一体、このゲームのどこが面白いのか、何の意味があるのか、女にはさっぱり理解できなかった。
もう付き合い切れないと女に思わせたのは、このふざけた遊びに心底うんざりしたこともあった。
しかし今の女に男の期待を撥ねつける余裕はない。
店主が男の注文したチャーハンに取り掛かった。中華鍋に油を引く玉杓子の金属音が癇に触る。
「いいかい、合図は十二だからね」男がウインクした。
これから始まろうとする角逐への興奮で男の顔が輝く。卵が投入され、半熟になったところへ飯が放り込まれる。
女も渋々両手でコップを囲うように構える。合図があるまでコップに手を触れてはいけないのがルールだ。
玉杓子が中華鍋を叩く。鍋がコンロを擦る音が響き、米が宙を舞う。
杓子が鍋を叩く、十二回目の音が合図だった。
コップを鷲掴みにして口をつけるまではほぼ同時か、女の方が少し早かったかも知れない。
しかし女にはブランクがあった。さらに不規則な生活や喫煙が、思った以上に喉に負担をかけていた。
そのせいで飲み込む勢いに食道の反応が追いつかず、大量の水を胃ではなく気管に通してしまった。
男が早々と空のグラスをテーブルに打つけるように置くのを見た女が、一瞬、むせるのを抑えようとしたことが事態をさらに悪化させた。
気管に入った水を速やかに排出しようとする自律神経の圧力が、意志による必死の抵抗を凌駕して、喉を通りかけていた水を爆発的に噴き出させたのである。
女の口と鼻から噴出した水は、唾液によって粘性を増し、テーブルを三つ越えて店の右隅天井近くに設置されたテレビの画面に血飛沫のような跡を残した。
咳嗽反射がいつ果てるともなく続いた。
むせ続ける女の体が、切実に酸素を要求していた。空気を求めて息を吸い込もうとするが、咳がそれをさせなかった。
涙が流れた。女は椅子から崩れ落ち、床に四つん這いになって鼻水と涎を流しながら弱々しく咳き込み続けた。
女の、というより人間のこのような極限状態を初めて目にした男は、恐れ慄いた。
そして、生きるとは、このような肉の塊に束の間許されたに過ぎない儚い営みであることに思い至った。
男は後退った。
女は涙と鼻水と涎で化粧を醜く溶かしながら、後じさって行く男に向かって精一杯の微笑みを浮かべた。 第四十三回ワイスレ杯参加作品
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只今、二十五作品!(`・ω・´) 第四十三回ワイスレ杯参加作品
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>>183
只今、二十七作品!(`・ω・´) 今年の残暑は厳しくなく、十月になると一雨ごとに寒くなっていく昨今。若い男女がビル風が吹き荒む丸の内を歩いている。
男の方が(もう何百回目のデートだろう? 若い僕たちだって倦怠期がある)そう思いながら、ウィンドウに映る自分たちの姿を眺めいた。
デートコースは大体昼食を一緒にとって、それから都内でショッピングか映画、たまに少し足を伸ばして横浜、鎌倉辺りまでと決まっている。
今日は都内コースだ、いつもと趣向を変えてビジネス街を二人は歩いた。だが結局行くのはもう何十回も通っている、土曜日の昼のタニタ食堂だ。
ヘルシーなメニューに舌鼓を打ち、食事を終え外に出るとすっかり風は止んでいた。風が無くなるとすこし気温が上がったような感じがした。
二人は少し閑散とした土曜のビジネス街を歩き続ける。すると若い女性の方がふと足を止めた。視線の先には、ビルとビルの間の細い道の突き当りにこんもりと緑の垣根があった。
彼の袖を掴み引っ張り「あそこ……」と言う。
男は面倒臭そうに「は?」と答えたが、興味を持ったのかそちらに歩を進めた。女も黙ってついて行った。
そこには白のペンキが剥げかかった壁を蔦が覆っている平屋の、まるで小さな東屋のような建物があった。外に看板らしきものはないが、ひと目で喫茶店と分かる佇まいだ。営業しているのだろうか?
ギーッと鳴く頼りない入口の扉をゆっくり開けると、中は別世界のように広く、大勢のお客さんでごった返していた。
男はこれが都会の隠れ家的喫茶店というやつかと思い、中に入りやっと空席を見つけて座った。女も後からついて来た。
男女とも今までお首にも出さなかったが、今日こそ別れ話を切り出そうと互いに考えていたのだ。
やがてウエイトレスが水を持ってきて、テーブルの上に置いた。
――その刹那。
店内に居た客の持っているスマホから一斉にJアラートの警報が鳴り響いた。
もちろん男女のスマホも鳴っていた。それを確認すると、都内に向けて某国からミサイルが発射され、着弾まで5分、地下鉄や頑丈な建物云々と情報が表示されている。
店内は一気にザワつき、今しがた水を置いたウエイトレスは一番先に飛び出して行った。それに続くように客も全員、店の外に逃げ出して行き、店に残ったのは初老のマスターと若い男女だけだった。
マスターはコーヒーを淹れ続けている。
若い男女は目の前のコップの水を一気に飲み干し、こう言った。
「別れよう」「別れましょう」
二人は驚き、互いに次の言葉を飲み込んだ。それから最初はクスッと、次第に声に出して笑い、最後は大爆笑した。
やっと笑いが収まると、屋外からの警報が店内にも聞こえてくる。マスターはまだコーヒーを淹れている。
「お互い同じこと考えてたなんてな」
「ええ、私なんか別れられなかったら、一緒に死んでやろうと思ってたのよ」
「あ、なんだそれ? 心中かよ」
「そうそうあなたを殺して、私もとか」
「女は怖いねー、オレなんかどうやって別れようかずっと悩んでたのに」
「え、それで、どうやって別れるつもりだったの?」
「そうだなー、偶然の事故を装って駅のホームから突き落とすとか」
「まーサイテー」
またお互い大爆笑した。
すると直々にマスターがコーヒーを持ってきてくれた。
「あっありがとうございます」
「いただきます」
マスターは無言で踵を返してカウンターの中に戻って行った。
そろそろ5分経つ。
外がにわかに明るくなり、凄まじい風が砂埃を上げ、光が弾け爆発が起こる、これだけのことが全て一瞬で行われたのだ。そして暗闇。
小さな喫茶店は跡形もなく吹き飛ばされた。
いや少し語弊があった、マスターの周りだけは完全に無傷であった。
どのくらい時間がたっただろう、舞い上げられた瓦礫や埃が落ち着き辺りの様子が見えてきた。
マスターはコーヒーを淹れていた。
誰が飲むのだろう?
出来上がったコーヒーをカップに注ぎ、自分の口に持っていった。
いや、自分で飲むんかい! >>186
名前欄のタイトルに変な文字が入ってしまった。訂正お願いします。 >>162
一度4千字で書いて、二千字に削いでいったので、その過程で必要な部分も削ってしまったの
でしょう。難しいですね。どんな状況でも妻を愛する旦那さんを微笑ましく思いながら
書いていました。
>>177
ありがとうございます。はい、即興です。
でも頑張って書いた即興なので、面白いと言って頂けると嬉しいです。
>>178
前回も評判良かったんですが、かすりもしなかったので、今回も期待して
おりませんが、候補と言って頂けると素直に嬉しいです。
ありがとうございます。 理系おすすめ本。(子供向けではない。理系の大人向け)
(ケンモメンおすすめ本がぜんぜん読まれないのでにわかながら選ぶ)
12歳の少年が書いた量子力学の教科書 近藤龍一
(量子力学はパラダイムシフトを目前にしている。古い量子力学を簡単に抑えたければどうぞ)
重力理論 Gravitation-古典力学から相対性理論まで、時空の幾何学から宇宙の構造へ J. A. Wheeler
(量子力学はパラダイムシフトを目前にしている。古い量子力学を本格的にやりたいならこれ。16200円)
東京工業大学数学入試問題50年ー昭和41年(1966)~平成27年(2015)聖文新社
(東工大の問題集だが、これをぜんぶやった人は東大理系数学模試を60点とり東大模試受験生の中で数学偏差値80とってた)
東京大学数学入試問題50年―昭和31年(1956)~平成17年(2005) 聖文新社
(東大理系受験生の平均点は6問中1問正解の20点。合格には3問完答相当の60点。東ロボくんは4問正解の80点。理三合格は111点から)
力学 (増訂第3版) ランダウ=リフシッツ理論物理学教程 エリ・ランダウ
(最も難しく信頼の厚い物理学の教科書。あまりにも難しいので東大物理学科の学士卒でも全部は解けない)
生命・エネルギー・進化 ニック・レーン
(古細菌が真核生物へ進化した生命誕生の謎に迫る最新研究)
ご冗談でしょう、ファインマンさん リチャード・ファインマンの口述筆記
(実際にノーベル物理学賞をとったアメリカ人の半生記) >>190
そこは……苦笑。
突っ込まれると非常に痛いものがありますが、あえて謎の名無しとして
振舞わせていただきます。(ざ・厚顔無恥) >>190
気にしては駄目だ
ワイさんが認めている。それ即ち、ジャスティス!
うん。ほら、一応コテハンではないしねw >>188
倍の文字数に物語を注ぎ込んで
半分まで削って行くと物語が荒れるよ
ちょっとはみ出すだろうな、ぐらいで纏めてって
不要な下りを見つけて削除
(これも泣く泣くだが)
後は削った部分の矛盾を改造擦り付ける
一レスに近づいたらここからは内容を変えずに一レスにするテクニック
句読点を節約、あと改行詩を節約するために改行を見直して限界まで一行を長くする
行頭スペースを減らすために
セリフを行頭に持ってくる
読点で改行するなどして4200バイトに収める
結果的に読みにくくなるが僕はこうしてる
何を取捨選択するかだな 名前を三文字→一文字にしたり
ぼく、オレ、わたしを僕、俺、私にしたり
詰め込み作業に一番時間かかるかも >>193
台詞削る時、泣きますよね。確かに初めから少しはみ出す位で書いた方が、
まとまりというか整合性にダメージがこない気がします。
ありがとうございます。
2000字縛りは難しいですが、簡潔に伝える技量は磨かれますし、それが創作の助けに
なるのだろうとも思います。 >>194
あるある
>>195
言葉には贅肉じゃなくて筋肉をつける意味でワイ杯はいい修練場 午前中のまだ人が少ないオープンカフェで、いつものように私はタブレットで仕事をしていた。
さて。キリの良いところで辺りを見回すと、高校生カップルがやってきた。
緊張しているのか、エスコートする男の子の動きはぎこちないし、女の子のほうも、男の子の制服の袖を握って不安げだ。
ちょっと大人なカフェに背伸びをしてきましたという感じが微笑ましい。
どこに座ればいいのか迷っていたその子たちは、私の隣のテーブルに決めみたいだ。
席についてほっと安心している二人のもとにウエイトレスさんがやってきて、慌てて背筋を伸ばす二人に、私は顔がにやけないように努めなければならなかった。
水とメニューを受けとり、再び緊張を解く二人。互いの緊張が馬鹿らしくなったのか、その子たちはクスクスと笑顔がこぼれた。
これは仕事を忘れて若い幸せのおこぼれにあずからなければと私は二人を盗み見ることに決めた。二人は、自然と水の入ったコップを同時に持ったことにまた微笑んだ。
「そういえばさ」と男の子が話を切りだした瞬間、穏やかだった二人の空気が一変した。
二人の顔が急に真剣になり、両者見合って見合って……同時に一気にコップの水を飲み干した。急激なその変化に流石の私も? となる。
空けたコップをガンッ、と置いて、男の子と女の子は同時に口を開いた。
「タヌキはぜぇったい!! イヌの仲間だよッ!!」
「タヌキはぜぇったい!! ネコの仲間よッ!!」
おぅ……仁義なき戦いが始まってしまった。二人は眼光鋭く、昨日行った動物園でとか、檻の前にあった看板にとか話していることから、昨日から決着がついていないみたいだ。
「いやあの顔はどう見てもイヌでしょのぺーんとした鼻面とかイヌでしょうよそうでしょ」
「まってまってタヌキは木登りが得意なんだよあの機動力はネコ以外ありえないよまったくもう」
「いやいやあいつの鳴き声はうーワンワンだから。ネコはそんな鳴き声じゃないでしょ」
「いやいやいやあの子の好物はマグロとかだからイヌなんかじゃないわよ」
という具合に互いに譲らない。やがて、白黒つけようじゃないかとスマホを取り出す二人のもとに、物腰の穏やかな初老の店長さんがやってきた。
慌てる二人を制して、店長さんはこのカフェの名物、“アルティメット特盛フルーツパフェ、ポロリもあるよ”をゴトリとテーブルに置いた。
「あれ? まだ何も頼んでないですよ」と目を丸くする二人に、店長さんはニコリと微笑んでこう言った。
「これは私からのサービスになっております。どうかこれで仲直りしてくださいませ」
すっかり喧嘩の熱が醒めてしまった二人は、店長さんに何度もお礼を言っていた。すると「ひとつよろしいでしょうか?」と店長さん。
こう二人に提案した。
「お二方、ネットで正解を確かめる前に、今一度動物園へ行かれてみてはいかがでしょうか。そしてよくよく観察した後、二人で正しいと思う解答を私めに教えていただけませんか」
「え、どうしてですか」
「そうすれば2回デートを楽しめますし、正解であれば当店にてまた特別にサービス致します」
面白そうだと乗り気になった二人は、喧嘩をしていたことなどすっかり忘れて甘いパフェを楽しむのであった。
……後で店長さんに、なぜ大判振る舞いのサービスで二人の喧嘩を止めたのかと訊ねてみた。
すると店長さんは、「たかがタヌキ一匹のことで二人に喧嘩されても申し訳ないな……と思いまして」と困った顔をされていた。うーん、よく分からない理由だ。
一礼して店の奥に戻っていく店長さん。そのお尻に、何かモフモフしたものが一瞬見えたのはきっと私の疲れ目のせいだろう。
さて、原稿の続きを書くとしようか。 >>19
ありがとうございます。
10月2日からだいぶ時間が経ちましたがなんとか初参加にこぎ着けました。長いしネタが弱いけど。 第四十三回ワイスレ杯参加作品
>>184
>>181
>>183
>>186
>>197
只今、二十九作品!(`・ω・´) >>198
森見さんの有頂天家族を思い出しました。
俺はこういうほのぼの不思議系のネタ、好きです。
パフェが食べたくなりました。飯テロですね。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています